(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
主としてアルミニウムから構成されるターゲット材と、支持部材とを、インジウム、スズおよび亜鉛からなる群から選択される少なくとも1つの金属またはその合金を含む接合材で結合してなるスパッタリングターゲットをスパッタリングにて使用した後、前記支持部材から分離されたターゲット材の少なくとも前記支持部材との結合面を、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも1つの塩基を含む水溶液で処理し、その後、酸を含む水溶液で処理することを含む、前記ターゲット材を洗浄するための方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、使用済みスパッタリングターゲットから分離したターゲット材を洗浄するための方法、ターゲット材の製造方法、当該洗浄方法で処理したターゲット材を原料とする鋳塊(以下、「リサイクル鋳塊」と称する)の製造方法ならびに当該製造方法で製造されるリサイクル鋳塊などに関する。
【0012】
本発明において、「スパッタリングターゲット」は、主として金属(元素)から構成されるターゲット材と、支持部材とが接合材で結合されてなるものであり、スパッタリングに使用され得るものであれば特に制限はない。スパッタリングターゲットが平板型の場合、支持部材として、平板状のバッキングプレートが用いられ得る。また、スパッタリングターゲットが円筒型の場合、支持部材として、円筒状のバッキングチューブが用いられ得る。ここで、円筒型ターゲット材の内部には、円筒状のバッキングチューブを挿入することができ、円筒型ターゲット材の内周部とバッキングチューブの外周部とが接合材にて結合され得る。
【0013】
「ターゲット材」は、主として、金属(元素)から構成され得るものであり、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、銀(Ag)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)およびニッケル(Ni)からなる群から選択される金属(元素)を含むものであり、上記の金属を含む合金であってもよく、なかでも主成分としてアルミニウム(純度99.99%(4N)以上、好ましくは純度99.999%(5N)以上)または銅(純度99.99%(4N)以上)から構成されることが好ましい。ターゲット材の寸法、形状および構造に特に制限はない。ターゲット材として、板状のものを使用することが好ましい。
【0014】
支持部材が、「バッキングプレート」の場合は、主として、銅(Cu)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、鉄(Fe)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)からなる群から選択される金属(元素)を含むものであり、上記の金属を含む合金であってもよく、なかでも、銅(無酸素銅)、クロム銅合金、アルミニウム合金などであることが好ましい。ターゲット材を配置することができる板状のものであれば、バッキングプレートの寸法、形状および構造に特に制限はない。
支持部材が、「バッキングチューブ」の場合も、構成する金属は、上記のバッキングプレートの場合と同様であるが、なかでも、ステンレス鋼(SUS)、チタン、チタン合金などであることが好ましい。バッキングチューブの寸法は、円筒型ターゲット材の内部に挿入して接合するため、円筒型ターゲット材よりも通常長く、バッキングチューブの外径は、円筒型ターゲット材の内径よりも僅かに小さいことが好ましい。
【0015】
「接合材」は、ターゲット材と支持部材との結合に寄与してスパッタリングターゲットを形成するために使用され得るものであれば特に制限はない(
図2)。接合材には、例えば、ハンダ材、ろう材などが含まれる。
【0016】
「ハンダ材」とは、低融点(例えば723K以下)の金属または合金を含む材料であり、例えば、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)およびアンチモン(Sb)からなる群から選択される金属またはその合金を含む材料などが挙げられる。より具体的には、In、In−Sn、Sn−Zn、Sn−Zn−In、In−Ag、Sn−Pb−Ag、Sn−Bi、Sn−Ag−Cu、Pb−Sn、Pb−Ag、Zn−Cd、Pb−Sn−Sb、Pb−Sn−Cd、Pb−Sn−In、Bi−Sn−Sbなどが挙げられる。
