特許第6871682号(P6871682)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871682
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】塩化ビニル系樹脂用安定剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20210426BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20210426BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20210426BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C08L27/06
   C08K5/07
   C08K5/098
   C08K5/524
【請求項の数】6
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-75998(P2016-75998)
(22)【出願日】2016年4月5日
(65)【公開番号】特開2017-186441(P2017-186441A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002011
【氏名又は名称】特許業務法人井澤国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100072039
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 洵
(74)【代理人】
【識別番号】100123722
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 幹
(74)【代理人】
【識別番号】100157738
【弁理士】
【氏名又は名称】茂木 康彦
(74)【代理人】
【識別番号】100158377
【弁理士】
【氏名又は名称】三谷 祥子
(72)【発明者】
【氏名】三田村 龍典
(72)【発明者】
【氏名】田中 一暢
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−070177(JP,A)
【文献】 特開昭59−105043(JP,A)
【文献】 特開昭51−111252(JP,A)
【文献】 特開2005−023178(JP,A)
【文献】 特開平06−228041(JP,A)
【文献】 特開2012−167232(JP,A)
【文献】 特表2002−506101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:β−ジケトン化合物10〜40質量部、(B)成分:下記一般式(1)で表される芳香族脂肪酸金属塩、下記一般式(2)で表わされる分岐脂肪酸金属塩、下記一般式(3)で表わされる不飽和脂肪酸金属塩から選ばれる1種以上の脂肪酸金属塩3〜40質量部、(C)成分:亜リン酸エステル20〜80質量部、(D)成分:沸点120℃以上の有機溶剤1〜30質量部(ただし上記各成分量は(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分の合計量100質量部に対する割合を示す。)を含む、塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物であって、
上記(D)成分が、
沸点120℃以上のアルコール系有機溶剤、
沸点120℃以上のアルコール系有機溶剤と、流動パラフィン、ナフテン系溶剤、芳香族炭化水素化合物から選ばれる1種以上の有機溶媒とからなる混合物、
沸点120℃以上231℃以下のグリコール系有機溶剤、
沸点120℃以上231℃以下のグリコール系有機溶剤と、流動パラフィン、ナフテン系溶剤、芳香族炭化水素化合物から選ばれる1種以上の有機溶媒とからなる混合物、
のいずれかであり、
上記塩化ビニル系樹脂が上記(B)成分を含まない塩化ビニル系樹脂であり、
上記(A)成分,(B)成分,(C)成分が上記(D)成分に混合・溶解した状態にあって、上記(B)成分に含まれる脂肪酸金属塩が混酸の金属塩を形成している、
塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物。
【化1】
(R〜Rは、水素、炭素数が1〜6のアルキル基、炭素数が2〜6のアルケニル基から選択される基を表し、それぞれ同じでもよく、異なってもよい。nは2以上の整数を表す。Mはn価の金属を表す。)
【化2】
(Rは炭素数が5〜17の分岐アルキル基を表す。nは2以上の整数を表す。Mはn価の金属を表す。)
【化3】
(Rは炭素数が7〜21の不飽和炭化水素基を表す。nは2以上の整数を表す。Mはn価の金属を表す。)
【請求項2】
(A)成分がアセチルアセトン亜鉛塩を含む、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物。
【請求項3】
(B)成分が上記一般式(1)で表される芳香族脂肪酸金属塩と上記一般式(3)で表わされる不飽和脂肪酸金属塩の両方を含有する、請求項1または2に記載の塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物。
【請求項4】
塩化ビニル系樹脂と、請求項1〜3のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物を含む、塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】
塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物の量が、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して0.3〜10質量部の範囲にある、請求項4に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項4または5に記載された塩化ビニル系樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩化ビニル系樹脂組成物に関し、詳しくは熱安定性、耐着色性、耐熱着色性に優れた塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は難燃性、耐薬品性、機械的安定性、透明性、接着性、印刷性等に優れ、また、可塑剤を添加することにより硬質から軟質まで容易に硬さを変えられることから、様々な用途で用いられている。特に可塑剤を全く含有しない硬質、或いは少量の可塑剤を含有する半硬質の塩化ビニル系樹脂組成物は剛性に優れるため、建材等に広く使用されている。従って、それらは高温高圧に曝される加工時はもとより、成形品としての熱安定性及び耐候性においても、より高度な性能が要求される。
【0003】
また、硬質透明成形品の場合には、ガラス用の透明性が必要とされる容器類、工業板、化粧板、フィルムやシートなどにも使用され、非常に汎用性の高い樹脂となっている一方、塩化ビニル系樹脂は光や熱に対する安定性が不十分であることに加え、加熱成型加工時や製品の使用時に、主として脱ハロゲン化水素に起因する分解を起こしやすいという欠点のあることが知られている。このような欠点を改善するために、従来から、有機酸の金属塩、有機スズ化合物、有機ホスファイト化合物、エポキシ化合物、β−ジケトン化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の種々の安定剤を配合して塩化ビニル系樹脂の安定性を改善することが試みられている(特許文献1、2、3、4)。
【0004】
