(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態(「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
[キャピラリ電気泳動装置W]
図1は、本実施形態に係るキャピラリ電気泳動装置(分析装置)Wの装置構成図である。
キャピラリ電気泳動装置Wは、下部に設置されているオートサンプラユニット150と、上部に設置されている照射検出/恒温槽ユニット160の、2つのユニットに大きく分けることができる。
【0014】
オートサンプラユニット150には、サンプラベース80の上にY軸駆動体85が備えられている。Y軸駆動体85は、サンプルトレイ100をY軸方向に駆動する。また、Y軸駆動体85にはZ軸駆動体90が備えられている。Z軸駆動体90は、サンプルトレイ100をZ軸方向に駆動する。サンプルトレイ100の上に、シリンジ20、陽極側緩衝液容器30、陰極側緩衝液容器40、サンプル容器50がセットされる。サンプル容器50は、サンプルトレイ100の下に設置されたX軸駆動体95の上にセットされる。Z軸駆動体90は送液機構60も備えている。この送液機構60はシリンジ20の下方に配置される。
【0015】
照射検出/恒温槽ユニット160には、恒温槽ユニット110、恒温槽ドア120が備えられている。恒温槽ドア120が閉じられることによって、恒温槽ユニット110内を一定の温度に保つことができる。恒温槽ユニット110の後方には照射検出ユニット130が搭載され、電気泳動時の検出を行うことができる。恒温槽ユニット110の中に、キャピラリアレイ10をユーザがセットし、恒温槽ユニット110でキャピラリアレイ10を恒温に保ちながら電気泳動が行われる。その後、照射検出ユニット130によって検出が行われる
。キャピラリアレイ10は、複数(
図1の例では4本)のキャピラリCaで構成される。
【0016】
照射検出ユニット130は
、レーザ発射装置(不図示)から出射されたレーザビームを
被計測部111における各キャピラリCaに照射する。そして、照射検出ユニット130は、
照射検出ユニット
130に備えられている撮像装置(不図示)で
各キャピラリCaからの発光が撮像された画像を取り込む。
【0017】
図2は、
図1におけるA−A断面図である。
図2において、
図1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
シリンジ20はサンプルトレイ100に埋め込まれたガイド101の中に挿入してセットされる。また、送液機構60は、送液機構60に備えられたプランジャ61が、シリンジ20の下方になるように配置される。
【0018】
電気泳動の際、
陰極側緩衝液容器40の中の陰極側緩衝液を介したキャピラリアレイ10の陰極側と、陽極側緩衝液容器30の中の陽極緩衝液を介したキャピラリアレイ10の陽極側との間に高電圧が印加される。この際、電極115によって陽極側緩衝液が接地される。
【0019】
[送液手順]
次に、
図3〜
図5を参照して、シリンジ20によるキャピラリCaへの泳動媒体充填手順を説明する。
まず、
図3を参照してシリンジ20の詳細図を示す。シリンジ20には、外筒202の中に凹形状のピストン1Aが内蔵され、上からゴム栓203及びキャップ204で封止される。なお、ピストン1Aは本実施形態のものではなく、これまで一般的
に用いられているものである。外筒202の材質は、薄肉成型が可能な樹脂であるCOP,PP樹脂等が望ましい。ゴム栓203の材質は、分析に対して安定しているシリコーンゴム等が望ましい。キャップ204の材質は、PC,PP樹脂等が望ましい。中には粘性の高い液状の泳動媒体(媒体)Qが封入され、封入の際に入ってしまう空気は上部に溜まるようにされている。泳動媒体Qは10回分の分析ができる容量が封入される。ピストン1Aにプランジャ61を介して外部から推力をかけることでピストン1Aが外筒202の内部を可動できるようになっている。つまり、ピストン1Aは、外筒202の中を押動される。
【0020】
まず、シリンジ20は、自身の膨張を抑えるためのガイド101にセットされる。このガイド101は剛性が高い。そのため、プランジャ61によるピストン1Aの押動によってシリンジ20内の液体
(泳動媒体Q)の圧力が高まり、シリンジ20が膨張しても、ガイド101のところで膨張が抑えられる。なお、ガイド101は
図2に示すものとは形状が異なっている。
【0021】
複数本のキャピラリCaは一つに束ねられ、キャピラリヘッド201の上端側から挿入されて密封装着されている。キャピラリヘッド201の下端側は、その先端が針状にとがっており、
図4に示すように、キャピラリヘッド201の先端がゴム栓203に穴を開けて貫通することにより、シリンジ20とキャピラリCaとが接続される。ここで、キャップ204の上端部には、キャピラリヘッド201を貫通させるための穴が予め設けられている。また、
図4に示すように、キャピラリヘッド201が送液圧によるゴム栓203の膨張を抑え込むように、ゴム栓203にキャピラリヘッド201が押し付けられる。
