特許第6873473号(P6873473)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873473
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】脂肪族ポリカルボナートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/02 20060101AFI20210510BHJP
   C07F 5/06 20060101ALN20210510BHJP
   C07F 15/06 20060101ALN20210510BHJP
【FI】
   C08G64/02
   !C07F5/06 F
   !C07F15/06
【請求項の数】10
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-87695(P2017-87695)
(22)【出願日】2017年4月26日
(65)【公開番号】特開2018-184555(P2018-184555A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】杉本 裕
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04943677(US,A)
【文献】 特開平07−053757(JP,A)
【文献】 特開2006−241247(JP,A)
【文献】 特表2011−518250(JP,A)
【文献】 特開2011−190367(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105753894(CN,A)
【文献】 G. W. Coates et al.,Discrete Metal-Based Catalysts for the Copolymerization of CO2 and Epoxides:Discovery, Reactivity, Optimization, and Mechanism,Angewandte Chemie. Int. Ed,2004年,43,6618-6639
【文献】 D. J. Darensbourg et al.,Metal Salen Derivatives as catalysts for the Alternating Copolymerization of Oxetane and Carbon Dioxide To Afford Polycarbonates,Inorganic Chemistry,米国,2006年,Vol.45,No.10,,3831-3833
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/00 − 64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、コバルト及びマンガンからなる群より選択される少なくとも1種の金属にポルフィリン化合物が配位した金属錯体の存在下で、原料としてオキシラン化合物を含まず、二酸化炭素と、オキセタン化合物とを反応させる脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
【請求項2】
前記金属錯体が下記一般式(1)で表される金属錯体を含む請求項1に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
【化1】


〔一般式(1)中、Mは、アルミニウム、コバルト、又はマンガンを表し、Xは、ハロゲン原子、水素原子、アルコキシ基、アシル基、チオラート基、又はアルキル基を表し、Rは、各々独立に、アルキル基、フェニル基、アルコキシ基、フッ素置換アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、又はシアノ基を表し、mは、0又は1を表し、nは、各々独立に、0〜5のいずれかの整数を表す。〕
【請求項3】
前記一般式(1)におけるMがアルミニウムを含む請求項2に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
【請求項4】
前記オキセタン化合物が、下記一般式(2)〜(10)のいずれか1つで表されるオキセタン化合物を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
【化2】


〔一般式(2)〜(4)中、Rは、各々独立に、アルキル基を表す。一般式(2)〜(7)中、Rは、各々独立に、アルキル基又はアルキルカルボニル基を表す。一般式(8)〜(10)中、Rは、各々独立に、アルキル基又はアルコキシ基を表す。〕
【請求項5】
さらに助触媒を用いる請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
【請求項6】
前記助触媒が、電子共有性の高い構造を有し、且つ非共有電子を有する化合物である請求項5に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
【請求項7】
前記助触媒が、含窒素化合物及び含リン化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項5又は請求項6に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
【請求項8】
前記金属錯体の1モルに対し、前記助触媒を0.1モル〜8モル用いる請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
【請求項9】
前記反応のときの二酸化炭素圧が、0.1MPa〜8MPaである請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