しかしながら、これら従来の技術ではなお問題があった。上記安定剤が配合された塩化ビニル系樹脂組成物であっても、加熱成型加工時や製品の使用時の塩化ビニル系樹脂の分子量の低下、脱ハロゲン化水素に起因する分解は完全に抑制されていない。そして、こうした塩化ビニル系樹脂の分子量の低下や塩化水素の発生によって塩化ビニル樹脂組成物が着色するという問題も見出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3660562号公報
【特許文献2】特許第2623271号公報
【特許文献3】特表2008−535997号公報
【特許文献4】特開2000−309671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、このような塩化ビニル系樹脂組成物の加熱に伴う品質低下を防止することを課題とする。本発明では、熱安定性と耐着色性がさらに向上した塩化ビニル系樹脂組成物を与えることのできる安定剤組成物の提供と、熱安定性と耐着色性がさらに向上した塩化ビニル系樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、β−ジケトン化合物、特定の脂肪酸金属塩、亜リン酸エステルを特定の有機溶剤に溶解して得られる液状安定剤組成物が、塩化ビニル系樹脂の熱安定性と耐着色性をさらに向上させるための安定剤として有効であることを見出し、本発明に至った。即ち、本発明は以下のものである。
【0008】
(発明1)(A)成分:β−ジケトン化合物10〜40質量部、(B)成分:下記一般式(1)で表される芳香族脂肪酸金属塩、下記一般式(2)で表わされる分岐脂肪酸金属塩、下記一般式(3)で表わされる不飽和脂肪酸金属塩から選ばれる1種以上の脂肪酸金属塩3〜40質量部、(C)成分:亜リン酸エステル20〜80質量部、(D)成分:沸点120℃以上の有機溶剤1〜30質量部(ただし上記各成分量は(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分の合計量100質量部に対する割合を示す。)を含む、塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物であって、
上記(D)成分が、沸点120℃以上のアルコール系有機溶剤、
沸点120℃以上のアルコール系有機溶剤と、沸点120℃以上の流動パラフィン、沸点120℃以上のナフテン系溶剤、沸点120℃以上の芳香族炭化水素化合物から選ばれる1種以上の有機溶媒と、からなる混合物、
沸点120℃以上231℃以下のグリコール系有機溶剤、
沸点120℃以上231℃以下のグリコール系有機溶剤と、沸点120℃以上の流動パラフィン、沸点120℃以上のナフテン系溶剤、沸点120℃以上の芳香族炭化水素化合物から選ばれる1種以上の有機溶媒と、からなる混合物、
のいずれかである、塩化ビニル系樹脂用液状安定剤組成物
【0009】
【化1】
(R〜Rは、水素、炭素数が1〜6のアルキル基、炭素数が2〜6のアルケニル基から選択される基を表し、それぞれ同じでもよく、異なってもよい。nは2以上の整数を表す。Mはn価の金属を表す。)
【0010】
【化2】
(Rは炭素数が5〜17の分岐アルキル基を表す。nは2以上の整数を表す。Mはn価の金属を表す 。)
【0011】
【化3】
(Rは炭素数が7〜21の不飽和炭化水素基を表す。nは2以上の整数を表す。Mはn価の金属を表す。)
【0012】
(発明2)(A)成分がアセチルアセトン亜鉛塩を含む、発明1の塩化ビニル系樹脂用安定剤組成物。
【0013】
(発明3)(B)成分が上記一般式(1)で表される芳香族脂肪酸金属塩と上記一般式(3)で表わされる不飽和脂肪酸金属塩の両方を含有する、発明1又は2の塩化ビニル系樹脂用安定剤組成物。
【0014】
(発明4)塩化ビニル系樹脂と、発明1〜3のいずれかの塩化ビニル系樹脂用安定剤組成物を含む、塩化ビニル系樹脂組成物。
【0015】
(発明5)塩化ビニル系樹脂用安定剤組成物の量が、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して0.3〜10質量部の範囲にある、発明4の塩化ビニル系樹脂組成物。
【0016】
(発明6)発明4または5の塩化ビニル系樹脂組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱安定性と耐着色性に優れた塩化ビニル系樹脂組成物を提供するための安定剤組成物を提供することができる。本発明の安定剤は、熱安定性と耐着色性に優れた塩化ビニル系樹脂の成形品を得るのに好適である。また本発明の安定剤を用いれば、高い透明性も同時に付与された成形品を得る事もできるので、塩化ビニル系樹脂の用途を透明性が必要な用途にも拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の塩化ビニル系樹脂用安定剤組成物とこれを用いた塩化ビニル系樹脂組成物について詳述する。
〔(A)成分:β−ジケトン化合物〕
本発明の安定剤組成物を構成する(A)成分:β−ジケトン化合物としては、例えば、アセチルアセトン、トリアセチルメタン、2,4,6−ヘプタトリオン、ブタノイルアセチルメタン、ラウロイルアセチルメタン、パルミトイルアセチルメタン、ステアロイルアセチルメタン、フェニルアセチルアセチルメタン、ジシクロヘキシルカルボニルメタン、ベンゾイルホルミルメタン、ベンゾイルアセチルメタン、ジベンゾイルメタン、オクチルベンゾイルメタン、ステアロイルベンゾイルメタン、ビス(4−オクチルベンゾイル)メタン、ベンゾイルジアセチルメタン、4−メトキシベンゾイルベンゾイルメタン、ビス(4−カルボキシメチルベンゾイル)メタン、2−カルボキシメチルベンゾイルアセチルオクチルメタン、デヒドロ酢酸、シクロヘキサン−1,3−ジオン、3,6−ジメチル−2,4−ジオキシシクロヘキサン−1カルボン酸メチル、2−アセチルシクロヘキサノン、ジメドン、2−ベンゾイルシクロヘキサンなどが用いられる。
【0019】
(A)成分として上記β−ジケトン化合物として例示された化合物の金属塩も使用することができる。該β−ジケトン金属塩を提供し得る金属種は、例えばリチウム、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウムなどである。
【0020】
(A)成分として、上記β−ジケトン化合物から選ばれる1種あるいは2種以上の化合物を使用してすることができる。本発明の安定剤組成物が配合される塩化ビニル系樹脂の耐着色性、透明性にとっては、このようなβ−ジケトン化合物として、ジベンゾイルメタン、ステアロイルベンゾイルメタン、アセチルアセトン亜鉛塩、アセチルアセトンカルシウム塩等が好ましく、アセチルアセトン亜鉛塩がより好ましい。
【0021】
本発明の安定剤組成物における(A)成分の量は、本発明の安定剤組成物全量の10〜40質量部である。耐着色性を重視すると(A)成分の量は好ましくは13〜35質量部、より好ましくは15〜30質量部である。(A)成分の量が安定剤組成物全量の10質量部未満では、塩化ビニル系樹脂の耐着色性を十分に改善することができない場合がある。(A)成分の量が安定剤組成物全量の40質量部を超えると、塩化ビニル系樹脂の熱安定性がむしろ低下する恐れがある。
【0022】
〔(B)成分:脂肪酸金属塩〕
本発明の安定剤組成物を構成する(B)成分は、芳香族脂肪酸金属塩、分岐脂肪酸金属塩、不飽和脂肪酸金属塩から選ばれる1種以上の脂肪酸金属塩である。
【0023】
(B)成分として用いられる芳香族脂肪酸金属塩は以下の一般式(1)で表される化合物である。
【0024】
【化1】
(R〜Rは、水素、炭素数が1〜6のアルキル基、炭素数が2〜6のアルケニル基から選択される基を表し、それぞれ同じでもよく、異なってもよい。nは2以上の整数を表す。Mはn価の金属を表す。)
【0025】
一般式(1)のR〜Rとして許容される炭素数1〜6のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基等である。このようなアルキル基として炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0026】
