(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記レーザー照射痕列は、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向を8等分した8個の領域から両端の2個の領域を除く、前記幅方向の中央の6個の領域内に少なくとも形成されている、請求項1に記載のFe基アモルファス合金薄帯。
Fe、Si、B、及び不純物からなり、Fe、Si、及びBの合計含有量を100原子%とした場合に、Feの含有量が78原子%以上であり、Bの含有量が11原子%以上であり、B及びSiの合計含有量が17原子%〜22原子%である請求項1又は請求項2に記載のFe基アモルファス合金薄帯。
Fe、Si、B、及び不純物からなり、Fe、Si、及びBの合計含有量を100原子%とした場合に、Feの含有量が80原子%以上であり、Bの含有量が12原子%以上であり、B及びSiの合計含有量が17原子%〜20原子%である請求項5に記載のFe基アモルファス合金薄帯。
周波数60Hz及び磁場7.9557A/mの条件における磁束密度B0.1が、1.52T以上である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のFe基アモルファス合金薄帯。
比率〔動作磁束密度Bm/飽和磁束密度Bs〕が0.88〜0.94であることを満足する動作磁束密度Bmにて用いられる請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のFe基アモルファス合金薄帯。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書中において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本開示において段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書中において、「自由凝固面」と「自由面」とは同義である。
本明細書中において、Fe基アモルファス合金薄帯とは、Fe基アモルファス合金からなる薄帯を指す。
本明細書中において、Fe基アモルファス合金とは、Fe(鉄)を主成分とするアモルファス合金を指す。ここで、主成分とは、含有比率(質量%)が最も高い成分を指す。
【0017】
〔Fe基アモルファス合金薄帯〕
本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、
自由凝固面及びロール面を有するFe基アモルファス合金薄帯であって、
自由凝固面及びロール面の少なくとも一方面に、複数のレーザー照射痕から構成されるレーザー照射痕列を複数有し、
Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に設けられた複数のレーザー照射痕列のうち、互いに隣り合うレーザー照射痕列間の、鋳造方向に直交する幅方向の中央部における中心線間隔をライン間隔とした場合に、ライン間隔が10mm〜60mmであり、
複数のレーザー照射痕列の各々における複数のレーザー照射痕の中心点間隔をスポット間隔とした場合に、スポット間隔が0.10mm〜0.50mmであり、
ライン間隔をd1(mm)とし、スポット間隔をd2(mm)とし、レーザー照射痕の数密度DをD=(1/d1)×(1/d2)としたとき、レーザー照射痕の数密度Dが、0.05個/mm
2〜0.50個/mm
2である、Fe基アモルファス合金薄帯である。
【0018】
本開示のFe基アモルファス合金薄帯(以下、単に「薄帯」ともいう。)では、上記構成を有することにより、磁束密度1.45Tの条件における鉄損が低減され、かつ、磁束密度1.45Tの条件における励磁電力の上昇が抑制される。
【0019】
まず、磁束密度1.45Tの条件における鉄損が低減されるという効果について説明する。
本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、上述したとおり、自由凝固面及びロール面の少なくとも一方面に、複数のレーザー照射痕から構成されるレーザー照射痕列を有している。
本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、このレーザー照射痕列を有することにより、磁区が細分化され、その結果、磁束密度1.45Tの条件における鉄損が低減される。
このように、Fe基アモルファス合金薄帯にレーザー照射痕列を形成すること自体は、磁束密度1.45Tの条件における鉄損を低減させることに寄与する。
【0020】
次に、磁束密度1.45Tの条件における励磁電力の上昇が抑制されるという効果について説明する。
詳細は後述するが、本発明者等は、Fe基アモルファス合金薄帯にレーザー照射痕を形成することは、磁束密度1.45Tの条件における励磁電力の上昇の原因となる場合があることを見出した。磁束密度1.45Tの条件における励磁電力の上昇は、磁束密度B0.1の低下を招くため、望ましくない。
この点に関し、本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、薄帯の鋳造方向に設けられた複数のレーザー照射痕列のうち、互いに隣り合うレーザー照射痕列間の、鋳造方向に直交する方向(以下、幅方向という)の中央部における中心線間隔であるライン間隔が10mm〜60mmとなっており、複数のレーザー照射痕の中心点間隔であるスポット間隔が0.10mm〜0.50mmとなっており、かつ、ライン間隔をd1(mm)とし、スポット間隔をd2(mm)とし、レーザー照射痕の数密度DをD=(1/d1)×(1/d2)としたとき、レーザー照射痕の数密度Dが、0.05個/mm
2〜0.50個/mm
2となっている。要するに、本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、レーザー照射痕のスポット間隔及びライン間隔をある程度広げ、レーザー照射痕の個数がある程度少なくなっている(即ち、レーザー照射痕の数密度がある程度小さくなっている)。
本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、レーザー照射痕のスポット間隔及びライン間隔をある程度広げ、レーザー照射痕の数密度をある程度小さくすることにより、磁束密度1.45Tの条件における励磁電力の上昇が抑制される。
なお、レーザー照射痕列が薄帯の幅方向の中央部に及んでいない場合、ライン間隔は、そのレーザー照射痕列を薄帯の幅方向において中央部に及ぶ位置に延長して測定することができる。
更に、励磁電力の上昇に伴う磁束密度B0.1の低下も抑制される。
【0021】
以上のようにして、本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、磁束密度1.45Tの条件における鉄損が低減され、かつ、磁束密度1.45Tの条件における励磁電力の上昇が抑制される。
以下、本開示のFe基アモルファス合金薄帯による上記効果について、従来技術との対比を交えて更に詳細に説明する。
【0022】
従来、鉄損及び励磁電力は、磁束密度1.3Tの条件で測定することが一般的であった。
例えば、前述した特開昭61−29103号公報の実施例には、Fe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面にYAGレーザーを、点列の間隔を5mmとして照射することにより、磁束密度1.3Tの条件における鉄損が低減されることが開示されている。
また、前述した国際公開第2011/030907号の実施例4には、Fe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面に、レーザー光を照射し、5mmの長手方向間隔にて凹部列を形成した場合において、凹部の深さt
1と薄帯の厚さTとの比t
1/Tが0.025〜0.18であること等の条件を満足する場合には、磁束密度1.3Tの条件における鉄損及び皮相電力が低減されることが開示されている。国際公開第2011/030907号における皮相電力は、本明細書でいう励磁電力に対応する。
また、前述した国際公開第2012/102379号の実施例1には、Fe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面に、波状凹凸が形成されており、波状凹凸が、長手方向にほぼ一定間隔で並ぶ幅方向谷部を有し、谷部の平均振幅が20mm以下となる場合には、磁束密度1.3Tの条件における鉄損及び励磁電力が低減されることが開示されている。
【0023】
しかし、近年では、Fe基アモルファス合金薄帯を用いて作製される変圧器の小型化等の観点から、磁束密度1.3Tの条件における鉄損及び励磁電力ではなく、磁束密度1.45Tの条件における鉄損及び励磁電力を低減させることが求められる場合がある。
この点に関し、本発明者等の検討により、ある種のFe基アモルファス合金薄帯(具体的には、レーザー照射痕の数密度が高いFe基アモルファス合金薄帯)では、磁束密度1.3Tの条件で測定した場合には励磁電力がある程度低減されていても、磁束密度1.45Tの条件で測定した場合には励磁電力が大幅に上昇することが判明した。
以下、この点を、
図1及び
図2を参照しながら詳述する。
【0024】
図1は、
レーザー加工されていないFe基アモルファス合金薄帯、
スポット間隔0.05mmにてレーザー加工されたFe基アモルファス合金薄帯、
スポット間隔0.10mmにてレーザー加工されたFe基アモルファス合金薄帯、及び、
