特許第6872962号(P6872962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872962
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】水中部のひび割れ補修方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20210510BHJP
   E02B 7/00 20060101ALI20210510BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20210510BHJP
   E02B 3/12 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   E04G23/02 B
   E02B7/00 Z
   E01D22/00 A
   E02B3/12
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-85174(P2017-85174)
(22)【出願日】2017年4月24日
(65)【公開番号】特開2018-184715(P2018-184715A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2019年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 修
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘義
【審査官】 油原 博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−008718(JP,A)
【文献】 特開2005−023723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E01D 22/00
E02B 3/12
E02B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の水中部にあるひび割れを補修する方法であって、
弾性材料からなるシート材をひび割れのある水中部の表面に前記ひび割れを覆うように固定し、
前記シート材の注入部を通して水中不分離性の第1の充填材料を注入することで、前記ひび割れ内に前記第1の充填材料が前記ひび割れの最深部側の一部を残して充填され、
前記第1の充填材料よりも流動性の大きい水中不分離性の第2の充填材料を、前記ひび割れ内に延在する注入管を通して前記一部に注入し、
前記一部内の水を前記第2の充填材料の充填時に外部に排出するための排水管を、前記シート材を通して前記第1の充填材料の充填前に設置し、
前記排水管を前記ひび割れの延長方向に離れて複数設置し、
前記第2の充填材料の充填時に前記各排水管からの前記第2の充填材料の漏出を確認することで前記一部内における前記第2の充填材料の充填位置を確認する、水中部のひび割れ補修方法。
【請求項2】
コンクリート構造物の水中部にあるひび割れを補修する方法であって、
弾性材料からなるシート材をひび割れのある水中部の表面に前記ひび割れを覆うように固定し、
前記シート材の注入部を通して水中不分離性の第1の充填材料を注入することで、前記ひび割れ内に前記第1の充填材料が前記ひび割れの最深部側の一部を残して充填され、
前記第1の充填材料の充填時に前記ひび割れの一端に前記第1の充填材料を充填しない不充填部を形成し、
前記第1の充填材料よりも流動性の大きい水中不分離性の第2の充填材料を、前記不充填部を通して前記一部に注入する、水中部のひび割れ補修方法。
【請求項3】
前記一部内の水を前記第2の充填材料の充填時に外部に排出するための排水管を、前記シート材を通して前記第1の充填材料の充填前に設置する請求項に記載の水中部のひび割れ補修方法。
【請求項4】
前記シート材を光透過性材料から構成し、
前記第1の充填材料の充填状態を前記光透過性のシート材を通して確認する請求項1乃至のいずれか1項に記載の水中部のひび割れ補修方法。
【請求項5】
