特許第6873417号(P6873417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6873417-光反応性組成物 図000006
  • 特許6873417-光反応性組成物 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873417
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】光反応性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/50 20060101AFI20210510BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   C08F2/50
   C09K3/00 K
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-219687(P2016-219687)
(22)【出願日】2016年11月10日
(65)【公開番号】特開2018-76447(P2018-76447A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年11月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔発行者〕 公益社団法人 高分子学会 〔刊行物名〕 第65回高分子討論会 予稿集 〔発行日〕 平成28年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有光 晃二
(72)【発明者】
【氏名】中壽賀 章
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−093939(JP,A)
【文献】 特開2006−015740(JP,A)
【文献】 特開2013−216728(JP,A)
【文献】 特開2011−221476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−2/60
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光塩基発生剤、塩基増殖剤、熱ラジカル発生剤及びビニル基を有するモノマーを含有する光反応性組成物であって、
前記塩基増殖剤の含有量が、前記ビニル基を有するモノマー100モル%に対して2モル%以上であり、
前記光塩基発生剤の含有量が、前記ビニル基を有するモノマー100モル%に対して10モル%以下である
ことを特徴とする光反応性組成物。
【請求項2】
塩基増殖剤は、下記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とする請求項1記載の光反応性組成物。
【化1】
一般式(1)中、R及びRはそれぞれ水素又は炭化水素基であるか、或いは、連結して含窒素環を形成するものである。
【請求項3】
更に、無機フィラーを含有することを特徴とする請求項1又は2記載の光反応性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚膜の成形体を製造する場合であっても、低温で深部まで硬化することができる光反応性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光反応性組成物は、光照射によって短時間で硬化することができ、また、フォトマスク、レーザー照射装置等を利用することによってパターン形成することができるという利点を有している。光反応性組成物は、例えば、フィルム又は成型品のハードコート、レジスト材料等として多用されている。
しかしながら、光反応性組成物は、光透過しない成形体、厚膜の成形体、複雑な形状の成形体等を製造する場合には、深部まで硬化しない(又は、表層しか硬化しない)という問題がある。
【0003】
この問題を解決する方法として、フロンタル光反応が提案されている。フロンタル光反応では、例えば、光ラジカル発生剤等の光反応開始剤と、熱ラジカル発生剤と、モノマーとを配合する。フロンタル光反応は、光照射によって光ラジカル発生剤から生成されたラジカルが、モノマーの重合反応を引き起こし、その反応熱によって熱ラジカル発生剤を活性化することにより、光励起が不可能な深部の硬化を実現することを目的としている。
しかしながら、フロンタル光反応は、熱発生によって硬化するシステムであるために、反応系が高温化し、例えば、非耐熱性の被着体と接触した成形体を製造する場合には、被着体を変形させてしまうという問題がある。
【0004】
この問題を解決する方法として、ドミノフリーラジカル光重合法(DFRP)が提案されている。DFRPシステムでは、例えば、非特許文献1に記載されているように、光塩基発生剤、塩基増殖剤、熱ラジカル発生剤及びビニル基を有するモノマーを配合する。このような組成物に光を照射すると、光塩基発生剤から塩基が発生し、その塩基を触媒として塩基増殖剤が反応し、塩基成分の濃度が増加する。その塩基成分の還元性によって熱ラジカル発生剤が低温で分解し、ビニル基を有するモノマーのフリーラジカル重合が起きる。
非特許文献1では、光塩基発生剤と熱開始剤とを触媒とするシステムと比較して、更に塩基増殖剤を加えたDFRPシステムが、インダクションタイムを短縮し、反応速度が向上することが示されている。DFRPシステムは、フロンタル光反応のような熱発生によって硬化するシステムではないため、熱上昇が期待できない場合であっても、光励起が不可能な深部での硬化が進行し、高転化率を得ることができる。
