特許第6874470号(P6874470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6874470ポリケトン樹脂組成物、ポリケトン硬化物、光学素子、画像表示装置、被覆材料及び成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874470
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ポリケトン樹脂組成物、ポリケトン硬化物、光学素子、画像表示装置、被覆材料及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20210510BHJP
   C08K 5/16 20060101ALI20210510BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20210510BHJP
   C09D 165/00 20060101ALI20210510BHJP
   H01L 33/56 20100101ALI20210510BHJP
【FI】
   C08L65/00
   C08K5/16
   C08K3/36
   C09D165/00
   H01L33/56
【請求項の数】17
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2017-66347(P2017-66347)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-168271(P2018-168271A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2020年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松谷 寛
(72)【発明者】
【氏名】松永 昌大
(72)【発明者】
【氏名】石川 洋平
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−019901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 65/00
C08K 3/36
C08K 5/16
C09D 165/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される構造単位を主鎖に含むポリケトン、窒素原子と、前記窒素原子と結合するヒドロキシメチル基及びアルコキシメチル基からなる群より選択される少なくとも1種の基と、を有する含窒素化合物、並びに、無機粒子を含有し、
前記ポリケトン、前記含窒素化合物及び前記無機粒子の合計量100質量部に対して、前記無機粒子の含有量が、10質量部〜70質量部である、ポリケトン樹脂組成物。
【化1】


〔一般式(I)中、Xは、芳香環を含む炭素数〜50の2価の基を表し、Yは、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基を表し、nは1〜1500の整数を表す。〕
【請求項2】
前記無機粒子の平均粒子径が、10nm〜200nmである、請求項1に記載のポリケトン樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(I)において、Xが、下記一般式(II−1)〜下記一般式(II−3)からなる群より選択される少なくとも1種で表される2価の基である、請求項1又は請求項2に記載のポリケトン樹脂組成物。
【化2】

〔一般式(II−1)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜30の炭化水素基を表し、mは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表す。〕
【化3】

〔一般式(II−2)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜30の炭化水素基を表し、mは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表し、Zは、酸素原子又は下記一般式(III−1)〜下記一般式(III−7)のいずれかで表される2価の基を表す。〕
【化4】

〔一般式(III−1)〜一般式(III−7)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜30の炭化水素基を表し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、mは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表し、nは、それぞれ独立に、0〜4の整数を表し、pは、それぞれ独立に、0〜2の整数を表す。〕
【化5】

〔一般式(II−3)中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜30の炭化水素基を表し、nは、それぞれ独立に、0〜4の整数を表す。〕
【請求項4】
前記一般式(I)において、Yが、2価の飽和炭化水素基である、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物。
【請求項5】
前記一般式(I)において、Yが、2価の飽和脂環式炭化水素基である、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物。
【請求項6】
前記一般式(I)において、Yの炭素数が、6〜30である、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物。
【請求項7】
前記無機粒子が、シリカ粒子である、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物。
【請求項8】
前記含窒素化合物の分子中に含まれる前記ヒドロキシメチル基及び前記アルコキシメチル基の総数が、2個〜6個である、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物。
【請求項9】
熱潜在酸発生剤をさらに含有する、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物。
【請求項10】
溶媒をさらに含有する、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物の硬化物である、ポリケトン硬化物。
【請求項12】
厚さ10μmとしたときのヘイズが、1%未満である、請求項11に記載のポリケトン硬化物。
【請求項13】
400nmの透過率が、膜厚1μm換算で85%以上である、請求項11又は請求項12に記載のポリケトン硬化物。
【請求項14】
請求項11〜請求項13のいずれか1項に記載のポリケトン硬化物を有する光学素子。
【請求項15】
請求項11〜請求項13のいずれか1項に記載のポリケトン硬化物を有する画像表示装置。
【請求項16】
請求項11〜請求項13のいずれか1項に記載のポリケトン硬化物を有する被覆材料。
【請求項17】
請求項11〜請求項13のいずれか1項に記載のポリケトン硬化物を有する成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリケトン樹脂組成物、ポリケトン硬化物、光学素子、画像表示装置、被覆材料及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖に芳香環とカルボニル基とを有する芳香族ポリケトンは、優れた耐熱性と機械特性とを有しており、エンジニアリングプラスチックとして利用されている。芳香族ポリケトンに属する高分子のほとんどは、求核芳香族置換反応を利用して重合された芳香族ポリエーテルケトンであり、主鎖にエーテル結合も有している。これに対し、主鎖にエーテル結合を有していない芳香族ポリケトンは、芳香族ポリエーテルケトンよりもさらに耐熱性及び耐薬品性に優れることが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
近年、脂環式ジカルボン酸と2,2’−ジアルコキシビフェニル化合物とをFriedel−Craftsアシル化により直接重合することで、高い透明性と耐熱性とを両立した芳香族ポリケトンが得られることが報告され(例えば、特許文献3参照)、光学部品への応用が期待されている。
【0004】
芳香族ポリケトン等の樹脂材料を光学部品に応用する場合には、無機材料では得られない特性を発揮できることが望ましく、そのような特性としては、例えば、軽量性及び柔軟性が挙げられる。軽量性を活かした適用例としては、例えば、ポータブルデバイスのガラス代替材及びコート材が挙げられ、柔軟さを活かした適用例としては、フレキシブルディスプレイ及び有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)ディスプレイが挙げられる。なかでも、有機ELディスプレイへの樹脂材料の適用は、近年特に注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−7730号公報
