特許第6871839号(P6871839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6871839レジストの品質管理方法及びレジストの品質予測モデルを得る方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871839
(24)【登録日】2021年4月20日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】レジストの品質管理方法及びレジストの品質予測モデルを得る方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/44 20060101AFI20210426BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20210426BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20210426BHJP
   G03F 7/26 20060101ALI20210426BHJP
   G03F 7/039 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   G01N33/44
   G01N24/00 530
   G03F7/20 501
   G03F7/20 521
   G03F7/26 501
   G03F7/039 601
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-210782(P2017-210782)
(22)【出願日】2017年10月31日
(65)【公開番号】特開2019-82438(P2019-82438A)
(43)【公開日】2019年5月30日
【審査請求日】2019年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】新井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】提箸 正義
(72)【発明者】
【氏名】片山 和弘
【審査官】 川口 真隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−164251(JP,A)
【文献】 特表2010−538273(JP,A)
【文献】 特開2014−066650(JP,A)
【文献】 特開平09−022115(JP,A)
【文献】 特開2004−043777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/44
G01N 24/00
G03F 7/039
G03F 7/20
G03F 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジストの品質管理方法であって、
(1)レジストを溶剤に溶解させて分析サンプルを得る工程、
(2)前記分析サンプルを1H−NMR分析に供して分析結果を得る工程、
(3)前記分析結果を数値データに変換してPCA主成分分析する工程、及び
(4)得られた解析結果から品質を管理する工程、
を含み、かつ、
前記分析結果の中に含まれる酸発生剤に由来するピークを指標とすることを特徴とするレジストの品質管理方法。
【請求項2】
レジストの品質予測モデルを得る方法であって、
(1)組成既知の複数のレジストを溶剤に溶解させて個別の分析サンプルを得る工程、
(2)前記個別の分析サンプルを1H−NMR分析に供して個別の分析結果を得る工程、
(3)前記個別の分析結果を数値データに変換してPCA主成分分析し、得られた解析結果と前記組成との関係を求める工程、
を含み、かつ、
前記分析結果の中に含まれる酸発生剤に由来するピークを指標とすることを特徴とするレジストの品質予測モデルを得る方法。
【請求項3】
レジストの品質管理方法であって、
(1)レジストを溶剤に溶解させて分析サンプルを得る工程、
(2)前記分析サンプルを1H−NMR分析に供して分析結果を得る工程、
(3)前記分析結果を数値データに変換してPCA主成分分析する工程、及び
(4)得られた解析結果を請求項で得られた品質予測モデルと照合する工程、
を含み、かつ、
前記分析結果の中に含まれる酸発生剤に由来するピークを指標とすることを特徴とするレジストの品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレジストの品質管理方法及びレジストの品質予測モデルを得る方法に関する。より詳細にはレジストの構成物質又は不純物の機器分析による品質管理方法、及びレジストの品質予測モデルを得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの高集積化と高速度化に伴い、パターンルールの微細化が求められている中、それらの製造に用いられるレジストにおいても高い品質の安定性が求められている。
【0003】
