【実施例】
【0090】
実験部分
本明細書において使用される際、「ACN」という用語は、アセトニトリルを意味し、「AcOH」は、酢酸を意味し、「DMAP」は、4−ジメチルアミノピリジンを意味し、「DSC」は、示差走査熱量測定を意味し、「LCMS」は、液体クロマトグラフィー/質量分析法を意味し、「HPLC」は、高速液体クロマトグラフィーを意味し、「RP HPLC」は、逆相高速液体クロマトグラフィーを意味し、「aq.」は、水性を意味し、「DCM」は、ジクロロメタンを意味し、「DIPE」は、ジイソプロピルエーテルを意味し、「DIPEA」は、ジイソプロピルエチルアミンを意味し、「DMF」は、N,N−ジメチルホルムアミドを意味し、「EtOH」は、エタノールを意味し、「Et
2O」は、ジエチルエーテルを意味し、「EtOAc」は、酢酸エチルを意味し、「Et
3N」は、トリエチルアミンを意味し、「HBTU」は、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’N,’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェートを意味し、「THF」は、テトラヒドロフランを意味し、「min」は、分を意味し、「h」は、時間を意味し、「MeOH」は、メタノールを意味し、「iPrOH」は、2−プロパノールを意味し、「RM」は、反応混合物を意味し、「RT」は、室温を意味し、「OL」は、有機層を意味し、「R
t」は、保持時間(分)を意味し、「quant.」は、定量的を意味し、「sat.」は、飽和を意味し、「sol.」は、溶液を意味し、「m.p.」は、融点を意味し、「q.s.」は、適量を意味する。
【0091】
薄層クロマトグラフィー(TLC)を、試薬グレードの溶媒を用いて、シリカゲル60 F254プレート(Merck)において行った。オープンカラムクロマトグラフィーを、標準的な技術と用いて、メッシュ230〜400の粒度および60Åの孔径のシリカゲル(Merck)において行った。自動フラッシュカラムクロマトグラフィーを、Armen Instrument製のSPOTまたはLAFLASHシステムにおける不規則なシリカゲル、粒度15〜40μm(順相用の使い捨てのフラッシュカラム)において、Merck製のすぐに接続できる(ready−to−connect)カートリッジを用いて行った。
【0092】
化合物の一部の絶対立体化学配置を、振動円二色性(VCD)を用いて決定した。溶媒としてCD
2Cl
2を用いたKBr液体細胞中で、PMA 37を備えたBruker Equinox 55において、それらを測定した(PEM:1350cm−1、LIA:1mV、分解能:4cm
−1)。絶対配置の決定のためのVCDの使用についての説明は、Dyatkin A.B.et.al,Chirality,14:215−219(2002)に見出され得る。
【0093】
第一原理計算:徹底的な配座探索を、OPLS−2005力場で混合ねじれ/低モードサンプリング(mixed torsional/low−mode sampling)を行うMacromodelを用いて、分子力学レベルで行う。突き止めた最小値は、JaguarをB3LYP/6−31G
**レベルで使用し、ジクロロメタン溶媒を模倣するPoisson−Boltzmann連続溶媒和モデルを用いて最適化した。10kJ/mol以内の間隔の全ての配座を用いて、VCDおよびIRスペクトルをシミュレートした。双極子強度および旋光強度を、同じB3LYP/6−31G
**レベルで、Jaguarを用いて計算した。0.97倍だけ周波数をスケーリングし、ローレンツ帯形状(Lorentzian bandshape)に変換し、ボルツマンアンサンブル(Boltzmann ensemble)を取る各配座異性体の寄与を合計した後に生成された、計算されたVCDスペクトルを、正確な立体化学を割り当てるために実験スペクトルと視覚的に比較した。
【0094】
以下の実施例は、本発明の範囲を限定するのではなく、例示することが意図される。特に断りのない限り、全ての出発材料を、商業的な供給業者から入手し、さらに精製せずに使用した。
【0095】
A.中間体の合成
【化3】
手順a:4−メチル−3−ピリジンカルボン酸塩酸塩(1:1)(40g、230.4mmol)を、硫酸(20mL)とMeOH(400mL)との還流混合物に加えた。混合物を一晩還流させ、次に、それを蒸発させ、得られたスラリーを、水(360mL)中のNaHCO
3(64g)の冷溶液に加えた。生成物をDCMで抽出し、有機層をMgSO
4上で乾燥させ、ろ過し、蒸発させ、中間体1(28.70g、83%)を得た。
【0096】
手順b:金属製の反応器に、3−ブロモ−4−メチル−ピリジン(200g、0.116mol)、およびDMF/MeOH(1L/1L)の混合物を充填した。これに、Et
3N(400g、0.395mol)、酢酸パラジウム(II)(8g、0.036mol)および1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(16g、0.029mol)を加えた。反応器を閉め、COガス(3MPa)で加圧し、反応混合物を撹拌し、140℃で一晩加熱した。反応混合物(RM)を冷却し、ろ過し、減圧下で濃縮した。残渣を、シリカゲルにおけるフラッシュカラムクロマトグラフィー(グラジエント溶離剤:1/1から1/0のEtOAc/石油エーテル)によって精製した。生成物画分を収集し、溶媒を蒸発させて、所望の中間体1(90g、51%)を得た。
【0097】
【化4】
手順a:水素化フラスコに、AcOH(500mL)を充填し、次に、PtO
2(15.02g、66.2mmol)を加えた。中間体1(50g、330.8mmol)を加え、混合物を50℃で7日間水素化した。反応混合物をdicalite(登録商標)上でろ過し、ろ液を蒸発させて、中間体2(52g)を得て、それをさらに精製せずに次の工程に使用した。
【0098】
手順b:酸化白金(5g、0.022mol)を、中間体1(90g、0.595mol)およびAcOH(1L)の溶液に加えた。反応混合物を撹拌し、3.5kPaの圧力下で、50℃で5日間水素化した。冷却された反応混合物を減圧下で濃縮して、酢酸塩としての中間体2(140g、97%、
1H−NMRによって測定される90%の純度)を得た。
【0099】
【化5】
手順a:DCM(869mL)中の中間体2(52g、330.8mmol)の溶液に、DIPEA(85.5g、661.5mmol)およびDMAP(4.04g、33.08mmol)を加えた。次に、二炭酸ジ−tert−ブチル(72.19g、330.8mmol)を、少しずつこの溶液に加え、反応物を室温(RT)で1時間撹拌した。反応混合物を水および塩水で洗浄し、有機層をMgSO