前記シート材に少なくとも2つの注入部を設ける請求項1乃至のいずれか1項に記載の水中部のひび割れ補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物における水中部のひび割れ補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
護岸や岸壁、ダム等の種々のコンクリート構造物は、供用中に水と接する水中部においてひび割れ等の欠陥が発生することがある。かかる水中部のコンクリートのひび割れの補修方法として、特許文献1は、コンクリート構造体の表面の亀裂に沿った形状の溝を形成し、この溝の上端部から溝内に注入管および注入確認管を挿入し、溝内の表面にコンクリート用水中硬化型被覆剤を塗布して塗膜を形成し、この塗膜が形成された溝内に閉塞部材を埋設して補修領域を形成し、次いで注入管を介してコンクリート用水中硬化型注入剤を注入して亀裂内部に注入剤を充填する補修方法を開示する(要約、図1)。
【0003】
特許文献2は、コンクリート構造物の表面に開口し、かつ、表面から内部に延びるひび割れ部を補修するに際し、コンクリート表面に存在するひび割れ部の開口部に対し、注入口形成部位を残して、セメントペーストを擦り込んだ後、その擦り込まれたセメントペースト上に、珪酸塩水溶液を塗布して、反応硬化充填物にて、かかるひび割れ部の開口部位をシールする一方、注入口形成部位に形成される注入口を通じて、珪酸塩水溶液又はそれとセメントペーストを圧入せしめ、ひび割れ部の深部まで導入して、かかるひび割れ部内の空隙を埋めた後、注入口形成部位に対して、セメントペーストの擦込み及び珪酸塩水溶液の塗布を順次行ない、又は珪酸塩水溶液の塗布を行ない、注入口形成部位を閉塞するようにした補修工法を開示する(要約、図1)。
【0004】
特許文献3は、光透過性のシート材を、コンクリート構造物に発生したひび割れのある水中部の表面にひび割れを覆うように固定し、シート材の表面に形成された注入部を通して水中不分離性の可塑性グラウト材を充填材料として注入することでひび割れ内に充填材料を充填し、充填材料の充填状態を光透過性のシート材を通して確認するようにした水中部のひび割れ補修方法を開示する(要約、図4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-23723号公報
【特許文献2】特開2007-9487号公報
【特許文献3】特開2017-8718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の補修方法によれば、コンクリート用水中硬化型注入剤を亀裂内部に充填する前に、コンクリート構造体の表面の亀裂に沿った形状の溝を形成すること、この溝内の表面にコンクリート用水中硬化型被覆剤を塗布して塗膜を形成すること、および、この塗膜が形成された溝内に閉塞部材を埋設して補修領域を形成することが必要である。
【0007】
特許文献2の補修工法によれば、コンクリート表面に存在するひび割れ部の開口部に、セメントペーストを擦り込み、その擦り込まれたセメントペースト上に、珪酸塩水溶液を塗布して、反応硬化充填物にて、かかるひび割れ部の開口部位をシールすることが必要である。
【0008】
特許文献1,2の各方法では、亀裂に沿って形成された形状の溝の表面にコンクリート用水中硬化型被覆剤を塗布して塗膜を形成すること、または、コンクリート表面のひび割れ部の開口部をセメントペーストと珪酸塩水溶液とによる反応硬化充填物でシールすることが必要であるが、かかる塗膜やシールの形成工程は複雑で、かかる工程を不要にすれば、補修工程を簡便化することができる。他方、水中部を補修する場合には、充填材料の充填時にひび割れ内の水を排出することが必要である。
【0009】
引用文献3の水中部のひび割れ補修方法によれば、水中不分離性の可塑性グラウト材を充填材料としてひび割れ内に充填する場合、ひび割れの開口幅が狭くなると、ひび割れ内の水の排出が不十分となり、充填材料が満遍なくひび割れ内に充填され難くなるという問題がある。
