【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人日本コンクリート工学会 コンクリート工学年次論文集,Vol.39,No.1,pp.1057−1062,2017.2017年6月15日発行 〔刊行物等〕仙台国際センター コンクリート工学年次大会2017(仙台)平成29年7月13日開催 〔刊行物等〕京都テルサ 第17回コンクリート構造物の補修,補強,アップグレードシンポジウム 平成29年10月12日開催 〔刊行物等〕公益社団法人 日本材料学会 コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集第17巻2017.10,pp.119−124 2017年10月12日発行
【文献】
西方篤,I.腐食の電気化学基礎−腐食の速度論−,材料と環境,2017年11月15日,Vol.66,pp.341-345
【文献】
大谷俊介 他,電気防食下におけるコンクリート中鉄筋の復極量と防食効果に関する基礎的検討,コンクリート工学論文集,2017年 1月15日,第28巻,第25−33頁
【文献】
山本悟 他,湿潤環境にあるコンクリート中鋼材の電気防食基準に関する検討,コンクリート工学論文集,2011年,第22巻第3号,第1−11頁
【文献】
竹子賢士郎 他,分極曲線測定によるコンクリート中鋼材の腐食速度測定方法の開発,コンクリート工学年次論文集,2014年,Vol.36, No.1,pp.2092-2097
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
構造物内に埋設された金属と、構造物に設けられた対極を用いて、前記金属の分極試験を行い、前記金属のアノード内在電流密度とカソード内在電流密度の代数和である外部電流密度を測定する測定手段と、
前記測定手段により測定された前記外部電流密度から、カソード側でターフェル外挿法を実施して、バトラフォルマー式におけるカソード項の定数bcおよび腐食電流密度icorを取得し、取得したバトラフォルマー式におけるカソード項の定数bcおよび腐食電流密度icorを用いて、前記カソード内在電流密度を求め、
前記求められたカソード内在電流密度を差し引くことで、アノード内在電流密度を算出する算出手段と、
算出手段により算出された前記アノード内在電流密度から、前記金属の復極量と腐食速度との関係性を検出する検出手段と、
を備えた、
ことを特徴とする電気防食の状態把握システム。
構造物内に埋設された金属と、構造物に設けられた対極を用いて、前記金属の分極試験を行い、前記金属のアノード内在電流密度とカソード内在電流密度の代数和である外部電流密度を測定する測定手段と、
前記測定手段により測定された前記外部電流密度から、カソード側でターフェル外挿法を実施して、バトラフォルマー式におけるカソード項の定数bcおよび腐食電流密度icorを取得し、取得したバトラフォルマー式におけるカソード項の定数bcおよび腐食電流密度icorを用いて、前記カソード内在電流密度を求め、
前記求められたカソード内在電流密度を差し引くことで、アノード内在電流密度を算出する算出手段と、
算出手段により算出された前記アノード内在電流密度から、前記金属の復極量と腐食速度との関係性を検出する検出手段と、前記検出手段により前記金属についての電気防食の状態を把握する状態把握手段と、
を備えた、
ことを特徴とする電気防食の状態把握システム。
【背景技術】
【0002】
電気防食法とは、鉄筋に電気を流し、前記鉄筋の腐食速度を制御する法を指標する。
鉄筋に電気が流れると、電位が変化し、その電位の変化量(これを復極量という)に応じて、腐食速度が制御される。すなわち、前記復極量と腐食速度には密接な関係性が認められる。
しかしながら、従来では、前記復極量と腐食速度の制御との関係について、該関係を定量化する手法が確立していないのが現状である。
【0003】
例えば、流電陽極方式の電気防食法では、電気防食の施工に際し、電気防食を行っても、いわゆる防食基準である100mV復極量を満たすことが難しい場合があると言われている。しかし、前記の防食基準である100mV復極量を満たしていない場合でも、鉄筋の腐食速度が低下しており、結果的に防食が継続していることが多々確認されている。
【0004】
また、実際の構造物において電気防食中鉄筋の腐食速度が測定できれば、仕様規定型の防食基準を満足できない場合であっても防食しているという前述した防食技術をより有効的に活用することも可能である。
【0005】
