(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法は、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)及び分子内にエチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)を含む単量体の共重合体であるカルボキシル基含有重合体(A)と、ノニオン性界面活性剤(B)とを含む、カルボキシル基含有重合体組成物を製造する方法であって、前記単量体を共重合させる工程を備えている。本発明の製造方法においては、当該工程において、前記α,β−不飽和カルボン酸(a−1)の重合率が70〜100%となった時点で、系中に前記ノニオン性界面活性剤(B)を添加することを特徴とする。なお、前記ノニオン性界面活性剤(B)は、少なくとも前記重合率が70〜100%の時点で添加していればよく、前記重合率が0%以上70%未満の時点でさらに添加していても、同様の効果が期待できる。前記重合率0%以上70%未満の時点で成分(B)を添加する場合、その添加量としては、前記重合率が70〜100%の時点での成分(B)の添加量100質量部に対して、0質量部を超え、50質量部以下程度が挙げられる。以下、本発明のカルボキシル基含有重合体組成物の製造方法について、詳述する。なお、本明細書において、中和粘稠液とは、カルボキシル基含有重合体組成物を水に分散させた後、アルカリ性化合物等の中和剤を加えて、pHを約7(pH=6〜8)に調整した溶液をいう。
【0011】
本発明の製造方法においては、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)及び分子内にエチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)を含む単量体を、共重合させる工程を備えており、当該工程により、カルボキシル基含有重合体(A)が生成する。すなわち、少なくとも、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)と、エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)とを単量体とし、これらを含む単量体を共重合させることによって、カルボキシル基含有重合体(A)が生成する。なお、本発明の製造方法は、当該工程以外の工程を含んでいてもよい。
【0012】
(α,β−不飽和カルボン酸)
α,β−不飽和カルボン酸(a−1)(単量体(a−1)と称する場合がある)としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の炭素数3〜5のオレフィン系不飽和カルボン酸等が挙げられる。これらのα,β−不飽和カルボン酸(a−1)の中でも、安価で入手が容易であり、得られるカルボキシル基含有重合体組成物を用いた中和粘稠液の透明性が高いことから、アクリル酸、メタクリル酸などが好適に用いられる。なお、これらのα,β−不飽和カルボン酸は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
(エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物)
エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)(エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物(a−2))としては、特に限定されず、例えば、ポリオールの2置換以上のアクリル酸エステル類;ポリオールの2置換以上のメタクリル酸エステル類;ポリオールの2置換以上のアリルエーテル類;フタル酸ジアリル、リン酸トリアリル、メタクリル酸アリル、テトラアリルオキシエタン、トリアリルシアヌレート、アジピン酸ジビニル、クロトン酸ビニル、1,5−ヘキサジエン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。なお、前記ポリオールとは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、サッカロース、ソルビトール等が挙げられる。これらのエチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物の中でも、得られるカルボキシル基含有重合体組成物を用いた中和粘稠液の粘度調整が容易である観点から、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、リン酸トリアリル、ポリアリルサッカロースが好適に用いられる。なお、これらのエチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)の割合は、α,β−不飽和カルボン酸100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.05〜10質量部であり、さらに好ましくは0.05〜3質量部である。エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)の割合が、0.01質量部以上であることにより、得られるカルボキシル基含有重合体組成物を用いた中和粘稠液の粘度調整効果が好適に発現される。また、エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物の使用量が10質量部以下であることにより、得られるカルボキシル基含有重合体組成物を好適に中和粘稠液とし得る。なお、本発明において、「α,β−不飽和カルボン酸100質量部」とは、本発明の製造方法で使用したα,β−不飽和カルボン酸(a−1)の全量を意味している。
【0015】
(α,β−不飽和化合物)
カルボキシル基含有重合体(A)を構成する単量体としては、得られるカルボキシル基含有重合体組成物を用いた中和粘稠液の粘度を調整する観点から、α,β−不飽和化合物(a−3)等を用いてもよい。
【0016】