【請求項10】
前記反応のときの温度が、25℃〜200℃である請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリカルボナートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキレンオキシドと二酸化炭素の共重合反応により脂肪族ポリカルボナートを得る方法は、二酸化炭素を合成樹脂の原料に利用する点で意義深い技術である。この共重合反応により得られる脂肪族ポリカルボナートは、透明性を有し、かつ加熱により完全に分解するという特徴を有している。そのため、用途としては、脂肪族ポリカルボナートを、一般成形物、フィルム、ファイバー等に適用するほかに、光ファイバー、光ディスク、セラミックバインダー、ロストフォームキャスティングなどの材料に利用することも可能である。
【0003】
さらに、脂肪族ポリカルボナートの一部については、生分解性という特徴も有しているため、徐放性の薬剤カプセル等の医用材料、生分解性樹脂への添加剤、あるいは生分解性樹脂の主成分としても応用可能である。このような生分解性を有する脂肪族ポリカルボナートとしては、エチレンオキシドやプロピレンオキシドを原料とした脂肪族ポリカルボナートを挙げることができる。
【0004】
脂肪族ポリカルボナートの製造方法としては、例えば、原料としてプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドと二酸化炭素を用い、触媒としてポルフィリンアルミニウム錯体を用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、原料としてオキセタンと二酸化炭素を用い、クロムやアルミニウムを中心金属元素とするサレン錯体を触媒に用いる方法が開示されている(例えば、非特許文献1及び2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−85286号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of American Chemical Society, 2008,130(20),6523-6533
【非特許文献2】Inorganic Chemistry, 2006, 45(10), 3831-3833
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、オキセタンと二酸化炭素から脂肪族ポリカルボナートを製造する方法は、サレン錯体を触媒に用いる上述の方法しか見出されていない状況である。
そこで、本発明の課題は、オキセタンと二酸化炭素から脂肪族ポリカルボナートを製造する新たな方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
【0009】
<1> アルミニウム、コバルト及びマンガンからなる群より選択される少なくとも1種の金属にポルフィリン化合物が配位した金属錯体の存在下で、二酸化炭素と、オキセタン化合物とを反応させる脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
<2> 前記金属錯体が下記一般式(1)で表される金属錯体を含む<1>に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
【化1】

〔一般式(1)中、Mは、アルミニウム、コバルト、又はマンガンを表し、Xは、ハロゲン原子、水素原子、アルコキシ基、アシル基、チオラート基、又はアルキル基を表し、Rは、各々独立に、アルキル基、フェニル基、アルコキシ基、フッ素置換アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、又はシアノ基を表し、mは、0又は1を表し、nは、各々独立に、0〜5のいずれかの整数を表す。〕
<3> 前記一般式(1)におけるMがアルミニウムを含む<2>に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
<4> 前記オキセタン化合物が、下記一般式(2)〜(10)のいずれか1つで表されるオキセタン化合物を含む<1>〜<3>のいずれか1項に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
【化2】

〔一般式(2)〜(4)中、Rは、各々独立に、アルキル基を表す。一般式(2)〜(7)中、Rは、各々独立に、アルキル基又はアルキルカルボニル基を表す。一般式(8)〜(10)中、Rは、各々独立に、アルキル基又はアルコキシ基を表す。〕
<5> さらに助触媒を用いる<1>〜<4>のいずれか1項に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
<6> 前記助触媒が、電子共有性の高い構造を有し、且つ非共有電子を有する化合物である<5>に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
<7> 前記助触媒が、含窒素化合物及び含リン化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む<5>又は<6>に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
<8> 前記金属錯体の1モルに対し、前記助触媒を0.1モル〜8モル用いる<5>〜<7>のいずれか1項に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
<9> 前記反応のときの二酸化炭素圧が、0.1MPa〜8MPaである<1>〜<8>のいずれか1項に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
