(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(C)成分の導電性複合酸化物が酸化亜鉛と酸化アルミニウムの固溶体及び/又は酸化亜鉛と酸化チタンの固溶体であって、該複合酸化物の比抵抗値が0.1〜10.0Ω・mである請求項1記載の自己融着高誘電シリコーンゴム組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、常圧熱気加硫(HAV)により良好に硬化することができ、高い比誘電率を維持し、高い気密性とゴム強度を備える高誘電絶縁性ゴム硬化物を与える自己融着高誘電シリコーンゴム組成物及び自己融着高誘電テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、特定の(A)オルガノポリシロキサン、(B)表面がクロロシランやヘキサメチルジシラザン等で疎水化処理されたヒュームドシリカ、(C)導電性複合酸化物、(D)
ポリオルガノボロシロキサン、(E)分子鎖両末端がアルコキシ基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン、及び(F)アシル系有機過酸化物からなる硬化剤を含有してなるシリコーンゴム組成物を用いることにより、付加加硫による触媒毒の硬化阻害もなく、十分な保存期間も得られ、良好な自己融着性を有し、押出成形やカレンダリング成形に際し、常圧熱気加硫(HAV)により良好に硬化することができ、高い比誘電率を維持し、高い気密性とゴム強度を備える高誘電絶縁性ゴム硬化物が得られるため、効率的に電界の集中を緩和することができ、電力ケーブル接続部や末端接続部等の電界緩和層に用いるテープ部材として好適であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は下記押出成形又はカレンダーロールによる圧延成形で常圧熱気加硫(HAV)可能な自己融着高誘電シリコーンゴム組成物及び自己融着高誘電テープを提供する。
〔1〕
(A)下記平均組成式(1)で示され、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
R
1nSiO
(4-n)/2 (1)
(式中、R
1は同一又は異種の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、nは1.95〜2.04の正数である。)
(B)BET吸着法による比表面積が50m
2/g以上の疎水性ヒュームドシリカ:10〜100質量部、
(C)導電性複合酸化物:100〜300質量部、
(D)
ポリオルガノボロシロキサン:0.1〜50質量部、
(E)分子鎖両末端がアルコキシ基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン:1〜10質量部、及び
(F)アシル系有機過酸化物からなる硬化剤:0.01〜10質量部
を含有する押出成形又はカレンダーロールによる圧延成形で常圧熱気加硫可能な自己融着高誘電シリコーンゴム組成物。
〔2〕
(C)成分の導電性複合酸化物が酸化亜鉛と酸化アルミニウムの固溶体及び/又は酸化亜鉛と酸化チタンの固溶体であって、該複合酸化物の比抵抗値が0.1〜10.0Ω・mである〔1〕記載の自己融着高誘電シリコーンゴム組成物。
〔3〕
(C)成分の導電性複合酸化物の平均粒子径が0.8μm以下である〔1〕又は〔2〕記載の自己融着高誘電シリコーンゴム組成物。
〔
4〕
シリコーンゴム組成物の硬化物の切断時伸びが500〜1,200%である〔1〕〜〔
3〕のいずれかに記載の自己融着高誘電シリコーンゴム組成物。
〔
5〕
シリコーンゴム組成物の硬化物の比誘電率が10以上、体積抵抗率が1.0×10
12〜1.0×10
17Ω・cmである〔1〕〜〔
4〕のいずれかに記載の自己融着高誘電シリコーンゴム組成物。
〔
6〕
電力ケーブルの終端部に巻きつけ、電力ケーブルの終端部に集中する電界を緩和する自己融着高誘電テープ用の〔1〕〜〔
5〕のいずれかに記載の自己融着高誘電シリコーンゴム組成物。
〔
7〕
〔1〕〜〔
6〕のいずれかに記載の自己融着高誘電シリコーンゴム組成物の硬化物からなる自己融着高誘電テープ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、常圧熱気加硫(HAV)により良好に硬化することができ、高い比誘電率を維持し、高い気密性とゴム強度を備える高誘電絶縁性ゴム硬化物を与える自己融着高誘電シリコーンゴム組成物、及び効率的に電界の集中を緩和することができ、電力ケーブル接続部や末端接続部等の電界緩和層に有用な自己融着高誘電テープを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明において、補強性フィラー、導電性複合酸化物の比表面積は、BET吸着法により測定された値である。また、ミラブル型シリコーンゴム組成物とは、通常、室温(25℃)において自己流動性のない高粘度で非液状のシリコーンゴム組成物であって、ロールミル(例えば、二本ロールミルや三本ロールミル)などの混練機で剪断応力下に均一に混練することが可能なシリコーンゴム組成物を意味する。また、オルガノポリシロキサン生ゴムとは、100〜100,000の高重合度(高粘度)であって、通常、室温(25℃)において自己流動性のない非液状のオルガノポリシロキサン成分であることを意味する。