スポット間隔0.20mmにてレーザー加工されたFe基アモルファス合金薄帯
の4種のFe基アモルファス合金薄帯について、磁束密度と鉄損との関係を示すグラフである。
【0025】
図1及び
図2において、スポット間隔0.05mmにてレーザー加工されたFe基アモルファス合金薄帯は、ライン間隔を60mmとしたこと以外は後述の比較例2と同様の条件で作製したものである。
図1及び
図2において、スポット間隔0.10mmにてレーザー加工されたFe基アモルファス合金薄帯は、ライン間隔を60mmとしたこと以外は後述の実施例1と同様の条件で作製したものである。
図1及び
図2において、スポット間隔0.20mmにてレーザー加工されたFe基アモルファス合金薄帯は、後述の実施例3と同様の条件で作製したものである(ライン間隔は20mm)。
図1及び
図2において、レーザー加工されていないFe基アモルファス合金薄帯は、後述の比較例1と同様の条件で作製したものである。
【0026】
図1に示されるように、いずれの条件のFe基アモルファス合金薄帯においても、磁束密度が上昇するにつれ、鉄損が緩やかに上昇することがわかる。
更に、Fe基アモルファス合金薄帯に対し、スポット間隔0.05mm、スポット間隔0.10mm、及びスポット間隔0.20mmの各条件のレーザー加工を施すことにより、鉄損が低減されることもわかる。
レーザー加工によって鉄損が低減される効果自体は、特開昭61−29103号公報及び国際公開第2011/030907号等の公知文献に記載されているとおりである。
【0027】
図2は、上述した4種のFe基アモルファス合金薄帯について、磁束密度と励磁電力との関係を示すグラフである。
【0028】
図2に示されるように、磁束密度1.3Tの条件においては、4種のFe基アモルファス合金薄帯において、励磁電力にはほとんど差が無いことがわかる。即ち、磁束密度1.3Tの条件においては、レーザー加工の有無は、励磁電力にはほとんど影響しないことがわかる。従って、磁束密度1.3Tにて鉄損及び励磁電力を測定する前提の下では、Fe基アモルファス合金薄帯に対しレーザー加工を施すことにより、励磁電力をほとんど上昇させることなく、鉄損低減の効果を得ることができる。
しかし、
図2において、スポット間隔0.05mmのFe基アモルファス合金薄帯に注目すると、磁束密度が1.3Tを超えると、励磁電力が急激に上昇することがわかる。その結果、磁束密度が1.45Tの条件の下では、スポット間隔0.05mmのFe基アモルファス合金薄帯は、他の3種のFe基アモルファス合金薄帯と比較して、励磁電力が著しく高くなることがわかる。
【0029】
以上のように、本発明者等は、スポット間隔が0.05mmである場合等、レーザー照射痕のスポット間隔が狭過ぎる場合には、磁束密度が1.45Tの条件での励磁電力が著しく高くなることを知見した(
図2参照)。更に、本発明者等は、スポット間隔を0.10mm又は0.20mmのように拡げることにより(即ち、レーザー照射痕の数密度を小さくすることにより)、磁束密度1.45Tの条件下での励磁電力の上昇を抑制できることも知見した(
図2参照)。
更に、本発明者等は、スポット間隔を0.10mm又は0.20mmのように拡げても、レーザー加工による鉄損低減の効果が得られることも知見した(
図1参照)。
これらの知見は、後述の実施例の表1にも示されている。
【0030】
また、本発明者等は、複数のレーザー照射痕列のライン間隔を拡げることによっても(具体的にはライン間隔を10mm以上とすることによっても)、スポット間隔を拡げた場合と同様に、磁束密度1.45Tの条件下での励磁電力の上昇を抑制でき、かつ、レーザー加工による鉄損低減の効果を得ることができることを知見した。
この知見については、後述の実施例の表2に示されている。
【0031】
ところで、例えば前述した国際公開第2012/102379号に記載されているとおり、従来から、Fe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面に波状凹凸を形成することにより、鉄損を低減することが行われていた。
波状凹凸は、チャターマーク等とも称されているものであり、Fe基アモルファス合金薄帯を製造(鋳造)する際のパドルの振動に起因して発生する(例えば、国際公開第2012/102379号の段落0008参照)。波状凹凸を形成して鉄損を低減する技術においては、Fe基アモルファス合金薄帯の製造条件を調整することにより、意図的に、自由凝固面に波状凹凸を形成する。
【0032】
波状凹凸を形成して鉄損を低減する技術に対し、例えば特開昭61−29103号公報及び国際公開第2011/030907号に記載の従来のレーザー加工の技術は、自由凝固面に波状凹凸を形成することに代えて、自由凝固面にレーザー加工を施すことにより、波状凹凸と同様の効果(鉄損等の低減の効果)を得ようとする技術である。このため、従来のレーザー加工の技術では、波状凹凸に類似した形状を形成するために、ライン間隔を狭くして(例えば、特開昭61−29103号公報及び国際公開第2011/030907号の実施例に記載のとおり、ライン間隔を5mmとして)、即ち、レーザー照射痕の数密度を比較的高くして、レーザー照射痕を形成していた。
従来は、励磁電力を、磁束密度1.3Tの条件で測定していたために、レーザー照射痕の数密度を高くすることのデメリット(即ち、励磁電力の上昇)は、認識されていなかった。
しかし前述したとおり、本発明者等は、レーザー照射痕の数密度を高くした場合には、磁束密度1.45Tの条件で測定される励磁電力が上昇することを見出し、かつ、レーザー照射痕の数密度を小さくすることにより、磁束密度1.45Tの条件で測定される励磁電力の上昇を抑制できることを見出した。
本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、この知見によってなされたものである。
従って、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、薄帯の表面にレーザー照射痕が形成されている点では特開昭61−29103号公報及び国際公開第2011/030907号に記載の技術と共通するが、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、レーザー照射痕の数密度を小さくすることにより、磁束密度1.45Tの条件で測定される励磁電力の上昇を抑制しようとする技術である点で、特開昭61−29103号公報及び国際公開第2011/030907号に記載の技術とは全く異なる。
【0033】
以下、本開示のFe基アモルファス合金薄帯及びその好ましい態様について、より詳細に説明する。
【0034】
本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、自由凝固面及びロール面を有するFe基アモルファス合金薄帯である。
自由凝固面及びロール面を有するFe基アモルファス合金薄帯は、単ロール法によって製造(鋳造)される薄帯である。鋳造時、冷却ロールに接して急冷凝固された面がロール面であり、ロール面に対して反対側の面(即ち、鋳造時、雰囲気に暴露されていた面)が、自由凝固面である。
単ロール法については、国際公開第2012/102379号等の公知文献を適宜参照できる。
【0035】
本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、鋳造後、カットされていない状態の薄帯(例えば、鋳造後にロール状に巻き取られたロール体)であってもよいし、鋳造後、所望とする大きさに切り出された薄帯片であってもよい。
【0036】
<レーザー照射痕、レーザー照射痕列>
本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、自由凝固面及びロール面の少なくとも一方面に、複数のレーザー照射痕から構成されるレーザー照射痕列を複数有する。
【0037】
レーザー照射痕列を構成する複数のレーザー照射痕の各々は、レーザー加工(即ち、レーザー照射)によってエネルギーが付与された痕跡でありさえすればよく、レーザー照射痕の形状(平面視形状及び断面形状)については特に制限はない。
複数のレーザー照射痕の各々が、レーザー照射によってエネルギーが付与された痕跡でありさえすれば、レーザー照射による鉄損低減の効果が得られる。
【0038】
レーザー照射痕の平面視形状としては、王冠状、ドーナツ状、フラット状等、どのような平面視形状であってもよい。
王冠状、ドーナツ状、フラット状については、後述の実施例において説明する。
Fe基アモルファス合金薄帯におけるレーザー照射痕の耐候性(錆び防止)、Fe基アモルファス合金薄帯の占積率向上の観点からみると、レーザー照射痕の平面視形状としては、ドーナツ状又はフラット状が好ましく、フラット状がより好ましい。フラット状であると、薄帯を積層させて磁心を構成した場合、薄帯間の空間を抑制し、磁心の薄帯密度を向上させることができる。
【0039】
本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に設けられた複数のレーザー照射痕列のうち、互いに隣り合うレーザー照射痕列間の、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する幅方向の中央部における中心線間隔をライン間隔とした場合に、ライン間隔が10mm〜60mmである。
なお、幅方向とは、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する方向である。
