【実施例】
【0030】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1の動作フローチャートであり、
図2は、実施例1が適用されるLC−MSの概略構成図である。
【0031】
図2において、液体クロマトグラフ201は、溶離液204を送液する送液ポンプ201−1と、試料209を導入する試料導入装置201−2と、カラム(分析カラム)201−3とを備える。
【0032】
また、質量分析装置202は、イオン源202−1と、質量分析部202−2と、検出器202−3とを備える。
【0033】
また、データ処理装置(データ処理部)203は、データ収集プログラム203−1と、データ処理プログラム203−2とを備え、これらのプログラム203−1及び203−2を実行し、後述するスコア関数の算出及び算出したスコア関数を用いて濃度未知の試料の成分のスコア値を算出し、算出したスコア値に基づいて濃度未知の試料の成分ピークを選定する。データ処理装置203は、表示装置207及びキーボード208に接続されている。
【0034】
データ処理装置203は、
図2には示していないが、
図1に示した各動作を実行する機能ブロックを備える。つまり、
図1に示した各処理ステップは、データ処理装置203の機能ブロックに対応し、データ処理装置203は、濃度が異なる成分測定部と、ピーク検出部と、スコア関数決定部と、濃度が未知の成分測定部と、ピーク検出結果の評価部とを備えるものである。
【0035】
液体クロマトグラフ201は、LC制御装置205により制御され、質量分析装置202は、MS制御措置206により制御される。また、LC制御装置205と、MS制御措置206と、データ処理装置203とは、互いに接続されている。
【0036】
実施例1における動作を説明する。
【0037】
図1において、実施例1における処理フローは点線で囲んだ前半ステップ101と、後半ステップ102とに大別できる。前半ステップ101は、ステップ101−1〜101−3からなり、異なる濃度におけるピークの特徴を求めるステップである。後半ステップ102は、ステップ102−1〜102−3からなり、濃度が未知の試料を分析するステップである。
【0038】
(1)濃度が異なる成分の測定(ステップ101−1)
最初に、目的とする成分の濃度が異なる複数の試料を測定する。
【0039】
液体クロマトグラフ(LC)201は、送液ポンプ201−1により溶離液204をカラム201−3側に送り出す。途中に設置された試料導入装置201−2において、測定すべき試料209を溶離液204の流れに乗せる。カラム201−3は一般に筒状の形状であり、その中を溶離液204に乗った試料中の成分が通過する。ここで、カラム201−3は単純な流路ではなく、目的成分と夾雑成分の移動速度が異なるよう選択された物質が充填されている。すなわち、試料導入装置201−2により、ほぼ同時にカラム201−3に入った混合物が、理想的には時間差をもってカラム201−3から出る。
【0040】
一例として、血中の代謝物を分析する測定の概要を示す。
【0041】
まず、前処理として血清100μLに、メタノール・プロパノール混合液を添加しタンパク質を不溶化する。さらに、500μLのヘキサンを添加し目的成分を抽出。遠心分離後にヘキサンの層から400μLを移し替えて乾燥。水とメタノールの混合液300μLを添加しLC−MS測定のための試料とする。
【0042】
送液ポンプ201−1は、メタノールとギ酸水溶液を7:3で混合した溶離液204を、300μL/minの流量で送液する。この溶離液204の流れに、試料導入装置201−2から前処理後の試料50μLを、20℃に保たれたカラム201−3に導入する。カラム201−3は、例えば長さ50mm、内径2mmのステンレス管に、疎水性の物質、例えば直径3μmの球状多孔質シリカゲルの表面にオクチル基(−C8H17)を結合させたものを充填する。
【0043】
試料導入のタイミングを起点として、先の溶離液204の比率を3分間維持し、続く1分間で9.5:0.5まで変化させた後1分間維持する。溶媒の比率が7:3の状態において、夾雑成分の一部がカラム201−3から溶出するが、目的成分はカラム201−3内に保持されている。溶離液204の比率が9.5:0.5の状態では、目的成分もカラム201−3から溶出し、分離される。
【0044】
溶離液204に含まれるメタノールは極性のある物質である。その濃度を上げると、カラム201−3に充填した物質が、極性のある目的成分を保持する力が弱まる現象を応用している。
【0045】
以上の例において、溶離液204、送液ポンプ201−1、試料209の導入、カラム201−3などの状態を再現よく制御することにより、目的成分がカラム201−3に保持されている時間(溶出時間)の再現性を確保することができる。
【0046】
一方、溶離液204の組成の変動、送液ポンプ201−1の摩耗、配管からの液漏れ、カラム201−3の温度変化、カラム201−3の詰まりやオクチル基などの官能基の脱離、気泡の存在などは、目的成分の溶出時間が異常値を取る原因となる。さらに、測定する試料209にカラム201−3と目的成分の相互作用に影響を与える成分が含まれている場合、溶出時間が変化する。
【0047】
質量分析装置(MS)202は、イオン源202−1において、試料成分をイオン化し、質量分析部202−2において、特定の質量電荷比(m/z)のイオンを選択、検出器202−3においてイオン量の信号を検出する装置である。すなわち、質量分析装置202により、試料成分に由来する特定の質量電荷比(m/z)のイオン量の経時変化を示すクロマトグラムを求めることができる。