<10> 前記反応のときの温度が、25℃〜200℃である<1>〜<9>のいずれか1項に記載の脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オキセタンと二酸化炭素から脂肪族ポリカルボナートを製造する新たな方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲には、「〜」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
【0013】
<脂肪族ポリカルボナートの製造方法>
本発明の脂肪族ポリカルボナートの製造方法は、アルミニウム、コバルト及びマンガンからなる群より選択される少なくとも1種の金属にポルフィリン化合物が配位した金属錯体の存在下で、二酸化炭素と、オキセタン化合物とを反応させる。
【0014】
以下では、まず始めに本発明の製造方法に用いる材料を説明し、次に、本発明の製造方法を説明する。
【0015】
(金属錯体)
本発明では、アルミニウム、コバルト及びマンガンからなる群より選択される少なくとも1種の金属にポルフィリン化合物が配位した金属錯体(以下、「特定ポルフィリン金属錯体」ともいう)を用いる。特定ポルフィリン金属錯体は、下記一般式(1)で表される金属錯体を含むことが好ましい。
【0016】
【化3】
【0017】
一般式(1)中、Mは、アルミニウム、コバルト、又はマンガンを表し、Xは、ハロゲン原子、水素原子、アルコキシ基、アシル基、チオラート基、又はアルキル基を表し、Rは、各々独立に、アルキル基、フェニル基、アルコキシ基、フッ素置換アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、又はシアノ基を表し、mは、0又は1を表し、nは、各々独立に、0〜5のいずれかの整数を表す。
【0018】
一般式(1)中のMで表されるコバルトは3価であることが好ましい。収率や反応速度の観点からは、一般式(1)におけるMは、アルミニウムであることが好ましい。
【0019】
一般式(1)におけるXは、Mの種類に応じて適宜選択でき、例えば、水素原子、塩素原子、臭素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、アシル基、チオラート基等が挙げられる。
一般式(1)におけるmは、Mの価数に応じて、0又は1を選択することができる。
【0020】
一般式(1)で表される金属錯体は、反応速度の観点からは、下記一般式(1−1)で表される金属錯体であってもよい。
【0021】
【化4】
【0022】
一般式(1−1)におけるM、X及びmは、一般式(1)におけるM、X及びmとそれぞれ同義である。一般式(1−1)で表される金属錯体の具体例を下記に示す。
【0023】
【化5】
【0024】
また、触媒としての活性の高さや、超臨界二酸化炭素に対する溶解性の観点からは、一般式(1)におけるnが2以上の多置換ポルフィリン系化合物の金属錯体であってもよい。なお、nが2以上の場合には、複数のRは、それぞれ異なる置換基であっても、同じ置換基であってもよいが、製造のし易さからは、同じ置換基であることが好ましい。
nが2のときは、Rの置換位置はメタ位であることが好ましく、nが3のときは、Rの置換位置はオルト位及びパラ位であることが好ましく、nが5の全置換であってもよい。多置換ポルフィリン系化合物の金属錯体としては、一般式(1−2)〜(1−4)で表される金属錯体を例示できる。
【0025】
【化6】
【0026】
一般式(1−2)〜(1−4)におけるRは、一般式(1)におけるRと同義である。一般式(1−2)のRは、メトキシ基、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子であることがより好ましく、一般式(1−3)のRは、t−ブチル基であることがより好ましく、一般式(1−4)のRは、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子であることがより好ましい。
一般式(1−2)〜(1−4)におけるM、X及びmは、それぞれ一般式(1)におけるM、X及びmと、それぞれ同義である。
【0027】
多置換のフェニル基を有するポルフィリン系化合物が配位した金属錯体の具体例を下記に示すが、これらの金属錯体に限定されない。
【0028】
【化7】
【0029】
【化8】
【0030】
【化9】
【0031】
特定ポルフィリン金属錯体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。反応に好適な溶媒、触媒濃度、助触媒、温度、圧力を調節しやすい観点からは、1種を単独で用いることが好ましい。
【0032】
(オキセタン化合物)
本発明の製造方法では、オキセタン化合物を原料に用いる。オキセタン化合物は無置換であっても置換基を有していてもよい。オキセタン化合物が置換基を有する場合、置換位置は、反応性の観点から3位であることが好ましい。置換基を有するオキセタン化合物としては、下記一般式(2)〜(10)で表されるオキセタン化合物を挙げることができる。
【0033】
【化10】
【0034】
一般式(2)〜(4)中、Rは、各々独立に、アルキル基を表す。一般式(2)〜(7)中、Rは、各々独立に、アルキル基又はアルキルカルボニル基を表す。一般式(8)〜(10)中、Rは、各々独立に、アルキル基又はアルコキシ基を表す。
【0035】
一般式(2)〜(4)中のRで表されるアルキル基は、炭素数1〜3であることが好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。一般式(2)〜(7)中のRで表されるアルキル基及びアルキルカルボニル基、並びに一般式(8)〜(10)中のRで表されるアルキル基及びアルコキシ基は、得られる脂肪族ポリケトンの所望の特性に応じて炭素数を適宜設定することができる。
