特許第6874921号(P6874921)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6874921
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】接着シート、物品及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20210510BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20210510BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20210510BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20210510BHJP
   C09J 167/00 20060101ALI20210510BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20210510BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20210510BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20210510BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20210510BHJP
   B32B 27/26 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   B29C45/14
   C09J7/35
   C09J7/38
   C09J201/00
   C09J167/00
   C09J175/04
   B32B7/022
   B32B27/00 M
   B32B27/00 D
   B32B27/36
   B32B27/26
【請求項の数】9
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2020-566304(P2020-566304)
(86)(22)【出願日】2020年5月13日
(86)【国際出願番号】JP2020019164
【審査請求日】2020年11月26日
(31)【優先権主張番号】特願2019-97693(P2019-97693)
(32)【優先日】2019年5月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100124143
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 嘉久
(72)【発明者】
【氏名】下岡 澄生
(72)【発明者】
【氏名】竹内 友一
(72)【発明者】
【氏名】森野 彰規
【審査官】 関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2019/026577(WO,A1)
【文献】 特開2018−062544(JP,A)
【文献】 特開2008−248151(JP,A)
【文献】 特開2010−254953(JP,A)
【文献】 特開2005−255892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B32B 27/00
C09J 7/24、7/38、175/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサートパーツの加飾層表面へ貼付された後、貼付面へ溶融樹脂を射出塗布して加飾層表面を被覆するインサート成形に用いられる接着シートであって、
前記接着シートの基材の少なくとも一面に、感圧接着剤あるいは感熱接着剤が積層されている接着剤層を有する接着シートであって、
前記接着剤層が、温度85℃の雰囲気下で周波数3Hzで測定された引っ張り貯蔵弾性率(E’85)が1×10〜1×10Paの範囲内であり、かつ温度200℃の雰囲気下で周波数3Hzで測定された引っ張り貯蔵弾性率(E’200)が1×10〜1×10Paの範囲内である接着剤層であり、かつ周波数3Hzで測定された引っ張り損失弾性率を引っ張り貯蔵弾性率で除した損失正接(tanδ)が、温度60〜200℃までの範囲で0.8以下である接着剤層を有する接着シート。
【請求項2】
接着シートが加飾されておらず、
接着シートのヘイズが5.0%以下である無色透明であるか、或いは接着シートの接着剤層表面と被覆樹脂との色差(ΔE)が5.0以内である請求項1記載の接着シート。
【請求項3】
前記接着剤層のゲル分率が40〜95質量%の範囲内にある、請求項1又は2に記載の接着シート。
【請求項4】
接着シートの接着剤層が、ポリエステル系樹脂とポリエステルウレタン系樹脂とを含有した配合物からなり、イソシアネート化合物によって架橋されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項5】
接着シートの接着剤層が、主鎖にエステル結合を有さない樹脂及び架橋剤を含む接着剤により形成され、前記主鎖にエステル結合を有さない樹脂が架橋されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項6】
接着シートの基材が、スチレン系重合体またはスチレン系共重合体である請求項1〜5記載のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項7】
接着シートの基材の厚さが、50〜2000μmの範囲内である請求項1〜6のいずれか一項に記載の接着シート。
【請求項8】
透光性樹脂及び加飾層を含むインサートパーツ、請求項1〜7のいずれか一項に記載の接着シート、及び被覆樹脂をこの順に積層されてなる物品。
【請求項9】
透光性樹脂の表面に加飾し、インサートパーツを作製する工程[1]、加飾層の表面の少なくともゲートから溶融樹脂が直接射出される位置へ請求項1〜7のいずれか一項に記載の接着シートの接着剤層を有する面を貼合する工程[2]、インサートパーツ、接着シートが順に積層された構成体を金型へセットし、接着シートの表面へゲートから溶融樹脂を射出し、インサートパーツと接着シートとを被覆する工程[3]を順に含む物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着シート及び接着シートが貼付された物品及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品や自動車等に使用されるオーナメントやロゴマーク等が標された意匠性を有する成形品は、意匠面側からみた場合、成形品の表面を傷付き等から保護するためのポリカーボネートやポリメチルメタクリレート等の透光性樹脂が表層に有り、その背面に印刷層や金属蒸着層等による加飾層が積層され、さらにその背面には被覆樹脂によって被覆された層が積層された構成となっている。
【0003】
加飾層表面への被覆樹脂の被覆方法としては、前記透光性樹脂と加飾層が積層されたインサートパーツが事前に作製され、金型にセット後、被覆樹脂を溶融温度まで加熱して溶融し、ゲートと呼ばれる射出口から加飾層の表面へ溶融樹脂を射出して被覆する、いわゆるインサート成形によって被覆される方法が取られる。
【0004】
前記被覆樹脂がゲートから加飾層表面へ高温な状態で射出された際、ゲート近傍の加飾層表面及び加飾層の内部にある透光性樹脂は、樹脂射出時の圧力と高い温度に晒されるため、ダメージを受けて歪みや加飾層のずれが発生しやすく、成形品の意匠面側からゲート口の跡として見えてしまう課題がある。
【0005】
前記課題の解決方法として、加飾層の表面へ印刷によってクリア層を設けることによって、ゲート近傍の加飾層のダメージを抑制する方法が例示されるが(例えば、特許文献1)、クリア層が数μm程度の厚さであるため、十分な抑制効果を得ていない場合が多かった。またダメージ抑制を向上させるためクリア層を厚く設けることは、クリア層の印刷を幾度も行う必要があって経済的ではなかった。
【0006】
また、前記課題の解決方法として、加飾層の表面に射出樹脂と同材質の保護フィルムを貼着し、ゲート近傍の加飾層のダメージを抑制する方法が例示される(例えば、特許文献2)。しかし、前記保護フィルムは接着剤層を有していないため、インサート成形機へインサートパーツを装着した際に保護フィルムが脱落したり、位置がずれる等の問題があった。また、完成された成形品を85℃及び85%RHといった湿熱環境下に放置すると、透光性樹脂、保護フィルム、被覆樹脂の少なくとも一つから発生された気体によって、保護フィルムと加飾層の間に膨れが生じ、成形品の意匠性が損なわれる場合があった。とりわけ前記完成品が、自動車外装部品に使用される場合には、前記膨れがミリ波等のレーダー電波を散乱し減衰させる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−181666号公報
【特許文献2】特開2014−181667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、透光性樹脂と加飾層が積層されたインサートパーツへ、被覆樹脂を射出してインサート成形する工程において、加飾層の表面へ被覆樹脂を溶融してゲートから射出する際に局所的な加熱によって発生する透光性樹脂と加飾層との変形による歪みやずれ等のダメージを防止することができ、また、接着シートを、局所的な加熱によるダメージから加飾層を保護したい場所へ、位置ずれを防止して簡便的に高い位置精度で接着固定でき、かつ、脱落しにくい接着シートを提供することである。また、被覆樹脂の射出で加熱を受けた後も、透光性樹脂や被覆樹脂、或いは接着シートの基材から発生しうる気体による気泡の形成を防止でき、かつ完成された成形品を湿熱環境下に放置しても透光性樹脂や被覆樹脂、或いは接着シートの基材から発生しうる気体による気泡の形成を防止し、外観不良を防止することができる接着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、以下の接着シートを用いることによって、上記課題を解決することを見出した。