【0048】
液体クロマトグラフ201で分離した成分を質量分析装置202でイオン化する方法には、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)や大気圧化学イオン化法(APCI)などがある。ESIを採用した場合、大気圧環境において、数KVの電位差があるところから液体試料を噴霧し、例えばプロトン(H+)が付加したイオンを生成する。
【0049】
質量分析部202−2には、いくつかのタイプがあるが、生体試料の定量分析では三連四重極と呼ばれるものなどが選択される。これは通常、真空中にある1段目の四重極で特定の質量電荷比のイオンのみを通過させ、2段目において不活性ガスの粒子との衝突エネルギーによりイオンを開裂させ、3段目において開裂してできたプロダクトイオンから特定の質量電荷比のものを通過させる機能がある。
【0050】
液体クロマトグラフ201における分離が十分ではなく、さらにはイオン化された夾雑成分が目的成分と同じ質量電荷比の場合、1段目で分離できないが、3段目の四重極において目的成分に由来するプロダクトイオンを検出器202−3に導くことができる。
【0051】
検出器202−3に到達したイオンは光電子増倍管(PMT)などにより電流増幅され、その電気信号を計測したものがイオン量となる。
【0052】
データ処理装置203では、データ収集プログラム203−1がLC201やMS202の基本的な制御を行い、検出器202−3から出力されるイオン量の信号の収集を行う。さらに、データ処理プログラム203−2が、イオン量の経時変化を示すクロマトグラムの作成やピーク検出などの処理を実行する。これらの処理条件は、表示装置207やキーボード208を用いてユーザーが設定でき、結果も表示装置207で確認できる。
【0053】
目的成分のクロマトグラムを得るには、LC201による試料導入のタイミングを起点として、MS202側でイオンを検出する。従って、データ収集プログラム203−1は、LC制御装置205やMS制御装置206との間で同期を取る必要がある。
【0054】
一般的な三連四重極タイプの質量分析装置202では、例えば100ms毎に測定対象とする質量電荷比を切り替えることにより、複数の目的成分に由来するイオンを順に検出する。そのような場合でも、データ処理プログラム203−2において、イオン量の信号を個々の目的成分ごとに抽出し、それぞれのクロマトグラムを作成することができる。
【0055】
さらに、目的成分の溶出する時間などをあらかじめ設定しておくことで、対応するピークを検出し、検量線の作成や定量などの分析を実施する。
【0056】
ステップ101−1に続いて、ステップ101−2が実行される。
【0057】
(2)ピーク検出(ステップ101−2)
図3及び
図4は、一般的なピーク検出の説明図であり、
図3は、クロマトグラムを疑似的に作成した例を示す図であり、
図4は
図3に示したクロマトグラムの点線で示した部分の拡大図である。
図3において、横軸は時間であり、縦軸はイオン量を示す。
図3に示した例においては、濃度が1倍のクロマトグラム301、濃度が10倍のクロマトグラム302、濃度が100倍のクロマトグラム303の3回の測定に相当するクロマトグラフを作成し、同じノイズ波形を重畳させた上で重ね書きしている。
【0058】
図4において、濃度1倍のクロマトグラム301の頂点からみて最初に出現した谷(極小点)を始点や終点とし、頂点と合わせて黒丸印を付与した。
【0059】
LC201に試料209を導入した時間を基点とし、目的成分を検出し始める点が始点、検出し終わる点が終点、始点と終点の間で最大量を検出した点が頂点である。
【0060】
このクロマトグラム301において、始点と終点を結ぶ直線をベースラインと呼び、その上の部分をこのピークの面積とする。高さについては、頂点から垂線をおろし、始点と終点を結ぶ直線までの長さとする(
図4に示した頂点からおろした点線の長さに相当する)。面積や高さが、対応する成分の測定値である。
【0061】
なお、ベースラインとして、試料中の成分に由来するピークがなく溶離液204だけを検出して得た信号を記録したものを指す場合があるが、ここでは上述のように定義した。
【0062】
図4では、濃度10倍のクロマトグラフ302、濃度100倍のクロマトグラフ303についても始点と終点を丸印で示したが、頂点は省略している。
【0063】
このように、クロマトグラムにおいてピークの頂点や、ベースラインの始点・終点を確定し、面積や高さを求める処理がピーク検出である。また、
図3や
図4に示したように、ピークの面積や高さが大きくなると、ベースラインの始点や終点の位置が頂点に対して外側に移る場合がある。
【0064】
ステップ101−2に続いて、ステップ101−3が実行される。
【0065】
(3)スコア関数の決定(ステップ101−3)
図5Aは、
図3に示すような測定を複数回実施した結果を示す模式図であり、
図5Bは
図5Aの説明図である。
図5Aに示した横軸はクロマトグラムにおいてピークの頂点や、ベースラインの始点・終点の検出時間である。
図5Aに示した縦軸は1倍、10倍、100倍の成分濃度に相当するピーク面積の平均をログスケールで表している。
図5Bに凡例として示すように、
図5Aに示した始点、頂点、終点に交差する横線は、それぞれの点を検出した時間範囲を示したものであり、最大時間501、最小時間502、最大頻度時間503について、それぞれ短い縦棒を付けた。
【0066】
図5Aにおいて、濃度が濃くなるにつれ、始点や終点が頂点から離れる様子が見て取れる。これは、
