特許第6873540号(P6873540)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6873540-柑橘系香料の香り立ち増強剤と改良香料 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873540
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】柑橘系香料の香り立ち増強剤と改良香料
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/12 20160101AFI20210510BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   A23L27/12
   C11B9/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-8160(P2017-8160)
(22)【出願日】2017年1月20日
(65)【公開番号】特開2018-115283(P2018-115283A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田木 正樹
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】笠井 通雄
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−200190(JP,A)
【文献】 特開2011−041512(JP,A)
【文献】 特開平09−111284(JP,A)
【文献】 特開2010−116434(JP,A)
【文献】 特開2001−231491(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0011093(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/12
C11B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを有効成分として含有する、レモン油、オレンジ油、グレープフルーツ油、柚子油、ベルガモット油、マンダリン油、ライム油から選ばれる柑橘系香料の食用油脂を含有する飲食品における香り立ち増強剤。
【請求項2】
中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを有効成分として含有する、柑橘系香料の食用油脂を含有する飲食品における香り立ち増強剤、及び柑橘系香料を含み、
前記柑橘系香料の含有量が、前記食用油脂を含有する飲食品における香り立ち増強剤中の中鎖脂肪酸含有トリグリセリドの質量100質量部に対して0.01〜1質量部である、
食用油脂を含有する飲食品における香り立ちが増強された改良香料(但し、乳化香料を除く)
【請求項3】
請求項2に記載の改良香料を含む、柑橘系香料の食用油脂を含有する飲食品における香り立ちが増強された飲食品。
【請求項4】
レモン油、オレンジ油、グレープフルーツ油、柚子油、ベルガモット油、マンダリン油、ライム油から選ばれる柑橘系香料に中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを混合することを特徴とする、柑橘系香料の食用油脂を含有する飲食品における香り立ちを増強する方法。
【請求項5】
飲食品の製造工程において、飲食品の原料に、請求項2に記載の改良香料を混合することを特徴とする、柑橘系香料の食用油脂を含有する飲食品における香り立ちが増強された飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清涼感のある柑橘系香料の香り立ち増強剤、香り立ちが増強された清涼感のある柑橘系改良香料(以下、「改良香料」ともいう。)、清涼感のある柑橘系香料の香り立ちが増強された飲食品、飲食品の清涼感のある柑橘系香料の香り立ちの増強方法、清涼感のある柑橘系香料の香り立ちが増強された飲食品の製造方法に関する。
詳しくは、食用油脂を使用していても、喫食の際に、油脂のコク及び旨味が弱くあっさりしており、鼻先香と口中香の両方において、清涼感のある柑橘系香料の香り立ちが強く感じられる、柑橘系香料の香り立ち増強剤及び改良香料などに関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品のおいしさにとって、見た目の美しさ(形・色)はもちろん重要であるが、口に入れた際に感じる、味、香り、食感がおいしさを決める主要な要因となっている。その中でも特に、口に入れる前と後で感じられる香りは、おいしさのバロメーターであり、例えば、ワインのテイスティングでは、まず鼻先で匂いを嗅ぎ、次いで、口の中に含んで喉越しを味わい、鼻に抜ける香りを楽しんでいる。ここで、前者の鼻先で感じる香りはオルソネーザルアロマ(鼻先香)といわれ、食欲を刺激する要因と考えられており、また、後者の口に含んだときに喉の奥から感じられる香りはレトロネーザルアロマ(口中香)といわれ、おいしさを左右する重要な要素と考えられている。
