(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載のチャンバのメンテナンス方法であって、プラズマ処理を行った前記チャンバの前記被膜を除去し、前記被膜を前記チャンバに再形成することを含む、チャンバのメンテナンス方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
第1実施形態について説明する。以下の説明において、適宜、
図1などに示すXYZ直交座標系を参照する。このXYZ直交座標系は、X方向およびY方向が水平方向(横方向)であり、Z方向が鉛直方向である。また、各方向において、適宜、矢印の先端と同じ側を+側(例、+Z側)、矢印の先端と反対側を−側(例、−Z側)と称す。例えば、鉛直方向(Z方向)において、上方が+Z側であり、下方が−Z側である。なお、図面においては、実施形態を説明するため、一部または全部を模式的に記載するとともに、一部分を大きくまたは強調して記載する等適宜縮尺を変更して表現した部分を含む。
【0015】
図1は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置の一例を示す図である。
図1は、プラズマ処理装置を−Y側から見た断面図である。
【0016】
本実施形態のプラズマ処理装置1は、その内部空間(内部)SPで、プラズマを発生させて被処理物Sに対してプラズマ処理を施す。被処理物Sは、限定されず任意である。例えば、被処理物Sは、シリコン、ガラス、樹脂などで形成される基板等である。
【0017】
プラズマ処理装置1は、
図1に示すように、ベース2、排気リング3、チャンバ4(処理室)、コイル(電極、上部電極)5、ステージ6(下部電極)、天板7、及びガス供給部8を備える。ベース2、ステージ6、排気リング3、チャンバ4、コイル5、及び天板7は、それぞれ、
図1に示すように、Oリング10等の密閉部材を介して、互いに隙間なく接続されて、プラズマ処理装置1の内部空間SPが形成される。これにより、内部空間SPは、プラズマ処理装置1の外部に対して密閉される。これにより、プラズマ処理装置1は、内部空間SPを真空にすることが可能である。プラズマ処理装置1では、Oリング10が内部空間SPに直接露出しない位置に配置され、Oリング10による内部空間SPのコンタミネーションが抑制されている。
【0018】
ベース2は、
図1に示すように、プラズマ処理装置1の下部に配置される。ベース2は、上方(+Z方向)から見て円環状の形状である。ベース2は、下方(−Z方向)から排気リング3を支持する。ベース2には、気体等を流す流路11が設けられる。流路11は、プラズマ処理装置1の内部空間SPの気体等を排出(排気)する際に用いられる。流路11は、プラズマ処理装置1の外部の配管、真空ポンプ等に接続され、プラズマ処理装置1の内部空間SPの気体等はプラズマ処理装置1の外部に排出することができる。ベース2の形成材料は、任意であり、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等である。
【0019】
排気リング3は、
図1に示すように、ベース2の上方に配置される。排気リング3は、内部空間SPの気体等を排気する際に用いられる。排気リング3は気体等の流路12を備える。排気リング3は、上方から見て円環状の形状である。排気リング3は、下方からチャンバ4を支持する。排気リング3の形成材料は、任意であり、例えば、石英、セラミック等である。
【0020】
排気リング3をベース2に接続することにより、排気リング3とベース2との間に、流路13が形成される。上記した流路12は、排気リング3の円環状の内壁と流路13との間に形成され、内部空間SPと流路13とを接続する。流路13は、流路12とベース2の流路11とを接続する。内部空間SPの気体等は、内部空間SPから流路12と流路13と流路11とを通って、プラズマ処理装置1の外部に排出される。
【0021】
次に、本実施形態に係るチャンバを説明する。チャンバ4は、
図1に示すように、排気リング3の上部に配置される。チャンバ4は、内部空間SPの一部を形成する。チャンバ4の内部(内部空間SP側)では、プラズマ処理が行われる。チャンバ4は、チャンバ上部15、及びチャンバ下部16を備える。チャンバ上部15とチャンバ下部16とは、
図1に示すように、Oリング10等を介して、互いに隙間なく接続される。また、チャンバ上部15とチャンバ下部16は、分離(分解)可能である。なお、チャンバ4は、チャンバ上部15とチャンバ下部16とが一体に形成される構造でもよい。
【0022】
図2はチャンバの外観を示す斜視図である。
図2には、チャンバ上部15を実線で示し、チャンバ下部16を点線で示している。チャンバ上部15は、
図1及び
図2に示すように、その上部に配置されるドーム状(伏鉢状)のドーム部15aと、ドーム部15aの下方に配置される円筒状の円筒部15bとを備える。ドーム部15aと円筒部15bとは一体に形成されている。チャンバ上部15は、ドーム部15aの頂上部分、及び、円筒部15bの下部が開口する形状である(
図1参照)。チャンバ下部16は、
図1及び
図2に示すように、円筒状の円筒部16aを有する。チャンバ下部16は、円筒部16aの上部及び下部が開口する形状である(
図1参照)。チャンバ下部16は、チャンバ上部15を支持する。チャンバ4は、全体として、ドーム部15a、円筒部15b、及び円筒部16aを備えるベルジャー型の形状である。チャンバ4がベルジャー型である場合、面積が大きい材料に対して均一なプラズマ処理を効率よく行うことができる。
【0023】
チャンバ上部15は、
図1に示すように、その骨格が壁状構造の壁部15cで構成される。チャンバ上部15は、フランジ形状のフランジ部15d、その下部にフランジ形状のフランジ部15eを有する。フランジ部15dは、下方から天板7を支持する。フランジ部15eは、そのフランジの円板部分がチャンバ下部16により支持される。チャンバ上部15は、その壁部15cの外壁15fに、プラズマを発生させるコイル5が装着される。チャンバ上部15は、壁部15cの内壁(内面)15gのうちのコイル5が装着される部分の近傍に被膜Cを備えている。コイル5及び被膜Cについては、後に説明する。
【0024】
チャンバ下部16は、
図1に示すように、その骨格が壁状構造の壁部16cで構成される。チャンバ下部16は、その上部にフランジ形状のフランジ部16d、その下部にフランジ形状のフランジ部16eを有する。フランジ部16dは、チャンバ上部15を支持する。フランジ部16dは、そのフランジの円板部分で、チャンバ上部15のフランジ15gを支持し、この際、チャンバ上部15のフランジ15gの円筒部分の下方の一部が、チャンバ下部16のフランジ部16dの円筒部分の内部に挿入される。これにより、チャンバ下部16はチャンバ上部15を安定して支持することができ、且つチャンバ上部15及びチャンバ下部16の密着度が向上し、安定した内部空間SPを形成することができる。
