特許第6873425号(P6873425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人北海道大学の特許一覧 ▶ 日本製紙株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ダイセルの特許一覧

特許6873425セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、およびそれらの製造方法
<>
  • 特許6873425-セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、およびそれらの製造方法 図000003
  • 特許6873425-セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、およびそれらの製造方法 図000004
  • 特許6873425-セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、およびそれらの製造方法 図000005
  • 特許6873425-セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、およびそれらの製造方法 図000006
  • 特許6873425-セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、およびそれらの製造方法 図000007
  • 特許6873425-セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、およびそれらの製造方法 図000008
  • 特許6873425-セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、およびそれらの製造方法 図000009
  • 特許6873425-セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、およびそれらの製造方法 図000010
  • 特許6873425-セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、およびそれらの製造方法 図000011
  • 特許6873425-セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、およびそれらの製造方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873425
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 3/06 20060101AFI20210510BHJP
   C08B 3/28 20060101ALI20210510BHJP
   D01F 2/28 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   C08B3/06
   C08B3/28
   D01F2/28
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-15300(P2017-15300)
(22)【出願日】2017年1月31日
(65)【公開番号】特開2017-165946(P2017-165946A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年12月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-48235(P2016-48235)
(32)【優先日】2016年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦木 康光
(72)【発明者】
【氏名】金野 晴男
(72)【発明者】
【氏名】島本 周
【審査官】 進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/031444(WO,A1)
【文献】 特開2011−184816(JP,A)
【文献】 特開2013−044076(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/081881(WO,A1)
【文献】 特開2009−107155(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0298065(US,A1)
【文献】 Journal of Polymer Science: Part B: Polymer Physics,2002年,Vol.40,pp.2119-2129
【文献】 Fangzhi Xuebao,2013年,Vol.34, No.9,pp.6-11,ISSN: 0253-9721
【文献】 Macromolecules,2004年,Vol.37,pp.4547-4553
【文献】 Cellulose,2002年,Vol.9,pp.361-367,DOI: 10.1023/A:1021140726936
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 1/00−37/18
D01F 2/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折測定により得られる回折プロファイルで同定されるセルローストリアセテートI型結晶構造を有し、
数平均繊維径が2nm以上400nm以下であり、
粘度平均重合度が50以上2,500以下であり、
セルロースI型結晶構造を含まない、セルロースアセテート繊維。
【請求項2】
粉末X線回折測定により得られる回折プロファイルで同定されるセルローストリアセテートI型結晶構造を有し、
数平均繊維径が4nm以上300nm以下であり、
粘度平均重合度が50以上2,500以下であり、
セルロースI型結晶構造を含まない、セルロースアセテート繊維。
【請求項3】
粉末X線回折測定により得られる回折プロファイルで同定されるセルローストリアセテートI型結晶構造を有し、
数平均繊維径が6nm以上100nm以下であり、
粘度平均重合度が50以上2,500以下であり、
セルロースI型結晶構造を含まない、セルロースアセテート繊維。
【請求項4】
平均置換度が2.0以上3.0以下である、請求項1から3の何れか1項に記載のセルロースアセテート繊維。
【請求項5】
粘度平均重合度が50以上1,500以下である、請求項1から4の何れか1項に記載のセルロースアセテート繊維。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載のセルロースアセテート繊維を含む、セルロースアセテート組成物。
【請求項7】
さらに樹脂を含む、請求項6に記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項8】
繊維状である原料セルロースを、セルロースアセテートに対する貧溶媒と酢酸とを含む溶媒中で無水酢酸と反応させてアセチル化する工程(1)、
前記アセチル化により得られたセルロースアセテートを固形物として分離する工程(2)、
前記固形物を洗浄する工程(3)、
および、前記固形物を水または水を含む有機溶媒に懸濁し、ホモジナイザーを用いて解繊する工程(4)を有し、
前記原料セルロースが木材パルプ又は綿花リンターである、請求項1から5の何れか1項に記載のセルロースアセテート繊維の製造方法。
【請求項9】
前記アセチル化する工程(1)の前に、前記原料セルロースを、水、酢酸、または水および酢酸と接触させて前処理する工程を有する、請求項8に記載のセルロースアセテート繊維の製造方法。
【請求項10】
請求項1から5の何れか1項に記載のセルロースアセテート繊維の存在下で樹脂を溶融混練する工程を有する、セルロースアセテート組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然セルロース繊維は、単結晶繊維が集合した直径約3nmのミクロフィブリルを最小単位とする繊維である。そして、このミクロフィブリルを化学的および物理的処理で取り出すことにより得られる繊維を所謂セルロースナノファイバーという。このセルロースナノファイバーは鋼鉄に対し5分の1の比重であるにもかかわらず、鋼鉄の5倍以上の強度、ガラスの1/50の低線熱膨張係数を有すると考えられ、樹脂材料などの他材料と複合化して当該樹脂材料の強度を高め得る強化用繊維としての用途が期待されている。さらに、セルロースナノファイバーそのものを、または樹脂材料などの他材料と複合化して得られる複合材料を、透明材料としての機能することも期待もされている。しかし、セルロースナノファイバーは親水性であるため、疎水性で極性の無い汎用性樹脂との親和性に劣り、その樹脂に対する分散性に劣る。このため、セルロースナノファイバーの表面を疎水性置換基で修飾するなどの変性が必要と考えられている(特許文献1および2)。
【0003】
ここで、セルロースの結晶構造としては、セルロースI型結晶構造やセルロースII型結晶構造が存在する(非特許文献1および3)。セルロースをアセチル基で修飾したセルロースアセテートの結晶構造としては、セルローストリアセテートI型結晶構造(CTA I)やセルローストリアセテートII型結晶構造(CTA II)が存在することが知られている(非特許文献1、3乃至7)。セルローストリアセテートI型結晶構造は、セルロースI型結晶構造と似た平行鎖構造を(非特許文献4)、セルローストリアセテートII型結晶構造は、逆平行鎖構造をとるとされている(非特許文献3)。そして、セルローストリアセテートI型結晶構造が、一旦セルローストリアセテートII型結晶構造へ変化すると、セルローストリアセテートI型結晶構造への変化は生じないとされている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4998981号公報
【特許文献2】特開2014−162880号公報
【特許文献3】国際公開第2015/107565号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Takashi Nishinoら、Elastic modulus of the crystalline regions of cellulose triesters、Journal of Polymer Science Part B: Polymer Physics、1995年3月、pp 611-618
【非特許文献2】Junji Sugiyamaら、Electron diffraction study on the two crystalline phases occurring in native cellulose from an algal cell wall、Macromolecules、1991年、24(14)、pp 4168-4175
【非特許文献3】E. Rocheら、Three-Dimensional Crystalline Structure of Cellulose Triacetate II、Macromolecules、1978年、11(1)、pp 86-94
【非特許文献4】Stipanovic AJら、Molecular and crystal structure of cellulose triacetate I: A parallel chain structure、Polymer、1978年19(1)、pp 3-8.
