(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(モールドの製造方法)
本発明のモールドの製造方法は、下記工程(a)〜工程(f)を順次含み、下記工程(a)〜工程(f)における処理液を同種の液体とする。
工程(a):処理液中にアルミニウム基材を浸漬する工程。
工程(b):アルミニウム基材を陽極酸化して細孔を有する酸化皮膜を形成する第1の酸化皮膜形成工程。
工程(c):酸化皮膜の一部を除去する酸化皮膜除去工程。
工程(d):アルミニウム基材を定電圧で陽極酸化して細孔を有する酸化皮膜を形成する第2の酸化皮膜形成工程。
工程(e):酸化皮膜の一部を除去して細孔の孔径を拡大処理する孔径拡大処理工程。
工程(f):前記工程(d)と前記工程(e)とを交互に繰り返す工程。
【0013】
(処理液)
処理液は、工程(a)〜工程(f)の各工程の目的を達成するものであれば限定されない。処理液は、工程(a)〜工程(f)の各工程の目的を達成することから、複数の酸が好ましく、酸化皮膜の形成に寄与する酸(以下、「第1の酸」ということがある)と、酸化皮膜を溶解、即ち、酸化皮膜に形成された細孔を拡大するエッチングに有用な酸(以下、「第2の酸」ということがある)とを組み合わせたものが好ましい。
【0014】
工程(a)及び工程(b)における処理液の目的は、陽極酸化により細孔を有する酸化皮膜を形成することである。
工程(c)における処理液の目的は、酸化皮膜の一部を除去することである。
工程(d)における処理液の目的は、陽極酸化により細孔を有する酸化皮膜を形成することである。
工程(e)における処理液の目的は、酸化皮膜の一部を除去し、酸化皮膜に形成された細孔を拡大することである。
工程(f)における処理液の目的は、工程(d)と工程(e)と同様である。
【0015】
酸としては、例えば、硫酸、リン酸、シュウ酸、マロン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸等が挙げられる。
第1の酸としては、例えば、シュウ酸、硫酸等が挙げられる。
第2の酸としては、例えば、リン酸等が挙げられる。
【0016】
複数の酸は、アルミニウム基材の表面に規則性の高い細孔が形成されやすく、細孔の形状の制御が容易で、後述する第2の凹部を形成することができ、クロムフリーとすることができることから、シュウ酸とリン酸の組み合わせが好ましい。
【0017】
複数の酸の組成は、第1の酸と第2の酸の種類を決めた後に、陽極酸化時(工程(b)、工程(d)、工程(f))の温度に応じてそれぞれの酸の濃度を決めることが好ましい。
複数の酸の組成と温度は、陽極酸化時の細孔の深化とエッチング時の細孔径の拡大速度に影響を与える。第2の酸の濃度を高くしたり、処理液の温度を高くしたりすると、エッチング時の細孔径の拡大速度が速くなり、短時間で細孔を拡大することができる。一方、細孔径の拡大速度が速くなる分、細孔径の制御が困難となる。したがって、アルミニウム基材の表面に、所望の形状、所望の細孔径を有する細孔を形成させるためには、複数の酸の組成と温度を制御することが重要である。
【0018】
第1の酸がシュウ酸であり、第2の酸がリン酸であり、陽極酸化時の処理液の温度が4℃以上20℃未満の場合、処理液中のシュウ酸の濃度は、0.05mol/l〜1mol/lが好ましく、0.2mol/l〜0.7mol/lがより好ましい。処理液中のシュウ酸の濃度が0.05mol/l以上であると、安定して電流が流れ、安定して細孔を形成することができる。また、処理液中のシュウ酸の濃度が1mol/l以下であると、電流値が高くなり過ぎず、酸化皮膜の表面が粗くなることを抑制することができる。
第1の酸がシュウ酸であり、第2の酸がリン酸であり、陽極酸化時の処理液の温度が4℃以上20℃未満の場合、処理液中のリン酸の濃度は、0.05mol/l〜3mol/lが好ましく、0.1mol/l〜2mol/lがより好ましい。処理液中のリン酸の濃度が0.05mol/l以上であると、酸化皮膜の溶解が十分速く、モールドの生産性に優れる。また、処理液中のリン酸の濃度が3mol/l以下であると、酸化皮膜の除去速度と細孔径の拡大速度とを制御しやすい。
【0019】
第1の酸がシュウ酸であり、第2の酸がリン酸であり、陽極酸化時の処理液の温度が20℃以上35℃未満の場合、処理液中のシュウ酸の濃度は、0.05mol/l〜1mol/lが好ましく、0.1mol/l〜0.5mol/lがより好ましい。処理液中のシュウ酸の濃度が0.05mol/l以上であると、安定して電流が流れ、安定して細孔を形成することができる。また、処理液中のシュウ酸の濃度が1mol/l以下であると、電流値が高くなり過ぎず、酸化皮膜の表面が粗くなることを抑制することができる。
第1の酸がシュウ酸であり、第2の酸がリン酸であり、陽極酸化時の処理液の温度が20℃以上35℃未満の場合、処理液中のリン酸の濃度は、0.02mol/l〜2.5mol/lが好ましく、0.05mol/l〜1.5mol/lがより好ましい。処理液中のリン酸の濃度が0.02mol/l以上であると、酸化皮膜の溶解が十分速く、モールドの生産性に優れる。また、処理液中のリン酸の濃度が2.5mol/l以下であると、酸化皮膜の除去速度と細孔径の拡大速度とを制御しやすい。
【0020】
第1の酸が硫酸であり、第2の酸がリン酸であり、陽極酸化時の処理液の温度が30℃以下の場合、処理液中の硫酸の濃度は、0.05mol/l〜0.7mol/lが好ましい。処理液中の硫酸の濃度が0.05mol/l以上であると、安定して電流が流れ、安定して細孔を形成することができる。また、処理液中の硫酸の濃度が0.7mol/l以下であると、電流値が高くなり過ぎず、定電圧を維持することができる。
第1の酸が硫酸であり、第2の酸がリン酸であり、陽極酸化時の処理液の温度が30℃以下の場合、処理液中のリン酸の濃度は、0.02mol/l〜3mol/lが好ましい。処理液中のリン酸の濃度が0.02mol/l以上であると、酸化皮膜の溶解が十分速く、モールドの生産性に優れる。また、処理液中のリン酸の濃度が3mol/l以下であると、酸化皮膜の除去速度と細孔径の拡大速度とを制御しやすい。
【0021】
第1の酸と第2の酸との混合比率は、アルミニウム基材の表面に規則性の高い細孔が形成されやすく、細孔の形状の制御が容易であることから、0.5:99.5〜90:10(質量比)が好ましく、0.7:99.3〜80:20(質量比)がより好ましい。
【0022】
工程(a)〜工程(f)の各工程で処理液として同種の液体を用いることで、アルミニウム基材の表面に酸化皮膜を形成する陽極酸化工程、酸化皮膜の一部を除去する酸化皮膜除去工程、酸化皮膜に形成された細孔を拡大するエッチング工程のすべて工程を、1つの反応槽中で行うことができるため、製造設備が簡略化されると共に、モールドの生産性に優れる。
ここで、同種の液体を用いるとは、例えば、シュウ酸とリン酸とを混合したものを処理液として用いる場合、工程(a)〜工程(f)のいずれの工程においても、シュウ酸とリン酸とを混合したものを処理液として用いることをいう。
【0023】
(工程(a))
工程(a)は、処理液中にアルミニウム基材を浸漬する工程である。
【0024】
アルミニウム基材の形状としては、例えば、ロール状、円管状、平板状、シート状等が挙げられる。これらのアルミニウム基材の形状の中でも、微細凹凸構造を表面に有する物品の生産性に優れることから、ロール状、円管状が好ましく、ロール状がより好ましい。
【0025】
アルミニウム基材は、表面を平滑にするために、研磨されることが好ましい。
研磨方法としては、例えば、機械研磨、化学研磨、化学機械研磨、羽布研磨、電解研磨等が挙げられる。これらの研磨方法は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの研磨方法の中でも、加工後の平滑性に優れることから、機械研磨、化学機械研磨が好ましく、化学機械研磨がより好ましい。
【0026】
アルミニウム基材は、所定の形状に加工する際に用いた油が付着していることがあるため、陽極酸化の前に予め脱脂処理されることが好ましい。
【0027】