【特許文献2】特開2005−272728号公報
【特許文献3】特開2013−53194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機ELディスプレイ等の材料には、高い透明性と耐熱性の他に、高い表面硬度並びに酸素及び水蒸気に対する高いバリア性も求められる。しかし、上記特許文献に記載されている芳香族ポリケトンから形成される膜は、透明性及び耐熱性に優れるが、表面硬度並びに酸素及び水蒸気に対するバリア性に改善の余地がある。したがって、高い透明性と耐熱性を維持しつつ、良好な表面硬度並びに酸素及び水蒸気に対する高いバリア性を有する芳香族ポリケトンの開発が望まれている。
【0007】
本発明の一形態は、上記現状に鑑みなされたものであり、硬化膜としたときに、透明性及び耐熱性に優れ、高い表面硬度並びに酸素及び水蒸気に対する高いバリア性を示すポリケトン樹脂組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明の一形態は、透明性及び耐熱性に優れ、高い表面硬度並びに酸素及び水蒸気に対する高いバリア性を示すポリケトン硬化物並びにポリケトン硬化物を有する光学素子、画像表示装置、被覆材料及び成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 下記一般式(I)で表される構造単位を主鎖に含むポリケトン、窒素原子と、前記窒素原子と結合するヒドロキシメチル基及びアルコキシメチル基からなる群より選択される少なくとも1種の基と、を有する含窒素化合物、並びに、無機粒子を含有し、
前記ポリケトン、前記含窒素化合物及び前記無機粒子の合計量100質量部に対して、前記無機粒子の含有量が、10質量部〜70質量部である、ポリケトン樹脂組成物。
【0009】
【化1】
【0010】
〔一般式(I)中、Xは、置換基を有していてもよい炭素数1〜50の2価の基を表し、Yは、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基を表し、nは1〜1500の整数を表す。〕
<2> 前記無機粒子の平均粒子径が、10nm〜200nmである、<1>に記載のポリケトン樹脂組成物。
<3> 前記一般式(I)において、Xが、芳香環を含む炭素数6〜50の2価の基である、<1>又は<2>に記載のポリケトン樹脂組成物。
<4> 前記一般式(I)において、Xが、下記一般式(II−1)〜下記一般式(II−3)からなる群より選択される少なくとも1種で表される2価の基である、<1>〜<3>のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物。
【0011】
【化2】
【0012】
〔一般式(II−1)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、mは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表す。〕
【0013】
【化3】
【0014】
〔一般式(II−2)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、mは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表し、Zは、酸素原子又は下記一般式(III−1)〜下記一般式(III−7)のいずれかで表される2価の基を表す。〕
【0015】
【化4】
【0016】
〔一般式(III−1)〜一般式(III−7)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、mは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表し、nは、それぞれ独立に、0〜4の整数を表し、pは、それぞれ独立に、0〜2の整数を表す。〕
【0017】
【化5】
【0018】
〔一般式(II−3)中、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、nは、それぞれ独立に、0〜4の整数を表す。〕
<5> 前記一般式(I)において、Yが、2価の飽和炭化水素基である、<1>〜<4>のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物。
<6> 前記一般式(I)において、Yが、2価の飽和脂環式炭化水素基である、<1>〜<5>のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物。
<7> 前記一般式(I)において、Yの炭素数が、6〜30である、<1>〜<6>のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物。
<8> 前記無機粒子が、シリカ粒子である、<1>〜<7>のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物。
<9> 前記含窒素化合物の分子中に含まれる前記ヒドロキシメチル基及び前記アルコキシメチル基の総数が、2個〜6個である、<1>〜<8>のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物。
<10> 熱潜在酸発生剤をさらに含有する、<1>〜<9>のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物。
<11> 溶媒をさらに含有する、<1>〜<10>のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物。
<12> <1>〜<11>のいずれか1項に記載のポリケトン樹脂組成物の硬化物である、ポリケトン硬化物。
<13> 厚さ10μmとしたときのヘイズが、1%未満である、<12>に記載のポリケトン硬化物。
<14> 400nmの透過率が、膜厚1μm換算で85%以上である、<12>又は<13>に記載のポリケトン硬化物。
<15> <12>〜<14>のいずれか1項に記載のポリケトン硬化物を有する光学素子。
<16> <12>〜<14>のいずれか1項に記載のポリケトン硬化物を有する画像表示装置。
<17> <12>〜<14>のいずれか1項に記載のポリケトン硬化物を有する被覆材料。
<18> <12>〜<14>のいずれか1項に記載のポリケトン硬化物を有する成形体。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一形態によれば、硬化膜としたときに、透明性及び耐熱性に優れ、高い表面硬度並びに酸素及び水蒸気に対する高いバリア性を示すポリケトン樹脂組成物を提供することができる。さらに、本発明の一形態によれば、透明性及び耐熱性に優れ、高い表面硬度並びに酸素及び水蒸気に対する高いバリア性を示すポリケトン硬化物並びにポリケトン硬化物を有する光学素子、画像表示装置、被覆材料及び成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0021】
本開示において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「積層」との語は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
本開示において「平均粒子径」とは、特に断りのない場合、「平均一次粒子径」と同義である。
本開示においてポリケトン樹脂組成物の硬化物を、硬化物又はポリケトン硬化物ともいう。
本開示においてポリケトン樹脂組成物の硬化物の一形態である膜を、硬化膜又はポリケトン膜ともいう。
【0022】
本明細書において「複数の芳香環は相互に非共役であるか、又は相互の共役関係が弱い」とは、2つの芳香環がエーテル結合若しくはメチレン結合を介していること、又は2,2’−置換ビフェニルのように置換基による立体障害により、芳香環どうしの共役が抑えられることをいう。
【0023】
本明細書において「透明性に優れる」とは、可視光の透過性(少なくとも波長400nmの可視光の透過性)が85%以上(膜厚1μm換算)であることを意味する。
【0024】
本明細書において「耐熱性」とは、ポリケトンを含む部材においてガラス転移温度(Tg)が少なくとも180℃より高いことを意味する。
【0025】
本明細書において「高い表面硬度」とは、硬化膜の鉛筆硬度が2H以上であることを意味する。
【0026】
本明細書において「高いバリア性」とは、硬化膜の水蒸気透過率が5g/m/day以下であること及び硬化膜の酸素透過率が5cc/m/day以下であることを意味する。
【0027】
<ポリケトン樹脂組成物>
本開示のポリケトン樹脂組成物は、下記一般式(I)で表される構造単位を主鎖に含むポリケトン(以下、「特定ポリケトン」ともいう)、窒素原子と、前記窒素原子と結合するヒドロキシメチル基及びアルコキシメチル基からなる群より選択される少なくとも1種の基と、を有する含窒素化合物(以下、「特定含窒素化合物」ともいう)、並びに、無機粒子を含有する。
