特許第6873614号(P6873614)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6873614リチウムイオン二次電池及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873614
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20210510BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20210510BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20210510BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20210510BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20210510BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20210510BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20210510BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20210510BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M10/0566
   H01M10/052
   H01M4/36 A
   H01M4/48
   H01M4/38 Z
   H01M4/485
   H01M4/58
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-124019(P2016-124019)
(22)【出願日】2016年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-228439(P2017-228439A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年5月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度 独立行政法人科学技術振興機構産学共同実用化開発事業産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504358517
【氏名又は名称】有限会社ケー・アンド・ダブル
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】花輪 洋宇
(72)【発明者】
【氏名】爪田 覚
(72)【発明者】
【氏名】石本 修一
(72)【発明者】
【氏名】直井 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】直井 和子
【審査官】 小川 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−083388(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/084923(WO,A1)
【文献】 特開2008−282803(JP,A)
【文献】 特開2013−069565(JP,A)
【文献】 特開2009−099418(JP,A)
【文献】 特開2010−097813(JP,A)
【文献】 特開2015−018678(JP,A)
【文献】 特開2015−041600(JP,A)
【文献】 特開2015−026594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/50 − 4/525
H01M 4/02
H01M 4/13 − 4/131
H01M 4/36 − 4/38
C01G 51/00 − 53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、電解液を備え、
前記正極は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質層を含んで成り、
前記正極活物質層は、三次元網目構造の金属化合物粒子を含んで成り、
前記三次元網目構造の金属化合物粒子は、平均粒子径が5〜300nmの一次粒子が結合して網目状に連なることで空隙を有するとともに、前記一次粒子の間に細孔が形成されており、
前記一次粒子の間に細孔が形成されている前記金属化合物粒子を窒素ガス吸着測定法にて測定した細孔分布から換算される差分細孔容積において、20〜40nmの範囲の細孔径における差分細孔容積が0.0005cm/g以上の値を有し、
前記空隙は、前記三次元網目構造の断面において7〜50%の範囲の比率を占めること、
を特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記金属化合物粒子は、前記一次粒子の結合界面に粒界が無いこと、
を特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記金属化合物粒子には、当該金属化合物粒子全体に対してカーボンが5重量%未満で残存して付着していること、
を特徴とする請求項1又は2記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記金属化合物粒子は、コバルト酸リチウムであること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記負極は負極活物質を含んで成り、
