特許第6874691号(P6874691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874691
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】塗装用の粉体および塗装物品
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20210510BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20210510BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20210510BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20210510BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20210510BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20210510BHJP
【FI】
   C08L27/12
   C08K3/22
   C08J3/20 ZCEW
   C09D127/12
   C09D5/03
   C09D7/61
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-558294(P2017-558294)
(86)(22)【出願日】2016年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2016088521
(87)【国際公開番号】WO2017111102
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2019年8月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-254091(P2015-254091)
(32)【優先日】2015年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】諏佐 等
(72)【発明者】
【氏名】舘 範治
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
【審査官】 工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−520434(JP,A)
【文献】 特開昭57−205456(JP,A)
【文献】 特開平06−108103(JP,A)
【文献】 特開2012−072250(JP,A)
【文献】 特開平02−185572(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/083730(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu、Mn、Co、Ni、Znからなる群から選ばれる2種以上の金属を含む複合酸化物の粒子と、フッ素樹脂を含有することを特徴とする粉体であり、
前記フッ素樹脂が、エチレンに由来する単位とテトラフルオロエチレンに由来する単位とを有する含フッ素共重合体からなるフッ素樹脂であり、
前記複合酸化物の粒子の含有量が、前記粉体100質量%に対して0.05〜10質量%であり、
前記複合酸化物の粒子および前記フッ素樹脂以外の他の成分をさらに任意で含み、
前記他の成分の含有量が、前記複合酸化物の粒子および前記フッ素樹脂の合計100質量部に対して10質量部以下である、粉体。
【請求項2】
前記粉体が、前記複合酸化物の粒子と前記フッ素樹脂の粒子を含有する、請求項1に記載の粉体。
【請求項3】
前記複合酸化物の粒子からなる粉体の平均粒子径が0.01μm〜50μmである、請求項1または2に記載の粉体。
【請求項4】
前記フッ素樹脂の粒子からなる粉体の平均粒子径が、1〜1,000μmである、請求項2または3に記載の粉体。
【請求項5】
前記粉体が、前記複合酸化物粒子と前記フッ素樹脂とを含む粒子を含有する、請求項1に記載の粉体。
【請求項6】
前記複合酸化物粒子と前記フッ素樹脂とを含む粒子からなる粉体の平均粒子径が、1〜1,000μmである、請求項5に記載の粉体。
【請求項7】
前記複合酸化物が、CuとMnを含む複合酸化物、またはCoとNiとZnを含む複合酸化物である、請求項1〜のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項8】
基材と、請求項1〜のいずれか一項に記載の粉体から形成された塗膜とを有する物品。
【請求項9】
前記塗膜の厚さが5〜10,000μmである、請求項に記載の物品。
【請求項10】
基材上にプライマー層を形成し、次いで請求項1〜のいずれか一項に記載の粉体を用いて前記プライマー層上にトップコート層を形成する、塗装された物品の製造方法であって、前記プライマー層形成のための熱処理温度が80〜200℃であることを特徴とする塗装物品の製造方法。
【請求項11】
