特許第6872816号(P6872816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6872816ニッケルマンガン系複合酸化物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872816
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ニッケルマンガン系複合酸化物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20210510BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20210510BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20210510BHJP
【FI】
   C01G53/00 A
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】7
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2019-506265(P2019-506265)
(86)(22)【出願日】2018年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2018010239
(87)【国際公開番号】WO2018169004
(87)【国際公開日】20180920
【審査請求日】2019年10月3日
(31)【優先権主張番号】特願2017-50947(P2017-50947)
(32)【優先日】2017年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-217608(P2017-217608)
(32)【優先日】2017年11月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田渕 光春
(72)【発明者】
【氏名】片岡 理樹
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−017049(JP,A)
【文献】 特開平05−283076(JP,A)
【文献】 特開2007−184145(JP,A)
【文献】 特開2003−068298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00−47/00
C01G 49/10−99/00
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
Li1+x(NiMn1−y1−x (1)
[式中、x及びyはそれぞれ0.05≦x<1/3、0.3≦y≦0.6を示す。]
で表わされ、層状岩塩型結晶相を含み、
格子定数aが2.870Å以下、格子体積が102.0Å以下である、
ニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物。
【請求項2】
層状岩塩型結晶構造において、リチウム層内に含まれる遷移金属量が5%以下である、請求項1に記載のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物。
【請求項3】
層状岩塩型結晶構造において、遷移金属層内に含まれる遷移金属量が88%以下である、請求項1又は2に記載のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物。
【請求項4】
ニッケルイオンの価数が2.5価以上である、請求項1〜3の何れか1項に記載のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物。
【請求項5】
O/(Ni+Mn)原子比が2.3以上である、請求項1〜4の何れか1項に記載のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物を正極活物質として含むリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
マンガン化合物及びニッケル化合物を含む混合水溶液から、20℃以下のアルカリ性条件下にて沈殿物を形成する工程1、
前記沈殿物に湿式酸化処理を行う工程2、
及びリチウム塩共存下酸化性雰囲気下で熱処理する工程3を有する、
請求項1〜5の何れか1項に記載のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国のノート型パソコンや携帯電話、スマートフォン等(小型民生用)の電源として使われているリチウムイオン二次電池は、電池サイズ、重量あたりの電気エネルギー量(エネルギー密度)が格段に高い電池として広く活用されている。さらに最近では電気自動車、プラグインハイブリッド車、住宅や発電所併設等の大型システムへの活用も始まっている有望な電池系である。
【0003】
リチウムイオン二次電池において、電池容量と電圧を決定づけるのが正極に使用される材料である。これらの多くはリチウム含有遷移金属酸化物であり、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)などが実用化されているが、それぞれ、Co資源の希少性に基づく価格の不安定性、充電時の化学的安定性の低さ、充放電容量の低さなどが指摘され、さらなる材料候補の確保が急務である。
【0004】
かかる材料候補としてニッケルマンガン酸リチウム(LiNi1/2Mn1/2)が、非特許文献1により提案され、有望な正極用の材料として検討されてきた。しかしニッケルマンガン酸リチウムには、合成が容易ではないという課題があった。例えば、共沈−水熱−焼成法により、ニッケルマンガン酸リチウムが得られることを見いだされている(特許文献1)が、合成法が複雑でそのまま実用化製造プロセスに転用できないという問題があった。そこで最近ではより合成がしやすい3元系と呼ばれるニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)に変わってきている。
【0005】
しかしニッケルコバルトマンガン酸リチウムを使用した電池は、コバルトを有するため、充電時における化学安定性の低さに課題があり、かかる化学安定性の低さは、電池の安全性及び高上限電位設定時(例えば4.5V以上)のサイクル特性に問題をきたすことがある。したがって、電池の安全性及びサイクル特性の面で優れるニッケルマンガン酸リチウムを使用した電池の、容易な合成方法を開発することは、依然として有意義なことであるといえる。
【0006】
そもそもCo置換が行われてきたのは、合成を容易にし、Li層内の遷移金属イオン量を低減させるためであるということが背景にあるものの、コバルト含有材料には上記のような課題があるため、コバルトを含まず、Li層内遷移金属イオン量の少ない材料を得ることができれば、産業上も極めて有用であると考えられる。
【0007】
そこで、Li層内の遷移金属イオン量の少ないニッケルマンガン系の正極材料であって、サイクル特性に優れた、リチウム二次イオン電池に使用可能な材料が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Electrochem. Solid-State Lett., 4, A191-A194, (2001).
【非特許文献2】Electrochemistry, 84, 789-792, (2016).
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−127233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、Li層内の遷移金属イオン量が少なく、サイクル特性に優れた、リチウム二次イオン電池に好適に使用可能なニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、層状岩塩型結晶相を含む所定の化学式を有するニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物、さらには、該ニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物を使用することによりサイクル特性に優れた、リチウムイオン二次電池を得ることができることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下のニッケルマンガン系複合酸化物及びその製造方法を提供する。
項1.
一般式(1):
Li1+x(NiMn1−y1−x (1)
[式中、x及びyはそれぞれ0.0≦x<1/3、0.3≦y≦0.6を示す。]
で表わされ、層状岩塩型結晶相を含み、
格子定数aが2.870Å以下、格子体積が102.0Å以下である、
ニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物。
項2.
前記層状岩塩型結晶相において、リチウム層内に含まれる遷移金属量が5%以下である、項1に記載のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物。
項3.
前記層状岩塩型結晶相において、遷移金属層内に含まれる遷移金属量が88%以下である、項1又は2に記載のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物。
項4.
ニッケルイオンの平均価数が2.5価以上である、項1〜3の何れかに記載のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物。
項5.
O/(Ni+Mn)原子比が2.3以上である、項1〜4の何れかに記載のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物。
項6.
項1〜5の何れかに記載のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物を正極活物質として含むリチウムイオン二次電池。
項7.
