(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871068
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/00 20060101AFI20210426BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20210426BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
C23C14/00 B
C23C14/34 L
H01L21/285 S
H01L21/285 301
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-108369(P2017-108369)
(22)【出願日】2017年5月31日
(65)【公開番号】特開2018-204061(P2018-204061A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】藤井 佳詞
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
【審査官】
宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−083984(JP,A)
【文献】
特開平06−073542(JP,A)
【文献】
特開2001−073115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00
C23C 14/34
H01L 21/285
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン製のターゲットが設けられる真空チャンバと、真空チャンバを真空引きする真空ポンプと、真空チャンバ内で成膜対象物を保持するステージと、真空チャンバの内壁面から隙間を存して設置されてターゲットとステージとの間の成膜空間を囲繞するシールド板とを備え、真空ポンプにより真空チャンバ内を所定圧力に真空引きした後、ターゲットをスパッタリングすることで、成膜対象物表面にカーボン膜を成膜するスパッタリング装置において、
表面が123K以下の温度に冷却される吸着体を更に備え、吸着体が、成膜対象物に対する輻射が防止される真空チャンバ内の所定位置に、シールド板の外表面部分に隙間を存して設けられることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
請求項1記載のスパッタリング装置において、前記ターゲットと前記ステージとが対向配置されると共に両者を結ぶ延長線に対して直交する方向に局所的に膨出させた排気空間部を設け、排気空間部に開設した排気口に前記真空ポンプが接続されることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項3】
前記シールド板の外表面部分を前記排気空間部の排気ガス流入口に対峙する範囲としたことを特徴とする請求項2記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置に関し、より詳しくは、被成膜物の表面にカーボン膜を成膜するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のスパッタリング装置は、不揮発性メモリ等のデバイスの電極膜としてカーボン膜を成膜することに利用されている(例えば、特許文献1参照)。このものは、カーボン製のターゲットが設けられる真空チャンバと、真空チャンバを真空引きする真空ポンプと、真空チャンバ内でターゲットに対向配置されて成膜対象物を保持するステージとを備える。また、真空チャンバには、その内壁から隙間を存して設置されてターゲットとステージとの間の成膜空間を囲繞するシールド板が設けられる。そして、真空ポンプにより真空チャンバ内を所定圧力に真空引きした後、ターゲットをスパッタリングすることで、成膜対象物表面にカーボン膜が成膜される。
【0003】