前記プライマー層が、複合酸化物粒子を含まないフッ素樹脂の膜からなる、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗装用の粉体、および該粉体を用いて形成された塗膜を有する塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は耐熱性、耐薬品性、耐候性等に優れ、半導体産業、自動車産業、化学産業等の種々な分野で使用されている。
例えば基材表面に、フッ素樹脂を含む粉体を、静電塗装法、流動浸漬法、回転成形法等の手法で塗装することで、基材表面の保護や耐薬品性の向上のための塗膜を形成できる。
特に、金属製の各種容器、配管、撹拌翼等の、酸性溶液と接触し得る面に設けられる塗膜は、金属の腐食を防止するために耐酸性に優れることが望まれる。
【0003】
特許文献1は、熱可塑性樹脂と導電性金属酸化物(例えば酸化錫、酸化インジウム等)を含む組成物からなる成形品に関するもので、屋外で使用される成形品の酸性雨対策のために、該組成物に受酸剤を配合する方法が記載されている。
受酸剤としては、ハイドロタルサイト、ゼオライト、ベントナイト等の複合金属化合物や、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の金属化合物が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−185284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、配管の内面等に設けられる塗膜にあっては、特許文献1に記載されているような酸性雨対策よりも高度な耐酸性が必要である。
本発明は、耐酸性に優れる塗膜を形成できる粉体、および該粉体を用いて形成された塗膜を有する塗装物品に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
[1]Cu、Mn、Co、Ni、Znからなる群から選ばれる2種以上の金属を含む複合酸化物の粒子と、フッ素樹脂を含有することを特徴とする粉体。
[2]前記粉体が、前記複合酸化物の粒子と前記フッ素樹脂の粒子を含有する、[1]の粉体。
[3]前記複合酸化物の粒子からなる粉体の平均粒子径が0.01μm〜50μmである、[1]または[2]の粉体。
[4]前記フッ素樹脂の粒子からなる粉体の平均粒子径が、1〜1,000μmである、[2]または[3]の粉体。
[5]前記粉体が、前記複合酸化物粒子と前記フッ素樹脂とを含む粒子を含有する、[1]の粉体。
[6]前記複合酸化物粒子とフッ素樹脂とを含む粒子からなる粉体の平均粒子径が、1〜1,000μmである、[5]の粉体。
【0007】
[7]前記フッ素樹脂が、CF=CFX(XはFまたはCl)で表される単量体に由来する単位を有する含フッ素共重合体からなるフッ素樹脂である、[1]〜[6]のいずれかの粉体。
[8]前記含フッ素共重合体が、エチレンに由来する単位とテトラフルオロエチレンに由来する単位を有する共重合体、テトラフルオロエチレンに由来する単位とペルフルオロアルキルビニルエーテルに由来する単位とを有し、エチレンに由来する単位を有さない共重合体、テトラフルオロエチレンに由来する単位とヘキサフルオロプロピレンに由来する単位を有し、エチレンに由来する単位およびペルフルオロアルキルビニルエーテルに由来する単位を有さない共重合体、またはエチレンに由来する単位とクロロトリフルオロエチレンに由来する単位とを有し、テトラフルオロエチレンに由来する単位を有さない共重合体である、[7]の粉体。
[9]前記複合酸化物が、CuとMnを含む複合酸化物、またはCoとNiとZnを含む複合酸化物である、[1]〜[8]のいずれかの粉体。
【0008】
[10]基材と、[1]〜[9]のいずれかの粉体から形成された塗膜とを有する物品。
[11]前記塗膜の厚さが5〜10,000μmである、[10]の物品。
[12]基材上にプライマー層を形成し、次いで請求項1〜9のいずれか一項に記載の粉体を用いて前記プライマー層上にトップコート層を形成する、塗装された物品の製造方法であって、前記プライマー層形成のための熱処理温度が80〜200℃であることを特徴とする塗装物品の製造方法。
[13]前記プライマー層が、複合酸化物粒子を含まないフッ素樹脂の膜からなる、請求項12に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粉体は、耐酸性に優れる塗膜を形成できる。
本発明の粉体を用いて形成された塗膜を有する塗装物品は耐酸性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「単位」とは、単量体が重合することによって形成された該単量体に由来する部分を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、重合体を処理することによって該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。なお、以下において、場合により、個々の単量体に由来する単位をその単量体名に「単位」を付した名称で記す。
本発明における「複合酸化物」は、複数の金属酸化物の固溶体である。
【0011】
<粉体>