すなわち、インサートパーツの加飾層表面へ貼付された後、貼付面へ溶融樹脂を射出塗布して加飾層表面を被覆するインサート成形に用いられる接着シートであって、前記接着シートの基材の少なくとも1面に、感圧接着剤或いは感熱接着剤が積層されている接着剤層を有する接着シートであって、前記接着剤層が、85℃の雰囲気下で周波数3Hzで測定された引っ張り貯蔵弾性率(E’85)が1×10〜1×10Paの範囲内であり、かつ温度200℃の雰囲気下で周波数3Hzで測定された引っ張り貯蔵弾性率(E’200)が1×10〜1×10Paの範囲内である接着剤層であり、かつ周波数3Hzで測定された損失正接(tanδ)が、温度60℃から200℃までの範囲で0.8以下である接着剤層を有する接着シートを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接着シートは、透光性樹脂と加飾層が積層されたインサートパーツの加飾層へ局所的に貼付することによって、被覆樹脂を射出してインサート成形する工程において、加飾層の表面へ被覆樹脂を溶融してゲートから射出する際に、接着シートがずれたり剥がれたりせず、加熱による透光性樹脂と加飾層との局所的な変形による歪みやずれ等のダメージを防止し、完成された成形品の湿熱環境下での放置後も透光性樹脂や被覆樹脂、或いは接着シートの基材から発生しうる気体を防止できることによって、意匠性を長期に渡り維持可能であることから、家電製品の外装、自動車の内外装等に使用される意匠性を有する成形品の製造に大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】:本発明の接着シートの一実施形態を示す模式断面図である。
図2】:本発明の接着シートを貼付するインサートパーツの一実施形態を示す模式断面図である。
図3】:インサートパーツの加飾層表面に本発明の接着シートを貼付し、被覆樹脂を融解してゲートから射出して被覆するインサート成形工程の実施形態を示す模式断面図である。
図4】:透光性樹脂及び加飾層を含むインサートパーツ、本発明の接着シート、及び被覆樹脂をこの順に積層されてなる物品の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の接着シートは、基材の少なくとも1面に、感圧接着剤或いは感熱接着剤が積層されている接着シートである。好適な実施態様の断面図の一例を、図1に挙げる。
また、温度85℃の雰囲気下で周波数3Hzで測定された引っ張り貯蔵弾性率(E’85)が1×10〜1×10Paの範囲内であり、かつ温度200℃の雰囲気下で周波数3Hzで測定された引っ張り貯蔵弾性率(E’200)が1×10〜1×10Paの範囲内である接着剤層であり、かつ周波数3Hzで測定された損失正接(tanδ)が、温度60℃から200℃までの範囲で0.8以下である接着剤層を有する接着シートである。ここで、損失正接(tanδ)とは、引っ張り損失弾性率の測定値を、引っ張り貯蔵弾性率の測定値で除して得られる数値を指す。
【0013】
ここで、インサートパーツとは、インサート成形機によってゲートから被覆樹脂が排出されて積層される前の段階の、インサート成形機に取り付けられるために予め作製された部品を指す。
【0014】
前記接着シートをインサートパーツの加飾層表面へ貼付することによって、透光性樹脂と加飾層が積層されたインサートパーツの加飾層表面へ被覆樹脂を融解してゲートから射出して被覆するインサート成形工程において、被覆樹脂の局所的な加熱よる加飾層等の変形による歪みやずれ等のダメージを防止する上で、接着シートがずれたり剥がれたりせず、簡便的にかつ高い位置精度でダメージからの保護を実施することができ、完成した成形品を湿熱環境下に放置しても透光性樹脂や被覆樹脂、或いは接着シートの基材から発生しうる気体による気泡の形成を防止することができる。
【0015】
[基材]
前記接着シートの基材としては、インサートパーツの加飾層表面へ被覆される被覆樹脂と同一の基材を使用する。ここでいう同一の基材とは、基材に使用される樹脂が被覆樹脂と同一種類であることを意味し、例えば着色剤や可塑剤等の添加剤の種類が異なっていてもよい。また、基材に使用される樹脂と被覆樹脂は同一モノマー類で且つ同一比率によって重合または共重合された樹脂が好ましいが、被覆樹脂と相溶性のある樹脂組成であれば、基材の樹脂として使用してもよく、例えば、被覆樹脂がアクリロニトリル・スチレン共重合体を使用している場合、基材として相溶性を有するポリスチレンを基材に使用してもよい。
【0016】
被覆樹脂と同一の基材を使用することによって、ゲートから被覆樹脂が溶融されて射出された際、接着シートの基材表面が軟化して被覆樹脂と相溶し、基材と被覆樹脂との密着が向上されることによって、湿熱環境下に放置された際に発生する気体による浮きや剥がれを長期に渡って防止することができる。とくに、自動車外装部品に使用される場合には、空隙によってミリ波等のレーダー電波が散乱して減衰することを防止することができる。
【0017】
前記基材の樹脂の種類としては、成形品の被覆樹脂として使用される、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエン・スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、ナイロン等を挙げることができる。そのなかでも、200℃程度の温度で溶融でき、溶融時の流動性に優れること等から、スチレン系重合体あるいはスチレン系共重合体が被覆樹脂として使用されることが多く、この場合には同一のスチレン系樹脂を基材に使用することが好ましい。とくに、柔軟性や耐衝撃性に優れるアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体又はアクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエン・スチレン共重合体が被覆樹脂として好適に使用され、基材としても同一のアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体又はアクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエン・スチレン共重合体を使用することが最も好ましい。
【0018】
前記基材の色は、接着シートの貼り模様が透光性樹脂側から見えて意匠性を損なわないようにするため、それ自体は加飾されておらず、透明或いは被覆樹脂と同一色が好ましい。基材が透明であると、被覆樹脂の色が透過して接着シートが視認されなくなる。一方、基材が被覆樹脂と同一色に着色されたものであると、接着シートと被覆樹脂の境界面で色差が発生せず、接着シートが視認されなくなる。
【0019】
前記透明な基材を使用する場合は、基材は無色透明であることが好ましく、JIS K7136に準拠して測定されるヘイズは5%以下が好ましく、被覆樹脂の色を透過させる上で、2%以下がさらに好ましい。
【0020】
前記被覆樹脂と同一色に着色された基材を使用する場合は、CIE1976のL*a*b色空間座標で測定される被覆樹脂との色差(ΔE)は5.0以下が好ましく、被覆樹脂との色差を発生させないようにする上で、ΔEは3.0未満がより好ましい。基材の着色方法としては、前記範囲となるよう有機顔料や無機顔料、顔料を練り込んだマスターバッチやドライカラー等を添加して着色してよい。
【0021】
前記有機顔料や無機顔料、顔料を練り込んだマスターバッチやドライカラー等の添加量は、被覆樹脂と基材との相溶性を阻害しない範囲であれば特に限定しないが、被覆樹脂との相溶性や基材の機械特性を維持する上で、1〜30質量%が好ましく、5〜10質量%がとくに好ましい。
【0022】
前記基材には、前記樹脂や着色成分の他に、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤や光安定剤、強度向上のための無機フィラー等を添加してもよい。
【0023】
前記基材の厚さとしては、被覆樹脂の射出時の温度に耐えられるに十分な厚さがあればよいが、インサートパーツへのダメージを防止する上で、50〜2000μmの範囲内であることが好ましく、150〜1000μmの範囲内であることがより好ましく、ダメージの防止性と断裁加工性やインサートパーツの加飾層表面への接着追従性を兼ね備える上で、200〜400μmの範囲内であることがとくに好ましい。基材の厚さが50μm未満であると、被覆樹脂の射出時の熱がインサートパーツ表面へ伝達し、局所的な熱ダメージを引き起こしやすく、2000μmを超えると、接着シートを任意形状へ断裁加工することが困難になる上、被覆樹脂中に埋没しにくくなり、接着シートが成形品の被覆樹脂側の表面に浮き出てしまう。
【0024】
前記基材の作製方法としては、前記樹脂及び着色剤及び添加剤等を混合した樹脂組成物を高温で溶融し、ダイから押し出して製膜する方法、インフレーション製膜方法、カレンダー製膜方法等の任意の製膜方法によって得ることができる。必要に応じ、基材表面は製膜時に圧力ロールによってグロス調或いはマット調に加工してもよく、接着剤との密着向上のため、サンドブラスト法や溶剤処理法などによる表面の凹凸化処理、コロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などの表面処理、コロナ処理やプラズマ処理等を行ってもよい。
【0025】
[接着剤]
接着剤としては、感圧接着剤或いは感熱接着剤が使用される。感圧接着剤は、室温下で指圧程度の圧力をかけただけで被着体表面へ接着するものを指す。また、感熱接着剤は室温下では指圧程度の圧力で全く接着しない、或いは微粘着性であるが、60℃程度以上の加熱によって被着体へ高強度で接着するものを指す。ゲートの大きさに応じて形状加工された接着シートを、インサートパーツの加飾層表面のゲートに最も接近する位置に合わせて貼付し、接着シートを貼り直して貼付位置の修正ができる上で、室温で微粘着性を有する感熱接着剤の使用が好ましい。ここでいう微粘着性とは、後で述べる感圧接着時の引き剥がし接着力が1N/25mm以下を指す。
【0026】
前記接着剤としては、温度85℃の雰囲気下で、周波数3Hzで測定された引っ張り貯蔵弾性率(E’85)が1×10〜1×10Paの範囲内であり、かつ温度200℃の雰囲気下で、周波数3Hzで測定された引っ張り貯蔵弾性率(E’200)が1×10〜1×10Paの範囲内であり、かつ周波数3Hzで測定された損失正接(tanδ)が、温度60〜200℃までの範囲で0.8以下である接着剤である。
【0027】
前記E’85が前記範囲にあると、完成された成形品を湿熱環境下に放置した際に、透光性樹脂や被覆樹脂、或いは接着シートの基材のいずれからか発生しうる気体による気泡の形成を防止するとともに、感熱接着剤を使用する場合には60℃以上の加熱によってインサートパーツ表面へ高強度に感熱接着することができる。前記E’85は、湿熱環境下に放置された際の気泡の形成をより強固に防止する上で、上述した範囲の中でも1.5×10〜3×10Paの範囲内が好ましく、2.5×10〜1×10Paの範囲内がより好ましい。一方、以下で詳述する表面硬度が高い塗装面へ前記接着シートを貼付する場合、感圧接着時の接着力を高めるために、前記E’85は、上述した範囲の中でも1×10〜1×10の範囲内であることがより好ましい。