アルミニウム基材のアルミニウムの純度は、アルミニウム基材100質量%中、97質量%〜99.9質量%が好ましく、99.5質量%〜99.9質量%がより好ましい。アルミニウムの純度が97質量%以上であると、陽極酸化した際に不純物の偏析により可視光を散乱する大きさの微細凹凸構造が形成されることを抑制し、陽極酸化で得られる細孔の規則性が低下することを抑制することができる。また、アルミニウムの純度が99.9質量%以下であると、アルミニウム基材が柔らか過ぎることなく、加工性に優れる。
【0028】
アルミニウム基材の強度を高め、加工性を向上させるため、アルミニウム基材中に微量のマグネシウムを含有させることが好ましい。アルミニウム基材のマグネシウムの純度は、アルミニウム基材100質量%中、0.1質量%〜3質量%が好ましく、0.1質量%〜0.5質量%がより好ましい。
【0029】
(工程(b))
工程(b)は、アルミニウム基材を陽極酸化して細孔を有する酸化皮膜を形成する第1の酸化皮膜形成工程である。即ち、工程(b)は、処理液中でアルミニウム基材の陽極酸化を行う工程である。アルミニウム基材の表面の一部又は全部を処理液に浸漬して陽極酸化を行うことによって、処理液に浸漬した部分に酸化皮膜を形成することができる。
【0030】
工程(b)におけるアルミニウム基材の表面の酸化皮膜の厚さは、後述する工程(c)における酸化皮膜の除去時に、アルミニウム基材の表面の機械加工の痕は十分に除かれ、結晶粒界の段差が視認できるほど大きくなく、機械加工由来のマクロな凹凸が成形体の表面へ転写するのを回避できることから、0.5μm〜10μmが好ましい。
酸化皮膜の厚さは、電解放出型走査電子顕微鏡等で観察することができる。
【0031】
工程(b)におけるアルミニウム基材の表面の酸化皮膜の厚さは、陽極酸化にて消費される合計の電気量に比例する。合計の電気量や電圧ごとに消費される電気量の比を調整することで、酸化皮膜の厚さと初期陽極酸化で形成される酸化皮膜の厚さの比を制御することができる。
【0032】
工程(b)におけるアルミニウム基材に印加する電圧は、30V〜180Vが好ましく、40V〜100Vがより好ましい。工程(b)におけるアルミニウム基材に印加する電圧が40V以上であると、細孔の間隔が100nm以上の酸化皮膜を、簡便に形成することができる。工程(b)におけるアルミニウム基材に印加する電圧が180V以下であると、処理液を低温に維持したり、アルミニウム基材の背面に冷却液を噴射したりする必要がなく、簡便な装置で陽極酸化することができる。
【0033】
工程(b)におけるアルミニウム基材に印加する電圧は、最初から最後まで一定でもよく、途中で変化させてもよいが、陽極酸化で得られる細孔の規則性に優れることから、途中で変化させることが好ましい。途中で電圧を変化させる場合、段階的に電圧を変化させてもよく、連続的に電圧を変化させてもよい。
【0034】
工程(b)においてアルミニウム基材に電圧を印加した直後の電流密度が10mA/cm
2以下となる場合、40V以上の最高電圧を最初から印加してもよく、40V未満の電圧で初期の陽極酸化を行い、段階的に又は連続的に電圧を上昇させ、最終的に電圧を40V〜180Vの範囲となるよう調整してもよい。
ここで、最高電圧とは、工程(b)における電圧の最高値を意味し、工程(b)の終了時の電圧と一致する。
【0035】
工程(b)において段階的に電圧を上昇させる場合、一定時間同じ電圧で保持してもよく、一時的に電圧を低下させてもよい。一定時間は、1分〜10分が好ましい。一時的に電圧を低下させる場合、一時的に電圧が0Vになってもよいが、陽極酸化の途中で電圧が0Vになると、陽極にかかっていた電場が解消されるため、途中で電圧が0Vになった後に電圧を上昇させて再度電場をかけたとき、アルミニウム基材と酸化皮膜が部分的に剥離して、酸化皮膜の厚さが不均一になることがある。そのため、途中で電圧が0Vにならないように陽極酸化を行うことが好ましい。
【0036】
工程(b)において連続的に電圧を上昇させる場合、電圧の昇圧速度は、0.05V/s〜5V/sが好ましい。電圧の昇圧速度が0.05V/s以上であると、電圧上昇時に酸化皮膜が厚くなり過ぎることを抑制することができる。また、電圧の昇圧速度が5V/s以下であると、アルミニウム基材に流れる電流密度が瞬間的に増大することで発生するヤケを抑制することができる。
【0037】
工程(b)において任意の電圧から任意の電圧へ昇圧する場合、瞬時に昇圧してもよく、徐々に昇圧してもよい。その電圧の昇圧速度は、0.05V/s〜5V/sが好ましい。電圧の昇圧速度が0.05V/s以上であると、電圧上昇時に酸化皮膜が厚くなり過ぎることを抑制することができる。また、電圧の昇圧速度が5V/s以下であると、アルミニウム基材に流れる電流密度が瞬間的に増大することで発生するヤケを抑制することができる。
【0038】
工程(b)におけるアルミニウム基材に電圧を印加して陽極酸化を行う時間は、アルミニウム基材の表面の酸化皮膜の厚さを0.5μm〜10μmに制御することができることから、3秒〜1800秒が好ましく、30秒〜1000秒がより好ましい。
【0039】
(工程(c))
工程(c)は、酸化皮膜の一部を除去する酸化皮膜除去工程である。酸化皮膜の一部を除去するためには、アルミニウム基材に電圧を実質的に印加せず、アルミニウム基材を処理液に浸漬したまま保持すればよい。工程(b)の後に電圧の印加を中断して、同じ反応槽中で、複数の酸を混合した処理液にアルミニウム基材を保持することで、工程(b)で形成された酸化皮膜の一部を溶解、除去することができる。
本発明において、「電圧を実質的に印加しない」とは、アルミニウム基材に印加する電圧を0Vとすることだけでなく、アルミニウム基材に電流が流れず酸化皮膜の形成が進まない程度まで電圧を低下させることを含む。
【0040】
工程(c)における保持時間は、5分〜400分が好ましい。工程(c)における保持時間が5分以上であると、工程(b)において形成された酸化皮膜を十分に除去することができる。また、工程(c)における保持時間が400分以下であると、工程(b)で形成した規則的な構造の破損を抑制することができ、ヘイズが高くなり過ぎず物品の視認性に優れ、モールドの生産性に優れる。
【0041】
工程(c)における保持時間が100分未満の場合、後述する第2の凹部の形成を抑制することができ、物品の透明性、反射防止性能に優れる。
【0042】
工程(c)における保持時間が100分以上の場合、後述する第2の凹部が形成されるため、物品の防眩性、反射防止性能に優れる。
【0043】
第2の凹部の形成過程を、以下に説明する。
工程(b)において形成された酸化皮膜を溶解、除去することにより、酸化皮膜底部にピンホールが形成され、アルミニウム基材と処理液が接触し、アルミニウムを溶解し始め、細孔より大きいサイズの第2の凹部が形成される。このとき、処理液の酸化皮膜の溶解速度がアルミニウム基材の溶解速度より大きい場合、酸化皮膜がすべて除去される前に、第2の凹部が形成される。
【0044】
(工程(d))
工程(d)は、アルミニウム基材を定電圧で陽極酸化して細孔を有する酸化皮膜を形成する第2の酸化皮膜形成工程である。即ち、工程(d)は、処理液中でアルミニウム基材の陽極酸化を行う工程である。アルミニウム基材の表面の一部又は全部を処理液に浸漬して陽極酸化を行うことによって、処理液に浸漬した部分に酸化皮膜を形成することができる。
【0045】
工程(d)におけるアルミニウム基材の表面の酸化皮膜の厚さは、0.01μm〜0.4μmが好ましい。工程(d)におけるアルミニウム基材の表面の酸化皮膜の厚さが0.01μm以上であると、物品の反射防止性能に優れる。また、工程(d)におけるアルミニウム基材の表面の酸化皮膜の厚さが0.4μm以下であると、モールドと物品との離型性に優れる。
酸化皮膜の厚さは、電解放出型走査電子顕微鏡等で観察することができる。
【0046】
工程(d)におけるアルミニウム基材の表面の酸化皮膜の厚さは、陽極酸化にて消費される合計の電気量に比例する。合計の電気量や電圧ごとに消費される電気量の比を調整することで、酸化皮膜の厚さと初期陽極酸化で形成される酸化皮膜の厚さの比を制御することができる。
【0047】