4上で乾燥させ、ろ過し、蒸発させた。生成物を、カラムクロマトグラフ(シリカゲル、溶離剤:DCM、DCM中1%のMeOH、2%、4%)によって精製した。所望の画分を蒸発させて、中間体3(64.1g、75%)を得た。
【0100】
手順b:DCM(1.5L)中の中間体2(140g、0.595mol)の撹拌および冷却された(0℃)溶液に、二炭酸ジ−tert−ブチル(130g、0.596mol)、Et
3N(225g、1.74mol)およびDMAP(10g、0.082mol)を連続して加え、撹拌を室温で2時間続けた。反応混合物をH
2O(500mL)に注ぎ、DCM(2×100mL)で抽出した。有機層を分離し、乾燥させ(Na
2SO
4)、溶媒を蒸発させて、粗中間体3(150g、90%、
1H−NMRによって測定される90%の純度)を得て、それを次の反応工程にそのまま使用した。
【0101】
【化6】
手順a:中間体3(64.1g、249.1mmol)を、室温でMeOH(500mL)中で撹拌した。NaOH(2M、747.3mL)を加え、混合物を室温で2時間撹拌した。反応混合物をHCl 1Nで酸性化し、生成物をEt
2Oで抽出した。有機層(OL)を塩水で洗浄し、MgSO
4上で乾燥させ、ろ過し、蒸発させて、中間体4(59.70g)を白色の固体として得た。
【0102】
手順b:MeOH(0.9L)中の中間体3(150g、90%純粋、0.524mol)の撹拌溶液に、2MのNaOH溶液(1.8mol)の溶液を加えた。室温で14時間後、反応混合物をMTBE(2×0.8L)で抽出した。水層を10%のクエン酸で酸性化し、次に、EtOAc(4×1L)で抽出した。組み合わされた有機層をNa
2SO
4上で乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮して、粗中間体4(142g、
1H−NMRによって測定される90%の純度、100%)を得て、それを次の反応工程にそのまま使用した。
【0103】
【化7】
手順a:THF(800mL)中の中間体4(59.7g、0.25mol)の溶液に、ジ−1H−イミダゾール−1−イル−メタノン(54g、0.33mol)を加え、混合物を室温で1時間撹拌した。別のフラスコ中で、ACN(500mL)中のN−メトキシ−メタンアミン塩酸塩(1:1)(32.93g、0.34mol)の懸濁液に、トリメチルアミン(35.75g、0.35mol)を加えた。両方の混合物を組み合わせて、監視しながら50℃で撹拌した。中間生成物が、反応混合物から晶出し、これは、所望の生成物を形成するようにN−メトキシ−メタンアミンと反応しなかった。中間体が溶解されるまでDCMを加えた。反応物を、80℃で1週間撹拌させておいた。溶媒を蒸発させた。残渣をDCMに溶解させ、水、20%のAcOH溶液および最後に飽和NaHCO
3溶液で洗浄した。有機層をMgSO
4上で乾燥させ、ろ過し、蒸発させた。生成物を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離剤:DCM中2%のMeOH、4%)によって精製した。純粋な画分を蒸発させて、中間体5(70g、定量的)を得た。
【0104】
手順b:DCM(2L)中の中間体4(140g、0.518mol)の撹拌および氷冷された溶液に、N,O−ジメチルヒドロキシルアミン(113g、1.16mol)およびEt
3N(113g、1.79mol)を加えた。次に、HATU(235g、0.618mol)を加え、撹拌を14時間続けた。溶媒を蒸発させ、NaHCO
3溶液(0.5L)を加え、次に、DCM(3×1L)で抽出した。組み合わされた有機層を分離し、Na
2SO
4で乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮した。残渣を石油エーテル中1〜10%のEtOAcで溶離するシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーによって精製して、中間体5(152g、100%)を得た。
【0105】
【化8】
手順a:THF(250mL)中の中間体5(70g、244.4mmol)を、N
2下でフラスコに充填し、−15℃に冷却した。メチルマグネシウムブロミド(トルエン/THF 75/25中1.4M、206mL)を、温度が0℃を超えないように、滴下して加えた。添加後、反応混合物を室温で1時間撹拌した。次に、反応混合物を、20mLのAcOHとともに氷上に注いだ。生成物をEt
2Oで抽出し、有機層を5%のNaHCO
3溶液で洗浄した。有機層をMgSO
4上で乾燥させ、ろ過し、蒸発させて、中間体6(53.35g、90%)を得た。
【0106】
手順b:THF(2L)中の中間体5(150g、0.524mol)の撹拌および冷却された溶液(0℃)に、THF(0.75L、2.25mol)中3Mのメチルマグネシウムブロミド溶液を滴下して加え、撹拌を室温で2時間続けた。反応混合物をNH
4Cl水溶液に注ぎ、DCMで抽出した。組み合わされた有機層をNa
2SO
4上で乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮した。残渣を、石油エーテル中1〜5%のEtOAcで溶離するシリカゲルクロマトグラフィーによって精製して、中間体6(120g、95%)を得た。
【0107】
【化9】
中間体6(53.35g、0.22mol)を、N
2下で、0℃でトルエン(1500mL)中で撹拌した。カリウムtert−ブトキシド(34.14g)を、0〜5℃で加え、2,2−ジフルオロ−酢酸エチルエステル(33.01g、0.27mol)を、0〜5℃で滴下して加えた。反応混合物を室温で2時間撹拌し、次に、水中10%のH
2SO
4で洗浄し、有機層をMgSO
4上で乾燥させ、ろ過し、蒸発させて、中間体7(70.50g、定量的)を得た。
【0108】
【化10】
中間体7(70.5g、220.8mmol)、1H−1,2,4−トリアゾール−5−アミン塩酸塩(1:1)(53.22g、441.52mmol)およびDMF(1500mL)を、80℃で24時間撹拌した。Et
3N(20g)および二炭酸ジ−tert−ブチル(20g)を加えた。混合物を30分間撹拌し、蒸発させ、次に、EtOAcに溶解させ、水および塩水で洗浄した。有機層をMgSO
4上で乾燥させ、ろ過し、蒸発させた。4つの異性体が観察された。第1の画分が、Et
2Oから結晶化された。結晶をろ過して取り出し、乾燥させて、中間体8(24.60g、30%)を得た。母液は、化合物の第2の画分を生じた。結晶をろ過して取り出し、乾燥させて、中間体8(2.53g、3%)を得た。N.B.「RS」は、中間体が、トランス相対配置の2つの鏡像異性体のラセミ混合物であることを意味する。
【0109】
【化11】
