(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数のクロマトグラムのうち最も大きい信号対ノイズ比を持つクロマトグラムのピーク開始時間とピーク終了時間を前記ピーク開始時間とピーク終了時間の組として選別する、請求項1に記載のクロマトグラフィー質量分析方法。
前記複数のクロマトグラムのうち信号対ノイズ比が閾値以上であるクロマトグラムのピーク開始時間の平均値とピーク終了時間の平均値を算出し、それぞれの平均値を前記ピーク開始時間とピーク終了時間の組とする、請求項1に記載のクロマトグラフィー質量分析方法。
前記複数のクロマトグラムから求められた複数のピーク開始時間と複数のピーク終了時間のうち最も早いピーク開始時間と最も遅いピーク終了時間を前記ピーク開始時間とピーク終了時間の組として選別する、請求項1に記載のクロマトグラフィー質量分析方法。
前記分析対象成分のクロマトグラムと1つの内部標準物質のクロマトグラムの信号強度を正規化したデータにおいて、同じ保持時間に相当する各信号強度の差を求め、その分散をノイズ値としたとき、ピーク高さとノイズ値の比が最も大きい内部標準物質のピーク開始時間とピーク終了時間を前記ピーク開始時間とピーク終了時間の組として選別する、請求項1に記載のクロマトグラフィー質量分析方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の実施の態様は、後述する実施例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0015】
また、ここではクロマトグラフ質量分析装置の例として液体クロマトグラフ質量分析装置を挙げたが、分析対象成分と内部標準物質が同時に測定されるものであればよく、本発明はガスクロマトグラフ質量分析装置にも応用できる。
【0016】
[実施例1]
一般的な液体クロマトグラフ質量分析装置における最も簡単な装置構成を用いて、男性ホルモンの一つであるTestosteroneを検出する例について説明する。
図2は、液体クロマトグラフ質量分析装置の構成例を示す模式図である。
【0017】
溶媒送液部201は、水、アセトニトリルといった溶媒を送液する。一般的には、二つ以上の溶媒を設置し、比率を固定したアイソクラティック送液や、タイムプログラムによって溶媒の組成を変化させるグラジェント送液が可能である。溶媒送液部201は、分析中以外においても常に溶媒を送液し、試料分離部204の平衡化、安定化を図っている。
【0018】
試料導入部202は、分析者が分析を行いたい試料を設置し、オートサンプラと呼ばれる試料導入機構で順次試料の吸引を行う。また、ニードルや試料導入流路といった部位を試料吸引毎に洗浄する必要がある。このため、図示は省略したが、洗浄機構が別途搭載されているのが一般的である。
【0019】
試料注入部203は、溶媒送液部からの流路に、試料導入部で吸引した試料を注入する部位である。これは一般的には6方バルブに、サンプルループと呼ばれる配管を組み合わせたものを用いる。サンプルループは通常、試料導入部側に接続されている。試料吸引時は試料導入部により吸引した試料がサンプルループに導入され、導入が完了後、試料が満たされたサンプルループを試料分離部への流路へ切り替えることで、溶媒送液部201から試料分離部204への流路へ試料が注入される仕組みとなっている。
【0020】
試料分離部204には、試料を成分ごとに分離するためのカラムを設ける。カラムとは金属筒にシリカゲルやポリマーといった充填剤を充填したものである。ここに片側から試料を注入し、さらに溶媒を送り続けると、成分と充填剤との親和性に応じた速度で、成分がカラム内を移動する。これを利用して成分を分離する。カラムは充填剤の種類や粒径により特性が大きく異なるため、分離したい成分の種類や目的に応じて適切に選択する必要がある。
【0021】
質量分析部205は、試料分離部204で分離した成分をイオン化し、質量電荷比別に検出する部位である。イオン化法としては、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、大気圧化学イオン化法(APCI)等がある。また質量分析部には、四重極型、イオントラップ型、飛行時間型などが一般的に用いられる。四重極型においては、四重極を1段配置したものの他に、3段配置した三連四重極型がある。これには、1段目で選択したイオンを2段目で開裂させ、生成されたプロダクトイオンから特定の質量電荷比のものを3段目で選択して測定することを可能としたものがある。このような測定法をSRMと呼ぶ。
【0022】