工程(d)におけるアルミニウム基材に印加する電圧は、30V〜180Vが好ましく、40V〜120Vがより好ましい。工程(d)におけるアルミニウム基材に印加する電圧が40V以上であると、細孔の間隔が100nm以上の酸化皮膜を、簡便に形成することができる。工程(d)におけるアルミニウム基材に印加する電圧が180V以下であると、処理液を低温に維持したり、アルミニウム基材の背面に冷却液を噴射したりする必要がなく、簡便な装置で陽極酸化することができる。
【0048】
工程(d)におけるアルミニウム基材に印加する電圧は、最初から最後まで一定でもよく、途中で変化させてもよいが、細孔の深さを制御することができることから、最初から最後まで一定とすることが好ましい。途中で電圧を変化させる場合、段階的に電圧を変化させてもよく、連続的に電圧を変化させてもよい。
【0049】
工程(d)においてアルミニウム基材に電圧を印加した直後の電流密度が10mA/cm
2以下となる場合、40V以上の最高電圧を最初から印加してもよく、40V未満の電圧で初期の陽極酸化を行い、段階的に又は連続的に電圧を上昇させ、最終的に電圧を40V〜180Vの範囲となるよう調整してもよい。
ここで、最高電圧とは、工程(d)における電圧の最高値を意味し、工程(d)の終了時の電圧と一致する。
【0050】
工程(d)において段階的に電圧を上昇させる場合、一定時間同じ電圧で保持してもよく、一時的に電圧を低下させてもよい。一定時間は、1分〜10分が好ましい。一時的に電圧を低下させる場合、一時的に電圧が0Vになってもよいが、陽極酸化の途中で電圧が0Vになると、陽極にかかっていた電場が解消されるため、途中で電圧が0Vになった後に電圧を上昇させて再度電場をかけたとき、アルミニウム基材と酸化皮膜が部分的に剥離して、酸化皮膜の厚さが不均一になることがある。そのため、途中で電圧が0Vにならないように陽極酸化を行うことが好ましい。
【0051】
工程(d)において連続的に電圧を上昇させる場合、電圧の昇圧速度は、0.05V/s〜5V/sが好ましい。電圧の昇圧速度が0.05V/s以上であると、電圧上昇時に酸化皮膜が厚くなり過ぎることを抑制することができる。また、電圧の昇圧速度が5V/s以下であると、アルミニウム基材に流れる電流密度が瞬間的に増大することで発生するヤケを抑制することができる。
【0052】
工程(d)において任意の電圧から任意の電圧へ昇圧する場合、瞬時に昇圧してもよく、徐々に昇圧してもよい。その電圧の昇圧速度は、0.05V/s〜5V/sが好ましい。電圧の昇圧速度が0.05V/s以上であると、電圧上昇時に酸化皮膜が厚くなり過ぎることを抑制することができる。また、電圧の昇圧速度が5V/s以下であると、アルミニウム基材に流れる電流密度が瞬間的に増大することで発生するヤケを抑制することができる。
【0053】
工程(d)におけるアルミニウム基材に電圧を印加して陽極酸化を行う時間は、アルミニウム基材の表面の酸化皮膜の厚さを0.01μm〜0.4μmに制御することができることから、3秒〜600秒が好ましく、5秒〜120秒がより好ましい。
【0054】
(工程(e))
工程(e)は、酸化皮膜の一部を除去して細孔の孔径を拡大処理する孔径拡大処理工程である。酸化皮膜の一部を除去して細孔の孔径を拡大処理するためには、アルミニウム基材に電圧を実質的に印加せず、アルミニウム基材を処理液に浸漬したまま保持すればよい。工程(d)の後に電圧の印加を中断して、同じ反応槽中で、複数の酸を混合した処理液にアルミニウム基材を保持することで、工程(d)で形成された酸化皮膜の一部を溶解、除去し、細孔の孔径を拡大することができる。
【0055】
工程(e)における保持温度は、細孔径の拡大速度を制御することができ、細孔を簡便にテーパー形状とすることができることから、5℃〜40℃が好ましく、10℃〜35℃がより好ましい。
【0056】
処理液中の第2の酸の濃度が0.05mol/l以上0.5mol/l未満で、工程(e)における保持温度が20℃未満の場合、工程(e)における保持時間は、30分〜200分が好ましく、45分〜180分が好ましい。工程(e)における保持時間が30分以上であると、細孔をテーパー形状とすることができる。また、工程(e)における保持時間が200分以下であると、モールドの生産性に優れる。
処理液中の第2の酸の濃度が0.05mol/l以上0.5mol/l未満で、工程(e)における保持温度が20℃以上35℃未満の場合、工程(e)における保持時間は、30分〜180分が好ましく、45分〜160分が好ましい。工程(e)における保持時間が30分以上であると、細孔をテーパー形状とすることができる。また、工程(e)における保持時間が180分以下であると、モールドの生産性に優れる。
【0057】
処理液中の第2の酸の濃度が0.5mol/l以上で、工程(e)における保持温度が20℃未満の場合、工程(e)における保持時間は、15分〜200分が好ましく、30分〜120分が好ましい。工程(e)における保持時間が15分以上であると、細孔をテーパー形状とすることができる。また、工程(e)における保持時間が200分以下であると、モールドの生産性に優れる。
処理液中の第2の酸の濃度が0.5mol/l以上で、工程(e)における保持温度が20℃以上35℃未満の場合、工程(e)における保持時間は、5分〜120分が好ましく、10分〜100分が好ましい。工程(e)における保持時間が5分以上であると、細孔をテーパー形状とすることができる。また、工程(e)における保持時間が120分以下であると、モールドの生産性に優れる。
【0058】
(工程(f))
工程(f)は、工程(d)と工程(e)とを交互に繰り返す工程である。
【0059】
繰り返し回数は、細孔を滑らかなテーパー形状にすることができ、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の反射防止性能に優れることから、3回以上が好ましく、5回以上がより好ましい。また、繰り返し回数は、モールドの生産性に優れることから、10回以下が好ましい。
工程(f)の最後は、細孔の孔径が連続的に変化するテーパー形状を形成することができ、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の反射防止性能に優れることから、工程(d)の細孔径拡大処理で終わることが好ましい。
【0060】
(
図1)
図1は、本発明のモールドの製造方法における工程の一例を示す模式的断面図である。以下、
図1を用いて本発明のモールドの製造方法を具体的に説明するが、本発明のモールドの製造方法は、
図1に示す工程に限定されるものではない。
【0061】
まず、機械加工されたアルミニウム基材10を処理液に浸漬させ(工程(a))、電圧を印加し、アルミニウム基材10の表面を陽極酸化して酸化皮膜14を形成させる(工程(b))。工程(b)の初期形成される細孔12は、規則性が低くランダムに細孔12が発生するが、長時間陽極酸化を行うと、細孔12が深くなるに従って、徐々に細孔12の配列周期の規則性が高くなっていく。これにより、
図1(A)に示すように、アルミニウム基材10の表面に、規則性が高く配列した複数の細孔12を有する酸化皮膜14を形成することができる。工程(b)の後に、細孔12がランダムに発生した細孔上部の酸化皮膜14の少なくとも一部を除去する(工程(c))。ここで、前述した条件とすることで、除去と同時に酸化皮膜14の底部に第2の凹部が形成される。これにより、
図1(B)に示すように、アルミニウム基材10の表面に、規則性が高く配列した細孔発生点16を形成することができる。
次に、処理液に浸漬させたまま、細孔発生点16が形成されたアルミニウム基材10に電圧を印加する(工程(d))。これにより、
図1(C)に示すように、アルミニウム基材10が陽極酸化されて、複数の細孔12を有する酸化皮膜14が再び形成される。そして、アルミニウム基材10への電圧の印加を中断し、処理液に浸漬させたままアルミニウム基材10を保持する(工程(e))。これにより、
図1(D)に示すように、形成された酸化皮膜14の一部が除去されて、細孔12の孔径が拡大する。
その後、処理液に浸漬させたまま、電圧を印加する工程(d)と、電圧の印加を中断して保持する工程(e)とを交互に繰り返す(工程(f))。これにより、
