(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872319
(24)【登録日】2021年4月21日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】発熱シート及び放熱シートを有するシステム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/6571 20140101AFI20210510BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20210510BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20210510BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20210510BHJP
H01M 10/615 20140101ALI20210510BHJP
H01M 10/653 20140101ALI20210510BHJP
H01M 10/651 20140101ALI20210510BHJP
H01M 10/647 20140101ALI20210510BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
H01M10/6571
H01L23/36 D
H01M10/48 301
H01M10/613
H01M10/615
H01M10/653
H01M10/651
H01M10/647
H05K7/20 A
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-94533(P2016-94533)
(22)【出願日】2016年5月10日
(65)【公開番号】特開2017-204358(P2017-204358A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【弁理士】
【氏名又は名称】貞廣 知行
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】藤田 志朗
【審査官】
田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−243524(JP,A)
【文献】
特表2016−507861(JP,A)
【文献】
特開平05−031847(JP,A)
【文献】
特開2001−060489(JP,A)
【文献】
特開平08−088077(JP,A)
【文献】
特表2014−531111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/6571
H01L 23/36
H01M 10/48
H01M 10/613
H01M 10/615
H01M 10/647
H01M 10/651
H01M 10/653
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平の対象物の厚さ方向の両側のうち、一方の側に発熱シートが設けられ、他方の側に放熱シートが設けられたシステムであって、
前記発熱シートは、外面に第1の保護層が積層され、
前記放熱シートは、放熱層上に第2の保護層が積層され、
前記発熱シートは、前記発熱シートを前記対象物に貼着するための粘着層と、前記対象物を加熱するための発熱層と、前記発熱層に通電するための通電部とを含み、前記発熱層が、炭素粒子と樹脂バインダーを含むことを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記通電部が、前記発熱シートの対向する両辺に沿って設けられていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記発熱シートは、前記通電部が接着層を介して前記第1の保護層に接合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記発熱シートの前記粘着層が、シリコーン系の粘着剤からなる厚み1〜15μmの粘着層であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記放熱シートは、前記放熱シートを前記対象物に貼着するための粘着層と、人工グラファイトからなる前記放熱層とを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記放熱シートの前記粘着層が、シリコーン系の粘着剤からなる厚み1〜15μmの粘着層であることを特徴とする請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
