(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーからなるフィルム(以下、これを「熱可塑性液晶ポリマーフィルム」と称する)の少なくとも一方の表面に金属シートが接合された金属張積層板を、ロール・ツー・ロールにより製造する方法であって、
前記金属シートは、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと接する面の十点平均粗さ(Rz)が5.0μm以下であり、
前記方法は、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと前記金属シートを接合した積層板を得る積層板準備工程と、
前記積層板に対して、以下の条件(1)および(2):
(1)乾燥工程の温度が、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点未満の温度である、
(2)乾燥工程の時間が、10秒以上、
を満たす乾燥ゾーンを通過させる乾燥工程であって、乾燥温度(℃)と乾燥時間(秒)との積が、1400〜30000である、乾燥工程と、
この乾燥工程の後、連続して前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点以上の温度条件において加熱ゾーンを通過させる熱処理工程と、
を少なくとも備えることを特徴とする金属張積層板の製造方法。
熱可塑性液晶ポリマーフィルムを融点Tm(℃)としたとき、乾燥工程の温度が、140℃〜Tm−5℃であり、かつ、熱処理工程の温度が、Tm+1℃〜Tm+30℃である、請求項1から3のいずれか一項に記載の金属張積層板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、スマートフォンなどの高性能な小型電子機器の普及により、部品の高密度化が進展するとともに、電子機器の高性能化が進んでいるため、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属シートとの密着強度に優れるとともに、伝送信号の高周波化に対応可能な(即ち、高周波特性を有する)金属張積層板が要望されている。
【0007】
伝送線路となる金属シートの高周波特性、すなわち伝送損失は表皮効果(表面抵抗)に依存するため、表面形状、特に金属シートの表面粗さ(十点平均粗さ)Rzに依存し、Rzが大きい高粗度の金属シートは伝送損失が大きくなり、つまりは高周波特性が悪くなる一方、Rzが小さい低粗度の金属シートは伝送損失が小さくなり、つまりは高周波特性が良くなるため、表面粗さRzが小さい低粗度の金属シートが望ましい。
【0008】
しかしながら、表皮効果の抵抗を低減し、伝送損失を小さくするために低粗度の金属シートを用いると、金属シートと熱可塑性液晶ポリマーフィルムとの密着強度が不十分となるので、伝送損失と密着強度の両者の特性を満足させるために種々の試みがなされてきているが、いまだ十分な解決を見ていない。
【0009】
特許文献1には、液晶ポリマーフィルムと金属箔との積層時の温度条件を特定の条件とすることにより、寸法安定性を改善することについては記載されているが、接着強度を高めるための温度条件については記載がなく、特に、低粗度の金属箔との接着強度を高める技術については開示されていない。
【0010】
本発明は、高周波特性を有するとともに、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属シートとの密着強度に優れ、かつブリスターの発生が抑制された金属張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、低粗度の金属シートを用いた場合であっても、金属シートと熱可塑性液晶ポリマーフィルムとを熱圧着して積層体を形成した後に、該積層体を該熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点以上の温度において熱処理することで、金属シートと熱可塑性液晶ポリマーフィルムとの密着強度を向上させることができることを見出したが、積層体を熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点以上の温度まで急激に上昇させると、急激な温度変化によりフィルム中に含まれる水などの揮発成分が膨張してふくれ外観不良を生じさせるブリスターが発生してしまう問題が生じた。
【0012】
上記の問題について本発明者らが鋭意検討した結果、金属シートと熱可塑性液晶ポリマーフィルムとを熱圧着して積層体を形成した後に、該積層体に特定の温度および時間条件で乾燥処理を施した後に、該熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点以上の温度で熱処理を行うことで、ブリスターの発生を抑制しつつ、低粗度の金属シートであっても、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属シート間の密着強度を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の表面に金属シートが接合された金属張積層板の製造方法であって、
前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと前記金属シートを接合して積層板を形成し、前記積層板に対して、以下の条件(1)および(2)を満たす乾燥工程を施した後に、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点以上の温度条件において熱処理を施すことを特徴とする金属張積層板の製造方法である。
(1)乾燥工程の温度が、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点未満の温度である。
(2)乾燥工程の時間が、10秒以上。
【0014】
また、本発明の製造方法においては、前記金属シートが、低粗度の金属シートであることが好ましく、金属シートの熱可塑性液晶ポリマーフィルムと接する面の十点平均粗さ(Rz)が2.0μm以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーからなるフィルム(以下、これを「熱可塑性液晶ポリマーフィルム」と称する)の少なくとも一方の表面に金属シートが接合された金属張積層板を、ロール・ツー・ロールにより製造する方法であって、
