(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
テルル化ゲルマニウムに由来するXRDピークの最大強度I(GeTe)と、ゲルマニウム金属に由来するXRDピークの最大強度I(Ge)との強度比I(Ge)/I(GeTe)が0.025以下である請求項1又は2に記載の化合物。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<化合物>
本発明の化合物は、構成する元素として少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含むことを特徴とする。より好ましくは、テルル化ゲルマニウムに、ビスマス、銅、アンチモン、及び銀をドープした化合物である。即ち、ビスマス、銅、アンチモン及び銀がテルル化ゲルマニウムに固溶して、テルル化ゲルマニウムの結晶格子、又は原子間に配置された化合物である。
テルル化ゲルマニウムに銀とアンチモンをドープした従来の化合物では、キャリア密度が高くなることが知られていた。熱電変換材料用途に用いる化合物の場合、抵抗率が増大しすぎない範囲でゼーベック係数を高めて、出力特性とzTを向上させるため、キャリア密度は低いことが好ましい。
本発明は、銀とアンチモンに加えて、銅とビスマスをテルル化ゲルマニウムにドープしたことにより、キャリア密度の最適化が可能となる。
このため、本発明の化合物を熱電変換材料として含む場合には高い出力因子と高いzTを発揮することができる。
【0021】
[材料物性]
本発明における化合物は、構成する元素として少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン、及び銀を含む。
【0022】
[キャリア密度]
本発明の化合物について、抵抗率が増大しすぎない範囲でゼーベック係数を高めて、出力特性とzTを向上させるために、温度10Kにおけるキャリア密度は1.0×10
21cm
−3以下であることが好ましい。より好ましくは、キャリア密度は1.0×10
19cm
−3〜1.0×10
21cm
−3であり、さらに好ましくは5.0×10
19cm
−3〜7.0×10
20cm
−3である。本明細書においてキャリアとは、電子と正孔(ホール)のことを示す。キャリア密度とは、化合物中の電子又は正孔(ホール)の単位体積当たりの存在量を示す。
試料のキャリア密度の測定には、例えば物理特性測定装置PPMS(Quantum Design社製)及び専用のDC抵抗サンプルパックによる5端子ホール測定を用いることができる。ホール測定は、試料の温度を安定させて、試料面に垂直に磁場を印加してホール抵抗を測定することにより行うことができる。磁場に対するホール抵抗の傾きよりホール係数を算出し、さらにホール係数よりキャリア密度が計算される。室温付近でノイズによりホール抵抗にヒステリシスが生ずる場合があるため、低温で測定することが望ましい。
【0023】
キャリア密度の調整やフォノン拡散長の調整をして熱電変換特性であるzTや出力因子を高めるために、ゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀以外の元素を添加してもよい。前記添加元素は、化合物中にいずれか1種が単独で含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。前記添加元素の前記化合物中の含有量としては、それぞれ独立に前記化合物中のテルル1モルに対して、通常、0.2モル以下であり、より好ましくは0.1モル以下である。本発明の別の側面としては、前記添加元素の前記化合物中の含有量としては、それぞれ独立に前記化合物中のテルル1モルに対して、0.005〜0.2モルであることが好ましく、0.01〜0.1モルであることがより好ましい。
【0024】
[化合物の組成]
本発明の化合物は、組成として、ゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含有していることを特徴とする。
組成の偏析を抑制して、zTや出力因子を高めるために、化学式Ge
1+a−b−c−d−e Bi
b Cu
cSb
dAg
eTeにおいて−0.05≦a≦0.10、0<b≦0.10、0<c≦0.10、0<d≦0.20、0<e≦0.20で表される範囲の組成であることが好ましい。より好ましくは0≦a≦0.05、0.02<b≦0.10、0.02<c≦0.10、0.05<d≦0.20、0.05<e≦0.20である。本明細書中において偏析とは、複数の元素からなる金属又は合金の溶融体が凝固する際に、前記金属又は前記合金中に分布している一部の元素が結晶化すること、又はその結晶のことをいう。
【0025】
[化合物の粉末X線回折ピークの強度比]
粉末X線回折パターンから、テルル化ゲルマニウムに由来するXRDピークの最大強度I(GeTe)とゲルマニウム金属に由来するXRDピークの最大強度I(Ge)との強度比I(Ge)/I(GeTe)を計算できる。
本発明において、I(Ge)/I(GeTe)は0.025以下であることが好ましい。より広い温度領域で高いzTや高い出力特性を得るためには、I(Ge)/I(GeTe)は0.015未満であることがより好ましく、ゲルマニウム金属に由来するXRDピークが検出されないこと、即ちI(Ge)/I(GeTe)が0であることがさらに好ましい。
【0026】
[化合物の結晶構造]
化合物の結晶構造は、例えば粉末X線回折測定装置を用いて得られる粉末X線回折パターンから解析することができる。テルル化ゲルマニウムは、R3m空間群のRhombohedral構造を有するα−GeTeと、Fm−3m空間群のCubic構造を有するγ−GeTeの2種類の結晶型を持つことが知られている。本発明の化合物は、R3m空間群のRhombohedral構造を有するα−GeTeの結晶構造を有することが好ましい。本発明の化合物は、Fm−3m空間群のCubic構造を有するγ−GeTeを含まず、R3m空間群のRhombohedral構造を有するα−GeTeの結晶構造のみを有することがさらに好ましい。
【0027】