さらに、実際の構造物において、将来の電気防食が予定されている鉄筋の予測腐食速度が測定できれば、前記防食技術をより有効的に活用できる。しかし、現状の技術では腐食速度を測定することが困難なのである。
【0006】
繰り返しになるが、塩害を受けた鉄筋コンクリート構造物の補修法の1つとして電気防食法が提案されているが、前述したとおり、現在、電気防食法の防食基準では、電気防食off直後と24時間後の鉄筋の自然電位の差である復極量を100mV以上確保することが定められている。
【0007】
しかしながら、外部電源方式電気防食法では、逆に、この100mV復極量を得るために過剰な防食電流を印可してしまい、そのために陽極周りの環境を改悪してしまうことがあった。また、流電陽極方式電気防食法では、激しい腐食環境の場合には100mV復極量未満となり、防食基準を満足しないなどの指摘があったが、復極量が100mV未満であっても鉄筋腐食の進行が抑制されている例が多々散見されていた。
【0008】
よって、電気防食中鉄筋の腐食速度が確実に定量的に把握できれば、防食の残存予定供用期間を予測したり、防食した構造物につき応急的な対策を講ずる場合か否かを予測したり、さらには、コスト制約などの状況に応じて構造物に対し最良の防食を行うなど、電気防食技術を有効に活用できることとなるのである。
【0009】
現状の腐食速度測定技術では、復極量や防食電流密度などの物理量と、電気防食中の腐食電流密度の関係性が定量的に明らかになっていないため、前述したように仕様規定型の基準である復極量100mV以上を満たさない防食技術の有効性が証明できないのが実情なのである。
【0010】
近年、鉄筋の腐食速度を測定する方法として、「ターフェル外挿法」と「分極抵抗法」の2つが主に用いられている。
アノードターフェル外挿法は、一般的な酸化還元反応と金属の電位の関係を定量化する手法であり、元々は鉄筋の腐食速度と復極量の関係性の測定として確立されたものではない。アノードターフェル外挿法には適用範囲に制限があるが、鉄筋の腐食速度と復極量の関係性の測定としての利用は、この適用範囲を逸脱していると考えられている。測定の前後で鉄筋の腐食速度が変化するという弱点もある。
【0011】
また、ターフェル外挿法は、鉄筋を大きく分極させる必要があり、特にアノード分極中に鉄筋の腐食が促進されてしまうため現場での適用が懸念されている。また、アノード分極に伴う金属表面の変化(錆層の生成など)により、必ずしも正しいターフェル勾配が得られないなどの課題がある。
次に、分極抵抗法は、腐食速度の相対値しか評価できないとともに、ターフェル勾配などの分極性状に関する情報を得ることができないとの課題がある。
さらに、ターフェル外挿法および分極抵抗法の何れの場合にも、電気防食により分極状態にある鉄筋に適用し、腐食速度を得ることは極めて困難なのである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかる電気防食の状態把握システム及び状態把握方法を図に基づいて説明する。
まず、電気防食法の概略につき説明する。
【0019】
鉄筋腐食は前記数式1で示すアノード反応とカソード反応が同時に進行して行われる。両反応とも電子の授受を伴うため、鉄筋の電位によって、反応速度が異なる。
【0020】
また、電位が上昇すると、前記アノード反応は加速し、前記カソード反応は減速する。そして、電位が下降すると、前記アノード反応は減速し、前記カソード反応は加速する。これを図示すると
図16、
図17のような曲線として表現される。
【0021】
電気防食法では、鉄筋に電気を流し、電位を下げることで例えば鉄の腐食速度(アノード反応)を減少させるものである。よって、
図16、
図17に示すように図中のアノード反応曲線が描ければ(推定出来れば)、復極量と防食中鉄筋の腐食速度の関係性が把握できる。
【0022】
従来、鉄筋の電位と腐食速度の関係を定量化できると考えられていた手法はアノードターフェル外挿法であった。
しかし、アノードターフェル外挿法は、一般的な酸化還元反応と金属の電位の関係を定量化する手法であり、元来、鉄筋の腐食速度と復極量の関係性の測定法として確立されたものではない。
【0023】
なぜなら、アノードターフェル外挿法には適用範囲に制限があり、鉄筋の腐食速度と復極量の関係性を測定するための利用としては、その適用範囲を逸脱している。また、測定の前後で鉄筋の腐食速度が変化してしまうという弱点もあった。
【0024】
ここで、アノードターフェル外挿法の概略につき説明する。
(分極試験)