【0028】
【化6】
【0029】
一般式(I)中、Xは、置換基を有していてもよい炭素数1〜50の2価の基を表し、Yは、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基を表し、nは1〜1500の整数を表す。
【0030】
本開示のポリケトン樹脂組成物は、上記構成とすることで、硬化膜としたときに、透明性及び耐熱性に優れ、高い表面硬度並びに酸素及び水蒸気に対する高いバリア性を示す。その理由は、明らかではないが以下のように推測される。
特定ポリケトンは、主鎖にカルボニル基を含むため、耐熱性及び透明性に優れる。また、特定含窒素化合物が架橋剤として機能する場合には、ポリケトン主鎖どうしが架橋し、その結果、特定ポリケトンどうしの絡み合いが多くなり構造が密になることから、硬化膜としたとき酸素及び水蒸気に対する高いバリア性が発現すると考えられる。
【0031】
以下、各成分について説明する。
【0032】
(A)特定ポリケトン
ポリケトン樹脂組成物は、特定ポリケトンを含有する。特定ポリケトンは、下記一般式(I)で表される構造単位を主鎖に含む。
【0033】
【化7】
【0034】
一般式(I)中、Xは、置換基を有していてもよい炭素数1〜50の2価の基を表す。Yは、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の2価の基を表す。nは1〜1500の整数を表し、2〜1000であることが好ましく、5〜500であることがより好ましい。なお、2価の基が置換基を有する場合、2価の基の炭素数には、置換基の炭素数を含めないものとする。以降、同様である。
nが2以上の場合、複数のX及びYは、同じであっても異なっていてもよい。
【0035】
Xで表される2価の基の炭素数は、1〜50であり、1〜30であることが好ましく、1〜24であることがより好ましい。
【0036】
Xが有し得る置換基は、特に限定されず、具体的には、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数2〜5のアシル基等が挙げられる。
【0037】
Xで表される2価の基は、炭化水素基であることが好ましく、芳香環を含むことがより好ましい。Xが芳香環を有すると、より耐熱性が向上する傾向にある。
【0038】
Xは、耐熱性が向上する観点から、芳香環を含む炭素数6〜50の2価の基であることが好ましい。芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ナフタセン環、クリセン環、ピレン環、トリフェニレン環、ペンタセン環、ベンゾピレン環等が挙げられる。
【0039】
さらに、Xで表される2価の基は、複数の芳香環を含むことが好ましく、複数の芳香環は相互に非共役であるか、又は相互の共役関係が弱い2価の基(以下、「特定芳香環基」ともいう)であることがより好ましい。これにより、ポリケトン合成時に低い反応温度で良好なジアシル化を実現することができ、分子量が高く耐熱性に優れるポリケトンとなる傾向にある。特定芳香環基は、炭素数が12〜50であることが好ましい。
【0040】
Xとしては、下記一般式(II−1)〜下記一般式(II−3)からなる群より選択される少なくとも1種で表される2価の基であることが好ましい。
【0041】
【化8】
【0042】
一般式(II−1)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、mは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表す。波線を付した部分は、結合手を意味する。以降、同様である。
【0043】
耐熱性の観点から、Rで表される炭化水素基の炭素数は、1〜30であり、1〜10であることが好ましく、1〜6であることがより好ましい。なお、炭化水素基が置換基を有する場合、炭化水素基の炭素数には、置換基の炭素数を含めないものとする。以降、同様である。
【0044】
で表される炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基等が挙げられる。
【0045】
で表される飽和脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、neo−ペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−イコサニル基、n−トリアコンタニル基等が挙げられる。また、飽和脂肪族炭化水素基の末端部分に後述の脂環式炭化水素基を有するものであってもよい。
【0046】
で表される不飽和脂肪族炭化水素基としては、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、エチニル基等のアルキニル基などが挙げられる。また、不飽和脂肪族炭化水素基の末端部分に後述の脂環式炭化水素基を有するものであってもよい。
【0047】
で表される脂環式炭化水素基としては、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基等のシクロアルキル基、シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基などが挙げられる。また、脂環式炭化水素基の環に、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を有するものであってもよい。
【0048】
で表される炭化水素基が有し得る置換基は、特に限定されず、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数2〜5のアシル基等が挙げられる。
【0049】
一般式(II−1)中、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表す。耐熱性の観点から、Rで表される炭化水素基の炭素数は、1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。
【0050】
で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、Rで例示した炭素数1〜30の炭化水素基と同様のものが挙げられる。また、Rで表される炭化水素基が有し得る置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数2〜5のアシル基等が挙げられる。
【0051】
一般式(II−1)中、mは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表し、0〜2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。
【0052】
【化9】
【0053】
一般式(II−2)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、mは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表し、Zは酸素原子又は下記一般式(III−1)〜下記一般式(III−7)のいずれかで表される2価の基を表す。
【0054】
【化10】
【0055】
一般式(III−1)〜一般式(III−7)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表す。
mは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表し、nは、それぞれ独立に、0〜4の整数を表し、pは、それぞれ独立に、0〜2の整数を表す。
【0056】
一般式(III−1)におけるR及びRは、耐熱性の観点から、置換基を有していてもよい炭素数1〜5の炭化水素基であることが好ましい。R及びRで表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、一般式(II−1)中のRで例示した炭素数1〜30の炭化水素基と同様のものが挙げられる。また、R及びRが有し得る置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数2〜5のアシル基等が挙げられる。
【0057】
一般式(III−2)及び一般式(III−3)におけるnは、それぞれ独立に、0〜4の整数を表し、0〜2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。
一般式(III−4)、一般式(III−5)及び一般式(III−7)におけるpは、それぞれ独立に、0〜2の整数を表し、0又は1であることが好ましい。
【0058】
一般式(II−2)、一般式(III−2)〜一般式(III−7)中のR、R、及びmのそれぞれの詳細は、一般式(II−1)中のR、R、及びmと同様である。
【0059】
【化11】
【0060】
一般式(II−3)中、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表し、nは、それぞれ独立に、0〜4の整数を表す。