本発明の粉体は、特定の複合酸化物(以下、「複合酸化物(Z)」とも記す。)の粒子とフッ素樹脂を含有する。本発明の粉体は、複合酸化物(Z)の粒子とフッ素樹脂の粒子とを含む粉体であってもよく、複合酸化物(Z)粒子とフッ素樹脂とを含む粒子(言いかえれば、「複合酸化物(Z)粒子を含むフッ素樹脂」の粒子)を含む粉体であってもよい。さらには、「複合酸化物(Z)粒子を含むフッ素樹脂」の粒子を含む粉体は、さらに、上記複合酸化物(Z)粒子およびフッ素樹脂粒子の一方または両方を含む粉体であってもよい。
本発明の粉体は、2種以上の複合酸化物(Z)の粒子を含んでいてもよい。また、「複合酸化物(Z)粒子を含むフッ素樹脂」の粒子は2種以上の複合酸化物(Z)粒子を含んでいてもよい。また、本発明の粉体は、異なる種類の複合酸化物(Z)粒子をそれぞれ含む、2種以上のフッ素樹脂粒子を含んでいてもよい。
また、本発明の粉体におけるフッ素樹脂はフッ素樹脂以外の成分(たとえば、紫外線吸収剤等の添加剤)を含むフッ素樹脂であってもよい。本発明の粉体は、異なるフッ素樹脂からなる2種以上の粒子を含んでいてもよい。また、同じフッ素樹脂であっても、添加剤の成分が異なる等の組成の異なるフッ素樹脂の2種以上の粒子を含んでいてもよい。
本発明の粉体は、さらに、上記以外の粒子(たとえば、複合酸化物(Z)粒子に該当しない顔料粒子)を含んでいてもよい。
【0012】
本発明の粉体としては、複合酸化物(Z)の粒子とフッ素樹脂の粒子とを含む粉体が好ましい。この粉体は、複合酸化物(Z)粒子からなる粉体とフッ素樹脂粒子からなる粉体を混合することにより得られる。複合酸化物(Z)粒子からなる粉体は市販の粉体を使用でき、また、市販の粉体を粒度調節等の処理を行って使用することができる。フッ素樹脂粒子からなる粉体は、市販のフッ素樹脂粉体を使用でき、また、フッ素樹脂の素材(ペレット、シート等)を粉体化して使用できる。
また、「複合酸化物(Z)粒子を含むフッ素樹脂」の粒子からなる粉体は、複合酸化物(Z)粒子を含むフッ素樹脂を製造し、この複合酸化物(Z)粒子含有フッ素樹脂を粉体化することにより得られる。
【0013】
<複合酸化物>
複合酸化物(Z)は、Cu、Mn、Co、Ni、Znからなる群から選ばれる2種以上の金属を含む複合酸化物である。複合酸化物(Z)の粉体は、複合酸化物(Z)粒子の集合体であり、前記のように2種以上の複合酸化物(Z)粒子を含む集合体であってもよい。
複合酸化物(Z)の粉体の比表面積は5〜80m/gが好ましく、7〜70m/gがより好ましく、20〜60m/gが特に好ましい。該比表面積が上記範囲の下限値以上であるとフッ素樹脂に対する分散性が良好であり、上限値以下であると複合酸化物粒子の凝集が発生しづらい。
複合酸化物(Z)の粉体の平均粒子径は、0.001μm〜100μmが好ましく、0.01μm〜50μmがより好ましく、0.01〜10μmが特に好ましい。この範囲にあるとフッ素樹脂中における複合酸化物の分散性に優れる。
複合酸化物(Z)の粉体の平均粒子径は、レーザー回折散乱粒度分布測定装置を用いて測定して得られる体積基準のメジアン径である。
【0014】
複合酸化物(Z)としては、CuとMnを含む複合酸化物、CoとNiとZnを含む複合酸化物が好ましい。
複合酸化物(Z)の粉体は、市販の複合酸化物系顔料から適宜選択して用いることができる。
市販の複合酸化物(Z)粉体の具体例としては、ダイピロキサイドブラック♯9550、ダイピロキサイドブラック♯3550(いずれも製品名、大日精化社製、組成:Cu[Fe,Mn]O)、Pigment Green50(製品名、アサヒ化成工業社製、組成:Co、Zn、Ni、Tiを含む複合酸化物)等が挙げられる。
【0015】
本発明の粉体における複合酸化物(Z)粒子の含有量は、粉体に対して0.05〜20質量%が好ましく、0.05〜15質量%がより好ましく、0.1〜10質量%がさらに好ましい。該含有量がこの範囲にあるとフッ素樹脂やその粉体との混合性に優れ、フッ素樹脂と溶融混練する場合に混練性に優れる。また、塗膜の耐酸性に優れる。
【0016】
<フッ素樹脂>
本発明の粉体に含まれるフッ素樹脂は、常温(25℃)で固体である。フッ素樹脂としては、粉体塗料の分野において公知のフッ素樹脂を用いることができる。
本発明におけるフッ素樹脂粒子からなる粉体および「複合酸化物(Z)粒子を含むフッ素樹脂」の粒子からなる粉体における平均粒子径は、特に限定されないが、例えば1〜1,000μmが好ましく、1〜300μmがより好ましく、3〜300μmがさらに好ましく、5〜200μmが特に好ましい。平均粒子径が1μm以上であれば、塗装時の付着量が増えるために接着力や耐久性が安定し、1,000μm以下であれば、塗装後の粒子の脱落が少なく、塗膜は表面平滑性がよい傾向がある。
フッ素樹脂の粉体の平均粒子径は、レーザー回折散乱粒度分布測定装置を用いて測定して得られる体積基準のメジアン径である。
【0017】
[含フッ素共重合体]
フッ素樹脂は、CF=CFX(XはFまたはCl。以下式(I)と記す。)で表される単量体に由来する単位の1種以上と、式(I)で表される単量体以外の単量体に由来する単位の1種以上を有する含フッ素共重合体からなるフッ素樹脂であることが好ましい。
式(I)で表される単量体は、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)またはクロロトリフルオロエチレンである。
【0018】
他の単量体は、式(I)で表される単量体と共重合可能なものであればよい。例えば、以下の単量体(1)〜(9)から選ばれる1種以上が好ましい。
