特許第6874366号(P6874366)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874366
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】シリコーン組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20210510BHJP
   C08L 83/06 20060101ALI20210510BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20210510BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20210510BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/06
   C08L83/05
   C08K3/013
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-254833(P2016-254833)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2018-104615(P2018-104615A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 展明
(72)【発明者】
【氏名】坂本 晶
(72)【発明者】
【氏名】後藤 尚美
(72)【発明者】
【氏名】石井 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】竹内 弘明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕士
(72)【発明者】
【氏名】三好 新二
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−102283(JP,A)
【文献】 特開2014−218564(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/140020(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)25℃における粘度が1.0〜100Pa・sであり、珪素原子と結合するアルケニル基を1分子中少なくとも分子鎖両末端に有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:1〜100質量部、
【化1】
(式(1)中、R1は、互いに独立して炭素原子数1〜10の一価炭化水素基を表し、R2は、互いに独立して、アルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基またはアシル基を表し、nは、2〜100の整数を表し、aは、1〜3の整数を表す。)
(C)下記一般式(2)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
【化2】
(式(2)中、pおよびqは、10≦p+q≦100、かつ、0.01≦p/(p+q)≦0.5を満たす正の整数を表し、R3は、互いに独立して炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。)
(D)下記一般式(3)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
【化3】
(式(3)中、R4は、互いに独立して炭素原子数1〜6のアルキル基を表し、mは、5〜1,000の整数を表す。)
(E)平均粒径0.1〜20μmの充填材:200〜1,000質量部、
(F)白金族金属触媒:0.01〜1.0質量部、および
(G)反応制御剤:0.01〜1.0質量部
を含有し、
前記(C)成分および(D)成分の配合量が、
[(C)成分および(D)成分のSi−H基の合計個数]/[(A)成分および(B)成分のアルケニル基の合計個数]が0.6〜1.5の範囲、かつ、[(D)成分のSi−H基の個数]/[(C)成分のSi−H基の個数]が1〜10の範囲を満たす量であることを特徴とするシリコーン組成物。
【請求項2】
請求項1記載のシリコーン組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン組成物およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイラタント流体は、液体と粒子との混合物からなり、ゆっくりとした変形に対しては流体のように振る舞い、急激な変形を加えると固体のように振る舞う性質を持つ。この性質は産業上様々な分野で利用されている(特許文献1〜4)。
【0003】
特に、近年では燃料電池車に搭載されている燃料電池セルの積層体を保護する目的での使用が提案されている(特許文献5)。
このような燃料電池では、セルが撓む時に生じるようなゆっくりとした変形にはダイラタント流体が追随してセルの変形や破損が抑制される一方、軽衝突のような大きな変形が加わった時にはダイラタント流体が固体として振る舞うことでセルの積層位置ズレが抑制できる。
しかし、特許文献5の燃料電池では、ダイラタント流体が袋状部材に収容されているため、袋が破損した際にダイラタント流体が漏れ出すという問題があった。
【0004】
この点、ゴムのような固体でダイラタント性を発現させることができれば、上記特許文献5の課題は解決できるが、従来の架橋させたゴムでは、歪み速度が速い場合の貯蔵弾性率が必ずしも高くないことから、充填剤の配合量を増加させて、歪み速度が速い場合の貯蔵弾性率を高くする必要があった。