「ろう材」としては、ターゲット材と支持部材とを結合することができ、ターゲット材および支持部材よりも融点の低い金属または合金であれば、特に制限なく使用することができる。
接合材として、一般に低融点であるInやIn合金、SnやSn合金などのハンダ材を使用することが好ましい。
【0017】
例えば、ハンダ材は、加熱によって、ターゲット材との結合面において、ターゲット材に含まれる金属(元素)と拡散層(合金層)を形成して結合することができる。また、ハンダ材は、支持部材との結合面においても、同様に支持部材に含まれる金属(元素)と拡散層(合金層)を形成して結合することができる。従って、このようなハンダ材を使用することによってハンダ層を形成し、ターゲット材と支持部材とを結合することができる(
図3)。
【0018】
一般に、ターゲット材や支持部材に上記のハンダ材を乗せるだけでは、ターゲット材や支持部材の表面に存在し得る酸化膜が影響して、十分な接合強度が得られないことがある。そのため、まずはそれらの表面に対するハンダ材の濡れ性を向上させるためにメタライズ層が設けられ得る。
【0019】
「メタライズ」とは、一般に非金属の表面を金属膜化するために使用され得る処理方法であり、本発明では、例えば、ターゲット材や支持部材が酸化膜を有する場合などにおいて、メタライズ用のハンダ材を用いてターゲット材や支持部材と結合させてメタライズ層を形成させることをいう。メタライズ層は、例えば、超音波はんだごてを使用して、超音波の振動エネルギー(キャビテーション効果)によってターゲット材や支持部材の酸化膜を破壊しながら、加熱によって、酸化膜中の酸素原子と共に、メタライズ用のハンダ材に含まれる金属原子と、ターゲット材や支持部材に含まれる金属原子とを化学的に結合させることによって形成され得るものである。
【0020】
このようにして形成され得るメタライズ層(5、5’)(
図4参照)は、上記のハンダ層(4)とも接合することができ、ターゲット材(1)とハンダ層(4)との間、支持部材(2)とハンダ層(4)との間に位置して、ターゲット材(1)とハンダ層(4)、支持部材(2)とハンダ層(4)とを強固に結合する役割を果たすことができる。
【0021】
ハンダ層の厚みは、例えば平板型の場合は50μm〜500μm、円筒型の場合は250μm〜1500μmの範囲内である。
メタライズ層の厚みは、例えば平板型、円筒型ともに10μm〜100μmの範囲内である。
【0022】
メタライズに使用することのできるハンダ材は、例えば、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)およびアンチモン(Sb)からなる群から選択される金属またはその合金を含む材料などであり、より具体的には、In、In−Sn、Sn−Zn、Sn−Zn−In、In−Ag、Sn−Pb−Ag、Sn−Bi、Sn−Ag−Cu、Pb−Sn、Pb−Ag、Zn−Cd、Pb−Sn−Sb、Pb−Sn−Cd、Pb−Sn−In、Bi−Sn−Sbなどが挙げられる。ターゲット材または支持部材と親和性の高い材料を適宜選択すればよい。
【0023】
本発明では、スパッタリングターゲットをスパッタリングにて使用した後、支持部材からターゲット材を分離(剥離)する。ターゲット材を支持部材から分離する方法に特に制限はない。例えば、上記の接合材から形成され得る接合層(又は結合層)に熱(例えば180℃〜300℃)を加えて、接合層を軟化または溶融しながら、必要に応じて物理的に接合層を破壊してターゲット材を支持部材から分離することができる。
【0024】
ターゲット材が平板型の場合、分離した後のターゲット材において、支持部材と結合(又は接合)していた側の面(以下、「結合面」又は「接合面」と称する場合もある)には、接合材の少なくとも一部が付着して残存している。なお、分離後の結合面に付着した接合材をヘラ(例えば、シリコーン製のヘラ)などでそぎ落としても、付着した接合材を完全に除去することはできない。また、ターゲット材のスパッタリング面においても接合材が付着して残存する場合がある。その原因としては、例えば、ターゲット材の分離の際に溶融した接合材がスパッタリング面に付着することや、分離した使用済みのターゲット材を互いに積み重ねて保管したために、結合面とスパッタリング面とが接触し、結合面の接合材がスパッタリング面に付着することなどが挙げられる。従って、スパッタリング面においても当該処理を適用してもよい。
【0025】