図3および
図4の始点・終点の傾向を示すものである。また、始点の最大頻度時間503は、最大時間501に近く、終点では最小時間502に近い。
【0067】
図6は、特定の成分濃度におけるベースラインの終点を例に、時間と頻度との関係をヒストグラムとして模式的に示したグラフである。
図6の横軸の時間は、例えば1分毎などに分け、終点を検出した時間枠と回数を棒グラフで示している。この
図6では、最大頻度を与える時間503に対して前側(時間の値が小さい側(最小時間502側))は比較的急激に頻度が下がり、後側(時間の値が大きい側(最大時間501側))は比較的穏やかに頻度が下がる傾向がある。
【0068】
本発明は、このような傾向に着目し、ピークの頂点、およびベースラインの始点・終点に対し、確からしさなどの評価値をスコアとして与えるものである。
【0069】
以下、ベースラインの終点を例にスコア関数について説明する。
【0070】
図7A、
図7Bは、にスコア関数の例を示す図である。
【0071】
図7Aは、スコアに頻度を反映させるモデルの例を示す図である。
図6の頻度の情報から、例えば最大頻度時間503のスコア値を100とし、
図6に示す最大時間501、最小時間502を10などとする。
図7Aに示した時間は実際に観測した時間であるため、実際に終点を検出する範囲となる時間を新たに、検出の可能性のある最大時間701と最小時間702として設定し、スコアは0とする。それらの時間とスコアの値を用い、任意の時間に対するスコアを線形で近似し、スコア関数として定義する。
【0072】
つまり、スコア関数とは、濃度違いの試料に由来するピーク検出結果から得た頻度情報に基づく関数である。
【0073】
なお、スコア関数を決める各時間については、ヒストグラムの元データについて時間が昇順になるようにソートし、中央値の時間を最大頻度時間503、全体の1/5番目に相当する時間を最小時間502、全体の4/5番目に相当する時間を最大時間501、1番目の時間と最小時間502との差を1番目から減算した時間を可能性のある最小時間702とし、最後のデータの時間と最大時間501の差を最後のデータの時間に加算したものを可能性のある最大時間701とするなど、応用することができる。
【0074】
また、ピークの頂点については、ピークを時間的に特徴づけるものであればよく、例えば面積を求めた範囲の重心位置に対応する時間などで代用できる。
【0075】
図7Bは、ベースラインの終点の可能性がある時間範囲において1、それ以外は0とするスコア関数を定義した図である。例えば、ピークの頂点に対応する時間はある範囲において比較的再現する場合が多い。単にそのピークの頂点が目的成分かどうかの二値を判定する場合は、このような1か0、すなわち該当か非該当の判定も意味を持つ。
【0076】
図8A、
図8B、
図8Cを用いてスコア関数を導出する別法を、ベースラインの終点を例に説明する。別法におけるスコア関数は、ベースラインの始点と終点との間のクロマトグラム上のピークとノイズ領域から得た谷の出現確率に基づき決定される関数である。
【0077】
終点付近では目的成分が漸減するが、ベースラインの終点すなわち谷(極小点)が現れるには、目的成分に由来する信号の減少量よりも、ノイズに由来する信号の増加量の方が多い必要がある。ここに着目し、終点の出現確率をスコアとして反映する。
【0078】
図8Aは、スコア関数を導出するピークのベースライン終点付近のクロマトグラム801を示す図である。ここで、検出されたベースライン終点802の後にノイズ領域803を設定する。もし、適当なノイズ領域がない場合、目的成分が存在しない試料を測定し、そのクロマトグラムにおいて目的成分が溶出するであろう時間をノイズ領域とすることもできる。
【0079】
ノイズ領域803では谷と山が交互に繰り返されるが、その領域803における谷と谷の平均間隔tと、谷から山への最大増分M、および信号の平均値804を求める。ここで、ノイズの波形に対し、谷と谷は平均間隔tであり、谷から山に至る増分は0〜最大増分Mの間で等しく出現するモデルを設定する。
【0080】
先述のクロマトグラム801の平滑化や回帰分析などにより、
図8Bに示すような、ノイズの影響を排除したクロマトグラム811を作成する。ここで、目的成分が終点802付近でノイズ領域803の平均値804に向けて漸減する条件などを加味することで、回帰曲線の精度を上げることができる。
【0081】
このクロマトグラム811に対し、ノイズ領域における谷と谷の平均間隔tにおいて、谷から山への最大増分Mに相当する位置812を検出する。ここで、位置812から頂点側は、最大増分Mよりも大きな変化をしている領域となる。この領域では、ベースラインの終点となる可能性はない。
【0082】
一方、頂点と逆側(図の右側)は、クロマトグラム811の変化量が漸減する領域となる。減少幅が最大増分Mよりも小さいため、この領域にベースラインの終点が現れる。
【0083】
図8Bはベースライン終点付近のクロマトグラムのスコアの算出説明図である。位置812の点から時間間隔tごとに点を定め、1〜7の番号を付与した。No.1の位置812がベースラインの終点の可能性がある領域の起点である。
【0084】
次に、番号を付与した各点が谷になる確率を求める考え方を説明する。
【0085】
もし、No.1の点812の直後の山に最大増分Mのノイズが重畳したとしても、No.1の点は谷にはならない。しかし、No.2の点であれば、No.3の点との差が最大増分Mよりも小さいので、最大増分Mのノイズが次の山に重畳すれば、No.2の点は谷となる。谷から山に至る増分が0から最大増分Mまで等しく出現すると仮定すれば、谷になる確率は、((M−ΔD)/M)で表すことができる。ここで、ΔDは次の点からの差分(絶対値)を意味する。