図1(E)に示すように、細孔12の形状を開口部から深さ方向に孔径が連続的に収縮するテーパー形状とすることができる。その結果、周期的な複数の細孔12からなる酸化皮膜14がアルミニウム基材10の表面に形成されたモールド18を得ることができる。
このように、工程(a)〜工程(f)の各工程で同種の処理液を用いるので、アルミニウム基材の表面に酸化皮膜を形成する陽極酸化工程、酸化皮膜の一部を除去する酸化皮膜除去工程、酸化皮膜に形成された細孔を拡大するエッチング工程のすべて工程を、1つの反応槽中で行うことができ、製造設備が簡略化されると共に、モールドの生産性に優れる。
【0062】
(モールドの凹部)
細孔(第1の凹部)の形状としては、例えば、略円錐形状、角錐形状、釣鐘形状、円柱形状等が挙げられる。これらの細孔の形状の中でも、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の反射防止性能に優れることから、円錐形状、角錐形状、釣鐘形状等のように、深さ方向と直交する方向の細孔断面積が最表面から深さ方向に連続的に減少する形状が好ましく、円錐形状、角錐形状、釣鐘形状がより好ましい。
【0063】
隣接する細孔(第1の凹部)間の平均間隔は、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の反射防止性能に優れることから、可視光線の波長以下、即ち、400nm以下が好ましく、380nm以下がより好ましい。
【0064】
隣接する細孔(第1の凹部)間の平均間隔は、20nm〜300nmが好ましく、80nm〜200nmがより好ましい。隣接する細孔間の平均間隔が20nm以上であると、細孔を転写して凸部を形成する場合に凸部を形成しやすい。また、隣接する細孔間の平均間隔が300nm以下であると、細孔間隔を大きくするための電圧を抑制することができ、陽極酸化ポーラスアルミナを工業的に製造しやすい。
【0065】
本明細書において、隣接する細孔間の平均間隔は、電子顕微鏡を用いて、隣接する細孔間の間隔(細孔の中心から隣接する細孔の中心までの距離)を無作為に10点(但し、第2の凹部が存在しない場所)測定し、これらの値を平均した値とする。
【0066】
細孔(第1の凹部)の平均深さは、60nm〜400nmが好ましく、90nm〜350nmがより好ましい。細孔の平均深さが60nm以上であると、最低反射率や特定波長の反射率の上昇を抑制することができ、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の反射防止性能に優れる。また、細孔の平均深さが400nm以下であると、細孔を形成しやすく、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の耐擦傷性に優れる。
【0067】
本明細書において、細孔の平均深さは、電子顕微鏡を用いて、細孔の最底部と細孔間に存在する凸部の最頂部との間の垂直距離を無作為に10点測定し、これらの値を平均した値とする。
【0068】
細孔のアスペクト比(細孔の平均深さ/隣接する細孔間の平均間隔)は、0.8〜5.0が好ましく、1.2〜4.0がより好ましく、1.5〜3.0が更に好ましい。細孔のアスペクト比が0.8以上であると、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の反射防止性能に優れる。また、細孔のアスペクト比が5.0以下であると、細孔を形成しやすく、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の耐擦傷性に優れる。
【0069】
第2の凹部を形成する場合、第2の凹部の平均直径は、0.5μm〜50μmが好ましく、1μm〜30μmがより好ましい。第2の凹部の平均直径が0.5μm以上であると、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の防眩性に優れる。また、第2の凹部の平均直径が50μm以下であると、ヘイズが高くなり過ぎず物品の視認性に優れる。
【0070】
本明細書において、第2の凹部の平均直径は、レーザー顕微鏡を用いて、第2の凹部を無作為に10点抽出し、その開口部の最長の長さ測定し、これらの値を平均した値とする。
【0071】
第2の凹部を形成する場合、第2の凹部の平均深さは、0.1μm〜3.0μmが好ましく、0.3μm〜1.5μmがより好ましい。第2の凹部の平均深さが0.1μm以上であると、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の防眩性に優れる。また、第2の凹部の平均深さが3.0μm以下であると、ヘイズが高くなり過ぎず物品の視認性に優れる。
【0072】
本明細書において、第2の凹部の平均深さは、レーザー顕微鏡を用いて、第2の凹部の最底部と開口部との間の垂直距離を無作為に10点測定し、これらの値を平均した値とする。
【0073】
第2の凹部のアスペクト比(第2の凹部の平均深さ/第2の凹部の平均直径)は、0.02〜3が好ましく、0.1〜2がより好ましい。第2の凹部のアスペクト比が0.02以上であると、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の防眩性に優れる。また、第2の凹部のアスペクト比が3以下であると、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の機械強度に優れる。
【0074】
(微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法)
本発明の微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法は、物品の生産性に優れることから、本発明のモールドの製造方法で得られたモールドの表面に硬化性組成物を供給し、硬化性組成物を硬化させて物品を得る方法が好ましい。具体的には、物品の生産性に優れることから、本発明のモールドの製造方法で得られたモールドの表面に硬化性組成物を、モールドと基材との間に挟み、これに活性エネルギー線を照射して硬化させて物品を得る方法が好ましい。
【0075】
(基材)
基材の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等のスチレン樹脂;セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルスルフォン樹脂;ポリスルフォン樹脂;ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、脂環式ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル等の塩化ビニル樹脂;ポリビニルアセタール樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリウレタン樹脂;ガラス等が挙げられる。これらの基材の材料の中でも、光透過性、取り扱い性に優れることから、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂がより好ましい。
【0076】
基材の形態としては、例えば、フィルム、シート等の公知の形態等が挙げられる。これらの基材の形態の中でも、物品の生産性、取り扱い性に優れることから、フィルム、シートが好ましい。
【0077】
基材の製造方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、キャスト成形法等の公知の製造方法等が挙げられる。これらの基材の製造方法の中でも、生産性に優れることから、押出成形法、キャスト成形法が好ましい。
【0078】
基材の表面には、密着性、帯電防止性、耐擦傷性、耐候性等の特性を改良する目的として、コーティング処理、コロナ処理等が施されていてもよい。
【0079】
硬化性組成物の硬化物と基材との屈折率差は、硬化性組成物の硬化物の層と基材との界面における光の反射を抑制することができ、反射防止性能等の光学性能に優れることから、0.3以下が好ましく、0.1以下がより好ましい。
【0080】
(硬化性組成物)
硬化性組成物は、物品の生産性に優れることから、活性エネルギー線により硬化する組成物が好ましい。
