(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872780
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】放射性セシウムの動態モニタリング装置及びその方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/18 20060101AFI20210510BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20210510BHJP
G01N 1/04 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
G01N33/18 Z
G01N1/10 C
G01N1/04 R
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-41980(P2017-41980)
(22)【出願日】2017年3月6日
(65)【公開番号】特開2017-173316(P2017-173316A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年12月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-53751(P2016-53751)
(32)【優先日】2016年3月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】保高 徹生
(72)【発明者】
【氏名】栗原 モモ
(72)【発明者】
【氏名】奥田 敏統
【審査官】
小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−081429(JP,A)
【文献】
特開2013−246049(JP,A)
【文献】
特開2003−121317(JP,A)
【文献】
特開2002−365176(JP,A)
【文献】
特開2001−305126(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0133481(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/18
G01N 1/04
G01N 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リター又は土壌を浸出して来る浸出水について、除去フィルター層を通過させてこれに含まれている懸濁物質を除去した後に、セシウムを吸着する吸着物質を保持した吸着フィルター層を通過させ、数ヶ月〜1年の所定時間後に該吸着フィルター層を検査する溶存態放射性セシウムの動態モニタリング装置であって、
前記リター又は土壌の位置を保持しその下部に空間を与えるとともに前記浸出水を通過させる透水板と、
前記空間の底部から前記浸出水を排出する排出口と、を含み、
前記除去フィルター層で除去された前記懸濁物質による影響を前記吸着フィルター層に与えないように前記除去フィルター層及び前記吸着フィルター層を上下に離間させ空間を設けて前記透水板及び前記排出口の間に挿入されていることを特徴とする放射性セシウムの動態モニタリング装置。
【請求項2】
前記吸着物質はプルシアンブルー型錯体化合物であることを特徴とする請求項1記載の動態モニタリング装置。
【請求項3】
前記吸着フィルター層は前記吸着物質を担持させた不織布であることを特徴とする請求項1又は2に記載の動態モニタリング装置。
【請求項4】
前記排出口を端部に有し他端部に開口を有する管体の内部に前記透水板、前記除去フィルター層及び吸着フィルター層を互いに平行に配置してなることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の動態モニタリング装置。
【請求項5】
リター又は土壌を浸出して来る浸出水について、除去フィルター層を通過させてこれに含まれている懸濁物質を除去した後に、セシウムを吸着する吸着物質を保持した吸着フィルター層を通過させ、数ヶ月〜1年の所定時間後に該吸着フィルター層を検査する溶存態放射性セシウムの動態モニタリング方法であって、
前記リター又は土壌の位置を保持しその下部に空間を与えるとともに前記浸出水を通過させる透水板と、
前記空間の底部から前記浸出水を排出する排出口と、を含み、
前記除去フィルター層で除去された前記懸濁物質による影響を前記吸着フィルター層に与えないように前記除去フィルター層及び前記吸着フィルター層は上下に離間させ空間を設けて前記透水板及び前記排出口の間に挿入され、前記浸出水が前記除去フィルター層、前記吸着フィルター層及び前記排出口の上部空間の内部に保持されながら通過することを特徴とする放射性セシウムの動態モニタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウムの動態モニタリングのための装置に関し、特に、リター/土壌からの浸出水に含まれる溶存態放射性セシウムの動態モニタリング装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種環境シミュレーションや汚染物質の長期的環境動態評価を行うためのデータの計測を行う装置としてライシメータが知られている。かかるライシメータとして、カラム中に充填した土壌に水分センサ、感圧センサや温度センサ、塩分センサなどを埋設し、また土壌重量の変化、吸水量、排水量などを測定する計測器を取り付けて土壌の経時的な変化を測定するものがある。
