特許第6873465号(P6873465)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6873465電子ビーム照射装置及び電子ビーム照射装置の作動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873465
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】電子ビーム照射装置及び電子ビーム照射装置の作動方法
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/04 20060101AFI20210510BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20210510BHJP
   H05H 15/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   G21K5/04 E
   A61N5/10 E
   H05H15/00
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-38670(P2017-38670)
(22)【出願日】2017年3月1日
(65)【公開番号】特開2018-146265(P2018-146265A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年12月3日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人科学技術振興機構 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「レーザー加速要素技術開発」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】細貝 知直
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 了祐
(72)【発明者】
【氏名】中新 信彦
【審査官】 関口 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−105559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K1/00−3/00
5/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを照射対象内の被照射部に照射する電子ビーム照射装置であって、
エネルギーチャープを有する前記電子ビームを生成する電子ビーム源と、
前記電子ビーム源で生成した前記電子ビームの前記エネルギーチャープを、高いエネルギー成分ほどビーム進行方向の後方に配置されるように調整するチャープ調整部と、
前記チャープ調整部で調整した前記電子ビームの各エネルギー成分の光路を調整して、当該電子ビームのパルス幅を圧縮する電子ビーム圧縮部と、
前記照射対象内において前記電子ビームのパルス幅が最も圧縮される位置を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に応じて、前記電子ビーム圧縮部を制御するコントローラと、を備える、電子ビーム照射装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記検知部の検知結果に基づいて前記電子ビーム圧縮部の駆動信号をフィードバック制御し、前記電子ビームのパルス幅が最も圧縮される位置を、前記被照射部を含む領域内において移動させる、請求項に記載の電子ビーム照射装置。
【請求項3】
前記電子ビーム源は、前記電子ビームを加速するレーザプラズマ電子加速器を含んでおり、高いエネルギー成分ほどビーム進行方向の前方に配置される前記エネルギーチャープを有する前記電子ビームを生成し、
前記チャープ調整部は、前記電子ビーム源で生成した前記電子ビームの前記エネルギーチャープを反転させる電子ビーム位相回転器である、請求項1又は2に記載の電子ビーム照射装置。
【請求項4】
電子ビームを照射対象内の被照射部に照射する電子ビーム照射装置の作動方法であって、
エネルギーチャープを有する前記電子ビームを、電子ビーム源により生成する電子ビーム生成ステップと、