【0028】
また、接着剤に使用する樹脂が主鎖にエステル結合を有さない樹脂である場合、前記E’85は、上述した範囲の中でも、1×10〜1×10Paの範囲内であることが好ましく、1.5×10〜5×10Paの範囲内が更に好ましく、2.5×10〜2×10Paの範囲内であることがより好ましい。接着剤に使用する樹脂が主鎖にエステル結合を有さない樹脂である場合に前記E’85をこの範囲とすることで、気泡発生により保護フィルムと加飾層の間に膨れが生じるのを抑制する効果及びインサートパーツ表面へ高強度に接着可能となる効果に加え、湿熱環境下に250時間程度以上の期間晒された際に顕著な接着性の低下が生じるのを抑制することができるからである。
【0029】
前記E’200が前記範囲にあると、接着シート表面へ高温に溶融された被覆樹脂がゲートから射出された際に、接着シートのずれや剥がれを防止することができるとともに、被覆樹脂の熱と圧力で接着剤層がつぶれず、元の接着剤層の厚さを維持できるとともに、溶融樹脂による急激な温度変化による接着剤層の歪みを吸収し、加飾層への接着を維持できる。E’200は、被覆樹脂の熱と圧力での接着シートのずれや剥がれを確実に防止する上で、2×10〜3×10Paの範囲内が好ましく、3×10〜1×10Paの範囲内がより好ましい。
【0030】
前記tanδが前記範囲にあると、湿熱環境下での気泡の形成の抑制、インサート成形時の接着剤層の変形防止を実現することができる。とくに、湿熱環境下での気泡の形成の抑制、インサート成形時の接着剤層の変形防止を確実なものとする上で、tanδは温度60〜200℃までの範囲で0.4以下であることが更に好ましく、0.3以下であることがより好ましい。又、前記tanδは、0より大きければよく、0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることが好ましく、0.1以上であることがインサート成形時の接着剤層の変形防止を確実なものとする上でより好ましい。
【0031】
接着剤に使用する樹脂が主鎖にエステル結合を有さない樹脂である場合は、前記tanδは、上述した範囲の中でも、0.01〜0.4の範囲内であることが好ましい。0.01〜0.3の範囲内であることがさらに好ましく、0.02〜0.3の範囲内であることがより好ましい。接着剤に使用する樹脂が主鎖にエステル結合を有さない樹脂である場合に前記tanδをこの範囲とすることで、気泡発生による保護フィルムと加飾層の間の膨れ発生防止、及びインサート成形時の接着剤層の変形防止を実現できることに加え、加飾層として薄膜の金属層が設けられたインサートパーツに本発明の接着シートを貼付する場合に、湿熱環境下に250時間程度以上の期間晒されても、顕著な接着性の低下が生じるのを抑制することができるからである。
【0032】
また、温度25℃の雰囲気下で、周波数3Hzで測定された引っ張り貯蔵弾性率(E’25)は1×10〜1×10Paの範囲内であることが好ましい。前記E’25が前記範囲にあると、指圧程度で感圧接着或いは微粘着でき、ゲートの位置に合わせ接着シートを簡便的に且つ高い位置精度で貼付することができ、被覆樹脂の加熱からインサートパーツ表面のダメージを効率的に保護することができる。貼り直し性を付与する上で微粘着性であることがより好ましく、前記E’25は、5×10〜5×10Paの範囲内がより好ましく、1×10〜1×10Paの範囲内が更に好ましい。
【0033】
また、室温下で感圧接着性や微粘着性を付与するには、前記tanδのピーク温度は−20〜20℃であることが好ましく、接着シートの貼り直しや位置決めを容易にする上で、前記tanδのピーク温度は、−10〜10℃以内であることが好ましい。
【0034】
なお、前記引っ張り貯蔵弾性率(E’25、E’85、E’200)及び前記損失正接(tanδ)は、動的粘弾性試験機(ティー・エイ・インスツルメント製粘弾性測定機「RSA III」を用い、引っ張りモードで、振動数3Hz、昇温速度5℃/min、負荷歪み0.1〜0.6%の条件で、−20〜210℃までの温度領域における、引っ張り貯蔵弾性率E’と損失正接tanδを測定する。なお、上記測定で使用する試験片としては、前記接着剤を、400μm及び幅5mm及び測定部の長さを20mmとし、両端の持ち手の長さを各15mmに裁断した長方形状のものを使用する。なお、引っ張り貯蔵弾性率E’25、E’85、及びE’200を総じて、所定の温度での引っ張り貯蔵弾性率E’と称する場合がある。
【0035】
前記接着シートが成形品の意匠性へ影響しないためには、前記接着剤は無色透明であることが好ましく、JIS K7136に準拠して測定されるヘイズは5%以下が好ましく、被覆樹脂や前記基材の色を透過させる上で、2%以下がさらに好ましい。また、必要に応じて接着剤に有機顔料や無機顔料、染料を添加し、被覆樹脂と前記基材との色差(ΔE)が3.0未満になるよう色相を調製してもよい。
【0036】
前記接着剤に使用する樹脂としては、各物性が上述した範囲を有する任意の接着剤を使用でき、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等の接着性樹脂が使用できる。
【0037】
引っ張り貯蔵弾性率(E’25、E’85、E’200)や損失正接tanδを所望の範囲に設計する上で、前記接着剤に使用する樹脂が、ポリエステル樹脂とウレタン樹脂とを含むことが好ましく、中でも、ポリエステル樹脂とポリエステルウレタン樹脂とを含有した配合物からなり、イソシアネート化合物によって架橋された組成物であることがより好ましい。ウレタン樹脂の中でもポリエステルウレタン樹脂は、ポリエステル樹脂との相溶性が良好であり、ポリエステル樹脂とポリエステルウレタン樹脂とを含有した配合物がイソシアネート化合物により架橋構造を形成することで、感圧接着性と凝集性とを好適な範囲に調整することができ、接着力を高めることができるからである。
【0038】
より具体的には、前記接着剤は、ポリエステル樹脂とポリエステルウレタン樹脂を配合し、イソシアネート架橋等によってゲル分率を40〜95質量%へ調整した組成物が好ましく、湿熱環境下での気泡の形成の抑制やインサート成形時の接着剤層の変形防止をより確実に行う上で、40〜80質量%へ調整した組成物がより好ましく、50〜70質量%へ調整した組成物が最も好ましい。ここで、焼き付け型のアクリル塗装やウレタン塗装やメラミン塗装等の表面硬度が高い塗装面へ前記接着シートを貼付する場合は、感圧接着時の接着力を高めるために、ポリエステルウレタン樹脂のガラス転移温度を−30〜60℃の範囲で使用する場合がある。この場合には、インサート成形時の前記接着シートのずれや剥がれの抑制や、湿熱放置環境下での気泡の形成を抑制する上で、前記ゲル分率を55〜95質量%に調整した組成物がより好ましく、70〜90質量%が最も好ましい。
【0039】
本明細書内において、ゲル分率は、以下の計算式で算出されたものである。
ゲル分率(質量%)=[(接着剤層のトルエン浸漬後の質量)/(接着剤層のトルエン浸漬前の質量)]×100
【0040】
前記ポリエステル樹脂としては、特に制限されず、多価カルボン酸と多価アルコールの縮合物であるポリエステル樹脂やこれを変性したポリエステル樹脂を通常使用できる。
【0041】
前記ポリエステル樹脂は、一種のポリエステル樹脂を使用しても、複数のポリエステル樹脂を混合しても良いが、接着剤に25℃における感圧接着性や微粘着性を有する感熱接着性を付与するためには、ガラス転移温度が0℃以下のポリエステル樹脂を含有することが好ましく、−40〜0℃のポリエステル樹脂を含有することがより好ましく、感圧接着性や微粘着性を備えつつ、湿熱環境下での気泡の形成の抑制やインサート成形時の接着シートのずれや剥がれを防止する上で、−30〜−10℃のポリエステル樹脂を含有することが最も好ましい。
【0042】
前記ポリエステル樹脂の数平均分子量としては、10,000〜40,000であることが好ましく、20,000〜30,000であることがより好ましい。数平均分子量が前記範囲のポリエステル樹脂を含有することで、ポリエステルウレタン樹脂との相溶性に優れ、前記接着剤の透明性を維持しやすいとともに、離型ライナー上に塗布した際にはじきが発生しにくく、インサート成形する際や感熱接着する際に接着剤層の型崩れが発生しにくい。
【0043】
前記ポリエステル樹脂は、ゲル分率を前記好ましい範囲に調整し、所定の温度での引っ張り貯蔵弾性率E’及び損失正接tanδを目的の範囲にするために、水酸基価は3〜50KOHmg/gが好ましい。室温下で感圧接着性或いは微粘着性を有する感熱接着性を有するとともに、インサート成形時の接着シートのずれや剥がれを防止する上で、5〜10KOHmg/gがより好ましい。
【0044】
前記ポリエステル樹脂の酸価は、インサートパーツの加飾層表面が薄膜な金属層である場合、腐食による加飾層の酸化ダメージを避けるため、3KOHmg/g以下が好ましく、加飾層の酸化ダメージを防止する上で、1KOHmg/g未満が特に好ましい。
【0045】
前記ポリエステル樹脂に使用する多価カルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸またはピロメリット酸、不飽和脂肪酸から誘導されたダイマー酸類など、あるいはこれらの酸無水物などが挙げられ、これらのカルボン酸は通常単独でまたは2種以上混合して用いられる。
【0046】
前記多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,4ブタンジオール、1,3ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ヘプタメチレングリコール、オクタメチレングリコール等が挙げられる。また、カルボン酸基を含む多価アルコールを多価アルコールとして用いてもよく、特に代表的なものとしてはジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジフェノール酸などが挙げられる。さらに、多価アルコールをε−カプロラクトンなどのカプロラクトン化合物により変性することで、ポリエステル樹脂のガラス転移温度を低温化でき、前記所定の温度での引っ張り貯蔵弾性率E’や損失正接tanδを目的の範囲に制御しやすい。
【0047】
多価カルボン酸と多価アルコールの縮合反応は、公知慣用の種々の合成法に従って得られるものであって、その一例を挙げると、多価カルボン酸と多価アルコールとを、一緒に加えて、縮合(エステル化)する合成法が一般的である。
【0048】
また、多価カルボン酸と多価アルコールとの縮合反応では、三価以上のカルボン酸あるいはアルコールを使用すれば、得られる縮合物に分岐構造を付与することもできる。