【0036】
一般式(3)及び(4)で表されるオキセタン化合物は、Rで表されるアルキル基と、Rで表される−CH−NH−R又は−CH−N(Rとが互いに結合して含窒素環を形成していてもよい。
【0037】
(助触媒)
本発明では、助触媒を、触媒としての特定ポルフィリン金属錯体と共存させてもよい。助触媒は、特定ポルフィリン金属錯体の金属部分に配位して、より触媒としての機能を高めるものと推測される。
【0038】
助触媒としては、特定ポルフィリン金属錯体の金属部分に配位しやすいよう、電子共有性の高い構造を有し、且つ非共有電子を有する化合物であることが好ましい。助触媒としては、例えば、含窒素化合物及び含リン化合物が挙げられる。含窒素化合物としては、ピリジン化合物、イミダゾール化合物、及びアンモニウム塩化合物を挙げることができ、含リン化合物としては、ホスフィン化合物、及びホスホニウム塩化合物を挙げることができる。助触媒は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0039】
ピリジン化合物としては、例えば、ピリジン、4−メチルピリジン、4−ホルミルピリジン、及び4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンが挙げられ、ピリジン、4−メチルピリジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンであってもよく、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)であってもよい。
【0040】
イミダゾール化合物としては、例えば、イミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−エチルイミダゾール、及びN−プロピルイミダゾールが挙げられる。
【0041】
4級アンモニウム塩化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラペンチルアンモニウムクロリド、テトラペンチルアンモニウムブロミド、テトラペンチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムブロミド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド、テトラオクチルアンモニウムブロミド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、フェニルトリメチルアンモニウムクロリド等が挙げられ、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド等であってもよい。
【0042】
ホスフィン化合物としては、例えば、メチルホスフィン、エチルホスフィン、プロピルホスフィン、ブチルホスフィン、ヘキシルホスフィン、シクロヘキシルホスフィン、オクチルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジプロピルホスフィン、ジブチルホスフィン、ジヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ジオクチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、ビニルホスフィン、プロペニルホスフィン、シクロヘキセニルホスフィン、ベンジルホスフィン、フェニルエチルホスフィン、フェニルプロピルホスフィン、フェニルホスフィン、トリルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、トリメチルフェニルホスフィン、エチルフェニルホスフィン、プロピルフェニルホスフィン、ビフェニルホスフィン、ナフチルホスフィン、メチルナフチルホスフィン、アントラセニルホスフィン、フェナントリルホスフィン等を挙げることができる。
【0043】
ホスホニウム塩化合物としては、例えば、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド(EtPhPBr)、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、メチルトリブチルホスホニウムジメチルホスフェート、メチルトリブチルホスホニウムジエチルホスフェート等を挙げることができる。
【0044】
(連鎖移動剤)
本発明では、活性水素を有する連鎖移動剤をさらに用いてもよい。連鎖移動剤を用いる場合には、特定ポルフィリン金属錯体に対して等モル以上の前記活性水素を含むように連鎖移動剤を用いる。
【0045】
活性水素を有する連鎖移動剤は、1分子中に1個以上の活性水素基を有する。このような連鎖移動剤として、具体的には、水、水酸基を有する有機化合物、SH基を有する有機化合物、カルボキシル基を有する有機化合物、アルカノールアミン類などを挙げることができる。更に、これらの化合物にアルキレンオキシドを付加重合したものも適用することができる。また、これら連鎖移動剤の複数種の反応生成物を適用することができる。
【0046】
水酸基を有する有機化合物としては、例えば、1級、2級、3級の1価アルコール、2価アルコール、多価アルコール、フェノール類、ポリビニルアルコール、一部又は実質的に完全加水分解のポリビニルアセテート、及びこれら水酸基を有する有機化合物に由来する反応生成物を挙げることできる。
【0047】
1価アルコールとしては、脂肪族、芳香族若しくは脂環式アルコール、セロソルブ化合物、エーテル結合、又はエステル結合を有するモノアルコールを好ましく用いることができる。具体的には、例えば、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、2−エチルヘキサノール、オクタノール、セチルアルコール、イソプロパノール、2−メチル2−プロパノール、ベンジルアルコール、シクロヘキシルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。
