特許第6873208号(P6873208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6873208位相差フィルムおよびその製造方法、ならびに、該位相差フィルムを用いた円偏光板および画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873208
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】位相差フィルムおよびその製造方法、ならびに、該位相差フィルムを用いた円偏光板および画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20210510BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20210510BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20210510BHJP
   C08L 33/12 20060101ALI20210510BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20210510BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20210510BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20210510BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   G02B5/30
   G09F9/30 349E
   G09F9/00 313
   C08L33/12
   C08L69/00
   H05B33/02
   H05B33/14 A
   H01L27/32
【請求項の数】11
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2019-191682(P2019-191682)
(22)【出願日】2019年10月21日
(65)【公開番号】特開2021-67762(P2021-67762A)
(43)【公開日】2021年4月30日
【審査請求日】2021年3月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 寛教
(72)【発明者】
【氏名】清水 享
(72)【発明者】
【氏名】中西 貞裕
(72)【発明者】
【氏名】飯田 敏行
(72)【発明者】
【氏名】並木 慎悟
【審査官】 横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−077523(JP,A)
【文献】 特開2016−113579(JP,A)
【文献】 特開2016−176984(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/061677(WO,A1)
【文献】 国際公開第2019/188743(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G09F 9/00、9/30
C08L 69/00
H05B 33/00−28
H01L 51/50
H01L 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボネート結合およびエステル結合からなる群から選択される少なくとも1つの結合基と、下記一般式(1)で表される構造単位および下記一般式(2)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位とを含み、正の屈折率異方性を有する樹脂と;アクリル系樹脂と;を含有し、
該アクリル系樹脂の含有量が0.5質量%〜2.0質量%であり、
該アクリル系樹脂が、メタクリル酸メチル由来の構造単位を70質量%以上含有し、その重量平均分子量Mwが10,000〜200,000であり、
Re(550)が100nm〜200nmであり、Re(450)/Re(550)が0.5を超えて1.0未満である、位相差フィルム:
【化1】
【化2】
一般式(1)および(2)中、R〜Rは、それぞれ独立に、直接結合、置換または非置換の炭素数1〜4のアルキレン基であり、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換または非置換の炭素数1〜10のアルキル基、置換または非置換の炭素数4〜10のアリール基、置換または非置換の炭素数1〜10のアシル基、置換または非置換の炭素数1〜10のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数1〜10のアリールオキシ基、置換または非置換のアミノ基、置換または非置換の炭素数1〜10のビニル基、置換または非置換の炭素数1〜10のエチニル基、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、またはシアノ基であり;ただし、R〜Rは、互いに同一であっても、異なっていてもよく、 R〜Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよく;
Re(550)は、23℃における波長550nmの光で測定したフィルムの面内位相差であり、Re(450)は、23℃における波長450nmの光で測定したフィルムの面内位相差である。
【請求項2】
前記正の屈折率異方性を有する樹脂が、前記一般式(1)で表される構造単位および前記一般式(2)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位を1質量%〜40質量%含有する、請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記正の屈折率異方性を有する樹脂が、下記一般式(3)で表される構造単位をさらに含む、請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【化3】
【請求項4】
前記正の屈折率異方性を有する樹脂が、下記一般式(4)で表される構造単位をさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の位相差フィルム。
【化4】
【請求項5】
ヘイズ値が1.5%以下である、請求項1から4のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項6】
破断伸びが200%以上である、請求項1から5のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項7】
限界複屈折Δnが0.0039以上である、請求項1から6のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の位相差フィルムの製造方法であって、
前記正の屈折率異方性を有する樹脂と前記アクリル系樹脂とを含有する樹脂フィルムを延伸することを含み、
該延伸が、該正の屈折率異方性を有する樹脂のガラス転移温度以下の温度で行われる、
方法。
【請求項9】
前記延伸が、長尺状の前記樹脂フィルムを長尺方向に搬送しながら行われ、
得られる長尺状の位相差フィルムの遅相軸方向が、長尺方向に対して40°〜50°または130°〜140°の方向である、
請求項8に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項10】
偏光子と請求項1から7のいずれかに記載の位相差フィルムとを有し、
該偏光子の吸収軸と該位相差フィルムの遅相軸とのなす角度が40°〜50°または130°〜140°である、
円偏光板。
【請求項11】
請求項10に記載の円偏光板を視認側に備え、該円偏光板の偏光子が視認側に配置されている、画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムおよびその製造方法、ならびに、該位相差フィルムを用いた円偏光板および画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンに代表されるスマートデバイス、またデジタルサイネージやウィンドウディスプレイなどの表示装置が強い外光の下使用される機会が増加している。それに伴い、表示装置自体または表示装置に用いられるタッチパネル部やガラス基板、金属配線等の反射体による外光反射や背景の映り込み等の問題が生じている。特に、近年実用化されてきている有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置は、反射性の高い金属層を有するため、外光反射や背景の映り込み等の問題を生じやすい。そこで、位相差フィルム(代表的にはλ/4板)を有する円偏光板を視認側に反射防止フィルムとして設けることにより、これらの問題を防ぐことが知られている。さらに、可視領域の各波長において良好な位相差特性を実現するために、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる、いわゆる逆分散の波長依存性を示す位相差フィルム(以下、単に逆分散位相差フィルムと称する場合がある)の開発が進められている。逆分散位相差フィルムの開発においては、さらなる特性改善のために継続的な検討が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3325560号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主たる目的は、伸張性および位相差発現性に優れ、かつ、ヘイズの小さい逆分散位相差フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の位相差フィルムは、カーボネート結合およびエステル結合からなる群から選択される少なくとも1つの結合基と、下記一般式(1)で表される構造単位および下記一般式(2)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位とを含み、正の屈折率異方性を有する樹脂と;アクリル系樹脂と;を含有する。該アクリル系樹脂の含有量は0.5質量%〜2.0質量%である。また、該アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル由来の構造単位を70質量%以上含有し、その重量平均分子量Mwは10,000〜200,000である。さらに、位相差フィルムのRe(550)は100nm〜200nmであり、Re(450)/Re(550)は0.5を超えて1.0未満である。
【化1】
【化2】