前記負極活物質は、FeO、Fe、Fe、MnO、MnO、Mn、Mn、CoO、Co、NiO、Ni、TiO、TiO、TiO(B)、CuO、NiO、SnO、SnO、SiO、RuO、WO、WO、WO3、MoO、ZnO、Sn、Si、Al、Zn、LiVO、LiVO、LiTi12、ScTiO、FeTiO、Li2.6Co0.4N、Ge、Zn、CuN、YTi、MoS、炭素材料の何れかであること、
を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
金属化合物粒子の前駆体とカーボン源とを複合化して、一次粒子の平均粒子径が5〜300nmの第一の複合材料を得る第1の工程と、
前記第一の複合材料を非酸化雰囲気下で熱処理することによって、金属化合物粒子を生成し、該金属化合物粒子とカーボンとが複合化された第二の複合材料を得る第2の工程と、
前記第二の複合材料を酸素雰囲気下で熱処理することによって、カーボンを除去した金属化合物粒子を得る第3の工程と、
前記第3の工程で得た、前記カーボンを除去した金属化合物粒子を正極活物質とする正極を作製する第4の工程と、
負極と前記第4の工程で得られた正極とをセパレータを介して対向させて電解液を含浸させた素子を形成する第5の工程と、
を備えること、
を特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記第1の工程では、前記金属化合物粒子の前駆体と前記カーボン源とをスプレードライ処理により複合化すること、
を特徴とする請求項6記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出する活物質を含有する正極及び負極と、リチウム塩を溶解させた電解液とを有する。例えば、正極活物質にコバルト酸リチウムを用い、負極活物質に黒鉛を用い、電解液の電解質として六フッ化リン酸リチウムを用い、電解液の溶媒として非水系溶媒を用いたものが主流である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等の情報機器の電源として、車載等での回生エネルギーの用途として、またモーター駆動の電気自動車の電源として、リ広く用いられている。これらの機器の性質上、リチウムイオン二次電池には、高出力が要求され、また急速充電によっても容量低下の少ないレート特性が要求されている。レート特性は、正極の内部抵抗に律速されることが知られている。そこで、特定のリチウム含有複合酸化物の表面に、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンブラックから選択された一種の炭素材料を被覆して導電性を高めた正極活物質が検討されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−27833号公報
【特許文献2】特開2012−169217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、炭素材料で被覆した正極活物質は高導電性を備え得るが、換言すれば正極の内部抵抗を抑制し得るが、この炭素材料は電池反応に関与する正極活物質としての機能を有しないために、電池反応の観点からは不純物となる。従って、炭素材料は少ないほうが好ましい。すなわち、理想的には正極活物質を炭素材料で被覆せずとも正極の内部抵抗を抑制し、リチウムイオン二次電池のレート特性を向上させることである。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上述の課題を鑑みて、レート特性を向上させたリチウムイオン二次電池及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者等は、鋭意研究の結果、三次元網目構造の金属化合物粒子の作製に成功し、この三次元網目構造の金属化合物粒子の層が低内部抵抗を有するとの知見を得た。そこで、前記の目的を達成するため、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液を備え、前記正極は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質層を含んで成り、前記正極活物質層は、一次粒子が結合して空隙を有する三次元網目構造の金属化合物粒子により成ること、を特徴とする。
【0008】
これにより、リチウムイオン二次電池のレート特性が向上する。レート特性は、充放電電流密度に対する充放電容量であり、この三次元網目構造を採る金属化合物粒子を正極活物質とするリチウムイオン二次電池は、三次元網目構造を有しない同一金属化合物の粒子を正極活物質とした場合と比べて、高レートにおける放電容量の低下が少ない。すなわち、正極活物質層を三次元網目構造の金属化合物粒子とすることによりリチウムイオン二次電池の高入出力及び大容量を満足するレート特性を得られる。
【0009】
前記負極は負極活物質を含んで成り、前記負極活物質は、FeO、Fe、Fe、MnO、MnO、Mn、Mn、CoO、Co、NiO、Ni、TiO、TiO、TiO(B)、CuO、NiO、SnO、SnO、SiO、RuO、WO、WO、WO3、MoO、ZnO、Sn、Si、Al、Zn、LiVO、LiVO、LiTi12、ScTiO、FeTiO、Li2.6Co0.4N、Ge、Zn、CuN、YTi、MoS、炭素材料の何れかであるようにしてもよい。
【0010】
前記正極活物質とこれら負極活物質とを組み合わせることが特に好適である。例えば、コバルト酸リチウムは、これら負極活物質に対して内部抵抗が高いが、このコバルト酸リチウムを三次元網目構造として正極活物質とし、これら負極活物質と組み合わせると、そのリチウムイオン二次電池のレート特性改善効果は高い。
【0011】