本発明のシリコーンゴム組成物は、(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、及び(F)成分を含有する。
【0012】
[(A)オルガノポリシロキサン]
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、本組成物の主剤(ベースポリマー)であり、下記平均組成式(1)で示され、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個、好ましくは2〜10,000個含有するものである。
R
1nSiO
(4-n)/2 (1)
(式中、R
1は同一又は異種の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、nは1.95〜2.04の正数である。)
式(1)中、R
1は、炭素原子数1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8の1価炭化水素基である。R
1で表される1価炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、β−フェニルプロピル基等のアラキル基等が挙げられる。これらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されていてもよく、例えば3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられる。これらの中では、メチル基、ビニル基、フェニル基及びトリフルオロプロピル基が好ましく、より好ましくはメチル基及びビニル基である。これらの中でも特に分子中のR
1で表される1価炭化水素基のうち、50モル%以上がメチル基であるものが好ましく、より好ましくは80モル%以上がメチル基のものであり、更にアルケニル基以外の全てのR
1がメチル基であるものが好ましい。
【0013】
式(1)中、nは1.95〜2.04の正数であり、好ましくは1.98〜2.02の正数である。このn値が1.95〜2.04の範囲でないと、得られる硬化物が十分なゴム弾性を示さないことがある。
また、(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有することが必要であり、式(1)中、R
1の0.001〜10モル%、特に0.01〜5モル%がアルケニル基であることが好ましい。該アルケニル基としては、好ましくはビニル基及びアリル基であり、特に好ましくはビニル基である。
(A)成分のオルガノポリシロキサンの平均重合度は、通常100〜100,000、好ましくは1,000〜100,000、より好ましくは3,000〜50,000、特に好ましくは4,000〜20,000である。平均重合度が100未満の場合、シリコーンゴム組成物がミラブルゴムとしての性状を満たさなくなり、ロール混練性等が著しく悪化してしまうため好ましくない。なお、この平均重合度は、下記条件で測定したGPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィ)分析におけるポリスチレン換算の重量平均重合度として求めることができる。
【0014】
[測定条件]
・展開溶媒:トルエン
・流量:1mL/min
・検出器:示差屈折率検出器(RI)
・カラム:KF−805L×2本(Shodex社製)
・カラム温度:25℃
・試料注入量:30μL(濃度0.2質量%のトルエン溶液)
【0015】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、一分子中のアルケニル基の個数と平均重合度の条件を満たしていれば特に制限されないが、主鎖がジオルガノシロキサン単位(R
12SiO
2/2,R
1は上記と同じであり、以下同様)の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基(R
13SiO
