(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トリグリセリドのsn−1位およびsn−3位の脂肪酸を優先的に遊離させるリパーゼが、シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物由来のリパーゼまたはアルカリゲネス(Alcaligenes)属に属する微生物由来のリパーゼである、請求項1に記載の製造方法。
シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物由来のリパーゼによりsn−1位およびsn−3位の脂肪酸を遊離させる工程が、過剰量のエタノールの存在下に行われる、請求項2に記載の製造方法。
トリグリセリドのsn−1位およびsn−3位の脂肪酸を特異的に遊離させるリパーゼが、クモノスカビ(Rhizopus)属に属する微生物由来のリパーゼである、請求項4に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、パルミトレイン酸を、組成物の全量に対し55モル%以上含有する脂肪酸組成物(以下、本明細書において「本発明の脂肪酸組成物」ともいう)を提供する。
【0015】
本発明の脂肪酸組成物に含有されるパルミトレイン酸は、9位に二重結合を1個有する炭素数16の不飽和脂肪酸((Z)−9−ヘキサデセン酸))である。
本発明の脂肪酸組成物は、パルミトレイン酸を組成物の全量に対し、好ましくは58モル%以上含有し、より好ましくは60モル%以上含有する。
また、後述するリパーゼを用いた製造方法における効率等を考慮すると、本発明の脂肪酸組成物におけるパルミトレイン酸の含有量は、通常70モル%以下である。
【0016】
本発明の脂肪酸組成物は、パルミトレイン酸の他に、炭素数10〜20程度の飽和または不飽和脂肪酸を含有していてもよいが、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する選択的抗菌活性の観点からは、オレイン酸がパルミトレイン酸の抗菌活性に抑制的に作用することから、オレイン酸((Z)−9−オクタデセン酸)の含有量が少ない方が望ましく、パルミトレイン酸とオレイン酸の含有量比(パルミトレイン酸/オレイン酸)が、モル比にて2.4以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。
さらに、本発明の脂肪酸組成物は、酸素に対して不安定であり、皮膚外用剤等として製剤化する際に、安定性等品質に悪影響を及ぼすおそれのあるリノール酸((9Z,12Z)−9,12−オクタデカジエン酸)、α−リノレン酸(9Z,12Z,15Z)−9,12,15−オクタデカトリエン酸)、γ−リノレン酸(6Z,9Z,12Z)−6,9,12−オクタデカトリエン酸)等の多価不飽和脂肪酸を実質的に含有しないことが好ましい。
ここで、「多価不飽和脂肪酸を実質的に含有しない」とは、上記多価不飽和脂肪酸の通常の分析方法、たとえばガスクロマトグラフィーによる定量方法等により、上記多価不法脂肪酸が検出されない、すなわち検出限界(0.1モル%)以下であることをいう。
【0017】
本発明の脂肪酸組成物は、上記の通り、融点が−1℃であるパルミトレイン酸を55モル%以上含有し、長鎖の飽和脂肪酸の含有量が少ないことから、通常20℃で液状を呈する。
【0018】
本発明の脂肪酸組成物は、sn−1位およびsn−3位にパルミトレイン酸を有するトリグリセリドを含有する油脂より、リパーゼによりsn−1位およびsn−3位の脂肪酸を遊離させ、遊離した脂肪酸を回収することにより、好適に得ることができる。また、前記の油脂は、トリグリセリド全体におけるパルミトレイン酸とオレイン酸の含有量比(パルミトレイン酸/オレイン酸)より、sn−1位およびsn−3位におけるパルミトレイン酸とオレイン酸の含有量比(パルミトレイン酸/オレイン酸)の方が大きい油脂であることがより好ましい。
【0019】
上記したトリグリセリドを含有する油脂としては、植物や、酵母等の微生物等から得られる油脂であって、食経験のある油脂であることが好ましく、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)により生産された油脂であることがより好ましい。
サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)としては、脂質生産能の高い形質転換株を用いることが好ましい。かかる形質転換株としては、特開2015−146778号公報に記載されているようなジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)のN末端欠失遺伝子を過剰発現している形質転換株であって、sn−1位およびsn−3位にパルミトレイン酸を有するトリグリセリドの含有量の高い脂質を生産する能力を有するものを、好ましく用いることができる。さらには、DGATのN末端欠失遺伝子をサッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のDGATの遺伝子(DGA1)破壊株で過剰発現させた形質転換株がより好ましい。特に、N末端の29残基を欠失したDGATを、DGA1遺伝子破壊株等の細胞内のヒストンアセチルトランスフェラーゼをコードするESA1遺伝子の機能を低下させたサッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)で過剰発現させた形質転換株が好ましく用いられる。
なお、上記DGATのN末端欠失遺伝子を過剰発現している形質転換株等の作成、培養等は、神坂ら(Appl. Microbiol. Biotechnol. 99 201-210 (2015))、特開2015−146778号公報等に記載された方法に従って行うことができる。
【0020】
本発明の脂肪酸組成物を得るためには、リパーゼとして、トリグリセリドのsn−1位およびsn−3位の脂肪酸を優先的に遊離させるリパーゼ、またはトリグリセリドのsn−1位およびsn−3位の脂肪酸を特異的に遊離させるリパーゼを用いることが好ましい。
トリグリセリドのsn−1位およびsn−3位の脂肪酸を優先的に遊離させるリパーゼとしては、シュードザイマ アンタークティカ(Pseudozyma antarctica)等、シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物、アルカリゲネス(Alcaligenes)属に属する微生物、シュードモナス(Psudomonas)属に属する微生物およびバークホルデリア(Burkholderia)属に属する微生物等に由来するリパーゼが、好ましいものとして挙げられ、なかでも、シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物由来のリパーゼおよびアルカリゲネス(Alcaligenes)属に属する微生物由来のリパーゼがより好ましい。
