(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記中間膜は前記1対のガラス板の対向面に接するようにスキン層を有し、前記1対のガラス板にそれぞれ最も近い1対のコア層間の厚みが0.45mm以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の合わせガラス。
前記中間膜は前記1対のガラス板の対向面に接するようにスキン層を有し、前記1対のガラス板にそれぞれ最も近い1対のコア層間に配置される層全体の面密度が0.5kg/m2以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の合わせガラス。
温度20℃の条件下、0〜10000Hzの周波数領域で測定される1次共振点における損失係数が0.35以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の合わせガラス。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態を、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、変更または変形することができる。
【0013】
本発明の合わせガラスは、互いに対向する1対のガラス板と、前記1対のガラス板間に挟持される、以下の構成の中間膜を備える。
【0014】
上記中間膜は、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤を含有するガラス転移点が15℃以上のスキン層と、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤を含有するガラス転移点が15℃未満のコア層が交互に積層された構成であり、前記コア層を3層以上有する。さらに、上記中間膜は、端部から内側に5mmの位置と、端部から内側に6mmの位置と間の領域において、該中間膜の主面の単位面積当たりの量として求められる可塑剤量が、0.3mg/mm
2以上である。
【0015】
本明細書において、端部とは面と面とが接合することによって形成される稜線を意味し、周縁部とは面の端部から面の中央部に向かってある一定の幅を有する領域を意味する。中間膜において、端部とは中間膜の主面の外周を意味する。本明細書において、中間膜の主面において中央部から見て外周側を外側、外周からみて中央部側を内側という。端部、周縁部、外側、内側の用語の意味は、中間膜を構成するスキン層、コア層、および、ガラス板、合わせガラスにおいても中間膜の場合と同様である。
【0016】
本明細書におけるガラス転移点とは、周波数1Hz、動的せん断歪み0.015%、昇温速度:3℃/分、測定温度範囲:−40℃〜80℃の条件で、動的粘弾性試験により検体のtanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)の温度依存性を測定した際のtanδのピーク温度のことをいう。
【0017】
tanδは、例えば、厚みd=0.6mm、直径12mmの円盤状に成形した検体を準備し、該検体を上記条件の下、測定治具:パラレルプレート(直径12mm)を用いて、動的粘弾性測定装置により測定できる。動的粘弾性測定装置としては、例えば、アントンパール社製、回転式レオメーターMCR301が挙げられる。
【0018】
また、本明細書における中間膜の主面における単位面積当たりの可塑剤量は、以下の方法で測定される可塑剤量[mg/mm
2]をいう。本明細書において、特に断りのない限り、中間膜の可塑剤量とは、中間膜の主面における単位面積当たりの可塑剤量[mg/mm
2]をいう。
【0019】
テトラヒドロフラン(THF)を溶媒として可塑剤の含有量の異なる複数の可塑剤−THF溶液を調製し、得られた可塑剤−THF溶液をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、各溶液における可塑剤のピーク面積を求める。各溶液における可塑剤の濃度に対する可塑剤のピーク面積を二次元座標にプロットし、近似直線を得る。
【0020】
可塑剤量を測定するための中間膜の検体は、中間膜の主面の外周、すなわち端部から内側に5mmの位置から6mmの位置までの範囲で主面に対して垂直な面で切断して作製される。該検体をTHFに溶解させたTHF溶液をGPC測定し、得られる可塑剤のピーク面積と上記近似直線から検体における可塑剤の含有量を求め、該検体の主面における単位面積当たりの可塑剤量[mg/mm
2]を算出する。
【0021】
なお、上記測定において検体の大きさは5mm
3程度が好ましい。例えば、中間膜の厚みが1mmの場合、主面の外周から内側に5〜6mmの範囲の幅1mmで検体を作製すると、長さ5mmとすれば、体積5mm
3の検体が得られる。なお、主面の外周から内側に5〜6mmの範囲にあれば、検体の幅は、1mmに限定されない。例えば、上記同様に中間膜の厚みが1mmの場合、主面の外周から内側に5〜6mmの範囲の幅0.5mmで検体を作製すると、長さ10mmとすれば、体積5mm
3の検体が得られる。また、中間膜を構成する各層ごとに主面の端部から内側に5mmの位置から6mmの位置までの範囲でその主面に対して垂直な面で切断して所定の大きさの検体を作製し、上記同様の方法で各層の可塑剤量[mg/mm
2]を算出し、合算してもよい。
【0022】
また、中間膜の可塑剤量は、中間膜の膜厚が主面内で均一の場合には、中間膜の端部から内側に5mmの位置と端部から内側に6mmの位置と間の領域において、任意の1箇所で測定された可塑剤量が、0.3mg/mm
2以上であればよい。その場合の任意の1箇所の位置は特に限定されない。また、中間膜の膜厚が主面内で均一でない場合には、中間膜の端部から内側に5mmの位置と端部から内側に6mmの位置と間の領域において、最も膜厚が小さい部分で測定される可塑剤量を0.3mg/mm
2以上とする。以下、本発明において中間膜の主面における単位面積当たりの可塑剤量[mg/mm
2]を測定する領域を、領域(x)ともいう。
【0023】
一般に、中間膜の各層において、単位体積当たりの可塑剤量は層全体で均一である。よって、中間膜の端部から内側に5mmの位置と端部から内側に6mmの位置と間の領域において膜厚が最も小さい部分で測定される可塑剤量が0.3mg/mm
2以上であれば、中間膜の該領域における可塑剤量はいずれの箇所においても0.3mg/mm
2以上となる。
【0024】
本発明の合わせガラスは、1対のガラス板間に挟持される中間膜が、上記構成を有することで、高い遮音性を有するとともに、中間膜の耐発泡性、特には中間膜の周縁部における耐発泡性に優れる。従来から使用されている、それぞれに熱可塑性樹脂、特には、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤を含有する3層が積層された中間膜では、通常、各層において樹脂の質量に対する可塑剤の質量の割合を調整することで遮音性の向上を図っており、結果として中間膜の可塑剤量が多い構成となることで、周縁部の発泡を招いている。すなわち、遮音性と耐発泡性の両立が困難である。