MeOH(350mL)中の中間体8(24.6g、67mmol)の溶液に、HCl−iPrOH(350mL)を加え、反応混合物を室温で2時間撹拌した。反応混合物を蒸発させ、生成物がEtOHから結晶化された。結晶をろ過して取り出し、乾燥させ、20.33gの粗生成物を得て、それに、水、Na
2CO
3およびDCMを加えた。有機層をMgSO
4上で乾燥させ、ろ過し、蒸発させて、12.80gの中間体9を得た。この遊離塩基を、分取SFC(固定相:Chiralpak Diacel AD 30×250mm;、移動相:CO
2、(0.4%のiPrNH
2とともに(MeOH−iPrOH 50/50))による精製によって鏡像異性体9aおよび9bへと分離して、中間体9a(5g、19%、R
t=7.57分)および中間体9b(5.13g、19%、R
t=9.36分)を得た。
【0110】
中間体9aおよび9bを遊離塩基として単離し、あるいは、それらをMeOHに溶解させた後、HCl/i−PrOHを加え、混合物を蒸発させた。塩酸塩(いずれの場合も、.HCl)を、ACNから結晶化させ、ろ過して取り出し、乾燥させた。
【0111】
B−最終化合物の合成
【化12】
2,6−ジメチルピリジン−4−カルボン酸(1.84g、12.2mmol)を、DCM(100mL)中で撹拌し、DIPEA(6.31g、48.8mmol)およびHBTU(4.63g、12.2mmol)を加え、撹拌を室温で0.5時間続けた。中間体9b(3.26g、12.2mmol)を溶液に加え、撹拌を室温で5時間続けた。NaOH 1N溶液を加え、5分間撹拌した。有機層を分離し、MgSO
4上で乾燥させ、ろ過し、蒸発させた。生成物を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離剤:DCM中1%のMeOH、2%、4%)によって精製した。純粋な画分を蒸発させ、生成物をDIPEから結晶化させ、ろ過して取り出し、乾燥させて、化合物1(3.85g、79%)を得た。
【0112】
化合物の別個のバッチを、Et
2OからHCl塩として結晶化させて、化合物1を塩酸塩(.2HCl)(収量:175mgの中間体9b.HClから出発して175mg、70%)として得た。
【0113】
化合物1の立体配置を、振動円二色性(VCD)によって確認した。
【0114】
分析部分
融点
値は、ピーク値または溶融範囲のいずれかであり、この分析方法に通常に伴う実験的不確定性を有して得られる。
【0115】
DSC823e(DSCとして示される)
DSC823e(Mettler−Toledo)を用いて融点を測定した。10℃/分の温度勾配を用いて融点を測定した。最高温度は300℃であった。
【0116】
【表1】
【0117】
旋光度
旋光度は、ナトリウムランプを備えたPerkin−Elmer 341旋光計で測定し、以下のように報告した:[α]°(λ、c g/100ml、溶媒、T℃)。
[α]
λT=(100α)/(l×c):式中、lが経路長(dm)であり、cが、温度T(℃)および波長λ(nm)における試料の濃度(g/100ml)である。使用される光の波長が589nm(ナトリウムD線)である場合、記号Dが代わりに使用されることがある。旋光度の符号(+または−)が、常に記載されるものとする。この式を使用する場合、濃度および溶媒が、回転の後に括弧内に常に示される。旋光度は、度を用いて報告され、濃度の単位は示されない(それはg/100mlであると仮定される)。
【0118】
【表2】
【0119】
SFC−MS方法
SFC測定は、二酸化炭素(CO
2)および調整剤を供給するためのバイナリポンプ、オートサンプラ、カラムオーブン、400バールまで耐用する高圧フローセルを備えたダイオードアレイ検出器によって構成される分析超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)システムを用いて行った。質量分析計(MS)を備える場合、カラムからの流れを、(MS)に送った。化合物の公称モノアイソトピック分子量(MW)の特定を可能にするイオンを得るために、調整パラメータ(例えば走査範囲、滞留時間・・・)を設定することは、当業者の知識の範囲内である。適切なソフトウェアを用いてデータ取得を行った。
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
LC/MS方法
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定は、それぞれの方法について規定される、LCポンプ、ダイオードアレイ(DAD)またはUV検出器およびカラムを用いて行った。必要に応じて、さらなる検出器も含まれた(以下の方法の表を参照)。
【0123】
カラムからの流れを、大気圧イオン源を備える質量分析計(MS)に送った。化合物の公称モノアイソトピック分子量(MW)の特定を可能にするイオンを得るために、調整パラメータ(例えば、走査範囲、滞留時間・・・)を設定することは、当業者の知識の範囲内である。適切なソフトウェアを用いてデータ取得を行った。
【0124】
化合物は、それらの実験保持時間(R
t)およびイオンで表される。データの表に別段記載されていない場合、報告される分子イオンは、[M+H]
+(プロトン化分子)および/または[M−H]
−(脱プロトン化分子)に相当する。化合物が直接イオン化できなかった場合、付加物のタイプが記載される(すなわち、[M+NH
4]
+、[M+HCOO]
−など)。複数の同位体パターンを有する分子(Br、Cl)については、報告される値は、最低同位体質量について得られたものである。全ての結果は、使用される方法に通常に伴う実験的不確定性を有して得られた。
【0125】
以後、「SQD」は、シングル四重極検出器を意味し、「MSD」は、質量選択検出器を意味し、「RT」は、室温を意味し、「BEH」は、架橋エチルシロキサン/シリカハイブリッドを意味し、「DAD」は、ダイオードアレイ検出器を意味し、「HSS」は、高強度シリカを意味する。
【0126】
【表5】
【0127】
【表6】
【0128】
核磁気共鳴(NMR)
400MHzで動作し、標準的なパルスシーケンスを有する、Bruker DPX−400分光計のいずれかにおいて、
1H NMRスペクトルを記録した。化学シフト(δ)を、百万分率で報告する。
化合物番号1:
1H NMR(400 MHz、DMSO−d
6、120℃)δ ppm 0.81(d,J=6.6Hz、3H)1.43(qd,J=12.4、4.4Hz、1H)1.89(br dq,J=13.4、3.1Hz、1H)2.44(s,6H)2.49−2.53(m,1H)3.11(t,J=12.7Hz、1H)3.35(dd,J=12.9、11.1Hz、1H)3.57(td,J=10.8、4.1Hz、1H)4.00−4.27(m,2H)6.98(t,J=54.2Hz、1H)7.00(s,2H)7.53(s,1H)8.68(s,1H)