単量体(1):エチレン(なお、以下、エチレン単位を「E単位」とも記す。)
単量体(2):プロピレン等の炭素数3個のオレフィン、ブチレン、イソブチレン等の炭素数4個のオレフィン、等のオレフィン類。
単量体(3):CH=CX(CFY(ただし、XおよびYはそれぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、nは2〜8の整数である。)で表される化合物。例えばCH=CF(CFF、CH=CF(CFH、CH=CH(CFF、CH=CH(CFH等。整数nは3〜7が好ましく、4〜6がより好ましい。
単量体(4):フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン等の不飽和基に水素原子を有するフルオロオレフィン(ただし、単量体(3)を除く)。
単量体(5):ヘキサフルオロプロピレン等の不飽和基に水素原子を有しないフルオロオレフィン(ただし、式(I)で表される単量体を除く。)。
単量体(6):ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ペルフルオロ(ブチルビニルエーテル)等のペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)。
単量体(7):CF=CFOCFCF=CF、CF=CFO(CFCF=CF等の不飽和結合を2個有するペルフルオロビニルエーテル類。
単量体(8):ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、2,2,4−トリフルオロ−5−トリフルオロメトキシ−1,3−ジオキソール、ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)等の脂肪族環構造を有する含フッ素モノマー類。
単量体(9):極性官能基を有し、フッ素原子を有していない単量体(以下、極性官能基含有単量体とも記す。)。極性官能基は接着性の向上に寄与する。
極性官能基としては、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基、酸無水物残基が挙げられ、中でも、酸無水物残基が好ましい。
極性官能基含有単量体の具体例としては、ヒドロキシブチルビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル等の水酸基またはエポキシ基を有するビニルエーテル類、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ウンデシレン酸等のカルボキシ基を有する単量体、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ハイミック酸等の酸無水物残基を有する単量体、等が挙げられる。
【0019】
含フッ素共重合体として、以下の共重合体が好ましい。
E単位とTFE単位を有する共重合体(以下、「ETFE」とも記す。)、
TFE単位とペルフルオロアルキルビニルエーテル単位とを有し、E単位を有さない共重合体(以下、「PFA」とも記す。)、
TFE単位とヘキサフルオロプロピレン単位を有し、E単位およびペルフルオロアルキルビニルエーテル単位のいずれも有さない共重合体(以下、「FEP」とも記す。)、
E単位とクロロトリフルオロエチレン単位とを有し、TFE単位を有さない共重合体(以下、「ECTFE」とも記す。)。
【0020】
ETFEにおいて、E単位とTFE単位との合計に対するE単位の割合は20〜70モル%が好ましく、25〜60モル%がより好ましく、35〜55モル%がさらに好ましい。
E単位が上記範囲の下限値以上であると機械強度に優れ、上限値以下であると耐薬品性に優れる。
ETFEは、E単位およびTFE単位のみからなる共重合体でもよく、これら以外の単量体単位の1種以上を含んでもよい。
他の単量体の好ましい例としては、上記単量体(3)が挙げられる。特に、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF((パーフルオロブチル)エチレン、以下、PFBEという。)が好ましい。
他の単量体単位を含む場合、その合計の含有量はE単位とTFE単位との合計を100モルとするモル比で0.1〜10モルが好ましく、0.1〜5モルがより好ましく、0.2〜4モルがさらに好ましい。該他の単量体単位の含有量が上記範囲の下限値以上であると耐クラック性が良好であり、上限値以下であるとフッ素樹脂の融点が低下し、成形体の耐熱性が低下する。
【0021】
PFAにおいて、TFE単位とペルフルオロアルキルビニルエーテル単位との合計に対するTFE単位の割合は9〜99モル%が好ましく、99〜80モル%がより好ましく、99〜90モル%がさらに好ましい。
TFE単位が上記範囲の下限値以上であると耐薬品性に優れ、上限値以下であると溶融加工性に優れる。
PFAは、TFE単位とペルフルオロアルキルビニルエーテル単位のみからなる共重合体でもよく、これら以外の単量体単位の1種以上を含んでもよい。
他の単量体の好ましい例としては、ヘキサフルオロプロピレンが挙げられる。
他の単量体単位を含む場合、その含有量はTFE単位とペルフルオロアルキルビニルエーテル単位との合計を100モルとするモル比で0.1〜10モルが好ましく、0.1〜6モルがより好ましく、0.2〜4モルがさらに好ましい。該他の単量体単位の含有量が上記範囲の下限値以上であると溶融粘度が高いため成形加工性が良く、上限値以下であると耐クラック性が良好である。