耐熱性の観点から、Rで表される炭化水素基の炭素数は、1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。
で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、一般式(II−1)中のRで例示した炭素数1〜30の炭化水素基と同様のものが挙げられる。また、Rが有し得る置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数2〜5のアシル基等が挙げられる。
【0061】
一般式(II−3)中、nは、それぞれ独立に、0〜4の整数を表し、0〜3の整数であることが好ましく、0〜2の整数であることがより好ましく、0又は1であることがさらに好ましい。
【0062】
一般式(I)において、Yは、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基を表す。Yで表される2価の炭化水素基の炭素数は、4〜30であることが好ましく、耐熱性の観点からは、6〜30であることがより好ましい。
【0063】
Yで表される2価の炭化水素基は、透明性の観点から、2価の飽和炭化水素基を含むことが好ましい。2価の飽和炭化水素基は、2価の飽和脂肪族炭化水素基であっても、2価の飽和脂環式炭化水素基であってもよい。より高い耐熱性と透明性の両立の観点から、Yで表される2価の炭化水素基は、2価の飽和脂環式炭化水素基を含むことが好ましい。2価の脂環式炭化水素基は、炭素数が同じ2価の脂肪族炭化水素基に比べて嵩高いため、高い耐熱性と透明性を維持したまま、溶媒への溶解性に優れる傾向にある。
また、Yで表される2価の炭化水素基は、複数種の2価の飽和脂肪族炭化水素基、又は、複数種の2価の飽和脂環式炭化水素基を含んでいてもよい。また、Yは、2価の飽和脂肪族炭化水素基と、2価の飽和脂環式炭化水素基と、を組み合わせて含んでいてもよい。
【0064】
Yで表される2価の飽和脂肪族炭化水素基の炭素数は、1〜30であり、3〜30であることが好ましい。
2価の飽和脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、メチルエチレン基、テトラメチレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基、エチルエチレン基、1,1−ジメチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、ペンチレン基、1−メチルテトラメチレン基、2−メチルテトラメチレン基、1−エチルトリメチレン基、2−エチルトリメチレン基、1,1−ジメチルトリメチレン基、2,2−ジメチルトリメチレン基、1,2−ジメチルトリメチレン基、プロピルエチレン基、エチルメチルエチレン基、ヘキシレン基、1−メチルペンチレン基、2−メチルペンチレン基、3−メチルペンチレン基、1−エチルテトラメチレン基、2−エチルテトラメチレン基、1−プロピルトリメチレン基、2−プロピルトリメチレン基、ブチルエチレン基、1,1−ジメチルテトラメチレン基、2,2−ジメチルテトラメチレン基、1,2−ジメチルテトラメチレン基、1,3−ジメチルテトラメチレン基、1,4−ジメチルテトラメチレン基、1,2,3−トリメチルトリメチレン基、1,1,2−トリメチルトリメチレン基、1,1,3−トリメチルトリメチレン基、1,2,2−トリメチルトリメチレン基、1−エチル−1−メチルトリメチレン基、2−エチル−2−メチルトリメチレン基、1−エチル−2−メチルトリメチレン基、2−エチル−1−メチルトリメチレン基、2,2−エチルメチルトリメチレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、イコサニレン基、トリアコンタニレン基等が挙げられる。
【0065】
耐熱性の観点から、2価の飽和脂肪族炭化水素基としては、好ましくは、ヘキシレン基、メチルペンチレン基、エチルテトラメチレン基、プロピルトリメチレン基、ブチルエチレン基、ジメチルテトラメチレン基、トリメチルトリメチレン基、エチルメチルトリメチレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、イコサニレン基、トリアコンタニレン基等が挙げられる。
【0066】
Yで表される2価の飽和脂環式炭化水素基の炭素数は、3〜30であり、4〜30であることが好ましく、6〜30であることがより好ましい。
2価の飽和脂環式炭化水素基としては、シクロプロパン骨格、シクロブタン骨格、シクロペンタン骨格、シクロヘキサン骨格、シクロヘプタン骨格、シクロオクタン骨格、キュバン骨格、ノルボルナン骨格、トリシクロ[5.2.1.0]デカン骨格、アダマンタン骨格、ジアダマンタン骨格、ビシクロ[2.2.2]オクタン骨格、デカヒドロナフタレン骨格等を有する2価の基が挙げられる。
【0067】
耐熱性の観点から、2価の飽和脂環式炭化水素基として、好ましくは、シクロヘキサン骨格、シクロヘプタン骨格、シクロオクタン骨格、キュバン骨格、ノルボルナン骨格、トリシクロ[5.2.1.0]デカン骨格、アダマンタン骨格、ジアダマンタン骨格、ビシクロ[2.2.2]オクタン骨格、デカヒドロナフタレン骨格等を有する2価の炭化水素基が挙げられる。
【0068】
Yで表される2価の炭化水素基が有し得る置換基としては、アミノ基、オキソ基、水酸基又はハロゲン原子等が挙げられる。
【0069】
Yは、下記一般式(IV)及び下記一般式(V−1)〜下記一般式(V−3)からなる群より選択される少なくとも1種で表される2価の炭化水素基を少なくとも含むことが好ましく、下記一般式(IV)で表される2価の炭化水素基を少なくとも含むことがより好ましい。
【化12】
【0070】
【化13】
【0071】
【化14】
【0072】
【化15】
【0073】
一般式(IV)中、アダマンタン骨格の水素原子は、炭化水素基、アミノ基、オキソ基、水酸基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。また、一般式(IV)中、Zは、それぞれ独立に、単結合、又は、置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の飽和炭化水素基を表す。
柔軟な膜が得られる観点からは、Zは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の飽和炭化水素基であることが好ましく、耐熱性の観点から、Zは炭素数1〜5の2価の飽和炭化水素基であることがより好ましい。
【0074】
Zで表される2価の飽和炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、メチルエチレン基、テトラメチレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基、エチルエチレン基、1,1−ジメチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、ペンチレン基、1−メチルテトラメチレン基、2−メチルテトラメチレン基、1−エチルトリメチレン基、2−エチルトリメチレン基、1,1−ジメチルトリメチレン基、2,2−ジメチルトリメチレン基、1,2−ジメチルトリメチレン基、プロピルエチレン基、エチルメチルエチレン基、ヘキシレン基、1−メチルペンチレン基、2−メチルペンチレン基、3−メチルペンチレン基、1−エチルテトラメチレン基、2−エチルテトラメチレン基、1−プロピルトリメチレン基、2−プロピルトリメチレン基、ブチルエチレン基、1,1−ジメチルテトラメチレン基、2,2−ジメチルテトラメチレン基、1,2−ジメチルテトラメチレン基、1,3−ジメチルテトラメチレン基、1,4−ジメチルテトラメチレン基、1,2,3−トリメチルトリメチレン基、1,1,2−トリメチルトリメチレン基、1,1,3−トリメチルトリメチレン基、1,2,2−トリメチルトリメチレン基、1−エチル−1−メチルトリメチレン基、2−エチル−2−メチルトリメチレン基、1−エチル−2−メチルトリメチレン基、2−エチル−1−メチルトリメチレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基等が挙げられる。
【0075】
Zで表される2価の飽和炭化水素基が有し得る置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数2〜5のアシル基等が挙げられる。なお、Zで表される2価の飽和炭化水素基が置換基を有する場合、2価の飽和炭化水素基の炭素数には置換基の炭素数を含めないものとする。以下同様である。
【0076】
一般式(IV)で表される2価の炭化水素基は、下記一般式(IV−1)で表される2価の炭化水素基であってもよい。
一般式(V−1)で表される2価の炭化水素基は、下記一般式(VI−1)で表される2価の炭化水素基であってもよい。
一般式(V−2)で表される2価の炭化水素基は、下記一般式(VI−2)で表される2価の炭化水素基であってもよい。
一般式(V−3)で表される2価の炭化水素基は、下記一般式(VI−3)で表される2価の炭化水素基であってもよい。
【0077】