トリグリセリドのsn−1位およびsn−3位の脂肪酸を特異的に遊離させるリパーゼとしては、リゾプス ジャポニクス(Rhizopus japonicus)やリゾプス オリゼ(Rhizopus oryzae)等のクモノスカビ(Rhizopus)属に属する微生物、リゾムコール ミヘイ(Rhizomucor miehei)等のリゾムコール(Rhizomucor)属に属する微生物、サーモミセス ラヌギノサス(Thermomyces lanuginosus)等のサーモミセス(Thermomyces)属に属する微生物等に由来するリパーゼ、および膵臓リパーゼが、好ましいものとして挙げられる。なかでも、クモノスカビ(Rhizopus)属に属する微生物由来のリパーゼがより好ましい。
【0021】
また、本発明においては、オレイン酸よりもパルミトレイン酸を優先的に遊離させるリパーゼを用いることもできる。
かかるリパーゼとしては、カンジダ ルゴサ(Candida rugosa)等のカンジダ(Candida)属に属する微生物、ゲオトリクム カンディダム(Geotrichum candidum)等のゲオトリクム(Geotrichum)属に属する微生物等に由来するリパーゼが、好ましいものとして挙げられ、カンジダ(Candida)属に属する微生物由来のリパーゼがより好ましい。
【0022】
上記したリパーゼは、遊離型のリパーゼであってもよく、樹脂等の担体に結合させたり、マイクロカプセルまたはリポソームに内包させたりして、固定化されたものであってもよい。
本発明においては、各社より提供されている市販のリパーゼを用いることができる。
【0023】
sn−1位およびsn−3位にパルミトレイン酸を有するトリグリセリドを含有する油脂より、リパーゼによりsn−1位およびsn−3位の脂肪酸を遊離させる反応は、使用するリパーゼの種類により、反応条件を適宜設定して行うことができる。
リパーゼの添加量としては、基質であるトリグリセリド100質量部に対し、通常0.01質量部〜10質量部であり、好ましくは0.03質量部〜1.5質量部である。遊離型の酵素の場合は、水系での反応であり、トリグリセリドに対して添加する水の量は、好ましくは0.01質量%から99質量%、より好ましくは5質量%から95質量%である。固定化酵素の場合は、水を添加しても、しなくてもよい。
酵素反応は、必要に応じて水、ヘキサン等の溶媒を用い、通常5℃〜60℃、好ましくは20℃〜40℃、pH=3〜9、好ましくはpH=5〜7にて、通常0.5時間〜18時間行わせる。反応時間が長くなると、sn−1位からsn−3位のすべてにおいて脂肪酸の遊離が進行したり、アシル基転移が生じたりするため、反応時間は2時間〜3時間程度とすることが好ましい。リパーゼによる加水分解反応を停止させるには、加熱による失活、エタノールやメタノールなどの短鎖アルコールによる失活、静置や遠心分離による油水分離等を行うことが好ましい。固定化酵素の場合は、静置や濾過により固定化酵素を除くだけでよい。未反応のトリグリセリドは、反応液に水酸化カリウム等のアルカリ剤を加え、遊離脂肪酸を鹸化して水層に移行させた後、n−ヘキサン等の非極性有機溶媒により抽出する等して、除去することができる。
なお、リパーゼとして、シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物由来のリパーゼを用いる場合、基質であるトリグリセリド100質量部に対し、500質量部くらいの過剰量のエタノールの存在下に反応させると、前記リパーゼが、sn−1位およびsn−3位に対してほぼ特異的に作用するため、好ましい。かかる場合には、sn−1位およびsn−3位の脂肪酸は、エチルエステルとして遊離するため、通常の方法により鹸化した後、遊離脂肪酸を回収する。
【0024】
上記リパーゼにより遊離された脂肪酸は、(1)シリカゲルカラム等によるカラムクロマトグラフィーによる分離、(2)反応液に水酸化カリウム等のアルカリ剤を加えて、遊離脂肪酸を鹸化して水層に移行させた後、n−ヘキサン等の低極性有機溶媒による抽出等により未反応のトリグリセリドを除去し、水層に塩酸等の酸を添加して酸性とした後、n−ヘキサン等の低極性有機溶媒で抽出し、溶媒を蒸発させて除去する方法、(3)油水分離等により水を除去した後、蒸留により遊離脂肪酸を回収する方法等、通常の方法により回収することができる。
【0025】
本発明の脂肪酸組成物は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対して選択的抗菌活性を有するパルミトレイン酸の含有量が高く(脂肪酸組成物の全量に対し55モル%以上)、パルミトレイン酸の前記選択的抗菌活性を阻害するオレイン酸の含有量が低いため、アトピー性皮膚炎の増悪化に関与する黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の生育を抑制するが、健常な皮膚の常在細菌である表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)の生育は抑制せず、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)を減少させるおそれが少ない。
従って、本発明の脂肪酸組成物は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する選択的抗菌剤として有用であり、皮膚の常在細菌叢を健常な状態に維持し、または改善して、アトピー性皮膚炎の症状の悪化を防止し、またはアトピー性皮膚炎の症状を改善する上で有効な皮膚外用剤、医薬部外品、化粧品等として、あるいは、家事や職務上の皮膚の洗浄、消毒等により生じる肌荒れを予防または改善する上で有効な皮膚外用剤、医薬部外品、化粧品等として、好ましく利用することができる。
【0026】
よって、本発明は、本発明の脂肪酸組成物を含有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する選択的抗菌剤(以下、本明細書において、「本発明の抗菌剤」とも称する)を提供する。
本発明の抗菌剤は、本発明の脂肪酸組成物に、必要に応じて、製剤の分野で用いられる一般的な添加剤を加えて、製剤の分野で周知の製剤化手段、たとえば第十七改正日本薬局方製剤総則[3]製剤各条に記載された方法等により、調製することができ、油状;懸濁液状、乳液状等の液状;ゲル状、ペースト状、クリーム状等の半固形状;粉末状、顆粒状、タブレット状、カプセル状等の固形状等の形態とすることができる。