【0025】
本実施形態において、チャンバ上部15の壁部15c及びチャンバ下部16の壁部16cの形成材料は、アルミナ(Al
2O
3)であり、同様の材料に設定される。なお、チャンバ上部15の壁部15c及びチャンバ下部16の壁部16cの形成材料は、それぞれ、任意である。なお、チャンバ上部15の壁部15c及びチャンバ下部16の壁部16cの形成材料は、同様の形成材料でなく互いに異なる形成材料でもよい。例えば、チャンバ上部15の壁部15cのあるいはチャンバ下部16の壁部16cの形成材料は、アルミナ(Al
2O
3)、イットリア(Y
2O
3)、ジルコニア(ZrO
2)、石英(SiO
2)、ステンレス(例、SUS)等でもよいし、これ以外の酸化物、金属、炭化物、窒化物、及び炭窒化物のうちの1種または2種以上混合物、あるいは複数の形成材料の組み合わせで形成されてもよく、中でも、材料のコスト、材料の入手容易性、耐熱性、耐食性、プラズマに対する耐久性等の観点から、アルミナ(Al
2O
3)、イットリア(Y
2O
3)、ジルコニア(ZrO
2)、石英(シリカ、SiO
2)、ステンレス(例、SUS)であるのが好ましく、アルミナ(Al
2O
3)であるのがより好ましい。
【0026】
図3は、コイル5を上方から見た図である。
図3には、コイル5を実線で示し、チャンバ上部15を点線で示している。コイル5は、プラズマを発生させる電極(上部電極)である(
図1参照)。コイル5は、キャップ型コイルである。コイル5は、コイル5a及びコイル5bを備える。コイル5a及びコイル5bは、それぞれ、ドーム部15aの壁部15cの外壁(外面)15fの曲面部分に設けられる(
図1参照)。コイル5aは、コイル5bの上方に配置される(
図1参照)。コイル5a及びコイル5bは、それぞれ、チャンバ上部15の外壁15fに沿った形状である(
図2参照)。コイル5a及びコイル5bは、それぞれ、上方から見て徐々に直径が大きくなるように構成されている(
図3参照)。例えば、コイル5a及びコイル5bは、それぞれ、上方から見てらせん状である(
図3参照)。コイル5(コイル5a、コイル5b)を徐々に直径が大きくなるように構成する場合、コイルに高周波電力を供給したときのコイルにおける抵抗成分を低減することができる。別の観点から言えば、抵抗成分を大きくすることなく、コイル5の巻き数を多くすることができる。
【0027】
コイル5aとコイル5bは互いに接続される(
図3参照)。コイル5aの端部T1aとコイル5bの端部T1bが接続される(
図3参照)。また、コイル5aの端部T2a及びコイル5bの端部T2bには、それぞれ、高周波電源が接続され、高周波電力が印加される。
【0028】
ところで、容量結合主体のプラズマ(Eモードプラズマ)は、一般にプラズマ密度が低い場合に発生し、誘導結合主体のプラズマ(Hモードプラズマ)は、一般にプラズマ密度が高い場合に発生する。EモードからHモードへの遷移は誘電電界に依存し、誘電電界がある値以上になると容量結合から誘導結合へ切り替る。この現象は一般に「モードジャンプ」または「密度ジャンプ」と呼ばれている。すなわち、モードジャンプを起こす電力以下で生じているプラズマがEモードプラズマであり、モードジャンプを起こす電力より大きい電力で生じているプラズマがHモードプラズマである(例えば、特開2001−143896号公報、国際公開第2004/093178号パンフレット等参照)。
【0029】
本実施形態において、コイル5(コイル5a、コイル5b)に印加する高周波電力は、モードジャンプを起こす電力よりも大きくなるように設定される。これにより、プラズマ処理装置1は、誘導結合性プラズマを発生させる。プラズマ処理装置1が誘導結合性プラズマを発生させる場合、本願出願人による特開2014−072453号公報に記載するように、炭素ラジカル等のラジカルの発生量を増大させることができる。また、本実施形態のプラズマ処理装置1は、コイル5に印加する電力を制御することにより、容量結合性プラズマを発生させることもできる。なお、コイル5(コイル5a、コイル5b)に印加する高周波電力は任意に設定可能である。
【0030】
なお、コイル5(コイル5a、コイル5b)は、上記の例は一例であって、他の形態でもよい。例えば、コイル5(コイル5a、コイル5b)の数、形状、大きさ、及び巻き数は、それぞれ、任意に設定可能である。
【0031】
天板7は、チャンバ上部15の頂上部分に設けられた開口を塞ぐように配置される。天板7は、上方から見て円形状の形状である。天板7の下方には、反応ガス(原料ガス)を内部空間SPに供給するガス供給部8が設けられている。ガス供給部8は、内部空間SPに向いて開口するガス供給口8aが複数設けられている。複数のガス供給口8aは、天板7の中心から水平方向(X方向及びY方向)に対して、放射状に設けられている。複数のガス供給口8aは、それぞれ、反応ガスの供給路であるガス供給路に接続され、プラズマ処理装置1の外部から供給される反応ガスを内部空間SPに噴出する。本実施形態のように、天板7にガス供給口8aを設ける場合、後に説明するプラズマ発生部Pの上方から反応ガスを供給することができるため、ダウンフロー領域Dへのラジカルの流れを好適に発生させることができる。反応ガスの種類は、特に限定されず、任意である。また、本実施形態のプラズマ処理装置1において、反応ガスの供給量、供給圧力は、種々の条件に設定可能である。
【0032】
天板7は、ケーブルなどを介して接地される。天板7を接地する場合、モードジャンプに必要な電力をより低減することができ、電力供給設備、消費電力等のコストを低減することができる。
【0033】
例えば、本実施形態では、天板7は、本願出願人が特開2014−072453号公報に開示するように、金属、特にアルミニウム(アルミニウム合金を含む)から構成されており、隣接するチャンバ上部15を構成する材質とは異なる材質から構成されている。このように天板7を、あえて、金属、特にアルミニウム(アルミニウム合金を含む)から構成することによって、より低い電力で、モードジャンプを起こし、誘導結合性プラズマを発生させることができる。なお、天板7の形成材料は、上記の例は一例であって、任意に設定可能である。
【0034】
ステージ6は、プラズマ処理装置1の下部に配置される。ステージ6は、被処理物Sを載置するステージであるとともに、下部電極としても働く。ステージ6は、上方から見て、円形状の形状である。ステージ6は、その一部が、円環状のベース2の円環の内部に配置される。ステージ6は、被処理物Sを載置する載置部6aを上面に有する。載置部6aに載置された被処理物Sは内部空間SPに配置され、プラズマ処理が施される。ステージ6はケーブル等を介して接地される。ステージ6の形成材料は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等である。なお、ステージ6の形成材料は、上記の例は一例であって、任意に設定可能である。