【0049】
前記接着剤中の前記ポリエステル樹脂の含有量は、40〜90質量%であることが好ましく、60〜80質量%であることがより好ましい。前記含有量の範囲にあると、所定の温度での引っ張り貯蔵弾性率E’と損失正接tanδを目的の範囲に制御しやすいとともに、前記接着剤の透明性を維持しやすく、離型ライナー上に塗布した際にはじきやインサート成形する際や感熱接着する際の接着剤層の型崩れが発生しにくい。
【0050】
前記ポリエステルウレタン樹脂は、水酸基含有ポリエステルに、ポリイソシアネート化合物を反応させて得られるポリエステルウレタン樹脂を好適使用できる。
【0051】
前記ポリエステルウレタン樹脂として、一種のポリエステルウレタン樹脂を使用しても、複数のポリエステルウレタン樹脂を混合しても良いが、数平均分子量が15,000〜100,000であるポリエステルウレタン樹脂を使用することが好ましい。
【0052】
また、前記ポリエステルウレタン樹脂は、ガラス転移温度が好ましくは10〜100℃、より好ましくは40〜85℃のポリエステルウレタン樹脂を使用することで、所定の温度での引っ張り貯蔵弾性率E’と損失正接tanδを目的の範囲に制御しやすい。一方、焼き付け型のアクリル塗装やウレタン塗装やメラミン塗装等の表面硬度が高い塗装面へ前記接着シートを貼付する場合は、感圧接着時の接着力を高めるために、ポリエステルウレタン樹脂のガラス転移温度は、−30〜60℃が好ましく、より好ましくは−20〜30℃であり、最も好ましくは−10〜20℃である。
【0053】
前記ポリエステルウレタン樹脂に使用する水酸基含有ポリエステル樹脂は、前記ポリエステル樹脂と同様に、多価カルボン酸と多価アルコールの縮合により得られるポリエステル樹脂を使用できる。水酸基含有ポリエステル樹脂は、数平均分子量が4,000〜20,000の範囲にあることが好ましい。
【0054】
前記ポリエステルウレタン樹脂は、ゲル分率を前記好ましい範囲にするために、水酸基価は3〜50KOHmg/gが好ましく、室温下で感圧接着性或いは微粘着性を有する感熱接着性を有するとともに、インサート成形時の接着シートのずれや剥がれを防止する上で、5〜10KOHmg/gがより好ましい。
【0055】
前記ポリエステルウレタン樹脂の酸価は、インサートパーツの加飾層表面が薄膜な金属層である場合、腐食による加飾層の酸化ダメージを避けるため、3KOHmg/g以下が好ましく、加飾層の酸化ダメージを防止する上で、1KOHmg/g未満が特に好ましい。
【0056】
水酸基含有ポリエステル樹脂に反応させるポリイソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族、脂環族の公知のイソシアネート化合物を利用できる。脂肪族イソシアネート化合物としてはヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が一例として挙げられる。脂環族イソシアネート化合物としてはイソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4ジイソシアネートが代表例として挙げられる。芳香族イソシアネート化合物としてはトリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4、4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4、4’−ジベンジルジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3’−フェニレンジイソシアネート、1,4’−フェニレンジイソシアネートが代表例として挙げられる。
また、上記記載の1種または数種のイソシアネートより得られる化合物(2量体、3量体、ヌレート、アダクト、ビューレット、プレポリマー等)も使用することができる。
【0057】
前記ポリエステルウレタン樹脂の含有量は、接着剤中の5〜40質量%であることが好ましく、15〜35質量%がとくに好ましい。前記範囲の含有量とすることで、所定の温度での引っ張り貯蔵弾性率E’と損失正接tanδを目的の範囲に制御しやすいとともに、適度な凝集力を付与できるため、インサート成形時の接着シートのずれや剥がれを防止するとともに、成形品を湿熱放置した際に気泡の形成を防止しやすい。
【0058】
また、接着剤に使用する樹脂は、接着剤が上述した各物性を満たすことが可能であれば、主鎖にエステル結合を有していても、有さなくてもよいが、主鎖にエステル結合を有さない樹脂であることが好ましい。特に、加飾層として薄膜の金属層が設けられたインサートパーツに本発明の接着シートを貼付する場合に、接着剤に使用される樹脂が主鎖にエステル結合を有さない樹脂であることが好ましい。主鎖にエステル結合を有する樹脂は、湿熱環境下に長期間(例えば250時間程度以上の期間)晒されることで加水分解してカルボン酸を発生し、それにより加飾層である金属層が酸化して退色(透明化)しやすい。これに対し、主鎖にエステル結合を有さない樹脂を用いた接着剤層とすることで、湿熱環境下に長期間(例えば250時間程度以上の期間)晒されても該接着剤層に含まれる樹脂が主鎖で加水分解しにくくなり、接着剤層から発生したカルボン酸により金属層が酸化して退色(透明化)するのを抑制することができるからである。すなわち、本発明の接着シートは、主鎖にエステル結合を有さない樹脂を含む組成物により形成された接着剤層を有することで、湿熱環境下における気泡発生を抑制する効果及びインサートパーツ表面へ高強度に接着可能となる効果に加え、湿熱環境下におけるインサートパーツの意匠性低下を抑制することが可能となる。
【0059】
主鎖にエステル結合を有さない樹脂として、具体的には、アクリル系樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、エポキシ樹脂の硬化物、ジエンを有するオレフィンモノマーとスチレンモノマーとの共重合樹脂等の樹脂並びにこれらの樹脂の水添樹脂等が挙げられる。中でも、常温で感圧接着が可能であり、インサートパーツに対する接着強度をより高めることができることから、アクリル系樹脂が好ましい。なお、主鎖にエステル結合を有さない樹脂は、湿熱環境下に250時間程度以上の期間晒されて加水分解しても、カルボン酸が主鎖の側鎖に結合されていれば、金属層の酸化を起こしにくいことから、側鎖にエステル結合を有していてもよい。
【0060】
アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルの重合体、或いは前記(メタ)アクリル酸エステルと他のビニルモノマーとの共重合体を使用することが好ましく、アルキル(メタ)アクリレートモノマーを主モノマー成分とし、前記主モノマー成分と他のビニルモノマーとの重合体であるアクリル系共重合体が好ましい。前記アルキル(メタ)アクリレートモノマーが有するアルキル基は直鎖状であってもよく分岐鎖状であってもよい。
【0061】
アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、炭素原子数が1〜12のアルキル(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。このようなアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等のモノマーが挙げられる。これらのモノマーは1種または2種以上用いることができる。
【0062】
なかでも、アルキル基の炭素原子数が4〜12のアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、アルキル基の炭素原子数が4〜8の直鎖または分岐構造を有するアルキル(メタ)アクリレートが更に好ましい。特にn−ブチルアクリレートは被着体との密着性を確保しやすいため好ましい。
【0063】
また、本発明においては、アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしてn−ブチルアクリレート及びメチルアクリレートが用いられることが好ましい。すなわち、アクリル系重合体は、n−ブチルアクリレート及びメチルアクリレートをモノマー単位に含むことが好ましい。接着剤層の感圧接着力を高めるために、アクリル系共重合体のガラス転移温度(Tg)を適した温度に調整することが可能となるからである。アルキル(メタ)アクリレートモノマーの全量に占めるn−ブチルアクリレート及びメチルアクリレートの含有量は、50質量%〜99質量%の範囲内が好ましく、70質量%〜95質量%の範囲内がより好ましい。
【0064】
前記アクリル系共重合体を構成するアクリルモノマーの全量に対するアルキル(メタ)アクリレートモノマーからなる群より選ばれる1種又は2種以上の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、75〜99質量%の範囲内であることがより好ましく、80〜98質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0065】
また、アクリル系共重合体を構成するモノマーとして、上述したアルキル(メタ)アクリレートモノマーの他に、アクリロニトリルやN−ビニル−2−ピロリドン等の窒素含有ビニルモノマー、スチレン、酢酸ビニル、水酸基含有ビニルモノマー等を1種または2種以上用いてもよい。その中でも、水酸基含有ビニルモノマーが好ましい。すなわち、アクリル系共重合体は、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと水酸基含有ビニルモノマーとをモノマー単位に含む共重合体が好ましい。後述するイソシアネート化合物と反応して架橋構造を作り、感圧接着性と凝集性を好適な範囲に調整しやすく、また、湿熱環境下に250時間程度以上の期間晒されて側鎖のエステルが加水分解されたとしても、顕著な接着性の低下を抑制できるからである。
【0066】
水酸基含有ビニルモノマーとしては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリル、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0067】
前記アクリル系共重合体を構成するアクリルモノマーの全量に対する水酸基含有ビニルモノマーの含有量は、0.1〜20質量%の範囲内であることが好ましく、0.5〜10質量%の範囲内であることが好ましく、1〜5質量%の範囲内であることが好ましい。
【0068】