また、レーザー照射痕列が薄帯の自由凝固面及びロール面の両面に形成されている場合、ライン間隔は、薄帯を透過的に見た場合の両面のレーザー照射痕列を対象に、測定される。例えば、レーザー照射痕列が、薄帯の鋳造方向で、両面に交互に、形成されている場合、「互いに隣り合うレーザー照射痕列」は、一方の面に形成されたレーザー照射痕列と、他方の面に形成され、かつ鋳造方向に隣接するレーザー照射痕列とが対象となる。
ライン間隔が10mm以上であることにより、ライン間隔が10mm未満である場合と比較して、磁束密度1.45Tの条件で測定される励磁電力の上昇を抑制できる。
ライン間隔が60mm以下であることにより、ライン間隔が60mm超である場合と比較して、磁束密度1.45Tの条件で測定される鉄損を低減させる効果に優れる。
ライン間隔は、好ましくは10mm〜50mmであり、より好ましくは10mm〜40mmであり、さらに好ましくは10mm〜30mmである。
【0040】
複数のレーザー照射痕列の方向は、略平行であることが好ましいが、略平行であることに限定されない。少なくとも薄帯の幅方向の中央部におけるライン間隔が10mm〜60mmであれば、複数のレーザー照射痕列の方向は、平行であってもよいし平行でなくてもよい。
【0041】
Fe基アモルファス合金薄帯の「幅方向の中央部」とは、幅方向の中心から幅方向両端に向かってある程度の幅をもった部分とすることができる。例えば、幅方向の中心から幅方向両端に向かって、前記「ある程度の幅」が幅全体の1/4となる領域の範囲を中央部とすることができる。中でも、前記「ある程度の幅」が幅全体の1/2となる領域の範囲を中央部とすることがより好ましい。
つまり、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向の中央部において、ライン間隔が10mm〜60mmの範囲となっていれば、必ずしも複数のレーザー照射痕列が平行に設けられていなくてもよい。
【0042】
本開示の一実施形態として、Fe基アモルファス合金薄帯は、複数のレーザー照射痕列の各々の方向が、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に直交する幅方向に対して、互いに平行でない配置関係を有していてもよい。
つまり、複数のレーザー照射痕列の各々の方向とFe基アモルファス合金薄帯の幅方向とのなす角度を10°以上として鋳造方向に対して鋭角又は鈍角の傾斜角をもって交差していてもよい。
【0043】
本開示の他の一実施形態として、Fe基アモルファス合金薄帯は、複数のレーザー照射痕列の各々の方向が、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向及び厚さ方向に直交する方向に対して、略平行であることが好ましい。
複数のレーザー照射痕列の各々の方向がFe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向及び厚さ方向に直交する方向に対して略平行であるとは、複数のレーザー照射痕列の各々の方向と、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向及び厚さ方向に直交する方向と、のなす角度が10°以下であることを意味する。
但し、複数のレーザー照射痕列が略平行であることに限定されない。
【0044】
また、本開示のFe基アモルファス合金薄帯において、一実施形態として、複数のレーザー照射痕列の各々の方向は、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向に対して、略平行であることが好ましい。
複数のレーザー照射痕列の各々の方向がFe基アモルファス合金薄帯の幅方向に対して略平行であるとは、複数のレーザー照射痕列の各々の方向とFe基アモルファス合金薄帯の幅方向とのなす角度が10°以下であることを意味する。
但し、複数のレーザー照射痕列が略平行であることに限定されない。
【0045】
本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、レーザー照射痕が薄帯の幅方向に一定の間隔で設けられたレーザー照射痕列を、薄帯の幅方向に1つ有する態様でもよいし、薄帯の幅方向に2つ以上有する態様でもよい。
【0046】
具体的には、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に設けられた複数のレーザー照射痕列を、鋳造方向に直交する幅方向において、(1)前記「幅方向の中央部」に一列有する態様(以下、単一列群という。)でもよいし、(2)前記「幅方向の中央部」に複数列有する態様(以下、複数列群という。)でもよい。
以下、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に設けられた複数のレーザー照射痕列を「照射痕列の群」ともいう。
後者の複数列群では、照射痕列の群が薄帯の幅方向に複数存在し、複数の群間において、レーザー照射痕列の各々の位置が幅方向の同一線上にある必要はなく、レーザー照射痕列の各々が鋳造方向にずれた位置関係となっていてもよい。例えば、薄帯の幅方向に照射痕列の群が2つ存在する場合、2つの群は薄帯の幅方向中央部の照射痕列非形成領域により隔てられ、一方の群中に並ぶ複数のレーザー照射痕列と他方の群中に並ぶ複数のレーザー照射痕列とが、鋳造方向に一定の距離ずらして互いに交互に存在する位置関係となっていてもよい。
【0047】
本開示におけるライン間隔は、以下のようにして求められる値である。
上記(1)のように、鋳造方向に設けられた複数のレーザー照射痕列を、前記「幅方向の中央部」に一列有する単一列群として有する場合、ライン間隔は、単一列群中において鋳造方向に互いに隣り合う2つのレーザー照射痕列間の間隔を任意に5箇所選択して測定し、測定値の平均値とすることができる。この場合、単一列群を構成する複数のレーザー照射痕列は、一定の間隔をおいて存在することが好ましいが、任意の間隔で存在してもよい。
また、上記(2)のように、鋳造方向に設けられた複数のレーザー照射痕列を、前記「幅方向の中央部」に複数列からなる複数列群として有する場合、ライン間隔は、複数列群中の各「照射痕列の群」ごとに上記方法と同様にして求めた値(平均値)を更に平均した値とすることができる。この場合、各「照射痕列の群」を構成する複数のレーザー照射痕列は、一定の間隔をおいて存在することが好ましいが、任意の間隔で存在してもよい。
【0048】
本開示のFe基アモルファス合金薄帯において、複数のレーザー照射痕列の各々における複数のレーザー照射痕の中心点間隔をスポット間隔とした場合、スポット間隔が0.10mm〜0.50mmである。したがって、スポット間隔を0.1mm未満として連続的に形成されたスポットは含まれない。
スポット間隔が0.10mm以上であることにより、スポット間隔が0.10mm未満である場合と比較して、磁束密度1.45Tの条件で測定される励磁電力の上昇を抑制できる(前述の
図2参照)。
スポット間隔が0.50mm以下であることにより、スポット間隔が0.50mm超である場合と比較して、磁束密度1.45Tの条件で測定される鉄損を低減させる効果に優れる。
スポット間隔は、好ましくは0.15mm〜0.40mmであり、より好ましくは0.20mm〜0.40mmである。
【0049】
前述のとおり、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、レーザー照射痕列を構成するレーザー照射痕の数密度を従来より小さくすることにより、磁束密度1.45Tの条件で測定される励磁電力の上昇を抑制しようとするものである。
【0050】
また、本開示のFe基アモルファス合金薄帯において、ライン間隔をd1(mm)とし、スポット間隔をd2(mm)としたとき、レーザー照射痕の数密度Dを下記式で算出される値とする。
D=(1/d1)×(1/d2)
数密度Dは、ライン間隔及びスポット間隔から算出される値であり、形成されているレーザー照射痕の密度を表している。即ち、あるライン間隔とスポット間隔を有する単位面積(mm
2)中において、d1×d2×D=1を満たす数密度(D)が0.05個/mm
2〜0.50個/mm
2である。この場合、単位面積は、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向におけるレーザー照射痕列が形成された範囲、かつ、鋳造方向1mの範囲(但し、鋳造方向で1m未満しかない場合は鋳造方向の全範囲)からなる領域から算出される。
レーザー照射痕の数密度Dを適正な値(従来より小さい値)とすることにより、磁束密度1.45Tの条件で測定される励磁電力の上昇を抑制することができる。
【0051】
レーザー照射痕列を構成するレーザー照射痕の数密度Dとしては、0.05個/mm
2〜0.50個/mm
2とする。
レーザー照射痕列を構成するレーザー照射痕の数密度Dが0.05個/mm
2以上である場合には、磁束密度1.45Tの条件で測定される鉄損を低減する効果により優れる。
レーザー照射痕列を構成するレーザー照射痕の数密度Dが0.50個/mm
2以下である場合には、磁束密度1.45Tの条件で測定される励磁電力の上昇を抑制する効果がより効果的に奏される。
レーザー照射痕列を構成するレーザー照射痕の数密度Dとしては、より好ましくは0.10個/mm
2〜0.50個/mm
2である。
【0052】
本開示におけるレーザー照射痕列が複数存在する場合、数密度Dは、場合に応じて以下のようにして求めることができる。