【非特許文献5】Masahisa Wadaら、X-ray diffraction study of the thermal expansion behavior of cellulose triacetate I、Journal of Polymer Science Part B: Polymer Physics、2009年1月21日、pp 517-523
【非特許文献6】Takanori Kobayashiら、Investigation of the structure and interaction of cellulose triacetate I crystal using ab initio calculations、Carbohydrate Research、2014年3月31日、Volume 388、pp 61-66
【非特許文献7】Pawel Sikorskiら、Crystal Structure of Cellulose Triacetate I、Macromolecules、2004年、37 (12)、pp 4547-4553
【非特許文献8】桜田一郎ら、セルロース繊維の液相法繊維状酢化 第9報 溶剤を抱有しないセルロース繊維の酢化、繊維学会誌、Vol. 13 (1957)、No. 7、P 434-439,431
【非特許文献9】Edmund M.ら、A Preliminary Report on Fully Acetylated Cotton、Textile Research Journal、1957年3月、vol. 27、no. 3、pp 214-222
【非特許文献10】Richard A. Pethrickら、Plasticization of Fibrous Cellulose Acetate: Part I - Synthesis and Characterization、International Journal of Polymeric Materials and Polymeric Biomaterials、2013年、Volume 62、Issue 4、pp 181-189
【非特許文献11】Stephen E. Doyleら、Structure of fibrous cellulose acetate: X-ray diffraction, positron annihilation and electron microscopy investigations、Journal of Applied Polymer Science、1987年1月、Volume 33, Issue 1、pp 95-106
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
天然のセルロースから得られる繊維であるセルロースナノファイバーの優れた比重、強度および低線熱膨張係数は、そのセルロースナノファイバーが、全てのセルロース分子鎖が同じ方向を向き、平行鎖構造を有するセルロースI型結晶構造(cellulose I。なお、より正確にはcellulose Iαおよびcellulose Iβが存在する(非特許文献2))、さらには、そのセルロース分子鎖が36本程度平行に並んで集合した、セルロースI型結晶構造を含むミクロフィブリル繊維構造に起因すると考えられる。
【0007】
天然のセルロースを酢酸、無水酢酸および硫酸によってアセチル化する従来のいわゆる溶解法酢化によってアセチル化すると、ミクロフィブリル繊維構造を留めないセルローストリアセテートII型結晶構造のセルロースアセテートしか得られない(非特許文献1)。また、前述のとおり、一旦セルローストリアセテートII型結晶構造へ変化すると、セルローストリアセテートI型結晶構造への変化は生じない。したがって、このセルロースI型結晶構造、さらには、ミクロフィブリル繊維構造を保持したまま、天然のセルロース繊維全体を疎水性のセルロース誘導体とし、セルローストリアセテートI型結晶構造を有するセルロースアセテート繊維に導くことができれば、疎水性で極性の無い汎用性樹脂との親和性が改善され、樹脂強化に資すると期待される。しかしながら、従来、セルローストリアセテートI型結晶構造を有し、ミクロフィブリル繊維1本〜100本程度に相当する2〜400nmの繊維径を有するセルロースアセテート繊維(セルロースアセテートナノファイバー)は知られていない(非特許文献4乃至7)。
【0008】
本発明は、樹脂との親和性に優れ、樹脂を強化することができるセルロースアセテート繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一は、セルローストリアセテートI型結晶構造を有し、数平均繊維径が2nm以上400nm以下である、セルロースアセテート繊維に関する。
【0010】
セルローストリアセテートI型結晶構造を有し、数平均繊維径が4nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0011】
セルローストリアセテートI型結晶構造を有し、数平均繊維径が6nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0012】
平均置換度が2.0以上3.0以下であることが好ましい。
【0013】
粘度平均重合度が50以上1,500以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の第二は、前記セルロースアセテート繊維を含む、セルロースアセテート組成物に関する。
【0015】
さらに樹脂を含むことが好ましい。
【0016】
本発明の第三は、繊維状である原料セルロースを、セルロースアセテートに対する貧溶媒と酢酸とを含む溶媒中で無水酢酸と反応させてアセチル化する工程(1)、前記アセチル化により得られたセルロースアセテートを固形物として分離する工程(2)、前記固形物を洗浄する工程(3)、および、前記固形物を水または水を含む有機溶媒に懸濁し、ホモジナイザーを用いて解繊する工程(4)を有する、セルロースアセテート繊維の製造方法に関する。
【0017】
前記アセチル化する工程(1)の前に、前記原料セルロースを、水、酢酸、または水および酢酸と接触させて前処理する工程を有することが好ましい。
【0018】
前記セルロースアセテート繊維の存在下で樹脂を溶融混練する工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、樹脂との親和性に優れ、樹脂を強化することができるセルロースアセテート繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】セルロースアセテート繊維の透過型電子顕微鏡写真を示す図面である。
図2】セルロースアセテート繊維の透過型電子顕微鏡写真を示す図面である。
図3】セルロースアセテート繊維の透過型電子顕微鏡写真を示す図面である。
図4】セルロースアセテート繊維の透過型電子顕微鏡写真を示す図面である。
図5】セルロースアセテート繊維の透過型電子顕微鏡写真を示す図面である。
図6】セルロースアセテート繊維の透過型電子顕微鏡写真を示す図面である。
図7】セルロースアセテート繊維の透過型電子顕微鏡写真を示す図面である。
図8】セルロースアセテート繊維の透過型電子顕微鏡写真を示す図面である。
図9】セルロースアセテートの透過型電子顕微鏡写真を示す図面である。
図10】X線回折結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、好ましい実施の形態の一例を具体的に説明する。
本開示のセルロースアセテート繊維は、セルローストリアセテートI型結晶構造を有し、数平均繊維径が2nm以上400nm以下である。
【0022】
(セルローストリアセテートI型結晶構造)
セルロースアセテート繊維がセルローストリアセテートI型結晶構造(以下、CTA Iとも称する)を有していることは、CuKα(λ=1.542184Å)を用いたX線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて、2θ=7.6〜8.6°付近および2θ=15.9〜16.9°付近の2か所の位置に典型的なピークを有することにより同定することができる。
【0023】
また、同様にセルローストリアセテートII型結晶構(以下、CTA IIとも称する)を有していることは、2θ=7.9〜8.9°付近、2θ=9.9〜10.9°付近および2θ=12.6〜13.6°付近の3か所の位置に典型的なピークを有することにより同定することができる。
【0024】