しかし、充填剤の高充填は硬化前の組成物の粘度上昇を招き、取扱い性が悪化してしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3867898号公報
【特許文献2】特許第4915725号公報
【特許文献3】特許第5177755号公報
【特許文献4】特開2010−24420号公報
【特許文献5】特許第5834059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みなされたもので、硬化前は、粘度が低く成型性が良好であるとともに、歪み速度が遅い時の貯蔵弾性率が低く、歪み速度が速い時の貯蔵弾性率が高くなるようなダイラタント性を示す硬化物を与える組成物およびその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、充填材を含有した付加反応硬化型シリコーン組成物において、片末端がアルコキシシリル基等で封鎖されたオルガノポリシロキサン成分、側鎖にSi−H基を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン成分、および両末端にSi−H基を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン成分を併用することで、硬化前においては充填剤を含有していても低粘度で扱い易く、硬化させた場合に、歪み速度が遅い低周波数領域(0.1Hz)では低い貯蔵弾性率を示し、歪み速度が速い高周波数領域(500Hz)では高い貯蔵弾性率を示す硬化物を与えるシリコーン組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. (A)25℃における粘度が1.0〜100Pa・sであり、珪素原子と結合するアルケニル基を1分子中に少なくとも1個有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:1〜100質量部、
【化1】
(式(1)中、R1は、互いに独立して炭素原子数1〜10の一価炭化水素基を表し、R2は、互いに独立して、アルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基またはアシル基を表し、nは、2〜100の整数を表し、aは、1〜3の整数を表す。)
(C)下記一般式(2)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
【化2】
(式(2)中、pおよびqは、10≦p+q≦100、かつ、0.01≦p/(p+q)≦0.5を満たす正の整数を表し、R3は、互いに独立して炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。)
(D)下記一般式(3)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
【化3】
(式(3)中、R4は、互いに独立して炭素原子数1〜6のアルキル基を表し、mは、5〜1,000の整数を表す。)
(E)平均粒径0.1〜20μmの充填材:200〜1,000質量部、
(F)白金族金属触媒:0.01〜1.0質量部、および
(G)反応制御剤:0.01〜1.0質量部
を含有し、
前記(C)成分および(D)成分の配合量が、
[(C)成分および(D)成分のSi−H基の合計個数]/[(A)成分および(B)成分のアルケニル基の合計個数]が0.6〜1.5の範囲、かつ、[(D)成分のSi−H基の個数]/[(C)成分のSi−H基の個数]が1〜10の範囲を満たす量であることを特徴とするシリコーン組成物、
2. 1のシリコーン組成物の硬化物
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硬化前の粘度が低く成型性が良好であり、硬化後に流出せず、歪み速度が遅い場合の貯蔵弾性率は低く、歪み速度が速い場合の貯蔵弾性率は高くなるような硬化物を与えるシリコーン組成物およびその硬化物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係るシリコーン組成物は、上述のとおり、(A)〜(G)成分を含む。以下、各成分について詳述する。
【0011】
(1)(A)成分
(A)成分は、25℃における粘度が1.0〜100Pa・s、好ましくは2.0〜10Pa・sであり、珪素原子と結合するアルケニル基を1分子中に少なくとも1個有するオルガノポリシロキサンである。
本発明において、上記粘度が1.0Pa・s未満であると、得られる組成物のダイラタント特性が悪くなり、100Pa・sを超えると、得られる組成物の流動性が悪くなる。なお、ここでいう粘度とは、回転粘度計による測定値(以下、同様)である。
【0012】
このようなオルガノポリシロキサンは、上記粘度とアルケニル基含有量を満たしていれば、特に限定されず、公知のオルガノポリシロキサンを使用することができる。その構造も特に限定されず、直鎖状でも分岐状でもよく、また異なる粘度を有する2種以上のオルガノポリシロキサンの混合物でもよい。
【0013】
珪素原子と結合するアルケニル基は、炭素原子数2〜10、好ましくは2〜8であり、その具体例としては、ビニル、アリル、1−ブテニル、1−ヘキセニル基等が挙げられ、これらの中でも、合成のし易さ、コストの面からビニル基が好ましい。
なお、アルケニル基は、オルガノポリシロキサンの分子鎖の末端、途中のいずれに存在してもよいが、柔軟性の面では両末端にのみ存在することが好ましい。
【0014】
(A)成分のオルガノポリシロキサンにおいて、珪素原子と結合するアルケニル基以外の有機基としては、炭素原子数1〜20、好ましくは1〜10の一価炭化水素基が挙げられる。