上記(1)のように、鋳造方向に設けられた複数のレーザー照射痕列を、前記「幅方向の中央部」に一列有する単一列群として有する場合、数密度Dは、単一列群を構成する複数のレーザー照射痕列から「互いに隣り合うレーザー照射痕列」を任意に5箇所選択し、それぞれのライン間隔及びスポット間隔を測定してそれぞれ測定値の平均値を求め、ライン間隔の平均値及びスポット間隔の平均値から上記式より数密度Dを求める。求めた数密度Dが0.05個/mm
2〜0.50個/mm
2の範囲にあることで、本発明の効果が奏される。
また、上記(2)のように、鋳造方向に設けられた複数のレーザー照射痕列を、前記「幅方向の中央部」に複数列からなる複数列群として有する場合、数密度Dは、複数列群中の各「照射痕列の群」ごとに上記と同様の方法にて求める。そして、求めた数密度Dのうち、複数列群中の少なくとも1つの「照射痕列の群」における数密度Dが0.05個/mm
2〜0.50個/mm
2の範囲にあることで効果が奏され、本発明の効果がより奏される点で、求めた数密度Dの平均値が0.05個/mm
2〜0.50個/mm
2の範囲にあることが好ましく、複数列群中の全ての「照射痕列の群」における数密度Dが0.05個/mm
2〜0.50個/mm
2の範囲にあることがより好ましい。
【0053】
ここで、「鋳造方向」とは、Fe基アモルファス合金薄帯を鋳造する際の冷却ロールの周方向に対応する方向であり、言い換えれば、鋳造後、カットされる前のFe基アモルファス合金薄帯の長手方向に対応する方向である。
なお、切り出された薄帯片においても、薄帯片の自由凝固面及び/又はロール面を観察することにより、「鋳造方向」がどの方向であるかを確認できる。例えば、薄帯片の自由凝固面及び/又はロール面には、鋳造方向に沿った薄いスジが観測される。また、鋳造方向に直交する方向が幅方向である。
【0054】
また、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向の長さ全体に占める、レーザー照射痕列の幅方向の長さの割合が、幅方向の中心から幅方向両端に向かう方向にそれぞれ10%〜50%であることが好ましい。なお、ここでの「%」は、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向の長さ全体を100%としている。
なお、レーザー照射痕列の方向が幅方向に対して傾きを持つ場合は、傾きを持ったレーザー照射痕列自体の長さではなく、レーザー照射痕列が形成されている部分において薄帯の幅方向における長さに換算した値をレーザー照射痕列の長さとする。
【0055】
上記長さの割合が50%であるとは、レーザー照射痕列が、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向の中央を起点とし、幅方向に一端及び他端にまで到達していることを意味する。この「中央を起点とし、幅方向に一端及び他端まで達している」とは、一端及び他端それぞれにおいて、レーザー照射痕列の端のレーザー照射痕とFe基アモルファス合金薄帯の端部との間隔が、レーザー照射痕列のスポット間隔以下であることを意味する。
例えば、レーザー照射痕列の方向とFe基アモルファス合金薄帯の幅方向とが平行である場合、Fe基アモルファス合金薄帯のレーザー照射痕列の方向の長さ全体は、Fe基アモルファス合金薄帯の全幅に対応する。
また、上記長さの割合が10%とは、幅方向の中心から幅方向両端に向かってそれぞれ10%ずつの長さを有していること、即ち、幅全体中の中心領域として幅長の20%の長さのレーザー照射痕列を有していることをいう。換言すると、レーザー照射痕列が、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向の両端に、幅方向の全体の長さに対して40%ずつの余白を残して形成されていることを意味する。
Fe基アモルファス合金薄帯のレーザー照射痕列の、幅方向の長さ全体に占めるレーザー照射痕列の幅方向の長さの割合が、幅方向の中心から幅方向両端に向かう方向にそれぞれ25%以上であることがより好ましい。
【0056】
更には、レーザー照射痕列は、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向を8等分した8個の領域から両端の2個の領域を除く、前記幅方向中央の6個の領域内に少なくとも形成されていることが好ましい。
【0057】
<自由凝固面の粗さ(最大断面高さRt)>
ところで、例えば前述の国際公開第2012/102379号に記載のとおり、従来、自由凝固面に波状凹凸を設けることにより、鉄損を低減させることが行われていた。
しかし、本発明者等の検討によると、波状凹凸は、磁束密度1.45Tの条件で測定される励磁電力の上昇を招く場合があることがわかった。
従って、磁束密度1.45Tの条件で測定される励磁電力の上昇を抑制する観点からみて、波状凹凸は、極力低減されていることが好ましい。
具体的には、自由凝固面における複数のレーザー照射痕列以外の部分における最大断面高さRtは、3.0μm以下であることが好ましい。
最大断面高さRtが3.0μm以下であることは、自由凝固面に波状凹凸が無いか、又は、波状凹凸が低減されていることを意味する。
【0058】
本明細書中において、自由凝固面における複数のレーザー照射痕列以外の部分における最大断面高さRtは、自由凝固面における複数のレーザー照射痕列以外の部分について、JIS B 0601:2001に準拠し、評価長さを4.0mmとし、カットオフ値を0.8mmとし、カットオフ種別を2RC(位相補償)として測定(評価)する。ここで、評価長さの方向は、Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向とする。また、評価長さを4.0mmとする上記測定は、詳細には、カットオフ値0.8mmにて連続して5回測定することにより行う。
【0059】
自由凝固面における複数のレーザー照射痕列以外の部分における最大断面高さRtは、より好ましくは2.5μm以下である。
また、最大断面高さRtの下限には特に制限はないが、Fe基アモルファス合金薄帯の製造適性の観点から、最大断面高さRtの下限は、好ましくは0.8μmであり、より好ましくは1.0μmである。
【0060】
<化学組成>
本開示のFe基アモルファス合金薄帯の化学組成には特に制限はなく、Fe基アモルファス合金の化学組成(即ち、Fe(鉄)を主成分とする化学組成)であればよい。
但し、本開示のFe基アモルファス合金薄帯による効果をより効果的に得る観点から、本開示のFe基アモルファス合金薄帯の化学組成は、以下の化学組成Aであることが好ましい。
好ましい化学組成である化学組成Aは、Fe、Si、B、及び不純物からなり、Fe、Si、及びBの合計含有量を100原子%とした場合に、Feの含有量が78原子%以上であり、Bの含有量が11原子%以上であり、B及びSiの合計含有量が17原子%〜22原子%である化学組成である。
以下、化学組成Aについて、より詳細に説明する。
【0061】
化学組成Aにおいて、Feの含有量は78原子%以上である。
Fe(鉄)は、アモルファス構造であっても最も磁気モーメントが大きい遷移金属の一つであり、Fe−Si−B系のアモルファス合金では磁性の担い手となる。
Feの含有量は78原子%以上である場合には、Fe基アモルファス合金薄帯の飽和磁束密度(Bs)を高くすることができる(例えば、1.6T程度のBsを実現できる)。更に、後述する好ましい磁束密度B0.1(1.52T以上)を達成し易くなる。
Feの含有量は、好ましくは80原子%以上であり、さらに好ましくは80.5原子%以上であり、更に好ましくは81.0原子%以上である。また、好ましくは82.5原子%以下であり、更に好ましくは82.0原子%以下である。
【0062】
化学組成Aにおいて、Bの含有量は、11原子%以上である。
B(ホウ素)は、アモルファス形成に寄与する元素である。Bの含有量が11原子%以上である場合には、アモルファス形成能がより向上する。
また、Bの含有量が11原子%以上である場合には、鋳造方向に磁区が配向しやすく、磁区幅が広くなることにより磁束密度(B0.1)が向上しやすい。
Bの含有量は、好ましくは12原子%以上であり、さらに好ましくは13原子%以上である。
Bの含有量の上限は、後述するB及びSiの合計含有量にもよるが、好ましくは16原子%である。
【0063】
化学組成Aにおいて、B及びSiの合計含有量は、17原子%〜22原子%である。
Si(ケイ素)は、溶湯状態で表面に偏析し、溶湯の酸化を防ぐ効果を有する元素である。さらに、Siは、アモルファス形成の助剤として作用し、ガラス転移温度を上昇させる効果があり、より熱的に安定なアモルファス相を形成させる元素でもある。
B及びSiの合計含有量が17原子%以上である場合には、上述したSiの効果が効果的に発揮される。
また、B及びSiの合計含有量が22原子%以下である場合には、磁性の担い手であるFeの量を多く確保できるので、飽和磁束密度Bsの向上及び磁束密度B0.1の向上の点で有利である。
【0064】
Siの含有量は、好ましくは2.0原子%以上であり、より好ましくは2.4原子%以上であり、更に好ましくは3.5原子%以上である。
Siの含有量の上限は、B及びSiの合計含有量にもよるが、好ましくは6.0原子%である。
【0065】
上記化学組成Aの中でも、後述する鉄損及び励磁電力をより向上させる観点からは、Fe基アモルファス合金薄帯のより好ましい化学組成は、Fe、Si、B、及び不純物からなり、Fe、Si、及びBの合計含有量を100原子%とした場合に、Feの含有量が80原子%以上であり、Bの含有量が12原子%以上であり、B及びSiの合計含有量が17原子%〜2