本開示のセルロースアセテート繊維は、セルローストリアセテートI型結晶構造を有することにより、小さな比重と共に優れた強度を有することができる。非特許文献1には、セルロースI型結晶構造を有するセルロース繊維の弾性率は134GPaと優れていること、無水トリフルオロ酢酸と酢酸の混合物でセルロースを処理して得られるセルロースアセテートは33.2GPaと弾性率に劣ることが記載されている。非特許文献1にはセルロースアセテートを得る反応において、生成物が反応系に溶解したことが記載されており、他方、セルロースアセテートの結晶構造は記載されていないが、非特許文献3に示される通り、溶解状態を経由して得られるセルロースアセテートの結晶構造はセルローストリアセテートII型と考えられる。非特許文献9には、綿のセルロース繊維を原料として、生成物を反応系に溶解させずに終始不均一でアセチル化を行い、得られたセルロースアセテート繊維の強度を測定した結果が記載されている(Table III)。これにより原料のセルロース繊維の強度は1.13g/デニール、セルロースアセテート繊維の強度は1.19デニールであり、アセチル化を行っても天然セルロースのセルロースI型結晶構造に由来する強度は概ね保持されると理解される。ここに記載されるセルロースアセテートは、非特許文献3および非特許文献4の知見を踏まえると、セルローストリアセテートI型結晶構造を有すると考えられる。以上のことから、セルローストリアセテートI型結晶構造は、セルロースI型結晶構造と同様に優れた強度を有すると考えられる。しかしながら、繊維径約20μmの天然セルロース繊維を構成する最小単位である繊維径約3nmのセルロースミクロフィブリルが非特許文献9に記載されるようなアセチル化で保持されているのかどうかはわかっておらず、また、セルローストリアセテートI型結晶構造を有するナノサイズの繊維を創製し、それを樹脂強化などに応用することはされてこなかった。
【0025】
(数平均繊維径)
本開示のセルロースアセテート繊維の数平均繊維径は、2nm以上400nm以下である。4nm以上300nm以下であることが好ましく、6nm以上100nm以下であることがより好ましい。セルロースアセテート繊維の数平均繊維径の下限値は、特に制限されないが、2nm未満であると、ミクロフィブリル繊維構造が保持されない繊維の割合が多くなり、樹脂強化の効果が得られなくなる。セルロースアセテート繊維の数平均繊維径の上限値は、400nmを超えると、セルロースアセテート繊維の解れが不十分であり、当該繊維を含む組成物を調製した場合、分散媒への分散性に劣り、均一および透明で強度に優れた組成物を得られなくなる。
【0026】
ここで、セルロースアセテート繊維の数平均繊維径は、電子顕微鏡写真に基づいて測定した繊維径(n≧6)から算出した値である。
【0027】
(平均置換度)
本開示のセルロースアセテート繊維の平均置換度は、2.0以上3.0以下であることが好ましい。平均置換度を2.0以上3.0以下とすることにより、セルロースアセテート分子表面の疎水性が高く、ポリプロピレン等の疎水性の樹脂との親和性に優れる。セルロースアセテート繊維をポリプロピレン等の疎水性の樹脂に分散させようとする場合、その樹脂との親和性の観点からは、セルロースアセテート繊維の平均置換度の上限値は、より高い方が好ましく、3.0であることが最も好ましく、下限値は、2.2以上であることがより好ましく、2.8以上であることがさらに好ましい。セルロースアセテート繊維を、ポリエチレンテレフタレート等に分散させようとする場合は、平均置換度の上限値は、3.0以下であることが好ましく、2.9以下であることがより好ましく、下限値は、2.0以上であることがより好ましく、2.2以上であることがさらに好ましい。
【0028】
セルロースアセテート繊維の平均置換度は、酢酸セルロースを水に溶解し、酢酸セルロースの置換度を求める公知の滴定法により測定することができる。例えば、以下の方法である。ASTM:D−817−91(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定法に準じて求めた酢化度を下記式で換算することにより求められる。これは、最も一般的なセルロースアセテートの平均置換度の求め方である。
平均置換度(DS)=162.14×酢化度(%)÷{6005.2−42.037×酢化度(%)})
【0029】
まず、乾燥したセルロースアセテート(試料)1.9gを精秤し、アセトンとジメチルスルホキシドとの混合溶液(容量比4:1)150mlに溶解した後、1N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを添加し、25℃で2時間ケン化する。フェノールフタレインを指示薬として添加し、1N−硫酸(濃度ファクター:F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定する。また、同様の方法でブランク試験を行い、下記式に従って酢化度を計算する。
酢化度(%)={6.5×(B−A)×F}/W
(式中、Aは試料の1N−硫酸の滴定量(ml)を、Bはブランク試験の1N−硫酸の滴定量(ml)を、Fは1N−硫酸の濃度ファクターを、Wは試料の重量を示す)
【0030】
(粘度平均重合度)
本開示のセルロースアセテート繊維の粘度平均重合度は、50以上2,500以下であることが好ましく、400以上2,000以下であることがより好ましく、1,000以上1,500以下であることがさらに好ましい。粘度平均重合度が50未満であると、セルロースアセテート繊維の強度が劣る傾向にある。粘度平均重合度が2,500を超えると、本発明の数平均繊維径に解繊することが困難となる。
【0031】
粘度平均重合度(DP)は、以下に示すように、上出ら、Polym J., 11,523-538 (1979)に記載の方法を用いて求めることができる。
【0032】
セルロースアセテートをジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、濃度0.002g/mlの溶液とする。次に、オストワルド型粘度管を用いて25℃におけるこの溶液の比粘度(ηrel、単位:ml/g)を定法で求める。より具体的には、オストワルド粘度管はブランク測定において90秒〜210秒のものとし、25±0.2℃の恒温水槽中で測定に供する溶液を120分以上整温し、ホールピペットを用いて10mlの溶液をオストワルド粘度管に計り取り、溶液の流下時間を2回以上の計測し平均して測定結果とする。測定結果は同様にして計測したブランクの流下時間で除して比粘度とする。このようにして得られた比粘度の自然対数(自然対数比粘度)を濃度(単位:g/ml)で除し、これを近似的に極限粘度数([η]、単位:ml/g)とする。
ηrel=T/T
〔η〕=(ln ηrel)/C
(式中、Tは測定試料の落下秒数を、Tは溶媒単独の落下秒数を、Cは濃度(g/ml)を示す)
【0033】
粘度平均分子量は、次式で求めることができる。
粘度平均分子量=([η]/K1/α
ここで、Kおよびαは定数である。セルローストリアセテートの場合、Kは0.0264であり、αは0.750である。
【0034】
粘度平均重合度は、次式で求めることができる。
粘度平均重合度=粘度平均分子量÷(162.14+42.037×平均置換度(DS))
【0035】
[セルロースアセテート組成物]
本開示のセルロースアセテート組成物は、本開示のセルロースアセテート繊維を含むものである。本開示のセルロースアセテート組成物としては、本開示のセルロースアセテート繊維を含んでいれば特に制限されないが、例えば、本開示のセルロースアセテート繊維を液体(液相)状または固体(固相)状の種々の分散媒に分散させることにより得られる分散液または分散体の他、本開示セルロースアセテート繊維を母材に含ませることにより得られる複合材料が挙げられる。
【0036】
本開示のセルロースアセテート組成物に用いられる液体(液相)状または固体(固相)状の分散媒または母材としては、本開示のセルロースアセテート繊維を分散することができるものであれば特に制限されず、樹脂、特にナイロン樹脂微粒子等の微粒子状樹脂、有機溶媒、油性塗料、水性塗料等が挙げられる。
【0037】
本開示のセルロースアセテート組成物の分散媒または母材となる樹脂としては、モノマー、オリゴマー、およびポリマーのいずれであってもよい。ポリマーの場合、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であっても、いずれも使用することができる。
【0038】
熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ゴム変性ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、酢酸セルロース樹脂、アイオノマー樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリケトン樹脂、フッ素樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は1種または2種以上を併用して用いることができる。熱可塑性樹脂は溶融した液相でもよく、また例えば微粒子状の固相であってもよい。
【0039】