本発明の目的には、本発明の抗菌剤は、皮膚に外用され得る形態とすることが好ましい。
【0027】
上記添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、被覆剤、基剤、溶剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、安定化剤、粘稠剤、pH調整剤、抗酸化剤、防腐剤、保存剤、矯味剤、甘味剤、香料、着色剤等が挙げられる。
【0028】
賦形剤としては、無水ケイ酸、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、デンプン(トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン等)、糖類(ブドウ糖、乳糖、白糖等)、糖アルコール(ソルビトール、マルチトール、マンニトール等)が挙げられる。
【0029】
結合剤としては、ゼラチン、カゼインナトリウム、デンプン(ヒドロキシプロピルスターチ、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン等)、セルロースおよびその誘導体(結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等が挙げられる。
【0030】
崩壊剤としては、ポビドン、クロスポビドン、セルロースおよびその誘導体(結晶セルロース、メチルセルロース等)等が挙げられる。
【0031】
滑沢剤としては、タルク、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0032】
被覆剤としては、メタクリル酸共重合体(メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体等)、メタクリレート共重合体(アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体等)等が挙げられる。
【0033】
基剤としては、炭化水素(流動パラフィン等)、ポリエチレングリコール(マクロゴール400、マクロゴール1500等)等が挙げられる。
【0034】
溶剤としては、精製水、一価アルコール(エタノール等)、多価アルコール(プロピレングリコール、グリセリン等)等が挙げられる。
【0035】
乳化剤としては、非イオン性界面活性剤(ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等)、陰イオン性界面活性剤(アルキル硫酸ナトリウム、N−アシルグルタミン酸塩等)、精製大豆レシチン等が挙げられる。
【0036】
分散剤としては、アラビアゴム、アルギン酸プロピレングリコール、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等)、陰イオン性界面活性剤(アルキル硫酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0037】
懸濁化剤としては、アルギン酸ナトリウム、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等)等が挙げられる。
【0038】
安定化剤としては、アジピン酸、エチレンジアミン四酢酸塩(カルシウム二ナトリウム塩、二ナトリウム塩等)、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン等が挙げられる。
【0039】
粘稠剤としては、水溶性高分子(ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー等)、多糖類(アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、トラガント等)等が挙げられる。
【0040】
pH調整剤としては、塩酸、リン酸、酢酸、クエン酸、乳酸、水酸化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0041】
抗酸化剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸、没食子酸プロピル等が挙げられる。
【0042】
防腐剤としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル(パラオキシ安息香酸メチル等)等が挙げられる。
また、保存剤としては、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビトール、パラオキシ安息香酸エステル(パラオキシ安息香酸メチル等)、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0043】
矯味剤としては、アスコルビン酸、エリスリトール、5’−グアニル酸二ナトリウム、クエン酸、L−グルタミン酸ナトリウム、酒石酸、DL−リンゴ酸等が挙げられる。
また、甘味剤としては、アスパルテーム、カンゾウエキス、サッカリン等が挙げられる。
【0044】
香料としては、オレンジエッセンス、l−メントール、d−ボルネオール、バニリン、リナロール等が挙げられる。
【0045】
着色剤としては、タール色素(食用赤色2号、食用青色1号、食用黄色4号等)、無機顔料(ベンガラ、黄色三二酸化鉄、酸化チタン等)、天然色素(アナトー色素、ウコン色素、カロテノイド等)等が挙げられる。
【0046】
上記した添加剤は、必要に応じて、1種または2種以上を用いることができる。
【0047】
本発明の抗菌剤における、本発明の脂肪酸組成物の含有量としては、本発明の抗菌剤の全量に対するパルミトレイン酸の含有量として、通常0.001質量%〜10質量%であり、0.005質量%〜5質量%であることが好ましい。
【0048】
本発明の抗菌剤の適用量は、本発明の抗菌剤が適用される対象(以下、本明細書において「適用対象」ともいう)の種別、性別、年齢、皮膚の状態、本発明の抗菌剤の剤形、適用経路等により適宜決定されるが、適用対象がヒト成人であり、外用により適用する場合、パルミトレイン酸の適用量として、1回あたり通常0.02μg/cm
2〜200μg/cm
2であり、好ましくは、0.1μg/cm
2〜100μg/cm
2である。
上記の量は、1日に1回〜数回、適用することができる。
本発明の抗菌剤の適用期間は、適用対象において観察される皮膚の状態(皮膚常在細菌叢のバランスの状態)等により適宜決定されるが、通常1日間〜30日間であり、好ましくは3日間〜15日間である。