アノードターフェル外挿法は分極試験で得られるデータにつき、所定の理論式を用いて整理することで、
図16、
図17中のアノード反応曲線を定量化するとされる手法である。
【0025】
分極試験とは、鉄筋の電位を連続的に変化させ、流れる電流量を測定する試験である。流れる電流量iは、アノード反応に伴う電流とカソード反応に伴う電流の代数和である(
図18、数式2を参照)。
【0027】
そして、分極試験のアウトプットは、
図19の符号10で示す曲線のようになる。しかし、この曲線10は求めたいアノード反応曲線とは異なる。
【0028】
(バトラフォルマー式)
対象としている酸化還元反応が次の条件を満たす場合の、各電位における酸化還元反応の反応に伴う電流量の式がバトラフォルマー式である。また、その和が実測される電流量である。また、次の条件を満たすことが、バトラフォルマー式の条件となる。
【0029】
条件
反応速度が活性化エネルギーに依存すること
電位の変化に伴い、反応自体の種類が変わらないこと
【0031】
分極試験で得たデータのうち、電位を大きくプラスにした電位では、指数項の第二項を無視できる。
【0033】
つまり、電位が大きくプラスになった電位では、測定される電流とアノード反応に伴う電流は等しい。
電位を大きくプラスにした電位域のデータで、符号10に示す曲線をフィッティングすることでアノード反応曲線を定量化することができる。
【0034】
(アノードターフェル外挿法の問題点)
しかし、前述した様に、アノードターフェル外挿法は、一般的な酸化還元反応に対し、開発されたものであり、鉄筋腐食のために開発されたものではない。
鉄筋腐食が先述の条件を満たした反応である必要があるが、実際には満たさない場合が多いことが確認されている。
【0035】
例えば、鉄の場合を考察すると、鉄筋の酸化反応は金属自体が反応するため、発生した鉄イオンが沖合に拡散する拡散速度が反応速度に依存する。また、鉄筋の電位変化に伴い、不動態皮膜が消失し、酸化反応の種類が変化する。
【0036】
(ターフェル外挿法の条件逸脱以外の問題点)
アノードターフェル外挿法は、鉄筋の電位を大きく上昇させるため鉄筋の反応速度が一時的に大きく上昇したり、不動態皮膜が消失したりする。これにより、前述のごとく、アノードターフェル外挿法を適用したがために、鉄筋の腐食速度が測定前後で変化してしまうのである。
【0037】
しかしながら、従来、これらの問題点を踏まえても、先述の図中アノード反応曲線を測定できる既往の手法がアノードターフェル外挿法であるため、この手法を利用せざるを得ないのが現状であったのである。
【0038】
(本発明の電気防食の状態把握システム及び状態把握方法で使用する差し引き法の基本概念)
しかして、本件発明者らは、前述したアノードターフェル外挿法などを用いることなく、アノード反応曲線が正確に描けて推定出来、もって復極量と防食中鉄筋の腐食速度との関係性が把握でき、ひいては電気防食の状態把握が確実に行える状態把握システム及び状態把握方法を開発するに至ったのである。
【0039】
図1から理解されるように、本発明による電気防食の状態把握システム1は、構造物内に埋設された金属と、構造物表面に設けられた対極を用いて、前記金属の分極試験を行い、前記金属のアノード内在電流密度とカソード内在電流密度の代数和である外部電流密度を測定する測定手段2と、前記測定手段2により測定されたアノード内在電流密度とカソードの内在電流密度の和である外部電流密度から、前記カソード内在電流密度を差し引くことで、アノード内在電流密度を算出する算出手段3と、算出手段3により算出された前記アノード内在電流密度から、前記金属の復極量と腐食速度との関係性を検出する検出手段4と、前記検出手段により前記金属についての電気防食の状態を把握する状態把握手段5と、を備えて構成されている。
【0040】
具体的には、前記測定手段2は、分極試験装置及び演算装置などで構成され、前記算出手段3、検出手段4はコンピュータなどの演算装置で構成され、前記金属についての電気防食の状態を把握する状態把握手段5は、コンピュータなどの演算装置やモニターなどの表示装置により構成されるものとなる。
【0041】
次に、本発明で用いられる手法、すなわち差し引き法と称される手法の概略につき説明する。
この手法によれば、前述の前記金属の分極試験を行った後、前記金属のアノード内在電流密度とカソード内在電流密度の代数和である外部電流密度を測定し、前記測定されたアノード内在電流密度とカソードの内在電流密度の和である外部電流密度から、カソード内在電流密度を差し引く演算を行うことで、アノード内在電流密度を算出できる。そして、算出された前記アノード内在電流密度から、前記金属の復極量と腐食速度との関係性が確実に把握できるものとなる。
