特許第6872743号(P6872743)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872743
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】メタンガスの製造方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20210510BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   B09B3/00 DZAB
   B09B3/00 Z
   C02F11/04 A
   B09B3/00 C
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-138203(P2016-138203)
(22)【出願日】2016年7月13日
(65)【公開番号】特開2018-8204(P2018-8204A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年4月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年1月19日、3rd Asian Conference on Biomass Science(ACBS2016)にて発表。平成28年2月1日、2015年度北海道大学大学院農学院 修士論文発表会ウェブサイトにて発表。該当アドレス:http://www.agr.hokudai.ac.jp/gs/master/2015/15034203.pdf 平成28年2月10日、2015年度北海道大学大学院農学院 修士論文発表会にて発表。
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】特許業務法人エム・アイ・ピー
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石渡 寛之
(72)【発明者】
【氏名】清水 直人
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 昴
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−030188(JP,A)
【文献】 特開2000−093192(JP,A)
【文献】 特開2014−042857(JP,A)
【文献】 特開2008−253870(JP,A)
【文献】 特開2001−347247(JP,A)
【文献】 特開平07−051693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B1/00−5/00
C02F11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生ごみを用いてメタンガスを製造するシステムであって、
生ごみを貯留する第1の貯留槽と、
前記生ごみよりも窒素含有度の低い有機性廃棄物を貯留する第2の貯留槽と、
前記生ごみの投入量を制御する第1の制御弁を介して前記第1の貯留槽に接続される第1の粉砕機と、
前記有機性廃棄物の投入量を制御する第2の制御弁を介して前記第2の貯留槽に接続される第2の粉砕機と、
前記第1の粉砕機から導入される第1の粉砕体と前記第2の粉砕機から導入される第2の粉砕体を混合する混合機と、
前記混合機から前記第1の粉砕体と前記第2の粉砕体の混合物が投入されるメタン発酵槽と、
前記メタン発酵槽内のアンモニウムイオン濃度を測定する第1の測定器と、
前記メタン発酵槽内の水素イオン濃度を測定するための第2の測定器と、
前記第1の制御弁と前記第1の制御弁を間欠的に開閉制御する制御装置と、
を含み、
前記制御装置は、
前記第1の測定器が測定したアンモニウムイオン濃度と前記第2の測定器が測定した水素イオン濃度から、前記メタン発酵槽内の遊離アンモニア濃度を算出し、
算出した遊離アンモニア濃度が150mg−N/Lを上限とする範囲に維持されるように、前記第1の制御弁および前記第2の制御弁の少なくとも一方の開放量をフィードバック制御する、
メタンガス製造システム。
【請求項2】
都市ごみを処理するシステムであって、
都市ごみとして回収される生ごみを貯留する第1の貯留槽と、
都市ごみとして回収され、前記生ごみよりも窒素含有度の低い有機性廃棄物を貯留する第2の貯留槽と、
前記生ごみの投入量を制御する第1の制御弁を介して前記第1の貯留槽に接続される第1の粉砕機と、
前記有機性廃棄物の投入量を制御する第2の制御弁を介して前記第2の貯留槽に接続される第2の粉砕機と、
前記第1の粉砕機から導入される第1の粉砕体と前記第2の粉砕機から導入される第2の粉砕体を混合する混合機と、
前記混合機から前記第1の粉砕体と前記第2の粉砕体の混合物が投入されるメタン発酵槽と、