【0129】
薬理学的実施例
本発明に提供される化合物は、PDE2、特に、PDE2Aの阻害剤である。いくつかの薬理学的アッセイにおける試験化合物1の結果が、以下に示される。
【0130】
インビトロアッセイPDE2A
組み換えrPDE10Aバキュロウイルス構築物を用いて、ヒト組み換えPDE2A(hPDE2A)を、Sf9細胞中で発現させた。感染の48時間後に細胞を採取し、hPDE2Aタンパク質を、Ni−セファロース6FFにおける金属キレートクロマトグラフィーによって精製した。試験される化合物を、100%のDMSOに溶解させ、アッセイにおける最終濃度の100倍の濃度に希釈した。化合物の希釈物(0.4μl)を、384ウェルプレート中で、20μlのインキュベーション緩衝液(50mMのTris(pH7.8)、8.3mMのMgCl
2、1.7mMのEGTA)に加えた。インキュベーション緩衝液中の10μlのhPDE2A酵素を加え、10μMのcGMPおよび0.01μのCi
3H−cGMPの最終濃度まで10μlの基質を加えることによって、反応を開始させた。反応物を室温で45分間インキュベートした。インキュベーションの後、200mMのZnCl
2が補充された17.8mg/mlのPDE SPAシンチレーション近接アッセイ)ビーズからなる20μlの停止液を用いて、反応を停止させた。30分間ビーズを沈降させた後、Perkin Elmer Topcountシンチレーションカウンターにおいて放射能を測定し、結果をcpmとして表した。ブランク値のために、酵素を反応から除外し、インキュベーション緩衝液で置き換えた。化合物の代わりに1%の最終濃度のDMSOを加えることによって、対照値を得た。最小平方和法(minimum sum of squares method)によって、化合物濃度に対するブランク値を差し引いた対照値の%のプロットに最良適合曲線を合わせて、この曲線から、半数阻害濃度(IC
50)値を導き出す。
【0131】
インビトロアッセイPDE3A
ヒト組み換えPDE3A(hPDE3A)は、Scottish Biomedicalによって部分的に精製された昆虫細胞溶解物として供給され、それを、ヒト脳からクローン化し、Sf9細胞中で発現させた。試験される化合物を、100%のDMSOに溶解させ、アッセイにおける最終濃度の100倍の濃度に希釈した。化合物の希釈物(0.4μl)を、384ウェルプレート中で、20μlのインキュベーション緩衝液(50mMのTris(pH7.8)、8.3mMのMgCl
2、1.7mMのEGTA)に加えた。インキュベーション緩衝液中の10μlのhPDE3A酵素を加え、0.4μMのcAMPおよび2.4μCi/mlの[
3H]−cAMPの最終濃度まで10μlの基質を加えることによって、反応を開始させた。反応物を室温で60分間インキュベートした。インキュベーションの後、200mMのZnCl
2が補充された17.8mg/mlのPDE SPA(シンチレーション近接アッセイ)ビーズからなる20μlの停止液を用いて、反応を停止させた。30分間ビーズを沈降させた後、Perkin Elmer Topcountシンチレーションカウンターにおいて放射能を測定し、結果をcpmとして表した。ブランク値のために、酵素を反応から除外し、インキュベーション緩衝液で置き換えた。化合物の代わりに1%の最終濃度のDMSOを加えることによって、対照値を得た。最小平方和法(minimum sum of squares method)によって、化合物濃度に対するブランク値を差し引いた対照値の%のプロットに最良適合曲線を合わせて、この曲線から、半数阻害濃度(IC
50)値を導き出す。
【0132】
インビトロアッセイPDE10A
組み換えrPDE10Aバキュロウイルス構築物を用いて、ラット組み換えPDE10A(rPDE10A2)を、Sf9細胞中で発現させた。感染の48時間後に細胞を採取し、rPDE10Aタンパク質を、Ni−セファロース6FFにおける金属キレートクロマトグラフィーによって精製した。試験される化合物を、100%のDMSOに溶解させ、アッセイにおける最終濃度の100倍の濃度に希釈した。化合物の希釈物(0.4μl)を、384ウェルプレート中で、20μlのインキュベーション緩衝液(50mMのTris(pH7.8)、8.3mMのMgCl
2、1.7mMのEGTA)に加えた。インキュベーション緩衝液中の10μlのrPDE10A酵素を加え、60nMのcAMPおよび0.008μのCi
3H−cAMPの最終濃度まで10μlの基質を加えることによって、反応を開始させた。反応物を室温で60分間インキュベートした。インキュベーションの後、17.8mg/mlのPDE SPA(シンチレーション近接アッセイ)ビーズからなる20μlの停止液を用いて、反応を停止させた。30分間ビーズを沈降させた後、Perkin Elmer Topcountシンチレーションカウンターにおいて放射能を測定し、結果をcpmとして表した。ブランク値のために、酵素を反応から除外し、インキュベーション緩衝液で置き換えた。化合物の代わりに1%の最終濃度のDMSOを加えることによって、対照値を得た。最小平方和法によって、化合物濃度に対するブランク値を差し引いた対照値の%のプロットに最良適合曲線を合わせて、この曲線から、半数阻害濃度(IC
50)値を導き出す。
【0133】
【表7】
【0134】
【表8】
【0135】
GLUR1リン酸化のウエスタンブロット検出
PDE2は、主に、海馬、大脳皮質および線条体において発現され、cAMPおよびcGMPを加水分解することができる。AMPA−R輸送は、PKA(cAMPによる)またはcGKII(cGMPによる)の活性化によって調節され得る。AMPA−RのGlu1サブユニットのリン酸化は、LTD(減少)およびLTP(増加)発現および記憶の保持に重要であることが示されている。
【0136】
方法
化合物1(10%のCD+1HClに溶解された)を、スプラーグドーリーラットにp.o.(経口)投与し(180〜200g;10および40mg/kg)、2時間後、動物を断頭によって殺処分した。海馬を切開し、組織を瞬間凍結させ、−80℃で貯蔵した。
【0137】