レジスト(フォトレジスト)とは半導体デバイス、液晶デバイス等の各種電子デバイスにおける微細な回路パターン作製工程の一つであるフォトリソグラフィ工程で用いられる材料であり、感光性の化合物を含有する。基板上に塗布されたレジスト膜に、フォトマスクに描かれた回路パターンの露光を行い、レジスト膜に感光部分と未露光部分が生じる。感光部分では感光性化合物により化学反応が起こり、続く現像工程で用いる現像液に対する溶解性が変化する。レジスト膜の現像液可溶部を除去することで、マスクの回路パターンが基板上に転写される。さらに工程を重ねることで、パターンが描かれた基板を得ることができる。
【0004】
最先端の微細化技術として、ArFリソグラフィーのパターンの両側の側壁に膜を形成して、1つのパターンから線幅が半分で2つのパターンを形成するダブルパターニング(SADP)による20nmノード台のデバイスの量産が行われている。次世代の10nmノードの微細加工技術としては、SADPを2回繰り返すSAQPが候補であるが、CVDによる側壁膜の形成とドライエッチングによる加工とを数多く繰り返すこのプロセスは非常に高価であると指摘されている。波長13.5nmの極端紫外線(EUV)リソグラフィーは、1回の露光で10nm台の寸法のパターン形成が可能であり、実用化に向けた開発が加速しつつある。
【0005】
線幅数十nm以下のパターン形成方法が常用技術化する中で、レジスト材料には極めて精密な組成管理や不純物管理が要求されている。例えば、本来混入することのない微量の不純物や、金属不純物の含量が高い場合、パターン形成過程で欠陥を引き起こすとして、これらの管理強化が重要視されている。
【0006】
微量不純物の混入要因に関しては、製造設備の清浄度の管理不足や、レジストを構成するベースポリマー、光酸発生材(PAG)、溶剤などの構成原材料に由来するケースが考えられる。そのため、レジスト材料を製造する際には、通常の化成品製造の管理レベルを超えた極めて厳格な設備環境、製造工程条件の管理、各原材料に関してはロット毎に純度をはじめとした品質のバラツキが限りなく小さくなるように管理が行われている。
【0007】
従来のレジスト品質管理方法は、フォトリソグラフィー工程を用いる。第一の方法は、レジスト溶液を調整後、基板に塗布し、フォトマスクに描かれた回路パターンをレジスト膜に転写後、走査型電子顕微鏡などを用いて所要の線幅が得られているか検査を行うことで、線幅管理を行う。また、第二の方法は、レジスト溶液を調製後、基板に塗布し、ウエハー表面検査装置などを用いて異物検査を行い、例えば微量不純物による異物管理を行う。第三の方法は、レジスト溶液を調製後、基板に塗布し、フォトマスクに描かれた回路パターンをレジスト膜に転写後、明視野検査装置などを用いて、例えば微量不純物による微小パターン欠陥を検査し、基板上の欠陥密度の管理を行う。
【0008】
しかし、上述のような方法では、レジストを基板に塗布する工程を含んでおり、製造されたレジスト組成物を直接分析する手法ではないため、レジスト自体の品質を必ずしも反映していない上に、手法も簡便であるとはいえない。
【0009】
一方、近年、多変量解析あるいはケモメトリクスと言われる、数学的あるいは統計学的手法を適用し、各種測定で得られたスペクトルやクロマトグラム等の化学データから得られる化学情報量を最大化することを目的とする方法を用いた解析が活用されており、レジストポリマーにおいても多変量解析を用いて特性評価を行う手法が提案されている(特許文献1)。
【0010】
しかし特許文献1に記載された手法では対象はレジストポリマーに限られ、この手法のみでは製造されたレジスト組成物の品質を管理することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第5811848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、レジストの品質管理及び不良発生時の早期原因究明のために簡便な機械化された解析手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するために、本発明では、レジストの品質管理方法であって、
(1)レジストを前処理して分析サンプルを得る工程、
(2)前記分析サンプルを機器分析に供して分析結果を得る工程、
(3)前記分析結果を数値データに変換して多変量解析する工程、及び
(4)得られた解析結果から品質を管理する工程、
を含むことを特徴とするレジストの品質管理方法を提供する。
【0014】
このようなレジストの品質管理方法とすれば、レジストを直接的に分析して評価することで品質管理するので、レジストの品質管理及び不良発生時の早期原因究明のために簡便な機械化された解析手法とすることができる。
【0015】
また、前記多変量解析をPCA主成分分析とすることが好ましい。
【0016】
このような多変量解析とすることで、分析結果(チャート)を一見しただけでは見逃されるような僅かな不良ロットの差異を特異的に見出すことが出来るため、より優れた解析手法とすることができる。
【0017】
また、前記機器分析を核磁気共鳴分析とすることが好ましい。
【0018】
