特許第6872788号(P6872788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6872788化合物、それを用いた蛍光体、および化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872788
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】化合物、それを用いた蛍光体、および化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 17/30 20200101AFI20210510BHJP
   C09K 11/63 20060101ALI20210510BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   C01F17/30
   C09K11/63CPF
   C09K11/08 A
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-90952(P2017-90952)
(22)【出願日】2017年5月1日
(65)【公開番号】特開2018-188326(P2018-188326A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2019年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 健二
(72)【発明者】
【氏名】赤井 智子
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−024852(JP,A)
【文献】 特開2006−249412(JP,A)
【文献】 特開2008−280501(JP,A)
【文献】 特開2004−263020(JP,A)
【文献】 特開2006−352178(JP,A)
【文献】 特表2017−522412(JP,A)
【文献】 K. SHINOZAKI et al.,Highly efficient red-emitting BaMgBO3F:Eu3+,R+ (R: Li, Na, K, Rb) phosphor for near-UV excitation synthesized via glass precursor solid-state reaction,Japanese Journal of Applied Physics,2017年 8月 2日,56,092601-1〜092601-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F1/00−17/38
C09K11/00−11/89
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)によって表され、下記一般式(1)において蛍光賦活元素を除いた化合物のX線回折のピーク位置と同じピーク位置を有し、蛍光賦活元素がEuである場合はEuBO3に起因するX線回折のピークを有せず、蛍光賦活元素がEu以外である場合はEuBO3のEuをEu以外の蛍光賦活元素に置き換えたものに起因するX線回折のピークを有しない結晶相からなる化合物。
Y1xBa1-xyY2z1-y-zBO3F(0<x<0.15,0≦y<0.15,0≦z<0.15)・・・(1)
[式(1)において、Y1は、Eu,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,TmおよびBiから選択された少なくとも1つであり、Y2は、Ni,Cu,V,Mn,Fe,Ti,Cr,CoおよびAgから選択された少なくとも1つであり、Mは、Na,Li,K,Rbのいずれか1つであり、Xは、MgまたはZnである。]
【請求項2】
請求項1に記載の化合物を備える蛍光体。
【請求項3】
下記一般式()によって表され、下記一般式()において蛍光賦活元素を除いた化合物のX線回折のピーク位置と同じピーク位置を有し、結晶相を有する化合物の製造方法であって、
Y1xBa1-xyY2z1-y-zBO3F(0<x<0.15,0≦y<0.15,0≦z<0.15)・・・(
[式(1)において、Y1は、Eu,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,TmおよびBiから選択された少なくとも1つであり、Y2は、Ni,Cu,V,Mn,Fe,Ti,Cr,CoおよびAgから選択された少なくとも1つであり、Mは、Na,Li,K,Rbのいずれか1つであり、Xは、MgまたはZnである。]
前記化合物の製造方法は、
バリウム化合物(炭酸バリウム、酸化バリウム、フッ化バリウムおよび水酸化バリウムのいずれか1つ)と、前記元素Xの酸化物と、前記元素Xのフッ化物とを含む群のうちの1つまたは2つと、三酸化二ホウ素またはホウ酸と、前記蛍光賦活元素の酸化物とを混合して混合物を生成する第1の工程と、
前記混合物を溶融し、急速冷却して非晶質物を生成する第2の工程と、