【0086】
図8Cは、
図8BのNo.1〜7の各点の信号強度をD、最大増分Mを5とした場合の、各点における谷の出現確率pを求めた例を示す表である。例えばNo.2の点が谷になる確率pは、(5−2)/5=0.6、No.3の点が谷になる確率pは、(5−1)/5=0.8である。
【0087】
もし、頂点からみて最初の谷がベースラインの終点になるとすると、ある点が終点になるためには、そこから頂点側の点が谷ではない条件が付く。谷にならない確率を(1−p)とすれば、No.2の点が終点になる確率は、No.1が谷にならない確率とNo.2が谷になる確率の積、すなわち、(1−0)×0.6=0.6となる。No.3が終点になる確率は、No.1が谷にならない確率とNo.2が谷にならない確率とNo.3が谷になる確率の積(1−0)×(1−0.6)×0.8=0.32、No.4が終点となる確率は、No.1が谷にならない確率とNo.2が谷にならない確率とNo.3が谷にならない確率と、No.4が谷になる確率の積(1−0)×(1−0.6)×(1−0.8)×0.8=0.064となる。これをS(スコア)として
図8Cに示した。これは、
図8Bに示した時間に対するスコアの関係(スコア関数)に対応する。
【0088】
以上、頻度モデルと該非モデル、およびクロマトグラムとノイズ領域からスコア関数を導出したモデルを示したが、ピークの頂点や、ベースラインの始点・終点の傾向からは、これら以外にも様々なモデルを設定することができる。
【0089】
なお、クロマトグラム上のピークの出現位置は、カラム201−3の温度や溶離液204の組成などによって変わる可能性がある。ピーク全体に溶出時間が前後する現象と、頂点に対するベースラインの始点・終点の位置が変わる現象を分けて考えるとすれば、ベースラインの始点・終点の時間を評価する際に、頂点との差に着目することも可能である。すなわち、始点・終点のスコア関数の横軸には、頂点の時間との差を採用してもよい。
【0090】
以上が、同じ目的成分について、濃度が異なる試料の測定で得た(面積が異なる)ピークの頂点、およびベースラインの始点・終点の時間的な傾向をスコア関数としてモデル化する方法となる。なお、同じ試料であれば、濃度が未知の場合でも、本手法を適用することができる。
【0091】
また、検量線を作成するための標準試料の場合、夾雑成分が少なく、ピーク検出が比較的容易で結果の信頼性や再現性も高い。すなわち、面積に対するピークの頂点やベースラインの始点・終点の傾向を求めやすい。
【0092】
ステップ101−3に続いて、ステップ102−1が実行される。
【0093】
(4)濃度が未知の成分の測定(ステップ102−1)
濃度が未知の成分の測定においては、先の(1)濃度が異なる成分の測定(ステップ101−1)において記載した装置、および基本的には同じ条件で分析を行う。
【0094】
続いて、ステップ102−2が実行される。
【0095】
(5)ピーク検出(ステップ102−2)
濃度が未知の成分の測定結果に対するピーク検出も、基本的に上記(2)ピーク検出(ステップ101−2)と同じ方法で行う。
図9は、濃度が未知の試料を測定して得たクロマトグラム上のピークと、その頂点、およびベースラインの始点、終点の例を示す図である。ここで得た始点と終点を結ぶベースラインの上側の閉じた部分の面積を計算し、このピークの測定値を得る。
【0096】
続いて、ステップ102−3が実行される。
【0097】
(6)ピーク検出結果の評価(ステップ102−3)
図10と
図11を用い、
図9の測定値(面積)に対するスコアの値を求める方法を説明する。なお、ここでも簡単のため終点について説明しているが、考え方は始点や頂点にも応用できる。
【0098】
図10はスコア関数の適用を示す図である。
図10において、測定値に近い面積に対応するスコア関数を二つ選択する。ここではその面積をA1及びA2としている。それぞれのスコア関数を終点の時間に適用することにより、
図11はスコアの値を内挿で求める説明図であり、
図11に示すようにして、スコアS1及びS2を得ることができる。
【0099】
ここで、
図11に示すように、測定値から終点のスコアを内挿で求める。内挿に適した二つのスコア関数がない場合、最も近いもの二つを選択して外挿する。
【0100】
図12及び
図13を用いて、スコアを求める別法について説明する。
【0101】
図10及び
図11に示した方法は、求めたスコアを内挿していたが、ここではスコア関数そのものを特徴点から内挿する例を示す。挟み込むスコア関数がなく内挿が難しい場合は、外挿でもよい。
【0102】
図12において、
図10と同様に、測定値(面積)に近い測定値に対応するスコア関数1とスコア関数2とを選択する。ここで、スコア関数の最大時間・最小時間・最大頻度時間などの特徴点に着目する。例えば、
図12の例では、スコア関数1と2において、最大時間を線分1201で結び、測定値の最大値を内挿している。同様に、最小時間と最大頻度時間についても、線分1202と線分1203で示した。
図13に示すように、求めたスコア関数からスコアを決定する。
【0103】
ここで、スコア関数を定める時間について内挿しているが、もし、スコア関数1と2で特徴点のスコアが異なっているような場合、スコアの値についても内挿することで、測定値に対応するスコア関数を求めることができる。
【0104】
ここでは比較的単純なスコア関数で説明したが、
図7や