このような機器分析による測定で得られた分析結果は、豊富な構造情報を提示し、試料の調製が簡易であり、そして分析時間が短縮されるとともに、その非選択的特性を有するため、より優れた解析手法とすることができる。
【0019】
また、前記前処理を、前記レジストを溶剤に溶解させるものとすることができる。
【0020】
このような前処理とすれば、簡便である上に、例えば核磁気共鳴分析等において好適に用いることができる。
【0021】
前記分析結果の中に含まれる、レジストポリマー、酸発生剤、及び塩基性化合物のうちのいずれかに由来するピークを指標とするレジストの品質管理方法とすることが好ましい。
【0022】
このようなレジストの品質管理方法とすれば、より精度の高い解析手法とすることができる。
【0023】
また、本発明では、レジストの品質予測モデルを得る方法であって、
(1)品質既知の複数のレジストを前処理して個別の分析サンプルを得る工程、
(2)前記個別の分析サンプルを機器分析に供して個別の分析結果を得る工程、
(3)前記個別の分析結果と該品質との関係を数値データに変換して多変量解析する工程、
を含むレジストの品質予測モデルを得る方法を提供する。
【0024】
このようなレジストの品質予測モデルを得る方法とすれば、レジストの品質管理に有益な品質予測モデルを提供することができる。
【0025】
この場合、レジストの品質管理方法であって、
(1)レジストを前処理して分析サンプルを得る工程、
(2)前記分析サンプルを機器分析に供して分析結果を得る工程、
(3)前記分析結果を数値データに変換して多変量解析する工程、及び
(4)得られた解析結果を上記で得られた品質予測モデルと照合する工程、
を含むレジストの品質管理方法とすることが好ましい。
【0026】
このようなレジストの品質管理方法とすれば、さらに簡便で精度の高い品質管理方法とすることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明のレジストの品質管理方法であれば、レジストの品質管理及び不良発生時の早期原因究明のために簡便で正確な機械化された解析手法を提供することができる。また、本発明により、従来は困難であったレジストそのものの品質管理を簡便に行うことができ、実際にレジストを基板に塗布して露光評価試験を行わなくとも不良レジストを発見することができるので、品質管理の高精度化、効率化、迅速化、簡易化に寄与することが可能になる。また、本発明の品質予測モデルを得る方法であれば、レジストの品質管理に有益な品質予測モデルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】組成物1を基準レジストとして、組成物2〜4のPAG−2とPAG−1の比を横軸に、組成物1〜4の1H−NMR測定チャートのPCA解析により得られたPC1の値を縦軸とした、PC1とPAG比の相関図である。
図2】組成物1の1H−NMRチャート(縦軸ピーク強度、任意単位)(A)及び、組成物1〜4の1H−NMR測定チャートのPCA解析によるローディングチャート(縦軸ピーク強度、任意単位)(B)である。
図3】組成物1〜4の1H−NMR測定チャートのPCA解析により得られたPC1の値を横軸に、組成物1〜4の各種評価結果を縦軸にした、PC1と各種評価結果との相関図である。
図4】組成物1を基準レジストとして、組成物5〜8のPAG−1の添加量を横軸に、組成物5〜8の1H−NMR測定チャートのPCA解析により得られたPC1の値を縦軸とした、PC1とPAG添加量の相関図である。
図5】組成物1及び5〜8の1H−NMR測定チャートのPCA解析によるローディングチャート(縦軸ピーク強度、任意単位)である。
図6】組成物1及び5〜8の1H−NMR測定チャートのPCA解析により得られたPC1の値を横軸に、組成物1及び5〜8の各種評価結果を縦軸にした、PC1と各種評価結果との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
上述のように、レジストの品質管理及び不良発生時の早期原因究明のために正確で簡便な機械化された解析手法の開発が求められていた。
【0030】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、レジスト組成物のPCA解析結果と実際の評価試験の結果には良好な相関が見られることから、レジストの露光評価試験を行わずとも、多変量解析により評価結果を推定することで、不良ロットの発見が可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0031】
即ち、本発明は、レジストの品質管理方法であって、
(1)レジストを前処理して分析サンプルを得る工程、
(2)前記分析サンプルを機器分析に供して分析結果を得る工程、
(3)前記分析結果を数値データに変換して多変量解析する工程、及び
(4)得られた解析結果から品質を管理する工程、
を含むレジストの品質管理方法である。
【0032】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