【0048】
2価以上の多価アルコールとしては、具体的には、例えば、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオ1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ピナコール、カテコール、トリエチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリト−ル、トリペンタエリトリト−ル、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、ヘキサントリオール、グリコール類、糖類を挙げることができる。
【0049】
グリコール類としては、具体的には、グリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−、1,3−、および1,4−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどを挙げることができる。
【0050】
糖類としては、例えば、α−メチルグルコシド、ヒドロキシメチルグルコシド、ヒドロキシエチルグルコシド、ヒドロキシプロピルグルコシド、グルコース、フルクトース、スクロース、ラフィノース、ソルビトール、マンニトールなどを挙げることができる。
【0051】
フェノール類としては、例えば、フェノール、p−モノクロロフェノール、p−クレゾール、チモール、キシレノール、ハイドロキノン、レゾルシノール、レゾルシノール残油、フロログルシノール、o−,m−,p−ヒドロキシスチレン、サリゲニン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジハイドロキシジフェニルスルホン、4,6,4−トリハイドロキシジフェニルジメチルメタン、長鎖ビスフェノールを挙げることができる。
【0052】
ポリビニルアルコール及びポリビニルアセテートは、コポリマーであってもホモポリマーであってもよい。ビニルアルコールのコポリマー(共重合体)は、下記ビニルアセテートの共重合体を加水分解して得られたものを挙げることができる。
ビニルアセテートの共重合体としては、例えば、ビニルアセテート−ブタジエン共重合体、ビニルアセテート−スチレン共重合体、ビニルアセテート−アクリロニトリル又はメタクリロニトリル共重合体、ビニルアセテート−ビニルクロライド共重合体、ビニルアセテート−ビニリデンクロライド共重合体、ビニルアセテートとその他モノマー(ジクロロスチレン、ビニルエチルエーテル、エチレン、プロピレン、イソブチレン、イソプレンなど)との共重合体)などを挙げることができる。
【0053】
SH基を有する有機化合物としては、例えば、メルカプタン、チオール、ポリチオール等を挙げることができる。
メルカプタンやチオールの具体例としては、1−ペンタンチオール、2−メチル−1−ブタンチオール、3−メチル−1−ブタンチオール、チオフェノール、o−,m−,p−チオクレゾール、1,2−エタンジチオール、エタンチオール、フルフリルメルカプタン、1−ヘキサンチオール、チオ−1−ナフトール、2−プロパンチオール、ジチオレゾルシノール、チオグリセロール、プロパントリチオール、1,4−ベンゼンジチオール、モノチオハイドロキノン、チオジグリコール、及びチオモノグリコール等を挙げることができる。
【0054】
アルカノールアミン類としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等を挙げることができる。
【0055】
活性水素を有する連鎖移動剤は、1分子に2つ以上の同一及び/又は異なる官能基種を持つことが可能である。異なる種類の官能基を含有する化合物としては、具体的には、ヒドロキシカルボン酸類、アミノ酸類でカルボン酸含有物などが挙げられる。さらに、これらの活性水素を有する連鎖移動剤は、2種以上を併用することも可能である。
【0056】
(ブレンシュテッド酸化合物)
本発明では、ブレンシュテッド酸化合物を添加して、末端を水酸基に変換し、反応を停止させてもよい。このようなブレンシュテッド酸化合物としては、メタノールや塩酸を含むメタノール等を挙げることができる。
【0057】
(反応)
本発明の製造方法では、上述の特定ポルフィリン金属錯体の存在下で、二酸化炭素と、上述のオキセタン化合物とを反応させ、脂肪族ポリカルボナートを製造する。そのときの反応スキームの例を下記スキーム0に示す。スキーム0では、オキセタン化合物として、3位に置換基を有していてもよいオキセタン化合物を用いた場合で説明する。スキーム0中のオキセタン化合物において、R及びRは各々独立に、水素原子又は一般式(2)〜(10)の置換基(−R,−OR等)を表す。以下、スキームの説明において同様である。
【0058】
【化11】
【0059】
特定ポルフィリン金属錯体の存在により、オキセタン化合物と二酸化炭素とが反応し、まずは、脂肪族ポリカルボナートと副生物である6員環カルボナートとが生成する。原料のオキセタン化合物の残存量が少なくなり或いは消費し尽くした後では、特定ポルフィリン金属錯体は副生物である6員環カルボナートを開環重合させる。
つまり、本発明の製造方法では、副生物として6員環カルボナートが生成しても、最終的に目的の脂肪族カルボナートに変換されるため、収率が高くなる。6員環カルボナートの開環重合は、反応温度を高くすることで促進される傾向にある。ここで、特定ポルフィリン金属錯体は、ポルフィリン骨格を有するため耐熱安定性に優れることから、反応条件を高温とすることができる。
【0060】
