(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871555
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】歯周病菌細胞侵入抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/352 20060101AFI20210426BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20210426BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20210426BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20210426BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
A61K31/352
A61K8/49
A61P1/02
A61P43/00 105
A61Q11/00
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-183374(P2019-183374)
(22)【出願日】2019年10月4日
(62)【分割の表示】特願2018-142697(P2018-142697)の分割
【原出願日】2018年7月30日
(65)【公開番号】特開2020-19800(P2020-19800A)
(43)【公開日】2020年2月6日
【審査請求日】2019年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 敦雄
(72)【発明者】
【氏名】関根 伸一
(72)【発明者】
【氏名】梁 光耀
(72)【発明者】
【氏名】岡田 ▲温▼子
(72)【発明者】
【氏名】有田 卓矢
【審査官】
飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特表2016−517445(JP,A)
【文献】
特表2010−508346(JP,A)
【文献】
特表2009−521508(JP,A)
【文献】
特表2017−529400(JP,A)
【文献】
生化学辞典,2002年 7月 1日,第3版,p.1203
【文献】
Phytother. Res.,2011年,vol.25,p.1727-1731
【文献】
Infectious Disorders-Drug Targets,2015年,vol.15,p.89-97
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 8/00−8/99
A61P 1/00−1/18
A61P 43/00
A61Q 11/00−11/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3−ジデヒドロフラバン−4−オンを含有する、歯周病菌細胞侵入抑制用組成物。
【請求項2】
歯周病菌がP.gingivalisである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
細胞が歯肉上皮細胞である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
口腔用組成物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病菌細胞侵入抑制用組成物(歯周病菌が細胞に侵入するのを抑制するための組成物)等に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は細菌(歯周病菌)の感染によって引き起こされる炎症性疾患であり、このため歯周病の予防又は治療のために重要な要因の一つとして、歯周病菌の活動を抑制することが挙げられる。このため、歯周病菌の殺菌又は抑制を目的に、数多くの口腔用組成物が研究開発されてきている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−111732号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】FEMS Microbiology Letters 216 (2002) 217〜222
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯周病菌であるP. gingivalisは、細胞(特に歯肉細胞)に侵入することが知られてい
る。侵入した菌は、強力な細胞傷害性を発揮する。侵入した菌の幾分かはリソソームで分解されるが、たとえ分解される運命となってもP. gingivalisはかなり長い時間オートラ
イソソーム内で生き続け、細胞傷害性を発揮するのである。さらには細胞内に侵入した菌の半数近くは初期エンドソームからrecycling pathwayを経由して細胞外に出て、周囲の
細胞に再侵入する。こたのめ、P. gingivalisは細胞間を往来し・生き長らえ・増殖し・
感染を続けるのである(例えば次のウェブページを参照:http://web.dent.osaka-u.ac.jp/~prevent/research01.html)。しかも、歯肉細胞内へ歯周病菌が侵入すると、歯周病菌殺菌又は抑制効果を奏する有効成分を含有する口腔用組成物を口腔内に適用しても、有効成分が歯周病菌まで到達することが難しくなるため、歯周病菌を殺菌又は抑制することが難しい。以上のことから、歯周病菌が細胞に侵入するのを抑制する手段を見出すことは歯周病の予防又は治療に大きく貢献すると考えられるため、本発明者らは検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の化合物が、歯周病菌が細胞に侵入するのを抑制する効果を奏することを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、銅クロロフィリンナトリウム、フラボン、及びレスベラトロールからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、歯周病菌細胞侵入抑制用組成物。
項2.
歯周病菌がP.gingivalisである、項1に記載の組成物。
項3.
細胞が歯肉上皮細胞である、項1又は2に記載の組成物。
項4.