前記メタン発酵槽内のアンモニウムイオン濃度を測定する第1の測定器と、
前記メタン発酵槽内の水素イオン濃度を測定するための第2の測定器と、
前記第1の制御弁と前記第1の制御弁を間欠的に開閉制御する制御装置と、
を含み、
前記制御装置は、
前記第1の測定器が測定したアンモニウムイオン濃度と前記第2の測定器が測定した水素イオン濃度から、前記メタン発酵槽内の遊離アンモニア濃度を算出し、算出した遊離アンモニア濃度が150mg−N/Lを上限とする範囲に維持されるように、前記第1の制御弁および前記第2の制御弁の少なくとも一方の開放量をフィードバック制御する、
システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンガスの製造方法に関し、より詳細には、生ごみを利用してメタンガスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品製造業から排出される食品廃棄物の再生利用率は、堆肥や飼料として再利用する体制が整備されたことによって90%を優に超えるに至っている。一方で、現在、外食産業から排出される食品廃棄物の発生量が年間平均220万トンを超えているのに対し、その再生利用率はわずか20%に留まっている。これは、外食産業から排出される食品廃棄物は、腐敗物やプラスチックなどの異物が混入していることが多く、堆肥や飼料として再利用することが難しいからであり、現状では、外食産業から排出される食品廃棄物の大半が焼却埋立処分されている。
【0003】
一方で、近年、有機性廃棄物(バイオマス)をメタン発酵の基質として利用することによりメタンガスを生成するバイオガス化の技術について種々検討がなされている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−347247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、生ごみを利用してメタンガスを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、生ごみを利用してメタンガスを製造する方法につき鋭意検討した結果、以下の構成に想到し、本発明に至ったのである。
【0007】
すなわち、本発明によれば、生ごみを用いてメタンガスを製造する方法であって、メタン発酵槽に対して、生ごみと有機性廃棄物を連続的に投入する過程において、該メタン発酵槽内の遊離アンモニア濃度を、アンモニウムイオン濃度および水素イオン濃度から算出し、該遊離アンモニア濃度が150mg−N/Lを上限とする範囲に維持されるように、生ごみおよび前記生ごみよりも窒素含有度の低い有機性廃棄物の少なくとも一方の投入量制御弁を制御することを特徴とする、
メタンガスの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
上述したように、本発明によれば、生ごみを利用してメタンガスを製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態のメタンガス製造装置のシステム構成図。
図2】試験期間におけるメタンガス量の積算値と有機物負荷量の積算値の推移を示すグラフ。
図3】試験期間における揮発性脂肪酸濃度と遊離アンモニア濃度の推移を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。
【0011】
本発明は、生ごみを利用してメタンガスを製造する方法およびシステムを提供する。本発明において、生ごみとは、食材残渣を含む廃棄物を意味し、外食産業から排出される食品廃棄物の他、一般家庭や宿泊施設から排出される生ごみや食品製造業から排出される食品廃材を含む概念である。
【0012】
本発明では、生ごみのメタン発酵処理によりメタンガスを製造する。以下では、メタン発酵の概要を説明しながら、本発明の実施形態であるメタンガスの製造方法(以下、本方法という)の特徴について述べる。
【0013】
メタン発酵方式は、発酵原料の固形分濃度によって、「湿式発酵」と「乾式発酵」に分けられ、一般に、加水により原料の全固形分濃度を5%程度にして発酵槽に投入する方法を「湿式メタン発酵」といい、無加水の原料もしくは少量の加水をして全固形分濃度を15%〜40%程度に調整した原料を発酵槽に投入する方法を「乾式メタン発酵」という。このメタン発酵方式に関し、本方法では、後処理コストを低減する観点から、発酵残渣の少ない「乾式メタン発酵」を採用する。以下、全固形分濃度をTS(Total Solid)濃度という場合がある。
【0014】