質量電荷比別に選択され、検出器に導入されたイオンは、その量に対応する信号として検出される。さらに、質量分析部205で検出されたイオン量の信号は解析部206に送られ、SIMやSRMのクロマトグラムとして平滑化処理、ピーク検出処理、面積、高さ計算処理といった各種データ処理が行われる。ここで算出したピーク面積やピーク高さが測定値となる。
【0023】
未知試料における特定成分の含有量、濃度を分析したい場合には、はじめに目的とする濃度範囲域で作製した複数の濃度系列の標準試料を分析装置で分析し、算出された測定値と既知濃度の対応付けから、測定値と濃度の関係を示すグラフを導出する。このグラフを検量線と呼ぶ。次に未知試料を測定し、分析対象成分の測定値を算出後、検量線に当てはめ濃度値を算出する。このように、検量線を作成すれば、未知の濃度の試料を測定し、その測定値に対して検量線から濃度を推定することができる。
【0024】
液体クロマトグラフ質量分析装置で定量分析を行う場合、一般的には内部標準法を用いる。内部標準法の場合、例えば生体から採取した試料に分析対象成分と類似する保持時間を有しかつ質量電荷比が異なる内部標準物質を添加する。
図3は、内部標準法で作製される試料の例と、当該試料を質量分析装置で測定した際の信号強度の例を示す概念図である。測定濃度の系列に合わせたいくつかの濃度の分析対象成分301に、一定量の内部標準物質302を添加した標準試料311〜313及び未知試料314を測定する。データ処理においては、まず標準試料311〜313に対して、分析対象成分のピーク321と内部標準物質のピーク322の各々についてピーク検出を行い、測定値の比、すなわち(分析対象成分の測定値)/(内部標準物質の測定値)の値と既知濃度を対応付け、検量線を作成する。
【0025】
図4は、内部標準法で作成した検量線の例を示す図である。標準試料311〜313の分析対象成分の測定値をa
1〜a
3、内部標準物質の測定値をi
1〜i
3とすると、各標準試料に含まれる分析対象成分の既知濃度c
1〜c
3に対し、検量線401を引くことができる。この後、未知試料314を測定し、分析対象成分の測定値a
uと内部標準物質の測定値i
uから未知試料に含まれる分析対象成分の濃度c
uが算出できる。すなわち、比の値(a
u/i
u)を検量線401に当てはめることによって濃度c
uを求めることができる。
【0026】
このように、分析対象成分と内部標準物質の測定値の比を用いて計算を行う内部標準法の利点は、例えば試料の注入量の誤差、溶媒の揮発による誤差といった誤差要因を、比率計算によって相殺し、結果に影響を与えない点にある。そのためには、分析対象成分と内部標準物質の化学的挙動が極力等しくなるよう、内部標準物質の選定を行うことが必要となる。
【0027】
液体クロマトグラフ質量分析装置では、分析対象成分に対し安定同位体標識された元素を内部標準物質とし、その質量電荷比の違いから質量分析部で分離して検出することが一般的に行われている。具体的には、分析対象成分を構成する原子の一部を窒素安定同位体15N、炭素安定同位体13C、酸素安定同位体18O、水素安定同位体2Hなどで置き換えた安定同位体標識化合物を内部標準物質とする。Testosteroneにおいては、例えば13C標識を行ったもの(以下、Testosterone 13Cと表記)が例示できる。またその濃度は質量分析装置の感度や精度に応じて任意の量とすることができ、例えば500fmolを例示することができる。
【0028】
図1は、内部標準物質クロマトグラムの成分ピーク開始点及び終了点の保持時間を、分析対象成分クロマトグラムのピーク開始点及び終了点に適用する実施例を示す概念図である。
【0029】
SRMにより分析対象成分及び内部標準物質を同時に測定した場合、
図1に示すように、2本のクロマトグラム、すなわち分析対象成分のクロマトグラム101と内部標準物質のクロマトグラム102が得られる。
【0030】
このような場合、従来は内部標準物質のクロマトグラムのピーク113に対応する測定値とピークトップなどの保持時間を求め、分析対象成分のクロマトグラム101から所定の領域におけるピーク(群)を検出し、それ(それら)の測定値とピークトップなどの保持時間(の組)を求める。求めたピーク(群)から、内部標準物質のピークの保持時間に最も近いピーク123を分析対象成分として選択するなどしていた。信号強度の閾値を設けてピークを検出する場合、閾値によってはピーク123を検出できない。そこで閾値を下げると、十分な信号強度がないにもかかわらず、信号強度の変化量を勾配検出する方法や、ガウシアン関数へのフィッティングなどピーク検出として煩雑な処理を繰り返すことになり、信頼できる結果を得ることは難しい。
【0031】