α,β−不飽和化合物(a−3)としては、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)と異なれば、特に限定されず、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルアクリレート、デシルアクリレート、ラウロイルアクリレート、ステアリルアクリレ−ト、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステル類;前記アクリル酸エステル類に相当するメタクリル酸エステル類;ビニルグリシジルエーテル、イソプロペニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;前記アクリルアミド類に相当するメタクリルアミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類等が挙げられる。これらのα,β−不飽和化合物(a−3)の中でも、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類が好適に用いられ、とりわけ、炭素数12〜40(特に、15〜30)の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有するアクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類が好ましく、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸エイコサニル、メタクリル酸ベヘニル、メタクリル酸テトラコサニルがより好適に用いられる。なお、これらのα,β−不飽和化合物(a−3)は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、前記アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類としては、例えば、日油株式会社製の商品名ブレンマーVMA70等を用いてもよい。
【0017】
α,β−不飽和化合物(a−3)の使用量は、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部であり、より好ましくは1〜10質量部である。α,β−不飽和化合物(a−3)の使用量が0.1質量部以上であれば、得られるカルボキシル基含有重合体組成物を用いた中和粘稠液の粘度調整効果を好適に発現し得る。また、α,β−不飽和化合物(a−3)の使用量が20質量部以下である場合、得られるカルボキシル基含有重合体組成物を用いた中和粘稠液の粘度が低くなり過ぎることを抑制できる。
【0018】
本発明において、カルボキシル基含有重合体(A)を構成する単量体における、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)、エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)、及びα,β−不飽和化合物(a−3)の合計割合としては、特に制限されないが、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%〜100質量%程度、さらに好ましくは90質量%〜100質量%程度、特に好ましくは95質量%〜100質量%程度が挙げられる。当該合計割合は、実質的に100質量%であってもよい。また、カルボキシル基含有重合体(A)を構成する単量体における、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)の割合としては、特に制限されないが、好ましくは95質量%以上、より好ましくは96質量%〜99質量%程度、さらに好ましくは97質量%〜98質量%程度が挙げられる。
【0019】
これらの単量体を共重合させる方法としては、特に限定されず、公知乃至慣用の方法を適用することができる。具体的には、例えば、以下の方法(1)〜(3)のいずれかによって実施することができる。
方法(1):α,β−不飽和カルボン酸(a−1)とエチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)と(さらに必要であればα,β−不飽和化合物(a−3)と)を重合初期から共存させて(例えば、それぞれを全量共存させて)共重合する方法
方法(2):α,β−不飽和カルボン酸(a−1)に、エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)を連続的に添加しながら重合させる方法
当該方法(2)においてα,β−不飽和化合物(a−3)を使用する場合、これを重合に付す方法は特に限定されず、例えば、あらかじめα,β−不飽和カルボン酸(a−1)と共存させておいてもよいし、エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)と同様に連続的に添加してもよい。
方法(3):α,β−不飽和カルボン酸(a−1)と、エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)とを、連続的に添加しながら重合させる方法
当該方法(3)においてα,β−不飽和化合物(a−3)を使用する場合、これを重合に付す方法は特に限定されず、例えば、あらかじめ重合系に仕込んでおいてもよいし、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)及びエチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)と同様に連続的に添加してもよい。
【0020】
一例として、方法(1)を具体的に説明する。方法(1)においては、例えば、攪拌機、温度計、窒素ガス吹込管、及び冷却管を備えた反応容器に、それぞれ予め所望量に秤量された、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)、エチレン性不飽和基を少なくとも2個以上有する化合物(a−2)、ラジカル重合開始剤、及び不活性溶媒を仕込む。