一般式(1)および(2)中、R〜Rは、それぞれ独立に、直接結合、置換または非置換の炭素数1〜4のアルキレン基であり、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換または非置換の炭素数1〜10のアルキル基、置換または非置換の炭素数4〜10のアリール基、置換または非置換の炭素数1〜10のアシル基、置換または非置換の炭素数1〜10のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数1〜10のアリールオキシ基、置換または非置換のアミノ基、置換または非置換の炭素数1〜10のビニル基、置換または非置換の炭素数1〜10のエチニル基、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、またはシアノ基であり;ただし、R〜Rは、互いに同一であっても、異なっていてもよく、 R〜Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。Re(550)は、23℃における波長550nmの光で測定したフィルムの面内位相差であり、Re(450)は、23℃における波長450nmの光で測定したフィルムの面内位相差である。
1つの実施形態においては、上記正の屈折率異方性を有する樹脂は、上記一般式(1)で表される構造単位および上記一般式(2)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位を1質量%〜40質量%含有する。
1つの実施形態においては、上記正の屈折率異方性を有する樹脂は、下記一般式(3)で表される構造単位をさらに含む。
【化3】
1つの実施形態においては、上記正の屈折率異方性を有する樹脂は、下記一般式(4)で表される構造単位をさらに含む。
【化4】
1つの実施形態においては、上記位相差フィルムは、ヘイズ値が1.5%以下である。
1つの実施形態においては、上記位相差フィルムは、破断伸びが200%以上である。
1つの実施形態においては、上記位相差フィルムは、限界複屈折Δnが0.0039以上である。
本発明の別の局面によれば、上記位相差フィルムの製造方法が提供される。この製造方法は、上記正の屈折率異方性を有する樹脂と上記アクリル系樹脂とを含有する樹脂フィルムを延伸することを含み、該延伸は、該正の屈折率異方性を有する樹脂のガラス転移温度以下の温度で行われる。
1つの実施形態においては、上記延伸は、長尺状の前記樹脂フィルムを長尺方向に搬送しながら行われ、得られる長尺状の位相差フィルムの遅相軸方向は、長尺方向に対して40°〜50°または130°〜140°の方向である。
本発明のさらに別の局面によれば、円偏光板が提供される。この円偏光板は、偏光子と上記の位相差フィルムとを有し、該偏光子の吸収軸と該位相差フィルムの遅相軸とのなす角度は40°〜50°または130°〜140°である。
本発明のさらに別の局面によれば、画像表示装置が提供される。この画像表示装置は、上記の円偏光板を視認側に備え、該円偏光板の偏光子が視認側に配置されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、特定の正の屈折率異方性を有する樹脂(代表的には、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂またはポリエステルカーボネート系樹脂)とアクリル系樹脂とを含有することにより、伸張性および位相差発現性に優れ、かつ、ヘイズの小さい逆分散位相差フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の1つの実施形態による円偏光板の概略断面図である。
図2】本発明の別の実施形態による円偏光板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の代表的な実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定したフィルムの面内位相差である。例えば、「Re(450)」は、23℃における波長450nmの光で測定したフィルムの面内位相差である。Re(λ)は、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、式:Re=(nx−ny)×dによって求められる。
(3)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定したフィルムの厚み方向の位相差である。例えば、「Rth(450)」は、23℃における波長450nmの光で測定したフィルムの厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、式:Rth=(nx−nz)×dによって求められる。
(4)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
(5)角度
本明細書において角度に言及するときは、特に明記しない限り、当該角度は時計回りおよび反時計回りの両方の方向の角度を包含する。
【0010】
A.位相差フィルム
A−1.位相差フィルムの構成材料
本発明の実施形態による位相差フィルムは、カーボネート結合およびエステル結合からなる群から選択される少なくとも1つの結合基を含む樹脂を含有する。言い換えれば、位相差フィルムは、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂またはポリエステルカーボネート系樹脂(以下、これらをまとめてポリカーボネート系樹脂等と称する場合がある)を含有する。ポリカーボネート系樹脂等は、上記一般式(1)で表される構造単位および/または上記一般式(2)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1つの構造単位を含む。これらの構造単位は、2価のオリゴフルオレンに由来する構造単位であり、以下、オリゴフルオレン構造単位と称する場合がある。このようなポリカーボネート系樹脂等は、正の屈折率異方性を有する。
【0011】
位相差フィルムは、アクリル系樹脂をさらに含有する。アクリル系樹脂の含有量は0.5質量%〜1.5質量%である。なお、本明細書において「質量」単位の百分率または部は、「重量」単位の百分率または部と同義である。
【0012】
A−1−1.ポリカーボネート系樹脂等
<オリゴフルオレン構造単位>
オリゴフルオレン構造単位は、上記一般式(1)または(2)で表される。一般式(1)および(2)中、R〜Rは、それぞれ独立に、直接結合、置換または非置換の炭素数1〜4のアルキレン基であり、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換または非置換の炭素数1〜10のアルキル基、置換または非置換の炭素数4〜10のアリール基、置換または非置換の炭素数1〜10のアシル基、置換または非置換の炭素数1〜10のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数1〜10のアリールオキシ基、置換または非置換のアミノ基、置換または非置換の炭素数1〜10のビニル基、置換または非置換の炭素数1〜10のエチニル基、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、またはシアノ基である。ただし、R〜Rは、互いに同一であっても、異なっていてもよく、 R〜Rのうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0013】
およびRとしては、例えば、以下のアルキレン基を採用することができる:メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基等の直鎖状のアルキレン基;メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチルメチレン基、プロピルメチレン基、(1−メチルエチル)メチレン基、1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基、1−エチルエチレン基、2−エチルエチレン基、1−メチルプロピレン基、2−メチルプロピレン基、1,1−ジメチルエチレン基、2,2−ジメチルプロピレン基、3−メチルプロピレン基等の分岐鎖を有するアルキレン基。ここで、RおよびRにおける分岐鎖の位置は、フルオレン環側の炭素が1位となるように付与した番号により示す。
【0014】
およびRの選択は、逆分散波長依存性の発現に関係し得る。ポリカーボネート系樹脂等は、フルオレン環が主鎖方向(延伸方向)に対して垂直に配向した状態において、最も強い逆分散波長依存性を示す。フルオレン環の配向状態をこのような状態に近づけ、強い逆分散波長依存性を発現させるためには、アルキレン基の主鎖上の炭素数が2〜3であるRおよびRを採用することが好ましい。炭素数が1の場合は意外にも逆分散波長依存性を示さない場合がある。この要因としては、オリゴフルオレン構造単位の連結基であるカーボネート基および/またはエステル基の立体障害によって、フルオレン環の配向が主鎖方向に対して垂直ではない方向に固定化されてしまうこと等が考えられる。一方、炭素数が多すぎる場合は、フルオレン環の配向の固定が弱くなることで、逆分散波長依存性が不十分となるおそれがある。さらに、ポリカーボネート系樹脂等の耐熱性が低下する場合がある。
【0015】
としては、例えば、以下のアルキレン基を採用することができる:メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基等の直鎖状のアルキレン基;メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチルメチレン基、プロピルメチレン基、(1−メチルエチル)メチレン基、1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基、1−エチルエチレン基、2−エチルエチレン基、1−メチルプロピレン基、2−メチルプロピレン基、1,1−ジメチルエチレン基、2,2−ジメチルプロピレン基、3−メチルプロピレン基等の分岐鎖を有するアルキレン基。Rは、アルキレン基の主鎖上の炭素数が1〜2であることが好ましく、炭素数が1であることがより好ましい。主鎖上の炭素数が多すぎる場合は、RおよびRの場合と同様にフルオレン環の固定化が弱まり、逆分散波長依存性の低下、光弾性係数の増加、耐熱性の低下等を招くおそれがある。一方、主鎖上の炭素数は少ない方が光学特性および耐熱性は良好であるが、二つのフルオレン環の9位が直接結合でつながる場合は熱安定性が悪化する場合がある。
【0016】
〜Rにおける置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子);メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基;アセチル基、ベンゾイル基等の炭素数1〜10のアシル基;アセトアミド基、ベンゾイルアミド基等の炭素数1〜10のアシルアミノ基;ニトロ基;シアノ基;前記ハロゲン原子、前記アルコキシ基、前記アシル基、前記アシルアミノ基、前記ニトロ基、前記シアノ基等により1〜3個の水素原子が置換されていてもよい、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基。
【0017】