マンガン化合物及びニッケル化合物を含む混合水溶液から、20℃以下のアルカリ性条件下にて沈殿物を形成する工程1、
前記沈殿物に湿式酸化処理を行う工程2、
及びリチウム塩共存下酸化性雰囲気下で熱処理する工程3を有する、
項1〜5の何れかに記載のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物は、Li層内の遷移金属イオン量が少なく、また、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の試料のX線回折パターンを示す図である。
図2】比較例1の試料のX線回折パターンを示す図である。
図3】実施例1、比較例1及び価数標準資料(LiMnO、NiO及びLiNiO)のMn及びNiのK端近傍X線吸収スペクトル(XANES)を示す図である。
図4】実施例1のリチウムイオン二次電池の充放電特性評価試験結果を示す図である。
図5】比較例1のリチウムイオン二次電池の充放電特性評価試験結果を示す図である。
図6】実施例2の試料のX線回折パターンを示す図である。
図7】比較例2の試料のX線回折パターンを示す図である。
図8】実施例2、比較例2及び価数標準資料(LiMnO、NiO及びLiNiO)のMn及びNiのK端近傍X線吸収スペクトル(XANES)を示す図である。
図9】実施例2のリチウムイオン二次電池の充放電特性評価試験結果を示す図である。
図10】比較例2のリチウムイオン二次電池の充放電特性評価試験結果を示す図である。
図11】実施例3の試料のX線回折パターンを示す図である。
図12】比較例3の試料のX線回折パターンを示す図である。
図13】実施例3、比較例3及び価数標準資料(LiMnO、NiO及びLiNiO)のMn及びNiのK端近傍X線吸収スペクトル(XANES)を示す図である。
図14】実施例3のリチウムイオン二次電池の充放電特性評価試験結果を示す図である。
図15】比較例3のリチウムイオン二次電池の充放電特性評価試験結果を示す図である。
図16】実施例4の試料のX線回折パターンを示す図である。
図17】実施例4、比較例4及び価数標準資料(LiMnO、NiO及びLiNiO)のMn及びNiのK端近傍X線吸収スペクトル(XANES)を示す図である。
図18】実施例4のリチウムイオン二次電池の充放電特性評価試験結果を示す図である。
図19】実施例5の試料のX線回折パターンを示す図である。
図20】実施例5のリチウムイオン二次電池の充放電特性評価試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.ニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物
本発明のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物は、一般式(1):
Li1+x(NiMn1−y1−x (1)
[式中、x及びyはそれぞれ0.0≦x<1/3、0.3≦y≦0.6を示す。]
で表わされ、層状岩塩型結晶相を含み、
格子定数aが2.870Å以下、格子体積が102.0Å以下であることを特徴とする。
【0016】
上記一般式(1)において、xは0.0≦x<1/3であり、0.05≦x≦0.25であることがより好ましい。xが1/3未満であることにより、余剰のリチウムが不純物として発生することを抑制でき、その結果、電池の優れたサイクル特性を得ることができる。
【0017】
上記一般式(1)において、ニッケル含有量yは0.3≦y≦0.6であり、0.3≦y≦0.5であることがより好ましい。yが0.3以上であることにより、電池電圧低下の発生を抑止することができる。また、yが0.6以下であることにより、充電時においてもニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物の構造安定性を、良好に維持することができる。
【0018】
また本発明のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物は、層状岩塩型結晶相を含んでいる。層状岩塩型結晶相を構成する層状岩塩型結晶構造とは、コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウムが有するABO型(Aはアルカリ金属、Bは遷移金属を示す。)の無機化合物に多く出現する結晶構造である。酸化物イオンを介して遷移金属層とリチウム層が交互に積層した結晶構造であり、充放電に伴って、リチウムイオンの脱離・挿入反応が容易であるといわれている。
【0019】
さらに、層状岩塩型結晶相は、空間群:
【0020】
【数1】
【0021】
に帰属する六方晶層状岩塩型構造の結晶相、又は空間群:
【0022】
【数2】
【0023】
に帰属する単斜晶層状岩塩型構造の結晶相を含むことが好ましい。本発明のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物は、上記の六方晶層状岩塩型構造の結晶相又は単斜晶層状岩塩型構造の結晶相を含むことが好ましく、他の岩塩型構造の結晶相(例えば、立方晶岩塩型構造等)を含む混合相であってもよい。混合相である場合、六方晶層状岩塩型構造の結晶相又は単斜晶層状岩塩型構造の結晶相の割合は、当該混合相全体を基準として、50〜90質量%であることが好ましい。また、本発明のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物は、上記の六方晶層状岩塩型構造の結晶相又は単斜晶層状岩塩型構造の結晶相のみからなるものであってもよい。
【0024】
本発明のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物の層状岩塩型結晶構造における格子定数aは、遷移金属イオン間距離に相当する六方晶層状岩塩型格子におけるa軸値として算出して、2.870Å以下であり、2.865Å以下であることがより好ましく、2.860Å以下であることがさらに好ましい。また、かかる格子定数aの下限値は、一定量の3価ニッケルを確保するという観点から、2.850Å以上であることが好ましい。同様に、六方晶層状岩塩型格子と仮定して算出して、格子体積は102.0Å以下であり、101.0Å以下であることがより好ましい。一方、かかる格子体積の下限値は、遷移金属規則構造の確保という観点から、100.0Å以上であることが好ましい。本明細書における格子定数a及び格子体積は、六方晶層状岩塩型格子として仮定して算出された値を意味する。
【0025】
格子定数a及び格子体積に関して、上記の構成を有することにより、ニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物に含まれるニッケルイオンの半分以上が、3価に酸化されることとなる。マンガンイオン価数は、製造方法によらず4価のままであるが、ニッケルイオンの平均価数は2価から3価までの間で変化しうる。リチウムイオンとの反応性が高いと3価になりやすい。リチウムイオンとの反応性が低いと、2価にとどまりやすい。
【0026】
本発明のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物におけるニッケルイオンの平均価数は、2.5価以上となっていることが好ましく、2.6価以上となっていることがより好ましい。かかる構成を有することにより、かかるニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物を正極材料として製造したリチウムイオン二次電池の充放電特性を向上させることができる。ニッケルイオンの平均価数は、例えば後述するニッケルK端近傍のX線吸収(Ni−K XANES)スペクトルにより、LiNiOを3価、NiOを2価の標準物質として各試料の1s→4p遷移に相当するピークトップの位置を標準物質のそれと比較することにより決定できる。一方、ニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物におけるニッケルイオンの平均価数の上限値としては、Liイオンを多く取りこんだ結果生じる3価ニッケルイオンをできる限り多く確保するという観点から、3価であることが好ましい。
【0027】
また、本発明のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物は、遷移金属に対する酸素量(O/(Ni+Mn)モル比)が大きいことも好ましく、組成式:Li1+x(NiMn1−y1−xにおけるy=0.5組成では、仮にNiが2価とすると組成式がLiNi1/2Mn1/2となり、(O/(Ni+Mn)モル比)は2となる。一方Niが3価とすると組成式がLi1.2Ni0.4Mn0.4となり、(O/(Ni+Mn)モル比)は2.5となる。本発明物質はNi平均価数が2.5以上であることから、上記値の下限値は2.3となるが、放電容量やサイクル特性に優れた電池を構成するという観点からは、下限値は2.4であることが好ましい。一方、本発明物質のNi平均価数は、上述の如く3価に近いことが好ましいことから、上記値の上限値は、3とすることが好ましい。(O/(Ni+Mn)モル比)は蛍光X線分析装置にて、試料中の遷移金属イオン量と酸素量を定量することにより求めることができる。