【0021】
次に、反応容器内の内容物を攪拌し、組成が均一となるように混合する。次に、反応容器の上部空間に含まれている酸素ガス、及び内容物中に溶解している溶存酸素を除去するために、内容物中に窒素ガスを吹き込む。重合反応は、温浴などで20〜120℃、好ましくは30〜90℃に加熱することによって行うことができる。重合反応は、通常2〜10時間で終了する。
【0022】
α,β−不飽和カルボン酸(a−1)、エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)、必要であればα,β−不飽和化合物(a−3)、ラジカル重合開始剤、及び不活性溶媒の仕込み全量における、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)及びエチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)の合計仕込量(α,β−不飽和化合物(a−3)を使用する場合には、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)、エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)、及びα,β−不飽和化合物(a−3)の合計仕込量)は、容積効率を高め、生産性を向上させる観点から、1質量%以上、好ましくは5質量%以上であることが望ましく、また重合反応の進行に伴って重合体の析出が著しくなり、スラリーの粘度が高くなるのを回避し、反応を円滑に進行させる観点から、30質量%以下、好ましくは25質量%以下であることが望ましい。好ましい合計仕込量は、1〜30質量%であり、より好ましくは5〜25質量%である。
【0023】
不活性溶媒としては、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)、エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)、及びα,β−不飽和化合物(a−3)は溶解するが、得られるカルボキシル基含有重合体組成物は溶解しない溶媒であればよく、特に制限されない。不活性溶媒の好ましい具体例としては、エチレンジクロライド、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、イソオクタンなどのハロゲン置換されていてもよい炭素数2〜8の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭素数5〜7の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼンなどのハロゲン置換されていてもよい芳香族炭化水素;酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどの酢酸アルキルエステル;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系化合物などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの不活性溶媒の中では、品質が安定しており、入手が容易である観点から、エチレンジクロライド、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン及び酢酸エチルが好ましい。
【0024】
ラジカル重合開始剤の種類には、特に限定がない。その具体例としては、α,α’−アゾイソブチロニトニル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキサイド、第3級ブチルハイドロパーオキシドなどを挙げることができる。ラジカル重合開始剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
ラジカル重合開始剤の量は、その種類や反応温度などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、重合反応速度を増大させる観点から、カルボキシル基含有重合体(A)の単量体として用いるα,β−不飽和カルボン酸(a−1)、エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)、及びα,β−不飽和化合物(a−3)の合計量に対して、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.3質量%以上であり、また重合反応の際の除熱を容易に行なうことができるようにするために、10質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以下である。ラジカル重合開始剤の量は、好ましくは0.1〜10質量%であり、より好ましくは0.3〜3質量%である。
【0026】
なお、反応の際に酸素が存在していると、反応に悪影響を及ぼすため、あらかじめ反応系から酸素を除去しておくことが好ましい。したがって、反応時の雰囲気は、酸素による影響を回避する観点から、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0027】
本発明の製造方法では、単量体の共重合工程において、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)の重合率が70〜100%となった時点で、系中にノニオン性界面活性剤(B)を添加する。すなわち、ノニオン性界面活性剤(B)は、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)の共重合が未完全(前記重合率が70%以上100%未満)である状態か、共重合が完結(前記重合率が100%)した時点で、系中に添加する。本発明の製造方法においては、特定のタイミングでノニオン性界面活性剤(B)を添加することにより、製造直後の水等への分散性、保存安定性、及び中和粘稠液の透明性の全てに優れた、カルボキシル基含有重合体組成物を製造することが可能となる。なお、前記ノニオン性界面活性剤(B)は、少なくとも前記重合率が70%以上の時点で添加していれば、70%未満の時点で別に添加していても同様の効果を発現する。