前記三次元網目構造は、前記金属化合物粒子の一次粒子が連なって結合し、前記金属化合物粒子の断面に対して7〜50%の比率を占める空隙を有するようにしてもよい。このメカニズムに限定されるわけではないが、この範囲の空隙は金属化合物粒子内のリチウムイオンの貯蔵地として機能するものと考えられ、正極の抵抗を下げ、リチウムイオン二次電池のレート特性を向上させる一助となる。
【0012】
前記一次粒子の間に細孔が形成されているようにしてもよい。このメカニズムに限定されるわけではないが、この細孔は金属化合物粒子の内部へのリチウムイオンのパスとなり、リチウムイオンの拡散速度が向上し、正極の抵抗を下げ、リチウムイオン二次電池のレート特性を向上させる一助となる。
【0013】
前記一次粒子により成る前記金属化合物粒子を窒素ガス吸着測定法にて測定した細孔分布から換算される差分細孔容積において、20〜40nmの範囲の細孔径における差分細孔容積が0.0005cm/g以上の値を有するようにしてもよい。空隙と細孔の相乗効果が期待できる。
【0014】
前記金属化合物粒子には、当該金属化合物粒子全体に対してカーボンが5重量%未満で付着していても、レート特性に関して製品品質を大きく損なう影響を与え難い。
【0015】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池の製造方法は、金属化合物粒子の前駆体とカーボン源とを複合化して第一の複合材料を得る第1の工程と、前記第一の複合材料を非酸化雰囲気下で熱処理することによって、金属化合物粒子を生成し、該金属化合物粒子とカーボンとが複合化された第二の複合材料を得る第2の工程と、前記第二の複合材料を酸素雰囲気下で熱処理することによって、カーボンを除去した金属化合物粒子を得る第3の工程と、前記第3の工程で得た、前記カーボンを除去した金属化合物粒子を正極活物質とする正極を作製する第4の工程と、負極と前記第4の工程で得られた正極とをセパレータを介して対向させて電解液を含浸させた素子を形成する第5の工程と、を備えること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の金属化合物粒子を正極活物質に用いることで、リチウムイオン二次電池のレート特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の正極活物質に用いる金属化合物粒子の構造を示す概念図である。
図2】実施例1のコバルト酸リチウム粒子の断面を写した明視野STEM写真である。
図3】実施例1で得られたコバルト酸リチウム粒子をさらに拡大した断面の明視野STEM写真である。
図4】実施例1及び比較例1の差分細孔容積を示した図である。
図5】実施例1と比較例1の放電電流と容量維持率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施する形態について、説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0019】
(リチウムイオン二次電池)
本発明の実施形態について詳細に説明する。リチウムイオン二次電池は、電解液内で正極と負極とをセパレータを介して対向させて成り、正負極のリチウムイオンの吸蔵及び放出の方向に応じて充放電する。正極及び負極は、それぞれ活物質の層を集電体に一体化させて成る。正極活物質及び集電体、並びに負極活物質及び集電体は、各々圧着又はドクターブレード法等を用いてバインダーを介して接合される。正極活物質層は、必要に応じて導電助剤となるカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラファイトなどの導電性カーボンを加えて混練して成型される。
【0020】
(正極)
正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な金属化合物粒子である。図1に示すように、正極活物質は三次元網目構造1を有する。三次元網目構造1は、ナノサイズの一次粒子2が結合して網目状に連なり、ナノサイズの空隙3が存在する。一次粒子2の結合界面には粒界が無く、一方で一次粒子2間に微小の細孔が多数存在する。この正極活物質において、三次元網目構造1は電子パスを形成し、空隙3は電解液の貯蔵地となり、一次粒子2間の細孔はイオンのパスになると考えられ、これらの相乗効果により正極活物質層の内部抵抗が減少するものと考えられる。
【0021】
正極活物質としての金属化合物粒子は、層状岩塩型LiMO、層状LiMnO−LiMO固溶体、及びスピネル型LiM(式中のMは、Mn、Fe、Co、Ni又はこれらの組み合わせを意味する)が挙げられる。これらの具体例としては、LiCoO、LiNiO、LiNi4/5Co1/5、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn1/2、LiFeO、LiMnO、LiMnO−LiCoO、LiMnO−LiNiO、LiMnO−LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMnO−LiNi1/2Mn1/2、LiMnO−LiNi1/2Mn1/2−LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMn、LiMn3/2Ni1/2が挙げられる。
【0022】
正極活物質としての金属化合物粒子は、またイオウ及びLiS、TiS、MoS、FeS、VS、Cr1/21/2などの硫化物、NbSe、VSe、NbSe3などのセレン化物、Cr、Cr、VO、V、V、V13などの酸化物の他、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiVOPO、LiV、LiV、MoV、LiFeSiO、LiMnSiO、LiFePO、LiFe1/2Mn1/2PO、LiMnPO、Li(POなどの複合酸化物が挙げられる。
【0023】