【0003】
飲食品には数多くの香気成分が含まれており、例えば、コーヒーでは800種以上の香気成分があるといわれている。これら香気成分の多くは鼻先で感じる香り(鼻先香)となり得るが、口の中で感じられる香り(口中香)とは異なることもある。すなわち、鼻先で感じられる香気成分は主に揮発性成分であるが、口の中で感じられる香気成分には、唾液の中に含まれる酵素等によって新たに生じたものもあるからである。
【0004】
このように、飲食品のおいしさにとって口に入れる前と後で感じられる香りは重要な要素であるため、飲食品のおいしさを向上させるために、これまで様々な香料が用いられてきた。その中でも特に、柑橘系香料は、飲食品に対して独特の清涼感や果汁感を与えるため、日本人の生活の中に広く浸透しており、様々な飲食品に使用されている。この柑橘系香料の中には、例えば、リモネン、シトラール等の香気成分が含まれているが、これらの香気成分の喫食の際の香り立ちを増強することができれば、飲食品分野で多大な貢献が見込める。そこで、これまで柑橘系香料の香り立ちを増強する技術が求められてきた。
例えば、柑橘系香料に(E)−6−ノネナールを極微量添加して、柑橘特有のフレッシュでピール感のある香味を付与する柑橘香味増強剤が知られている(特許文献1)。
また、4−メルカプト−4−メチル−2−ペンタノンを極微量添加して、柑橘特有のピール感を増強することができる香酸柑橘様香味増強剤が知られている(特許文献2)。
しかしながら、これらの有効成分はいずれも一般に容易に入手できるものではなく、誰でも簡便に実施できる技術ではなかった。また、これら香味増強剤は、飲食品を喫食した際、鼻先香と口中香の両方において、清涼感のある柑橘系香料の香り立ちを強くするものであるかどうかは不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4183142号公報
【特許文献2】特許第4360654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、飲食品を喫食した際、鼻先香と口中香の両方において、清涼感のある柑橘系香料の香り立ちを強くする香り立ち増強剤、及び香り立ちが増強された清涼感のある柑橘系香料を、誰にでも簡便に実施できる方法で提供することである。
また、本発明の課題は、清涼感のある柑橘系香料の香り立ちが増強された飲食品、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、誰でも容易に入手できる食用油脂に着目し、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、食用油脂の種類によって、喫食の際の柑橘系香料の香り立ちが異なることを見いだし、さらに、柑橘系香料に対して、特に中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを有効成分とする香り立ち増強剤を配合することによって、本課題を解決できることを見いだして、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
〔1〕中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを有効成分として含有する、柑橘系香料の香り立ち増強剤。
〔2〕〔1〕に記載の香り立ち増強剤、及び柑橘系香料を含む、香り立ちが増強された改良香料。
〔3〕前記柑橘系香料の含有量が、前記香り立ち増強剤中の中鎖脂肪酸含有トリグリセリドの質量100質量部に対して0.01〜1質量部である、〔2〕に記載の改良香料。
〔4〕〔2〕又は〔3〕に記載の改良香料を含む、柑橘系香料の香り立ちが増強された飲食品。
〔5〕柑橘系香料に中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを混合することを特徴とする、柑橘系香料の香り立ちを増強する方法。