[化合物の組成分布]
化合物中の組成の遍在は、例えばエネルギー分散形X線分光器(以下、EDXと略すことがある。)を装備した走査型電子顕微鏡(以下、SEMと略すことがある。)を用いて得られる試料の組成分布図から解析することができる。本明細書において、遍在とは、化合物中における各構成元素の分布のことをいう。
本発明においては、0.2μm以上のビスマスの結晶、銅の結晶、アンチモンの結晶、及び銀の結晶の組成分布が明確に識別できる条件において解析する。0.2μm以上のビスマスの結晶及び銅の結晶の組成分布が明確に識別できる条件とは、後述の実施例に記載の条件が挙げられる。本明細書において「最長径」とは、SEM像から算出でき、SEM像中に遍在するビスマスの結晶、銅の結晶、アンチモンの結晶若しくは銀の結晶の個々の任意の2次元断面上の各部の径(長さ)のうち、最も長い径を意味する。
本発明においては、化合物中に遍在するビスマスの結晶、銅の結晶、アンチモンの結晶及び/若しくは銀の結晶の最長径が2.0μm未満であることが好ましい。より広い温度領域で高いzTや高い出力特性を得るためには、より好ましくは熱電変換材料中に遍在するビスマスの結晶、銅の結晶、アンチモンの結晶及び/若しくは銀の結晶の最長径が1μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。
本発明の別の側面としては、化合物中に遍在するビスマスの結晶、銅の結晶、アンチモンの結晶、及び/若しくは銀の結晶の最長径が0.001μm以上2μm未満であることが好ましい。より広い温度領域で高いzTや高い出力特性を得るためには、より好ましくは熱電変換材料中に遍在するビスマスの結晶、銅の結晶、アンチモンの結晶、及び/若しくは銀の結晶の最長径が0.002μm以上1μm以下であり、さらに好ましくは0.005μm以上0.5μm以下である。
即ち、前記化合物は、ビスマスの結晶、銅の結晶、アンチモンの結晶、若しくは銀の結晶が化合物中に一様に存在し、元素の偏析が小さいことを特徴としている。このため、前記化合物が熱電変換材料に含まれる場合には高い出力因子とzTを発揮することができる。
【0028】
ビスマスの結晶、銅の結晶、アンチモンの結晶若しくは銀の結晶の最長径は、2.0μm未満であればそれぞれ同一の長さであってもよく、異なる長さであってもよい。ビスマスの結晶、銅の結晶、アンチモンの結晶若しくは銀の結晶の最長径が異なる場合には、最も長い元素の結晶の最長径と最も短い元素の結晶の最長径の差は、0μm超1.0μm未満が好ましく、0μm超0.5μm以下がより好ましく、0μm超0.25μm以下がさらに好ましい。
【0029】
[結晶ドメイン]
本発明の化合物は、結晶中に縞状の結晶ドメインを有することが好ましい。結晶ドメインとは、結晶が同一方向に配向している領域のことをいう。結晶ドメインは、例えば、透過型電子顕微鏡(以下、TEMと略すことがある。)を用いて得られるTEM像から観察することができる。本発明において、縞状の結晶ドメインが複数観察されることが好ましい。本明細書においては結晶ドメインの幅とは、TEM像で縞状に観察される濃部と淡部のそれぞれの幅であり、結晶ドメインの長さとは濃部と淡部のそれぞれの長さである。結晶ドメインの幅は長さよりも短く、幅は0.005μm以上1μm以下であることが好ましい。長さは0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。本発明の別の側面としては結晶ドメインの長さは0.05μm以上50μm以下であることが好ましく、0.1μm以上20μm以下であることがより好ましい。
【0030】
<熱電変換材料>
本発明の熱電変換材料は、上記本発明の化合物を材料として含むことができる。上記本発明の化合物を主成分とし、少量の他の添加剤が含まれていてもよい。熱電変換材料中の、前記第1実施形態又は第2実施形態の含有量としては、通常50%〜100%であり、好ましくは70%〜100%であり、より好ましくは80%〜100%であり、さらに好ましくは90%〜100%である。熱電変換材料中の、前記第1実施形態又は第2実施形態の含有量が上記範囲内であれば、優れた熱電変換特性を発揮する。
【0031】
本発明の一つの側面は、以下に示す熱電変換材料である。
<1>構成する元素として少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン、及び銀を含む熱電変換材料であって、
200℃におけるzTが0.60以上であり、
300℃におけるzTが1.00以上であり、
400℃におけるzTが1.20以上であり
500℃におけるzTが1.40以上であることを特徴とする熱電変換材料。
<2>構成する元素として少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン、及び銀を含む熱電変換材料であって、
500℃におけるP.F.(500℃)と300℃におけるP.F.(300℃)との比P.F.(500℃)/P.F.(300℃)が1.05以下であり、
500℃におけるzT(500℃)と300℃におけるzT(300℃)との比zT(500℃)/zT(300℃)が1.40以下であることを特徴とする熱電変換材料。
zTは、ある温度Tにおける熱電変換材料の熱電変換性能指数z[1/K]と温度T[K]との積である。P.F.は、Power Factorの略であり、出力因子[μW/(cm K
2)]である。
【0032】
また、本発明の別の側面としては、以下に示す熱電変換方法である。
<1> 構成する元素として少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン、及び銀を含む化合物の一方の端に熱を加えることにより、一方の端を高温側、他方の端を低温側として前記化合物中に温度差を発生させることにより熱電変換を行うことを特徴とする熱電変換方法。
<2>前記化合物のキャリア密度が1.0×10
21cm
−3以下である[1]に記載の熱電変換方法。
【0033】