このような一価炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ヘキシル、n−ドデシル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基;2−フェニルエチル、2−フェニルプロピル基等のアラルキル基や、これらの炭化水素基の水素原子の一部または全部が、塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子で置換された、フロロメチル、ブロモエチル、クロロメチル、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換一価炭化水素基などが挙げられる。
これらの中でも、合成のし易さ、コストの面から、上記有機基の90モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0015】
以上のことから、(A)成分としては、両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖されたオルガノポリシロキサンが好ましく、特に、両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンがより好ましい。
【0016】
(2)(B)成分
(B)成分は、下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンであり、組成物の粘度を下げ、流動性を付与する役割を有する。
【0017】
【化4】
【0018】
式(1)において、R1は、互いに独立して、非置換または置換の、炭素原子数1〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3の一価炭化水素基を表し、この一価炭化水素基としては、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基等が挙げられる。
直鎖状アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ヘキシル、n−オクチル基等が挙げられる。
分岐鎖状アルキル基の具体例としては、イソプロピル、イソブチル、tert−ブチル、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。
環状アルキル基の具体例としては、シクロペンチル、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0019】
アルケニル基の具体例としては、ビニル、アリル基等が挙げられる。
アリール基の具体例としては、フェニル、トリル基等が挙げられる。
アラルキル基の具体例としては、2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基等が挙げられる。
ハロゲン化アルキル基の具体例としては、3,3,3−トリフルオロプロピル、2−(ノナフルオロブチル)エチル、2−(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基等が挙げられる。
シアノアルキル基の具体例としては、シアノエチル基等が挙げられる。
これらの中でも、R1としては、メチル基、フェニル基、ビニル基が好ましい。
【0020】
上記R2は、互いに独立して、アルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基またはアシル基を表し、これらの炭素原子数は、特に限定されるものではないが、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6、より一層好ましくは1〜3である。
アルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状アルキル基のいずれでもよく、これらの具体例としては、上記R1で例示した基と同様のものが挙げられる。
アルコキシアルキル基の具体例としては、メトキシエチル、メトキシプロピル基等が挙げられる。
アルケニル基の具体例としては、上記R1で例示した基と同様のものが挙げられる。
アシル基の具体例としては、アセチル、オクタノイル基等が挙げられる。
これらの中でも、R2としては、アルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0021】
また、上記nは、2〜100の整数を表すが、5〜80の整数が好ましい。
aは、1〜3の整数を表すが、3が好ましい。
【0022】
(B)成分の25℃における粘度は、特に限定されるものではないが、0.005〜10Pa・sが好ましく、0.005〜1Pa・sがより好ましい。上記粘度が、0.005Pa・s未満であると、組成物からオイルブリードが発生し易くなり、経時にて接着力が低下するおそれがあり、一方、10Pa・sを超えると、組成物の粘度が高くなり、流動性が乏しくなるおそれがある。
【0023】
本発明で用いられる(B)成分の好適な具体例としては、下記式で示されるオルガノポリシロキサンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
【化5】
【0025】
なお、本発明の組成物において、(B)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
また、(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して1〜100質量部、好ましくは1〜50質量部である。1質量部未満であると、低粘度の組成物が得られず、100質量部を超えると、組成物が硬化し難くなる。
【0026】
(3)(C)成分
(C)成分は、下記一般式(2)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、液状の組成物を硬化させる役割を持つ。