【0010】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、水中部のひび割れに充填材料を簡便な工程で満遍なく充填することができる水中部のひび割れ補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための水中部のひび割れ補修方法は、コンクリート構造物の水中部にあるひび割れを補修する方法であって、弾性材料からなるシート材をひび割れのある水中部の表面に前記ひび割れを覆うように固定し、前記シート材の注入部を通して水中不分離性の第1の充填材料を注入することで、前記ひび割れ内に前記第1の充填材料が前記ひび割れの最深部側の一部を残して充填され、前記第1の充填材料よりも流動性の大きい水中不分離性の第2の充填材料を、前記ひび割れ内に延在する注入管を通して前記一部に注入し、前記一部内の水を前記第2の充填材料の充填時に外部に排出するための排水管を、前記シート材を通して前記第1の充填材料の充填前に設置し、前記排水管を前記ひび割れの延長方向に離れて複数設置し、前記第2の充填材料の充填時に前記各排水管からの前記第2の充填材料の漏出を確認することで前記一部内における前記第2の充填材料の充填位置を確認するものである。
【0012】
この水中部のひび割れ補修方法によれば、水中部の表面のひび割れを固定されたシート材で覆い、シート材の注入部から第1の充填材料を充填し、このとき、第1の充填材料は、流動性が比較的小さいので、ひび割れの最深部側の一部には充填されないが、次に、流動性が比較的大きい第2の充填材料をひび割れ内に延在する注入管を通して残りの一部に注入するので、ひび割れの幅が狭くなっても、第2の充填材料が最深部側に注入されやすく、第2の充填材料を残りの一部に充填することができ、その結果、充填材料を満遍なくひび割れ内に充填することができるとともに、ひび割れ内から水を充分に排出することができる。また、シート材をひび割れのある水中部の表面に固定し、第1の充填材料を充填し、続いて、第2の充填材料を充填すればよいだけであるので、簡便な工程で水中部のひび割れを補修することができる。
【0013】
上記水中部のひび割れ補修方法において、前記一部内の水を前記第2の充填材料の充填時に外部に排出するための排水管を、前記シート材を通して前記第1の充填材料の充填前に設置し、この排水管によりひび割れ内の残りの一部から水を確実に排出することができる。
【0014】
また、前記排水管を前記ひび割れの延長方向に離れて複数設置し、前記第2の充填材料の充填時に前記各排水管からの前記第2の充填材料の漏出を確認することで前記一部内における前記第2の充填材料の充填位置を確認する。ひび割れの延長方向に離れて設置された各排水管から第2の充填材料の漏出を確認することで、残りの一部内における第2の充填材料の充填位置を確認することができるので、第2の充填材料の充填状況を簡単に把握することができる。
【0015】
上記目的を達成するための別の水中部のひび割れ補修方法は、コンクリート構造物の水中部にあるひび割れを補修する方法であって、弾性材料からなるシート材をひび割れのある水中部の表面に前記ひび割れを覆うように固定し、 前記シート材の注入部を通して水中不分離性の第1の充填材料を注入することで、前記ひび割れ内に前記第1の充填材料が前記ひび割れの最深部側の一部を残して充填され、前記第1の充填材料の充填時に前記ひび割れの一端に前記第1の充填材料を充填しない不充填部を形成し、前記第1の充填材料よりも流動性の大きい水中不分離性の第2の充填材料を、前記不充填部を通して前記一部に注入するものである。これにより、たとえば、ひび割れ表面における開口幅が狭く注入管をひび割れ内に挿入できない場合でも、第2の充填材料を、不充填部を通して残りの一部に注入することができる。

【0016】
また、前記シート材を光透過性材料から構成し、前記第1の充填材料の充填状態を前記光透過性のシート材を通して確認することで、第1の充填材料のひび割れ表面における充填状況を把握することができる。
【0017】
また、前記シート材に少なくとも2つの注入部を設けることが好ましい。これにより、第1の充填材料の注入位置を変更することができ、また、一つの注入部から第1の充填材料を注入し、別の注入部からひび割れ内の水を排出させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の水中部のひび割れ補修方法によれば、コンクリート構造物における水中部のひび割れに充填材料を簡便な工程で満遍なく充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態による水中部のひび割れ補修方法を説明するための図で、ひび割れが存在する水中部の表面を示す正面図(a)、水中部の表面に配置されたシート材を示す正面図(b)、および、シート材および注入管・排水管が配置された水中部のひび割れを概略的に示す縦断面図(c)である。