なお、本発明の抗菌剤は、安全性の確認された酵母等の脂質より得られるパルミトレイン酸を有効成分とするため安全性が高く、連続した適用に適する。
【0049】
本発明の抗菌剤の適用対象となる動物(以下、本明細書において「対象動物」ともいう)としては、哺乳動物(ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ、ヒツジ等)等が挙げられる。なお、本発明の抗菌剤をヒト以外の対象動物に適用する場合、本発明の抗菌剤の適用量は、対象動物の種類、性別、体重、皮膚の状態等に応じて適宜設定すればよい。
【0050】
本発明の抗菌剤は、皮膚常在細菌叢のバランスの乱れを正常な状態に改善し、または皮膚常在細菌叢のバランスを正常な状態に維持して、アトピー性皮膚炎の症状の悪化の防止、またはアトピー性皮膚炎の症状の改善に有効であり、アトピー性皮膚炎患者またはアトピー性皮膚炎の症状を呈する動物に対し、好適に適用することができる。
また、本発明の抗菌剤は、アトピー性皮膚炎患者のみならず、家事や職務上、皮膚の洗浄、消毒等を行う頻度が高く、手荒れ等、肌荒れ症状を呈するおそれのある者または肌荒れ症状を呈する者においても、肌荒れ症状を予防しまたは改善するために好適に適用され得る。
【0051】
本発明はまた、本発明の脂肪酸組成物を含有する皮膚外用剤(以下、本明細書において「本発明の皮膚外用剤」ともいう)を提供する。
ここで、「皮膚外用剤」とは、皮膚の病変部位に外用にて適用される医薬品をいうが、皮膚を通して有効成分を循環血流に送達させることを目的とした経皮吸収型製剤も含まれる。
本発明の皮膚外用剤は、本発明の脂肪酸組成物に、必要に応じて、皮膚外用剤の製造に際して用いられる一般的な添加剤を加えて、外用散剤等の外用固形剤;リニメント剤、ローション剤(液剤、乳濁液剤、懸濁液剤等)等の外用液剤;外用エアゾール剤、ポンプスプレー剤等のスプレー剤;油脂性軟膏剤、水溶性軟膏剤等の軟膏剤;水中油型または油中水型のクリーム剤;水性ゲル剤、油性ゲル剤等のゲル剤;テープ剤、パップ剤等の貼付剤等の剤形で提供することができる。
本発明の皮膚外用剤は、一般的な皮膚外用剤の製造方法、たとえば、第十七改正日本薬局方製剤総則[3]製剤各条の「11.皮膚などに適用する製剤」の項に記載された方法に従って、製造することができる。
【0052】
本発明の皮膚外用剤には、上記した賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、基剤、溶剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、安定化剤、粘稠剤、pH調整剤、抗酸化剤、防腐剤、保存剤、香料、着色剤等の1種または2種以上を用いることができる。
【0053】
また、本発明の皮膚外用剤には、本発明の特徴を損なわない範囲で、イブプロフェンピコナール、スプロフェン、ブフェキサマク、ベンダザック、ウフェナマート、グリチルレチン酸等の非ステロイド性抗炎症薬;酪酸クロベタゾン等の副腎皮質ステロイド;フシジン酸ナトリウム、ムピロシン等の抗生物質;タクロリムス水和物等の免疫調整外用薬等を含有させることができる。
【0054】
本発明の皮膚外用剤における、本発明の脂肪酸組成物の含有量は、本発明の抗菌剤について上記した含有量と同様である。
【0055】
本発明の皮膚外用剤は、アトピー性皮膚炎患者またはアトピー性皮膚炎の症状を呈する動物に対し、炎症の悪化の防止または症状の改善のために、好適に適用することができる。
また、本発明の皮膚外用剤は、皮膚の洗浄、消毒等に起因する手荒れ等、肌荒れ症状を呈するおそれのある者または肌荒れ症状を呈する者においても、肌荒れ症状を予防しまたは改善するために、好適に適用することができる。
本発明の皮膚外用剤の1日あたりの適用量および適用期間は、本発明の皮膚外用剤の適用対象の種別、性別、年齢、皮膚症状の程度、本発明の皮膚外用剤の剤形等により適宜決定される。たとえば、ヒト成人の場合、パルミトレイン酸の適用量として、本発明の抗菌剤について上述した適用量と同程度の量となるように適用することができ、本発明の抗菌剤について上記した回数及び期間にて適用することができる。
【0056】
さらに本発明は、本発明の脂肪酸組成物を含有する医薬部外品、特に皮膚外用医薬部外品(以下、本明細書において「本発明の医薬部外品」ともいう)または化粧品(以下、本明細書において「本発明の化粧品」ともいう)を提供する。
ここで、「医薬部外品」とは、医薬品よりは人体等に対する効果が緩和であるが、何らかの改善効果を有するものをいい、特に皮膚に外用される医薬部外品を「皮膚外用医薬部外品」という。いわゆる薬用化粧品は、皮膚外用医薬部外品に含まれる。
また、「化粧品」とは、身体を清潔にしたり、見た目を美しくしたりする目的で、皮膚等に適用されるもので、作用の緩和なものをいう。
本発明の医薬部外品または化粧品は、上記した本発明の皮膚外用剤に準じて製造することができ、化粧水、美容液、乳液、クリーム、洗顔料、パック、身体用洗浄料等の形態で提供され得る。
【0057】
本発明の医薬部外品または化粧品には、本発明の特徴を損なわない範囲で、多価アルコール(グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール等)、アミノ酸またはその塩(アラニン、セリン、プロリン、DL−ピロリドンカルボン酸ナトリウム等)、タンパク質(ホエイ、水溶性コラーゲン、加水分解エラスチン等)、核酸(デオキシリボ核酸ナトリウム等)、ムコ多糖(コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等)、ヘパリン類似物質、植物抽出物(アシタバ抽出物、キュウリ抽出物、シラカバ抽出物等)等の保湿剤;アズレン類(アズレン、グアイアズレン、グアイアズレンスルホン酸エチル、グアイアズレンスルホン酸ナトリウム等)、アラントインおよびその誘導体(アラントイン、アスコルビン酸アラントイン、アラントイングリチルレチン酸等)、ビタミン((アスコルビル/トコフェリル)リン酸カリウム、パンテノール等)、植物抽出物(カミツレ抽出物、カンゾウ抽出物、キダチアロエ抽出物等)、グリチルリチン酸およびその塩(グリチルリチン酸、グリチルリチン酸アンモニウム、グリチルリチン酸二カリウム等)、グリチルレチン酸およびその誘導体(グリチルレチン酸、グリチルレチン酸グリセリル、グリチルレチン酸ピリドキシン、サクシニルグリチルレチン酸二ナトリウム等)等の抗炎症・肌荒れ防止剤等を含有させることができる。
【0058】
本発明の医薬部外品または化粧品における本発明の脂肪酸組成物の含有量は、本発明の皮膚外用剤に準じて適宜決定することができるが、パルミトレイン酸の1日あたりの適用量が、本発明の抗菌剤について上記した1日あたりの適用量となるように、本発明の脂肪酸組成物が適用されるように設定されることが好ましい。