前記金属シートは、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと接する面の十点平均粗さ(Rz)が5.0μm以下(好ましくは2.0μm以下)であり、前記方法は、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと前記金属シートを接合した積層板を得る積層板準備工程と、
前記積層板に対して、以下の条件(1)および(2):
(1)乾燥工程の温度が、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点(Tm)未満の温度(例えば、Tm−5℃以下、好ましくはTm−15℃以下)である、
(2)乾燥工程の時間が、10秒以上(好ましくは10〜300秒程度、より好ましくは30〜200秒程度、さらに好ましくは60〜150秒程度)、
を満たす乾燥ゾーンを通過させる乾燥工程と、
この乾燥工程の後、連続して前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点以上(好ましくはTm+1℃以上Tm+50℃未満、より好ましくはTm+1℃〜Tm+30℃、さらに好ましくはTm+2℃〜Tm+20℃)の温度条件において加熱ゾーンを通過させる熱処理工程と、
を少なくとも備えることを特徴とする金属張積層板の製造方法。
【0016】
〔態様2〕
金属シートの熱可塑性液晶ポリマーフィルムと接する面の十点平均粗さ(Rz)が2.0μm以下(好ましくは0.1〜1.5μm、より好ましくは0.3〜1.1μm)である態様1に記載の金属張積層板の製造方法。
【0017】
〔態様3〕
乾燥温度(℃)と乾燥時間(秒)との積が、1400〜30000(好ましくは1600〜30000、より好ましくは2000〜30000)である、態様1または2に記載の金属張積層板の製造方法。
【0018】
〔態様4〕
熱処理工程における熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面の昇温速度が、3〜80℃/秒(好ましくは5〜70℃/秒)である、態様1から3のいずれか一態様に記載の金属張積層板の製造方法。
【0019】
〔態様5〕
熱可塑性液晶ポリマーフィルム
の融点
をTm(℃)としたとき、乾燥工程の温度が、140℃〜Tm−5℃であり、かつ、熱処理工程の温度が、Tm+1℃〜Tm+30℃である、態様1から4のいずれか一態様に記載の金属張積層板の製造方法。
【0020】
〔態様6〕
熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点をTm(℃)としたとき、熱処理工程の加熱温度が、Tm+11℃以上である、態様1から4のいずれか一態様に記載の金属張積層板の製造方法。
【0021】
〔態様7〕
熱可塑性液晶ポリマーフィルムの厚みが10〜500μm(好ましくは15〜200μm、より好ましくは20〜150μm)の範囲であり、金属シートの厚みが6〜200μm(好ましくは9〜40μm、より好ましくは10〜20μm)の範囲である、態様1から6のいずれか一態様に記載の金属張積層板の製造方法。
【0022】
〔態様8〕
金属
シートの厚みと表面粗さとの比(単位:μm)が、
(厚み)/(表面粗さ)=200/1〜50/1(好ましくは150/1〜50/1)である、態様1から7のいずれか一態様に記載の金属張積層板の製造方法。
【0023】
〔態様9〕
熱可塑性液晶ポリマーフィルムと、この熱可塑性液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の面
に積層された
金属シートと、を備える金属張積層板であって、
前記金属シートは、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと接する面の十点平均粗さ(Rz)が5.0μm以下であり、
前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと、前記金属シートとの剥離強度が0.7kN/m以上であり、
面積1m
2当たりに発生するブリスターの平均発生個数が20個以下である、金属張積層板。
【0024】
〔態様10〕
金属シートの熱可塑性液晶ポリマーフィルムと接する面の十点平均粗さ(Rz)が2.0μm以下である態様9に記載の金属張積層板。
【0025】
〔態様11〕
熱可塑性液晶ポリマーフィルムの厚みが10〜500μm(好ましくは15〜200μm、より好ましくは20〜150μm)の範囲であり、金属シートの単層当たりの厚みが6〜200μm(好ましくは9〜40μm、より好ましくは10〜20μm)の範囲である、態様9または10に記載の金属張積層板。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高周波特性を有するとともに、密着強度に優れ、ブリスターの発生が抑制された金属張積層板を提供することができる。また、そのような金属張積層板を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係る金属張積層板の構造を示す断面図である。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の金属張積層板1は、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2と、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の片面に積層された金属シート(以下、金属箔と称する場合もある。)3とにより構成されている。
【0031】
<金属箔>
本発明の金属箔3の材料としては、特に制限はなく、例えば、銅、金、銀、ニッケル、アルミニウム、及びステンレスなどを挙げることができ、導電性、取り扱い性、及びコスト等の観点から、銅箔やステンレス箔を使用することが好ましい。なお、銅箔としては、圧延法や電解法によって製造されるものを使用することができる。
