特許第6874428号(P6874428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6874428水性樹脂組成物及びその製造方法、並びに塗料及び塗装物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874428
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】水性樹脂組成物及びその製造方法、並びに塗料及び塗装物
(51)【国際特許分類】
   C08L 43/02 20060101AFI20210510BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20210510BHJP
   C08F 230/02 20060101ALI20210510BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20210510BHJP
   C08F 257/02 20060101ALI20210510BHJP
   C08F 2/24 20060101ALI20210510BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20210510BHJP
   C08L 25/08 20060101ALI20210510BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20210510BHJP
   C09D 133/06 20060101ALI20210510BHJP
   C09D 143/02 20060101ALI20210510BHJP
   C09D 125/08 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   C08L43/02
   C08K3/32
   C08F230/02
   C08F265/06
   C08F257/02
   C08F2/24 Z
   C08L33/06
   C08L25/08
   C09D5/02
   C09D133/06
   C09D143/02
   C09D125/08
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-44534(P2017-44534)
(22)【出願日】2017年3月9日
(65)【公開番号】特開2018-145363(P2018-145363A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前 学志
(72)【発明者】
【氏名】原口 辰介
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−316097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F220/00〜220/70、230/02
C08L33/00〜33/26、43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)(メタ)アクリロイルオキシ基と結合したアルキル基が炭素数4から22のアルキルが直鎖状、分岐状、環状のうちの1種以上であるアルキル(メタ)アクリレートa1由来の構成単位を45質量%以上55質量%以下、(ii)リン酸基を有するラジカル重合性単量体a2由来の構成単位を0.1質量%以上5質量%以下、(iii)カルボニル基を有するケトンであるラジカル性単量体a3(ただし、アルキル(メタ)アクリレート及び単量体a2を除く)由来の構成単位を2質量%以上15質量%以下、及び(iv)前記単量体a1、a2及びa3以外のラジカル重合性単量体a4由来の構成単位を25質量%以上45質量%以下、含有する重合体P1及びリン酸金属塩を含む水性樹脂組成物。
【請求項2】
(メタ)アクリロイルオキシ基と結合したアルキル基が炭素数1から3のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレート、スチレン及びスチレン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体a5由来の構成単位を50質量%以上100質量%以下含有する重合体P2を更に含む請求項1記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
前記単量体a1、a3及びa4を乳化剤及び水で乳化状態にした後に、前記単量体a2を混合し、得られた単量体乳化物を重合して前記重合体P1を製造する工程を含む請求項1又は2記載の水性樹脂組成物を製造する方法。
【請求項4】
前記単量体a5を乳化剤及び水で乳化状態にして得られた単量体乳化物を重合して前記重合体P2を製造する工程、前記単量体a1、a3及びa4を乳化剤及び水で乳化状態にした後に、前記単量体a2を混合し、得られた単量体乳化物を前記重合体P2の存在下で重合して前記重合体P1を製造する工程を含む請求項2記載の水性樹脂組成物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は水性樹脂組成物及びその製造方法、並びに塗料、塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料分野においては、環境保全、安全衛生の面から、有機溶剤系塗料から水系塗料への変換が図られている。しかし、金属などの難密着素材への密着性や高い耐水性が求められる分野においては、水系塗料を使用することができない場合がある。また、機械や建築材料等の金属部品の塗装用途において防錆性能に優れた水性塗料の開発が望まれ、開発が行われている。