前記非晶質物と、前記群のうち前記混合物に含まれない残りの材料とを混合して固相法によって前記化合物を生成する第3の工程とを備える化合物の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程において、前記混合物は、前記炭酸バリウムと前記三酸化二ホウ素と酸化ユウロピウムの酸化物とを混合して生成され、
前記第3の工程において、前記化合物は、前記非晶質物と、酸化マグネシウムと、フッ化マグネシウムとを混合して固相法によって生成される、請求項3に記載の化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化合物、それを用いた蛍光体、および化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複合酸化物微粒子の製造方法が知られている(特許文献1)。この製造方法は、複合酸化物微粒子を構成する各成分を含む原料混合物を溶融する工程と、溶融物を急速冷却して非晶質化物を得る工程と、非晶質化物を加熱して複合酸化物の結晶を含む結晶化物を析出させる工程と、結晶化物から複合酸化物の結晶を分離・精製し、複合酸化物微粒子を作製する工程とを備え、複合酸化物結晶の分離・精製工程は、複合酸化物微粒子を構成する成分の陽イオンを含む水溶液、酸溶液、およびアルカリ溶液から選ばれる少なくとも1種を用いる工程を含む。
【0003】
即ち、特許文献1に記載された製造方法は、ガラス結晶化法を用いた複合酸化物微粒子の製造方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−285334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された製造方法においては、結晶化物から複合酸化物の結晶を分離・精製するため、複合酸化物の結晶を容易に得ることができないという問題がある。また、特許文献1に記載の複合酸化物微粒子は、発光強度が低いという問題がある。
【0006】
この発明の実施の形態によれば、発光強度を向上可能な化合物を提供する。
【0007】
また、この発明の実施の形態によれば、発光強度を向上可能な化合物を用いた蛍光体を提供する。
【0008】
更に、この発明の実施の形態によれば、発光強度を向上可能な化合物を容易に製造可能な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(構成1)
この発明の実施の形態によれば、化合物は、下記一般式(1)によって表され、下記一般式(1)において蛍光賦活元素を除いた化合物のX線回折のピーク位置と同じピーク位置を有し、結晶相からなる化合物である。
Y1xBa1-xyY2z1-y-zBO3F0<x<0.15,0≦y<0.15,0≦z<0.15)・・・(1)
[式(1)において、Y1は、Eu,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,TmおよびBiから選択された少なくとも1つであり、Y2は、Ni,Cu,V,Mn,Fe,Ti,Cr,CoおよびAgから選択された少なくとも1つであり、Mは、Na,Li,K,Rbのいずれか1つであり、Xは、MgまたはZnである。]
【0010】
この発明の実施の形態による化合物は、蛍光賦活元素を含む副生成物結晶に起因する光吸収を有しないため、発光強度を向上できる。
【0011】
(構成2)
この発明の実施の形態による蛍光体は、構成1に記載の化合物を備える。
【0012】
従って、蛍光体の発光強度を向上できる。
【0013】
(構成3)
この発明の実施の形態によれば、化合物の製造方法は、下記一般式()によって表され、下記一般式()において蛍光賦活元素を除いた化合物のX線回折のピーク位置と同じピーク位置を有し、結晶相を有する化合物の製造方法であって、
Y1xBa1-xyY2z1-y-zBO3F(0<x<0.15,0≦y<0.15,0≦z<0.15)・・・(
[式(1)において、Y1は、Eu,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,TmおよびBiから選択された少なくとも1つであり、Y2は、Ni,Cu,V,Mn,Fe,Ti,Cr,CoおよびAgから選択された少なくとも1つであり、Mは、Na,Li,K,Rbのいずれか1つであり、Xは、MgまたはZnである。]
【0014】
バリウム化合物(炭酸バリウム、酸化バリウム、フッ化バリウムおよび水酸化バリウムのいずれか1つ)と、元素Xの酸化物と、元素Xのフッ化物とを含む群のうちの1つまたは2つと、三酸化二ホウ素またはホウ酸と、蛍光賦活元素の酸化物とを混合して混合物を生成する第1の工程と、混合物を溶融し、急速冷却して非晶質物を生成する第2の工程と、非晶質物と、群のうち混合物に含まれない残りの材料とを混合して固相法によって化合物を生成する第3の工程とを備える。
【0015】