また、加飾層として薄膜の金属層が設けられたインサートパーツへ、本発明の接着シートを貼付する場合は、湿熱環境下に250時間程度以上の期間晒されることでインサートパーツに設けられた金属層が酸化して退色(透明化)することを抑制する上で、アクリル系共重合体を構成するモノマーとして、カルボキシル基を含有する(メタ)アクリル酸モノマーを含有しないことが好ましい。
【0069】
前記アクリル系共重合体の分子量は、重量平均分子量が、10万〜150万の範囲内であることが好ましく、30万〜100万の範囲内であることがより好ましく、40万〜80万の範囲内であることが、所定の温度での引っ張り貯蔵弾性率E’及び損失正接tanδを目的の範囲に制御しやすく、被覆樹脂の局所的な加熱よる加飾層等の変形による歪みやずれ等のダメージを防止し、完成した成形品を湿熱環境下に放置しても気泡の形成を防止する上で、さらに好ましい。
【0070】
本明細書内において、重量平均分子量は、ゲルパーミエッションクロマトグラフ(GPC)で測定される標準ポリスチレン換算での分子量であり、東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8329GPC)を用いて下記条件で測定される、スタンダードポリスチレン換算値とする。
(条件)
サンプル濃度:0.5質量%(THF溶液)
サンプル注入量:100μL
溶離液:THF
流速:1.0mL/分
測定温度:40℃
本カラム:TSKgel GMHXL 4本
ガードカラム:TSKgel HXL−H
検出器:示差屈折計
スタンダードポリスチレン分子量:1万〜2000万(東ソー株式会社製)
【0071】
前記アクリル系樹脂のガラス転移温度は、0℃以下が好ましく、−50℃〜0℃の範囲内が更に好ましく、−35℃〜−10℃の範囲内がより好ましい。所定の温度での引っ張り貯蔵弾性率E’と損失正接tanδを目的の範囲に制御しつつ、本発明の接着シートが高い感圧接着性を示すことができ、焼き付け型のアクリル塗装やウレタン塗装やメラミン塗装等の表面硬度が高い塗装面に対しても、常温で高い接着力により貼付可能となるからである。
【0072】
本発明の接着シートにおける接着剤層は、主鎖にエステル結合を有さない樹脂及び架橋剤を含む接着剤により形成され、前記主鎖にエステル結合を有さない樹脂が架橋されていること、すなわち主鎖にエステル結合を有さない樹脂及び架橋剤を含む組成物の架橋体であることが好ましい。中でも、前記接着剤層は、ゲル分率が55〜95質量%の範囲内となるように架橋されていることがさらに好ましく、ゲル分率が70〜90質量%の範囲内となるように架橋されていることがより好ましい。感圧接着時の接着力を高め、更にインサート成形時の前記接着シートのずれや剥がれの抑制や、湿熱放置環境下での気泡の形成を抑制することができるからである。特に主鎖にエステル結合を有さない樹脂がアクリル系樹脂である場合、良好な感圧接着性を発揮可能となるように、接着剤層が上述したゲル分率の範囲で架橋されることが好ましい。なお、架橋剤の詳細については、後述する。
【0073】
前記接着シートに使用する接着剤は、架橋剤を含有することが好ましい。前記架橋剤としては、イソシアネート化合物を好適に使用できる。イソシアネート化合物で架橋させることで、所定の温度での引っ張り貯蔵弾性率E’と損失正接tanδを目的の範囲に制御しやすい。イソシアネート化合物としては芳香族、脂肪族、脂環族の公知のイソシアネート化合物を利用できるが、安全性、耐黄変性の点から脂肪族及び、又は脂環族イソシアネート化合物が好適に使用できる。
【0074】
脂肪族イソシアネート化合物としてはヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が一例として挙げられる。
【0075】
脂環族イソシアネート化合物としてはイソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4ジイソシアネートなどが挙げられる。
【0076】
芳香族イソシアネート化合物としてはトリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4、4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4、4’−ジベンジルジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3’−フェニレンジイソシアネート、1,4’−フェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0077】
イソシアネート化合物には、前記記載の1種または数種のイソシアネートより得られる化合物(2量体、3量体、アダクト、ビューレット、プレポリマー等)も含まれる。特にこれらのイソシアネート化合物の中で本発明に用いられるものとしては脂肪族及び、又は脂環族イソシアネート化合物が適しており、この中でヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが特に好意に用いることができる。
【0078】
イソシアネート化合物の配合量は、溶剤を除いた接着剤中に0.1〜10質量%であることが好ましい。前記範囲の配合量とすることで、イソシアネート化合物の反応が過不足とならず、接着剤に適切な凝集力を付与でき、インサート成形時の接着シートのずれや剥がれを抑制するとともに、成形品を湿熱環境下に放置した際に気泡の形成を防止することができる。さらに、イソシアネート化合物の配合量は、0.5〜5.0質量%がより好ましく、感圧接着時の接着力を高め、インサート成形時の前記接着シートのずれや剥がれの抑制と、湿熱放置環境下での気泡の形成を抑制する上で、1.0〜3.0質量%であることがとくに好ましい。
【0079】
前記接着剤は、接着剤に通常用いられている酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤や、アセトン、メチルケチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤や、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等に溶解して使用される。
【0080】
前記接着剤には、前記成分の他に、カルボジイミド等の加水分解抑制剤、接着促進剤、表面調整剤、レベリング剤、消泡剤、可塑剤、粘着付与樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、増粘剤などの添加剤を必要に応じて使用することが出来る。また、架橋反応を調節するため公知の触媒、添加剤などを使用することが出来る。
【0081】
前記接着剤の厚さは、インサートパーツの加飾層表面への貼付が可能で、インサート成形時の接着シートのずれや剥がれを防止できる厚さであれば任意の厚さであってもよいが、被覆樹脂と接着シートとの色差を前記好ましい範囲内に抑制する上で、5〜30μmの厚さが好ましく、10〜20μmがより好ましい。
【0082】
[接着シート]
本発明の接着シートは、前記基材の少なくとも1面に前記の接着剤が層状に設けられた構成を有する。また、その接着剤の層構成も特に制限されず、単層の接着剤層から構成される接着シートであっても、二層以上の接着剤から構成される接着シートであってもよい。また、接着シートは、基材の両面に接着剤層を有するものであってもよい。
【0083】
本発明の接着シートは、接着剤層のゲル分率が40〜95質量%の範囲内であることが好ましく、湿熱環境下での気泡の形成の抑制やインサート成形時の接着剤層の変形防止をより確実に行う上で、40〜80質量%の範囲内であることがさらに好ましく、50〜70質量%の範囲内であることがより好ましい。また、焼き付け型のアクリル塗装やウレタン塗装やメラミン塗装等の表面硬度が高い塗装面へ前記接着シートを貼付する場合は、感圧接着時の接着力を高め、更にインサート成形時の前記接着シートのずれや剥がれの抑制や、湿熱放置環境下での気泡の形成を抑制する上で、前記ゲル分率が55〜95質量%の範囲内であることがより好ましく、70〜90質量%の範囲内であることが最も好ましい。
【0084】
本発明の接着シートは、以上説明した基材及び接着剤の適用により、接着シートが加飾されておらず、無色透明であり、JIS K7136に準拠して測定されるヘイズが5.0%以下であることが好ましい。また、前記被覆樹脂と同一色に着色された基材を使用する場合、接着シートの接着剤層表面と前記被覆樹脂との色差(ΔE)が5.0以内であることが好ましい。
【0085】
前記接着シートの厚さは、インサートパーツの加飾層表面への貼付が可能で、インサート成形時の接着シートのずれや剥がれを防止できる厚さであれば任意の厚さであってもよいが、インサート成形時のダメージ保護を確実なものとし、接着シートの断裁加工を容易とする上で、55〜430μmであることが好ましく、160〜270μmがより好ましい。
【0086】
前記接着シートは、一般的に使用されている方法で作製できる。例えば、基材または離型ライナー上に接着剤層を形成して製造することができる。具体的には、溶液化した接着剤を基材の片面に直接塗布し乾燥または架橋し、離型処理したライナーを貼り合せるか、或いは、いったん離型ライナー上に塗布し、乾燥し、接着剤層を形成後、前記基材へ貼り合わせ、その後加熱養生して架橋する方法などによって作製できる。
【0087】
前記接着シートの接着剤層表面のボールタックは、JIS Z0237に準拠したJ.Dow法で測定し、23℃及び50%RH雰囲気下で、3未満であることが望ましい。ボールタックが前記範囲にあることで、室温下で接着シートの接着剤層表面のべたつきが少なく、インサートパーツの加飾層表面への位置合わせや貼り直し性に優れる。
【0088】
また、以下の測定により測定される引き剥がし接着力が、感圧接着時の状態で、0.1N/25mm以上であり、熱ダメージを受ける直前の状態で、5N/25mm以上であることが好ましく、さらに好ましくは8N/25mm以上である。前記範囲にあることで、金型へのインサートパーツのセット時やインサート成形時に接着シートのずれや剥がれを防止できる。引き剥がし接着力の上限は特に制限されるものではないが、本発明の好適な組成においては、実質的に30N/25mm程度が上限となる。
【0089】
また、熱ダメージを受けた後の引き剥がし接着力は、10N/25mm以上が好ましく、さらに好ましくは20N/25mm以上である。前記範囲にあることで、インサート成形された成形品を湿熱環境下に放置した際に気体の発生による気泡の形成を防止できる。
【0090】