例えば、特許文献1には、カルボニル基を有する単量体を導入した異相構造粒子からなる塗料用水性樹脂が記載されている。また、特許文献2には、リン酸基含有ラジカル重合性単量体を導入した焼付塗料用水性樹脂が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−256202号公報
【特許文献2】特開2006−316097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の塗料用水性樹脂から得られる塗膜は、耐ブロッキング性や耐水性に優れる。しかし、金属など難密着性の基材に対する密着性が劣ることと、防錆性が劣るという課題がある。特許文献2に記載の焼付塗料用水性樹脂から得られる塗膜は、外観、耐水性に優れる。しかし、金属など難密着性の基材に対する密着性が劣ることと、防錆性が劣るという課題がある。更に、室温で乾燥できないという課題もある。
本発明の目的は、金属等の難密着性の基材に対する密着性及び防錆性に優れた塗膜を得ることができる水性樹脂組成物、並びにその製造方法を提供することである。また、本発明の目的は、難密着性の基材に対する密着性及び防錆性に優れた塗膜を得ることができる塗料、並びに密着性及び防錆性に優れた塗膜を有する塗装物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(i)(メタ)アクリロイルオキシ基と結合したアルキル基が炭素数4から22のアルキル基が直鎖状、分岐状、環状のうちの1種以上であるアルキル(メタ)アクリレートa1由来の構成単位を45質量%以上55質量%以下、(ii)リン酸基を有するラジカル重合性単量体a2由来の構成単位を0.1質量%以上5質量%以下、(iii)カルボニル基を有するケトンであるラジカル性単量体a3(ただし、アルキル(メタ)アクリレート及び単量体a2を除く)由来の構成単位を2質量%以上15質量%以下、及び(iv)前記単量体a1、a2及びa3以外のラジカル重合性単量体a4由来の構成単位を25質量%以上45質量%以下、含有する重合体P1及びリン酸金属塩を含む水性樹脂組成物である。
本発明の水性樹脂組成物は、(メタ)アクリロイルオキシ基と結合したアルキル基が炭素数1から3のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレート、スチレン及びスチレン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体a5由来の構成単位を50質量%以上100質量%以下含有する重合体P2を更に含むことが好ましい。
また本発明は、前記単量体a1、a3及びa4を乳化剤及び水で乳化状態にした後に、前記単量体a2を混合し、得られた単量体乳化物を重合して前記重合体P1を製造する工程を含む重合体P1を含む水性樹脂組成物を製造する方法である。
また本発明は、前記単量体a5を乳化剤及び水で乳化状態にして得られた単量体乳化物を重合して前記重合体P2を製造する工程、前記単量体a1、a3及びa4を乳化剤及び水で乳化状態にした後に、前記単量体a2を混合し、得られた単量体乳化物を前記重合体P2の存在下で重合して前記重合体P1を製造する工程を含む重合体P1及び重合体P2を含む水性樹脂組成物を製造する方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、金属等の難密着性の基材に対する密着性及び防錆性に優れた塗膜を得ることができる水性樹脂組成物、並びにその製造方法を提供することができる。また、難密着性の基材に対する密着性及び防錆性に優れた塗膜を得ることができる塗料、並びに密着性及び防錆性に優れた塗膜を有する塗装物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の水性樹脂組成物は重合体P1を含むものである。
【0008】
[重合体P1]
重合体P1は、単量体a1、単量体a2、単量体a3及び単量体a4を後述する特定の配合比で含む。重合体P1は、例えば、単量体a1、単量体a2、単量体a3及び単量体a4を共重合して製造することができる。
[単量体a1]
単量体a1は、(メタ)アクリロイルオキシ基と結合したアルキル基が炭素数4から22のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートである。当該アルキル基の構造は直鎖、分岐又は環状、あるいはこれらの組合せのいずれであってもよい。単量体a1としては、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート及びステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル基が直鎖状のアルキル(メタ)アクリレート;i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート及び2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル基が分岐状のアルキル(メタ)アクリレート;並びにシクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル基が環状のアルキル(メタ)アクリレート;等が挙げられる。単量体a1は1種類の単量体でも、適宜選択した2種以上の単量体でもよい。単量体a1としては、直鎖状又は分岐状のアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、特に好ましくは製造時の安定性が良好であるn−ブチル(メタ)アクリレート及び2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0009】