0原子%である。
【0066】
化学組成Aは、不純物を含有する。
この場合、化学組成Aに含有される不純物は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
不純物としては、Fe、Si、及びB以外のあらゆる元素が挙げられるが、具体的には、例えば、C、Ni、Co、Mn、O、S、P、Al、Ge、Ga、Be、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、希土類元素などが挙げられる。
これらの元素は、Fe、Si、及びBの総質量に対し、総量で1.5質量%の範囲で含有することができる。これらの元素の総含有量の上限は、好ましくは1.0質量%以下であり、更に好ましくは0.8質量%以下であり、更に好ましくは0.75質量%以下である。なお、この範囲で、これらの元素は添加されていてもかまわない。
【0067】
<厚さ>
本開示のFe基アモルファス合金薄帯の厚さには特に制限なはいが、厚さは、好ましくは20μm〜35μmである。
厚さが20μm以上であることは、Fe基アモルファス合金薄帯のうねり抑制、ひいては占積率向上の点で有利である。
厚さが35μm以下であることは、Fe基アモルファス合金薄帯の脆化抑制、磁気的飽和性の点で有利である。
Fe基アモルファス合金薄帯の厚さは、より好ましくは20μm〜30μmである。
【0068】
<鉄損>
前述したとおり、本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、レーザー加工(レーザー照射痕の形成)による磁区の細分化により、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損が低減される。
周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損は、好ましくは0.160W/kg以下であり、より好ましくは0.150W/kg以下であり、更に好ましくは0.140W/kg以下であり、更に好ましくは0.130W/kg以下である。
周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損の下限には特に制限はないが、Fe基アモルファス合金薄帯の製造適性の観点から、鉄損の下限は、好ましくは0.050W/kgである。
【0069】
Fe基アモルファス合金薄帯における鉄損の測定は、JIS 7152(1996年版)に従い測定される。
【0070】
<励磁電力>
前述したとおり、本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、磁束密度1.45Tの条件における励磁電力の上昇が抑制される。
周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における励磁電力は、好ましくは0.200VA/kg以下であり、より好ましくは0.170VA/kg以下であり、更に好ましくは0.165VA/kg以下である。
周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における励磁電力の下限には特に制限はないが、Fe基アモルファス合金薄帯の製造適性の観点から、励磁電力の下限は、好ましくは0.100VA/kgである。
【0071】
<磁束密度B0.1>
前述したとおり、本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、磁束密度1.45Tの条件における励磁電力の上昇が抑制されるので、励磁電力の上昇に伴う磁束密度B0.1の低下が抑制され、その結果、磁束密度B0.1を高く維持できる。
本開示のFe基アモルファス合金薄帯において、周波数60Hz及び磁場7.9557A/mの条件における磁束密度B0.1は、好ましくは1.52T以上である。
周波数60Hz及び磁場7.9557A/mの条件における磁束密度B0.1の上限は特に制限はないが、上限は、好ましくは1.62Tである。
【0072】
<比率〔動作磁束密度Bm/飽和磁束密度Bs〕>
前述したとおり、本開示のFe基アモルファス合金薄帯では、従来の条件である磁束密度1.3Tよりも高い磁束密度である、磁束密度1.45Tの条件における鉄損及び励磁電力を低く抑えることができる。
このため、比率〔動作磁束密度Bm/飽和磁束密度Bs〕(以下、「Bm/Bs比」ともいう)が従来よりも高い条件の動作磁束密度Bmにて用いた場合においても、鉄損及び励磁電力を抑制できる。
【0073】
この点に関し、従来の一例に係るFe基アモルファス合金薄帯は、飽和磁束密度Bsが1.56Tであり、かつ、動作磁束密度Bmが1.35Tの条件(即ち、Bm/Bs比=0.87)で用いられていた(例えば、IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS Vol44, No11,Nov.2008,pp.4104-4106(特に、p.4106)参照)。
これに対し、本開示のFe基アモルファス合金薄帯において、例えば、後述の実施例の化学組成(Fe
82Si
4B
14 )を有するFe基アモルファス合金薄帯のBsは、1.63Tである。Bsは、化学組成によってほぼ一義的に定まる。この場合の本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、1.43T以上(好ましくは1.45T〜1.50T)のBmにて用いることが可能である。Bmが1.43Tである場合のBm/Bs比は、0.88であり、Bmが1.50Tである場合のBm/Bs比は、0.92である。
【0074】
以上の理由により、本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、Bm/Bs比が0.88〜0.94(好ましくは0.89〜0.92)であることを満足する動作磁束密度Bmにて用いられる用途に特に好適である。
本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、Bm/Bs比が0.88〜0.94(好ましくは0.89〜0.92)であることを満足する動作磁束密度Bmにて用いた場合においても、鉄損及び励磁電力の増大を抑制できる。
【0075】
〜Fe基アモルファス合金薄帯の製造方法(製法X)〜
上述した本開示のFe基アモルファス合金薄帯は、好ましくは以下の製法Xによって製造することができる。
製法Xは、
Fe基アモルファス合金からなり、自由凝固面及びロール面を有する素材薄帯を準備する工程(以下、「素材準備工程」ともいう)と、
素材薄帯の自由凝固面及びロール面の少なくとも一方面に対し、レーザー加工により、複数のレーザー照射痕から構成されるレーザー照射痕列を複数形成することにより、複数のレーザー照射痕列を有するFe基アモルファス合金薄帯を得る工程(以下、「レーザー加工工程」ともいう)と、
を有し、
前記Fe基アモルファス合金薄帯の鋳造方向に設けられた複数の前記レーザー照射痕列のうち、互いに隣り合うレーザー照射痕列間の、前記鋳造方向に直交する幅方向の中央部における中心線間隔をライン間隔とした場合に、前記ライン間隔が、10mm〜60mmであり、
複数のレーザー照射痕列の各々における複数のレーザー照射痕の中心点間隔をスポット間隔とした場合に、スポット間隔が0.10mm〜0.50mmであり、
ライン間隔をd1(mm)とし、スポット間隔をd2(mm)とし、レーザー照射痕の数密度DをD=(1/d1)×(1/d2)としたとき、レーザー照射痕の数密度Dが、0.05個/mm
2〜0.50個/mm
2である。
製法Xは、必要に応じ、素材準備工程及びレーザー加工工程以外のその他の工程を有していてもよい。
【0076】
−素材準備工程−
製法Xにおける素材準備工程は、自由凝固面及びロール面を有する素材薄帯を準備する工程である。
ここでいう素材薄帯は、鋳造後、カットされていない状態の薄帯(例えば、鋳造後にロール状に巻き取られたロール体)であってもよいし、鋳造後、所望とする大きさに切り出された薄帯片であってもよい。
素材薄帯は、いわば、レーザー照射痕が形成される前の段階の、本開示のFe基アモルファス合金薄帯である。
素材薄帯における自由凝固面及びロール面は、それぞれ、本開示のFe基アモルファス合金薄帯における自由凝固面及びロール面と同義である。
素材薄帯の好ましい態様(例えば好ましい化学組成、好ましいRt)は、レーザー照射痕の有無を除けば、本開示のFe基アモルファス合金薄帯の好ましい態様と同様である。
【0077】
素材準備工程は、予め鋳造された(即ち、既に完成した)素材薄帯を、レーザー加工工程に供するために単に準備するだけの工程であってもよいし、素材薄帯を新たに鋳造する工程であってもよい。
また、素材準備工程は、素材薄帯の鋳造、及び、素材薄帯からの薄帯片の切り出しの少なくとも一方を行う工程であってもよい。
【0078】
−レーザー加工工程−
製法Xにおけるレーザー加工工程では、素材薄帯の自由凝固面及びロール面の少なくとも一方面に対し、レーザー加工により(即ち、レーザーを照射することにより)、複数のレーザー照射痕(詳細には、複数のレーザー照射痕から構成されるレーザー照射痕列)を形成する。
レーザー照射工程によって形成されるレーザー照射痕及びレーザー照射痕列の好ましい態様(好ましい、ライン間隔、スポット間隔、レーザー照射痕の数密度等)は、前述した本開示のFe基アモルファス合金薄帯におけるレーザー照射痕及びレーザー照射痕列の好ましい態様と同様である。
