特許第6874718号(P6874718)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6874718半導体エピタキシャルウェーハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874718
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】半導体エピタキシャルウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/322 20060101AFI20210510BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20210510BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   H01L21/322 J
   H01L21/322 C
   H01L21/265 Z
   H01L21/20
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-36909(P2018-36909)
(22)【出願日】2018年3月1日
(65)【公開番号】特開2019-153647(P2019-153647A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2020年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 諒
【審査官】 桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−157613(JP,A)
【文献】 特開2015−130402(JP,A)
【文献】 特開2010−114409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/322
H01L 21/20
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェーハの表面に、構成元素として炭素、水素及び酸素の3元素を含む多元素クラスターイオンを注入して、該半導体ウェーハの表層部に、前記多元素クラスターイオンの構成元素が固溶した改質層を形成する第1工程と、
該第1工程の後、前記改質層内に形成される黒点状欠陥の欠陥密度を増大させるための欠陥形成熱処理を行う第2工程と、
該第2工程に引き続き、前記半導体ウェーハの改質層上に、エピタキシャル層を形成する第3工程と、を有することを特徴とする半導体エピタキシャルウェーハの製造方法であって、
前記第2工程における前記欠陥形成熱処理の熱処理条件は、前記半導体ウェーハを800℃未満の第1温度領域に保持する第1保持時間が0秒以上45秒以下であり、かつ、第1温度領域から昇温後の、前記半導体ウェーハを800℃以上1000℃未満の第2温度領域に保持する第2保持時間が30秒以上である、半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記多元素クラスターイオンの構成元素は、炭素、水素及び酸素の3元素からなる、請求項1に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記半導体ウェーハがシリコンウェーハである、請求項1又は2に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体エピタキシャルウェーハの製造方法および半導体エピタキシャルウェーハに関する。本発明は、特に、より高いゲッタリング能力を発揮する半導体エピタキシャルウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの特性を劣化させる要因として、金属汚染が挙げられる。例えば、裏面照射型固体撮像素子では、この素子の基板となる半導体エピタキシャルウェーハに混入した金属は、固体撮像素子の暗電流を増加させる要因となり、白傷欠陥と呼ばれる欠陥を生じさせる。裏面照射型固体撮像素子は、配線層などをセンサー部よりも下層に配置することで、外からの光をセンサーに直接取り込み、暗所などでもより鮮明な画像や動画を撮影することができるため、近年、デジタルビデオカメラやスマートフォンなどの携帯電話に広く用いられている。そのため、白傷欠陥を極力減らすことが望まれている。