ターゲット材が円筒型の場合、円筒型のターゲット材が円筒状のバッキングチューブの外周部に接合材を用いて結合され得るため、前述の板状ターゲット材の場合と同様、分離後のターゲット材の結合面(内周部)には接合材が付着し、完全に除去することはできない。また、ターゲット材のスパッタリング面においても接合材が付着して残存する場合がある。さらには、バッキングチューブに由来する成分も不純物として混入し得る場合もある。従って、円筒型ターゲット材においてもスパッタリング面である外周部や内周部に対して当該洗浄方法を適用してもよい。
【0026】
分離後のターゲット材における接合材の付着の存在は、例えば、エネルギー分散型蛍光X線分析(EDXRF:Energy Dispersive X-ray Fluorescence Analysis)によって確認することができる。また、支持部材からターゲット材へと金属元素が拡散する場合もあり、このような金属元素についても同様にEDXRFによって確認することができる。他にも、波長分散型蛍光X線分析(WDXRF:Wavelength Dispersive X-ray Fluorescence Analysis)、電子線プローブマイクロアナリシス(EPMA:Electron Probe Micro Analysis)、オージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)、X線光電分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)、レーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析(LA−ICP−MS:Laser Ablation Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)、X線回折法(XRD:X-ray Diffraction Analysis)などの分析方法でも、接合材、支持部材に由来する不純物は確認可能であるが、分析の簡便さ、分析範囲の広さから、EDXRF、WDXRFでの確認が好ましい。
【0027】
ここで、接合材が付着した分離後のターゲット材をそのまま使用して、後続のリサイクル処理において、溶解、鋳造により、鋳塊(以下、「スラブ」または「インゴット」と称する場合もある)を製造し、この鋳塊から再びターゲット材を製造すると、付着した接合材の成分に由来する不純物が混入する。また、支持部材からターゲット材へと金属元素が拡散して不純物として混入する場合もあり、このような金属元素もまた、不純物として鋳塊中に混入する場合がある。
【0028】
そこで、本発明では、以下にて詳しく説明する通り、使用済みのターゲット材を支持部材から分離した後、少なくともターゲット材の接合材が付着して残存する結合面を塩基で処理して洗浄する。それによって、塩基がターゲット材を浸食するため、ターゲット材から接合材が剥離、除去されると同時に支持部材に由来する不純物をも簡便に除去することができる(
図1)。
【0029】
(使用済みターゲット材の洗浄方法)
・塩基処理
本発明では、支持部材から分離されたターゲット材の少なくともバッキングプレートとの結合面を塩基で処理することを特徴とする。
【0030】
本発明において使用することのできる塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、アンモニア、グアニジン、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウムなどが挙げられる。必要に応じて、2種以上の塩基を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
また、上記の塩基の他に、ターゲット材を構成する金属のイオンと錯形成するキレート剤を追加してもよい。例えば、ターゲット材がアルミニウムの場合、ヘプトグルコン酸、グルコン酸、クエン酸、酒石酸、エチレンジアミン4酢酸のアルカリ金属塩などが挙げられる。また、アルサテンなどの市販のアルカリエッチング処理剤を添加してもよい。これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
塩基の濃度に特に制限はなく、例えば5重量%〜50重量%、好ましくは8重量%〜40重量%、より好ましくは10重量%〜35重量%である。濃度が低すぎるとターゲット材との反応速度が遅く、十分な洗浄効果が得られない場合があり、濃度が高すぎると、ターゲット材表面の酸化層が厚くなったり、コストが高くなる場合がある。また、塩基を組み合わせて使用する場合、一方の塩基の濃度は、例えば5重量%以下でもよく、1重量%以下であってもよい。