前記電子ビーム生成ステップで生成した前記電子ビームの前記エネルギーチャープを、高いエネルギー成分ほどビーム進行方向の後方に配置されるように、チャープ調整部により調整するチャープ調整ステップと、
電子ビーム圧縮部により、前記チャープ調整ステップで調整した前記電子ビームの各エネルギー成分の光路を調整して、当該電子ビームのパルス幅を圧縮する電子ビーム圧縮ステップと、
前記照射対象内において前記電子ビームのパルス幅が最も圧縮される位置を検知する検知ステップと、
前記検知ステップの検知結果に応じて、前記電子ビーム圧縮部を制御する制御ステップと、を備える、電子ビーム照射装置の作動方法。
【請求項5】
前記制御ステップでは、前記検知ステップの検知結果に基づいて前記電子ビーム圧縮部の駆動信号をフィードバック制御し、前記電子ビームのパルス幅が最も圧縮される位置を前記被照射部を含む領域内において移動させる、請求項に記載の電子ビーム照射装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム照射装置及び電子ビーム照射装置の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば放射線による治療においては、重粒子線や陽子線等の粒子線ビームを患者の体幹部の患部(照射対象内の被照射部)に照射する粒子線照射装置が用いられている。粒子線ビームは、媒質物質に与えるエネルギー付与が粒子の速度に反比例し、粒子が止まる瞬間に最大となるというブラッグピーク特性を有する。そこで、粒子線照射装置では、このブラッグピーク特性を利用して、患者の患部のみに選択的に大きなエネルギー付与を与え、患部のみをビーム照射で壊滅させる治療が行われる。この種の技術として、例えば下記特許文献1には、イオンビームを患者の患部に向けて照射する重粒子線治療装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−162692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような装置では、粒子線ビームのエネルギーが数百MeVと非常に高く、大型のリングシンクロトロン加速器等が必要となることから、装置が巨大化してしまう。そこで近年、電子ビームを照射対象内の被照射部に照射する電子ビーム照射装置が開発されている。しかし、電子ビームはブラッグピーク特性を持たないため、電子ビームを用いたビーム照射では、患者の体幹部の患部のみに選択的に大きなエネルギー付与を与えることは困難である。
【0005】
本発明は、照射対象内の被照射部に選択的に大きなエネルギー付与を与えるビーム照射を電子ビームを用いて実現可能な電子ビーム照射装置及び電子ビーム照射装置の作動方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電子ビーム照射装置は、電子ビームを照射対象内の被照射部に照射する電子ビーム照射装置であって、エネルギーチャープを有する電子ビームを生成する電子ビーム源と、電子ビーム源で生成した電子ビームのエネルギーチャープを、高いエネルギー成分ほどビーム進行方向の後方に配置されるように調整するチャープ調整部と、を備える。
【0007】
この電子ビーム照射装置では、生成した電子ビームのエネルギーチャープが、高いエネルギー成分ほどビーム進行方向の後方に配置されるように調整される。このようにエネルギーチャープが調整された電子ビームは、照射対象内の被照射部に至るまでの伝搬に伴って、自動的に徐々にパルス幅が圧縮されて電荷密度が高まっていく。これにより、電子ビームを用いたビーム照射にもかかわらず、照射対象において被照射部以外のエネルギー付与を抑える一方で被照射部のエネルギー付与を高めることが可能となる。すなわち、照射対象内の被照射部に選択的に大きなエネルギー付与を与えるビーム照射を、電子ビームを用いて実現することが可能となる。
【0008】
本発明に係る電子ビーム照射装置は、チャープ調整部で調整した電子ビームの各エネルギー成分の光路を調整して、当該電子ビームのパルス幅を圧縮する電子ビーム圧縮部を更に備えていてもよい。これにより、電子ビームのパルス幅の圧縮点を調整することができる。
【0009】