【0022】
FEPにおいて、TFE単位とヘキサフルオロプロピレン単位との合計に対するTFE単位の割合は99〜70モル%が好ましく、99〜80モル%がより好ましく、99〜90モル%がさらに好ましい。
TFE単位が上記範囲の下限値以上であると耐薬品性に優れ、上限値以下であると溶融加工性に優れる。
FEPは、TFE単位とヘキサフルオロプロピレン単位のみからなる共重合体でもよく、これら以外の単量体単位の1種以上を含んでもよい。
他の単量体の好ましい例としては、ペルフルオロアルキルビニルエーテルが挙げられる。
他の単量体単位を含む場合、その合計の含有量はTFE単位とヘキサフルオロプロピレン単位との合計を100モルとするモル比で0.1〜10モルが好ましく、0.1〜6モルがより好ましく、0.2〜4モルがさらに好ましい。該他の単量体単位の含有量が上記範囲の下限値以上であると溶融粘度が高いため成形加工性が良く、上限値以下であると耐クラック性が良好である。
【0023】
ECTFEにおいて、E単位とクロロトリフルオロエチレン単位との合計に対するE単位の割合は2〜98モル%が好ましく、10〜90モル%がより好ましく、30〜70モル%がさらに好ましい。
E単位が上記範囲の下限値以上であると耐薬品性に優れ、上限値以下であるとガスバリア性に優れる。
ECTFEは、E単位とクロロトリフルオロエチレン単位のみからなる共重合体でもよく、これら以外の単量体単位を含んでもよい。
他の単量体の好ましい例としては、ペルフルオロアルキルビニルエーテルが挙げられる。
他の単量体単位を含む場合、その合計の含有量はE単位とクロロトリフルオロエチレン単位との合計を100モルとするモル比で0.1〜10モルが好ましく、0.1〜5モルがより好ましく、0.2〜4モルがさらに好ましい。該他の単量体単位の含有量が上記範囲の下限値以上であると耐クラック性が良好であり、上限値以下であるとフッ素樹脂の融点が低下し、成形体の耐熱性が低下する。
【0024】
[フッ素樹脂の粉体の製造方法]
フッ素樹脂粒子からなる粉体は公知の製造方法で製造できる。例えば、フッ素樹脂を合成後に粉砕処理する方法、フッ素樹脂の分散液を調製して噴霧乾燥させる方法、等が挙げられる。必要に応じて篩や気流を用いて分級し、粒径を調整してもよい。
「複合酸化物(Z)粒子を含むフッ素樹脂」の粒子からなる粉体の場合は、フッ素樹脂と複合金属酸化物(Z)粉体とを、溶融混練機で溶融混練した後、粉砕して製造されることが好ましい。
【0025】
<他の成分>
本発明の粉体は、本発明の効果を損なわない範囲内で、上記フッ素樹脂および複合酸化物(Z)粒子以外の成分を含有することができる。他の成分はフッ素樹脂に含有され、その成分を含むフッ素樹脂の粒子として本発明の粉体に含有される。また、他の成分が粉体の場合、その成分の粒子として本発明の粉体に含有されてもよい。
他の成分としては、複合酸化物(Z)に該当しない顔料、流動性向上剤(シリカ、アルミナ等)、補強材(無機フィラー)、熱安定剤(酸化第一銅、酸化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅等)、紫外線吸収剤等の添加剤が挙げられる。
また、フッ素樹脂が、極性官能基含有単量体に基づく単位を含有する含フッ素共重合体である場合、他の成分として、該極性官能基と反応性を有する化合物(硬化剤ともいう)を使用することも好ましい。
硬化剤としては、脂肪族ポリアミン、変性脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ジシアンジアミド等が挙げられる。
他の成分を含む場合、その含有量はフッ素樹脂および複合酸化物(Z)の合計100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.05〜8質量部がより好ましく、0.1〜6質量部がさらに好ましい。
【0026】
<粉体の製造方法>
本発明の粉体は、フッ素樹脂、複合酸化物(Z)および必要に応じて配合される他の成分のいずれもが、粉体である場合、それらを混合して得られる。
粉体の混合方法は、V型ブレンダー、ダブルコーン型ブレンダー、コンテナブレンダー、ドラム式ブレンダー、水平円筒式ミキサー、リボン式ミキサー、パドル式ミキサー、スクリュー式ミキサーなどを用いたドライブレンド法が挙げられる。
他の成分は、粉体に、粉体として含有されてもよく、フッ素樹脂粒子に含有されてもよい。他の成分が、フッ素樹脂粒子に含有される場合、フッ素樹脂と他の成分とを溶融混練機で溶融混練した後、粉砕機で粉砕して、他の成分を含むフッ素樹脂粒子からなる粉体を得ることが好ましい。溶融混練機としては、2軸押出し機等が挙げられる。
また、粉砕機としては、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等が挙げられる。
【0027】
<塗装物品>
本発明の塗装物品は、基材と、本発明の粉体から形成された塗膜とを有する。
[基材]
基材の材質は特に限定されないが、耐酸性に優れた塗膜で保護することによる効果が大きい点で金属が好ましい。金属としては、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、錫、チタン、クロム、ニッケル、亜鉛等が挙げられる。特に安価であり強度が高い点で鉄、ステンレス鋼、アルミニウムが好ましい。