【0022】
図5に示すように、プランジャ61がピストン1Aを押し上げることでシリンジ20内部の泳動媒体Qの圧力を高め、泳動媒体QをキャピラリCa内に送液することで、泳動媒体Qの充填が行われる。
所定量の泳動媒体Qの送液が完了すると、
図4に示すようにプランジャ61が元の位置に戻される。すると、ピストン1Aもシリンジ20内部の圧力によって、ほぼ元の位置に戻る。これに伴い、シリンジ20の内部の圧力が大気圧まで戻る。ただし、シリンジ20内部の泳動媒体Qの体積は、キャピラリCaに充填した体積分だけ減少しているため、ピストン1Aが戻る位置は元の位置よりも若干上側となる。
【0023】
キャピラリCaは非常に細い上、泳動媒体Qは粘性が高いため、プランジャ61の押動によるシリンジ20内部の圧力は非常に高いもの、具体的には、少なくとも0.1MPa以上、望ましくは1MPa以上、さらに望ましくは5MPa以上となる。そのため、シリンジ20には、リーク発生の防止、及び、高い耐圧性が要求される。
【0024】
[ピストン1]
図6及び
図7は、本実施形態に係るピストン1の構成を示す図である。
図6はピストン1の斜視図を示し、
図7は
図6のB−B断面図を示す。
本実施形態及びピストン1は、伸縮性の高いシリコーンゴム製等で構成される軟性部12と、伸縮性の低いポリエチレン製等で構成される剛性部11が直列に接続されている。剛性部11は筒状形状を有している。
また、軟性部12はキャピラリCa側に配置され、剛性部11は、プランジャ61側に配置される。つまり、軟性部12が泳動媒体Qと接するよう、かつ剛性部11が泳動媒体Qに接しないよう、軟性部12と、剛性部11とが、外筒202(
図8A、図8B参照)の中心軸方向に直列に結合されている。
軟性部12のキャピラリCa側には窪み部Hが設けられ、また、軟性部12は、外周方向に凸部13が、軟性部12の本体と一体で設けられている。凸部13の直径は剛性部11の外周よりわずかに大きく形成されている。また、剛性部11の上面(上端部)が軟性部12の一部に接触している(接触部401)。つまり、剛性部11は、軟性部12と対向する端面のうち、少なくとも外周部において、軟性部12と接している。
【0025】
また、この接触は常に存在している必要は必ずしもなく、少なくともシリンジ20(
図8A、図8B参照)の内部が加圧された際に存在している必要がある。また、この部分は、接着剤等で接着されてもよい。なお、
図6及び
図7では、凸部13によって軟性部12の外径が剛性部11の外径より大きい構造となっているが、凸部13を設けずに軟性部12の外径が剛性部11の外径より大きくなるよう、構成されてもよい。また、シリンジ20に挿入されていない状態での軟性部12の外径はシリンジ20の内径より大きくなるようにしておき、軟性部12は若干潰されながらシリンジに挿入される。これによって、大気圧下においても、シール性を確保することができる。
【0026】
また、軟性部12の上方(キャピラリCa側)には、円錐台形状の窪み部Hが形成されている。
【0027】
軟性部12は、シリコーンゴム等で製造されているため、射出成型が可能である。また、剛性部11も、単純な筒状形状を有しているため、射出成型が可能である。つまり、ピストン1の製造コストを低く抑えることができる。
【0028】
図8Aは本実施形態に係る
外筒202に挿入されたピストン1の上面模式図であり、
図8Bは本実施形態に係る
外筒202に挿入されたピストン1の断面模式図である。
なお、
図8A及び
図8Bでは、
図6及び
図7における凸部13を設けずに軟性部12の外径が剛性部11の外径より大きくなるよう、構成されている。
図8Aに示されるように、軟性部12の外周がシリンジ20の外筒202の内壁に接するよう構成されている。
このように、ピストン1は、外筒202の内部の空間を2分割し、外筒202の内部を摺動することによって、一方の空間に収納される液体(
又は気体)からなる泳動媒体Qを加圧
又は減圧するものである。
【0029】
次に
図8Bを参照して、ピストン1の動作を説明する。
プランジャ61によってピストン1が押動されると、外筒202内部の泳動媒体Qの圧力が高まる。これにより、ピストン1の窪み部Hの内部の泳動媒体Qは窪み部Hの周辺部を押し広げる力を発生する。しかし、軟性部12の紙面下方には剛性部11があるため、軟性部12は紙面下方へ変形することができない。結果として、軟性部12が半径外方向へ押し広げられる形で変形する。これにより、すなわち、軟性部12が外筒202の内壁に接する力が上昇し、軟性部12と外筒202の間のシール性能を高める。
また、プランジャ61がピストン1から離れて下降すると、軟性部12は弾性によって速やかに元の形状に戻る。泳動媒体Qへの印加圧力の有無による軟性部12の変形量は大きいため、摺動抵抗が低くなる。
【0030】