この発明の実施の形態による化合物の製造方法においては、三酸化二ホウ素またはホウ酸は、ガラス化促進材として機能するので、工程1,2を実行することにより、非晶質物が容易に生成される。そして、工程3において、非晶質物と、群のうち混合物に含まれない残りの材料とが反応して化合物が生成される。その結果、化合物は、蛍光賦活元素を含む副生成物の結晶に起因したX線回折のピークを有しない。この副生成物の結晶は、発光強度を低下させるものである。また、工程3において、非晶質物と残りの材料とが反応して化合物が生成されるので、生成された化合物は、結晶相からなる単体からなる。その結果、特許文献1に記載のように、結晶化物から複合酸化物の結晶を分離・精製する必要がない。
【0016】
従って、発光強度を向上できるY1xBa1-xyY2z1-y-zBO3Fを容易に製造できる。
【0017】
(構成4)
構成3の第1の工程において、混合物は、炭酸バリウムと三酸化二ホウ素と酸化ユウロピウムの酸化物とを混合して生成され、第3の工程において、化合物は、非晶質物と、酸化マグネシウムと、フッ化マグネシウムとを混合して固相法によって生成される。
【0018】
三酸化ホウ素は、第2の工程において、ガラス化促進材として機能するので、バリウム(Ba)と、ユウロピウム(Eu)と、酸素(O)とを含む非晶質物が容易に生成される。そして、第3の工程において、非晶質物(バリウム(Ba)、ユウロピウム(Eu)および酸素(O)を含む)と、酸化マグネシウムおよびフッ化マグネシウムとが反応して化合物(Y1xBa1-xyY2z1-y-zBO3)が生成される。
【0019】
従って、ユウロピウム(Eu)を蛍光賦活元素として含む化合物(Y1xBa1-xyY2z1-y-zBO3)を容易に製造できる。
【発明の効果】
【0020】
上記式(1)で表される化合物の発光強度を向上できる。また、上記式(1)で表される化合物を用いた蛍光体の発光強度を向上できる。更に、発光強度を向上可能な化合物(上記式(1)で表される化合物)を容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】この発明の実施の形態による化合物の製造方法を示す工程図である。
図2図1に示す工程S1および工程S3における材料の組み合わせを示す図である。
図3図1に示す工程S1および工程S3における材料の組み合わせを示す図である。
図4図1に示す工程S1および工程S3における材料の組み合わせを示す図である。
図5図1に示す工程S1および工程S3における材料の組み合わせを示す図である。
図6】蛍光賦活元素と、蛍光賦活元素の酸化物との関係を示す図である。
図7図1に示す工程S2および工程S3における状態を示す概念図である。
図8図1に示す製造方法によって製造されたBaMgBO3Fの結晶構造を示す図である。
図9】基準サンプル、実施例1および比較例1,2のX線回折パターンを示す図である。
図10】実施例2におけるEuxBa1-xyMg1-yBO3FのX線回折パターンを示す図である。
図11】サンプルA、サンプルB、サンプルCおよびサンプルDの蛍光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の実施の形態による化合物は、下記一般式(1)によって表され、下記一般式(1)において蛍光賦活元素を除いた化合物のX線回折のピーク位置と同じピーク位置を有し、結晶相からなる化合物である。
Y1xBa1-xyY2z1-y-zBO3F(0<x<0.15,0≦y<0.15,0≦z<0.15)・・・(1)
[式(1)において、Y1は、Eu,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,TmおよびBiから選択された少なくとも1つであり、Y2は、Ni,Cu,V,Mn,Fe,Ti,Cr,CoおよびAgから選択された少なくとも1つであり、Mは、Na,Li,K,Rbのいずれか1つであり、Xは、MgまたはZnである。]
【0023】
図1は、この発明の実施の形態による化合物の製造方法を示す工程図である。図1を参照して、化合物の製造が開始されると、原料Aと、ガラス化促進材と、蛍光賦活元素の酸化物とを混合して混合物を生成する(工程S1)。
【0024】
ここで、原料Aは、バリウム化合物(炭酸バリウム、酸化バリウム、フッ化バリウムおよび水酸化バリウムのいずれか1つ)と、元素Xの酸化物と、元素Xのフッ化物とを含む群から選択された1つまたは2つである。
【0025】
また、ガラス化促進材は、三酸化二ホウ素またはホウ酸である。
【0026】
工程S1の後、混合物を溶融し、急速冷却して非晶質物を生成する(工程S2)。この場合、混合物を坩堝に入れ、大気中で混合物を溶融する。混合物を溶融するときの溶融温度は、示差熱分析を用いて決定され、900℃〜1300℃である。そして、溶融された混合物は、例えば、鉄板上に注がれ、鉄板によってプレス急冷される。これによって、非晶質物が生成される。その後、非晶質物は、メノウ乳鉢を用いて粉砕され、粉末状にされる。なお、「非晶質物」とは、ガラス転移点を有する固体を言う。また、「急速冷却」とは、放冷よりも速い冷却速度を有する冷却を言う。