[工程(1)]
工程(1)は、レジストを前処理して分析サンプルを得る工程である。
【0034】
本発明においては、レジストを、用いる機器分析の種類に応じて適切に前処理(測定試料の調製)した後、種々の機器分析に供すことができる。前処理は、例えば、レジストを溶剤に溶解させるものとすることができる。機器分析としてNMRを用いる場合、レジスト組成物を溶解する溶剤は重ジメチルスルホキシド(DMSO−d6)、重クロロホルム、重アセトン等が挙げられ、DMSO−d6とすることが好ましい。
【0035】
[工程(2)]
工程(2)は、分析サンプルを機器分析に供して分析結果を得る工程である。
【0036】
上述の前処理が施されたレジストサンプルは、任意の機器分析に供され、分析結果が得られる。得られた分析結果は、レジストサンプルのフィンガープリントであり得る。このフィンガープリントを数値データに変換して多変量解析が行われる。機器分析により得られる結果としては、保持時間、ならびにシグナル強度(又はイオン強度)等のスペクトルデータが挙げられる。
【0037】
本発明において、機器分析とは、分析機器を用いる分析・測定手段をいい、核磁気共鳴
分析(NMR)、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、質量分析(MS)、赤外分光分析(IR)、近赤外分光分析(NIR)等が挙げられる。これらの機器分析は組み合わせてもよく、例えば、GC/MS、LC/MS等の組み合わせが挙げられる。これらの機器分析に用いられる装置は、特に限定されず、レジストの構成成分(ポリマー、酸発生剤(PAG)、塩基性化合物、その他添加剤)を測定することが可能であれば、通常用いられている装置でよい。また、測定条件は、これらの物質の測定に適切なように適宜設定することができる。本発明においては、豊富な構造情報を提示し、試料の調製が簡易であり、そして分析時間が短縮されることとともに、その非選択的特性を有する点で、NMRが好適に採用され、中でも測定感度や測定時間の観点から1H−NMRとすることが好ましい。
【0038】
[工程(3)]
工程(3)は、分析結果を数値データに変換して多変量解析する工程である。
【0039】
多変量解析としては、機器分析データの解析に、種々の解析ツールが採用される。例えば、PCA(主成分分析:principal component analysis)、HCA(階層クラスター分析:hierarchical cluster analysis)、PLS回帰分析(潜在的構造に対する射影:Projection to Latent Structure)、判別分析(discriminate analysis)等の種々の解析ツールが挙げられる。これらの解析ツールは、ソフトウエアとして多数市販されており、任意のものが入手可能である。このような市販のツールは、一般的に、難しい数学・統計学の知識がなくても、多変量解析を行うことができるように操作マニュアルが備えられている。
【0040】
多変量解析は、得られた全データではなく、一定の範囲のデータを選択して行ってもよい。例えば、1H−NMRで分析する場合、レジストの溶剤ピークを除去したデータを用いて解析を行ってもよい。
【0041】
また、多変量解析は、PCA主成分分析とすることが好ましい。PCA主成分分析では、混合物のNMRスペクトルのような多数の変数を有する量的なデータを、少数個の無相関な合成変数(主成分スコアPC1、PC2・・・)に縮約して解析を行う。多数のサンプルを複数のグループに分けたり、サンプル間の差異に影響を与える物質を調べたり、或いは、データの全体的な分布の傾向を把握したりする際には、通常、主成分分析が利用される。これによって分析結果(チャート)を一見しただけでは見逃されるような僅かな不良ロットの差異を特異的に見出すことができる。
【0042】
また多変量解析によって得られる別の重要な指標として、その成分によってデータ中の変動をどの程度の割合説明できるのかを示す寄与率がある。例えば、第1主成分PC1の寄与率が80%、第2主成分PC2の寄与率が10%、第3主成分PC3の寄与率が5%、…であるとすると、データ全体の変動の殆どは第1主成分PC1のみで以て説明可能であるといえる。したがって、この寄与率はいくつまで主成分を確認すればよいのかを判断するうえで有用である。
【0043】
NMR測定結果についてPCA解析を行う手順としては、まず測定により得られたチャートについて分割積分を行い、ピークマトリクスを作成する。このピークマトリクスに対し主成分分析を行うことで、サンプル毎の各主成分のスコアや主成分毎のローディングを算出できる。
【0044】
[工程(4)]
工程(4)は、得られた解析結果から品質を管理する工程である。
【0045】
例えば、同種のレジストを複数ロットに渡って機器分析による測定及び多変量解析を行った場合、その中に、構成成分の比が異なる不良ロットが混入していた場合には、不良ロットの解析値(解析結果)は正常ロットから構成されるグループとは異なる値を示し、選別することが可能である。
【0046】
また、本発明では、工程(4)を、得られた解析結果を品質予測モデルと照合する工程とすることができる。