ここで、カーボン製のターゲットをスパッタリングして成膜対象物表面に成膜したとき、成膜直後の成膜対象物表面に微細なパーティクルが付着することがある。このようなパーティクルの付着は製品歩留まりを低下させる原因となることから、成膜対象物の表面へのパーティクルの付着を可及的に抑制する必要がある。そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ね、真空チャンバ内に浮遊するカーボン粒子が微細なパーティクルとして成膜直後の成膜対象物の表面に付着していることを知見するのに至った。即ち、カーボン製のターゲットをスパッタリングすると、ターゲットから飛散するカーボン粒子は、成膜対象物のみならず、ターゲット周辺に存する部品やシールド板の表面にも付着、堆積するが、このように付着したカーボン粒子が何らかの原因で再離脱し、この再離脱したカーボン粒子が、真空排気されずに真空チャンバ内で浮遊していることに起因していると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/122159号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、成膜対象物の表面に付着するパーティクルの数を可及的に少なくすることができるスパッタリング装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、カーボン製のターゲットが設けられる真空チャンバと、真空チャンバを真空引きする真空ポンプと、真空チャンバ内で成膜対象物を保持するステージと
、真空チャンバの内壁面から隙間を存して設置されてターゲットとステージとの間の成膜空間を囲繞するシールド板とを備え、真空ポンプにより真空チャンバ内を所定圧力に真空引きした後、ターゲットをスパッタリングすることで、成膜対象物表面にカーボン膜を成膜する本発明のスパッタリング装置は、表面が123K以下の温度に冷却される吸着体を更に備え、吸着体が、成膜対象物に対する輻射が防止される真空チャンバ内の所定位置に
、シールド板の外表面部分に隙間を存して設けられることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、真空チャンバ内で浮遊するカーボン粒子が一旦吸着体に吸着されると、この吸着体の表面が123K以下の温度に冷却されていることで、再離脱が防止される。結果として、真空チャンバ内で浮遊しているカーボン粒子の量が少なくすることで、成膜対象物の表面に付着するパーティクルの数を可及的に少なくできる。この場合、成膜対象物に対する輻射が防止される真空チャンバ内の所定位置に吸着体が配置されているため、膜質が変化する等の成膜対象物に対する成膜プロセスに悪影響を与えるといった不具合は生じない。
さらに、吸着体からの輻射でシールド板自体が所定温度に冷却されることで、シールド板自体が吸着体としての役割を果たすようになり、成膜空間を画成するシールド板でカーボン粒子を吸着し、保持させることで、浮遊するカーボン粒子の量がより一層少なくでき、有利である。
【0008】
本発明においては、前記ターゲットと前記ステージとが対向配置されると共に両者を結ぶ延長線に対して直交する方向に局所的に膨出させた排気空間部を設け、排気空間部に開設した排気口に前記真空ポンプが接続さ
れることが好ましい
。
【0009】
この場合、前記シールド板の外表面部分を前記排気空間部の排気ガス流入口に対峙する範囲とすることが好ましい。これによれば、真空チャンバ内の成膜空間から排気空間部に通じる排気ガスの排気経路中に吸着体が存することで、カーボン粒子をより吸着させ易くでき、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態のスパッタリング装置を示す模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、成膜対象物をシリコンウエハ(以下、単に「基板W」という)とし、真空チャンバの上部にスパッタリング用のカーボン製ターゲット、その下部に基板Wが設置されるステージが設けられたものを例に本発明のスパッタリング装置の実施形態を説明する。
【0012】
図1及び
図2を参照して、SMは、本実施形態のマグネトロン方式のスパッタリング装置である。スパッタリング装置SMは真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1の上部にカソードユニットCuが着脱自在に取付けられている。カソードユニットCuは、カーボン製のターゲット2と、このターゲット2の上方に配置された磁石ユニット3とで構成されている。
【0013】