【0032】
また、金属箔3には、通常、銅箔に対して施される酸洗浄などの化学的処理が施されていてもよい。また、金属箔3の厚みは、6μm以上200μm以下の範囲が好ましく、9μm以上40μm以下の範囲内がより好ましく、10μm以上20μm以下の範囲内がさらに好ましい。
【0033】
これは、厚みが小さすぎる場合、金属張積層板1の製造工程において、金属箔3にシワ等の変形が生じる場合があるためであり、厚みが大きすぎる場合、例えば、フレキシブル配線板として使用する場合に、折り曲げ性能が低下する場合があるためである。
【0034】
また、本発明においては、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと接する面の金属箔3の表面粗さが小さく(即ち、低粗度であり)、十点平均粗さRzが5.0μm以下であってもよい。このような低粗度を有する場合であっても、本発明の金属張積層板は、特定の製造方法により製造されるため、密着強度を向上するとともにブリスターの発生を抑制することができる。また、十点平均粗さRzは例えば0.1μm以上であってもよい。特に2.0μm以下であると、良好な高周波特性を有し、密着強度に優れた金属張積層板1を得ることが可能になる。特に高周波特性と密着強度のバランスから、0.1μm以上1.5μm以下の範囲内であることがより好ましく、0.3μm以上1.1μm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0035】
なお、ここで言う「表面粗さ」とは、接触式表面粗さ計(ミツトヨ(株)製、型式:SJ−201)を用いて測定された、金属シート表面の十点平均粗さ(Rz)のことを言い、金属箔3の表面のうち、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2と接触する面の粗さのことを言う。
【0036】
また、表面粗さの測定方法としては、JIS B0601:1994
に準拠した方法により行われる。より詳細には、表面粗さ(Rz)は、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さを抜き取り、最高から5番目までの山頂(凸の頂点)の標高の平均値と、最深から5番目までの谷底(凹の底点)の標高の平均値との
和をμmで表わしたものであり、十点平均粗さを示したものである。
【0037】
また、金属箔の厚みと、その表面粗さとは、所定の関係にあることが良好な高周波特性を得る点から好ましく、例えば、金属箔の厚みと表面粗さとの比(単位:μm)は、(金属箔の厚み)/(表面粗さ)=200/1〜50/1程度であってもよく、好ましくは150/1〜50/1程度であってもよい。
【0038】
<熱可塑性液晶ポリマーフィルム>
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの原料は、特に限定されるものではない。例えば、以下に例示する(1)から(4)に分類される化合物およびその誘導体から導かれる公知のサーモトロピック液晶ポリエステルおよびサーモトロピック液晶ポリエステルアミドを挙げることができる。但し、光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマーを得るために、各々の原料化合物の組み合わせには適当な範囲があることは言うまでもない。
【0039】
(1)芳香族または脂肪族ジヒドロキシ化合物(代表例は、表1参照)
【0041】
(2)芳香族または脂肪族ジカルボン酸(代表例は、表2参照)
【0043】
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸(代表例は、表3参照)
【0045】
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸(代表例は表4参照)
【0047】
また、これらの原料化合物から得られる熱可塑性液晶ポリマーの代表例として、表5に示す構造単位を有する共重合体(a)〜(e)を挙げることができる。
【0049】
また、本発明に使用される熱可塑性液晶ポリマーは、フィルムに所望の耐熱性と加工性を与える目的においては、約200〜約400℃の範囲内、とりわけ約250〜約350℃の範囲内に融点を有するものが好ましいが、フィルム製造の点からは、比較的低い融点を有するものが好ましい。
【0050】
従って、より高い耐熱性や融点が必要な場合には、一旦得られたフィルムを加熱処理することによって、所望の耐熱性や融点にまで高めることができる。加熱処理の条件の一例を説明すれば、一旦得られたフィルムの融点が283℃の場合でも、260℃で5時間加熱すれば、融点は320℃になる。
【0051】
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルム2は、上記のポリマーを押出成形して得られる。このとき、任意の押出成形法を使用できるが、周知のTダイ製膜延伸法、ラミネート体延伸法、インフレーション法等が工業的に有利である。特に、インフレーション法では、フィルムの機械軸(長手)方向(以下、「MD方向」という。)だけでなく、これと直交する方向(以下、「TD方向」という。)にも応力が加えられるため、MD方向とTD方向における機械的性質および熱的性質のバランスのとれたフィルムが得られる。
【0052】
また、本実施形態の熱可塑性液晶ポリマーフィルム2は、フィルム長手方向の分子配向度SOR(Segment Orientation Ratio)を0.90以上1.50未満の範囲とすることが好ましく、0.95以上1.15以下の範囲とすることがより好ましく、0.97以上1.15以下の範囲とすることが更に好ましい。
【0053】
この範囲の分子配向度を有する熱可塑性液晶ポリマーフィルム2は、MD方向とTD方向における機械的性質および熱的性質のバランスが良好であり、実用性が高いだけでなく、上述したように、回路基板用の金属張積層板1の等方性および寸法安定性を良好にする利点がある。
【0054】