しかしながら、DFRPシステムにおいても、厚膜の成形体を製造する場合には、フロンタル光反応のように反応系が高温化することは避けられなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Minghui He,et al.,Journal of Polymer Science,PART A:POLYMER CHEMISTRY 2014,52,1560−1569
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、厚膜の成形体を製造する場合であっても、低温で深部まで硬化することができる光反応性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、光塩基発生剤、塩基増殖剤、熱ラジカル発生剤及びビニル基を有するモノマーを含有する光反応性組成物であって、前記塩基増殖剤の含有量が、前記ビニル基を有するモノマー100モル%に対して2モル%以上である光反応性組成物である。
また、前記塩基増殖剤の含有量は、前記ビニル基を有するモノマー100モル%に対して3モル%以上であることが好ましい。
以下、本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、光塩基発生剤、塩基増殖剤、熱ラジカル発生剤及びビニル基を有するモノマーを含有する光反応性組成物において、塩基増殖剤の含有量を特定の比較的多い範囲に調整することにより、厚膜の成形体を製造する場合であっても反応系が高温化することがなく、低温で深部まで硬化することができる光反応性組成物とすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の光反応性組成物は、光塩基発生剤、塩基増殖剤、熱ラジカル発生剤及びビニル基を有するモノマーを含有する。
本発明の光反応性組成物に光を照射すると、光塩基発生剤から塩基が発生し、その塩基を触媒として塩基増殖剤が反応し、塩基成分の濃度が増加する。その塩基成分の還元性によって熱ラジカル発生剤が低温で分解し、ビニル基を有するモノマーのフリーラジカル重合が起きる。
【0010】
本明細書中、光塩基発生剤とは、光照射によって塩基を発生する物質をいう。なお、光として、例えば、赤外線、可視光線、紫外線等が挙げられる。
上記光塩基発生剤は特に限定されず、例えば、オキシムエステル系化合物、アンモニウム系化合物、ベンゾイン系化合物、ジメトキシベンジルウレタン系化合物、オルトニトロベンジルウレタン系化合物等が挙げられる。上記光塩基発生剤として、具体的には例えば、2−(9−オキソキサンテン−2−イル)プロピオン酸1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン、9−アンスリルメチルN,N−ジエチルカルバメート、(E)−1−[3−(2−ヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]ピペリジン、グアニジニウム2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオネート、1−(アントラキノン−2−イル)エチルイミダゾールカルボキシレート、2−ニトロフェニルメチル4−メタクリロイルオキシピペリジン−1−カルボキシラート、1−(アントラキノン−2−イル)−エチルN,N−ジシクロヘキシルカルバメート、ジシクロヘキシルアンモニウム2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオネート、シクロヘキシルアンモニウム2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオナート、9−アントリルメチルN,N−ジシクロヘキシルカルバメート、1,2−ジイソプロピル−3−[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]グアニジウム2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサメチレン−ビス(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジルカルバメート)等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0011】
上記光塩基発生剤の含有量は特に限定されないが、上記ビニル基を有するモノマー100モル%に対する好ましい下限が0.1モル%、好ましい上限が10モル%である。上記光塩基発生剤の含有量が0.1モル%以上であれば、上記塩基増殖剤を反応させるのに充分な量の塩基が発生し、上記塩基増殖剤が充分に反応し、塩基成分の濃度が増加する。上記光塩基発生剤の含有量が10モル%以下であれば、上記光塩基発生剤の光吸収が強いことにより光反応性組成物の深部まで光が到達せず硬化不良となってしまうことを、抑制することができる。
【0012】
本明細書中、塩基増殖剤とは、光塩基発生剤から発生した塩基を触媒として分解し、新たに塩基を発生する物質をいう。発生した塩基は新たな触媒として機能し、自己触媒的に多数の塩基を発生し、塩基成分の濃度が増加する。
上記塩基増殖剤は、低分子化合物であってもよいし、高分子化合物であってもよいが、塩基発生速度が増すことから、低分子化合物が好ましい。
【0013】
上記塩基増殖剤は特に限定されないが、下記一般式(1)で表される構造を有することが好ましい。
【0014】
【化1】
【0015】
一般式(1)中、R及びRはそれぞれ水素又は炭化水素基であるか、或いは、連結して含窒素環を形成するものである。
【0016】