熱硬化性樹脂としては、具体的には、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリル(テレ)フタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は1種または2種以上を併用して用いることができる。また、本発明の樹脂の主成分が熱可塑性樹脂の場合、熱可塑性樹脂の特性を損なわない範囲で少量の熱硬化性樹脂を添加することや、逆に主成分が熱硬化性樹脂の場合に熱硬化性樹脂の特性を損なわない範囲で少量の熱可塑性樹脂やアクリル、スチレン等のモノマーを添加することも可能である。
【0040】
本開示のセルロースアセテート繊維は疎水性に優れるため、上記樹脂の中でも特に、疎水性樹脂に対する分散性に優れ、均一で強度の高い複合材料または分散体を得ることができる。
【0041】
有機溶媒としては、例えばメタノール、プロパノールおよびエタノール等のアルコール;ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらは1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0042】
[セルロースアセテート繊維の製造]
本開示のセルロースアセテート繊維の製造方法について詳述する。本開示のセルロースアセテート繊維は、繊維状である原料セルロースを、セルロースアセテートに対する貧溶媒と酢酸とを含む溶媒中で無水酢酸と反応させてアセチル化する工程(1)、前記アセチル化により得られたセルロースアセテートを固形物として分離する工程(2)、前記固形物を洗浄する工程(3)、および、前記固形物を水または水を含む有機溶媒に懸濁し、ホモジナイザーを用いて解繊する工程(4)を有することにより製造することができる。なお、従来のセルロースアセテート繊維の製造方法としては、特許第5543118号公報、および「木材化学」(上)(右田ら、共立出版(株)1968年発行、第180頁〜第190頁)を参照できる。上記「木材化学」(上)に記載される均一法(言い換えれば、溶解法)により得られるセルロースアセテート繊維は、セルロースアセテートを溶解し溶液とした後に乾式紡糸で得られる繊維であり、結晶構造を有する場合にはセルローストリアセテートII型となり、前述の通り高い弾性率は期待できない。また、このような方法で調製するセルロースアセテート繊維をセルローストリアセテートI型結晶構造に導く方法は知られていない。さらに、このような方法で調製するセルロースアセテート繊維の繊維径は一般の乾式紡糸では数十μmである。特許文献3には、電界紡糸によって100nm径の繊維を得る技術が開示されているが、本発明セルロースアセテート繊維のようにセルローストリアセテートI型結晶構造を有するものではない。
【0043】
(原料セルロース)
本開示のセルロースアセテート繊維の原料セルロースとしては、木材パルプや綿花リンターなどの繊維状の物が使用でき、特にセルロースI型結晶構造を有するものが使用できる。これらの原料セルロースは単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0044】
綿花リンターについて述べる。リンターパルプは、セルロース純度が高く、着色成分が少ないことから、得られるセルロースアセテート繊維を樹脂等との組成物とした場合に、その組成物の透明度が高くなるため、好ましい。
【0045】
次に、木材パルプについて述べる。木材パルプは、原料の安定供給及び綿花リンターに比べコスト的に有利であるため、好ましい。
【0046】
木材パルプとしては、例えば、針葉樹パルプや広葉樹パルプ等が挙げられ、針葉樹漂白クラフトパルプ、広葉樹漂白クラフトパルプ、針葉樹前加水分解クラフトパルプ、広葉樹前加水分解クラフトパルプ、広葉樹サルファイトパルプ、針葉樹サルファイトパルプ等を用いることができる。また、後述するように、木材パルプは、綿状に解砕して解砕パルプとして用いることができ、解砕は、例えば、ディスクリファイナーを用いて行うことができる。
【0047】
本開示のセルロースアセテート繊維を透明材料として機能させる場合、不溶解残渣を少なくし、組成物の透明性を損なわないことを考慮すると、原料セルロースのα−セルロース含有率は、90重量%以上であることが好ましい。
【0048】
ここで、α−セルロース含有率は、以下のようにして求めることができる。重量既知のパルプを25℃で17.5%と9.45%の水酸化ナトリウム水溶液で連続的に抽出し、その抽出液の可溶部分に対して重クロム酸カリウムで酸化し、酸化に要した重クロム酸カリウムの容量からβ,γ−セルロースの重量を決定する。初期のパルプの重量からβ,γ−セルロース重量を引いた値を、パルプの不溶部分の重量、つまりα−セルロースの重量とする(TAPPI T203)。初期のパルプの重量に対する、パルプの不溶部分の重量の割合が、α−セルロース含有率(重量%)である。
【0049】
(解砕)
本開示のセルロースアセテート繊維の製造方法は、原料セルロースを解砕する工程(以下、解砕工程とも称する)を有していることが好ましい。これにより、短時間に一様にアセチル化反応(酢化反応)を行うことができる。解砕工程は、特に、木材パルプ等がシート状の形態で供給されるような場合に有効である。
【0050】
解砕工程において、原料セルロースを解砕する方法としては、湿式解砕法と乾式解砕法とがある。湿式解砕法は、パルプシートとした木材パルプ等に水または水蒸気などを添加して解砕する方法である。湿式解砕法としては、例えば、蒸気による活性化と反応装置中での強い剪断攪拌を行う方法や、希酢酸水溶液中で離解してスラリーとした後、脱液と酢酸置換を繰り返す、いわゆるスラリー前処理を行う方法等が挙げられる。また、乾式解砕法は、パルプシートなどの木材パルプを乾燥状態のまま解砕する方法である。乾式解砕法としては、例えば、ピラミッド歯を有するディスクリファイナーで粗解砕したパルプを、線状歯を有するディスクリファイナーで微解砕する方法や、内壁にライナーを取付けた円筒形の外箱と、外箱の中心線を中心として高速回転する複数の円板と、各円板の間に前記中心線に対して放射方向に取り付けられた多数の翼とを備えたターボミルを用い、翼による打撃と、ライナーへの衝突と、高速回転する円板、翼及びライナーの三者の作用で生じる高周波数の圧力振動とからなる三種類の衝撃作用により、外箱の内部に供給される被解砕物を解砕する方法等が挙げられる。
【0051】
本開示のセルロースアセテートの製造方法においては、これらの解砕方法をいずれも適宜使用することができるが、特に、湿式解砕法が、短時間でアセチル化反応を完結させ、高重合度のセルロースアセテートを得ることができるため好ましい。
【0052】
(前処理)
本開示のセルロースアセテート繊維の製造方法は、解砕または解砕しない繊維状の原料セルロースを、水、酢酸、または水および酢酸と接触させる前処理工程を有していることが好ましい。原料セルロースと接触させる水と共に酢酸を用いても良く、または水を使わずに酢酸のみを用いても良い。この時、酢酸は、1〜100重量%の含水のものを用いることができる。水、酢酸、または水および酢酸は、例えば、原料セルロース100重量部に対して、好ましくは10〜3,000重量部添加することにより接触させることができる。
【0053】
原料セルロースを酢酸と接触させる方法としては、原料セルロースに直接酢酸を接触させてもよく、または、原料セルロースを水と接触させ含水ウェットケーキ状とし、ここに酢酸を加えることでもよい。
【0054】
原料セルロースに直接酢酸を接触させる場合において、例えば、酢酸もしくは1〜10重量%の硫酸を含む酢酸(含硫酢酸)を一段階で添加する方法、または、酢酸を添加して一定時間経過後、含硫酢酸を添加する方法、含硫酢酸を添加して一定時間経過後、酢酸を添加する方法等の酢酸または含硫酢酸を2段階以上に分割して添加する方法等が挙げられる。添加の具体的手段としては、噴霧してかき混ぜる方法が挙げられる。
【0055】
そして、前処理活性化は、原料セルロースに酢酸及び/または含硫酢酸を添加した後、17〜40℃下で0.2〜48時間静置する、または17〜40℃下で0.1〜24時間密閉及び攪拌すること等により行うことができる。
【0056】
原料セルロースを酢酸と接触させる前に、原料セルロースをウェットケーキ状とする場合について述べる。ここで、ウェットケーキ状の原料セルロースを単にウェットケーキと称する。ウェットケーキは、原料セルロースに水を加え、撹拌し、水をろ別することにより製造することができる。このウェットケーキに酢酸を加え、撹拌し、酢酸をろ別する操作を、数回、例えば3回程度繰り返すことにより前処理を行うことができる。水または酢酸をろ別した直後、ウェットケーキの固形分濃度は、5〜50重量%とすることが好ましい。
【0057】
原料セルロースをウェットケーキ状とする場合、原料セルロースとしては、針葉樹漂白クラフトパルプを用いることが好ましい。比較的重合度が高く強度に優れた繊維を得やすいためである。
【0058】
ここで、ウェットケーキの固形分濃度は、次のようにして測定することができる。ウェットケーキの一部(試料)をアルミ皿に約10g秤量し(W2)、60℃の減圧乾燥機で3時間乾燥し、デシケーター中で室温まで冷却後に秤量(W3)し、下記の式に従って固形分濃度を求めることができる。