【0028】
六方晶層状岩塩型格子内での遷移金属イオン分布に関しては、4価のMnイオンおよび3価のNiイオンは遷移金属層内3b位置(001/2)に主に分布するが、2価のNiイオンあるいは3価以下のMnイオンはLi層内3a位置(000)に主に存在する。本発明のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物は、Li層内の遷移金属量を、六方晶層状岩塩型格子内の全遷移金属量100%中、7%以下とすることが好ましく、5%以下とすることがより好ましい。また、遷移金属層内に含まれる遷移金属量は、六方晶層状岩塩型格子内の全遷移金属量100%中、88%以下とすることが好ましく、82%以下とすることがより好ましく、80%以下とすることがさらに好ましい。かかる遷移金属分布を有することにより、4価のMnイオン及び3価のNiイオンのイオン量が多くなるのみならず、層状岩塩型構造内でのLiイオン拡散が早くなるため、充放電特性改善が期待できる。また組成式あたりの全遷移金属量が低減されると遷移金属層内にLiイオンをより多く取り込ませることができ、そのLiがLi層内に充電時に移動可能なことから、高電位充電時の酸化物イオン間反発等に由来する特性劣化を抑制し、結果として充電時の正極活物質の化学的安定性向上に寄与する。一方、本発明のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物のLi層内の遷移金属量は、0.01%以上であることが好ましい。また同様に、遷移金属層内に含まれる遷移金属量は50%以上であることが好ましい。
【0029】
従来技術では、Coを添加することによりLi層内遷移金属イオン量を低減していたが、Coを添加すると高電位充電時のサイクル特性や、充電後の正極の熱的安定性を低下させることが知られており、本発明物質は、Co無添加でLi層内遷移金属量の低い物質を得たという点で特徴がある。
【0030】
2.リチウムイオン二次電池用正極材料及びリチウムイオン二次電池
上記したニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物は、リチウムイオン二次電池用正極材料として用いることができる。かかる正極材料に、公知の導電剤及びバインダーと混合することで作製した正極合剤をAl、Ni、ステンレス、カーボンクロス等の正極集電体に担持させることで、正極を製造することができる。導電剤としては、例えば、黒鉛、コークス類、カーボンブラック、針状カーボン等の炭素材料を用いることができる。負極材料としても特に限定的ではなく、例えば、金属リチウム、黒鉛、Si−SiO系負極、LTO(LiTi12)系負極などが挙げられる。これらの負極材料についても、必要に応じて、導電剤、バインダー等を用いて、Al、Cu、Ni、ステンレス、カーボン等からなる負極集電体に担持させて、負極を製造すればよい。電解質としては特に限定的ではなく、LiPF等を電解質塩とし、炭酸エチル(EC)や炭酸ジメチル(DMC)などの各種溶媒に溶解させた有機電解液、LiS−P、LiS−GeS−P、LiS−SiS−LiPOなどの無機硫化物系固体電解質、リチウムイオン導電性を有する高分子ポリマーなどが挙げられる。セパレータとしては特に限定的ではなく、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0031】
3.ニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物の製造方法
また本発明は、さらに上述したニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物の製造方法を包含する。本発明のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物の製造方法は、
マンガン化合物及びニッケル化合物を含む混合水溶液から、20℃以下のアルカリ性条件下にて沈殿物を形成する工程1、
前記沈殿物に湿式酸化処理を行う工程2、
及びリチウム塩共存下酸化性雰囲気下で熱処理する工程3を有する。
【0032】
3.1.工程1
使用するマンガン化合物としては、特に限定はなく、塩化マンガン(II)、硫酸マンガン(II)、酢酸マンガン(II)、酢酸マンガン(III)、硝酸マンガン(II)、アセチル酢酸マンガン(II)、アセチル酢酸マンガン(III)、過マンガン酸カリウム(VII)等水和物も含め、公知のものを広く使用することが可能である。また酸化マンガンや金属マンガンも適切な酸で溶解させることにより水溶性塩として用いることができる。
【0033】
使用するニッケル化合物としても特に限定はなく、硝酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)等水和物も含め、公知のものを広く使用することができる。また酸化ニッケルや金属ニッケルも適切な酸で溶解させることにより水溶性塩として用いることができる。
【0034】
アルカリ性条件とするために用いるアルカリ源としても特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム(その水和物も含む)、アンモニア水、水酸化カリウム等、公知のものを広く使用することが可能である。
【0035】
上記マンガン化合物と、上記ニッケル化合物とを、混合して得られる混合水溶液に上記アルカリ源を加えてアルカリ性条件とする。この際の混合方法としても、公知の混合方法を広く採用することが可能であり、特に限定はない。また、上記混合水溶液の溶媒としては、通常は水を使用するが、必ずしもこれに限定されるものではなく、エタノール、メタノール等のアルコール類等を使用してもよい。これらの溶媒は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。アルコール類はマンガン源として過マンガン酸カリウムを用いる際の沈殿材としても用いることができ、さらに後述のように0℃以下の低温滴下時の不凍液として用いることができる。
【0036】
また、工程1においては、恒温槽などの、上記混合水溶液の温度を調整及び保持することが可能な公知の容器において、沈殿物を形成させる。この際の混合水溶液の温度は、20℃以下に設定することが必要である。これよりも高温であると、沈殿の一次粒子径が大きくなり、リチウムとの反応性が低下しやすくなる。同様の観点から、工程1における上記混合水溶液の設定温度の上限としては、25℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましい。一方、設定温度の下限値としては、製造の容易さという観点から、−10℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましい。ここで、設定温度を0℃以下とする場合には、アルカリ側に不凍液としてエタノールを入れておくことが好ましい。また、アルカリ濃度に関しても、工程1の沈殿作製終了時に強アルカリ性(pH11以上)になっていればよい。
【0037】
3.2.工程2
工程2において、上記工程1において得られた沈殿物に、湿式酸化処理を施す。工程2は沈殿物を含むアルカリ水溶液に空気や酸素ガスなどの酸化性気体を吹き込む(バブリングする)ことにより沈殿を酸化熟成してリチウムとの反応性の高い前駆体を作るものである。吹き込む気体は、酸素ガスが含まれていれば良く(例えば、空気でもよい。)、特に限定されないが、酸化時間の短縮の観点から、酸素ガスが好ましい。酸素ガスの場合、通常用いるボンベのみならず、工業用の酸素発生機を用いても良い。湿式酸化の温度も特に限定はなく、例えば室温付近で良い。湿式酸化時間は、反応を充分に進行させるという観点から、長いほどよいが1時間以上が好ましく、24時間以上がより好ましく、48時間以上がさらに好ましい。
【0038】
3.3.工程3
工程3において、上記工程2において得られた熟成物に、リチウム塩共存下で熱処理を行う。ここで、上記水溶性塩類由来の不純物低減という観点から、リチウム塩共存下での熱処理を行う前に、上記工程2において得られた熟成物を蒸留水等で洗浄し、塩類を除去したうえで濾過し、リチウム塩添加後、熱処理用原料としてリチウム塩共存下酸化性雰囲気下で、熱処理するのが好ましいが、もちろん上記工程2で得られた反応物をそのまま工程3において熱処理用原料として使用し、リチウム塩共存下酸化性雰囲気下で、熱処理してもよい。