空隙3は、三次元網目構造1の断面において好ましくは7〜50%の範囲の比率で占める。空隙率が7%未満では、電解液と接する面積が少なく、電解液中のイオンの移動に影響を与え、三次元網目構造1による抵抗低減効果が薄れる。また空隙率が50%を超えると、一次粒子2同士の結合が粗くなり三次元網目構造1を形成しづらくなる。
【0024】
例えば金属化合物粒子を窒素ガス吸着測定法にて測定した細孔分布から換算される差分細孔容積においては、20〜40nmの範囲の細孔径における差分細孔容積が0.0005cm/g以上の値を有するものであり、電解液との接する面積が増え、電解液との接する面積が多いほど、正極に用いられた際の放電レート特性が向上する。
【0025】
一次粒子2の平均粒子径は5〜300nmの範囲である。平均粒子径の算出方法は次の通りとする。すなわち、走査電子顕微鏡を用いて一次粒子2を観察し、少なくとも一次粒子が150個以上含まれる画像を撮影し、撮影した一枚の視野(画像)に含まれる一次粒子2の楕円形の像の長径と短径を測定し、当該長径と短径の平均値を各一次粒子2について算出し、各一次粒子2の平均値を加算するとともに、測定した一次粒子2の個数で其の加算値を除算する。この結果が5〜300nmの範囲に収まる。
【0026】
この範囲の一次粒子2が結合して三次元網目構造1を形成すると、金属化合物粒子はナノサイズの細孔を多く獲得し、金属化合物粒子の内部への拡散速度が向上する。また、この金属化合物粒子の細孔を測定したところ、微細な細孔が多く存在する。特に40nm以下の微細な細孔も多く含む。
【0027】
この三次元網目構造1を採る金属化合物粒子には、後述の製造方法に従えば付着カーボンが残存する。付着カーボン量は、金属化合物粒子に対して5重量%未満とすることが好ましい。この範囲とすることで、カーボンの存在に起因するエネルギー密度の低下を抑制できる。特に、付着カーボン量は、金属化合物粒子に対して1重量%未満とすることが好ましい。カーボンを極少量に制限することで、正極内でのカーボンと電解液との反応が抑制され放置特性が向上する。
【0028】
(負極)
負極活物質としては、FeO、Fe、Fe、MnO、MnO、Mn、Mn、CoO、Co、NiO、Ni、TiO、TiO、TiO(B)、CuO、NiO、SnO、SnO、SiO、RuO、WO、WO、WO3、MoO、ZnO等の酸化物、Sn、Si、Al、Zn等の金属、LiVO、LiVO、LiTi12、ScTiO、FeTiOなどの複合酸化物、Li2.6Co0.4N、Ge、Zn、CuNなどの窒化物、YTi、MoS、が挙げられる。なかでも、チタン酸リチウム(LiTi12)が好ましい。
【0029】
また、他の負極活物質としては、炭素材料があげられ、例えば、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素類、ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等のコークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、フェノール樹脂やフラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化した有機高分子化合物焼成体等を用いることができる。
【0030】
(集電体)
集電体は、典型的には、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、チタン、鋼、カーボン等の導電材料である。特に、高い熱伝導性と電子伝導性とを有しているアルミニウム又は銅が好ましい。集電体の形状は、膜状、箔状、板状、網状、エキスパンドメタル状、円筒状等の任意の形状を採用することができる。
【0031】
(バインダー)
集電体と一体化させるためのバインダーとしては、例えばフッ素系ゴム、ジエン系ゴム、スチレン系ゴム等のゴム類、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素ポリマー、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース、その他、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。これらのバインダーは、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。
【0032】
(セパレータ)
セパレータとしては、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂等があげられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。
【0033】
(電解液)
電解液は、リチウムイオン源となるリチウム塩を含有する非水電解液が挙げられる。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(SO、CFSO、LiC(SOCF、およびLiPF(C、またはこれらの混合物である。リチウム塩の濃度は、一般には0.1〜2.5mol/L、好ましくは0.5〜2mol/Lの範囲である。
【0034】
電解質として、リチウム塩に加えて第4級アンモニウムカチオン又は第4級ホスホニウムカチオンを有する第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩を使用することができる。例えば、カチオンとしてテトラエチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、ジエチルジメチルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、メチルエチルピロリジニウム、スピロビピロリジニウム、スピロ−(N,N’)−ビピロリジニウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム等を挙げることができ、アニオンとしては、BF、PF、ClO、AsF、SbF、AlCl、またはRfSO、(RfSO、RfCO(Rfは炭素数1〜8のフルオロアルキル基)等を挙げることができ、これらの塩又は混合物を使用することができる。