さらに温度センサを有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記対象物が電池であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記電池が、少なくとも樹脂基材層とバリア層とシーラント層とを含む積層体からなる外装体により包装されていることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱シート及び放熱シートを有するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池、モーター等の電気装置は、ジュール熱により発熱するが、氷点下等の寒冷地では電池反応性の低下や凍結等により、動作に支障が出るおそれがある。このため、電池に加熱用のヒーターを設けることが提案されている(特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−165390号公報
【特許文献2】特開2011−165391号公報
【特許文献3】特許第4925680号公報
【特許文献4】特許第5105809号公報
【特許文献5】特許第4948187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばリチウムイオン電池は、10〜45℃の温度領域で充放電が効率的になされ、それより低温でも高温でも性能が悪化する。電気装置自体が発熱体であるため、従来、高温での動作を改善するためには、送風ファンなどの大きい設備が必要とされている。しかし、低温で電気装置を使用する場合、動作中は電気装置自体の発熱により温度が維持されても、動作を開始する際には、電気装置を加熱して、効率よく動作を開始させる必要がある。そのため、低温から高温まで広範囲の温度で電気装置を使用するためには、小型で、加熱(発熱)と放熱(放冷)という、相反する機能を併せ持つ材料の開発が望まれる。
【0005】
なお、特許文献3の段落0035には、ダイオード等の発熱部品を、アウターケースの内面に設けられた金属シャーシーに固定して、発熱部品の放熱板に併用することが記載されている。しかし、特許文献3の一実施例として記載された発明では、シートヒーターはインナーケースの上下面(リード板設置面)に配設されており、インナーケースの両側面に配設される金属シャーシーとは位置が異なっている。
【0006】
また、特許文献3には、他の実施例として、金属シャーシーがインナーケースの側面及び上下面を覆う構成も開示されている。その場合、ヒーターから金属シャーシーへの熱伝導を防ぐため、ヒーターが直接に金属シャーシーに接触しないように構成することが記載されている(特許文献3の段落0048〜0049)。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、発熱シートと放熱シートを併せ持ち、対象物の温度を所定の範囲内に維持するために好適に利用することが可能なシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、対象物の互いに対向する箇所にそれぞれ発熱シート及び放熱シートが設けられたシステムであって、前記発熱シートは、前記発熱シートを前記対象物に貼着するための粘着層と、前記対象物を加熱するための発熱層と、前記発熱層に通電するための通電部とを含み、前記発熱層が、炭素粒子と樹脂バインダーを含むことを特徴とするシステムを提供する。
【0009】
前記通電部が、前記発熱シートの対向する両辺に沿って設けられていてもよい。
前記発熱シートが表面に保護層を有し、前記通電部が接着層を介して前記保護層に接合されていてもよい。
前記発熱シートの前記粘着層が、シリコーン系の粘着剤からなる厚み1〜15μmの粘着層であってもよい。
【0010】
前記放熱シートは、前記放熱シートを前記対象物に貼着するための粘着層と、人工グラファイトからなる放熱層とを含んでもよい。
前記放熱シートの前記粘着層が、シリコーン系の粘着剤からなる厚み1〜15μmの粘着層であってもよい。
さらに温度センサを有してもよい。
【0011】
前記対象物が電池であってもよい。
前記電池が、少なくとも樹脂基材層とバリア層とシーラント層とを含む積層体からなる外装体により包装されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、対象物の周囲のそれぞれ異なる領域に発熱シートと放熱シートとが設けられているので、低温条件下では、発熱シートにより対象物を加熱することができる。また、高温条件下では、放熱シートを通じて対象物の余分な熱を放出することができる。温度調整の対象物が、例えば電池等のように、低温では起動が困難であり、起動後は対象物自身の発熱が大きい場合であっても、対象物の過度な高温を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の温度調整システムの一例を示す斜視図である。
【
図2】温度調整システムにおける時間ごとの温度の変化を例示する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1に、本実施形態の温度調整システム30の一例を示す。この温度調整システム30は、対象物31の片面に、発熱シート10が貼着され、対象物31の反対側の面に、放熱シート20が貼着された構成を有する。