【0003】
例えば、特許文献1では、ライシメータによる計測でモデル化されたごみ埋立地内の各相に対して、マスバランス式を用いて数値シミュレーションを行うための方法について開示している。ここで用いられているライシメータは、上面から所定の深さ位置まで空気注入パイプを槽内の水平方向に取り付け、底部をバラスで被覆して浸出水の流出を容易に浸出水タンクに集められるようにしたものである。また、所定の深さ位置には、温度検知装置やガスサンプリングパイプ、浸出水のサンプリングパイプを取り付けて、各種計測を行うとしている。
【0004】
ところで、リター/土壌からの浸出水に含まれる溶存態放射性セシウム(Cs)の動態モニタリングは、学術的な観点だけでなく、住民の放射線防護の観点からも非常に重要となっている。これまで浸出水中の放射性Csの動態モニタリングは、上記したようなライシメータ法によって評価されてきた(非特許文献1、2)。つまり、土壌中に大型のリター/土壌浸出水回収装置を埋設し、回収された浸出水の放射能を測定し、溶存態放射性セシウムの動態モニタリングを行っていた。
【0005】
また、特許文献2では、溶存態の放射性Csを特異的に吸着するプルシアンブルー型錯体化合物を担持させたPB不織布を用いて水中の放射性Csを簡便にモニタリングする方法を開示している。不織布上で濃縮された放射性Cs濃度を測定するので、0.3Bq/L未満の低濃度の放射性Csであっても、測定に長い時間を要さず、大きなタンクや大量の水の運搬等を必要としないとしている。
【0006】
上記したような放射性Csを特異的に吸着する物質としては、銅置換体、亜鉛置換体などが知られている(例えば、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−66171号公報
【特許文献2】特開2013−246049号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】I.Tegen and H. Dorr, “Mobilization of cesium in organic rich soils”, Correlation with production of dissolved organic carbon. Water, Air, and Soil Pollution, 88(1996), pp.133-144
【非特許文献2】T.M. Nakanishi, N.I. Kobayashi, K. Tanoi, “Radioactive cesium deposition on rice, wheat, peach tree and soil after nuclear accident in Fukushima”, J. Radioanal. Nucl. Chem., 296, Issue 2 (2012), pp 985-989
【非特許文献3】T.Yasutaka, H.Tsuji, Y.Kondo, Y.Suzuki, A.Takahashi and T.Kawamoto, "Rapid quantification of radiocesium dissolved in water by using nonwoven fabric cartridge filters impregnated with potassium zinc ferrocyanide", Journal of Nuclear Science and Technology, 52(6) (2015), pp 792-800
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
過去2度の放射線災害(1986年チェルノブイリ、2011年福島)において、ライシメータ法を用いたリター/土壌浸出水の溶存態放射性Csの動態モニタリングの研究例は少ない。これはライシメータ法では、莫大な時間と労力を要すること、すなわち、環境中への装置の設置、頻繁な水サンプルの回収、放射能測定のための水サンプルの前処理(ろ過及び蒸発乾固)の必要性などが原因である。例えば、長期設置をするには巨大な水回収ボトルが必要となり、設置の労力を考えると1−3ヶ月毎に交換のために現地に赴く必要が生じる。更に、1−3ヶ月間、現地でボトル内に水が保管されると、ボトル内の懸濁物質に溶存態放射性Csが吸着してしまって検出濃度が低くなる可能性も指摘されている。
【0010】
一方、土壌中の放射性Csの移動性を評価する他の方法としては、近傍地点での経時的な土壌サンプリング・分析による評価法も知られているが、同一地点でのサンプリングは不可能であり、適切な移動性評価をできないといったことも指摘される。更に、環境中の放射能レベルが低い場所においては、一定期間ごとに水の回収が必要であるため、水サンプル中の放射性Csが微量となり、検出限界以下となってモニタリングができないこともあった。