【0042】
尚、前記差し引き法は、前記のアノードターフェル外挿法と同様に、分極試験のデータを基にしている。
【0043】
すなわち、コンクリート構造物内に埋設された金属と、該コンクリート構造物表面に設けられた対極を用いて、その金属の分極試験を行い、その分極試験から得られたデータを基にするものである。
【0044】
アノードターフェル外挿法では、電位を大きくプラスにするが、本発明で使用する差し引き法では電位を大きくマイナスにすることで、指数項の第一項を無視するものとしている(数式5、数式6、数式7参照)。
【0047】
つまり、電位が大きくマイナスになった電位域では測定される電流とカソード反応に伴う電流は等しい。そして、電位を大きくマイナスにした電位域のデータで、符号10で示す曲線をフィッティングすることで、カソード反応曲線を定量化できるのである。
【0048】
すなわち、前記数式2をアノード反応曲線、
について解けば、
【0050】
つまり、測定された符号10で示す曲線から、カソードターフェル外挿法より算出したカソード反応曲線を引くことで、アノード反応を定量化できるものとなる。
【0051】
次に、差し引き法を使用しての本発明の構成につき説明する。
図2は、ある金属の分極性状の概念図である。なお、金属は自然電位E、電流密度i
corの状態(図中白点)にあるとする。
【0052】
縦軸を電流密度の絶対値の自然対数、横軸を分極量とすると、図中の破線はアノード内在電流密度、一点鎖線はカソード内在電流密度、実線は分極試験(カソード分極試験)で実測される外部電流密度であり、アノード内在電流密度とカソード内在電流密度の代数和である。
【0053】
ここで、破線であるアノード内在電流密度と電位の関係が精緻に測定できれば、分極量を把握することでそのときの腐食速度を推定することができるが、一般に内在電流密度を測定することは困難である。
【0054】
さらに、アノードターフェル外挿法によってターフェル勾配を得ることを考えたとき、アノードの外挿は、測定前後で金属の腐食速度が大きく変化することや、測定精度が高くないなどの問題がある。
【0055】
一方、アルカリ水溶液中のカソード反応は水と酸素の単純な還元反応であり、反応を妨害する要因は少なく、酸素の拡散律速でなければ、カソード内在電流密度と電位の関係はバトラフォルマー式(Butler-Volmer式)で表現できると考えられる。つまり、測定された外部電流密度をカソード側でターフェル外挿することで、カソード内在電流密度と電位の関係は推定できる。
【0056】
すなわち、本発明の電気防食の状態把握システム及び状態把握方法で使用するいわゆる差し引き法は、アノード内在電流密度とカソード内在電流密度の和である外部電流密度から、推定が可能であるカソード内在電流密度を差し引くことで、アノード内在電流密度を算出するものである。
【0057】
具体的な実施例を次に示す。
まず、所定の金属に対してカソード分極試験を行う。このカソード分極試験には例えばカソード分極試験装置などが用いられる。
【0058】
この金属のカソード内在電流密度と電位の関係は、バトラフォルマー式(Butler-Volmer式)のカソード項の定数をb
cとして、数式8のように表すことができる。
【0060】
アノード内在電流密度は不動態皮膜の存在などによりバトラフォルマー式(Butler-Volmer式)に必ずしも従わないため、分極量ΔEを従属関数とする一般的な関数f
a(ΔE)として表現する(数式9)。
【0062】
また、分極試験で得られる外部電流密度は数式10となる。
【0064】
カソード分極試験は、ターフェル外挿法を適用するため、アノード内在電流密度が充分に小さくなるように、比較的大きく分極する。
測定された外部電流密度と電位の関係に対し、カソード側で
ターフェル外挿法を実施し、定数b
cおよび、自然電位との交点である腐食電流密度i
corを得る。
得られたカソード内在電流密度を、外部電流密度から差し引くことで、アノード内在電流密度が推定可能となる。
【0065】
これらの測定及び計測は例えば演算装置により行われる。該演算装置は一般的なコンピュータによって行うことができる。
【0066】
これにより復極量と防食中鉄筋の腐食速度の関係性が把握でき、ひいては電気防食の状態把握が確実に行えるシステム及び状態把握方法が得られる。
【0067】
(室内実験)
前述した手法の妥当性を確認するため、室内試験を実施した。