【0025】
本発明の合わせガラスにおいては、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤を含有する、ガラス転移点が異なるコア層(ガラス転移点が15℃未満)とスキン層(ガラス転移点が15℃以上)を交互にかつコア層の数が3層以上となるように積層する構成とすることで、上記所定の領域で測定される中間膜の可塑剤量が0.3mg/mm
2以上と遮音性を充分に高くできる量としながら、高いレベルで発泡の抑制を可能とした。
【0026】
本発明の合わせガラスの発泡抑制のメカニズムは解明されていないが、それぞれポリビニルアセタール樹脂と可塑剤を含有する、ガラス転移点の異なる2種類の層を交互に少なくとも合計で5層以上積層することで、中間膜の端面からの可塑剤の飛散を抑制するとともに、可塑剤が飛散した部位には、その近傍から可塑剤が供給され気泡の発生が抑えられていると考えられる。また、可塑剤の飛散に関し、紫外線照射によるポリビニルアセタール樹脂の劣化が原因の一つとされるが、中間膜を上記積層構成とすることで、紫外線照射によるポリビニルアセタール樹脂の劣化が抑制され、それにより中間膜の端面からの可塑剤の飛散を抑制することが可能と考えられる。
【0027】
本発明の合わせガラスにおいては、前記中間膜と前記1対のガラス板の合計質量に対する前記中間膜の質量の割合が13質量%以上であることが好ましくし、14質量%以上であることがより好ましい。少なくとも3層のコア層(ガラス転移点が15℃未満)間にガラス転移点が15℃以上のスキン層を有する構成であり、かつ中間膜と1対のガラス板の合計質量に対する中間膜の質量の割合を上記範囲とすることで、音の振動エネルギーに起因して1対のガラス板間の中間膜における複数個所に大きなせん断変形エネルギーが発生し、これが熱エネルギーとして放出されることで遮音性能を発揮することができる。
【0028】
本発明の合わせガラスにおいて、中間膜と1対のガラス板の合計質量に対する中間膜の質量の割合(以下、単に「中間膜質量%」ともいう。)は、遮音性および軽量化の観点から15質量%以上がさらに好ましく、17質量%以上が特に好ましい。また、所期の強度を保つ観点からは、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0029】
本発明の合わせガラスは、面密度が13.5kg/m
2以下であることが好ましく、12kg/m
2以下がより好ましく、11kg/m
2以下がさらに好ましい。合わせガラスの面密度が上記範囲であれば、合わせガラスの軽量化を達成できる。本発明の合わせガラスの面密度は、所期の強度を保つ観点からは8kg/m
2以上であることが好ましく、9kg/m
2以上がより好ましい。
【0030】
なお、合わせガラスの中間膜質量%および面密度は、1枚の合わせガラス全体として測定される値である。
【0031】
以下、本発明の合わせガラスの実施の形態について、中間膜として3層のコア層と4層のスキン層が交互に積層した7層の積層膜を用いた場合を例に、図面を参照しながら説明する。
図1Aは、中間膜として7層の積層膜を用いた本発明の合わせガラスの実施形態の一例における正面図であり、
図1Bは、
図1Aに示す合わせガラスのX−X線における断面図である。
【0032】
図1に示す合わせガラス10Aは、互いに対向する1対のガラス板1A、1Bと、1対のガラス板1A、1Bに挟持されるように配置される中間膜2Aを有する。中間膜2Aは、ガラス板1A側からガラス板1B側に向かってスキン層41、コア層31、スキン層42、コア層32、スキン層43、コア層33、スキン層44の順に7層が積層された構成である。合わせガラス10Aにおいて、1対のガラス板1A、1Bおよび、中間膜を構成する3層のコア層31、32、33および4層のスキン層41、42、43、44は略同形、同寸の主面を有する。
【0033】
ここで、本明細書において、「略同形、同寸」とは、人の見た目において同じ形状、同じ寸法を有することをいう。他の場合においても、「略」は上記と同様の意味を示す。
以下、合わせガラス10Aを構成する各要素について説明する。
【0034】
[ガラス板]
合わせガラス10Aにおける1対のガラス板1A、1Bの板厚は、合わせガラス10Aの用途、用いるガラス板の材質、組み合わせる中間膜等に応じて、適宜選択できる。ガラス板1A、1Bの板厚は、合わせガラス10Aの中間膜質量%を上記好ましい範囲にする板厚が好ましい。ガラス板1A、1Bの板厚は、これらを勘案して、一般的にはそれぞれ0.1〜10mmとすることができる。なお、合わせガラス10Aの面密度を上記好ましい範囲にするには、ガラス板1A、1Bの板厚は、0.3〜2.5mmが好ましい。
【0035】
1対のガラス板1A、1Bの板厚は、互いに同じであってもよく、異なってもよい。ガラス板1A、1Bにおいて板厚が異なる場合には、合わせガラス10が窓等に設置される際に室内側に位置するガラス板、例えば、自動車の窓ガラスであれば車内側、建築物の窓ガラスであれば屋内側に位置するガラス板の板厚が、車外、屋外等の室外側に位置するガラス板の板厚より小さいことが好ましい。
【0036】
例えば、合わせガラス10Aを自動車用の窓ガラスに用いる場合、使用に際して車内側に位置するガラス板をガラス板1Aとすれば、ガラス板1Aの板厚は、0.5mm〜1.6mmが好ましく、0.7mm〜1.5mmがより好ましい。また、ガラス板1Aの板厚は、ガラス板1Bの板厚より小さいことが好ましい。ガラス板1Aの板厚とガラス板1Bの板厚の差は0.3〜1.5mmが好ましく、0.5〜1.3mmがより好ましい。またこの場合、ガラス板1Bが車外側に位置するガラス板であり、板厚は1.6mm〜2.5mmが好ましく、1.7mm〜2.1mmがより好ましい。
【0037】
合わせガラスの自動車用窓ガラスへの使用に際して、車外側に位置するガラス板が車内側に位置するガラス板より大きい板厚を有すると、耐飛び石衝撃性の点で好ましい。特に、車外側の板厚が1.3mm以上であることが好ましい。
【0038】
合わせガラス10Aに用いるガラス板1A、1Bの材質としては、透明な無機ガラスや有機ガラス(樹脂)が挙げられる。無機ガラスとしては通常のソーダライムガラス(ソーダライムシリケートガラスともいう)、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が特に制限なく用いられる。これらのうちでもソーダライムガラスが特に好ましい。成形法についても特に限定されないが、例えば、フロート法等により成形されたフロート板ガラスであってもよい。また、ガラス板1A、1Bが風冷強化や化学強化といった強化処理がなされていることが好ましい。