一般式(1)のR〜Rとして許容される炭素数2〜6のアルケニル基は、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基等さある。このようなアルケニル基として炭素数2〜4のアルケニル基が好ましい。
【0027】
一般式(1)のMとして許容される金属は、例えばカルシウム、バリウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム等の2価以上の金属である。このうち亜鉛、カルシウム、バリウムが好ましい。
【0028】
このような一般式(1)で表される芳香族脂肪酸金属塩として好ましいものは、o−トルイル酸亜鉛、m−トルイル酸亜鉛、p−トルイル酸亜鉛、o−トルイル酸カルシウム、m−トルイル酸カルシウム、p−トルイル酸カルシウム、o−トルイル酸バリウム、m−トルイル酸バリウム、p−トルイル酸バリウム、安息香酸亜鉛、安息香酸カルシウム、安息香酸バリウム、4−tert−ブチル安息香酸亜鉛、4−tert−ブチル安息香酸カルシウム、4−tert−ブチル安息香酸バリウム、2,4−ジメチル安息香酸亜鉛、2,4−ジメチル安息香酸カルシウム、2,4−ジメチル安息香酸バリウム、3,5−ジメチル安息香酸亜鉛、3,5−ジメチル安息香酸カルシウム、3,5−ジメチル安息香酸バリウム、2−エチル安息香酸亜鉛、3−エチル安息香酸亜鉛、4−エチル安息香酸亜鉛、2−エチル安息香酸カルシウム、3−エチル安息香酸カルシウム、4−エチル安息香酸カルシウム等である。
【0029】
(B)成分として用いられる分岐脂肪酸金属塩は以下の一般式(2)で表される化合物である。
【0030】
【化2】
(Rは炭素数が5〜17の分岐アルキル基を表す。nは2以上の整数を表す。Mはn価の金属を表す。)
【0031】
一般式(2)のRとして許容される炭素数5〜17の分岐アルキル基は、例えば、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基等である。このような分岐アルキル基として炭素数5〜13の分岐アルキル基が好ましい。
【0032】
一般式(2)のMとして許容される金属は、例えばカルシウム、バリウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム等の2価以上の金属である。このうち亜鉛、カルシウム、バリウムが好ましい。
【0033】
このような一般式(2)で表される分岐脂肪酸金属塩として好ましいものは、2−エチルヘキサン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸カルシウム、2−エチルヘキサン酸バリウム、バーサチック酸亜鉛、バーサチック酸カルシウム、バーサチック酸バリウム、イソラウリン酸亜鉛、イソラウリン酸カルシウム、イソラウリン酸バリウム、イソミリスチン酸亜鉛、イソミリスチン酸カルシウム、イソミリスチン酸バリウム、イソパルミチン酸亜鉛、イソパルミチン酸カルシウム、イソパルミチン酸バリウム、イソステアリン酸亜鉛、イソステアリン酸カルシウム、イソステアリン酸バリウム等である。
【0034】
(B)成分として用いられる不飽和脂肪酸金属塩は以下の一般式(3)で表される化合物である。
【0035】
【化3】
(Rは炭素数が7〜21の不飽和炭化水素基を表す。nは2以上の整数を表す。Mはn価の金属を表す。)
【0036】
一般式(3)のRとして許容される不飽和炭化水素基は、好ましくは炭素数15〜21の不飽和炭化水素基である。一般式(3)のMとして許容される金属は、例えばカルシウム、バリウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム等の2価以上の金属である。このうち亜鉛、カルシウム、バリウムが好ましい。
【0037】
このような一般式(3)で表される不飽和脂肪酸金属塩として好ましいものは、パルミトレイン酸亜鉛、パルミトレイン酸カルシウム、パルミトレイン酸バリウム、オレイン酸亜鉛、オレイン酸カルシウム、オレイン酸バリウム、バクセン酸亜鉛、リノール酸亜鉛、リノール酸カルシウム、リノール酸バリウム、(9,12,15)−リノレン酸亜鉛、(9,12,15)−リノレン酸カルシウム、(9,12,15)−リノレン酸バリウム、(6,9,12)−リノレン酸亜鉛、(6,9,12)−リノレン酸カルシウム、(6,9,12)−リノレン酸バリウム、エレオステアリン酸亜鉛、エレオステアリン酸カルシウム、エレオステアリン酸バリウム、(8,11)−イコサジエン酸亜鉛、(8,11)−イコサジエン酸カルシウム、(5,8,11)−イコサトリエン酸亜鉛、(5,8,11,14)−イコサテトラエン酸亜鉛、ドコサペンタエン酸亜鉛、ドコサヘキサエン酸亜鉛等である。
【0038】
本発明の(B)成分として、一般式(1)、(2)、(3)のいずれかで表される1種の化合物、一般式(1)で表される2種以上の化合物、一般式(2)で表される2種以上の化合物、一般式(3)で表される2種以上の化合物、一般式(1)、(2)、(3)のいずれかで表される化合物の2種類以上の化合物、のいずれもが用いられる。塩化ビニル系樹脂に対する分散性が比較的低い脂肪酸金属塩系安定剤を塩化ビニル系樹脂に適用できるという本発明の安定剤組成物の長所は、(B)成分として一般式(1)、(2)、(3)の少なくとも1つで表される2種以上の化合物を用いる場合に、より発揮される。
【0039】
本発明の安定剤組成物における(B)成分の量は、本発明の安定剤組成物全量の3〜40質量部である。透明性、熱安定性、耐着色性をバランスよく発揮するためには(B)成分の量は好ましくは4〜35質量部、より好ましくは5〜30質量部である。(B)成分の量が安定剤組成物全量の1.5質量部未満では、塩化ビニル系樹脂の耐着色性を十分に改善することができない場合がある。(B)成分の量が安定剤組成物全量の40質量部を超えると、塩化ビニル系樹脂の熱安定性がむしろ低下する恐れがある。
【0040】
〔(C)成分:亜リン酸エステル〕
本発明の安定剤組成物を構成する(C)成分として、例えば、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス〔2−第三ブチル−4−(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルチオ)−5−メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ第三ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6−トリ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4'−n−ブチリデンビス(2−第三ブチル−5−メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10−ジハイドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、2,2'−メチレンビス(4,6−第三ブチルフェニル)−2−エチルヘキシルホスファイト、2,2'−メチレンビス(4,6−第三ブチルフェニル)−オクタデシルホスファイト、2,2'−エチリデンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2−〔(2,4,8,10−テトラキス第三ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン−6−イル)オキシ〕エチル)アミン、2−エチル−2−ブチルプロピレングリコールと2,4,6−トリ第三ブチルフェノールのホスファイト、トリス(2,4−ジ−第三ブチルフェニル)ホスファイト等の亜リン酸エステルが用いられる。(C)成分として亜リン酸エステルの1種を単独で、あるいは亜リン酸エステルの2種以上からなる混合物を用いる。