【0079】
前述のとおり、複数のレーザー照射痕の各々は、レーザー照射によってエネルギーが付与された痕跡でありさえすれば、レーザー照射による鉄損低減の効果が得られる。
従って、レーザー加工工程におけるレーザーの条件には特に制限はないが、好ましい条件は以下のとおりである。
【0080】
レーザ光の照射エネルギーをFe基アモルファス合金薄帯の厚みに対して制御することにより、凹部の直径や凹部の深さを制御することができる。
【0081】
レーザー加工工程において、各レーザー照射痕を形成するためのレーザーの出力(以下、「レーザー出力」ともいう)として、好ましくは0.4mJ〜2.5mJであり、より好ましくは0.6mJ〜2.5mJであり、更に好ましくは0.8mJ〜2.5mJであり、更に好ましくは1.0mJ〜2.0mJであり、更に好ましくは1.3mJ〜1.8mJである。
レーザービームの直径(以下、「スポット径」ともいう)は、50μm〜200μmが好ましい。
レーザー出力をスポット面積によって除した値を、レーザーのエネルギー密度と定義した場合、エネルギー密度としては、好ましくは0.01J/mm
2〜1.50J/mm
2であり、より好ましくは0.02J/mm
2〜1.30J/mm
2であり、更に好ましくは0.03J/mm
2〜1.02J/mm
2である。
【0082】
レーザーのパルス幅は、50nsec以上が好ましく、より好ましくは100nsec以上である。パルス幅を上記範囲にすることにより、レーザー照射痕を形成した薄帯片の鉄損等の磁気特性を効率的に改善できる。
パルス幅とは、レーザー照射されている時間のことをいい、パルス幅が小さいことは照射時間が短いことを指す。即ち、照射レーザー光の全エネルギーは、単位時間当たりのエネルギーとパルス幅の積で表される。
【0083】
レーザ処理では、凹部の形成にあたり、パルスレーザ光を薄帯幅方向に走査して照射する。
レーザ光源としては、YAGレーザ、CO
2ガスレーザ、ファイバーレーザなどを利用することができる。中でも、高出力で高周波のパルスレーザ光を長時間に亘り安定的に照射することができる点で、ファイバーレーザが好ましい。ファイバーレーザでは、ファイバーに導入されたレーザ光が、ファイバー両端の回折格子によりFBG(Fiber Bragg grating)の原理で発振する。レーザ光は、細長いファイバー中で励起されるので、結晶内部に生じる温度勾配によりビーム品質が低下する熱レンズ効果の問題がない。更に、ファイバーコアは、数ミクロンと細いので、レーザ光は高出力でもシングルモードで伝播するだけでなく、ビーム径が絞られ、高エネルギー密度のレーザ光が得られる。そのうえ、焦点深度が長いので、200mm以上と幅広の薄帯にも精度良く凹部列を形成できる。ファイバーレーザのパルス幅は、通常マイクロ秒〜ピコ秒程度である。
【0084】
レーザ光の波長は、レーザ光源により、約250nm〜1100nmであるが、900〜1100nmの波長が、合金薄帯において十分吸収されるため好適である。
レーザ光のビーム径としては、10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、50μm以上がより好ましい。また、ビーム径は、500μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましく、300μm以下がより好ましい。
【0085】
また、レーザー加工工程は、単ロール法による鋳造後であって巻取り前の素材薄帯に対してレーザー加工を施す工程であってもよいし、巻取り後の素材薄帯(ロール体)から巻き出された素材薄帯に対しレーザー加工を施す工程であってもよいし、巻取り後の素材薄帯(ロール体)から巻き出された素材薄帯から切り出された薄帯片に対しレーザー加工を施す工程であってもよい。
レーザー加工工程が、単ロール法による鋳造後であって巻取り前の素材薄帯に対してレーザー加工を施す工程である場合、製法Xは、例えば、冷却ロールと巻取りロールとの間に、レーザー加工装置が配置されたシステムを用いて実施する。
【0086】
〔鉄心〕
本開示の鉄心は、既述の本開示のFe基アモルファス合金薄帯を複数重ねて積層したものであり、具体的には、Fe基アモルファス合金薄帯が積層され、積層されたFe基アモルファス合金薄帯を曲げてオーバーラップ巻きされており、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損は0.250W/kg以下である。好ましくは0.230W/kg以下であり、より好ましくは0.200W/kg以下であり、更に好ましくは0.180W/kg以下である。
周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損の下限には特に制限はないが、Fe基アモルファス合金薄帯の製造適性の観点から、鉄損の下限は、好ましくは0.050W/kgであり、より好ましくは0.080W/kgである。
本開示のFe基アモルファス合金薄帯の詳細については、既述の通りであり、その詳細な説明は省略する。
オーバーラップ巻きの方法は、公知の方法を適用することができる。
【0087】
本開示の鉄心の形状としては、円形、矩形等のいずれでもよい。
また、鉄心に巻き回されたコイルの種類等には、制限はなく、公知のものから適宜選択すればよい。
【0088】
〔変圧器〕
本開示の変圧器は、既述の本開示のFe基アモルファス合金薄帯を用いた鉄心と、鉄心に巻き回されたコイルと、を備えており、鉄心は、積層されたFe基アモルファス合金薄帯を曲げてオーバーラップ巻きされており、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損が0.250W/kg以下の範囲とされている。
【0089】
本開示のFe基アモルファス合金薄帯及び鉄心の詳細については、既述の通りであり、その詳細な説明は省略する。
【0090】
本開示の変圧器において、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損は、0.250W/kg以下であり、好ましくは0.230W/kg以下であり、より好ましくは0.200W/kg以下であり、更に好ましくは0.180W/kg以下である。
周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損の下限には特に制限はないが、Fe基アモルファス合金薄帯の製造適性の観点から、鉄損の下限は、好ましくは0.050W/kgであり、より好ましくは0.080W/kgである。
【0091】
オーバーラップ巻きされたFe基アモルファス合金薄帯を備えた本開示の変圧器における鉄損の測定は、実施例にて後述する。
【0092】
本開示の変圧器における鉄心の形状は、円形、矩形等のいずれでもよい。また、鉄心に巻き回されたコイルの種類等には、制限はなく、公知のものから適宜選択すればよい。
【実施例】
【0093】
以下、本開示のFe基アモルファス合金薄帯及び変圧器の実施形態として実施例を示す。但し、本開示は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0094】
〔実施例1〕
<素材薄帯(レーザー加工される前のFe基アモルファス合金薄帯)の製造>
単ロール法により、Fe
82Si
4B
14の化学組成を有し、厚さが25μmであり、幅が210mmである素材薄帯(即ち、レーザー加工される前のFe基アモルファス合金薄帯)を製造した。
ここで、「Fe
82Si
4B
14の化学組成」とは、Fe、Si、B、及び不純物からなり、Fe、Si、及びBの合計含有量を100原子%とした場合に、Feの含有量が82原子%であり、Bの含有量が14原子%であり、Bの含有量が4原子%である化学組成を意味する。
以下、素材薄帯の製造の詳細を説明する。
【0095】
素材薄帯の製造は、Fe
82Si
4B
14の化学組成を有する溶湯を1300℃の温度に保持し、次いでこの溶湯をスリットノズルから、軸回転する冷却ロールの表面に噴出した。噴出された溶湯を冷却ロールの表面で急冷凝固させ、素材薄帯を得た。
このとき、冷却ロールの表面における、溶湯のパドルが形成されるスリットノズルの直下の周辺の雰囲気は、非酸化性ガス雰囲気とした。
スリットノズルにおける、スリット長さは210mmとし、スリット幅は0.6mmとした。
冷却ロールの材質はCu系合金とし、冷却ロールの周速は27m/sとした。
溶湯を噴出する圧力及びノズルギャップ(即ち、スリットノズル先端と冷却ロール表面とのギャップ)は、製造される素材薄帯の自由凝固面における最大断面高さRt(詳細には、素材薄帯の鋳造方向に沿って測定された最大断面高さRt)が、3.0μm以下となるように調整した。
【0096】
<レーザー加工>
素材薄帯からサンプル片を切り出し、切り出したサンプル片に対してレーザー加工を施すことにより、レーザー加工されたFe基アモルファス合金薄帯片を得た。
以下、詳細を説明する。
【0097】
図3は、レーザー加工されたFe基アモルファス合金薄帯片(薄帯10)の自由凝固面を概略的に示す概略平面図である。
図3に示す薄帯10の長さL1(即ち、素材薄帯から切り出すサンプル片の長さ)は120mmとし、薄帯10の幅W1(即ち、素材薄帯から切り出すサンプル片の幅)は25mmとした。サンプル片は、サンプル片の長さ方向と素材薄帯の長さ方向とが一致し、かつ、サンプル片の幅方向と素材薄帯の幅方向とが一致する向きに切り出した。
切り出したサンプル片の自由凝固面にパルスレーザーを照射することにより、複数のレーザー照射痕14から構成されるレーザー照射痕列12を複数形成し、薄帯10を得た。