また、分子配向度SORが0.90未満または1.50以上の場合は、液晶ポリマー分子の配向の偏りが著しいためにフィルムが硬くなり、かつTD方向またはMD方向に裂け易い。加熱時の反りがないなどの形態安定性が必要とされる回路基板用では、上述したように、分子配向度SORが0.90以上で1.50未満の範囲であることが好ましい。特に、加熱時の反りを皆無にする必要がある場合には、0.95以上で1.08以下であることが望ましい。また分子配向を0.90以上で1.08以下にすることでフィルム誘電率を均一にすることができる。
【0055】
なお、ここで言う「分子配向度SOR」とは、分子を構成するセグメントについての分子配向の度合いを与える指標をいい、従来のMOR(Molecular Orientation Ratio)とは異なり、物体の厚さを考慮した値である。
【0056】
また、上記分子配向度SORは、以下のように算出される。
【0057】
まず、周知のマイクロ波分子配向度測定機を用い、そのマイクロ波共振導波管中に熱可塑性液晶ポリマーフィルム2を、フィルム面がマイクロ波の進行方向に対し垂直となるよう挿入し、このフィルムを透過したマイクロ波の電場強度(マイクロ波透過強度)が測定される。
【0058】
そして、この測定値に基づいて、下記数式(1)により、m値(屈折率と称する)が算出される。
【0059】
(数1)
m=(Zo/△z)X[1−νmax /νo] …(1) (ここで、Zoは装置定数、△zは物体の平均厚、νmaxはマイクロ波の振動数を変化させたとき、最大のマイクロ波透過強度を与える振動数、νoは平均厚ゼロのとき(即ち、物体がないとき)の最大マイクロ波透過強度を与える振動数である。)
【0060】
次に、マイクロ波の振動方向に対する物体の回転角が0°の時、つまり、マイクロ波の振動方向と、物体の分子が最もよく配向されている方向(通常、押出成形されたフィルムの長手方向)であって、最小マイクロ波透過強度を与える方向とが合致している時のm値をm
0 、回転角が90°のときのm値をm
90として、分子配向度SORはm
0 /m
90により算出される。
【0061】
本発明の熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の厚みは、特に限定されないが、10〜500μmの範囲内にあることが好ましく、15〜200μmの範囲内がより好ましい。電気絶縁性材料として熱可塑性液晶ポリマーフィルム2を用いた金属張積層板1をプリント配線板として使用する場合には、特に20〜150μmの範囲が好ましく、20〜50μmの範囲がより好ましい。
【0062】
これは、フィルムの厚さが薄過ぎる場合には、フィルムの剛性や強度が小さくなるため、得られるプリント配線板に電子部品を実装する際に、プリント配線板が加圧により変形し、配線の位置精度が悪化して不良の原因となるためである。
【0063】
また、パーソナルコンピューターなどのメイン回路基板の電気絶縁性材料としては、上記の熱可塑性液晶ポリマーフィルムと他の電気絶縁性材料、例えば、ガラス基材との複合体を用いることもできる。なお、フィルムには、滑剤、酸化防止剤などの添加剤を配合してもよい。また、フィルムは、充填剤を含んでいても含んでいなくてもよい。
【0064】
次に、本発明の実施形態にかかる金属張積層板の製造方法について説明する。
【0065】
本実施形態の製造方法は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の表面に金属シートが接合された金属張積層板を、ロール・ツー・ロールにより製造する方法である。金属シートは、低粗度であり、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと接する面の十点平均粗さ(Rz)が5.0μm以下である。前記方法は、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと前記金属シートを接合した積層板を得る積層板の準備工程を備えている。この準備工程では、すでに製造された積層板を入手してもよいが、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属箔とを接合(熱圧着)して積層板を形成するのが好ましい。さらに、前記方法は、前記積層板に対して、所定の条件で乾燥ゾーンを通過させる乾燥工程と、所定の条件で加熱ゾーンを通過させる熱処理工程を少なくとも備える。
前記方法は、例えば、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2と金属箔3とを接合(熱圧着)して積層板を形成する積層板形成工程と、積層板に対して乾燥処理を施す乾燥工程と、積層板に対して熱処理を施す熱処理工程とを備えてもよい。
【0066】
<積層板形成工程>
まず、長尺な熱可塑性液晶ポリマーフィルム2を緊張状態にし、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の片面に、長尺な金属箔3を重ね、これらを加熱ロール間で熱圧着して積層させる。
【0067】
なお、ここで言う「緊張状態」とは、フィルム長手方向(引張方向)に、フィルムに張力(例えば、0.12〜0.28kg/mm
2 )がかけられている状態をいう。
【0068】
図2は本発明の一実施形態に係る金属張積層板の製造方法において使用する連続熱プレス装置の全体構成を示す概略図である。
【0069】
この連続熱プレス装置10は、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の一方の表面に金属箔3が接合された片面金属張積層板を製造するためのものであり、
図2に示すように、連続熱プレス装置10は、ロール形状の熱可塑性液晶ポリマーフィルム2を装着した巻き出しロール4と、ロール形状の銅箔のような金属箔3を装着した巻き出しロール5と、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2と金属箔3とを熱圧着させて接合し、積層板6を形成する加熱ロール7とを備えている。
【0070】
片面金属張積層板を製造する場合、加熱ロール7としては、例えば、一対の耐熱ゴムロール8と加熱金属ロール9(共にロール面の硬さが80度以上)が用いられる。この耐熱ゴムロール8と金属ロール9は、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2側に耐熱ゴムロール8を配置するとともに、金属箔3側に加熱金属ロール9を配置することが好ましい。