【0041】
本発明の安定剤組成物における(C)成分の量は、本発明の安定剤組成物全量の20〜80質量部である。透明性、熱安定性、耐着色性をバランスよく発揮するためには(C)成分の量は好ましくは30〜75質量部、より好ましくは35〜70質量部である。(C)成分の量が安定剤組成物全量の30質量部未満では、塩化ビニル系樹脂の耐着色性を十分に改善することができない場合がある。(C)成分の量が安定剤組成物全量の80質量部を超えると、塩化ビニル系樹脂の熱安定性がむしろ低下する恐れがある。
【0042】
〔(D)成分:有機溶剤〕
本発明の安定剤組成物を構成する(D)成分は沸点が120℃以上の有機溶剤である。(D)成分として好ましい有機溶剤は、3−メトキシ−n−ブタノール、2−エチルヘキサノール、ウンデカノール、トリデカノール等のアルコール系有機溶剤、メチルジグリコール、ブチルジグリコール、メチルプロピレングリコール等のグリコール系有機溶剤、流動パラフィン、ナフテン系溶剤、芳香族炭化水素化合物等である。(D)成分としてこのような有機溶剤を単独で用いてもよく、2種以上の有機溶剤の混合物を用いてもよい。
【0043】
本発明の安定剤組成物は、上述の(A)成分,(B)成分,(C)成分が(D)成分に混合・溶解した状態にある、液状添加剤組成物である。このような液状の安定剤組成物では、(B)成分に含まれる脂肪酸金属塩が混酸の金属塩を形成していると推測される。
【0044】
本発明の安定剤組成物を塩化ビニル系樹脂に添加すると、塩化ビニル系樹脂の熱安定性と耐着色性を著しく向上することができる。その向上効果は、上述の(A)成分,(B)成分,(C)成分の単独の添加や、上述の(A)成分,(B)成分,(C)成分の混合物の添加では達成できない高いレベルにある。このような優れた塩化ビニル系樹脂安定化機能は、本発明の液状安定剤組成物に形成された混酸金属塩によるものと推測される。本発明の安定剤組成物における(D)成分の量は、本発明の安定剤組成物全量の1〜30質量部である。透明性、熱安定性、耐着色性をバランスよく発揮するためには(D)成分の量は好ましくは1.5〜25質量部、より好ましくは2〜20質量部である。(D)成分の量が安定剤組成物全量の1質量部未満では脂肪酸金属塩の混酸金属塩が十分に生成さ
れない場合があり、そのため所望の安定化機能が得られないことがある。(D)成分の量が安定剤組成物全量の30質量部を超えると、塩化ビニル系樹脂の熱安定性、耐着色性がむしろ低下する恐れがある。
【0045】
〔混酸金属塩に関する考察〕
本発明の液状安定剤組成物に形成される混酸の金属塩の存在は、以下の簡易実験の結果が支持する。
・安息香酸の亜鉛塩(単独)の有機溶剤に対する溶解度
溶剤であるブチルジグリコール(沸点231°C)中、180〜200°Cで安息香酸と水酸化亜鉛を反応させた。反応完了後、脱水し、反応液を室温まで冷却すると、安息香酸亜鉛が沈殿した。ブチルジグリコールに対する安息香酸亜鉛の飽和溶解度は、原料の仕込み量から22.4%未満と算出された。
・トルイル酸の亜鉛塩(単独)の有機溶剤に対する溶解度
溶剤であるブチルジグリコール(沸点231°C)中、180〜200°Cでトルイル酸と水酸化亜鉛を反応させた。反応完了後、脱水し、反応液を室温まで冷却すると、トルイル酸亜鉛が沈殿した。ブチルジグリコールに対するトルイル酸亜鉛の飽和溶解度は、原料の仕込み量から25.0%未満と算出された。
・安息香酸とトルイル酸の亜鉛塩(混酸)の有機溶剤中への溶解
溶剤であるブチルジグリコール(沸点231°C)中、180〜200°Cで安息香酸、トルイル酸、水酸化亜鉛を反応させた。反応完了後、脱水し、反応液を室温まで冷却すると、沈殿は生成しなかった。したがって反応生成物の全量が室温のブチルジグリコールに溶解していた。安息香酸、トルイル酸、水酸化亜鉛の反応では安息香酸とトルイル酸とからなる混酸の亜鉛塩が生成しており、この混酸亜鉛塩は安息香酸の亜鉛塩単独ともトルイル酸の亜鉛塩単独とも異なる挙動を示すこと、この混酸亜鉛塩のブチルジグリコールに対する溶解度が極めて高いために沈殿物が生じないことが推測できる。
【0046】
本発明の安定剤組成物でも、脂肪酸金属塩が混酸金属塩として存在すると推測される。この推測は、本発明の安定剤組成物では、比較的多量の(B)成分:脂肪酸金属塩が(A)成分、(C)成分、(D)成分に溶解して液状組成物を形成していること、本発明の液状の安定剤組成物は塩化ビニル系樹脂に対する分散性に優れるため塩化ビニル系樹脂の耐熱安定性向上効果が優れていること、と矛盾していない。この推測に基づけば、固体状で有機溶剤に対する溶解性が低い直鎖脂肪酸塩は、本発明の安定化組成物の成分として適していない。
【0047】
〔任意成分:(E)成分、(F)成分〕
塩化ビニル系樹脂の耐熱性と耐着色性をさらに向上する効果を期待して、本発明の安定剤組成物にさらにフェノール系酸化防止剤((E)成分)を含有させることも可能である。本発明の安定剤組成物に追加できるフェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ第三ブチル−p−クレゾール、2,6−ジフェニル−4−オクタデシロキシフェノール、ステアリル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、ジステアリル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネート、チオジエチレングリコールビス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサメチレンビス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサメチレンビス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド〕、4,4'−チオビス(6−第三ブチル−m−クレゾール) 、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−第三ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−第三ブチルフェノール)、ビス〔3,3−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、4,4'−ブチリデンビス(6−第三ブチル−m−クレゾール)、2,2'−エチリデンビス(4,6−ジ第三ブチルフェノール)、2,2'−エチリデンビス(4−第二ブチル−6−第三ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタン、ビス〔2−第三ブチル−4−メチル−6−(2−ヒドロキシ−3−第三ブチル−5−メチルベンジル)フェニル〕テレフタレート、1,3,5−トリス(2,6−ジメチル−3−ヒドロキシ−4−第三ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドルキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、テトラキス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ第三ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、2−第三ブチル−4−メチル−6−(2−アクリロイルオキシ−3−第三ブチル−5−メチルベンジル)フェノール、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、トリエチレングリコールビス〔(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート〕などが使用される。
【0048】