【化16】
【0078】
一般式(IV−1)、一般式(VI−1)、一般式(VI−2)及び一般式(VI−3)におけるZは、一般式(IV)、一般式(V−1)、一般式(V−2)及び一般式(V−3)におけるZと同様のものが挙げられる。
【0079】
特定ポリケトンは、Yとして、上記一般式(IV)で表される2価の炭化水素基を含む一般式(I)で表される構造単位と、上記一般式(V−1)〜上記一般式(V−3)からなる群より選択される少なくとも1種で表される2価の炭化水素基を含む一般式(I)で表される構造単位と、の両方を含むポリケトンであってもよい。上記一般式(IV)で表される2価の炭化水素基と、上記一般式(V−1)〜上記一般式(V−3)からなる群より選択される少なくとも1種で表される2価の炭化水素基との両方を含むとき、一般式(IV)で表される2価の炭化水素基の含有量と、一般式(V−1)〜一般式(V−3)で表される2価の炭化水素基の総含有量との質量比((IV):(V−1)〜(V−3))は特に限定されない。耐熱性及び伸び率の観点から、質量比は5:95〜95:5であることが好ましく、耐熱性及び溶解性の観点から、5:95〜90:10であることがより好ましい。
【0080】
特定ポリケトンの重量平均分子量(Mw)は、耐熱性を維持する観点から、ポリスチレン換算の標準GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー、gel permeation chromatography)で500以上であることが好ましく、より高い耐熱性と、溶媒への溶解性の観点から、10,000〜1,000,000であることがより好ましい。さらに高い耐熱性が必要な場合には、重量平均分子量(Mw)は、20,000〜1,000,000であることがさらに好ましい。特定ポリケトンの重量平均分子量(Mw)は、実施例に記載の方法で測定した値をいう。
【0081】
特定ポリケトンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、ポリケトン樹脂組成物は、特定ポリケトン以外の他のポリケトンを含んでいてもよい。以降、特定ポリケトンと他のポリケトンを総称して「ポリケトン」という場合がある。硬化膜としたときの耐熱性及び透明性の観点からは、ポリケトンの総量に対する、特定ポリケトンの含有率は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0082】
硬化膜としたときの透明性の観点から、ポリケトンの総含有量は、ポリケトン、特定含窒素化合物及び無機粒子の合計量100質量部に対して、30質量部〜90質量部であることが好ましく、40質量部〜80質量部であることがより好ましい。
【0083】
<特定含窒素化合物>
本開示のポリケトン樹脂組成物は、窒素原子と、前記窒素原子と結合するヒドロキシメチル基及びアルコキシメチル基からなる群より選択される少なくとも1種の基と、を有する含窒素化合物(特定含窒素化合物)を含有する。
特定含窒素化合物を用いると硬化物の優れた耐熱性並びに酸素及び水蒸気に対する高いバリア性の点で好ましい。特定含窒素化合物は、ヒドロキシメチル基とアルコキシメチル基の両方を有する化合物又はヒドロキシメチル基を有さずアルコキシメチル基を有する化合物が好ましく、ヒドロキシメチル基を有さずアルコキシメチル基を有する化合物がより好ましい。
【0084】
特定含窒素化合物の分子中に含まれるヒドロキシメチル基及びアルコキシメチル基の総数は、1個以上であれば特に制限されない。特定含窒素化合物の分子中に含まれるヒドロキシメチル基及びアルコキシメチル基の総数は、2個〜6個であることが好ましく、硬化膜のバリア性の点から、4個〜6個であることがより好ましい。
【0085】
アルコキシメチル基におけるアルコキシ基の炭素数は、1〜30であることが好ましく、1〜15であることがより好ましく、1〜10であることがさらに好ましく、1〜3であることが特に好ましく、炭素数1であることが極めて好ましい。
【0086】
特定含窒素化合物としては、下記一般式(VII−1)及び下記一般式(VII−2)で表される化合物が挙げられる。
【化17】
【0087】
一般式(VII−1)中、Aはn価の有機基を表し、W及びWは、それぞれ独立に、水素原子、下記一般式(VIII−1)又は下記一般式(VIII−2)で表される基であり、nは2又は3を表す。但し、複数のW及びWのうち、少なくとも1つは、下記一般式(VIII−1)又は下記一般式(VIII−2)で表される基であり、複数のW及びWのうちの2以上が、下記一般式(VIII−1)又は下記一般式(VIII−2)で表される基であることが好ましい。
【0088】
【化18】
【0089】
一般式(VIII−2)中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基を表す。Rで表されるアルキル基の炭素数は、1〜15であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜3であることがさらに好ましく、1であることが特に好ましい。一般式(VIII−2)中のRの詳細は、一般式(II−1)中のRと同様である。
【0090】
一般式(VII−1)中、Aで表される有機基としては、例えば、下記一般式(IX−1)及び下記一般式(IX−2)で表される基が挙げられる。
【0091】
【化19】
【0092】
一般式(VII−2)中、W〜Wは、それぞれ独立に、水素原子又は一般式(VIII−1)又は一般式(VIII−2)で表される基である。但し、W〜Wのうち、少なくとも1つは、一般式(VIII−1)又は一般式(VIII−2)で表される基であり、W〜Wのうちの2以上が、一般式(VIII−1)又は一般式(VIII−2)で表される基であることが好ましい。
【0093】
特定含窒素化合物としては、下記一般式(X−1)〜下記一般式(X−3)で表される化合物を例示することができる。
【0094】
【化20】
【0095】
一般式(X−1)〜一般式(X−3)中、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基を表す。Rの詳細は、一般式(VIII−2)におけるRと同様である。
【0096】
特定含窒素化合物は、単量体又はオリゴマーであってもよく、単量体とオリゴマーの混合物であってもよい。オリゴマーとしては、例えば、一般式(X−1)〜一般式(X−3)で表される化合物(単量体)が自己反応して形成されるものが挙げられる。
【0097】
特定含窒素化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特定含窒素化合物の含有量は、硬化膜としたときの耐熱性及びバリア性の観点から、特定ポリケトン、特定含窒素化合物及び無機粒子の合計量100質量部に対して、1質量部〜50質量部であることが好ましく、5質量部〜50質量部であることがより好ましく、5質量部〜20質量部であることがさらに好ましい。
【0098】
<熱潜在酸発生剤>
ポリケトン樹脂組成物は、さらに熱潜在酸発生剤を含有してもよい。熱潜在酸発生剤は、加熱により酸を発生する化合物である。ポリケトン樹脂組成物が熱潜在酸発生剤を含有すると、特定含窒素化合物の架橋反応が促進され、より強固な硬化物を得ることが可能となるため、硬化膜のバリア性が向上する傾向にある。
【0099】
熱潜在酸発生剤から発生する酸としては、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等のアリールスルホン酸、(±)−10−カンファースルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸等のパーフルオロアルキルスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ブタンスルホン酸等のアルキルスルホン酸などが挙げられる。
【0100】
熱潜在酸発生剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。熱潜在酸発生剤の含有量は、特定ポリケトン、特定含窒素化合物及び熱潜在酸発生剤の合計量100質量部に対して、0.05質量部〜30質量部であることが好ましく、0.1質量部〜20質量部であることがより好ましく、0.2質量部〜10質量部であることがさらに好ましい。
【0101】
<無機粒子>
ポリケトン樹脂組成物は、無機粒子を含有する。
無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、天然マイカ、合成マイカ、タルク、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アンチモン、チタン酸バリウム、カオリン、ベントナイト、珪藻土、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化セシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、及びグラファイトの粒子が挙げられる。透明性の観点からは、シリカ粒子を用いることが好ましい。