【0071】
また、片面金属張積層板を製造する場合に用いる耐熱ゴムロール8は、好ましくはJIS K 6301に基づくA型のスプリング式硬さ試験機による試験によって、ロール面の硬さが80度以上、より好ましくは80〜95度のものを使用してもよい。この際、ロール面が柔らかすぎると、熱圧着時の圧力不足を招いて、積層板6の接着強度が不足する。また、ロール面が硬すぎると、耐熱ゴムロール8と加熱金属ロール9との間で局部的線圧が作用し、積層板6の外観不良を起こすことがある。なお、80度以上のゴムは、シリコーン系ゴム、フッ素系ゴムなどの合成ゴムまたは天然ゴム中に、加硫剤、アルカリ性物質などの加硫促進剤を添加することによって得られる。
【0072】
そして、
図1に示すように、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2と金属箔3とを重ねた状態で、フィルム長手方向に搬送することにより、一対の耐熱ゴムロール8と加熱金属ロール9間に供給し、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2と金属箔3とを熱圧着して積層させる。
熱圧着の条件として加熱ロールの温度は、フィルムの延伸を抑える点で融点から−40〜−10の範囲が好ましく、プレス圧力は表面を平滑にする点で90kg/cm
2〜250kg/cm
2の範囲が好ましく、プレス時間は金属箔3側を加熱し密着強度を高める点で0.1秒〜1.5秒の範囲が好ましい。
【0073】
<乾燥処理工程>
次に、得られた積層板6に対して乾燥処理を施す。連続熱プレス装置10は、
図2に示すように、積層板6を搬送するためのニップロール11と、積層板6を乾燥処理するための乾燥処理手段16と、加熱処理するための加熱処理手段17と、加熱処理された金属張積層板1を巻き取る巻き取りロール13とを備えている。
【0074】
乾燥処理手段16としては、積層板6を本発明の乾燥処理条件にて乾燥処理することができるものであれば、特に限定されず、例えば、熱風式の加熱処理炉、熱風循環乾燥機、熱ロール、セラミックヒーター、IR(遠赤外線)による熱処理装置またこれらを併用した方法を使用することができる。また、金属箔3の表面の酸化を防止する観点から、加熱した窒素ガスを使用して、酸素濃度が0.1%以下の不活性雰囲気で加熱処理を行うことが好ましい。
【0075】
ここで、本発明においては、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の融点をTm(℃)としたときに、乾燥処理温度がTm(℃)未満であり、乾燥処理の時間が10秒以上であることに特徴がある。
【0076】
金属箔の接合面が低粗度である場合、金属箔と熱可塑性液晶ポリマーフィルムとの密着性を向上させるためには、後述するように熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点以上の熱処理を必要とする。しかしながら、このようにして得られた金属張積層板では熱処理工程で発生するブリスターが問題となる場合がある。上述の条件の乾燥処理を施すことで、ブリスターの原因となる熱可塑性液晶ポリマーフィルムに内在する揮発成分を、ブリスターの発生を抑制しながら除去することができるためか、続く熱処理工程においてブリスターの発生を抑制させることができる。
【0077】
本発明の乾燥処理温度は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点(Tm℃)未満であれば特に限定されてないが、加熱による熱可塑性液晶ポリマーフィルムの分子運動によってフィルム中の揮発成分除去効果がより顕著となるため、融点温度(Tm℃)未満の条件において乾燥処理温度が高い方が好ましい。乾燥処理温度の好ましい範囲としては100℃〜Tm℃未満、そして140℃〜Tm−5℃がより好ましく、200℃〜Tm−15℃がさらに好ましい。また乾燥処理温度の範囲をTm−180℃以上Tm℃未満、好ましくはTm−140℃以上Tm−5℃以下、さらに好ましくはTm−85℃以上Tm−15℃以下に設定してもよい。乾燥処理温度をこのような範囲とすることで、熱可塑性液晶ポリマーフィルムに由来する揮発性ガスを急激に発生させずに徐放させることができ、その後の熱処理工程においてもブリスターを抑制することができる。本発明の乾燥処理温度とは、乾燥処理工程における熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面の温度である。
【0078】
また、乾燥処理時間については乾燥時間が長いほどフィルム中の水分を含む揮発成分除去効果がより顕著となるが、生産効率の観点から、10秒〜300秒が好ましく、30秒〜200秒がより好ましく、60秒〜150秒がさらに好ましい。
【0079】
また、乾燥温度(℃)と乾燥時間(秒)との積は、例えば、揮発成分除去効果を工業的に有利に進める観点から、1400〜30000程度であってもよい。好ましくは前記積は1600以上であってもよく、特に好ましくは2000以上であってもよい。
【0080】
<熱処理工程>
加熱処理手段17としては、積層板6を熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の融点以上の温度で加熱処理することができるものであれば、特に限定されず、例えば、熱風式の加熱処理炉、熱風循環乾燥機、熱ロール、セラミックヒーター、IR(遠赤外線)による熱処理装置またこれらを併用した方法を使用することができる。また、金属箔3の表面の酸化を防止する観点から、加熱した窒素ガスを使用して、酸素濃度が0.1%以下の不活性雰囲気で加熱処理を行うことが好ましい。また、熱処理工程は、乾燥工程に引き続き、同じ加熱炉を用い
て行ってもよい。その場合、熱制御を行いやすくするため、乾燥工程および熱処理工程をIR(遠赤外線)による熱処理装置で行ってもよい。
【0081】
また、本発明においては前記乾燥処理後に施させる熱処理において、熱処理温度をTa(℃)とした場合に、熱処理温度Ta(℃)
が熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点Tm(℃)より高い温度であることが重要である。熱処理温度Ta(℃)が熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点Tm(℃)未満の場合、特に低粗度の金属シートと熱可塑性液晶ポリマーフィルムとを接合した場合に十分な密着強度が得られない。熱処理温度Ta(℃)は熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点Tm(℃)より1℃以上50℃未満高い温度であることが好ましく、より好ましくは1℃以上30℃以下高い温度であり、さらに好ましくは2℃以上20℃以下高い温度である。さらに、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの溶融性を高める観点から、熱処理温度Taは、Tm+11℃以上(例えば、Tm+11℃以上Tm+50℃未満)であってもよい。
また、熱処理時間は1秒〜10分が好ましく、より好ましくは5秒〜8分であり、さらに好ましくは8秒〜5分であってもよく、特に好ましくは8秒〜3分である。本発明の熱処理温度とは、熱処理工程における熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面の温度である。
【0082】
積層板6に対してこのような熱処理を施すことにより、低粗度の金属箔であっても、熱可塑性液晶ポリマーフィルムとの密着強度を高めることができる。特に、高周波特性に優れる表面粗さRzが2.0μm以下の金属箔と、熱可塑性液晶ポリマーフィルムとの密着強度を高めることができる。
【0083】
また、上記の熱処理によって、低粗度の金属箔と、熱可塑性液晶ポリマーフィルムとの密着強度が向上する理由としては、以下のように推測される。即ち、一般に、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを金属箔と熱圧着した場合、熱圧着時の熱によって、熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面が融解し、熱圧着時の圧力によって熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面にスキン層と呼ばれる分子配向が生じる。ここで、スキン層は、フィルム内部の層であるコア層の構造に比し、一方向に裂けやすく、結晶構造的にもコア層とは異なる層であるため、コア層とスキン層の界面部分が弱くなり、このスキン層が熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属箔との密着強度を低下させる要因となっていると推定している。
【0084】
しかし、本実施形態においては、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2と金属箔3とを熱圧着した後、圧力をかけない状態で熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の融点以上の温度で加熱処理を行うため、一旦、形成されたスキン層の配向が消失(即ち、密着強度を低下させる要因が消失)し、結果として、密着強度が向上するものと考えられる。
【0085】
なお、熱処理温度Taを熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の融点Tmよりも高い温度に設定処理することで、上記スキン層の配向の消失効果がより顕著となるため、好ましい。
【0086】
なお、本発明におけるスキン層とは、金属張積層板1の断面をクロスセクションポリッシャーで研磨した後、プロピルアミン溶液で断面をエッチングし、ドメイン構造を強調させた状態で、電子顕微鏡(SEM)を用いることにより熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面に観察される、フィルムコア層のドメイン構造と異なるドメイン構造を持つ層であって、厚み方向においてドメイン構造が均一でない(同一でない)表面構造のことを言う。
【0087】
本発明においては、前記熱処理の前に、積層体に本発明の条件による乾燥処理を施すことが重要である。熱処理前に、本発明の温度および時間条件の乾燥処理を施すことで、積層体を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルム中に含まれる揮発成分が急激に膨張することなく、フィルムの表面または側面から徐々に除去されるためか、ブリスターの発生を抑制することが可能である。
【0088】
乾燥処理温度が融点未満の場合、積層体を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムの溶融が起こらないため、フィルム内部に含まれる揮発成分によるふくれが生じず、ブリスターの発生が抑制される。また、本発明の乾燥処理時間の範囲であれば、フィルム表面や側面から水分などの揮発成分を徐々に除去することが可能である。乾燥処理温度を融点以上の温度とした場合、実質的に10秒に満たない時間で、積層体が融点以上の温度となる。積層体が、例えば2〜3秒で融点以上の温度まで昇温された場合、フィルム中の揮発成分がフィルムから抜けきっていないままに熱可塑性液晶ポリマーフィルムの溶融が起こるため、フィルム中の揮発成分が膨張し、フィルムにブリスターを生じる。
【0089】
本発明の条件による乾燥処理を施すことにより、その後の熱処理工程において熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属箔との接着性を高めるために急速に昇温した場合(例えば、熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面の昇温速度が3〜80℃/秒、好ましくは5〜70℃/秒)であっても、フィルムにブリスターが生じるのを抑制することが可能である。
【0090】