本発明の熱電変換材料は、上記本発明の化合物を含む、熱電変換物性を有する材料であり、熱電変換デバイスが備える熱電変換素子を構成する材料である。本明細書において熱電変換素子とは、ゼーベック効果等を利用して熱エネルギーを電気エネルギーに変換する素子である。ゼーベック係数が正の熱電変換素子をp型熱電変換素子、ゼーベック係数が負の熱電変換素子をn型熱電変換素子という。ここで、熱電変換物性とは、ゼーベック効果、熱磁気効果、又はスピンゼーベック効果等により、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する物性を意味する。
【0034】
<熱電変換デバイス>
熱電変換デバイスは、一般に、p型熱電変換素子、n型熱電変換素子、及び金属電極とを備える。
図9Aに示すように熱電変換デバイスは、p型熱電変換素子12、n型熱電変換素子13、及び金属電極15、16、及び17を有している。
図9A及び
図9Bを用いて、熱電変換デバイスの熱電変換機構について説明する。
図9Aにおいて、熱電変換デバイス21は、p型熱電変換素子12、n型熱電変換素子13、第1金属電極15、第2金属電極16、及び第3金属電極17とを有する。p型熱電変換素子12は、第1金属電極15と第3金属電極17との間に配置することができる。n型熱電変換素子13は、第1金属電極15と第2金属電極16との間に配置することができる。熱源41は、第1金属電極15のp型熱電変換素子12、及びn型熱電変換素子13と接合している面と対向する面に配置することができる。放熱板42は、第2金属電極16のn型熱電変換素子13と接合している面と対向する面及び第3金属電極17のp型熱電変換素子12と接合している面と対向する面に配置することができる。熱源41としては、例えば、自動車の排熱や工場の排熱を使用することができる。
熱源41により、第1金属電極15を介してp型熱電変換素子12、及びn型熱電変換素子13の上部に熱が伝わる。他方、第2金属電極16を介してn型熱電変換素子13の下部の熱が、第3金属電極17を介してp型熱電変換素子12の下部の熱が、放熱板により放熱される。結果として、p型熱電変換素子12、及びn型熱電変換素子13の上端部と下端部の間に温度勾配が生じる。
p型熱電変換素子12中の正電荷を帯びた正孔(h+)が、温度の高い上端部から、温度の低い下端部へ移動することで熱起電力が発生する。一方、n型熱電変換素子13中の負電荷を帯びた電子(e−)が、温度の高い上端部から、温度の低い下端部へ移動することで熱起電力が発生する。p型熱電変換素子12とn型熱電変換素子13の電位差は逆となっているため、両者の上端部を
図9Aのように第1金属電極15を介して電気的に接続することにより、電極43と電極44の間の起電力は、p型熱電変換素子12の熱起電力とn型熱電変換素子13の熱起電力の和となる。本例の場合は、43側がマイナス極、44側がプラス極となる。
図9Bを用いて示される熱電変換デバイス21’は、
図9Aと類似の構成を有するが、外部負荷45が電極43’及び電極44’と接続されている。外部負荷45の例としては、電気装置の一部が挙げられ、前記電気装置に電流を提供することができる。前記電気装置の例としては、バッテリー、コンデンサー、モーター等が挙げられる。
【0035】
熱電変換デバイスが備えるp型熱電変換素子及びn型熱電変換素子は、それぞれ、例えば、p型又はn型の電子物性を有する熱電変換材料を所望の形状に機械的に加工することによって得ることができる。
p型又はn型の電子物性を有する熱電変換材料として、上述の本発明の熱電変換材料を用いることができる。即ち、熱電変換素子は、本発明の熱電変換材料の加工物を含むことができる。
【0036】
熱電変換素子は層構造を形成していてもよく、例えば、本発明の熱電変換材料からなる層と、その他の層を有していてもよい。その他の層としては、接合層、及びバリア層が挙げられる。
熱電変換材料からなる層は、本発明の化合物を、熱電変換材料として、所望の形状に機械的に加工することによって得ることができる。
【0037】
熱電変換素子は、熱電変換素子中の熱電変換材料からなる層と、金属電極との間に接合層を有していてもよい。熱電変換素子が前記接合層を有することにより、前記熱電変換素子と前記金属電極は電気的及び機械的に良好に接合される。その結果、前記熱電変換素子と前記金属電極との接触抵抗を低減させることができる。前記接合層を形成する接合材としては、キャリア密度を高める元素が挙げられ、銀、金、及び白金などが挙げられる。接合層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.001〜20μm、さらに好ましくは0.005〜10μmである。
【0038】
熱電変換素子は、熱電変換素子中の熱電変換材料からなる層と、金属電極の間にバリア層を有していてもよい。前記バリア層を有することで、前記熱電変換素子中の前記熱電変換材料と、前記金属電極との接触による反応を防止することができる。熱電変換素子が、上述の接合層を有する場合、熱電変換素子は、熱電変換素子中の熱電変換材料からなる層と前記接合層との間にバリア層を有していてもよい。熱電変換素子が前記バリア層を有することで、前記熱電変換素子中の前記熱電変換材料と前記接合層との接触による反応を防止することができる。バリア層を形成する材料としては、前記熱電変換材料からなる層、前記接合層、又は前記金属電極に含まれる少なくとも1種の元素の移動を防止する効果のある元素が挙げられる。前記元素としては、例えば、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、銀、及びタンタルが挙げられる。バリア層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.5〜100μm、さらに好ましくは0.1〜50μmである。
【0039】
熱電変換素子は、熱電変換材料と、熱電変換素子がおかれた環境中の気体との反応を防止し、又は熱電変換材料から発生しうる物質の拡散を防止するために、熱電変換材料からなる層における、気体と接触しうる面上に保護膜を有していてもよい。保護膜の材料としては、ケイ素を含む化合物が挙げられる。保護膜の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.5〜100μm、さらに好ましくは1〜50μmである。