【0039】
有機ガラス(樹脂)としては、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ハロゲン化ビスフェノールAとエチレングリコールとの重縮合物、アクリルウレタン樹脂、ハロゲン化アリール基含有アクリル樹脂等が挙げられる。これらのなかでも芳香族系ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂やポリメチルメタクリレート系アクリル樹脂等のアクリル樹脂が好ましく、ポリカーボネート樹脂がより好ましい。さらに、ポリカーボネート樹脂のなかでも特にビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂が好ましい。なお、ガラス板は、上記のような樹脂を2種以上含んで構成されてもよい。
【0040】
また、ガラス板1A、1Bは、上記無機ガラスや有機ガラス(樹脂)に赤外線吸収剤や紫外線吸収剤等を含有させて、赤外線吸収性や紫外線吸収性を付与したガラス板であってもよい。このようなガラス板として、グリーンガラス板、紫外線吸収(UV)グリーンガラス板等を使用することができる。なお、UVグリーンガラス板とは、SiO
2を68質量%以上74質量%以下、Fe
2O
3を0.3質量%以上1.0質量%以下、かつFeOを0.05質量%以上0.5質量%以下含有するものであって、波長350nmの紫外線透過率が1.5%以下、かつ550nm以上1700nm以下の領域に透過率の極小値を有する紫外線吸収グリーンガラスを指す。
【0041】
上記ガラスとしては、着色成分を添加しない無色透明な材質を用いてもよく、あるいは、本発明の効果を損なわない範囲で上記グリーンガラスのように着色された着色透明な材質を用いてもよい。さらには、これらのガラスは1種類もしくは2種類以上を組合せて用いてもよく、例えば、2層以上に積層された積層基板であってもよい。合わせガラスの適用箇所にもよるがガラスとしては、無機ガラスが好ましい。
【0042】
合わせガラス10Aに用いる1対のガラス板1A、1Bは、互いに異なった種類の材質から構成されてもよいが、同一であることが好ましい。ガラス板1A、1Bの形状は平板でもよく、全面または一部が曲率を有していてもよい。ガラス板1A、1Bには、大気に晒される表出面に、撥水機能、親水機能、防曇機能等を付与するコーティングが施されていてもよい。また、ガラス板1A、1Bの互いに対向する対向面には、低放射性コーティング、赤外線遮蔽コーティング、導電性コーティング等の通常金属層を含む機能コーティングが施されていてもよい。
【0043】
なお、ガラス板1A、1Bの対向面が上記機能コーティングを有する場合には、以下の中間膜2Aのスキン層41、44はガラス板1A、1Bの対向面上の該機能コーティングに接する構成となる。
【0044】
[中間膜]
合わせガラス10Aにおける中間膜2Aは、ガラス板1A側からガラス板1B側に向かってスキン層41、コア層31、スキン層42、コア層32、スキン層43、コア層33、スキン層44の順に7層が積層された構成である。中間膜2Aは、ガラス板1A、1Bの間に配置され、ガラス板1A、1Bを接着して合わせガラス10Aとして一体化する機能を有するものである。
【0045】
コア層31、32、33、およびスキン層41、42、43、44はいずれもポリビニルアセタール樹脂と可塑剤を含有する層であって、コア層31、32、33のガラス転移点は15℃未満であり、スキン層41、42、43、44のガラス転移点は15℃以上である。以下、コア層のガラス転移点をTgc、スキン層のガラス転移点をTgsということもある。
【0046】
Tgcは、10℃以下が好ましく、8℃以下がより好ましい。Tgcが15℃未満であることで、合わせガラスにおいて所期の遮音性能が得られる。Tgcはコア層自体の形状保持の観点から−10℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましい。
【0047】
Tgsは、20℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましい。Tgsが15℃以上であることで、合わせガラスにおいて所期の遮音性能が得られる。Tgsは耐貫通性の観点から50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。
【0048】
遮音性を高める観点からTgsからTgcを引いた値は、10〜40℃が好ましく、20〜35℃がより好ましい。
【0049】
コア層31、32、33、およびスキン層41、42、43、44が含有するポリビニルアセタール樹脂および可塑剤は、各層ごとに上記ガラス転移点が得られる、すなわち、コア層については上記Tgcが、スキン層については上記Tgsが得られるように、各層ごとにポリビニルアセタール樹脂および可塑剤の種類や、ポリビニルアセタール樹脂および可塑剤の含有割合を適宜選択して構成される。
【0050】
ただし、これらの7層を積層して得られる中間膜2Aにおいて、主面の端部から内側に5mmの位置と該端部から内側に6mmの位置と間の領域で測定される可塑剤量が、0.3mg/mm
2以上となるように、各層における可塑剤の含有量を調整する。中間膜2Aにおける、端部から内側に5mmの位置と端部から内側に6mmの位置と間の領域を、
図1Aにドット模様で示す。中間膜2Aにおいては、該領域が領域(x)である。
【0051】
コア層およびスキン層が含有するポリビニルアセタール樹脂および可塑剤としては、合わせガラス用の中間膜に通常用いられるポリビニルアセタール樹脂および可塑剤が特に制限なく使用できる。ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールにアルデヒド(R−CHO;Rはアルキル基)を反応させ、部分的にアセタール化して得られる、主鎖を構成するエチレン基に水酸基、アセチル基、アセタール基がそれぞれ結合した各重合単位を有する高分子化合物である。
【0052】
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールの重合度、アルデヒドの種類、水酸基含有率(全重合単位中の水酸基を有する重合単位のモル%)、アセチル化度(全重合単位中のアセチル基を有する重合単位のモル%)、アセタール化度(全重合単位中のアセタール基を有する重合単位のモル%)等が合わせガラス用の中間膜として求められる特性に応じて適宜調整される。本発明に用いるポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルアルコールにn−ブチルアルデヒドを反応させたポリビニルブチラール樹脂(PVB)が好ましい。ポリビニルアセタール樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。中間膜2Aにおいて3層のコア層31、32、33、および4層のスキン層41、42、43、44が含有するポリビニルアセタール樹脂は、各層でTgc、Tgsが上記範囲内であれば、同一であっても、異なってもよい。