固形分濃度(%)=(W3−W1)/(W2−W1)×100
W1はアルミ皿の重量(g)、W2は乾燥前の試料を入れたアルミ皿の重量(g)、W3は乾燥後の試料を入れたアルミ皿の重量(g)
【0059】
原料セルロースをウェットケーキ状としてから、酢酸と接触させることにより、後述するアセチル化工程において、比較的低温および比較的短時間でアセチル化を行うことができるため、温度条件および時間条件の管理がしやすく、取扱いも容易となり、さらにセルロースアセテート繊維の製造効率を高めることができる。
【0060】
(アセチル化)
本開示のセルロースアセテート繊維の製造方法においては、繊維状である原料セルロースを、セルロースアセテートに対する貧溶媒と酢酸とを含む溶媒中で無水酢酸と反応させてアセチル化する工程(1)(以下、アセチル化工程とも称する)を有する。アセチル化工程において、原料セルロースには、解砕工程および前処理工程をそれぞれを経た、または経ない原料セルロースを含む。
【0061】
アセチル化は、具体的には、例えば、i)繊維状である原料セルロースに、セルロースアセテートに対する貧溶媒、酢酸、無水酢酸、硫酸を順次添加することにより開始することができる。その添加順序は、異なっていてもよい。その他、ii)セルロースアセテートに対する貧溶媒、酢酸、無水酢酸および硫酸からなる混合物に、繊維状である原料セルロースを添加すること、またはiii)繊維状である原料セルロースに、酢酸、セルロースアセテートに対する貧溶媒、および無水酢酸の混合物並びに硫酸のように、先に調製した混合物を用いて、それを添加すること等により開始することができる。ここで、酢酸は、99重量%以上のものを用いることが好ましい。硫酸は、98重量%以上の濃度のもの、言い換えれば濃硫酸を用いることが好ましい。濃硫酸に代えて、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の強酸や、塩化亜鉛等の塩等、セルロースのアセチル化触媒として知られているものを、アセチル化工程における触媒として使うことができる。
【0062】
セルロースアセテートに対する貧溶媒を用いることで、繊維状の原料セルロースのミクロフィブリル繊維構造を壊すことなく、アセチル化を行うことができる。貧溶媒を用いない場合には、生成するセルロースアセテートはアセチル化反応の希釈剤である酢酸に溶解するため原料セルロースのミクロフィブリル構造は崩壊する。
【0063】
セルロースアセテートに対する貧溶媒としては、言うまでも無くセルロースアセテートを溶解しないか、極めて溶解度が低いことに加え、無水酢酸の溶解度が高い溶媒であることが好ましく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;シクロヘキサン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;酢酸アミルなどのエステル;これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0064】
これらのなかでも、廃液の分離回収において工程数を軽減できるため、また、回収に要するエネルギーを低減できるためトルエン、シクロヘキサンが好ましく、ベンゼンがより好ましい。
【0065】
アセチル化工程において用いる原料セルロースと、酢酸、セルロースアセテートに対する貧溶媒、および無水酢酸との割合について場合を分けて述べる。
【0066】
原料セルロースに直接酢酸を接触させて前処理を行う場合について述べる。セルロースアセテートに対する貧溶媒は、原料セルロース100重量部に対し、100〜5,000重量部であることが好ましく、1,000〜2,000重量部であることがより好ましい。酢酸は、原料セルロース100重量部に対し、0〜2,000重量部であることが好ましく、50〜1,000重量部であることがより好ましい。無水酢酸は、原料セルロース100重量部に対し、200〜1,000重量部であることが好ましく、300〜700重量部であることがより好ましい。触媒として硫酸を用いる場合、硫酸は、原料セルロース100重量部に対し、1〜30重量部であることが好ましく、5〜20重量部であることがより好ましい。触媒として、メタンスルホン酸を用いる場合、メタンスルホン酸は、原料セルロース100重量部に対し、10〜200重量部であることが好ましく、30〜90重量部であることがより好ましい。
【0067】
原料セルロースを酢酸と接触させる前に、原料セルロースを水で前処理し、ウェットケーキ状とする場合について述べる。ウェットケーキの固形分濃度は、5〜50重量%の場合、酢酸は、ウェットケーキ100重量部に対し、100〜4,000重量部であることが好ましく、200〜3,000重量部であることがより好ましく、1,000〜2,000重量部であることがさらに好ましい。セルロースアセテートに対する貧溶媒は、ウェットケーキ100重量部に対し、5〜2,500重量部であることが好ましく、50〜1,000重量部であることがより好ましい。無水酢酸は、ウェットケーキ100重量部に対し、5〜1,000重量部であることが好ましく、10〜500重量部であることがより好ましく、15〜350重量部であることがさらに好ましい。触媒として硫酸を用いる場合、硫酸は、ウェットケーキ100重量部に対し、0.05〜15重量部であることが好ましく、5〜10重量部であることがより好ましい。触媒として、メタンスルホン酸を用いる場合、メタンスルホン酸は、ウェットケーキ100重量部に対し、0.5〜100重量部であることが好ましく、1.5〜45重量部であることがより好ましい。
【0068】
アセチル化工程の反応系内の温度は5〜90℃であることが好ましく、10〜75℃であることがより好ましい。アセチル化反応系内の温度が高すぎると原料セルロースの解重合が進みやすくなるため、粘度平均重合度が低くなりすぎ、得られるセルロースアセテート繊維の強度が低くなる。またアセチル化反応系内の温度が低すぎるとアセチル化反応が進まず、反応に膨大な時間を要するか、あるいはセルロースをセルロースアセテートに変換することが出来なくなる。
【0069】
アセチル化反応系内の温度の調整は、撹拌条件下、外部から反応系の内外には一切の熱は加えず行うこと、または併せて、撹拌条件下、反応系を温媒または冷媒により加熱または冷却して中温に調整することにより行うことができる。また、酢酸、セルロースアセテートに対する貧溶媒、無水酢酸および硫酸を予め加温または冷却しておくことによって行うこともできる。
【0070】
また、アセチル化反応にかかる時間は、0.5〜20時間であることが望ましい。ここで、アセチル化反応にかかる時間とは、原料セルロースが、溶媒、無水酢酸および触媒と接触して反応を開始した時点からろ過などにより反応混合物から生成物を分離するまでの時間をいう。ただし、原料セルロースとしてTEMPO酸化パルプなどの化学変性パルプを用いる場合には、アセチル化反応にかかる時間は、0.5〜60時間であることが望ましい。
【0071】
アセチル化反応初期は、解重合反応を抑えつつアセチル化反応を進ませ未反応物を減らすため、反応温度を5℃以下にしてもよく、その場合は可能な限り時間を掛けて昇温するのが良いが、生産性の観点からは、45分以下、さらに好ましくは30分以下で昇温を行うことが好ましい。
【0072】
平均置換度の調整は、アセチル化反応の温度、時間、無水酢酸量や硫酸量などの反応浴組成を調整することによって行うことができる。例えば、温度を高くすること、時間を長くすること、硫酸量を増やすこと、無水酢酸量を増やすことで平均置換度を高くすることができる。
【0073】
(分離)
アセチル化反応で生成するセルロースアセテートは、反応混合物からろ過により固形分として分離することができる。
【0074】
(洗浄)
本開示のセルロースアセテート繊維の製造方法は、前記固形物を洗浄する工程(3)(以下、洗浄工程とも称する)を有する。洗浄は、酢酸、無水酢酸、硫酸および硫酸塩を取り除くことができれば、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、固形物として得られるセルロースアセテートをろ別し、分離した後、その固形物を、セルロースアセテートに対する貧溶媒、アルコール、および水で順次洗浄することにより行うことが好ましい。このような順で洗浄を行うと、洗浄後のウェットケーキに含まれる揮発分は主に水となり、最終生成物に残留する不要な有機溶媒を低減できるためである。なお、貧溶媒を使わずにアルコールや水を使えば、固形物に残存する無水酢酸が硫酸と反応することとなり、発熱などに対する対策が必要となるし、アルコールを使わなければセルロースアセテートの貧溶媒は水と混ざらないため、固形物から貧溶媒を十分に除くことが出来ない。
【0075】
洗浄工程で用いる、セルロースアセテートに対する貧溶媒としては、アセチル化工程において用いたセルロースアセテートに対する貧溶媒と同じものを用いることが廃液の回収、分離において工程数を低減できることから好ましい。
【0076】