メタン菌は、古細菌の一種であり、主に水素と揮発性脂肪酸(Volatile Fatty Acid:VFA)を発酵基質とし、VFAはメタン菌によってメタンと二酸化炭素に分解される。ここで、VFAは、炭水化物の分解により生成される中間生成物であり、酢酸、プロピオン酸、ギ酸、酪酸といった炭素鎖が6つ以下の脂肪酸を指す。通常、メタン発酵槽内部のVFA濃度は100mg/L程度であるが、水溶液中において酸性を示すVFAの濃度が3000mg/L程度にまで達すると、メタン菌の失活(酸敗)により発酵阻害のリスクが高まる。ただし、メタン菌の酸敗は、基質の投入を中断することで回避することが可能である。
【0015】
一方、メタン菌は、窒素を菌体形成の必須元素としており、メタン発酵の過程で投入原料中の有機態窒素の分解によって生じるアンモニアを窒素源として増殖する。ここで、アンモニアは、発酵汚泥(液相)中において、アンモニウムイオン(NH)または遊離アンモニア(NH)の状態で存在しており、このうち、遊離アンモニア(NH)は、その強い毒性により、メタン菌の増殖を阻害することが知られている。
【0016】
メタン菌によるガス化で槽外へ出るVFAと違い、アンモニアは槽内に長く留まり続けるため、一旦、槽内のアンモニア濃度が高まってしまうと、これを減少させることはできず、その結果、槽内のメタン菌がアンモニア阻害を受けて失活してしまうと、槽内発酵物を入れ替えてプロセスを再立ち上げしなければならない事態に陥る。
【0017】
つまり、安定的なメタン発酵を実現するためには、発酵槽内におけるVFAとアンモニアのバランスを最適化することが肝要となる。
【0018】
ここで、本方法がメタン発酵の基質として用いるところの生ごみは、タンパク質に代表される有機態窒素を多く含んでおり、メタン発酵において窒素源として機能する。例えば、外食産業より排出される食品廃棄物の含水率を75%(環境省の設定値)とすると、そのTS濃度は25%と見積もられる。したがって、外食産業より排出される食品廃棄物のように、窒素濃度とTS濃度が高い高負荷原料を加水無しで単発酵しようとすると、その高い投入窒素濃度の影響によりアンモニア阻害が生じやすい。
【0019】
本方法では、この点に鑑みて、窒素濃度の高い生ごみに対して、窒素濃度の低い任意の有機性廃棄物を副資材として混合することにより、投入基材の窒素濃度を希釈して、安定的なメタン発酵を実現する。
【0020】
本方法では、上述した有機性廃棄物として、主にオフィスから排出される紙ごみや、剪定枝、刈草といった都市ごみを用いることができる。その中でも、ヘミセルロースやリグニンといった難分解性有機物を含まない紙ごみを用いることが好ましい。本方法では、これらの有機性廃棄物が炭素源として機能し、メタン発酵槽内におけるVFAとアンモニアのバランスの最適化に寄与する。
【0021】
従来、メタン発酵におけるVFAとアンモニアのバランスについては、C/N比が指標として用いられてきた。C/N比とは、基質に含まれる炭素(C)と窒素(N)の質量比を意味し、安定的なメタン発酵を行うためには、投入原料のC/N比を20〜40程度に調整することが好ましいとされている。
【0022】
確かに、メタン発酵をバッチ処理で行う場合のように、発酵槽内の成分組成や環境が大きく変化しない前提では、安定的なメタン発酵を行うための指標としてC/N比は意味を持つ。しかしながら、日々排出される都市ごみが連続的に発酵槽に投入されることを前提とするメタン発酵施設では、発酵槽内の成分組成や環境が時々刻々と変動するため、槽内のVFAとアンモニアの比率を推認させる間接事実に過ぎないC/N比を考慮するだけでは十分ではない。
【0023】
この点につき、本方法では、メタン発酵槽内の遊離アンモニア(NH)がアンモニア阻害の直接的な原因であることに着目し、遊離アンモニア濃度を安定的なメタン発酵を実現するための指標として用いる。具体的には、生ごみと有機性廃棄物をメタン発酵槽に連続的に投入する過程において、発酵槽内の遊離アンモニア濃度をモニタ(監視)し、遊離アンモニア濃度が所定の範囲に維持されるように、生ごみおよび有機性廃棄物の少なくとも一方の投入量を調整する。
【0024】
ここで、既往の研究(Perry L. McCarty and Ross E. McKinney(1961):Salt Toxicity in Anaerobnic Digestion, Journal(Water Pollution Control Federation) Vol.33 No.4,p.399-415)によれば、遊離アンモニア濃度が150mg-N/Lを超えるとメタン菌の増殖に対して阻害が引き起こされることが報告されている。これを受け、本方法では、150mg-N/Lを上限とする適切な許容濃度範囲に遊離アンモニア濃度が維持されるように、生ごみおよび有機性廃棄物の少なくとも一方の投入量を調整することが好ましい。
【0025】
ここで、メタン発酵槽内の遊離アンモニア濃度は、下記式で求められる。
【0026】
【数1】
【0027】
上記式において、[NH3]は発酵槽内の遊離アンモニア濃度を示し、[T-NH3]は発酵槽内のアンモニア濃度を示し、H+は発酵槽内の水素イオン濃度を示す。なお、[T-NH3]は発酵槽内のアンモニウムイオン(NH+)の濃度である。また、Kaは温度の関数であり、発酵温度条件を52℃とした場合、Ka=34.4×10-10である。