1/2)で封鎖された、直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましく、分子鎖両末端が、トリメチルシロキシ基、ジメチルビニルシロキシ基、ジメチルヒドロキシシロキシ基、メチルジビニルシロキシ基、トリビニルシロキシ基等で封鎖されたものが好ましく、特に、少なくとも1つのビニル基を有しているシロキシ基で封鎖されたものが好適である。これらのオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いても、重合度や分子構造の異なる2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
[(B)疎水性ヒュームドシリカ]
(B)成分の疎水性ヒュームドシリカは、シリコーンゴム組成物に対して、優れた機械的特性を付与する充填剤として作用するもので、表面に存在するシラノール(SiOH)基を疎水化処理したものである。(B)成分の疎水性ヒュームドシリカのBET法による比表面積は50m
2/g以上であることが必要であり、好ましくは100〜400m
2/gである。この比表面積が50m
2/g未満であると、(B)成分による補強効果が不十分となることがある。
【0017】
(B)成分の疎水性ヒュームドシリカは、オルガノポリシロキサン、オルガノポリシラザン、クロロシラン、アルコキシシラン等の有機ケイ素化合物で表面処理されたものを用いる。これらのシリカは、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ヒュームドシリカ表面の疎水性の観点から、有機ケイ素化合物で予め表面処理された補強性ヒュームドシリカが好ましく、常圧熱気加硫時の水分揮発による発泡を抑える事ができる。(B)成分は、1種単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0018】
(B)成分の疎水性ヒュームドシリカとしては、市販品を用いることができ、例えば、アエロジルR−972、アエロジルR−974などのアエロジルシリーズ(日本アエロジル(株)製)、レオロシールDM−20S、30S(トクヤマ社製)等の表面疎水処理化されたヒュームドシリカが挙げられる。
【0019】
(B)成分の疎水性ヒュームドシリカの配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して、10〜100質量部であり、好ましくは15〜80質量部、より好ましくは15〜60質量部である。この配合量が、上記範囲を逸脱すると、得られるシリコーンゴム組成物の加工性が低下するだけでなく、該シリコーンゴム組成物を硬化して得られるシリコーンゴム硬化物の引張強さや引裂強さ等の機械的特性が不十分なものとなることがある。
【0020】
[(C)導電性複合酸化物]
導電性複合酸化物としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)と酸化アルミニウム(Al
2O
3)との固溶体、酸化亜鉛(ZnO)と酸化チタン(TiO
2)との固溶体等が挙げられる。これらの中でも好ましいのは、酸化亜鉛と酸化アルミニウムの固溶体であり、特に酸化亜鉛にアルミニウム原子をドープした導電性複合酸化物が好ましい。その理由としては、樹脂等の高分子分散に対して分散性が良好で加工性に優れ、モース硬度等に代表される粉体自体の硬さが比較的低いことに加え、市販品のグレードが多いので粒子系、分散性、形状の点で選択の幅が広く、コストが安定であるという利点が挙げられる。
【0021】
導電性複合酸化物の製造方法の一例として、ある金属酸化物の結晶粒子中に1種類又は2種類以上の異種の金属イオンを分散させておき、還元雰囲気中で焼成する方法が挙げられる。例えば、酸化亜鉛と酸化アルミニウムとの固溶体としての導電性複合酸化物の場合には、酸化亜鉛とアルミニウム塩をアンモニウム塩水溶液中で処理し、脱水処理後水素雰囲気中で焼成して得ることができる(特公昭62−41171号公報参照)。なお、上記導電性複合酸化物としては市販品を用いることができ、例えば、酸化亜鉛にアルミニウム原子をドープした導電性亜鉛華として、導電性亜鉛華(本庄ケミカル社製)、導電性酸化亜鉛23−K(ハクスイテック株式会社製)等を用いることができる。
【0022】
このような導電性複合酸化物の多くは、n型半導体として導電性を有しており、その導電性には湿度や環境因子による影響がほとんどないという特徴がある。導電性が生じるメカニズムは、ドープされて一部置換された原子価数が異なる金属原子の余剰又は不足した電子対が半導体的な導電性を引き起こすためと考えられている。
【0023】
(C)成分の導電性複合酸化物として、酸化亜鉛と酸化アルミニウムの固溶体及び/又は酸化亜鉛と酸化チタンの固溶体を用いる場合、該複合酸化物の比抵抗値が0.1〜10.0Ω・mであることが好ましい。
比抵抗値は、例えば、(C)成分の酸化亜鉛と酸化アルミニウムの固溶体及び/又は酸化亜鉛と酸化チタンの固溶体を、比抵抗値0.1〜1.0Ω・m未満のもの(C−1)と比抵抗値5.0〜10.0Ω・mのもの(C−2)とのブレンドで使用することにより、後述するような組成物の硬化物の比誘電率を10以上、体積抵抗率を1.0×10