なお、原料としてエポキシドと二酸化炭素とを用いた場合には、中間生成物として5員環カルボナートが生成するが、この5員環カルボナートを開環重合しようとしても、開環の際に脱炭酸を伴い、対応する脂肪族ポリカルボナートを得ることが難しい。
【0061】
特定ポルフィリン金属錯体は、オキセタン化合物に対し、0.1モル%〜1モル%で存在させれば充分である。好ましくは、0.15モル%〜0.5モル%で存在させる場合であり、より好ましくは、0.2モル%〜0.5モル%で存在させる場合である。
【0062】
反応時の圧力は、2MPa〜26MPaが好ましく、0.1MPa〜2MPaでも反応は進行する。
また、二酸化炭素圧は、0.1MPa〜8MPaであることが好ましく、1MPa〜6MPaがより好ましく、1.5MPa〜5.5MPaがさらに好ましく、0.1〜2MPaでも反応は進行する。二酸化炭素圧は、二酸化炭素のみを充填して調整してもよいし、窒素との共存下で二酸化炭素分圧が上記範囲内となるように調整してもよい。好ましくは、窒素との共存下により二酸化炭素分圧を調整する場合である。二酸化炭素と窒素とを共存させる場合、窒素を1気圧とし、残りが二酸化炭素圧となるように調整することがより好ましい。
【0063】
なお、7.38MPa以上の圧力下では二酸化炭素は超臨界状態となっており、本発明ではこのような超臨界の状態でも反応させることができる。超臨界二酸化炭素の場合には、後述の反応溶媒を用いなくとも共重合反応できるので、反応溶媒の除去という後処理の工程を省くことができ、また不要な溶媒が共重合体中に残存しない。
【0064】
反応時の温度は、25℃以上であることが好ましく、反応時間の観点から50℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。反応時の温度の上限値は特に制限は無いが、高温において併発しやすい副反応に起因する純度の低下を防ぐ観点から200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることが更に好ましい。なお、触媒としての特定ポルフィリン金属錯体は、サレン金属錯体に比べて耐熱安定性に優れるため、サレン金属錯体を用いる場合に比べて高温で反応させることができる。
【0065】
オキセタン化合物と二酸化炭素との反応は、溶媒中で行ってもよいし、無溶媒で行ってもよい。
溶媒を用いる場合には、溶媒の種類は、オキセタン化合物や特定ポルフィリン金属錯体の種類に応じて適宜選択することが好ましく、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;のうち、1種または2種以上を用いることができる。具体的には、ジクロロメタン、トルエン、ジメチルホルムアミドタン等を挙げることができる。
【0066】
溶媒とオキセタン化合物との容積比(溶媒:オキセタン化合物)は、0:100〜90:10であることが好ましく、0:100〜70:30であることがより好ましい(溶媒が0のときは、無溶媒の場合を示す。)。
【0067】
上述のように、本発明では助触媒を用いることができる。助触媒は、特定ポルフィリン金属錯体の金属部分に配位しているものと推測される。そのときの反応スキームの例を下記スキーム1に示す。
【0068】
【化12】
【0069】
上記反応スキーム1において、BASEは助触媒を表す。
【0070】
助触媒を共存させる場合、助触媒は特定ポルフィリン金属錯体1モルに対し、0.1モル〜8モル用いることが好ましく、0.1モル〜5.5モル用いることがより好ましい。
オキセタンの開環反応を進める観点からは、特定ポルフィリン金属錯体1モルに対する助触媒の量を少なくすることが好ましく、具体的には、0.1モル〜1.5モル用いることが好ましく、0.1モル〜1モル用いることが好ましい。
一方、ポリカネートの中間生成物である6員環カルボナートの生成を進める観点からは、特定ポルフィリン金属錯体1モルに対する助触媒の量を多くすることが好ましく、具体的には、1モル〜8モル用いることが好ましく、1.5モル〜8モル用いることが好ましい。
【0071】
特定ポルフィリン金属錯体は、スキーム1のように、重合反応が終了しても脂肪族ポリカルボナートの末端に結合している。この特定ポルフィリン金属錯体を回収するには、希塩酸などを用いて金属Mとカルボナートとの結合を切断する。ここで、特定ポルフィリン金属錯体は、ポルフィリン骨格を有することから耐酸性に優れるため、回収した特定ポルフィリン金属錯体を再利用することが可能である。一方、サレン錯体は塩酸等と接触すると加水分解し、金属Mが錯体から外れてしまうため、再利用性に乏しい。
【0072】
また、上述のように、本発明では活性水素を有する連鎖移動剤を用いることができる。活性水素を有する連鎖移動剤を用いると、分子量や分子量分布を調節できる傾向がある。これは、連鎖移動剤の活性水素が特定ポルフィリン金属錯体と交換反応するためであると推測されるが、本発明はこのようなメカニズムに限定されない。
【0073】
以下では、上記推測のメカニズムについて、活性水素を有する連鎖移動剤として水酸基を有する化合物(ROH)を用い、特定ポルフィリン金属錯体として(TPP)MXを用いて、3位に置換基を有していてもよいオキセタン化合物と二酸化炭素を反応させて脂肪族ポリカルボナート(PC)を得る場合を例に説明する。
【0074】
【化13】
【0075】
上記スキーム2に示すように、反応が進むと、片末端に特定ポルフィリン金属錯体由来のXを有し、他方の末端に特定ポルフィリン金属錯体(但しXを除く。以下スキームの説明において同様である。)を有するPC(1)が生成する。ここで、ROHが存在すると、ポルフィリン金属錯体とROHの活性水素とが交換し、金属MにORが結合したポルフィリン金属錯体〔(TPP)MOR〕と、片末端がXで他方の末端がOHのPC(2)が生成する。