【0011】
本発明は、上記したような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、リター/土壌からの浸出水に含まれる溶存態放射性セシウムを簡便に動態モニタリングできるライシメータを用いたモニタリング装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による放射性セシウムの動態モニタリング装置は、リター/土壌を浸出して来る浸出水について、除去フィルター層を通過させてこれに含まれている懸濁物質を除去した後に、セシウムを吸着する吸着物質を保持した吸着フィルター層を通過させ、所定時間後に該吸着フィルター層を検査する放射性セシウムの動態モニタリング装置であって、前記リター/土壌の位置を保持しその下部に空間を与えるとともに前記浸出水を通過させる透水板と、前記空間の底部から前記浸出水を排出する排出口と、を含み、前記除去フィルター層及び前記吸着フィルター層を上下に離間させて前記透水板及び前記排出口の間に挿入されていることを特徴とする。
【0013】
かかる発明によれば、ライシメータにおいて、設置が簡単であり、現地において固液分離が行い得て、検査のための吸着フィルター層の回収間隔をより長くできて交換回数を減じ、しかもセシウムを濃縮した状態で吸着フィルター層を回収できて検査前処理が簡便であり、且つ、清浄状態でセシウムを検出できて検出レベルも高い。つまり、ライシメータを用いてリター/土壌からの浸出水に含まれる溶存態放射性セシウムを簡便に動態モニタリングできるのである。
【0014】
上記した発明において、前記吸着物質はプルシアンブルー型錯体化合物であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、浸出水中に存在する低濃度の放射性セシウムであっても精度良く検出でき、ライシメータを用いてリター/土壌からの浸出水に含まれる溶存態放射性セシウムを簡便且つ高精度に動態モニタリングできるのである。
【0015】
上記した発明において、前記吸着フィルター層は前記吸着物質を担持させた不織布であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、ライシメータを用いてリター/土壌からの浸出水に含まれる溶存態放射性セシウムを簡便且つより高精度に動態モニタリングできるのである。
【0016】
上記した発明において、前記排出口を端部に有し他端部に開口を有する管体の内部に前記透水板、前記除去フィルター層及び吸着フィルター層を互いに平行に配置してなることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、ライシメータを用いてリター/土壌からの浸出水に含まれる溶存態放射性セシウムを簡便且つより高精度に動態モニタリングできるのである。
【0017】
更に、本発明による放射性セシウムの動態モニタリング方法は、リター/土壌を浸出して来る浸出水について、除去フィルター層を通過させてこれに含まれている懸濁物質を除去した後に、セシウムを吸着する吸着物質を保持した吸着フィルター層を通過させ、所定時間後に該吸着フィルター層を検査する放射性セシウムの動態モニタリング方法であって、前記リター/土壌の位置を保持しその下部に空間を与えるとともに前記浸出水を通過させる透水板と、前記空間の底部から前記浸出水を排出する排出口と、を含み、前記除去フィルター層及び前記吸着フィルター層は上下に離間させて前記透水板及び前記排出口の間に挿入され、前記浸透水が前記除去フィルター層、前記吸着フィルター層及び前記排出口の上部空間の内部に保持されながら通過することを特徴とする。
【0018】
かかる発明によれば、ライシメータを用いてリター/土壌からの浸出水に含まれる溶存態放射性セシウムを簡便且つより高精度に動態モニタリングできるのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明による放射性セシウムの動態モニタリング装置として用いられるカラムの側断面図である。
【
図3】野外試験における吸着フィルター層へのCs吸着率の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明によるモニタリング装置の1つの実施例としてのカラムについて、
図1及び
図2を用いて説明する。
【0021】
図1に示すように、カラム10は、略円筒体の本体1を備え、その内部を第1室11、第2室12、第3室13及び第4室14の4つの空間に仕切る透水板21、除去フィルター層22、及び吸着フィルター層23を上から順に備える。透水板21、除去フィルター層22及び吸着フィルター層23はその主面を略水平として、互いに略平行に上下に離間するよう配置される。
【0022】