図8に示したスコア関数などを適用することができる。
【0105】
上記の最大時間の場合と同様にして、ピークの頂点およびベースラインの始点のスコアを求める。さらに、求めたスコアの和や積、最小値などをピークのスコアとする。ここで、スコア関数が、それぞれの出現確率である場合、積を求めることで判定した始点、頂点、終点から構成されるピークの確からしさの指標となる。また、出現スコア関数が0から100などの値を与える場合は、始点、頂点、終点の和を求めてもよい。さらに信頼性の指標としては、スコアの最小値で代表してもよい。
【0106】
スコアが該非モデル、すなわち、ありうるかどうかである場合、ピークの頂点やベースラインの始点・終点のどれか一つでも非該当となれば、そのピーク検出結果を棄却する根拠となる。
【0107】
検出したピークが目的成分かどうかの判定を重視する場合、頂点のスコアを採用し、始点・終点から定量値の信頼性を求めるなど応用することもできる。
【0108】
以上のように、本発明の実施例1によれば、試料成分の広い濃度範囲にも対応しうるピーク検出が可能であり、その結果に対する評価値を提供することができるクロマトグラフィー質量分析方法およびクロマトグラフ質量分析装置を実現することができる。
【0109】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について説明する。
【0110】
実施例2において、液体クロマトグラフ201、質量分析装置202、データ処理装置203、LC制御装置205、MS制御装置206、表示装置207、キーボード208の構成は、実施例1と同様である。
【0111】
実施例2は、ピーク検出結果のスコアによる評価を応用し、より最適なピーク検出結果を得る方法及び装置である。つまり、得られた成分波形から煩雑成分を除去し、より、正確なピーク検出結果を選定する方法及び装置である。
【0112】
図14A、
図14B、
図14Cは、複数のピーク候補を検出した例を示す図である。
【0113】
図14A、
図14B、
図14Cに示す波形はどれも同じであるが、
図14Aに示した例は、頂点の右側の谷から垂線をおろし、左側の谷から夾雑成分の右側の谷に伸ばした直線との交点までをベースラインとして始点・終点を決めている。
【0114】
図14Bに示した例は、頂点の両側にある谷と谷を始点と終点とした。
【0115】
図14Cに示した例は、
図14Aに示した例と同様に、頂点の左側の谷から、夾雑成分の右側の谷までの直線をベースランとし始点と終点を決めている。さらに、
図14Cに示した例は、夾雑成分のピークに対し接線を引き、夾雑成分のベースラインの始点と終点とする。ここで、始点と終点を結ぶ直線の上側の面積を採用するが、
図14Cに示した例の場合は夾雑成分の面積を減算する。
【0116】
図14A、
図14B、
図14Cに示した例の面積の値は、それぞれ異なっており、
図14Bに示した例の面積<
図14Aに示した例の面積<
図14Cに示した例の面積となる。すなわち、前述の始点・頂点・終点の評価において、面積の値ごとにそれぞれのスコアを得ることができる。ここで、最もスコアのよい組み合わせをピークとして採用することにより、より最適な始点・頂点・終点から構成されるピークと面積を決定することができる。これについては、表示例を用いて後で詳述する。
【0117】
なお、ここで複数の候補の選出は、従来のアルゴリズムを応用してもよいが、例えば頂点の前後に出現する谷や接線を網羅的に抽出し、ベースラインによって閉じた面を与えるものを選出する方法が考えられる。
【0118】
図15は、実施例2における処理の機能ブロック図である。
【0119】
本実施例2は、スコア関数を作成するスコア関数作成ブロック1501と、それを適用するスコア関数適用ブロック1502とを備えている。
【0120】
スコア関数を作成するスコア関数作成ブロック1501は、濃度違いのクロマトグラムを測定・蓄積する濃度違いのクロマトグラム測定部1501−1、ピークの検出条件を設定する検出条件設定部1501−3、指定された条件に基づきクロマトグラムのピークを検出するピーク検出部1501−2、ピーク検出で得た面積に対するピークの頂点、ベースラインの始点・終点を蓄積する面積・始点・頂点・終点蓄積部1501−4を備える。さらに、スコア関数の作成条件を設定する作成条件設定部1501−6、ピーク検出の結果からスコア関数を作成するスコア関数作成部1501−5、および作成した面積に対応するスコア関数を蓄積するスコア関数蓄積部1501−7とを備えている。
【0121】
スコア関数適用ブロック1502は、濃度未知のクロマトグラム測定部1502−1と、ピーク検出部1502−2と、ピーク検出の結果を蓄積する面積・始点・頂点・終点蓄積部1502−3と、スコアの算出部1502−4と、始点・頂点・終点のスコア算出部1502−5と、ピークの評価部1502−6と、ピーク確定結果蓄積部1502−7とを備える。
【0122】
関数適用ブロック1502は、濃度未知のクロマトグラムのピーク検出で求めた面積に対する、ピークの頂点やベースラインの始点・終点からスコアを算出し、ピークとしてのスコアを求めることでそのピークを評価している。ここで、複数のピーク候補が存在する場合、最もスコアの良いものを選出し、ピークとして確定する。なお、関数適用ブロック1502におけるピーク検出では、関数作成ブロック1501と同じ条件を適用する。
【0123】
関数作成ブロック1501の処理は、
図1の前半ステップ101の処理に相当し、関数適用ブロック1502の処理は、
図1の後半ステップ102に相当する。
図1に示した例の処理と、