図7に示すように、剛性部11の軟性部12と対向する端面の内、少なくとも剛性部11の外周近傍が軟性部12と接している。そして、前記したように、外筒202に挿入される前の軟性部12の外径は外筒202の内径よりも大きいことが望ましい。また、剛性部11の外径は外筒202の内径と同等もしくは若干小さい。つまり、剛性部11の外径と外筒202の内径が近接している。ここで、剛性部11の外径と外筒202の内径の差は、泳動媒体Qに高圧が印加された際(ピストン1が押動された際)に、軟性部12(の一部)が外筒202の内壁と剛性部11の隙間に巻き込まれない程度に小さい。具体的には、剛性部11の外径と外筒202の内径の差が、外筒202の内径の10%以下であればよいことが実験で明らかになっている。つまり、外筒202の内径をMとするとき、剛性部11の外径mが、0.9*M≦m≦Mであればよい。
【0031】
[比較例A]
図9A及び
図9Bは、比較例Aのピストン1Aを示す図である。ピストン1Aは、特許文献1のピストンと類似の構成と特徴を有する。
図9Aは比較例Aのピストン1Aの斜視図を示し、
図9Bは
図9AのC−C断面を示す。
比較例Aのピストン1Aは単一のポリエチレン樹脂等で構成された有底円筒形状を有している。ピストン1Aの上端部分の外径は、外筒202の内径よりも大きく作られている。そして、ピストン1Aの上端部分を押し潰し、ピストン1Aを外筒202の内部に押し込み、外筒202の内壁とのシール性を生じさせている。しかしながら、ピストン1Aは硬い材質で構成されている。そのため、ピストン1Aの上端部分を肉薄にして変形しやすくし、外筒202の内径に合わせて精密に接触部分等の構造を形成することが重要となってくる。しかしながら、このような構造のピストン1Aは、射出成型による製造が困難である。例えば、ピストン1Aは硬い材質で構成されているため、射出成形時に、シール部分(ピストン1Aの上端部分)に微小な凹凸や傷がつくと、その部分からリークが発生する。つまり、射出成型でピストン1Aを製造すると、使用時において、特にシリンジ20の内部が高圧になった時に、リークが発生してしまう場合が多い。そのため、ピストン1Aは人手による切削によって製造される。このため、製造コストが高い上、ピストン1Aのシリンジ20の外筒202との接触部分の精密な形状を安定的に作製することができず、品質が安定しない。すなわち、量産性が低い。なお、本実施形態のピストン1における剛性部11は、
図7に示されるように、単純な円筒形状を有しているため(ピストン1Aのような肉薄部分も存在しない)、射出成型による製造を容易に行うことができる。さらに、ピストン1Aは、硬い材質で構成されている上、ピストン1Aを押し潰して外筒202に挿入しているため、ピストン1Aの摺動抵抗が高い。このため、プランジャ61(図
2等参照)がピストン1Aを押動する際、大きな力を要する。つまり、プランジャ61の押動力の一部だけがシリンジ20の内部に伝わることになり、効率が悪い上に、シリンジ20の内部に伝わる圧力が不安定になる。また、送液終了後にプランジャ61がピストン1Aから離れた後も、シリンジ20の内部の圧力が大気圧に戻るまでピストン1Aがプランジャ61側に移動せず、シリンジ20の内部の残圧(大気圧よりも高い圧力)が生じる状態となる。
【0032】
図10Aは、
図9A及び
図9Bとは異なる比較例Dのピストン1Dの上面模式図であり、
図10Bは、比較例Dのピストン1Dの断面模式図である。ピストン1Dは、特許文献2のピストン1B(
図14A、
図14B、
図17A、
図17B、
図20)と類似の構成と特徴を有する。ピストン1Dは、ピストン1Aと異なり、ゴム等の柔らかい材質で構成されている。そして、ピストン1Dには、泳動媒体Q側に窪み部H10が設けられている。
また、
図10Cは、プランジャ61によって押動された際のピストン1Dの変形を示す図である。なお、分かりやすくするため、
図10A〜
図10Cでは、ピストン1Dを模式的に示し、
図10Cでは、変形の様子を強調して示している。
ピストン1Dの上端の外周部分はシリンジ20の外筒202内壁に接している。
プランジャ61によってピストン1Dが押動されると、シリンジ20の内部の泳動媒体Qの圧力が高まり、ピストン1Dの中央の凹部の泳動媒体Qにより、
図8A及び
図8Bに示すピストン1と同様に、ピストン1Dの上端の外周部分が押し広げられる。しかし、
図8A及び
図8Bに示すピストン1と異なり、外周部分が剛性部11によって支持されていない。そのため、高圧下の泳動媒体Qにより、ピストン1Dの外周部分が外筒202の中心軸下方向に押し下げられる。その結果、
図10Cに示すように、ピストン1Dの外筒202との接触部分が外筒202の内壁と、ピストン1D及びプランジャ61との間に巻き込まれてしまう。その結果、摺動抵抗がさらに高くなり、シール性能も低下してしまい、シリンジ20内が高圧になると、泳動媒体Qのリークが生じてしまう。
【0033】
図11Aは、
図9A及び
図9Bに示すピストン1A(比較例A)による押し込み距離と圧力との関係を示す図である。
図11Aに示すように、押し込み距離と圧力とはヒステリシスを示す。ここで、
図11Aの過程301は、
図4から