口腔用組成物である、項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、歯周病菌が細胞に侵入するのを効率的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】被験物質として銅クロロフェリンナトリウム1mMを用いてベシクルビーズ(擬似P.gingivalis)の細胞侵入の程度を検討した際の、共焦点レーザー顕微鏡観察像を、
図1に示す。
図1左側に被験物質無添加のときの結果を、
図1右側に被験物質添加のときの結果を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0011】
本発明に包含される組成物は、歯周病菌が細胞に侵入するのを抑制するために用いられる。よって、本発明に包含される当該組成物は、歯周病菌細胞侵入抑制用組成物ということができる。以下、本発明に包含される当該組成物を「本発明の組成物」ということがある。
【0012】
本発明の組成物は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、銅クロロフィリンナトリウム、フラボン(2,3−ジデヒドロフラバン−4−オン)、及びレスベラトロールからなる群より選択される1種以上を含有する。なお、本発明の組成物に含まれるこれらの成分をまとめて有効成分と呼ぶことがある。有効成分は1種単独で又は2種以上組み合わせて本発明の組成物に含まれ得る。
【0013】
本発明に含まれる有効成分の量は、本発明の効果を奏する範囲であれば特に制限されず、適宜設定することができる。例えば、0.1〜100質量%でありえる。なお、100質量%の場合であって且つ1種類の有効成分しか含まれない場合には、その有効成分そのものということになる。この状態も本発明の組成物に包含される。なお、この場合は特に歯周病菌細胞侵入抑制剤ということもできる。
【0014】
なお、α−シクロデキストリン及びβ−シクロデキストリンについては、それぞれ、例えば3mM以上含まれることが好ましく、4mM以上又は5mM以上含まれることがより好ましく、6mM以上、7mM以上、8mM以上、9mM以上、又は10mM以上含まれることがさらに好ましい。上限は本発明の効果が奏される範囲であれば特に制限されないが、例えば30mM以下、25mM以下、20mM以下、15mM以下、又は10mM以下が例示される。
【0015】
また、銅クロロフィリンナトリウム、フラボン及びレスベラトロールについては、それぞれ、例えば0.3mM以上含まれることが好ましく、0.4mM以上又は0.5mM以上含まれることがより好ましく、0.6mM以上、0.7mM以上、0.8mM以上、0.9mM以上、又は1mM以上含まれることがさらに好ましい。上限は本発明の効果が奏される範囲であれば特に制限されないが、例えば5mM以下、4.5mM以下、4mM以下、3.5mM以下、3mM以下、2.5mM以下、2mM以下、1.5mM以下、または1mM以下が例示される。
【0016】
本発明の組成物が細胞侵入を抑制する歯周病菌としては、本発明の効果が損なわれない限り特に制限されないが、歯周病菌の中でもPorphyromonas gingivalis(「P.gingivalis」と表記することがある)が好ましい。
【0017】
本発明の組成物は、固形組成物、液体組成物でありえる。また、例えば口腔用組成物として好ましく用いることができる。当該口腔用組成物は、例えば医薬品、医薬部外品として用いることができる。また、本発明の口腔用組成物の形態は、特に限定するものではないが、常法に従って例えば軟膏剤、ペースト剤、パスタ剤、ジェル剤、液剤、スプレー剤、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、ガム剤等の形態(剤形)にすることができる。なかでも、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、軟膏剤、ペースト剤、液剤、ジェル剤であることが好ましい。
【0018】
本発明の口腔用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、口腔用組成物に配合し得る任意成分を単独で又は2種以上さらに含有してもよい。
【0019】
例えば、界面活性剤として、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤または両性界面活性剤を配合することができる。具体的には、ノニオン界面活性剤としてはショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル;脂肪酸アルカノールアミド類;ソルビタン脂肪酸エステル;脂肪酸モノグリセライド;ポリオキシエチレン付加係数が8〜10、アルキル基の炭素数が13〜15であるポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレン付加係数が10〜18、アルキル基の炭素数が9であるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;セバシン酸ジエチル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;ラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ココイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム等のアシルアミノ酸塩;ココイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型活性剤;N−ココイル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等のイミダゾリン型活性剤;N−ラウリルジアミノエチルグリシン等のアミノ酸型活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。その配合量は、通常、組成物全量に対して0.1〜5質量%である。