図15に示したブロック1501及び1502の処理との大きな違いは、関数適用ブロック1502のピーク検出として、
図14に示したように複数のピーク候補を出力する可能性があることである。さらに、それらの候補についてスコアを求めた後、最も可能性の高いものを目的成分に対応するピークとして選出することである。
【0124】
図16は、ピーク検出条件の設定画面の一例を示す図である。この設定画面は表示装置207が備える表示画面である。
【0125】
図16に示した例では、目的成分が既に選択されている状況での設定例を示した。この例では、クロマトグラムから特定のピークを選出する際に、ピークの頂点を検出する時間範囲と、ノイズとシグナルを識別するためのノイズ幅に相当するイオン量を入力する。一般的なデータ処理において、ピーク検出において平滑化の条件を設定する場合も多いが、ここでは省略している。
図16に示した例では、時間範囲(min)が3.5−4.5分であり、ノイズ幅が150となっている。
【0126】
図17は、スコア関数作成条件の設定画面の一例を示す図である。この設定画面も表示装置207が備える表示画面である。
【0127】
図17に示した例は、ベースラインの終点のスコア関数を作成する条件の設定例である。
【0128】
また、
図17において、スコア関数のタイプとして、スコア、確率、該非の中からいずれかを選択できるが、図示した例では、スコアを選択している。さらに、その条件として、最大頻度時間・最小時間・最大時間のスコアを100・10・10とした。
【0129】
図17に示した設定画面において、タイプとして確率が選択された場合、スコア関数の面積に対する当該時間のスコアを確率として出力する(表示する)。該非は、最小時間・最大時間の間を1(該当)、それ以外を0(非該当)として固定するなどの処理も可能である。
【0130】
図17に示した設定画面には時間のパラメータを含んでいないが、濃度違いの測定によって得た最大時間・最小時間・最大頻度時間をそれぞれ適用することとした。
【0131】
図18はスコア関数パラメータ表示例を示す図である。
図18において、各濃度(5、50、500)のピークの頂点やベースラインの始点・終点における最小時間、最大頻度時間、最大時間を整理している。
【0132】
先に示した
図17のスコアを適用すれば、例えば濃度5の終点について、最小時間51のスコアは10、最頻時間(最大頻度時間)53のスコアは100、最大時間57のスコアは10となる。
図18に示す各時間が、
図5A、
図5Bの各濃度の始点、頂点、終点の時間において、最小時間502、最大頻度時間503、最大時間501の値に相当する。
【0133】
図19Aは、ピーク検出結果と評価スコア表示の画面表示例を示す図である。
図19Aは、特定の目的成分に着目し、試料ごとにピークの頂点やベースラインの始点、終点の時間、ピークの面積、およびピークのスコアと始点、頂点、終点のスコアを表示している。もし、
図14Cの例のように、夾雑成分のピークを除外するような場合、除外した後に残った部分の面積に対するスコア関数を始点、頂点、終点に適用している。
【0134】
ここで、
図19Aに示す試料IDがA001の場合のピーク検出結果と評価スコア表示が、
図18に示した濃度50の始点、頂点、終点における最頻時間に一致している。
【0135】
そこで、
図17のスコア(10、100、10)を適用すると、それぞれ100、100、100のスコアとなる。なお、ピークのスコアとしては、始点、頂点。終点のスコアの中の最小値を採用した。
【0136】
試料IDがA002の試料では、始点、終点がA001に比べてピークの外側に位置している。また、頂点の時間43を与えた試料IDがA003の場合は、
図18の濃度5に近い測定値を示した例だが、頂点のスコア関数の最小、最頻、最大の範囲38、40、42の外側にあるため、スコアが0となっている。
【0137】
図19Aに示した試料IDがA001の結果が、複数のピーク検出結果からスコア関数で求めた値を用いて最適なものを選択したものとして、その詳細について、
図19Bを用いて説明する。
図19Bはピーク検出の詳細情報を表示する画面表示例を示す図である。ここで、
図19Bにおいて、No.はピークの候補に付けた番号であり、負の値はそれが夾雑成分として減算したものであることを意味する。時間、面積、スコアは
図19Aと同様の意味である。タイプはベースラインの引き方を意味する。ここでは、タイプHは、
図14Aのように谷から垂線をおろして終点とし、線を結ぶ方法、Vは同じく
図14Bのように谷を終点として、線を結ぶ方法、Tは同じく
図14Cの接線による線を結ぶ方法である。
【0138】
例えば、
図19Bに示したNo.3の候補は、負の値(−1)で示される夾雑成分のピークを除外している。このように、ピーク検出において複数の候補を検出した場合、それぞれについて面積に対する始点、頂点、終点のスコアとピークのスコアを求める。ここで最もスコアの高いNo.3の候補をピーク検出の結果とした。
【0139】
ここでは表を用いて整理した例を示したが、クロマトグラム上のピークに直接スコアの値を表示する方法なども有効である。
【0140】
以上のように、本発明の実施例2によれば、実施例1と同様な効果を得ることができるが、実施例1に比較して、煩雑成分を除去することができるので、より最適なピーク検出結を得ることができる。
【0141】