【0035】
電解液の溶媒としては、以下に挙げるものが用いられる。なお、これらの溶媒はそれぞれ単独で使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、リン酸エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、ラクトン化合物、鎖状エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン化合物等を挙げることができる。環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−(トリフルオロメチル)−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、好ましくは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートである。
【0036】
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルn−プロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、n−ブチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルn−プロピルカーボネート、エチルイソプロピルカーボネート、n−ブチルエチルカーボネート、ジn−プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、ジn−ブチルカーボネート、フルオロエチルメチルカーボネート、ジフルオロエチルメチルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネートなどが挙げられ、好ましくは、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートである。
【0037】
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチルなどが挙げられる。環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどが挙げられる。鎖状エーテルとしては、ジメトキシエタンなどが挙げられる。ラクトン化合物としては、γ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。 鎖状エステルとしては、メチルプロピオネート、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルホルメートなどが挙げられる。ニトリル化合物としては、アセトニトリルなどが挙げられる。アミド化合物としては、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。スルホン化合物としては、スルホラン、メチルスルホラン、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、イソプロピルスルホンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
(正極活物質の製造方法)
(概略)
三次元網目構造1を有する正極活物質の製造方法を説明する。この正極活物質の製造方法は、以下に限定されるものではないが、次の3工程を経て製造することができる。まず、第1工程として、金属化合物粒子の前駆体とカーボン源とを複合化して第一の複合材料を得る。第1工程に続き第2工程として、第一の複合材料を非酸化雰囲気下で熱処理することによって、カーボン源からカーボンを生成するとともに、カーボンに担持された金属化合物粒子の前駆体を起点に金属化合物粒子を生成し、金属化合物粒子とカーボンとが複合化された第二の複合材料を得る。第2工程に続き第3工程として、第二の複合材料を酸素雰囲気下で熱処理することによって、金属化合物粒子の一次粒子を互いに結合させるとともに、カーボンを除去することで、三次元網目構造1の金属化合物粒子を得る。
【0039】
(第1工程)
金属化合物粒子の前駆体とカーボン源とを複合化して第一の複合材料を得る。金属化合物粒子の前駆体は、熱処理工程によって金属化合物粒子が生成される前の物質を言う。例えば、Mn、Co、Ni、V、Fe、Ti、Cr、Al、Mg、Ga、In、P、Cu、Zn、Nb、Zr、Mo、W、Ta及びReのうちの何れか1種以上の物質を含む金属化合物である。この金属化合物にリチウム源を加えたものを含むものである。
【0040】
金属化合物粒子の材料源としては、粉体であっても溶液に溶けた状態であってもよい。コバルト酸リチウムの場合は、例えば、水酸化リチウム1水和物水酸化リチウム、酢酸リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウムなどのリチウム源と、酢酸コバルト(II)四水和物といった酢酸コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト等のコバルト源を材料源として、金属化合物粒子の前駆体を生成する。
【0041】
リン酸鉄リチウムの場合は、例えば、酢酸鉄(II)、硝酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)等のFe源と、リン酸、リン酸ニ水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のリン酸源とクエン酸、リンゴ酸、マロン酸等のカルボン酸を材料源として、金属化合物粒子の前駆体を生成する。