〔6〕飲食品の製造工程において、飲食品の原料に、〔2〕又は〔3〕に記載の改良香料を混合することを特徴とする、柑橘系香料の香り立ちが増強された飲食品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、誰でも容易に入手できる中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを用いて、飲食品を喫食した際、鼻先香と口中香の両方において、清涼感のある柑橘系香料の香り立ちが増強された改良香料を簡便に製造することができる。また、本発明の柑橘系香料の香り立ちが増強された改良香料は、様々な飲食品に対して配合でき、柑橘系香料に由来する清涼感や果汁感を簡単に増強することができるため、従来の飲食品では満足できなかった人々の需要に応えることができる。特に、たれ、つゆ、ドレッシング等の液状調味料の分野において、清涼感のある柑橘系香料の香り立ちが強く感じられる新たな商品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】各種油脂のコク及び旨味と、香料の香り立ち増強剤の有効成分となり得る各種油脂による柑橘系香料の香り立ちの増強効果の程度との関係を、実施例で得られた結果を参考にして作成したイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[柑橘系香料の香り立ち増強剤]
本発明の一態様は、中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを有効成分として含有する、柑橘系香料の香り立ち増強剤である。以下、当該柑橘系香料の香り立ち増強剤について詳しく説明する。
【0012】
[柑橘系香料]
本発明における柑橘系香料とは、柑橘系の果物や柑橘系の果物に似た香りを有するハーブなどから抽出された成分を含む香料であれば特に制限されない。例えば、レモン油、オレンジ油、グレープフルーツ油、柚子油、ベルガモット油、マンダリン油、ライム油などが挙げられ、リモネン、ヌートカン、オクチルアルデヒド、デシルアルデヒド、オクチルアルコール、ノニルアルコール、ゲラニオール、ノニルアルデヒド、ビサボレン、P−サイメン、シトラール、リナロール、アンスラニル酸メチル、ネロリドール、ミルセン、α−ピネン、β−ピネン、サビネン、酢酸オクチル、カンフェン、酢酸リナリル、ネロール、シトロネラール、α−テルピネオール、オクタノールなどの香気成分を含むものが挙げられる。
【0013】
[中鎖脂肪酸含有トリグリセリド]
本発明の柑橘系香料の香り立ち増強剤は、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を有するトリグリセリド、すなわち、中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを有効成分として含有する。ここで、中鎖脂肪酸含有トリグリセリド(以下、「MTG」とも表す)は、中鎖脂肪酸を構成脂肪酸の一部もしくは全部とするトリグリセリドを意味する。構成脂肪酸のすべてが中鎖脂肪酸であるトリグリセリドは、中鎖脂肪酸トリグリセリド(以下、「MCT」とも表す)といい、MTGに含まれる。また、ここで、中鎖脂肪酸とは、炭素数6〜10の脂肪酸であり、直鎖の飽和脂肪酸であることが好ましい。具体的には、n−ヘキサン酸(C6)、n−オクタン酸(C8)、n−デカン酸(C10)である。
本発明においては特に、中鎖脂肪酸含有トリグリセリドが、n−オクタン酸及び/又はn−デカン酸である中鎖脂肪酸のみから構成されていることが好ましい。さらに、n−オクタン酸とn−デカン酸の中鎖脂肪酸が、55:45〜80:20であることがより好ましく、60:40〜75:25であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明で使用される中鎖脂肪酸含有トリグリセリドは、従来公知の方法で製造できる。例えば、n−デカン酸(必要に応じて他の脂肪酸も含み得る)とグリセロールとを、触媒下、好ましくは無触媒下、また、好ましくは減圧下で、50〜250℃、より好ましくは120〜180℃に加熱し、脱水縮合させること(エステル合成)により製造できる。
ここで、触媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、通常のエステル合成に用いられる酸触媒又は塩基触媒等を使用することができる。減圧下とは、例えば、0.01〜100Pa、好ましくは、0.05〜75Pa、より好ましくは、0.1〜50Paである。このとき系内の水分は少ない方が好ましく、更に好ましくは0.2質量%以下である。
【0015】
本発明の中鎖脂肪酸含有トリグリセリドは(MTG)は、また、中長鎖含有トリグリセリド(以下、「MLCT」とも表す)であってもよい。MLCTは、グリセロールに結合する3個の脂肪酸のうち、中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とがそれぞれ少なくとも1個結合したトリグリセリドである。ここで、長鎖脂肪酸とは、炭素数が12以上の脂肪酸であり、直鎖脂肪酸であることが好ましい。具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。MLCTの構成脂肪酸である長鎖不飽和脂肪酸の含量は、MLCTの全構成長鎖脂肪酸含量中70〜100質量%であることが好ましく、80〜100質量%であることがより好ましい。
【0016】