室内試験は、コンクリート細孔溶液を模擬した飽和水酸化カルシウム水溶液による模擬溶液試験と、鉄筋コンクリート試験体を用いた試験とした。
【0068】
(1) 模擬溶液試験
ここでは、不動態状態の鉄筋のアノード内在電流密度を差し引き法により推定し、不働態保持電流密度と臨界不動態電流密度を観測することで、その妥当性を検証する。
【0069】
まず、模擬溶液に鉄筋を浸せきさせた。
鉄筋はφ16mm、長さ70mmの磨き丸鋼を用いて、端部にリード線を接続し、20mm程度の範囲を絶縁テープで防水処理することで、被測定面積を25.12cm
2とした。この試験体に掃引速度10、20mV/minでカソード分極試験を実施し、カソード分極曲線を得た。得られたカソード分極曲線に差し引き法を適用しアノード内在電流を得た。その手順を次に示す。
【0070】
試験体に掃引速度10、20mV/minでカソード分極試験を実施する。この測定系は、溶液抵抗による直流抵抗R
Sと、電気二重層によるコンデンサーC、および電極反応のファラデー電流の直流抵抗Rtの直並列回路モデルで、
図3のように表わされるとすると、得られたカソード内在電流密度はi
Fとi
Rtの和(図中i)となる。
【0071】
IR降下の電位補正を行うため、1kHzの交流IR測定を実施し、照合電極・鉄筋間の抵抗R
S=4.4Ωを得た。このIR測定結果から、数式11を用いて分極測定結果の電位を補正する。
【0073】
ここに、Eは鉄筋表面電位(V vs.SSE)、E
Mは測定される鉄筋電位(V vs.SSE)、Iは分極電流量(A)、R
Sは照合電極・鉄筋間の抵抗(Ω)である。
【0074】
さらに、水溶液と鉄筋の界面では、電気二重層が生じており、直流分極試験によりコンデンサー容量の充電電流i
Fが発生している。この電気二重層の充電電流は、構造物中鉄筋のような準定常状態の系には生じないものであり、試験誤差として補正すべき電流である。キルヒホッフの法則より、コンデンサー電流はコンデンサー容量と電位の時間変化の積で表せるとし、次の数式12、数式13、数式14に従い補正した。
【0078】
ここに、i
Rtはファラデー電流(A/cm
2)、i
10、i
20は掃引速度10、20mV/min時の分極電流密度(A/cm
2)、Cはコンデンサー容量(F)、EはIR補正後の鉄筋表面電位(V)である。
【0079】
数式12と数式13を連立し、i
Rtについて解くことで、コンデンサーの充電電流を打ち消し、ファラデー電流密度i
Rtを得ることができる(数式14)。
【0080】
得られた鉄筋表面電位Eとファラデー電流密度i
Rtの関係(
図3の実線)から、ターフェル外挿法によって腐食速度i
cor、バトラフォルマー式(Butler-Volmer式)のカソード項の定数b
cを算出すると次の通りとなり、カソード内在電流密度と電位の関係を算出すると数式8の通りとなる。
【0082】
これを図示すると
図4の破線の通りである。
ここで、酸素の還元電流密度は、低電位域では濃度律速となっている可能性が高い。水溶液中溶存酸素は大気圧下平衡状態であると仮定し、酸素拡散限界電流密度は25.4μA/cm
2とした。
【0083】
得られたカソード内在電流密度を、鉄筋表面電位Eとファラデー電流密度i
Rtの関係(
図4の実線)から差し引くと、
図5の破線となり、これがアノード内在電流密度となる。
【0084】
なお、図中には、コンデンサー容量の補正をしない場合もあわせて掲載する(図中の実線)。図から、−0.1〜−0.4V vs.SSE付近での不動態保持電流密度が十分に小さくなっており、−0.6〜−0.7V vs.SSE付近では脱不動態化し、臨界不動態電流密度が確認された。
【0085】
以上の理由から、本発明の電気防食の状態把握システム及び状態把握方法で使用する差し引き法によってアノード内在電流密度が測定できていると考えられる。
【0086】
ここで、同一鉄筋にカソード分極試験を2度行う場合は、分極履歴が後者の分極試験結果に影響を及ぼす。そのため構造物への適用を考えた場合、コンデンサー容量の補正を上記の方法で行うことは難しい。しかし、
図5の補正前後を比べると、低電位域では両者に多少の差はあるものの、電気防食の実用範囲内である自然電位付近ではほとんど差が見られなかった。このことから、実務上コンデンサー容量の補正は不要であると考えられる。
【0087】
(鉄筋コンクリート試験)
次に、前述した差し引き法の鉄筋コンクリートに対する適用性を確認するため、100mm×100mm×200mmの寸法のコンクリートの中央にφ16mm、長さ70mmの磨き丸鋼を配置した試験体を作製し、作製した鉄筋コンクリート試験体のアノード内在電流密度と電位の関係を算出する。コンクリートの配合は