しかし、前述のとおり内部標準物質は分析対象成分と化学的挙動が極力等しくなるよう選定しているため、これら2本のクロマトグラムにおいて保持時間はほぼ等しい。すなわち、分析対象成分のクロマトグラム101においてピーク開始点及びピーク終了点の保持時間は、内部標準物質のピーク開始点及びピーク終了点の保持時間と類似していると考えられる。本実施例は、この点に着目したものである。そこで、内部標準物質のピーク開始点111及びピーク終了点112の保持時間を、分析対象成分のピーク開始点121及びピーク終了点122の保持時間とし、ピークの面積、高さを計算することが、本実施例の方法である。
【0032】
なお、内部標準物質の保持時間は、分析対象成分と同じであることが望ましいが、分析対象成分のピーク面積、ピーク高さの計算に与える影響が無視できる程度であれば、分析対象成分と内部標準物質の保持時間がずれていても問題ない。
【0033】
図8は、本実施例の液体クロマトグラフ質量分析装置の解析部206に設けられたピーク検出にかかる構成の一例を示す機能ブロック図である。
図8を参照しつつ本実施例のピーク判定について説明する。
【0034】
SIMやSRMで得た内部標準物質のクロマトグラムは、ピーク検出部801によってピーク判定され、ピーク開始点806とピーク終了点809、及び内部標準ピーク部分データ808が出力される。ピーク範囲検出部802では、ピーク開始点とピーク終了点から、ピーク開始時間813とピーク終了時間814を抽出する。ピーク範囲適用部803ではピーク開始時間とピーク終了時間を利用し、分析対象成分クロマトグラムから成分ピーク部分データ810を出力する。ピーク計算部804では、内部標準ピーク部分データ808と成分ピーク部分データ810から、それぞれ内部標準測定値(面積、高さ)及び成分測定値(面積、高さ)を求める。なお、実施例1では、ピーク範囲検出部802はピーク開始点806からピーク開始時間813を、ピーク終了点809からピーク終了時間814を抽出するのみである。ピーク範囲検出部802のさらなる機能については実施例2で説明する。
【0035】
図9は、ピーク検出にかかる処理の流れを示すフローチャートである。データ収集(S11)の後、ピーク検出部801において内部標準物質のクロマトグラムのピーク検出を行う(S12)。さらにピーク範囲検出をピーク範囲検出部802で実施する(S13)。ピーク範囲検出部802で求めたピーク開始時間813とピーク終了時間814に基づき、分析対象成分のクロマトグラムに対するピーク範囲適用をピーク範囲適用部803で行い(S14)、ピーク計算をピーク計算部804において実施する(S15)。ここで得られた分析対象成分のピーク面積やピーク高さの値は、内部標準物質のピーク面積やピーク高さとの比を求めることで検量線の作成や濃度の算出に利用することができる。
【0036】
以上のステップを踏むことで、分析対象成分に由来する信号の有無や信号強度に影響されず、確実な測定値の算出が可能となる。内部標準物質は全試料に一定量含まれ、そのSIM又はSRMのクロマトグラムには必ずピークが出現する。また内部標準物質は、例えば分析対象成分と保持時間が類似するような安定同位体標識された化合物を選択する。さらに、内部標準物質のピーク開始点及びピーク終了点の保持時間を用いて、分析対象成分のクロマトグラムから面積や高さを算出することで、分析対象成分のピーク検出が困難なケースにおいても測定値が算出できる。
【0037】
また仮に、課題の欄に示したような保持時間の変動の問題が発生した場合においても、分析対象成分と内部標準物質の両方が同じ挙動を示し変動すると考えられる。このため、前記のような分析対象成分のピークが未検出のような状況かつ保持時間の変動が起こりえる場合においても、本実施例の方法によると測定値を正しく算出できる。
【0038】
従来、分析対象成分が微量でピーク検出が難しい場合や、比較的多量の夾雑成分の影響でノイズと判定されピーク検出できない場合などがあった。しかし、内部標準物質のピーク開始点及び終了点の保持時間から分析対象成分のピークを判定することにより、そのような状況においても目的とする成分の測定値を得ることができ、ロバストネスに優れる。
【0039】
本実施例では、分析対象成分であるTestosteroneに対して、内部標準物質としてTestosterone 13Cを用いた。すなわち、試料に内部標準物質として一定量のTestosterone 13Cを添加し、この試料を液体クロマトグラフ質量分析装置で測定して分析対象成分のクロマトグラムと内部標準物質のクロマトグラムを得た。
【0040】
Testosterone及びTestosterone 13Cの分析条件例を示す。液体クロマトグラフでは、溶媒は水/アセトニトリル溶液を0.2mL/minの流量とし、カラムはC18カラム(粒径5μm、管径2.0mm×50mm)を用いる。この条件における保持時間は、例えば64秒を例示できる。分離した試料は、例えばESIイオン源によりイオン化し、三連四重極型質量分析装置でSRMにより測定する。