【0028】
本発明の製造方法において、共重合工程における前記重合率は、実施例に記載の方法により確認することができる。
【0029】
(ノニオン性界面活性剤)
ノニオン性界面活性剤(B)は、親水部と疎水部とから構成される。疎水部の例としては、例えば、多価アルコール脂肪酸エステルやヒドロキシ脂肪酸の付加重合物などが挙げられる。
【0030】
多価アルコール脂肪酸エステルの多価アルコール部分の好適な例としては、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチルプロパノール、ソルビット、ソルビタンなどが挙げられる。ノニオン性界面活性剤(B)の多価アルコール残基としては、これらの多価アルコールに由来するものが好ましい。多価アルコール部分は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0031】
多価アルコール脂肪酸エステルの脂肪酸部分の好適な例としては、ステアリン酸、イソステアリン酸、パルミチン酸などが挙げられる。すなわち、ノニオン性界面活性剤(B)の脂肪酸残基としては、これらの脂肪酸に由来するものが好ましい。脂肪酸部分は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0032】
また、ノニオン性界面活性剤(B)の疎水部における、多価アルコール脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸エステル、イソステアリン酸エステル、パルミチン酸エステル、及び、硬化ヒマシ油誘導体などが挙げられる。
【0033】
ノニオン性界面活性剤(B)の疎水部における、ヒドロキシ脂肪酸の付加重合物の好適な例としては、2−ヒドロキシパルミチン酸、16−ヒドロキシパルミチン酸、及び、12−ヒドロキシステアリン酸の付加重合物などが挙げられる。
【0034】
ノニオン性界面活性剤(B)の親水部としては、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、スルホニル基、エーテル基などが挙げられる。ノニオン性界面活性剤(B)の親水部におけるエーテル基としては、ポリオキシアルキレンのようなオキシアルキレン鎖であってもよい。
【0035】
ノニオン性界面活性剤(B)における、オキシアルキレン鎖の好適な例としては、下記式で示されるオキシアルキレン基が挙げられる。
式:−(CH
2−CHR
1−O)n −
[式中、R
1は水素原子、メチル基またはエチル基を示し、nは1〜100の整数を示す。nが2以上の整数である場合、複数のR
1は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。]
【0036】
ノニオン性界面活性剤(B)としては、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物が好ましく例示される。多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物は、多価アルコールの脂肪酸エステルに、アルキレンオキサイドが付加した化合物である。多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物は、乳化剤として機能する。
【0037】
多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物における、多価アルコール部分の好適な例としては、前述のように、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチルプロパノール、ソルビット、ソルビタンなどが挙げられる。すなわち、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物の多価アルコール残基としては、これらの多価アルコールに由来するものが好ましい。多価アルコール部分は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0038】
また、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物における、脂肪酸部分の好適な例としては、前述の通り、ステアリン酸、イソステアリン酸、パルミチン酸などが挙げられる。すなわち、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物の脂肪酸残基としては、これらの脂肪酸に由来するものが好ましい。脂肪酸部分は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0039】
また、前述の通り、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物における、多価アルコール脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸エステル、イソステアリン酸エステル、パルミチン酸エステルの他、硬化ヒマシ油誘導体なども挙げられる。
【0040】
多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物における、オキシアルキレン鎖の好適な例としては、上記一般式(I)で示されるオキシアルキレン基が挙げられる。
【0041】
ノニオン性界面活性剤(B)におけるHLBとしては、5〜8が好ましい。
【0042】