図2】本実施形態による水中部のひび割れ補修方法の各工程を説明するための図1(c)に対応する縦断面図(a)〜(c)である。
図3】本実施形態による水中部のひび割れ補修方法の各工程S01〜S09を説明するためのフローチャートである。
図4図1の光透過性の弾性シート材の十字状の切れ目に第1の充填材料の注入のためハンドガンの先端を差し込んだ様子を概略的に示す部分断面図である。
図5】本実施形態による水中部のひび割れ補修方法において複数の排水管を設置した別の例を説明するための図2(a)に対応する縦断面図である。
図6】本実施形態による水中部のひび割れ補修方法においてひび割れの一端に第1の充填材料の不充填部を設けたさらに別の例を説明するための図2(a)に対応する縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態による水中部のひび割れ補修方法を説明するための図で、ひび割れが存在する水中部の表面を示す正面図(a)、水中部の表面に配置されたシート材を示す正面図(b)、および、シート材および注入管・排水管が配置された水中部のひび割れを概略的に示す縦断面図(c)である。図2は本実施形態による水中部のひび割れ補修方法の各工程を説明するための図1(c)に対応する縦断面図(a)〜(c)である。
【0021】
図1(a)のように、コンクリート構造物の水と接する水中部Cの表面Sに開口したひび割れCRが存在する場合、図1(b)(c)のように、水中部Cの表面Sに光透過性の弾性シート材11を複数のコンクリート釘等の固定手段を用いて固定する。弾性シート材11は、平面的には、図1(a)の水中部Cの表面Sにあらわれたひび割れCRを覆うような大きさに構成される。
【0022】
光透過性の弾性シート材11には、複数の十字状の切れ目12a〜12fが形成されている。切れ目12a〜12fは、弾性シート材11の表面にたとえばカッターナイフ等で簡単に切り込みにより形成することができる。複数の切れ目12a〜12fは、充填材料の注入時に注入部として機能するとともに、同じく注入時にひび割れCR内の水が排出される際の排水部として機能する。
【0023】
複数の切れ目12a〜12fは、水中部Cの表面Sに存在するひび割れCRの形状、長さ、方向に合わせて形成される。たとえば、図1(a)のように、ひび割れCRがほぼ鉛直方向にほぼ直線状に存在する場合、図1(b)のように複数の切れ目12a〜12fは、その十字状の中心が縦方向に直線上に等間隔で一列に並ぶように形成され、最下位の切れ目12aはひび割れCRの下端近くに、最上位の切れ目12fはひび割れCRの上端近くに位置するように形成される。また、複数の切れ目は、ひび割れが鉛直方向に対し傾斜している場合、その傾斜に合わせて形成され、水平方向に延びている場合、水平方向に形成され、また、途中で曲がっている場合は、その曲がりに合わせて形成される。
【0024】
また、光透過性の弾性シート材11としては、たとえば、半透明のシリコンゴムシートを用いることができる。弾性シート材11の厚さは、1mm〜2mmが好ましい。
【0025】
本実施形態では、図2(a)のように、ひび割れCRの表面S付近に、水中不分離性の流動性の小さい第1の充填材料である可塑性グラウト材21を充填し、次に、図2(b)(c)のように、ひび割れCRの最深部側で第1の充填材料が充填されずに残った一部に、水中不分離性の流動性の大きい第2の充填材料である高流動性グラウト材22を充填することで、ひび割れCRの最深部まで充填可能とし、ひび割れCR内に満遍なく充填材料を注入可能としている。
【0026】
第1の充填材料(可塑性グラウト材)は、ひび割れの表面を覆うために自立性が必要であることから可塑性を有することが必要である。可塑性とは、液体と個体の中間領域に属し、グラウト自体の流動性はないが、若干圧力を加えると容易に流動化する性質をいう。可塑性とするためには、セメントなどの硬化発現材を主材とした流動性のあるグラウトに対して可塑剤を用い、グラウト中の自由水を含水ゲル状にすることで可塑状にすることができる。可塑剤は一般に水ガラスアルミニウム塩、ベントナイト等の粘土鉱物、高分子材が用いられる。水中不分離性の可塑性グラウト材として、たとえば、ベントナイトを水で膨潤させて、それと水、セメント、砂および水中不分離剤や減水剤などの混和剤を用いた水中不分離モルタルとを練り混ぜることで得られる可塑性グラウト材を用いることができる。