【0041】
図5は、Testosterone及びTestosterone 13Cの未知試料におけるSRMの測定結果データの例を示す図である。この図は、Testosterone 13Cのピーク開始点及び終了点の保持時間をTestosteroneのピーク開始点及び終了点へ適用する例を示している。Testosteroneのクロマトグラム501は、前記分析条件で成分分離とSRMの測定を行った結果であり、このときのQ1とQ3に各々設定すべき質量電荷比は289と97である。またTestosterone 13Cのクロマトグラム502は同様にTestosterone 13CをSRMで測定した結果であり、このときのQ1とQ3に各々設定すべき質量電荷比は292と100である。
【0042】
本分析結果例では分析対象成分であるTestosteroneの濃度が低く、クロマトグラム501におけるTestosteroneのピーク505が明瞭ではないため、正確なピーク検出が困難である。一方、内部標準物質として十分な量で添加されたTestosterone 13Cのピーク506は信号対ノイズ比(S/N)が良好であり、容易に同定可能なピークが得られている。
【0043】
本実施例では、まずTestosterone 13Cのピーク506に対してピーク検出を行う。これにより、ピーク開始点511及びピーク終了点512が検出される。この2点を結ぶ、Testosterone 13Cのベースライン504を引き、Testosterone 13Cのピーク506の面積、高さ計算を行う。次に、Testosterone 13Cのピーク506に対して検出されたピーク開始点511及びピーク終了点512の保持時間を、Testosteroneのクロマトグラム501に適用し、Testosteroneのピーク505のピーク開始点及びピーク終了点とする。それぞれの点の信号強度は、Testosteroneのクロマトグラム501の信号強度の並びにおいて、ピーク開始点511とピーク終了点512の保持時間に対応する値となる。この2点を結ぶ、Testosteroneのベースライン503を引き、Testosteroneのピーク505の面積、高さを計算する。最後に、TestosteroneとTestosterone 13Cの面積比、高さ比を算出し、検量線から濃度を算出する。
【0044】
なおSRMは、一般的に複数の質量電荷比に対応するイオン量の検出を時分割方式で行うため、Testosteroneのクロマトグラム501とTestosterone 13Cのクロマトグラム502は各データ点の保持時間が一致しない場合がある。このような場合には、Testosterone 13Cのピーク506に対して検出されたピーク開始点511及びピーク終了点512の各保持時間に最も近く存在するTestosteroneのクロマトグラム501の各データ点を、Testosteroneのピーク505のピーク開始点及びピーク終了点とすればよい。
【0045】
以上の方法を用いることで、同定が困難なケースにおけるTestosteroneのピーク505のピーク検出を行うことなしに、ベースラインを引き、面積、高さの算出が可能である。すなわち、ノイズが多くピークの識別が困難な場合、及びそれに加えて保持時間の変動の問題が発生した場合においても、分析対象成分の面積や高さを、より確実に算出できる。
【0046】
また他の効果として、分析対象成分のピーク検出が不要となるため、データ解析処理の負荷が軽減する。特に、内部標準物質は検出器で十分なS/Nをもって検出可能な濃度域で測定することが一般的であるため、比較的簡単なアルゴリズムで正確にピーク開始、終了点を算出することが可能である。このピーク開始点及びピーク終了点の保持時間を分析対象成分のクロマトグラムへ適用すればよいわけであるから、濃度域が未知でかつ保持時間が変動する分析対象成分のピークを確実に検出することができ、大幅なデータ解析処理の負荷軽減となる。
【0047】
図6は、本実施例におけるピーク検出法を指示するための、解析部206におけるグラフィカルユーザインターフェイスの一例を示す図である。なお、ピーク検出の対象となる分析対象成分と内部標準物質を検出目的成分とした。
【0048】
図6において、“ID”は、検出目的成分の番号を1から順に指定するものであり、IDの番号が質量分析装置のSRMの測定チャンネルと対応している。これは、検出目的成分の設定状況に応じて自動入力となっていてもよい。“Name”は、検出目的成分の名称である。この項目は、ユーザが自由に名称を入力できるが、同一の名称を二つ以上設定することはできない。“Expected RT”には、検出目的成分のピークトップの保持時間を指定する。“RT Range”は、検出目的成分のピークと判定する範囲を指定する。この列に指定された保持時間の範囲において、最もピークトップがExpected RTに近いピークを、検出目的成分のピークと判定する。本例ではID=2のTestosterone 13Cのピークを(Expected RT−RT Range)から、(Expected RT+RT Range)まで、すなわち64±10秒の保持時間の範囲において判定する。