解凍後、5mMのEDTAおよびプロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤混合物が補充された組織抽出試薬(Tissue Extraction Reagent)中で、組織溶解を行った。タンパク質試料を、LDS試料緩衝液および還元剤(Life Technologies,Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)によって変性させ、最後に、50μgのタンパク質を充填し、90〜160Vで10%のBis−Trisポリアクリルアミドゲル(Bio−Rad,Hercules,CA,USA)を用いて電気泳動させた。次に、ゲル上のタンパク質を、Trans−blot Turbo transfer system(Bio−Rad)を用いて、Trans blot turbo 0.2μmのニトロセルロース膜(Bio−Rad)にエレクトロブロットした。膜を、5%の脱脂粉乳(Santa Cruz Biotechnology,Dallas,TX,USA)を含有するTween−20 Tris緩衝生理食塩水(TBS−T:10mMのTris−HCl pH8.0、150mMのNaCl、0.05%のTween−20)中で、室温で1時間ブロックし、穏やかに振とうしながら、4℃で一晩、一次抗体とともにインキュベートした(総Glu1 Abcam 31232、Ser845 pGlu1 Abcam 76321、両方の希釈率1/1000)。ブロットを、TBS−T緩衝液で5回洗浄し、室温で1時間、二次抗体とともにインキュベートした(二次ロバ抗ウサギHRP結合、希釈率1/1000)。TBST緩衝液での洗浄後、SuperSignal West Femto Maximum Sensitivity Substrate(Thermo scientific,Cramlington,United Kingdom)による免疫染色を繰り返した。シグナルを捕らえ、化学発光(G−box Syngene,Syngene,Cambridge,United Kingdom)によって定量した。
【0138】
この試験の結果は、
図1に示される。
【0139】
化合物1によるPDE2占有
方法
放射性リガンド(Buijnsters et al.,(2014).Structure−Based Design of a Potent,Selective,and Brain Penetrating PDE2 Inhibitor with Demonstrated Target Engagement.ACS Med Chem Lett.5(9):1049−53における化合物12)として[
3H]B−17a(国際公開第2013/000924号パンフレットに記載される)を用いて、エクスビボオートラジオグラフィーによって、PDE2Aの占有を評価した。雄Wistarラット(200〜250g)を、ビヒクルまたは漸増用量の[
3H]B−17aの経口投与によって処理し、1時間後に殺処分した。脳を頭蓋骨から直ぐに取り出し、ドライアイスで冷却した2−メチルブタン(−40℃)中で急速に凍結させた。厚さ20μmの線条体切片を、Leica CM 3050 cryostat−microtome(van Hopplynus,Belgium)を用いて切り出し、顕微鏡スライド(SuperFrost Plus Slides,LaboNord,France)に解凍−マウント(thaw−mounted)し、使用するまで−20℃で貯蔵した。
【0140】
解凍後、切片を、冷気流下で乾燥させ、0.3%のBSAを含有するTris−HCl(50mM、pH7.4)中の30nMの[
3H]B−17aとともに1分間インキュベートした。薬剤処理されたおよびビヒクル処理された動物からの脳切片を、並行してインキュベートした。非特異的な結合が、PDE2A酵素を含有しない脳領域である小脳切片において測定された。インキュベーションの後、過剰な[
3H]B−17aを、氷冷緩衝液で、10分間で2回洗い落とした後、蒸留水中に迅速に浸漬させた。次に、切片を、冷気流下で乾燥させた。
【0141】
脳切片を、4時間にわたってβ−imager(Biospace,Paris)に充填し、明確な脳領域から出る放射能を、Beta vision program(Biospace,Paris)を用いて定量した。非特異的な結合が、線条体における全体的な結合と、小脳における非特異的な結合の差として測定された。動物に投与された薬剤の受容体占有パーセンテージは、100%から、処理された動物において標識された受容体パーセンテージを差し引いた値に相当していた。ED
50値の決定については、受容体占有のパーセンテージを、用量に対してプロットし、最良の当てはめのシグモイドlog用量効果曲線を、GraphPad Prism programを用いて、非線形回帰分析によって計算した。95%の信頼限界を有するED
50(50%の受容体占有をもたらす薬剤用量)を、用量反応曲線から計算した。
【0142】
この試験の結果は、
図2に示される。
【0143】
シナプス伝達に対する化合物1の効果
重要な試薬
スクロース解剖緩衝液は、(mM単位で)スクロース(150)、NaCl(40)、KCl(4)、NaH
2PO
4.H
2O(0.3)、MgCl.6H
2O(7)、NaHCO
3(26)、CaCl
2.2H
2O(0.5)、D−グルコース(10)を含有しており、これを95%のO
2および5%のCO
2ガス混合物で平衡化した。平衡化および記録の際に使用される人工脳脊髄液(ACSF)は、(mM単位で):NaCl(124)、KCl(2.7)、NaH
2PO
4.H
2O(1.25)、MgSO
4.7H
2O(1.3)、NaHCO
3(26)、CaCl
2.2H
2O(2)、D−グルコース(10)、アスコルビン酸(2)を含有しており、これを95%のO
2および5%のCO
2ガス混合物で平衡化した。CNQXおよびキヌレン酸を、それぞれ50μMおよび1mMの濃度で、ACSF中で調製した。化合物1を、ACSF中でおよび0.1%を超えない最終DMSO濃度を有するストック溶液(DMSOを含む)から新たに調製した。全ての試薬は、特に示されない限り、Sigma−Aldrich製であった。
【0144】
動物(種、体重、および性別)
使用した動物は、Charles River Germanyによって提供される、145〜200gの体重範囲の雄スプラーグドーリーラットであった。
【0145】
海馬スライスの準備
標準的なプロトコルにしたがってイソフルランで麻酔した雄スプラーグドーリーラットの中間から腹側海馬から、水平な脳スライス(300μm)を得た。0.1mm/秒の速度で、低温(4℃)スクロース解剖緩衝液中で振動組織スライサ(Leica VT1200S)を用いて、スライスを切断した。切断後、スライスを、35℃で20分間平衡化させ、次に、人工脳脊髄液(ACSF)中で、室温で少なくとも1時間回復させた。3〜4つのスライスを1つの脳から準備した。
【0146】
試験システム
全てのデータは、60チャネルA/Dカードに連結された4チャネル刺激発生器および60チャネル増幅器ヘッドステージから構成された、MultiChannel Systems MCS GmbH(Reutlingen,Germany)から市販されているMEA設備を用いて記録した。刺激、記録および分析のためのソフトウェアは、それぞれMulti Channel Systems:MC Stim(II 2.0.0リリース)およびMC Rack(3.8.1.0リリース)から市販されているものである。実験の全ては、100μm間隔を空けた60の先端形状および60μm高さの電極からなる3次元MEA(Ayanda Biosystems,S.A.,CH−1015 Lausanne,Switzerland)を用いて行った。MEA電極は、600kΩ<インピーダンス<900kΩを有する白金で作製されている。