【0028】
さらに、本発明者は、メタン生成率(Methane Production Rate:MPR)を最大化する観点から、生ごみと有機性廃棄物を混合してなる投入原料につきTS濃度の最適パラメータを探るべく実験を重ねた結果、投入原料のTS濃度を15%程度に維持したときにメタン生成率が最大化することを発見した。これは、生ごみと紙ごみを、生ごみ:紙ごみ=1:1.3〜1.5という湿重量比で混合した場合に相当する。
【0029】
この点につき、本方法では、生ごみと紙ごみの混合原料を使用する場合、発酵槽に投入される生ごみと紙ごみのそれぞれの湿重量をモニタして、紙ごみの湿重量が生ごみの湿重量の1〜1.5倍の範囲、好ましくは、1.3〜1.5倍の範囲に維持されるように、生ごみおよび紙ごみの少なくとも一方の投入量を調整することが好ましい。
【0030】
以上、本実施形態のメタンガスの製造方法について説明してきたが、続いて、本実施形態のメタンガス製造システムについて説明する。
【0031】
図1は、本実施形態のメタンガス製造システム100のシステム構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態のメタンガス製造システム100は、コンピュータを含んで構成される制御装置10と、メタン発酵槽20と、生ごみを貯留するための生ごみ貯留槽30と、生ごみの投入量を制御するための投入量制御弁32と、生ごみを粉砕するための粉砕機34と、有機性廃棄物を貯留するための有機性廃棄物貯留槽40と、有機性廃棄物の投入量を制御するための投入量制御弁42と、有機性廃棄物を粉砕するための粉砕機44と、粉砕された生ごみと粉砕された有機性廃棄物を混合・攪拌するための混合機50と、メタン発酵槽20内のアンモニア濃度を測定するためのアンモニア濃度測定器60と、メタン発酵槽20内の水素イオン濃度を測定するための水素イオン濃度測定器70とを含んで構成される。
【0032】
本実施形態においては、回収された都市ごみのうち、外食産業より排出される食品廃棄物に代表される生ごみは、生ごみ貯留槽30に貯留され、紙ごみに代表される有機性廃棄物は、有機性廃棄物貯留槽40に貯留される。生ごみ貯留槽30に貯留された生ごみは、投入量制御弁32を介して接続される粉砕機34において粉砕された後に、混合機50に導入される。一方、有機性廃棄物貯留槽40に貯留された有機性廃棄物は、投入量制御弁42を介して接続される粉砕機44において粉砕された後に、混合機50に導入される。
【0033】
ここで、本実施形態では、制御装置10が、投入量制御弁32と投入量制御弁42を定期的に同じタイミングで間欠的に開閉制御するように構成されており、投入量制御弁32の開放に伴って生ごみが粉砕機34に導入され、投入量制御弁42の開放に伴って有機性廃棄物が粉砕機44に導入されるようになっている。なお、1回当たりの各弁の開放量Dは、1回の開放で粉砕機34に導入される生ごみと1回の開放で粉砕機34に導入される有機性廃棄物を混合したと仮定した仮想的な原料のTS濃度が15%程度になるような値が予め計算によって求められ、制御装置10に保持されている。
【0034】
一方、混合機50では、導入された生ごみの粉砕体と有機性廃棄物の粉砕体が攪拌・混合された後に、メタン発酵槽20に投入される。メタン発酵槽20内では、投入された混合物を基質とするメタン発酵によってメタンガスが発生し、発生したメタンガスがガスタンク80に回収される。
【0035】
一方、アンモニア濃度測定器60は、メタン発酵槽20内の発酵汚泥のアンモニウムイオン(NH)の濃度を定期的に検知して制御装置10に送信する。同様に、水素イオン濃度測定器70は、メタン発酵槽20内の発酵汚泥の水素イオン(H)の濃度を定期的に検知して制御装置10に送信する。ここで、アンモニア濃度測定器60と水素イオン濃度測定器70は、投入量制御弁32,42の開放制御のタイミングに同期して濃度を検知するように構成されている。
【0036】
制御装置10は、アンモニア濃度測定器60から取得したアンモニウムイオン濃度と水素イオン濃度測定器70から取得した水素イオン濃度に基づいて、メタン発酵槽20内の発酵汚泥に含有されている遊離アンモニア濃度を算出し、その算出結果を所定の許容濃度範囲を規定する2つの濃度閾値(上限閾値T1,下限閾値T2)と比較する。ここで、本実施形態においては、150mg-N/Lを上限閾値T1とし、上限閾値T1から適切なマージンを減じた値を下限閾値T2とすることが好ましい。
【0037】
算出した遊離アンモニア濃度と2つの濃度閾値(上限閾値T1,下限閾値T2)を比較した結果、遊離アンモニア濃度が上限閾値T1を超えている場合には、制御装置10は、投入量制御弁32を開放量Dで開放し、投入量制御弁42を開放量D+αで開放する。一方、遊離アンモニア濃度が下限閾値T2を下回っている場合には、制御装置10は、投入量制御弁32を開放量D+αで開放し、投入量制御弁42を開放量Dで開放する。