【0053】
コア層およびスキン層が含有する可塑剤としては、ポリビニルアセタール樹脂の可塑剤として通常使用される可塑剤が特に制限なく使用可能である。具体的には、一塩基性有機酸エステルおよび多塩基性有機酸エステル等の有機エステル可塑剤、ならびに有機リン酸可塑剤および有機亜リン酸可塑剤などのリン酸可塑剤等が挙げられる。なかでも、有機エステル可塑剤が好ましい。これらの可塑剤はいずれもTHFに可溶であり、上記中間膜の可塑剤量の測定方法が適用可能である。可塑剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。中間膜2Aにおいて3層のコア層31、32、33、および4層のスキン層41、42、43、44が含有する可塑剤は、各層でTgc、Tgsが上記範囲内であれば、同一であっても、異なってもよい。
【0054】
コア層およびスキン層は主としてポリビニルアセタール樹脂および可塑剤で構成され、ガラス転移点は、ポリビニルアセタール樹脂および可塑剤の種類、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤の含有割合で調整できる。中間膜はコア層の各層でTgcが、およびスキン層の各層でTgsが、それぞれ上記範囲にあり、中間膜の領域(x)における可塑剤量が上記所定量以上であれば、各層におけるポリビニルアセタール樹脂と可塑剤の含有割合は特に制限されない。具体的には、各層において、ガラス転移点、中間膜の可塑剤量および、その他求められる特性に応じて、ポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して概ね可塑剤20〜90質量部の割合の範囲で適宜含有割合を調整する。その他求められる特性としては、合わせガラスの用途に応じて、透明性、耐候性、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性等が挙げられる。
【0055】
ガラス転移点をポリビニルアセタール樹脂と可塑剤の含有割合で調整する場合、同じポリビニルアセタール樹脂を用いた場合に、ポリビニルアセタール樹脂に対する可塑剤の含有割合が大きいほど低いガラス転移点が得られる。したがって、同じポリビニルアセタール樹脂を用いてコア層とスキン層を作製する場合には、ポリビニルアセタール樹脂に対する可塑剤の含有割合はコア層においてスキン層よりも多くなる。
【0056】
中間膜が有する3層以上のコア層のTgcは、各コア層において上記範囲内であれば同一であっても異なってもよい。また、中間膜が有する複数のスキン層のTgsは、各スキン層においてTgsが上記範囲内であれば同一であっても異なってもよい。中間膜は、3層以上のコア層においてTgcが同じであり、複数のスキン層においてTgsが同じである構成が好ましい。さらに、中間膜は、3層以上のコア層においてTgcが同じとなるように同じポリビニルアセタール樹脂と可塑剤を含有し、複数のスキン層においてTgsが同じとなるように同じポリビニルアセタール樹脂と可塑剤を含有する構成が好ましい。
【0057】
本発明の合わせガラスにおいて中間膜は、上記コア層と上記スキン層が交互に積層され、かつ上記コア層を3層以上有する構成であり、領域(x)における可塑剤量が0.3mg/mm
2以上である。中間膜は上記積層構造において、領域(x)における可塑剤量が0.3mg/mm
2以上であることで、合わせガラスとした際に優れた遮音性を有する。遮音性向上の観点から、中間膜の領域(x)における可塑剤量は0.5mg/mm
2以上が好ましく、0.7mg/mm
2以上がより好ましい。一方、耐発泡性および透明性の観点から、中間膜の領域(x)における可塑剤量は、1.5mg/mm
2以下が好ましく、1.0mg/mm
2以下がより好ましい。
【0058】
中間膜の領域(x)における可塑剤量は、中間膜を構成する各層の主面における中間膜の領域(x)に相当する領域の可塑剤量[mg/mm
2]の合計である。各層の該領域における可塑剤量[mg/mm
2]は、各層における該領域の単位体積当たりの可塑剤量[mg/mm
3]と厚み[mm]の積で算出することも可能である。
【0059】
中間膜は、上記要件を満たせば、全体の層数は特に限定されない。中間膜において最も層数が少ない構成は、3層のコア層と2層のスキン層が交互に積層された構成である。その場合、合わせガラスは、ガラス板、コア層、スキン層、コア層、スキン層、コア層、ガラス板の積層構造となる。中間膜は、合わせガラス製造時の作業性の観点から、1対のガラス板の対向面に接するようにスキン層を有する構成が好ましい。
【0060】
中間膜はガラス板との関係において中間膜質量%が13質量%以上であることが好ましく、14質量%以上であることがより好ましい。また、中間膜においては、1対のガラス板にそれぞれ最も近い1対のコア層間の厚み(以下、「最外コア層間の厚み」ともいう。)が0.45mm以上であることが好ましい。さらに、中間膜においては、1対のガラス板にそれぞれ最も近い1対のコア層間に配置される層全体の面密度(以下、「最外コア層間の面密度」ともいう。)が0.5kg/m
2以上であることが好ましい。
【0061】
1対のガラス板の対向面に接するようにスキン層を有しコア層を3層以上有する積層構造の中間膜として最も層数が少ない構成が、
図1Bに示される中間膜2Aの3層のコア層31〜33と4層のスキン層41〜44がガラス板1A側からスキン層41、コア層31、スキン層42、コア層32、スキン層43、コア層33、スキン層44の順に7層積層された構成である。3層のコア層および4層のスキン層は各コア層およびスキン層においてそれぞれ上記TgcおよびTgsを満たせば、単層構造であっても、多層構造であってもよい。
【0062】
中間膜2Aにおける1対のガラス板1A、1Bにそれぞれ最も近い1対のコア層は、ガラス板1Aに最も近いコア層31と、ガラス板1Bに最も近いコア層33である。
図1Bに、コア層31とコア層33の間の厚みをTaで、中間膜2Aの厚みをTbで示す。
【0063】
中間膜2Aにおいて、最外コア層間の厚みTaは、コア層31とコア層33の互いに対向する面間の距離であり、スキン層42、コア層32、およびスキン層43の厚みの合計である。最外コア層間の厚みTaは、中間膜が十分にせん断変形し、合わせガラスの遮音性能を高める観点から0.45mm以上が好ましく、0.50mm以上がより好ましい。最外コア層間の厚みTaの上限は特に限定されないが、軽量化の観点からTaは4.0mm以下が好ましく、3.0mm以下がより好ましい。
【0064】