図5に至る途中の、プランジャ61が上昇してピストン1Aの底面を押し上げ始める最初の状態を示す。また、過程302は、プランジャ61がピストン1Aを押し上げている途中の状態を示す。プランジャ61によるピストン1Aの押し上げが完了すると、プランジャ61の位置を40秒間程度固定する。過程303は、プランジャ61の位置を固定から下降に移行し始める最初の状態を示す。続く過程304は、プランジャ61が下降し、それに追従してピストン1Aも下降している途中の状態を示す。さらに、押し込み距離が0mmに至ると、ピストン1Aの下降は停止し、プランジャ61はピストン1Aから離れて下降を継続する。
【0034】
図11Aにおいて、実線は、プランジャ61がピストン1Aを押し込む推力を、外筒202の内断面積で除して算出される、シリンジ20内部の泳動媒体Qに加えられている圧力である。一方、破線は、圧力センサで直接計測したシリンジ20内部の泳動媒体Qに加えられている圧力である。実線と破線は一致することが望ましいが、
図11Aに示すように実線と破線とは乖離している。これは、摺動抵抗による圧力損失が生じていることを示している。
【0035】
具体的には、プランジャ61による押動完了から30秒間経過後、実線の推力から換算した圧力は9.6MPaを示しているのに対し、破線のセンサで計測した圧力は7.3MPaとなっている。従って、これらの差である符号D1に示す値は、9.6−7.3=2.3MPaであり、これが圧力損失である。比率で表現すると、2.3/7.3≒0.315となり、32%の圧力損失が生じている。なお、このような圧力損失は、高い摺動抵抗によるものである。つまり、100%の力でピストン1Aを押し込んでも、32%の力は摺動抵抗に奪われ、残りの68%の力だけが内部の泳動媒体Qに伝わるということである。また、摺動抵抗はピストン1Aの製造ばらつきによって変動するため、内部の泳動媒体Qに加えられる圧力が不安定になるという課題がある。
【0036】
また、押し込み距離0mmに戻ったとき、実線が0MPaとなっているのに対し、破線が0.35MPaを示している(符号D2)。つまり、プランジャ61がピストン1Aから離れても、ピストン1Aの摺動抵抗が大きいために、ピストン1Aが押動前の位置に完全には戻り切れず、シリンジ20内部の泳動媒体Qの圧力が0.35MPaも残っていることを示している。。このような残圧が存在すると、
図3から
図4に至る途中、キャピラリヘッド201をゴム栓203を通してシリンジ20に挿入する際に、シリンジ20内部の泳動媒体Qが隙間から外部に噴出し、周囲を汚染してしまう場合がある。また、このように摺動抵抗が大きいと、以下のような問題が生じる。すなわち、
図4の状態から
図3の状態に戻る途中、キャピラリヘッド201がゴム栓203を通してシリンジ20から抜去される。この際に、シリンジ20内部の泳動媒体Qが負圧(大気圧より低い、真空に近い圧力)になり、気泡の発生を招き、分析に悪影響を与える場合がある。
【0037】
この他にも、前記したように、比較例Aによるピストン1Aは、切削によって製造されるため、製造コストが高く、品質が安定しないという課題がある。さらに、比較例Aによるピストン1Aは、摺動抵抗が高いため、シリンジ20内部への圧力印加が
非効率かつ不安定である。また、プランジャ61がピストン1Aから離れ、プランジャ61がピストン1Aを押し込んでいない際の残圧が高いという課題がある。
【0038】
図11Bは、
図11Aのデータを表現を変えて示したもので、横軸に推力から換算した圧力(推力を外筒202の内断面積で除した値)、縦軸に圧力センサで直接計測した圧力として相互の関係を示す図である。
推力から換算した圧力とセンサで計測した圧力は一致することが望ましい。すなわち、推力から換算した圧力と、圧力センサで直接計測した圧力との関係が、
図11Bに破線で示す、原点を通る傾き1の直線であることが望ましい。しかし、
図11Bに示すように、推力から換算した圧力と、圧力センサで直接計測した圧力との関係は破線で示す直線から大きく乖離し、大きなヒステリシスを示している。
【0039】
図12A及び
図12Bは、本実施形態に係るピストン1(
図6、
図7に示すピストン1)を使用した実験結果を示す図である。
図12Aは、本実施形態に係るピストン1による押し込み距離と圧力との関係を示す図である。
図12Aにおいて、実線及び破線は
図11Aと同様である。なお、
図12Aにおいて、過程301は存在しない。
図12Aに示すように、実線及び破線は
図11Aと比較して相互に接近している。また、符号D11の値は、圧力損失を示している。その比率は、D11=0.24/9.2=0.026となる。つまり、圧力損失は、わずか2.6%となっている。
【0040】
さらに、
図12Aの押し込み距離0mmの時点で破線の値は0.0077MPaであり、ほぼ0となっている。つまり、残圧がほとんど生じていない。
このように、本実施形態のピストン1は、比較例Aのピストン1Aと比較して、圧力損失、残圧とも1桁以上低減することができる。