【0020】
また、香味剤として、メントール、カルボン酸、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n−デシルアルコール、シトロネール、α−テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセタート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、d−カンフル、d−ボルネオール、ウイキョウ油、ケイヒ油、シンナムアルデヒド、ハッカ油、バニリン等の香料を、単独または2種以上を組み合わせて組成物全量に対して0.001〜1.5質量%配合することができる。
【0021】
また、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p−メトキシシンナミックアルデヒド等の甘味剤を、組成物全量に対して0.01〜1質量%配合することができる。
【0022】
さらに、湿潤剤として、ソルビット、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3―ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチット、ポリオキシエチレングリコール等を単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0023】
防腐剤として、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等を配合することができる。
【0024】
着色剤として、青色1号、黄色4号、赤色202号、緑3号等の法定色素、群青、強化群青、紺青等の鉱物系色素、酸化チタン等を配合してもよい。
【0025】
pH調整剤として、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、ピロリン酸、乳酸、酒石酸、グリセロリン酸、酢酸、硝酸、またはこれらの化学的に可能な塩や水酸化ナトリウム等を配合してもよい。これらは、組成物のpHが4〜8、好ましくは5〜7の範囲となるよう、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。pH調整剤の通常配合量は0.01〜2重量%である。
【0026】
なお、本発明の口腔用組成物には、さらに、薬効成分として、例えば、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン等のカチオン性殺菌剤、酢酸dl−α−トコフェロール、コハク酸トコフェロール、またはニコチン酸トコフェロール等のビタミンE類、ドデシルジアミノエチルグリシン等の両性殺菌剤、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール等の非イオン性殺菌剤、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)等の酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ化物、トラネキサム酸やイプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイド、グリチルリチン酸ジカリウム、アラントイン、ヒノキチオール、硝酸カリウム等を、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0027】
また、基剤として、アルコール類、シリコン、アパタイト、白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、プラスチベース等を添加することも可能である。
【0028】
口腔用組成物は、公知の方法(例えば常法)に従って調製することができる。
【0029】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本発明は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0030】
また、上述した本発明の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本発明に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本発明には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例】
【0031】
以下、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0032】
ベシクルビーズの調製
P.gingivalisは恒常的に、外膜小胞Outer membrane vesicles(OMVs)を分泌していることが知られている。OMVsにはP. gingivalisのほぼ全ての細胞傷害性因子が含まれており、しかもOMVs単独でも