図2を併せて参照すると、透水板21は、その上の第1室11に充填されたリター及び/又は土壌(以下、土壌等と称する)の位置を保持しつつ、第1室11の土壌等から浸出してくる浸出水をその下方の空間となる第2室12に落下させる。また、第2室12の下部に備えられる除去フィルター層22は、浸出水に含まれる懸濁物質を除去しつつ、懸濁物質の除去された浸出水をその下方の空間となる第3室13に落下させる。第3室13の下部には、吸着フィルター層23が備えられ、第3室13内の浸出水からセシウムを吸着して、かかる浸出水をその下方の空間となる第4室14に落下させ、本体1の下方の開口部である排水口15から排出させる。浸出水は排水口15から排出されるとその下の土壌等に浸透する。
【0023】
ここで、透水板21の通水速度は第1室11に充填された土壌等の透水速度以上とする。これにより、透水板21は浸出水を速やかに第2室12に落下させ、カラム10の上部から水が溢れないようにする。
【0024】
除去フィルター層22は、上記したように懸濁物質を除去する。このとき、懸濁物質層と吸着フィルター層が接触していると、吸着フィルター層の高いセシウム回収能力のために水を介して懸濁物質の放射性Csが溶存態へと移行し得る。つまり、放射性Cs濃度を実際よりも大きく評価してしまう可能性がある。そこで、第2室12は、除去フィルター層22によっても浸出水で満たされずに、常に空間を有するように設計される。
【0025】
吸着フィルター層23は、放射性セシウムを浸出水から吸着する吸着物質を保持している。吸着物質としては、例えば、プルシアンブルー型錯体化合物を用い得る。プルシアンブルー型錯体化合物としては、例えば、特許文献2(特開2013−246049号公報)に記載のものを使用し得る。すなわち、A
xM[Fe(CN)
6]
y・zH
2Oの組成を有するものである。ここで、Aとしては、陽イオンを形成するカリウム、リチウム、ナトリウム、ルビジウム、アンモニア又はこれらの混合体であり、Mとしては鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、銅、銀などの金属である。本実施例において、吸着フィルター層23には、吸着物質として銅置換体のプルシアンブルーを担持させた不織布を用いた。なお、プルシアンブルー型錯体化合物は、ナノ粒子などの粒径が小さく大きな比表面積を有する形状とされることが好ましい。
【0026】
また、吸着フィルター層23は、第3室13によって除去フィルター層22と隔てられており、除去フィルター層22に付着させた懸濁物質による影響を受けずに放射性セシウムを吸着できる。さらに、第3室13は、浸出水で満たされずに、常に空間を有するように設計される。また、吸着フィルター層23は、第4室14によって排出口15の外部の土壌等と隔てられている。第4室14は、浸出水の落下に伴う跳ね返りによる吸着フィルター層23の土壌汚染を防ぐようにその大きさを設計される。
【0027】
上記した、カラム10は、
図2(a)又は(b)に示すように、リターの浸出水又は土壌の浸出水から放射性セシウムを検出するべく、第1室11に充填する土壌等を周囲に合わせるように埋められ設置される。所定時間の経過後、これを回収して吸着フィルター層23を検査することで吸着された放射性セシウムを検出することができる。例えば、回収した吸着フィルター層23の放射能を測定することで放射性セシウムを検出できる。
【0028】
以上の実施例によれば、特に、従来法において必要だった頻繁な水回収を不要とし、カラム10の設置も例えば約5分程度の作業で完了する簡単なものとでき、吸着フィルター層23によって測定現場におけるカラム10内での放射性セシウムの濃縮を可能とした。これにより、試料の回収を例えば数ヶ月〜1年に1回とするなど、その頻度を低減させ得る。また吸着フィルター層23に吸着されて濃縮された放射性セシウムを清浄状態で検出できるため、その検査の前処理を例えば30分程度でできる簡便なものとし得て、検出レベルも従来の方法に比べて数十倍と高くできる。つまり、ライシメータを用いて土壌等からの浸出水に含まれる溶存態放射性セシウムを簡便に動態モニタリングできるのである。
【0029】
ところで、吸着フィルター層23は、放射性セシウムをなるべく逃さないで吸着できるようにするため、例えば、銅置換体のプルシアンブルーを担持させた不織布(Cu−NF)を複数枚重ねて使用することが好ましい。ここでは、Cu−FNを7枚重ねて上記したカラム10に用いて野外試験を行い、放射性セシウム(Cs)の吸着率を調査したので、その結果について説明する。
【0030】
図3に示すように、土壌等からの浸出水中95%以上の放射性セシウムが1〜3枚目のCu−FNに吸着された。すなわち、このCu−FNであれば、3枚以上重ねて用いることが好適であることが判る。
【0031】
なお、吸着フィルター層23を通過する水量を計測することで、これに吸着されて濃縮された放射性セシウムに関するより詳細な情報を得ることができ得る。例えば、吸着フィルター層23の上部及び/又は下部に雨量計を配置するだけでよい。
【0032】
以上、本発明による代表的な実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0033】
10 カラム
15 排出口
21 透水板
22 除去フィルター層
23 吸着フィルター層