上述した例は、本発明を重複ピークにおけるピーク検出に応用する例であるが、複数の候補から最適なものを選択する考え方は、単独ピークの検出において、ベースラインの始点や終点の候補が複数ある場合にも適用できる。例えば、頂点の左に位置する最初の谷、二番目の谷、三番目の谷を始点の候補とし、終点も同様に候補を求めれば、それらを結ぶベースラインの引き方は始点3候補、終点3候補の9通りとなる。それらの全てが、閉じた領域を与え、ピークとして有効であれば、9個のスコアの値を評価することで、最適なものを選択することができる。
【0142】
以上においては、濃度違いの測定からスコア関数を求め、ピーク検出に応用した例を示した。
【0143】
(実施例3)
次に、
図20、
図21A、
図21B、
図22を参照しつつ、濃度が未知の試料測定を実施例3として説明する。実施例3においては、既知の試料成分のピーク検出を行い、その傾向を求める。そして、求めた傾向を基準として、成分未知の試料の測定結果を評価し、成分未知の試料成分のピーク選定を行う例である。
【0144】
実施例3において、液体クロマトグラフ201、質量分析装置202、データ処理装置203、LC制御装置205、MS制御装置206、表示装置207、キーボード208の構成は、実施例1と同様である。
【0145】
図20は、実施例3における検出結果の分析及び検出結果の評価処理フローを示す図である。
図20に示した処理フローでは、点線で囲んだ前半部分(ステップ2001)で複数の試料測定からピーク検出結果の傾向を分析し、後半部分(ステップ2002)で、先に求めた傾向に対して一つまたは複数の試料測定に対するピーク検出結果を評価している。
【0146】
以下、
図20のフローに従い説明する。
【0147】
(1)試料測定(ステップ2001−1)
まず、目的成分を含む複数の試料を測定する。利用する装置については、
図2に示す液体クロマトグラフ質量分析装置を採用することができる。ここで、測定する試料における目的成分の濃度は未知でもよい。しかし、後の分析に足る試料数が必要となる。
【0148】
(2)ピーク検出(ステップ2001−2)
図3や
図4に示したように、ピーク検出としてピークの頂点やベースラインの始点・終点を求める。なお、後の分析や評価の工程を考えると、データ処理装置203により、正しく検出していることを判断し、表示装置207によるグラフ表示などで確認することが望ましい。
【0149】
(3)分析(ステップ2001−3)
分析ステップ2001−3においては濃度が未知の試料を想定し、
図5Aに示した最大時間501、最小時間502、最大頻度時間503に相当する情報を得る。この情報を得る方法の一例を
図21A、
図21Bおよび
図22を用いて、以下に説明する。
【0150】
図21A及び
図21Bにはピーク検出で求めたピークの頂点やベースラインの始点・終点の傾向を分析した結果を模式図で示している。
図21Aにおいて、横軸はクロマトグラムにおいてピークの頂点や、ベースラインの始点・終点の時間を示す。
図21Aの縦軸はピークの面積を示す。
図21Bに凡例としても示した横棒は、それぞれの点を検出した時間範囲を示したものであり、基本的には
図5Bに示した最大時間501、最小時間502、最大頻度時間503に相当する。
【0151】
実施例1の場合は、同じ濃度の試料に由来する目的成分のピークから値を求めているが、実施例3では、
図22に示すように、面積においてある区間2104を想定し、その範囲における面積と各点の時間から最大・最小・最大頻度を求める。なお、最大頻度については、時間の値が昇順となるように各点を並べた中の中央値を採用してもよい。
【0152】
図22は、特定の面積範囲における終点の分析結果を示す図である。
図22において、終点に着目し、ピーク検出で求めた終点の時間と面積からなる結果を四角印で表している。ここで、時間軸方向の最大点2201と最小点2202が、時間範囲の最大501と最小502に対応する。なお、ここでは中央値となる点2203の時間を、最大頻度時間503に相当する点として採用した。
【0153】
このようにして、ある面積区間2104において最大、最小、最大頻度となる時間を求め、それらの面積の例えば平均値を対応づける。終点に着目すれば、そのような面積の区間を複数設定し、面積と最大頻度の時間で得られる複数の点をつなぐと、
図21Aに示す終点の傾向を示す線2103を求めることができる。同様にして、頂点の傾向を示す線2101、始点の傾向を示す線2102を求める。
【0154】
頂点・始点・終点の傾向を示す線2101、2102、2103の求め方としては、上記以外にも考えることができる。たとえば、ピーク検出で得た面積と時間を抽出し散布図とし、回帰分析により傾向を求める方法や、散布図において各点の密度から等高線図とする方法などがある。
【0155】
(4)試料測定(ステップ2002−1)
図20の後半部分のステップ2002における試料測定は、前半部分のステップ2001の試料測定と同じ条件で実施する。他の条件で実施することも可能であるが、テップ2001の試料測定と同じ条件で実施することが望ましい。
【0156】
(5)ピーク検出(ステップ2002−2)
ピーク検出についても、基本的にはステップ2001−2のピーク検出と同じ方法で行う。
【0157】
(6)評価(ステップ2002−3)
実施例3におけるピーク検出の結果を評価する方法については、実施例1に示すステップ102−3の方法を採用することができる。
【0158】
また、(3)の分析ステップ2001−3で求めた頂点、始点、終点の傾向を示す線2101、2102、2103との距離を用い、距離が離れるほどペナルティを与えるようなスコア関数を採用することもできる。
【0159】