さらに、軟性部12は、シリコーンゴム等で製造されるため、射出成型が可能である。さらに、剛性部11は、単純な円筒形状を有しており、精密な形状にする必要がないことから、剛性部11も射出成型が可能である。この結果、本実施形態のピストン1は、比較例Aのピストン1Aと比較して、製造コストを大幅に低減することができる。
【0041】
また、
図12Bは、
図11Bと同様のグラフである。
図12Bに示されるように、本実施形態に係るピストン1が用いられることで、推力から換算した圧力とセンサで計測した圧力が相互に近接するとともに、理想的な関係(
破線で示す、原点を通る傾き1の直線)に両者が接近していることがわかる。
【0042】
[ピストン1の特徴]
以降では、
図6及び
図7に示される、伸縮性の高い材料で構成された軟性部12と、伸縮性の低い材料で構成された剛性部11が直列に接続されているピストン1
、これと類似の構造を有するピストン1B(
図14A、
図14B、
図17A、
図17B、
図20)及びピストン1C(
図15A、
図15B、
図18A、
図18B、
図21)との比較を行う。ピストン1B,1Cのようにプランジャ61とピストン1B,1Cが一体化されて使用される場合(使用中に両者の着脱が行われない場合)、プランジャ61をピストン1における剛性部11とみなす。また、シリンジ20に内包される媒体は、分離媒体を始めとする泳動媒体Qを主体に説明するが、気体であっても構わない。
【0044】
なお、適宜、
図3〜
図5を参照する。また、
図13A〜
図20において、紙面下方向がプランジャ61方向、紙面上方向(中心軸Tの矢印方向)が泳動媒体Q方向及びキャピラリCa方向である(正の方向)。
図13A、
図13B、
図14A、
図14B、
図16A、
図16B、
図17A、
図17B、
図19、
図20では、ピストン1,1Bのみを描いているが、泳動媒体Qを内包するシリンジ20の外筒202内にピストン1,1Bが装着されている状態を表している。また、
図13B、
図14B、
図15B、
図16B、
図17B、
図18Bにおいて、白抜き矢印は、泳動媒体Qが加圧状態であることを示す。白抜き矢印の向きは、圧力の代表的な方向を示すものであり、すべての方向を示すものではない。実際には、軟性部12において、泳動媒体Qと接触するすべての面に、それぞれ垂直方向の圧力が発生する。
また、
図13Aから
図20において、同様の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0045】
図13A及び
図13Bは、本実施形態のピストン1の断面図を示す図である。
図13Aは加圧前を示し、
図13Bは加圧後を示す。なお、
図13Bにおいて、破線は加圧前(変形前)の状態(形状)を示している。
【0046】
ここで、
図13Bを参照して、本実施形態に係るピストン1の動作を再度説明する。
図13Bに示すように、プランジャ61によってピストン1が押動されることにより泳動媒体Qに圧力が加えられると、窪み部H内の泳動媒体Qによって、軟性部12の窪み部Hの周辺部が外周方向に押し広げられる。この結果、凸部13が外筒202の内壁に押し付けられる。
図13Bでは、シリンジ20(
図8A、図8B参照)の外筒202が存在しないと仮定し、周辺部が外周方向に自由に変形できるとしてピストン1を描いているが、実際には、周辺部が外筒202の内壁に衝突するため、変形量はもう少し小さくなる。これによって、シール性能が向上し、泳動媒体Qの漏洩を防ぐ。もちろん、軟性部12の全体は紙面下方向にも押されるが、
図13Aに示すように、軟性部12は剛性部11との接触部401を介して剛性部11によって支えられているため、軟性部12の紙面下方向への変形は抑えられる。
【0047】
送液が完了し、プランジャ61がピストン1から離れると、泳動媒体Qの圧力が大気圧に戻り、軟性部12は速やかに
図13Aの状態に戻る。これにより、凸部13による外筒202内壁への押し付けが弱くなる。この結果、外筒202内壁との摺動抵抗が低くなり、ピストン1は速やかにプランジャ61押動前の位置へ戻る(正確には、泳動媒体QがキャピラリCaに充填された体積分だけ元の位置よりも高めの位置に戻る)。この結果、シリンジ20内の残圧がなくなる。
【0048】
摺動抵抗が小さく、シール性能が高いピストン1の特徴は、シリンジ20内の泳動媒体Qの圧力が上昇したときに、ピストン1が泳動媒体Qに接する部分のシリンジ20の中心軸T方向の変形が抑えられながら(変形は小さいほどよい)、シリンジ20の半径外側方向の変形が生じる(変形は大きいほど良い)こととまとめられる。ピストン1の泳動媒体Qに接する部分は柔軟かつ弾性を有する材質で構成され、前記した圧力の上昇による半径外側方向の変形量を大きくすると同時に、圧力が低下すると元の形状に戻るのがよい。また、ピストン1の半径外側方向の変形によってシリンジ20の外筒202(
図8B参照)の内壁に押し付けられるピストン1の部分のシリンジ20の中心軸T方向の幅は狭いほどよい。この幅が大きいとシール性能が低下する上に、摺動抵抗が増加するためである。
【0049】
(第1の形状特徴)
<本実施形態>
次に、本実施形態に係るピストン1の形状特徴(第1の形状特徴)を説明する。