【0039】
熱処理の際に熱処理用原料とリチウム塩を共存させるための具体的な方法としては、公知の手法を用いることができ、特に限定はないが、例えば、上記工程2で得られた反応物とリチウム塩とを混合する方法を挙げることができる。より具体的には、リチウム塩が水に不溶の場合、乾式混合後、振動ミル等でよく粉砕すること、水溶性の場合はリチウム塩を含む水溶液中に沈殿を十分に分散後、ミキサーにかけて均一なスラリーを作製することが望ましい。スラリー等は、乾燥機により乾燥させ、必要に応じて再度粉砕処理を行うことよい。
【0040】
また、熱処理用原料としては、乾燥させたものを用いてもよい。乾燥させたものを使用する場合には、乾燥時に残留アルカリにより固結し、リチウム塩との均一混合が困難になるのを回避するという観点から、乾燥前にリチウム塩と混合するのが好ましい。
【0041】
リチウム塩としては、公知のリチウム塩を広く使用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、安価な炭酸リチウム、沈殿との反応性の高い水酸化リチウム以外に、酢酸リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウムなどを用いることができる。また上記リチウム塩に加えて酸化剤として過塩素酸リチウム及びその水和物を用いることもできる。
【0042】
熱処理用原料に対するリチウム塩の添加量としては、熱処理用原料内のニッケルおよびマンガン量のモル数に対するリチウムモル量(Li/(Ni+Mn)比)を想定するニッケル平均価数に合わせて調節するのが好ましい。すなわち前述したように本発明のニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物はMnの価数が4価、Niの平均価数が2.5価以上であるので、組成式中のy値が0.4〜0.6の場合はLi/(Ni+Mn)比を1.25以上とすることが好ましく、1.5以上とすることがより好ましい。Li/(Ni+Mn)比の上限値は特にないが、高価なリチウム源を用いるので経済性の観点から2.5以下とすることが好ましい。上記Li/(Ni+Mn)比は構成するMnとNiの平均価数により上記範囲内で設定することができるが、(Li/(Ni+Mn)比)を1.25以上(Li過剰組成)とすることが好ましい。Li過剰組成とすることにより、リチウム量の少ないLiMn2O4スピネルなどの不純物相の試料内への生成を抑制したり、高価数の3価ニッケルイオンの高温熱処理時の安定化、フラックス効果による熱処理物の一次および二次粒子径向上に貢献する。
【0043】
ここで、リチウム塩が水に不溶の場合、乾式混合後、振動ミル等でよく粉砕すること、水溶性の場合はリチウム塩を含む水溶液中に沈殿を十分に分散後、ミキサーにかけて均一なスラリーを作製することが望ましい。スラリー等は、乾燥機により乾燥させ、必要に応じて再度粉砕処理を行うとよい。乾燥温度は100℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。100℃を超える温度条件で乾燥させた場合、高温によりスラリー粘度が下がり、沈殿がリチウム塩と分離しやすくなる。一方、乾燥温度が低すぎると乾燥しないので、真空や凍結乾燥などを用いてもよい。
【0044】
熱処理は、熱を加える処理であれば特に限定はなく、公知の方法を広く採用することが可能である。中でも、簡便に熱処理を行うことが可能であるという観点から、焼成処理を行うのが好適である。焼成処理は、酸化性雰囲気下にて行う。本明細書において酸化性雰囲気にて焼成を行うとは、大気中又は酸素気流中にて焼成を行うことを意味する。焼成処理を酸化性雰囲気下で行うことにより、本発明の複合酸化物における格子定数a及び格子体積を、上述した数値範囲とすることができ、ひいては、最終的に得られるニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物中のニッケルイオンの平均価数を高めることが可能となる。上述の通り、含まれるニッケルイオンの平均価数の高いニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物を正極材料として使用したリチウムイオン二次電池は、充放電特性に優れる。
【0045】
焼成温度は、熱処理用原料の組成にもよるが、概ね750℃〜1000℃が好ましい。750℃以上の温度で焼成を行うことにより、得られるニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物の粒子径が所定の大きさ以上となる。これにより電解液との反応性が過多にならず、サイクル特性に優れた試料を得ることができる。一方、焼成温度を1000℃以下とすることにより、得られるニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物の粒子径が過大になることを防ぐことができる。これにより電解液との間の一定のリチウムイオンのやりとりを確保し、放電レート特性に優れた試料を得ることが可能となる。また、焼成温度を1000℃以下とすることにより、Li源の揮発を抑制し、コスト面でのロスを防ぐことが可能となる。
【0046】
焼成時間については、充分な反応を行うという観点から、上記焼成温度範囲内の温度に保持した状態で、30分以上とするのが好ましく、3時間以上とするのがより好ましい。焼成時間の上限については特に限定はないが、製造コストの上昇を抑えるという観点から、30時間以内とするのが好ましい。
【0047】
熱処理後、必要に応じて過剰のリチウム塩を水洗処理により除去し、濾過・乾燥を行ってもよい。また必要に応じ、より充放電性に優れたニッケル含有リチウムマンガン複合酸化物を得るために、工程3を複数回繰り返してもよい。繰り返す回数としては、工程の単純化と均一性の確保という観点から、2〜3回が好ましい。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
硝酸ニッケル(II)6水和物36.35gおよび塩化マンガン(II)4水和物24.74g(0.25mol/バッチ、Ni:Mnモル比1:1)を秤量し、蒸留水500ml中に完全に溶解させた。別のチタン製ビーカーに水酸化ナトリウム50gを入れ、蒸留水500mlを加えて完全に溶解させた。水酸化ナトリウム水溶液を20℃に保持された恒温槽内に固定し、溶液が同じ温度になるまで攪拌保持した。上記金属塩溶液に送液ポンプをセットし、上記アルカリ溶液へ3時間かけて、金属塩溶液を徐々に加え、沈殿を形成させた。沈殿作製終了後もアルカリ溶液のpHが11以上あることを確認した。沈殿作製終了後、ビーカーを恒温槽より取り出し、室温にて攪拌しつつ、酸素ガス発生器を用いて、沈殿に酸素を吹き込みつつ二日間湿式酸化および熟成を行った。熟成後に沈殿を蒸留水で洗浄し、アルカリあるいは塩類を取り除いた後、濾過した。濾過後、沈殿に炭酸リチウム0.25mol(18.47g)を加え、蒸留水200mlとともにミキサー混合し、スラリーを作製した。スラリーをポリテトラフルオロエチレン製シャーレーに移し、50℃で2日間乾燥して焼成用原料を作製した。振動ミルにより原料を粉砕後、アルミナるつぼふた上に薄く広げ、大気中650℃で5時間一次焼成後、炉冷した。焼成後の原料は振動ミルにて再度粉砕し、850℃で5時間大気中二次焼成を行った。炉冷後試料を取り出し、蒸留水にて洗浄後、濾過および乾燥して、目的の複合酸化物を得た。
【0051】
(比較例1)
二次焼成を大気中ではなく窒素中で行うこと以外は、実施例1と同様にして試料の作製を行った。
【0052】
X線回折による評価(実施例1)
上記で得られた実施例1の試料の実測(+)及び六方晶層状岩塩型単位胞(下記空間群)を用いた計算(曲線)X線回折(XRD)パターンを、図1に示した。
【0053】
【数3】
【0054】
残差はパターンの下に表示した。2θ=20−25°付近には、本モデルではフィットできない単斜晶層状岩塩型単位胞(下記空間群)由来の超格子ピーク(2θ=20.5°および21.5°付近のブロードなピーク)の存在が確認された。
【0055】
【数4】
【0056】
図1より、得られたXRDパターンは基本的に遷移金属層内に六角網目規則配列を有する単斜晶LiMnO型構造(下記空間群)相と帰属できた。
【0057】
【数5】
【0058】
しかしながら今回フィットは、より単純な超格子のないα−NaFeO型構造と呼ばれる六方晶層状岩塩型結晶相(下記空間群)に帰属して解析した。
【0059】
【数6】
【0060】