ターゲット2は、基板Wの輪郭に応じて平面視円形に形成されたものである。ターゲット2は、バッキングプレート21に装着した状態で、そのスパッタ面22を下方にして、真空チャンバ1の上壁に設けた絶縁体Ibを介して真空チャンバ1の上部に取り付けられている。また、ターゲット2には、公知の構造を持つスパッタ電源Eが接続され、スパッタリングによる成膜時、負の電位を持った直流電力が投入できるようにしている。ターゲット2の上方に配置される磁石ユニット3は、ターゲット2のスパッタ面22の下方空間に磁場を発生させ、スパッタ時にスパッタ面22の下方で電離した電子等を捕捉してターゲット2から飛散したスパッタ粒子を効率よくイオン化する閉鎖磁場若しくはカスプ磁場構造を有するものである。磁石ユニット自体としては公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。
【0014】
真空チャンバ1の底部中央には、ターゲット2に対向させてステージ4が他の絶縁体Ibを介して配置されている。ステージ4は、特に図示して説明しないが、例えば筒状の輪郭を持つ金属製の基台と、この基台の上面に接着されるチャックプレートとで構成され、成膜中、基板Wを吸着保持できるようにしている。なお、静電チャックの構造については、単極型や双極型等の公知のものが利用できるため、これ以上の詳細な説明は省略する。また、基台には、冷媒循環用の通路やヒータを内蔵し、成膜中、基板Wを所定温度に制御することができるようにしてもよい。
【0015】
また、真空チャンバ1内には、その内壁面1aから隙間を存して設置されてターゲット2とステージ4との間の成膜空間1bを囲繞するシールド板5を備える。シールド板5は、ターゲット2の周囲を囲繞し、かつ、真空チャンバ1の下方にのびる略筒状の上板部51と、ステージ4の周囲を囲繞し、かつ、真空チャンバ1の上方にのびる略筒状の下板部52とを有し、上板部51の下端と下板部52の上端とを周方向で隙間を存してオーバラップさせている。なお、上板部51及び下板部52は一体に形成されていてもよく、また、周方向に複数部分に分割して組み合わせるようにしてもよい。
【0016】
更に、真空チャンバ1には所定のガスを導入するガス導入手段6が設けられている。ガスとしては、成膜空間1bにプラズマを形成する際に導入されるアルゴンガス等の希ガスだけでなく、成膜に応じて適宜導入される酸素ガスや窒素ガスなどの反応ガスも含まれる。ガス導入手段6は、上板部51の外周に設けられたガスリング61と、ガスリング61に接続された、真空チャンバ1の側壁を貫通するガス管62とを有し、ガス管62がマスフローコントローラ63を介して図示省略のガス源に連通している。この場合、詳細な図示を省略したが、ガスリング61にはガス拡散部が付設され、ガス管62からのスパッタガスがガス拡散部で拡散されて、ガスリング61に周方向に等間隔で穿設されたガス噴射口61aから同等流量でスパッタガスが噴射されるようにしている。そして、ガス噴射口61aから噴射されたスパッタガスは、上板部51に形成したガス孔(図示せず)から成膜空間1b内に所定の流量で導入され、成膜中、成膜空間1b内の圧力分布をその全体に亘って同等にできるようにしている。なお、成膜空間1b内の圧力分布をその全体に亘って同等にするための手法は、これに限定されるものではなく、他の公知の手法を適宜採用できる。
【0017】
また、真空チャンバ1には、ターゲット2とステージ4とを結ぶ中心線(延長線)Clに対して直交する方向に局所的に膨出させた排気空間部11が設けられ、この排気空間部11を区画する底壁面には、排気口11aが開設されている。排気口11aには、排気管を介してクライオポンプやターボ分子ポンプ等の真空ポンプVpが接続されている。成膜中、成膜空間1bに導入されたスパッタガスの一部は排気ガスとなって、シールド板5の継ぎ目や、シールド板5とターゲット2またはステージ4との隙間から、シールド板5の外表面と真空チャンバ1の内壁面1aとの間の隙間を通って排気ガス流入口11bから排気空間部11に流れ、排気口11aを介して真空ポンプVpへと真空排気される。このとき、成膜空間1bと排気空間部11との間には、数Pa程度の圧力差が生じるようになる。
【0018】
基板Wに対して所定の薄膜を成膜する場合、図外の真空搬送ロボットによりステージ4上へと基板Wを搬入し、ステージ4のチャックプレート上面に基板Wを設置する(この場合、基板Wの上面が成膜面となる)。そして、真空搬送ロボットを退避させると共に、静電チャック用の電極に対してチャック電源から所定電圧を印加して、チャックプレート上面に基板Wを静電吸着する。次に、真空チャンバ1内が所定圧力(例えば、1×10