上記MLCTは、MCTと同様に、エステル合成により製造されてもよい。MLCTは、また、MCTと長鎖脂肪酸トリグリセリド(以下、「LCT」とも表す)の混合物をエステル交換することにより製造されてもよい。ここで、LCTとは、グリセロールに結合する脂肪酸がすべて長鎖脂肪酸であるトリグリセリドである。LCTとしては、構成脂肪酸に占める不飽和脂肪酸の含有量が70質量%以上である油脂が好ましい。
上記MCTとLCTの混合物のエステル交換は、MCTとLCTとが、質量比で10:90〜90:10(より好ましくは20:80〜80:20)の割合で混合された混合物のエステル交換であることが好ましい。エステル交換する方法としては、特に限定されるものではなく、ナトリウムメトキシドを触媒とした化学的エステル交換や、リパーゼを触媒とした酵素的エステル交換など、通常行われる方法でよい。
【0017】
本発明の柑橘系香料の香り立ち増強剤は、有効成分であると上述した中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを含有するもので、中鎖脂肪酸含有トリグリセリドそのものであってもよく、柑橘系香料の香り立ち増強剤中の中鎖脂肪酸含有トリグリセリド含量は、95〜100質量%であることが好ましく、90〜100質量%であることがより好ましく、85〜100質量%であることが最も好ましい。
中鎖脂肪酸含有トリグリセリド以外の成分として、例えば、ヤシ油、パーム核油、パーム油、パーム分別油(パームオレイン、パームスーパーオレイン等)、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、乳脂、ココアバター等やこれらの混合油、加工油脂等の他の油脂、デキストリン、澱粉等の賦形剤、その他の添加剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
ただし、本発明の「柑橘系香料の香り立ち増強剤」は、柑橘系香料の香り立ちを増強するためのものであるため、柑橘系香料はこれに含まれない。
【0018】
[柑橘系香料の香り立ち増強剤の入手、及び製造方法]
市販の中鎖脂肪酸含有トリグリセリドは、有効成分として中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを100質量%含有する柑橘系香料の香り立ち増強剤としてそのまま使用することがきるので、誰でも柑橘系香料の香り立ち増強剤を容易に入手することができる。市販の中鎖脂肪酸含有トリグリセリドとしては、日清オイリオグループ株式会社製、商品名;O.D.O(トリグリセリドの形態:MCT、脂肪酸組成C8:C10=75:25)、商品名;スコレー64G(トリグリセリドの形態:MCT、脂肪酸組成C8:C10=60:40)商品名;QUOLIO60(トリグリセリドの形態:MCT、脂肪酸組成C8:C10=60:40)、商品名;QUOLIO75(トリグリセリドの形態:MCT、脂肪酸組成C8:C10=75:25)、商品名;ヘルシーリセッタ(トリグリセリドの形態:MLCT+LCT+MCT、油脂14g中に中鎖脂肪酸を1.6g含有)等が挙げられる。
また、先に説明をした中鎖脂肪酸含有トリグリセリド以外の成分を含有する柑橘系香料の香り立ち増強剤は、中鎖脂肪酸含有トリグリセリドとそれ以外の成分を混合することにより製造することができる。混合は、従来から公知の方法に従って行うことができる。例えば、混合する手段は、通常の攪拌で常用されるミキサーであればよく、パドルミキサー、ヘンシェルミキサー、流動層ミキサー、ホモゲナイザー等を挙げることができる。
【0019】
[改良香料]
本発明の改良香料は、先に説明をした柑橘系香料の香り立ち増強剤と柑橘系香料を含むものである。ここで、「改良」という意味は、柑橘系香料に中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを添加したものを喫食した際、他の油脂(比較の基準としては、キャノーラ油が挙げられる。)を添加したものと比較して、鼻先香と口中香の両方において、清涼感のある柑橘系香料の香り立ちが強く感じられることをいう。すなわち、改良香料とは、香り立ちが増強された清涼感のある柑橘系改良香料をいう。なお、柑橘系香料と中鎖脂肪酸含有トリグリセリドは、上述で定義したとおりである。
本発明の改良香料における柑橘系香料の含有量は、柑橘系香料の香り立ち増強剤中の中鎖脂肪酸含有トリグリセリドの質量100質量部に対して、0.01〜1質量部であることが好ましく、0.05〜0.5質量部であることがより好ましく、0.1〜0.3質量部であることが最も好ましい。このような数値範囲であれば、柑橘系香料が適度な香り立ちを有しており、中鎖脂肪酸含有トリグリセリドによる本発明の効果をより良く認識できるからである。