無機粒子は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0102】
無機粒子の形状は、特に限定されないが、ポリケトン樹脂組成物の透明性の観点から、球状が好ましい。
【0103】
無機粒子は、例えば、国際公開第96/31572号に記載されている火炎加水分解法、火炎熱分解法、プラズマ法等の公知の方法で製造することができる。無機粒子としては、安定化されたコロイド状無機粒子のナノ分散ゾル等を好ましく用いることができ、株式会社アドマテックス製のコロイダルシリカ、メルク社製のTiOゾル、日産化学工業株式会社製のSiO、ZrO、Al及びSbゾル、日本アエロジル株式会社製のシリカ(製品名、アエロジル)等の市販品が入手可能である。
【0104】
無機粒子は、その表面が改質されたものであってもよい。無機粒子の表面改質は、公知の表面改質剤を用いて行うことができる。このような表面改質剤としては、例えば、無機粒子の表面に存在する官能基と共有結合、錯形成等の相互作用が可能な化合物などを用いることができる。このような表面改質剤としては、例えば、分子内にカルボキシ基、(第1級、第2級又は第3級)アミノ基、4級アンモニウム基、カルボニル基、グリシジル基、ビニル基、(メタ)アクリロキシ基、メルカプト基等の官能基を有する化合物などを用いることができる。表面改質剤は、通常、標準温度及び圧力条件下で液体のものが好ましい。
【0105】
表面改質剤としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、グルタル酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸等の炭素数1〜12の飽和又は不飽和モノ及びポリカルボン酸類(好ましくは、モノカルボン酸類);これらのエステル類(好ましくはメタクリル酸メチル等の炭素数1〜4のアルキルエステル類);アミド類;アセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタンジオン、アセト酢酸、炭素数1〜4のアルキルアセト酢酸類等のβ−ジカルボニル化合物;シランカップリング剤などが挙げられる。
【0106】
無機粒子の平均粒子径は特に制限されないが、10nm〜200nmであることが好ましく、10nm〜150nmであることがより好ましく、10nm〜100nmであることがさらに好ましい。10nm以上であると所望の表面硬度が得られやすくなり、200nm以下であるとヘイズの上昇が抑えられる傾向がある。平均粒子径が10nm未満の無機粒子は、分散安定性上、製造が困難であり入手し難い。
【0107】
本開示において、無機粒子の平均粒子径は、実施例に記載の方法を用いて、成膜した後に測定された値とする。
【0108】
無機粒子の含有量は、特定ポリケトン、特定含窒素化合物及び無機粒子の合計量100質量部に対して、10質量部〜70質量部であり、20質量部〜60質量部であることが好ましく、30質量部〜60質量部であることがより好ましい。無機粒子の含有量が10質量部以上であるとポリケトン膜の表面硬度が効果的に向上する傾向があり、70質量部以下であるとポリケトン膜の透明性に優れ、ヘイズの上昇が抑えられ、靭性に優れる傾向がある。
【0109】
無機粒子として、安定化されたコロイド状無機粒子のナノ分散ゾル等を用いる場合、無機粒子を含む分散液をそのまま用いてもよい。
【0110】
<溶媒>
ポリケトン樹脂組成物は、さらに溶媒を含有してもよい。溶媒は、各成分を溶解又は分散するものであれば特に制限されない。溶媒としては、γ−ブチロラクトン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ブチル、酢酸ベンジル、n−ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、3−メチルメトキシプロピオネート、N−メチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリルアミド、テトラメチレンスルホン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、ジイソプロピルベンゼン、ヘキシルベンゼン、アニソール、ジグライム、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0111】
ポリケトン樹脂組成物が溶媒を含有する場合、溶媒の含有量は、ポリケトン、含窒素化合物、無機粒子、並びに、必要に応じて含有する熱潜在酸発生剤、後述のその他の添加剤及び溶媒の合計量100質量部に対して、5質量部〜95質量部であることが好ましく、10質量部〜90質量部であることがより好ましい。
【0112】
<その他の添加剤>
ポリケトン樹脂組成物は、さらにその他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、接着助剤、界面活性剤、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線劣化防止剤、摺動剤(ポリテトラフルオロエチレン粒子等)、光拡散剤(アクリル架橋粒子、シリコーン架橋粒子、極薄ガラスフレーク、炭酸カルシウム粒子等)、蛍光染料、無機系蛍光体(アルミン酸塩を母結晶とする蛍光体等)、帯電防止剤、結晶核剤、無機抗菌剤、有機抗菌剤、光触媒系防汚剤(酸化チタン粒子、酸化亜鉛粒子等)、架橋剤、硬化剤、反応促進剤、赤外線吸収剤(熱線吸収剤)、フォトクロミック剤などが挙げられる。
【0113】
<ポリケトン硬化物>
本開示のポリケトン硬化物は、本開示のポリケトン樹脂組成物の硬化物である。
本開示のポリケトン硬化物の製造方法は、特に限定されない。例えば、溶媒を含む本開示のポリケトン樹脂組成物を基材の少なくとも一部の表面に付与して組成物層を形成し、乾燥して組成物層から溶媒を除去した後又は溶媒の除去と共に硬化することで、本開示のポリケトン硬化物を製造することができる。
ポリケトン樹脂組成物を基材に付与する方法としては、組成物層を基材上の任意の場所に任意の形状で形成可能な手法であれば特に限定されない。ポリケトン樹脂組成物を基材に付与する方法としては、例えば、浸漬法、スプレー法、スクリーン印刷法、回転塗布法、スピンコート法、及びバーコート法が挙げられる。
【0114】
ポリケトン樹脂組成物を付与する基材は特に限定されず、ガラス、半導体、金属酸化物絶縁体(酸化チタン、酸化ケイ素等)、窒化ケイ素等の無機材料、トリアセチルセルロース、透明ポリイミド、ポリカルボナート、アクリル系ポリマー、シクロオレフィン樹脂などの透明樹脂で構成される透明基材を例示することができる。基材の形状は特に限定されず、板状又はフィルム状であってもよい。本開示のポリケトン樹脂組成物は、基材のコート材、成形品等として好適に用いることができる。
【0115】
ポリケトン樹脂組成物が溶媒を含有する場合には、乾燥を行ってもよい。乾燥方法は特に限定されず、例えば、ホットプレート、オーブン等の装置を用いて熱処理する方法、自然乾燥する方法などが挙げられる。熱処理することで乾燥を行う条件は、ポリケトン樹脂組成物中の溶媒が充分に揮散する条件であれば特に制限はなく、通常、50℃〜150℃で、1分間〜90分間程度である。
【0116】
ポリケトン樹脂組成物を硬化する方法は特に制限されず、熱処理等により硬化することができる。熱処理による硬化は、箱型乾燥機、熱風式コンベアー型乾燥機、石英チューブ炉、ホットプレート、ラピッドサーマルアニール、縦型拡散炉、赤外線硬化炉、電子線硬化炉、マイクロ波硬化炉等を用いて行なうことができる。
【0117】
硬化する際の雰囲気は、大気中、窒素等の不活性雰囲気中などのいずれを選択してもよく、ポリケトン樹脂組成物の酸化を防ぐ観点から、窒素雰囲気下で行なうことが好ましい。
硬化のための熱処理の温度及び時間は、組成条件、作業効率等を鑑みて、任意に設定でき、60℃〜200℃で30分〜2時間程度であってもよい。
【0118】
必要に応じて、乾燥した本開示のポリケトン硬化物は、残存溶媒を飛ばし切るために、さらに熱処理してもよい。熱処理の方法は特に限定されず、箱型乾燥機、熱風式コンベアー型乾燥機、石英チューブ炉、ホットプレート、ラピッドサーマルアニール、縦型拡散炉、赤外線硬化炉、電子線硬化炉、マイクロ波硬化炉、真空乾燥機等を用いて行なうことができる。また、熱処理工程における雰囲気としては特に限定されず、大気中、窒素等の不活性雰囲気中などが挙げられる。熱処理を行う条件は、特に制限はなく、150℃〜250℃で、1分間〜90分間程度であってもよい。さらに熱処理を行うことで、得られるポリケトン硬化物の密度が高くなる傾向にある。
【0119】
ポリケトン硬化物を厚さ10μmとしたときのヘイズは、1%未満であることが好ましい。
また、ポリケトン硬化物の400nmの透過率は、膜厚1μm換算で85%以上であることが好ましい。
【0120】
得られたポリケトン硬化物は、基材を付けたままポリケトン硬化物付基材として用いることもでき、必要に応じて、基材から剥がして用いることもできる。
ポリケトン硬化物付基材において、ポリケトン硬化物は、基材の表面の少なくとも一部に設けられていればよく、基材の一方の面のみに設けられても、両面に設けられてもよい。また、ポリケトン硬化物は、一層でも、二層以上が積層された複数層構造であってもよい。