【0003】
半導体素子基板への金属の混入は、主に半導体エピタキシャルウェーハの製造工程および固体撮像素子の製造工程(デバイス製造工程)において生じる。前者の半導体エピタキシャルウェーハの製造工程における金属汚染は、エピタキシャル成長炉の構成材からの重金属パーティクルによるもの、あるいは、エピタキシャル成長時の炉内ガスとして塩素系ガスを用いるために、その配管材料が金属腐食して発生する重金属パーティクルによるものなどが考えられる。近年、これら金属汚染は、エピタキシャル成長炉の構成材を耐腐食性に優れた材料に交換するなどにより、ある程度は改善されてきているが、十分ではない。一方、後者の固体撮像素子の製造工程においては、イオン注入、拡散および酸化熱処理などの各処理中で、半導体エピタキシャルウェーハの重金属汚染が懸念される。
【0004】
そのため、一般的には、半導体エピタキシャルウェーハに金属を捕獲するためのゲッタリング層を形成することにより、半導体エピタキシャルウェーハへの金属汚染を回避している。
【0005】
ここで、ゲッタリング層を形成する技術として、エピタキシャル層の形成に先立ち、クラスターイオンを照射する技術がある。特許文献1では、半導体エピタキシャルウェーハの製造方法において、構成元素として炭素、水素および酸素を含むクラスターイオン注入技術が開示されている。そして、特許文献1には、炭素、水素および酸素の3元素を含むクラスターイオン注入により、格子間シリコン起因と推定される比較的大きなサイズの黒点状欠陥(特許文献1における第2の黒点状欠陥)が形成されることも開示されている。この黒点状欠陥が強力なゲッタリングサイトとして機能することが特許文献1の実験結果より示唆される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017−157613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたクラスターイオン注入技術を用いることで、極めて優れたゲッタリング能力を有する半導体エピタキシャルウェーハを得ることができる。しかしながら、クラスターイオン注入によるゲッタリングサイトの形成メカニズムおよびその特性はある程度明らかになりつつあるものの、未だ研究途上である。特に、クラスターイオンの構成元素として、炭素および水素に加えて、さらにもう1種類以上の元素が含まれる多元素クラスターイオンについては、未解明な点が多い。以下、本明細書においては、クラスターイオンの構成元素に3種類以上の元素が含まれる場合に「多元素クラスターイオン」と称する。
【0008】
ここで、特許文献1における改質層によるゲッタリング能力をより高くするには、例えばクラスターイオンのドーズ量を多くすることが有効である。しかしながら、ドーズ量を多くしすぎると、改質層上に形成されるエピタキシャル層にエピタキシャル欠陥が多数発生してしまう場合がある。このように、ドーズ量増加によるゲッタリング能力の改善には限界がある。
【0009】
そのため、クラスターイオン注入条件以外の観点で、ゲッタリング能力をより高めるための新たな手法の確立が期待される。
【0010】
そこで本発明は、クラスターイオン注入条件が同じであっても、より高いゲッタリング能力を有することのできる半導体エピタキシャルウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意検討した。そして、本発明者は、クラスターイオン注入条件に替えて、エピタキシャル成長条件を調整することにより、ゲッタリング能力を高くすることができないかと検討した。ここで、エピタキシャル成長処理に伴う熱処理シーケンスの一般的な概念図を図1を用いて説明する。この熱処理シーケンスは、(i)半導体ウェーハをエピタキシャル成長炉内に投入してから、エピタキシャル成長温度に到達するまでの昇温過程、(ii)半導体ウェーハ表面にエピタキシャル層を成長させるエピタキシャル成長過程、(iii)エピタキシャル層形成後、得られた半導体エピタキシャルウェーハをエピタキシャル成長炉から取り出すまでの降温過程、の3つに大きく区分される。
【0012】
本発明者が鋭意検討したところ、ゲッタリングサイトとなる黒点状欠陥の生成数が上記(i)昇温過程に大きく依存することを知見した。そして、黒点状欠陥の欠陥密度を増大させるための欠陥形成熱処理を兼ねた昇温過程を行うことにより、クラスターイオン注入条件が同じであっても、ゲッタリング能力をより高くできることを本発明者は知見した。本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