なお、感圧接着直後の引き剥がし接着力は、以下の方法にて測定する。まず、25mm幅で100mm長さに切断した接着シートから離型ライナーを剥離した後、23℃及び50%RHの環境下で、表面にアルミニウムを蒸着したポリカーボネート板に2kgローラーで1往復の荷重を掛けて貼付する。貼付から1分以内に、テンシロン型引っ張り試験機にて、接着シートを180°方向へ300mm/分の引張速度でアルミニウムの蒸着面から剥離し、剥離抵抗力を測定する。
【0091】
熱ダメージを受ける直前の引き剥がし接着力は、以下の方法にて測定する。基材へ感圧接着剤が積層されている場合は、まず、25mm幅で100mm長さに切断した接着シートから離型ライナーを剥離した後、23℃及び50%RHの環境下で、表面にアルミニウムを蒸着したポリカーボネート板に2kgローラーで1往復の荷重を掛けて貼付する。23℃及び50%RH環境下に1時間放置後、テンシロン型引っ張り試験機にて、接着シートを180°方向へ300mm/分の引張速度でアルミニウムの蒸着面から剥離し、剥離抵抗力を測定する。
【0092】
また、前記基材へ感熱接着剤が積層されている場合は、25mm幅で100mm長さに切断した接着シートから離型ライナーを剥離した後、23℃及び50%RHの環境下で、表面にアルミニウムを蒸着したポリカーボネート板に2kgローラーで1往復の荷重を掛けて貼付する。次に、熱プレス装置の上部プレス板を80℃に加熱し、0.1MPaの圧力で15秒間熱プレスする。23℃及び50%RH環境下に1時間放置後、テンシロン型引っ張り試験機にて、接着シートを180°方向へ300mm/分の引張速度でアルミニウムの蒸着面から剥離し、剥離抵抗力を測定する。
【0093】
熱ダメージを受けた後の引き剥がし接着力は、前記で作製したサンプルに追加で、熱プレス装置の上部プレス板を200℃に加熱し、0.1MPaの圧力で15秒間熱プレスする。23℃及び50%RH環境下に1時間放置後、テンシロン型引っ張り試験機にて、接着シートを180°方向へ300mm/分の引張速度でアルミニウムの蒸着面から剥離し、剥離抵抗力を測定する。
【0094】
前記接着シートは、ゲートの形状や口径に応じて、形状及び大きさを調整することが好ましい。通常、均等に熱ダメージの保護を行うために、ゲートの形状と同等の形状に接着シートを型抜きして使用することが好ましい。また、接着シートの大きさは、対角線の長さでゲートの口径から10〜30mm程度大きい大きさで使用することが好ましい。接着シートの型抜きの方法としては、離型ライナーが積層された接着シートを、抜き刃を取り付けた平圧カッターやローターリーカッターで機械的に切断するか、或いはレーザー等の熱発生装置によって溶融切断する等によって、前記形状と大きさへ切断し、不要部分を取り除いて得る方法等が挙げられる。
【0095】
[インサートパーツ]
前記接着シートを貼付するインサートパーツは、好適な実施態様の一例として、図2の断面図で示すように、透光性樹脂と加飾層とが積層された構成を有する。インサートパーツの作製方法の一例として、平らな厚さ1〜5mm程度の透光性樹脂板の表面へ、印刷インキをシルクスクリーン印刷やグラビア印刷等の印刷方式によって、厚さ1〜20μm程度の加飾層を積層した後、熱プレス機等によって熱変形させてインサートパーツを作製する方法等が挙げられる。その他方法としては、金型に加飾フィルムをセットし、後述に挙げる透光性樹脂を溶融して金型に挿入し、透光性樹脂と加飾フィルムを一体化したインサートパーツを作製する方法も挙げられる。透光性樹脂の板を成形した後に、前記方法等によって前記加飾層を積層する方法であってもよい。
【0096】
また、透光性樹脂板の表面或いは前記印刷層の表面に、銀やアルミニウムやインジウム等の金属を、厚さ0.01〜2μm程度を真空蒸着やめっき等によって積層した後、前記同様に成形する方法等も挙げられる。接着シートや被覆樹脂との密着性を向上させるため、金属層の表面に紫外線硬化型や熱硬化型等のアンダーコート層を設けてもよい。
【0097】
前記で得られたインサートパーツは、加飾性に優れ、加飾層の表面へ本発明の接着シートを積層するのに好適に使用でき、好適な実施態様の一例として、図3の断面図で示すように被覆樹脂を溶融してゲートから射出する際の熱による透光性樹脂や加飾層の歪みやずれ等のダメージから保護できる。また、完成された成形品を湿熱環境下に放置してもインサートパーツ表面や被覆樹脂、或いは接着シートの基材から発生しうる気体による気泡の形成の防止に効果的である。
【0098】
[透光性樹脂]
前記インサートパーツに使用される透光性樹脂は、任意の透明な樹脂を使用することができる。透明性があれば特に限定されないが、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂及びその他アクリル系樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系共重合樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などを含むポリアミド樹脂、シリコーン系樹脂、メラミン樹脂などのアミノ樹脂、アリル樹脂、フラン樹脂、フェノール系樹脂、フッ素樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、あるいは、これらの複合樹脂などを使用することができ、透明性や成形のしやすさから、ポリカーボネート樹脂やポリメチルメタクリレート及びその他アクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂の使用が好ましい。
【0099】
前記透光性樹脂は、使用する厚みにおいて全光線透過率Ttが80〜99%であることが好ましく、ヘイズが0〜5%であることが好ましい。全光線透過率Ttは90〜99%であり、ヘイズが0〜3%であることがさらに好ましい。前記範囲の全光線透過率Ttとヘイズにあることで、加飾層の色彩が透光性樹脂表面まで変化することがなく、意匠性を損なうことがない。ただし、太陽光や蛍光灯等の反射を抑制するため、透光性樹脂の加飾層や被覆樹脂を積層しない表面側に反射防止層を設けたり、加飾層の色彩を意図的に変化させるため、透光性樹脂の内部にヘイズを付与するものであってもよい。
【0100】
前記透光性樹脂の表面は、加飾層や被覆樹脂との密着性を向上させる目的で、サンドブラスト法や溶剤処理法などによる表面の凹凸化処理、コロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などの表面処理を施してもよい。また、透光性樹脂の表面に、紫外線硬化型や熱硬化型等のアンダーコート層を設けてもよい。
【0101】
前記透光性樹脂の厚さとしては、0.1〜5mmが好ましく、1〜3μmがより好ましい。前記厚さの範囲にあることで、加飾層表面を効果的に保護できる上、加飾層の色彩が透光性樹脂表面まで変化することがなく、意匠性を損なうことがない。
【0102】
[被覆樹脂]
前記被覆樹脂としては、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・アクリル共重合体、アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエン・スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、ナイロン等を挙げることができる。そのなかでも、200℃程度の温度で溶融でき、溶融時の流動性に優れること等から、スチレン系の重合体或いは共重合体を使用することが好ましく、柔軟性や耐衝撃性に優れるアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体又はアクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエン・スチレン共重合体を使用することが最も好ましい。
【0103】
前記被覆樹脂は、有機顔料や無機顔料、顔料を練り込んだマスターバッチやドライカラー等の着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤や光安定剤、強度向上のための無機フィラー等を添加してもよい。着色剤としては、加飾層の意匠性を高める上で、黒色の着色剤を使用することが望ましい。
【0104】
[物品]
前記接着シートが好ましく使用される物品としては、好適な実施態様の一例として、図4の断面図で示すように、前記透光性樹脂及び加飾層を含むインサートパーツ、前記接着シート、及び前記被覆樹脂をこの順に積層されてなる物品が挙げられる。
【0105】
前記物品は、前記透光性樹脂の表面に加飾し、インサートパーツを作製する工程[1]、前記加飾層の表面のゲートが接近する場所へ、接着シートの接着剤層を有する面を貼合する工程[2]、インサートパーツ、接着シートが順に積層された構成体を金型へセットし、接着シートの表面へゲートから溶融樹脂を射出し、インサートパーツと接着シートとを被覆する工程[3]を順に含む工程によって作製された物品が挙げられる。インサートパーツ、接着シート、被覆樹脂は、2以上の個数や種類を同時に使用してもよい。
【0106】
前記工程[1]は、前記インサートパーツの作製方法に準拠して作製される。
【0107】
前記工程[2]は、接着シートの貼り直しや位置決めする上で、室温下の10〜40℃の環境下で行うことが好ましい。接着シートの貼付は、接着シートの中央がゲート口の位置になるように貼付することが好ましく、人員による作業でもよく、自動ラベラー等による機械による貼付でもよい。接着シートの接着剤層が微粘着であり、感熱接着性の場合は、さらに前記工程[2]の後に、60〜100℃程度で10〜30秒間程度の加熱工程を経ることが好ましい。前記加熱工程は、無加圧でも良く、熱プレス装置等によって加圧されながら加熱されても良い。
【0108】
前記工程[3]は、被覆樹脂の溶融温度に応じ、流動性が得られるまで加熱溶融し、インサート成形機のゲートから射出され、インサートパーツ表面及び接着シート表面を被覆する。
【0109】
前記製造方法で得られた物品は、家電製品の外装、自動車の内外装等に使用されるオーナメントやロゴマーク等が標された意匠性を有する成形品に好適に使用される。インサートパーツに被覆樹脂が被覆された立体的な成形品であり、これら成形品をインサート成形で作製する際に、加飾層の表面へ被覆樹脂を溶融してゲートから射出する際の熱による透光性樹脂や加飾層の変形による歪みやずれ等のダメージを防止し、完成した成形品を湿熱環境下で放置した後も、透光性樹脂や被覆樹脂、或いは接着シートの基材から発生しうる気体を抑制することによって、意匠性を長期に渡り維持可能であることから、家電製品の外装、自動車の内外装等に使用される意匠性を有する成形品となっている。
【0110】