【0121】
<光学素子及び画像表示装置>
本開示の光学素子及び画像表示装置は、それぞれ本開示のポリケトン硬化物を有する。光学素子及び画像表示装置に適用されるポリケトン硬化物は、上述のポリケトン硬化物付基材であってもよい。また、基材が透明基材であれば、光学素子に好適に用いることができる。透明基材としては、ポリケトン硬化物の製造で例示したものが挙げられる。
【0122】
光学素子及び画像表示装置は、例えば、ポリケトン硬化物付基材における基材側を、粘着剤、接着剤等を介してLCD(液晶ディスプレイ)、ELD(エレクトロルミネッセンスディスプレイ)、有機ELディスプレイ等の適用箇所に貼り付けて得ることができる。
【0123】
ポリケトン硬化物及びこれを用いた偏光板等の各種光学素子は、液晶表示装置等の各種画像表示装置に好ましく用いることができる。画像表示装置は、本開示のポリケトン硬化物を用いる以外は、従来の画像表示装置と同様の構成であってよい。画像表示装置が液晶表示装置である場合は、液晶セル、偏光板等の光学素子、及び必要に応じ照明システム(バックライト等)等の各構成部品を適宜に組み立てて駆動回路を組み込むことなどにより製造できる。液晶セルとしては、特に制限されず、TN型、STN型、π型等の様々なタイプを使用できる。
【0124】
画像表示装置の用途としては、デスクトップパソコン、ノートパソコン、コピー機等のOA機器、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機等の携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジ等の家庭用電気機器、バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオ等の車載用機器、商業店舗用インフォメーション用モニター等の展示機器、監視用モニター等の警備機器、介護用モニター等の介護機器、医療用モニター等の医療機器などが挙げられる。
【0125】
<被覆材料>
本開示の被覆材料は、本開示のポリケトン樹脂組成物の硬化物を含む。被覆材料で被覆される対象は特に制限されず、デスクトップパソコン、ノートパソコン、コピー機等のOA機器、携帯電話、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機等の携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、各種ディスプレイ、窓ガラス、車載ガラス、カメラレンズなどが挙げられる。本開示のポリケトン樹脂組成物を用いて被覆を形成する方法は特に制限されず、例えば、膜状とした本開示のポリケトン樹脂組成物をラミネート等の方法で被覆対象に接着し、硬化することで被覆を形成してもよく、液状とした本開示のポリケトン樹脂組成物を被覆対象に塗布してから乾燥させ硬化して被覆を形成してもよい。
【0126】
<成形体>
本開示の成形体は、本開示のポリケトン樹脂組成物の硬化物を含む。成形体の製造方法は特に制限されず、当該技術分野で既知の方法を用いることができる。例えば、押出成形法、射出成形法、カレンダー成形法、ブロー成形法、FRP(Fiber Reinforced Plastic)成形法、積層成形法、注型法、粉末成形法、溶液流延法、真空成形法、圧空成形法、押出複合成形法、延伸成形法及び発泡成形法により硬化前の成形体を得た後に硬化する方法が挙げられる。
【実施例】
【0127】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0128】
<ポリケトンの分子量測定>
ポリケトンの分子量(重量平均分子量及び数平均分子量)は、溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用いて、GPC法によって測定し、標準ポリスチレン換算にて求めた。詳細は次のとおりである。
・装置名:Ecosec HLC−8320GPC(東ソー(株))
・カラム:TSKgel Supermultipore HZ−M(東ソー(株))
・検出器:UV検出器、RI検出器併用
・流速:0.4ml/min
【0129】
<ポリケトン樹脂組成物>
(A)成分〜(D)成分を、表1又は表2に示した固形分の質量比率となるように配合し、攪拌し、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製のフィルター(孔径5μm)で濾過し、実施例及び比較例のポリケトン樹脂組成物を得た。「−」はその成分を含有しないことを表す。表1又は表2中の各成分は、以下に示すものである。なお、表1及び表2の数値は、各成分の配合比(質量基準)を表す。また、固形分とは、各成分の溶剤を除いた残部をいう。
【0130】
(A)成分[特定ポリケトン]
(合成例1)ポリケトンPK−1の合成
モノマとして、2,2’−ジメトキシビフェニル10mmolと1,3−アダマンタンジカルボン酸10mmolが入ったフラスコに、五酸化二リン及びメタンスルホン酸の混合液(質量比1:10)を30ml加え、60℃で撹拌した。反応後、内容物をメタノール500ml中に投じ、生成した析出物を濾取した。得られた固体を蒸留水とメタノールで洗浄した後、乾燥し、ポリケトンPK−1を得た。
得られたポリケトンPK−1の重量平均分子量は20,000、数平均分子量は8,000であった。
ポリケトンPK−1をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して20質量%溶液とし、実験に供した。
【0131】
(合成例2)ポリケトンPK−2の合成
モノマとして、2,2’−ジメトキシビフェニル10mmolと1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(cisとtransの混合体、cis:trans(モル比)=7:3)10mmolを用いた以外は実施例1と同様にして、ポリケトンPK−2を得た。得られたポリケトンPK−2の重量平均分子量は25,000であり、数平均分子量は9,000であった。
ポリケトンPK−2をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して20質量%溶液とし、実験に供した。
【0132】
(合成例3)ポリケトンPK−3の合成
モノマとして、2,2’−ジメトキシビフェニル10mmolと1,3−アダマンタン二酢酸10mmolを用いた以外は実施例1と同様にして、ポリケトンPK−3を得た。得られたポリケトンPK−3の重量平均分子量は42,000であり、数平均分子量は12,000であった。
ポリケトンPK−3をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して20質量%溶液とし、実験に供した。
【0133】
(合成例4)ポリケトンPK−4の合成
モノマとして、2,2’−ジメトキシビフェニル10mmolと1,3−アダマンタンジカルボン酸5mmolとドデカン二酸5mmolを用いた以外は実施例1と同様にして、ポリケトンPK−4を得た。得られたポリケトンPK−4の重量平均分子量は36,000であり、数平均分子量は13,000であった。
ポリケトンPK−4をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して20質量%溶液とし、実験に供した。
【0134】
(合成例5)ポリケトンPK−5の合成
モノマとして、2,2’−ジメトキシビフェニル10mmolと1,3−アダマンタン二酢酸5mmolとドデカン二酸5mmolを用いた以外は実施例1と同様にして、ポリケトンPK−5を得た。得られたポリケトンPK−5の重量平均分子量は39,000であり、数平均分子量は12,000であった。
ポリケトンPK−5をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して20質量%溶液とし、実験に供した。
【0135】
(合成例6)ポリケトンPK−6の合成
モノマとして、2,2’−ジメトキシビフェニル10mmolと1,3−アダマンタン二酢酸5mmolとヘキサン二酸5mmolを用いた以外は実施例1と同様にして、ポリケトンPK−6を得た。得られたポリケトンPK−6の重量平均分子量は39,000であり、数平均分子量は12,000であった。
ポリケトンPK−6をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して20質量%溶液とし、実験に供した。
【0136】
(合成例7)ポリケトンPK−7の合成
モノマとして、2,2’−ジメトキシビフェニル10mmolと1,3−アダマンタン二酢酸5mmolとcis−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸5mmolを用いた以外は実施例1と同様にして、ポリケトンPK−7を得た。得られたポリケトンPK−7の重量平均分子量は45,000であり、数平均分子量は11,000であった。