【0035】
また、本実施形態のプラズマ処理装置1は、被処理物Sの外周とチャンバ下部16の内壁16cとが接近しチャンバ4の容量が小さくなるように構成される(
図1参照)。この場合、反応ガスのロスを抑制することができ、成膜速度を向上させることができる。
【0036】
上記のように構成されるプラズマ処理装置1は、
図1に示すように、その内部空間SPに、プラズマを発生させるプラズマ発生部Pを有する。プラズマ発生部Pは、コイル5(コイル5a、コイル5b)に囲まれた部分である。本実施形態において、プラズマ発生部Pは、コイル5bの下端よりも上方の部分(
図1に示す直線Aよりも上方の部分)である。
【0037】
また、プラズマ処理装置1は、
図1に示すように、その内部空間SPに、ダウンフロー領域Dを有する。ダウンフロー領域Dは、プラズマ発生部Pとステージ6との間に設けられる。ダウンフロー領域Dとは、プラズマ発生部Pにおいて生じたラジカルが再結合する領域である。本実施形態では、プラズマ発生部Pにおいて生じたラジカルがダウンフロー領域Dにおいて再結合した後に、被処理物S上に堆積するため、良好な被膜を被処理物Sに形成することができる。ダウンフロー領域Dの高さ(プラズマ発生部Pの下端(コイル5の下端)から、ステージ6の上面までの距離)は、特に限定されず、上述したラジカル等が好適に再結合し得る距離に設定可能である。例えば、ダウンフロー領域Dの高さは、例えば、10cm以上、35cm以下、好ましくは10cm以上、20cm以下、より好ましくは10cm以上、15cm以下である。ダウンフロー領域Dの高さが上記範囲である場合、プラズマ発生部Pにおいて生じたラジカルをダウンフロー領域Dにおいて、良好に再結合させることができる。
【0038】
以上のように構成されるプラズマ処理装置1は、例えば、プラズマCVD処理に用いられる。プラズマ処理装置1では、内部空間SPにガス供給口8aから反応ガスを供給するとともに、コイル5とステージ6との間に高周波電圧を印加することで、プラズマ発生部Pにプラズマを発生させ、プラズマ発生部Pにおいて生じたラジカルがダウンフロー領域Dにおいて再結合した後に被処理物S上に堆積する。これにより、被処理物SにプラズマCVD処理が施される。
【0039】
ところで、プラズマ処理に用いられる従来のチャンバは、プラズマによって、クラック等の破損が生じたり、また、エッチング等により摩耗しパーティクルが発生することがある。例えば、従来のアルミナのチャンバの場合1000回程度のプラズマ処理を行うと、チャンバ4内に付着した堆積物が剥がれ落ちて、パーティクルが生じることがある。また、従来の石英のチャンバの場合200〜300回程度のプラズマ処理を行うと、チャンバの内壁がプラズマによりエッチングされ、パーティクルが発生したり、チャンバの破損が生じることがある。チャンバが破損すると、チャンバの交換に要するコスト、時間、労力が必要となり、製造コストが増加する。また、パーティクルが発生すると、被処理物の品質が悪化する。このため、プラズマ処理に用いられるチャンバは、プラズマによるダメージ及びパーティクルの発生を抑制することが要求される。
【0040】
そこで、本願発明者は、上記の問題を解決するため、従来のチャンバの内壁に部分的に被膜を形成する改良を行った。被膜は、上記したプラズマ処理によるダメージからチャンバの内壁を保護することができる。また、被膜は、チャンバの内壁に存在する微小なクラックの修復など、チャンバの内壁の表面を改質することができる。
【0041】
図4は、被膜の比較例を示す図である。
図5は、被膜の実施例を示す図である。
図4及び
図5には、それぞれ、−Y側から見たチャンバの断面図を示した。なお、
図4及び
図5には、図示を分かりやすくするため、チャンバ4の−X側のみを示したが、チャンバ4の+X側は、チャンバ4の−X側と同様に構成される。
【0042】
以下、本願発明者による被膜の検討の一例を説明する。本願発明者は、従来のチャンバの内壁に被膜を形成する改良において、
図4に示すように、被膜Cを、コイル5(コイル5a、コイル5b)の近傍を含む壁部15cの内壁(内面)15gの全面に形成した。その結果、後に比較例において説明するように、被膜Cがチャンバ4の壁部15cから剥離し易い(例、比較例2)、また、被膜Cを形成することによるチャンバ4のクラック、割れなどの破損が生じる(例、比較例2)等の観点で改善の余地があった。そして、本願発明者は、この知見に基づき、被膜Cを形成する位置、大きさ、膜厚、形成材料等により上記問題が生じると考え、これらの条件を変化させて、さらなる条件検討を行った。その結果、本願発明者は、被膜Cをチャンバ4の特定の部分に、部分的に形成することにより、被膜Cの耐久性が向上してチャンバ4の壁部15cからの剥離が抑制されるとともに、被膜Cの形成によるチャンバ4のクラック、割れなどの破損が抑制され、上記したプラズマ処理におけるチャンバのダメージ及びパーティクルの発生を効果的に抑制し、チャンバ4のメンテナンス回数を低減できることを見出し(例、実施例1)、さらに、被膜Cの検討の過程で知見した被膜に関する種々のデータ(例、被膜およびチャンバの形成材料、被膜の2次元および3次元構造等)に基づいて本実施形態のプラズマ処理装置1、チャンバ4、プラズマ処理方法、チャンバのメンテナンス方法及びチャンバの製造方法を完成させた。
【0043】
すなわち、
図5に示すように、本実施形態のチャンバ4は、上記の本願出願人による知見に基づき、被膜Cをチャンバ上部15の内壁15gの全面に設けるのではなく、チャンバ上部15の壁部15cの内壁15gのうち、プラズマを発生させるコイル5(コイル5a、コイル5b)の近傍に被膜C(被膜Ca、被膜Cb)を部分的に備える。被膜Ca及び被膜Cbは、それぞれ、コイル5a、コイル5bに対応した位置に設けられ、壁部15cの内壁(内面)15gのうち曲面部分(ドーム部15aの部分)に設けられる。被膜Ca及び被膜Cbの形状は、それぞれ、
図5に示すチャンバ上部15の下方から見て円環状(円状)である。また、被膜Caと被膜Cbとの間には間隔Q(空間)が設けられる。被膜C(被膜Ca、被膜Cb)は全体として、ストライプ状(縞状)である。
【0044】
上記のコイル5a及びコイル5bに対応した位置は、コイル5a及びコイル5bのそれぞれの近傍のうちの壁部15cを挟んだ内壁15gの部分である。上記のコイル5a、コイル5bに対応した位置は、上記したプラズマ発生部Pに近接する位置である。上記のコイル5a、コイル5bに対応した位置は、プラズマ発生部Pに近接する位置であるため、堆積物が発生しやすく、また、プラズマによるダメージを受けやすい部分であり、この部分に被膜Cを設けることで、上記したチャンバ4のダメージ、及び後に説明する内壁15gの堆積物により生じるパーティクルの発生を効果的に抑制し、チャンバ4のメンテナンス回数を低減することができる。上記のコイル5a、コイル5bに対応した位置は、後に説明する