図6の通りである。
【0088】
鉄筋コンクリート試験体は練りこみNaCl量0.0、20.0kg/m
3の2種類を用意した。さらに20.0kg/m
3の試験体には予め大気中で質量パーセント濃度10%の食塩水を噴霧し作製した錆鉄筋を埋設したものも用意した。これらをそれぞれ
図8の通り、試験体(1)、(2)、(3)と定義した。
【0089】
図7は、アノード内在電流密度を算出し、電気防食の実用的な分極範囲でそれらをまとめたものである。試験体(1)、(2)の縦軸は左軸に、試験体(3)の縦軸は右軸に表示している。ただし、コンデンサー容量の補正は行っていない。
【0090】
試験体(1)では、コンクリートの細孔溶液が高アルカリであることから鉄筋表面に不動態皮膜が生成し、あらゆる電位域で腐食電流密度は小さくなっている。試験体(2)でもコンクリートの細孔溶液は高アルカリであるが、塩化物イオンが細孔溶液中に存在することにより、不動態皮膜が破壊され、未防食時(分極量0mV)の腐食電流密度は大きくなっている。
【0091】
また、図から分極量に対応する腐食電流密度を推定すれば、分極量に対する腐食電流密度は直線的に減少し、分極量−0.2Vでほぼ0となっている。試験体(3)では、試験体(2)と比較して未防食時の腐食電流密度は大きくなっている。これは、鉄筋表面に均一に錆が発生していることにより、腐食現象の発生している領域が、試験体(2)と比較して大きくなったことが原因と考えられる。また、試験体(3)では分極量−0.5V程度で、防食率(数式9)を求めると、50%程度となっており、分極量の増加に伴い指数関数的に腐食電流密度は減少していき、分極量−0.1V付近で腐食電流密度はほぼ0となった。
これは、試験体(2)と比較して、電気防食による防食効果が大きい試験体であることを示している。これらのことから、コンクリート構造物に対し電気防食を適用する場合、鉄筋の腐食状態やコンクリートの状態(塩分量、pHなど)に応じて、同じ分極量に対する腐食電流密度は異なることが示唆されるのである。
【0092】
(実際の橋梁での把握)
本発明において、内陸に存在する同一橋梁の2箇所に対し、本発明で使用する差し引き法を適用した。それぞれの測定箇所を橋梁(1)、(2)とする。対象とした橋梁は流電が適用済みであり、差し引き法の為の分極試験は、流電の陽極を対極として使用した。
【0093】
電気防食が適用されている構造物では、陽極を対極として分極試験を実施すればよいが、本発明では、未防食の構造物に対しての測定も想定し、橋梁(2)では、金属板で構成した小型対極(150mm×75mm)を用いた分極試験も行った(以降橋梁(2)(対極)とする)。
【0094】
対象とした橋梁の鉄筋表面積は配筋図から31m
2、小型対極を用いる場合、対極直下の鉄筋表面積89cm
2であり、これを測定面積とした。また、各橋梁に対し、復極量も測定し、差し引き法の結果と合わせることで現行の流電の防食率を算出した。
【0095】
(結果)
(1) IR測定結果
図9にIR測定結果を示す。橋梁(1)では1.58Ω、
橋梁(2)では0.864Ω、橋梁(2)(対極)では27.1Ωとなった。
【0096】
小型対極を用いた場合に電気抵抗が大きく
なったことは、測定面積の減少に伴い、数式10の断面積Aが小さくなったため、測定結果であるRが大きくなったと考えられる。
ここに、Rは電気抵抗(Ω)、Ωは電気抵抗率(Ω・m)、Lは長さ(m)、Aは断面積(m
2)である。
【0097】
(分極試験結果)
図10に各測定箇所での分極試験結果を示す。なお、測定結果はIR補正後のものである。橋梁(2)と橋梁(2)(対極)両者の分極試験結果が一致しない理由としては、対極からの電流線分布の広がりによって、橋梁(2)(対極)の測定面積が過小評価されているためと考えられる。
【0098】
(差し引き法の結果)
図11に橋梁(1)、橋梁(2)の差し引き法結果を示す。橋梁(1)では分極量に対して直線的に、橋梁(2)では指数関数的に腐食電流密度が減少していく結果が得られた。これより、各橋梁によって分極量に対する防食効果は異なる可能性が考えられる。
【0099】
次に、
図12には、橋梁(2)と橋梁(2)(対極)の結果を示す。対極の面積が小さくなったことによる測定範囲の誤差が、差し引き法には大きく影響し、小型対極を用いた場合の腐食電流密度が過大評価されていることがわかる。
【0100】
