(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
撹拌翼に耐摩耗性部材を固定すると撹拌翼の重量が増加する。そうすると、撹拌翼の使用回転数が危険回転数に近づく。これに対して、回転軸の大径化や、モータの大容量化などにより対応すると、撹拌機が大型化する。撹拌機が大型化すると、撹拌機が取り付けられる槽との接合部寸法が変わり、また、槽への荷重が増加するため、槽自体を作り変える必要がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、重量の増加を抑えつつ、耐摩耗性を向上した撹拌翼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、タービン型の撹拌翼の摩耗挙動について解析を行い、その摩耗傾向を解明した。そして、必要十分な領域のみに耐摩耗加工を施すことで、前記課題を解決できることを見出した。
【0010】
第1発明の撹拌翼は、撹拌機の回転軸に固定される固定部と、前記固定部に設けられ、前記回転軸に対して直交する円盤部と、前記円盤部の外周部と交差し、該円盤部の半径方向に沿って放射状に設けられた複数の翼板と、を備え、前記翼板は、矩形平板状であり、前記回転軸の回転方向に向いた正面と、前記正面と反対向きの背面と、前記円盤部の中心側の内縁と、前記円盤部の半径方向外側の外縁と、前記内縁と前記外縁とを接続する一対の側縁と、を備え、前記翼板には、前記正面、前記外縁、前記一対の側縁、および前記背面のうち前記外縁および前記一対の側縁から内側へ所定の第1幅の領域のみに耐摩耗層が形成されて
おり、前記翼板は前記円盤部の表裏面に対して傾斜して設けられており、前記円盤部には、前記円盤部の表裏面のうち前記翼板の前記正面と鋭角に交わる方の面の一部であって、前記円盤部の外周縁から中心側へ所定の第2幅の領域のみに耐摩耗層が形成されており、中心部は前記円盤部の母材が露出していることを特徴とする。
第2発明の撹拌翼は、
第1発明において、前記翼板および前記円盤部の母材の表面のうち前記耐摩耗層の形成領域の全部または一部が切削されており、その切削部分に前記耐摩耗層が形成されていることを特徴とする。
第3発明の撹拌翼は、第1
または第2発明において、前記第1幅は10mm以上であることを特徴とする。
第4発明の撹拌翼は、
第1〜第3発明のいずれかにおいて、前記第2幅は10mm以上であり、前記円盤部の外周縁と前記翼板の前記内縁との距離より短いことを特徴とする。
第5発明の撹拌翼は、
第1〜第4発明のいずれかにおいて、前記耐摩耗層の厚みは0.1mm以上であることを特徴とする。
第6発明の撹拌翼は、
第1〜第5発明のいずれかにおいて、前記耐摩耗層はコバルト、クロム、およびタングステンを含む合金で形成されていることを特徴とする。
第7発明の撹拌翼は、
第1〜第6発明のいずれかにおいて、金属含有固形物を含むスラリーを撹拌することを特徴とする。
第8発明の撹拌翼は、
第1〜第6発明のいずれかにおいて、ニッケルを含む硫化物が含まれるスラリーが供給され、前記硫化物に含まれるニッケルを空気との反応により浸出するオートクレーブに設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、タービン型の撹拌翼において摩耗しやすい領域のみに耐摩耗層が形成されているので、耐摩耗材による重量の増加を抑えつつ、耐摩耗性を向上できる。
特に、円盤部のうち傾斜タービン型の撹拌翼において摩耗しやすい領域のみに耐摩耗層が形成されているので、耐摩耗材による重量の増加を抑えつつ、耐摩耗性を向上できる。
第2発明によれば、撹拌翼の母材の表面を切削してから耐摩耗層を形成するので、母材の切削分だけ撹拌翼の重量を低減できる。