基材は、また、メッキ層、プライマー層、塗装膜(本発明の粉体から形成された塗装膜以外のもの)、その他の金属や金属以外の材料からなる層や膜を塗装面に有する基材であってもよい。
【0028】
基材の形状や用途は特に限定されない。基材の例として、パイプ、チューブ、フィルム、板、タンク、ロール、ベッセル、バルブ、エルボー等が挙げられる。
基材の用途の例として、各種の容器、パイプ、チューブ、タンク、配管、継ぎ手、ロール、オートクレーブ、熱交換器、蒸留塔、治具類、バルブ、撹拌翼、タンクローリ、ポンプ、ブロワのケーシング、遠心分離機、調理機器等が挙げられる。
【0029】
[塗膜]
塗膜は、粉体が溶融、冷却されたものからなる膜である。
該塗膜の厚みは、基材の保護の点からは5μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましく、80μm以上が特に好ましい。該厚みの上限は特に限定されないが、あまりに厚いと、基材との熱膨張係数の相違により、基材と塗膜との界面に応力ひずみを生じ、塗膜が剥離しやすい。また、多数回の塗装が必要であるため生産性が低く、コストが高くなる。これらの不都合を防止する点からは、塗膜の厚みは10,000μm以下が好ましく、5,000μm以下がより好ましく、3,000μm以下がさらに好ましく、2,000μm以下が特に好ましい。
【0030】
[塗膜の製造方法]
塗膜は、基材上に粉体を塗装して粉体層を形成し、該粉体層を熱処理して溶融させ、その後冷却固化する方法で形成される。粉体を溶融しながら基材上に付着させ、必要によりさらに熱処理を行った後、冷却固化する方法で形成することもできる。
粉体の塗装方法としては、特に限定されないが、静電塗装法、流動浸漬法、回転成型法など公知の粉体塗装方法が適用できる。簡便に均一な厚みで塗装できる点で静電塗装法が好ましい。
粉体層を形成して熱処理する工程を、複数回繰り返すことで目的の厚みの塗膜を形成してもよい。
フッ素樹脂が、極性官能基含有単量体に基づく単位を含有する含フッ素共重合体であり、粉体が硬化剤を含有する場合には、該粉体層を熱処理して、溶融する過程で、塗膜を硬化することが好ましい。
【0031】
上記熱処理は、所定温度に設定した電気炉やガス炉や赤外加熱炉などの任意の加熱手段により行なうことができる。
上記熱処理温度は粉体を溶融させて均質化できる温度であれば特に限定されないが、特に粉体中のフッ素樹脂の種類によって適切な熱処理温度や熱処理時間を選択することが好ましい。たとえば、熱処理温度が高すぎるとフッ素樹脂の変質等の好ましくない影響が生じるおそれがあり、一方、熱処理温度が低すぎると、良好な物性の塗膜が形成できないおそれがある。
たとえば、粉体中のフッ素樹脂がETFEの場合、熱処理温度は、260〜340℃であるのが好ましく、265〜320℃であるのがより好ましく、270〜310℃であるのが特に好ましい。熱処理温度が260℃以上であると、焼成不足によるボイドや気泡残りが生じにくく、340℃以下であると、変色や発泡が生じにくい傾向がある。熱処理時間は、熱処理温度により異なるが、1〜180分の間での熱処理が好ましく、より好ましくは5〜120分であり、特に好ましくは10〜60分である。熱処理時間が1分以上であると、焼成不足による気泡残りが生じにくく、180分以下であると変色やタレが生じにくい傾向がある。
粉体中のフッ素樹脂がPFAの場合の熱処理温度は、350℃以上380℃未満が好ましい。熱処理温度が350℃以上であれば、形成されるフッ素樹脂層と基材との密着性が優れる。熱処理温度が380℃未満であれば、含フッ素樹脂層に発泡やクラックが生じることを抑制でき、外観に優れた積層体が得られる。熱処理温度は、350〜375℃が好ましく、350〜370℃がより好ましい。
2回以上の焼成における各焼成の熱処理温度は、異なる温度としてもよく、同じ温度としてもよい。
【0032】
本発明の塗装物品は、基材上にプライマー層を介してトップコート層を有し、トップコート層が本発明の粉体から形成された塗膜である積層構造を有してもよい。プライマー層とトップコート層とは材質が異なる。プライマー層は接着性に優れる材質が好ましい。
更に、トップコート層の表面上に、トップコート層とは異なる材質である有機物または無機物のコーティング層(以下「更なるコート層」とも記す。)が積層されていてもよい。
【0033】
[プライマー層]
プライマー層は、公知のプライマーを用いて形成できる。プライマーとしては、本発明の粉体から形成される塗膜との接着性を高めるためにフッ素樹脂の膜を形成しうるプライマーが好ましい。フッ素樹脂としては、前記本発明の粉体中のフッ素樹脂と同種のフッ素樹脂が好ましい。たとえば、ETFE等のフッ素樹脂が挙げられる。
また、プライマーは、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含有することができる。他の成分としては、前記本発明の粉体の他の成分として記載したものが挙げられる。
プライマー層の厚みは、1〜1,000μmが好ましく、5〜500μmがより好ましく、10〜200μmがさらに好ましい。
【0034】