ポリケトンPK−7をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して20質量%溶液とし、実験に供した。
【0137】
(合成例8)ポリケトンPK−8の合成
モノマとして、2,2’−ジメトキシビフェニル10mmolと1,3−アダマンタン二酢酸5mmolとデカリン−2,6−ジカルボン酸5mmolを用いた以外は実施例1と同様にして、ポリケトンPK−8を得た。得られたポリケトンPK−8の重量平均分子量は33,000であり、数平均分子量は10,000であった。
ポリケトンPK−8をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して20質量%溶液とし、実験に供した。
【0138】
(合成例9)ポリケトンPK−9の合成
モノマとして、2,2’−ジメトキシビフェニル10mmolと1,3−アダマンタン二酢酸5mmolとノルボルナンジカルボン酸(2,4−、2,5−混合体)5mmolを用いた以外は実施例1と同様にして、ポリケトンPK−9を得た。得られたポリケトンPK−9の重量平均分子量は27,000であり、数平均分子量は9,200であった。
ポリケトンPK−9をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して20質量%溶液とし、実験に供した。
【0139】
(合成例10)ポリケトンPK−10の合成
モノマとして、2,2’−ビス(2−メトキシフェニル)プロパン10mmolと1,3−アダマンタン二酢酸5mmolと1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(cisとtransの混合体、cis:trans(モル比)=7:3)5mmolを用いた以外は実施例1と同様にして、ポリケトンPK−10を得た。得られたポリケトンPK−10の重量平均分子量は28,000であり、数平均分子量は8,300であった。
ポリケトンPK−10をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して20質量%溶液とし、実験に供した。
【0140】
(合成例11)ポリケトンPK−11の合成
モノマとして、ジフェニルエーテル10mmolと1,3−アダマンタン二酢酸5mmolと1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(cisとtransの混合体、cis:trans(モル比)=7:3)5mmolを用いた以外は実施例1と同様にして、ポリケトンPK−11を得た。得られたポリケトンPK−11の重量平均分子量は27,000であり、数平均分子量は8,000であった。
ポリケトンPK−11をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して20質量%溶液とし、実験に供した。
【0141】
(B)成分[特定含窒素化合物]
B1:下記式(XII)で表される化合物(Meはメチル基を表す)
【0142】
【化21】
【0143】
B2:下記式(XIII)で表される化合物
【0144】
【化22】
【0145】
B3:下記式(XIV)で表される化合物(Meはメチル基を表す)
【0146】
【化23】
【0147】
B4:下記式(XV)で表される化合物(Buはブチル基を表す)
【0148】
【化24】
【0149】
(C)成分[熱潜在酸発生剤]
C1:下記式(XVI)で表される化合物
【0150】
【化25】
【0151】
(D)成分[無機粒子]
粒子A:シリカ粒子のシクロヘキサノン分散液(日産化学工業株式会社製 CHO−ST−M、シリカ粒子の固形分は30質量%)
粒子B:シリカ粒子(株式会社アドマテックス製 SC1050−SXT)
粒子C:酸化チタン粒子(Sigma−Aldrich社製 637254)
【0152】
【表1】
【0153】
【表2】
【0154】
<評価用サンプルの作製及び評価>
得られたポリケトン樹脂組成物を用いて、以下の方法により硬化膜を作製し、後述の評価用のサンプルを準備し、下記評価を行った。
【0155】
(1)平均粒子径の測定
得られたポリケトン樹脂組成物を、バーコート法によりガラス基板の上に塗布し、120℃に加熱したホットプレート上で3分間乾燥して、厚さ10μmのポリケトン膜を有するポリケトン膜付ガラス基板を作製した。このポリケトン膜付ガラス基板を、窒素置換したイナートガスオーブンを用い200℃で1時間熱処理した後、ダイヤモンドカッターを用いて切断し、切断面(膜断面)を、走査型電子顕微鏡(株式会社Philips製、XL−30)を用いて観察を行った。得られた観察画像から、無機粒子の一次粒子50個について長径を測定し、その平均値を平均粒子径とした。得られた結果を表3に示す。
【0156】
ここで、長径とは、前記切断面に現れる粒子について、その粒子の外側に接する二つの平行線の組み合わせを、粒子を挟むように選択し、それらの組み合わせのうち最長間隔になる二つの平行線の距離である。
【0157】
(1)ヘイズ測定
得られたポリケトン樹脂組成物を、バーコート法によりガラス基板の上に塗布し、120℃に加熱したホットプレート上で3分間乾燥して、厚さ10μmのポリケトン膜を有するポリケトン膜付ガラス基板を作製した。このポリケトン膜付ガラス基板を、窒素置換したイナートガスオーブンを用い200℃で1時間熱処理した後、ヘイズメーター(NDH 2000 日本電色工業(株)製)を用い、ガラス基板をブランクとしてヘイズを測定した。膜の付いていないガラス基板をリファレンスとして、膜厚1μmに換算した透過率(%)を表3に示す。膜厚は、触針式段差計(「Dektak3 ST」、アルバック株式会社(Veeco))を用いて3点測定した値の数平均値とした。
【0158】
(2)透明性の評価
得られたポリケトン樹脂組成物を、バーコート法によりガラス基板の上に塗布し、120℃に加熱したホットプレート上で3分間乾燥して、厚さ10μmのポリケトン膜を有するポリケトン膜付ガラス基板を作製した。このポリケトン膜付ガラス基板を、窒素置換したイナートガスオーブンを用い200℃で1時間熱処理した後、波長400nmにおける透過率を、紫外可視分光光度計(「U−3310 Spectrophotometer」日立ハイテク株式会社)を用いた紫外可視吸収スペクトル法によって測定した。膜の付いていないガラス基板をリファレンスとして、膜厚1μmに換算した透過率(%)を表3に示す。膜厚は、触針式段差計(「Dektak3 ST」、アルバック株式会社(Veeco))を用いて3点測定した値の数平均値とした。
【0159】
(3)耐熱性の評価
得られたポリケトン樹脂組成物を、バーコート法によりポリイミド(カプトン)フィルムの上に塗布し、120℃に加熱したホットプレート上で3分間乾燥して、厚さ10μmのポリケトン膜を有するポリケトン膜付ポリイミド基材を作製した。ポリイミド基材からポリケトン膜を剥がし、窒素置換したイナートガスオーブンで、200℃で1時間熱処理した。その後、膜のガラス転移温度(Tg)を、動的粘弾性測定装置(「RSA−II」Rheometrics社)を用いた動的粘弾性測定法(引張りモード)によって測定した。得られたガラス転移温度の値(℃)を表3に示す。
【0160】
(4)鉛筆硬度の評価
得られたポリケトン樹脂組成物を、バーコート法によりガラス基板の上に塗布し、120℃に加熱したホットプレート上で3分間乾燥して、厚さ10μmのポリケトン膜を有するポリケトン膜付ガラス基板を作製した。この膜付ガラス基板を、窒素置換したイナートガスオーブンを用い200℃で1時間熱処理した後、鉛筆硬度試験により評価した。試験は JIS K5600−5−4:1999に従って行った。試験結果を表3に示す。
【0161】
(5)水蒸気透過率の測定
得られたポリケトン樹脂組成物を、バーコート法によりポリイミド(カプトン)フィルムの上に塗布し、120℃に加熱したホットプレート上で3分間乾燥して、ポリケトン膜を有するポリケトン膜付ポリイミド基材を作製した。ポリイミド基材からポリケトン膜を剥がし、窒素置換したイナートガスオーブンで、200℃で1時間熱処理した。得られたポリケトン膜の水蒸気透過率[g/m/day]を、JIS K7129:2008に従い測定した。なお、膜厚は50μmで、恒温恒湿処理の条件は、温度40℃、湿度90%RHとした。試験結果を表3に示す。
【0162】
(6)酸素透過率の測定
得られたポリケトン樹脂組成物を、バーコート法によりポリイミド(カプトン)フィルムの上に塗布し、120℃に加熱したホットプレート上で3分間乾燥して、ポリケトン膜を有するポリケトン膜付ポリイミド基材を作製した。ポリイミド基材からポリケトン膜を剥がし、窒素置換したイナートガスオーブンで、200℃で1時間熱処理した。得られたポリケトン膜の酸素透過率[cc/m/day]をJIS K7126−2:2006に従い測定した。なお、膜厚は50μmにした。試験結果を表3に示す。
【0163】
【表3】
【0164】
実施例のポリケトン樹脂組成物の硬化物は、耐熱性及び透明性に優れ、さらに高い表面硬度及び酸素及び水蒸気に対する高いバリア性を有することわかる。
表3において「単膜不可」とは、ポリイミド基材からポリケトン膜を剥がすことができなかったことを示す。