重合体P1における単量体a1由来の構成単位の構成比は45質量%以上55質量%以下である。構成比をこの範囲にすることで塗膜の密着性が良好となる。好ましい構成比は50質量%以上55質量%以下である。構成比は高いほど塗装に際して塗料の乾燥温度及び乾燥時間の影響が少なくなる。
【0010】
なお、本明細書において「(メタ)アクリロイル」の表現は「アクリロイル」または「メタクリロイル」を意味し、「(メタ)アクリロレート」の表現は「アクリレート」または「メタクリレート」を意味するものとする。また、その「(メタ)アクリ・・・」といった類似の表現も同様に「アクリ・・・」または「メタクリ・・・」を意味する。
【0011】
[単量体a2]
単量体a2はリン酸基を有するラジカル重合性単量体である。単量体a2としては、例えば、2−メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェート(共栄社化学株式会社製:ライトエステルP−1M(商品名)、ユニケミカル社製:ホスマーM(商品名))、2−アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、3−(メタ)アクリロイロキシプロピルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイロキシポリオキシエチレングリコールアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイロキシポリオキシプロピレングリコールアシッドホスフェート等のリン酸モノエステル基含有ラジカル重合性単量体;ジ(2−メタクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート(共栄社化学株式会社製:ライトエステルP−2M(商品名))、ジ(2−アクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート、ジ(3−(メタ)アクリロイロキシプロピル)アシッドホスフェート、ジ((メタ)アクリロイロキシポリオキシエチレングリコール)アシッドホスフェート、ジ((メタ)アクリロイロキシポリオキシプロピレングリコール)アシッドホスフェート等のリン酸ジエステル基含有ラジカル重合性単量体;等が挙げられる。単量体a2は1種類の単量体でも、適宜選択した2種以上の単量体でもよい。単量体a2としては、塗膜の密着性と防錆性が良好となるので、リン酸モノエステル基含有ラジカル重合性単量体が好ましく、特に好ましくは2−メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェートである。
【0012】
重合体P1における単量体a2由来の構成単位の構成比は0.1質量%以上5質量%以下である。構成比をこの範囲にすることで、密着性が良好となる。好ましい構成比は1質量%以上3質量%以下である。構成比をこの範囲にすることで、塗装に際して塗料の乾燥温度及び乾燥時間、並びに基材の状態による影響が少なくなる。
【0013】
[単量体a3]
単量体a3はカルボニル基を有するラジカル性単量体である。ただし単量体a3にはアルキル(メタ)アクリレート及び前記単量体a2を含まない。単量体a3としては、例えば、アクロレイン、ホルミルスチロール、ピバリンアルデヒド等のアルデヒド;ダイアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のケトン等が挙げられる。単量体a3は1種類の単量体でも、適宜選択した2種以上の単量体でもよい。単量体a3としてはケトンが好ましく、特に好ましくはダイアセトンアクリルアミドである。ダイアセトンアクリルアミドは重合体P1を製造する際の安定性が良好である。
重合体P1における単量体a3由来の構成単位の構成比は2質量%以上15質量%以下である。構成比をこの範囲にすることで、耐溶剤性、硬度及び密着性が良好となる。好ましい構成比は1質量%以上3質量%以下である。構成比をこの範囲にすることで、塗膜の耐水密着性及び防錆性がより良好になる。
【0014】
[単量体a4]
単量体a4は、前記単量体a1、a2及びa3以外のラジカル重合性単量体である。単量体a4としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイルオキシ基と結合したアルキル基が炭素数1〜3のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート;ヒドロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリプロピレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−プロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−ポリテトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−テトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリプロピレンオキシド−ポリテトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリプロピレンオキシド−テトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、アリロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、オクトキシ(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシ(ポリエチレンオキシド−プロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン基含有(メタ)アクリレート;p−