第3発明によれば、第1幅が10mm以上であるので、十分な耐摩耗性が得られる。
第4発明によれば、第2幅が10mm以上であるので、十分な耐摩耗性が得られる。また、第2幅が円盤部の外周縁と翼板の内縁との距離より短いので、耐摩耗材による重量の増加を抑えることができる。
第5発明によれば、耐摩耗層の厚みが0.1mm以上であるので、十分な耐摩耗性が得られる。
第6発明によれば、耐摩耗層がコバルト、クロム、およびタングステンを含む合金で形成されているので、十分な耐摩耗性が得られる。
第7発明によれば、スラリーに含まれる金属含有固形物との摩擦により摩耗しやすい領域に耐摩耗層が形成されているので、撹拌翼の耐摩耗性が高く、撹拌翼を長期間連続して使用できる。
第8発明によれば、空気を剪断するために撹拌翼を高速回転させても、撹拌翼は耐摩耗性が高いので、撹拌翼を長期間連続して使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る撹拌翼1は、金属含有固形物を含むスラリーなど、摩耗性を有する液体を撹拌するのに好適に用いられる。撹拌翼1は、特に、金属含有固形物を含むスラリーに、酸化剤として空気、酸素、酸素富化空気、塩素ガスなどの気体を吹き込んで、固形物に含まれる金属を液中に浸出させる工程において、スラリーを撹拌するのに好適に用いられる。ここで、「金属含有固形物」とは金属を含有する鉱物などを意味する。
【0014】
前記工程の例として、ニッケルを含む硫化物、例えばニッケル・コバルト混合硫化物を原料として硫酸ニッケルを製造するプロセスにおける加圧浸出工程が挙げられる。このプロセスでは、原料を水およびニッケル水溶液でレパルプして得た原料スラリーを加圧浸出工程に供給する。加圧浸出工程では原料スラリーをオートクレーブに供給し、原料スラリーに空気を吹き込みつつ、高温高圧下で原料に含まれるニッケルなどの金属を空気との反応により液中に浸出させる。オートクレーブから排出されたスラリーを降圧、冷却した後、不純物を除去して硫酸ニッケル水溶液または硫酸ニッケル結晶を得る。
【0015】
図7に示すように、オートクレーブを構成する槽200には原料スラリーを撹拌する撹拌機100が設けられている。撹拌機100は槽200の上部に設けられたモータ101と、モータ101の駆動により回転する回転軸102と、回転軸102に固定された撹拌翼1とからなる。回転軸102は鉛直方向に沿って配置されており、撹拌翼1は原料スラリー内に配置されている。
【0016】
槽200には原料スラリーに空気を吹き込む配管201が設けられている。配管201の端部は撹拌翼1の直下に配置されている。そのため、空気は撹拌翼1の直下に吹き込まれる。
【0017】
撹拌機100を動作させると、撹拌翼1が回転し、原料スラリーを撹拌できる。また、配管201から供給された空気が撹拌翼1の回転により微細化され、原料スラリー中に分散する。これにより、浸出反応が促進され、原料に含まれる金属が液中に浸出する。
【0018】
つぎに、撹拌翼1を説明する。
図1から
図4に示すように、撹拌翼1はタービン型であり、固定部10、円盤部20、複数の翼板30、およびスタビライザ40からなる。これら各構成部材の母材は特に限定されないが、例えばステンレス鋼である。
【0019】
固定部10は撹拌機100の回転軸102に固定される部材である。固定部10が回転軸102に固定されることにより、撹拌翼1が回転軸102に取り付けられる。固定部10は円筒形の部材である。固定部10の内部に回転軸102の先端部が挿入され、固定部10が回転軸102に固定される。
【0020】