【0027】
第2の充填材料である高流動性グラウト材は、第1の充填材料の可塑性グラウト材よりも流動性が大きいグラウトである。ここで、流動性の測定方法は、JIS R 5201セメントの物理試験方法による。すなわち、充填材料の流れやすさを流動性の大小として評価する。流動性が小さい材料の場合にはひび割れの深部には流れず、一方、流動性の大きい材料の場合にはひび割れの深部にまで流れる。
【0028】
本発明者等による充填材料のJIS R 5201に基づく試験結果によれば、水、セメント、砂、水中不分離剤、減水剤、可塑剤から構成された可塑性グラウト材の一例では、フローコーンを引き抜いた状態でフローが103mmであり、また、第2の充填材料である水中不分離性を有する高流動性グラウト材の一例では、フローコーンを引き抜いた状態でフローが235mmであり、高流動性グラウト材の方が可塑性グラウト材よりも流動性が大きいと評価できる。なお、高流動性グラウト材としては、たとえば、株式会社トクヤマエムテックから販売されている、高流動性の無収縮グラウト材であるグラウトミックス(商品名)を使用することができる。
【0029】
本実施形態による水中部のひび割れ補修方法について図1図4を参照して説明する。図3は、本実施形態による水中部のひび割れ補修方法の各工程S01〜S09を説明するためのフローチャートである。図4は、図1の光透過性の弾性シート材の十字状の切れ目に第1の充填材料の注入のためハンドガンの先端を差し込んだ様子を概略的に示す部分断面図である。
【0030】
図3を参照して、まず、コンクリート構造物の水中部に対しダイバー等が目視検査を行い(S01)、図1(a)のように水中部Cの表面Sにひび割れCRが検出され(S02)、このひび割れCRが補修対象と判断されると、次のように、補修工程がダイバー等により実行される。
【0031】
図1(b)のように、水中部Cの表面Sにひび割れCRを覆うようなサイズのシリコンゴム等の光透過性の弾性シート材11を用意し、この弾性シート材11を水中部Cの表面Sにコンクリート釘13等により固定する(S03)。弾性シート材11には、複数の十字状の切れ目12a〜12eが形成されている。
【0032】
上記弾性シート材11の固定のとき(S03)、図1(b)(c)のように、弾性シート材11の上端近傍に、後述の第2の充填材料の充填のためにひび割れCR内に延在するようにパイプ状の注入管15と排水管16とを、シート材11に設置した各孔内に挿入することでセットする(S04)。
【0033】
次に、図4のように、ハンドガンタイプの注入器20に第1の充填材料として可塑性グラウト材を内部に詰め、注入器20の注入側に設けられた小径パイプ20bの先端にナイフ状に形成された先端部20cを、図1(b)の弾性シート材11の最下位に形成された十字状の切れ目12aに差し込み、注入器20をセットしてから、注入器20の後端側に設けられた押し込み部20aを先端側に押すことで、注入器20の内部の可塑性グラウト材を送り出し、図1(c)のひび割れCR内に可塑性グラウト材(第1の充填材料)を注入する(S05)。
【0034】
上述の可塑性グラウト材(第1の充填材料)の注入工程S05により、充填材料21がひび割れCRの下部から充填されていくが、その途中、光透過性の弾性シート材11を通して、ひび割れCRの表面における第1の充填材料21を視認することで、その表面における充填状態を容易に確認することができる。
【0035】
なお、第1の充填材料21のひび割れCR内への注入により、ひび割れCR内の水は、他の切れ目12b〜12eを通して外部に排出される。
【0036】
第1の充填材料の注入は、注入位置を他の切れ目12b〜12eに適宜変更して行うことができるが、光透過性の弾性シート材11を通して、ひび割れCRの表面における第1の充填材料の充填状態を確認することで、第1の充填材料の注入完了を判断する(S06)。このとき、第1の充填材料21である可塑性グラウト材は、可塑性を有し比較的流動性が小さいので、表面Sからたとえば20mm〜30mmの深さ程度を対象として充填される。すなわち、可塑性グラウト材は、図2(a)のように、ひび割れCRの表面付近に充填されるが、ひび割れCRの深部に流れず最深部側の一部30が未充填状態となる一方で、ひび割れCRの表面で自立性により止水効果を発揮する。