【0027】
工程S2の後、非晶質物と原料Bとを混合して固相法によって結晶成長させ、化合物を生成する(工程S3)。この場合、原料Bは、バリウム化合物(炭酸バリウム、酸化バリウム、フッ化バリウムおよび水酸化バリウムのいずれか1つ)と、元素Xの酸化物と、元素Xのフッ化物とのうち原料Aに含まれない残りの材料である。また、固相法によって結晶成長させるときの温度は、800℃〜900℃であり、時間は、例えば、2時間である。
【0028】
これにより、化合物の製造が終了する。
【0029】
工程S1において、ガラス化促進材を用いて混合物を生成するので、工程S2において、混合物を溶融して急速冷却することによって、非晶質物が生成される。
【0030】
図2から図5は、図1に示す工程S1および工程S3における材料の組み合わせを示す図である。
【0031】
図2は、バリウム化合物が炭酸バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの1つまたは2つと、三酸化ホウ素(またはホウ酸)と、蛍光賦活元素の酸化物とを用いた場合の工程S1および工程S3における材料の組み合わせを示す。
【0032】
また、図3は、バリウム化合物が酸化バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの1つまたは2つと、三酸化ホウ素(またはホウ酸)と、蛍光賦活元素の酸化物とを用いた場合の工程S1および工程S3における材料の組み合わせを示す。
【0033】
更に、図4は、バリウム化合物がフッ化バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの1つまたは2つと、三酸化ホウ素(またはホウ酸)と、蛍光賦活元素の酸化物とを用いた場合の工程S1および工程S3における材料の組み合わせを示す。
【0034】
更に、図5は、バリウム化合物が水酸化バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの1つまたは2つと、三酸化ホウ素(またはホウ酸)と、蛍光賦活元素の酸化物とを用いた場合の工程S1および工程S3における材料の組み合わせを示す。
【0035】
図2を参照して、炭酸バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの1つが工程S1における原料である場合、炭酸バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの残りの2つの材料が工程S3の原料となる(No.1〜No.6参照)。
【0036】
また、炭酸バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの2つが工程S1における原料である場合、炭酸バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの残りの1つの材料が工程S3の原料となる(No.7〜No.12参照)。
【0037】
図3を参照して、酸化バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの1つが工程S1における原料である場合、酸化バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの残りの2つの材料が工程S3の原料となる(No.13〜No.18参照)。
【0038】
また、酸化バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの2つが工程S1における原料である場合、酸化バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの残りの1つの材料が工程S3の原料となる(No.19〜No.24参照)。
【0039】
図4を参照して、フッ化バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの1つが工程S1における原料である場合、フッ化バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの残りの2つの材料が工程S3の原料となる(No.25〜No.30参照)。
【0040】
また、フッ化バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの2つが工程S1における原料である場合、フッ化バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの残りの1つの材料が工程S3の原料となる(No.31〜No.36参照)。
【0041】
図5を参照して、水酸化バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの1つが工程S1における原料である場合、水酸化バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの残りの2つの材料が工程S3の原料となる(No.37〜No.42参照)。