〜Rにおける置換または非置換のアルキル基としては、例えば、以下のアルキル基を採用することができる:メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル、n−デシル等の直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、2−メチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、2−エチルヘキシル基等の分岐鎖を有するアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の環状のアルキル基。アルキル基の炭素数は、4以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。炭素数がこの範囲内であると、フルオレン環同士の立体障害が生じにくく、フルオレン環に由来する所望の光学特性が得られやすい。アルキル基の置換基としては、R〜Rについて上記した置換基が挙げられる。
【0018】
〜Rにおける置換または非置換のアリール基としては、例えば、以下のアリール基を採用することができる:フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のアリール基;2−ピリジル基、2−チエニル基、2−フリル基等のヘテロアリール基。アリール基の炭素数は、8以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましい。炭素数がこの範囲内であると、フルオレン環同士の立体障害が生じにくく、フルオレン環に由来する所望の光学特性が得られやすい。アリール基の置換基としては、R〜Rについて上記した置換基が挙げられる。
【0019】
〜Rにおける置換または非置換のアシル基としては、例えば、以下のアシル基を採用することができる:ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、2−メチルプロピオニル基、2,2−ジメチルプロピオニル基、2−エチルヘキサノイル基等の脂肪族アシル基;ベンゾイル基、1−ナフチルカルボニル基、2−ナフチルカルボニル基、2−フリルカルボニル基等の芳香族アシル基。アシル基の炭素数は、4以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。炭素数がこの範囲内であると、フルオレン環同士の立体障害が生じにくく、フルオレン環に由来する所望の光学特性が得られやすい。アシル基の置換基としては、R〜Rについて上記した置換基が挙げられる。
【0020】
〜Rにおける置換または非置換のアルコキシ基またはアリールオキシ基としては、例えば、以下を採用することができる:メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、トリフルオロメトキシ基、フェノキシ基。アルコキシ基またはアリールオキシ基の炭素数は、4以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。炭素数がこの範囲内であると、フルオレン環同士の立体障害が生じにくく、フルオレン環に由来する所望の光学特性が得られやすい。アルコキシ基またはアリールオキシ基の置換基としては、R〜Rについて上記した置換基が挙げられる。
【0021】
〜Rにおける置換または非置換のアミノ基としては、例えば、以下のアミノ基を採用することができる:アミノ基;N−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−メチルエチルアミノ基、N−プロピルアミノ基、N,N−ジプロピルアミノ基、N−イソプロピルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基等の脂肪族アミノ基;N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基等の芳香族アミノ基;ホルムアミド基、アセトアミド基、デカノイルアミド基、ベンゾイルアミド基、クロロアセトアミド基等のアシルアミノ基;ベンジルオキシカルボニルアミノ基、tert−ブチルオキシカルボニルアミノ基等のアルコキシカルボニルアミノ基。N,N−ジメチルアミノ基、N−エチルアミノ基、またはN,N−ジエチルアミノ基が好ましく、N,N−ジメチルアミノ基がより好ましい。これらは、酸性度の高いプロトンを有さず、分子量が小さく、フルオレン比率を高めることができる。
【0022】
〜Rにおける置換または非置換のビニル基またはエチニル基としては、例えば、以下を採用することができる:ビニル基、2−メチルビニル基、2,2−ジメチルビニル基、2−フェニルビニル基、2−アセチルビニル基、エチニル基、メチルエチニル基、tert−ブチルエチニル基、フェニルエチニル基、アセチルエチニル基、トリメチルシリルエチニル基。ビニル基またはエチニル基の炭素数は、4以下であることが好ましい。炭素数がこの範囲内であると、フルオレン環同士の立体障害が生じにくく、フルオレン環に由来する所望の光学特性が得られやすい。また、フルオレン環の共役系が長くなることにより、より強い逆分散波長依存性を得やすくなる。
【0023】
〜Rにおける置換基を有する硫黄原子としては、例えば、以下の硫黄含有基を採用することができる:スルホ基;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基等のアルキルスルホニル基;フェニルスルホニル基、p−トリルスルホニル基等のアリールスルホニル基;メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、プロピルスルフィニル基、イソプロピルスルフィニル基等のアルキルスルフィニル基;フェニルスルフィニル基、p−トリルスルフィニル基等のアリールスルフィニル基;メチルチオ基、エチルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基、p−トリルチオ基等のアリールチオ基;メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基等のアルコキシスルホニル基;フェノキシスルホニル基等のアリールオキシスルホニル基;アミノスルホニル基;N−メチルアミノスルホニル基、N−エチルアミノスルホニル基、N−tert−ブチルアミノスルホニル基、N,N−ジメチルアミノスルホニル基、N,N−ジエチルアミノスルホニル基等のアルキルスルホニル基;N−フェニルアミノスルホニル基、N,N−ジフェニルアミノスルホニル基等のアリールアミノスルホニル基。なお、スルホ基は、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アンモニウム等と塩を形成していてもよい。メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、またはフェニルスルフィニル基が好ましく、メチルスルフィニル基がより好ましい。これらは、酸性度の高いプロトンを有さず、分子量が小さく、フルオレン比率を高めることができる。
【0024】
〜Rにおける置換基を有するケイ素原子としては、例えば、以下のシリル基を採用することができる:トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等のトリアルキルシリル基;トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基。トリアルキルシリル基が好ましい。安定性および取扱い性に優れるからである。
【0025】
ポリカーボネート系樹脂等におけるオリゴフルオレン構造単位の含有量は、樹脂全体に対して、好ましくは1質量%〜40質量%であり、より好ましくは10質量%〜35質量%であり、さらに好ましくは15質量%〜30質量%であり、特に好ましくは18質量%〜25質量%である。オリゴフルオレン構造単位の含有量が多すぎる場合、光弾性係数が大きくなりすぎる、信頼性が不十分となる、位相差発現性が不十分となるといった問題が生じるおそれがある。さらに、オリゴフルオレン構造単位が樹脂中に占める割合が高くなるため、分子設計の幅が狭くなり、樹脂の改質が求められた時に改良が困難となる場合がある。一方、仮に、非常に少量のオリゴフルオレン構造単位により所望の逆分散波長依存性が得られたとしても、この場合には、オリゴフルオレン構造単位の含有量のわずかなばらつきに応じて光学特性が敏感に変化するので、諸特性が一定の範囲に収まるように製造することが困難となる場合がある。
【0026】
樹脂中のオリゴフルオレン構造単位の比率を調節する方法としては、例えば、オリゴフルオレン構造単位を有するモノマーと他のモノマーを共重合する方法や、オリゴフルオレン構造単位を含有する樹脂と他の樹脂とをブレンドする方法が挙げられる。オリゴフルオレン構造単位の含有量を精密に制御でき、かつ、高い透明性が得られ、フィルムの面全体において均一な特性が得られることから、オリゴフルオレン構造単位を有するモノマーと他のモノマーを共重合する方法が好ましい。
【0027】
<他の構造単位>
ポリカーボネート系樹脂等は、代表的には、オリゴフルオレン構造単位に加えて他の構造単位を含み得る。1つの実施形態においては、他の構造単位は、好ましくはジヒドロキシ化合物またはジエステル化合物由来であり得る。目的とする逆波長分散性を発現させるためには、負の固有複屈折を有するオリゴフルオレン構造単位とともに、正の固有複屈折を有する構造単位をポリマー構造に組み込む必要があるため、共重合する他のモノマーとしては、正の複屈折を有する構造単位の原料となるジヒドロキシ化合物又はジエステル化合物がさらに好ましい。
【0028】
共重合モノマーとしては、芳香族環を含む構造単位を導入可能な化合物と、芳香族環を含む構造単位を導入しない、即ち脂肪族構造で構成される化合物が挙げられる。
前記脂肪族構造で構成される化合物の具体例を以下に挙げる。エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール等の直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物;ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等の分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物;1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−アダマンタンジオール、水添ビスフェノールA、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール等に例示される、脂環式炭化水素の2級アルコール、及び3級アルコールであるジヒドロキシ化合物;1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノール、リモネン等の、テルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等に例示される、脂環式炭化水素の1級アルコールであるジヒドロキシ化合物;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシアルキレングリコール類;イソソルビド等の環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物;スピログリコール、ジオキサングリコール等の環状アセタール構造を有するジヒドロキシ化合物;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸。