本発明において両面金属張積層板を製造する際は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面に金属シートを接合させた後、本発明の乾燥処理およびその後の熱処理を施してもよく、また熱可塑性液晶ポリマーフィルムの片面に金属シートを接合させた後、本発明の乾燥処理を施して片面金属張積層板を形成した後、該片面金属張積層板の金属シートが接合されていない面(フィルム面)に対し金属シートを接合し、本発明の熱処理を施してもよい。
【0091】
なお、上記実施形態は以下のように変更しても良い。
【0092】
上記実施形態においては、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の片面に金属箔3が接合された金属張積層板1を例に挙げて説明したが、本発明は、
図3に示す、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の両面に金属箔3が接合された金属張積層板1にも適用できる。即ち、本発明は、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の少なくとも一方の表面に金属箔3が接合された金属張積層板に適用することができる。
【0093】
この場合、
図4に示すように、上述の
図2に示した連続熱プレス装置10に、更に、ロール形状の銅箔のような金属箔3を装着した巻き出しロール5を備える(即ち、2個の巻き出しロール5を備える)連続熱プレス装置30が使用される。
【0094】
そして、上述の実施形態の場合と同様に、まず、長尺な熱可塑性液晶ポリマーフィルム2を緊張状態にし、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の両面に、長尺な金属箔3を重ね、これらを加熱ロール7間で圧着して積層させ、積層板15を作製し、次に、得られた積層板15に対して本発明の乾燥処理および熱処理を施すことにより、金属張積層板20を作製する。
【0095】
次に、本発明の一実施形態にかかる金属張積層板について説明する。
本実施形態の金属張積層板は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと、この熱可塑性液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に金属シートが積層された金属張積層板であり、金属シートは高周波特性を良好にする観点から、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと接する面の十点平均粗さ(Rz)が5.0μm以下であるにもかかわらず、良好な層間密着性を有しており、さらに金属張積層板におけるブリスターの発生が抑制されている。
【0096】
良好な層間密着性を有するため、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと接合されている金属シートとの剥離強度は、例えば、0.7kN/m以上(例えば、0.7〜2kN/m)であり、好ましくは、0.8kN/m以上であり、より好ましくは0.9kN/m以上である。なお、剥離強度は、後述する実施例に記載された方法により測定された値を示す。
【0097】
また、密着性を上げるために液晶ポリマーフィルムの融点以上で加熱した場合であってもブリスターの発生を抑制することができるため、面積1m
2当たりに発生するブリスターの平均発生個数が20個以下である。前記ブリスターの平均発生個数は、好ましくは10個以下であり、さらに好ましくは5個以下である。ここでブリスターは積層板表面の膨れ(高さ5〜10μm、直径200〜500μm程度)として判断することができ、独立したブリスターの数を個々のブリスターの数として把握することができる。なお、ブリスターの平均発生個数は、フィルム面積10m
2中のブリスター発生個数を測定し、フィルム面積1m
2当たりに発生する平均換算値として把握することができる。
【0098】
なお、液晶ポリマーフィルムおよび金属シートは、それぞれ独立して、前述した液晶ポリマーフィルムおよび金属箔で記載された特徴を積層後も有している。例えば、金属シートの熱可塑性液晶ポリマーフィルムと接する面の十点平均粗さ(Rz)は、2.0μm以下であるのが好ましい。また、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの厚みが20〜150μmの範囲であってもよく、金属シートの単層当たりの厚みが6〜200μmの範囲であってもよい。
【実施例】
【0099】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における銅張積層板の評価は、次の方法により行った。
【0100】
<ブリスターの評価>
熱処理後の金属張積層板の表面(10m
2)について、液晶ポリマーフィルム側に設置したカメラ(株式会社メック製 LSC−6000)により、光源からのフィルム面の反射による明暗を検出し、画像処理してブリスター数を測定した。なお、両面金属張積層板の場合は、いずれかの金属層側に設置したカメラにより、光源からの金属面の反射による明暗を検出し、画像処理してブリスター数を測定することができる。測定されたブリスター数から、フィルム面積1m
2当たりに発生するブリスターの平均発生個数を算出した。
【0101】
<密着強度評価>
次に、作製した各金属張積層板から1.0cm幅の剥離試験片を作製し、試験片の熱可塑性液晶ポリマーフィルム層を両面接着テープで平板に固定し、JIS C 5016に準じて、180°法により、金属箔を50mm/分の速度で剥離したときの強度(kN/m)を測定した。
【0102】
なお、耐屈曲性等の観点から、0.7kN/m以上の剥離強度が求められるため、0.7kN/m以上の強度を有する場合を密着強度が良好であると判断し、0.7kN/m未満のものを不良とした。以上の結果を表6に示す。
【0103】
<伝送損失の測定>
次に、作製した各金属張積層板における伝送損失を
測定した。より具体的には、マイクロ波ネットワークアナライザー[アジレント(Agilent)社製、型式:8722ES]とプローブ(カスケードマイクロテック社製、型式:ACP40−250)を用いて、測定周波数40GHzで測定した。
【0104】
[参考例1]