【0042】
リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)の場合は、例えば、LiOH、LiCO、LiNO、LiOH・HO、LiO等のLi源と、硫酸ニッケル等のNi源と、硫酸コバルト等のCo源と、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等のAl源を材料源として、金属化合物粒子の前駆体を生成する。
【0043】
リチウムマンガン酸化物(LMO)の場合は、例えば、LiOH、LiCO、LiNO、LiOH・HO、LiO等のLi源と、MnCO、MnO、Mn、Mn等のMn源を材料源として、金属化合物粒子の前駆体を生成する。
【0044】
チタン酸リチウムの場合は、例えば、チタンアルコキシドや酸化チタン等のチタン源、酢酸リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウムなどのリチウム源を材料源として、金属化合物粒子の前駆体を生成する。
【0045】
カーボン源は、カーボン自体、若しくは熱処理でカーボンとなりうる材料である。カーボン自体は、例えば紛体であり、種類としては導電性を有する炭素材料であれば特に限定なく使用できる。例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、メソポーラス炭素、気相法炭素繊維等を挙げることができる。なかでも粒子径がナノサイズの炭素材料が好ましい。
【0046】
熱処理でカーボンとなりうる材料としては、有機物で、金属化合物粒子の前駆体の表面に堆積するものであり、後の熱処理工程においてカーボンに転化するものである。有機物としては、多価アルコール(エチレングリコールなど)、ポリマー(ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなど)、糖類(グルコースなど)、アミノ酸(グルタミン酸など)などである。
【0047】
この金属化合物粒子の材料源とカーボン源との複合化の手法としては、メカノケミカル処理、スプレードライ処理又は攪拌処理が挙げられる。何れの複合化手法も、溶媒に、金属化合物粒子の材料源の少なくとも1種とカーボン源とを添加し、溶媒に材料源を溶解させることで溶液を得る。溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが好適に使用できる。2種以上の溶媒を混合して使用しても良い。金属化合物粒子の前駆体反応が加水分解反応である場合には、その材料源は、金属アルコキシドM(OR)xが挙げられる。
【0048】
メカノケミカル処理では、溶液にずり応力と遠心力を加えてカーボン粉体の表面に金属化合物粒子の前駆体を結合させる。旋回する反応器内で溶液にずり応力と遠心力とを印加する処理をする。反応器としては、外筒と内筒の同心円筒からなり、旋回可能な内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器が好適に使用される。上記反応器において、内筒外壁面と外筒内壁面との間隔は、5mm以下であるのが好ましく、2.5mm以下であるのがより好ましい。なお、この薄膜上を生成するために必要な遠心力は1500N(kgms−2)以上、好ましくは70000N(kgms−2)以上である。
【0049】
スプレードライ処理では、溶媒にカーボン粉体を分散させ、その後に金属化合物粒子の材料源を分散させるとよい。分散手法としては、超遠心処理(溶液中で粉体にずり応力と遠心力を加える処理)、ビーズミル、ホモジナイザーなどによってカーボン粉体を溶媒中に高分散させるとよい。スプレードライ処理は、0.1MPa程度の圧力でカーボン粉体が焼失しない温度で処理される。スプレードライ処理によって一次粒子の平均粒子径が5〜300nmの範囲の金属化合物粒子の前駆体が得られる。
【0050】
攪拌処理では、金属化合物粒子の材料源となる粉体は、予め粉砕等を行いナノレベルの微小粒子とすることが好ましい。熱処理でカーボンになりうる材料として、ポリマーを用いる場合は、予めポリマーを添加した溶媒に金属化合物粒子の材料源を添加し、この溶液を攪拌するとよい。ポリマーは、金属化合物粒子の材料源となる粉体の重量を1とした場合に、0.05〜5の範囲となるように調整するとよい。また、微小粒子の平均二次粒子径としては、500nm以下、好ましくは100nm以下とすることで、粒子径の小さな金属化合物粒子を得ることができる。なお、この攪拌処理では、ポリマーが金属化合物粒子の材料源の表面を効率的に覆うことができるため、後述の第2工程での金属化合物粒子の過度の成長を抑制し、ナノサイズの微小粒子を生成しやすいものとなる。
【0051】
(第2工程)
第二の複合材料を得る工程では、前記第一の複合材料を非酸化雰囲気下で熱処理することによって、金属化合物粒子を生成し、該金属化合物粒子とカーボンとが複合化された第二の複合材料を得る。非酸化雰囲気下とするのは、カーボン源の燃失を抑制するためであり、非酸化雰囲気としては不活性雰囲気と飽和水蒸気雰囲気が挙げられる。典型的には、非酸化雰囲気は真空中、窒素もしくはアルゴン雰囲気である。
【0052】
この熱処理によって金属化合物粒子の前駆体が成長し、カーボン源と複合化された状態で金属化合物粒子が生成される。カーボン源として熱処理でカーボンとなりうる材料を用いた場合には、この非酸化雰囲気下での熱処理によって、金属化合物粒子の前駆体の表面上で該材料が炭化されてカーボンが生成され、このカーボンと熱処理によって成長した金属化合物粒子とが複合化された第二の複合材料が生成される。
【0053】