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、o−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシシクロアルキル(メタ)アクリレート類;プラクセルFM1(ダイセル製、商品名)、プラクセルFM2(ダイセル製、商品名)等のラクトン変性ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート;2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有重合性単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリレート;ジアクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛等の金属含有ラジカル重合性単量体;2−(2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、1−(メタ)アクリロイル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−アミノ−4−シアノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の耐紫外線基含有(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチルクロライド塩、アリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のその他の(メタ)アクリル系単量体等。
【0015】
重合体P1における単量体a4由来の構成単位の構成比は25質量%以上45質量%以下である。25質量%以上にすることで塗膜の硬度が良好になり、45質量%以下にすることで塗膜の接着性や成膜性が良好になる。
【0016】
[重合体P2]
重合体P2は、本発明の水性樹脂組成物に含むことができる重合体であって、(メタ)アクリロイルオキシ基と結合したアルキル基が炭素数1から3のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレート、スチレン及びスチレン誘導体からなる群から選ばれる単量体a5由来の構成単位を50質量%以上100質量%以下の構成比で含む重合体である。
【0017】
[単量体a5]
単量体a5は、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレートのアルキル(メタ)アクリレート;スチレン;α−メチルスチレン等のスチレン誘導体である。
重合体P2において単量体a5の配合比は50質量%以上100質量%以下である。この配合比は多いほど塗膜の硬度が高くなり、少ないほど塗料の成膜性が良好となる。
【0018】
[水性樹脂組成物の製造方法]
本発明の水性樹脂組成物に含まれる重合体P1の製造方法としては、乳化重合法又は溶液重合後に水に分散させる方法が好ましい。乳化重合法では、例えば、乳化剤の存在下、各構成単位の原料となる単量体をラジカル重合開始剤により重合させる等の公知の方法を使用することができる。
【0019】
重合体P2の製造方法としては、重合体P1と同様に乳化重合法又は溶液重合後に水に分散させる方法が好ましい。特に、重合体P2の原料の単量体を乳化剤及び水で乳化状態にして得られた単量体乳化物を重合する乳化重合により製造することが好ましい。
【0020】
また重合体P1とP2を含む水性樹脂組成物を製造する場合、多段乳化重合法或いはグラディエント重合法を用いて、単量体a5を50質量%以上100質量%含む単量体を重合して重合体P2を得た後、重合体P2の存在下で重合体P1を製造することが好ましい。この方法を用いると、成膜性と硬度のバランスが良好となる傾向にある。また、付加的に他の機能を発現するために、P1,P2以外の重合体を配合、または原料となる単量体を重合することにより配合することも可能である。
【0021】
重合体P1の原料の単量体は乳化剤及び水で乳化状態として、重合系内に供給して重合することが好ましい。更に、単量体a1、a3及びa4を乳化剤及び水で乳化状態にした後に、単量体a2を混合し、得られた単量体乳化物を重合系内に供給して重合することが好ましい。この方法を用いると、塗膜の密着性が良好となる傾向がある。
【0022】
乳化重合法で重合した場合、得られた重合体P1の粒子或いは重合体P1を含む粒子の分散液は、重合後に塩基性化合物の添加により系のpHを、好ましくはpH7.5以上11.0以下、より好ましくはpH8.0以上11.0以下に調整する。pHは高いほど塗膜の防錆性が良好となる。
【0023】
pHの調整に使用できる塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1−アミノオクタン、2−ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、2−プロピルアミノエタノール、エトキシプロピルアミン、アミノベンジルアルコール、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。特に好ましくは、有機アミン化合物である。有機アミン化合物を用いると、防錆性が良好となる。
【0024】
重合体の製造に用いるラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類;2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)及びその塩類、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}及びその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)及びその塩類、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]及びその塩類等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類が挙げられる。