【0038】
なお、別法では、投入量制御弁32を常に開放量Dで開放するようにした上で、遊離アンモニア濃度が上限閾値T1を超えている場合には、投入量制御弁42を開放量D+αで開放し、遊離アンモニア濃度が下限閾値T2を下回っている場合には、投入量制御弁42を開放量D−αで開放するようにしても良い。要するに、制御装置10は、メタン発酵槽20内の遊離アンモニア濃度が所定の許容濃度範囲に維持されるように、投入量制御弁32および投入量制御弁42の少なくとも一方の開放量をフィードバック制御することによって、生ごみおよび有機性廃棄物の少なくとも一方の投入量を調整する。
【0039】
以上、説明したように、本実施形態のメタンガスの製造方法によれば、外食産業から排出される食品廃棄物に代表される生ごみと、オフィスから排出される紙ごみに代表される有機性廃棄物の混合物を使用した高濃度メタン発酵を0.3L/gVS以上の高いメタン生産率で行うことが可能となる。また、乾式メタン発酵方式を採用する本実施形態のメタンガス製造システムは、その小型化が容易であるため、処理プラントを都市ごみの発生元にほど近い都市部に設立することができる。これにより、都市ごみのバイオガス化が促進され、循環型社会の実現が推進される。
【0040】
以上、本発明をメタンガスの製造方法およびメタンガス製造システムの本実施形態に基づいて説明してきたが、本発明の上述した構成は、都市ごみの処理方法として観念することでき、また、都市ごみの処理システムとして観念することができる。
【0041】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0042】
以下、本発明のメタンガスの製造方法について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0043】
本実施例では、遊離アンモニア濃度とメタン生成率の関係を調べるべく、以下の手順で連続メタン発酵試験を行った。
【0044】
<種汚泥と投入基質>
本実験では、種汚泥として、別海町酪農研修牧場所有高温発酵バイオガスプラントから採取した消化液を生ごみと紙ごみで馴養したものを用意した。また、都市ごみを想定した発酵基質として、8種類の品目を下記表1に示す組成で混合・粉砕してなる疑似生ごみ(以下、生ごみという)と、未使用のコピー用紙(理想科学工業、理想環境用紙NW)をシュレッダーで4mm×40mmの大きさに裁断してなる疑似紙ごみ(以下、紙ごみという)を用意した。
【0045】
【表1】
【0046】
<実験操作>
(立ち上げ時)
発酵槽として用意した容量2Lのセパラブルフラスコ内に種汚泥1kgを投入した後、窒素でフラスコ内を置換した。その後、セパラブルフラスコを2日間52℃の恒温槽内に静置して、馴養時に投入した基質が消費されるのを待った。
【0047】
2日後、窒素置換を行いながらセパラブルフラスコの上部を外して初回のサンプリングとpH測定を行った後、用意した生ごみと紙ごみを混合してなる発酵基質(以下、基質という)をフラスコ内に投入した。その後、窒素でフラスコ内を置換してからゴム栓をし、メタン菌と基質を混合するために攪拌を行った。その後、セパラブルフラスコにガスバックを取り付けて、52℃の恒温槽内に静置した。
【0048】
(基質投入時)
その後、定期的に新しい基質をセパラブルフラスコに投入した。基質の投入にあたっては、窒素置換を行いながらセパラブルフラスコの上部を外し、よく攪拌した後に投入する基質と同量の汚泥をサンプリングすることにより一定量を保つようにした。また、基質投入時には、サンプリングした汚泥と、ガスバックに収集されたガスに関して、下記(1)〜(7)の測定を行った。
【0049】
(1)汚泥のpH
サンプリングした汚泥のpHをガラス電極式pHメータ(HM-20P,東亜DKK製)で測定した。
(2)ガス発生量
ガスバックに収集されたガスの量を湿式ガスメータ(WSDa-1A型,シナガワ製)で測定した。
(3)ガス組成
ガスバックに収集されたガスのメタン濃度および二酸化炭素濃度をガスクロマトグラフィー(GC-4000,GL-Science製)で測定した。
(4)揮発性脂肪酸濃度(VFA濃度:mg/L)
サンプリングした汚泥(約2.5g)を蒸留水で希釈し、濃リン酸1mLを加えて水蒸気蒸留後、フェノールフタレインを指示薬として水酸化ナトリウム溶液で滴定してVFA濃度を測定した。
(5)アンモニア濃度(mg-N/L)
サンプリングした汚泥(約2.5g)を蒸留水で希釈し、酸化マグネシウム0.5gを加えて水蒸気蒸留を行い、発生した蒸気を4%ホウ酸溶液25mLにより捕集し、0.1N硫酸で滴定してアンモニア濃度を測定した。
(6)固形分濃度(TS濃度:%w.b.)