中間膜2Aにおける最外コア層間の面密度は、スキン層42、コア層32、およびスキン層43を積層した3層における面密度である。中間膜における最外コア層間の面密度は、最外コア層間の厚みTaと同様に、中間膜が十分にせん断変形し、合わせガラスの遮音性能を高める観点から0.5kg/m
2以上が好ましく、0.55kg/m
2以上がより好ましく、0.6kg/m
2以上がさらに好ましい。最外コア層間の面密度の上限は特に限定されないが、軽量化の観点から該面密度は3.3kg/m
2以下が好ましく、2.0kg/m
2以下がより好ましく、1.3kg/m
2以下がさらに好ましい。
【0065】
中間膜2Aの厚みTbは、3層のコア層31〜33、および4層のスキン層41〜44の厚みの合計であり、中間膜の領域(x)における可塑剤量を上記範囲とする点、中間膜質量%を上記範囲とできる点、遮音性の観点から1.10mm以上が好ましく、1.53mm以上がより好ましく、2.0mm以上がさらに好ましい。中間膜2Aの厚みTbの上限は特に限定されないが、軽量化の観点からTbは4.0mm以下が好ましい。
【0066】
コア層31、32、33の厚みは特に制限されない。合わせガラスの遮音性と軽量化、中間膜の領域(x)における可塑剤量、TaおよびTbを上記範囲とする等の観点から、それぞれ0.05〜0.2mmが好ましく、0.07〜0.15mmがより好ましい。コア層31、32、33の厚みは互いに同一であっても異なってもよい。
【0067】
スキン層41、42、43、44の厚みは、特に制限されない。合わせガラスの遮音性と軽量化、中間膜の領域(x)における可塑剤量、TaおよびTbを上記範囲とする等の観点から、0.05〜1.1mmが好ましく、0.2〜0.76mmがより好ましく、0.2〜0.45mmがさらに好ましい。スキン層41、42、43、44の厚みは互いに同一であっても異なってもよい。
【0068】
ここで、
図1Bは合わせガラス10Aの主面に垂直な一断面を示し、合わせガラスの一方の端部から他方の端部の間でガラス板1A、1Bおよび中間膜2Aが均一な厚みで積層されていることを示す図である。合わせガラス10Aにおいては、その主面に垂直な断面はいずれも同様である。すなわち、合わせガラス10Aにおいては、主面内のいずれの箇所においても、各層の厚み、TaおよびTbは同じである。また、コア層、スキン層の各層において主面方向に可塑剤の濃度差(単位体積当たりの可塑剤量の差)を有しない限り、中間膜の可塑剤量は領域(x)を含む主面内のいずれの箇所においても同じである。
【0069】
本発明の合わせガラスにおける中間膜のコア層数は、3層以上である。コア層の数の上限は特に制限されないが、中間膜の製造の容易さの観点からコア層数は5層以下が好ましい。中間膜のコア層数によらず、合わせガラスは、1対のガラス板の対向面に接するようにスキン層を有することが好ましい。
【0070】
中間膜におけるコア層、スキン層の作製には、上述したポリビニルアセタール樹脂と可塑剤を主成分として含有する樹脂組成物が用いられる。該樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で各種目的に応じて、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤以外の成分、例えば、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、接着性調整剤、カップリング剤、界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、脱水剤、消泡剤、帯電防止剤、難燃剤等の各種添加剤の1種類もしくは2種類以上を含有してもよい。これらの添加剤はコア層およびスキン層において、それぞれ全体に均一に含有される。
【0071】
なお、上記添加剤のうちでも特に、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、蛍光剤等のコア層やスキン層に追加の機能を付与するための添加剤の含有については、例えば、合わせガラス10Aにおける中間膜2Aであれば、3層のコア層31〜33と4層のスキン層41〜44を合わせて7層からなる中間膜の各層において、いずれか1層のみが含有する構成であっても、2層以上が含有する構成であってもよく、さらに2層以上が含有する場合、同種の添加剤を同量、または異なる量含有してもよく、異なる添加剤をそれぞれ含有してもよい。
【0072】
中間膜2Aは、例えば、コア層31、32、33およびスキン層41、42、43、44を、それぞれに適した樹脂組成物から、好ましくは最終的に合わせガラスとしたときの中間膜における各層の厚みが上記の範囲になるようにシート状に製膜して準備し、得られた各層をスキン層41、コア層31、スキン層42、コア層32、スキン層43、コア層33、スキン層44の順に積層して、加圧下に加熱することで作製される。あるいは共押出しにより一体的に作製してもよい。積層の際の加圧、加熱等の条件や共押出しの条件は、例えば、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤を含有する中間膜用の樹脂組成物を用いて、従来の3層の中間膜を作製する場合と同様にできる。
【0073】
以上、本発明の合わせガラスにおける中間膜について、中間膜2Aを例にコア層が3層の場合について説明した。コア層が4層以上の中間膜の場合においても、上記と同様に、領域(x)における可塑剤量が本発明の範囲内となるように適宜コア層およびスキン層を設計すればよい。また、コア層が4層以上の中間膜の場合においても、上記と同様に、中間膜質量%、最外コア層間の厚みTa、最外コア層間の面密度、中間膜の厚みTbを上記好ましい範囲となるように勘案して、適宜コア層およびスキン層を設計すればよい。
【0074】
本発明の合わせガラスにおいて中間膜は、中間膜2Aのように合わせガラスの主面内で各層が均一な厚みを有するものであってもよく、主面内で各層が異なる厚みを有するものであってもよい。その場合、各層の厚み、最外コア層間の厚みTa、中間膜の厚みTbは、中間膜の厚みが最も大きい箇所で測定された値が、上記合わせガラスの主面内で各層が均一な厚みを有する場合の範囲、具体的には、中間膜2Aで示した範囲となるように設計されるのが好ましい。また、上記のとおり中間膜質量%および面密度は合わせガラス全体に対して測定される物性である。
【0075】
なお、中間膜の厚み(総厚)が主面内で異なる場合には、中間膜の端部から内側に5〜6mmの範囲で中間膜の厚みが最も小さい部分が可塑剤量を測定する領域(x)となる。そして、中間膜の可塑剤量は、該領域(x)内で測定された値が、上記合わせガラスの主面内で中間膜の総厚が均一な厚みを有する場合の範囲と同じになるように設計される。また、中間膜の厚み(総厚)が主面内で異なる場合、中間膜全体としての厚みが最も小さい部分における中間膜の厚みは、1.0mm以上が好ましく、1.5mm以上が好ましい。