前記芳香族環を含む構造単位を導入可能な化合物の具体例を以下に挙げる。2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3−フェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4−ヒドロキシ−3−ニトロフェニル)メタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,3−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル)ベンゼン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル等の芳香族ビスフェノール化合物;2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等の芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物;テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸。
尚、上記で挙げた脂肪族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸成分はジカルボン酸そのものとして前記ポリエステルカーボネートの原料とすることができるが、製造法に応じて、メチルエステル体、フェニルエステル体等のジカルボン酸エステルや、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体を原料とすることもできる。
【0029】
共重合モノマーとして、負の複屈折を有する構造単位を有する化合物として従来より知られている、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のフルオレン環を有するジヒドロキシ化合物や、フルオレン環を有するジカルボン酸化合物もオリゴフルオレン化合物と組み合わせて用いることができる。
【0030】
光学特性の観点からは、本発明に用いられる樹脂は、オリゴフルオレン構造単位以外の構造単位として、芳香族成分を含有しないものを用いることが好ましい。即ち、脂肪族構造で構成される化合物を共重合モノマーとして用いることが好ましい。ポリマーの主鎖に芳香族成分が含まれていると、オリゴフルオレン構造単位により発現する逆波長分散性が相殺されるため、オリゴフルオレン構造単位の含有量を増やさなければならなくなり、それにより、光弾性係数や機械物性が悪化する懸念がある。芳香族成分を含有しない前記その他の構造単位を採用することにより、当該構造単位に由来して主鎖に芳香族成分が組み込まれることを防止できる。脂肪族構造で構成される化合物の中でも、機械物性や耐熱性に優れる、脂環式構造を有する化合物がさらに好ましい。
【0031】
一方、光学特性を確保しつつ、耐熱性や機械特性等とのバランスをとるために、ポリマーの主鎖や側鎖に芳香族成分を組み込むことが有効な場合もある。諸特性のバランスをとる観点から、前記樹脂における、芳香族基を含む構造単位(但し、オリゴフルオレン構造単位を除く。)の含有量が5質量%以下であることが好ましい。
【0032】
本発明に用いられる樹脂は、前記脂環式構造を有する化合物によって導入可能な構造単位の中でも、共重合成分として下記式(3)で表される構造単位を含有することが好ましい。
【化5】
【0033】
前記式(3)の構造単位を導入可能なジヒドロキシ化合物としては、スピログリコールを用いることができる。
【0034】
本発明に用いられる樹脂において、前記式(3)で表される構造単位は5質量%以上、90質量%以下含有されていることが好ましい。上限は70質量%以下がさらに好ましく、50質量%以下が特に好ましい。下限は10質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上が特に好ましい。前記式(3)で表される構造単位の含有量が前記下限以上であれば、十分な機械物性や耐熱性、低い光弾性係数が得られる。さらに、アクリル系樹脂との相溶性が向上し、得られる樹脂組成物の透明性をさらに向上することができる。また、スピログリコールは重合反応の速度が比較的に遅いため、含有量を前記上限以下に抑えることで、重合反応を制御しやすくなる。
【0035】
本発明に用いられる樹脂は、共重合成分としてさらに下記式(4)で表される構造単位を含有することが好ましい。
【化6】
【0036】
前記式(4)で表される構造単位を導入可能なジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド(ISB)、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
本発明に用いられる樹脂において、前記式(4)で表される構造単位は5質量%以上、90質量%以下含有されていることが好ましい。上限は70質量%以下がさらに好ましく、50質量%以下が特に好ましい。下限は10質量%以上がさらに好ましく、15質量%以上が特に好ましい。前記式(4)で表される構造単位の含有量が前記下限以上であれば、十分な機械物性や耐熱性、低い光弾性係数が得られる。また、前記式(4)で表される構造単位は吸水性が高い特性があるため、前記式(4)で表される構造単位の含有量が前記上限以下であれば、吸水による成形体の寸法変化を許容範囲に抑えることができる。
【0038】
本発明に用いられる樹脂は、さらに別の構造単位を含んでいてもよい。尚、かかる構造単位を「その他の構造単位」と称することがある。その他の構造単位を有するモノマーとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(及びその誘導体)を採用することがより好ましく、1,4−シクロヘキサンジメタノールとトリシクロデカンジメタノールが特に好ましい。これらのモノマーに由来する構造単位を含む樹脂は、光学特性や耐熱性、機械特性等のバランスに優れている。また、ジエステル化合物の重合反応性は比較的低いため、反応効率を高める観点から、オリゴフルオレン構造単位を含有するジエステル化合物以外のジエステル化合物は用いないことが好ましい。
【0039】
その他の構造単位を導入するためのジヒドロキシ化合物やジエステル化合物は、得られる樹脂の要求性能に応じて、単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。樹脂中のその他の構造単位の含有量は、1質量%以上、50質量%以下が好ましく、5質量%以上、40質量%以下がさらに好ましく、10質量%以上、30質量%以下が特に好ましい。その他の構造単位は特に樹脂の耐熱性の調整や、柔軟性や靱性の付与の役割を担うため、含有量が少なすぎると、樹脂の機械特性や溶融加工性が悪くなり、含有量が多すぎると、耐熱性や光学特性が悪化するおそれがある。
【0040】
ポリカーボネート系樹脂の分子量は、例えば還元粘度で表すことができる。還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート系樹脂の濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定される。還元粘度の下限は、通常0.30dL/g以上が好ましく、0.35dL/g以上がより好ましく、0.40dL/g以上が特に好ましい。還元粘度の上限は、通常1.00dL/g以下が好ましく、0.80dL/g以下がより好ましく、0.60dL/g以下が特に好ましい。還元粘度が下限値より小さいと、得られるフィルムの機械的強度が不十分となる場合がある。一方、還元粘度が上限値より大きいと、成形性、取扱い性および生産性が不十分となる場合がある。
【0041】
ポリカーボネート系樹脂の溶融粘度は、温度240℃、剪断速度91.2sec−1の測定条件において700Pa・s以上、5000Pa・s以下であることが好ましい。上限は4000Pa・s以下がさらに好ましく、3500Pa・s以下がより好ましく、3000Pa・s以下が特に好ましい。下限は1000Pa・s以上がさらに好ましく、1500Pa・s以上がより好ましく、2000Pa・s以上が特に好ましい。尚、溶融粘度はキャピラリーレオメーター(東洋精機社製)を用いて測定する。
【0042】
本発明に用いられる樹脂のガラス転移温度(Tg)は、110℃以上160℃以下であることが好ましい。上限は155℃以下がさらに好ましく、150℃以下がより好ましく、145℃以下が特に好ましい。下限は120℃以上がさらに好ましく、130℃以上が特に好ましい。ガラス転移温度が上記範囲外であると耐熱性が悪くなる傾向にあり、フィルム成形後に寸法変化を起こしたり、位相差フィルムの使用条件下における品質の信頼性が悪化する可能性がある。一方、ガラス転移温度が過度に高いと、フィルム成形時にフィルム厚みの斑が生じたり、フィルムが脆くなり、延伸性が悪化したりする場合があり、また、フィルムの透明性を損なう場合がある。
【0043】
ポリカーボネート系樹脂等の構成および製造方法等の詳細は、例えば、国際公開第2015/159928号パンフレットに記載されている。この記載は、本明細書に参考として援用される。
【0044】
A−1−2.アクリル系樹脂
アクリル系樹脂としては、熱可塑性樹脂としてのアクリル系樹脂が使用される。アクリル系樹脂の構造単位となる単量体としては、例えば、以下の化合物が挙げられる:メタクリル酸メチル、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸、ベンジル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、コハク酸2−(メタ)アクロイルオキシエチル、マレイン酸2−(メタ)アクロイルオキシエチル、フタル酸2−(メタ)アクロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリオイルオキシエチル、ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、シクロペンチルメタクリレート、シクロペンチルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘプチルメタクリレート、シクロヘプチルアクリレート、シクロオクチルメタクリレート、シクロオクチルアクリレート、シクロドデシルメタクリレート、シクロドデシルアクリレート。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の単量体を組み合わせて用いる形態は、2種以上の単量体の共重合、1種の単量体の単独重合体の2つ以上のブレンド、およびこれらの組み合わせが挙げられる。さらに、これらのアクリル系単量体と共重合可能な他の単量体(例えば、オレフィン系単量体、ビニル系単量体)を併用してもよい。
【0045】
アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル由来の構造単位を含む。アクリル系樹脂におけるメタクリル酸メチル由来の構造単位の含有量は70質量%以上、100質量%以下が好ましい。下限は80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。この範囲であると、本発明のポリカーボネート系樹脂と優れた相溶性が得られる。メタクリル酸メチル以外の構造単位としては、アクリル酸メチル、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレンを用いることが好ましい。アクリル酸メチルを共重合することで熱安定性を向上させることができる。フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレンを用いることで、アクリル系樹脂の屈折率を調整することができるため、組み合わせる樹脂の屈折率に合わせ込むことで、得られる樹脂組成物の透明性を向上させることができる。このようなアクリル系樹脂を用いることで、伸張性および位相差発現性に優れ、かつ、ヘイズの小さい逆分散位相差フィルムが得られ得る。
【0046】
アクリル系樹脂の重量平均分子量Mwは、10,000以上、200,000以下である。下限は30,000以上が好ましく、50,000以上が特に好ましい。上限は180,000以下が好ましく、150,000以下が特に好ましい。分子量がこのような範囲であれば、本発明のポリカーボネート系樹脂との相溶性が得られることで、最終的な位相差フィルムの透明性を向上させることができ、かつ、延伸時の伸張性を十分に向上させる効果が得られる。尚、上記の重量平均分子量はGPCにより測定される、ポリスチレン換算の分子量である。測定方法の詳細は後述する。また、アクリル系樹脂は実質的に分岐構造を含有しないことが相溶性の観点から好ましい。分岐構造を含有しないことは、アクリル系樹脂のGPCカーブが単峰性であることなどで確認できる。
【0047】
A−1−3.ポリカーボネート系樹脂等とアクリル系樹脂とのブレンド
ポリカーボネート系樹脂等とアクリル系樹脂とはブレンドされ、樹脂組成物として位相差フィルムの製造方法に供される(製造方法はA−3項で後述する)。ポリカーボネート系樹脂等とアクリル系樹脂とは、好ましくは、溶融状態でブレンドされ得る。溶融状態でブレンドする方法としては、代表的には、押出機を用いた溶融混練が挙げられる。混練温度(溶融樹脂温度)は、好ましくは200℃〜280℃であり、より好ましくは220℃〜270℃であり、さらに好ましくは230℃〜260℃である。混練温度がこのような範囲であれば、熱分解を抑制しながら、両樹脂が均一にブレンドされた樹脂組成物のペレットが得られ得る。押出機中の溶融樹脂温度が280℃を超えると、樹脂の着色および/または熱分解が発生する場合がある。一方、押出機中の溶融樹脂温度が200℃を下回ると、樹脂粘度が高くなり過ぎて押出機に過大な負荷が掛かったり、樹脂の溶融が不十分となる場合がある。なお、押出機の構成、スクリューの構成等としては、任意の適切な構成が採用され得る。光学フィルム用途に耐え得る樹脂の透明性を得るためには二軸押出機を用いることが好ましい。さらに、樹脂中の残存低分子成分や、押出混錬中の低分子量の熱分解成分は、製膜工程や延伸工程で冷却ロールや搬送ロールを汚染する懸念があるため、これを除去するために、真空ベントを備える押出機を用いることが好ましい。
【0048】
樹脂組成物(結果として、位相差フィルム)におけるアクリル系樹脂の含有量は、上記のとおり0.5質量%以上、2.0質量%以下である。下限は0.6質量%以上がより好ましい。上限は1.5質量%以下が好ましく、1.0重量%以下がより好ましく、0.9重量%以下がさらに好ましく、0.8質量%以下が特に好ましい。このように、ポリカーボネート系樹脂にアクリル系樹脂をごく限定的な比率で配合することにより、伸張性および位相差発現性を顕著に増大させることができる。さらに、ヘイズを抑制することができる。このような効果は理論的には明らかでなく、試行錯誤により得られた予期せぬ優れた効果である。なお、アクリル系樹脂の含有量が少なすぎると、上記の効果が得られない場合がある。一方、アクリル系樹脂の含有量が多すぎると、ヘイズが高くなってしまう場合がある。また、伸張性および位相差発現性も上記範囲内の場合に比べて不十分となったり、かえって低下してしまう場合が多い。
【0049】
樹脂組成物は、機械特性および/または耐溶剤性等の特性を改質する目的で、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABS、AS、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネート等の合成樹脂、ゴム、およびこれらの組み合わせがさらにブレンドされてもよい。
【0050】
樹脂組成物は、添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤の具体例としては、熱安定剤、酸化防止剤、触媒失活剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、染顔料、衝撃改良剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、核剤、難燃剤、無機充填剤、発泡剤が挙げられる。樹脂組成物に含まれる添加剤の種類、数、組み合わせ、含有量等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0051】
A−2.位相差フィルムの特性
位相差フィルムの面内位相差Re(550)は、上記のとおり100nm〜200nmであり、好ましくは110nm〜180nmであり、より好ましくは120nm〜160nmであり、さらに好ましくは130nm〜150nmである。すなわち、位相差フィルムは、いわゆるλ/4板として機能し得る。
【0052】
位相差フィルムは、代表的には、Re(450)<Re(550)<Re(650)の関係を満たす。すなわち、位相差フィルムは、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散の波長依存性を示す。位相差フィルムのRe(450)/Re(550)は、上記のとおり0.5を超えて1.0未満であり、好ましくは0.7〜0.95であり、より好ましくは0.75〜0.92であり、さらに好ましくは0.8〜0.9である。Re(650)/Re(550)は、好ましくは1.0以上1.15未満であり、より好ましくは1.03〜1.1である。
【0053】
位相差フィルムは、上記のように面内位相差を有するので、nx>nyの関係を有する。位相差フィルムは、nx>nyの関係を有する限り、任意の適切な屈折率楕円体を示す。位相差フィルムの屈折率楕円体は、代表的にはnx>ny≧nzの関係を示す。なお、ここで「ny=nz」はnyとnzが完全に等しい場合だけではなく、実質的に等しい場合を包含する。したがって、本発明の効果を損なわない範囲で、ny<nzとなる場合があり得る。位相差フィルムのNz係数は、好ましくは0.9〜2.0であり、より好ましくは0.9〜1.5であり、さらに好ましくは0.9〜1.2である。このような関係を満たすことにより、位相差フィルムを含む円偏光板を画像表示装置に用いた場合に、非常に優れた反射色相を達成し得る。
【0054】
位相差フィルムの厚みは、λ/4板として最も適切に機能し得るように設定され得る。言い換えれば、厚みは、所望の面内位相差が得られるように設定され得る。具体的には、厚みは、好ましくは15μm〜60μmであり、さらに好ましくは20μm〜55μmであり、最も好ましくは20μm〜45μmである。本発明の実施形態によれば、位相差発現性に優れた位相差フィルムが得られるので、通常のλ/4板に比べて位相差フィルムの厚みを顕著に薄くすることができる。
【0055】
位相差フィルムのヘイズ値は、好ましくは1.5%以下であり、より好ましくは1.0%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下である。本発明の実施形態によれば、位相差発現性およびヘイズ値の両方に優れた逆分散位相差フィルムを実現することができる。ヘイズ値は小さければ小さいほど好ましい。ヘイズ値の下限は、例えば0.1%であり得る。
【0056】
位相差フィルムの破断伸びは、好ましくは200%以上であり、より好ましくは210%以上であり、さらに好ましくは220%以上であり、特に好ましくは245%以上である。破断伸びの上限は、例えば500%であり得る。本発明の実施形態による位相差フィルムは位相差発現性に優れることに加えて、このように伸張性にも優れるので、これらの相乗効果により非常に薄い厚みで所望の面内位相差を実現し得る。なお、本明細書において「破断伸び」とは、所定の延伸温度(例えば、Tg−2℃)での固定端一軸延伸においてフィルムが破断した時の伸び率を意味する。
【0057】
位相差フィルムの限界複屈折Δnは、好ましくは0.0039以上であり、より好ましくは0.0040以上であり、さらに好ましくは0.0041以上であり、特に好ましくは0.0044以上である。限界複屈折Δnの上限は、例えば0.0070であり得る。このように、本発明の実施形態による位相差フィルムは非常に高い複屈折性を有するので、非常に薄い厚みで所望の面内位相差を実現し得る。なお、本明細書において「限界複屈折」とは、所定の延伸温度で延伸倍率を大きくしていった場合に、破断しない最高延伸倍率における複屈折を意味する。複屈折は、破断しない最高延伸倍率におけるフィルムの面内位相差Reをフィルム厚みdで除することにより求められ得る。
【0058】
位相差フィルムは、その光弾性係数の絶対値が好ましくは20×10−12(m/N)以下であり、より好ましくは1.0×10−12(m/N)〜15×10−12(m/N)であり、さらに好ましくは2.0×10−12(m/N)〜12×10−12(m/N)である。光弾性係数の絶対値がこのような範囲であれば、位相差フィルムを画像表示装置に適用した場合に表示ムラを抑制することができる。
【0059】
A−3.位相差フィルムの製造方法
上記A−1項およびA−2項に記載の位相差フィルムは、A−1項に記載の樹脂組成物からフィルムを形成し、さらにそのフィルムを延伸することにより得られる。樹脂組成物からフィルムを形成する方法としては、任意の適切な成形加工法が採用され得る。具体例としては、圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、粉末成形法、FRP成形法、キャスト塗工法(例えば、流延法)、カレンダー成形法、熱プレス法等が挙げられる。中でも得られるフィルムの平滑性を高め、良好な光学的均一性を得ることができる押出成形法、またはキャスト塗工法が好ましい。キャスト塗工法では残存溶媒による問題が生じるおそれがあるため、特に好ましくは押出成形法、中でもTダイを用いた溶融押出成形法がフィルムの生産性や、後の延伸処理のし易さの観点から好ましい。成形条件は、使用される樹脂の組成や種類、位相差フィルムに所望される特性等に応じて適宜設定され得る。このようにして、ポリカーボネート系樹脂等とアクリル系樹脂とを含む樹脂フィルムが得られ得る。
【0060】
樹脂フィルム(未延伸フィルム)の厚みは、得られる位相差フィルムの所望の厚み、所望の光学特性、後述の延伸条件などに応じて、任意の適切な値に設定され得る。好ましくは50μm〜300μmである。
【0061】
上記延伸は、任意の適切な延伸方法、延伸条件(例えば、延伸温度、延伸倍率、延伸方向)が採用され得る。具体的には、自由端延伸、固定端延伸、自由端収縮、固定端収縮などの様々な延伸方法を、単独で用いることも、同時もしくは逐次で用いることもできる。延伸方向に関しても、長さ方向、幅方向、厚さ方向、斜め方向等、様々な方向や次元に行なうことができる。