固定部10の回転軸102への固定手段は特に限定されない。例えば、固定部10と回転軸102との双方に形成された凹状のキー溝に、角柱状のキーを差し込む。これにより、固定部10が回転軸102に対して回り止めされる。また、固定部10と回転軸102とを割りピンにより固定すれば、固定部10が回転軸102に対して軸方向にずれないよう固定される。
【0021】
円盤部20は円形平板状の部材である。円盤部20はその中心部が固定部10の下端に固定される。円盤部20はその表裏面が回転軸102の軸芯に対して直交するよう配置される。また、円盤部20の中心は回転軸102の軸芯上に配置される。円盤部20の固定部10への固定手段は特に限定されない。ボルトで固定してもよいし、溶接で固定してもよい。
【0022】
円盤部20の表裏面のうち、
図1における上側の面を上面21、下側の面を下面22と称する。上面21と下面22とは向きが異なるだけで、その性質に特に違いはない。
【0023】
翼板30は矩形平板状の部材である。複数の翼板30が円盤部20の半径方向に沿って放射状に設けられている。複数の翼板30は撹拌翼1の重量バランスがとれるように等角度間隔で設けられる。翼板30の数は特に限定されないが、本実施形態の撹拌翼1は6つの翼板30を有する。
【0024】
翼板30は円盤部20の外周部に、円盤部20と交差するよう設けられている。すなわち、翼板30は固定部10から離間した位置に配置されている。また、翼板30は円盤部20の上下面21、22を貫通して設けられている。
【0025】
翼板30は円盤部20の上下面21、22に対して傾斜して設けられている。すなわち、撹拌翼1は傾斜タービン型である。翼板30と円盤部20とのなす角θは特に限定されないが、例えば45°である。
【0026】
翼板30の円盤部20への固定手段は特に限定されない。翼板30および円盤部20の一方または両方に切欠きを設け、一方を他方の切欠きに挿入することで、翼板30を円盤部20と交差させることができる。翼板30と円盤部20とは溶接により固定することが一般的である。
【0027】
撹拌翼1は
図2および
図3に示す白抜き矢印の方向に回転する。すなわち、撹拌翼1は平面視において時計回りに回転する。なお、撹拌翼1の回転方向はこの逆(平面視において反時計回り)でもよい。翼板30が有する2つの面のうち回転方向に向いた面を正面31、正面31と反対向きの面を背面32と称する。また、翼板30が有する4つの縁のうち円盤部20の中心側の縁を内縁33、円盤部20の半径方向外側の縁を外縁34、内縁33と外縁34とを接続する一対の縁のそれぞれを側縁35と称する。
【0028】
スタビライザ40は略円筒形の部材であり、円盤部20の下面22に固定されている。スタビライザ40の中心軸は回転軸102の軸芯と一致している。スタビライザ40の上部には複数の開口部41が形成されている。開口部41の数は翼板30と同数である。各翼板30の一部分は開口部41からスタビライザ40の内部に挿入されている。スタビライザ40の円盤部20への固定手段は特に限定されない。ボルトで固定してもよいし、溶接で固定してもよい。
【0029】
スタビライザ40の下方から空気が供給される(
図7参照)。スタビライザ40は供給された空気を円盤部20の中心付近に導き、また、中心から半径方向外側に導く機能を有する。これにより、供給された空気が翼板30で剪断されやすくなる。なお、スタビライザ40を設けない構成としてもよい。
【0030】
本実施形態の撹拌翼1は必要十分な領域のみに耐摩耗加工が施されていることを特徴とする。耐摩耗加工は、例えば、耐摩耗材を溶射することで行われる。
図1から
図4においてドットでハッチングされた領域に耐摩耗層が形成されている。
【0031】
耐摩耗材としては特に限定されないが、耐摩耗合金、セラミックスなどが挙げられる。耐摩耗合金としてコバルト、クロム、およびタングステンを含む合金が挙げられる。このような合金はステライト(登録商標)として知られている。耐摩耗材としてコバルト、クロム、およびタングステンを含む合金を用いれば、十分な耐摩耗性が得られる。