図6に示すような、チャンバ上部15の内壁15gのうちチャンバ壁面の堆積物の付着が多い(発生しやすい)位置、あるいはチャンバ壁面が摩耗(スパッタ)されやすい位置を含むことが好ましい。これらの位置は、例えば、予備実験により設定することができる。
【0045】
本実施形態のように被膜Cをチャンバ上部15の内壁15gの全面に設けるのではなく、コイル5(コイル5a、コイル5b)の近傍に被膜C(被膜Ca、被膜Cb)を設ける場合、上記した被膜Cの壁部15cからの剥離(破損)の抑制、及び、被膜Cの形成によるチャンバ4の破損の抑制し、且つ上記したチャンバ4のダメージを効果的に抑制し、チャンバ4のメンテナンス回数を低減できる。これは、被膜Cを上記の内壁15gの全面に設ける場合と比較して被膜の面積を小さくすることで、被膜C及び被膜Cを設けたチャンバ4の部分における熱応力等の応力が低減され、その結果、被膜Cのチャンバ内壁15gからの剥離が抑制され、且つ、被膜Cの形成によるチャンバ4のクラック、割れなどの破損が抑制されると推定される。また、被膜Cを上記の内壁15gの全面に設ける場合、コイル5の近傍の被膜Cとコイル5から離れた部分の被膜Cは、それぞれ、プラズマ発生部Pの近傍とプラズマ発生部Pから離れた部分を有し、これらの部分はプラズマ処理時の環境が異なるため、被膜C全体として大きなストレスがかかり、上記した被膜の剥離Cなどが起こると推定される。
【0046】
各被膜C(被膜Ca、被膜Cb)は、その内壁(内面)15gに沿った上下方向(幅方向)の長さL1、L2(幅)が、
図4に示す−X側の壁部15cの内壁(内面)15gに沿った上下方向(幅方向)の長さL0の160mm未満(比較例1〜4参照)であるのが好ましく、5mm以上、100mm以下であるのがより好ましく、10mm以上、50mm以下であるのがさらに好ましい。被膜C(被膜Ca、被膜Cb)の上記の幅方向の長さL1、L2が上記範囲の場合、上記した被膜Cの壁部15cからの剥離の抑制、及び、被膜Cの形成によるチャンバ4の破損の抑制することができる。また、被膜Caと被膜Cbとの間の間隔Q(空間)は、例えば、1mm以上に設定されるのが好ましい。これにより、上記した被膜Cの壁部15cからの剥離の抑制、及び、被膜Cの形成によるチャンバ4の破損の抑制することができる。
【0047】
なお、本実施形態の被膜Cは、コイル5a及びコイル5bの近傍に部分的に設けることにより、ストライプ状になっているが、例えば、第2実施形態において説明するコイル5A(
図9参照)などのようにコイルの大きさが比較的大きい場合においても、上記した被膜Cの壁部15cからの剥離の抑制、及び、被膜Cの形成によるチャンバ4の破損の抑制の観点から、本実施形態の被膜Cのように、複数の被膜Cが間隔Qをあけて配置されるのが好ましい。なお、上記した被膜Cは、一例であって、他の形態でもよい。例えば、被膜Cの形状及び大きさは、プラズマを発生させる電極の近傍に配置される形状、大きさであれば任意である。例えば、被膜Cは、1つの円環状でもよいし、らせん状でもよいし、3つ以上のストライプ状(縞状)で形成されてもよい。被膜Cが3つ以上のストライプ状の場合など、複数の間隔Qが存在する場合、複数の間隔Qは任意であり、互いに同じであっても、互いに異なっていてもよい。
【0048】
ところで、従来のプラズマ処理装置では、被処理物Sの表面に堆積させる物質が、チャンバの内壁に堆積することがある。
図6は、従来のチャンバによるプラズマ処理の説明図である。
図6は、プラズマ処理を行った後のチャンバの内部を示す模式図である。なお、
図6には、被膜Cを備えない点以外、
図1に示すチャンバ4と同様の構成を有するチャンバを示した。
【0049】
このようなチャンバの内壁への堆積物(デポ)の堆積は、チャンバの内壁のうち、プラズマを発生させるコイル(電極)の近傍(プラズマ発生部の近傍)に生じる。チャンバの内壁の堆積物は、被処理物Sの処理の回数に依存して増加し、堆積物の厚さが増加する。チャンバの内壁の堆積物は、例えば、その厚さが増加すると、
図6の矢印に示すように、内壁から剥離し、パーティクルとなることがある。パーティクルが被処理物Sの表面に堆積すると、被処理物Sの品質が悪化する。
【0050】
例えば、
図6の従来のチャンバの場合、1000程度の被処理物Sを処理すると、チャンバの内壁の堆積物がはがれおちてくることがある。このため、チャンバは、定期メンテナンスにより、内壁に付着した堆積物をクリーニングする必要があり、時間と労力が必要となる。さらに、チャンバをクリーニングした後は、プラズマ処理装置を構成する各部と接続して、プラズマ処理のセッティングをやり直す必要があり、時間と労力が必要となる。被処理物Sを量産する場合、例えば、1つのチャンバで月当たり3000〜5000程度の被処理物Sの処理が望まれるが、上記のように1000程度の処理でチャンバの定期メンテナンスを行う必要がある場合、メンテナンスの周期が短いため、メンテナンスにより生産効率が低下する。このため、チャンバは、上記した内壁の堆積物により生じるパーティクルの発生を抑制することが要求される。
【0051】
本実施形態の各被膜C(被膜Ca、被膜Cb)は、それぞれ、多孔質で形成される。被膜Cが多孔質である場合、被膜Cは上記したチャンバの堆積物を多孔質内に保持するアンカー効果を有する。これにより、本実施形態のチャンバ4は、上記したチャンバの堆積物がチャンバの内壁15gから剥離することを抑制し、内壁15gの堆積物により生じるパーティクルの発生を効果的に抑制し、チャンバ4のメンテナンス回数を低減することができる。被膜Cは、例えば、被膜Cは溶射膜であるのが好ましい。被膜Cが溶射膜である場合、低コストで強度に優れる多孔質膜を容易に形成することができる。また、各被膜C(被膜Ca、被膜Cb)は、表面粗さとしての最大高さ(Rmax)が、15μm以上であるのが好ましく、20μm以上30μm以下であるのがより好ましい。また、各被膜C(被膜Ca、被膜Cb)は、算術平均表面粗さ(Ra)が、1μm以上10μm以下であるのが好ましく、2μm以上5μm以下であるのがより好ましい。このような表面粗さとなるように被膜Cの構成を選択することで、結果として、上記したアンカー効果をより発現しやすくなる。なお、被膜Cにおける多孔質の構造は、任意に設定可能である。また、被膜Cを多孔質にするか否かは任意である。
【0052】
被膜Cの膜厚は、任意に設定可能である。例えば、被膜Cの膜厚は、被膜Cの強度、上記のアンカー効果、上記した被膜の形成によるチャンバの破損及び被膜の剥離を抑制する観点から、50μm以上300μm以下であるのが好ましい。
【0053】