【0049】
“IS ID”には、内部標準物質のIDを指定する。内部標準物質自体である場合は、本列には特別値として0を設定する。また分析対象成分である場合は、その成分と面積、高さの比をとるべき内部標準物質のIDを指定する。
図6の例では、ID=1のTestosteroneはID=2のTestosterone 13Cを内部標準と設定する必要があるため、IS IDに2を設定する。またTestosterone 13Cは、内部標準物質であるため特別値の0を設定している。
【0050】
“Peak Detect Type”では、ピーク検出方法を選択する。本列は複数のピーク検出方法から目的の方法を択一的に選択する入力箇所であり、選択肢の例としては、たとえば勾配検出法(選択肢名Delta)、フィッティングによるピーク検出法(選択肢名Fitting)、内部標準物質のピーク開始・終了時間を使用する(With IS)などから選択する。なお、内部標準物質のピーク開始・終了時間を使用する(With IS)を選択をした場合、Expected RT及びRT Rangeの入力は不要であるから、当該成分のこれらの項目は空欄でかまわない。さらに、IS IDに0が設定されているにもかかわらずPeak Detect TypeがWith ISとなっている場合は、エラーを表示するなどの整合性チェックを行うことが望ましい。
【0051】
以上で、液体クロマトグラフ質量分析装置のSRMで得たクロマトグラムからピーク検出処理を行う際の、分析対象成分と内部標準物質におけるピーク検出法の設定が可能となる。
【0052】
[実施例2]
質量分析装置によるSRMでは、複数のチャンネルを設定できることが一般的である。このため、実施例1のTestosteroneの測定においては、内部標準物質としてTestosterone 13Cを同時に測定した。本実施例ではさらに、実施例1に示したTestosterone 13Cに加え、Testosteroneに含まれる水素原子の一部を重水素に置き換えたTestosterone d3を内部標準物質として試料に添加し、これらを同時に測定する場合の例を示す。すなわち、試料に複数の異なる内部標準物質を添加し、内部標準物質のクロマトグラムとして複数のクロマトグラムを得る例である。
【0053】
図7は、Testosterone、Testosterone d3、Testosterone 13Cを同時に測定した例を示す図である。ここでは、Testosterone d3のピーク開始点及び終了点の保持時間をTestosterone、Testosterone 13Cのピーク開始点及び終了点へ適用する例を示す。Testosteroneのクロマトグラム701、Testosterone d3のクロマトグラム702、Testosterone 13Cのクロマトグラム703はそれぞれ、質量分析装置によるSRMで同時かつ個別に測定されたものである。
【0054】
Testosteroneのクロマトグラム701及びTestosterone 13Cのクロマトグラム703については、SRMの条件に設定すべき質量電荷比は実施例1と同様である。Testosterone d3のクロマトグラム702に設定すべき質量電荷比は、Q1とQ3について292と97である。この分析条件において、Testosterone、Testosterone d3、Testosterone 13Cを同時に測定し、Testosteroneのピーク711、Testosterone d3のピーク712、Testosterone 13Cのピーク713を検出している。
【0055】
内部標準物質であるTestosterone d3、Testosterone 13Cについては、ピークが比較的明確に検出されているが、Testosterone d3のピーク712はTestosterone 13Cのピーク713より信号対ノイズ比(S/N)が良好である。このようなケースにおいては、例えばS/Nが最も良好な内部標準物質であるTestosterone d3のピーク712を用いてピーク開始点721及びピーク終了点722を検出し、それらの保持時間をもってTestosterone及びTestosterone 13Cの定量値を算出することができる。
【0056】