【0015】
本実施形態の発熱シート10は、粘着層11と、発熱層12と、通電部14を含む積層体である。さらに発熱シート10は、保護層13、基材層等を含むこともできる。
【0016】
粘着層11は、発熱シート10を対象物31に貼着するために用いられる。粘着層11を構成する粘着剤としては、シリコーン粘着剤、アクリル粘着剤、ゴム系粘着剤、ウレタン粘着剤等が挙げられるが、使用可能温度の広さ(耐寒性及び耐熱性)、耐薬品性、耐水性等の観点から、シリコーン粘着剤が好ましい。粘着剤層の厚さとしては、例えば1〜15μmが挙げられる。粘着層11が薄すぎると接着力が低くなり、粘着層11が厚すぎると熱伝導性が低下するおそれがある。
【0017】
発熱層12は、炭素粒子と樹脂バインダーを含む。炭素粒子としては、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラファイト粉末、無定形炭素等が挙げられる。樹脂バインダーとしては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、スチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、合成ゴム、天然ゴム、エラストマー等が挙げられる。発熱層12には、炭素粒子以外の導電性粒子(金属粒子等)、金属酸化物粒子、添加剤等を含んでもよい。
【0018】
通電部14は、外部から給電を受けることにより、発熱層12に通電して発熱層12を発熱させ、対象物31を加熱することができる。通電部14の設置箇所は特に限定されず、発熱層12の面上の複数箇所であればよい。例えば同一の面の対向する各辺に対をなして通電部14を設けると、その面内全体に通電して発熱層12を発熱させることができるので好ましい。通電部14の1又は2以上を発熱シート10の端部に設けてもよく、通電部14の1又は2以上を発熱シート10の端部から離れた中央部に設けてもよい。通電部14の形成材料及び方法は特に限定されないが、金属箔片の接着、導電ペーストの印刷等が挙げられる。通電部14を保護層13に接着固定するため、通電部14と保護層13との間に接着層15を介在させてもよい。
【0019】
保護層13としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ナイロン(ポリアミド樹脂)、ポリイミド等の樹脂フィルムが挙げられる。保護層13は、発熱シート10の外面又はその付近、例えば発熱層12の表面に、任意に積層することができる。保護層13はコーティング層であってもよいが、保護層13が樹脂フィルムである場合、通電部14をパターン状に形成する際の基材として利用することもできる。
【0020】
発熱シート10の製造方法は特に限定されないが、例えば、保護層13の上に接着層15を介して通電部14を接着した後、通電部14の上に発熱層12と粘着層11を順次積層する方法が挙げられる。保護層13の上に通電部14を形成する方法としては、エッチング、メッキ、印刷等の湿式パターニング、切削、型押し、打抜き等の乾式パターニングが挙げられる。
【0021】
発熱シート10を製造した後、対象物31に貼着するまで粘着層11の表面を保護するため、粘着層11の表面には、剥離シートを設けることができる。剥離シートを粘着層11に貼着した状態では、発熱シート10の運搬、保管等の間、粘着層11を保護することができる。発熱シート10を対象物31に貼着する際は、粘着層11から剥離シートを軽い力で容易に剥離することができる。剥離シートの構成は特に限定されないが、樹脂フィルム、紙等の基材の表面に、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等の剥離剤を有する積層体が挙げられる。
【0022】
本実施形態の発熱シート10は、導電体として炭素粒子を含み、樹脂バインダーで結合した構造の発熱層12を有するので、折り曲げた状態で貼着できる可撓性を付与することも可能である。この場合、1の発熱シート10を対象物31の表面で2以上の面にわたって貼着することもできる。
【0023】
本実施形態の放熱シート20は、粘着層21と、放熱層22を含む積層体である。さらに放熱シート20は、保護層、基材層等を含むこともできる。
【0024】
粘着層21は、放熱シート20を対象物31に貼着するために用いられる。粘着層21を構成する粘着剤としては、シリコーン粘着剤、アクリル粘着剤、ゴム系粘着剤、ウレタン粘着剤等が挙げられるが、使用可能温度の広さ(耐寒性及び耐熱性)、耐薬品性、耐水性等の観点から、シリコーン粘着剤が好ましい。粘着剤層の厚さとしては、例えば1〜15μmが挙げられる。粘着層21が薄すぎると接着力が低くなり、粘着層21が厚すぎると熱伝導性が低下するおそれがある。
【0025】