次に、被膜Cの形成材料について説明する。被膜Cの形成材料は、無機物である。本実施形態の被膜C(被膜Ca、被膜Cb)は、Al
2O
3である。本実施形態の被膜Cは、チャンバ4における被膜Cが設けられる部分(チャンバ上部15の壁部15cの内壁15f)と同様の組成である。このように、被膜Cがチャンバ4における被膜Cが設けられる部分と同様の組成である場合、上記した被膜Cの形成によるチャンバ4の破損及び被膜Cの剥離を抑制し、且つ上記したチャンバ4のダメージを効果的に抑制し、チャンバ4のメンテナンス回数を低減できる。なお、被膜Cは、チャンバ4における被膜Cが設けられる部分と異なる組成でもよい。
【0054】
なお、被膜Cの形成材料は、任意に設定可能である。例えば、酸化物、金属、炭化物、窒化物、及び炭窒化物のうちの1種または2種以上混合物でもよい。酸化物としては、アルミナ(Al
2O
3)、イットリア(Y
2O
3)、石英(SiO
2)、ZrO
2(ジルコニア)、MgO、CaO、TiO
2、Cr
2O
3、CeO
2、HfO
2、UO
2、ThO
2および希土類酸化物のうちの1種または2種以上の混合物等が挙げられる。また、金属としては、ステンレス(例、SUS)、Al系金属、Fe系金属、Ti系金属、Ni系金属のうちの1種または2種以上混合物等が挙げられる。炭化物としては、Al
4C
3、Mg
3C
2、SiC、B
4C、CaC
2、TiC、Cr
3C
2、ZrC、YC、TaC、Mo
2C、VCおよび希土類炭化物のうちの1種または2種以上の混合物等が挙げられる。窒化物としては、AlN、Si
3N
4、Mg
3N
2、BN、Ca
3N
2、TiN、TaN、NbN、CrN、ZrN、YNおよび希土類窒化物のうちの1種または2種以上の混合物が挙げられる。炭窒化物としては、炭窒化チタンTi(C、N)等が挙げられる。被膜Cの形成材料は、上記の中でも、材料の入手容易性、被膜Cの強度等の観点から、アルミナ(Al
2O
3)、イットリア(Y
2O
3)、石英(SiO
2)、ZrO
2(ジルコニア)の少なくとも1種であるのが好ましく、Al
2O
3またはY
2O
3であるのがより好ましく、Al
2O
3であるのがさらに好ましい。
【0055】
被膜Cの製造方法は、任意である。例えば、被膜Cは、溶射法、物理蒸着法、化学蒸着法等により製造することができ、中でも溶射法が好ましい。被膜Cの製造方法が溶射法である場合、多孔質で強度に優れる被膜Cを容易に形成することができ、膜厚も容易に設定することができる。なお、溶射法は、任意の方法を採用することができる。例えば、溶射法は、高速および低速フレーム溶射法などのフレーム溶射法;アーク溶射法、プラズマ溶射法などの電気式溶射法;などの方法を用いることができる。
【0056】
次に、本実施形態に係るチャンバの製造方法について説明する。
図7は、本実施形態に係るチャンバの製造方法を示すフローチャートである。本実施形態に係るチャンバの製造方法は、内部でプラズマ処理が行われるチャンバ4を製造する方法である。本チャンバの製造方法は、チャンバ4の壁部15cの内面のうち、プラズマを発生させるコイル5(電極)の近傍に、無機物の被膜Cを部分的に形成することを含む。
【0057】
本チャンバの製造方法は、ステップS1において、内部でプラズマ処理を行うチャンバを準備する。用いるチャンバは、特に限定されず、任意のものを用いることができる。例えば、被膜Cを備えない点以外は、
図1に示すチャンバ4と同様のチャンバを用いてもよい。チャンバ4は、公知の方法で自作してもよいし、市販のチャンバを用いてもよい。なお、例えば、チャンバは、平行平板型、ECR型、マグネトロン型、ヘリコン波型、らせんアンテナ型のプラズマ処理装置に用いられるチャンバでもよい。
【0058】
続いて、ステップS2において、チャンバ4の壁部15cの内面のうち、プラズマを発生させるコイル5(電極)の近傍に、無機物の被膜Cを部分的に形成する。被膜Cの形成材料、形成部位、膜厚、及び好ましい形態等は、上記の通りである。
【0059】
例えば、被膜Cは、チャンバ4における被膜Cが設けられる部分と同様の組成に設定される。被膜Cがチャンバ4における被膜Cが設けられる部分と同様の組成である場合、上記した被膜Cの壁部15cからの剥離の抑制、及び、被膜Cの形成によるチャンバ4の破損の抑制し、且つ上記したチャンバ4のダメージを効果的に抑制し、チャンバ4のメンテナンス回数を低減できる。
【0060】
例えば、被膜Cは、チャンバ上部15の壁部15cの外側に配置されたコイル5に対して、壁部15cを挟んだ内壁15gに形成する。この部分は、プラズマによるダメージを受けやすい部分であるため、この部分に被膜Cを設けることで、上記した被膜Cの壁部15cからの剥離の抑制、及び、被膜Cの形成によるチャンバ4の破損の抑制し、且つ上記したチャンバ4のダメージを効果的に抑制し、チャンバ4のメンテナンス回数を低減できる。例えば、被膜Cは、コイル5a及びコイル5bに対して、壁部15cを挟んだ内壁15gに、上記のように複数の被膜C(被膜Ca、被膜Cb)が間隔Qで配置されるストライプ状に形成する。
【0061】
被膜Cは、例えば、上記のように多孔質で形成する。例えば、被膜Cは、上記のように、上記したアンカー効果の観点から、表面粗さにおける最大高さ(Rmax)が、15μm以上であるのが好ましく、20μm以上30μm以下であるのがより好ましい。また、各被膜C(被膜Ca、被膜Cb)は、上記したアンカー効果の観点から、算術平均表面粗さ(Ra)が、1μm以上10μm以下であるのが好ましく、2μm以上5μm以下であるのがより好ましい。これにより、チャンバ4の内壁15gに堆積した堆積物が内壁15gから剥離することを抑制し、内壁15gの堆積物により生じるパーティクルの発生を効果的に抑制し、チャンバ4のメンテナンス回数を低減することができる。また、被膜Cは、溶射膜であるのが好ましい。被膜Cが溶射膜である場合、低コストで強度に優れる多孔質膜を容易に形成することができる。
【0062】
被膜Cは、例えば、ステップS3において、溶射(溶射法)により形成する。被膜Cを溶射法で形成する場合、多孔質で強度に優れる被膜を容易に形成することができ、膜厚も容易に設定することができる。溶射法により被膜Cを形成する場合、任意の溶射法を用いることができる。例えば、溶射法は、高速および低速フレーム溶射法などのフレーム溶射法;アーク溶射法、プラズマ溶射法などの電気式溶射法;などの方法を用いることができる。なお、被膜Cの製造方法は、溶射でなくてもよく、任意である。
【0063】
例えば、溶射法で被膜Cを形成する場合、例えば、まず、チャンバ上部15の内壁15gに対して洗浄(脱脂)処理を行う。続いて、被膜Cの形成部分に対応したマスキング処理を行う。続いて、被膜Cの形成部分に、金属、非金属粒子を表面に噴射することなどによりブラスト処理を行う。続いて、上記の溶射法により溶射膜を形成することにより被膜Cを製造する。その後、必要に応じて、溶射膜を切削あるいは研磨することにより所定の寸法、形状に仕上げてもよい。