サンプリングした汚泥の固形分濃度を、105℃、24時間炉乾法により測定した。
(7)有機物濃度(VS濃度:%w.b.)
サンプリングした汚泥を絶乾した試料をマッフル炉にて600℃で3時間加熱し、減量分を有機物量として測定した。
【0050】
<実験条件>
本実験では、連続メタン発酵の試験期間を87日間とした上で、試験期間をI期(初日〜20日)、II期(21日〜46日)、III期(47日〜87日)に分け、それぞれの期間で実験条件を変更した。各期間の実験条件を下記表2にまとめて示す。
【0051】
【表2】
【0052】
I期では、投入する基質の生ごみと紙ごみの湿重量比を2:1とした上で、発酵初期のプロセスの安定化を図るために、投入する基質に乾燥牛ふん(北海道大学研修農場より採取した牛ふんを乾燥させたもの)を加え、TS濃度を33%に調整した。
【0053】
続くII期では、投入する基質の生ごみと紙ごみの湿重量比を1:1.5とし、さらに加水を行うことにより、投入原料窒素濃度を825mg-N/L、TS濃度を15%に調整した。なお、I期〜II期では、ガスの発生状況に合わせて、有機物負荷量を1.2〜4 gVS/kg-sludge/dayの範囲で適時最適化し、1日1回手動で攪拌を行った。
【0054】
III期では、投入する基質の生ごみと紙ごみの湿重量比を1:1.3とし、投入原料窒素濃度を994mg-N/L、TS濃度を15%に調整した。なお、III期では、より実用に近づけるために、有機物負荷量を2 gVS/kg-sludge/dayに固定し、スリーワンモーター攪拌機(BLh300:新東科学株式会社製)を用いて、150rpmで正転30秒、反転30秒の合計1分の攪拌を1日1回行った。
【0055】
<実験結果>
サンプリング時に測定したアンモニア濃度(mg-N/L)とpHから、各サンプリング時における遊離アンモニア濃度(mg-N/L)を算出した。また、各期間で測定したガス発生量とガス組成から、各期間におけるメタン発生量を算出した。各期間で測定した揮発性脂肪酸濃度と各期間におけるメタン発生量から、各期間における投入有機物負荷量あたりのメタン発生量を示すメタン生産率(L/gVS)を算出した。
【0056】
図2は、試験期間(87日間)におけるメタンガス量の積算値と有機物負荷量の積算値の推移を示すグラフである。また、各期間のメタン生産率(L/gVS)を下記表3にまとめて示す。
【0057】
【表3】
【0058】
図2および上記表3に示す結果から、III期において、効率の良いメタン発酵が実現されていることがわかった。III期におけるメタン生産率は、0.37 L/gVSであり、既往の研究報告(V.H.Varel,1980)の最高値である0.3 L/gVSを上回る結果となった。
【0059】
図3は、試験期間(87日間)における揮発性脂肪酸濃度(VFA濃度)と遊離アンモニア濃度(FA濃度)の推移を示すグラフである。図3に示すように、0.37 L/gVS という高いメタン生産率を示したIII期においては、遊離アンモニア濃度が150mg-N/L以下に制御されていることが明らかになった。
【符号の説明】
【0060】
10…制御装置、20…メタン発酵槽、30…生ごみ貯留槽、32…投入量制御弁、34…粉砕機、40…有機性廃棄物貯留槽、42…投入量制御弁、44…粉砕機、50…混合機、60…アンモニア濃度測定器、70…水素イオン濃度測定器、80…ガスタンク、100…メタンガス製造システム
図1
図2
図3