【0040】
熱電変換モジュールは、複数の前記熱電変換デバイスをユニット化したものである。即ち、熱電変換モジュールは、複数の前記熱電変換デバイスを有する。
本発明の1つの側面は、以下に示す熱電変換モジュールである。
複数のp型熱電変換素子と、
複数のn型熱電変換素子と、
複数の金属電極と、を有し
前記複数のp型熱電変換素子、及び前記複数のn型熱電変換素子が、前記複数の金属電極を介して互いに交互、かつ電気的に直列に接続されるとともに、
前記複数のp型熱電変換素子、及び前記複数のn型熱電変換素子が、構成する元素として少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含むことを特徴とする熱電変換モジュール。
【0041】
図1、
図6〜8を用いて、熱電変換モジュールの一例を説明する。
図6の熱電変換モジュールの概略の構成を示す斜視図に表した通り、熱電変換モジュール中、複数の熱電変換素子11が格子状に配置されている。熱電変換モジュールの上部と下部には、熱電変換モジュール20を補強するための絶縁板18が設置されている。
図7の熱電変換モジュールの分解上面図に示す通り、熱電変換モジュール20中、p型熱電変換素子12とn型熱電変換素子13とが互いに交互に2次元並列されている。全てのp型熱電変換素子12とn型熱電変換素子13は、リード線31からリード線32まで2点鎖線で示したように電気的に直列に接続される。熱電変換モジュールを模式的に示す側面図である
図1、
図7のVIII−VIII線に沿った断面図である
図8A及び
図8Bに示すように、熱電変換モジュール20中、全てのp型熱電変換素子12とn型熱電変換素子13は、金属電極14を介して電気的に直列に接続されている。
図7中の前記2点鎖線で示した接続は一例であり、接続の仕方に特に制限はないが、全てのp型熱電変換素子12とn型熱電変換素子13とが、互いに交互かつ直列に金属電極を介して接続されていることが好ましい。電気的に直列に接続された複数の前記p型熱電変換素子12、及び前記n型熱電変換素子13の内、接続の両端部に位置するp型熱電変換素子、及びn型熱電変換素子の端部に接合されている金属電極にリード線31及び32を接続することにより、外部に出力することができる。
前記リード線としては、従来公知のリード線を使用することができる。
本発明の一つの側面は、
図8Aに示したp型熱電変換素子12と、n型熱電変換素子13との間に絶縁体19を有する熱電変換モジュールである。絶縁体19を有することにより、p型熱電変換素子12及びn型熱電変換素子13の強度を補強し、耐久性を向上させることができる。絶縁体19は、前記補強の観点から、p型熱電変換素子12及びn型熱電変換素子13の側面全てを覆っていることが好ましい。
本発明の一つの側面は、
図8Bに示したp型熱電変換素子12と、n型熱電変換素子13との間に絶縁体19を有しない熱電変換モジュールである。絶縁体19を有しないことにより、p型熱電変換素子12及びn型熱電変換素子13から外部への熱の損失が抑制され、結果として高い熱起電力を得ることができる。 前記絶縁板及び前記絶縁体としては、アルミナや窒化アルミ等のセラミック板が例として挙げられる。
上述した通り、熱電変換モジュール中のp型熱電変換素子、及びn型熱電変換素子は、電気的に直列に接続されているため、熱電変換モジュールの出力は、熱電変換素子の出力に、熱電変換素子の使用数を乗じたものとほぼ等しい値となる。即ち、熱電変換モジュールの出力を高めるためには、熱電変換素子の出力を高める、又は熱電変換素子の使用数を増やすことが有効である。
上述した通り、p型熱電変換素子と、n型熱電変換素子は交互に接続されるため、熱電変換モジュール中のp型熱電変換素子の数(P)とn型熱電変換素子の数(N)との関係は、通常、P=N+1、P=N、又はN=P+1となる(式中、N及びPは1以上の整数である)。
熱電変換モジュール中のp型熱電変換素子の数とn型熱電変換素子の数の和は、熱電変換モジュールの大きさ、求める起電力等の条件によって適宜変更することができる。本発明の一つの側面としては、熱電変換モジュール中のp型熱電変換素子の数とn型熱電変換素子の数の和は、50〜1000個であることが好ましく、50〜500個であることがより好ましく、50〜250個であることがより好ましい。
【0042】
本発明の化合物及び熱電変換材料は、従来型のゼーベック効果を用いた熱電変換デバイスに加えて、ネルンスト効果、リーギ=ルデュック効果及びマギー=リーギ=ルデュック効果などの熱磁気効果を用いた熱電変換デバイス、又は、スピンポンピング効果及び逆スピンホール効果などによるスピンゼーベック効果を用いた熱電変換デバイスに採用することもできる。
【0043】
[熱電変換材料の熱電変換物性]
熱電変換材料の熱電変換特性を示す指標として、熱効率の指標となるzTと、出力の指標となる出力因子(Power Factor)が用いられる。温度Tにおける熱電変換物性であるゼーベック係数α[V/K]、抵抗率ρ[Ω m]、熱伝導率κ[W/(mK)]を用いて、zTを前記の式(2)より、出力因子を前記の式(3)より計算できる。
【0044】
本発明によれば、キャリア密度が低い熱電変換材料を提供することができる。これは、テルル化ゲルマニウムに銀とアンチモンをドープする場合に上昇するキャリア密度を、銅とビスマスをさらにドープすることで下げることができ、キャリア密度を最適化できるためと推察される。
本発明の熱電変換材料はキャリア密度が低いため、高いzTを有する熱電変換材料を提供できる。また、高い出力因子を有する熱電変換材料を提供できる。そのため本発明の熱電変換材料を用いることで、高い熱効率及び高い出力特性を有する熱電変換モジュールを作製することが可能となる。
特に本発明の熱電変換材料では、特定の温度領域のみならず、室温から500℃の領域で出力因子及びzTを高められる。そのため、本発明の熱電変換材料を用いることで、室温付近の低温度からでも比較的高い出力及び高効率の熱電変換が可能となる。装置の運転状況に伴う排熱の温度変動があるときでも、比較的高い出力及び高効率の熱電変換が可能となる。