流電の陽極を対極として使用する場合には、対象とする橋梁の全鉄筋表面積を測定面積とすることで正確な電流密度が算出できるが、小型対極の場合では鉄筋に対して電流線分布の広がりが生じ、正確な電流密度が推定できない可能性が考えられた。本実施例の場合、小型対極を用いた際の測定面積は対極直下の鉄筋表面積としているため、測定面積を過小評価し、結果として腐食電流密度が大きくなったと考えられる。
【0101】
そこで
図13に、各分極量での腐食電流密度を、分極量0での腐食電流密度で除すことにより、測定面積の影響を排除した防食率図を示す。
橋梁(2)と橋梁(2)(対極)で似た傾向がみられることから、防食率を用いれば、小型対極を用いた測定も調査に使用できる可能性があると考えられる。
【0102】
(復極量)
図13に橋梁(1)、(2)のインスタントoff電位と24時間off電位の差である復極量の測定結果を示す。
図10における横軸の分極量に、
図13の各橋梁の復極量を代入し、対応する電流密度を未防食時の電流密度と比較すると、橋梁(1)ではほとんど電気防食適用による防食効果は得られていないが、橋梁(2)では腐食電流密度は6mA/m
2程度から5mA/m
2程度に減少していると推定できる。
【0103】
また、各橋梁の防食率を数式9から算出すると
図15となる。橋梁(1)、(2)では、同程度の小さな復極量であるが、橋梁により同じ復極量を得ている場合も、電気防食中鉄筋の腐食電流密度は異なり、本実施例では橋梁(2)の防食効果が高い結果となったことが理解できるのである。
【0104】
すでに、電気防食法が適用済みの実橋梁に対し、本発明で使用する差し引き法を適用した例を示した。
【0105】
すなわち、
図20は電気防食法が適用済みの実橋梁に対し、本発明を適用した例である。なお、差し引き法の元データであるカソード分極曲線は、電気防食システムの陽極を対極として用いており、配筋図より測定面積は全鉄筋表面積とした。
【0106】
ここで、この測定面積で除すことの意義は、単位鉄筋面積当たりの腐食速度を算出するためであり、電気化学測定を行う上では必要な手順である。
【0107】
電気防食法が適用済みの構造物に対しては、このように電気防食システムの陽極を対極とし、鉄筋の全表面積を測定面積とすることが可能であるが、電気防食システムを未導入の構造物に対しての測定も想定して、前記
図20で示す同一の橋梁に対して10×20cmのステンレス板を対極にした分極試験結果をもとにした差し引き法を行った。
【0108】
すなわち、同一の橋梁に対し、きわめて小型形状のステンレス板、例えば10×20cmのステンレス板を対極にした分極試験結果をもとにした差し引き法が未防食構造物に対する計測として実施できるのである。
【0109】
図21の符号12で示す曲線が小型形状のステンレス板、例えば10×20cmのステンレス板を対極に用いた場合であり、符号14の曲線は、
図20と同様の電気防食システムの対極を用いた場合の差し引き法の結果である。
【0110】
なお、ステンレス板の対極を用いた場合の測定面積は、対極直下の鉄筋表面積とした。ステンレス板は、通常の電気防食法での陽極を対極とした場合と比較して、どの分極量に対しても腐食電流密度が大きく評価されている。
【0111】
これは、ステンレス板を対極として用いた場合、対極に対して測定対象が圧倒的に大きいために、測定電流に広がりがあると考えられ、対極直下の鉄筋表面を測定面積とするのは過小評価となっていることが原因であると考えられる。
【0112】
しかし、インフラの維持管理に電気化学測定を用いる場合には、測定対象が対極に対して極端に大きいことが殆どであり、このような現象は必然となっている。よって、ステンレス板など小型の金属板を対極として用いることができるのは極めて有用である。ここでは小型のステンレス板を使用したが、これに限定されるものではない。
【0113】
(補正方法の式展開)
図22に測定対象が対極に対して鉄筋方向に極端に大きい場合(単位奥行1cmを考える)の測定電流の広がりを模式的に表した。このように対極直下以外の鉄筋に流れる総電流量I
mを、対極外電流量I
error、対極直下に流れる総電流量をI
Rと定義すると、測定時に記録される電流量I
mは、対極外電流量I
errorと真の電流量I
Rの和で、数式16の通り記述できる。
【0115】
この両辺を対極直下の鉄筋表面積Aで除すことにより、数式16は、数式17、数式18の通り変形できる。
【0118】
i
mを見かけの電流密度と定義する(
図21中の曲線12と同義)。
なお、i