上記炭化水素基として、例えば、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数7〜15のアリールアルキル基等が挙げられる。上記炭化水素基として、具体的には例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基が挙げられる。
上記炭化水素基は、アミノ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ヒロドロキシル基等の置換基を有していてもよい。
上記R及びRが連結して含窒素環を形成する場合、該含窒素環は、構成原子として複数のヘテロ原子(窒素、酸素、硫黄等)を含有してもよい。
【0017】
上記一般式(1)で表される構造を有する塩基増殖剤として、具体的には例えば、下記式(1−1)〜(1−14)で表される塩基増殖剤が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0018】
【化2】
【0019】
上記塩基増殖剤の含有量は、上記ビニル基を有するモノマー100モル%に対して2モル%以上である。
上記塩基増殖剤の含有量をこのような特定の比較的多い範囲に調整することにより、厚膜の成形体を製造する場合であっても反応系が高温化することがなく、低温で深部まで硬化することができる光反応性組成物とすることができる。この理由は定かではないが、上記塩基増殖剤の含有量を上記範囲に調整することにより、上記ビニル基を有するモノマーのラジカル重合が比較的ゆっくりと進行するため、上記ビニル基を有するモノマーの重合発熱が抑えられ、反応系が高温化することがないと考えられる。
上記塩基増殖剤の含有量が2モル%以上であれば、光反応性組成物は、厚膜の成形体を製造する場合であっても反応系が高温化することがなく、低温で深部まで硬化することができる。上記塩基増殖剤の含有量は、上記ビニル基を有するモノマー100モル%に対して3モル%以上であることが好ましい。
上記塩基増殖剤の含有量の上限は特に限定されず、上記塩基増殖剤がラジカル重合の遅延剤として働くことでラジカル重合が停止してしまうことのない範囲であればよい。
【0020】
上記熱ラジカル発生剤は特に限定されず、例えば、過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。
上記過酸化物は特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジオクチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシラウレート、ラウロイルパーオキサイド、ジオクタノイルパーオキサイド、過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化t−ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1−フェニル−2−メチルプロピル−1−ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸t−ブチルヒドロペルオキシド、過蟻酸t−ブチル、過酢酸t−ブチル、過安息香酸t−ブチル、過フェニル酢酸t−ブチル、過メトキシ酢酸t−ブチル、過N−(3−トルイル)カルバミン酸t−ブチル、重硫酸アンモニウム、重硫酸ナトリウム等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0021】
上記アゾ化合物は特に限定されず、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、ジメチル2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、1,1’−アゾビス(1−アミジノ−1−シクロプロピルエタン)、2,2’−アゾビス(2−アミジノ−4−メチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−N−フェニルアミノアミジノプロパン)、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−エチルアミノ−2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(1−アリルアミノ−1−イミノ−2−メチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−N−シクロへキシルアミジノプロパン)、2,2’−アゾビス(2−N−ベンジルアミジノプロパン)及びその塩酸、硫酸、酢酸塩等、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)及びそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(イソブチルアミド)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(1,1’−ビス(ヒドロキシメチル)エチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−1,1’−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミド]等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0022】