【0045】
<化合物の製造方法>
以下、本発明の化合物の製造方法は特に限定されない。本発明の化合物の製造方法の好ましい実施形態について説明する。
本発明の一つの側面は、以下に示す化合物の製造方法である。
<1>構成する元素として少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン、及び銀を含む化合物の製造方法であり、
少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン、及び銀を含む原料を混合し、720℃以上で加熱し溶融させる工程と、
溶融体を50℃未満の液体に浸漬させて急冷する工程と、
を含む化合物の製造方法。
<2>構成する元素として少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン、及び銀を含む化合物の製造方法であり、
少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン、及び銀を含む材料を粉末化する工程と、
前記粉末を圧縮加圧しながら、前記粉末にパルス状の電流を通電させることにより、前記粉末間で放電させて加熱をするプラズマ焼結法により粉末化した材料を400℃以上で焼結する工程と、
を含む化合物の製造方法。
<3>構成する元素として少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン、及び銀を含む化合物の製造方法であり、
少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン、及び銀を含む原料を混合し、720℃以上で加熱し溶融させる工程と、
溶融体を50℃未満の液体に浸漬させて急冷してインゴットを得る工程と、
前記インゴットを粉末化する工程と、
前記粉末を圧縮加圧しながら、前記粉末にパルス状の電流を通電させることにより、前記粉末間で放電させて加熱をするプラズマ焼結法により粉末化した材料を400℃以上で焼結する工程と、
を含む化合物の製造方法。
【0046】
≪第1実施形態≫
化合物の製造方法の第1実施形態は、構成する元素として少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含む化合物の製造方法であり、少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含む原料を混合し、720℃以上で加熱し溶融させる工程(以下、「溶融工程」と記載する。)と、溶融体を50℃未満の液体に浸漬させて急冷する工程(以下、「急冷工程」と記載する。)と、を含む。
【0047】
[溶融工程]
溶融工程は、少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含む原料を混合し、720℃以上で加熱し溶融させる工程である。
本実施形態における加熱時の最高温度は720℃以上である。原料を溶融させて均一性を高めるためには、ゲルマニウムの融点よりも高い940℃以上で加熱することが好ましく、銅の融点よりも高い1090℃以上で加熱することがより好ましい。
本発明の別の側面としては、本実施形態における加熱時の最高温度は720℃〜1500℃であることが好ましく、原料を溶融させて均一性を高めるためには、940℃〜1500℃で加熱することがより好ましく、1090℃〜1500℃で加熱することがさらに好ましい。
本実施形態における加熱時の昇温速度は0.5〜1000℃/分であることが好ましく、1〜200℃/分であることがさらに好ましい。
また、加熱は0.1〜100時間行うことが好ましく、0.5〜20時間行うことがさらに好ましい。
溶融方法は特に限定されず、種々の方法を用いることができる。
溶融方法としては、例えば、抵抗発熱体による加熱、高周波誘導分解、アーク溶解、電子ビーム溶解などが挙げられる。
るつぼとしては、グラファイト、アルミナ、コールドクルーシブルなどが、加熱方法に対応して適宜用いられる。
上記の原料や後述のインゴットが空気や液体と触れて変質することを防止するために、原料やインゴットはアルゴン、窒素、真空などの不活性雰囲気で加熱され、後の急冷工程において急冷される。原料を予め不活性雰囲気のアンプル管に詰めて、加熱し、冷却してもよい。
【0048】
[急冷工程]
急冷工程は、ゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含む原料の混合物をテルル化ゲルマニウムの融点である720℃以上の温度で溶融させた前記溶融工程の後に、溶融体を50℃未満の液体に浸漬させて急冷し、ゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含むインゴットを得る工程である。
本実施形態における急冷工程では、前記溶融体の融点以上の温度から急激に100℃以下の温度に下げることが望ましく、100℃以下まで10分間以内で冷却されることが好ましい。より好ましくは5分間以内であり、さらに好ましくは1分間以内である。
上記の液体としては、水、氷水、水を主成分とする溶液、液体窒素、液体空気などの100℃以下で液体となるものを用いることができる。安価で安全性が高いことから、水、氷水、水を主成分とする溶液及びこれらの混合物が好ましい。
【0049】
本実施形態は、上記の急冷工程を有する。前記急冷工程を有することにより、過飽和状態でビスマス、銅、アンチモン、及び銀をテルル化ゲルマニウムにドープすることができると考えられる。このため、本実施形態によれば、化合物中に遍在するビスマスの結晶、銅の結晶、アンチモンの結晶若しくは銀の結晶の最長径が2.0μm未満という小さい元素偏析を達成できると推察される。
これに対し、従来の空冷方法では、テルル化ゲルマニウムの母材にビスマス、銅、アンチモン、若しくは銀が溶解せず、飽和組成を超えたビスマス、銅、アンチモン、若しくは銀が析出してしまうと推察される。ビスマス、銅、アンチモン、若しくは銀が析出すると、ビスマスの結晶、銅の結晶の、アンチモンの結晶、若しくは銀の結晶の最長径が2.0μm以上となる。