【0059】
本発明の医薬部外品または化粧品は、アトピー性皮膚炎患者の皮膚の状態の悪化を防止し、またはアトピー性皮膚炎患者の皮膚の状態を改善するために、あるいは、手荒れ等、肌荒れ症状を呈するおそれのある者または肌荒れ症状を呈する者において、肌荒れ症状を予防しまたは改善するために、好適に用いることができる。
また、本発明の医薬部外品または化粧品は、主としてヒトの皮膚、特にアトピー素因を有するヒト、または、特に皮膚の洗浄、消毒等に起因する肌荒れ症状を呈するヒトの皮膚の常在細菌叢のバランスを、正常な状態に維持するために好適に用いられる。
特に、本発明の医薬部外品または化粧品は、安全性の確認された酵母等の脂質より得られるパルミトレイン酸を有効成分として含有するため安全性が高く、日常的な皮膚の手入れを目的として、長期間にわたり連続して適用することができる。
【0060】
さらに、本発明は、上記した本発明の脂肪酸組成物の製造方法(以下、本明細書において「本発明の製造方法」とも称する)を提供する。
本発明の製造方法は、(1)sn−1位およびsn−3位にパルミトレイン酸を有するトリグリセリドを含有する油脂より、リパーゼによりsn−1位およびsn−3位の脂肪酸を遊離させる工程、および(2)前記工程で遊離させた脂肪酸を回収する工程を含む。
【0061】
本発明において用い得るsn−1位およびsn−3位にパルミトレイン酸を有するトリグリセリドを含有する油脂、ならびにリパーゼの種類等、本発明において、sn−1位およびsn−3位の脂肪酸を遊離させるための酵素反応の条件、遊離させた脂肪酸の回収方法等については、本発明の脂肪酸組成物に関して上述した通りである。
【0062】
本発明の製造方法における各工程においては、本発明の特徴を損なわない範囲で、適宜必要に応じて、再結晶、各種クロマトグラフィー等の精製手段、ろ過、遠心分離等の固液分離手段等を用いることができる。
【実施例】
【0063】
さらに本発明について、実施例により詳細に説明する。
【0064】
[参考例1]精製酵母トリグリセリドの調製
神坂ら(特開2015−146778号公報)に記載された方法により、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換体により生産された油脂を回収した。前記油脂(5g)中に残存する溶媒をエバポレーターで除去し、脱溶媒後の油脂3.57gを、n−ヘキサン:酢酸エチル=98:2(容量比)で平衡化したシリカゲルクロマトグラフィー(2.6cm×26cm)に負荷して、前記溶媒40mL×15本、およびヘキサン:酢酸エチル=95:5(容量比)40mL×15本で溶出させた。トリアシルグリセリドを含むフラクションNo.15〜25の画分を回収し、エバポレーターで溶媒を除去し、参考例1の精製酵母トリグリセリド2.74gを得た。
【0065】
参考例1の精製酵母トリグリセリドについて、sn−1,3位およびsn−2位の脂肪酸組成を、下記の通り、Y. Watanabeらの方法(J. Oleo Sci., 64, 1193 (2015))に従って測定した。
参考例1の精製酵母トリグリセリド100mgに、エタノール1gおよびシュードザイマ アンタークティカ(Pseudozyma antarctica)由来の固定化リパーゼ(「ノボザイム(Novozyme)435)」(ノボザイムズ(Novozumes)社))0.044gを加え、30℃で往復振とうさせながら3時間反応させ、ろ過して上清を回収した。次いで、エバポレーターで溶媒を除去し、全量を、n−ヘキサン:ジエチルエーテル=8:2(容量比)で平衡化したセプ−パックシリカ(Sep-Pack silica)カートリッジ(「WAT051900」(ウォーターズ(Waters)社))に負荷し、前記溶媒30mLにより、脂肪酸エチルエステルおよびジグリセリドを溶出させて除去した。次に、ジエチルエーテル10mLでsn−2位にアシル基を一つ有するモノグリセリド(sn−2モノグリセリド)を溶出させ、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去した。
【0066】
メタノール3mLに、参考例1のトリグリセリドおよび前記由来のsn−2モノグリセリド各5μL、および28質量%のナトリウムメトキシドのメタノール溶液を添加し、75℃で15分間加熱して、脂肪酸のメチルエステル化を行った。放冷後、n−ヘキサン0.5mLを添加混合し、次いで水3mLを添加混合して、脂肪酸メチルエステルをn−ヘキサンにて抽出し、n−ヘキサン層を回収した。
回収したn−ヘキサン層を、キャピラリーガスクロマトグラフ(「Agilent 6890N」(アジレントテクノロジー(Agilent Technologies)社)にて下記の条件下に分析し、脂肪酸の定量を行った。
【0067】
<分析条件>
キャピラリーカラム:DB−23(0.25mm×30m)(アジレントテクノロジー(Agilent Technologies)社)
注入口温度:245℃
注入量:3μL
検出器:水素炎イオン化型検出器(FID)(250℃)
カラム温度:
(1)150℃で0.5分間保持
(2)150℃〜170℃;4℃/分にて昇温
(3)170℃〜195℃;5℃/分にて昇温
(4)195℃〜215℃;10℃/分にて昇温
(5)215℃で11分間保持
【0068】
参考例1の精製酵母トリグリセリド(sn−1,2,3位の全脂肪酸の組成)およびsn−2モノグリセリドの脂肪酸組成(モル%)から、sn−1,3位の脂肪酸組成(モル%)を算出した。その結果を表1に示した。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示されるように、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の形質転換体由来の参考例1の精製酵母トリグリセリドには、従来の植物油脂等に比べてパルミトレイン酸が多く含まれることが認められた。一方、酸化安定性が悪く、製剤安定性の観点から好ましくない多価不飽和脂肪酸がほとんど含まれないことが認められた。
また、表1に示されるように、参考例1の精製酵母トリグリセリドでは、トリグリセリド全体における脂肪酸組成(sn−1,2,3位の全脂肪酸組成)に比べて、sn−1,3位におけるパルミトレイン酸含有量が多く、sn−1,3位におけるオレイン酸含有量が少ない、すなわちパルミトレイン酸とオレイン酸の含有量比(パルミトレイン酸/オレイン酸)が高いことが分かる。
つまり、参考例1の精製酵母トリグリセリドは、パルミトレイン酸を20モル%以上含むが、リノール酸を10モル%程度含むシーベリー油や、リノール酸とリノレイン酸をそれぞれ2モル%〜3モル%ずつ含むマカダミアナッツ油に比べて、本発明の脂肪酸組成物を製造するための出発原料として有用である。