本発明の安定剤組成物における(E)成分:フェノール系酸化防止剤の量は、本発明の安定剤組成物全量の0.01〜10質量部である。透明性、熱安定性、耐着色性をバランスよく発揮するためには(E)成分の量は好ましくは0.03〜8質量部、より好ましくは0.05〜7質量部である。(E)成分の量が安定剤組成物全量の0.01質量部未満では、塩化ビニル系樹脂の耐着色性を十分に改善することができない場合がある。(E)成分の量が安定剤組成物全量の10質量部を超えると、塩化ビニル系樹脂の透明性が低下する恐れがある。
【0049】
塩化ビニル系樹脂の加工性、耐熱性、耐着色性を考慮して、本発明の安定剤組成物にさらに下記一般式(4)で表されるハイドロタルサイト化合物((F)成分)を含有させることも可能である。
Mgx1Znx2Al(OH)2x1+2x2+4(CO1−y1/2(ClOy1mH
・・・(4)
(式〔4〕中、x1、x2及びy1は各々下記式、0≦x2/x1<10、2≦x1+x2<20、0≦y1≦2で表される条件を満足する数を示し、mは0または任意の整数を示す)。
【0050】
このようなハイドロタルサイト化合物としては、マグネシウムとアルミニウム、または亜鉛、マグネシウムおよびアルミニウムからなる複塩化合物が好ましく用いられる。また、結晶水を脱水したものであってもよい。このようなハイドロタルサイト化合物は、天然物であってもよく、また合成品であってもよい。上記ハイドロタルサイト化合物の結晶構造、結晶粒子径などに制限はない。
【0051】
また、上記ハイドロタルサイト化合物として、その表面をステアリン酸等の高級脂肪酸、オレイン酸アルカリ金属塩等の高級脂肪酸金属塩、ドデシルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩等の有機スルホン酸金属塩、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸エステルまたはワックスなどで被覆したものも使用することができる。
【0052】
本発明において、ハイドロタルサイト系化合物は単独で使用しても、2種以上の混合で用いてもよい。本発明の安定剤組成物における(F)成分:ハイドロタルサイト系化合物の量は、本発明の安定剤組成物全量の0.1〜50質量部である。透明性、熱安定性、耐着色性をバランスよく発揮するためには(E)成分の量は好ましくは0.3〜45質量部、より好ましくは0.5〜30質量部である。(E)成分の量が安定剤組成物全量の0.1質量部未満では、塩化ビニル系樹脂の熱安定性を十分に改善することができない。(E)成分の量が安定剤組成物全量の50質量部を超えると、塩化ビニル系樹脂の耐着色性がむしろ低下する恐れがある。
【0053】
〔塩化ビニル系樹脂〕
本発明の安定剤組成物の適用対象である塩化ビニル系樹脂に制限はない。そのような塩化ビニル系樹脂として塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などいずれの製造方法で得られたものも制限なく使用することができる。このような塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−プロピレン共重合体、塩化ビニル−スチレン共重合体、塩化ビニル−イソブチレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−スチレン−無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル−スチレン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−ブタジエン共重合太、塩化ビニル−イソプレン共重合体、塩化ビニル−塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン−酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル−マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル−メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−各種ビニルエーテル共重合体などの塩化ビニル系樹脂、およびそれら相互のブレンド品あるいは他の塩素を含まない合成樹脂、例えば、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチル(メタ)アクリレート共重合体、ポリエステルなどとのブレンド品、ブロック共重合体、グラフト共重合体などを使用することができる。
【0054】
〔その他の塩化ビニル系樹脂用添加剤〕
本発明の安定剤組成物を塩化ビニル系樹脂に添加する際には、加工性を考慮してさらに滑剤を添加することができる。滑剤としては、例えば、低分子ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、塩素化炭化水素、フルオロカーボンなどの炭化水素系滑剤;カルナバワックス、キャンデリラワックスなどの天然ワックス系滑剤;ラウリン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などの高級脂肪酸、又はヒドロキシステアリン酸のようなオキシ脂肪酸等の脂肪酸系滑剤;ステアリルアミド、ラウリルアミド、オレイルアミドなどの脂肪族アミド化合物又はメチレンビスステアリルアミド、エチレンビスステアリルアミドのようなアルキレンビス脂肪族アミド等の脂肪族アミド系滑剤;ステアリルステアレート、ブチルステアレート、ジステアリルフタレートなどの脂肪酸1価アルコールエステル化合物又は、グリセリントリステアレート、ソルビタントリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート、ポリグリセリンポリリシノレート、硬化ヒマシ油などの脂肪酸多価アルコールエステル化合物、又は、ジペンタエリスリトールのアジピン酸・ステアリン酸エステルのような1価脂肪酸及び多塩基性有機酸と多価アルコールの複合エステル化合物等の脂肪酸アルコールエステル系滑剤;ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、パルミチルアルコールなどの脂肪族アルコール系滑剤;金属石鹸類;部分ケン化モンタン酸エステルなどのモンタン酸系滑剤;アクリル系滑剤;シリコーンオイルなどが用いられる。これらの滑剤として1種類のみを使用してもよいし、2種以上の滑剤を併用してもよい。
【0055】
塩化ビニル系樹脂に対する滑剤の添加量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して0.01〜5.0質量部であり、加工性の点から0.05〜3.0質量部が好ましい。滑剤の含有量が塩化ビニル系樹脂100質量部に対して0.01質量部未満では塩化ビニル系樹脂の加工性が不十分な場合がある。滑剤の含有量が塩化ビニル系樹脂100質量部に対して5.0質量部を超えると、透明性を低下させる等の性能低下がある。
【0056】
本発明の安定剤組成物を塩化ビニル系樹脂に添加する際には、加工性を考慮してさらに加工助剤を添加することもできる。加工助剤は公知の加工助剤の中から適宜選択することができる。好ましい加工助剤はアクリル酸系加工助剤である。このような加工助剤として例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等のアルキルメタクリレートの単独重合体又は共重合体;上記アルキルメタクリレートと、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアルキルアクリレートとの共重合体;上記アルキルメタクリレートと、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物との共重合体;上記アルキルメタクリレートと、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物等との共重合体等を使用することができる。これらの加工助剤として1種類のみを使用してもよいし、2種以上の加工助剤を併用してもよい。