【0033】
使用する塩基の温度にも特に制限はなく、例えば10℃〜80℃、好ましくは15℃〜70℃、より好ましくは20℃〜60℃である。温度が低すぎるとターゲット材との反応速度が遅く、十分な洗浄効果が得られない場合があり、温度が高すぎると、ターゲット材表面の酸化層が厚くなる場合がある。
【0034】
塩基による処理時間に特に制限はなく、例えば3分以上、好ましくは3分〜12時間、より好ましくは5分〜5時間、さらに好ましくは5分〜120分である。塩基の濃度、温度に応じて、適宜決定すればよい。
【0035】
塩基による処理は、例えば、ターゲット材への塩基溶液(好ましくは水溶液)の塗布や、塩基溶液(好ましくは水溶液)中へのターゲット材の浸漬などが挙げられる。
【0036】
・酸処理
必要に応じて、上述の塩基処理の後、さらにターゲット材の少なくとも支持部材との結合面を酸で処理してもよい(
図1)。このような酸での処理によって、場合によって上述の塩基による処理では十分に剥離することができずに残存し得る接合材や支持部材に由来する不純物を溶解することができ、このような不純物をさらに除去することができる。
【0037】
本発明において使用することのできる酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、フッ化水素酸(フッ酸)、燐酸、過塩素酸、塩素酸、過臭素酸、臭素酸、過ヨウ素酸、ヨウ素酸、ヨウ化水素酸、過マンガン酸、テトラフルオロホウ酸などが挙げられる。必要に応じて、2種以上の酸を組み合わせて使用してもよい。例えば、王水、フッ硝酸などを使用することができる。
【0038】
酸の濃度に特に制限はなく、例えば1重量%〜50重量%、好ましくは5重量%〜45重量%、より好ましくは10重量%〜40重量%である。ただし、フッ硝酸などの混酸の場合、一方の酸の濃度は1重量%以下でもよい。
【0039】
使用する酸の温度にも特に制限はなく、例えば10℃〜50℃、好ましくは15℃〜45℃、より好ましくは20℃〜40℃である。
【0040】
酸による処理時間に特に制限はなく、例えば3分以上、好ましくは3分〜12時間、より好ましくは5分〜120分であり、さらに好ましくは10分〜90分である。酸の濃度、温度に応じて、適宜決定すればよい。
【0041】
酸による処理は、例えば、ターゲット材への酸溶液(好ましくは水溶液)の塗布や、酸溶液(好ましくは水溶液)中へのターゲット材の浸漬などが挙げられる。
【0042】
・処理工程
大量の使用済みターゲット材を同時に処理する場合には、籠状の容器にターゲット材を並べて入れ、籠状の容器ごと塩基溶液または酸溶液中に浸漬することが好ましく、溶液中への挿入、取り出し作業を簡便に行うことができる。
【0043】
容器の材質は耐薬品性が高く、中に入れる使用済みターゲット材の重量に耐えられるものであればよい。ステンレス、チタン、チタン合金、ニッケル、ニッケル合金、インコネル、アルミ合金などの金属や合金、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂などが挙げられ、使用する塩基または酸に応じて適宜選択すればよい。長さが1mを超えるようなフラットパネルディスプレイ用の使用済みターゲットを処理する場合には、強度、耐久性、耐薬品性の観点から、SUS304、SUS316などのステンレスを用いることが好ましい。また、金属製の容器を選択する場合には、溶液中への金属の溶解を防ぐため、上記の樹脂等でコーティングした材料を用いてもよい。
【0044】
溶液中に籠状の容器ごと浸漬するためには、籠は網状、メッシュ状、パンチング状、エキスパンド状、グレーチング状であることが好ましい。容器の内外を塩基または酸が拡散できるため、反応速度の低下を抑えることができる。また、金属製の籠を使用する場合、溶液に触れる部分の面積を小さくすることで、籠の金属成分の溶液中への溶解量を抑えることができ、ターゲット材上での金属成分の析出による汚染のリスクを抑えることができる。
【0045】
塩基または酸中に浸漬される使用済みターゲット材の姿勢としては特に制限はないが、平板型ターゲット材の場合、ターゲット材の側面を下向きにし、ターゲットの接合面が容器の下面に対して角度が付くように、好ましくは60°〜120°傾けて浸漬すると、接合材などをより効率よく除去することができる。塩基もしくは酸中に使用済みターゲット材を浸漬した際には、接合材もしくはターゲット材と塩基または酸が反応することによりガスが泡状で発生し、そのガスが処理面の表面に沿って上がっていくことで溶液が撹拌される他、気泡の衝突により接合材の剥離が促進され得る。