ノニオン性界面活性剤(B)の好ましい具体例としては、トリイソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、トリイソステアリン酸ポリオキシエチレン(30)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレントリステアリン酸トリメチロールが挙げられる。ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、ジステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、トリステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、ジイソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、トリイソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、2−ヒドロキシパルミチン酸とアルキレングリコールのブロック共重合体、16−ヒドロキシパルミチン酸とアルキレングリコールのブロック共重合体、及び、12−ヒドロキシステアリン酸とアルキレングリコールのブロック共重合体が挙げられる。
【0043】
また、硬化ヒマシ油誘導体を多価アルコール脂肪酸エステルとした場合の、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物の好ましい具体例としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ラウリン酸ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、イソステアリン酸ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、トリイソステアリン酸ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
【0044】
多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物の中では、少量の使用で分散性に優れたカルボキシル基含有重合体組成物が得られ、その中和粘稠液の高い透明性を維持したまま増粘効果を付与することができることから、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、イソステアリン酸ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、トリイソステアリン酸ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びテトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビットが好ましい。
【0045】
得られるカルボキシル基含有重合体組成物の水への分散性を向上させる観点から、ノニオン性界面活性剤(B)の添加量(すなわち、前記重合率が70%以上100%以下の時点におけるノニオン性界面活性剤(B)の添加量)としては、カルボキシル基含有重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは3質量部以上が挙げられる。また、得られるカルボキシル基含有重合体組成物の中和粘稠液の過度の粘度増加を抑える観点からは、カルボキシル基含有重合体(A)100質量部に対して、好ましくは9質量部以下、より好ましくは7質量部以下が挙げられる。すなわち、ノニオン性界面活性剤(B)の添加量は、好ましくは0.5〜9質量部程度、より好ましくは3〜7質量部が挙げられる。
【0046】
本発明のカルボキシル基含有重合体組成物の製造方法は、例えば、以下の方法(1A)、(2A)の態様で実施できる。
【0047】
方法(1A):α,β−不飽和カルボン酸(a−1)とエチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)と(さらに必要であればα,β−不飽和化合物(a−3))を反応容器に予め仕込み、これらを共重合させ、前記重合率が70〜100%になった時点で、系中のスラリーにノニオン性界面活性剤(B)を添加する方法
【0048】
方法(2A):α,β−不飽和カルボン酸(a−1)及びエチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)を、反応容器にそれぞれ連続的に添加しながら共重合させ、前記重合率が70〜100%になった時点で、系中のスラリーにノニオン性界面活性剤(B)を添加する方法
当該方法(2A)においてα,β−不飽和化合物(a−3)を使用する場合、これを重合に付す方法は特に限定されず、例えば、あらかじめ反応容器に仕込んでおいてもよいし、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)及びエチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)と同様に反応容器に連続的に添加してもよい。
【0049】
例えば、方法(1A)において、攪拌機、温度計、窒素ガス吹込管及び冷却管を備えた反応容器に、それぞれ予め所望量で秤量された、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)、エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)、必要であればα,β−不飽和化合物(a−3)、ラジカル重合開始剤、及び不活性溶媒を仕込む。反応容器内の内容物を攪拌し、組成が均一となるように混合した後、反応容器の上部空間に含まれている酸素ガス、内容物中に溶解している溶存酸素を除去するために、内容物中に窒素ガスを吹き込む。重合反応は、温浴などで20〜120℃、好ましくは30〜90℃に加熱することによって行なうことができる。重合反応は、通常2〜10時間で終了する。次に、前記重合率が70〜100%になったことを確認し、ノニオン性界面活性剤(B)を不活性溶媒で希釈し、系中のスラリーに添加し、均一になるまで撹拌する。その後、減圧または常圧下、加熱することにより、反応溶液から不活性溶媒を留去し、カルボキシル基含有重合体組成物を白色微粉末として得ることができる。
【0050】