【0064】
次に、プラズマ処理装置1の動作に基づいて、本実施形態に係るプラズマ処理方法を説明する。
図8は、本実施形態に係るプラズマ処理方法のフローチャートである。本プラズマ処理方法は、上記したプラズマ処理装置1を用いて、被処理物Sにプラズマ処理を行うことを含む。
【0065】
本プラズマ処理方法は、ステップS10において、上記したプラズマ処理装置1を用いて、被処理物Sにプラズマ処理を行う。ステップS11において、プラズマ処理装置1を準備する。
【0066】
続いて、ステップS12において、被処理物Sをプラズマ処理装置1のステージ6に配置する。例えば、
図1に示すように被処理物Sをステージ6の載置部6aに載置する。続いて、プラズマ処理装置1を組み立て、密閉された内部空間SPを形成する。被処理物Sは、任意に設定可能である。例えば、被処理物Sは、シリコン、ガラス、樹脂などである。
【0067】
続いて、ステップS13において、反応ガスをプラズマ処理装置1に導入する。例えば、反応ガスは、プラズマ処理装置1のガス供給口8から導入する。反応ガスの種類、原料ガスの供給量、供給圧力は、それぞれ、特に限定されず任意であり、目的などに応じて適宜設定される。
【0068】
続いて、ステップS14において、プラズマを発生させる。例えば、プラズマは、プラズマ処理装置1のプラズマ発生部Pで発生させる。例えば、プラズマを発生させる際、まず、高周波電源によりコイル5(コイル5a及びコイル5b)に高周波電力を印加する。例えば、コイル5に印加する高周波電力は、モードジャンプを起こす電力よりも大きくなるように設定される。これにより、プラズマ処理装置1は、プラズマ発生部Pにおいて誘導結合性プラズマを発生させる。本実施形態のプラズマ処理装置1は、上記のようにプラズマ発生部Pの上方から原料ガスを供給するので、ダウンフロー領域Dへのラジカルの流れを好適に発生させることができる。
【0069】
続いて、ステップS15において、上記のように、プラズマ発生部Pとステージ6との間に設けられたダウンフロー領域Dにおいて、プラズマ発生部Pで発生させたプラズマにより生じたラジカルを再結合させる。
【0070】
続いて、ステップS16において、上記のように、上記ラジカルが再結合して形成される物質を被処理物S上に堆積させる。被処理物Sに所定量の堆積物を堆積させた後、ステップS16が終了し、被処理物Sに対するプラズマ処理が終了する。
【0071】
上記のステップS10(ステップS11からステップS16)によるプラズマ処理は、繰り返し複数回行うことができる。本プラズマ処理方法は、プラズマ処理装置1のチャンバ4が上記の被膜Cを備えるので、チャンバ4の内部に設ける被膜Cの破損、堆積物の剥離を抑制することにより、プラズマ処理におけるチャンバ4のダメージ及びパーティクルの発生を効果的に抑制し、チャンバ4のメンテナンス回数を低減することができる。
【0072】
次に、本実施形態に係るチャンバ(プラズマ処理装置)のメンテナンス方法を説明する。
図8(B)は、本実施形態に係るチャンバ(プラズマ処理装置)のメンテナンス方法のフローチャートである。本メンテナンス方法は、上記したプラズマ処理を行ったチャンバ4の被膜Cを除去し、被膜Cをチャンバ4に再形成することを含む。上記のステップS10(ステップS11からステップS16)によるプラズマ処理を繰り返し複数回行った後、
図8(B)のステップS17において、チャンバ4をウエットクリーニングする。ウエットクリーニングは、いわゆる、チャンバ4を大気開放した上で行うクリーニングである。これにより、上記したチャンバ4内の堆積物をクリーニングする。チャンバ4のウエットクリーニングは、例えば、吸引機、有機溶媒を含ませた布などで、チャンバ4内をクリーニングする。なお、ウエットクリーニングを行うに先立ち、ドライクリーニングを行ってもよい。ドライクリーニングは、ケミカルクリーニングとも呼ばれており、例えば、O
2、SF
6、NF
3、ClF
3、Cl
2、HCl、Arなどの反応ガスのプラズマを用いて、上記したチャンバ4内の堆積物をクリーニングする方法である。
【0073】
続いて、ステップS18において、チャンバ4に形成した被膜Cを除去する。被膜Cは、特に多孔質である場合、堆積物がアンカー効果により保持されている。被膜Cを除去することにより、堆積物をクリーニングすることができる。被膜Cの除去は、例えば、被膜Cの材料がAl
2O
3の場合、ブラスト等の物理処理により実施することができる。また、被膜Cが溶解液で溶解可能な場合、被膜Cを溶解する溶解液に暴露することにより被膜Cを除去することができる。被膜Cの溶解液は、被膜C及びチャンバ4の形成材料の種類に応じて適宜設定され、公知の手法を用いることができる。例えば、被膜Cの形成材料がY
2O
3の場合、硫酸等を含む溶解液により被膜Cを溶解させることができる。この場合、被膜Cを溶解の後、チャンバ4を洗浄して、溶解液を除去する。
【0074】
続いて、ステップS19において、チャンバ4に被膜Cを再形成する。被膜Cの形成は、例えば、上記した
図7のステップS2(ステップS3)により行う。このように、被膜Cを再形成することにより、被膜Cの劣化による破損などの悪影響を抑制することができ、チャンバ4の寿命を長くすることができる。
【0075】
以上説明したように、本実施形態のプラズマ処理装置1、チャンバ4、及びプラズマ処理方法は、プラズマ処理におけるチャンバのダメージ及びパーティクルの発生を効果的に抑制し、チャンバ4のメンテナンス回数を低減することができる。また、本実施形態のチャンバの製造方法は、プラズマ処理におけるチャンバのダメージ及びパーティクルの発生を抑制するチャンバ4を容易に製造することができる。また、本実施形態のチャンバ(プラズマ処理装置)のメンテナンス方法は、チャンバ(プラズマ処理装置)の寿命を長くすることができる。
【0076】
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。本実施形態において、上述の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略あるいは簡略化する。
【0077】
図9は、第2実施形態に係るプラズマ処理装置1Aの−Y側から見た断面図である。本実施形態のプラズマ処理装置1Aは、第1実施形態のプラズマ処理装置1におけるコイル5及び被膜Cが異なっており、これら以外は、第1実施形態のプラズマ処理装置1と同様である。このプラズマ処理装置1Aは、
図9に示すように、ベース2、排気リング3、チャンバ4A(処理室)、コイル(電極、上部電極)5A、ステージ6(下部電極)、天板7、及びガス供給部8を備える。ベース2、排気リング3、ステージ6(下部電極)、天板7、及びガス供給部8は、それぞれ、第1実施形態と同様であり、これらの説明は省略する。