【0013】
(1)半導体ウェーハの表面に、構成元素として炭素、水素及び酸素の3元素を含む多元素クラスターイオンを注入して、該半導体ウェーハの表層部に、前記多元素クラスターイオンの構成元素が固溶した改質層を形成する第1工程と、
該第1工程の後、前記改質層内に形成される黒点状欠陥の欠陥密度を増大させるための欠陥形成熱処理を行う第2工程と、
該第2工程に引き続き、前記半導体ウェーハの改質層上に、エピタキシャル層を形成する第3工程と、を有することを特徴とする半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【0014】
(2)前記第2工程における前記欠陥形成熱処理の熱処理条件は、前記半導体ウェーハを800℃未満の第1温度領域に保持する第1保持時間が0秒以上45秒以下であり、かつ、第1温度領域から昇温後の、前記半導体ウェーハを800℃以上1000℃未満の第2温度領域に保持する第2保持時間が30秒以上である、上記(1)に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【0015】
(3)前記多元素クラスターイオンの構成元素は、炭素、水素及び酸素の3元素からなる、上記(1)または(2)に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【0016】
(4)前記半導体ウェーハがシリコンウェーハである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クラスターイオン注入条件が同じであっても、より高いゲッタリング能力を有することのできる半導体エピタキシャルウェーハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】エピタキシャル成長に伴う一般的な熱処理シーケンスを示す概念図である。
図2】参考実験例1におけるエピタキシャルシリコンウェーハの基板界面近傍のTEM断面図を示す図である。
図3】参考実験例2におけるエピタキシャルシリコンウェーハの基板界面近傍のTEM断面図を示す図である。
図4】本発明の一実施形態によるエピタキシャル成長に伴う熱処理シーケンスの一態様を説明する模式断面図である。
図5】本発明の一実施形態による半導体エピタキシャルウェーハ100の製造方法を説明する模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施形態の詳細な説明に先立ち、まず、本発明を完成させるに至った実験(参考実験例1,2)を説明する。
【0020】
[参考実験例1]
CZ単結晶シリコンインゴットから得たシリコンウェーハ(直径:300mm、厚さ:725μm、ドーパント種類:リン、抵抗率:10Ω・cm)を用意した。次いで、クラスターイオン発生装置(日新イオン機器社製、型番:CLARIS(登録商標))を用いて、ジエチルエーテル(C10O)をクラスターイオン化したCHOからなる多元素クラスターイオンを、加速電圧80keV/Clusterの注入条件でシリコンウェーハの表面に注入した。また、当該クラスターイオンのドーズ量を1.0×1015cluster/cmとした。
【0021】
次に、上記シリコンウェーハを高速熱処理装置(ハイソル社製、型番AccuThermo Aw610)内に搬送した。そして、1100℃、300秒のエピタキシャル成長を模擬した熱処理(以下、模擬成長熱処理)を行うため、窒素ガス雰囲気下で、以下の条件で熱処理を行った。
炉内投入温度:500℃
模擬成長温度までの昇温レート:60℃/s
【0022】
(サンプル2〜4)
サンプル1における昇温レート60℃/sを、15℃/s、8℃/s、4℃/sに変えた以外は、サンプル1と同様にして、サンプル2〜4をそれぞれ作製した。
【0023】
サンプル1〜4のそれぞれに対して、模擬成長熱処理を行った前後でのTEM断面を取得した。結果を図2に示す。
【0024】
[参考実験例2]
(サンプル5)
サンプル1と同様の条件で、CHOからなる多元素クラスターイオンをシリコンウェーハの表面に注入した。次いで、800℃、300秒の模擬成長熱処理を行うため、参考実験例1と同様に、クラスターイオン注入後のシリコンウェーハを高速熱処理装置(ハイソル社製)内に搬送し、以下の条件で熱処理を行った。
