【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、光塩基発生剤、塩基増殖剤、熱ラジカル発生剤及びビニル基を有するモノマーを含有する光反応性組成物であって、前記塩基増殖剤の含有量が、前記ビニル基を有するモノマー100モル%に対して2モル%以上である光反応性組成物である。
また、前記塩基増殖剤の含有量は、前記ビニル基を有するモノマー100モル%に対して3モル%以上であることが好ましい。
以下、本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、光塩基発生剤、塩基増殖剤、熱ラジカル発生剤及びビニル基を有するモノマーを含有する光反応性組成物において、塩基増殖剤の含有量を特定の比較的多い範囲に調整することにより、厚膜の成形体を製造する場合であっても反応系が高温化することがなく、低温で深部まで硬化することができる光反応性組成物とすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の光反応性組成物は、光塩基発生剤、塩基増殖剤、熱ラジカル発生剤及びビニル基を有するモノマーを含有する。
本発明の光反応性組成物に光を照射すると、光塩基発生剤から塩基が発生し、その塩基を触媒として塩基増殖剤が反応し、塩基成分の濃度が増加する。その塩基成分の還元性によって熱ラジカル発生剤が低温で分解し、ビニル基を有するモノマーのフリーラジカル重合が起きる。
【0010】
本明細書中、光塩基発生剤とは、光照射によって塩基を発生する物質をいう。なお、光として、例えば、赤外線、可視光線、紫外線等が挙げられる。
上記光塩基発生剤は特に限定されず、例えば、オキシムエステル系化合物、アンモニウム系化合物、ベンゾイン系化合物、ジメトキシベンジルウレタン系化合物、オルトニトロベンジルウレタン系化合物等が挙げられる。上記光塩基発生剤として、具体的には例えば、2−(9−オキソキサンテン−2−イル)プロピオン酸1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン、9−アンスリルメチルN,N−ジエチルカルバメート、(E)−1−[3−(2−ヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]ピペリジン、グアニジニウム2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオネート、1−(アントラキノン−2−イル)エチルイミダゾールカルボキシレート、2−ニトロフェニルメチル4−メタクリロイルオキシピペリジン−1−カルボキシラート、1−(アントラキノン−2−イル)−エチルN,N−ジシクロヘキシルカルバメート、ジシクロヘキシルアンモニウム2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオネート、シクロヘキシルアンモニウム2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオナート、9−アントリルメチルN,N−ジシクロヘキシルカルバメート、1,2−ジイソプロピル−3−[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]グアニジウム2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサメチレン−ビス(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジルカルバメート)等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0011】
上記光塩基発生剤の含有量は特に限定されないが、上記ビニル基を有するモノマー100モル%に対する好ましい下限が0.1モル%、好ましい上限が10モル%である。上記光塩基発生剤の含有量が0.1モル%以上であれば、上記塩基増殖剤を反応させるのに充分な量の塩基が発生し、上記塩基増殖剤が充分に反応し、塩基成分の濃度が増加する。上記光塩基発生剤の含有量が10モル%以下であれば、上記光塩基発生剤の光吸収が強いことにより光反応性組成物の深部まで光が到達せず硬化不良となってしまうことを、抑制することができる。
【0012】
本明細書中、塩基増殖剤とは、光塩基発生剤から発生した塩基を触媒として分解し、新たに塩基を発生する物質をいう。発生した塩基は新たな触媒として機能し、自己触媒的に多数の塩基を発生し、塩基成分の濃度が増加する。
上記塩基増殖剤は、低分子化合物であってもよいし、高分子化合物であってもよいが、塩基発生速度が増すことから、低分子化合物が好ましい。
【0013】
上記塩基増殖剤は特に限定されないが、下記一般式(1)で表される構造を有することが好ましい。
【0014】
【化1】
【0015】
一般式(1)中、R
1及びR
2はそれぞれ水素又は炭化水素基であるか、或いは、連結して含窒素環を形成するものである。
【0016】
上記炭化水素基として、例えば、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数7〜15のアリールアルキル基等が挙げられる。上記炭化水素基として、具体的には例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基が挙げられる。
上記炭化水素基は、アミノ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ヒロドロキシル基等の置換基を有していてもよい。
上記R
1及びR
2が連結して含窒素環を形成する場合、該含窒素環は、構成原子として複数のヘテロ原子(窒素、酸素、硫黄等)を含有してもよい。
【0017】
上記一般式(1)で表される構造を有する塩基増殖剤として、具体的には例えば、下記式(1−1)〜(1−14)で表される塩基増殖剤が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0018】
【化2】
【0019】
上記塩基増殖剤の含有量は、上記ビニル基を有するモノマー100モル%に対して2モル%以上である。
上記塩基増殖剤の含有量をこのような特定の比較的多い範囲に調整することにより、厚膜の成形体を製造する場合であっても反応系が高温化することがなく、低温で深部まで硬化することができる光反応性組成物とすることができる。この理由は定かではないが、上記塩基増殖剤の含有量を上記範囲に調整することにより、上記ビニル基を有するモノマーのラジカル重合が比較的ゆっくりと進行するため、上記ビニル基を有するモノマーの重合発熱が抑えられ、反応系が高温化することがないと考えられる。