【0076】
図2Aは、中間膜として7層の積層膜を用いた本発明の合わせガラスの実施形態の別の一例における正面図であり、
図2Bは、
図2Aに示す合わせガラスのY−Y線における断面図である。
図2Aに示す合わせガラス10Bは、例えば、自動車のフロントガラスに用いられる合わせガラスである。
図2Aにおいて、合わせガラス10Bの上側がフロントガラスの上側として自動車に取り付けられる。以下、合わせガラス10Bの上側の辺を上辺、下側の辺を下辺という。
図2Bに示す合わせガラス10Bの断面図においては、左側が上辺側であり右側が下辺側である。
【0077】
図2Aに示すように合わせガラス10Bの主面は、上辺より下辺が長い略台形の形状である。
図2Bに示すように合わせガラス10Bが有する中間膜2Bは、上辺から下辺に向かって厚みが漸減するいわゆる楔形状の中間膜である。中間膜2Bの積層構成は、ガラス板1A側からガラス板1B側に向かってスキン層41、コア層31、スキン層42、コア層32、スキン層43、コア層33、スキン層44が順に積層された7層構成である。スキン層41、コア層31、スキン層42、コア層32、スキン層43、コア層33、スキン層44は、いずれも同じ割合で上辺から下辺に向かって厚みが漸減した構成である。
【0078】
通常、このような合わせガラスにおいては、上辺において一方の端部から他方の端部に向かって中間膜およびこれを構成する各層の厚みは一定であり、下辺において一方の端部から他方の端部に向かって中間膜およびこれを構成する各層の厚みは一定である。
【0079】
合わせガラス10Bにおいては中間膜2Bの厚みが最も大きい箇所は上辺である。
図2Bに、中間膜2Bにおける最外コア層間の厚みTa、中間膜2Bの厚みTbの測定箇所を示す。中間膜2Bにおいては、該上辺で測定されるTaおよびTbとして、中間膜2Aの場合と同様の厚みが適用できる。また、中間膜2Bにおける、各層の厚みは、TaおよびTbと同様、厚みが最も大きい箇所である上辺における厚みとして、中間膜2Aの場合と同様の厚みが適用できる。
【0080】
合わせガラス10Bにおいては、中間膜2Bの可塑剤量は、中間膜2Bの端部から内側に5〜6mmの範囲で中間膜の厚みが最も小さい部分で測定される。中間膜2Bの端部から内側に5〜6mmの範囲で中間膜の厚みが最も小さい部分は、中間膜2Bの下辺から内側に5〜6mmの範囲であり、
図2Aにドット模様で示す。中間膜2Bにおいては、該領域が可塑剤量を測定する領域(x)である。中間膜2Bの可塑剤量は、該領域(x)内で測定された値が、上記合わせガラスの主面内で中間膜の総厚が均一な厚みを有する場合、すなわち、中間膜2Aの場合の範囲と同じになるように設計される。
【0081】
合わせガラスにおいては、一般的に、合わせガラスの主面の形状に合わせて中間膜を部分的に伸展して用いる場合がある。その場合、伸展された部分の中間膜の厚みは伸展されなかった部分の中間膜の厚みに比べて小さくなる。このような場合においても、上記楔型の中間膜の場合と同様、各層の厚み、最外コア層間の厚みTa、中間膜の厚みTbは、中間膜の厚みが最も大きい箇所で測定された値が、上記合わせガラスの主面内で各層が均一な厚みを有する場合の範囲、具体的には、中間膜2Aで示した範囲となるように設計される。また、中間膜の端部から内側に5〜6mmの範囲で中間膜の厚みが最も小さい部分が可塑剤量を測定する領域(x)となる。そして、中間膜の可塑剤量は、該領域(x)内で測定された値が、上記合わせガラスの主面内で中間膜の総厚が均一な厚みを有する場合の範囲と同じになるように設計される。
【0082】
本発明の合わせガラスにおける中間膜は、周波数1Hz、温度20℃における貯蔵弾性率G’が5.0×10
4Pa以上であることが好ましく、1.0×10
5Pa以上がより好ましい。貯蔵弾性率G’は中間膜の剛性を示す指標であり、中間膜の貯蔵弾性率G’が上記範囲であれば剛性が十分に確保できる。
【0083】
中間膜の貯蔵弾性率G’の上限は特に制限されるものではない。ただし、中間膜の貯蔵弾性率G’が高くなると合わせガラスの遮音性能を損なう場合がある。また、中間膜の貯蔵弾性率G’が高すぎると、切断等の加工において特殊な機器を要する等、生産性が低下することがある。さらに中間膜が脆くなり耐貫通性が低下することがある。このような点を考慮すると、中間膜の貯蔵弾性率G’は、1.0×10
7Pa以下が好ましい。なお、本明細書における中間膜の貯蔵弾性率G’は、周波数1Hz、温度20℃、動的せん断歪み0.015%の条件下、せん断法、例えば、アントンパール社製レオメーターMCR301により測定される動的粘弾性試験における貯蔵弾性率である。
【0084】
[合わせガラス]
本発明の合わせガラスは、互いに対向する1対のガラス板と、該1対のガラス板間に挟持される上記構成の中間膜を備え、中間膜質量%が好ましくは上記の範囲である。合わせガラスの面密度についても上記のとおりである。本発明においては、得られる合わせガラスとして、中間膜質量%および面密度が上記範囲となるように上記ガラス板および中間膜を適宜組み合わせることが好ましい。
【0085】
本発明の合わせガラスは、上記構成により高い遮音性能を有する。具体的には、本発明の合わせガラスは、温度20℃の条件下、0〜10000Hzの周波数領域で測定される1次共振点における損失係数が0.35以上であることが好ましい。以下、1次共振点とは特に断りのない限り温度20℃の条件下、0〜10000Hzの周波数領域で測定される1次共振点をいう。
【0086】
なお、1次共振点における損失係数は、ISO_PAS_16940に準拠した中央加振法により測定できる。中央加振法による損失係数の測定装置としては、例えば、小野測器社製、中央加振法測定システム(MA−5500、DS−2000)が挙げられる。本発明の合わせガラスにおける1次共振点の周波数領域は、概ね0〜300Hzである。本発明の合わせガラスにおいて、1次共振点における損失係数が0.35以上であれば、例えば、自動車のエンジン音や、タイヤの振動音等の比較的低周波数領域の音を十分に遮音することができる。また、本発明の合わせガラスにおいて、1次共振点における損失係数が0.35以上であれば、2次共振点〜7次共振点等の高次共振点における損失係数についても、相対的に高く、例えば、0.35以上になりやすく、低周波数領域〜高周波領域の音まで効率的に遮音することができる。
【0087】
本発明の合わせガラスにおいて、1次共振点における損失係数は、0.40以上がより好ましく、0.42以上がさらに好ましく、0.45以上が特に好ましい。また、本発明の合わせガラスにおいては、1次共振点および2次共振点における損失係数がともに0.5以上であるのが特に好ましい。なお、例えば、湾曲した形状の合わせガラスにおいては、当該合わせガラスと同等の構成となるように平らなガラス板を使用した合わせガラスを作製して損失係数が測定される。
【0088】