炉内投入温度:500℃
模擬成長温度までの昇温レート:8℃/s
【0025】
(サンプル6〜8)
サンプル5における模擬成長熱処理の熱処理温度800℃を、900℃、1000℃、1100℃に変えた以外は、サンプル5と同様にして、サンプル6〜8をそれぞれ作製した。
【0026】
サンプル5〜8のそれぞれに対して、エピタキシャル成長を模擬した熱処理を行った後後でのTEM断面を取得した。結果を図3に示す。
【0027】
<参考実験例1,2の考察>
まず、参考実験例1による図2に基づけば、1100℃、300秒の模擬成長熱処理前では、形成される黒点状欠陥の欠陥密度が昇温レートに大きく依存しないことが確認される。一方で、模擬成長熱処理後には、黒点状欠陥の欠陥密度はいずれも減少するものの、その減少量は昇温レートに大きく依存する。
【0028】
そして、参考実験例2による図3に基づけば、800℃、900℃および1000℃の模擬成長熱処理による黒点状欠陥の生成量が比較的大きいことが確認された。
【0029】
以上の結果を総合考慮すると、クラスターイオン注入されたシリコンウェーハは、800℃以上1000℃未満の熱処理を受けると黒点状欠陥が成長する一方、800℃未満では黒点状欠陥の種そのものが消滅し、1000℃以上の熱処理を受けると黒点状欠陥が分解するとの仮説が考えられる。この仮説に基づく熱処理シーケンスを図4に示す。サンプル1〜3では800℃未満の黒点状欠陥の種が消滅する温度帯の通過時間が比較的短いものの、黒点状欠陥が成長する温度帯の通過時間も比較的短い。サンプル4では、800℃未満の黒点状欠陥の種が消滅する温度帯の通過時間が比較的長いものの、800℃以上1000℃未満の熱処理を受けると黒点状欠陥が成長する時間も長い。そのために、図2上段のTEM断面写真のように、模擬熱処理前の状態では、黒点状欠陥の欠陥密度は同程度に観察される。そして、図2下段のTEM断面写真のように、模擬熱処理後には、黒点状欠陥の欠陥密度に有意な差が生じているものと推察される。
【0030】
そこで本発明者は、エピタキシャル層が形成される前に、改質層内に形成される黒点状欠陥の欠陥密度を増大させるための欠陥形成熱処理を行うことにより、ゲッタリング能力を高めることができることを知見した。
【0031】
以上の実験結果に基づき、前述の図4の熱処理シーケンスおよび図5の製造フローを示す模式断面図を参照しつつ、本発明の一実施形態によるエピタキシャルシリコンウェーハの不純物拡散挙動予測方法を説明する。なお、図5では説明の便宜上、実際の厚さの割合とは異なり、半導体ウェーハ10に対して改質層18およびエピタキシャル層20の厚さを誇張して示す。
【0032】
(半導体エピタキシャルウェーハの製造方法)
本発明の一実施形態に従う半導体エピタキシャルウェーハ100の製造方法は、半導体ウェーハ10の表面10Aに、構成元素として3元素以上を含む多元素クラスターイオン16を注入して、該半導体ウェーハ10の表層部に、多元素クラスターイオン16の構成元素が固溶した改質層18を形成する第1工程(図5ステップA,B)と、該第1工程の後、改質層18内に形成される黒点状欠陥Dの欠陥密度を増大させるための欠陥形成熱処理を行う第2工程と、該第2工程に引き続き、半導体ウェーハの改質層18上に、エピタキシャル層を形成する第3工程(図5ステップC)と、を有する。ここで、多元素クラスターイオン16の構成元素は炭素、水素及び酸素を含む。以下では、簡略化のため、構成元素として炭素、水素および酸素を含む多元素クラスターイオンを「CHOクラスター」と略記する場合がある。CHOクラスターは、構成元素として炭素、水素および酸素以外を含み得るが、炭素、水素および酸素の3元素のみとすることもできる。なお、図5のステップCは、この製造方法の結果得られた半導体エピタキシャルウェーハ100の模式断面図である。エピタキシャル層20は、裏面照射型固体撮像素子等の半導体素子を製造するためのデバイス層となる。半導体ウェーハ10がシリコンウェーハであり、エピタキシャル層20がシリコンエピタキシャル層であるエピタキシャルシリコンウェーハは、半導体エピタキシャルウェーハ100の好ましい態様の一つである。以下、各工程の詳細を順次説明する。
【0033】
<第1工程>