上記塩基増殖剤の含有量が2モル%以上であれば、光反応性組成物は、厚膜の成形体を製造する場合であっても反応系が高温化することがなく、低温で深部まで硬化することができる。上記塩基増殖剤の含有量は、上記ビニル基を有するモノマー100モル%に対して3モル%以上であることが好ましい。
上記塩基増殖剤の含有量の上限は特に限定されず、上記塩基増殖剤がラジカル重合の遅延剤として働くことでラジカル重合が停止してしまうことのない範囲であればよい。
【0020】
上記熱ラジカル発生剤は特に限定されず、例えば、過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。
上記過酸化物は特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジオクチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシラウレート、ラウロイルパーオキサイド、ジオクタノイルパーオキサイド、過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化t−ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1−フェニル−2−メチルプロピル−1−ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸t−ブチルヒドロペルオキシド、過蟻酸t−ブチル、過酢酸t−ブチル、過安息香酸t−ブチル、過フェニル酢酸t−ブチル、過メトキシ酢酸t−ブチル、過N−(3−トルイル)カルバミン酸t−ブチル、重硫酸アンモニウム、重硫酸ナトリウム等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0021】
上記アゾ化合物は特に限定されず、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、ジメチル2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、1,1’−アゾビス(1−アミジノ−1−シクロプロピルエタン)、2,2’−アゾビス(2−アミジノ−4−メチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−N−フェニルアミノアミジノプロパン)、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−エチルアミノ−2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(1−アリルアミノ−1−イミノ−2−メチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−N−シクロへキシルアミジノプロパン)、2,2’−アゾビス(2−N−ベンジルアミジノプロパン)及びその塩酸、硫酸、酢酸塩等、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)及びそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(イソブチルアミド)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(1,1’−ビス(ヒドロキシメチル)エチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−1,1’−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミド]等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0022】
上記熱ラジカル発生剤の含有量は特に限定されないが、上記ビニル基を有するモノマー100モル%に対する好ましい下限が1モル%、好ましい上限が3モル%である。上記熱ラジカル発生剤の含有量が1モル%未満(例えば、上記熱ラジカル発生剤の含有量が0.5モル%)であると、上記ビニル基を有するモノマーのラジカル重合が進行しないことがある。上記熱ラジカル発生剤の含有量が3モル%を超えると、モノマーの重合反応熱によって熱ラジカル発生剤が活性化され、反応が進行する、いわゆるフロンタル光反応が起こることがある。
【0023】
上記ビニル基を有するモノマーは特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸及びそのエステル、(メタ)アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、メチルビニルエーテル、スチレン、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリロニトリル等のビニルモノマー、イソプレン等の不飽和二重結合を有する化合物等が挙げられる。また、上記ビニル基を有するモノマーとして、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能モノマーや、(メタ)アクリロイルモルフォリン等も挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0024】
本発明の光反応性組成物は、更に、無機フィラーを含有することが好ましい。
上記無機フィラーを含有させることにより、光反応性組成物の硬化物に遮光性を付与したり、強度を高めたりすることができる。本発明の光反応性組成物は、上記無機フィラーを大量に含有し、深部まで光が到達しないような場合であっても、表面部分に光照射することによって、低温で深部まで硬化することができる。
【0025】
本発明の光反応性組成物は、厚膜の成形体を製造する場合であっても、低温で深部まで硬化することができる。
このため、本発明の光反応性組成物は、環境条件によって冷却された条件下(例えば、冬場の屋外での条件下)において厚膜の成形体を製造する場合であっても、低温で深部まで硬化することができる。また、本発明の光反応性組成物は、非耐熱性の被着体と接触した厚膜の成形体を製造する場合であっても、被着体の変形を抑制しつつ、高転化率で成形体を製造することができる。
本発明の光反応性組成物の反応時の到達温度は特に限定されないが、好ましい上限は100℃、より好ましい上限は50℃である。なお、本発明の光反応性組成物の反応時の到達温度は、サーモグラフィーにより測定することができる。
【0026】
また、本発明の光反応性組成物は、上記無機フィラーを大量に含有し、深部まで光が到達しないような場合であっても、表面部分に光照射することによって、低温で深部まで硬化することができる。また、本発明の光反応性組成物は、光の影部となる部分を有する複雑な形状の型(例えば、ボイドを有する型)を用い、その型に光反応性組成物を注入して反応させるような注型重合においても、低温で影部まで硬化することができる。