【0050】
≪第2実施形態≫
化合物の製造方法の第2実施形態は、構成する元素として少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含む化合物の製造方法であり、ゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含む材料を粉末化する工程(以下、「粉末化工程」と記載する。)と、プラズマ焼結法により400℃以上で焼結する工程(以下、「プラズマ焼結工程」と記載する)と、を含む。
【0051】
[粉末化工程]
粉末化工程は、ゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含む材料を粉末化する工程である。
粉末化工程では、ゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含むインゴットを製造し、前記インゴットをボールミル等で粉砕して粉末化する。インゴットの製造方法としては前記溶融工程、急冷工程を採用することができる。粉末化した微粒子の粒径は特に限定されないが、150μm以下であることが好ましい。
本発明の別の側面としては粉末化した前記微粒子の粒径は0.1μm〜150μmであることが好ましく、0.5μm〜100μmであることがさらに好ましい。
【0052】
[プラズマ焼結工程]
プラズマ焼結工程は、プラズマ焼結法により400℃以上で焼結する工程である。本実施形態における放電プラズマ焼結工程とは、前記粉末化工程で得られたゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含む化合物を粉砕して得られた粉末を圧縮加圧しながら、粉末にパルス状の電流を通電させることにより、粉末間で放電させ、試料を加熱、焼結させて化合物を得る工程である。
【0053】
放電プラズマ焼結工程では通電を止めると加熱が止まり試料は急激に冷却される。組成の偏在を防止して、化合物の熱電変換特性を高めるために、所定の温度で加熱した後に、放電を止めて、冷却することが好ましい。
ゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含む前記化合物が空気と触れて変質することを防止するために、放電プラズマ焼結工程は、アルゴン、窒素、真空などの不活性雰囲気で行うことが好ましい。
【0054】
放電プラズマ焼結工程における加圧は、0〜100MPaの範囲で実施する。高い密度の化合物を得るために10MPa以上とすることが好ましく、30MPa以上とすることがより好ましい。即ち、高い密度の化合物を得るためには、放電プラズマ焼結工程における加圧は10MPa〜100MPaとすることが好ましく、30MPa〜100MPaとすることがより好ましい。
放電プラズマ焼結工程の加熱温度は、ゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含む前記化合物の溶融が始まる温度よりも十分に低いことが好ましく、650℃以下であることが好ましい。さらには600℃以下であることが好ましい。一方、焼結を促進するためには比較的高い温度で加熱することが好ましく、400℃以上であることが好ましい。さらに好ましくは500℃以上である。即ち、放電プラズマ焼結工程の加熱温度は400℃〜650℃であることが好ましく、さらに好ましくは500℃〜600℃である。
放電プラズマ焼結工程の加熱は0.01〜25時間行うことが好ましく、0.05〜10時間行うことがさらに好ましい。
【0055】
本実施形態は、上記の放電プラズマ焼結工程を有する。放電プラズマ焼結工程により、試料が急激に冷却されるため、過飽和状態でビスマス、銅、アンチモン、又は銀をテルル化ゲルマニウムにドープすることができると考えられる。このため、本発明の化合物の第2実施形態によれば、化合物中に遍在するビスマスの結晶、銅の結晶、アンチモンの結晶若しくは銀の結晶の最長径が2.0μm未満という小さい元素偏析を達成できると推察される。
【0056】
≪第3実施形態≫
化合物の製造方法の第3実施形態は、構成する元素として少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含む化合物の製造方法であり、少なくともゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含む原料を混合し、720℃以上で加熱し溶融させる工程と、溶融体を50℃未満の液体に浸漬させて急冷してインゴットを得る工程と、前記インゴットを粉末化する工程と、プラズマ焼結法により400℃以上で焼結する工程と、を含む。
【0057】
本実施形態における、溶融工程、急冷工程、粉末化工程、及びプラズマ焼結工程に関する説明は、前記第1実施形態における溶融工程、急冷工程、及び前記第2実施形態における粉末化工程、及びプラズマ焼結工程における説明と同様である。
本実施形態は、急冷工程と、プラズマ焼結工程とを併用しているため、ビスマスの結晶、銅の結晶、アンチモンの結晶若しくは銀の結晶が析出することなく充分に溶解できると考えられる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明する。尚、化合物の特性及び構造の解析は以下に示す方法を用いた。
【0059】
1.ゼーベック係数
ゼーベック係数α[V/K]、抵抗率ρ[Ω m]の測定には、熱電変換特性評価装置ZEM−3(アルバック理工株式会社製)を用いた。測定に用いる試料は、ダイヤモンドカッターを用いて切り出した。試料の典型的な形状は、高さ6.3mm、幅4mm、奥行き1.7mmとした。温度測定及び電圧測定に用いるR型熱電変換対を高さ方向に2.7mmの間隔で接触させて試料を固定した。ヘリウムガス雰囲気(0.01MPa)中で、試料を所定の温度に加熱した。さらに試料の片端を加熱することで試料の高さ方向に温度差をつけた。このときのR型熱電変換対間の温度差(ΔT)と電圧差(ΔV)とを測定した。温度差(ΔT)は1〜10℃の範囲となるようにした。3点の異なる温度差(ΔT)を与えたときの電圧差(ΔV)を測定した。温度差(ΔT)に対する電圧差(ΔV)の傾きからゼーベック係数αの値を算出した。