放熱層22は、金属箔、セラミックス等の熱伝導性に優れた層であればよいが、特に、グラファイトシートまたはこれを含む材料(積層体等)から構成されている。グラファイトシートとしては、天然グラファイトまたは人工(合成)グラファイトのいずれも使用できる。グラファイトシートの厚さは、例えば単層当たり10〜1000μm程度が好ましい。2層以上又は2種以上のグラファイトシートを接着剤等によりラミネートしてもよい。天然グラファイトは安価であり、人工グラファイトは不純物が少なく、放熱効率等の物性に優れるので、それぞれ用途や性能等を考慮して選択することが好ましい。
【0026】
グラファイトシートの特性としては、例えば、平面方向の電気伝導度が5000〜25000S/cm(比抵抗が4×10
−5〜2×10
−4Ω・cm)、平面方向の熱伝導率が100〜3000W/(m・K)、厚さ方向の熱伝導率が1〜30W/(m・K)等が挙げられる。グラファイトシートはシート全体が層状構造を有する結晶質であり、厚さ方向に単原子層が積層された結晶軸(c軸)を有するため、その物性は、厚さ方向と平面方向に対して大きな異方性を示す。グラファイトシートは、平面方向の熱伝導性に優れることから、熱を面内に分散させ、効率的に放熱(放冷)することが可能である。
【0027】
発熱シート10が貼着された面とは異なる面に放熱シート20を貼着すると、グラファイトシートを有する放熱層22が粘着層21を介して対象物31に積層される。これにより、対象物31から直接外部に放熱される場合に比べて、放熱量(放熱時の熱移動量)を増大させることができる。
【0028】
放熱シート20の放熱層22上には、放熱層22を保護するための保護層を設けることができる。放熱層22の保護層としては、発熱シート10の保護層13と同様な樹脂フィルムやコーティング層等が挙げられる。放熱層22上に保護層を設けることにより、グラファイトシートの破損、グラファイトの破片等による汚れを抑制することができる。
【0029】
温度調整システム30の対象物31としては、リチウムイオン電池、燃料電池、二次電池、モーター、表示装置等の電気装置が挙げられる。対象物31が扁平である場合、対象物31の厚さ方向の両側に該当する両面のうち、一方の面に発熱シート10が貼着され、前記一方の面に対向する他方の面に放熱シート20が貼着されてもよい。この場合、対象物31の表面で面積の大きな面に、それぞれ発熱シート10及び放熱シート20が貼着されるので、対象物31を被覆する割合が大きく、対象物31の温度調整を効率的に行うことができる。
【0030】
大容量又は大電圧の電池は、一般に、複数のセルを並列又は直列に接続することにより構成されるので、セル、サブモジュール、モジュール、パック、アレイ等の階層構造を採ることがある。本実施形態のシステム30は、これらの階層における大小いずれの単位(ユニット)を対象物31とすることも可能である。2以上の階層に本実施形態のシステム30を採用する場合は、各階層における対象物31の形状、寸法等に合わせて、発熱シート10及び放熱シート20の設計を柔軟に変更することができる。
【0031】
対象物31が、リチウムイオン電池等の電池セルである場合には、少なくとも樹脂基材層とバリア層とシーラント層とを含む積層体からなる外装体により包装されていることが好ましい。これにより、軽量で、広い温度にわたり耐久性を確保し、かつ粘着層11,21による貼着が容易になる。
【0032】
樹脂基材層としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ナイロン(ポリアミド樹脂)、ポリイミド等の樹脂フィルムが挙げられる。ガスバリア層としては、ステンレス、アルミ箔等の金属箔が挙げられる。シーラント層としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、特に無水マレイン酸等の酸変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0033】
複数のセルを内蔵したモジュール等においては、金属、繊維強化プラスチック等の機械的強度に優れた材質からなる外装ケースが好ましい。
【0034】
本実施形態の温度調整システム30においては、対象物31の温度を測定する温度センサや、測定温度に基づき、発熱シート10に対する通電状態と未通電状態とを切り替える制御器(温度コントローラ)を備えてもよい。通電部14から発熱層12に通電する電流値は、オン・オフの2段階でもよく、通電量の大小を段階的又は連続的に変化させてもよい。
【0035】
本実施形態の温度調整システム30によれば、対象物31が低温状態にある場合は、発熱シート10に通電することにより、対象物31の稼働に適した温度まで対象物31を加熱することができる。また、対象物31が高温状態にある場合は、発熱シート10の通電を停止し、放熱シート20からの放熱を優勢にし、対象物31の稼働に適した温度まで対象物31を冷却することができる。
【0036】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0037】
対象物31の形状は、柱状、板状、筒状など特に限定されない。発熱シート10及び放熱シート20は、可撓性があり、粘着層11,21により対象物31に貼着が可能であるので、任意の平面形状を採用することが可能である。
【0038】