アルコールとしては、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、芳香族アルコール等の何れであってもよく、また1価アルコール、2価アルコール、3価以上の多価アルコールの何れであってもよい。アルコールのなかでも、最終生成物に残留する有機溶媒の危険有害性の観点から、エタノールが好ましい。
【0077】
(乾燥)
洗浄工程(3)を経た後、セルロースアセテートを乾燥させることが好ましい。乾燥の方法としては特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥等により乾燥を行うことができる。これらの中でも、特に凍結乾燥が不要な熱分解を回避できるため好ましい。
【0078】
(解繊)
本開示のセルロースアセテート繊維の製造方法においては、前記固形物を水または水を含む有機溶媒に懸濁し、ホモジナイザーを用いて解繊する工程(4)(以下、解繊工程とも称する)を有する。
【0079】
前記固形物の水または水を含む有機溶媒への懸濁について述べる。固形物として得られたセルロースアセテートの水または水を含む有機溶媒への懸濁は、例えば、セルロースアセテートに水を添加し、ホモディスパーを用いて3000回転で、10〜60分間撹拌することにより行うことができる。このとき、水または水を含む有機溶媒に対し、セルロースアセテートは0.1〜10重量%とすることが好ましく、0.5〜5.0重量%とすることがより好ましい。後述する解繊の工程において、固形分濃度が0.1重量%以下では処理液量が多くなりすぎ、工業的に生産効率が悪く、同10重量%以上では解繊装置に閉塞が生じるなどして解繊工程が進行しない場合があるためである。
【0080】
ここで、解繊工程で用いる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸メチル等を用いることができる。
【0081】
続いて、前記固形物の解繊について述べる。前述のとおりに準備したセルロースアセテート懸濁液を後述の通り解繊工程に供する。
【0082】
解繊に用いる装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの強力なせん断力を印加できる装置が好ましい。特に、効率よく解繊するには、前記分散液に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊および分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて、上記のセルロースアセテートに予備処理を施すことも可能である。
【0083】
ここで、前記圧力を50MPa以上とすることにより、得られるセルセルロースアセテート繊維の数平均繊維径を400nm以下とすることができ、圧力を100MPa以上とすることにより、数平均繊維径をより小さくすることができる。
【0084】
ここで、非特許文献7乃至9には、セルロースアセテートに対する貧溶媒として、酢酸アミル、キシレン、トルエン等の存在下アセチル化を行うことが記載されており、非特許文献10および11には、そのような方法で得たセルロースアセテートが天然セルロースのナノ構造を保持している旨が記載されているが、それを支持する具体的実験事実は何ら提示されておらず、非特許文献7乃至11のいずれにも本開示のセルロースアセテートを水または水を含む有機溶媒に懸濁し、ホモジナイザーを用いて解繊する工程、およびミクロフィブリル繊維構造について何ら記載されていない。
【0085】
本開示のセルロースアセテート繊維の製造方法においては、繊維状の原料セルロースをセルロースアセテートに対する貧溶媒を含む溶媒中アセチル化した後、ホモジナイザーを用いて解繊することにより、天然のセルロースが有するミクロフィブリル繊維構造を保持することができる。
【0086】
[セルロースアセテート組成物の製造]
本開示のセルロースアセテート組成物の製造方法について詳述する。本開示のセルロースアセテート組成物は、例えば、本開示のセルロースアセテート繊維を、母材や分散媒と混合することにより得られる。母材または分散媒として樹脂を用いた複合材料または分散体の調製は、セルロースアセテート繊維の存在下で樹脂を溶融混練することにより行うことができる。液体状の分散媒にセルロースアセテート繊維を分散させた分散液の調製は、セルロースアセテート繊維および分散媒を混合した後、分散液が形成されるまで、分散機によって処理することにより行うことができる。
【0087】
本開示のセルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、並びに本開示の製造方法により製造されたセルロースアセテート繊維および組成物は、例えば、繊維;紙おむつ、生理用品などの衛生用品;たばこフィルター;塗料;化粧品等広範囲に使用することができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。なお、以下「部」とは特に断りのない限り、「重量部」を意味する。
【0089】
後述する実施例および比較例に記載の各物性は、以下の方法で評価した。
【0090】
<平均置換度>
ASTM:D−817−91(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定方法により求めた。乾燥したセルロースアセテート(試料)1.9gを精秤し、アセトンとジメチルスルホキシドとの混合溶媒(容量比4:1)150mlに溶解した後、1N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを添加し、25℃で2時間ケン化した。フェノールフタレインを指示薬として添加し、1N−硫酸(濃度ファクター:F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定した。また、同様の方法でブランク試験を行い、下記式に従って酢化度を算出した。
酢化度(%)=[6.5×(B−A)×F]/W
(式中、Aは試料の1N−硫酸の滴定量(ml)を、Bはブランク試験の1N−硫酸の滴定量(ml)を、Fは1N−硫酸の濃度ファクターを、Wは試料の重量を示す)。
次に、算出した酢化度を下記式で換算することにより、平均置換度を求めた。
平均置換度(DS)=162.14×酢化度(%)÷{6005.2−42.037×酢化度(%)})
【0091】
<粘度平均重合度>
セルロースアセテートをジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、濃度0.002g/mlの溶液とした。次に、オストワルド型粘度管を用いて25℃におけるこの溶液の比粘度(ηrel、単位:ml/g)を定法で求めた。自然対数比粘度を濃度(単位:g/ml)で除し、これを近似的に極限粘度数([η]、単位:ml/g)とした。
ηrel=T/T
〔η〕=(ln ηrel)/C
(式中、Tは測定試料の落下秒数を、Tは溶媒単独の落下秒数を、Cは濃度(g/ml)を示す)
【0092】
粘度平均分子量は、次式で求めた。
粘度平均分子量=([η]/K1/α
ここで、K=0.0264、α=0.750を用いた。
【0093】
<X線回折>
解繊工程を経たセルロースアセテート繊維の水懸濁液から固形分をろ別し凍結乾燥した。リガク製X線回折測定装置SmartLab、無反射型シリコン板を用いて粉末X線回折を測定した。
【0094】
<透過型電子顕微鏡撮影>
解繊工程を経たセルロースアセテート繊維の水懸濁液(濃度0.5重量%)を親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャスト後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色し透過型電子顕微鏡(TEM)撮影を行った。
【0095】
<数平均繊維径>
倍率20万倍の透過型電子顕微鏡画像に任意の直線を4本引いた。これら直線と交差する箇所の繊維の径を計測し、平均値を数平均繊維径とした。なお、計測点数は6点以上とした。
【0096】
<実施例1>
前処理として、100重量部の針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP、日本製紙(株)製)に、10,000重量部の水を加え、室温で1時間攪拌した。水をろ別し、固形分濃度約30重量%のウェットケーキとした。このウェットケーキに10,000重量部の酢酸を加え、室温で1時間攪拌し、固形分濃度約30%にろ別する操作を3回繰り返た。このようにして酢酸ウェットのウェットケーキとした針葉樹漂白クラフトパルプを得た。なお、ウェットケーキの固形分濃度は、上述の方法により測定した。
【0097】
得られた酢酸ウェットのウェットケーキとした針葉樹漂白クラフトパルプに、セルロースアセテートに対する貧溶媒としてトルエン1,620重量部、酢酸180重量部、無水酢酸600重量部、濃硫酸15重量部を順次加え、50℃で1時間攪拌して反応混合物を得た。この反応混合物を室温まで冷却し、得られた固形物をろ別し、分離した。この固形物を4,000重量部のセルロースアセテートに対する貧溶媒、4,000重量部のエタノール、8,000重量部の水で順次洗浄し、凍結乾燥して生成物を得た。