Rは対極直下に流れる総電流量を対極直下の鉄筋表面積で除した電流密度であるから、これが測定誤差を含まない真の電流密度となる。
【0119】
ここで、縦軸を見かけの電流密度i
m、横軸を対極直下の鉄筋表面積Aとすると、対極外電流量I
errorが対極直下の鉄筋表面積Aによらず一定であれば数式18は
図23のように反比例のグラフを描くと考えらえる。また、対極直下の鉄筋表面積Aが相当大きい領域では、見かけの電流密度は真の電流密度i
Rに近づくと考えられる。
【0120】
さらに、縦軸を見かけの電流密度i
m、横軸を対極直下の鉄筋表面積Aの逆数とすると数式19の通り線形式となり、その切片が真の電流密度i
Rとなる。
【0122】
本実施例では、数式19を利用し、対極面積を変化させ、見かけの電流密度i
mを測定し、
図24のように見かけの電流密度−対極直下の鉄筋表面積の逆数グラフにプロットし、これを線形近似し、切片を得ることで真の電流密度i
Rを得ようとするものである。
【0123】
(数値検証)
本実施例では、前記の通り対極外電流量I
errorが対極直下の鉄筋表面積Aによらず一定であることが仮定されている。本節では数値解析を用いてこれを検討した。数値解析では、コンクリートの抵抗率、鉄筋の分極抵抗を一般的な範囲内で変化させ、対極直下の鉄筋表面積と対極外電流量I
errorの関係性を検討した。
【0124】
図25がコンクリートの電気抵抗率と対極直下の鉄筋表面積を変化させた際の対極外電流量I
errorである。また、
図26が鉄筋の分極抵抗と対極直下の鉄筋表面積を変化させた際の対極外電流量である。どちらも、対極面積が10cm
2(本実施例では1cm奥行あたりの想定であるので、長さにして10cm)程度より大きくなれば、対極外電流量I
errorは一定値に収束する傾向を示した。これより、構造物調査に一般的に使われる対極程度の大きさであれば、本実施例の適用範囲であると考えられる。
【0125】
(コンクリート試験体での適用例)
コンクリート中鉄筋に対する適用例を得るため、一次元方向に長いコンクリート試験体を作成し、適用した。
【0126】
本実施例では同一の試験体に対し、数回にわたる分極試験を実施するため、鉄筋の表面状態を大きく変化させず、鉄筋の自然状態の腐食電流密度を測定する既往の方法である交流分極抵抗法を用い、腐食電流密度を測定した。対極の長さは20、50、90cmとした。また、本手法の数値の妥当性の検証のため、コンクリート試験体上面を対極で覆い対極外電流量を排除した測定(
図20で示す曲線に相当する測定)も行った。
【0127】
本測定結果の前に、従来方法(20cmの対極による腐食電流密度測定)による腐食電流密度結果とコンクリート試験体上面を対極で覆った場合の腐食電流密度測定の結果を
図27に比較例として示す。
【0128】
このように、一次元方向に長い本試験体に対する電気化学測定は、対極に対して測定面積が小さく、測定電流に広がりが生じている。これにより、対極直下の鉄筋表面積を測定面積とするのは測定面積を過小評価していると考えられる。
【0129】
次に、本実施例の適用例を説明する。
図28は見かけの腐食電流密度−対極直下の鉄筋表面積グラフである。
このように、見かけの電流密度i
mと対極直下の鉄筋表面積Aは反比例に近い関係を示した。この横軸を対極直下の鉄筋表面積の逆数に取り直したものが
図29となる。
【0130】
このように、見かけの電流密度i
m−対極直下の鉄筋表面積Aの逆数グラフは線形に近い関係を示した。また、この切片が本実施例により得られた真の電流密度i
Rとなる。
【0131】
さらに本実施例で得られた真の電流密度i
Rとコンクリート試験体上面を対極で覆った場合の腐食電流密度を比較すると
図30に示す表となり、概ね同様の値を示したことから、本実施例により電気化学測定の電流密度評価に大幅な改善が見込めると考えられる。
【0132】
(差し引き法に対する本実施例の利用法)
本実施例は、同一の試験体(構造物の個所)に対し、複数回の測定が必要となる。また、差し引き法は鉄筋を大きく分極するため、測定のインターバルを24時間以上空ける必要があり連続測定には向かない手法である。そこで、検証実験でも採用した既往の腐食速度測定技術である交流分極抵抗法を採用し、本手法を実施することで自然状態(分極量0mV)での真の腐食電流密度を算出する。さらに、あるひとつの対極長さでの総腐食電流量(電流密度ではないことに注意)を、真の腐食電流密度で除すことにより、測定面積を逆算する。ここで逆算された測定面積を差し引き法で利用することで、差し引き法での電流密度の精度を向上させることができる。