−5Pa)まで真空引きされると、ガス導入手段6を介してスパッタガスとしてのアルゴンガスを一定の流量で導入し、これに併せてターゲット2にスパッタ電源Eから所定電力を投入する。これにより、成膜空間1b内にプラズマが形成され、プラズマ中のアルゴンガスのイオンでターゲットがスパッタリングされ、ターゲット2からのスパッタ粒子(カーボン粒子)が基板Wの上面に付着、堆積してカーボン膜が成膜される。このようにターゲット2をスパッタリングしてカーボン膜を成膜する場合、真空チャンバ1内に浮遊するカーボン粒子が微細なパーティクルとして成膜直後の成膜対象物の表面に付着していることを知見するのに至った。これは、ターゲットから飛散するカーボン粒子は、基板Wだけじゃなく、ターゲット2周辺に存する部品やシールド板5の表面にも付着、堆積するが、このように付着したカーボン粒子が何らかの原因で再離脱し、この再離脱したカーボン粒子が、真空排気されずに真空チャンバ1内で浮遊していることに起因していると考えられる。
【0019】
そこで、本実施形態では、成膜対象物Wに対する輻射が防止される真空チャンバ1内の所定位置に、表面が123K以下の温度に冷却される吸着体7を設けることとした。この場合、吸着体7は、シールド板5の下板部52の外表面部分52aに隙間を存して設けられ、図示省略の冷凍機等の冷却機構により上記温度に表面が冷却されている。冷却機構としては公知のものを用いることができるため、ここでは詳細な説明を省略する。吸着体7は、モータ等の昇降機構7aにより上下方向に移動自在に構成されているが、真空チャンバ1の底壁面に立設してもよい。
【0020】
以上によれば、真空チャンバ1内で浮遊するカーボン粒子が一旦吸着体7に吸着されると、この吸着体7の表面が123K以下の温度に冷却されていることで、再離脱が防止される。結果として、真空チャンバ1内で浮遊しているカーボン粒子の量が少なくすることで、基板Wの表面に付着するパーティクルの数を可及的に少なくできる。この場合、基板Wに対する輻射が防止される真空チャンバ内の所定位置に吸着体7が配置されているため、膜質が変化する等の基板Wに対する成膜プロセスに悪影響を与えるといった不具合は生じない。また、吸着体7からの輻射でシールド板5自体が123K以下の温度に冷却されることで、シールド板5自体が吸着体としての役割を果たすようになり、成膜空間1bを画成するシールド板5でカーボン粒子を吸着し、保持させることで、浮遊するカーボン粒子の量がより一層少なくでき、有利である。この場合、冷却されたシールド板5からの輻射で基板Wが冷却されないように、基板Wとシールド板5とを10mm以上離間させればよい。
【0021】
次に、本発明の効果を確認するため、以下の発明実験を行った。即ち、基板Wを直径300mmのシリコンウエハ、ターゲット2をφ400mmのカーボン製のものとし、上記スパッタリング装置SMを用いて基板Wにカーボン膜を成膜した。スパッタ条件として、ターゲット2と基板Wとの間の距離を60mm、スパッタ電源Eによる投入電力を2kW、スパッタ時間を120secに設定した。また、スパッタガスとしてアルゴンガスを用い、スパッタリング中、スパッタガスの分圧を0.1Paとした。また、比較実験として、上記スパッタリング装置SMから吸着体7を取り外し、同一の条件で成膜した。
【0022】
成膜前と成膜後に基板Wに付着する0.1μm以上のパーティクルの数を測定し、成膜中に基板Wに付着したパーティクル数を求めた。これによれば、発明実験では84個であったのに対し、比較実験では145個であり、吸着体7を設けることによりパーティクル数を少なくできることが判った。
【0023】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。上記実施形態では、排気空間部11の排気ガス流入口11bに対峙する範囲のシールド板5の下板部52の外表面部分52aを隙間を存在して覆うように吸着体7を設けているが、
図3に示すように、吸着体7の両端が真空チャンバ1の内壁面1aとシールド板5の下板部52との間の隙間にまで更にのびるように設けてもよい。尚、
図3中、矢印は排気ガスの流れを示す。これによれば、シールド板5を効率よく冷却することができ、しかも、排気ガスに含まれるカーボン粒子を効率よく吸着し、保持させることで、排気ガス中のカーボン粒子が成膜空間1bに流れて基板Wに付着することを抑制することができ、有利である。
【0024】
上記実施形態では、吸着体7によりシールド板5を冷却する場合を例に説明したが、シールド板5以外の構成部品でカーボン粒子が付着するものを冷却する場合にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0025】
SM…スパッタリング装置、Vp…真空ポンプ、W…基板(成膜対象物)、1…真空チャンバ、1a…真空チャンバ1の内壁面、11…排気空間部、11a…排気口、2…ターゲット、4…ステージ、5…シールド板、7…吸着体。