かくしてカルボキシル基含有重合体組成物が得られる。本発明の製造方法によって製造されたカルボキシル基含有重合体組成物は、製造直後の水等への分散性、保存安定性、及び当該中和粘稠液の透明性の全てに優れている。また、当該カルボキシル基含有重合体組成物を、例えば、水に分散させた後、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミンなどのアルカリ成分を加えて、水溶液のpHが約7(pH=6〜8)となるように調整することにより、中和粘稠液を得ることができる。この中和粘稠液は、従来の架橋型カルボキシル基含有重合体を用いて中和粘稠液を調製した場合と対比して、増粘性に優れたものである。
【0051】
また、近年、カルボキシル基含有重合体組成物は、殺菌用アルコールゲルの増粘剤としての需要が増している。しかしながら、例えば、前述の特許文献1に開示されたカルボキシル基含有重合体組成物を用いてアルコールゲルを作製すると、粘性が劣る場合や、濁りが生じて透明性が低下する場合があるという問題がある。なお、本明細書において「アルコールゲル」とは、「単成分あるいは複数成分のアルコールの合計54〜94重量%を含む水溶液にカルボキシ基含有重合体組成物を溶かして中和したゲル」を意味する。
【0052】
これに対して、本発明のカルボキシル基含有重合体組成物の製造方法の前記単量体を共重合させる工程において、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)の重合率が、例えば70〜80%となった時点で、系中にノニオン性界面活性剤(B)を添加して、カルボキシル基含有重合体組成物を製造することにより、得られたカルボキシル基含有重合体組成物は、水等への分散性に優れ、これを用いて粘性や透明性に優れた中和粘稠液やアルコールゲルが得られる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
【0054】
[評価方法]
実施例及び比較例により得られたカルボキシル基含有重合体組成物を、以下の方法により測定、評価した。
【0055】
(1)分散性
200mL(ミリリットル)容のビーカーに、イオン交換水100gを入れ、イオン交換水の温度を25℃に調整する。このビーカーに、カルボキシル基含有重合体組成物3.0gを無攪拌条件下で一気に投入し、該カルボキシル基含有重合体組成物の膨潤状態を目視で観察して、該カルボキシル基含有重合体組成物が乾いた部分無く、すべて濡れきるのに要する時間(分)(「分散時間」と称する)を測定する。膨潤するのに要する時間が30分間以下であれば、分散性に優れていると判断できる。
【0056】
(2)分散性の安定性(保存安定性)
カルボキシル基含有重合体組成物を製造後24時間以内に上記(1)の方法で測定した分散時間(「分散時間1」と称する)に対する、製造後30日後に上記(1)の方法で測定した分散時間(「分散時間2」と称する)の比[=分散時間2/分散時間1]を保存安定性(分散性の安定性:時間が経っても良好な分散性が維持される特性)の指標とした。上記比が1に近いほど保存安定性がよく、0.8〜1.2であれば良好と判断できる。
【0057】
(3)重合率
重合率は、下記の式により算出した。未反応の単量体(a−1)の量は、重合反応に用いた単量体(a−1)の総量のうち、その時点で系中に添加していない単量体(a−1)と、系中で未反応の状態で存在している単量体(a−1)の合計量を意味する。また、式において、単量体(a−1)の各量は、重量を基準としたものである。未反応の単量体(a−1)の量は、高速液体クロマトグラフィー等の液体クロマトグラフィーを用いて測定した。
【0058】
【数1】
【0059】
(4)アルコールゲルの粘度及び透明性
200mL(ミリリットル)容のビーカーに、イオン交換水51.7g、エタノール96.0gを入れ、撹拌しながら、カルボキシ基含有重合体組成物0.75gを添加する。均一に分散させた後、撹拌を止め、トリエタノールアミンのエタノール溶液(50重量%)をpHが6〜8になるよう添加し、ハンドミキサー等でゲルが均一になるまで撹拌する。25℃の恒温槽に浸した後、粘度及び透明性を測定する。粘度については、BrookField社製の粘度計(型番:DV1MRVTJ0)を用い、スピンドルNo.5を使用して20rpmで測定する。5000mPa・s以上であれば高粘度といえる。透明性については、島津製作所社製の分光光度計(型番:UV−3150)を用いて、波長425nmの光の透過率を測定する。95%以上であれば透明性が高いといえる。
【0060】
(実施例1)
攪拌機、温度計、窒素吹き込み管及び冷却管を備えた500mL(ミリリットル)容の四つ口フラスコに、アクリル酸40g、アルキル基の炭素数が18〜24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしてブレンマーVMA70(日油株式会社製、メタクリル酸ステアリルが10〜20質量部、メタクリル酸エイコサニルが10〜20質量部、メタクリル酸ベヘニルが59〜80質量部及びメタクリル酸テトラコサニルの含有率が1質量%以下の混合物)0.88g、エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)としてペンタエリスリトールテトラアリルエーテル0.20g、ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソ酪酸メチル)0.116g、及び反応溶媒としてノルマルヘキサン230.9gを仕込んだ。その後、内容物を攪拌しながらフラスコ内の酸素を除去するために、溶液中に窒素ガスを吹き込んだ。その後、撹拌と窒素ガスの吹き込みを続けた状態で、オイルバスの設定を60〜65℃に設定し、フラスコの内容物を3時間加熱した。その後、3時間60〜65℃に保持した。加熱終了直後、ノルマルヘキサン2.0gにノニオン性界面活性剤(B)(乳化剤)としてポリオキシエチレン(3)ヒマシ油(日光ケミカル株式会社製、NIKKOL CO3)2.0gを溶解させたものを、フラスコに投入し、フラスコの内容物を更に1時間撹拌を続けた。その後、オイルバスの設定温度を100℃に設定して加熱し、フラスコ内からノルマルヘキサンを除去した。その後、フラスコの内容物を減圧乾燥機(Yamatho社製、バキュームドライオーブンDP33)に移し、オーブンの設定温度を115℃に設定し、設定圧力を10mmHgに設定して8時間乾燥し、白色微粉末のカルボキシル基含有重合体組成物38gを得た。表1に示すように、ポリオキシエチレン(3)ヒマシ油を投入した時点の前記重合率は、98%であった。