本発明に係る電子ビーム照射装置は、照射対象内において電子ビームのパルス幅が最も圧縮される位置を検知する検知部と、検知部の検知結果に応じて、電子ビーム圧縮部を制御するコントローラと、を更に備えていてもよい。本発明に係る電子ビーム照射装置では、コントローラは、検知部の検知結果に基づいて電子ビーム圧縮部の駆動信号をフィードバック制御し、電子ビームのパルス幅が最も圧縮される位置を、被照射部を含む領域内において移動させてもよい。この場合、例えば、広い範囲に亘る被照射部に対し、効果的に電子ビームを照射できる。
【0010】
本発明に係る電子ビーム照射装置では、電子ビーム源は、電子ビームを加速するレーザプラズマ電子加速器を含んでおり、高いエネルギー成分ほどビーム進行方向の前方に配置されるエネルギーチャープを有する電子ビームを生成し、チャープ調整部は、電子ビーム源で生成した電子ビームのエネルギーチャープを反転させる電子ビーム位相回転器であってもよい。このような構成により、照射対象内の被照射部に選択的に大きなエネルギー付与を与えるビーム照射を電子ビームを用いて実現するという上記効果について、具体的に奏される。
【0011】
本発明に係る電子ビーム照射装置の作動方法は、電子ビームを照射対象内の被照射部に照射する電子ビーム照射装置の作動方法であって、エネルギーチャープを有する電子ビームを、電子ビーム源により生成する電子ビーム生成ステップと、電子ビーム生成ステップで生成した電子ビームのエネルギーチャープを、高いエネルギー成分ほどビーム進行方向の後方に配置されるように、チャープ調整部により調整するチャープ調整ステップと、を備える。
【0012】
この電子ビーム照射装置の作動方法においても、上記電子ビーム照射装置と同様に、電子ビームを用いたビーム照射にもかかわらず、照射対象において被照射部以外のエネルギー付与を抑える一方で被照射部のエネルギー付与を高めることが可能となる。すなわち、照射対象内の被照射部に選択的に大きなエネルギー付与を与えるビーム照射を、電子ビームを用いて実現することが可能となる。
【0013】
本発明に係る電子ビーム照射装置の作動方法は、電子ビーム圧縮部により、チャープ調整ステップで調整した電子ビームの各エネルギー成分の光路を調整して、当該電子ビームのパルス幅を圧縮する電子ビーム圧縮ステップを更に備えていてもよい。これにより、例えば電子ビームのパルス幅の圧縮点を調整することができる。
【0014】
本発明に係る電子ビーム照射装置の作動方法は、照射対象内において電子ビームのパルス幅が最も圧縮される位置を検知する検知ステップと、検知ステップの検知結果に応じて、電子ビーム圧縮部を制御する制御ステップと、を更に備えていてもよい。本発明に係る電子ビーム照射装置の作動方法において、制御ステップでは、検知ステップの検知結果に基づいて電子ビーム圧縮部の駆動信号をフィードバック制御し、電子ビームのパルス幅が最も圧縮される位置を、被照射部を含む領域内において移動させてもよい。この場合、例えば、広い範囲に亘る被照射部に対し、効果的に電子ビームを照射できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、照射対象内の被照射部に選択的に大きなエネルギー付与を与えるビーム照射を電子ビームを用いて実現できる電子ビーム照射装置及び電子ビーム照射装置の作動方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態に係る電子ビーム照射装置を示す概略構成図である。
図2】(a)は、電子ビーム位相回転器を示す概略図である。(b)は、電子ビームコンプレッサを示す概略図である。
図3】(a)は、チャープ電子ビーム源で生成した電子ビームのパルスを示す図である。(b)は、電子ビーム位相回転器で反転した電子ビームのパルスを示す図である。(c)は、電子ビームコンプレッサで圧縮した電子ビームのパルスを示す図である。(d)は、患部の位置における電子ビームのパルスを示す図である。
図4】電子ビームの線量付与分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、電子ビーム照射装置100を示す概略構成図である。図1に示されるように、電子ビーム照射装置100は、患者(照射対象)10の体内の患部(被照射部)Tに対して電子ビームEを照射する装置である。ここでの電子ビーム照射装置100は、放射線によるがん治療に用いられるがん治療装置であり、患部Tは、患者10の体幹深部に位置するがん細胞である。つまり、被照射部は、照射対象において深い位置(体幹部)に存在している。電子ビーム照射装置100は、チャープ電子ビーム源1と、電子ビーム位相回転器2と、電子ビームコンプレッサ3と、ビーム圧縮点モニタ(検知部)4と、コントローラ5と、を備えている。