12〜1.0×10
17Ω・cmの範囲に調製することができる。
【0024】
前記導電性複合酸化物の(C−1)と(C−2)との質量比は(C−1)/(C−2)=5/95〜95/5が好ましく、10/90〜90/10がより好ましい。比抵抗値0.1〜1.0Ω・m未満のもの(C−1)だけで10以上の比誘電率を得ようとすると、後述するように配合量を多くせざるを得ず、結果として硬化ゴムのゴム強度やゴム弾性が低下するおそれがある。また、比抵抗値5.0〜10.0Ω・mのもの(C−2)だけでは比誘電率は高くなるが、半導電を示して絶縁性が悪くなるおそれがある。
【0025】
このような(C)成分の導電性複合酸化物は、平均粒子径が0.8μm以下であることが好ましく、特に0.5μm以下であることが好ましい。下限は特に限定されないが、通常0.001μm程度である。導電性複合酸化物の粒子径が大きすぎると、ゴム弾性が低下するおそれがある。なお、平均粒子径は、レーザー光回折法等による粒度分布測定装置を用いて、累積体積平均値D
50として求めることができる。
【0026】
(C)成分の導電性複合酸化物の配合量は、(A)成分100質量部に対して、100〜300質量部であり、好ましくは150〜280質量部、より好ましくは170〜250質量部である。配合量が、100質量部未満のとき、目的とする高誘電率特性が得られないことがあり、また300質量部を超えると、組成物を硬化して得られる硬化ゴムのゴム強度やゴム弾性が低下するおそれがある。
【0027】
[(D)
ポリオルガノボロシロキサン]
(D)成分の
ポリオルガノボロシロキサンは、組成物の硬化物に自己融着性を付与する成分として用いるものであり、1種単独又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる
。具体的には
、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランのようなオルガノアルコキシシランと無水ホウ酸とを加熱して縮合させて得られるポリオルガノボロシロキサン等を挙げることができる。
【0028】
(D)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1〜50質量部であり、好ましくは0.5〜40質量部、より好ましくは1〜35質量部である。配合量が、0.1質量部未満のとき、硬化物に十分な自己融着性を付与することができず、また50質量部を超えると、硬化物の耐熱性及び機械的強度を低下させる原因になる。
【0029】
[(E)分子鎖両末端がアルコキシ基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン]
本発明のシリコーンゴム組成物には、自己融着性の点から、分子鎖両末端がアルコキシ基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンを配合することが好ましい。
【0030】
分子鎖両末端がアルコキシ基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンとしては、下記式(2)で示される両末端アルコキシ基封鎖ジオルガノポリシロキサンが挙げられる。
R
3O(SiR
22O)
mR
3 (2)
(式中、R
2は同一又は異種の非置換又は置換の1価アルキル基又はアルコキシ基、R
3は同一又は異種の非置換又は置換の1価アルキル基であり、mは1〜100の整数である。)
【0031】
式(2)中、R
2は同一又は異種の非置換又は置換の1価アルキル基又はアルコキシ基であり、通常、炭素数1〜8、特に炭素数1〜4のものが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基である。R
3は同一又は異種の非置換又は置換の1価アルキル基であり、通常、炭素数1〜8、特に炭素数1〜4のものが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基である。mは1〜100の整数であり、好ましくは1〜50の整数である。特に、(E)成分としてのオルガノポリシロキサンは、1分子中に4個以上のアルコキシ基を有するものが好ましい。
【0032】
(E)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、1〜10質量部が好ましく、より好ましくは2〜8質量部である。配合量が少なすぎると自己融着による接着力が低下し、多すぎるとゴム表面からブリードし成形性が悪化することがある。
【0033】
[(F)アシル系有機過酸化物からなる硬化剤]
本発明では、アシル系有機過酸化物からなる硬化剤を用いる。