【0025】
ラジカル重合開始剤の添加量は、通常、単量体の総量100質量部に対して0.01〜10質量部であるが、重合の進行や反応の制御を考慮に入れると、0.02〜5質量部であることが好ましい。
【0026】
また、重合体の分子量を調整するために分子量調整剤を使用してもよい。分子量調整剤の例としては、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー等の公知の連鎖移動剤が挙げられる。分子量調整剤の使用量は、通常、単量体の総量100質量部に対して1質量部以下である。
【0027】
重合体P1及びP2の質量平均分子量は5万〜500万が好ましい。塗膜の耐久性の観点から10万以上が好ましく、成膜性の観点から400万以下が好ましい。
【0028】
本発明の水性樹脂組成物中の重合体P1及びP2を合せた固形分濃度は、10〜70質量%であることが好ましく、30〜60質量%であることがより好ましい。この固形分濃度は高いほど乾燥にかかる時間が短くなり、低いほど粘度が低下する傾向がある。
また、重合体P1は重合体P1及びP2の合計に対して20〜100質量%であることが好ましく、50〜80.0質量%であることがより好ましい。重合体P1の割合は多いほど密着性の点で好ましく、少ないほど硬度の点で好ましい。
【0029】
本発明の水性樹脂組成物は、各種顔料、消泡剤、顔料分散剤、レベリング剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、スリップ剤、防腐剤、可塑剤、造膜助剤等の公知の各種添加剤を含んでいてもよい。またポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂等の他のエマルション樹脂、水溶性樹脂、粘性制御剤、メラミン類、イソシアネート類等の硬化剤を含んでいてもよい。
【0030】
なお、造膜助剤としては、水系塗料に通常用いられているものが使用でき、例えば、炭素原子数5〜10の直鎖状、分岐状又は環状の脂肪族アルコール類;芳香族基を含有するアルコール類;一般式HO−(CHCHXO)−R(ここにおいて、Rは炭素原子数1〜10の直鎖又は分岐状のアルキル基であり、Xは水素原子又はメチル基であり、pは5以下の整数である。)で表される(ポリ)エチレングリコール又は(ポリ)プロピレングリコール等のモノエーテル類;一般式RCOO−(CHCHXO)−R(ここにおいて、R及びRは、それぞれ独立して、炭素原子数1〜10の直鎖又は分岐状のアルキル基であり、Xは水素原子又はメチル基であり、qは5以下の整数である。)で表される(ポリ)エチレングリコールエーテルエステル又は(ポリ)プロピレングリコールエーテルエステル類;トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶剤;2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールのモノ又はジイソブチレート、3−メトキシブタノール、3−メトキシブタノールアセテート、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノールアセテート等が挙げられる。
【0031】
本発明の水性樹脂組成物は種々の物品に成膜して塗膜とすることができる。基材としては、例えば、コンクリート、金属、ガラス、磁器タイル、アスファルト、木材、ゴム、プラスチック、FRP(Fiber Reinforced Plastics)基材等が挙げられる。
特に、金属に塗布して防錆塗料として用いる場合は、防錆剤としてリン酸金属塩類を含有することが好ましい。リン酸金属塩類を含有すると防錆効果がさらに向上する傾向にある。リン酸金属塩類としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸亜鉛、ポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸アルミニウムなどが、亜リン酸塩としては、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸アンモニウム、亜リン酸亜鉛などが挙げられる。これらの中でも、防錆性効果に優れる観点から、リン酸塩が好ましい。これらは1種単独で、もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
水性樹脂組成物は、噴霧コート法、ローラーコート法、バーコート法、エアナイフコート法、刷毛塗り法、ディッピング法等の公知の方法で基材に塗布できる。塗布後は、常温又は加熱乾燥することで塗膜を得ることができる。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例を示す。なお、本実施例における「部」は「質量部」を意味する。評価は以下に示す方法で行った。
【0034】
[試験塗装板の作成方法]
配合した水性樹脂組成物をNo.48のバーコーターで基材に塗布し、40℃で2時間、さらに室温で12時間乾燥して、基材に塗膜が形成された試験塗装板を作成した。基材には市販のSPCC鋼板(JIS G3141)を脱脂処理したものを使用した。
【0035】
[初期密着]
試験塗装板の塗膜にカッターナイフにて1mm間隔で100マスの切れ目を入れ碁盤目セロテープ(登録商標、ニチバン社製)剥離にて評価した。
○:剥離なし
△:剥離1マス以上30マス以下
×:剥離31マス以上
【0036】
[耐水性]