【0037】
次に、可塑性グラウト材21が固結した後、第2の充填材料として高流動性グラウト材22を、図2(b)のように、可撓性ホース15a、注入管15を通して、ひび割れCR内で未充填状態となって残った一部30に注入する(S07)。
【0038】
高流動性グラウト材22は、第1の充填材料よりも流動性が大きいので、ひび割れCR内の深部に流れ込んで残りの一部30に充填される。このとき、一部30内の水は排水管16を通して外部に排出される。
【0039】
高流動性グラウト材22が排水管16から漏出したことを確認することで、図2(c)のように、残りの一部30に充分に充填されたと判断でき、高流動性グラウト材の注入完了を判断する(S08)。
【0040】
次に、後処理を次のように行う(S09)。注入管15,排水管16を撤去し、この撤去により生じた穴部に弾性シート材11の孔を通して第1の充填材料を詰める。次に、弾性シート材11を除去し、第1の充填材料が充填された表面Sの後処理を必要に応じて行う。
【0041】
以上のように、本実施形態による水中部のひび割れ補修方法によれば、水中部の表面Sのひび割れCRを表面Sに固定されたシート材11で覆い、シート材11の注入部から第1の充填材料である可塑性グラウト材を充填し、可塑性グラウト材は、流動性が比較的小さいので、ひび割れCRの最深部側の一部30には充填されないが、ひび割れCRの表面で止水効果を発揮する。次に、流動性が比較的大きい第2の充填材料である高流動性グラウト材をひび割れCR内に延在する注入管15を通して残りの一部30に注入するので、ひび割れCRの幅が狭くなっても、高流動性グラウト材が最深部側に注入されやすく、高流動性グラウト材を残りの一部30に確実に充填することができ、その結果、第1,第2の充填材料を満遍なくひび割れCR内に充填することができるとともに、ひび割れCR内から水を充分に排出することができる。また、シート材11をひび割れCRのある水中部の表面Sに固定し、第1の充填材料を充填し、続いて、第2の充填材料を充填すればよいだけであるので、簡便な工程で水中部のひび割れを補修することができる。
【0042】
また、ひび割れCRの残りの一部30内に滞留している水は、高流動性グラウト材の注入にともなう圧力上昇によって排水管16を通して外部に排出されて除去することができる。この場合、より排水性能を向上させるためにポンプによって強制排水するようにしてもよい。
【0043】
次に、図1図2において複数の排水管を設置した例について図5を参照して説明する。図5は、本実施形態による水中部のひび割れ補修方法の別の例を説明するための図2(a)に対応する縦断面図である。
【0044】
図5の例は、図1の弾性シート材11に複数の排水管16a〜16cを高さ方向に離して配置し、ひび割れCR内へ延在させたものである。排水管16,排水管16a〜16cは、下端から上端に向けてほぼ等間隔に配置されている。第2の充填材料がひび割れCR内の残りの一部30に注入され、図5のように、排水管16a〜16c,16の各高さ位置に達すると、各排水管16a〜16c,16から第2の充填材料が漏出する。この漏出の確認により、ひび割れCRの残りの一部30内における第2の充填材料の充填位置(充填高さ)を確認することができるので、第2の充填材料の充填状況を簡単に把握することができる。
【0045】
水中部のひび割れCRの幅w(図1(a))が所定値(たとえば、5mm)以下で狭いため、注水管15,排水管16を表層付近(たとえば、深さ40mmよりも浅い部分)までしか挿入できない場合には、注水管15,排水管16が可塑性グラウト材で覆われてしまうので設置しても本来の機能を発揮しない。そこで、ひび割れCRの幅wが、たとえば5mmよりも小さく、パイプ等からなる注水管15,排水管16をひび割れCRの深部に設置できない場合には、図6のように、第1の充填材料の注入時に、ひび割れCRの上端に除去可能な詰め物を配置し、第1の充填材料21の充填・固結後に詰め物を除去することで、たとえば高さ2〜3cm程度の空隙からなる不充填部21Aをひび割れCRの上端に形成する。この不充填部21Aを通して第2の充填材料の高流動性グラウト材を注入管15からひび割れCRの残りの一部30に注入する。なお、この注入時に不充填部21Aからひび割れCR内の水を排出できる。また、不充填部21Aは、第2の充填材料の充填完了後、第1の充填材料を詰めて閉塞される。