(TPP)MORは、(TPP)MXと同様に反応を進行させ、片末端がORで他方の末端が特定ポルフィリン金属錯体を有するPC(3)を生成させる。このときROHが存在すると、ROHの活性水素と特定ポルフィリン金属錯体とが交換反応し、(TPP)MORと、片末端がORで他方の末端がOHのPC(4)を生成する。
このように、ROHが存在する限り、特定ポルフィリン金属錯体は巡回されて共重合反応に関与できることになる。
【0076】
なお、活性水素を有する連鎖移動剤を用いない場合には、PC(1)のみが得られるので、生成した共重合体の分子数は、特定ポルフィリン金属錯体の分子数と同等である。
これに対し、活性水素を有する連鎖移動剤を用いると、得られる脂肪族ポリカルボナートは、PC(2)、PC(3)及びPC(4)となり、結果、ROHの分子数から派生した脂肪族ポリカルボナートの分だけ脂肪族ポリカルボナート分子は多く生成し、得られる脂肪族ポリカルボナートの総分子数は、特定ポルフィリン金属錯体の分子数と活性水素の分子数とを合算した値となる。
また、(TPP)MORと、(TPP)MXとは、同等の反応性示すため、これらに起因した共重合体の分子量はいずれも同等であり、得られた共重合体の分子量分布をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定すると、クロマトグラムは1つのピークを示す。したがって、共重合体の重合度は、仕込んだポルフィリン金属錯体と活性水素の総分子数に対する、反応したモノマー(オキセタン化合物及び二酸化炭素)の分子数となる。
【0077】
その結果、活性水素を有する連鎖移動剤を用いた反応系では、(1)ポルフィリン金属錯体よりも分子数の多い脂肪族ポリカルボナートを生成することができる、(2)分子量分布の狭い共重合体を得ることができる、(3)原料の配合比を調整することで、所望の分子量を有する共重合体を得ることができる、(4)連鎖移動剤として水を用いた場合には両末端で水酸基を有する共重合体を得ることができる、(5)上記(1)の結果より、高価なポルフィリン金属錯体の使用量を低減することもできる。
【0078】
1分子中に2個以上の活性水素基を有する連鎖移動剤(例えば、HO−R−OH、HOOC−R−COOH、水など)の場合も、ポルフィリン金属錯体と連鎖移動剤の活性水素とが交換して反応が進行する点は、1分子中に1個の活性水素基を有する連鎖移動剤を用いたスキーム2と同様である。
但し、1分子中に2個以上の活性水素基を有する連鎖移動剤を用いると、両末端から分子が成長する。したがって、一分子内に2個の活性水素を有する連鎖移動剤を用いると、一分子内に1個の活性水素を有する連鎖移動剤を用いた場合の約2倍の分子量を有する脂肪族ポリカルボナートを得ることが可能である。
一分子内に3個の活性水素を有する連鎖移動剤を用いた場合には、一分子内に1個の活性水素を有する連鎖移動剤を用いた場合の約3倍の分子量となるものと推測される。
【0079】
上述のように、一分子内に少なくとも1個の活性水素を有する連鎖移動剤を使用すると、(1)ポルフィリン金属錯体よりも分子数の多い脂肪族ポリカルボナートを生成することができる(つまり触媒の使用量を減らすことができる)、(2)分子量分布の狭い脂肪族ポリカルボナートを得ることができる、(3)原料の配合比を調整することで、所望の分子量を有する脂肪族ポリカルボナートを得ることができる、(4)末端基を変性できる、などの効果がある。
一分子内に2個以上の活性水素を有する多官能連鎖移動剤を使用すれば、上記効果に加え、連鎖移動剤による連結や架橋を行なうことができるので、物理的物性を変えた脂肪族ポリカルボナートを得ることができる。
【0080】
また、一分子内に少なくとも1個の活性水素を有し、且つ高分子量である連鎖移動剤を用いると、その高分子連鎖移動剤の特性によって、様々な物理的物性を有する脂肪族ポリカルボナートを得ることができる。
一方で、一分子内に少なくとも1個の活性水素を有し、且つ低分子量である連鎖移動剤、例えば、水、エチレングリコール、グリセリンなど、を用いれば、カルボナート結合の含有率の高いポリマー骨格を有する脂肪族ポリカルボナートとなる。カルボナート結合はエーテル結合に比べ結合エネルギーが高いため、得られる脂肪族ポリカルボナートは耐候性や耐酸性に優れる。
【0081】
特に、活性水素を有する連鎖移動剤として水を適用する場合、特定ポルフィリン金属錯体を合成する際に使用した水が残存していてもよく、水の除去工程が簡略化でき、製造工程上の作業の煩雑さが解消されるという更なる利点を有する。また、このような状態で、連鎖移動剤としての水を更に添加しても、1種の連鎖移動剤を用いたのと同様の効果を得ることができる。
なお、反応に用いるポルフィリン金属錯体に付着した水の残存量は、反応によって得られた脂肪族ポリカルボナートのGPCチャートを確認することで、仕込みの水の量とポルフィリン金属錯体の量とから、概算することができる。この結果を基に、所望の分子量を有する脂肪族ポリカルボナートを作製することが可能である。
【0082】
高価な金属錯体の使用量を低減しつつ所望の分子数及び分子量を得る観点から、活性水素を有する連鎖移動剤は、1モルのポルフィリン金属錯体に対して1モル以上の活性水素が存在するように用いることが好ましく、5モル以上の活性水素が存在するように用いることがより好ましく、10モル以上の活性水素が存在するように用いることがさらに好ましい。
【0083】
<脂肪族ポリカルボナート>
上記の製造方法によって、二酸化炭素と、オキセタン化合物との反応により脂肪族ポリカルボナートを得ることができる。
本発明の製造方法では、反応条件(温度、時間、連鎖移動剤の種類等)の調整によって、分子量分布の狭い脂肪族ポリカルボナートを得ることも可能である。GPC測定により得られた数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnを、1.01〜2.5とすることができ、更には、Mw/Mnを1.01〜2.0とすることも可能であり、製造条件によっては、Mw/Mnを1.01〜1.8とすることもできる。