また非酸化雰囲気下での熱処理のため、カーボン源は燃失されにくく金属化合物粒子と複合化した状態として存在し、金属化合物粒子とカーボンとが複合化された第二の複合材料が得られる。第二の複合材料は、カーボン(例えばカーボンナノファイバ:CNF)上に金属化合物粒子(例えばコバルト酸リチウム:LCO)が担持された複合材料であり、CNF上に、LCOがナノサイズの粒子となって分散して存在しているものと考えられる。
【0054】
不活性雰囲気下で熱処理を行う場合は、カーボン源の燃失を防止するためにその温度は、600〜950℃の範囲で、1分〜20分間保持される。この範囲であると良好な金属化合物粒子が得られ、良好な容量、レート特性が得られる。尚、後述の予備加熱処理を行わない場合には同温度範囲で3〜7時間保持されるとよい。また、窒素雰囲気下であると、金属化合物粒子に窒素がドープされて金属化合物粒子の導電性が高まる。非酸化雰囲気下での熱処理として、飽和水蒸気雰囲気下で熱処理を行う場合は、カーボン源の焼失を防止するためにその温度は、110〜300℃の範囲で、1〜8時間保持される。特に金属化合物粒子がコバルト酸リチウムである場合は、熱処理温度が110℃未満であると、コバルト酸リチウムの生成が十分でないため好ましくなく、熱処理温度が300℃を超えると、カーボン源が焼失するとともに、コバルト酸リチウムが凝集するため好ましくない。
【0055】
この第二の複合材料を得る工程で得られた金属化合物粒子の一次粒子の平均粒子径は、5〜300nmの範囲を含むことが好ましい。このようなナノサイズの微小粒子とすることで後述する金属化合物粒子群の空隙率を増加させることができると共に、金属化合物粒子群に存在する微細な孔の数を増やすことができる。また、得られた第二の複合材料は、金属化合物粒子とカーボンとの重量比で95:5〜30:70の範囲が好ましく、このような範囲とすることで、最終的に得られた金属化合物粒子群の空隙率を増加させることができる。なお、このような範囲にするには、予め金属化合物粒子の材料源とカーボン源の混合比を調整しておけばよい。
【0056】
なお、この第二の複合材料を得る工程の前に、第一の複合材料を200〜500℃の温度範囲で、1〜300分間保持する予備加熱処理を施すとよい。この予備加熱処理では非酸化雰囲気下が望ましいが、カーボン源が焼失しない300℃未満であれば、酸素雰囲気下で行っても良い。この予備加熱処理によって得られる金属化合物粒子によっては、第一の複合材料に存在する不純物を除去することができ、また金属化合物粒子の前駆体がカーボン源に均一に付着された状態を得ることができる。また、第一の複合材料に含まれる金属化合物粒子の前駆体の生成を促進させる効果もある。
【0057】
(第3工程)
この金属化合物粒子を得る工程では、第二の複合材料を酸素雰囲気下で熱処理することによって、カーボンを焼失させ、カーボンの部位に空隙を発生させる。また、この熱処理によって金属化合物粒子同士が反応して結合する。これによって、カーボン由来の空隙と、金属化合物粒子同士の結合とが相まって、金属化合物粒子が三次元網目構造となる。
【0058】
カーボンを除去するため、また金属化合物粒子同士を結合させるために、熱処理の温度は、350以上800℃以下、好ましくは400以上600℃以下の範囲で、1〜24時間保持することが好ましい。特に、不活性雰囲気下の場合は、第二の複合材料を得る工程の熱処理温度よりも低い温度に設定することが好ましい。350℃未満の温度は、第二の複合材料に含まれるカーボンの除去が不十分となり、800℃を超える温度では、一次粒子の凝集が進んで空隙が減少する。また、400以上600℃以下の温度範囲であると、一次粒子の平均粒子径が5〜300nmに維持され、この熱処理前の金属化合物粒子の一次粒子の平均粒子径からの粒子成長が抑制される。
【0059】
また、この熱処理温度は、予備加熱工程の温度以上で処理することが好ましい。酸素雰囲気下としては、窒素などとの混合雰囲気でもよく、大気中など酸素が15%以上存在する雰囲気下が好ましい。この酸素雰囲気下での熱処理においては、カーボンの消失によって酸素量が減少するため、熱処理炉内に適宜酸素を供給してもよい。
【実施例】
【0060】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0061】
(実施例1)
まず、ケッチェンブラック20gと、Co(CHCOO)・4HOを202gと、HOを3243gとを混合して、上記反応器の内筒内に導入し、混合液に対して50m/sの回転速度で5分間旋回させた。この第1回目のメカノケミカル処理を終えた混合液に対しては、LiHO・HO(65g含有)水溶液3300gを加えて、50m/sの回転速度で5分間旋回させて、第2回目のメカノケミカル処理を行った。このメカノケミカル処理では、66000N(kgms−2)の遠心力が加わっている。この第1,2回目のメカノケミカル処理は、メカノケミカル処理による金属化合物の前駆体をカーボン源に担持させて第一の複合材料を得る工程に対応する。
【0062】
次に、予備加熱処理として、得られた溶液を大気中などの酸化雰囲気中で250℃まで急速加熱し、1時間の間保持することで焼成を行う。焼成後、オートクレーブ内にHOと、焼成によって作製した前駆体と、Hとを加えて、飽和水蒸気中で250℃で6h保持して水熱合成を行いコバルト酸リチウム(LiCoO)とケッチェンブラックの第二の複合材料100gを得た。このときの圧力は39.2気圧である。この水熱合成は、第一の複合材料を非酸化雰囲気下で熱処理することによって、金属化合物粒子を生成し、該金属化合物粒子とカーボンとが複合化された第二の複合材料を得る工程に対応する。
【0063】
そして、得られた第二の複合材料100gを、500℃で6時間の熱処理を施し、ケッチェンブラックを焼失して除去するとともに、一次粒子を結合させて三次元網目構造のコバルト酸リチウム粒子を得た。