【0057】
塩化ビニル系樹脂に対する加工助剤の添加量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して好ましくは0.01〜10質量部であり、特に0.05〜5質量部が好ましい。加工助剤の含有量が塩化ビニル系樹脂100質量部に対して0.01質量部未満では塩化ビニル系樹脂の加工性が不十分な場合がある。加工助剤の含有量が塩化ビニル系樹脂100質量部に対して10質量部を超えると、透明性を低下させる等の性能低下がある。
さらに、安定剤組成物の他に、通常塩化ビニル系樹脂に用いられる他の添加剤、例えば、可塑剤、ポリエーテル、上記金属石鹸以外の有機酸金属塩、ゼオライト化合物、過塩素酸塩類、エポキシ化合物、フェノール系および硫黄系などの酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、充填材、難燃剤、難燃助剤等を本発明の効果を損なわない範囲で配合することもできる。
【0058】
上記の可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート、ブチルヘキシルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジラウリルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジオクチルテレフタレートなどのフタレート系可塑剤;ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジ(ブチルジグリコール)アジペートなどのアジペート系可塑剤;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリ(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリ(ブトキシエチル)ホスフェート、オクチルジフェニルホスフェートなどのホスフェート系可塑剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの多価アルコールと、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの二塩基酸を用い、必要により一価アルコール、モノカルボン酸をストッパーとして使用したポリエステル系可塑剤;その他、テトラヒドロフタル酸系可塑剤、アゼライン酸系可塑剤、セバチン酸系可塑剤、ステアリン酸系可塑剤、クエン酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、ビフェニレンポリカルボン酸系可塑剤などが用いられる。これら可塑剤は単独で用いられても、2種以上の混合で用いられても良い。
【0059】
上記のポリエーテルとしては、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール、キシロース、スクロース、トレハロース、イノシトール、フルクトース、マルトース、ラクトース、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールのステアリン酸部分エステル、ビス(ジペンタエリスリトール)アジペート、グリセリン、ジグリセリン、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどが用いられる。これらは単独で用いられても、2種以上の混合で用いられても良い。
【0060】
上記金属石鹸以外の有機酸金属塩としては、フェノール類および有機リン酸類の金属(ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛)塩が用いられる。
【0061】
上記フェノール類としては、例えば、第三ブチルフェノール、ノニルフェノール、ジノニルフェノール、シクロヘキシルフェノール、フェニルフェノール、オクチルフェノール、フェノール、クレゾール、キシレノール、n−ブチルフェノール、イソアミルフェノール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、イソオクチルフェノール、2−エチルヘキシルフェノール、第三ノニルフェノール、デシルフェノール、第三オクチルフェノール、イソヘキシルフェノール、オクタデシルフェノール、ジイソブチルフェノール、メチルプロピルフェノール、ジアミルフェノール、メチルイソフキシルフェノール、メチル第三オクチルフェノールなどが用いられる。
【0062】
上記有機リン酸類としては、例えば、モノまたはジオクチルリン酸、モノまたはジドデシルリン酸、モノまたはジオクタデシルリン酸、モノまたはジ−(ノニルフェニル)リン酸、ホスホン酸ノニルフェニルエステル、ホスホン酸ステアリルエステルなどが用いられる。
【0063】
上記フェノール類および有機リン酸類の金属塩は、酸性塩、中性塩、塩基性塩あるいは塩基性塩の塩基の一部または全部を炭酸で中和した過塩基性錯体であってもよい。
【0064】
上記ゼオライト化合物は、独特の三次元のゼオライト結晶構造を有するアルカリまたはアルカリ土類金属のアルミノケイ酸塩である。その代表例は、A型、X型、Y型およびP型ゼオライト、モノデナイト、アナルサイト、ソーダライト族アルミノケイ酸塩、クリノブチロライト、エリオナイトおよびチャバサイトなどである。これらのゼオライト化合物は、結晶水(いわゆるゼオライト水)を有する含水物、結晶水を除去した無水物のいずれでもよい。これらのゼオライト化合物として、粒径が0.1〜50μmのものを用いることができ、特に、0.5〜10μmのものが好ましい。
【0065】
上記過塩素酸塩類としては、過塩素酸金属塩、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸処理ハイドロタルサイト、過塩素酸処理珪酸塩などが挙げられる。上記過塩素酸金属塩を構成する金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、カドミウム、鉛、アルミニウムなどが例示できる。上記過塩素酸金属塩は無水物でも含水塩でもよく、また、ブチルジグリコール、ブチルジグリコールアジペート等のアルコール系およびエステル系の溶剤に溶かしたもの、あるいはその脱水物でも良い。
【0066】
上記エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール型およびノボラック型のエポキシ樹脂、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化桐油、エポキシ化魚油、エポキシ化牛脂油、エポキシ化ひまし油、エポキシ化サフラワー油、エポキシ化トール油脂肪酸オクチル、エポキシ化亜麻仁油脂肪酸ブチル、エポキシステアリン酸メチル,−ブチル,−2−エチルヘキシルまたは−ステアリル、トリス(エポキシプロピル)イソシアヌレート、3−(2−キセノキシ)−1,2−エポキシプロパン、エポキシ化ポリブタジエン、ビスフェノール−Aジグリシジルエーテル、ビニルシクロヘキセンジエポキサイド、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、3,4−エポキシシクロヘキシル−6−メチルエポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペートなどが用いられる。
【0067】
上記硫黄系酸化防止剤としては、例えば、チオジプロピオン酸ジラウリル、ジミリスチル、ジステアリル等のジアルキルチオジプロピオネート類及びペンタエリスリトールテトラ(β−ドデシルメルカプトプロピオネート)等のポリオールのβ−アルキルメルカプトプロピオン酸エステル類が用いられる。