【0098】
この生成物100重量部を10,000重量部の水に懸濁した。分散させたサンプルをエクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製)にて予備解繊した後、
高圧式ホモジナイザー(吉田機械興業株式会社製:製品名L−AS))でストレートノズルにて2回処理(100MPa)、クロスノズルで3回処理(140MPa)で解繊を行った。
【0099】
セルロースアセテート繊維を透過型電子顕微鏡を用いて、2万倍および20万倍のそれぞれの倍率で撮影した。撮影結果は、図1に示す。ここで、特許文献1によれば天然セルロースのミクロフィブリルの径は約3nmであり、長さは径の10倍を大きく上回る(軸率は10を大きく上回る)。非特許文献1によれば天然セルロースの2本鎖結晶単位胞の繊維断面長軸は0.817nmであり、また、非特許文献3によればセルローストリアセテートI型の2本鎖結晶単位胞のそれは2.363nmである。したがって、天然セルロースのミクロフィブリル繊維構造を保持してセルロースアセテートを得れば、その繊維径は約8.68nm(3×2.363÷0.817nm)となるはずである。図1に示す撮影結果から、生成物は無定形ではなく構造体であり、最小単位の構造として径約10nmの繊維が観察され、その軸率は10を上回るものが多い。これらのことから、繊維形態(ミクロフィブリル繊維構造)を留めたセルロースアセテートのナノファイバー(セルロースアセテート繊維)を得られたことが分かる。図1に示す20万倍の透過型電子顕微鏡画像に基づき、数平均繊維径を求めた結果、19nmであった。
【0100】
得られた水懸濁液としてのセルロースアセテート繊維を凍結乾燥して固体状の試料を得た。固体状の試料のX線回折を行った結果、2θ=8.0°付近および2θ=16.3°付近の2か所の位置に典型的なピークが確認できたため、セルローストリアセテートI型結晶構造を有することがわかった(X線回折の結果は、他実施例等の結果と合わせて図10に示す)。セルロースアセテート繊維の平均置換度は2.9、粘度平均重合度は80であった。結果は、表1に示す。
【0101】
<実施例2>
針葉樹漂白クラフトパルプ(日本製紙(株)製)に代えて針葉樹漂白サルファイトパルプ(SP、日本製紙(株)製)、50℃で1時間攪拌に代えて25℃で3時間攪拌とした以外は実施例1と同様の方法でアセチル化反応、分離、洗浄と解繊を行い、水懸濁液としてセルロースアセテート繊維を得た。
【0102】
セルロースアセテート繊維を透過型電子顕微鏡を用いて、1万倍および20万倍のそれぞれの倍率で撮影した。撮影結果は、図2に示す。その撮影結果から、生成物は無定形ではなく構造体が見られ、繊維形態(ミクロフィブリル繊維構造)を留めたセルロースアセテート(セルロースアセテート繊維)を得られたことが分かる。図2に示す20万倍の透過型電子顕微鏡画像に基づき、数平均繊維径を求めた結果、11nmであった。
【0103】
得られた水懸濁液としてのセルロースアセテート繊維を凍結乾燥して固体状の試料を得た。固体状の試料のX線回折を行った結果、2θ=7.8°付近および2θ=16.8°付近の2か所の位置に典型的なピークが確認できたため、セルローストリアセテートI型結晶構造を有することがわかった(X線回折の結果は、他実施例等の結果と合わせて図10に示す)。セルロースアセテート繊維の平均置換度は2.8、粘度平均重合度は686であった。結果は、表1に示す。
【0104】
<実施例3>
トルエン1,620重量部に代えてベンゼン1,950重量部、酢酸180重量部に代えて酢酸276重量部、無水酢酸600重量部に代えて無水酢酸450重量部、硫酸15重量部に代えてメタンスルホン酸90重量部、25℃で3時間攪拌に代えて35℃で18時間攪拌とした以外は実施例2と同様の方法でアセチル化反応、分離、洗浄と解繊を行い、水懸濁液としてセルロースアセテート繊維を得た。
【0105】
セルロースアセテート繊維を透過型電子顕微鏡を用いて、1万倍および20万倍のそれぞれの倍率で撮影した。撮影結果は、図3に示す。その撮影結果から、生成物は無定形ではなく構造体が見られ、繊維形態(ミクロフィブリル繊維構造)を留めたセルロースアセテート(セルロースアセテート繊維)を得られたことが分かる。図3に示す20万倍の透過型電子顕微鏡画像に基づき、数平均繊維径を求めた結果、16nmであった。
【0106】
得られた水懸濁液としてのセルロースアセテート繊維を凍結乾燥し、さらに窒素雰囲気で230℃で15分間乾燥を行い、固体状の試料を得た。固体状の試料のX線回折を行った結果、2θ=7.9°付近および2θ=16.2°付近の2か所の位置に典型的なピークが確認できたため、セルローストリアセテートI型結晶構造を有することがわかった(X線回折の結果は、他実施例等の結果と合わせて図10に示す)。セルロースアセテート繊維の平均置換度は2.6、粘度平均重合度は1,116であった。結果は、表1に示す。
【0107】
<実施例4>
【0108】
未叩解の針葉樹漂白クラフトパルプ(日本製紙(株)製、白色度85%)5.00g(絶乾)を、TEMPO(Sigma Aldrich社製)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するので、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムが消費され系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後分散液に酸を添加し、分散液のpHを3以下とした。その後、反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで酸化されたパルプ(TEMPO酸化パルプ、TOPということもある)を得た。この時のTEMPO酸化パルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.68mmol/gであった。
【0109】
針葉樹漂白サルファイトパルプに代えてTEMPO酸化パルプ、35℃で18時間攪拌に代えて30℃で48時間攪拌とする以外は実施例3と同様の方法でアセチル化反応、分離、洗浄と解繊を行い、水懸濁液としてカルボキシル基を有するセルロースアセテート繊維を得た。
【0110】
セルロースアセテート繊維を透過型電子顕微鏡を用いて、1万倍および20万倍のそれぞれの倍率で撮影した。撮影結果は、図4に示す。その撮影結果から、生成物は無定形ではなく構造体が見られ、繊維形態(ミクロフィブリル繊維構造)を留めたセルロースアセテート(セルロースアセテート繊維)を得られたことが分かる。図4に示す20万倍の透過型電子顕微鏡画像に基づき、数平均繊維径を求めた結果、23nmであった。
【0111】
得られた水懸濁液としてのセルロースアセテート繊維を凍結乾燥し、さらに窒素雰囲気で230℃で15分間乾燥を行い、固体状の試料を得た。2θ=8.1°付近および2θ=16.4°付近の2か所の位置に典型的なピークが確認できたため、セルローストリアセテートI型結晶構造を有することがわかった。結果は、図10に示す。セルロースアセテート繊維の平均置換度は2.7、粘度平均重合度は471であった。結果は、表1に示す。
【0112】
<実施例5>
100重量部の針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP、日本製紙(株)製)に、セルロースアセテートに対する貧溶媒としてベンゼン1,800重量部、無水酢酸600重量部、濃硫酸15重量部を順次加え、75℃で8時間攪拌して反応混合物を得た。この反応混合物を室温まで冷却し、得られた固形物をろ別し、分離した。この固形物を4,000重量部のセルロースアセテートに対する貧溶媒、4,000重量部のエタノール、8,000重量部の水で順次洗浄し、凍結乾燥して生成物を得た。
【0113】
この生成物100重量部を20,000重量部の水に懸濁した。その後、プライミクス社製ホモディスパーで3,000rpmで60分間処理し、高圧式ホモジナイザー(吉田機械興業株式会社製:製品名L−AS)で処理して解繊を行い、水懸濁液としてセルロースアセテート繊維を得た。高圧式ホモジナイザー(吉田機械興業株式会社製:製品名L−AS)による処理の条件としては、圧力:100MPa、パス回数:3とした。
【0114】
セルロースアセテート繊維を透過型電子顕微鏡を用いて、20万倍の倍率で撮影した。撮影結果は、図5に示す。図5に基づき、数平均繊維径を求めた結果、12nmであった。
【0115】
得られた水懸濁液としてのセルロースアセテート繊維を用いて、X線回折を行った結果、2θ=7.8°付近および2θ=16.8°付近の2か所の位置に典型的なピークが確認できたため、セルローストリアセテートI型結晶構造を有することがわかった。セルロースアセテート繊維の平均置換度は2.9、粘度平均重合度は198であった。結果は、表1に示す。