【0078】
図10は、第2実施形態に係るコイルを上方から見た図である。コイル5Aは、本願出願人による特開2014−072453号公報に開示されるキャップ型コイルである。コイル5Aは、コイル5Aは、チャンバ上部15Aのドーム形状の部分の外壁15fに沿った形状である。コイル5Aは、二重のコイル5c及びコイル5dを備える。これにより、平面上におけるプラズマの均一性を向上させることができる。コイル5c及びコイル5dは、それぞれ、ドーム部15aの壁部15cの外面(外壁15f)の曲面部分に設けられる(
図9参照)。コイル5c及びコイル5dは、それぞれ、徐々に直径が大きくなるように構成されている(
図10参照)。コイル5c及びコイル5dは、それぞれ、らせん状である。コイル5c及びコイル5dは、それぞれ、重ならないように、互い違いに配置される。コイル5c及びコイル5dは互いの端部(TBとTD、TCとTE)が重ならないように配置されており、特に、互いの端部(TBとTD、TCとTE)が、線対称の位置に配置されていることが好ましい。これにより、平面上におけるプラズマの均一性をさらに向上させることができる。
【0079】
図11は、第2実施形態に係る被膜を示す図である。
図11は、−Y側からチャンバの断面図である。
図11は、図示を分かりやすくするため、チャンバ4Aの−X側のみを示したが、チャンバ4Aの+X側は、チャンバ4Aの−X側と同様に構成される。なお、チャンバ4Aは、チャンバ上部15A、及びチャンバ下部16を備える(
図9参照)。チャンバ下部16は、第1実施形態と同様である。チャンバ上部15Aは、第1実施形態の被膜Cの形成位置が異なる点以外は、第1実施形態と同様である。
【0080】
被膜CAは、コイル5Aに対応した位置に設けられる。被膜CAは、複数の被膜Cc及び被膜Cdを備える。被膜Cc及び被膜Cdは、チャンバ上部15の壁部15cの外壁15fに沿って配置されたコイル5A(コイル5c及びコイル5d)に対して、壁部15cを挟んだ内壁(内面)15gに設けられる(
図10参照)。被膜Cc、被膜Cdは、壁部15cの内壁(内面)15gのうち曲面部分(ドーム部15aの部分)に設けられる(
図9参照)。被膜Cc、被膜Cdの形状は、それぞれ、
図11に示すチャンバ上部15Aの下方から見て円環状(円状)である。被膜Ccと被膜Cdとの間には間隔Qが設けられる。被膜CA(被膜Cc、被膜Cd)は全体として、ストライプ状(縞状)である。例えば、1mm以上に設定されるのが好ましい。各被膜CA(被膜Cc、被膜Cd)は、その内壁15gに沿った上下方向(幅方向)の長さL3、L4(幅)が、第1実施形態と同様に、160mm未満であるのが好ましく、5mm以上100mm以下であるのがより好ましく、10mm以上に50mm以下であるのがさらに好ましい。上記のように形成される被膜CAは、上記した被膜CAの壁部15cからの剥離(破損)が抑制され、上記した被膜CAの形成によるチャンバ4Aの破損の抑制し、且つ上記したチャンバ4Aのダメージを効果的に抑制し、チャンバ4Aのメンテナンス回数を低減できる。なお、被膜CAは、上記の点以外は第1実施形態と同様である。
【0081】
以上のように、本実施形態のプラズマ処理装置1Aは、上記した被膜CA、及び二重のコイル5c、コイル5dを備え、チャンバ4Aの内部に設ける被膜CAの破損、堆積物の剥離を抑制することにより、プラズマ処理におけるチャンバ4Aのダメージ及びパーティクルの発生を効果的に抑制して、チャンバ4Aのメンテナンス回数を低減することができ、且つ平面上におけるプラズマの均一性をさらに向上させることができる。
【実施例】
【0082】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0083】
[実施例1、比較例1〜4]
以下の実施例1、並びに比較例1〜4において、プラズマ処理装置の評価を行った。プラズマ処理装置の評価は、チャンバの形成材料、被膜の形成材料、被膜の形成位置、被膜の膜厚が異なるプラズマ処理装置に対してプラズマ処理を繰り返し複数回行った後、チャンバ、被膜、チャンバ内の堆積物の変化等を評価することにより行った。また、実施例1においては、プラズマ処理により被処理物上に形成した薄膜の評価を行った。
【0084】
以下、評価条件について説明する。
(プラズマ処理装置)
各例(実施例1、比較例1〜4)で異なるプラズマ処理装置を製造した。実施例1で用いたプラズマ処理装置は、
図1及び
図5と同様の構成のプラズマ処理装置である。比較例1〜4で用いたプラズマ処理装置は、
図4と同様の構成のプラズマ処理装置であり、実施例1と被膜が異なっている。各例では、チャンバの形成材料、被膜の形成材料、被膜の形成位置、被膜の膜厚等の条件を変えて、プラズマ処理装置の評価を行った。各例における被膜のサイズは、以下の通りである。また、各例における被膜のパラメータを表1に示す。各例の被膜は、プラズマ溶射法により形成した。なお、表1の被膜の形成部位に示した「部分的」とは被膜の形成部位が
図5に示した部位であることを示しており、「全面」とは被膜の形成部位が
図4に示した部位であることを示している。
被膜のサイズ:
被膜Caの幅L1(実施例1、
図5参照) :25mm
被膜Cbの幅L2(実施例1、
図5参照) :30mm
被膜Caと被膜Cbとの間隔Q(実施例1、
図5参照) :10mm
被膜の幅L0(比較例1〜4、
図4参照) :160mm
【0085】
(プラズマ処理、プラズマ処理条件)
各例において、上記のように製造したプラズマ処理装置を用いて、プラズマCVD法によるプラズマ処理を被処理物に行い、被処理物上に膜を形成した。
【0086】
(チャンバ・被膜の耐久性の評価)
各例において、所定の回数のプラズマ処理を実施した後のチャンバ上部の壁部及び被膜を目視で観察し、チャンバ上部の壁部及び被膜の耐久性を評価した。上記の耐久性の評価は、チャンバ及び被膜の少なくとも一方に、割れ、クラック、剥離などのダメージが生じたものを「×」(不合格)とし、割れ、クラック、剥離などのダメージが見られなかったものを「〇」とした。これらの評価結果を表1の「チャンバ・被膜の耐久性評価」に示す。また、比較例1におけるチャンバ上部の外観および内部の観察結果を
図13(比較例1)に示す。
【0087】
(堆積物の保持特性)
実施例1において、所定の回数のプラズマ処理を実施した後のチャンバ内部の堆積物を観察し、チャンバ内部における堆積物の保持特性を評価した。チャンバ内部の堆積物の観察結果を
図12に示す。
【0088】
(被膜の組成変化)
実施例1及び比較例1において、被膜の組成変化をエネルギー分散型X線分析(EDX)、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)により評価した。
【0089】
(プラズマ処理装置の経時変化の評価)