【0019】
チャープ電子ビーム源1は、エネルギーチャープを有する電子ビームEを生成して出射する電子ビーム源である。チャープ電子ビーム源1は、レーザプラズマ加速により電子ビームを加速するレーザプラズマ電子加速器を含む。レーザプラズマ電子加速器としては、例えば高強度レーザパルスを長距離伝播させる光導波路を、放電管中のガス放電によって形成する光導波路形成装置を備えたものを用いることができる。チャープ電子ビーム源1で生成した電子ビームEは、レーザプラズマ電子加速器におけるプラズマ波の破砕によってエネルギースペクトルが拡がることで、エネルギーチャープを有する。
【0020】
エネルギーチャープとは、電子ビームEのエネルギー成分がビーム進行方向と強い相関のある状態であって、電子ビームEのビーム進行方向の前方から後方にかけてエネルギー成分が徐々に変わっている状態を意味する。チャープ電子ビーム源1で生成した電子ビームEは、具体的には、高いエネルギーの成分(電子)ほどビーム進行方向の前方に配置されるエネルギーチャープ(換言すると、低いエネルギーの成分(電子)ほどビーム進行方向の後方に配置されるエネルギーチャープ)を有する。
【0021】
チャープ電子ビーム源1で生成した電子ビームEは、数フェムト秒のパルス幅を有する。チャープ電子ビーム源1で生成した電子ビームEは、患者10を透過して患部Tへ到達可能なエネルギーを有する。ここでは、当該電子ビームEは、数百MeV以上のエネルギーを有し、具体的には200MeV以上のエネルギーを有する。
【0022】
電子ビーム位相回転器2は、チャープ電子ビーム源1で生成した電子ビームEを空間的に180°回転させ、電子ビームEのエネルギーチャープを反転させるチャープ調整部である。電子ビーム位相回転器2は、高いエネルギー成分ほどビーム進行方向の後方に配置されるように(換言すると、低いエネルギー成分ほどビーム進行方向の前方に配置されるように)、当該電子ビームEのエネルギーチャープを調整する。電子ビーム位相回転器2としては、例えば電子バンチストレッチャーを用いることができる。
【0023】
図2(a)は、電子ビーム位相回転器2の一例を示す構成図である。図2(a)に示されるように、電子ビーム位相回転器2は、ダイポール磁石によって構成される磁場形成部2a,2b,2c,2dを含む。電子ビーム位相回転器2では、磁場形成部2a,2b,2c,2dの磁場により、電子が半円軌道を形成するように動く。このとき、エネルギーが高い電子は曲がりにくく、半径の大きい円の半円を描くように動き、飛行距離が長くなる。これに対して、エネルギーが低い電子は曲がりやすく、半径の小さい円の半円を描くように動き、飛行距離が短くなる。よって、電子ビーム位相回転器2から出射される電子ビームEは、高いエネルギー成分ほどビーム進行方向の後方に配置されるエネルギーチャープを有する。
【0024】
図1に示されるように、電子ビームコンプレッサ3は、電子ビーム位相回転器2で調整した電子ビームEのパルス幅を圧縮する電子ビーム圧縮部である。電子ビームコンプレッサ3は、電子ビーム位相回転器2で調整した電子ビームEの各エネルギー成分の光路を調整して、当該電子ビームEのパルス幅を圧縮する。電子ビームコンプレッサ3は、コントローラ5により制御されて、電子ビームEのパルス幅が患部Tの位置で最も圧縮されるように当該電子ビームEの各エネルギー成分の光路を調整する。電子ビームコンプレッサ3としては、例えば電子バンチコンプレッサを用いることができる。
【0025】
図2(b)は、電子ビームコンプレッサ3の一例を示す構成図である。図2(b)に示されるように、電子ビームコンプレッサ3は、電磁石3a,3b,3c,3dを含む。電子ビームコンプレッサ3では、電磁石3a,3b,3c,3dの磁場により、電子が弧状の軌道を形成するように動く。このとき、エネルギーが高い電子は飛行距離が短くなるのに対して、エネルギーが低い電子は飛行距離が長くなる。よって、電子ビームコンプレッサ3は、電磁石3a,3b,3c,3dの各駆動電流をコントローラ5により制御することで、電磁石3a,3b,3c,3dの各磁場を制御する。これにより、電子ビームEの各エネルギー成分の光路を調整し、図1に示されるように、電子ビームコンプレッサ3から患部Tまでの光路距離Lを、電子ビームEのパルス幅が患部Tの位置で最も圧縮される距離とする。