【0027】
【化6】
【0028】
式(2)において、pおよびqは正の整数で、p+qは10〜100の整数、好ましくは20〜60の整数である。p+qの値が10未満であると、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが揮発成分となりやすいため、電子部品に用いる場合に接点不良等を引き起こすおそれがあり、p+qの値が100を超えると、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの粘度が高くなり扱いが難しくなる。
【0029】
また、p/(p+q)は、0.01〜0.5の範囲であるが、好ましくは0.05〜0.4である。この値が0.01より小さいと、架橋による組成物の網状化ができず、0.5を超えると、初期硬化後の未反応Si−H基残存量が多くなり、水分などにより余剰の架橋反応が経時で進行することで組成物の柔軟性が失われる。
【0030】
上記R3は、互いに独立して炭素原子数1〜6のアルキル基を表し、その構造としては、直鎖状、分岐鎖状、環状アルキル基のいずれでもよい。
上記アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル基、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル基等が挙げられ、これらのうち、合成のし易さ、コストの面からR3の90モル%以上はメチル基であることが好ましい。
【0031】
本発明で用いられる(C)成分の好適な具体例としては、下記式で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
【化7】
【0033】
なお、本発明の組成物において、(C)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
(4)(D)成分
(D)成分は、下記一般式(3)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、組成物の硬化後に低硬度を発現させダイラタント性を高める役割を有する。
【0035】
【化8】
【0036】
式(3)中、R4は、互いに独立して炭素原子数1〜6のアルキル基を表し、その具体例としては、上記R3で例示した基と同様のものが挙げられるが、この場合も、合成のし易さ、コストの面から90%以上がメチル基であることが好ましい。
また、mは、5〜1,000の整数を表すが、好ましくは10〜100の整数である。mの値が5未満であると、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが揮発成分となりやすいため、電子部品に用いる場合に接点不良等を引き起こすおそれがあり、mの値が1,000を超えると、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの粘度が高くなり扱いが難しくなる。
【0037】
本発明で用いられる(D)成分の好適な具体例としては、下記式で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
【化9】
【0039】
なお、本発明の組成物において、(D)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0040】
本発明の組成物において、上記(C)成分および(D)成分の配合量は、(A)成分および(B)成分のアルケニル基の合計個数に対する(C)成分および(D)成分のSi−H基の合計個数の比、すなわち、[(C)成分および(D)成分のSi−H基の合計個数]/[(A)成分および(B)成分のアルケニル基の合計個数]が0.6〜1.5の範囲にある値、好ましくは0.7〜1.4の範囲にある値となる量である。
このアルケニル基の合計個数に対するSi−H基の合計個数の比が0.6未満の場合、硬化物が十分な網状構造をとれないため、硬化後に必要な硬さが得られず、1.5を超える場合は硬度が高くなり過ぎる。
【0041】
さらに、(C)成分および(D)成分は、[(D)成分のSi−H基の個数]/[(C)成分のSi−H基の個数]が1〜10の範囲、好ましくは2〜9の範囲となる量で配合される。この(C)成分のSi−H基の個数に対する(D)成分のSi−H基の個数の比率が1未満の場合はダイラタント特性が不足し、10を超える場合は硬化が不十分となる。
【0042】
(5)(E)成分
(E)成分は、充填材であり、組成物(硬化物)にダイラタント性を付与する役割を有する。
充填材は、従来公知のものを使用することができ、その具体例としては、アルミニウム粉末、銅粉末、銀粉末、ニッケル粉末、金粉末、アルミナ粉末、酸化亜鉛粉末、酸化マグネシム粉末、窒化アルミニム粉末、窒化ホウ素粉末、窒化珪素粉末、ダイヤモンド粉末、カーボン粉末、インジウム、ガリウム等が挙げられる。
これらの充填材は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
充填材の平均粒径は0.1〜20μmであるが、好ましくは0.5〜15μmである。平均粒径が0.1μm未満であると、粒子同士が凝集し易くなり流動性に乏しいものとなり、平均粒径が20μmを超えると、ダイラタント特性が低下する。
また、充填材の形状としては、特に限定されるものではないが、球状が好ましい。
なお、本発明における平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における体積平均値D50(即ち、累積体積が50%になるときの粒子径またはメジアン径)として測定した値である。
【0044】