【0068】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、5,5’−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)などの2−ヒドロキシベンゾフェノン類;2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−第三オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ第三ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−第三ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−第三オクチル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール、2−(2−ヒドロキシ−3−第三ブチル−5−カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾールのポリエチレングリコールエステルなどの2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4−ジ第三ブチルフェニル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどのベンゾエート類;2−エチル−2’−エトキシオキザニリド、2−エトキシ−4’−ドデシルオキザニリドなどの置換オキザニリド類;エチル−α−シアノ−β,β−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレートなどのシアノアクリレート類などが用いられる。
【0069】
上記ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルステアレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)・ジ(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−ブチル−2−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、1−(2−ヒドロキシエチル)−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラエチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/ジブロモエタン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−モルホリノ−s−トリアジン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−第三オクチルアミノ−s−トリアジン重縮合物、1,5,8,12−テトラキス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル〕−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,5,8,12−テトラキス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル〕−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,6,11−トリス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イルアミノ〕ウンデカン、1,6,11−トリス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イルアミノ〕ウンデカンなどのヒンダードアミン化合物が用いられる。
【0070】
上記充填剤としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、硫化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミナケイ酸ナトリウム、ハイドロカルマイト、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ゼオライト等のケイ酸金属塩、活性白土、タルク、クレイ、ベンガラ、アスベスト、三酸化アンチモン、シリカ、ガラスビーズ、マイカ、セリサイト、ガラスフレーク、アスベスト、ウオラストナイト、チタン酸カリウム、PMF、石膏繊維、ゾノライト、MOS,ホスフェートファイバー、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などが用いられる。
【0071】
上記難燃剤や難燃助剤としては、トリアジン環含有化合物、金属水酸化物、その他無機リン、ハロゲン系難燃剤、シリコン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、縮合リン酸エステル系難燃剤、イントメッセント系難燃剤、三酸化アンチモン等の酸化アンチモン、その他の無機系難燃助剤、有機系難燃助剤等が用いられる。
【0072】
前記トリアジン環含有化合物としては、例えば、メラミン、アンメリン、ベンズグアナミン、アセトグアナミン、フタロジグアナミン、メラミンシアヌレート、ピロリン酸メラミン、ブチレンジグアナミン、ノルボルネンジグアナミン、メチレンジグアナミン、エチレンジメラミン、トリメチレンジメラミン、テトラメチレンジメラミン、ヘキサメチレンジメラミン、1,3−ヘキシレンジメランミン等が用いられる。
【0073】
前記金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化亜鉛等が用いられる。
【0074】
前記リン酸エステル系難燃剤の例としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、トリスイソプロピルフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、t-ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ビス-(t-ブチルフェニル)フェニルホスフェート、トリス-(t-ブチルフェニル)ホスフェート、イソプロピルフェニルジフェニルホスフェート、ビス-(イソプロピルフェニル)ジフェニルホスフェート、トリス-(イソプロピルフェニル)ホスフェートなどが用いられる。
【0075】
上記縮合リン酸エステル系難燃剤としては、1,3−フェニレン ビス(ジフェニルホスフェート)、1,3−フェニレン ビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールA ビス(ジフェニルホスフェート)等が挙げられ、イントメッセント系難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸ピペラジン、ピロリン酸アンモニウム、ピロリン酸メラミン、ピロリン酸ピペラジン等の、(ポリ)リン酸のアンモニウム塩やアミン塩が用いられる。
【0076】
上記その他の無機系難燃助剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、タルクなどの無機化合物、及びその表面処理品などの種々の市販品を用いることができる。
【0077】
さらに本発明の安定剤組成物の他に、通常塩化ビニル系樹脂に使用される安定化助剤を本発明の安定剤組成物の効果を損なわない範囲内で添加することができる。このような安定化助剤としては、例えば、ジフェニルチオ尿素、アニリノジチオトリアジン、メラミン、安息香酸、ケイヒ酸、p−第三ブチル安息香酸などが用いられる。
【0078】