アルキル系パーオキサイドで硬化させると、酸素による加硫阻害を受けるためにカレンダーロールによる加工(圧延成形)、押出成形で加硫が十分に進行しないおそれがある。また、従来の付加加硫によるアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、このアルケニル基と付加反応するケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンに白金系の付加反応用触媒を添加して硬化させる付加反応では、ヒドロシリル化反応が触媒毒によって阻害を受けやすく、室温でも反応が進むため保存期間が短いなど、その製造範囲が限られてしまうという欠点がある。さらに、白金系触媒とオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの組み合わせにより硬化させても、十分な自己融着性が得られない場合がある。
アシル系有機過酸化物からなる硬化剤は、これらの硬化剤を改善するものである。
【0034】
アシル系有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p−メチルベンゾイルパーオキサイド、o−メチルベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0035】
(F)成分の配合量は、硬化に有効な適切な量で用いられるが、(A)成分100質量部に対して、0.01〜10質量部であり、好ましくは0.05〜8質量部である。配合量が、0.01質量部より少ないと、加硫反応が十分に進行せず、硬度低下やゴム強度不足等の物性悪化を生じることがあり、10質量部より多いと、経済的に不利であるばかりでなく、硬化剤の分解物が多く発生して十分な比誘電率が得られないことがある。
【0036】
[その他の成分]
本発明で用いられるシリコーンゴム組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、上記成分に加え、必要に応じて、その他の成分として、粉砕石英、珪藻土、炭酸カルシウム等の充填剤、着色剤、引裂き強度向上剤、耐熱向上剤、白金化合物等の難燃性向上剤、受酸剤、アルミナや窒化ケイ素等の熱伝導性向上剤、離型剤等の、熱硬化型シリコーンゴム組成物における公知の充填剤及び添加剤を添加してもよい。その他の成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0037】
−組成物の調製方法−
本発明のミラブル型シリコーンゴム組成物は、組成物を構成する成分をニーダー、バンバリーミキサー、二本ロール等の公知の混練機で混合することにより得ることができる。シリコーンゴム組成物として、上記(A)〜(F)成分を含有する組成物を得る場合、(A)成分のオルガノポリシロキサンと(B)成分の疎水性ヒュームドシリカを混合して混合物を得た後、該混合物に(C)成分の導電性複合酸化物と(D)成分のホウ酸又はホウ酸化合物と(E)成分の分子鎖両末端がアルコキシ基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンを混合して、該混合に(F)成分の硬化剤を添加するのが好ましい。上記(A)〜(F)成分を含有する組成物が、更にその他の成分を含む場合には、(A)成分のオルガノポリシロキサンと(B)成分の疎水性ヒュームドシリカと(C)成分の導電性複合酸化物と(D)成分のホウ酸又はホウ酸化合物と(E)成分の分子鎖末端がアルコキシ基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンとその他の成分とを混合して混合物を得た後、該混合物に(F)成分の硬化剤を添加することが好ましい。
【0038】
−シリコーンゴム成形方法−
成形方法としては、目的とする成形品の形状及び大きさに合わせて公知の成形方法を選択すればよい。例えば、押出し成形やカレンダーロールによる圧延成形等によって、テープ状又はシート状に成形し、所望により裁断し、ロール状に巻き取って、常圧熱気加硫(HAV)方式にて硬化して、自己融着高誘電テープが製造される。
得られた自己融着高誘電テープは、電力ケーブルの接続部に使用される。具体的には、この自己融着高誘電テープを、電力ケーブルの中間接続部や端末接続部等の終端部に巻きつけることにより、電界緩和層を形成することができるので、電気ストレス(電気力線)が接続部に集中せず、均一に分散することができる。
【0039】
−硬化条件−
硬化条件は、用いる成形方法における公知の条件でよく、好ましくは100〜500℃にて10秒〜10分、より好ましくは110〜450℃にて0.2〜60分、さらに好ましくは1〜45分とすることができる。また、得られるシリコーンゴム中に残存している低分子シロキサン成分の低減、シリコーンゴム中の有機過酸化物の分解物の除去等の目的で、200℃以上、好ましくは200〜250℃のオーブン内等で、1時間以上、好ましくは1〜70時間程度、より好ましくは1〜10時間のポストキュア(2次キュア)を行ってもよい。