【0032】
翼板30には、正面31の全体、外縁34、および一対の側縁35、35に耐摩耗層が形成されている(
図3参照)。また、背面32のうち、外縁34および一対の側縁35、35から内側へ所定の第1幅W1の領域(コの字形の領域)に耐摩耗層が形成されている(
図2参照)。耐摩耗層の形成領域は実質的にこれらの領域のみであり、他の領域には耐摩耗層が形成されておらず、翼板30の母材が露出している。
【0033】
なお、特許請求の範囲に記載の「前記翼板には〜のみに耐摩耗層が形成されている」とは、実質的に、翼板の該当箇所のみに耐摩耗層が形成されていることを意味する。翼板の重量や耐摩耗性に実質的に影響を及ぼさない程度に、該当箇所以外の領域に耐摩耗層が形成されている場合もこれに含まれる。
【0034】
第1幅W1の寸法は特に限定されないが、10mm以上とすることが好ましく、50mm以上とすることがより好ましい。第1幅W1を10mm以上とすれば、十分な耐摩耗性が得られる。第1幅W1を50mm以上とすれば、耐摩耗性をより高められる。また、第1幅W1は60mm以下とすることが好ましい。少なくとも、第1幅W1は背面32における耐摩耗層の形成領域がコの字形となり、母材が露出した領域が残るように設定される。そうすれば、耐摩耗材による重量の増加を抑えることができる。
【0035】
図5に示すように、翼板30の正面31は母材36の表面を所定深さまで切削した後に、耐摩耗層37を形成している。また、翼板30の背面32は母材36の表面のうち耐摩耗層37の形成領域を所定深さまで切削した後に、耐摩耗層37を形成している。ここで、母材36の切削深さと耐摩耗層37の厚みとを同一としている。そのため、背面32は母材36が露出した領域と耐摩耗層37の形成領域とが面一となっている。例えば、厚さが8〜12mmの母材36の表面を深さ2〜3mmで切削した後に、耐摩耗層37を切削深さと同一の厚みとなるように形成すればよい。
【0036】
このように、翼板30の母材36の表面のうち耐摩耗層37の形成領域の一部が切削されており、その切削部分に耐摩耗層37が形成されている。なお、母材36を切削する領域は上記に限定されない。母材36の表面のうち耐摩耗層37の形成領域の全部を切削してもよい。
【0037】
耐摩耗層37の厚みTは特に限定されないが、0.1mm以上とすることが好ましく、2mm以上とすることがより好ましい。耐摩耗層37の厚みTを0.1mm以上とすれば、十分な耐摩耗性が得られる。耐摩耗層37の厚みTを2mm以上とすれば、耐摩耗性をより高められる。また、耐摩耗層37の厚みTは3mm以下とすることが好ましい。少なくとも、耐摩耗層37の厚みTは切削前の母材36の厚みより薄く設定される。
【0038】
円盤部20には、上下面21、22のうち翼板30の正面31と鋭角に交わる方の面の一部に耐摩耗層が形成されている(
図2参照)。本実施形態において上記面は上面21である。なお、撹拌翼1の回転方向が逆(平面視において反時計回り)の場合、上記面は下面22である。
【0039】
円盤部20の上面21には外周縁から中心側へ所定の第2幅W2の領域のみに耐摩耗層が形成されている。耐摩耗層の形成領域は実質的にこの領域のみであり、他の領域には耐摩耗層が形成されておらず、円盤部20の母材が露出している。
【0040】
なお、特許請求の範囲に記載の「前記円盤部には〜のみに耐摩耗層が形成されている」とは、実質的に、円盤部の該当箇所のみに耐摩耗層が形成されていることを意味する。円盤部の重量や耐摩耗性に実質的に影響を及ぼさない程度に、該当箇所以外の領域に耐摩耗層が形成されている場合もこれに含まれる。