例えば対象物31の外形が略直方体の場合は、六面のうち最も広い二面の少なくとも一方に発熱シート10が貼着され、最も広い二面の他方に放熱シート20が貼着されることが好ましい。さらに、より狭い4面のうち1又は2以上の面に発熱シート10又は放熱シート20が貼着されてもよい。
【0039】
例えば対象物31の外形が円柱状等のように、表面に曲面を有する場合は、同一の面の一部の領域に発熱シート10が貼着され、それとは異なる領域に放熱シート20が貼着されてもよい。
【0040】
図2は、温度調整システムにおける時間ごとの温度の変化を例示する概念図である。この概念図は、低温環境T0(例えば−20℃以下)に3種類の温度調整システムを設置して対象物の起動を開始したとき、起動開始からの経過時間と、対象物に設置した温度センサの測定値に基づき、経過時間に対する温度変化を示したものである。
曲線1は対象物31を電池とし、その両面に発熱シート10、放熱シート20をそれぞれ貼着し、温度コントローラを含んだ本実施形態の温度調整システムの時間ごとの温度変化を表す。
曲線2は対象物31の電池の片面に放熱シート20のみを貼着した温度調整システムの、曲線3は対象物31の電池の片面に発熱シート10のみを貼着した温度調整システムの温度変化のイメージをそれぞれ表す。
本実施形態の温度調整システム30の構成を採用することにより
図2の曲線1のように低温環境で電池の起動が可能であり、電池本体の発熱時でも、温度センサの設定温度T1(例えば30〜60℃)に達した時間(t1)以降は発熱シートの発熱が停止し、電池が過剰に加熱された分は放熱シートで放熱するため、所定の温度への調整が早くなり、電池の出力を素早く一定とすることが可能である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム基材の片面上の複数箇所に、アルミニウム電極(厚さ7μm、幅5mm×長さ50mm)をウレタン系接着剤(1μmの厚さ)で貼り付けた後、PETフィルム基材のアルミニウム電極が貼着された面上(電極上を含む)に、カーボンブラックを含んだ樹脂塗料を25μmの厚さになるよう塗布して、発熱層を形成した。さらに、PETフィルム基材の裏面に、厚さ5μmのシリコーン粘着剤を塗布することにより粘着層を形成して、発熱シートを得た。
表面外装体として、PET基材、アルミニウムのバリア層、ポリプロピレンからなるシーラント層の層構成であるラミネートフィルムを、シーラント層が内側になるように袋状にして電池用容器を作製した。電池用容器の内部に、電極、セパレータ、電解質等を収容して、偏平形のリチウムイオン電池(100mm×50mm×5mmの大きさ)を作製した。
電池表面の大きな部分(100mm×50mmの面)の片面に発熱シートを貼着した。また、発熱シートに対向する面には、放熱シートとして、人工グラファイトシート(厚さ100μm)をシリコーン粘着樹脂を介して密着させた。また、電池の表面には温度を測定するための温度センサを設置し、電池本体が40℃以上になった時には、発熱シートの通電部に電気が流れず、発熱シートが発熱しないように温度コントローラを接続して、実施例1の温度調整システムを構成した。
実施例1の温度調整システムによれば、低温環境で電池の起動が可能であり、電池本体の発熱時でも、温度センサの設定温度である40℃に達した以降は発熱が停止したので、一定温度で電池が駆動し、電池の出力が一定の電圧を示し、良好であった。
【0043】
(比較例1)
リチウムイオン電池の片面に放熱シートを貼着し、発熱シートと温度コントローラを省略したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の温度調整システムを構成した。
比較例1の温度調整システムによれば、電池の温度が上昇した時は放熱作用があり、一定温度で電池が駆動するのを確認できた。しかし、低温環境に置いた時の電池の起動が遅く、温度が上昇しないうちの出力電圧が著しく低かった。また、比較例1において放熱シートを貼着していない側の面は、通電を停止した状態の発熱シート(実施例1)に比べて熱伝導性が低く放熱性が劣るため、放熱量が電池の発熱量と平衡に達した状態における温度(平衡温度)は、実施例1に比べてやや高くなった。
【0044】
(比較例2)
リチウムイオン電池の片面に発熱シートを貼着し、温度コントローラを省略したこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の温度調整システムを構成した。
比較例2の温度調整システムを低温環境に置いた時、電池が駆動する際の速度(温度上昇速度)は、実施例1の場合よりも速かったが、発熱シートによる加熱が継続することにより、電池が高温になりすぎる欠点があった。電池本体の温度が70℃以上まで上昇すると、周囲の低温環境との温度差が拡大することにより、平衡温度に達したが、その間の温度の変動が激しく、電池の電圧が一定ではなかった。
【符号の説明】
【0045】
10…発熱シート、11…粘着層、12…発熱層、13…保護層、14…通電部、15…接着層、20…放熱シート、21…粘着層、22…放熱層、30…温度調整システム、31…対象物。