【0061】
(実施例2)
実施例1において、ポリオキシエチレン(3)ヒマシ油を添加するタイミングを前記重合率が70%の時点(60〜65℃で2時間程度保持した時点)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、白色微粉末のカルボキシル基含有重合体組成物38gを得た。
【0062】
(実施例3)
実施例1において、ポリオキシエチレン(3)ヒマシ油をトリイソステアリン酸ポリオキシエチレン(30)硬化ヒマシ油(日本エマルジョン株式会社製、エマレックスRWIS−330)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、白色微粉末のカルボキシル基含有重合体組成物38gを得た。
【0063】
(実施例4)
実施例1において、ブレンマーVMA−70を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、白色微粉末のカルボキシル基含有重合体組成物38gを得た。
【0064】
(実施例5)
実施例1において、前記重合率が98%(加熱終了後)の時点だけでなく、前記重合率が50%の時点(60〜65℃で1時間程度保持した時点)においてもノルマルヘキサン0.4gにノニオン性界面活性剤(B)(乳化剤)としてポリオキシエチレン(3)ヒマシ油(日光ケミカル株式会社製、NIKKOL CO3)0.4gを溶解させたものを添加したこと以外は、実施例1と同様にして、白色微粉末のカルボキシル基含有重合体組成物38gを得た。
【0065】
(比較例1)
実施例1において、ポリオキシエチレン(3)ヒマシ油を添加するタイミングを前記重合率が50%の時点(60〜65℃で1時間程度保持した時点)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、白色微粉末のカルボキシル基含有重合体組成物38gを得た。
【0066】
(比較例2)
実施例1において、ポリオキシエチレン(3)ヒマシ油を添加するタイミングを重合前(前記重合率が0%の時点)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、白色微粉末のカルボキシル基含有重合体組成物38gを得た。
【0067】
[評価結果]
実施例1〜4、及び比較例1、2の方法で得られたカルボキシル基含有重合体組成物について、上記の方法により、測定し、評価した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0068】
以上の結果より、ノニオン性界面活性剤を、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)の重合率が70%〜100%の時点で添加して得られたカルボキシル基含有重合体組成物は、保存安定性(分散性の安定性)が良好であることがわかる。
【0069】
(実施例6)
攪拌機、温度計、窒素吹き込み管及び冷却管を備えた500mL(ミリリットル)容の四つ口フラスコに、アクリル酸40g、アルキル基の炭素数が18〜24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしてブレンマーVMA70(日油株式会社製、メタクリル酸ステアリルが10〜20質量部、メタクリル酸エイコサニルが10〜20質量部、メタクリル酸ベヘニルが59〜80質量部及びメタクリル酸テトラコサニルの含有率が1質量%以下の混合物)0.88g、エチレン性不飽和基を少なくとも2個有する化合物(a−2)としてペンタエリスリトールテトラアリルエーテル0.20g、ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソ酪酸メチル)0.116g、及び反応溶媒としてノルマルヘキサン230.9gを仕込んだ。その後、内容物を攪拌しながらフラスコ内の酸素を除去するために、溶液中に窒素ガスを吹き込んだ。その後、撹拌と窒素ガスの吹き込みを続けた状態で、オイルバスの設定を60〜65℃に設定し、フラスコの内容物を3時間加熱した。その後、1時間60〜65℃に保持し(重合率75%)、ノルマルヘキサン2.0gに、ノニオン性界面活性剤(B)(乳化剤)として12−ヒドロキシステアリン酸とポリオキシエチレンのブロック共重合体(クローダ製、Hypermer B246)2.0gを溶解させたものを、フラスコに投入した。さらに、2時間、60〜65℃に保持し、反応を完結させた。その後、オイルバスの設定温度を100℃に設定して加熱し、フラスコ内からノルマルヘキサンを除去した。その後、フラスコの内容物を減圧乾燥機(Yamatho社製、バキュームドライオーブンDP33)に移し、オーブンの設定温度を115℃に設定し、設定圧力を10mmHgに設定して8時間乾燥し、白色微粉末のカルボキシル基含有重合体組成物38gを得た。
【0070】
(比較例3)
実施例6において、ノニオン性界面活性剤(B)を添加するタイミングを、前記重合率が0%の時点(モノマー等を仕込む時点)に変更したこと以外は実施例6と同様にして、白色微粉末のカルボキシル基含有重合体組成物38gを得た。
【0071】
[評価結果]
実施例6及び比較例3の方法で得られたカルボキシル基含有重合体組成物について、上記の方法により、アルコールゲルの粘度を測定し、さらに透明性を評価した。その結果を表2に示す。
【表2】
【0072】
以上の結果より、ノニオン性界面活性剤を、α,β−不飽和カルボン酸(a−1)の重合率が75%の時点で添加して得られた実施例6のカルボキシル基含有重合体組成物は、アルコールゲルとした場合の粘性が高く、さらにアルコールゲルの透明性も高いことが分かる。