上記熱ラジカル発生剤の含有量は特に限定されないが、上記ビニル基を有するモノマー100モル%に対する好ましい下限が1モル%、好ましい上限が3モル%である。上記熱ラジカル発生剤の含有量が1モル%未満(例えば、上記熱ラジカル発生剤の含有量が0.5モル%)であると、上記ビニル基を有するモノマーのラジカル重合が進行しないことがある。上記熱ラジカル発生剤の含有量が3モル%を超えると、モノマーの重合反応熱によって熱ラジカル発生剤が活性化され、反応が進行する、いわゆるフロンタル光反応が起こることがある。
【0023】
上記ビニル基を有するモノマーは特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸及びそのエステル、(メタ)アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、メチルビニルエーテル、スチレン、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリロニトリル等のビニルモノマー、イソプレン等の不飽和二重結合を有する化合物等が挙げられる。また、上記ビニル基を有するモノマーとして、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能モノマーや、(メタ)アクリロイルモルフォリン等も挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0024】
本発明の光反応性組成物は、更に、無機フィラーを含有することが好ましい。
上記無機フィラーを含有させることにより、光反応性組成物の硬化物に遮光性を付与したり、強度を高めたりすることができる。本発明の光反応性組成物は、上記無機フィラーを大量に含有し、深部まで光が到達しないような場合であっても、表面部分に光照射することによって、低温で深部まで硬化することができる。
【0025】
本発明の光反応性組成物は、厚膜の成形体を製造する場合であっても、低温で深部まで硬化することができる。
このため、本発明の光反応性組成物は、環境条件によって冷却された条件下(例えば、冬場の屋外での条件下)において厚膜の成形体を製造する場合であっても、低温で深部まで硬化することができる。また、本発明の光反応性組成物は、非耐熱性の被着体と接触した厚膜の成形体を製造する場合であっても、被着体の変形を抑制しつつ、高転化率で成形体を製造することができる。
本発明の光反応性組成物の反応時の到達温度は特に限定されないが、好ましい上限は100℃、より好ましい上限は50℃である。なお、本発明の光反応性組成物の反応時の到達温度は、サーモグラフィーにより測定することができる。
【0026】
また、本発明の光反応性組成物は、上記無機フィラーを大量に含有し、深部まで光が到達しないような場合であっても、表面部分に光照射することによって、低温で深部まで硬化することができる。また、本発明の光反応性組成物は、光の影部となる部分を有する複雑な形状の型(例えば、ボイドを有する型)を用い、その型に光反応性組成物を注入して反応させるような注型重合においても、低温で影部まで硬化することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、厚膜の成形体を製造する場合であっても、低温で深部まで硬化することができる光反応性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】光照射後の比較例1〜3で得られた組成物(塩基増殖剤を含まない)のオレフィンのピーク強度の変化を示すグラフである。
図2】光照射後の比較例4、5、6及び7で得られた光反応性組成物の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0030】
(比較例1)
(塩基増殖剤を含まない組成物の調製)
光塩基発生剤として2−(9−オキソキサンテン−2−イル)プロピオン酸1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン(PBG)を5.5mg(0.34モル%)、熱ラジカル発生剤としてベンゾイルパーオキサイド(BPO)を17mg(1.8モル%)、ビニル基を有するモノマーとしてヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を0.5g(100モル%)混合し、組成物を調製した。
【0031】
(比較例2)
(塩基増殖剤を含まない組成物の調製)
熱ラジカル発生剤であるベンゾイルパーオキサイド(BPO)を添加しなかったこと以外は比較例1と同様にして、組成物を調製した。
【0032】
(比較例3)
(塩基増殖剤を含まない組成物の調製)
光塩基発生剤である2−(9−オキソキサンテン−2−イル)プロピオン酸1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン(PBG)を添加しなかったこと以外は比較例1と同様にして、組成物を調製した。
【0033】
<評価1>
比較例1〜3で得られた組成物(塩基増殖剤を含まない)について、以下の評価を行った。
【0034】
(1)ビニル基の反応進行の有無(オレフィンのピーク強度の変化)
組成物をプレート上に塗布し、その上をフッ化カルシウムプレートで覆って環境からの酸素の浸透を遮断した。365nmの中心波長を有するLEDランプを用いて、フッ化カルシウムプレートの上からエネルギー量550〜10000mJ/cmの光を照射した。このとき、フッ化カルシウムプレート上の光強度が50mw/cmとなるようにLEDランプの高さを調整した。光照射後の組成物についてIR測定を行い、オレフィンのピーク強度の変化を評価した。