【0026】
ビーム圧縮点モニタ4は、患者10の体内における電子ビームEのパルス幅の圧縮点を検知する。圧縮点とは、電子ビームEのパルス幅が最も圧縮される位置(距離)である。図示する例では、ビーム圧縮点モニタ4は、患者10の周囲に3つ配置されている。ビーム圧縮点モニタ4は、電子ビームEの圧縮点に関する情報(検知結果)をコントローラ5へ出力する。ビーム圧縮点モニタ4としては、特に限定されず、種々の公知のモニタを採用することができる。
【0027】
コントローラ5は、例えば一以上のコンピュータ装置により構成される。コントローラ5は、プロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、記録媒体であるRAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等を含んで構成される。コントローラ5は、CPU及びRAM等のハードウェア上にプログラム等を読み込ませることにより、各種の制御を実行する。コントローラ5は、ビーム圧縮点モニタ4の検知結果に応じて、電子ビームコンプレッサ3を制御する。コントローラ5は、ビーム圧縮点モニタ4から出力された電子ビームEの圧縮点に関する情報に基づいて、電子ビームコンプレッサ3の電磁石3a,3b,3c,3dの各駆動電流(駆動信号)をフィードバック制御する。これにより、電子ビームEのパルス幅が患部Tの位置で最も圧縮されるように、患部Tまでの光路距離Lを調整する。ここでは、電子ビームEの圧縮点を、患部Tを含む領域内において移動させる。
【0028】
次に、電子ビーム照射装置100による電子ビーム照射方法(電子ビーム照射装置100の作動方法)について説明する。図3(a)〜図3(d)は、電子ビームEのパルスを示す図である。図3では、左右幅がパルス幅を表し、上下幅が電荷密度を表す。図3では、エネルギー成分ごとに分けてパルスを示しており、濃いものほど高いエネルギー成分を示している。
【0029】
まず、エネルギーチャープを有する電子ビームEを、チャープ電子ビーム源1により生成する(電子ビーム生成ステップ)。生成した電子ビームEは、図3(a)に示されるように、高いエネルギー成分ほどビーム進行方向の前方に配置されるエネルギーチャープを有する。
【0030】
続いて、電子ビーム生成ステップで生成した電子ビームEのエネルギーチャープを、電子ビーム位相回転器2により反転させる(チャープ調整ステップ)。これにより、図3(b)に示されるように、電子ビームEは、高いエネルギー成分ほどビーム進行方向の後方に配置されるエネルギーチャープを有する。この状態では、電子ビームEが伝搬する過程で前方の低エネルギー成分に後方の高エネルギー成分が追いつき、自動的に電子ビームEのパルス幅が圧縮される。パルス幅が圧縮されると、電子ビームEの電荷密度が高くなり、内部の電場が上昇する。
【0031】
続いて、電子ビームコンプレッサ3により、電子ビームEの各エネルギー成分の光路を調整して、図3(c)に示されるように、当該電子ビームEのパルス幅を電子ビームコンプレッサ3で圧縮する(電子ビーム圧縮ステップ)。このとき、ビーム圧縮点モニタ4により、患者10の体内における電子ビームEの圧縮点を検知する(検知ステップ)。コントローラ5により、ビーム圧縮点モニタ4の検知結果に応じて電子ビームコンプレッサ3を制御する(制御ステップ)。具体的には、コントローラ5により、ビーム圧縮点モニタ4の検知結果に基づいて、電子ビームコンプレッサ3の電磁石3a,3b,3c,3d(図2(b)参照)の各駆動電流をフィードバック制御する。これにより、電子ビームEの圧縮点を、患部Tを含む領域内において移動させる。具体的には、図3(d)に示されるように、患者10の体内の患部Tを含む領域内において、パルス幅が最も圧縮される箇所(照射箇所)が移動するようにして、電子ビームEを照射する。本実施形態では、電子ビームEのパルス幅を最も圧縮することとして、チャープ電子ビーム源1で生成後の電子ビームEのパルス(図3(a)参照)と同じパルス幅で且つ同じ電荷密度に戻るように、電子ビームEのパルス幅を圧縮させている。
【0032】