【0071】
[実施例1]シュードザイマ アンタークティカ(Pseudozyma antarctica)由来の固定化リパーゼを用いた脂肪酸組成物の調製
参考例1の精製酵母トリグリセリド200mgに、エタノール2gおよび上記ノボザイム(Novozyme)435(ノボザイムズ(Novozumes)社)0.088gを加え、30℃で往復振とうさせながら2.5時間反応させ、ろ過して上清を回収した。次いで、エバポレーターで溶媒を除去し、半量ずつ、n−ヘキサン:ジエチルエーテル=8:2(容量比)で平衡化したセプ−パックシリカ(Sep-Pack silica)カートリッジ(「WAT051900」(ウォーターズ(Waters)社))に負荷し、前記溶媒10mLで脂肪酸エチルエステルを溶出させた。さらに、前記溶媒30mLにより、ジグリセリドを溶出させて除去した。次に、ジエチルエーテル10mLでsn−2モノグリセリドを溶出させ、エバポレーターで溶媒を除去した。
2回分のカラム分画により得られた脂肪酸エチルエステルを混合し、脱溶媒後(推定130mg)、エタノール3gおよび5M水酸化ナトリウム0.2gを加え、60℃で15分間加熱し、鹸化した。次いで、室温まで冷却して水4mLを添加し、酸性になるまで2M塩酸を添加した後、n−ヘキサン3mLで2回抽出した。ヘキサン層を回収してエバポレーターで溶媒を除去し、遊離脂肪酸を回収した(実施例1の脂肪酸組成物)。
一方、2回分のカラム分画により得られたsn−2モノグリセリドを混合し、脱溶媒後(推定50mg)、エタノール3g、水0.1mLおよび5M水酸化ナトリウム0.1gを加え、60℃で15分間加熱し、鹸化した。次いで、室温まで冷却して水4mLを添加し、酸性になるまで2M塩酸を添加した後、n−ヘキサン3mLで2回抽出した。ヘキサン層を回収してエバポレーターで溶媒を除去し、遊離脂肪酸を回収し、比較例1の脂肪酸組成物とした。
また、ノボザイム(Novozume)435を用いた上記の反応を一昼夜行わせると、トリグリセリドのsn−1,2,3位の脂肪酸がすべてエチルエステルに変換されるため、一昼夜反応させて得られる遊離脂肪酸の組成は、出発物質として用いた参考例1の精製酵母トリグリセリドにおける脂肪酸組成と同様であると考えることができる。そこで、比較のため、次のように、一昼夜反応させた場合の脂肪酸組成物を調製した。
参考例1の精製酵母トリグリセリド200mgに、エタノール2gおよび上記ノボザイム(Novozyme)435(ノボザイムズ(Novozumes)社)0.088gを加え、30℃で往復振とうさせながら24時間反応させ、ろ過して上清を回収し、エバポレーターで溶媒を除去した。次に、得られたエチルエステル(約200mg)に、エタノール6gおよび5M水酸化ナトリウム0.4gを加え、60℃で15分間加熱し、鹸化した。次いで、室温まで冷却して水10mLを添加し、酸性になるまで2M塩酸を添加した後、n−ヘキサン10mLで2回抽出した。ヘキサン層を回収してエバポレーターで溶媒を除去し、遊離脂肪酸を回収した(24時間反応生成物)。
【0072】
[実施例2]リゾプス ジャポニクス(Rhizopus japonicus)由来のリパーゼを用いた脂肪酸組成物の調製
参考例1の精製酵母トリグリセリド200mgに、水1.8mLおよびリゾプス ジャポニクス(Rhizopus japonicus)由来のリパーゼ(「リリパーゼA−10D」(ナガセケムテックス株式会社))(25mg/mL)0.053mLを加え、35℃にて350rpmで撹拌しながら2.5時間反応させた後、エタノール10mLを添加して反応を停止させ、50mM水酸化カリウムで遊離脂肪酸を滴定することにより、加水分解率を求めた。
次に、滴定後の溶液に水10mLと5M水酸化カリウム1mLを添加し、n−ヘキサン15mLで3回抽出して、未反応のトリグリセリドを除去した。次いで、水層に2M塩酸を酸性になるまで添加し、n−ヘキサン15mLで2回抽出した。ヘキサン層を回収してエバポレーターで溶媒を除去し、遊離脂肪酸を回収した(実施例2の脂肪酸組成物)。
また、比較のため、次のように、上記リパーゼによる反応を一昼夜行わせて脂肪酸組成物を調製した。
参考例1の精製酵母トリグリセリド200mgに、水1.53mLおよびリリパーゼA−10D(ナガセケムテックス株式会社)(25mg/mL)0.27mLを加え、35℃にて350rpmで撹拌しながら24時間反応させた後、上記と同様の操作を行い、遊離脂肪酸を回収した(24時間反応生成物)。
【0073】
[実施例3]カンジダ ルゴサ(Candida rugosa)由来のリパーゼを用いた脂肪酸組成物の調製
参考例1の精製酵母トリグリセリド100mgに、水0.9mLおよびカンジダ ルゴサ(Candida rugosa)由来のリパーゼ(「リパーゼOF」(名糖産業株式会社))(10mg/mL)0.011mLを加え、35℃にて350rpmで撹拌しながら2.5時間反応させた後、エタノール10mLを添加して反応を停止させ、50mM水酸化カリウムで遊離脂肪酸を滴定することにより、加水分解率を求めた。
次に、滴定後の溶液に水10mLと5M水酸化カリウム1mLを添加し、n−ヘキサン15mLで3回抽出して、未反応のトリグリセリドを除去した。次いで、水層に2M塩酸を酸性になるまで添加し、n−ヘキサン15mLで2回抽出した。ヘキサン層を回収してエバポレーターで溶媒を除去し、遊離脂肪酸を回収した(実施例3の脂肪酸組成物)。
また、比較のため、次のように、上記リパーゼによる反応を一昼夜行わせて脂肪酸組成物を調製した。
参考例1の精製酵母トリグリセリド100mgに、水0.84mLおよびリパーゼOF(名糖産業株式会社)(10mg/mL)0.06mLを加え、35℃にて350rpmで撹拌しながら24時間反応させた後、上記と同様の操作を行い、遊離脂肪酸を回収した(24時間反応生成物)。
【0074】
[実施例4]アルカリゲネス(Alcaligenes)属に属する微生物由来のリパーゼを用いた脂肪酸組成物の調製
参考例1の精製酵母トリグリセリド200mgに、水1.97mLおよびアルカリゲネス(Alcaligenes)属に属する微生物由来のリパーゼ(「リパーゼQLM」(名糖産業株式会社))(50mg/mL)0.03mLを加え、35℃にて350rpmで撹拌しながら2.5時間反応させた後、エタノール10mLを添加して反応を停止させ、50mM水酸化カリウムで遊離脂肪酸を滴定することにより、加水分解率を求めた。
次に、滴定後の溶液に水10mLと5M水酸化カリウム1mLを添加し、n−ヘキサン15mLで3回抽出して、未反応のトリグリセリドを除去した。次いで、水層に2M塩酸を酸性になるまで添加し、n−ヘキサン15mLで2回抽出した。ヘキサン層を回収してエバポレーターで溶媒を除去し、遊離脂肪酸を回収した(実施例4の脂肪酸組成物)。