プライマーとしては、塗布作業性が高いことより、フッ素樹脂の溶液や分散液等からなる液状物であることが好ましい。例えば、ETFEの分散液であるフルオン(登録商標)IL−300J(製品名、旭硝子社製)が挙げられる。このような液状のプライマーを基材に塗布し、溶媒や分散媒を加熱によって蒸発除去してプライマー層を形成できる。溶媒や分散媒を除去した後、熱処理して基材との接着性を向上させ、良好な物性のプライマー層を形成することが好ましい。熱処理は溶媒等の除去に引き続いて行うことができる。
【0035】
プライマー層形成の際の熱処理は、所定温度に設定した電気炉やガス炉や赤外加熱炉などの任意の加熱手段により行なうことができる。熱処理温度は、50〜340℃が好ましく、60〜320℃がより好ましく、70〜310℃が特に好ましい。熱処理温度が50℃以上であると、焼成不足による接着力低下や気泡残り乾燥不足が生じず、340℃以下であると、変色や発泡の生成が抑制される傾向がある。熱処理時間は、熱処理温度により異なるが、1〜180分の間での熱処理が好ましく、より好ましくは5〜120分であり、特に好ましくは10〜60分である。熱処理時間が、1分以上であると、焼成不足による接着力低下や気泡残りが生じず、180分以下であると、変色や発泡の生成が抑制される傾向がある。
なお、プライマー中のフッ素樹脂がETFEの場合、熱処理温度を下げても十分な接着性が得られる。この場合、熱処理温度は70〜250℃が好ましく、80〜200℃がより好ましい。熱処理時間は5〜60分が好ましく、10〜30分がより好ましい。
【0036】
[更なるコート層]
更なるコート層としては、着色層、ハードコート層、浸透防止層等が挙げられる。
更なるコート層としては、フッ素樹脂を含み複合酸化物(Z)を含まない層が好ましい。
更なるコート層の厚みは、特に限定されないが、1,000μm以下が好ましく500μm以下がより好ましい。該厚みの下限値は、更なるコート層を設けることによる効果が十分に得られる厚み以上であればよい。例えば10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましい。
【0037】
本発明の粉体から形成された塗膜は、耐酸性に優れる。従来の粉体塗料の塗膜では、良好な耐酸性を得るために塗膜を厚くする必要があった用途においても、本発明の粉体から形成された塗膜は、膜厚が薄くても耐酸性に優れる。また、従来の粉体塗料の塗膜が、耐酸性が不十分で適用できないような用途にも、本発明の粉体から形成された塗膜は、適用できる。
かかる塗膜を有する物品は、該塗膜で被覆された面の酸による変質が抑えられ、耐酸性に優れる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下の例で用いた化合物は下記の通りである。
フッ素樹脂粉体(A):熱安定剤としてCuOを1.5ppm(0.00015質量%)含有するETFE(TFE単位/E単位/PFBE単位のモル比:54/46/2)の粉体(平均粒子径80〜120μm)。
フッ素樹脂粉体(B):ETFE(TFE単位/E単位/PFBE単位のモル比:60/40/3)の粉体(平均粒子径30〜70μm)。
フッ素樹脂粉体(C):PFA(TFE単位/ペルフルオロプロピルビニルエーテル単位/5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物単位のモル比:97.9/2.0/0.1)の粉体(平均粒子径20〜30μm)。
【0039】
無機物粉体(1):複合酸化物の粉体。大日精化社製、製品名:ダイピロキサイドブラック♯9550、組成:Cu[Fe,Mn]O、比表面積:26m/g、平均粒子径1μm。
無機物粉体(2):複合酸化物の粉体。大日精化社製、製品名:ダイピロキサイドブラック♯3550、組成:Cu[Fe,Mn]O、比表面積:45m/g、平均粒子径60nm。
無機物粉体(3):酸化物系顔料の粉体、古河電子社製、製品名:S−300、組成:CuO、比表面積:10m/g、平均粒子径7.2μm。
無機物粉体(4):カーボンブラック粉体、三菱化学社製、製品名:♯45L、比表面積:110m/g、平均粒子径24nm。
無機物粉体(5):カーボンブラック粉体、電気化学工業社製、製品名:デンカブラック、比表面積:69m/g、平均粒子径35nm。
無機物粉体(6):グラファイト粉体、Timcal社製、製品名:KS75、比表面積:6.5m/g、平均粒子径28μm。
無機物粉体(7):酸化物系顔料の粉体、大日精化社製、製品名:TMイエロー8170、組成:FeOOH、比表面積:80m/g、平均粒子径70nm。
無機物粉体(8):酸化物系顔料の粉体、大日精化社製、製品名:TMレッド8270、組成:Fe、比表面積:80m/g、平均粒子径70nm。
液体プライマー(1):旭硝子社製、製品名:フルオン(登録商標)IL−300J)。
【0040】
<例1〜12:塗装用の粉体の製造>
表1に示す配合で、フッ素樹脂粉体と無機物粉体とを混合して塗装用の粉体を製造した。
例1〜5は複合酸化物(Z)の粉体を含有する実施例であり、例6〜11は複合酸化物(Z)以外の無機物粉体を含有する比較例である。
具体的には、チャック付きポリ袋にフッ素樹脂粉体を計量し、次いで無機物粉体を計量し、予備混合を行った。予備混合後、全量をジューサーミキサーへ投入し、30秒間撹拌した。袋に取り出した後、再度ジューサーミキサーへ投入し、30秒間撹拌して塗装用の粉体を得た。