X線リートベルト解析(解析プログラムRIETAN−FPを使用、F. Izumi and K. Momma, Solid State Phenom, 130 15-20 (2007).)より、格子定数a=2.86194(7)Å、c=14.2321(3)Å、格子体積V=100.953(4)Åであった。
各格子位置での占有率は、Li層内遷移金属(3a)位置の占有率は4.75(6)%、遷移金属層内遷移金属(3b)位置の占有率は81.14(16)%であった。両者の総和が組成式あたり遷移金属量であり、その値は85.9(2)%(0.859(2))であった。
【0061】
X線回折による評価(比較例1)
上記で得られた比較例1の試料の実測(+)及び六方晶層状岩塩型単位胞(下記空間群)を用いた計算(曲線)X線回折(XRD)パターンを、図2に示した。
【0062】
【数7】
【0063】
残差はパターンの下に表示した。2θ=20−25°付近には、本モデルではフィットできない単斜晶層状岩塩型単位胞(下記空間群)由来の超格子ピーク(2θ=20.5°および21.5°付近のブロードなピーク)の存在が確認された。
【0064】
【数8】
【0065】
図2より、得られたXRDパターンは基本的に遷移金属層内に六角網目規則配列を有する単斜晶LiMnO型構造(下記空間群)相と帰属できた。
【0066】
【数9】
【0067】
しかしながら今回フィットは、より単純な超格子のないα−NaFeO型構造と呼ばれる六方晶層状岩塩型結晶相(下記空間群)に帰属して解析した。
【0068】
【数10】
【0069】
X線リートベルト解析(解析プログラムRIETAN−FPを使用、F. Izumi and K. Momma, Solid State Phenom, 130 15-20 (2007).)より、格子定数a=2.88374(8)Å、c=14.2758(3)Å、格子体積V=102.812(4)Åであった。
各格子位置での占有率は、Li層内遷移金属(3a)位置の占有率は8.79(6)%、遷移金属層内遷移金属(3b)位置の占有率は87.09(15)%であった。両者の総和が組成式あたり遷移金属量であり、その値は95.9(2)%(0.959(2))であった。
【0070】
化学分析(実施例1)
Li量をICP発光分析により、実施例1の試料のMn量、Ni量およびO量を波長分散型蛍光X線分析にて見積もったところ、得られたLi/(Ni+Mn)モル比は1.30(1)であった。またNi/(Ni+Mn)モル比とO/(Ni+Mn)モル比はそれぞれ0.48(1)、2.62(5)であった。
組成式との対応からx値は以下の計算式で算出される。
x=(Li/(Ni+Mn)モル比−1)÷(Li/(Ni+Mn)モル比+1)
従ってx値は0.130(5)となった。
一方y値はNi/(Ni+Mn)モル比そのものであることから0.48(1)であった。
【0071】
化学分析(比較例1)
Li量をICP発光分析により、比較例1の試料のMn量、Ni量およびO量を波長分散型蛍光X線分析にて見積もったところ、得られたLi/(Ni+Mn)モル比は0.98(1)であった。またNi/(Ni+Mn)モル比とO/(Ni+Mn)モル比はそれぞれ0.50(1)、2.11(6)であった。
組成式との対応からx値は以下の計算式で算出される。
x=(Li/(Ni+Mn)モル比−1)÷(Li/(Ni+Mn)モル比+1)
従ってx値は-0.01(1)となった。
一方y値はNi/(Ni+Mn)モル比そのものであることから0.50(1)であった。
【0072】
Mnイオン及びNiイオンの価数分析
図3(a)および(b)に、実施例1及び比較例1それぞれの試料におけるMnおよびNiのK端近傍X線吸収スペクトル(XANES)を示した。尚、4価Mn、2価Niおよび3価Niの標準物質としては、それぞれLiMnO、NiOおよびLiNiOを使用した。
MnK端においては、実施例1と比較例1のスペクトルに差はなく、且つ4価Mnの標準物質であるLiMnOのXANESデータとほぼ重なることから、比較例1試料は実施例1試料と同様にMn価数に差はなく4価と判断できる。一方NiK端のXANESデータは実施例1と比較例1で1s→4p遷移に相当するピークトップ位置が大きく異なることがわかる。実施例1試料の方が比較例1試料より高エネルギー側にシフトしており、Niイオン価数が高いことを反映している。そこで以下の計算式を用いてNi平均価数を見積もった。
Ni平均価数=2+{(実施例試料のピークトップエネルギー値)−(NiOのピークトップエネルギー値)}
÷{(LiNiO試料のピークトップエネルギー値)−(NiOのピークトップエネルギー値)}
(実施例1)
NiOとLiNiOのエネルギー値はそれぞれ8349.3、8351.3eVであり、実施例試料のエネルギー値が8351eVと見積もられたので、得られたニッケルイオンの平均価数は2.85価と算出された。
(比較例1)
NiOとLiNiOのエネルギー値はそれぞれ8349.3、8351.3eVであり、比較例試料のエネルギー値が8350eVと見積もられたので、得られたニッケルイオンの平均価数は2.35価と算出された。
【0073】
充放電特性評価
得られた実施例1試料の粉末20mgをアセチレンブラック5mgとよく混合後、少量の結着剤(ポリテトラフルオロエチレン粉末)を加えて錠剤正極を作製した。120℃真空乾燥後グローブボックス内で負極を金属リチウム、電解液を1M−LiPF相当の支持塩をEC(炭酸エチレン)+DMC(炭酸ジメチル)混合溶媒(体積比3:7)に溶解させたものを電解液として、リチウム半電池を組み立て、30℃にて充電開始の充放電試験を行った。なお電位範囲は2.0−4.6Vとした。1−4サイクルまでは予備充放電として充電容量を1サイクル目は80mAh/gに制限し、放電後さらに2サイクル目は40mAh/g高い120mAh/gまでの充電容量規制充放電を行い、以後4サイクル目まで40mAh/gずつ充電容量を増やしながら充放電を行い、5サイクル目に4.8Vまで充電し、その後放電させた。以後は設定した電位範囲で29サイクル充放電を行った。比較例1試料についても、同様の条件で電池を作製し、同様の充放電特性評価試験を実施した。
(実施例1)
図4に、実施例1の試料を正極としたリチウム二次電池の30℃における充放電曲線を示した。右上がりの曲線が充電(c)に、右下がりの曲線が放電(d)に対応する。数字はサイクル数を示す。図4より、5サイクル目(活性化後初期に相当)充電容量と放電容量がそれぞれ226mAh/g、205mAh/gであり、充放電効率は93%であった。また5サイクル目放電時の平均電圧が3.69V、その放電容量との積に相当するエネルギー密度が757mWh/gと高容量正極として十分な初期特性を有するのみならず、34サイクル後(活性化後30サイクル相当)の放電容量も189mAh/gと高く、5サイクル時に対する30サイクル時放電容量維持率は92%と高かった。また24サイクル目以降からの電位および容量低下がほとんどないことも判明し、リチウムイオン二次電池正極材料として優れた特性を有することが確認できた。
(比較例1)
また、図5に、比較例1の試料を正極としたリチウム二次電池の30℃における充放電曲線を示した。右上がりの曲線が充電(c)に、右下がりの曲線が放電(d)に対応する。図5より、5サイクル目(活性化後初期に相当)充電容量と放電容量がそれぞれ218mAh/g、205mAh/gであり、充放電効率は93%であった。また5サイクル目放電時の平均電圧が3.78V、その放電容量との積に相当するエネルギー密度が773mWh/gと高容量正極として十分な初期特性を有するものの、34サイクル後(活性化後30サイクル相当)の放電容量が30mAh/gと低く、5サイクル時に対する30サイクル時放電容量維持率は14%と低かった。すなわち比較例試料はリチウムイオン二次電池正極材料として、サイクル特性が十分なものではなかった。
【0074】
(実施例2)
硝酸ニッケル(II)6水和物29.08gおよび塩化マンガン(II)4水和物29.69g(0.25mol/バッチ、Ni:Mnモル比4:6)を秤量し、蒸留水500ml中に完全に溶解させた。水酸化ナトリウム水溶液を+5℃に保持された恒温槽内に固定し、溶液が同じ温度になるまで攪拌保持した。以後は実施例1と同様のプロセスにて試料作製を行い、目的の複合酸化物を得た。
【0075】
(比較例2)
二次焼成を大気中ではなく窒素中で行うこと以外は、実施例2と同様にして試料の作製を行った。
【0076】
X線回折による評価(実施例2)
上記で得られた実施例2の試料の実測(+)及び六方晶層状岩塩型単位胞(上記空間群)を用いた計算(曲線)X線回折(XRD)パターンを、図6に示した。
【0077】
【数11】
【0078】
残差はパターンの下に表示した。2θ=20−25°付近には、本モデルではフィットできない単斜晶層状岩塩型単位胞(下記空間群)由来の超格子ピーク(2θ=20.5°および21.5°付近のブロードなピーク)の存在が確認された。