【0116】
<実施例6>
前処理として、100重量部の針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP、日本製紙(株)製)に、10,000重量部の水を加え、室温で1時間攪拌した。水をろ別し、固形分濃度約15重量%のウェットケーキとした。このウェットケーキに10,000重量部の酢酸を加え、室温で1時間攪拌し、固形分濃度約15%にろ別する操作を3回繰り返した。このようにして酢酸ウェットのウェットケーキとした針葉樹漂白クラフトパルプを得た。なお、ウェットケーキの固形分濃度は、上述の方法により測定した。
【0117】
得られた酢酸ウェットのウェットケーキとした針葉樹漂白クラフトパルプに、セルロースアセテートに対する貧溶媒としてトルエン1,800重量部、酢酸200重量部、無水酢酸600重量部、濃硫酸15重量部を順次加え、50℃で1時間攪拌して反応混合物を得た。この反応混合物を室温まで冷却し、得られた固形物をろ別し、分離した。この固形物を4,000重量部のセルロースアセテートに対する貧溶媒、4,000重量部のエタノール、8,000重量部gの水で順次洗浄し、凍結乾燥して生成物を得た。
【0118】
この生成物を実施例5と同様の条件で水に懸濁し、解繊を行い、水懸濁液としてセルロースアセテート繊維を得た。
【0119】
セルロースアセテート繊維を透過型電子顕微鏡を用いて、20万倍の倍率で撮影した。撮影結果は、図6に示す。その撮影結果から、生成物は無定形ではなく構造体が見られ、繊維形態(ミクロフィブリル繊維構造)を留めたセルロースアセテート(セルロースアセテート繊維)を得られたことが分かる。図6に基づき、数平均繊維径を求めた結果、10nmであった。
【0120】
得られた水懸濁液としてのセルロースアセテート繊維を用いて、X線回折を行った結果、2θ=7.8°付近および2θ=16.4°付近の2か所の位置に典型的なピークが確認できたため、セルローストリアセテートI型結晶構造を有することがわかった。セルロースアセテート繊維の平均置換度は2.9、粘度平均重合度は383であった。結果は、表1に示す。
【0121】
<実施例7>
100重量部の針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP、日本製紙(株)製)について、実施例6と同様の方法で、前処理を行った。
【0122】
得られた酢酸ウェットのウェットケーキとした針葉樹漂白クラフトパルプに、セルロースアセテートに対する貧溶媒としてトルエン1,800重量部、酢酸200重量部、無水酢酸600重量部、濃硫酸15重量部を順次加え、25℃で8時間攪拌して反応混合物を得た。この反応混合物を室温まで冷却し、得られた固形物をろ別し、分離した。この固形物を4,000重量部のセルロースアセテートに対する貧溶媒、4,000重量部のエタノール、8,000重量部の水で順次洗浄し、凍結乾燥して生成物を得た。
【0123】
この生成物を実施例5と同様の条件で水に懸濁し、解繊を行い、水懸濁液としてセルロースアセテート繊維を得た。
【0124】
セルロースアセテート繊維を透過型電子顕微鏡を用いて、20万倍の倍率で撮影した。撮影結果は、図7に示す。その撮影結果から、生成物は無定形ではなく構造体が見られ、繊維形態(ミクロフィブリル繊維構造)を留めたセルロースアセテート(セルロースアセテート繊維)を得られたことが分かる。図7に基づき、数平均繊維径を求めた結果、16nmであった。
【0125】
得られた水懸濁液としてのセルロースアセテート繊維を用いて、X線回折を行った結果、2θ=7.8°付近および2θ=16.4°付近の2か所の位置に典型的なピークが確認できたため、セルローストリアセテートI型結晶構造を有することがわかった。セルロースアセテート繊維の平均置換度は2.9、粘度平均重合度は784であった。結果は、表1に示す。
【0126】
<実施例8>
100重量部の針葉樹漂白クラフトパルプ(日本製紙(株)製)について、実施例6と同様の方法で、前処理を行った。
【0127】
得られた酢酸ウェットのウェットケーキとした針葉樹漂白クラフトパルプに、セルロースアセテートに対する貧溶媒としてシクロヘキサン1,800重量部、酢酸200重量部、無水酢酸600重量部、濃硫酸15重量部を順次加え、15℃で16時間攪拌して反応混合物を得た。この反応混合物を室温まで冷却し、得られた固形物をろ別し、分離した。この固形物を4,000重量部のセルロースアセテートに対する貧溶媒、4,000重量部のエタノール、8,000重量部の水で順次洗浄し、凍結乾燥して生成物を得た。
【0128】
この生成物を実施例5と同様の条件で解繊を行い、水懸濁液としてセルロースアセテート繊維を得た。
【0129】
セルロースアセテート繊維を透過型電子顕微鏡を用いて、20万倍の倍率で撮影した。撮影結果は、図8に示す。その撮影結果から、生成物は無定形ではなく構造体が見られ、繊維形態(ミクロフィブリル繊維構造)を留めたセルロースアセテート(セルロースアセテート繊維)を得られたことが分かる。図8に基づき、数平均繊維径を求めた結果、18nmであった。
【0130】
得られた水懸濁液としてのセルロースアセテート繊維を用いて、X線回折を行った結果、2θ=7.8°付近および2θ=16.4°付近の2か所の位置に典型的なピークが確認できたため、セルローストリアセテートI型結晶構造を有することがわかった。結果は、図10に示す。セルロースアセテート繊維の平均置換度は2.9、粘度平均重合度は1,092であった。結果は、表1に示す。
【0131】
<比較例1>
針葉樹漂白クラフトパルプ(日本製紙(株)製)100重量部に氷酢酸51重量部を散布して前処理活性化させた後、氷酢酸384重量部、無水酢酸241重量部、および硫酸7.7重量部の混合物を添加し、43℃以下の温度で撹拌混合しながらアセチル化を行った。なお、繊維片がなくなったときをアセチル化反応の終点とした。そして、アセチル化反応終了時に反応系に18.5重量部の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、過剰の無水酢酸を分解させ、硫酸量を3.6重量部まで中和し、さらに水を添加して反応浴の酢酸に対する水の割合を13mol%に調整し、65度で30分間保持して熟成を行った。その後、5分間かけて12.6重量部の15重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、硫酸量が1.8重量部になるまで中和し、さらに65度で10分間保持し、第2の熟成反応を行った。すなわち、熟成工程において、中和操作(多段中和操作)を1回繰り返した。その後、過剰量の15重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、残存硫酸を完全に中和して熟成反応を停止した。
【0132】
セルロースの反応溶液(ドープ)として得られた溶液に10重量%酢酸水溶液中に加え、攪拌することでセルロースアセテートの沈殿を得た。得られたセルロースアセテートの沈殿物を、異なる濃度の酢酸カルシウム溶液に浸漬して脱液することにより耐熱処理(安定化させるためのカルシウムの添加)をおこなった。その後、得られた沈澱をろ別した後、純水の温水にて各々流水洗浄、脱液を行って、セルロースアセテートを得た。
【0133】
得られた水懸濁液としてのセルロースアセテートにして、透過型電子顕微鏡を用いて、20万倍の倍率で撮影した。撮影結果は、図9に示す。その撮影結果から、生成物は無定形であり、ミクロフィブリル繊維構造に由来する繊維形態は全く留めていないか、殆ど留めていないことが分かる。
【0134】
得られた水懸濁液としてのセルロースアセテートを用いて、X線回折を行った結果、2θ=8.4°付近、2θ=10.4°付近および2θ=13.1°付近の3か所の位置に典型的なピークが確認できたため、セルローストリアセテートII型結晶構造を有することがわかった。結果は、図10に示す。セルロースアセテート繊維の平均置換度は2.9、粘度平均重合度は691であった。結果は、表1に示す。
【0135】
<参考例1>
市販の微結晶セルロース(旭化成製セオラスFD−F20)について、X線回折を行った。結果は、図10に、Cellulose Iとして示す。2θ=14.5°、15.8°、22.3°の位置に典型的なピークが確認できるセルロースI型結晶構造を示すデータである。
【0136】
<参考例2>
市販の酢酸セルロース(ダイセル製L−50)を大過剰の1N水酸化ナトリウム水溶液中で30℃で24時間攪拌することで脱アセチル化し、次いで水洗、乾燥して調製した再生セルロースについて、X線回折を行った。結果は、図10に、Cellulose IIとして示す。2θ=11.6°、19.8°、20.9°の位置に典型的なピークが確認できるセルロースII型結晶構造を示すデータである。
【0137】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10