活性エネルギー線としては、例えば、可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、熱線(赤外線等)等が挙げられる。これらの活性エネルギー線の中でも、硬化性組成物の硬化性に優れることから、紫外線、電子線が好ましく、紫外線がより好ましい。
【0081】
硬化性組成物は、重合性化合物、重合開始剤、及び、必要に応じて、他の添加剤を含むことが好ましい。
【0082】
(重合性化合物)
重合性化合物としては、例えば、分子中にラジカル重合性結合及びカチオン重合性結合の少なくとも1種を含むモノマー、オリゴマー、反応性ポリマー等が挙げられる。これらの重合性化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0083】
ラジカル重合性結合を有するモノマーとしては、例えば、単官能モノマー、多官能モノマー等が挙げられる。
【0084】
単官能モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート誘導体;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリロニトリル;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体等が挙げられる。これらの単官能モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの単官能モノマーの中でも、硬化性組成物の硬化物と基材との密着性に優れることから、アルキル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、アルキルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレートがより好ましい。
本明細書において、(メタ)アクリルは、アクリル、メタクリル又はその両方をいう。
【0085】
多官能モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,2−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、1,4−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ブタン、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド等の二官能性モノマー;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド変性トリアクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート等の三官能モノマー;コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸の縮合反応混合物、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート等の四官能以上のモノマー;二官能以上のウレタンアクリレート、二官能以上のポリエステルアクリレート等が挙げられる。これらの多官能モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの多官能モノマーの中でも、硬化性組成物の硬化物の機械強度に優れることから、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましく、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレートがより好ましい。
【0086】
カチオン重合性結合を有するモノマーとしては、例えば、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基、ビニルオキシ基等を有するモノマー等が挙げられる。これらのカチオン重合性結合を有するモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのカチオン重合性結合を有するモノマーの中でも、硬化性組成物の反応性に優れることから、エポキシ基を有するモノマーが好ましい。
【0087】
カチオン重合性結合を有するモノマーの具体例としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAポリプロピレンオキサイド2モル付加物ジグリシジルエーテル、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、2−エチルヘキシルオキセタン、キシリレンビスオキセタン、3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。これらのカチオン重合性結合を有するモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
オリゴマー又は反応性ポリマーとしては、例えば、不飽和ジカルボン酸と多価アルコールとの縮合物等の不飽和ポリエステル類;ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、カチオン重合型エポキシ化合物、側鎖にラジカル重合性基を有する上述のモノマーの単独又は共重合ポリマー等が挙げられる。これらのオリゴマー又は反応性ポリマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0089】
重合性化合物の組み合わせは、硬化性組成物の反応性に優れることから、ラジカル重合性結合を有するモノマー同士の組み合わせ、ラジカル重合性結合を有するモノマーとカチオン重合性結合を有するモノマーとの組み合わせが好ましく、ラジカル重合性結合を有するモノマー同士の組み合わせがより好ましい。
【0090】
(重合開始剤)
硬化性組成物の硬化の際に光硬化反応を用いる場合、重合開始剤として光重合開始剤を用いるとよい。
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド類等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの光重合開始剤の中でも、硬化性組成物の硬化性に優れることから、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドが好ましく、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドがより好ましい。
【0091】
硬化性組成物の硬化の際に熱硬化反応を用いる場合、重合開始剤として熱重合開始剤を用いるとよい。
熱重合開始剤としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物;前記有機過酸化物にN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン等のアミンを組み合わせたレドックス重合開始剤等が挙げられる。これらの熱重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの熱重合開始剤の中でも、反応温度が適度であることから、有機過酸化物、アゾ系化合物が好ましく、アゾ系化合物がより好ましい。
【0092】
重合開始剤の含有量は、重合性化合物100質量部に対して、0.1質量部〜10質量部が好ましい。重合開始剤の含有量が0.1質量部以上であると、重合が進行しやすい。また、重合開始剤の含有量が10質量%以下であると、硬化物の機械強度に優れ、硬化物の着色を抑制することができる。
【0093】
(他の添加剤)
硬化性組成物は、重合性化合物、重合開始剤以外に、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
他の添加剤としては、例えば、離型剤、非反応性のポリマー、活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物、帯電防止剤、防汚性向上のためのフッ素化合物等の添加剤、微粒子、少量の溶媒等が挙げられる。これらの他の添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