本発明の合わせガラスは、上記構成により中間膜の耐発泡性、特には中間膜の周縁部における高い耐発泡性を有する。例えば、本発明の合わせガラスは、長時間の紫外線照射を受けても中間膜の周縁部を含む全領域に気泡を発生することが殆どない。
【0089】
具体的には、本発明の合わせガラスに、サンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機(SWOM、スガ試験機社製)を用いて、ブラックパネル温度(BPT)が83℃、降雨なしの条件で、太陽模擬光線を3000時間照射する耐候性試験を行った場合に、中間膜の周縁部を含む全領域に気泡を発生することがない。
【0090】
本発明の合わせガラスはさらに、三点曲げ剛性が100N/mm以上であることが好ましい。三点曲げ剛性は、三点曲げ試験により得られる剛性であり、例えば、圧縮引張試験機により測定できる。三点曲げ剛性は120N/mm以上が特に好ましい。合わせガラスの三点曲げ剛性が100N/mm以上であれば、車両高速走行時の窓ガラスの開閉を妨げないレベルの剛性であり好ましい。
【0091】
本発明の合わせガラスはまた、SAE J1400に準拠して測定されるコインシデンス領域における音響透過損失が35dB以上であることが好ましく、42dB以上であることが特に好ましい。合わせガラスの音響透過損失が35dB以上であれば、遮音性に優れると評価できる。
【0092】
(その他の層)
実施形態の合わせガラスは、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の層として、1対のガラス板の間に機能フィルムを有してもよい。機能フィルムを有する場合は、例えば、上記のとおり複数層で構成される中間膜の層間に機能フィルムを挟持させる構成が好ましい。
【0093】
機能フィルムとしては、例えば、赤外線遮蔽フィルム等が挙げられる。赤外線遮蔽フィルムとして、具体的には、25〜200μm程度の厚みのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の支持フィルム上に、赤外線反射膜として膜厚100〜500nm程度の、誘電体多層膜、液晶配向膜、赤外線反射材含有コーティング膜、金属膜を含む単層または多層の赤外線反射膜等の従来公知の赤外線反射膜が形成されたものが挙げられる。赤外線遮蔽フィルムとしては、さらに屈折率の異なる樹脂フィルムを積層した合計膜厚が25〜200μm程度の誘電多層フィルム等が挙げられる。
【0094】
本発明の合わせガラスが機能フィルムを有する場合、機能フィルムが最外コア層間にある場合には、最外コア層間の厚みTaおよび最外コア層間の面密度は、機能フィルムを含む状態として測定、算出される。また、中間膜の領域(x)における可塑剤量、中間膜の厚みTb、および、中間膜質量%は、機能フィルムを除いて、測定、算出され、合わせガラスの面密度は、機能フィルムを含む状態として算出される。
【0095】
実施形態の合わせガラスは、その他の層として、例えば、合わせガラスの枠体等への取り付け部分や配線導体等を隠蔽する目的で、その周縁部の一部または全部に帯状に、黒色セラミックス層を有してもよい。黒色セラミックス層の幅は、合わせガラスの用途に応じて適宜選択される。例えば、合わせガラスが、自動車の天井部位に使用されるルーフガラスの場合には、黒色セラミックス層は、通常、幅が10〜100mm程度の額縁状に形成される。また、自動車のサイドガラスに用いる場合は、通常、幅が30〜200mm程度の帯状に形成されることがある。
【0096】
黒色セラミックス層は、例えば、合わせガラスが有する1対のガラス板のうちのいずれか一方のガラス板の大気側または中間膜側の主面に、通常の方法で、上記の形状に形成できる。黒色セラミックス層の形成箇所は使用用途に応じて適宜選択される。なお、本発明の合わせガラスが黒色セラミックス層を有する場合、中間膜質量%は、黒色セラミックス層を除いて、測定、算出され、合わせガラスの面密度は、黒色セラミックス層を含まない状態として算出される。
【0097】
なお、黒色セラミックス層の「黒色」は、例えば、色の三属性等で規定された黒を意味するものではなく、少なくとも隠蔽が求められる部分が隠蔽できる程度に可視光線を透過させないように調整された黒色と認識可能な範囲を含む。したがって、黒色セラミックス層においては、この機能が果たせる範囲内で、必要に応じて黒色に濃淡があってもよく、色味が色の三属性で規定された黒とは若干異なってもよい。同様の観点から、黒色セラミックス層は配設される箇所に応じて層全体が連続した一体膜となるように構成されてもよく、形状や配置等の設定で可視光透過の割合を容易に調整できるドットパターン等により構成されてもよい。
【0098】
また、本実施形態の合わせガラスはシェード領域を有していてもよい。合わせガラスが車両用の合わせガラス、特にウインドシールドである場合には、防眩性、遮熱性などの向上のために、グリーン、ブルーなどに着色した帯状のシェード領域が形成されることがある。シェード領域は、ガラス板の表面に設けられることもあるが、中間膜を帯状に着色することにより形成されることが多い。その一方で、可視光線透過率を所定値以上(例えば70%以上)とするべき法定の視野領域があるため、ウインドシールドのシェード領域は、視野領域の外であるウインドシールドの上部に通常は配置される。
【0099】
[合わせガラスの製造]
本発明の実施形態の合わせガラスは、一般的に用いられる公知の技術により製造できる。合わせガラス10Aにおいては、上記のようにしてスキン層41、コア層31、スキン層42、コア層32、スキン層43、コア層33、スキン層44の順に積層した中間膜2Aを作製し、あるいは各層の製膜時に共押出しで中間膜2Aを作製し、これを1対のガラス板1A、1Bの間に挿入して、ガラス板1A、中間膜2(ただし、ガラス板1A側にスキン層41が位置する)、ガラス板1Bの順に積層された圧着前の合わせガラスである合わせガラス前駆体を準備する。その他の層を有する場合も、同様に得られる合わせガラスと同様の積層順にガラス板と各層を積層して合わせガラス前駆体を準備する。
【0100】
この合わせガラス前駆体をゴムバッグのような真空バッグの中に入れ、この真空バッグを排気系に接続して、真空バッグ内の圧力が約−65〜−100kPaの減圧度となるように減圧吸引(脱気)しながら温度約70〜110℃で接着することで実施形態の合わせガラスを得ることができる。さらに、例えば、100〜140℃、圧力0.6〜1.3MPaの条件で加熱加圧する圧着処理を行うことで、より耐久性の優れた合わせガラスを得ることができる。製造工程において、ガラス板と中間膜とが隙間なく密着するように、中間膜の表面に予めエンボス形状が設けられていてもよい。
【0101】
本発明の合わせガラスの用途は特に限定されない。建築用合わせガラス、自動車用合わせガラス等として使用できるが、自動車用合わせガラとして用いればより顕著な遮音効果が達成できる。さらに、好ましい態様において軽量化を達成できる。