本発明における第1工程(図2ステップA,B)では、前述のとおり、半導体ウェーハ10の表面10Aに、構成元素として3元素以上を含む多元素クラスターイオン16を注入して、該半導体ウェーハ10の表層部に、多元素クラスターイオン16の構成元素が固溶した改質層18を形成する。第1工程に用いる多元素クラスターイオン16は、前述のとおり構成元素として炭素、水素および酸素を含む。
【0034】
<<半導体ウェーハ>>
半導体ウェーハ10としては、例えばシリコン、化合物半導体(GaAs、GaN、SiC)からなり、表面にエピタキシャル層を有しないバルクの単結晶ウェーハが挙げられる。裏面照射型固体撮像素子を製造する場合、一般的にはバルクの単結晶シリコンウェーハを用いる。また、半導体ウェーハ10は、チョクラルスキ法(CZ法)や浮遊帯域溶融法(FZ法)により育成された単結晶シリコンインゴットをワイヤーソー等でスライスしたものを使用することができる。また、より高いゲッタリング能力を得るために、半導体ウェーハ10に炭素および/または窒素を添加してもよい。さらに、半導体ウェーハ10に任意のドーパントを所定濃度添加して、いわゆるn+型もしくはp+型、またはn−型もしくはp−型の基板としてもよい。
【0035】
また、半導体ウェーハ10としては、バルク半導体ウェーハ表面に半導体エピタキシャル層が形成されたエピタキシャルウェーハを用いてもよい。例えば、バルクの単結晶シリコンウェーハの表面にシリコンエピタキシャル層が形成されたエピタキシャルシリコンウェーハである。このシリコンエピタキシャル層は、CVD法により一般的な条件で形成することができる。エピタキシャル層は、厚さが0.1〜20μmの範囲内とすることが好ましく、0.2〜10μmの範囲内とすることがより好ましい。
【0036】
<<クラスターイオン照射>>
ここで、本明細書における「クラスターイオン」とは、電子衝撃法により、ガス状分子に電子を衝突させてガス状分子の結合を解離させることで種々の原子数の原子集合体とし、フラグメントを起こさせて当該原子集合体をイオン化させ、イオン化された種々の原子数の原子集合体の質量分離を行って、特定の質量数のイオン化された原子集合体を抽出して得られる。すなわち、クラスターイオンは、原子が複数集合して塊となったクラスターに正電荷または負電荷を与え、イオン化したものであり、炭素イオンなどの単原子イオンや、一酸化炭素イオンなどの単分子イオンとは明確に区別される。
【0037】
半導体ウェーハ10としてのシリコンウェーハにクラスターイオンを照射する場合、クラスターイオンは、シリコンウェーハに照射されるとそのエネルギーで瞬間的に1350〜1400℃程度の高温状態となり、シリコンが融解する。その後、シリコンは急速に冷却され、シリコンウェーハ中の表面近傍に、クラスターイオンの構成元素が固溶する。すなわち、本明細書における「改質層」とは、照射するイオンの構成元素がシリコンウェーハ表層部の結晶の格子間位置または置換位置に固溶した層を意味する。構成元素の一例として例えば炭素に着目すると、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Iron Mass Spectrometry)によるシリコンウェーハの深さ方向における炭素の濃度プロファイルは、クラスターイオンの加速電圧およびクラスターサイズに依存するが、モノマーイオンの場合に比べてシャープになり、照射された炭素の局所的に存在する領域(すなわち、改質層)の厚みは、概ね500nm以下(例えば50〜400nm程度)となる。そのため、多元素クラスターイオン16の構成元素が、炭素などのゲッタリングに寄与する元素を含む場合、改質層18は、強力なゲッタリングサイトとして機能する。
【0038】
本実施形態において注入する多元素クラスターイオン16はCHOクラスターであり、構成元素として炭素、水素および酸素を含む。格子位置の炭素原子は共有結合半径がシリコン単結晶と比較して小さく、シリコン結晶格子の収縮場が形成されるため、格子間の不純物を引き付けるゲッタリング能力が高くなる。そして、CHOクラスターの形態で炭素および酸素が注入されることにより、その後のエピタキシャル成長に伴う熱処理を経て、黒点状欠陥Dが形成されると考えられる。なお、水素は、シリコンエピタキシャル層20の点欠陥をパッシベーションし、本実施形態により得られる半導体エピタキシャルウェーハ100を用いて半導体デバイスを作成したときの、デバイス特性の改善に寄与する点でも有利である。
【0039】
<第2工程>