図1に、光照射後の比較例1〜3で得られた組成物(塩基増殖剤を含まない)のオレフィンのピーク強度の変化を示すグラフを示す。図1に示すように、比較例2で得られた組成物(図中、PBG系)及び比較例3で得られた組成物(図中、BPO系)は、光照射エネルギー量を上げてもオレフィンのピーク強度に変化がなく、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のビニル基の反応が進行していないことが確認された。一方、比較例1で得られた組成物(図中、PBG+BPO系)は、オレフィンのピーク強度が変化し、ビニル基の反応が進行していることが確認されたが、比較的高い3000mJ/cm以上のエネルギー量の光を照射する必要があった。
【0035】
(比較例4)
(光反応性組成物の調製)
光塩基発生剤として2−(9−オキソキサンテン−2−イル)プロピオン酸1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン(PBG)を6.9mg(1.0モル%)、塩基増殖剤として1−(9−フルオレニルメトキシカルボニル)ピペリジン(BA)を5.2mg(1.0モル%)、熱ラジカル発生剤としてベンゾイルパーオキサイド(BPO)を2mg(0.5モル%)、ビニル基を有するモノマーとしてペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)を0.5g(1.7ミリモル)及びアクリロイルモルフォリン(ACMO)を1.5g(5.1ミリモル)混合し、光反応性組成物を調製した。
なお、光塩基発生剤、塩基増殖剤及び熱ラジカル発生剤の量(モル%)は、ビニル基を有するモノマーの合計量100モル%に対する値である。
【0036】
(比較例5)
(光反応性組成物の調製)
熱ラジカル発生剤であるベンゾイルパーオキサイド(BPO)の添加量を4.1mg(1モル%)に変更したこと以外は比較例4と同様にして、光反応性組成物を調製した。
【0037】
(比較例6)
(光反応性組成物の調製)
熱ラジカル発生剤であるベンゾイルパーオキサイド(BPO)の添加量を8.2mg(2モル%)に変更したこと以外は比較例4と同様にして、光反応性組成物を調製した。
【0038】
(比較例7)
(光反応性組成物の調製)
熱ラジカル発生剤であるベンゾイルパーオキサイド(BPO)の添加量を12mg(3モル%)に変更したこと以外は比較例4と同様にして、光反応性組成物を調製した。
【0039】
(実施例1)
(光反応性組成物の調製)
塩基増殖剤である1−(9−フルオレニルメトキシカルボニル)ピペリジン(BA)の添加量を42mg(8モル%)に変更したこと以外は比較例6と同様にして、光反応性組成物を調製した。
【0040】
<評価2>
比較例4〜7及び実施例1で得られた光反応性組成物について、以下の評価を行った。
【0041】
(1)深部硬化
直径0.4cmの試験管に、深さが3cmとなるように光反応性組成物を注入した。365nmの中心波長を有するLEDランプを用いて、試験管の上方から光照射し、重合を行った。このとき、光強度が30mw/cmとなるようにLEDランプの高さを調整した。その後、試験管の底部分の光反応性組成物の硬化の有無を目視にて観察した。
図2に、光照射後の比較例4、5、6及び7で得られた光反応性組成物の写真を示す。図2に示すように、比較例4で得られた光反応性組成物(図中、BPOが0.5モル%)は、硬化しておらず、一方、比較例5、6及び7で得られた光反応性組成物(図中、BPOが1モル%、2モル%及び3モル%)は、重合が試験管の底部分まで進行し、硬化していることが観察された。
実施例1で得られた光反応性組成物の写真は図示しないが、重合が試験管の底部分まで進行し、硬化していることが観察された。
【0042】
(2)反応時の到達温度
上記(1)深部硬化の有無と同様にして、光反応性組成物の重合を行った。このとき、サーモグラフィーにより、光反応性組成物の反応時の到達温度を測定した。到達温度が50℃以下であった場合を◎、50℃を超えて100℃以下であった場合を○、100℃を超えた場合を×とした。結果を表1に示した。
【0043】
(3)反応時の到達温度(冷却)
冷却装置を用いて反応系を0℃に冷却しながら重合を行ったこと以外は上記(1)深部硬化の有無と同様にして、光反応性組成物の重合を行った。このとき、サーモグラフィーにより、光反応性組成物の反応時の到達温度を測定した。到達温度が50℃以下であった場合を◎、50℃を超えて100℃以下であった場合を○、100℃を超えた場合を×とした。結果を表1に示した。
なお、比較例5、6及び7で得られた光反応性組成物は、温度上昇が起きず、重合が試験管の底部分まで進行しなかった。従って、比較例5、6及び7で得られた光反応性組成物では、モノマーの重合反応熱によって熱ラジカル発生剤が活性化され、反応が進行する、いわゆるフロンタル光反応が起こっていたと考えられる。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示すように、実施例1で得られた光反応性組成物は、反応時の到達温度が低いにもかかわらず、重合が試験管の底部分まで進行した。熱ラジカル発生剤の分解温度よりもかなり低い温度で重合が進行していたので、実施例1で得られた光反応性組成物では、光照射により発生した塩基を触媒として塩基増殖剤が反応し、増加した塩基成分の還元性によって熱ラジカル発生剤が低温で分解し、重合が進行したと考えられる。
また、実施例1で得られた光反応性組成物において、重合が爆発的に起きなかったのは、塩基増殖剤が反応し、増加した塩基成分の濃度が高いため、この塩基成分がラジカル重合の遅延剤として働いたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、厚膜の成形体を製造する場合であっても、低温で深部まで硬化することができる光反応性組成物を提供することができる。
図1
図2