【0102】
なお、本発明の合わせガラスを自動車用に用いる場合、JIS R3212(1998年)にしたがって測定された可視光線透過率が70%以上であることが好ましく、74%以上であることがより好ましい。ISO13837−2008にしたがって測定されたTts(Total solar energy transmitted through a glazing)が66%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0103】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明は、以下で説明する実施形態および実施例に何ら限定されるものではない。例1、2が実施例であり、例3が比較例である。
【0104】
[例1]
表1に示す構成の例1の合わせガラスを以下のとおり製造し、評価した。なお、例1の合わせガラスは、
図1A、1Bに示される合わせガラス10Aと同様の構成である。
(中間膜の製造または準備)
表1に示す7層の積層構成の中間膜を製造した。なお、中間膜におけるスキン層には厚み以外は全て同じPVBシート(Tgs;30℃、PVBと可塑剤を質量比70:30で含有。)を用いた。また、コア層としては全て厚みが0.1mmのPVBシート(Tgc;3℃、PVBと可塑剤を質量比60:40で含有。)を用いた。
【0105】
なお、中間膜は各層を構成するPVBシートを積層してホットプレス成形機にて、150℃、300秒間、プレス圧50kg/cm
2でプレスして製造した。各層の厚みはプレス後の厚みである。
【0106】
例1の合わせガラスの中間膜は、コア層を3層有し、最外コア層間の厚みTaはスキン層43、コア層32、スキン層42の厚みの合計、0.66+0.1+0.66=1.42mmである。最外コア層間の面密度は、1.56kg/m
2である。中間膜の厚みTbは上記各層の厚みの合計(0.33+0.1+0.66+0.1+0.66+0.1+0.33)である2.28mmである。
【0107】
得られた中間膜は主面方向において可塑剤量が均一な中間膜であった。得られた中間膜の一部を主面に対して垂直な面で切断して、主面における単位面積当たりの可塑剤量[mg/mm
2]を上記の方法で測定した。なお、得られた可塑剤量[mg/mm
2]は、合わせガラスの中間膜における領域(x)における可塑剤量[mg/mm
2]と同じである。
【0108】
(合わせガラスの製造)
上記のようにして製造または準備した中間膜を、表1に示す板厚のガラス板1A、1B間に挟み込むように積層し、
図1A、1Bの合わせガラス10Aと同様の構成となるように、ガラス板1A、中間膜2A、ガラス板1Bを積層し、積層体とした。この積層体を真空バッグに入れ、真空バッグ内が−60kPa以下の減圧度となるように脱気しながら110℃で圧着を行った後、温度140℃、圧力1.3MPaの条件でさらに圧着を行うことにより合わせガラスを得た。なお、用いたガラス板は全てソーダライムガラス(25mm×300mm)であり、中間膜のサイズは予めガラス板と同じサイズにして積層に用いた。
【0109】
[例2]
表1に示す構成の例2の合わせガラスを、中間膜におけるスキン層およびコア層におけるPVBと可塑剤との質量比、および各層の厚みを調整した以外は例1と同様にして製造した。
【0110】
中間膜における各スキン層にはPVBシート(Tgs;32℃、PVBと可塑剤を質量比75:25で含有。)を用いた。なお、各スキン層の厚み(プレス後)は表1に示す厚みとした。また、中間膜におけるコア層には、厚みを除いて例1と同じものを用いた。なお、各コア層の厚み(プレス後)は表1に示す厚みとした。
【0111】
例2の合わせガラスの中間膜は、コア層を3層有し、最外コア層間の厚みTaはスキン層43、コア層32、スキン層42の厚みの合計、0.4+0.08+0.4=0.88mmである。最外コア層間の面密度は、0.97kg/m
2である。中間膜の厚みTbは上記各層の厚みの合計(0.05+0.08+0.4+0.08+0.4+0.08+0.05)である1.14mmである。
【0112】
例2においても、例1と同様得られた中間膜は主面方向において可塑剤量が均一な中間膜であった。得られた中間膜の一部を主面に対して垂直な面で切断して、主面における単位面積当たりの可塑剤量[mg/mm
2]を上記の方法で測定した。なお、得られた可塑剤量[mg/mm
2]は、合わせガラスの中間膜における領域(x)における可塑剤量[mg/mm
2]と同じである。
【0113】
[例3]
表1に示す積層構成の1層のコア層が2層のスキン層で挟持された3層の中間膜を製造した。なお、例3の中間膜における2層のスキン層41、42は例1のスキン層41と同じものを、コア層は例1のコア層と同じものを用いた。例1と同様にして中間膜を得、これを用いて、例1と同様にして合わせガラスを製造した。なお、例3における中間膜は主面方向において可塑剤量が均一な中間膜であり、中間膜の一部を主面に対して垂直な面で切断して、主面における単位面積当たりの可塑剤量[mg/mm
2]を上記の方法で測定した。得られた可塑剤量[mg/mm
2]は、合わせガラスの中間膜における領域(x)における可塑剤量[mg/mm
2]と同じである。
【0114】
各例で得られた合わせガラスにおける、中間膜の領域(x)における可塑剤量[mg/mm
2]、中間膜のコア層数、最外コア層間の厚みTa、最外コア層間の面密度、中間膜の厚みTb、合わせガラス面密度、中間膜質量%を表1に示す。
【0115】
(評価)
例1、2、3で得られた合わせガラスの耐発泡性および遮音性を以下のようにして測定した。結果を表1に示す。
【0116】
(1)耐発泡性
各例で得られた合わせガラスについて、サンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機(SWOM、スガ試験機社製)を用いて、ブラックパネル温度(BPT)が83℃、降雨なしの条件で、太陽模擬光線を3000時間照射する耐候性試験を行った。
【0117】
試験後に中間膜における気泡の発生の有無を目視で観察した。例1および例2において発泡は確認されなかった。例3では中間膜の端部からガラス板の中心側に向かって気泡が発生していた。発生した気泡のうち、中間膜の端部から気泡のガラス板中心側の先端までの距離が最大のものについて、該距離を測定し、気泡の径[mm]とした。
【0118】
(2)遮音性(損失係数)
各例で得られた合わせガラスについて、周波数0〜10000Hz、温度20℃における1次共振点の損失係数を、ISO_PAS_16940に準拠し、小野測器社製、中央加振法測定システム(MA−5500、DS−2000)を用いて測定した。
【0119】
【表1】
【0120】
表1から、実施例の合わせガラスは、耐発泡性と遮音性に優れることが明らかである。