上記第1工程の後、第2工程では、改質層18内に形成される黒点状欠陥Dの欠陥密度を増大させるための欠陥形成熱処理を行う。参考実験例1,2を用いて説明したように、黒点状欠陥Dの欠陥密度は、エピタキシャル成長温度に到達するまでの昇温過程における温度に大きく依存する。そのため、エピタキシャル層が形成される前に欠陥形成のための熱処理を行うことにより、最終的に得られる半導体エピタキシャルウェーハ100における黒点状欠陥Dの欠陥密度を増大させることができ、ゲッタリング能力を高めることができる。
【0040】
この第2工程における欠陥形成熱処理の熱処理条件は、黒点状欠陥Dの欠陥密度を増大できれば制限されないものの、半導体ウェーハを800℃未満の第1温度領域に保持する第1保持時間が0秒以上45秒以下であり、かつ、第1温度領域から昇温後の、前記半導体ウェーハを800℃以上1000℃未満の第2温度領域に保持する第2保持時間が30秒以上であることが好ましい。
【0041】
図4を参照して既述のとおり、第1温度領域は、欠陥の種が消滅する温度帯に相当するため、この温度帯を通過する時間は可能な限り短くすることが好ましい。そのため、第1保持時間を45秒以下とすることが好ましく、30秒以下とすることがより好ましく、10秒以下とすることがさらに好ましく、5秒以下とすることが特に好ましい。また、半導体ウェーハ10をエピタキシャル成長炉内に投入する炉内投入温度を800℃以上とすれば、第1保持時間を0秒とすることも可能である。
【0042】
また、第2温度領域は、欠陥が成長する温度帯に相当するため、この温度帯を通過する時間は比較的長くすることが好ましい。そのため、第2保持時間を30秒以上とすることが好ましく、60秒以上とすることがより好ましい。第2保持時間は長ければ長いほど好ましいと考えられるものの、製造効率を考慮すれば、第2保持時間の上限を300秒とすることができる。
【0043】
なお、図4では、第2温度領域において一定温度に保持する態様を図示しているが、本発明はこの態様に何ら限定されない。例えば、第2温度領域において、昇温レートを数℃/秒(例えば1〜3℃/秒)程度、あるいは、さらに遅い昇温レートで昇温して上記第2保持時間を実現しても構わないし、昇温および一定温度の保持を繰り返すなどしても構わない。
【0044】
また、本工程による欠陥形成熱処理は、結晶性回復のための回復熱処理とは異なる。結晶性回復のための回復熱処理は、クラスターイオン注入により形成されたアモルファス状態を回復されるためのものであり、欠陥形成熱処理よりも比較的高温の熱処理を比較的長時間行う必要がある。
【0045】
<第3工程>
上記第2工程に引き続き、半導体ウェーハ10の改質層18上にエピタキシャル層20を形成する第3工程を行う(図5ステップC)。形成するエピタキシャル層18としては、例えばシリコンエピタキシャル層が挙げられ、一般的な条件により形成することができる。この場合、例えば、水素をキャリアガスとして、ジクロロシラン、トリクロロシランなどのソースガスをチャンバー内に導入し、使用するソースガスによっても成長温度は異なるが、1000〜1200℃の範囲の温度でCVD法により半導体ウェーハ10上にエピタキシャル成長させることができる。エピタキシャル層18は、厚さが1〜15μmの範囲内とすることが好ましい。1μm未満の場合、半導体ウェーハ10からのドーパントの外方拡散によりエピタキシャル層18の抵抗率が変化してしまう可能性があり、また、15μm超えの場合、固体撮像素子の分光感度特性に影響が生じるおそれがあるからである。
【0046】
第3工程後の黒点状欠陥Dの欠陥密度は、第2工程直後の黒点状欠陥Dの欠陥密度より減少しうるものの、第2工程による欠陥形成熱処理により、従来形成される欠陥密度より大きくなる。そのため、得られる半導体エピタキシャルウェーハ100のゲッタリング能力を、クラスターイオン注入条件が同じであったとしても、従来よりも有意に高くすることが可能となる。
【0047】
なお、本明細書における黒点状欠陥Dとは、半導体エピタキシャルウェーハ100の劈開断面をTEMにて明モードで観察した場合に、改質層18内に黒点として観察される欠陥であって、直径数nm程度の微小サイズの欠陥は除く。黒点状欠陥Dのサイズは15nm以上100nm以下であり、「黒点状欠陥のサイズ」とは、TEM画像中の欠陥の直径とする。なお、黒点状欠陥Dが円形でない、あるいは円形と見なせない形状である場合は、黒点状欠陥Dを内包する最小直径の外接円を用いて円形に近似し、直径を定める。また、黒点状欠陥の「欠陥密度」は、TEM画像中に黒点状欠陥Dが存在する領域中における、所定面積あたりの欠陥の個数にその時のTEM観察に使用したサンプルの最終厚さよって定義される。