さらに必要に応じて通常塩化ビニル系樹脂に使用される添加剤、例えば、架橋剤、帯電防止剤、防曇剤、プレートアウト防止剤、表面処理剤、蛍光剤、防黴剤、殺菌剤、発泡剤、金属不活性剤、離型剤、顔料、酸化防止剤、光安定剤等を、本発明の安定剤組成物の効果を損なわない範囲で配合することができる。
【0079】
〔塩化ビニル系樹脂組成物〕
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂と上述の本発明の安定剤組成物とを含む。本発明の塩化ビニル系樹脂組成物の上記安定剤組成物の含有量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して0.3〜10質量部、好ましくは0.5〜8質量部、より好ましくは0.8〜5質量部である。
【0080】
〔成形品〕
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、押出成型加工、溶融流延法、加圧成型加工、カレンダー成形等の公知の成形方法のいずれによっても成形することができる。本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、特にシート状成形品に用いることができ、得られたシート類は建材、建築内装品、日用品、文具、雑貨などとして広く用いられる。
【実施例】
【0081】
以下本発明を実施例により、具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例により何ら制限されるものではない。尚、以下の実施例等において「%」は特に記載が無い限り質量基準である。各表の配合処方は使用した材料・化合物の使用量(質量)で表示されている。
【0082】
〔安定剤組成物の製造:実施例1〜5及び比較例1、2〕
表1に示す処方で各種化合物を有機溶剤に溶解して液状組成物を製造した。こうして本発明の安定剤組成物(実施例1〜5)と比較用の安定剤組成物(比較例1、2)を製造した。
【0083】
〔塩化ビニル系樹脂組成物の製造と評価:実施例6〜10及び比較例3、4〕
表2に示す処方で塩化ビニル系樹脂と安定剤組成物、その他の添加剤をヘンシェルミキサーでブレンドした。こうして本発明の塩化ビニル系樹脂組成物(実施例6〜10)と比較用の塩化ビニル系樹脂組成物(比較例3、4)が得られた。ブレンド物をカレンダー成形し、シートを作成した。(ロール混練条件:180℃×30rpm×0.6mm) 得られたシートを下記試験方法により評価した。評価結果を表3に示す。
【0084】
・分解試験
180℃でロール混練を開始してからシートの熱分解によりシートがロールから剥がれなくなるまでの時間(分解時間)を測定した。分解時間が長い方がシートの熱安定性が良好である。分解時間が20分以下のシートは実使用に耐えられない。
【0085】
・動的熱安定性試験
180℃でロール混練を開始し、3分毎にシートサンプルを採取した。採取したシートに初めて黒化が認められた採取時間を黒化時間(分)とした。黒化時間が長い方がシートの動的環境における熱安定性が良好である。黒化時間が15分以下のシートは実使用に耐えられない。
【0086】
・静的熱安定性試験
180℃でロール混練を開始してから3分後にシートサンプルを採取した。このシートサンプルを内部温度190℃のギヤーオーブンと、内部温度200℃ギヤーオーブンのぞれぞれで加熱した。加熱開始からそれぞれのギヤーオーブン内のシートサンプルが黒化するまでの時間(黒化時間)を測定した。黒化時間が長い方がシートの静的環境における熱安定性が良好である。190℃加熱における黒化時間が40分以下のシートは実使用に耐えられない。200℃加熱における黒化時間が20分以下のシートは実使用に耐えられない。
【0087】
・耐着色性試験
80℃でロール混練を開始してから3分後にシートサンプルを採取した。シートサンプルをJIS K7373に従って分析し、Y.I値(Yellowness Index)を算出した。Y.I値が小さいほどシートの耐着色性が良好である。Y.I値が10を超えるシートは実使用に耐えられない。
【0088】
【表1】
【0089】
表1の注釈
*1: オクチルジフェニルホスファイト
*2: トリデシルホスファイト
*3: 3,9-ジオクタデカン-1-イル-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン
【0090】
【表2】
【0091】
表2の注釈
*4:TK-700(信越化学工業社製)
*5:PA-20(カネカ製)
*6:G-72(エメリーオレオケミカルズジャパン社製)
*7:テトラキス[メチレン-3-(3',5'-ジ第三ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン
*8:亜鉛変性ハイドロタルサイト
【0092】
【表3】
【0093】
表3の結果が示すように、本発明の安定剤組成物を含有する実施例6〜10の塩化ビニル系樹脂組成物は熱安定性と耐着色性の何れもが優れる。これに対して本発明の安定剤組成物を含有しない比較例3、4の塩化ビニル系樹脂組成物は熱安定性と耐着色性の何れもが劣る。なお、比較例3では直鎖脂肪酸塩であるラウリン酸カルシウムとステアリン酸亜鉛を配合しており、熱安定性、耐着色性のいずれもが劣ることは、直鎖脂肪酸塩が混酸金属塩を形成し難いという推測を裏付ける。
【0094】
〔塩化ビニル系樹脂組成物の製造と評価:比較例5〕
まず、表4に示す処方で安定剤組成物5−1、5−2、5−3、5−4を製造した。次に表5に示す処方で塩化ビニル系樹脂、安定剤組成物、その他の添加剤を混練し、ペレット5−1、5−2、5−3、5−4を製造した。表4、表5の*1〜*10は上述の注釈に従う。ペレット5−1、5−2、5−3、5−4を同量割合でブレンドした。こうして比較用の塩化ビニル系樹脂組成物(比較例5)が得られた。この塩化ビニル系樹脂組成物を実施例6〜10及び比較例3、4と同じ方法で成形した。得られたシートの評価結果を表6に示す。
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
【表6】
【0098】
比較例5の塩化ビニル系樹脂組成物は、本発明の(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分に相当する化合物の全てを含有する。しかし、比較例5の塩化ビニル系樹脂組成物では(B)成分の一部が(A)、(C)、(D)成分と共に液状化された状態を経ることなく塩化ビニル系樹脂組成物に配合されている。驚くべきことに、比較例5の塩化ビニル系樹脂組成物は実施例6〜10に比べて熱安定性が大きく劣っている。比較例5で用いた安定剤組成物5−1、5−2、5−3、5−4には優れた安定剤効果を発揮するために十分な脂肪酸の混酸が形成されていないと推測される。
【0099】
実施例、比較例の結果から、本発明の安定剤組成物は、所定量の(A)成分,(B)成分,(C)成分、(D)成分を混合し、液状組成物の形態をとることによって、従来の安定剤では達成できなかった優れた塩化ビニル系樹脂の安定化作用を発揮することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の安定剤組成物は、その原料は従来安定剤として使用されてきた化合物であるにもかかわらず、従来の安定剤の配合方法では決して達成できなかった極めて高い塩化ビニル系樹脂安定機能を有している。このような本発明の安定剤組成物は塩化ビニル系樹脂のための画期的な添加剤である。本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、加工や使用の際の熱履歴に対して極めて高い耐性を示す。したがって本発明の塩化ビニル系樹脂組成物からは塩化ビニル系樹脂の強度や柔軟性などの長所が維持され、色調の良い成形品が得られる。本発明によって塩化ビニル系樹脂を用いた様々な製品、特にシート材料の品質向上が期待される。