細胞内に侵入する。OMVsを培養細胞に添加するとエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれるのである。このため、P.gingivalisから精製したOMVsを粒子(例えば蛍光ビーズ)にコーティングさせることにより、細胞侵入能を有する擬似P.gingivalisを調製することができる。
【0033】
そこで、まず以下のようにして、当該擬似P.gingivalis(OMVsコーティングされた蛍光ビーズ)を調製した。なお、以下、OMVsのことを単に「ベシクル」と呼ぶことがある。
【0034】
50μl蛍光ビーズ液(1.35x10
9個ビーズ含む)をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄し、200μlの0.1M MES monohydrate buffer(2−モルホリノエタンスルホン酸一水和物緩衝液)で洗浄した。洗浄後、10000rpmで遠心し、上清除去後、73.8μl 0.1M MES monohydrate bufferに再懸濁した。
【0035】
再懸濁したビーズ液に、86.2μl(ベシクルの総タンパク質量が100μgになるように調整)のベシクル液を加え、シーソーシェーカーで揺らしながら室温にてインキュベートした。なお、ベシクル液は、上記非特許文献1(FEMS Microbiology Letters 216 (2002) 217〜222)を参照して作製した。インキュベート後、2g/ml EDAC 40μlを加え、遮光して室温でインキュベートした。ここに、1Mグリシン水溶液25μlと1g/ml EDAC(1-(3-Dimethylaminopropyl)-3-ethylcarbodiimide Hydrochloride)水溶液 25μlを加え(反応停
止)、遮光して室温でインキュベート後、13000rpmで遠心した。遠心後、上清を除去し、PBS(−)で2回洗浄した。洗浄後、1mlのPBSに懸濁させた。当該懸濁液74μl(8サンプル分)をチューブに移し、12,000rpmで遠心した。遠心後、上清を除去し、450μlのMEMで再懸濁した。これをベシクルビーズ液として、以下検討に用いた。
【0036】
なお、用いた1Mグリシン水溶液及びEDAC水溶液は、PBS(−)を用いて調製した。
【0037】
ベシクルビーズの細胞侵入阻害試験
Ca9−22細胞(ヒト歯肉上皮細胞由来)300μlを各ウェルに継代し(接種量:5x10
4 cells/300μl)、1日間培養した。1日間培養した古い培地を捨て、各種濃度の被験物質(10mM、1mM、又は0.1mM)を溶解したMEM培地200μlに置換し、予め超音波でベシクルビーズをよく分散させたベシクルビーズ液50μlずつ各ウェルに添加し、37℃、5%CO
2で1時間インキュベートした。(したがって、細胞に処理した各被験物質の濃度(処理濃度)は、初期濃度の0.8倍であり、8mM、0.8mM、又は0.08mMである。)
【0038】
インキュベート後、スライドを氷上に置き、PBS(+) 250μlで3回洗浄した。洗浄後、PBS(+)を除去し、0.3mg/ml ビオチン 200μlを添加した後、氷上、遮光でインキュベートし、細胞膜を標識した。ビオチン処理後、0.1Mグリシンを含むPBS(+)で1回洗浄した後、さらにPBS(+)で2回洗浄した。
【0039】
PBS(+)を除去し、4%のPFA(パラホルムアルデヒド) 200μlを添加して、細胞を固定した。細胞固定後、0.1M グリシンを含むPBS(−)で1回洗浄した後、さらにPBS(−)で2回洗浄した。PBSを除去し、1% BSA(ウシ血清アルブミン)を含むPBS(−) 200μlを添加し、25℃で30分インキュベートした。インキュベート終了後、BSAを除去し、200μl Alexa Fluor 4
88 Streptavidin (1:1000 in 1% BSA/PBS(−))を添加して室温でインキュベートし、細胞膜を標識したビオチンを染色した。細胞膜染色後、PBS(−)で3回洗浄を行い、共焦点レーザー顕微鏡で観察した(細胞膜染色:励起光488nm、放出光519nm;ベシクルビーズ:励起光580nm、放出光605nm)。被験物質として銅クロロフェリンナトリウム1mMを用いて検討した際の、共焦点レーザー顕微鏡観察像を、
図1に示す。
図1左側に被験物質無添加のときの結果を、
図1右側に被験物質添加のときの結果を、それぞれ示す。
【0040】
共焦点レーザー顕微鏡観察では、60x oilレンズを使用し、観察視野内の細胞数が20
〜40個になる領域をランダムに3箇所選び観察した(N=3)。そして、領域に含まれる細胞内に存在するビーズ数をカウントすることにより、1細胞あたりのベシクルビーズ侵入数(beads/cell)を算出した。また、各被験物質の細胞侵入阻害効果を検討するため、以下の式でベシクルビーズの細胞侵入率を算出した。
【0041】
ベシクルビーズ細胞侵入率(%)=
被験物質含有培地で処理した1細胞あたりのベシクル侵入数/被験物質非含有培地(MEM培地のみ)で処理した1細胞あたりのベシクル侵入数×100
【0042】
さらに、3箇所(N=3)でのベシクルビーズ細胞侵入率の平均値及び標準偏差(SD)も算出した。
【0043】
各被験物質を用いた場合の検討結果を、表1、表2、及び表3に示す。なお、特に細胞侵入阻害効果が高いことを示す値(細胞侵入率平均値)に二重下線を引いた。また、表2及び表3において、ポジティブコントロールであるメチル-β-シクロデキストリンについてだけは、表1と同じく10mMの濃度で用いた際の結果を示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【0047】
【表3】