(1)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸単位27モル%、p−ヒドロキシ安息香酸単位73モル%からなるサーモトロピック液晶ポリエステルを単軸押出機を用いて280〜300℃で加熱混練し、直径40mm、スリット間隔0.6mmのインフレーションダイより押出し、厚さ50μmの熱可塑性液晶ポリマーフィルム2を得た。このフィルムの融点Tm は282℃、熱変形温度Tdef は230℃であった。
【0105】
[実施例1]
参考例1で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルム2と、金属シート3として12μm厚みの電解銅箔(十点平均粗度(Rz):0.9μm)とを使用し、
図2に示されるように、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2と接するロール8として樹脂被覆金属ロール(スーパーテンペックス:由利ロール機械株式会社製、樹脂厚み1.7cm)を使用した。樹脂被覆金属ロール8側に熱可塑性液晶ポリマーフィルム2を、反対面に電解銅箔を配置した。直径がそれぞれ40cmの金属ロール9および樹脂被覆金属ロール8を使用した。金属ロール9の表面温度を、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の融点よりも20℃低い温度になるように設定した。ロール間で熱可塑性液晶ポリマーフィルム2および電解銅箔3に加えられる圧力は面圧換算で120kg/cm
2であり、上記の条件下に、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2を樹脂被覆金属ロール8に沿わせ、次いで電解銅箔3を該フィルム2に合わせて仮接合させた。後に、両者を金属ロ−ル9と樹脂被覆金属ロール8の間に導入して圧着し接合することで、積層板6を得た。作製した積層板6をライン方向の長さが5mであるIR加熱炉で加熱処理を行った。この時、IR加熱炉内の加熱ゾーンの温度分布を分け、乾燥ゾーン16および熱処理ゾーン17で処理を行った。乾燥ゾーン16の温度は熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の融点未満の温度である140℃に設定し、積層板の任意の一点がIR加熱炉中の乾燥ゾーンを15秒で通過するように設定した。この場合、乾燥処理時間は15秒である。積層板を乾燥ゾーン16にて乾燥処理した後、熱処理ゾーンの温度を熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の融点以上の温度である300℃に設定し(昇温速度:およそ20℃/秒)、またこの熱処理ゾーン17を30秒で通過するように設定し、積層板に熱処理を施し、金属張積層板1を作成した。結果を表6に示す。
【0106】
実施例2〜9について、実施例1における乾燥ゾーン
16における乾燥温度および乾燥時間を表6の通りに設定し、金属張積層板1を作成した。
【0107】
[比較例1]
乾燥ゾーン
16における乾燥温度を285℃とした以外は実施例3と同様にして金属張積層板1を作成した。結果を表6に示す。
[比較例2]
実施例1と同様の方法で積層板6を作成した後、IR加熱炉で加熱処理を行う際に乾燥ゾーンを設けず、熱処理ゾーンのみを設け、積層板の熱処理を行った。このとき、熱処理ゾーンの温度を熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点以上の温度である300℃に設定し、またこの熱処理ゾーンを30秒で通過するように設定した。この場合、積層板は設定した300℃の温度まで、およそ60℃/秒で昇温され、このとき積層体が熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点未満の温度におかれている時間は約5秒程度である。結果を表6に示す。
【0108】
[比較例3]
乾燥時間を3秒に設定した以外は、実施例1と同様にして金属張積層板を作成した。結果を表6に示す。
【0109】
[比較例4]
熱処理温度を熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点未満である280℃に設定した以外は、実施例4と同様にして金属張積層板を作成した。結果を表6に示す。
【0110】
[比較例5]
実施例3と同様の方法で積層板6を作成した後、IR加熱炉で加熱処理を行う際に熱処理ゾーンを設けず、乾燥処理ゾーンのみを設け、積層板の熱処理を行った。このとき、乾燥処理ゾーンの温度および時間は実施例3と同様に設定した。結果を表6に示す。
【0111】
【表6】
【0112】
実施例1〜9においては、従来は熱可塑性液晶ポリマーフィルムとの密着強度を高めるのが難しかったRz0.9μmの低粗度の銅箔と積層していながら、ブリスターを発生することなく、良好な密着強度で、かつ低伝送損失、すなわち良好な高周波特性が得られている。
【0113】
比較例1では乾燥温度を熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点以上としたため、急激な温度上昇によりブリスターが発生し、外観不良となるとともに、ブリスターが発生したためフィルムが断裂し、密着強度が不良(0.4kN/m未満)であり、さらに伝送損失については測定が困難であった。
【0114】
比較例2では乾燥工程を行わずに熱処理工程を行ったため、比較例1と同様積層体が急激に加熱され、ブリスターが発生が発生したためフィルムが断裂し、外観および密着強度が不良(0.4kN/m未満)であり、またブリスターのために伝送損失の測定が困難であった。
【0115】
比較例3では、乾燥工程の時間が3秒と短いために、ブリスターが発生が発生したためフィルムが断裂し、外観および密着強度が不良(0.4kN/m未満)であり、またブリスターのために伝送損失の測定が困難であった。
【0116】
比較例4では、乾燥工程を行っているためブリスターの発生は見られないものの、熱処理の温度が融点未満であるため、密着強度が不良(0.4kN/m未満)であった。
【0117】
比較例5では、乾燥工程の後の熱処理工程が無いために、密着強度が不良(0.4kN/m未満)であった。