【0062】
上記延伸方法、延伸条件を適宜選択することにより、上記所望の光学特性(例えば、屈折率特性、面内位相差、Nz係数)を有する位相差フィルムを得ることができる。
【0063】
1つの実施形態においては、位相差フィルムは、樹脂フィルムを一軸延伸もしくは固定端一軸延伸することにより作製される。一軸延伸の具体例としては、樹脂フィルムを長尺方向に走行させながら、走行方向(長尺方向)に延伸する方法が挙げられる。固定端一軸延伸の具体例としては、樹脂フィルムを長尺方向に走行させながら、幅方向(横方向)に延伸する方法が挙げられる。延伸倍率は、好ましくは1.1倍〜3.5倍である。
【0064】
別の実施形態においては、位相差フィルムは、長尺状の樹脂フィルムを長尺方向に対して所定の角度の方向に連続的に斜め延伸することにより作製され得る。斜め延伸を採用することにより、フィルムの長尺方向に対して所定の角度の配向角(所定の角度の方向に遅相軸)を有する長尺状の延伸フィルムが得られ、例えば、偏光子との積層に際してロールトゥロールが可能となり、製造工程を簡略化することができる。なお、上記所定の角度は、円偏光板(後述)において偏光子の吸収軸と位相差フィルムの遅相軸とがなす角度であり得る。当該角度は、後述のとおり、好ましくは40°〜50°であり、より好ましくは42°〜48°であり、さらに好ましくは44°〜46°であり、特に好ましくは約45°であり;あるいは、好ましくは130°〜140°であり、より好ましくは132°〜138°であり、さらに好ましくは134°〜136°であり、特に好ましくは約135°である。
【0065】
斜め延伸に用いる延伸機としては、例えば、横および/または縦方向に、左右異なる速度の送り力もしくは引張り力または引き取り力を付加し得るテンター式延伸機が挙げられる。テンター式延伸機には、横一軸延伸機、同時二軸延伸機等があるが、長尺状の樹脂フィルムを連続的に斜め延伸し得る限り、任意の適切な延伸機が用いられ得る。
【0066】
上記延伸機において左右の速度をそれぞれ適切に制御することにより、上記所望の面内位相差を有し、かつ、上記所望の方向に遅相軸を有する位相差フィルム(実質的には、長尺状の位相差フィルム)が得られ得る。
【0067】
斜め延伸の方法としては、例えば、特開昭50−83482号公報、特開平2−113920号公報、特開平3−182701号公報、特開2000−9912号公報、特開2002−86554号公報、特開2002−22944号公報等に記載の方法が挙げられる。
【0068】
上記フィルムの延伸温度は、1つの実施形態においては、ポリカーボネート系樹脂等のガラス転移温度(Tg)以下の温度である。通常、ポリカーボネート系樹脂等のフィルムを延伸する場合、Tg以下の温度ではフィルムがガラス状態であるので、延伸は実質的には不可能である。本発明の実施形態によれば、アクリル系樹脂(代表的には、ポリメチルメタクリレート)を少量配合することにより、ポリカーボネート系樹脂等のTgを実質的に変化させることなく、Tg以下での延伸が可能となる。さらに、理論的には明らかではないが、Tg以下で延伸を行うことにより、伸張性および位相差発現性に優れ、かつ、ヘイズの小さい逆分散位相差フィルムを実現することができる。具体的には、延伸温度は、好ましくはTg〜Tg−10℃であり、より好ましくはTg〜Tg−8℃であり、さらに好ましくはTg〜Tg−5℃である。なお、上記フィルムは、例えばTg+5℃程度、また例えばTg+2℃程度までであれば、Tgよりも高い温度であっても適切に延伸され得る。
【0069】
[効果を奏する理由]
本発明の樹脂組成物からなるフィルムが優れた特性を発現する理由については、下記の通り推測する。後述する実施例で示すように、適切な組成のアクリル系樹脂を、限定的な比率で配合した樹脂組成物については、ポリカーボネート系樹脂単体とほぼ同等の透明性を保持しつつ、延伸時の限界破断倍率が明らかに向上している。ポリカーボネート系樹脂とアクリル系樹脂とは完全相溶しているものと推測され、ポリカーボネート系樹脂に溶け込んだアクリル系樹脂のポリマー鎖によって、ポリカーボネート系樹脂のポリマー鎖の絡み合いが増大し、フィルムの破断強度が向上していることが考えられる。単体のアクリル系樹脂の固有複屈折はほぼゼロであるため、本来はアクリル系樹脂を配合することで、その樹脂組成物の固有複屈折は低下し、延伸により発現する配向複屈折は低下することが予想される。しかし、本発明では、アクリル系樹脂の配合量をごく少量であるため、アクリル系樹脂による固有複屈折低下の影響をほぼゼロに抑えつつ、樹脂組成物の延伸強度を向上させることに成功し、配向複屈折が向上したと考えられる。
【0070】
B.円偏光板
上記A項に記載の本発明の実施形態による位相差フィルムは、円偏光板に好適に用いられ得る。したがって、本発明の実施形態は、円偏光板も包含する。図1は、本発明の1つの実施形態による円偏光板の概略断面図である。図示例の円偏光板100は、偏光板10と位相差フィルム20とを有する。位相差フィルム20は、上記A項に記載の本発明の実施形態による位相差フィルムである。偏光板10は、偏光子11と、偏光子11の一方の側に配置された第1の保護層12と、偏光子11のもう一方の側に配置された第2の保護層13とを含む。目的に応じて、第1の保護層12および第2の保護層13の一方は省略されてもよい。例えば、本発明の実施形態による位相差フィルム20は偏光子11の保護層としても機能し得るので、第2の保護層13は省略されてもよい。位相差フィルム20の遅相軸と偏光子11の吸収軸とのなす角度は、好ましくは40°〜50°であり、より好ましくは42°〜48°であり、さらに好ましくは44°〜46°であり、特に好ましくは約45°であり;あるいは、好ましくは130°〜140°であり、より好ましくは132°〜138°であり、さらに好ましくは134°〜136°であり、特に好ましくは約135°である。
【0071】
図2に示すように、別の実施形態による円偏光板101においては、別の位相差層50ならびに/あるいは導電層または導電層付等方性基材60が設けられてもよい。別の位相差層50ならびに導電層または導電層付等方性基材60は、代表的には、位相差フィルム20の外側(偏光板10と反対側)に設けられる。別の位相差層は、代表的には、屈折率特性がnz>nx=nyの関係を示す。このような別の位相差層を設けることにより、斜め方向の反射を良好に防止することができ、反射防止機能の広視野角化が可能となる。別の位相差層50ならびに導電層または導電層付等方性基材60は、代表的には、位相差フィルム20側からこの順に設けられる。別の位相差層50ならびに導電層または導電層付等方性基材60は、代表的には、必要に応じて設けられる任意の層であり、いずれか一方または両方が省略されてもよい。なお、導電層または導電層付等方性基材が設けられる場合、円偏光板は、画像表示セル(例えば、有機ELセル)と偏光板との間にタッチセンサが組み込まれた、いわゆるインナータッチパネル型入力表示装置に適用され得る。
【0072】
円偏光板は、さらなる位相差層を有していてもよい。さらなる位相差層は、別の位相差層50と組み合わせて設けられてもよく、単独で(すなわち、別の位相差層50を設けることなく)設けられてもよい。さらなる位相差層の光学的特性(例えば、屈折率特性、面内位相差、Nz係数、光弾性係数)、厚み、配置位置等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0073】
円偏光板は、枚葉状であってもよく長尺状であってもよい。本明細書において「長尺状」とは、幅に対して長さが十分に長い細長形状を意味し、例えば、幅に対して長さが10倍以上、好ましくは20倍以上の細長形状を含む。長尺状の円偏光板は、ロール状に巻回可能である。円偏光板が長尺状である場合、偏光板および位相差フィルムも長尺状である。この場合、偏光子は、好ましくは長尺方向に吸収軸を有する。位相差フィルムは、好ましくは上記のとおり、長尺方向に対して40°〜50°または130°〜140°の角度をなす方向に遅相軸を有する斜め延伸フィルムである。偏光子および位相差フィルムがこのような構成であれば、円偏光板をロールトゥロールにより作製することができる。
【0074】
実用的には、位相差フィルムの偏光板と反対側には粘着剤層(図示せず)が設けられ、円偏光板は画像表示セルに貼り付け可能とされている。さらに、粘着剤層の表面には、円偏光板が使用に供されるまで、剥離フィルムが仮着されていることが好ましい。剥離フィルムを仮着することにより、粘着剤層を保護するとともに、円偏光板のロール形成が可能となる。
【0075】
以下、円偏光板の構成要素について説明する。
【0076】
B−1.偏光子
偏光子11としては、任意の適切な偏光子が採用され得る。例えば、偏光子を形成する樹脂フィルムは、単層の樹脂フィルムであってもよく、二層以上の積層体であってもよい。
【0077】
単層の樹脂フィルムから構成される偏光子の具体例としては、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質による染色処理および延伸処理が施されたもの、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。好ましくは、光学特性に優れることから、PVA系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸して得られた偏光子が用いられる。
【0078】
上記ヨウ素による染色は、例えば、PVA系フィルムをヨウ素水溶液に浸漬することにより行われる。上記一軸延伸の延伸倍率は、好ましくは3〜7倍である。延伸は、染色処理後に行ってもよいし、染色しながら行ってもよい。また、延伸してから染色してもよい。必要に応じて、PVA系フィルムに、膨潤処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等が施される。例えば、染色の前にPVA系フィルムを水に浸漬して水洗することで、PVA系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるだけでなく、PVA系フィルムを膨潤させて染色ムラなどを防止することができる。
【0079】
積層体を用いて得られる偏光子の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に積層されたPVA系樹脂層(PVA系樹脂フィルム)との積層体、あるいは、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子が挙げられる。樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子は、例えば、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光子とすること;により作製され得る。本実施形態においては、延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、必要に応じて、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含み得る。得られた樹脂基材/偏光子の積層体はそのまま用いてもよく(すなわち、樹脂基材を偏光子の保護層としてもよく)、樹脂基材/偏光子の積層体から樹脂基材を剥離し、当該剥離面に目的に応じた任意の適切な保護層を積層して用いてもよい。このような偏光子の製造方法の詳細は、例えば特開2012−73580号公報、特許第6470455号に記載されている。これらの特許文献の記載は、本明細書に参考として援用される。