【0041】
第2幅W2の寸法は特に限定されないが、10mm以上とすることが好ましく、50mm以上とすることがより好ましい。第2幅W2を10mm以上とすれば、十分な耐摩耗性が得られる。第2幅W2を50mm以上とすれば、耐摩耗性をより高められる。また、第2幅W2は60mm以下とすることが好ましい。あるいは、第2幅W2を円盤部20の外周縁と翼板30の内縁33との距離Dより短くすることが好ましい。そうすれば、耐摩耗材による重量の増加を抑えることができる。
【0042】
図6に示すように、円盤部20の上面21は母材23の表面のうち耐摩耗層24の形成領域を所定深さまで切削した後に、耐摩耗層24を形成している。ここで、母材23の切削深さと耐摩耗層24の厚みとを同一としている。そのため、上面21は母材23が露出した領域と耐摩耗層24の形成領域とが面一となっている。例えば、厚さが8〜12mmの母材23の表面を深さ2〜3mmで切削した後に、耐摩耗層24を切削深さと同一の厚みとなるように形成すればよい。
【0043】
このように、円盤部20の母材23の表面のうち耐摩耗層24の形成領域の全部が切削されており、その切削部分に耐摩耗層24が形成されている。なお、母材23を切削する領域は上記に限定されない。母材23の表面のうち耐摩耗層24の形成領域の一部を切削してもよい。
【0044】
耐摩耗層24の厚みTは特に限定されないが、0.1mm以上とすることが好ましく、2mm以上とすることがより好ましい。耐摩耗層24の厚みTを0.1mm以上とすれば、十分な耐摩耗性が得られる。耐摩耗層24の厚みTを2mm以上とすれば、耐摩耗性をより高められる。また、耐摩耗層24の厚みTは3mm以下とすることが好ましい。少なくとも、耐摩耗層24の厚みTは切削前の母材23の厚みより薄く設定される。
【0045】
タービン型の撹拌翼1の場合、翼板30の正面31にスラリーの固形分が衝突する。そのため、正面31は全体に渡って摩耗しやすい。また、翼板30の外縁34および一対の側縁35、35の近傍に渦流が発生する。そのため、外縁34および一対の側縁35、35に加え、これらの近傍の背面32の一部が摩耗しやすい。撹拌翼1は翼板30のうち、タービン型の撹拌翼1において摩耗しやすい領域のみに耐摩耗層が形成されているので、耐摩耗材による重量の増加を抑えつつ、耐摩耗性を向上できる。
【0046】
また、傾斜タービン型の撹拌翼1の場合、円盤部20の外周縁の近傍では下降流が生じる。そのため、円盤部20の上面21の外周縁近傍が摩耗しやすい。撹拌翼1は円盤部20のうち傾斜タービン型の撹拌翼1において摩耗しやすい領域のみに耐摩耗層が形成されているので、耐摩耗材による重量の増加を抑えつつ、耐摩耗性を向上できる。
【0047】
なお、撹拌翼1の回転方向が逆(平面視において反時計回り)の場合、円盤部20の外周縁の近傍では上昇流が生じる。そのため、円盤部20の下面22の外周縁近傍が摩耗しやすい。この場合、下面22の外周縁近傍に耐摩耗層が形成される。
【0048】
また、撹拌翼1の母材の表面を切削してから耐摩耗層を形成している。これにより、母材の切削分だけ撹拌翼1の重量を低減できる。既存の撹拌翼に耐摩耗加工を施す場合、加工後の重量増加を抑えることができる。
【0049】
撹拌翼1の重量増加を抑えることができるので、撹拌翼1の使用回転数が危険回転数に近づくことがない。その結果、撹拌機100を大型化する必要がなく、槽200を作り変える必要がない。そのため、設備コストの増加を抑制できる。
【0050】
撹拌翼1はスラリーに含まれる金属含有固形物との摩擦により摩耗しやすい領域に耐摩耗層が形成されている。空気を剪断するために撹拌翼1を高速回転させても、撹拌翼1の耐摩耗性が高く、撹拌翼1を長期間連続して使用できる。
【0051】