【0147】
実験計画
シナプス伝達に対する化合物1の効果を、海馬スライスにおける細胞外電場電位を記録することによって調べた。シナプス伝達が、記録電極を囲むニューロンの集団における同期されたシナプス活性を反映する細胞外電場電位の偏向(deflection)を生じ得ることは十分に確立されている。
【0148】
細胞外電場電位の記録。回復後、脳スライスを、顕微鏡下でMEAチップに装着し、60の記録電極を、海馬の苔状線維シナプス(歯状回−CA3)領域に配置した。ACSF溶液を、2mL/分の速度で、連続的にかん流させた。MEAチャンバの温度を、MEA増幅器ヘッドステージに配置されたペルチェ素子を用いて32±0.1℃に維持した。全てのデータは、MultiChannel Systems MCS GmbH(Reutlingen,Germany)から市販されているMEA設備を用いて記録した。チップの2つの隣接する電極を、歯状回の門部における苔状線維を刺激するように選択し、海馬のCA3領域の末端領域部位におけるfEPSPを記録した。電場細胞外シナプス後電位(fEPSP)を、30m秒の間隔を空けて、60秒毎に繰り返される2つの連続する電気パルス(パルス幅100μ秒、および電流刺激強度(μA)40%の相対最大振幅)を有する苔状線維入力の刺激によって誘起した。ビヒクル(DMSO)で処理されるように無作為に割り当てられたスライスからの対照実験を同時に行った。Nはスライスの数を表し、1匹の動物につき通常3〜4つのスライスを使用した。シナプス後ニューロンレベル(fEPSP)で誘起された反応は、それらが、正確な位置、安定したベースライン(連続10分間で+/−10%以内の変動、100μV超の振幅を含む一定の品質基準を満たす場合に記録される。選択された電極からのfEPSPを、5kHzで取り、オフライン分析のためにPCのハードディスクに記録した。並行して、選択された電極のfEPSP振幅を、(MC Rackプログラムを用いて)オンラインでコンパイルして、実験の品質を監視し、追跡した。データは、オフライン分析のためにスプレッドシートファイルにおいてプロットされる。
【0149】
弱い長期増強(LTP)を、単一の高周波刺激(HFS)によって誘起して、fEPSPの最大以下の増強をもたらした。
【0150】
この試験の結果は、基底シナプス伝達に対する化合物1の効果については
図3および4に示され、弱い長期増強プロトコルによるLTPの誘導の促進に対する化合物1の効果については
図5に示される。興味深いことに、同様の結果が、4−(1−アゼチジニル)−7−メチル−5−[1−メチル−5−[5−(トリフルオロメチル)−2−ピリジニル]−1H−ピラゾール−4−イル]−イミダゾ[5,1−f][1,2,4]トリアジン[CAS 1394033−54−5](国際公開第2012114222号パンフレット、Pfizer)などの他のPDE2阻害剤で得られた(
図6を参照)。
【0151】
単回投与PK/PD PDE2iイヌ試験
これらの試験では、雄および雌マーシャルビーグル犬(1〜6歳)を使用した:1つの処理群につき2匹の雄および2匹の雌。脳脊髄液(CSF)を、装置を装着された意識のある動物においてニードルガイドカニューレを介して側脳室から採取した。
【0152】
ベースラインCSFおよび血液試料を、投与の2〜5日前に採取した。イヌに一晩絶食させ、翌朝、空腹時に(強制経口)投与した。投与後の所定の時点で、血液および/またはCSFを、化合物レベルおよびcGMPの測定のために採取した。cGMPの分析を、LC−MS/MSによって行った:25μlのCSFを、125μlの人工CSF(STIL(20ng/ml))で希釈し、遠心分離し、25μlを注入した。使用したシステムは以下のとおりであった:Shimadzu SIL−30 UPLC−システム(Hypercarb(50mm×1mm(3μm))カラム、塩基性(10mMの炭酸アンモニウム)水溶液−アセトニトリル勾配(5.5分で5%〜98%)250μl/分の流量で)およびESI源を備えたAPI Sciex 5500システム(選択的MRMトランジション(m/z 346.1−>152.1(75m秒の滞留時間))。この試験の結果は、
図7にまとめられている。化合物1の単回投与の後、以下の観察がなされた:0.5mg/kgで、3/8の動物で軽度から中程度の振戦;1mg/kgで、7匹中6匹の動物で鎮静および/または振戦(1匹の動物は、化合物の限られたストックのため投与されなかった)。血漿薬物動態は、用量線形性を示さなかった。CSFにおいてcGMPの用量依存性の増加があった。分析誤差のため、PDE2 H−2のビヒクル群(1、4および8時間でn=2)における限られた個体データ。
【0153】
PDE2阻害が、麻酔ラットにおけるシナプス可塑性を促進した:化合物1を用いたケースパイロット試験
導入
シナプス可塑性は、多くの神経生物学的機能のための基本的機構である。海馬ならびに大脳皮質におけるシナプス強度の長く続く高度に局在した増加の形態である長期増強(LTP)は、記憶および学習のためのシナプス基質である(Cooke and Bliss,Curr Opin Investig Drugs.2005;6(1):25−34)。シナプス強度の増加および減少は、シナプス前およびシナプス後ニューロンの活性、脳内のネットワークが、記憶中の複数の項目の知覚表示(sensory representation)の設定、および適切な運動反応の生成の際にどのように機能するかに左右される。無傷の脳における、これらのシナプス調節の様々な特徴は、様々なタイプのネットワークの動作およびいくつかの異なる脳の回路系の動作に極めて重要である。したがって、LTPは、アルツハイマー病などの加齢性の精神疾患および神経変性疾患において損なわれていることが予想される(Bergado and Almaguer,Neural Plast.2002;9(4):217−32;Rowan et al.,Biochem Soc Trans.2005;33:563−7)。動物において、無傷の高度に相互接続された脳領域において麻酔下で行われる手術(procedure)は、単一パルスまたはペアドパルスで供給される低周波および高周波を有するテタヌス電気刺激後の海馬−大脳皮質回路における有効な接続性および可塑性の持続的変化を調べるための強力な手段である(Albensi et al.,Exp Neurol.2007;204:1−13)。研究は、シナプス強度の低下の発生の根底にある神経回路の理解を深め、すなわち、直接回線経路およびシナプスの弱化を媒介する特定の領域間のネットワーク接続が有する特定の生物学的標的の役割を決定するのに役立つ。手術は、病理学的形態の神経可塑性を回復させ、例えば、シナプス効力を増大することによって、LTPおよびネットワーク接続性の欠陥を改善する(これは、関連する認知および学習能力に対する有益な効果を有することが予想される)ことを目的とした薬剤の試験を可能にする(Cooke and Bliss,2005;Albensi et al.,2007)。