【0080】
偏光子の厚みは、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは1μm〜12μmであり、さらに好ましくは3μm〜10μmであり、特に好ましくは3μm〜8μmである。偏光子の厚みがこのような範囲であれば、加熱時のカールを良好に抑制することができ、および、良好な加熱時の外観耐久性が得られる。さらに、偏光子の厚みがこのような範囲であれば、円偏光板(結果として、有機EL表示装置)の薄型化に貢献し得る。
【0081】
偏光子は、好ましくは、波長380nm〜780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、好ましくは43.0%〜46.0%であり、より好ましくは44.5%〜46.0%である。偏光子の偏光度は、好ましくは97.0%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.9%以上である。
【0082】
B−2.保護層
第1の保護層12および第2の保護層13は、それぞれ、偏光子の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。
【0083】
円偏光板は、後述するように代表的には画像表示装置の視認側に配置され、第1の保護層12は、代表的にはその視認側に配置される。したがって、第1の保護層12には、必要に応じて、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理等の表面処理が施されていてもよい。さらに/あるいは、第1の保護層12には、必要に応じて、偏光サングラスを介して視認する場合の視認性を改善する処理(代表的には、(楕)円偏光機能を付与すること、超高位相差を付与すること)が施されていてもよい。このような処理を施すことにより、偏光サングラス等の偏光レンズを介して表示画面を視認した場合でも、優れた視認性を実現することができる。したがって、円偏光板は、屋外で用いられ得る画像表示装置にも好適に適用され得る。
【0084】
第1の保護層の厚みは、代表的には300μm以下であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは5μm〜80μm、さらに好ましくは10μm〜60μmである。なお、表面処理が施されている場合、外側保護層の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
【0085】
第2の保護層13は、1つの実施形態においては、光学的に等方性であることが好ましい。本明細書において「光学的に等方性である」とは、面内位相差Re(550)が0nm〜10nmであり、厚み方向の位相差Rth(550)が−10nm〜+10nmであることをいう。
【0086】
C.画像表示装置
上記B項に記載の円偏光板は、画像表示装置に適用され得る。したがって、本発明の実施形態は、そのような円偏光板を用いた画像表示装置も包含する。画像表示装置の代表例としては、液晶表示装置、有機EL表示装置が挙げられる。本発明の実施形態による画像表示装置は、その視認側に上記B項に記載の円偏光板を備える。円偏光板は、偏光子が視認側となるように配置されている。
【実施例】
【0087】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法は以下の通りである。
【0088】
(1)還元粘度
樹脂試料を塩化メチレンに溶解させ、0.6g/dLの濃度の樹脂溶液を調製した。森友理化工業社製ウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0℃±0.1℃で測定を行い、溶媒の通過時間t0及び溶液の通過時間tを測定した。得られたt及びtの値を用いて次式(i)により相対粘度ηrelを求め、更に、得られた相対粘度ηrelを用いて次式(ii)により比粘度ηspを求めた。
ηrel=t/t ・・・(i)
ηsp=(η−η)/η=ηrel−1 ・・・(ii)
その後、得られた比粘度ηspを濃度c[g/dL]で割って、還元粘度ηsp/cを求めた。この値が高いほど分子量が大きい。
【0089】
(2)溶融粘度
ペレット状の樹脂を100℃の熱風乾燥器に6時間以上入れて、乾燥させた。乾燥したペレットを用いて、東洋精機(株)製キャピラリーレオメーターで測定を行った。測定温度は240℃とし、剪断速度6.08〜1824sec−1間で溶融粘度を測定し、91.2sec−1における溶融粘度の値を用いた。なお、オリフィスには、ダイス径1mm、長さ10mmのものを用いた。
【0090】
(3)ガラス転移温度
樹脂のガラス転移温度は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製示差走査熱量計DSC6220を用いて測定した。約10mgの樹脂試料を同社製アルミパンに入れて密封し、50mL/分の窒素気流下、昇温速度20℃/分で30℃から200℃まで昇温した。3分間温度を保持した後、30℃まで20℃/分の速度で冷却した。30℃で3分保持し、再び200℃まで20℃/分の速度で昇温した。2回目の昇温で得られたDSCデータより、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求め、それをガラス転移温度とした。
【0091】
(4)GPC
樹脂試料約0.1gを塩化メチレン2mLに溶解し、溶液を0.2μmディスクフィルターでろ過して、GPCを測定した。標準ポリスチレンも同様にGPCを測定し、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を算出した。装置や条件は次のとおりである。
・ポンプ:LC−20AD((株)島津製作所製)
・デガッサー:DGU−20A5((株)島津製作所製)
・カラムオーブン:CTO−20AC((株)島津製作所製)
・検出器:示差屈折率検出器RID−10A((株)島津製作所製)
・カラム:PLgel 10μm Guard、PLgel 10μm MIXED−B 2本(Agilent社製)
・オーブン温度:40℃
・溶離液:クロロホルム
・流量:1mL/min
・注入量:10μL
【0092】
(5)屈折率
100℃の熱風乾燥器で6時間以上、乾燥をした樹脂ペレット約4gを、縦14cm、横14cm、厚さ0.1mmのスペーサーを用い、試料の上下にポリイミドフィルムを敷いて、温度200〜230℃で3分間予熱し、圧力7MPaで5分間加圧後、スペーサーごと取り出し、冷却してフィルムを作製した。得られたフィルムから、幅8mm、長さ40mmの長方形の試験片を切り出して測定試料とした。波長656nm(C線)、589nm(D線)、486nm(F線)の干渉フィルターを用いて、(株)アタゴ製多波長アッベ屈折率計DR−M4/1550により各波長の屈折率n、n、nを測定した。測定は界面液としてモノブロモナフタレンを用い、20℃で行った。
【0093】
(6)光弾性係数
He−Neレーザー、偏光子、補償板、検光子、光検出器からなる複屈折測定装置と振動型粘弾性測定装置(レオロジー社製DVE−3)を組み合わせた装置を用いて測定した(詳細は、日本レオロジー学会誌Vol.19,p93−97(1991)を参照。)。前述の(5)と同様の方法により作製したフィルムから、幅5mm、長さ20mmの試料を切り出し、粘弾性測定装置に固定し、25℃の室温で貯蔵弾性率E’を周波数96Hzにて測定した。同時に、出射されたレーザー光を偏光子、試料、補償板、検光子の順に通し、光検出器(フォトダイオード)で拾い、ロックインアンプを通して角周波数ω又は2ωの波形について、その振幅とひずみに対する位相差を求め、ひずみ光学係数O’を求めた。このとき、偏光子と検光子の吸収軸の方向は直交し、またそれぞれ、試料の伸長方向に対してπ/4の角度をなすように調整した。光弾性係数Cは、貯蔵弾性率E’とひずみ光学係数O’を用いて次式より求めた。
C=O’/E’
【0094】
(7)フィルムの厚み
ダイアルゲージを用いて測定した。
【0095】
(8)位相差フィルムの位相差値
実施例および比較例で得られた位相差フィルムから50mm×50mmのサンプルを切り出して、測定サンプルとした。この測定サンプルについて、Axometrics社製のAxoscanを用いてRe(450)およびRe(550)を測定した。測定温度は23℃であった。
【0096】
(9)ヘイズ値
JIS K 7136にしたがって、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所社製、商品名「HN−150」)を用いて測定した。1.5%以下であれば合格と判断した。押出し混練後のペレットの時点で白濁したものは、これを用いても透明な位相差フィルムが得られないと判断し、位相差フィルムの評価は行わなかった。
【0097】
(10)破断伸びおよび限界複屈折Δn
実施例および比較例で用いた長尺状の未延伸フィルムから120mm(製造時のフィルムの搬送方向:MD)×150mm(搬送方向に直交する方向:TD)のサンプルを切り出した。このサンプルを、ラボストレッチャー「Bluckner KARO IV」を用いて、延伸温度を樹脂試料の「Tg−2℃」に設定し、延伸倍率を変えてTD方向に固定端一軸延伸し、破断する直前の最大破断伸びを金尺にて測定した。さらに、破断しない最高延伸倍率におけるフィルムの面内位相差Reおよびフィルム厚みdを測定し、面内位相差Reをフィルム厚みdで除することにより、限界複屈折Δnを求めた。フィルム厚みは、上記のとおりダイアルゲージで測定した。面内位相差Reは、Axometrics社製の「Axoscan」を用いて測定した。測定波長は590nmであった。
【0098】
[化合物の略号]
以下の合成例、実施例および比較例で用いた化合物の略号は以下の通りである。
・BPFM:ビス[9−(2−フェノキシカルボニルエチル)フルオレン−9−イル]メタン
特開2015−25111号公報に記載の方法で合成した。
【化7】
・ISB:イソソルビド[ロケットフルーレ社製]
・SPG:スピログリコール[三菱ガス化学(株)製]
・DPC:ジフェニルカーボネート[三菱ケミカル(株)製]
・BPEF:9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン[大阪ガスケミカル(株)製]
・PEG1000:ポリエチレングリコール、数平均分子量1000[三洋化成工業(株)製]
【0099】
[改質剤樹脂]
・ダイヤナールBR80(三菱ケミカル(株)製)
・ダイヤナールBR85(三菱ケミカル(株)製)
・クラリティLA4285((株)クラレ製)
・メタブレンP570A(三菱ケミカル(株))
・エスチレンMS−600(新日鉄住金化学(株)製)
・エスチレンMS−200(新日鉄住金化学(株)製)
・G9504(日本ポリスチレン(株)製)
各樹脂の組成や物性を表1に示す。
【0100】
[実施例1]