また、比較のため、次のように、上記リパーゼによる反応を一昼夜行わせて脂肪酸組成物を調製した。
参考例1の精製酵母トリグリセリド100mgに、水0.6mLおよびリパーゼQLM(名糖産業株式会社)(50mg/mL)0.4mLを加え、35℃にて350rpmで撹拌しながら24時間反応させた後、上記と同様の操作を行い、遊離脂肪酸を回収した(24時間反応生成物)。
【0075】
[比較例2]鹸化による脂肪酸組成物の調製
参考例1の精製酵母トリグリセリド50mgに、エタノール3g、水0.1mLおよび5M水酸化ナトリウム0.1gを加え、60℃で15分間加熱して鹸化した。次いで室温まで冷却し、水4mLを添加して、酸性になるまで2M塩酸を添加し、n−ヘキサン3mLで2回抽出した。ヘキサン層を回収し、エバポレーターで溶媒を除去して遊離脂肪酸を回収し、比較例2の脂肪酸組成物とした。
【0076】
[試験例1]脂肪酸組成の分析
実施例1〜4の各脂肪酸組成物および、各実施例で比較のために24時間反応させて得られた脂肪酸組成物(24時間反応生成物)について、脂肪酸組成の分析を行った。
メタノール3mLに、上記各試料5μLおよび14質量%の三フッ化ホウ素メタノール錯体のメタノール溶液を添加し、75℃で15分間加熱して、脂肪酸のメチルエステル化を行った。放冷後、n−ヘキサン0.5mLを添加混合し、次いで水3mLを添加混合して、脂肪酸メチルエステルをn−ヘキサンにて抽出し、n−ヘキサン層を回収した。
回収したn−ヘキサン層を、上記参考例1の精製酵母トリグリセリドの脂肪酸組成の分析と同様の条件下、キャピラリーガスクロマトグラフ(「Agilent 6890N」(アジレントテクノロジー(Agilent Technologies)社)にて分析し、脂肪酸の定量を行った。
脂肪酸組成の分析結果を表2に示した。
【0077】
【表2】
【0078】
実施例2〜4の脂肪酸組成物の調製時における加水分解率を、表3に示した。なお、実施例1の脂肪酸組成物の調製時(シュードザイマ アンタークティカ(Pseudozyma antarctica)由来の固定化リパーゼを用いた場合)には、滴定により加水分解率を求めることができなかったため、文献値から推定される加水分解率を記載した。
【0079】
【表3】
【0080】
表2に示されるように、実施例1の脂肪酸組成物において、参考例1の精製酵母トリグリセリドに比べ、パルミトレイン酸含有量が向上し、かつオレイン酸含有量が低下し、パルミトレイン酸とオレイン酸との含有量比(パルミトレイン酸/オレイン酸)がモル比にて1.62から3.52に上昇したことが認められた。また、実施例1の脂肪酸組成物の脂肪酸組成は、参考例1の精製酵母トリグリセリドのsn−1,3位の脂肪酸組成に近く、過剰量のエタノールの存在下に、シュードザイマ アンタークティカ(Pseudozyma antarctica)由来の固定化リパーゼにより、トリグリセリドのsn−1,3位に結合したパルミトレイン酸が優先的に遊離されることが確認された。
また、表3に示されるように、実施例1の脂肪酸組成物の調製において、2.5時間反応後における加水分解率は約67%と推定される。すなわち、シュードザイマ アンタークティカ(Pseudozyma antarctica)由来の固定化リパーゼを用いる方法は、生成された脂肪酸エチルエステルを鹸化する工程を要するものの、収率が高い方法であることが示唆された。
【0081】
実施例2の脂肪酸組成物は、トリグリセリドのsn−1,3位に特異的に作用するリゾプス ジャポニクス(Rhizopus japonicus)由来のリパーゼにより得られたため、表2に示されるように、実施例1の脂肪酸組成物よりもパルミトレイン酸含有量が高く、かつオレイン酸含有量が低く、パルミトレイン酸とオレイン酸の含有量比(パルミトレイン酸/オレイン酸)についても、モル比にて3.99と高い値が認められた。
しかしながら、表3に示されるように、実施例2の脂肪酸組成物の調製において、2.5時間反応後の加水分解率はやや低く、収率がやや低い傾向が認められた。これは、リゾプス ジャポニクス(Rhizopus japonicus)由来のリパーゼによる反応においては、加水分解とエステル化反応の双方が起こり、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロールおよび遊離脂肪酸が、一定の比率にて平衡になる傾向があるためである。
また、リゾプス ジャポニクス(Rhizopus japonicus)由来のリパーゼはsn−1,3位に特異的であるものの、反応時間が長くなると、ジグリセリドまたはモノグリセリドのsn−2位とsn−1位またはsn−3位の間で非酵素的なアシル基転移が生じ、sn−2位の脂肪酸がゆっくりと遊離されるため、24時間反応させた後のパルミトレイン酸とオレイン酸の含有量比(パルミトレイン酸/オレイン酸)は、2.5時間反応後に比べて低下した。
【0082】
実施例3の脂肪酸組成物は、トリグリセリドのsn−1,2,3位に均等に作用するが、オレイン酸よりもパルミトレイン酸に対し良好に作用するカンジダ ルゴサ(Candida rugosa)由来のリパーゼを用いて調製され、前記リパーゼが飽和脂肪酸には作用しにくいことから、表2において、他の実施例の組成物に比べて高いパルミトレイン酸含有量を示した。
また、表3より、実施例3の調製の際に、反応時間を24時間とした場合には、トリグリセリドの加水分解はほぼ完全に進行することが認められた。
【0083】
実施例4の脂肪酸組成物は、トリグリセリドのsn−1,2,3位に均等に作用し、またはsn−1,3位に対して優先的に作用するものの、脂肪酸特異性を示さないアルカリゲネス(Alcaligenes)属に属する微生物由来のリパーゼを用いて調製されたため、表2に示されるように、パルミトレイン酸含有量は参考例1の精製酵母トリグリセリドよりもやや向上するものの、その程度は、実施例1〜3の脂肪酸組成物のそれぞれに比べてやや低いものであった。
なお、表3より、実施例4の脂肪酸組成物の調製の際に、反応時間を24時間とした場合には、トリグリセリドの加水分解はほぼ完全に進行することが認められた。
【0084】
[試験例2]抗菌活性の評価
実施例1〜4の各脂肪酸組成物および、各実施例で比較のために24時間反応させて得られた脂肪酸組成物(24時間反応生成物)、ならびに比較例1、2の各脂肪酸組成物について、日本化学療法学会標準法である微量液体希釈法に従って最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration,MIC)を測定し、抗菌活性を評価した。