【0060】
2.抵抗率
熱電変換特性評価装置ZEM−3(アルバック理工株式会社製)によるゼーベック係数の測定において、抵抗率を直流四端子法にて測定した。
【0061】
3.出力因子
出力因子[W/(m K
2)]は、測定されたゼーベック係数α[V/K]、抵抗率ρ[Ω m]とを用いて前記の式(3)により算出した。
【0062】
4.熱伝導率
熱伝導率κ[W/(m K)]は、熱拡散率λ[m
2/s]、熱容量C
p[J/g]、密度d[g/m
3]から下記式(4)より算出した。
【数4】
【0063】
熱拡散率λ、熱容量C
p及び密度dの測定は、同じ試料を用いて行った。測定に用いる試料は、ダイヤモンドカッターを用いて切り出した。試料の典型的な形状は、4mm×4mm×0.5mmとした。
【0064】
5.熱拡散率
熱拡散率λの測定には、レーザーフラッシュアナライザーLFA457MicroFlash(NETZSCH社製)を用いた。測定時には試料の表面はカーボンスプレーGraphite33(CRC industries Europe社製)にて黒色にコーティングした。
【0065】
6.熱容量
熱容量C
pの測定には、EXSTAR DSC 7020(SIIナノテクノロジー社製)を用いた。
【0066】
7.密度
密度dの測定には、20℃で水を液体としたアルキメデス法により、密度測定キット(メトラー・トレド社製)を用いた。
【0067】
8.熱電変換性能指数z
熱電変換性能指数z[1/K]は、zTとして絶対温度Tにおけるゼーベック係数α[V/K]、抵抗率ρ[Ωm]、熱伝導率κ[W/(m K)]より前記式(2)を用いて算出した。
【0068】
9.結晶構造解析
結晶構造の解析として、粉末X線回折測定装置RINT TTR−III(株式会社リガク製)を用いて、下記の条件で粉末X線回折測定し、粉末X線回折パターンを得た。粉末X線回折パターンから、テルル化ゲルマニウムに由来するXRDピークの最大強度I(GeTe)とゲルマニウム金属に由来するXRDピークの最大強度I(Ge)との強度比I(Ge)/I(GeTe)を計算した。
測定装置: 粉末X線回折測定装置RINT TTR−III(株式会社リガク製)
X線発生器: CuKα線源 電圧30kV、電流400mA
スリット: 可変スリット(集中法)スリット幅2mm
X線検出器: シンチレーションカウンタ
測定範囲: 回折角2θ=10°〜90°
試料準備: 乳鉢粉砕による粉末化
試料台 : 専用のガラス基板 深さ0.2mm
【0069】
10.組成分布の解析
化合物の組成分布の解析として、エネルギー分散形X線分光器 Bruker AXS XFlashDetector 5030(Bruker AXS社製)を装備した走査型電子顕微鏡 JEOL ISM−6701F(JEOL社製)を用いて下記の条件で、組成分布を得た。試料の表面は予め鏡面上になるまで研磨し、ラッピングフィルムシート1μm(3M社製)による湿式研磨で仕上げた。
SEM: JEOL ISM6701F(JEOL社製)
加速電圧15kV、電流20μA
EDX: XFlash Detector 5030(Bruker AXS社製)
解析ソフト: QUANTAX200(Bruker AXS社製)
【0070】
11.結晶ドメインの解析
結晶ドメインの解析は、1nm径の電子プローブを備えた透過型電子顕微鏡 JEOL JEM2800(JEOL社製)を用いて行い、加速電圧200kVにて、STEMモードで、R3m構造のab面に相当する面のTEM像を得た。試料は予め適切に薄片化し、イオンミリング GatanPIPS(Gatan社製)を用いて、室温にて加速電圧2kVのArイオンビームで仕上げた。
【0071】
12.キャリア密度
キャリア密度p[cm
−3]の測定には、物理特性測定装置PPMS(Quantum Design社製)及び専用のDC抵抗サンプルパックによる5端子ホール測定を用いた。試料の典型的な形状は、長さ6mm×奥行き2mm×厚さ0.4mmとした。
ホール測定は、試料を所定の温度として、試料面に垂直に−5T〜5Tの範囲で磁場を印加してホール抵抗を測定することにより行った。磁場に対するホール抵抗の傾きよりホール係数を算出し、さらにホール係数よりキャリア密度を計算した。
【0072】
<実施例1>
実施例1では、ゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含む化合物を、(1)急冷工程と(2)放電プラズマ焼結工程とを経て得た。
【0073】
(1)急冷工程
原料として、ゲルマニウム(フルウチ化学社製、粉末100メッシュ、純度99.999%以上)、テルル(大阪アサヒメタル社製、粒状、6NS−2 GRADE)、ビスマス(大阪アサヒメタル社製、粒状、6N GRADE)、銅(高純度化学研究所社製、粉末850μmパス、純度99.999%以上)、アンチモン(大阪アサヒメタル社製、6N GRADE S−2)、銀(フルウチ化学社製、粉末300メッシュ、純度99.99%以上)を用いた。
実施例1では、組成として化学式Ge
1+a−b−c−d−e Bi
b Cu
c Sb
dAg
eTeにおいてa=0.00、b=0.04、c=0.04、d=0.13、e=0.13となるように秤量し、メノウ乳鉢を用いて混合物を得た。次いで、2.5gの混合物を石英アンプル(内径5mm、外径6mm)に詰めて、3×10
−4Pa以下の減圧下で、封入した。石英アンプルを電気炉中にて950℃まで加熱し、混合物を溶融させた。950℃まで5℃/分で昇温し、5時間保持した。
急冷工程では、950℃の電気炉内から石英アンプルを取り出し、直後に室温の水中に投入した。このとき石英アンプル中の混合物は急冷されて、溶融状態から急激に固化しインゴットとなった。950℃の溶融状態から100℃以下になるまで1分間以内で冷却した。石英アンプルからインゴットを回収した。
【0074】
(2)放電プラズマ焼結工程