【0046】
本発明者等の実験によれば、可塑性を有する水中不分離性のグラウト(可塑性グラウト)を、表面開口幅5mmのひび割れに図1(b)のシート材を用いて注入したところ、表層40mm程度までの深さに対しては注入が可能であったが、ひび割れ深さが40mm以上の深い部分には、圧力がかからず流動性が小さくなり、充填が不充分であった。用いた可塑性グラウトは、水0.48kg、粉体(セメント、砂、水中不分離剤、減水剤)2.0kg、可塑剤(ベントナイト)0.04kgの配合で構成されている。次に、図1図2のようにして、ひび割れの表面から20〜30mmの深さを対象に上述の可塑性グラウトを注入し充填し、固結後、高流動性グラウトをひび割れ内の残りの一部に注入したところ、高流動性グラウトはひび割れ表面から漏れ出すことがなく、ひび割れ深くまで注入された。また、充填後の可塑性グラウトは、母材(母材圧縮強度30.3N/mm2)と同等以上の強度を発現することを確認し、高流動グラウトを圧入した場合でも表面側の可塑性グラウトから漏洩することはなかった。
【0047】
なお、可塑性グラウトを使用せずに、高流動性グラウトをひび割れ内に注入し、表層付近をパテで止水して高流動グラウトの漏出を防止する方法も考えられるが、パテをひび割れ内部に挿入することが困難であり、ひび割れ表層付近の塗布にとどまる。その場合、圧力をかけて高流動グラウトを注入すると厚さが最大でも10mm程度と薄いパテでは、付着力が弱く、十分な止水効果が期待できないおそれがある。このように、可塑性グラウトを使用せずにはじめから高流動性グラウトを使用する場合には、注入材料の漏出防止対策を堅固にする必要があり、わずかなすき間も無いように漏出防止策を施工する必要がある。これに対し、本実施形態のように、ひび割れの表層側に可塑性グラウトを充填することで、充填のみではなく止水効果を得ることができ、特別な高流動グラウト漏出防止対策は不要である。
【0048】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、本実施形態では、水中部において略鉛直方向に延びたひび割れを例にしたが、本発明はこれに限定されず、水平方向に延びたひび割れ、傾斜したひび割れ、曲がりのあるひび割れを補修の対象にできることはもちろんである。また、注入管15は、図1図2図5では、ひび割れCRの上部(一端側)に設置したが、下部(他端側)に設置してもよいことはもちろんである。
【0049】
また、弾性シート材11に注入部、排水部として形成される切れ目の形状は、2本線からなる十字状が好ましいが、本発明ではこれに限定されず、たとえば、1本線からなる横線状「−」や縦線状「|」や斜め線状「/」、または、3本線が中心で交差する三本線状等であってもよい。
【0050】
また、光透過性の弾性シート材として、本実施形態および実験例では、半透明のシリコンゴムシートを用いたが、本発明ではこれに限定されず、たとえば、透明ないし半透明の塩化ビニール、ウレタンゴムシート等を用いてもよい。また、弾性シート材は、光透過性が必要であるが、水中においてひび割れ内の充填材料の充填状態を視認可能であればよい。
【0051】
また、本発明による補修方法が適用されるコンクリート構造物としては、護岸や岸壁、ダムがあるが、これらに限定されず、少なくともその一部が水に接する水中部を有するコンクリート構造物であれば、適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の水中部のひび割れ補修方法によれば、コンクリート構造物における水中部のひび割れに充填材料を簡便な工程で満遍なく充填できるので、水中部のひび割れを確実にかつ簡単な工程で補修することができる。
【符号の説明】
【0053】
11 シート材、弾性シート材
12a〜12f 切れ目(注入部、排水部)
15 注入管
16,16a〜16c 排水管
21 第1の充填材料、可塑性グラウト材
21A 不充填部
22 第2の充填材料、高流動性グラウト材
30 ひび割れの最深部側の一部
C 水中部
CR ひび割れ
図1
図2
図3
図4
図5
図6