試験塗装板を23℃の水に72時間浸漬し、引き上げて2時間放置して乾燥した後の白化の有無と密着性を試験した。密着性は初期密着と同じ方法で評価した。
【0037】
[耐溶剤性]
1.5cm角に折り畳んだ15cm角のガーゼに1mlのメタノールを浸み込ませ1kgの荷重で試験塗装板の塗膜表面を20往復ラビング試験し、塗膜の変化を次の基準で目視評価した。
◎:塗膜に全く変化が無い
○:塗膜がわずかに白化する
△:塗膜が白化する
×:塗膜が侵され基材が露出する
【0038】
[硬度]
フィッシャースコープHM2000(フィッシャーインスツルメンツ社製)を使って、試験塗装板の塗膜のマルテンス硬さを測定し次の基準で評価した。
○:20N/mm以上
△:5N/mm以上20N/mm未満
×:5N/mm未満
【0039】
[防錆性]
カッターナイフで塗膜に基材まで到達する切れ目を入れた試験塗装板を用いて塩水噴霧試験を72時間行い、塗膜の状態を次の基準で評価した。試験槽温度は35℃、噴霧液は中性の5質量%の塩水、噴霧量は1.5±0.5ml/80cm/Hとし、試験装置はCASS90(スガ試験機株式会社製)を用いた。
○:切れ目以外の錆発生なし(切れ目から3mm未満の幅)
△:切れ目から3mm以上の幅で錆発生、或いは切れ目付近以外に僅かに錆発生
×:塗膜全体に錆発生
【0040】
[実施例1]
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、及び滴下ポンプを備えたフラスコに重合体P2の原料として単量体乳化物である下記初期原料混合物を仕込み、フラスコの内温を40℃に昇温した後に下記還元剤水溶液及び第1開始剤水溶液を添加した。重合発熱によるピークトップ温度を確認後、フラスコの内温を75℃に保持して重合体P2を含む水分散液を得た。
初期原料混合物:
脱イオン水 54部
第1単量体混合物:
単量体(1)
メチルメタクリレート 30部
乳化剤(1)
アデカリアソープSR−1025(商品名、株式会社ADEKA製) 2.4部
脱イオン水(1) 10部
還元剤水溶液:
硫酸鉄(II)七水和物 0.0002部
エチレンジアミン四酢酸 0.00027部
イソアスコルビン酸ナトリウム一水和物 0.13部
脱イオン水 1部
第1開始剤水溶液:
パーブチルH69(商品名、日油株式会社製) 0.02部
脱イオン水 1部
次いで、還元剤水溶液を添加してから0.5時間後の重合体P2を含む水分散液に、重合体P1の原料として単量体乳化物である下記第2単量体混合物を2.75時間かけて滴下した。さらに、単量体混合物とは別の場所より第2開始剤水溶液を3時間かけて同時滴下した。これらの滴下中はフラスコの内温を75℃に保持し、滴下終了後は75℃で1時間保持して重合体P1及び重合体P2を含む水分散液を得た。ここで、第2単量体混合物はライトエステルP−1M以外の原料を混合後、最後にライトエステルP−1Mを混合して調製したものを用いた。
第2単量体混合物:
単量体(2)
メチルメタクリレート 27.9部
n−ブチルアクリレート 34.0部
ライトエステルP−1M(商品名、共栄社化学株式会社製) 1.5部
ダイアセトンアクリルアミド 6部
乳化剤(2)
アデカリアソープSR−1025(商品名、株式会社ADEKA製) 5.6部
脱イオン水(2) 24.4部
第2開始剤水溶液:
パーブチルH69(商品名、日油株式会社製) 0.03部
脱イオン水 8部
その後、重合体P1及び重合体P2を含む水分散液を40℃まで冷却し、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール90質量%水溶液(8.66部)とアジピン酸ヒドラジドを2.8部、脱イオン水12.0部添加して重合体の水分散液を得た。固形分は45.0%あった。この水分散液100部に炭酸カルシウム34部、酸化亜鉛4.5部、リン酸亜鉛9部を配合し水性樹脂組成物を得た。
得られた水性樹脂組成物の塗膜は、上記評価方法に従い評価し、結果を表1に示した。初期密着、耐水性、防錆性、耐溶剤性、硬度に優れる結果であった。
【0041】
[実施例2〜12、比較例1〜3]
第1単量体混合物、第2単量体混合物及びライトエステルP−1Mの添加方法を表1及び表2に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして水性樹脂組成物を得た。
得られた水性樹脂組成物の塗膜は、実施例1と同様に評価し、結果を表1に示した。実施例2及び3は、重合体P2を含まない例である。なお、実施例3では単量体a5由来の構成単位を含む重合体を使用しているが、その割合が重合体P2の所定の範囲から外れた33.3質量%である点で重合体P2に該当しない。これらの例では耐溶剤性及び硬度がやや低下する傾向にあるものの、初期密着、耐水性及び防錆性に優れていた。実施例4は、単量体a2にあたるライトエステルP−1Mの添加方法を変えて製造した例であり、やや密着性に劣る傾向にあるが使用可能な評価結果であった。実施例5〜10は、単量体混合物の組成が異なる例であるが、いずれも初期密着、耐水性、防錆性に優れる結果であった。特に、実施例7は、密着性、耐水性、防錆性に優れていた。
比較例1、2は単量体a3由来の構成単位の割合が重合体P1の所定の範囲から外れる例であり、密着性或いは耐溶剤性に劣る結果であった。比較例3、4は単量体a2由来の構成単位の割合が重合体P1の所定の範囲から外れる例であり、多い場合も少ない場合も密着性が劣る結果であった。比較例5,6は、重合性単量体a1由来の構成単位の割合が重合体P1の所定の範囲から外れる例であり、多い場合も少ない場合も密着性が劣る結果であった。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1及び表2中の略号は、以下の化合物を示す。
MMA:メチルメタクリレート
St:スチレン
nBA:n−ブチルアクリレート
Daam:ダイアセトンアクリルアミド