(離型剤)
硬化性組成物は、連続転写性を向上することができることから、離型剤を含むことが好ましい。
離型剤は、硬化性組成物の硬化物とモールド表面との離型性を向上するものであり、硬化性組成物との相溶性があれば、特に限定されない。
【0095】
離型剤としては、例えば、(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸化合物、リン酸エステル系化合物、フッ素含有化合物、シリコーン系化合物、長鎖アルキル基を有する化合物、固形ワックス(ポリアルキレンワックス、アミドワックス、テフロン(商品名)パウダー等)等が挙げられる。これらの離型剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの離型剤の中でも、離型性に優れることから、(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸化合物が好ましい。
【0096】
硬化性組成物中の離型剤の含有量は、重合性化合物100質量部に対して、0.01質量部〜1質量部が好ましく、0.05質量部〜0.5質量部がより好ましく、0.05質量部〜0.1質量部が更に好ましい。硬化性組成物中の離型剤の含有量が0.01質量部以上であると、硬化物とモールドとの離型性に優れる。また、1質量部以下であると、得られる物品の性能の低下を抑制することができる。
【0097】
(非反応性のポリマー)
硬化性組成物は、硬化物の分子量を制御することができることから、非反応性のポリマーを含むことが好ましい。
非反応性のポリマーとしては、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン、セルロース系樹脂、ポリビニルブチラール、ポリエステル、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの非反応性のポリマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの非反応性のポリマーの中でも、(メタ)アクリル系モノマーの硬化物と屈折率が近いことから、アクリル樹脂が好ましい。
【0098】
(活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物)
硬化性組成物は、硬化物の機械強度に優れることから、活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物を含むことが好ましい。
活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物としては、例えば、アルコキシシラン化合物、アルキルシリケート化合物等が挙げられる。これらの活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0099】
アルコキシシラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、トリメチルブトキシシラン等が挙げられる。これらのアルコキシシラン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0100】
アルキルシリケート化合物としては、例えば、メチルシリケート、エチルシリケート、イソプロピルシリケート、n−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、n−ペンチルシリケート、アセチルシリケート等が挙げられる。これらのアルキルシリケート化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0101】
(撥水性・親水性)
微細凹凸構造を表面に有する物品は、ロータス効果により、その表面が疎水性の材料から形成されていれば超撥水性が得られ、その表面が親水性の材料から形成されていれば超親水性が得られる。
【0102】
微細凹凸構造を表面に有する物品の表面に撥水性を付与する(具体的には、微細凹凸構造と水との接触角を90°以上とする)場合、その表面が疎水性の材料で形成される。
疎水性の材料の原料は、撥水性に優れることから、フッ素含有化合物、シリコーン系化合物が好ましい。
【0103】
微細凹凸構造を表面に有する物品に親水性を付与する(具体的には、微細凹凸構造と水との接触角を25°以下とする)場合、その表面が親水性の材料で形成される。
親水性の材料の原料は、親水性に優れることから、少なくとも親水性モノマーを含むことが好ましく、耐擦傷性、耐水性付与に優れることから、更に架橋可能な多官能モノマーを含むことがより好ましい。親水性モノマーと架橋可能な多官能モノマーとは、同一であってもよく異なっていてもよい。
具体的には、親水性の材料の原料は、耐擦傷性に優れることから、4官能以上の多官能(メタ)アクリレート、2官能以上の親水性(メタ)アクリレート、必要に応じて、単官能モノマーを含むことが好ましい。
【0104】
硬化性組成物の具体的な組成等は、例えば、特開2013−175733号公報、特開2015−129947号公報に記載された組成等が挙げられる。
【0105】
硬化性組成物の粘度は、微細凹凸構造への硬化性組成物の追随性に優れることから、10000mPa・s以下が好ましく、5000mPa・s以下がより好ましく、2000mPa・s以下が更に好ましい。
本明細書において、硬化性組成物の粘度は、回転式E型粘度計を用い、25℃にて測定した値とする。
【0106】
(微細凹凸構造を表面に有する物品の製造装置)
本発明のモールドの製造方法で得られたモールドの表面に硬化性組成物を、モールドと基材との間に挟み、これに活性エネルギー線を照射して硬化させて物品を得る方法は、物品の生産性に優れることから、
図2に示す製造装置を用いることが好ましい。
図2は、微細凹凸構造を表面に有する物品の製造装置を示す模式的断面図である。以下、
図2を用いて微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法を説明するが、微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法は、
図2に限定されるものではない。
【0107】
図2に示す製造装置用いた微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法は、以下の通りである。
表面に微細凹凸構造の反転構造を設けたロール状のモールド20と、ロール状のモールド20の回転に同期してロール状のモールド20の表面に沿って移動する帯状の基材42との間に、タンク22から硬化性組成物38を供給する。ロール状のモールド20と、空気圧シリンダ24によってニップ圧が調整されたニップロール26との間で、基材42と硬化性組成物38とをニップし、硬化性組成物38を、基材42とロール状のモールド20との間に均一に行き渡らせると同時に、ロール状のモールド20の凹部内に充填する。ロール状のモールド20の外側に設置された活性エネルギー線照射装置28から、基材42を通して硬化性組成物38に活性エネルギー線を照射し、硬化性組成物38を硬化させることによって、ロール状のモールド20の表面の微細凹凸構造が転写された硬化樹脂層44を形成する。
剥離ロール30により、表面に硬化樹脂層44が形成された基材42をロール状のモールド20から剥離することによって、微細凹凸構造を表面に有する物品40が得られる。
【0108】
活性エネルギー線照射装置としては、例えば、ケミカルランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、無電極紫外線ランプ、可視光ハロゲンランプ、キセノンランプ、紫外線LED等が挙げられる。これらの活性エネルギー線照射装置の中でも、発熱を抑制することができることから、無電極紫外線ランプ、紫外線LEDが好ましい。
【0109】
光照射エネルギー量は、100mJ/cm
2〜10000mJ/cm
2が好ましく、200mJ/cm
2〜5000mJ/cm