一般に耐摩耗材は高価であり、加工に手間がかかる。撹拌翼1は必要十分な領域のみに耐摩耗加工を施しているので、耐摩耗材の使用量を低減でき、加工を簡単に行える。そのため、加工コストを低減できる。
【0052】
〔第2実施形態〕
つぎに、本発明の第2実施形態に係る撹拌翼2を説明する。
図8および
図9に示すように、本実施形態の撹拌翼2は固定部10、円盤部20、および複数の翼板30からなる。スタビライザ40は設けられていない。翼板30は円盤部20の上下面21、22に対して直交して設けられている。すなわち、撹拌翼2は垂直タービン型である。その余の構成は第1実施形態と同様であるので、同一部材に同一符合を付して説明を省略する。
【0053】
翼板30には第1実施形態と同一の領域に耐摩耗層が形成されている。すなわち、翼板30は正面31の全体、外縁34、および一対の側縁35、35に耐摩耗層が形成されている。また、背面32のうち、外縁34および一対の側縁35、35から内側へ所定の第1幅の領域(コの字形の領域)に耐摩耗層が形成されている。
【0054】
一方、円盤部20には上面21にも下面22にも耐摩耗層が形成されていない。垂直タービン型の撹拌翼2の場合、円盤部20の外周縁の近傍における下降流、上昇流は弱い。そのため、円盤部20の外周縁近傍はそれほど摩耗せず、耐摩耗加工を施す必要はない。円盤部20に耐摩耗層を形成しなくてよいため、耐摩耗材による重量の増加を抑えられる。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
ニッケル・コバルト混合硫化物を原料として硫酸ニッケルを製造するプロセスの操業を行った。前記プロセスの加圧浸出工程では原料スラリーをオートクレーブに供給し、原料スラリーに空気を吹き込みつつ、高温高圧下で原料に含まれるニッケルなどの金属を空気との反応により液中に浸出させる。オートクレーブ内のスラリーの液温は150〜220℃、オートクレーブ内の圧力はゲージ圧で1.7〜2.3MPa、原料スラリーの固形分濃度は200〜300g/L、撹拌機の回転数は160〜180RPMである。オートクレーブに設けられる撹拌機に
図1から
図4に示す撹拌翼1を設けた。
【0056】
図1から
図4に示すように翼板30に耐摩耗加工を行った。翼板30の正面31は母材の表面を切削した後に耐摩耗層を切削深さと同一の厚みとなるように形成した。翼板30の外縁34および一対の側縁35、35に耐摩耗層を形成した。翼板30の背面32は母材の表面のうち耐摩耗層の形成領域を切削した後に、耐摩耗層を切削深さと同一の厚みとなるように形成した。耐摩耗材としてステライト(登録商標)#12を用いた。
【0057】
図1から
図4に示すように円盤部20に耐摩耗加工を行った。円盤部20の上面21は母材の表面のうち耐摩耗層の形成領域を切削した後に、耐摩耗層を切削深さと同一の厚みとなるように形成した。耐摩耗材としてステライト(登録商標)#6を用いた。
【0058】
撹拌翼1の重量は約60kgであり、耐摩耗加工の前後で同じであった。
加圧浸出工程の操業を約2.5ヶ月間行った。その結果、撹拌翼1の表面の一部に多少の摩耗が認められたものの、耐摩耗層は維持されていた。そのため、摩耗部分のみに耐摩耗材を溶射することで、撹拌翼1を再使用できた。
【0059】
(比較例1)
耐摩耗加工を施していない撹拌翼を用いて加圧浸出工程の操業を行った。撹拌翼の形状は
図1から
図4に示す撹拌翼1と同一である。その余の条件は実施例1と同様である。
【0060】
加圧浸出工程の操業を約2ヶ月間行った。その結果、翼板に摩耗による厚みの減少や端部欠損が見られた。また、円盤部の翼板の付け根部分に摩耗による亀裂が生じていた。そのため、撹拌翼の摩耗が激しかったため、新品と交換する必要が生じた。