【0079】
【数12】
【0080】
図6より、得られたXRDパターンは基本的に遷移金属層内に六角網目規則配列を有する単斜晶LiMnO型構造(下記空間群)相と帰属できた。
【0081】
【数13】
【0082】
しかしながら今回フィットは、より単純な超格子のないα−NaFeO型構造と呼ばれる六方晶層状岩塩型結晶相(下記空間群)に帰属して解析した。
【0083】
【数14】
【0084】
X線リートベルト解析(解析プログラムRIETAN−FPを使用、F. Izumi and K. Momma, Solid State Phenom, 130 15-20 (2007).)より、格子定数a=2.85599(8)Å、c=14.2254(3)Å、格子体積V=100.487(5)Åであった。
各格子位置での占有率は、Li層内遷移金属(3a)位置の占有率は4.03(8)%、遷移金属層内遷移金属(3b)位置の占有率は76.6(2)%であった。両者の総和が組成式あたり遷移金属量であり、その値は80.6(3)%(0.806(3))であった。
【0085】
X線回折による評価(比較例2)
上記で得られた比較例2の試料の実測(+)及び六方晶層状岩塩型単位胞(下記空間群)を用いた計算(曲線)X線回折(XRD)パターンを、図7に示した。
【0086】
【数15】
【0087】
残差はパターンの下に表示した。2θ=20−25°付近には、本モデルではフィットできない単斜晶層状岩塩型単位胞(下記空間群)由来の超格子ピーク(2θ=20.5°および21.5°付近のブロードなピーク)の存在が確認された。
【0088】
【数16】
【0089】
図7より、得られたXRDパターンは基本的に遷移金属層内に六角網目規則配列を有する単斜晶LiMnO型構造(下記空間群)相と帰属できた。
【0090】
【数17】
【0091】
しかしながら今回フィットは、より単純な超格子のないα−NaFeO型構造と呼ばれる六方晶層状岩塩型結晶相(下記空間群)に帰属して解析した。
【0092】
【数18】
【0093】
X線リートベルト解析(解析プログラムRIETAN−FPを使用、F. Izumi and K. Momma, Solid State Phenom, 130 15-20 (2007).)より、格子定数a=2.87164(10)Å、c=14.2729(4)Å、格子体積V=101.930(5)Åであった。
各格子位置での占有率は、Li層内遷移金属(3a)位置の占有率は6.41(6)%、遷移金属層内遷移金属(3b)位置の占有率は82.20(17)%であった。両者の総和が組成式あたり遷移金属量であり、その値は88.6(2)%(0.886(2))であった。
【0094】
化学分析(実施例2)
Li量をICP発光分析により、実施例2の試料のMn量、Ni量およびO量を波長分散型蛍光X線分析にて見積もったところ、得られたLi/(Ni+Mn)モル比は1.361(8)であった。またNi/(Ni+Mn)モル比とO/(Ni+Mn)モル比はそれぞれ0.398(1)、2.43(3)であった。組成式との対応からx値は以下の計算式で算出される。
x=(Li/(Ni+Mn)モル比−1)÷(Li/(Ni+Mn)モル比+1)
従ってx値は0.153(4)であった。
一方y値はNi/(Ni+Mn)モル比そのものであることから0.398(1)であった。
【0095】
化学分析(比較例2)
Li量をICP発光分析により、比較例2の試料のMn量、Ni量およびO量を波長分散型蛍光X線分析にて見積もったところ、得られたLi/(Ni+Mn)モル比は1.20(1)であった。またNi/(Ni+Mn)モル比とO/(Ni+Mn)モル比はそれぞれ0.398(1)、2.36(5)であった。組成式との対応からx値は以下の計算式で算出される。
x=(Li/(Ni+Mn)モル比−1)÷(Li/(Ni+Mn)モル比+1)
従ってx値は0.090(6)となる。
一方y値はNi/(Ni+Mn)モル比そのものであることから0.398(1)であった。
【0096】
Mnイオン及びNiイオンの価数分析
図8(a)および(b)に、実施例2及び比較例2それぞれの試料におけるMnおよびNiのK端近傍X線吸収スペクトル(XANES)を示した。尚、4価Mn、2価Niおよび3価Niの標準物質としては、それぞれLiMnO、NiOおよびLiNiOを使用した。
MnK端においては、実施例2と比較例2のスペクトルに差はなく、且つ4価Mnの標準物質であるLiMnOのXANESデータとほぼ重なることから、比較例2試料は実施例2試料と同様にMn価数に差はなく4価と判断できる。一方NiK端のXANESデータは実施例2と比較例2で1s→4p遷移に相当するピークトップ位置が大きく異なることがわかる。実施例2試料の方が比較例2試料より高エネルギー側にシフトしており、Niイオン価数が高いことを反映している。そこで以下の計算式を用いてNi平均価数を見積もった。
Ni平均価数=2+{(実施例試料のピークトップエネルギー値)−(NiOのピークトップエネルギー値)}÷{(LiNiO試料のピークトップエネルギー値)−(NiOのピークトップエネルギー値)}
(実施例2)
NiOとLiNiOのエネルギー値はそれぞれ8346.7、8348.8eVであり、実施例試料のピークトップエネルギー値が8348.5eVと見積もられたので、得られたニッケルイオンの平均価数は2.86価と算出された。
(比較例2)
NiOとLiNiOのエネルギー値はそれぞれ8346.7、8348.8eVであり、比較例試料のエネルギー値が8347.6eVと見積もられたので、得られたニッケルイオンの平均価数は2.43価と算出された。
【0097】
充放電特性評価
得られた実施例2試料の粉末を正極活物質として用いて実施例1と同様にリチウム半電池を組み立て、30℃にて充電開始の充放電試験を行った。充放電試験条件も実施例1と同じである。比較例2試料についても、同様の条件で電池を作製し、同様の充放電特性評価試験を実施した。
(実施例2)
図9に、実施例2の試料を正極としたリチウム二次電池の30℃における充放電曲線を示した。右上がりの曲線が充電(c)に、右下がりの曲線が放電(d)に対応する。数字はサイクル数を示す。図9より、5サイクル目(活性化後初期に相当)充電容量と放電容量がそれぞれ217mAh/g、209mAh/gであり、充放電効率は96%であった。また5サイクル目放電時の平均電圧が3.58V、その放電容量との積に相当するエネルギー密度が749mWh/gと高容量正極として十分な初期特性を有するのみならず、34サイクル後(活性化後30サイクル相当)の放電容量も206mAh/gと高く、5サイクル時に対する30サイクル後の放電容量維持率は99%と高かった。また14サイクル目以降からの電位および容量低下がほとんどないことも判明し、リチウムイオン二次電池正極材料として優れた特性を有することが確認できた。
(比較例2)
また、図10に、比較例2の試料を正極としたリチウム二次電池の30℃における充放電曲線を示した。右上がりの曲線が充電(c)に、右下がりの曲線が放電(d)に対応する。図10より、5サイクル目(活性化後初期に相当)充電容量と放電容量がそれぞれ218mAh/g、206mAh/gであり、充放電効率は94%であった。また5サイクル目放電時の平均電圧が3.65V、その放電容量との積に相当するエネルギー密度が749mWh/gと高容量正極として十分な初期特性を有するものの、34サイクル後(活性化後30サイクル相当)の放電容量が126mAh/gと低く、5サイクル時に対する30サイクル後の放電容量維持率は61%と低かった。すなわち比較例試料はリチウムイオン二次電池正極材料として、サイクル特性が十分なものではなかった。
【0098】
(実施例3)
硝酸ニッケル(II)6水和物43.62gおよび塩化マンガン(II)4水和物19.79g(0.25mol/バッチ、Ni:Mnモル比6:4)を秤量し、蒸留水500ml中に完全に溶解させた。水酸化ナトリウム水溶液を5℃に保持された恒温槽内に固定し、溶液が同じ温度になるまで攪拌保持した。以後は実施例1と同様のプロセスにて試料作製を行い、目的の複合酸化物を得た。
(比較例3)
二次焼成を大気中ではなく窒素中で行うこと以外は、実施例3と同様にして試料の作製を行った。
【0099】
X線回折による評価(実施例3)
上記で得られた実施例3の試料の実測(+)及び六方晶層状岩塩型単位胞(下記空間群)を用いた計算(曲線)X線回折(XRD)パターンを、図11に示した。
【0100】
【数19】
【0101】
残差はパターンの下に表示した。2θ=20−25°付近には、本モデルではフィットできない単斜晶層状岩塩型単位胞(上記空間群)由来の超格子ピーク(2θ=20.5°および21.5°付近のブロードなピーク)の存在が確認された。
【0102】
【数20】
【0103】