中鎖脂肪酸含有トリグリセリドが、他の油脂に比べて、柑橘系香料の香り立ちを増強するメカニズムについては定かでないが、油脂に熱をかけると油脂から揮発性成分が発生し、柑橘系香料の揮発性成分と相互作用して、柑橘系香料の香り立ちを妨害することが考えられる。しかしながら、中鎖脂肪酸含有トリグリセリドは熱をかけても揮発性成分があまり出ないか、あるいは、揮発性成分が出ても、柑橘系香料の香り立ちを妨害することがないようなものであることが考えられる。しかし、ここに説明したメカニズムは本発明の理解する上での参考程度にすぎず、本発明はこのメカニズムによって何ら制限されない。
【0020】
[改良香料の製造方法]
本発明の改良香料は、先に説明をした柑橘系香料と、先に説明をした中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを有効成分とする柑橘系香料の香り立ち増強剤を混合することにより製造することができる。混合は、従来から公知の方法に従って行うことができる。例えば、混合する手段は、通常の攪拌で常用されるミキサーであればよく、パドルミキサー、ヘンシェルミキサー、流動層ミキサー、ホモゲナイザー等を挙げることができる。
【0021】
[飲食品]
本発明で用いられる「飲食品」としては、柑橘系香料、及び中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを有効成分として含有する柑橘系香料の香り立ち増強剤を配合できるものであれば、特に制限されず、当業者であれば目的に応じて適宜選択することができる。例えば、例えば無果汁飲料、果汁入り飲料、野菜飲料、乳酸菌飲料、茶飲料、炭酸飲料、コーヒー飲料、スープ飲料、アルコール飲料、ミネラル含有飲料、ビタミン含有飲料、機能性食品素材を含有する飲料等の飲料類、乳飲料、乳酸菌飲料、はっ酵乳、練乳、濃縮乳、ヨーグルト、アイスクリーム等の乳及び乳を主原料とする製品、ゼリー、ババロア、プリン等のデザート食品類、チョコレート、キャラメル、キャンディー、スナック食品等の菓子類、つゆ、たれ、ドレッシング等の調味料、レトルト食品などの調理済み食品、およびその他のインスタント食品などを挙げることができる。特に、本発明の飲食品としては、つゆ、たれ、ドレッシング等の液状調味料が好ましい。
【0022】
[柑橘系香料の香り立ちを増強する方法]
柑橘系香料に中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを混合すると、他の油脂に比べて、鼻先香と口中香の両方において、清涼感のある柑橘系香料の香り立ちが強く感じられることから、本発明は、柑橘系香料に中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを混合することを特徴とする、柑橘系香料の香り立ちを増強する方法にも関する。
柑橘系香料と中鎖脂肪酸含有トリグリセリドとの混合は、従来から公知の方法に従って行うことができる。例えば、混合する手段は、通常の攪拌で常用されるミキサーであればよく、パドルミキサー、ヘンシェルミキサー、流動層ミキサー、ホモゲナイザー等を挙げることができる。
ここで、柑橘系香料、中鎖脂肪酸含有トリグリセリド、柑橘系香料の含有量や好ましい範囲等については、上述で定義したとおりである。
【0023】
[柑橘系香料の香り立ちが増強された飲食品の製造方法]
本発明の柑橘系香料の香り立ちが増強された飲食品の製造方法は、飲食品の製造工程において、飲食品の原料に、先に説明をした改良香料を混合することを特徴とするものである。
ここで、飲食品の原料とは、飲食品を製造するための原材料のことであり、柑橘系香料の香り立ちが増強される前の(通常の)飲食品自体を含み得る。柑橘系香料の香り立ちが増強される前の(通常の)飲食品には、本発明の改良香料は含まれていない。
また、本発明の柑橘系香料の香り立ちが増強された飲食品の製造方法には、飲食品の原料に改良香料を加えることのほか、場合によっては、予め柑橘系香料を含む飲食品の原料に対し中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを加える、もしくは、予め中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを含む飲食品の原料に対し柑橘系香料を加えることも含み得る。後者の場合、飲食品の原料の中で、柑橘系香料と中鎖脂肪酸含有トリグリセリドが組み合わされ、改良香料ができている。
ここで、飲食品、中鎖脂肪酸含有トリグリセリド、該柑橘系香料の含有量や好ましい範囲もしくは混合工程については上述で定義したとおりである。
【実施例】
【0024】
次に、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0025】
以下において「%」とは、特別な記載がない場合、「質量%」を意味する。
油脂に含まれるトリアシルグリセロールの組成の分析は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)準拠)及び銀イオンカラム−HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105−107(1995)準拠)を用いて行った。