【0042】
また、水酸化バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの2つが工程S1における原料である場合、水酸化バリウム、元素Xの酸化物および元素Xのフッ化物のうちの残りの1つの材料が工程S3の原料となる(No.43〜No.48参照)。
【0043】
このように、バリウム化合物(炭酸バリウム、酸化バリウム、フッ化バリウムおよび水酸化バリウムのいずれか1つ)と、元素Xの酸化物と、元素Xのフッ化物とを含む群の一部の材料が工程S1における原料となり、炭酸バリウム、酸化バリウム、フッ化バリウムおよび水酸化バリウムのいずれかと、元素Xの酸化物と、元素Xのフッ化物とを含む群の残りの材料が工程S3における原料となる。
【0044】
そして、バリウム化合物(炭酸バリウム、酸化バリウム、フッ化バリウムおよび水酸化バリウムのいずれか1つ)と、元素Xの酸化物と、元素Xのフッ化物とを工程S1における原料と工程S3における原料とに振り分けるときの方法は、任意である。
【0045】
図6は、蛍光賦活元素と、蛍光賦活元素の酸化物との関係を示す図である。図6を参照して、蛍光賦活元素がユウロピウム(Eu)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、Eu23である。蛍光賦活元素がセリウム(Ce)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、CeO2である。蛍光賦活元素がプラセオジム(Pr)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、Pr611である。蛍光賦活元素がネオジウム(Nd)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、Nd23である。
【0046】
蛍光賦活元素がサマリウム(Sm)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、Sm23である。蛍光賦活元素がガドリニウム(Gd)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、Gd23である。蛍光賦活元素がテルビウム(Td)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、Td23またはTd47である。蛍光賦活元素がジスプロシウム(Dy)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、Dy23である。
【0047】
蛍光賦活元素がホルミウム(Ho)であるとき、蛍光賦活元素の酸化物は、Ho23である。蛍光賦活元素がエルビウム(Er)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、Er23である。蛍光賦活元素がツリウム(Tm)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、Tm23である。蛍光賦活元素がニッケル(Ni)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、NiOである。
【0048】
蛍光賦活元素が銅(Cu)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、CuOまたはCu2Oである。蛍光賦活元素がビスマス(Bi)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、Bi23である。蛍光賦活元素がバナジウム(V)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、V25である。蛍光賦活元素がマンガン(Mn)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、Mn23である。
【0049】
蛍光賦活元素が鉄(Fe)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、FeO、Fe23およびFe34のいずれかである。蛍光賦活元素がチタン(Ti)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、TiO2である。蛍光賦活元素がクロム(Cr)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、Cr23である。蛍光賦活元素がコバルト(Co)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、CoOである。蛍光賦活元素が銀(Ag)である場合、蛍光賦活元素の酸化物は、Ag2Oである。
【0050】