図11より、得られたXRDパターンは基本的に遷移金属層内に六角網目規則配列を有する単斜晶LiMnO型構造(下記空間群)相と帰属できた。
【0104】
【数21】
【0105】
しかしながら今回フィットは、より単純な超格子のないα−NaFeO型構造と呼ばれる六方晶層状岩塩型結晶相(下記空間群)に帰属して解析した。
【0106】
【数22】
【0107】
X線リートベルト解析(解析プログラムRIETAN−FPを使用、F. Izumi and K. Momma, Solid State Phenom, 130 15-20 (2007).)より、格子定数a=2.86563(6)Å、c=14.2291(2)Å、格子体積V=101.192(3)Åであった。
各格子位置での占有率は、Li層内遷移金属(3a)位置の占有率は4.17(5)%、遷移金属層内遷移金属(3b)位置の占有率は84.72(15)%であった。両者の総和が組成式あたり遷移金属量であり、その値は88.9(2)%(0.889(2))であった。
【0108】
X線回折による評価(比較例3)
上記で得られた比較例3の試料の実測(+)及び六方晶層状岩塩型単位胞(下記空間群)を用いた計算(曲線)X線回折(XRD)パターンを、図12に示した。
【0109】
【数23】
【0110】
残差はパターンの下に表示した。2θ=20−25°付近には、本モデルではフィットできない単斜晶層状岩塩型単位胞(下記空間群)由来の超格子ピーク(2θ=20.5°および21.5°付近のブロードなピーク)の存在が確認された。
【0111】
【数24】
【0112】
図12より、得られたXRDパターンは基本的に遷移金属層内に六角網目規則配列を有する単斜晶LiMnO型構造(下記空間群)相と帰属できた。
【0113】
【数25】
【0114】
しかしながら今回フィットは、より単純な超格子のないα−NaFeO型構造と呼ばれる六方晶層状岩塩型結晶相(上記空間群)に帰属して解析した。
【0115】
【数26】
【0116】
X線リートベルト解析(解析プログラムRIETAN−FPを使用、F. Izumi and K. Momma, Solid State Phenom, 130 15-20 (2007).)より、格子定数a=2.89131(5)Å、c=14.2840(2)Å、格子体積V=103.412(3)Åであった。
各格子位置での占有率は、Li層内遷移金属(3a)位置の占有率は11.11(5)%、遷移金属層内遷移金属(3b)位置の占有率は90.32(14)%であった。両者の総和が組成式あたり遷移金属量であり、その値は101.43(19)%(1.0143(19))であった。
【0117】
化学分析(実施例3)
Li量をICP発光分析により、実施例3の試料のMn量、Ni量およびO量を波長分散型蛍光X線分析にて見積もったところ、得られたLi/(Ni+Mn)モル比は1.119(18)であった。またNi/(Ni+Mn)モル比とO/(Ni+Mn)モル比はそれぞれ0.596(1)、2.40(10)であった。
組成式との対応からx値は以下の計算式で算出される。
x=(Li/(Ni+Mn)モル比−1)÷(Li/(Ni+Mn)モル比+1)
従ってx値は0.056(9)であった。
一方y値はNi/(Ni+Mn)モル比そのものであることから0.596(1)であった。
【0118】
化学分析(比較例3)
Li量をICP発光分析により、比較例3の試料のMn量、Ni量およびO量を波長分散型蛍光X線分析にて見積もったところ、得られたLi/(Ni+Mn)モル比は0.906(2)であった。またNi/(Ni+Mn)モル比とO/(Ni+Mn)モル比はそれぞれ0.595(1)、2.20(2)であった。
組成式との対応からx値は以下の計算式で算出される。
x=(Li/(Ni+Mn)モル比−1)÷(Li/(Ni+Mn)モル比+1)
従ってx値は-0.0493(10)となる。本x値は負の値となった。
一方y値はNi/(Ni+Mn)モル比そのものであることから0.595(1)であった。
【0119】
Mnイオン及びNiイオンの価数分析
図13(a)および(b)に、実施例3及び比較例3それぞれの試料におけるMnおよびNiのK端近傍X線吸収スペクトル(XANES)を示した。尚、4価Mn、2価Niおよび3価Niの標準物質としては、それぞれLiMnO、NiOおよびLiNiOを使用した。
MnK端においては、実施例3と比較例3のスペクトルに差はなく、且つ4価Mnの標準物質であるLiMnOのXANESデータとほぼ重なることから、比較例3試料は実施例3試料と同様にMn価数に差はなく4価と判断できる。一方NiK端のXANESデータは実施例3と比較例3で1s→4p遷移に相当するピークトップ位置が大きく異なることがわかる。実施例3試料の方が比較例3試料より高エネルギー側にシフトしており、Niイオン価数が高いことを反映している。そこで以下の計算式を用いてNi平均価数を見積もった。
Ni平均価数=2+{(実施例試料のピークトップエネルギー値)−(NiOのピークトップエネルギー値)}÷{(LiNiO試料のピークトップエネルギー値)−(NiOのピークトップエネルギー値)}
(実施例3)
NiOとLiNiOのエネルギー値はそれぞれ8346.7、8348.8eVであり、実施例試料のピークトップエネルギー値が8348.2Vと見積もられたので、得られたニッケルイオンの平均価数は2.71価と算出された。
(比較例3)
NiOとLiNiOのエネルギー値はそれぞれ8346.7、8348.8eVであり、比較例試料のエネルギー値が8347.2eVと見積もられたので、得られたニッケルイオンの平均価数は2.24価と算出された。
【0120】
充放電特性評価
得られた実施例3試料の粉末を正極活物質として用いて実施例1と同様にリチウム半電池を組み立て、30℃にて充電開始の充放電試験を行った。充放電試験条件も実施例1と同じである。比較例3試料についても、同様の条件で電池を作製し、同様の充放電特性評価試験を実施した。
【0121】
(実施例3)
図14に、実施例3の試料を正極としたリチウム二次電池の30℃における充放電曲線を示した。右上がりの曲線が充電(c)に、右下がりの曲線が放電(d)に対応する。数字はサイクル数を示す。図14より、5サイクル目(活性化後初期に相当)充電容量と放電容量がそれぞれ164mAh/g、156mAh/gであり、充放電効率は95%であった。また5サイクル目放電時の平均電圧が3.80V、その放電容量との積に相当するエネルギー密度が592mWh/gと高容量正極として十分な初期特性を有するのみならず、34サイクル後(活性化後30サイクル相当)の放電容量も142mAh/gと高く、5サイクル時に対する30サイクル後の放電容量維持率は91%と高かった。また14サイクル目以降からの電位および容量低下が小さいことも判明し、リチウムイオン二次電池正極材料として優れた特性を有することが確認できた。
(比較例3)
また、図15に、比較例3の試料を正極としたリチウム二次電池の30℃における充放電曲線を示した。右上がりの曲線が充電(c)に、右下がりの曲線が放電(d)に対応する。図15より、5サイクル目(活性化後初期に相当)充電容量と放電容量がそれぞれ175mAh/g、169mAh/gであり、充放電効率は97%であった。また5サイクル目放電時の平均電圧が3.83その放電容量との積に相当するエネルギー密度が647mWh/gと高容量正極として十分な初期特性を有するものの、34サイクル後(活性化後30サイクル相当)の放電容量が105mAh/gと低く、5サイクル時に対する30サイクル後の放電容量維持率は62%と低かった。すなわち比較例試料はリチウムイオン二次電池正極材料として、サイクル特性が十分なものではなかった。
【0122】
(実施例4)
硝酸ニッケル(II)6水和物29.08gおよび塩化マンガン(II)4水和物29.69g(0.25mol/バッチ、Ni:Mnモル比4:6)を秤量し、蒸留水500ml中に完全に溶解させた。別のチタン製ビーカーに水酸化ナトリウム50gを入れ、蒸留水500mlを加えて完全に溶解させた。その後不凍液としてエタノール200mlを加えてよく攪拌した。水酸化ナトリウム溶液を−10℃に保持された恒温槽内に固定し、溶液が同じ温度になるまで攪拌保持した。上記金属塩溶液に送液ポンプをセットし、上記アルカリ溶液へ3時間かけて、金属塩溶液を徐々に加え、沈殿を形成させた。沈殿作製終了後もアルカリ溶液のpHが11以上あることを確認した。沈殿作製終了後、ビーカーを恒温槽より取り出し、室温にて攪拌しつつ、酸素ガス発生器を用いて、沈殿に酸素を吹き込みつつ二日間湿式酸化および熟成を行った。熟成後に沈殿を蒸留水で洗浄し、アルカリあるいは塩類を取り除いた後、濾過した。濾過後、沈殿に水酸化リチウム1水和物0.5mol(20.98g)を加え、蒸留水200mlに溶解後、熟成沈殿とミキサー混合し、スラリーを作製した。スラリーをポリテトラフルオロエチレン製シャーレーに移し、50℃で2日間乾燥して焼成用原料を作製した。振動ミルにより原料を粉砕後、アルミナるつぼふた上に薄く広げ、酸素気流中500℃で20時間一次焼成後、炉冷した。焼成後の原料は振動ミルにて再度粉砕し、850℃で5時間窒素中二次焼成を行った。炉冷後試料を取り出し、蒸留水にて洗浄後、濾過および乾燥して、目的の複合酸化物を得た。