【0048】
以下で、本実施形態における多元素クラスターイオンの照射態様について説明する。
【0049】
照射する多元素クラスターイオン16の構成元素は、炭素、水素および酸素が含まれれば他の構成元素については特に限定されない。多元素クラスターイオン16の構成元素としてさらに含まれ得る元素として、ボロン、リン、ヒ素、アンチモンなどを挙げることができる。
【0050】
なお、イオン化させる化合物は特に限定されないが、イオン化が可能な化合物としては、例えばジエチルエーテル(C10O)、エタノール(CO)、ジエチルケトン(C10O)などを用いることができる。特に、ジエチルエーテル、エタノール、などより生成したクラスターC(l,m,nは互いに独立で有り、1≦n≦16,1≦m≦16,1≦l≦16)を用いることが好ましい。特に、クラスターイオンの炭素原子数が16個以下であり、かつ、クラスターイオンの酸素原子数が16個以下であることが好ましい。小サイズのクラスターイオンビームを制御し易いためである。また、例えばトリメチルホスファイト(CP)などを用いれば、炭素、水素及び酸素に加えて、多元素クラスターイオン16の構成元素にリンを含ませることが可能である。
【0051】
クラスターサイズは2〜100個、好ましくは60個以下、より好ましくは50個以下で適宜設定することができる。クラスターサイズの調整は、ノズルから噴出されるガスのガス圧力および真空容器の圧力、イオン化する際のフィラメントへ印加する電圧などを調整することにより行うことができる。なお、クラスターサイズは、四重極高周波電界による質量分析またはタイムオブフライト質量分析によりクラスター個数分布を求め、クラスター個数の平均値をとることにより求めることができる。
【0052】
クラスターイオンの加速電圧は、クラスターサイズとともに、クラスターイオンの構成元素の深さ方向の濃度プロファイルのピーク位置に影響を与える。本実施形態においては、多元素クラスターイオン16の加速電圧を、0keV/Cluster超え200keV/Cluster未満とすることができ、100keV/Cluster以下とすることが好ましく、80keV/Cluster以下とすることがさらに好ましい。なお、加速電圧の調整には、(1)静電加速、(2)高周波加速の2方法が一般的に用いられる。前者の方法としては、複数の電極を等間隔に並べ、それらの間に等しい電圧を印加して、軸方向に等加速電界を作る方法がある。後者の方法としては、イオンを直線状に走らせながら高周波を用いて加速する線形ライナック法がある。
【0053】
また、クラスターイオンのドーズ量は、イオン照射時間を制御することにより調整することができる。炭素、水素および酸素の各元素のドーズ量は、クラスターイオン種と、クラスターイオンのドーズ量(Cluster/cm)で定まる。本実施形態では、炭素のドーズ量が1×1013〜1×1017atoms/cmとなるよう、多元素クラスターイオン16のドーズ量を調整することができ、好ましくは炭素のドーズ量を5×1013atoms/cm以上5×1016atoms/cm以下とする。炭素のドーズ量が1×1013atoms/cm未満の場合、十分なゲッタリング能力が得られない場合があり、炭素のドーズ量が1×1016atoms/cm超えの場合、エピタキシャル層20の表面に大きなダメージを与えるおそれがあるからである。
【0054】
また、多元素クラスターイオン16のビーム電流値は50μA以上5000μA以下とすればよい。なお、クラスターイオンのビーム電流値は、例えば、イオン源における原料ガスの分解条件を変更することなどにより調整することができる。
【0055】
以上、本発明の代表的な実施形態を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
(試行例1)
CZ単結晶シリコンインゴットから得たシリコンウェーハ(直径:300mm、厚さ:725μm、ドーパント種類:リン、抵抗率:10Ω・cm)を用意した。次いで、クラスターイオン発生装置(日新イオン機器社製、型番:CLARIS(登録商標))を用いて、ジエチルエーテル(C10O)をクラスターイオン化したCHOからなる多元素クラスターイオンを、加速電圧80keV/Clusterの注入条件でシリコンウェーハの表面に照射した。また、当該クラスターイオンのドーズ量を1.0×1015cluster/cmとした(炭素のドーズ量も1.0×1015atoms/cmである)。