【0084】
また、ポルフィリン金属錯体の一部は超臨界二酸化炭素にも溶解するので、反応時の二酸化炭素圧を高くして超臨界二酸化炭素とすることで、溶剤を使用せずに反応させることができる。その結果、不要な溶剤の含有量が少ない脂肪族ポリカルボナートとなる。
【0085】
上記脂肪族ポリカルボナートの製造方法で、活性水素を有する連鎖移動剤として水を適用したとき、両末端が水酸基の共重合体となる。なお、連鎖移動剤を用いない場合には、片末端に塩素原子などのポルフィリン金属錯体の金属塩に起因した置換基を有する。
【0086】
両末端が水酸基であるブロック共重合体は、接着性に優れかつ生分解性を示すので、接着用途のフィルムに好適に用いることができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
(脂肪族ポリカルボナートの合成)
[実施例1]
ステンレス性耐圧容器に、ポルフィリン金属錯体としてテトラフェニルポルフィナトアルミニウムクロリド[(TPP)AlCl]の0.04mmolと、助触媒としてテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)の0.04mmolを入れた。そして、ステンレス性耐圧容器の内部を窒素で置換してから、さらに、オキセタンと、溶媒としてのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)の1.5mLを添加し、圧力をかけて二酸化炭素を注入し、二酸化炭素の分圧が2.0MPaとなるように調整した。オキセタンは、(TPP)AlClの1モルに対して500モルとなるように添加した。120℃で24時間加熱反応させた後、これを室温(25℃)まで冷却してから、過剰の二酸化炭素を解放した。
【0089】
[実施例2、3]
実施例1における溶媒の種類を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、脂肪族ポリカルボナートを合成した。
【0090】
[実施例4、5]
実施例1における助触媒の使用量を表2に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、脂肪族ポリカルボナートを合成した。表2には、実施例1を併せて掲載する。
【0091】
[実施例6、7]
実施例1における反応時間を表3に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、脂肪族ポリカルボナートを合成した。表3には、実施例1を併せて掲載する。
【0092】
[実施例8]
実施例1における反応温度を表4に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、脂肪族ポリカルボナートを合成した。表4には、実施例1を併せて掲載する。
【0093】
[実施例9、10]
実施例1における二酸化炭素分圧を表5に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、脂肪族ポリカルボナートを合成した。表5には、実施例1を併せて掲載する。
【0094】
[実施例11、12]
実施例1における助触媒の種類を表6に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、脂肪族ポリカルボナートを合成した。表6には、実施例1を併せて掲載する。
【0095】
[実施例13]
実施例1におけるポルフィリン金属錯体をテトラフェニルポルフィナトコバルトクロリド[(TPP)CoCl]に変え、助触媒を4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)に変え、ポルフィリン金属錯体1モルに対する助触媒の使用量を0.75モルとし、溶媒をジクロロメタンに変え、二酸化炭素分圧を5.0Mpaに変えた以外は実施例1と同様にして、脂肪族ポリカルボナートを合成した。
【0096】
(転換率)
得られた生成物の転換率を、1H−NMRにより求めた。
【0097】
(脂肪族ポリカルボナートの生成比率)
得られた生成物中に脂肪族ポリカルボナート(ポリトリメチレンカルボナート、PTMC)及び6員環カルボナート(TMC)が生成しているか否かを、H−NMR(CDCl)において、δ5.0ppm付近に現れるカルボナート結合に隣接するメチン水素由来のシグナルにより確認した。
また、PTMCとTMCの生成比率(それぞれの炭酸エステル基の数の比)は、H−NMRスペクトルから求めた。
【0098】
(平均分子量)
得られた脂肪族ポリカルボナートの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)をポリスチレン換算のGPCで分析した。また、これらの値から分散度(Mw/Mn)を求めた。
【0099】
表中の「ND」は、測定を行なっていないことを意味する。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
【表6】
【0106】
【表7】
【0107】
<考察>
表1、2、5、及び6に示す実施例1〜5、9〜12により、溶媒の種類、助触媒の使用量、二酸化炭素分圧、及び助触媒の種類を変えても脂肪族ポリカルボナートを合成できることが確認された。
また、表3に示す実施例1、6〜7の対比により、反応の初期には6員環カルボナート(TMC)が生成し、しだいに脂肪族カルボナート(PTMC)の生成量が増えることが確認された。この表3の結果を踏まえると、表4に示す反応温度が80℃の実施例8では、PTMCの生成量がTMCに比べて少ないが、反応時間をさらに長くするとPTMCの生成量が増えることが予測される。
表7に示すポルフィリン金属錯体として(TPP)CoClを用いた実施例13では、PTMCの生成が確認された。