円筒型ターゲット材の場合、ターゲット材の外周面を下向きにし、ターゲット材の接合面が容器の下面に対して角度が付くように、好ましくは2°〜45°傾けて浸漬すると、空気だまりの発生を抑制でき、接合材が残存するリスクを低減することができる。
【0046】
また、塩基処理または酸処理の直後に、3MPa以上、好ましくは5MPa以上の高圧の流体によるジェット洗浄を行ってもよい。流体の種類に特に制限はないが、塩基や酸と触れる場合には水を使用することが好ましい。支持部材から剥がした使用済みターゲット材に残存する接合材の厚さは均一ではなく、一部厚く残る部分や、剥がす工程で溶融した接合材がターゲット材に垂れて島状や点状に存在する部分があることが多い。その部分は、上述の処理後に接合材が残存するおそれがあるが、ジェット洗浄を施すことで付着している接合材の一部を物理的に除去することができ、接合材の残存するリスクを低減することができる。
【0047】
・不純物の検出
本発明の使用済みターゲット材の洗浄方法によると、EDXRFの検出下限界(通常、検出下限界は元素によって異なるが、例えば、接合材に由来する不純物の検出下限界は0.01重量%程度であり、例えばインジウムでは0.01重量%である)よりも低い値にまで接合材および支持部材に由来する不純物の量を低減することができ、処理後のターゲット材は、接合材および支持部材に由来する不純物を実質的に含まないことを特徴とする。ここで、「接合材および支持部材に由来する不純物を実質的に含まない」とは、EDXRFの検出下限界よりも小さく、EDXRFでは検出できない程度にまで不純物の量が低減することを意味する。
【0048】
また、本発明の洗浄方法は、従来の酸溶液での洗浄方法とは異なり、使用済みターゲット材をより積極的に溶解させることにより、表面に付着している接合材を固体状態にて剥離、除去させることが可能な方法である。従って、処理に使用した溶液から接合材を簡単に回収することができるので、従来の酸洗浄方法と比べて多くの利点を有する。
【0049】
(リサイクル鋳塊の製造方法)
本発明の洗浄方法に従って処理されたターゲット材は、例えば
図1に示す通り、溶解、鋳造することにより、リサイクル鋳塊を製造することができる。
【0050】
リサイクル鋳塊を製造する方法としては公知の方法を使用すればよく、溶解、鋳造の工程を経て製造することができる。溶解方法としては、電気炉や燃焼炉にて、大気中または真空中で溶解させればよく、鋳造方法としては、連続鋳造法、半連続鋳造法、金型鋳造法、精密鋳造法、ホットトップ鋳造法、重力鋳造法などを採用することができる。また、溶解、鋳造工程の間に、脱ガス処理、介在物除去処理を行ってもよい。
【0051】
リサイクル鋳塊の製造条件、特に温度は、ターゲット材に主として含まれる金属(元素)に応じて適宜決定すればよい。
【0052】
例えば、ターゲット材に主成分として含まれる金属がアルミニウムである場合、処理後のターゲット材を真空下(例えば、0.03Torr)あるいは大気下、670〜1200℃、好ましくは750〜850℃において、カーボンやアルミナなどの坩堝中で溶解し、必要に応じて大気中にて撹拌してドロスを除去した後、大気中で冷却することによって、リサイクル鋳塊を製造することができる。
【0053】
リサイクル鋳塊の製造には、洗浄後のターゲット材のみで製造してもよいし、従来の原料金属と洗浄後のターゲット材との混合物をあわせて使用してもよい。原料金属と洗浄後のターゲット材とを混合する場合、洗浄後のターゲット材の混合割合は、通常20重量%以上であり、製造コストにおける原料費の割合を抑える上では、50重量%以上であることが好ましい。
【0054】
(リサイクル鋳塊)