【0123】
X線回折による評価(実施例4)
上記で得られた実施例4の試料の実測(+)及び六方晶層状岩塩型単位胞(下記空間群)を用いた計算(曲線)X線回折(XRD)パターンを、図16に示した。
【0124】
【数27】
【0125】
残差はパターンの下に表示した。2θ=20−25°付近には、本モデルではフィットできない単斜晶層状岩塩型単位胞(下記空間群)由来の超格子ピーク(2θ=20.5°および21.5°付近のブロードなピーク)の存在が確認された。
【0126】
【数28】
【0127】
図16より、得られたXRDパターンは基本的に遷移金属層内に六角網目規則配列を有する単斜晶LiMnO型構造(下記空間群)相と帰属できた。
【0128】
【数29】
【0129】
しかしながら今回フィットは、より単純な超格子のないα−NaFeO型構造と呼ばれる六方晶層状岩塩型結晶相(下記空間群)に帰属して解析した。
【0130】
【数30】
【0131】
X線リートベルト解析(解析プログラムRIETAN−FPを使用、F. Izumi and K. Momma, Solid State Phenom, 130 15-20 (2007).)より、格子定数a=2.86135(8)Å、c=14.2379(3)Å、格子体積V=100.953(4)Åであった。
各格子位置での占有率は、Li層内遷移金属(3a)位置の占有率は4.85(6)%、遷移金属層内遷移金属(3b)位置の占有率は79.78(17)%であった。両者の総和が組成式あたり遷移金属量であり、その値は84.6(2)%(0.846(2))であった。
【0132】
化学分析(実施例4)
Li量をICP発光分析により、実施例4の試料のMn量、Ni量およびO量を波長分散型蛍光X線分析にて見積もったところ、得られたLi/(Ni+Mn)モル比は1.32(5)であった。またNi/(Ni+Mn)モル比とO/(Ni+Mn)モル比はそれぞれ0.395(10)、2.7(2)であった。
組成式との対応からx値は以下の計算式で算出される。
x=(Li/(Ni+Mn)モル比−1)÷(Li/(Ni+Mn)モル比+1)
従ってx値は0.14(2)となった。
一方y値はNi/(Ni+Mn)モル比そのものであることから0.395(10)であった。
【0133】
Mnイオン及びNiイオンの価数分析
図17(a)および(b)に、実施例4試料におけるMnおよびNiのK端近傍X線吸収スペクトル(XANES)を示した。尚、4価Mn、2価Niおよび3価Niの標準物質としては、それぞれLiMnO、NiOおよびLiNiOを使用した。
MnK端においては、実施例4試料のスペクトルは4価Mnの標準物質であるLiMnOのXANESデータとほぼ重なることから、Mn価数は4価と判断できる。一方実施例4試料のNiK端のXANESデータの1s→4p遷移に伴うピークトップ値は、二種の価数既知の標準物質のほぼ中間の位置に存在した。そこで以下の計算式を用いてNi平均価数を見積もった。
Ni平均価数=2+{(実施例試料のピークトップエネルギー値)−(NiOのピークトップエネルギー値)}
÷{(LiNiO試料のピークトップエネルギー値)−(NiOのピークトップエネルギー値)}
NiOとLiNiOのエネルギー値はそれぞれ8346.3、8348.4eVであり、実施例4試料のエネルギー値が8347.5eVと見積もられたので、得られたニッケルイオンの平均価数は2.57価と算出された。以上のことから一次焼成として酸化性雰囲気を選択すれば、二次焼成時に窒素気流中などの不活性ガス雰囲気を選択しても目的物質が得られることを示している。
【0134】
充放電特性評価
得られた実施例4試料の粉末20mgをアセチレンブラック5mgとよく混合後、少量の結着剤(ポリテトラフルオロエチレン粉末)を加えて錠剤正極を作製した。以後は実施例1と同様の条件で電池を作製し、同様の試験条件で充放電特性評価試験を実施した。
図18に、実施例4の試料を正極としたリチウム二次電池の30℃における充放電曲線を示した。右上がりの曲線が充電(c)に、右下がりの曲線が放電(d)に対応する。数字はサイクル数を示す。図18より、5サイクル目(活性化後初期に相当)充電容量と放電容量がそれぞれ240mAh/g、228mAh/gであり、充放電効率は95%であった。また5サイクル目放電時の平均電圧が3.67V、その放電容量との積に相当するエネルギー密度が838mWh/gと高容量正極として十分な初期特性を有するのみならず、34サイクル後(活性化後30サイクル相当)の放電容量も218mAh/gと高く、5サイクル時に対する34サイクル時放電容量維持率は96%と高かった。また14サイクル目以降からの容量低下がほとんどなく、14サイクル目以降のサイクル経過に伴い放電時3.5-3.0V付近でわずかに電位低下が起こるものの、リチウムイオン二次電池正極材料として優れた特性を有することが確認できた。
【0135】
(実施例5)
二次焼成雰囲気を窒素中から大気中に変更した他は、実施例4と同様に試料作製を行った。
【0136】
X線回折による評価(実施例5)
上記で得られた実施例5の試料の実測(+)及び六方晶層状岩塩型単位胞(下記空間群)を用いた計算(曲線)X線回折(XRD)パターンを、図19に示した。
【0137】
【数31】
【0138】
残差はパターンの下に表示した。2θ=20−25°付近には、本モデルではフィットできない単斜晶層状岩塩型単位胞(下記空間群)由来の超格子ピーク(2θ=20.5°および21.5°付近のブロードなピーク)の存在が確認された。
【0139】
【数32】
【0140】
図19より、得られたXRDパターンは基本的に遷移金属層内に六角網目規則配列を有する単斜晶LiMnO型構造(下記空間群)相と帰属できた。
【0141】
【数33】
しかしながら今回フィットは、より単純な超格子のないα−NaFeO型構造と呼ばれる六方晶層状岩塩型結晶相(下記空間群)に帰属して解析した。
【0142】
【数34】
【0143】
X線リートベルト解析(解析プログラムRIETAN−FPを使用、F. Izumi and K. Momma, Solid State Phenom, 130 15-20 (2007).)より、格子定数a=2.85259(9)Å、c=14.2235(4)Å、格子体積V=100.234(5)Åであった。
各格子位置での占有率は、Li層内遷移金属(3a)位置の占有率は3.65(8)%、遷移金属層内遷移金属(3b)位置の占有率は77.7(2)%であった。両者の総和が組成式あたり遷移金属量であり、その値は81.4(3)%(0.814(3))であった。
【0144】
化学分析(実施例5)
Li量をICP発光分析により、実施例5の試料のMn量、Ni量およびO量を波長分散型蛍光X線分析にて見積もったところ、得られたLi/(Ni+Mn)モル比は1.37(5)であった。またNi/(Ni+Mn)モル比とO/(Ni+Mn)モル比はそれぞれ0.400(5)、2.64(9)であった。
組成式との対応からx値は以下の計算式で算出される。
x=(Li/(Ni+Mn)モル比−1)÷(Li/(Ni+Mn)モル比+1)
従ってx値は0.16(2)となった。
一方y値はNi/(Ni+Mn)モル比そのものであることから0.400(5)であった。
【0145】
充放電特性評価
得られた実施例5試料の粉末20mgをアセチレンブラック5mgとよく混合後、少量の結着剤(ポリテトラフルオロエチレン粉末)を加えて錠剤正極を作製した。以後は実施例1と同様の条件で電池を作製し、同様の試験条件で充放電特性評価試験を実施した。
図20に、実施例5の試料を正極としたリチウム二次電池の30℃における充放電曲線を示した。右上がりの曲線が充電(c)に、右下がりの曲線が放電(d)に対応する。数字はサイクル数を示す。図20より、5サイクル目(活性化後初期に相当)充電容量と放電容量がそれぞれ231mAh/g、222mAh/gであり、充放電効率は96%であった。また5サイクル目放電時の平均電圧が3.50V、その放電容量との積に相当するエネルギー密度が778mWh/gと高容量正極として十分な初期特性を有するのみならず、34サイクル後(活性化後30サイクル相当)の放電容量も218mAh/gと高く、5サイクル時に対する34サイクル時放電容量維持率は98%と高く、リチウムイオン二次電池正極材料として優れた特性を有することが確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20