詳細には、サンプル片(レーザー加工前の薄帯10。以下同じ。)の自由凝固面に、複数のレーザー照射痕14を、サンプル片の幅方向に対して平行な方向に一列に形成することにより、レーザー照射痕列12を形成した。レーザー照射痕列12は、サンプル片の幅方向の全域にわたって形成した。即ち、レーザー照射痕列のサンプル片の幅方向についての長さが、サンプル片の全幅に対して100%となるようにした。
以上のレーザー照射痕列12を複数列形成した。複数のレーザー照射痕列12の方向は、平行となるようにした。
【0098】
レーザー照射痕列12における、スポット間隔SP1(即ち、複数のレーザー照射痕14の中心点間隔)、及び、ライン間隔LP1(即ち、複数のレーザー照射痕列12の中心線間隔)は、表1に示す通りとした。
また、薄帯10におけるレーザー照射痕の数密度(個/mm
2)は、表1に示す通りとした。レーザー照射痕の数密度D(個/mm
2)は、下記式より算出した。
D=(1/d1)×(1/d2)
式中、d1はライン間隔(単位:mm)を表し、d2はスポット間隔(単位:mm)を表す。
【0099】
パルスレーザーの照射条件は、以下の通りとした。
−パルスレーザーの照射条件−
レーザー発振器としては、IPGフォトニクス社のパルスファイバーレーザー(YLP−HP−2−A30−50−100)を使用した。このレーザー発振器のレーザー媒質はYbドープのガラスファイバーであり、発振波長は1064nmである。
上記レーザー発振器のファイバー端のコリメータからの出射ビーム径は、6.2mmとした。
一方、サンプル片の自由凝固面におけるレーザーのスポット径は、60.8μmとなるように調整した。ビーム径の調整は、光学部品であるビームエキスパンダ(BE)と、fθ:f254mmの集光レンズ(焦点距離254mm)と、を用いて行った。
ビームモードM2 は3.3(マルチモード)とした。
レーザーの出力は2.0mJとし、レーザーのパルス幅は、250nsecとした。
BEによるビームの拡大倍率は3倍とし、Focusは0mmとした。
ここで、Focusとは、集光レンズの焦点距離(254mm)と、集光レンズから薄帯の自由凝固面までの実際の距離と、の差(絶対値)を意味する。
また、入射径Dとスポット径D
0との間に、D
0=4λf/πD(ここで、λはレーザーの波長を表し、fは焦点距離を表す)の関係が成り立つことから、ビームの拡大倍率BEが大きくなるにつれ(即ち、入射径Dが大きくなるにつれ)、スポット径D
0が小さくなる傾向となる。
【0100】
上記の照射条件において、レーザー出力(2.0mJ)を、サンプル片の自由凝固面におけるレーザーのビーム径(60.8μm)によって除した値を、エネルギー密度と定義した場合、エネルギー密度をJ/mm
2単位で表すと、0.689J/mm
2となる。
このエネルギー密度(0.689J/mm
2)は、表4中に示す。
【0101】
<測定及び評価>
レーザー加工されたFe基アモルファス合金薄帯(
図3中の薄帯10)について、以下の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
(非レーザー加工領域の最大断面高さRt)
レーザー加工されたFe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面中、レーザー照射痕列12以外の部分(即ち、非レーザー加工領域)について、JIS B 0601:2001に準拠し、評価長さを4.0mmとし、カットオフ値を0.8mmとし、カットオフ種別を2RC(位相補償)として、最大断面高さRtを測定した。ここで、評価長さの方向は、素材薄帯の鋳造方向となるように設定した。評価長さを4.0mmとする上記測定は、詳細には、カットオフ値0.8mmにて連続して5回測定することにより行った。
評価長さを4.0mmとする上記測定を、非レーザー加工領域中の3箇所について行い、得られた3つの測定値の平均値を、本実施例における最大断面高さRt(μm)とした。
【0103】
(鉄損CLの測定)
レーザー加工されたFe基アモルファス合金薄帯について、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件、並びに、周波数60Hz及び磁束密度1.50Tの条件の2条件にて、鉄損CLを、交流磁気測定器により正弦波励磁で測定した。
【0104】
(励磁電力VAの測定)
レーザー加工されたFe基アモルファス合金薄帯について、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件、並びに、周波数60Hz及び磁束密度1.50Tの条件の2条件にて、励磁電力VAを、交流磁気測定器により正弦波励磁で測定した。
【0105】
(磁束密度B0.1の測定)
レーザー加工されたFe基アモルファス合金薄帯について、周波数60Hz及び磁場7.9557A/mの条件で、磁束密度B0.1を測定した。
【0106】
〔比較例1〕
レーザー加工を行わなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
結果を表1〜表3に示す。
【0107】
〔実施例2〜14、比較例2〜4〕
スポット間隔及びライン間隔の組み合わせを、表1及び表2に示すように変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
なお、これらの例において、最大断面高さRtも異なる値となっているが、この最大断面高さRtについては意図的にコントロールしたものではない(後述の実施例15以降も同様である)。最大断面高さRtが3.0μm以下の範囲において、最大断面高さRtを意図的にコントロールすることは技術的に困難である。
結果を表1及び表2に示す。
【0108】
〔比較例5〕
最大断面高さRtが3.0μm超となるように、溶湯を噴出する圧力及びノズルギャップを調整したこと以外は比較例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
この比較例
5のFe基アモルファス合金薄帯では、自由凝固面に波状の凹凸が形成されていた。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
表1及び表2に示すように、ライン間隔(即ち、複数のレーザー照射痕列の中心線間隔)が10mm〜60mmであり、スポット間隔(即ち、複数のレーザー照射痕の中心点間隔)が0.10mm〜0.50mmであり、かつ、レーザー照射痕の数密度Dが0.05個/mm
2〜0.50個/mm
2である実施例1〜14のFe基アモルファス合金薄帯は、磁束密度1.45Tの条件における鉄損CL及び励磁電力VAが低減されていた。
これに対し、レーザー照射痕が形成されていない比較例1のFe基アモルファス合金薄帯では、鉄損CLが高かった。
また、スポット間隔が0.10mm未満である比較例2のFe基アモルファス合金薄帯では、鉄損CLは低減されているものの、励磁電力VAが高かった。
また、ライン間隔が10mm未満である比較例3及び4のFe基アモルファス合金薄帯では、鉄損CLは低減されているものの、励磁電力VAが高かった。
また、レーザー照射痕を有さず、自由凝固面の非レーザー加工領域における最大断面高さRtが3.0μm超である比較例5のFe基アモルファス合金薄帯では、鉄損CLは低減されているものの、励磁電力VAが高かった。
【0112】
ところで、Fe
82 Si
4 B
14 の化学組成を有する実施例1〜14のFe基アモルファス合金薄帯における飽和磁束密度Bsは、1.63Tである。
実施例1〜14において、磁束密度1.45Tの条件における鉄損CL及び励磁電力VAは、比率〔動作磁束密度Bm/飽和磁束密度Bs〕が0.89(=1.45/1.63)であることを満足する動作磁束密度BmにてFe基アモルファス合金薄帯を使用することを想定した例であり、磁束密度1.50Tの条件における鉄損CL及び励磁電力VAは、比率〔動作磁束密度Bm/飽和磁束密度Bs〕が0.92(=1.50/1.63)であることを満足する動作磁束密度BmにてFe基アモルファス合金薄帯を使用することを想定した例である。
表1及び表2の結果から、実施例1〜14のFe基アモルファス合金薄帯は、比率〔動作磁束密度Bm/飽和磁束密度Bs〕が0.88〜0.94であることを満足する動作磁束密度Bmにて用いた場合においても、鉄損及び励磁電力を抑制できることが期待される。
【0113】
<レーザー照射痕の形状>
実施例1〜14のFe基アモルファス合金薄帯のレーザー照射痕の平面視形状を、光学顕微鏡によって観察した。
結果、いずれの実施例においても、レーザー照射痕の平面視形状は王冠状であった。
ここで、王冠状とは、レーザー照射痕の縁の部分に、溶融合金が飛散した痕跡が残っている形状を意味する。
【0114】
図4は、王冠状のレーザー照射痕の一例を示す光学顕微鏡写真である。
図4では、王冠状のレーザー照射痕を2個確認できる。各レーザー照射痕の縁の部分に、溶融合金が飛散した痕跡が残っていることがわかる。
【0115】
〔実施例15〜19〕
実施例3において、レーザー強度を表3に示すように変更したこと以外は、実施例3と同様の操作を行った。結果を表3に示す。
表3には、実施例15〜19の結果に加え、対比用として、実施例3及び比較例1の結果も示す。
【0116】
【表3】
【0117】