この発明の実施の形態による化合物は、少なくとも1つの蛍光賦活元素を含むので、工程S1における蛍光賦活元素の酸化物は、使用される蛍光賦活元素に対応して図6に示す蛍光賦活元素の酸化物の少なくとも1つからなる。
【0051】
図7は、図1に示す工程S2および工程S3における状態を示す概念図である。図7を参照して、図1に示す工程S2において生成される非晶質物は、原料Aと、ガラス化促進材と、蛍光賦活元素とを含む。
【0052】
そして、図1に示す工程S3において、非晶質物と原料Bとを混合して固相法によって化合物を生成するとき、原料Bが非晶質物と反応し、結晶相からなる化合物が生成される。
【0053】
従って、最終的に生成された化合物は、結晶相からなる単体であり、特許文献1に記載の製造方法のように、結晶化物から複合酸化物の結晶を分離・精製する必要がない。その結果、化合物を容易に製造できる。なお、最終的に生成された化合物が結晶相からなる単体であるのは、原料Bが非晶質物と反応して最終的な化合物が生成されるからである。
【0054】
また、図7に示すように、非晶質物と原料Bとが反応して化合物が生成されるので、最終的に製造された化合物の発光を阻害する副生成物の生成が抑制される。従って、図1に示す製造方法によって製造された化合物の発光強度を強くできる。
【0055】
なお、蛍光賦活元素がEuである場合、発光を阻害する副生成物は、EuBO3であり、蛍光賦活元素がEu以外である場合、発光を阻害する副生成物は、EuBO3のEuをEu以外の蛍光賦活元素に置き換えたものである。
【0056】
以下、実施例を用いて、この発明の実施の形態による化合物を詳細に説明する。
(実施例1)
実施例1における化合物は、Eu0.05Ba0.95MgBO3Fである。Eu0.05Ba0.95MgBO3Fは、上記一般式(1)において、Y1=Eu、X=Mg、x=0.05、y=Z=0であるときの化合物である。Eu0.05Ba0.95MgBO3Fは、図1に示す製造方法によって製造された。より具体的には、Eu23,BaCO3,B23が混合され、混合物が生成された。
【0057】
そして、混合物は、Pt坩堝に入れられ、大気中において、1100℃の温度で、30分、熱せられ、溶融された。この工程でCO2の脱離によりBaCO3はBaOになる。
【0058】
その後、混合物の溶融物は、鉄板上に注がれ、プレス急冷された。急冷された非晶質物は、メノウ乳鉢によって粉砕され、粉末状のxEu23−(66.7−2x)BaO−33.3B23を得、これとMgOおよびMgF2が混合され、混合された混合物は、Pt坩堝に入れられた。
【0059】
引き続いて、混合された混合物を、例えば、750℃の温度で3時間熱し、その後、電気炉中において、850℃の温度で3時間、熱して、化合物Eu0.05Ba0.95MgBO3Fを製造した。この場合、Eu3+の減少を抑制するため、O2:N2=1:1の酸素ガスおよび窒素ガスが電気炉中へ流された。
【0060】
(実施例2)
実施例2における化合物は、EuxBa1-xyMg1-yBO3F(Mは、アルカリ金属であるNa,Li,K,Rbのいずれか1つ)である。実施例2における化合物は、上記一般式(1)において、Y1=Eu、z=0であるときの化合物である。
【0061】
粉末状のxEu23−(66.7−2x)BaO−33.3B23と、MgOと、Li2CO3,Na2CO3,K2CO3,RbNO3のいずれか1つを有するMgF2との混合物を用いた点を除いては、実施例1と同じ方法によってEuBaMMgBO3Fを製造した。
【0062】
(比較例1)
比較例1における化合物は、EuBaMgBO3Fである。Eu23,BaCO3,MgO,MgF2,B23を混合して従来の固相法によってEuBaMgBO3Fを製造した。
【0063】
(比較例2)
比較例2における化合物は、Eu0.15Ba0.85MgBO3Fである。Eu0.15Ba0.85MgBO3Fは、Euの組成を0.15に設定した以外は、実施例1と同様にして製造された。
【0064】
(基準サンプル)
基準サンプルは、Eu(蛍光賦活元素)を含まないBaMgBO3Fである。非晶質物の原料をBaCO3,B23とした以外は、実施例1と同様にして、Eu(蛍光賦活元素)を含まないBaMgBO3Fを製造した。
【0065】
図8は、図1に示す製造方法によって製造されたBaMgBO3Fの結晶構造を示す図である。図8の(a)は、c軸方向から見た結晶構造を示す図であり、図8の(b)は、a軸方向から見た結晶構造を示す図である。
【0066】
図8を参照して、BaMgBO3Fは、単斜晶系結晶からなる。そして、格子定数は、a=17.64Åであり、b=30.546Åであり、c=8.060Åであり、β=90.008°である。
【0067】
BO3およびMgO42は、層構造を有し、交互に配置される。そして、Ba2+は、BO3層(酸化物層)とMgO42層(フッ化物層)との間に配置される。
【0068】
このように、図1に示す製造方法によって製造されたBaMgBO3Fは、層構造からなる結晶構造を有する。
【0069】