撹拌翼、及び還流冷却器を具備した竪型撹拌反応器2器からなるバッチ重合装置を用いて重合を行った。BPFMを30.31質量部(0.047mol)、ISBを39.94質量部(0.273mol)、SPGを30.20質量部(0.099mol)、DPCを69.67質量部(0.325mol)、および触媒として酢酸カルシウム1水和物7.88×10−4質量部(4.47×10−6mol)を仕込んだ。反応器内を減圧窒素置換した後、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPaにした。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を110℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。第1反応器に窒素を導入して一旦大気圧まで復圧させた後、第1反応器内のオリゴマー化された反応液を第2反応器に移した。次いで、第2反応器内の昇温および減圧を開始して、40分で内温240℃、圧力20kPaにした。その後、さらに圧力を下げながら、所定の攪拌動力となるまで重合を進行させた。所定動力に到達した時点で反応器に窒素を導入して復圧し、生成したポリエステルカーボネートを水中に押し出し、ストランドをカッティングしてペレットを得た。この樹脂を「PC1」と称する。各モノマーに由来する構造単位の比率は、BPFM/ISB/SPG/DPC=21.5/39.4/30.0/9.1質量%である。PC1の還元粘度は0.46dL/g、Mwは48,000、屈折率nは1.526、溶融粘度は2480Pa・s、ガラス転移温度は139℃、光弾性係数は9×10−12[m/N]、波長分散Re(450)/Re(550)は0.85であった。
【0101】
アクリル系樹脂としてBR80を用いて、得られたポリエステルカーボネートとの押出混錬を行った。ポリカーボネートのペレット(99.5質量部)とBR80の粉(0.5質量部)を混ぜ合わせたものを定量フィーダーを用いて、(株)日本製鋼所製の二軸押出機TEX30HSSに投入した。押出機シリンダー温度は250℃に設定し、処理量12kg/hr、スクリュー回転数120rpmで押出を行った。また、押出機には真空ベントが具備されており、溶融樹脂を減圧脱揮しながら押出した。このようにして得られた樹脂組成物のペレットを、100℃で6時間以上、真空乾燥をした後、単軸押出機(いすず化工機社製、スクリュー径25mm、シリンダー設定温度:250℃)、Tダイ(幅300mm、設定温度:220℃)、チルロール(設定温度:120〜130℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、長さ3m、幅200mm、厚み100μmの長尺未延伸フィルムを作製した。次いで、この長尺未延伸フィルムを用い、上記(10)に記載の手順により破断伸びおよび限界複屈折Δnを求めた。また、前述の評価に供したフィルムとは別に、延伸温度をTg、延伸倍率2.4倍として得られた位相差フィルムは、nx>ny>nzの屈折率特性を示した。さらに、得られた位相差フィルムのRe(550)は145nm、Re(450)/Re(550)は0.85であり、ヘイズは0.3%であった。結果を表1に示す。
【0102】
[実施例2]
BR80の配合比を0.7質量%としたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0103】
[実施例3]
BR80の配合比を0.9質量%としたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0104】
[実施例4]
BR80の配合比を1.5質量%としたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0105】
[比較例1]
アクリル系樹脂を用いなかったこと(すなわち、アクリル系樹脂の含有量をゼロとしたこと)および延伸温度をTg+2℃としたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0106】
[比較例2]
BR80の配合比を0.3質量%としたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0107】
[比較例3]
BR80の配合比を3.0質量%としたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0108】
[比較例4]
BR80の配合比を10質量%としたことおよび延伸温度をTg+2℃とした以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0109】
[比較例5]
アクリル系樹脂としてBR85を用いて、BR85の配合比を1質量%としたこと以外は実施例1と同様にして押出混錬と未延伸フィルムの作製を行った。未延伸フィルムは一見、透明であったが、細かい不溶成分が発生していた。
【0110】
[比較例6]
アクリル系樹脂としてLA4285を用いて、LA4285の配合比を1質量%としたこと以外は実施例1と同様にして押出混錬を行った。混錬後のペレットは白濁していた。
【0111】
[比較例7]
アクリル系樹脂としてP570Aを用いて、P570Aの配合比を1質量%としたこと以外は実施例1と同様にして押出混錬を行った。混錬後のペレットは白濁していた。
【0112】
[比較例8]
アクリル系樹脂としてMS−600を用いて、MS−600の配合比を1質量%としたこと以外は実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0113】
[比較例9]
アクリル系樹脂としてMS−200を用いて、MS−200の配合比を1質量%としたこと以外は実施例1と同様にして押出混錬を行った。混錬後のペレットは白濁していた。
【0114】
[比較例10]
改質剤樹脂として非アクリル系樹脂のG9504を用いて、G9504の配合比を1質量%としたこと以外は実施例1と同様にして押出混錬を行った。混錬後のペレットは白濁していた。
【0115】
[比較例11]
特開2014−43570号公報に記載の方法で、BPEF/ISB/PEG1000共重合ポリカーボネートを合成した。この樹脂を「PC2」と称する。各モノマーに由来する構造単位の比率は、BPEF/ISB/PEG1000/DPC=63.7/26.1/1.0/9.2質量%である。PC2の還元粘度は0.35dL/g、Mwは36,000、屈折率nDは1.599、溶融粘度は3100Pa・s、ガラス転移温度は145℃、光弾性係数は30×10−12[m/N]、波長分散Re(450)/Re(550)は0.89であった。ベース樹脂としてPC2を用い、アクリル系樹脂としてBR80を用いて、BR80の配合比を1質量%としたこと以外は実施例1と同様にして押出混錬を行った。混錬後のペレットは白濁していた。
【0116】
【表1】
【0117】
[評価]
表1から明らかなように、本発明の実施例によれば、最適な組成、分子量のアクリル系樹脂を用いることにより、破断伸びが大きく(すなわち、伸張性に優れ)、限界複屈折が大きく(すなわち、位相差発現性に優れ)、かつ、ヘイズの小さい逆分散位相差フィルムを得ることができる。アクリル系樹脂の添加量が0.5質量%未満である比較例1および2は、破断伸びが小さく(すなわち、十分に延伸できず)、限界複屈折Δnが実施例に比べて顕著に小さいことがわかる。一方、アクリル系樹脂の添加量が2.0質量%を超える比較例3および4は、ヘイズが高く、透明性が不十分であり、さらにアクリル系樹脂の添加量が多すぎると、限界複屈折はかえって低下することがわかる。比較例6〜10より、メタクリル酸メチル以外の成分を多く含有するアクリル系樹脂、及び非アクリル系樹脂では、本発明の樹脂とは相溶性を持たないために、光学フィルムとして求められる樹脂の透明性が得られないことがわかる。なお、比較例8については押出後の樹脂組成物は透明であったが、延伸した後にヘイズが上昇した。これはポリエステルカーボネート樹脂とMS−600は屈折率が近いために、外観上は透明になっていたが、実質的には非相溶で相分離しているため、延伸という大変形を加えると、相間剥離が生じてヘイズが上昇したことが考えられる。
【0118】
[実施例5]
(偏光子の作製)
厚み30μmのポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルム(クラレ製、製品名「PE3000」)の長尺ロールを、ロール延伸機により長手方向に5.9倍になるように長手方向に一軸延伸しながら同時に膨潤、染色、架橋、洗浄処理を施し、最後に乾燥処理を施すことにより厚み12μmの偏光子を作製した。
具体的には、膨潤処理は20℃の純水で処理しながら2.2倍に延伸した。次いで、染色処理は得られる偏光子の単体透過率が45.0%になるようにヨウ素濃度が調整されたヨウ素とヨウ化カリウムの重量比が1:7である30℃の水溶液中において処理しながら1.4倍に延伸した。更に、架橋処理は、2段階の架橋処理を採用し、1段階目の架橋処理は40℃のホウ酸とヨウ化カリウムを溶解した水溶液において処理しながら1.2倍に延伸した。1段階目の架橋処理の水溶液のホウ酸含有量は5.0重量%で、ヨウ化カリウム含有量は3.0重量%とした。2段階目の架橋処理は65℃のホウ酸とヨウ化カリウムを溶解した水溶液において処理しながら1.6倍に延伸した。2段階目の架橋処理の水溶液のホウ酸含有量は4.3重量%で、ヨウ化カリウム含有量は5.0重量%とした。また、洗浄処理は、20℃のヨウ化カリウム水溶液で処理した。洗浄処理の水溶液のヨウ化カリウム含有量は2.6重量%とした。最後に、乾燥処理は70℃で5分間乾燥させて偏光子を得た。
【0119】
(偏光板の作製)
上記偏光子の片側に、ポリビニルアルコール系接着剤を介して、トリアセチルセルロースフィルム(厚み40μm、コニカミノルタ社製、商品名「KC4UYW」)を貼り合わせ、保護層/偏光子の構成を有する偏光板を得た。
【0120】
(円偏光板の作製)
上記で得られた偏光板の偏光子面とRe(550)が140nmとなるよう延伸倍率を調整したこと以外は実施例1と同様にして作成した位相差フィルムとを、アクリル系粘着剤を介して貼り合わせた。なお、位相差フィルムは、貼り合せた際に、その遅相軸と偏光子の吸収軸が45度の角度をなすように切り出した。また偏光子の吸収軸は長手方向に平行となるように配置した。このようにして、保護層/偏光子/位相差フィルムの構成を有する円偏光板を得た。
【0121】
(画像表示装置の作製)
市販の有機EL表示装置(Samsung社製、製品名「Galaxy 5」)から有機ELパネルを取り出し、この有機ELパネルに貼り付けられている偏光フィルムを剥がし取り、代わりに、上記で得られた円偏光板を貼り合わせて画像表示装置(有機EL表示装置)を得た。得られた有機EL表示装置を全面黒表示させ、目視により画像(黒表示画面)を観察した。画像は反射が少なく、かつ、所望でない色付きも認められない、良好なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の位相差フィルムは円偏光板に好適に用いられ得、円偏光板は画像表示装置(代表的には、液晶表示装置、有機EL表示装置)に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0123】
10 偏光板
11 偏光子
12 第1の保護層
13 第2の保護層
20 位相差フィルム
100 円偏光板
101 円偏光板
図1
図2