2がより好ましい。光照射エネルギー量が100mJ/cm
2以上であると、硬化性組成物の硬化性に優れる。また、光照射エネルギー量が10000mJ/cm
2以下であると、硬化物の着色を抑制することができる。
【0110】
(微細凹凸構造を表面に有する物品)
本発明の微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法により、例えば、
図3に示す微細凹凸構造を表面に有する物品が得られる。以下、
図3を用いて本発明の微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法により得られる微細凹凸構造を表面に有する物品を説明するが、本発明の微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法により得られる微細凹凸構造を表面に有する物品は、
図3に限定されるものではない。
【0111】
図3は、微細凹凸構造を表面に有する物品の一例を示す模式的断面図である。
図3に示す微細凹凸構造を表面に有する物品40は、基材42上に硬化樹脂層44を有し、硬化樹脂層44は、複数の凸部46を有する。
【0112】
(微細凹凸構造を表面に有する物品の凸部)
第1の凸部の形状としては、例えば、略円錐形状、角錐形状、釣鐘形状、円柱形状等が挙げられる。これらの第1の凸部の形状の中でも、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の反射防止性能に優れることから、円錐形状、角錐形状、釣鐘形状等のように、高さ方向と直交する方向の凸部断面積が最頂部から深さ方向に連続的に増加する形状が好ましく、円錐形状、角錐形状、釣鐘形状がより好ましい。
第1の凸部は、微細な複数の第1の凸部が合一して1つの凸部となったものであってもよい。
本明細書において、第1の凸部は、前述した細孔(第1の凹部)を転写した凸部とする。
【0113】
隣接する第1の凸部間の平均間隔は、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の反射防止性能に優れることから、可視光線の波長以下、即ち、400nm以下が好ましく、380nm以下がより好ましい。
【0114】
隣接する第1の凸部間の平均間隔は、20nm〜300nmが好ましく、80nm〜200nmがより好ましい。隣接する第1の凸部間の平均間隔が20nm以上であると、細孔を転写して凸部を形成する場合に凸部を形成しやすい。また、隣接する第1の凸部間の平均間隔が300nm以下であると、細孔間隔を大きくするための電圧を抑制することができ、陽極酸化ポーラスアルミナを工業的に製造しやすい。
【0115】
本明細書において、隣接する第1の凸部間の平均間隔は、電子顕微鏡を用いて、隣接する第1の凸部間の間隔(第1の凸部の中心から隣接する第1の凸部の中心までの距離)を無作為に10点(但し、第2の凸部が存在しない場所)測定し、これらの値を平均した値とする。
【0116】
第1の凸部の平均高さは、60nm〜400nmが好ましく、90nm〜350nmがより好ましい。第1の凸部の平均高さが60nm以上であると、最低反射率や特定波長の反射率の上昇を抑制することができ、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の反射防止性能に優れる。また、第1の凸部の平均高さが400nm以下であると、細孔を形成しやすく、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の耐擦傷性に優れる。
【0117】
本明細書において、第1の凸部の平均高さは、電子顕微鏡を用いて、第1の凸部の最頂部と第1の凸部間に存在する凹部の最底部との間の垂直距離を無作為に10点測定し、これらの値を平均した値とする。
【0118】
第1の凸部のアスペクト比(第1の凸部の平均高さ/隣接する第1の凸部間の平均間隔)は、0.8〜5.0が好ましく、1.2〜4.0がより好ましく、1.5〜3.0が更に好ましい。第1の凸部のアスペクト比が0.8以上であると、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の反射防止性能に優れる。また、第1の凸部のアスペクト比が5.0以下であると、細孔を形成しやすく、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の耐擦傷性に優れる。
【0119】
第2の凸部を形成する場合、第2の凸部の平均直径は、0.5μm〜50μmが好ましく、1μm〜30μmがより好ましい。第2の凸部の平均直径が0.5μm以上であると、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の防眩性に優れる。また、第2の凸部の平均直径が50μm以下であると、ヘイズが高くなり過ぎず物品の視認性に優れる。
本明細書において、第2の凸部は、前述した第2の凹部を転写した凸部とする。
【0120】
本明細書において、第2の凸部の平均直径は、レーザー顕微鏡を用いて、第2の凸部を無作為に10点抽出し、その開口部の最長の長さ測定し、これらの値を平均した値とする。
【0121】
第2の凸部を形成する場合、第2の凸部の平均高さは、0.1μm〜3.0μmが好ましく、0.3μm〜1.5μmがより好ましい。第2の凸部の平均高さが0.1μm以上であると、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の防眩性に優れる。また、第2の凸部の平均高さが3.0μm以下であると、ヘイズが高くなり過ぎず物品の視認性に優れる。
【0122】
本明細書において、第2の凸部の平均高さは、レーザー顕微鏡を用いて、第2の凸部の最頂部と第2の凸部間に存在する凹部の最底部との間の垂直距離を無作為に10点測定し、これらの値を平均した値とする。
【0123】
第2の凸部のアスペクト比(第2の凸部の平均深さ/第2の凸部の平均直径)は、0.02〜3が好ましく、0.1〜2がより好ましい。第2の凸部のアスペクト比が0.02以上であると、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の防眩性に優れる。また、第2の凸部のアスペクト比が3以下であると、得られる微細凹凸構造を表面に有する物品の機械強度に優れる。
【0124】
微細凹凸構造を表面に有する物品の表面に撥水性を付与する場合、微細凹凸構造と水との接触角は、水汚れが付着しにくく、着氷を抑制することができることから、90°以上が好ましく、110°以上がより好ましく、120°以上が更に好ましい。
【0125】
微細凹凸構造を表面に有する物品の表面に親水性を付与する場合、微細凹凸構造と水との接触角は、水洗いができ、油汚れが付着しにくいことから、25°以下が好ましく、23°以下がより好ましく、21°以上が更に好ましい。また、微細凹凸構造を表面に有する物品の表面に親水性を付与する場合、微細凹凸構造と水との接触角は、微細凹凸構造の変形や反射率の上昇を抑制することができることから、3°以上が好ましい。
【0126】
(用途)
微細凹凸構造を表面に有する物品は、反射防止性能、防眩性能、撥水性能、親水性能等の種々の性能を有する。
微細凹凸構造を表面に有する物品がシート状又はフィルム状の場合、反射防止膜として、例えば、テレビ、携帯電話のディスプレイ等の画像表示装置、展示パネル、メーターパネル等の対象物の表面に貼り付けたり、インサート成形したりして用いることができる。また、撥水性能を活かして、風呂場の窓や鏡、太陽電池部材、自動車のミラー、看板、メガネのレンズ等、雨、水、蒸気等に曝されるおそれのある対象物の部材としても用いることができる。
微細凹凸構造を表面に有する物品が立体形状の場合、用途に応じた形状の透明基材を用いて反射防止物品を製造しておき、これを上記対象物の表面を構成する部材として用いることもできる。