【0040】
得られたシリコーンゴム硬化物は、後述する測定方法において、比誘電率が10以上が好ましく、より好ましくは10〜50、さらに好ましくは11〜30である。比誘電率が10未満では、高圧電力ケーブル終端部に集中した電界を分散させる電界緩和効果が不十分となるおそれがある。また、体積抵抗率は1.0×10
12〜1.0×10
17Ω・cmが好ましく、より好ましくは1.0×10
12〜5.0×10
16Ω・cm、さらに好ましくは1.0×10
13〜1.0×10
16Ω・cmである。体積抵抗率が1.0×10
12Ω・cm未満では絶縁性が不十分なため、電界集中による絶縁破壊に至るおそれがある。また、体積抵抗率が1.0×10
17Ω・cm超過では、目的としている高誘電性特性が得られない。
【0041】
得られたシリコーンゴム硬化物(加工物)の切断時伸びは、500〜1,200%が好ましく、より好ましくは600〜1,100%、さらに好ましくは700〜1,000%である。上記範囲とすることで、伸長後に亀裂や破断が発生せず、気密性の高い高誘電テープを得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に記述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例、比較例に記載の動粘度は、JIS Z 8803:2011記載のキャノン−フェンスケ粘度計による25℃での動粘度の測定値である。
【0043】
[実施例1]
ジメチルシロキサン単位99.975モル%、ジメチルビニルシロキシ単位0.025モル%からなり、平均重合度が約6,000であるオルガノポリシロキサン生ゴム75質量部、ジメチルシロキサン単位が99.85モル%、メチルビニルシロキサン単位0.125%,ジメチルビニルシロキシ単位0.025%からなり、平均重合度が約6,000であるオルガノポリシロキサン生ゴム25質量部、BET吸着比表面積が130m
2/gの表面が疎水処理化されたヒュームドシリカ(アエロジルR−972、日本アエロジル(株)製)26質量部、分散剤として両末端シラノール基を有し、平均重合度4、25℃における粘度が15mPa・sであるジメチルポリシロキサン2質量部を添加し、170℃で2時間、ニーダーにより混合下で加熱した後、ベースコンパウンド(1)を作製した。
上記コンパウンド(1)128質量部に対して、比抵抗値が2.5Ω・mの導電性複合酸化物として酸化亜鉛にアルミニウム原子をドープした導電性酸化亜鉛23−K(ハクスイテック(株)製)190質量部、ジメチルジメトキシシランと無水ホウ酸とをモル比1:2になるように混合して150℃で1時間加熱して得られたポリメチルボロシロキサン(動粘度:200mm
2/s)8質量部、両末端エトキシ基封鎖のジメチルポリシロキサン[分子中にエトキシ基4個(動粘度:6mm
2/s、以下同様)]2質量部を加圧ニーダーで混練しコンパウンド(A)を得た。得られたコンパウンド(A)328質量部に対して、p−メチルベンゾイルパーオキサイド2.2質量部を混合し、組成物(A)を作製した。
【0044】
[実施例2]
BET吸着比表面積が130m
2/gの表面が疎水処理化されたヒュームドシリカ(アエロジルR−972、日本アエロジル(株)製)を15質量部、分散剤として両末端シラノール基を有し、平均重合度4、25℃における粘度が15mPa・sであるジメチルポリシロキサン1.1質量部、比抵抗値が2.5Ω・mの導電性複合酸化物として酸化亜鉛にアルミニウム原子をドープした導電性酸化亜鉛23−K(ハクスイテック株式会社製)の配合量を170質量部、p−メチルベンゾイルパーオキサイド1.9質量部とした以外は、実施例1と同様にして組成物(B)を得た。
【0045】
[比較例1]
BET吸着比表面積が200m
2/gの疎水化されていないヒュームドシリカ(アエロジル200、日本アエロジル(株)製)26質量部、分散剤として両末端シラノール基を有し、平均重合度4、25℃における粘度が15mPa・sであるジメチルポリシロキサン5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物(C)を得た。
【0046】
[比較例2]
BET吸着比表面積が200m
2/gの沈降シリカ(NIPSIL−LP、日本シリカ(株)製)26質量部、分散剤として両末端シラノール基を有し、平均重合度4、25℃における粘度が15mPa・sであるジメチルポリシロキサン5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物(D)を得た。
【0047】
[比較例3]