【0154】
ホスホジエステラーゼ(PDE)は、二次メッセンジャー3’,5’−環状アデノシン一リン酸(cAMP)および3’,5’−環状グアノシン一リン酸の代謝的不活性化に関与する酵素の種類である(cGMP)(Francis et al.Physiol Rev.2011,9:651−90)。PDEの最大で11のファミリーが、それらの構造特性、酵素的特性および分布に基づいて分類された(Omori and Kotera Circ Res.2007;100:309−27)。環状ヌクレオチドシグナル伝達の増大におけるPDEの役割により、これらの酵素は、興奮性を調節し、ニューロン間コミュニケーションの効果を高めるための魅力的な標的になっている。脳において、PDE2は、主に、大脳皮質、海馬および線条体において発現され、そこで、cAMPの加水分解を制御する。ここ数年にわたって、研究グループは、可塑性および認識過程に作用するように細胞内二次メッセンジャー、cGMPおよびcAMPを調節する方法として、PDE2阻害剤の開発に焦点を当てている(Duinen et al.,Curr Pharm Des.2015;21:3813−28;Gomez and Breitenbucher,Bioorg Med Chem Lett.2013;23:6522−7;Xu et al.,Neurobiol Aging.2015;36:955−70;Barco et al.,Expert Opin Ther Targets 2003;7:101−114)。
【0155】
本研究において、化合物1を用いたPDE2阻害が、麻酔成体スプラーグドーリーの歯状回において、興奮性、またはシナプス増強を発現する能力の変化をもたらすかどうかを調べた。
【0156】
材料および方法
動物
本実験は、国際実験動物ケア評価認証協会(Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care International)(AAALAC)の指針、および1986年11月24日の欧州委員会理事会指令(European Communities Council Directive)(86/609/EEC)に厳密にしたがって行われ、地方倫理委員会によって承認されたものである。手術の時点で170〜200gの重量の)スプラーグドーリーラットを、制御された環境条件下に維持された動物施設から到着した後、12時間の明/暗サイクル(07:00AMに点灯)で配置された換気したケージ内で集団で飼育した。
【0157】
手術および電気生理学
ラットに、ウレタン1.5g/kg体重の腹腔内注射で麻酔をかけた。動物を、電極の挿入のために定位固定フレームに設置し、それらの体温を、直腸プローブによって常に監視し、加熱パッドで37℃に維持した。全身麻酔を確実にするために必要に応じてウレタン(0.2〜0.5g/kg)の追加投与を行った。刺激および記録電極のために左海馬構造の位置で頭蓋骨に2つの小さい孔(直径1mm)を空けた。双極刺激電極;水平に0.125μm離れた先端を有する撚り対線のステンレス鋼ポリイミド被覆ワイヤ(MS303/13−B.PlasticsOne)を、内側貫通路(mPP)に位置決めし(AP−7.5、ML−3.8、DV−2.5)、ステンレス被覆記録電極(MS303T−2−AIU、0.008〜0.005)を、背側海馬の歯状回(DG)部位に位置決めした(AP−2.8、ML−3.8、DV−3.8)。両方の孔を通して硬膜に穿孔し、刺激および記録電極を、大脳皮質および海馬の上側層を通して、背側海馬のmPPおよびDGへと非常にゆっくりと下げた(0.2mm/分)。手術中、動物の苦しみを最小限に抑えるようにあらゆる努力をした。
【0158】
興奮性シナプス後場電位(fEPSP)傾きが、興奮性シナプス伝達の尺度として使用される。定電流ユニット(MC,Germany)によって生成される単一の単相矩形0.1または0.2m秒波パルスが、例えばmPPに印加され、誘起された反応が、DGにおいて生成される。細胞外電場電位が増幅され;1Hz〜2kHzでバンドパスフィルタ処理され、デジタル化され、特注のソフトウェアを用いて分析される。最大反応を有する陰性波fEPSPが観察されるまで電極を下げた。最小30分間が、測定前に安定した興奮性を確実にするために許容される。次に、50〜500μAの範囲の刺激強度を有する単相定電流パルスを供給して、入力/出力(I/O)曲線を作成し、最大PSAおよびfEPSP傾きを決定し、次に、最大反応の50%を生成した刺激強度(すなわち、試験パルス)を後の実験に使用した。
【0159】
LTP誘導:次に、試験刺激を、テタヌス刺激の前および後に5分毎に加えた。反応を、高周波刺激によって誘起した(20矩形波パルスの10連発刺激、200Hzで0.2m秒の持続時間、5m秒の刺激間隔、2秒の連発刺激間隔)。5つの誘起された反応を、実験の際に測定された各時点、ベースライン記録の半時間、薬剤適用またはテタヌス刺激の直前(LTP誘導の対照)について平均した。シナプス増強の大きさが、振幅DG集合スパイク(PSA)、ならびに安定した30分間の薬理学的期間にわたって平均された傾きに対する、テタヌス刺激後の時間間隔におけるfEPSP傾きの増加のパーセンテージとして表される。
【0160】
選択されたパルス強度における反応を収集し、テタヌス刺激後の最大で130分まで平均した。集合スパイクの振幅は、第1のポジティブピーク(a)から第1のネガティブピーク(b)への振幅、およびこのネガティブピーク(b)から第2のポジティブピーク(c)への振幅の平均として定義された:[(a−b)/(c−b)]/2。fEPSPの傾きの定量のため、波形(ΔV/Δt)のごく初期の成分のみを測定して、集合スパイクによる汚染を回避した。
【0161】
組織学
電気生理学的試験の最後に、20秒間にわたる500μAの電気刺激を供給して、刺激および記録電極の先端に損傷を生じさせ、電極配置の組織学的検証のために脳を採取した。脳切片(20mm)を、光学顕微鏡を用いて調べた。不適切な電極配置を有する動物を、試験から除外した。
【0162】
薬剤
化合物1を、皮下(SC)投与のために10%のシクロデキストリン(CD)+1HCl+NaClに溶解させた。
【0163】
統計