まず、
図13Aの断面図において、窪み部Hの底面の中央を通り(底面が存在しない場合は、窪み部Hの最深部を通り)、ピストン1の中心軸Tと平行な直線411が定義される。
図13Aに示すように、直線411はピストン1の中心軸Tと一致する。
さらに、
図13Aの断面図において、窪み部Hの底面の中央を通り(底面が存在しない場合は、窪み部Hの最深部を通り)、ピストン1の中心軸Tと直交する直線412が定義される。
そして、
図13Aの断面図において、直線411より外側(
図13Aで紙面左側
又は紙面右側)であり、かつ、直線412より泳動媒体Q側(
図13Aで紙面上側)となる軟性部12の部分的な領域が定義される。この領域は半径方向に(
図13Aの紙面左右方向に)2つ存在するが、その1
つを領域402(第1の領域)とする(
図13Aでは、紙面左側を選択)。そして、領域402の重心(図心)を重心Gとする。このとき、
図13A及び
図13Bに示される通り、本実施形態に係るピストン1は以下の(A1)〜(A4)の特徴を有する。これらは、ピストン1の特徴を実現するための形状の要件として導かれるものである。なお、重心Gは、厚さを有さない面(軟性部12の断面)の重心である。以降の重心Gも同様である。
【0050】
すなわち、領域402は、剛性部11から軟性部12に向かう方向を正とすると、窪み部Hの最深部と中心軸Tとを含むように切断された軟性部12の縦断面において、窪み部Hの最深部の位置よりも軟性部12の半径外方向、かつ、最深部の位置よりも正の方向にある領域である。
【0051】
(A1)少なくとも加圧の際に、領域402に、剛性部11
又はプランジャ61と接触する接触部401が存在し、この接触部401の少なくとも一部において、剛性部11側
又はプランジャ61側の接触面は泳動媒体Q側(
図13Aの紙面上側)を向いており、領域402側の接触面はプランジャ61側(
図13Aの紙面下側)を向いている。
(A2)前記(A1)を満たす接触部401の少なくとも一部は重心Gより半径外側(
図13Aでは紙面左側)に位置する。
(A3)前記(A1)を満たす接触部401の少なくとも一部は窪み部Hの底面(底面が存在しない場合は、窪み部Hの最深部)より泳動媒体Q側(
図13Aでは紙面上側)に存在している。
(A4)加圧によって引き起こされるピストン1の変形による重心Gの移動方向は、プランジャ61に向かう方向(
図13Bでは紙面下方向)よりも、半径外側方向(
図13Bでは紙面左方向)への移動の方が大きい。
【0052】
<比較例B>
図14A及び
図14Bは、比較例Bのピストン1Bの断面図を示す図である。
図14Aは加圧前を示し、
図14Bは加圧後を示す。
図13A及び
図13Bに示すピストン1は上面の中央に窪み部Hが設けられている。これに対して、
図14A及び
図14Bに示すピストン1Bは上面に外周と同心円のリング状の溝が設けられている。このため、
図14A及び
図14Bでは、ピストン1Bの中心軸Tを挟んだ紙面左右両側に2つの窪み部H1、すなわち、リング状の溝が示される。
また、
図14A及び
図14Bにおいて、
図13A及び
図13Bと同一の定義によるものは同一の符号を付す。ここで、
図14A及び
図14Bでは、プランジャ61と、ピストン1Bとが接触し、かつプランジャ61が押動したときに力が加わる部分を接触部401として示している。なお、
図14Bにおいて、破線は加圧前(変形前)の形状を示す。
比較例Bにおけるピストン1Bは、
図14Bに示すように泳動媒体Qに圧力が加えられると、ピストン1Bの泳動媒体Q側の窪み部H1より外側の部分がプランジャ61側(
図14Bの紙面下側)に湾曲する。このため、当該湾曲した部分が外筒202の内壁に押し当てられる力は加圧の前後であまり変化しない。なお、ピストン1Bは柔軟性の高い材質で構成され、ピストン1の軟性部12に相当する。
図14Aに点線で示すプランジャ61は、ピストン1の剛性部11の役割も兼ねている。また、ピストン1Bとプランジャ61は一体化されており、ピストン1とプランジャ61のように着脱可能ではない。
【0053】
ここで、比較例Bにおいて、前記した(A1)〜(A4)の条件を考察する。
(A1)領域402において、
図13Aに示す接触部401に相当するものが存在せず、(A1)は成立しない。
(A2)領域402において、
図13Aに示す接触部401に相当するものが存在しないので、(A2)は成立しない。
(A3)領域402において、
図13Aに示す接触部401に相当するものが存在しないので、(A3)は成立しない。
(A4)
図14Bに示すように、加圧によって引き起こされる変形による重心Gの移動方向は、半径外方向(
図14Bでは紙面左方向)よりもプランジャ61側(
図14Bでは紙面下方向)への移動の方が大きいので、(A4)は成立しない。
ピストン1Bの領域402が半径外方向よりも主としてプランジャ61側に変形する理由は、ピストン1Bの中央部分のプランジャ61側への変形はプランジャ61によって抑えられているが、ピストン1Bの外周部分のプランジャ61側への変形を抑える支持体が存在しないことである。したがって、泳動媒体Qに高圧力を印加すると、