本開示は、前記実施形態に限定されるものではない。前記実施形態は、例示であり、本開示の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0111】
<基材(a1)の作製>
黒色マスターバッチ(SMF−TT1608、カーボンブラック含有量50質量%、レジノカラー工業株式会社製)を6質量%添加したアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂のペレット(トヨラック600−309、東レ株式会社製)を融解してダイから押し出し、光沢金属ロールとマット状のゴムロールを備えたカレンダー加工機を通して厚さ0.25mmの黒色基材を作製した。さらに光沢金属ロールが接していた表面側に、表面張力が52mN/mになるまでコロナ処理し、黒色基材(a1)を作製した。
【0112】
<基材(a2)の作製>
厚さを0.15mmにしたこと以外は、基材(a1)と同様にして、厚さ0.15mmの基材(a2)を作製した。
【0113】
<接着剤組成物(b1)の調製>
ポリエステル樹脂としてバイロンBX10SS(固形分30質量%、数平均分子量21,000、ガラス転移温度−18℃、東洋紡株式会社製)70.7質量部と、ポリエステルウレタン樹脂としてバイロンUR1350(固形分33質量%、数平均分子量36,000、ガラス転移温度46℃、東洋紡株式会社製)29.3質量部を混合した。この組成物100質量部にイソシアネート化合物としてバーノックDN980(固形分75質量%、ヘキサメチレンジイソシアネート型、DIC株式会社製)0.45質量部を添加し10分攪拌した後、1時間放置して泡抜けさせ、接着剤組成物(b1)を得た。
【0114】
<接着剤組成物(b2)の調製>
ポリエステル樹脂としてバイロンA516(固形分30質量%、数平均分子量28,000、ガラス転移温度−15℃、東洋紡株式会社製)81質量部と、ポリエステルウレタン樹脂としてバイロンUR1400(固形分30質量%、数平均分子量40,000、ガラス転移温度83℃、東洋紡株式会社製)19質量部を混合した。この組成物100質量部にイソシアネート化合物としてバーノックDN980(固形分75質量%、ヘキサメチレンジイソシアネート型、DIC株式会社製)0.40質量部を添加し10分攪拌した後、1時間放置して泡抜けさせ、接着剤組成物(b2)を得た。
【0115】
<接着剤組成物(b3)の調製>
ポリエステル樹脂としてバイロンBX10SS(固形分30質量%、数平均分子量21,000、ガラス転移温度−18℃、東洋紡株式会社製)100質量部に、イソシアネート化合物としてバーノックDN980(固形分75質量%、ヘキサメチレンジイソシアネート型、DIC株式会社製)0.40質量部を添加し10分攪拌した後、1時間放置して泡抜けさせ、接着剤組成物(b3)を得た。
【0116】
<接着剤組成物(b4)の調製>
攪拌機、還流冷却管、温度計を備えた反応容器に、ポリプロピレングリコール(数平均分子量;1,000)を94.3質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレートを0.3質量部、1,4−ヘキサンジメタノールを19.5質量部、2,6−ジターシャリブチルクレゾールを0.5質量部、p−メトキシフェノールを0.1質量部、酢酸エチルを57.4質量部添加した。
反応容器内の温度を40℃に昇温した後、イソホロンジイソシアネートを50.3質量部添加した。
次に、ジオクチルスズジネオデカートを0.01質量部添加し、1時間かけて75℃まで昇温し、75℃で12時間ホールドした後、酢酸エチルを51.7質量部添加し、30分間均一になるまで攪拌、冷却することによってウレタン樹脂組成物を得た。
前記ウレタン樹脂組成物の固形分100質量部に対し、トリメチロールプロパントリアクリレート(東亞合成株式会社製「アロニックスM−309」)20質量部、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(IGM Resin B.V.社製のOmnirad 184)1.0質量部、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステルを0.5質量部、トリフェニルフォスフィン0.5質量部を順次添加し、撹拌機にて均一になるまで攪拌し、ウレタン樹脂とアクリルモノマーを混合した接着剤組成物(b4)を得た。
【0117】
<接着剤組成物(b5)の調製>
ポリエステル樹脂としてバイロン200(固形分100質量%、数平均分子量17,000、ガラス転移温度67℃、東洋紡株式会社製)40質量部をメチルエチルケトン60質量部へ溶解した。ポリエステルウレタン樹脂は混合しなかった。この組成物100質量部にイソシアネート化合物としてバーノックDN980(ヘキサメチレンジイソシアネート型、DIC株式会社製)1.6質量部を添加し10分攪拌した後、1時間放置して泡抜けさせ、接着剤組成物(b5)を得た。
【0118】
<接着剤組成物(b6)の調製>
前記接着剤組成物(b1)のうち、バーノックDN980を0.45質量部から0.15質量部へ変更したこと以外は接着剤組成物(b1)と同様にして、接着剤組成物(b6)を得た。
【0119】
<接着剤組成物(b7)の調製>
ポリエステル樹脂としてバイロンBX10SS(固形分30質量%、数平均分子量21,000、ガラス転移温度−18℃、東洋紡株式会社製)69質量部と、ポリエステルウレタン樹脂としてバイロンUR3200(固形分30質量%、数平均分子量40,000、ガラス転移温度−3℃、東洋紡株式会社製)31質量部を混合した。この組成物100質量部に、加水分解抑制剤としてElastostab H01(日清紡ケミカル株式会社製)0.45質量部及びイソシアネート化合物としてバーノックDN980(固形分75質量%、ヘキサメチレンジイソシアネート型、DIC株式会社製)1.7質量部を添加し10分攪拌した後、1時間放置して泡抜けさせ、接着剤組成物(b7)を得た。
【0120】
<接着剤組成物(b8)の調製>
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応容器に、n−ブチルアクリレート68質量部、メチルアクリレート20質量部、メチルメタクリレート10質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート2質量部、及び酢酸エチル122質量部を仕込み、攪拌下、窒素を吹き込みながら80℃まで昇温した。その後、予め酢酸エチルにて溶解したアゾビスイソブチロニトリル溶液2質量部(固形分5質量%)を添加した。その後、攪拌下80℃にて8時間ホールドした後、内容物を冷却し200メッシュ金網にて濾過し、不揮発分45質量%、粘度6000mPa・s、ガラス転移温度が−32℃、重量平均分子量70万であるアクリル系共重合体を得た。アクリル系共重合体100質量部(不揮発分45質量%)に、イソシアネート化合物としてバーノックDN980(固形分75質量%、ヘキサメチレンジイソシアネート型、DIC株式会社製)0.6質量部、アセチルアセトン1.0質量部、架橋促進剤としてクリスボンアクセルT−81E(固形分1質量%、有機錫化合物、DIC株式会社製)1.0質量部を添加し10分攪拌した後、1時間放置して泡抜けさせ、接着剤組成物(b8)を得た。
【0121】
(実施例1)
前記接着剤組成物(b1)を、棒状の金属アプリケータを用いて、ポリエステル基材の離型ライナーTN100−50(東洋紡株式会社製非シリコーン系離型ライナー)の離型処理面上に、乾燥後の厚さが20μmになるように塗工し、90℃の乾燥機に3分間投入し乾燥した。その後、前記基材(a1)のコロナ処理面とを貼り合せた。その後、40℃に3日間放置し、接着シート(c1)を得た。
【0122】
(実施例2)
前記基材(a2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、接着シート(c2)を得た。
【0123】
(実施例3)
市販の厚さ50μmの透明ポリスチレンシート(旭化成ケミカルズ株式会社製、OPSフィルムGM)の片面に、表面張力が52mN/mとなるようコロナ処理を施し、これを基材として使用したこと以外は、実施例1と同様にして、接着シート(c3)を得た。
【0124】
(実施例4)
前記接着剤組成物(b2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、接着シート(c4)を得た。
【0125】
(実施例5)
前記接着剤組成物(b3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、接着シート(c5)を得た。
【0126】
(実施例6)
前記接着剤組成物(b4)を、棒状の金属アプリケータを用いて、ポリエステル基材の離型ライナーTN100−50(東洋紡株式会社製非シリコーン系離型ライナー)の離型処理面上に、乾燥後の厚さが20μmになるように塗工し、90℃の乾燥機に3分間投入し乾燥した。その後、前記基材(a1)のコロナ処理面とを貼り合せた。その後、メタルハライドランプにて、前記ポリエステル基材の離型ライナー面から積算光量500mJ/cmの紫外線を当てて架橋させ、接着シート(c6)を得た。
【0127】
(実施例7)
前記接着剤組成物(b7)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、接着シート(c10)を得た。
【0128】
(実施例8)
前記接着剤組成物(b8)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、接着シート(c11)を得た。
【0129】
(比較例1)
前記基材(a1)に接着剤を積層せず、そのまま評価に使用した。
【0130】
(比較例2)
前記接着剤組成物(b5)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、接着シート(c7)を得た。
【0131】
(比較例3)
前記基材(a1)のコロナ処理面へ、アクリル系感圧接着性テープ(DIC株式会社製ZB7011W、厚さ25μm)の片面の離型ライナーを除去して貼合し、接着シート(c8)を得た。
【0132】
(比較例4)
前記接着剤組成物(b6)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、接着シート(c9)を得た。
【0133】
(インサートパーツの作製)
厚さ3mm、各辺の長さ100mmのポリカーボネート製透明樹脂シート(住友ベークライト株式会社製「ポリカエースECK100UU」)の表面へ、アンダーコート層として、メイヤーバーを用いて紫外線硬化型のアンダーコート層(東洋工業塗料株式会社製、UV−270M)を2μmの厚さで塗布し、メタルハライドランプにて500mJ/cmの強度で紫外線照射して硬化させた。その後、前記コート層表面へ、厚さ0.2μmになるようアルミニウムを真空蒸着して、インサートパーツを得た。