本発明の方法に従って製造され得るリサイクル鋳塊は、上述の通り、接合材および支持部材に由来する不純物を実質的に含まないことを特徴とし、元の(未使用の)ターゲット材と実質的に同一の組成を有し得る。そのため、このようなリサイクル鋳塊から、元のターゲット材と実質的に同一の組成を有するターゲット材を再び製造することができる。ここで、「元のターゲット材と実質的に同一の組成を有する」とは、主たる金属(元素)が同一であり、元のターゲット材にもともと含まれる不純物と同程度の量の不純物を含み得ることを意味する。例えば、接合材および支持部材に由来し得る不純物の合計量が重量基準で10ppm未満、好ましくは0.1ppm〜8ppm、より好ましくは5ppm以下(又は未満)、さらに好ましくは0.1ppm〜5ppmであり、さらにより好ましくは0.1ppm〜3.5ppmであり、なおかつ全不純物合計量が50ppm未満、好ましくは0.1ppm〜20ppm、より好ましくは0.1ppm〜10ppm、さらに好ましくは0.1ppm〜7ppmの範囲内にある場合などが挙げられる。なお、元のターゲット材にもともと含まれる不純物およびその量は、そのターゲット材に主成分として含まれる金属の種類および元のターゲット材の製造方法に依存し得るものである。また、リサイクル鋳塊は、ターゲット材以外の用途に使用してもよく、例えば、アルミ電解コンデンサー、ハードディスク基板、耐食性材料、高純度アルミナなどの高い純度が求められる製品の原料としても使用することができる。
【0055】
例えば、ターゲット材に主成分として含まれる金属がアルミニウムである場合、リサイクル鋳塊に含まれる接合材および支持部材に由来する不純物の合計量は、例えば、重量基準で10ppm未満であり、好ましくは0.1ppm〜8ppm、より好ましくは5ppm以下(又は未満)、さらに好ましくは0.1ppm〜5ppmであり、さらにより好ましくは0.1ppm〜3.5ppmであれば許容の範囲内である。なお、用途によるものの、例えばフラットディスプレイ用のアルミニウム製のターゲット材は、通常、10ppm程度の不純物を含み得ることが知られていて、不純物の量がこの程度であれば、スパッタリングに特に支障はない。
【0056】
また、リサイクル鋳塊に含まれる不純物の量は極めて微量であるため、このような不純物の量は、グロー放電質量分析法(Glow Discharge Mass Spectrometry(GDMS))を用いて測定することができる。なお、GDMSの定量下限は、ターゲット材の主元素および検出対象である元素によって異なるものの、例えばターゲット材の主成分として含まれる金属がアルミニウムの場合、通常、0.001ppm〜0.1ppmであり、例えばインジウムでは0.01ppmである。
【0057】
上述の通り、本発明によると、使用済みのターゲット材は簡便に洗浄することができ、洗浄後のターゲット材は、接合材および支持部材に由来する不純物を実質的に含まないことから、かかる洗浄方法で処理したターゲット材を使用することにより、元のターゲット材と実質的に同一の組成を有するリサイクル鋳塊を得ることができる。このようなリサイクル鋳塊から、元のターゲット材と実質的に同一の組成を有するターゲット材を簡便に製造することができる。また、本発明によると、塩基処理の後、接合材を固体状態で簡便に回収することができる。
【0058】
以下、本発明の実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
(実施例1〜9および比較例1)
アルミニウム製の平板型ターゲット材(純度:99.999%、寸法:2000mm×200mm×15mm)と、無酸素銅製のバッキングプレート(純度:99.99%、寸法:2300mm×250mm×15mm)とを、以下の表1〜3に示すInまたはSn−Znのハンダ材(ハンダ層の厚み:350μm)で接合(ターゲット材のメタライズには、Sn−Zn−Inのハンダ材を使用)してなるスパッタリングターゲットを、スパッタリングに付して使用した後、接合層を加熱(280℃)することによって、ターゲット材をバッキングプレートから分離した。ターゲット材の接合面に付着しているハンダ材をシリコーン製のヘラで掻き落として、可能な限りハンダ材を回収した。バッキングプレートから分離後、ターゲット材を100mm×200mm×15mm程度になるように切断した。
【0060】
上記のターゲット材を以下の表1〜3に示す条件(実施例1〜9および比較例1)でそれぞれ浸漬により洗浄して処理し、島津製作所製のEDXRF分析装置(EDX−700L、検出限界:Inで約0.01重量%)を用いて、下記の条件にて洗浄後の使用済みターゲット材の接合面を分析(半定量分析)した。
その際、接合材やバッキングプレートの成分の元素について、X線ピークの検出有無についても確認した。その結果、分析結果が0wt%となった場合においてはピークも検出されていないこともあわせて確認した。
EDXRFの分析結果を、使用済みターゲット材(洗浄前)と未使用のターゲット材(接合前)の分析結果とともに以下の表1〜3に示す。
<分析条件>