内部標準物質は、本実施例では2種類を用いたが、3種類又はそれ以上を用いても良い。2種類以上の内部標準物質を用いた場合には、内部標準物質のクロマトグラムとして複数のクロマトグラムが得られる。それら複数のクロマトグラムからそれぞれピークを検出し、各ピークのピーク開始時間とピーク終了時間を求めると、複数のピーク開始時間及び複数のピーク終了時間が得られる。これら複数のピーク開始時間及び複数のピーク終了時間からピーク開始時間とピーク終了時間の組を1組選別又は算出し、そのピーク開始時間とピーク終了時間の組を分析対象成分のクロマトグラムのピーク開始時間とピーク終了時間に適用する。分析対象成分のクロマトグラムに適用すべきピーク開始時間とピーク終了時間の組を求める方法等については、例えば以下のような方法が挙げられる。
【0057】
(1)例えば、最もS/Nのよいものを一つ選択する方法。
内部標準物質のクロマトグラムにおいて、内部標準物質のピークの近傍の区間をノイズ判定領域とし、その区間の信号強度の最大値と最小値の差の半値をN、内部標準物質のピークの高さをSとする。複数の内部標準物質のクロマトグラムから、それぞれS/Nを求めて、最もその値の大きいものにおける、内部標準物質のピークのピーク開始時間とピーク終了時間の組を、分析対象成分のクロマトグラムにおけるピーク開始時間とピーク終了時間として適用する。これにより、より安定したピーク検出が可能となり、定量値の算出において誤差やばらつきを抑えることができる。
【0058】
(2)例えば、S/Nが閾値以上の値を持つものを選別し、ピーク開始時間、ピーク終了時間については、選別した各ピークのピーク開始時間、ピーク終了時間の平均値を用いる方法。
【0059】
閾値以上のS/Nを有する内部標準物質のクロマトグラムを選別し、それらのクロマトグラムにおけるピーク開始時間の平均値及びピーク終了時間の平均値を算出する。それを分析目的成分のクロマトグラムに適用するピーク開始時間とピーク終了時間の組とする。これにより、夾雑成分やノイズの影響を平均化でき、安定したピーク検出に寄与する。
【0060】
(3)例えば、すべての内部標準物質のピーク検出を行い、そのなかで最も早い保持時間のピーク開始点及び最も遅い保持時間のピーク終了点を選択する方法。
【0061】
複数の内部標準物質のクロマトグラムから求められた複数のピーク開始時間と複数のピーク終了時間のうち最も早いピーク開始時間と最も遅いピーク終了時間を、分析目的成分のクロマトグラムに適用するピーク開始時間とピーク終了時間の組として選別する。最も早いピーク開始時間と最も遅いピーク終了時間を選択することによって、より広い範囲をピークとみなすことになり、分析対象成分のピーク開始点や終了点の変動に対して安定したピーク判定が可能となる。
【0062】
(4)例えば、分析対象成分のクロマトグラムと、ある内部標準物質のクロマトグラムの強度を正規化したデータにおいて、同じ保持時間に相当する各信号強度の差を求め、その分散をノイズ値としたとき、内部標準物質のピーク高さとノイズ値の比が最も高い内部標準物質を選び、そのピーク開始時間、ピーク終了時間を選択する方法。
【0063】
分析対象成分のクロマトグラムにおける各信号強度の最大値と最小値を1と0で正規化し、さらに内部標準物質のクロマトグラムにおける各信号強度も同様に1と0で正規化する。同じ保持時間に相当する各信号強度の差を求め、その分散をノイズ値とする。内部標準物質のピーク高さとノイズ値の比が最も大きい内部標準物質のピーク開始時間とピーク終了時間を、分析目的成分のクロマトグラムに適用するピーク開始時間とピーク終了時間の組として選別する。この方法により、安定してノイズの波形が得られない場合にもS/Nを求めることができる。
【0064】
(5)例えば、複数のクロマトグラムの各点における信号強度の2乗の値を求め、その算出された値をデータ点とするクロマトグラムのピーク検出を行い、ピーク開始時間とピーク終了時間を求める方法。
【0065】
内部標準物質のクロマトグラムの各保持時間における信号強度を2乗して得たクロマトグラムに対してピーク判定を行うことにより、ノイズを抑止したピーク判定が可能となる。ピーク開始時間とピーク終了時間の選択に関するこの方法は、前述の方法と併用することができる。
【0066】
2種類以上の内部標準物質を用いた場合、
図8のブロック図のピーク検出部801を複数回適用する。さらに、ピーク範囲検出部802において、複数のピーク開始点806、複数のピーク終了点809、及びそれぞれの内部標準物質クロマトグラムや分析対象成分クロマトグラムを参照し、ピーク開始時間813とピーク終了時間814を求める。
【0067】
以上のような方法により、内部標準物質のピーク開始点、ピーク終了点から、分析対象成分のピーク開始点、ピーク終了点を正しく検出することができる。
【0068】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。