実施例1において、プラズマ処理装置の経時変化を評価した。プラズマ処理装置の経時変化は、プラズマ処理装置により被処理物に形成した膜の経時変化を評価することで行った。被処理物に形成した膜の経時変化の評価は、プラズマ処理を500回、2000回、3000回、4000回、及び5000回行ったプラズマ処理装置を用いて被処理物に形成した膜について、膜厚及び膜厚の均一度を評価することにより行った。なお、膜厚は、所定の波長の光の吸光度(OD)を透過濃度計X−Riteにより測定することにより評価した。膜厚の測定は、膜厚と所定の波長の光の吸光度(OD)との関係を示す検量線をあらかじめ作成し、作成した検量線に基づいて、測定した吸光度を膜厚に変換することにより実施した。
【0090】
以下、各例の結果について説明する。
(実施例1)
実施例1のプラズマ処理装置は、被膜をチャンバ上部の内面の曲面部分において部分的に(
図5参照)、チャンバ上部の形成材料と同様の形成材料で、溶射法により150μmの膜厚で形成した。なお、形成した被膜の表面粗さを測定したところ、算術平均表面粗さ(Ra)は3.4μm、最大高さ(Rmax)は26μmであった。実施例1では、このプラズマ処理装置の各部を、メンテナンスなしに連続でプラズマ処理を行い経時的に評価した。
【0091】
実施例1では、チャンバ上部の外観は、プラズマ処理2000回から5000回以上において、いずれも変化が観察されなかった。また、プラズマ処理2000回から5000回において、チャンバ内部における堆積物は、
図12に示すようにプラズマ処理回数に依存して増加していた。しかし、実施例1では、プラズマ処理5000回以上においても、被膜の部分に堆積物が保持され、堆積物の剥離が観察されず、被膜による堆積物の保持は良好であった。また、チャンバ上部の内面の被膜を形成していない部分における堆積物の量は極めて少なかった。また、被膜、及びチャンバ上部の外面及び内面には、割れ、クラック、剥離などのダメージが観察されずチャンバ上部及び被膜の耐久性は良好であった。なお、形成した被膜の組成には、プラズマ処理5000回において、変化が観察されなかった。
【0092】
また、実施例1では、プラズマ処理装置の経時変化を、被処理物に形成した膜の経時変化により評価した。その結果、プラズマ処理装置は、プラズマ処理を5000回以上行っても、被処理物に形成した膜の膜厚、膜厚均一性に大きな変化は観察されなかった。
【0093】
(比較例1)
比較例1のプラズマ処理装置は、チャンバ上部の形成材料が石英であり、Y
2O
3の被膜をチャンバ上部の内面の曲面部分において全面に(
図4参照)、溶射法により150μmの膜厚で形成した。比較例1では、このプラズマ処理装置の各部をメンテナンスなしに連続でプラズマ処理を行い経時的に評価した。
【0094】
図13に示すように、チャンバ上部の外観は、プラズマ処理1000回において変色が見られ、その後プラズマ処理2500回までにおいて、この変色部分は、変色の色が濃くなり且つ拡大がみられた。チャンバ上部内において、堆積物は被膜に保持され、被膜を形成していない部分において、堆積物は観察されなかった。しかしながら、プラズマ処理を2500回行ったプラズマ処理装置は、各部の評価後に行ったチャンバ等の組み立て最装着時に、チャンバ上部が割れて破損した。この結果から、同様の条件で、さらに2回再試験を行ったところ、2回の再試験の両方において、それぞれ、プラズマ処理2300回、1900回時に、上記したチャンバ上部が割れる現象が再現された。この結果から、評価したチャンバ上部の状態を詳細に調べた。その結果、被膜を剥離したところ、チャンバ上部のフランジ部分に大きなクラックが発生していたことが判明した。上記したチャンバ上部が割れる現象は、チャンバ上部のフランジ部分に大きなクラックにより発生したと推定される。なお、プラズマ処理2500回においても、形成した被膜の組成には、変化が観察されなかった。
【0095】
(比較例2)
比較例2は、表1に示すように、チャンバ上部の形成材料がAl
2O
3であり、Y
2O
3の被膜をチャンバ上部の内面の曲面部分において全面に(
図4参照)、溶射法により150μmの膜厚で形成した。比較例2では、このプラズマ処理装置の各部を、メンテナンスなしに連続でプラズマ処理を行い経時的に評価した。その結果、比較例2では、表1に示すように、プラズマ処理装置の使用直後のプラズマ処理20回において、チャンバ上部の割れによる破損が観察され、チャンバの耐久性が不良であった。
【0096】
(比較例3)
比較例3は、表1に示すように、チャンバ上部の形成材料が石英であり、Al
2O
3の被膜をチャンバ上部の内面の曲面部分において全面に(
図4参照)、溶射法により150μmの膜厚で形成した。比較例3では、このプラズマ処理装置の各部を、メンテナンスなしに連続でプラズマ処理を行い経時的に評価した。その結果、比較例3では、表1に示すように、プラズマ処理700回において、チャンバ上部のクラックによる破損が観察され、チャンバの耐久性が不良であった。
【0097】
(比較例4)
比較例4は、比較例3のチャンバにおけるフランジ部分の形状を、
図14に示すように、R0.5からR5.0に代え、且つ比較例3のチャンバにおける被膜の膜厚を150μmから50μmに代えた例である。なお、実施例1、並びに比較例1〜比較例3におけるチャンバのフランジ部分の形状はR0.5である。比較例4では、このプラズマ処理装置の各部を、メンテナンスなしに連続でプラズマ処理を行い経時的に評価した。その結果、比較例4では、表1に示すように、プラズマ処理1800回において、被膜の剥がれが観察され、被膜の耐久性が不良であった。
【0098】
以上の実施例及び比較例の結果から、本実施形態のプラズマ処理装置1及びチャンバ4は、チャンバ4の内部に設ける被膜Cの破損及び被膜Cの形成によるチャンバ4の破損を抑制し、プラズマ処理におけるチャンバ4のダメージ及びパーティクルの発生を効果的に抑制し、チャンバ4のメンテナンス回数を低減できることが確認される。
【0099】
【表1】
【0100】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【0101】
例えば、上述の実施形態のプラズマ処理装置1、1A及びチャンバ4、4Aは、一例であって他の形態でもよい。例えば、プラズマ処理装置1、1及びチャンバ4、4Aは、Aは、平行平板型、ECR型、マグネトロン型、ヘリコン波型、らせんアンテナ型の装置でもよく、これらの場合、チャンバ及び被膜が、チャンバの壁部の内面のうち、プラズマを発生させる電極の近傍に、無機物の被膜を備えるものであればよい。
【0102】
また、例えば、上述の実施形態では、プラズマ処理の一例として、プラズマCVD処理を説明したが、一例であって他のプラズマ処理でもよい。例えば、プラズマ処理は、エッチング、スパッタリング等のプラズマを利用して各種の処理を行うものであればよい。