図10Cおけるピストン1
Dのように、軟性部12の外周部、つまり領域402がプランジャ61の方向に過度に変形し、シール性能を維持できなくなる。
【0054】
<比較例C>
図15A及び
図15Bは、比較例Cのピストン1Cの断面図を示す図である。
図15Aは加圧前を示し、
図15Bは加圧後を示す。ピストン1Cでは、
図13A及び
図13Bに示すピストン1と同様に、上面の中央に窪み部H2が設けられている。
また、
図15A及び
図15Bにおいて、
図13A及び
図13Bと同一の定義によるものは同一の符号を付す。なお、
図15Bにおいて、破線は加圧前(変形前)の形状を示す。
比較例Cにおけるピストン1Cは、
図15Bに示すように泳動媒体Qに圧力が加えられると、ピストン1Cの外周部分がプランジャ61側(
図15Bの紙面下側)に湾曲(変形)する。従って、ピストン1Cの外筒202の内壁に押し当てられる力は加圧の前後であまり変化しない。なお、ピストン1Cは柔軟性の高い材質で構成されている。これは、ピストン1の軟性部12に相当する。プランジャ61は、ピストン1の剛性部11の役割も兼ねている。また、ピストン1Cとプランジャ61は一体化されており、ピストン1とプランジャ61のように着脱可能ではない。
【0055】
ここで、比較例Cにおいて、前記した(A1)〜(A4)の条件を考察する。
(A1)領域402において、
図13Aに示す接触部401に相当するものが存在せず、(A1)は成立しない。
(A2)領域402において、
図13Aに示す接触部401に相当するものが存在しないので、(A2)は成立しない。
(A3)領域402において、
図13Aに示す接触部401に相当するものが存在しな
いので、(A3)は成立しない。
(A4)
図15Bに示すように、加圧によって引き起こされる変形による重心Gの移動方向は、半径外方向(
図15Bでは紙面左方向)よりもプランジャ61側(
図15Bでは紙面下方向)への移動の方が大きいので、(A4)は成立しない。
ピストン1Cの領域402が半径外方向よりも主としてプランジャ61側に変形する理由は、ピストン1Cの中央部分のプランジャ61側への変形はプランジャ61によって抑えられているが、ピストン1Cの外周部分のプランジャ61側への変形を抑える支持体が存在しないことである。従って、泳動媒体Qに高圧力を印加すると、
図10Cおけるピストン1
Dのように、軟性部12の外周部、つまり領域402がプランジャ61の方向に過度に変形し、シール性能を維持できなくなる。
【0056】
(第2の形状特徴)
次に、
図16A〜
図18Bを参照して、
図13A〜
図15Bとは別の観点から本実施形態のピストン1の特徴(第2の形状特徴)を説明する。
<本実施形態>
図16A及び
図16Bは、本実施形態に係るピストン1の断面図を示す図である。
図16Aは加圧前を示し、
図16Bは加圧後を示す。なお、
図16Bにおいて、破線は加圧前(変形前)の状態を示す。なお、
図16A及び
図16Bに示すピストン1は、
図13A及び
図13Bに示すピストン1と同じものであり、直線421や、直線422や、領域432等の定義が
図13A及び
図13Bとは異なっているものである。
まず、
図16Aの断面図において、窪み部Hの底面の中央を通り(底面が存在しない場合は、窪み部Hの最深部を通り)、ピストン1の中心軸Tと平行な直線421が定義される。
図16Aに示すように、直線421はピストン1の中心軸Tと一致する。
さらに、少なくとも加圧の際に、軟性部12が剛性部11
又はプランジャ61と接触する接触部の内、最も泳動媒体Q側(
図16Aで紙面上側)の接触部401aが定義される。また、接触部401aを通り、ピストン1の中心軸Tと直交する直線422が定義される。
そして、
図16Aの断面図において、直線421より外側(
図16Aで紙面左側
又は紙面右側)であり、かつ、直線422より泳動媒体Q側(
図16Aで紙面上側)となる軟性部12の部分的な領域が定義される。この領域は半径方向に(
図16Aの紙面左右方向に)2つ存在するが、その1
つを領域432(第2の領域)とする(
図16Aでは、紙面左側を選択)。そして、領域432の重心(図心)を重心Gとする。このとき、
図16A及び
図16Bに示される通り、本実施形態に係るピストン1は以下の(B1)〜(B3)の特徴を有する。こららは、ピストン1の特徴を実現するための形状の要件として導かれるものである。
【0057】
つまり、領域432は、剛性部11から軟性部12に向かう方向を正とすると、窪み部Hの最深部と中心軸Tとを含むように切断された軟性部12の縦断面において、窪み部Hの最深部の位置よりも、軟性部Hの半径外方向にある領域であるとともに、中心軸Tと垂直、かつ、剛性部11と軟性部12とが接する接触部401aのうち、最も正の方向に位置する箇所を通る直線422より、正の方向にある領域である。
【0058】
(B1)領域432が重心Gよりも半径外側(
図16Aでは紙面左側)で接触部401aの少なくとも一部を含み、この一部において、剛性部11側(