【0134】
(引っ張り貯蔵弾性率(E’25)、(E’85)、(E’200)及び損失正接(tanδ))
実施例及び比較例で使用した接着剤組成物を、離型ライナーに塗布し乾燥後、基材と貼合しないで得られた接着剤層を400μmの厚さまで積層し、40℃に3日間放置し、実施例及び比較例の接着剤層の試験片を作製した。前記試験片を幅5mm及び測定部の長さを20mmとし、両端の持ち手の長さを各15mmに裁断した長方形状に切断し、動的粘弾性試験機(ティー・エイ・インスツルメント製粘弾性測定機「RSA III」)を用い、引っ張りモードで、振動数3Hz、昇温速度5℃/min、負荷歪み0.1〜0.6%の条件で、−20〜210℃までの温度領域における、引っ張り貯蔵弾性率E’と損失正接tanδを測定した。25℃、85℃、200℃の各引っ張り貯蔵弾性率を(E’25)、(E’85)、(E’200)とした。なお、比較例1は、基材(a1)を接着剤層と同一と見なし、基材(a1)の引っ張り貯蔵弾性率と損失正接を測定した。
【0135】
(ゲル分率)
実施例及び比較例で使用した接着剤組成物を、離型ライナーに塗布し乾燥後、基材と貼合しないで、別の軽剥離性の離型ライナー(藤森工業株式会社製、38E−0010BD)に貼合し、40℃に3日間放置し、得られた接着剤層を、40mm×50mmの大きさへ切断した後、前記軽剥離性の離型ライナーのみ除去して試験片とした。前記試験片の質量を測定した後、23℃に調整されたトルエンに24時間浸漬した。
前記浸漬後に試験片を取り出し、105℃の乾燥機内にて1時間乾燥させたものの質量を測定した。前記質量と、以下の式に基づいて接着剤層のゲル分率を算出した。
【0136】
接着剤層のゲル分率(質量%)={(トルエンに溶解せずに残存した接着シートの接着剤層の質量)/(前記トルエン浸漬前の接着シートの接着剤層の質量)}×100
【0137】
前記浸漬前の接着シートの接着剤層の質量は、前記試験片の質量から、その作製に使用した離型ライナーの質量を差し引いた値を指す。また、前記残存した接着剤層の質量は、前記残存物の乾燥後の質量から、前記離型ライナーの質量を差し引いた値を指す。
【0138】
(接着シートの接着固定性)
前記インサートパーツのアルミニウム蒸着面上に、直径30mmの円形に切断した実施例及び比較例の接着シートから離型ライナーを剥離除去し、23℃及び50%RHの環境下で2kgローラーで1往復加圧して貼付し、熱プレス装置の上部プレス板のみ80℃に加熱し、0.1MPaの圧力で15秒間加熱して接着させた。熱ダメージ保護層としての接着シートの接着固定性を、下記基準で評価した。熱プレスの装置としては、テスター産業株式会社製熱プレス機「TP−750エアープレス」を使用した。
○:接着シートが強固に接着し、立て掛けても接着シートが容易に脱落しなかった。
△:接着シートは手で触ると剥離するが、立て掛けても接着シートが容易に脱落しなかった。
×:接着シートが接着せず、立て掛けると接着シートが脱落した。
【0139】
(熱ダメージ保護性)
前記接着シートの接着固定性で作製した試験片の上に、熱プレス装置への接着防止用として厚さ11μmのアルミニウム箔(株式会社UACJ製、マイホイル)の艶面を接着シート表面側になるようにして被せ、次に、熱プレス機の上部プレス板のみを200℃に加熱し、前記接着シートに押し当て、0.1MPaの圧力で15秒間加圧して熱ダメージを与えた。熱ダメージ保護性として、接着シートを貼付していないポリカーボネート板の表面側から目視観察して、下記基準にてインサートパーツと接着シート間の気泡の有無、及び押し跡の有無を確認した。熱プレスの装置としては、前記と同じ装置を使用した。
◎:気泡の発生は見られず、押し跡も見られなかった。
○:気泡の発生は見られなかったが、押し跡がごくわずかに見られた。
△:気泡の発生が見られ、押し跡がごくわずかに見られた。
×:気泡の発生が見られ、押し跡も強く見られた。
【0140】
(湿熱放置後の耐発泡性)
前記熱ダメージ保護性の評価で得られた貼付物を、温度85℃及び湿度85%RHの環境下に200時間放置した後、前記インサートパーツのポリカーボネート板表面側からインサートパーツと接着シート間の気泡の有無、貼付物の外観を下記基準で評価した。
○:気泡は全く無かった。
△:ごくわずかに微細な気泡が有ったが、問題ないレベルであった。
×:気泡が有った。
【0141】
(引き剥がし接着力)
実施例及び比較例で作製した接着シートを幅25mm及び長さ100mmの大きさに切断し、離型ライナーを剥離した後、23℃及び50%RHの環境下で、前記インサートパーツのアルミニウム蒸着表面側へ、2kgローラーで1往復の荷重を掛けて貼付し、感圧接着させた。貼付から1分以内に、テンシロン型引っ張り試験機(株式会社エー・アンド・ディ製、RTG−1210)にて、接着シートを180°方向へ300mm/分の引張速度でアルミニウムの蒸着面から接着シートを剥離し、感圧接着直後の剥離抵抗力を測定した。
【0142】
また、前記と同様にしてアルミニウム蒸着面へ接着シートを貼付し、次に、熱プレス装置の上部プレス板のみを80℃に加熱し、0.1MPaの圧力で15秒間熱プレスして、感熱接着させた。23℃及び50%RH環境下に1時間放置後、テンシロン型引っ張り試験機にて、接着シートを180°方向へ300mm/分の引張速度でアルミニウムの蒸着面から剥離し、感熱接着後の剥離抵抗力を測定した。熱プレスの装置としては、前記と同じ装置を使用した。
【0143】
また、前記と同様にしてアルミニウム蒸着面へ接着シートを貼付し、前記80℃の熱プレス後に、熱プレス装置への接着防止用として厚さ11μmのアルミニウム箔(株式会社UACJ製、マイホイル)の艶面を接着シート表面側になるようにして被せ、熱プレス装置の上部プレス板のみを200℃に加熱し、0.1MPaの圧力で15秒間熱プレスして熱ダメージを与えた。23℃及び50%RH環境下に1時間放置後、テンシロン型引っ張り試験機にて、接着シートを180°方向へ300mm/分の引張速度でアルミニウムの蒸着面から剥離し、熱ダメージ後の剥離抵抗力を測定した。
【0144】
(接着シートと被覆樹脂との色差)
厚さ50μm、一辺の長さ150mmの正方形の離型フィルム(三井化学東セロ株式会社製、オピュランX−88B)の中央表面に、直径30mmの円形に切断した実施例3を除く実施例及び比較例の接着シートを貼付した。熱プレス装置の下部プレス板を200℃に加熱し、その上に別の厚さ50μm、一辺の長さ150mmの正方形の前記離型フィルムを置いた。その上に、黒色マスターバッチ(SMF−TT1608、カーボンブラック含有量50質量%、レジノカラー工業株式会社製)を6質量%添加したアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂のペレット(トヨラック600−309、東レ株式会社製)を50g置き、加熱溶融させた。その上に、前記離型フィルムに貼付した接着シートの基材側が前記溶融樹脂側になるよう静置し、2MPaの圧力で30秒間加圧し、厚さ約2mm、直径約10cmの被覆樹脂と接着シートの積層物を作製した。得られた積層物から、前記離型フィルムを剥離し、剥離面側の被覆樹脂を基準色として、接着シートの接着剤層面から色差を測定した。測定には、分光測色計(コニカミノルタ株式会社製、CM−5)を用い、反射角2°にてCIE1976準拠のL*a*b色空間座標系で測定した。
【0145】
(接着シートのヘイズ)
実施例3の接着シートは、離型ライナーを除去し、ヘイズを測定した。ヘイズの測定には、株式会社村上色彩技術研究所製「HR−100型」を使用した。
【0146】
(アルミニウム蒸着層の耐変色性)
前記加熱保護性の評価で得られた貼付物を、温度85℃及び湿度85%RHの環境下に500時間放置した後、前記インサートパーツのポリカーボネート板表面側からアルミニウム蒸着面の耐変色性を下記基準で目視評価した。
○:放置する前のアルミニウム蒸着面の外観に比べ、変色は全く無かった。
△:放置する前のアルミニウム蒸着面の外観に比べ、ごくわずかにアルミニウム蒸着面の変色が有ったが、問題ないレベルであった。
×:放置する前のアルミニウム蒸着面の外観に比べ、アルミニウム蒸着面の変色が有った。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】
【0149】
【表3】
【0150】
実施例1〜8の接着シートは、インサートパーツの加飾層へ被覆樹脂を射出する際の熱ダメージ(200℃)から保護する接着シートとして、容易に脱落したり、ずれたりすることなく、簡便で熱ダメージから保護したい場所に精度良く接着固定して加飾層を保護でき、且つ湿熱放置後の加飾層や接着シートの基材に由来する発泡を防止することができるものであった。一方、比較例1の接着シートは、容易に脱落するため、精度良く接着固定して加飾層を保護することができなかった。比較例2〜4は、接着シートの脱落はしないものの、熱ダメージの保護性が劣るものであり、且つ湿熱放置後に発泡を防止することができなかった。
【0151】
また、実施例1〜8の中でも、実施例8の接着シートでは、実施例1〜7の接着シートと比較して、湿熱環境下でアルミニウム蒸着面の変色が生じておらず、気泡発生による保護フィルムと加飾層の間の膨れ発生防止、及びインサート成形時の接着剤層の変形防止に加え、湿熱環境下で加飾層である金属層の退色防止の効果が確認された。なお、実施例7の接着シートは、接着剤組成物(b7)が加水分解抑制剤を含むことで蒸着層の耐変色性評価が△であったが、加水分解抑制剤を添加しない場合、耐変色性評価は×であった。
【符号の説明】
【0152】
1・・・基材
2・・・接着剤
3・・・透光性樹脂
4・・・加飾層
5・・・接着シート
6・・・ゲート
7・・・被覆樹脂
【要約】
本発明が解決しようとする課題は、インサートパーツ成形工程において、溶融樹脂をゲートから射出する際に局所的な加熱による歪み等の発生を防止することができ、成形品を湿熱環境下に放置しても気泡の形成を防止することができる接着シートを提供することである。
本発明は、インサートパーツの加飾層表面へ貼付された後、前記貼付面へ溶融樹脂を射出塗布して加飾層表面を被覆するインサート成形に用いられる接着シートであって、前記接着シートの基材の少なくとも一面に、感圧又は感熱接着剤が積層されている接着剤層を有する接着シートであって、前記接着剤層が、周波数3Hzで温度85℃及び200℃の雰囲気下でそれぞれ特定の引っ張り貯蔵弾性率を有し、かつ周波数3Hzでの損失正接(tanδ)が、所定温度下で所定範囲にある接着シートに関するものである。
図1
図2
図3
図4