対象物が画像表示装置である場合、その表面に限らず、その前面板に対して、微細凹凸構造を表面に有する物品を貼り付けてもよいし、前面板そのものを、微細凹凸構造を表面に有する物品から構成することもできる。例えば、イメージを読み取るセンサーアレイに取り付けられたロッドレンズアレイの表面、FAX、複写機、スキャナ等のイメージセンサーのカバーガラス、複写機の原稿を置くコンタクトガラス等に、微細凹凸構造を表面に有する物品を用いても構わない。また、可視光通信等の光通信機器の光受光部分等に、微細凹凸構造を表面に有する物品を用いることによって、信号の受信感度を向上させることもできる。
また、上述した用途以外にも、例えば、光導波路、レリーフホログラム、光学レンズ、偏光分離素子等の光学用途、細胞培養シート等の用途にも用いることができる。
【実施例】
【0127】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0128】
(モールドの凹部・物品の凸部の測定)
実施例・比較例で得られたモールドの第1の凹部の平均間隔・平均深さ、実施例・比較例で得られた物品の第1の凸部の平均間隔・平均高さを、電解放出型走査電子顕微鏡(機種名「JSM−6701F」、日本電子(株)製)を用い、加速電圧3.0kVの条件で、無作為に10点測定し、これらの値を平均した値とした。
【0129】
実施例・比較例で得られたモールドの第2の凹部の平均直径・平均深さ、実施例・比較例で得られた物品の第2の凸部の平均直径・平均高さを、レーザー顕微鏡(機種名「VK−X100」、(株)島津製作所製)を用い、無作為に10点測定し、これらの値を平均した値とした。
【0130】
(反射率測定)
実施例・比較例で得られた物品を、JIS Z8722に準拠し、分光光度計(機種名「UV−2450」、(株)島津製作所製)を用い、反射率を3点測定し、これらの値を平均した値を測定値とし、下記評価基準にて評価した。
A:反射率が1.00未満であった。
B:反射率が1.00以上であった。
【0131】
(ヘイズ測定)
実施例・比較例で得られた物品を、ISO13468−1に準拠し、ヘイズメーター(機種名「NDH2000」、日本電色工業(株)製)を用い、ヘイズを3点測定し、これらの値を平均した値を測定値とし、下記評価基準にて評価した。
A:ヘイズが1.0以上30.0以下であった。
B:ヘイズが1.0未満又は30.0超であった。
【0132】
(防眩性評価)
実施例・比較例で得られた物品に対し、輝度8000cd/m
2の蛍光灯を45°の方向から照射し、−45°の方向から反射像を目視にて観察し、下記評価基準にて評価した。
A:蛍光灯の輪郭をほぼ視認することができない。
B:蛍光灯の輪郭を明確に視認することができる。
【0133】
[実施例1]
(モールドの製造)
アルミニウムを外径205mm、内径155mm、幅350mmの円筒状に切断し、被加工面の算術平均粗さRaが0.03μm以下となるように表面に鏡面切削加工を行い、その後、被加工面の算術平均粗さRaが0.002μm以下となるように表面に鏡面研磨加工を行い、円筒状のアルミニウム基材を得た。
【0134】
次いで、0.1mol/lのシュウ酸水溶液と1.0mol/lのリン酸水溶液とを混合した処理液を温度23℃に調温し、これに得られたアルミニウム基材を浸漬させた。(工程(a))
次いで、アルミニウム基材を40Vで600秒間陽極酸化し、アルミニウム基材の表面に細孔を有する酸化皮膜を形成した。(工程(b))
次いで、表面に酸化皮膜が形成されたアルミニウム基材への電圧の印加を中断し、処理液中に120分間保持させて酸化皮膜を溶解、除去し、陽極酸化の細孔発生点となる窪みを露出させると共に、第2の凹部を形成させた。
次いで、アルミニウム基材を40Vで60秒間陽極酸化し、アルミニウム基材の表面に細孔を有する酸化皮膜を形成した。(工程(d))
次いで、表面に酸化皮膜が形成されたアルミニウム基材への電圧の印加を中断し、処理液中に25分間保持させて酸化皮膜の一部を溶解、除去すると共に、酸化皮膜の孔径を拡大させた。(工程(e))
次いで、工程(d)と工程(e)とを更に交互に4回繰り返し、最後に工程(e)を行った。(工程(f))
尚、工程(a)〜工程(f)のすべて工程を、同じ反応槽で行った。また、工程(d)と工程(e)は、各合計5回行った。
【0135】
その後、アルミニウム基材を脱イオン水で洗浄し、更に表面の水分をエアーブローで除去し、略円錐形状、即ち、テーパー形状の細孔を有する酸化皮膜が形成されたロール状のモールドを得た。
得られたモールドは、第1の凹部の平均間隔100nm、第1の凹部の平均深さ200nm、第2の凹部の平均直径1.5μm、第2の凹部の平均深さ1.5μmであった。
【0136】
(硬化性組成物の調製)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート25質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート25質量部、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート25質量部、ポリエチレングリコールジアクリレート25質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン1質量部、ビス(2,4,6,−トリメチルベンゾイル)?フェニルフォスフィンオキサイド0.5質量及びポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸0.1質量部を混合し、硬化性組成物を得た。
【0137】
(物品の製造)
得られたロール状のモールドを、
図2に示す製造装置に設置した。ロール状のモールドと、ロール状のモールドの回転(速度7m/分)に同期してロール状のモールドの表面に沿って移動する帯状の基材(商品名「A4300」、東洋紡(株)製、ポリエチレンテレフタレートフィルム)との間に、タンクから得られた硬化性組成物を供給する。ロール状のモールドと、空気圧シリンダによってニップ圧が調整されたニップロールとの間で、基材と硬化性組成物とをニップし、硬化性組成物を、基材とロール状のモールドとの間に均一に行き渡らせると同時に、ロール状のモールドの凹部内に充填する。ロール状のモールドの外側に設置された紫外線照射装置(出力240W/cm)から、基材を通して硬化性組成物に紫外線を照射し、硬化性組成物を硬化させることによって、ロール状のモールドの表面の微細凹凸構造が転写された硬化樹脂層を形成する。
剥離ロールにより、表面に硬化樹脂層が形成された基材をロール状のモールドから剥離することによって、微細凹凸構造を表面に有する物品が得られた。
得られた物品は、第1の凸部の平均間隔100nm、第1の凸部の平均高さ200nm、第2の凸部の平均直径1.5μm、第2の凸部の平均高さ1.5μmであった。
得られた物品の評価結果を、表2に示す。
【0138】
[実施例2〜4]
工程(a)〜工程(f)の条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、微細凹凸構造を表面に有する物品を得た。
得られた物品の評価結果を、表2に示す。
【0139】
[比較例1]
工程(a)における処理液の温度を15.7℃に調温、工程(a)〜工程(b)で用いた処理液を0.3mol/lのシュウ酸水溶液、工程(c)で用いた処理液を1.8質量%のクロム酸水溶液と6質量%のリン酸水溶液とを混合した水溶液、工程(c)における処理液の温度を70℃に調温した以外は、実施例1と同様に操作を行い、微細凹凸構造を表面に有する物品を得た。
得られた物品は、第1の凸部の平均間隔100nm、第1の凸部の平均高さ200nm、で、第2の凸部は存在しなかった。
尚、工程(a)〜工程(b)で用いた反応槽と、工程(c)で用いた反応槽と、工程(d)〜工程(f)で用いた反応槽とで、それぞれ異なる反応槽を用いた。
得られた物品の評価結果を、表2に示す。
【0140】
【表1】
【0141】
【表2】
【0142】
実施例1〜4におけるモールドの製造は、同じ反応槽で行うことができるのに対し、比較例1におけるモールドの製造は、工程によって用いる処理液が異なるので、同じ反応槽で行うことができなかった。
また、実施例1〜4で得られた物品は、第1の凸部と第2の凸部とを有するため、反射防止性能、防眩性に優れた。一方、比較例1で得られた物品は、工程(c)において第2の凹部を形成されず、第1の凸部のみを有するため、反射防止性能に優れるものの、防眩性に劣った。