表3に示すように、レーザー強度を0.4mJ〜1.5mJに弱めた場合(実施例15〜19)にも、レーザー照射により、鉄損を低減させる効果が得られることが確認された。なお、レーザー強度が1.0mJ〜2.0mJの実施例18,19、及び実施例3は、60Hz、1.45Tでの鉄損CLが0.120W/kg以下であり、励磁電力VAが0.140以下であった。また、レーザー強度が1.3mJ〜1.8mJ(1.5mJ)の実施例19は、60Hz、1.45Tでの鉄損CLが0.112W/kgであり、励磁電力VAが0.131であった。
【0118】
〔実施例101〜105〕
<レーザー加工条件に関する実験1>
レーザー加工条件(詳細には、BEによるビームの拡大倍率及びFocus)を表4に示すように変更したこと以外は実施例3と同様の操作を行った。
更に、各実施例のFe基アモルファス合金薄帯のレーザー照射痕の平面視形状を、光学顕微鏡によって観察した。結果を表4に示す。
表4には、実施例101〜105の結果に加え、対比用として、実施例3及び比較例1の結果も示す。
【0119】
【表4】
【0120】
表4に示すように、実施例3に対し、レーザー加工条件を変更した実施例101〜105では、レーザー照射痕の形状が変化したことがわかる。
また、実施例3に対し、レーザー加工条件を変更した実施例101〜105では、鉄損CL及び励磁電力VAはほとんど変化しないことがわかる。
【0121】
ここで、ドーナツ状とは、レーザー照射痕の縁の部分に、ドーナツ状の縁どりを確認できる形状を意味する。
図5は、ドーナツ状のレーザー照射痕の一例を示す光学顕微鏡写真である。
図5では、ドーナツ状のレーザー照射痕を3個確認できる。各レーザー照射痕の縁の部分に、ドーナツ状の縁どりを確認できる。
【0122】
また、フラット状とは、明確な縁どりがない略円形のシミ形状を意味する。具体的には、フラット状とは、凹部の最大深さt
1と薄帯の厚さTとの比t
1/Tが0.025未満のものを指す。
図6は、フラット状のレーザー照射痕の一例を示す光学顕微鏡写真である。
図6のフラット状のレーザー照射痕は、凹部の最大深さt
1が0.44μmである。なお、薄帯の厚さTは25μmであり、比t
1/Tは0.176である。なお、前記のように、レーザー照射痕がフラット状である場合、薄帯を積層させて磁心を構成した場合、薄帯間の空間を抑制し、磁心の薄帯密度を向上させることができる。
【0123】
以上の結果から、レーザー照射痕の形状は、鉄損CL及び励磁電力VAに対し、ほとんど影響を与えないことが確認された。
即ち、レーザー照射痕の形状の如何を問わず、ライン間隔及びスポット間隔が前述した条件を満たす限り、鉄損CL及び励磁電力VAを低減させる効果が得られることが確認された。
【0124】
(実施例20)
実施例3において、サンプル片のロール面にパルスレーザーを照射したこと以外は、実施例3と同様の操作を行った。薄帯10におけるレーザー照射痕の数密度(個/mm
2)は、表5に示す通りとした。結果を表5に示す。
なお、レーザー加工されたFe基アモルファス合金薄帯の自由凝固面中、レーザー照射痕列12以外の部分(即ち、非レーザー加工領域)においてJIS B 0601:2001に準拠して上記と同様に測定した最大断面高さRtは、1.4μmであった。
【0125】
【表5】
【0126】
表5に示されるように、ライン間隔(即ち、複数のレーザー照射痕列の中心線間隔)を10mm〜60mmとし、スポット間隔(即ち、複数のレーザー照射痕の中心点間隔)を0.10mm〜0.50mmとし、かつ、レーザー照射痕の数密度Dを0.05個/mm
2〜0.50個/mm
2とした実施例20は、薄帯のロール面にレーザー照射痕を設けた場合であっても、磁束密度1.45Tの条件における鉄損CL及び励磁電力VAが低減されていた。
【0127】
(実施例21〜24、比較例6〜9)
実施例3で用いた幅が210mmである素材薄帯のFe基アモルファス合金薄帯を、
図7に示すように幅方向が8等分される幅長にてスリット加工し、Wa〜Wdの4つの狭幅な合金薄帯のサンプル片を得た。得られたWa〜Wdの合金薄帯について、レーザー加工する前の合金薄帯のサンプル片(比較例6〜9)と、レーザー加工されたFe基アモルファス合金薄帯片(実施例21〜24)と、における鉄損CL及び励磁電力VAを測定した。
【0128】
【表6】
【0129】
表6に示されるように、Waの薄帯にレーザー加工が施された実施例21では、レーザー加工を施さない比較例6に対して加工による鉄損CL及び励磁電力VAの低減効果は僅かであった。
しかしながら、Wb〜Wdの薄帯にレーザー加工が施された実施例22〜24では、レーザー加工を施さない比較例7〜9に対し、磁束密度1.45Tの条件における鉄損CL及び励磁電力VAが顕著に低減されていた。
つまり、レーザー加工は、薄帯の幅方向全体に行う必要はなく、Fe基アモルファス合金薄帯の幅方向の長さ全体に占める、レーザー照射痕列の幅方向の長さの割合が、幅方向の中心から幅方向両端に向かう方向にそれぞれ10%〜50%の範囲内であればレーザー加工による鉄損及び励磁電力の低減効果があることが示された。
【0130】
(実施例25〜26)
実施例3において、レーザー加工で形成するレーザー照射痕列の方向を、
図8に示すように薄帯(サンプル片)の幅方向に対して15°(又は165°)傾斜させたこと以外は、実施例3と同様の操作を行った。結果を表7に示す。
【0131】
【表7】
【0132】
表7に示されるように、レーザー照射痕列の方向を幅方向に対して15°傾斜させても、磁束密度1.45Tの条件における鉄損CL及び励磁電力VAは低減された。
【0133】
(実施例27〜29)
実施例1と同様にして、合金組成のFe基アモルファス合金薄帯(Fe
82 Si
4B
14の化学組成を有し、厚さが25μm、幅が210mm)を得た。その後、薄帯の中央部から25mm幅のサンプル片を加工し、このサンプル片の自由凝固面に、パルスレーザーによるレーザー加工を施し、レーザー照射痕列を形成した。このときのパルスレーザーの照射条件を、下記表8に示す通りとした。
また、レーザー照射痕列において、スポット間隔SP1は0.20mmであり、ライン間隔LP1は20mmであり、レーザー照射痕列の数密度は0.25mm
2である。レーザー照射痕列は、薄帯片の幅方向の全域に亘って形成し、それぞれのレーザー照射痕が平行になるように形成した。
【0134】
【表8】
【0135】
表8に示されるように、パルス幅を変化させた場合にも、磁束密度1.45Tの条件における鉄損CL及び励磁電力VAに対する低減効果が認められた。
【0136】
(実施例30、比較例10)
実施例1と同様にして、Fe基アモルファス合金薄帯(化学組成:Fe
82Si
4B
14、厚さ:25μm、幅:142mm)を得、Fe基アモルファス合金薄帯片を作成した。得られた薄帯片を複数積層して積層体とし、積層体をU字形に曲げ、更にその両端同士をオーバーラップ巻きにすることで、
図9A及び
図9Bに示す構造の鉄心とした。鉄心の形状は、
図9A及び
図9Bに示すように、窓枠高さAが330mmであり、窓枠幅Bが110mmであり、リボン積層厚さCが55mmであり、高さDが142mm(後述の樹脂コーティングの厚さを含めると146mm)である。また、鉄心の占積率は86%であり、重さは53kgである。
【0137】
なお、この鉄心は、
図9A及び
図9Bの下側の部分でオーバーラップ巻きがなされている。また、複数の薄帯片を積層して積層体とした際、薄帯片同士が離間しないように、積層体の中腹部における積層面に樹脂コーティングを施した。
【0138】
得られた鉄心に対し、鉄損CLと励磁電力VAを測定した。
図10に示すように、鉄心にコイルとして一次巻線(N1)と二次巻線(N2)とを巻き、周波数を60Hzとし、磁束密度を1.45T及び1.5Tとした。また、一次巻線の巻き数は10ターンとし、二次巻線の巻き数は2ターンとした。このようにして、変圧可能な回路を作製した。
電力計で読み取る電圧E(V)、最大磁束密度B
m(T)の換算及び規定の磁束密度B
m(T)における皮相電力(VA/kg)、並びに、鉄損(W/kg)の算出は、下記の式1、式2、式3により行った。測定結果を表9に示す。
【0139】
また、比較として、レーザー照射痕列を形成しなかった薄帯片を用いたこと以外、上記と同様にして製造した鉄心に対して同様の測定、評価を行った。
【0140】
式1:電圧E(V)=4.443LF・C・W・N
1・f・B
m×10
−6
式2:皮相電力(VA/kg)=E・I/M
式3:鉄損(W/kg)=Watt/M
なお、式1〜式3中の記号の詳細は、以下の通りである。
E :電力計測定実効電圧(V)
LF:占積率(=0.86)
C :コア積厚(mm)
W :使用リボン公称幅(mm)
N
1 :励磁コイル巻回数
f :測定周波数(Hz)
B
m :最大磁束密度又は規定の磁束密度
I :電力計測定実効電流(A)
M :コア重量(kg)
Watt:電力計測定電力(W)
【0141】
【表9】
【0142】
表9に示されるように、1.45T、60Hzで測定した鉄損CLは、レーザー照射痕列を形成しなかった薄帯片を用いた鉄心では0.261W/kgであるのに対し、本実施形態のレーザー照射痕列を形成した薄帯片を用いた鉄心では0.162W/kgと、3割以上低減した数値となった。
鉄心において、鉄損CLを0.2W/kg以下に低減することは、従来から全く到達し得なかったものである。そのため、本実施形態の鉄心にコイルを設けることにより、電力損失が極めて低い変圧器を得ることができる。
【0143】
2018年3月30日に出願された日本出願特願2018−069453の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。