以上が、濃度が未知の試料を想定した実施例3であるが、実施例3においても、実施例1と同様な効果を得ることができる。また、実施例3においても実施例2で説明した複数候補から最もスコアの値のよいものを選択するピーク検出法を適用してもよい。
【0160】
上述した本発明によれば、以下のような効果が得られる。
【0161】
(A)定量値の信頼性に対するエビデンスの提供
ピーク検出で得た面積や高さに対し、本発明による信頼性などの評価値を付加する場合、次のような効果が期待できる。
【0162】
(a)定量値に対する信頼性指標の提供
本発明では、ピーク検出で求めた面積や高さの測定値に対して、ピークの頂点やベースラインの始点、終点の傾向から得たスコアを与える。例えばベースラインの始点の評価値が低い場合は、夾雑成分の影響などでピークの形状が変わっていることを示している。測定値は検量線を用いて濃度に換算されるため、目的成分の濃度の値に対して、始点のスコアが低い状況をワーニングとして表示することができる。
【0163】
定量値にあるべき範囲が規定されている場合、範囲の境界値に近い濃度を検出した状態でワーニングがあれば、クロマトグラムの確認や、別の装置による再測定などの対応をユーザーが実行することが可能となる。
【0164】
また、高濃度でピークがテーリングする場合でも、定量分析の結果を妥当とする判断を数値で示すことができる。
【0165】
(b)装置トラブルに対する情報の提供
本発明では、濃度が異なる状況で、ピークの頂点やベースラインの始点・終点について、それぞれ適切な状況からみた異常を検出することができる。例えば、突然特定の微量成分にのみ異常が検出される場合は、装置の設置環境に由来する汚染などを疑う。微量成分全般に異常を示す場合は、装置のクリーニングを実施するなどの対応が可能となる。
【0166】
(c)カラム等の交換などの自動化
本発明で提供するピークの頂点やベースラインの始点・終点の評価値は、クロマトグラフにおけるカラムや溶離液などの交換時期を示す指標となる場合がある。例えばカラム等の劣化により、頂点や始点・終点の時間が早まるなどの目安を得て、新しいカラムに交換するなどの応用が考えられる。
【0167】
(d)再測定の自動化
上記のような指標を提供することにより、異常を検出した試料の自動的な再測定など、ユーザーの負担の軽減を図ることができる。
【0168】
(B)定量精度の向上
ピーク検出の基本は、有限個のベースラインの候補から、最適なものを選択する処理に他ならない。従って、個々の候補に対してより精度の高い評価値を提供することにより、より精度の高いピーク検出が可能となる。ピーク検出で求めた面積や高さの測定値は、検量線によって直接濃度に変換されるため、ピーク検出の精度は定量精度の向上に直結している。
【0169】
本発明では、濃度違いの試料から得た面積や高さの異なるピークの検出結果から、ピークの頂点やベースラインの始点・終点の傾向を求め、ピーク検出に応用するものであり、定量精度の向上が期待できる。
【0170】
(C)既存のピーク検出との組み合わせによる効果
本発明の基本は、検出されたピークの頂点やベースラインの始点・終点に対し、評価値を与えることにある。その方法は、従来のピーク検出と独立して適用することができる。すなわち、ピーク検出に依存することなく、その結果を数値として評価することができる。従来のピーク検出のアルゴリズムを踏襲しつつ、ピーク検出の結果の評価にのみ本発明を適用することが可能である。
【0171】
定量精度の向上のため、面積や高さを求めるアルゴリズムを変更する場合、膨大な検証作業が必要となるのみならず、過去の測定値と比較して数値が少し大きくなるなどの傾向が現れる場合が多い。そのようなリスクを回避し、ピーク検出の評価を可能とすることができる。
【0172】
(D)分析リソースの軽減
例えば薬剤の代謝物に関する研究では、目的とする成分について各種の生体組織における局在化の様子や、血液や尿中の濃度の経時変化などを知る必要がある。そのためには、目的成分が比較的高濃度に存在する試料と、ごく微量しか存在しない試料を分析対象としたい。しかし、それらの試料において目的成分が測定可能な濃度範囲に入らない場合、抽出や濃縮など前処理の条件を変更し、分析条件を最適化しなければならない。測定できる濃度範囲が広く、かつピーク検出もそれに対応していれば、より広範囲の試料に対応でき、検討に要する試料や時間の無駄を省くことができる。
【0173】
以上、本発明の効果について説明した。
【0174】
本発明はピーク検出において新たな評価値を提供し、定量精度の向上や装置の自動化、リソースの軽減などに寄与する。また、従来の技術と併用することも可能であり、その場合も本発明の効果を得ることができる。
【0175】
なお、全ての実施例1〜3において、面積の代わりに高さを用いることもできる。ピークに夾雑成分の影響が大きい場合は、面積よりも高さの方が濃度と測定値の相関がよい場合がある。
【0176】
また、面積や高さと頂点・始点・終点の時間について傾向を求めているが、始点・終点の時間の代わりにピークの始点側の面積・ピークの終点側の面積を利用することもできる。
【0177】
本発明の実施例1〜3は、複数の試料を測定し、まとめてピーク検出するような処理フローを示したが、試料一つ一つについて測定やピーク検出を実施し、集積したピーク検出結果についてスコア関数の決定などの処理を実施する流れも考えられ、本発明の実施例の範囲内とすることができる。
【0178】
以上、様々な例を挙げて説明した本発明は、面積や高さと、ピークの頂点やベースラインの始点・終点から得られる時間などの値との関係に着目する方法により、より確かなピーク検出や、精度のよい定量に寄与するものである。