放電プラズマ焼結工程には、放電プラズマ焼結装置 ドクターシンターラボ SPS−511S(富士電波工機社製)を用いた。急冷工程で得られたインゴットを乳鉢粉砕により粉末にした。粉末を専用のカーボン製ダイに詰めて、下記の条件にて放電プラズマ焼結をすることで、化合物を得た。加熱は10分間行った。
装 置: ドクターシンターラボSPS−511S(富士電波工機社製)
試 料: 粉末 2.5g
ダ イ: 専用のカーボン製ダイ 内径10mmφ
雰囲気: アルゴン0.05MPa
圧 力: 40MPa(3.1kN)
加 熱: 550℃ 10分間
【0075】
実施例1の化合物の組成、キャリア密度、及び組成偏析を表1に示す。
【0076】
(結晶構造解析)
実施例1の化合物の粉末X線回折パターンから、テルル化ゲルマニウムに由来するピークのみが観察された。ゲルマニウム金属に由来するピークは観察されなかった。
【0077】
(組成偏析)
実施例1の化合物の組成分布を
図2に示す。ビスマス、銅、アンチモン及び銀の偏析の最長径は0.2μm未満であった。
【0078】
(キャリア密度)
実施例1の10Kにおけるキャリア密度は5.3×10
20cm
−3であった。
【0079】
(熱電変換特性)
実施例1の化合物の熱電変換物性の温度依存性を
図5に示す。実施例1の化合物の熱電変換特性として出力因子とzTを表2に、熱電変換物性の温度依存性を表3に示す。
【0080】
<実施例2>
実施例2の化合物は、組成を変えた以外は実施例1と同様に(1)急冷工程と(2)放電プラズマ焼結工程とを経て得た。
【0081】
(1)急冷工程
実施例2では、組成として化学式Ge
1+a−b−c−d−e Bi
b Cu
c Sb
d
Ag
eTeにおいてa=0.02、b=0.04、c=0.02、d=0.13、e=0.13とした以外は、実施例1と同様の急冷工程を実施して、インゴットを得た。
【0082】
(2)放電プラズマ焼結工程
実施例2のインゴットを用いた以外は、実施例1と同様の放電プラズマ焼結工程を実施して、化合物を得た。
【0083】
実施例2の化合物の組成、キャリア密度、及び組成偏析を表1に示す。
【0084】
(結晶構造解析)
実施例2の化合物の粉末X線回折パターンから、テルル化ゲルマニウムに由来するピークのみが観察された。ゲルマニウム金属に由来するピークは観察されなかった。
【0085】
(組成偏析)
実施例2の化合物の組成分布を
図3に示す。ビスマス、銅、アンチモン及び銀の偏析の最長径は0.2μm未満であった。
【0086】
(キャリア密度)
実施例2の10Kにおけるキャリア密度は4.7×10
20cm
−3であった。
【0087】
(熱電変換特性)
実施例2の化合物の熱電変換物性の温度依存性を
図5に示す。実施例2の化合物の熱電変換特性として出力因子とzTを表2に、熱電変換物性の温度依存性を表3に示す。
【0088】
<比較例1>
比較例1として、ゲルマニウム、テルル、アンチモン及び銀を含む化合物を、実施例1と同様に(1)急冷工程と(2)放電プラズマ焼結工程とを経て得た。比較例1ではビスマスと銅を組成に含んでいないことが実施例1〜2と異なる。
【0089】
(1)急冷工程
比較例1では、組成として化学式Ge
1+a−b−c−d−e Bi
b Cu
c Sb
dAg
eTeにおいてa=0.00、b=0.00、c=0.00、d=0.13、e=0.13とした以外は、実施例1と同様の急冷工程を実施して、インゴットを得た。
【0090】
(2)放電プラズマ焼結工程
比較例1のインゴットを用いた以外は、実施例1と同様の放電プラズマ焼結工程を実施して、化合物を得た。
【0091】
比較例1の化合物の組成、キャリア密度、及び組成偏析を表1に示す。
【0092】
(結晶構造解析)
比較例1の化合物の粉末X線回折パターンから、テルル化ゲルマニウムに由来するピークのみが観察された。ゲルマニウム金属に由来するピークは観察されなかった。
【0093】
(組成偏析)
比較例1の化合物の組成分布を
図4に示す。アンチモン及び銀の偏析の最長径は0.2μm未満であった。
【0094】
(キャリア密度)
比較例1の10Kにおけるキャリア密度は1.8×10
21cm
−3であった。
【0095】
(熱電変換特性)
比較例1の化合物の熱電変換物性の温度依存性を
図5に示す。比較例1の化合物の熱電変換特性として出力因子とzTを表2に、熱電変換物性の温度依存性を表3に示す。
【0096】
実施例1〜2と比較例1の化合物の組成と材料物性とを表1にまとめた。
実施例1〜2で得られたゲルマニウム、テルル、ビスマス、銅、アンチモン及び銀を含む化合物のキャリア密度は、比較例1で得られたゲルマニウム、テルル、アンチモン及び銀を含む化合物のキャリア密度よりも低かった。
【0097】
実施例1〜2と比較例1の化合物の組成偏析は、ビスマス、銅、アンチモン及び銀において0.2μm未満であった。実施例1〜2と比較例1の化合物の粉末X線回折パターンから、テルル化ゲルマニウムに由来するピークのみが観察され、ゲルマニウム金属に由来するピークは観察されなかった。
【0098】
実施例1〜2と比較例1の化合物の熱電変換特性として出力因子とzTを
図5で比較し、表2にまとめた。
【0099】
実施例1の出力因子とzTは、25℃〜500℃の範囲で、比較例1よりも高い値が得られた。実施例1の熱電変換特性(出力因子とzT)の温度依存性はいずれも比較例1よりも小さかった。即ち実施例1では、高温で比較的高い熱電変換特性を備えていながら、温度依存性が小さく、低温においても高い熱電変換特性を有する化合物が得られた。
【0100】
実施例2の出力因子は、25℃〜350℃の範囲で、比較例1よりも高い値が得られ、350℃〜500℃の範囲で実施例2と比較例1の出力因子はほぼ同等であった。実施例2のzTは、25℃〜500℃の範囲で、比較例1よりも高い値が得られた。実施例2の熱電変換特性(出力因子とzT)の温度依存性はいずれも比較例1よりも小さかった。即ち実施例2では、高温での比較的高い熱電変換特性を備えていながら、温度依存性が小さく、低温においても高い熱電変換特性を有する化合物が得られた。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】