(E)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、200〜1,000質量部であるが、好ましくは300〜800質量部である。(E)成分の配合量が200質量部未満の場合、硬化物に所望のダイラタント特性を付与することができず、1,000質量部を超えると、組成物が液体状にならず、流動性に乏しいものとなる。
【0045】
(6)(F)成分
(F)成分は、白金族金属触媒である。白金族金属触媒としては、(A)成分等のアルケニル基と(C)成分および(D)成分のSi−H基との間の付加反応を促進するものであればよく、従来公知のものから適宜選択して使用することができる。
触媒の具体例としては、白金(白金黒を含む。)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中のnは0〜6の整数であり、好ましくは0または6である。)等の塩化白金、塩化白金酸および塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸;塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス;白金黒、パラジウム等の白金族金属を、アルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させた触媒;ロジウム−オレフィンコンプレックス;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸または塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとのコンプレックスなどが挙げられ、これらの白金族金属系触媒は、単独で使用しても2種以上組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、白金および白金化合物から選ばれる触媒が好ましい。
【0046】
(F)成分の配合量は、触媒としての有効量、すなわち、(A)成分等と、(C)成分および(D)成分との反応を進行できる量であればよく、希望する硬化速度に応じて適宜調整すればよい。
特に、(A)成分の質量に対し、白金族金属原子に換算した質量基準で0.1〜7,000ppm、好ましくは1〜6,000ppmとなる量がよい。(F)成分の配合量が、白金族金属原子に換算した質量基準で0.1ppm未満の場合、触媒としての効果が発揮されないことがあり、また、7,000ppmを超えて用いても特に硬化速度の向上が期待できないことがある。
【0047】
(7)(G)成分
(G)成分は、反応制御剤である。反応制御剤は、室温での硬化反応の進行を抑え、組成物のシェルフライフ、ポットライフを延長させるために配合される。
反応制御剤としては、(F)成分の触媒活性を抑制できるものであればよく、公知の反応制御剤から適宜選択して使用すればよい。
反応制御剤の具体例としては、1−エチニル−1−シクロヘキサノール,3−ブチン−1−オール等の水酸基を有するアセチレン化合物、各種窒素化合物、有機りん化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物などが挙げられ、これらの中でも、金属への腐食性の無い水酸基を有するアセチレン化合物が好ましい。
なお、反応制御剤は、シリコーン樹脂への分散性を良くするためにトルエン、キシレン、イソプロピルアルコール等の有機溶剤で希釈して使用してもよい。
【0048】
(G)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、0.01〜1.0質量部であるが、好ましくは0.05〜0.9質量部である。反応制御剤の配合量が0.01質量部未満の場合、組成物の充分なシェルフライフ、ポットライフが得られないことがあり、反応制御剤の配合量が1.0質量部を超えると、組成物の硬化性が低下することがある。
【0049】
(8)その他の成分
本発明のシリコーン組成物には、上記(A)〜(G)成分以外に、公知の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。
このような添加剤の具体例としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、炭酸カルシウム等の補強性、非補強性充填材、チキソトロピー向上剤としてのポリエーテル、顔料,染料等の着色剤などが挙げられる。
【0050】
以上説明した各成分を含む本発明のシリコーン組成物の製造方法は、特に制限されるものでなく、従来公知の方法に従えばよい。
すなわち、本発明の組成物は、上述した(A)〜(G)成分、および必要に応じて用いられるその他の成分を、所望の順序で混合して得ることができる。
より具体的には、1液タイプの組成物は、例えば、プラネタリミキサーに、(A)成分、(B)成分、および(E)成分を入れ、所定温度(例えば25℃)で所定時間(例えば1時間)減圧混合し、得られた混合物を冷却後、さらに(G)成分、(F)成分、(C)成分、および(D)成分を加え、所定温度(例えば25℃)で所定時間(例えば1時間)混合して得ることができる。
【0051】
一方、2液タイプの組成物は、(A)成分、(C)成分、(D)成分、(F)成分の組み合わせのみ共存させなければ、任意の組み合わせで構成することができる。
例えば、ゲートミキサーに、(A)成分、(B)成分、および(E)成分を入れ、所定温度(例えば25℃)で所定時間(例えば1時間)減圧混合し、冷却後、(F)成分を加え所定温度(例えば25℃)にて所定時間(例えば30分)混合して得られた組成物をA材とし、一方、ゲートミキサーに、(A)成分、(B)成分、および(E)成分を入れ、所定温度(例えば25℃)で所定時間(例えば1時間)減圧混合し、冷却後、(G)成分を加え所定温度(例えば25℃)で所定時間(例えば30分)混合した後、(C)成分および(D)成分を加え、所定温度(例えば25℃)で所定時間(例えば30分)混合し、得られた組成物をB材とすることで、A材、B材の2液タイプの組成物を得ることができる。