各動物について、30分間にわたる安定したベースライン(テタヌス刺激前)反応を平均し、平均を、100%であるものとして正規化し、テタヌス刺激後反応データを、ベースライン平均に対して表した。テタヌス刺激後のビヒクルおよび化合物1の効果の比較を、順位に基づく一元配置反復測定分散分析(ANOVA)を用いて30分間隔で行った後、ベースライン(100%の値)に対するダネットの事後比較を行った。個別の時点での処理間の差を、両側スチューデントt検定を用いて調べた。全ての統計学的手順は、StatExact Softwareを用いて行った。
【0164】
結果
ベースラインのテタヌス刺激前のビヒクル処理された対照との間で著しい変化は見られなかったため、基底シナプス伝達は、化合物1によって影響されなかった(
図8b)。LTP誘導パラダイム中、化合物1(40mg/kg)の皮下投与は、持続的な(>2時間)シナプス増強を促進した(
図8b)。テタヌス刺激の完了の0〜30分後、PSA傾きは、ビヒクルレベル124±5%と比較して164±13%、p<0.05)であった。テタヌス刺激の90〜120分後の時点で、PSA振幅は依然として高かった(ビヒクルレベル116±17%と比較して179±20%、p<0.05)。同様に、刺激反応曲線の分析により、ビヒクル条件と比較してfEPSP傾きの著しい持続的増加が示された(90〜120分:ビヒクルレベル94±7%と比較して137±24%、p<0.05)(
図8c)。
【0165】
概して、化合物1は、インビボでLTPを促進するが、基底シナプス伝達に影響を与えない。
【0166】
理論上の組成物実施例
これらの実施例全体を通して使用される際の「活性成分」は、化合物1、その薬学的に許容できる塩、またはその溶媒和物に関する。
【0167】
本発明の製剤の処方の典型例は以下のとおりである:
1.錠剤
化合物1:5〜50mg
リン酸二カルシウム:20mg
ラクトース:30mg
滑石:10mg
ステアリン酸マグネシウム:5mg
ジャガイモでんぷん:200mgになるまでの量
【0168】
2.懸濁液
それぞれ1ミリリットルが、1〜5mgの、化合物1の1つ、50mgのナトリウムカルボキシメチルセルロース、1mgの安息香酸ナトリウム、500mgのソルビトールおよび1mlになるまでの水を含有するように、水性懸濁液を、経口投与用に調製する。
【0169】
3.注入物質
1.5重量%の本発明の化合物1を、水中10体積%のプロピレングリコール中で撹拌することによって、非経口組成物を調製する。
【0170】
4.軟膏
化合物1:5〜1000mg
ステアリルアルコール:3g
ラノリン:5g
白色ワセリン:15g
水:100gになるまでの量
【0171】
適度な変動は、本発明の範囲からの逸脱とみなされるべきではない。このように記載される本発明は、当業者によって多くの方法で変更され得ることが明らかであろう。
本発明は次の実施態様を含む。
[請求項1]
式(1)
【化1】
で表される化合物またはその薬学的に許容できる塩もしくは溶媒和物。
[請求項2]
請求項1に記載の式(1)の化合物の塩酸塩。
[請求項3]
治療的に有効な量の請求項1または2に記載の化合物と、薬学的に許容できる担体とを含む医薬組成物。
[請求項4]
薬剤として使用するための、請求項1または2に記載の化合物、または請求項3に記載の医薬組成物。
[請求項5]
精神病性の障害および病態;不安障害;運動障害;薬物乱用;気分障害;神経変性疾患;症状として、注意および/または認識の不足を含む障害または病態;記憶の獲得および固定に関連する障害;脳卒中;および自閉性障害の群から選択される中枢神経系疾患を治療または予防するのに使用するための、請求項1または2に記載の化合物または請求項3に記載の医薬組成物。
[請求項6]
前記精神病性障害が、統合失調症;統合失調症様障害;統合失調性感情障害;妄想性障害;物質誘発性精神病性障害;妄想性人格障害;および統合失調症性人格障害の群から選択され;
前記不安障害が、パニック障害;広場恐怖症;特定恐怖症;対人恐怖症;強迫性障害;心的外傷後ストレス障害;急性ストレス障害;および全般性不安障害の群から選択され;
前記運動障害が、ハンチントン病およびジスキネジア;パーキンソン病;むずむず脚症候群および本態性振戦;トゥーレット症候群および他のチック障害の群から選択され;
前記物質関連障害が、アルコール乱用;アルコール依存症;アルコール離脱症状;アルコール離脱性せん妄;アルコール誘発性精神病性障害;アンフェタミン依存症;アンフェタミン離脱症状;コカイン依存症;コカイン離脱症状;ニコチン依存症;ニコチン離脱症状;オピオイド依存症およびオピオイド離脱症状の群から選択され;
前記気分障害が、鬱病;躁病;双極性I型障害、双極性II型障害;気分循環性障害;気分変調性障害;大鬱病性障害;治療効果のない鬱病;および物質誘発性気分障害から選択され;
前記神経変性疾患が、パーキンソン病;ハンチントン病;認知症;アルツハイマー病;多発梗塞性認知症;AIDS関連認知症または前頭側頭認知症の群から選択され;
症状として、注意および/または認識の不足を含む前記障害または病態が、アルツハイマー病に関連する認知症;多発梗塞性認知症;レビー小体病による認知症;アルコール性認知症または物質誘発性持続性認知症;頭蓋内腫瘍または脳外傷に関連する認知症;ハンチントン病に関連する認知症;パーキンソン病に関連する認知症;AIDS関連認知症;ピック病による認知症;クロイツフェルト・ヤコブ病による認知症;せん妄;健忘障害;心的外傷後ストレス障害;脳卒中;進行性核上まひ;精神遅滞;学習障害;注意欠陥・多動性障害(ADHD);軽度の認識機能障害;アスペルガー症候群;加齢による認識機能障害;および知覚力、集中力、学習力または記憶力に関連する認識機能障害の群から選択され;
記憶の獲得および固定に関連する前記障害が、記憶障害から選択される、請求項5に記載の化合物または医薬組成物。
[請求項7]
薬学的に許容できる担体が、治療的に有効な量の請求項1または2に記載の化合物と均質に混合されることを特徴とする、請求項3に記載の医薬組成物を調製するための方法。
[請求項8]
請求項5〜6のいずれか一項に記載の病態の治療または予防に使用するための、さらなる医薬品と組み合わされた、請求項1または2に記載の化合物。
[請求項9]
請求項5〜6のいずれか一項に記載の病態の治療または予防における同時使用、別々の使用または逐次使用のための組み合わされた製剤としての、
(a)請求項1または2に記載の化合物と;
(b)さらなる医薬品と
を含む生成物。
[請求項10]
精神病性の障害および病態;不安障害;運動障害;薬物乱用;気分障害;神経変性疾患;症状として、注意および/または認識の不足を含む障害または病態;記憶の獲得および固定に関連する障害;脳卒中;および自閉性障害の群から選択される疾患を治療する方法であって;それを必要とする被験体に、治療的に有効な量の請求項1または2に記載の化合物または治療量の請求項3に記載の医薬組成物を投与する工程を含む方法。