比抵抗値が2.5Ω・mの導電性複合酸化物として酸化亜鉛にアルミニウム原子をドープした導電性酸化亜鉛23−K(ハクスイテック株式会社製)の配合量を80質量部、p−メチルベンゾイルパーオキサイド1.4質量部とした以外は、実施例1と同様にして組成物(E)を得た。
【0048】
[比較例4]
ジメチルジメトキシシランと無水ホウ酸とをモル比1:2になるように混合して150℃で1時間加熱して得られたポリメチルボロシロキサン(動粘度:200mm
2/s)と両末端エトキシ基封鎖のジメチルポリシロキサン[分子中にエトキシ基4個(動粘度:6mm
2/s)]を添加しないで、分散剤として両末端シラノール基を有し、平均重合度4、25℃における粘度が15mPa・sであるジメチルポリシロキサン5質量部、p−メチルベンゾイルパーオキサイド2.1質量部とした以外は、実施例1と同様にして組成物(F)を得た。
【0049】
[比較例5]
硬化剤としてp−メチルベンゾイルパーオキサイドの代わりに、側鎖にSiH基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(重合度38、SiH基が0.0074モル%の両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体)0.82質量部、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.16質量部、白金触媒(Pt濃度1質量%)0.3質量部を混合した以外は、実施例1と同様にして組成物(G)を得た。
【0050】
[比較例6]
硬化剤としてp−メチルベンゾイルパーオキサイドの代わりに、2,5−ジメチル−ビス(2,5−t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(商品名:パーヘキサ25B、日油株式会社)1.6質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして組成物(H)を得た。
【0051】
[各種物性値測定方法]
上記実施例1、2及び比較例1〜6で調製したシリコーンゴム組成物(A)〜(H)について、JIS K 6249:2003に準拠して作製した試験用硬化物シートを用いて、各種ゴム物性[硬さ(デュロメーターA)、引張強さ、切断時伸び]を測定した。
(硬化条件)
成形圧力:7.8MPa(80kgf/cm
2)で120℃×10分間プレスキュアし、その後、200℃×4時間ポストキュア(二次加硫)し、100mm角、厚さ5mm、2mm、1mmの試験用硬化物シートを作製した。
【0052】
[比誘電率の測定]
上記実施例1、2及び比較例1〜6で調製したシリコーンゴム組成物(A)〜(H)について、成形温度120℃、成形圧力7.8MPa(80kgf/cm
2)、成形時間10分間の条件で100mm角、厚さ5mmの正方形の硬化物を作製した。その後2次加硫(ポストキュア)を200℃で4時間行い、比誘電率測定用サンプルを作製した。
【0053】
比誘電率測定用サンプルについて、総研電気(株)製自動シェーリングブリッジ(機器名DAC−1M−D1)を使用して比誘電率を測定した。電極は、主電極50mmφ、ガード電極54×80mmφ、対電極80mmφを使用し、測定用周波数は50Hzで行った。印加電圧が500Vでの測定値を読み取った。
【0054】
[体積抵抗率の測定]
体積抵抗率は、前記ゴム物性と同様の硬化条件で、厚さ1mmの試験用ゴムシートを作製し、JIS K 6249:2003に準拠して測定した。
【0055】
[粘着の感触(手剥がし)]
上記実施例1、2及び比較例1〜6で調製したシリコーンゴム組成物(A)〜(H)について、成形温度120℃とし、成形圧力7.8MPa(80kgf/cm
2)、成形時間10分間で、厚さ2mmのシート状硬化物を作製した。その後2次加硫(ポストキュア)を200℃で4時間行い、硬化シートを作製した。この硬化シートを幅25mmにして2枚重ね合わせ、0.5kgf/cm
2で8時間圧着して、硬化シート(粘着の感触(手剥がし))サンプルを得た。
【0056】
粘着の感触(手剥がし)評価については、上記硬化シート(粘着の感触(手剥がし))サンプルを、手で剥がし、剥がれなかったものを「○」、一部剥がれたが圧着部が残ったものを「△」、完全に剥がれてしまったものを「×」とした。なお、剥がれにくいものが、気密性が高いものである。結果を表1に示す。
【0057】
[常圧熱気加硫(HAV)試験]
硬化シートサンプルの作製については、上記実施例1、2及び比較例1〜6で調製したシリコーンゴム組成物(A)〜(H)を二本ロールミルにて1mm厚のシートを作製し、この1mm厚シートを常圧下、300℃の熱風乾燥機で1分間常圧熱気加硫させてシリコーンゴム成形物を作製すると共に、このシリコーンゴム断面の発泡及び硬さを確認した。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】