なお、本発明のシリコーン組成物は、1液タイプであれば冷蔵または冷凍して長期保存することができ、2液タイプであれば、常温で長期保存することができる。
【0052】
本発明のシリコーン組成物の粘度は、特に限定されるものではないが、25℃で1〜400Pa・sが好ましく、10〜300Pa・sがより好ましい。25℃での粘度が1Pa・s未満の場合、充填材が沈降しやすくなることがあり、400Pa・sを超えると、流動性に乏しくなる結果、成型性が悪くなることがある。
【0053】
本発明の硬化物は、上述した本発明のシリコーン組成物を硬化させて得られる。
その際、硬化条件は特に制限されるものではなく、従来公知のシリコーンゲルと同様の条件とすることができる。
具体的には、シリコーン組成物は、流し込まれた後、設置部品から生じた熱で自然に硬化させても、積極的に加熱して硬化させてもよい。加熱して硬化させる場合の条件は、好ましくは60〜180℃、より好ましくは80〜150℃の温度にて、好ましくは0.1〜3時間、より好ましくは0.5〜2時間である。
【0054】
こうして得られるシリコーン組成物の硬化物は、通常、JIS K 6253に規定されているタイプAデュロメータにて測定した硬度50以下であれば、ゆっくりとした変形に対して柔らかく振る舞い、接触する部品に与えるストレスを可及的に軽減可能な好適なものとなる。
上記硬化物において、歪み速度が高周波数(500Hz)の場合の貯蔵弾性率は、好ましくは0.5〜8.0MPaであり、より好ましくは1.0〜7.0MPaである。
また、歪み速度が低周波数(0.1Hz)の場合の貯蔵弾性率は、好ましくは8.1〜100MPaであり、より好ましくは8.1〜80MPaである。上記範囲であれば良好なダイラタント特性を有することを示している。
さらに、上記硬化物の[歪み速度が高周波数(500Hz)の場合の貯蔵弾性率]/[歪み速度が低周波数(0.1Hz)の場合の貯蔵弾性率]は、好ましくは3.0以上であり、より好ましくは3.5以上である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
使用した各成分を以下に示す。
(A)成分
・A−1:両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が5.0Pa・sのジメチルポリシロキサン
・A−2:両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が10.0Pa・sのジメチルポリシロキサン
・A−3(比較用):両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が0.4Pa・sのジメチルポリシロキサン
【0057】
(B)成分
・B−1:下記式で示されるオルガノポリシロキサン
【化10】
【0058】
(C)成分
・C−1:下記式で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化11】
【0059】
(D)成分
・D−1:下記式で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化12】
【0060】
(E)成分
・E−1:平均粒径4.0μm、比表面積0.50m2/gの球状アルミナ粉末
・E−2:平均粒径12.0μm、比表面積1.2m2/gのアルミナ粉末(昭和電工(株)製AS−40)
(F)成分
・F−1:白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン(上記A−1)溶液(白金原子として1質量%含有)
(G)成分
・G−1:1−エチニル−1−シクロヘキサノール
【0061】
[実施例1〜4および比較例1〜3]シリコーン組成物の調製
5Lプラネタリミキサー(井上製作所(株)製)に、(A)成分、(B)成分、および(E)成分を入れた後に、25℃で2時間減圧混合した。次に、(F)成分を加え、25℃にて30分間混合した。その後、(G)成分を加え、均一になるように25℃にて30分間混合した。最後に、(C)成分および(D)成分を加え、均一になるように25℃にて30分間混合し、シリコーン組成物を調製した。各成分の配合量を表1に示す。
【0062】
上記で得られた各シリコーン組成物を用い、以下の物性を測定・評価した。結果を併せて表1に示す。
〔粘度〕
各シリコーン組成物の絶対粘度は25℃における値を示し、回転粘度計((株)マルコム製、PC−1T)を用いて測定した。
〔硬度〕
各シリコーン組成物を、120℃で10分間プレス硬化し、さらに120℃のオーブン中で50分間加熱した。得られた厚さ2.0mmのシリコーンシートを3枚重ね、JIS K 6253に規定されるタイプAデュロメータにより硬さを測定した。
〔ダイラタント特性〕
(株)ユービーエムのRheogel−E4000を用いて測定した。測定法は、動的粘弾性率測定(正弦波)、測定モードは周波数依存性、チャックは引っ張り、波形は正弦波とし、歪み制御は25μmとした。サンプルサイズは幅5.0mm、厚み2.2mm、長さ30mmとした。歪み速度が高周波数(500Hz)のときの貯蔵弾性率、および歪み速度が低周波数(0.1Hz)のとき貯蔵弾性率からダイラタント特性を評価した。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示されるように、実施例1〜4で得られたシリコーン組成物は、粘度が低く成型性が良好であるとともに、得られた硬化物は、歪み速度が高周波数(500Hz)のときの貯蔵弾性率が8.5〜19.0と比較的高く、かつ、歪み速度が低周波数(0.1Hz)のとき貯蔵弾性率が1.0〜5.0の範囲と低く、良好なダイラタント特性を有していることがわかる。