(1)試験菌株懸濁液
Staphylococcus aureus NBRC13276株およびStaphylococcus epidermidis NBRC100911株をそれぞれN.B.培地(0.5質量%鰹肉エキス(和光純薬工業株式会社)、1質量%ポリペプトン(日本製薬株式会社)、0.5質量%塩化ナトリウム、pH=7.0)3mLに1白金耳植菌し、振とうしながら37℃で一晩前々培養した。この前々培養液を、植菌量が20質量%となるように、新しいN.B.培地4mLに植菌し、振とうしながら37℃で3時間前培養した。660nmにおける濁度(OD
660)の測定値から、OD
660=1における生菌数が6.4×10
8コロニーフォーミングユニット(colony forming unit,cfu)/mLとして生菌数を算定し、この前培養液を、2.0×10
4cfu/mLとなるように、N.B.培地(pH=6.0)で希釈して、試験菌株懸濁液を調製した。
(2)供試試料
実施例1〜4の各脂肪酸組成物および、各実施例で比較のために24時間反応させて得られた脂肪酸組成物(24時間反応生成物)、ならびに比較例1、2の各脂肪酸組成物を、それぞれ10,000μg/mLとなるようにジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、各供試試料とした。
また、対照として、試薬のパルミトレイン酸およびオレイン酸(東京化成工業株式会社)についても、同様に抗菌活性を評価した。
(3)MICの測定
試験菌株懸濁液(2.0×10
4cfu/mL)234μLを96穴丸底マイクロプレートの2列目に分注し、3〜11列目には130μLずつ分注した。次いで、供試試料(10,000μg/mL)26μLをマイクロプレートの2列目に添加し、ピペッティングにより十分懸濁し、10倍に希釈した。次に、この懸濁液130μLをマイクロプレートの3列目に添加して懸濁し、順次2倍ずつ段階的に希釈した。
マイクロプレートを37℃にて2日間静置して培養した後、試験菌株の生育を、培養液の濁度または沈殿した菌体の有無を目視により確認して判定し、試験菌株の生育が見られなくなる供試試料の最小濃度を、MICとした。
【0085】
抗菌活性の評価結果を、表4に示した。
【0086】
【表4】
【0087】
表4に示されるように、パルミトレイン酸は、低濃度でStaphylococcus aureus NBRC13276株の生育を選択的に抑制したが、オレイン酸は、Staphylococcus aureus NBRC13276株に対して有効な抗菌活性を示さなかった。
パルミトレイン酸含有量が高く、オレイン酸含有量が低く、参考例1の精製酵母トリグリセリドに比べてパルミトレイン酸とオレイン酸との含有量比(パルミトレイン酸/オレイン酸)が向上した実施例1〜3の脂肪酸組成物については、Staphylococcus aureus NBRC13276株に対し良好な抗菌活性が認められた。一方、皮膚の常在細菌であるStaphylococcus epidermidis NBRC100911株の生育には影響を与えないことが認められた。
これに対し、sn−2モノグリセリド由来で、オレイン酸含有量の高い比較例1の脂肪酸組成物は、Staphylococcus aureus NBRC13276株に対して抗菌活性を示さず、参考例1の精製トリグリセリドの鹸化物で、パルミトレイン酸およびオレイン酸を含む比較例2の脂肪酸組成物では、各実施例の脂肪酸組成物に比べて抗菌活性の低下が認められ、オレイン酸の存在により、パルミトレイン酸のStaphylococcus aureus NBRC13276株に対する抗菌活性が阻害されることが示唆された。
また、他の実施例に比べて、パルミトレイン酸含有量がやや低い実施例4の脂肪酸組成物についても、他の実施例に比べれば低いものの、Staphylococcus aureus NBRC13276株に対する選択的な抗菌活性が認められた。
トリグリセリドの加水分解がほぼ完全に進行した実施例1、3、4の24時間反応生成組成物は、パルミトレイン酸含有量およびオレイン酸含有量が比較例2の脂肪酸組成物と同程度であり、表4に示されるように、Staphylococcus aureus NBRC13276株に対する抗菌活性は認められなかった。
【0088】
[試験例3]皮膚外用剤における脂肪酸組成物の有効量について、共培養法による検討
(1)試験菌
N.B.寒天培地(0.1質量%鰹肉エキス(和光純薬工業株式会社)、1質量%ポリペプトン(日本製薬株式会社)、7.5質量%塩化ナトリウム、2質量%寒天、pH=6.0)の同一プレートに、Staphylococcus aureus NBRC13276株およびStaphylococcus epidermidis NBRC100911株を、それぞれ3,000cfu/cm
2となるように塗布した。
(2)試料
皮膚外用剤のモデルとして、N.B.液体培地(0.5質量%鰹肉エキス、1質量%ポリペプトン、0.5質量%塩化ナトリウム、0.4質量%増粘剤(グアーガム)、pH=6.0)に、実施例1の脂肪酸組成物を0.5質量%となるように懸濁し、次いで0.001質量%となるまで、順次2倍ずつ段階的に希釈した。
なお、実施例1の脂肪酸組成物を添加しないものを対照(control)とした。
(3)脂肪酸組成物の有効量の算出
上記の試料および対照を2mg/cm
2となるように、上記2種の試験菌を塗布したN.B.寒天培地に塗布した。37℃で2日間培養後、生育した細菌を綿棒で回収して7.5質量%食塩水に懸濁し、適宜希釈後、卵黄添加マンニット食塩寒天培地(アズワン株式会社)に塗布した。37℃で1日間培養後、生育したコロニーの形状および色ならびに卵黄反応陽性か陰性かにより、Staphylococcus aureus NBRC13276株とStaphylococcus epidermidis NBRC100911株を判別した。
(3)結果
上記の検討結果を
図1に示した。皮膚外用剤のモデルである試料中における実施例1の脂肪酸組成物の含有量が0.0313質量%以上で、Staphylococcus aureus NBRC13276株の生育が完全に抑制され、Staphylococcus epidermidis NBRC100911株のみが生育することが認められた。
0.0313質量%の脂肪酸組成物を含む皮膚外用剤モデル試料を2mg/cm
2となるように皮膚に塗布した場合、皮膚における脂肪酸組成物の塗布量は0.625μg/cm
2であり、パルミトレイン酸の塗布量は、0.37μg/cm
2となる。
従って、本発明の皮膚外用剤を適用する場合、パルミトレイン酸の適用量として、0.37μg/cm
2で黄色ブドウ球菌の生育を抑制し得る可能性が示唆された。