図9は、基準サンプル、実施例1および比較例1,2のX線回折パターンを示す図である。X線回折は、Rigaku製のUltimaIVを用いて測定された。そして、粉末を充填したガラスホルダを用い、室温にて測定した。図9において、横軸は、回折角を表し、縦軸は、強度を表す。また、矢印は、EuBO3に起因するピークを示す。
【0070】
図9を参照して、実施例1(Eu0.05Ba0.95MgBO3F)は、BaMgBO3Fに起因するピークを有し、EuBO3に起因するピークを有しない。そして、BaMgBO3Fに起因するピークのピーク位置は、基準サンプルのピーク位置と同じである。
【0071】
一方、比較例1,2は、BaMgBO3Fに起因するピークとEuBO3に起因するピークとを有する。そして、BaMgBO3Fに起因するピークのピーク位置は、基準サンプルのピーク位置と同じである。
【0072】
このように、実施例1は、蛍光賦活元素を含んでいるにも拘わらず、蛍光賦活元素を含まない基準サンプルのピーク位置と同じピーク位置を有し、EuBO3に起因するピークを有しない。
【0073】
従って、図1に示す製造方法によって製造することによって、発光を阻害するEuBO3に起因するピークを有しないEu0.05Ba0.95MgBO3Fを製造できることが実証された。
【0074】
これは、粉末状の非晶質物、MgOおよびMgF2の混合物を用いて固相法によって結晶成長させる際に、非晶質物と、MgOおよびMgF2とが反応してEu0.05Ba0.95MgBO3Fが製造される結果、EuBO3が生成され難いためと考えられる。
【0075】
また、比較例2(Eu0.15Ba0.85MgBO3F)がEuBO3に起因するピークを有するので、蛍光賦活元素(Eu)の含有量xは、0.15未満が好ましいことが分かった。従って、実施例1における化合物は、EuxBa1-xMgBO3F(0<x<0.15)である。
【0076】
図10は、実施例2におけるEuxBa1-xyMg1-yBO3FのX線回折パターンを示す図である。図10において、横軸は、回折角を表し、縦軸は、強度を表す。また、サンプルAは、EuのみをドープしたEu0.05Ba0.95MgBO3F(実施例1と同じ)のX線回折パターンを示し、サンプルBは、EuおよびLiをドープしたEu0.05Ba0.95Li0.05Mg0.95BO3FのX線回折パターンを示し、サンプルCは、EuおよびNaをドープしたEu0.05Ba0.95Na0.05Mg0.95BO3FのX線回折パターンを示し、サンプルDは、EuおよびKをドープしたEu0.05Ba0.950.05Mg0.95BO3FのX線回折パターンを示し、サンプルEは、EuおよびRbをドープしたEu0.05Ba0.95Rb0.05Mg0.95BO3FのX線回折パターンを示す。
【0077】
図10を参照して、サンプルA〜サンプルEは、いずれも、基準サンプルと同じピークを有し、EuBO3に起因するピークを有しない。また、サンプルA〜サンプルEは、いずれも、基準サンプルのピーク位置と同じピーク位置を有する。
【0078】
このように、蛍光賦活元素と、アルカリ金属とをドープしても、EuBO3に起因するピークを有しないことが実証された。
【0079】
図11は、サンプルA、サンプルB、サンプルCおよびサンプルDの蛍光スペクトルを示す図である。蛍光スペクトルは、Hitachi製のF-7100を用いて室温で測定された。また、蛍光スペクトルの測定には393nmの励起光を用いた。
【0080】
図11において、横軸は、波長を表し、縦軸は、強度を表す。図11を参照して、サンプルA、サンプルB、サンプルC、サンプルDおよび比較例1は、同じピーク波長を有する。また、サンプルA、サンプルB、サンプルCおよびサンプルDは、いずれも、蛍光スペクトルの強度が比較例1の蛍光スペクトルの強度よりも強い。このように、Eu、またはEuおよびアルカリ金属をドープすることによって、蛍光スペクトルの強度を強くすることができる。
【0081】
従って、図1に示す製造方法によって製造することによって、発光強度の強いEuxBa1-xyMg1-yBO3F(M:Na,Li,K,Rbのいずれか1つ)を製造できる。
【0082】
上述したように、EuxBa1-xMgBO3F(0<x<0.15)は、蛍光賦活元素(Eu)を含まないBaMgBO3FのX線回折のピーク位置と同じピーク位置を有するので、この発明の実施の形態による化合物は、上記一般式(1)によって表され、上記一般式(1)において蛍光賦活元素を除いた化合物のX線回折のピーク位置と同じピーク位置を有し、結晶相からなる化合物であればよい。
【0083】
そして、この発明の実施の形態による化合物は、蛍光体に用いられる。そして、発光を阻害する副生成物を含まない。従って、この発明の実施の形態による化合物を用いた蛍光体において、発光強度を強くできる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
この発明は、化合物、それを用いた蛍光体、および化合物の製造方法に適用される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11