【0057】
次に、上記シリコンウェーハを炉内温度600℃の枚葉式エピタキシャル成長装置(アプライドマテリアルズ社製)内に搬送した。次いで、800℃までの昇温時間を5秒(昇温レート40℃/s)とし、800℃〜1000℃までの昇温時間を5秒(昇温レート40℃/s)として1000℃まで上昇させた。引き続き、装置内で1120℃まで昇温し、当該温度で30秒の水素ベーク処理を施した後、水素をキャリアガス、トリクロロシランをソースガス、1120℃でCVD法により、シリコンウェーハの改質層が形成された側の表面上にシリコンのエピタキシャル層(厚さ:5μm、ドーパント種類:リン、抵抗率:50Ω・cm)をエピタキシャル成長させ、試行例1に係るエピタキシャルシリコンウェーハを作製した。
【0058】
(試行例2〜25)
下記表1に示すように、800℃までの昇温時間を5秒(昇温レート40℃/s)、10秒(昇温レート20℃/s)、30秒(昇温レート6.7℃/s)、45秒(昇温レート6.7℃/s)、60秒(昇温レート3.3℃/s)とし、800℃〜1000℃までの昇温時間を5秒(昇温レート40℃/s)、10秒(昇温レート20℃/s)、30秒(昇温レート6.7℃/s)、60秒(昇温レート3.3℃/s)、300秒(昇温レート0.67℃/s)とした以外は、試行例1と同様にして、試行例2〜25に係るエピタキシャルシリコンウェーハを作製した。
【0059】
【表1】
【0060】
<評価1:TEM断面写真による観察>
試行例1〜25に係るエピタキシャルシリコンウェーハのそれぞれについて、基板界面近傍の断面をTEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)にて観察し、黒点状欠陥の欠陥密度を求めた。なお、基板界面から深さ300nm以内の範囲内で観察された欠陥サイズ15nm〜100nm以下の欠陥を、黒点状欠陥とした。観察された欠陥密度を表1に併せて示す。
【0061】
<評価2:ゲッタリング能力評価>
試行例1〜25に係るエピタキシャルシリコンウェーハのそれぞれに対して、ゲッタリング能力を評価した。まず、各エピタキシャルシリコンウェーハのエピタキシャル層の表面を、Ni汚染液(1.0×1013atoms/cm)を用いてスピンコート汚染法により強制的に汚染し、次いで、窒素雰囲気中において900℃で30分間の拡散熱処理を施した。その後、各エピタキシャルシリコンウェーハについてSIMS測定を行い、クラスターイオン注入領域(本評価では、簡便のため基板界面から300nmとした。)におけるNi濃度のプロファイルをそれぞれ測定した。そして、イオン注入領域におけるNiの捕獲量(SIMSプロファイルにおけるNi濃度の積分値に相当)を求めた。Niの捕獲量下記のとおり分類して、評価基準とした。評価結果を表1に併せて示す。
◎:9.7×1012atoms/cm以上
○:9.5×1012atoms/cm以上9.7×1012atoms/cm未満
△:9.0×1012atoms/cm以上9.5×1012atoms/cm未満
×:9.0×1012atoms/cm未満
【0062】
<評価結果の考察>
まず、表1から、ゲッタリング能力の高低と、黒点状欠陥の欠陥密度とには明確な相関関係があることが確認され、黒点状欠陥の欠陥密度が大きいほど、ゲッタリング能力も高いことが確認される。そして、欠陥の種が消滅すると推定される温度帯の通過時間が短く、かつ、欠陥が成長すると推定される温度帯の通過時間が長いほど、黒点状欠陥の欠陥密度が大きくなることも確認された。したがって、クラスター条件が同一であったとしても、黒点状欠陥の欠陥密度を増大させるための欠陥形成熱処理を行うことにより、ゲッタリング能力を高くすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、クラスターイオン注入条件が同じであっても、より高いゲッタリング能力を有することのできる半導体エピタキシャルウェーハの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 半導体ウェーハ
10A 半導体ウェーハの表面
16 クラスターイオン
18 改質層
20 エピタキシャル層
100 半導体エピタキシャルウェーハ
D 黒点状欠陥
図1
図2
図3
図4
図5