油脂に含まれるトリアシルグリセロール(TAG)の有する構成脂肪酸の分析は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f−96準拠)を用いて行った。
【0026】
<柑橘系香料>
(1)レモン油香料
レモン油(小川香料株式会社製、商品名:レモンフレーバー)
(2)オレンジ油香料
オレンジ油(小川香料株式会社製、商品名:オレンジフレーバー)
(3)グレープフルーツ油香料
グレープフルーツ油(小川香料株式会社製、商品名:グレープフルーツフレーバー)
(4)柚子油香料
柚子油(高田香料株式会社製、商品名:柚子オイル)
【0027】
<柑橘系香料の香り立ち増強剤に使用した油脂>
(1)中鎖脂肪酸含有トリグリセリド
中鎖オイルA(日清オイリオグループ株式会社販売、商品名:QUOLIO60、トリグリセリドの形態:MCT、構成脂肪酸はn−オクタン酸とn−デカン酸であり、その含量割合(質量比)は、n−オクタン酸:n−デカン酸=60:40。)
中鎖オイルB(日清オイリオグループ株式会社販売、商品名:QUOLIO75、トリグリセリドの形態:MCT、構成脂肪酸はn−オクタン酸とn−デカン酸であり、その含量割合(質量比)は、n−オクタン酸:n−デカン酸=75:25。)
中鎖オイルC(日清オイリオグループ株式会社製、商品名:ヘルシーリセッタ、トリグリセリドの形態:MLCT+LCT+MCT、油脂14g中に中鎖脂肪酸を1.6g含有。なお、図1では単に「MLCT」と示す。)
(2)キャノーラ油
キャノーラ油(日清オイリオグループ株式会社製、商品名:日清キャノーラ油、トリグリセリドの形態:LCT)
(3)大豆油
大豆油(日清オイリオグループ株式会社製、商品名:大豆サラダ油、トリグリセリドの形態:LCT)
(4)精製胡麻油
精製胡麻油(竹本油脂株式会社製、商品名:太白胡麻油、トリグリセリドの形態:LCT)
【0028】
[実験例1]改良香料の製造及び評価
上記各油脂を100質量%含有する香り立ち増強剤の質量100質量部に対して上記各柑橘系香料を0.2質量部添加、混合し、実施例1〜3の改良香料および比較例1〜3の香料(対照)を製造した。
そして、専門パネラー4名により、各改良香料及び香料(対照)を鼻で嗅いだときの香り(鼻先香)と、口に入れた後に鼻に抜ける香り(口中香)とを、以下の評価基準に従って評価した。得られた4人の評価点を平均し、評価結果とした。その評価結果は表1〜4に示した。なお、表1はレモン油香料、表2はオレンジ油香料、表3はグレープフルーツ油香料、及び表4は柚子油香料を用いた場合の結果を示す。
【0029】
評価基準
5:香り立ちがとても強い
4:香り立ちが強い
3:香り立ちがある
2:香り立ちがやや弱い
1:香り立ちが弱い
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
上記表1〜4から明らかであるとおり、実施例1〜3は、比較例1〜3と比べて、鼻先香と口中香の両方において、清涼感のある柑橘系香料の香り立ちが強く感じられた。このように、中鎖脂肪酸含有トリグリセリドは、他の油脂と比較して、柑橘系香料の香り立ちを増強できることが判明した。
なお、実施例1〜3は、比較例1〜3と比べて、油脂のコク・旨味が弱くあっさりとしていた。一方、比較例1〜3は、実施例1〜3に比べて、油脂のコク・旨味が強く感じられた。より詳細には、比較例1と3では、香り立ちは感じられるが、油脂のコク・旨味も強く感じられた。また、比較例2では、油脂のコク・旨味も強く感じられることに加え、香り立ちそのものが弱く、油脂によって香りがマスキングされているように感じられた。
【0035】
[実験例2]飲食品の製造及び評価
上記各油脂を100質量%含有する香り立ち増強剤の質量100質量部に対して上記レモン油香料を0.2質量部添加、混合し、実施例1〜3の改良香料および比較例1〜3の香料(対照)を製造した。そして、実施例1〜3の改良香料および比較例1〜3の香料(対照)を、市販の焼き肉のたれ(エバラ食品工業株式会社製、商品名:焼肉のたれ 醤油味)の全質量に対して5質量%となるように混合して、評価対象となる焼き肉のたれ(飲食品)を製造した。
そして、専門パネラー4名により、各焼き肉のたれを鼻で嗅いだときの香り(鼻先香)と、口に入れた後に鼻に抜ける香り(口中香)とを、実験例1と同じ評価基準に従って評価した。得られた4人の評価点を平均し、評価結果とした。その評価結果を表5に示した。
【0036】
【表5】
【0037】
上記表5から明らかであるとおり、実施例1〜3は、比較例1〜3と比べて、鼻先香と口中香の両方において、清涼感のある柑橘系香料の香り立ちが強く感じられた。このように、中鎖脂肪酸含有トリグリセリドは、他の油脂と比較して、飲食品の形態(焼き肉のたれ)とした場合であっても、柑橘系香料の香り立ちを増強できることが判明した。
図1