各例の粉体を用い、下記の方法で塗装試験片を製造し、初期接着性、耐熱水性、耐酸性の評価を行った。結果を表1に示す。
なお、例12は、フッ素樹脂粉体(A)のみを使用した例である。
【0041】
<塗装試験片の製造>
縦40mm、横150mm、厚さ2mmのSUS304ステンレス鋼板の表面を、60メッシュのアルミナ粒子を用いて、表面粗さRa=5〜10μmとなるようサンドブラスト処理した後、エタノールで清浄化し、試験用基材を作製した。
該試験用基材の表面に、液体塗料用エアー式スプレーガン(明治機械製作所社製)を使用して、液体プライマー(1)を塗装し、オーブン中に吊り下げて300℃で30分間焼成し、厚み23μmのプライマー層を形成し、プライマー層付き基材を得た。
なお、試験用基材の横方向の一端部にプライマー層が無い部分(剥離試験時の掴みしろとなる部分)が形成されるように、予め該一端部において横方向の幅が20mmの部分をマスキングした。
次いで、プライマー層を形成した後にマスキングを除去し、プライマー層付き基材の表面の全面に、各例の粉体を静電塗装で吹き付け、275℃で15分間焼成した。この静電塗装及び焼成工程を3回繰り返してトップコート層を形成した。さらに、該トップコート層の表面にフッ素樹脂粉体(A)を静電塗装し、275℃で15分間焼成して、最外層(更なるコート層)を形成し、塗装試験片を得た。
トップコート層の厚みは200μm、トップコート層と最外層の合計厚みは250μmとした。
【0042】
<評価方法>
[初期接着性評価]
塗装試験片上に形成された塗膜に、カッターナイフを用いて、横方向に平行な切り込みを10mm間隔で入れた。塗装試験片の一端部のプライマー層が無い部分で、最外層とトップコート層を基材から剥離して掴みしろとした。該掴みしろを、引張り試験機のチャックに固定し、引張り速度50mm/分で90度剥離強度(単位:N/cm)を測定し、得られた値を初期剥離強度として記録した。その値に基づき、以下基準により初期接着性を評価した。Dランクは不可とした。
50.0N/cm以上 : Aランク
35.0以上50.0N/cm未満 : Bランク
20.0以上35.0N/cm未満 : Cランク
20.0N/cm未満 : Dランク
【0043】
[耐熱水性試験]
塗装試験片を、プレッシャークッカー(高温蒸気圧力釜)により130℃で24時間処理した後、初期接着性評価と同様にして、90度剥離強度(単位:N/cm)を測定した。得られた値を耐熱水性試験後の剥離強度として記録し、その値に基づいて耐熱水性を評価した。評価基準は初期接着性と同様とした。
【0044】
[耐酸性試験]
塗装試験片を、室温で濃度35%の塩酸水溶液に40時間浸漬した後、初期接着性評価と同様にして、90度剥離強度(単位:N/cm)を測定した。得られた値を耐酸性試験後の剥離強度として記録し、その値に基づいて耐酸性を評価した。評価基準は初期接着性と同様とした。
【0045】
【表1】
【0046】
表1の結果に示されるように、粉体がフッ素樹脂粉体(A)のみからなる例12は、初期接着性は良好であるが、耐酸性試験において剥離強度が著しく低下した。塗膜(最外層及びトップコート層)に変化がないことから、剥離強度の低下は、粉体からなる塗膜の下層であるプライマー層が変質したことを意味すると考えられる。
これに対して、フッ素樹脂粉体(A)と複合酸化物(Z)粉体とを含有する粉体を用いた例1〜4は、耐酸性試験において塩酸水溶液に浸漬された後も剥離強度が高い値に維持された。すなわち、トップコート層の耐酸性が優れ、プライマー層の変質が抑制されたと考えられる。
また例1〜4は、耐熱水性試験において高温蒸気に曝された後も、塗膜の剥離強度が高い値に維持され、塗膜の耐熱水性が優れていた。
熱安定剤を含まないフッ素樹脂粉体(B)と複合酸化物(Z)粉体とを含有する粉体を用いた例5も、例1〜4と同様に、塗膜の耐酸性および耐熱水性が優れていた。
一方、フッ素樹脂粉体(A)と複合酸化物(Z)以外の無機物粉体とを含有する粉体を用いた例6〜11は、耐酸性試験において剥離強度が低下し、塗膜の耐酸性が劣っていた。
【0047】
プライマー層を形成する際に表2に記載する熱処理温度および熱処理時間とし、粉体を表2に記載する組成とした他は、例1〜12と同様に粉体を製造し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2の結果に示されるように、本発明の粉体は、プライマー層の熱処理温度を下げるとともに熱処理時間を短くしても塗膜の耐熱性および耐熱水性が優れていた。
【0050】
塗装用の粉体を表3に記載する組成とし、プライマー層を形成せず、粉体を用い、350℃で4分熱処理することを5回繰り返した後に350℃で6分熱処理することを1回行いトップコート層を形成した。最外層を形成しない他は、例1〜12と同様に塗膜を形成し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【表3】
【0051】
表3の結果に示されるように、本発明の粉体は、フッ素樹脂の種類を変更しても、複合酸化物(Z)を含有しないものと比べて耐熱性および耐熱水性が優れていた。
なお、2015年12月25日に出願された日本特許出願2015−254091号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。