【0047】
この場合、品質予測モデルは、
(1)品質既知の複数のレジストを前処理して個別の分析サンプルを得る工程、
(2)前記個別の分析サンプルを機器分析に供して個別の分析結果を得る工程、
(3)前記個別の分析結果と該品質との関係を数値データに変換して多変量解析する工程、
を含むレジストの品質予測モデルを得る方法によって得られる。
【0048】
このように、品質予測モデルは、上述の品質予測モデルを得る方法によって簡単に得ることができる。そして、得られた品質予測モデルと多変量解析の解析結果とを照合することにより、簡便かつ高精度なレジストの品質管理方法とすることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
レジスト材料の調製
[組成物1〜8の調製]
表1に示す組成でレジストの原料を調合し、0.2μmのテフロン(登録商標)フィルターで濾過することによりレジスト材料R−01〜R−08をそれぞれ調製した。なお、表1中、樹脂、光酸発生剤、撥水性ポリマー、感度調整剤、及び溶剤は、以下の通りである。
【0051】
樹脂:ポリマー1
【化1】
Mw=8,000
Mw/Mn=1.60
【0052】
光酸発生剤:PAG−1
【化2】
【0053】
PAG−2
【化3】
【0054】
感度調整剤:AQ−1
【化4】
【0055】
撥水性ポリマー:SF−1
【化5】
Mw=8,700
Mw/Mn=1.85
【0056】
溶剤
PGMEA:プロピレングリコールモノメエチルエーテルアセテート
GBL:γ−ブチロラクトン
【0057】
【表1】
【0058】
[露光評価試験]
表1で示す組成で調製したレジスト組成物を、シリコンウエハーに有機反射防止膜としてARC29A(日産化学工業(株)製)を78nmの膜厚で成膜して作製した基板の上にスピンコーティングし、ホットプレートを用いて100℃で60秒間ベークし、厚み100nmのレジスト膜を得た。これをArFエキシマレーザースキャナー((株)ニコン製NSR−S307E、NA=0.85、σ0.93/0.74、Annular照明、6%ハーフトーン位相シフトマスク)で、ウエハー上寸法が、スペース幅90nm及びピッチ180nm、スペース幅80nm及びピッチ160nm、並びにスペース幅70nm及びピッチ140nmのラインアンドスペースパターン(LSパターン)と、スペース幅90nm及びピッチ1,650nmの孤立パターンとの露光を、露光量とフォーカスを変化(露光量ピッチ:1mJ/cm、フォーカスピッチ:0.025μm)させながら行い、露光後、表2に示した温度で60秒間PEBし、2.38質量%のTMAH水溶液で30秒間パドル現像を行い、純水でリンス、スピンドライを行い、ポジ型パターンを得た。現像後のLSパターン及び孤立パターンをTD−SEM((株)日立ハイテクノロジーズ製S−9380)で観察した。
【0059】
<感度評価>
感度評価として、スペース幅90nm及びピッチ180nmのLSパターンが得られる最適な露光量Eop(mJ/cm)を求めた。結果を表2に示す。この値が小さいほど感度が高い。
【0060】
<露光裕度(EL)評価>
露光裕度評価として、LSパターンにおけるスペース幅が90nmの±10%(81〜99nm)の範囲内で形成されるときの露光量から、次式により露光裕度(単位:%)を求めた。結果を表2に示す。
露光裕度(%)=(|E−E|/Eop)×100
:スペース幅81nm、ピッチ180nmのLSパターンを与える最適露光量
:スペース幅99nm、ピッチ180nmのLSパターンを与える最適露光量
op:スペース幅90nm、ピッチ180nmのLSパターンを与える最適露光量
【0061】
<ラインウィドゥスラフネス(LWR)評価>
感度評価における最適露光量で照射して得たLSパターンを、スペース幅の長手方向に10箇所の寸法を測定し、その結果から標準偏差(σ)を求め、標準偏差(σ)の3倍値(3σ)をLWRとした。結果を表2に示す。この値が小さいほど、ラフネスが小さく均一なスペース幅のパターンが得られる。
【0062】
<焦点深度(DOF)評価>
焦点深度評価として、孤立パターンにおけるスペース幅が90nmの±10%(81〜99nm)の範囲で形成されるときのフォーカスから、フォーカス範囲を求めた。結果を表2に示す。この値が大きいほど、焦点深度が広い。
【0063】
<解像力評価>
スペース幅70〜90nm(ピッチ140〜180nm)のLSパターンが解像するパターン寸法を解像力とした。結果を表2に示す。この値が小さいほど解像力に優れる。
【0064】
【表2】
【0065】
[実施例1]
[1H−NMR分析用のサンプルの調製、分析、及び解析]
調製したレジスト組成物0.2mlを重ジメチルスルホキシド(DMSO−d6)0.36mlに溶解させ、測定用サンプル(分析サンプル)とした。得られた測定用サンプルの1H−NMRを測定した。本実施例では日本電子製ECA−600スペクトロメーターを使用して、5mmφ多核プローブを用いてスペクトルを得た。DMSO−d6を内部ロックシグナル及びケミカルシフト内部標準として用いた。測定条件としてシングルパルス法を用い、パルス角は45°、積算回数は16回、データ点数は32Kでデータ取り込みを行った。