以上、本実施形態では、チャープ電子ビーム源1により生成した電子ビームEのエネルギーチャープが、高いエネルギー成分ほどビーム進行方向の後方に配置されるように電子ビーム位相回転器2により調整される。このようにエネルギーチャープが調整された電子ビームは、患者10内の患部Tに至るまでの伝搬に伴って、自動的に徐々にパルス幅が圧縮されて電荷密度が高まっていく。これにより、電子ビームEを用いたビーム照射にもかかわらず、患者10において患部T以外のエネルギー付与(エネルギーデポジット)を抑える一方で患部Tのエネルギー付与を高めることが可能となる。
【0033】
すなわち、本実施形態によれば、エネルギーチャープした電子ビームEを制御し、電子ビームEの伝搬中にそのパルス幅を徐々に圧縮し、患部Tでパルス幅が短くなるように調整して患部Tにおける電子ビームEの電荷密度を高めることができる。患者10の内部の局所的領域である患部Tのみに対して選択的に大きなエネルギー付与を与えるビーム照射を、電子ビームEを用いて実現することが可能となる。
【0034】
図4は、電子ビームEの線量付与分布を示すグラフである。図中の縦軸は、電子ビームEの相対線量であり、図中の横軸は、患者10の電子ビーム入射面からの深さである。図4に示されるように、患部Tに至るまでの深さ領域では、電子ビームEの相対線量は低い状態で維持されているのに対して、患部Tの深さ位置で電子ビームEの相対線量が急峻に高まっている。このように本実施形態では、電子ビームEを用いるにもかかわらず、ハドロンビームのブラッグピーク特性と同様な照射を電子ビームで行うことが期待できる。
【0035】
本実施形態は、電子ビームコンプレッサ3により、電子ビーム位相回転器2で調整した電子ビームEの各エネルギー成分の光路を調整して、当該電子ビームEのパルス幅を圧縮する。これにより、患部Tまでの光路距離Lを電子ビームEの最大圧縮までの距離に調整できる、すなわち、電子ビームEのパルス幅の圧縮点を調整できる。電子ビームEのパルス幅を患部Tの位置で最も圧縮させることが可能となる。
【0036】
本実施形態では、電子ビームEのパルス幅が最も圧縮される位置を、患部Tを含む領域内において移動させる。これにより、例えば、一回の電子ビームEの照射で、パルス幅が最も圧縮される箇所(照射箇所)が、広い範囲に亘る患部Tにおいて移動するようにして治療できる。広い範囲に亘る患部Tに対して効果的に電子ビームEを照射できる。
【0037】
本実施形態では、チャープ電子ビーム源1は、電子ビームEを加速するレーザプラズマ電子加速器を含んでおり、高いエネルギー成分ほどビーム進行方向の前方に配置されるエネルギーチャープを有する電子ビームEを生成する。そして、電子ビーム位相回転器2は、生成した当該電子ビームEのエネルギーチャープを反転させる。このような構成により、患者10の内部の患部Tに選択的に大きなエネルギー付与を与えるビーム照射を電子ビームEを用いて実現するという上記効果を、具体的に奏することが可能となる。
【0038】
なお、本実施形態では、レーザプラズマ電子加速器を利用するため、重粒子線加速器のような大型施設は不要であり、装置の小型化が可能となる。クリニックに導入できる規模で電子ビーム照射装置100を実現できる。
【0039】
[変形例]
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られない。例えば上記及び図中の各数値には、設計上、計測上又は製造上等の誤差が含まれていてもよい。
【0040】
上記実施形態は、電子ビームEの光路上において電子ビーム位相回転器2と患者10との間(好ましくは、患者10の身体の前)に配置されたファントム(水セル)を更に備えていてもよい。このファントムは、電子ビームコンプレッサ3と同様に電子ビーム圧縮部として機能し、電子ビームEの圧縮点が患者10の体内の患部Tになるように調整できる。また、上記実施形態では、電子ビームEを患者10の体内の患部Tに照射したが、照射対象及び被照射部としては特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0041】
1…チャープ電子ビーム源(電子ビーム源)、2…電子ビーム位相回転器(チャープ調整部)、3…電子ビームコンプレッサ(電子ビーム圧縮部)、4…ビーム圧縮点モニタ(検知部)、5…コントローラ、10…患者(照射対象)、100…電子ビーム照射装置、E…電子ビーム、T…患部(被照射部)。
図1
図2
図3
図4