X線照射径:10mmφ
励起電圧:10kV(Na〜Sc)、50kV(Ti〜U)
電流:100μA
測定時間:200秒(各励起電圧において100秒測定)
雰囲気:He
管球:Rhターゲット
フィルター:無し
測定方法:ファンダメンタルパラメータ法
検出器:Si(Li)半導体検出器
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
実施例1〜9の結果が示す通り、本発明の洗浄方法によって、接合材およびバッキングプレートに由来する不純物を実質的に含まない使用済みターゲット材を得ることができた。
対して、酸による処理のみを行った比較例1では、20時間かけて処理したにもかかわらず、バッキングプレートに由来する銅(Cu)を除去することはできなかった。また、実施例1〜9では、塩基処理の段階で接合材であるハンダ材を固体状態で回収することができたが、酸による処理を行った比較例1では、ハンダ材が酸水溶液中に溶解してしまい、接合材を回収することはできなかった。
【0065】
次いで、実施例2、6、7、8および比較例1で得たターゲット材の一部を採取し、真空下(例えば、0.03Torr)、850℃において処理済みのターゲット材を溶解し、大気中にて撹拌してドロスを除去した後、大気中で冷却することにより、約3kgのリサイクル鋳塊を製造した。
【0066】
リサイクル鋳塊、未使用のターゲット材に含まれる不純物の量を、それぞれGDMS(VG Elemental社製、VG9000)を用いて、In、Sn、Zn、Cuについての微量分析を行った。使用済みターゲット材(洗浄前)および比較例1のターゲット材から同様の方法で作製した鋳塊と未使用のターゲット材(接合前)についての分析結果とともに結果を以下の表4、5に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
実施例2、6、7、8の結果が示す通り、本発明の洗浄方法によって、接合材およびバッキングプレートに由来する不純物(すなわち、In、Sn、Zn、Cu)の合計量は重量基準で5ppm未満であり、元のターゲット材と実質的に同一の組成を有するリサイクル鋳塊を得ることができた。
【0070】
対して、酸による処理のみを行った比較例1では、20時間かけて処理したにもかかわらず、接合材およびバッキングプレートに由来する不純物(すなわち、In、Sn、Zn、Cu)の合計量は重量基準で約19ppmであり、元のターゲット材と実質的に同一の組成を有するリサイクル鋳塊を得ることはできなかった。
【0071】
(実施例10)
実施例7と同様の条件で使用済み平板型ターゲット材(2t)を処理した。ただし、洗浄した使用済みターゲット材のサイズは1000mm×200mm×15mm(バッキングプレートから剥がしたターゲット材を半分に切断したサイズ)であり、SUS304製の網状の籠に入れ、洗浄液に浸漬した。その際、使用済みターゲット材は、ターゲットの長辺の側面を下向きにし、接合面が容器の下面に対して立つ(60°〜120°)ように籠の中へ配置した。また、塩基、酸への浸漬後、5MPa程度の高圧水で接合面をジェット洗浄した。洗浄後、処理したターゲット材のうち、10枚を無作為に選別し、島津製作所製のEDXRF分析装置(EDX−700L、検出限界:Inで約0.01重量%)を用いて、洗浄後のターゲット材の接合面を分析(半定量分析)した。その際、接合材やバッキングプレート成分の元素について、X線ピークの検出有無を確認した。分析の結果、含有量0%となった場合においてピークが検出されていないこともあわせて確認した。
次いで、洗浄済みのターゲット材の全量(2t)を大気中、750℃において溶解し、大気中でフラックスを用いてドロスを除去した後、大気中で鋳型に溶湯を注ぎ込み、溶湯を冷却することにより、リサイクル鋳塊を製造した。
リサイクル鋳塊に含まれる不純物の量を、GDMS(VG Elemental社製 VG9000)を用いて測定した。結果を上記の表5に示す。
実施例10の結果が示す通り、本発明の洗浄方法は、使用済みターゲットのハンダ材の厚みのばらつきにも影響されず、大量の使用済みターゲット材の処理にも好適であることが明らかとなった。
また、使用済みのターゲット材を2t処理した際、約4kgのハンダ材を固体状態(膜状)で回収することができた。
上記実施例及び比較例については、平板型ターゲット材について説明したが、バッキングチューブに接合材を用いて接合される円筒型ターゲット材についても、同様の処理を行うことにより、同結果を得ることができる。