【0066】
1H−NMR測定により得られたスペクトルをALICE2 for Metabolome(JEOL RESONANCE)により位相及びベースライン補正、PCA解析を行った。解析範囲は−1〜10ppmの範囲にわたって0.04ppm幅でスペクトルを積分し、溶媒及び重溶剤のピークを除いた後に規格化した。NMRピークの帰属は、レジスト組成物フォーミュレーション前の各材料を個別に1H−NMR測定して、スペクトルを比較して行った。
【0067】
[組成物1〜4の1H−NMR測定結果のPCA解析結果]
図1に組成物1〜4の1H−NMR測定結果をPCA解析して得られたPC1の値と各組成物でのPAG−2とPAG−1の比率の相関図を示す。このときのPC1の寄与率は83.9%であった。組成物1のPAG−2が含まれないレジストと比較して、PAG−2の比率が増大するにつれ、PC1の値が減少していることから、PAG−2/PAG−1とPC1の値には良好な相関が見られている。
【0068】
図2のBに組成物1〜4のレジスト組成物の1H−NMR測定結果をPCA解析して得られたローディングチャートを示す。図2のBからは1.7ppm、6.0ppm、及び6.6ppmに差異が生じていることを示す結果が得られた。このケミカルシフトはレジスト組成物各構成成分の標準サンプルとの比較の結果、PAG−1及びPAG−2に帰属されることが確認できた。これらの結果から、組成物1〜4のPC1の値の変動要因はレジスト組成物中のPAG−1及びPAG−2の比率の違いに由来することが、PCA解析により示された。
【0069】
図3に組成物1〜4の1H−NMR測定結果をPCA解析して得られたPC1の値と組成物1〜4の各評価結果との相関図を示す。感度、露光裕度、ラインウィドゥスラフネス、焦点深度の評価結果とPC1の値との間に相関が見られている。このように、通常は露光評価試験を行わないと分からないレジストの感度が露光評価試験を行わずとも、多変量解析により推定可能になり、不良ロットを発見することができ、さらに不良原因の特定を可能にする。露光評価試験の結果のみでは感度変動が生じていた場合、これまでは、その原因までは明らかにすることは出来なかったが、多変量解析を用いることで、感度変動の推定及び変動要因の特定が可能になる。
【0070】
[比較例1]
図2のAに組成物1の1H−NMRチャートを示す。図2のAからはレジスト組成物を構成する溶剤のピークしか確認できず、このチャートから各レジスト組成物における構成成分の差異を見出すことは非常に困難である。
【0071】
[実施例2]
[組成物1及び5〜8の1H−NMR測定結果のPCA解析結果]
図4に組成物1及び5〜8の1H−NMR測定結果をPCA解析して得られたPC1の値と各組成物のPAG−1の添加量の相関図を示す。このときのPC1の寄与率は81.5%であった。組成物1と比較して、PAG−1の添加量の増減と連動してPC1の値も増減しており、PAG−1の添加量とPC1の値には良好な相関が見られている。
【0072】
図5に組成物1及び5〜8の1H−NMR測定結果をPCA解析して得られたローディングチャートを示す。チャートからは1.7ppm及び6.0ppmに差異が生じていることを示す結果が得られた。このケミカルシフトは図2のBの結果と同様に、標準サンプルとの比較の結果、PAG−1に帰属されることが確認できた。これらの結果から、組成物1及び5〜8のPC1の値の変動要因はレジスト組成物中のPAG−1の添加量の違いに由来することが、PCA解析により示された。
【0073】
図6に組成物1及び5〜8の1H−NMR測定結果をPCA解析して得られたPC1の値と組成物1及び5〜8の各評価結果との相関図を示す。図3と同様に感度、露光裕度、ラインウィドゥスラフネス、焦点深度の評価結果とPC1の値との間に相関が見られている。
【0074】
以上の評価結果から、レジスト組成物のPCA解析結果と実際の評価試験の結果には良好な相関が見られている。これにより、通常は露光評価試験を行わないと分からないレジストの感度が露光評価試験を行わずとも、多変量解析により推定可能になり、不良ロットを発見することができ、さらに不良原因の特定を可能にする。以上のように、本発明では、レジストの品質管理及び不良発生時の早期原因究明のために簡便な機械化された解析手法を提供することができることが明らかになった。
【0075】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
レジストの品質管理にNMRによる多変量解析を用いることで、実際にレジストを基板に塗布して露光評価試験を行わなくとも、不良レジストを早期に発見することが可能になり、品質管理の効率化、迅速化、簡易化に寄与することが可能になる。
図1
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図3
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図5
図6