【0064】
次いで、得られた三次元網目構造のコバルト酸リチウム粒子に対して、5重量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥して、正極を得た。
【0065】
また、水酸化リチウム38g、水800gの水溶液に、ナノサイズ(200nm程度)となるように粉砕した酸化チタン(TiO )87gを添加して攪拌して溶液を得る。この溶液をスプレードライ装置に導入し噴霧乾燥して乾燥物を得た。得られた乾燥造粒物を大気中で700℃の温度で3時間熱処理を行いチタン酸リチウム粒子を得た。次いで、得られたチタン酸リチウム粒子に対して、5重量%のポリフッ化ビニリデンと適量のN−メチルピロリドンを加えて十分に混練してスラリーを形成し、アルミニウム箔上に塗布し、乾燥して、負極を得た。
【0066】
さらに、レーヨンを主材料とするセルロースセパレータとして用いて、得られた正極と負極をセパレータの介在の上で対向させ、電解液を含浸させた。電解液の電解質は六フッ化りん酸リチウム(LiPF)とし、電解液の溶媒は1:1の質量比でエチレンカーボネートとジエチレンカーボネートとを混合した混合溶媒とし、電解質のモル濃度が1.0Mとなるように、溶媒に電解質を添加した。そして、得られた二次電池素子をラミネート封止し、二次電池を作製した。
【0067】
(比較例1)
炭酸リチウム(LiCO)を45gと四酸化三コバルト(Co)を85gの粉末同士を乾式で混合した。得られた混合物を水(HO)と共にオートクレーブに投入した。オートクレーブ内において、飽和水蒸気中で250℃で6時間保持した。その結果、コバルト酸リチウム(LiCoO)の粉末を得た。すなわち、比較例1のコバルト酸リチウム粒子は、カーボン未使用で生成され、カーボンの焼失が無い為に三次元網目構造を採らないものである。比較例1では、この三次元網目構造を採らないコバルト酸リチウム粒子を正極活物質に用いた。負極活物質には実施例1において負極活物質として用いたチタン酸リチウムを用いた。その他は、実施例1と同じ条件でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0068】
(正極活物質の観察)
実施例1と比較例1で得られたコバルト酸リチウム粒子の構造を観察した。図2は、実施例1のコバルト酸リチウム粒子の断面を写した明視野STEM写真である。明視野STEM写真において、コバルト酸リチウムの実体部分がグレーで示され、空隙が黒で示される。図2に示すように、実施例1のコバルト酸リチウム粒子の断面には、粒子中心も含め、多くの空隙が存在していることが確認された。
【0069】
また、図3は、実施例1で得られたコバルト酸リチウム粒子をさらに拡大した断面の明視野STEM写真である。明視野STEM写真においてグレーが一次粒子を示している。図3に示すように、実施例1のコバルト酸リチウム粒子には、一次粒子間の粒界がほとんど見えず、一次粒子同士が結合して三次元網目構造を形成していることがわかる。
【0070】
次に、実施例1で得られたコバルト酸リチウム粒子の空隙状態を確認する。図2に示す実施例1のコバルト酸リチウム粒子の断面における空隙の面積を画像処理により分析した。その結果、実施例1で得られたコバルト酸リチウム粒子の空隙率は、9.9%であった。実施例1で得られたコバルト酸リチウム粒子は、高い空隙率を備えていることが分かる。
【0071】
次に、得られた実施例1と比較例1のコバルト酸リチウム粒子の細孔分布を測定した。測定方法としては、窒素ガス吸着測定法を用いる。具体的には、コバルト酸リチウム粒子表面及び、コバルト酸リチウム粒子表面と連通した内部に形成された細孔に窒素ガスを導入し、窒素ガスの吸着量を求める。次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温曲線を得る。この実施例では、高精度ガス/蒸気吸着量測定装置 BELSORP-max-N (日本ベル株式会社製)を用いて測定した。図4は、横軸に細孔径を取り、測定ポイント間の細孔容積の増加分を縦軸に取った差分細孔容積分布である。
【0072】
図4から分かるように、実施例1のコバルト酸リチウム粒子は、比較例1のコバルト酸リチウム粒子群に対して、差分細孔容積が大きいことが分かる。このような細孔径の小さい範囲(100nm)において差分細孔容積が大きいため、コバルト酸リチウム粒子群の内部に電解液が侵入し、電解液と接するコバルト酸リチウム粒子の面積が大きいことが分かる。特に20〜40nmの範囲の細孔径における差分細孔容積が0.0005cm/g以上の値が得られている。
【0073】
以上より、実施例1のコバルト酸リチウム粒子は、一次粒子が連なって結合し、空隙を備える三次元網目構造を有していることが確認された。
【0074】
また、実施例1のコバルト酸リチウム粒子は、TG−DTA測定(示唆熱-熱重量同時測定)によれば、カーボン残存量が1%未満であった。
【0075】
(レート特性の評価)
実施例1と比較例1のリチウムイオン二次電池についてレート特性を評価した。レート特性は、放電電流と容量維持率との関係をいう。図5に、実施例1と比較例1の放電電流と容量維持率との関係を示す。図5において、横軸に放電電流を取り、2mAの放電電流でリチウムイオン二次電池を放電させたときの放電容量を100%として、各放電電流に対する容量の百分率を縦軸に取った。
【0076】
図5に示すように、正極活物質に三次元網目構造を採るコバルト酸リチウム粒子を用いた実施例1は、比較例1と比べて、低放電電流から大放電電流に至るまで放電容量が高く保たれていることがわかる。すなわち、正極活物質に三次元網目構造を採る金属化合物粒子を用いると、リチウムイオン二次電池のレート特性が向上することが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5