又はプランジャ61側)の接触面は泳動媒体Q側(
図16Aの紙面上側)を向いており、領域432側の接触面はプランジャ61側(
図16Aの紙面下側)を向いている。
(B2)前記(B1)を満たす接触部401aの少なくとも一部は窪み部Hの底面(あるいは最深部)より泳動媒体Q側(
図16Aでは紙面上側)に存在している。
(B3)加圧によって引き起こされるピストン1の変形による重心Gの移動方向は、プランジャ61に向かう方向(
図16Bでは紙面下側)よりも、半径外側方向(
図16Bでは紙面左側)への移動の方が大きい。
【0060】
ここで、比較例Bにおいて、前記した(B1)〜(B3)の条件を考察する。
(B1)領域432において、
図16Aに示す接触部401aに相当するものが存在せず、(B1)は成立しない。
(B2)領域432において、(B1)を満たす接触部401aに相当するものが存在しないので、(B2)は成立しない。
(B3)加圧によって引き起こされるピストン1Bの変形による重心Gの移動方向は、半径外側方向(
図17Bでは紙面左側)よりもプランジャ61に向かう方向(
図17Bでは紙面下側)への移動の方が大きいので、(B3)は成立しない。
【0062】
ここで、比較例Cにおいて、前記した(B1)〜(B3)の条件を考察する。
(B1)領域432において重心Gよりも半径外側(
図18Aでは紙面左側)に、
図16Aに示す接触部401aに相当するものが存在せず、(B1)は成立しない。
(B2)領域432において、(B1)を満たす接触部401aに相当するものが存在しないため、(B2)は成立しない。
(B3)加圧によって引き起こされるピストン1Cの変形による重心Gの移動方向は、半径外側方向(
図18Bでは紙面左側)よりもプランジャ61に向かう方向(
図18Bでは紙面下側)への移動の方が大きいので、(B3)は成立しない。
【0063】
(第3の形状特徴)
次に、
図19〜
図21を参照して、
図13A〜
図18Bとは別の観点から本実施形態のピストン1の特徴(第3の形状特徴)を説明する。
<本実施形態>
図19は、本実施形態のピストン1の断面図を示す図である。
図19は加圧前を示している。なお、
図19に示すピストン1は、
図13A、
図13B、
図16A、
図16Bに示すピストン1と同じものであり、直線441や、領域452等の定義が
図13A及び
図13Bとは異なっているものである。ピストン1の加圧後の形状は
図13B、
図16Bと同等である。
まず、窪み部Hの底面の中央を通り(底面が存在しない場合は、窪み部Hの最深部を通り)、ピストン1の中心軸Tと平行な直線441が定義される。
図19に示すように、直線441はピストン1の中心軸Tと一致する。
そして、軟性部12において直線441より外側となる領域が定義される。この領域は半径方向に(
図19の紙面左右方向に)2つ存在するが、その1
つを領域452(第3の領域)とする(
図19では、紙面左側を選択)。そして、領域452の重心を重心Gとする。このとき、
図19に示されるように、本実施形態に係るピストン1は以下の(C1)〜(C2)の特徴を有する。こららは、ピストン1の特徴を実現するための形状の要件として導かれるものである。
【0064】
つまり、領域452は、窪み部Hの最深部と中心軸Tとを含むように切断された軟性部12の縦断面において、窪み部Hの最深部の位置よりも軟性部12の半径外方向にある領域である。
【0065】
(C1)少なくとも加圧の際に、領域452が重心Gよりも半径外側(
図19では紙面左側)で、剛性部1
1と接触する接触部401bが存在し、この接触部401bの少なくとも一部において、剛性部11側
又はプランジャ61側の接触面は泳動媒体Q側(
図19で紙面上側)を向いており、領域452側の接触面はプランジャ61側(
図19で紙面下側)を向いている。
(C2)接触部401bの少なくとも一部は窪み部Hの底面(あるいは最深部)より泳動媒体Q側(
図19で紙面上側)に存在している。
【0066】
<比較例B>
図20は、比較例Bのピストン1Bの断面図を示す図である。
図20は加圧前を示している。なお、
図20に示すピストン1Bは、
図14A、
図14B、
図17A、
図17Bに示すピストン1Bと同じものであり、直線441や、領域452等の定義が
図14A及び
図14Bとは異なっているものである。ピストン1Bの加圧後の形状は
図14B、
図17Bと同等である。ここで、
図20では、プランジャ61と、ピストン1Bとが接触し、かつプランジャ61が押動したときに力が加わる部分を接触部401bとして示している。
また、
図20において、
図19と同一の定義によるものは同一の符号を付す。
【0067】
ここで、比較例Bにおいて、前記した(C1)〜(C2)の条件を考察する。
(C1)領域452において
図19に示す接触部401bに相当するものが存在せず、(C1)は成立しない。
(C2)領域452において
図19に示す接触部401bに相当するものが存在しないので、(C2)は成立しない。
【0068】
<比較例C>
図21は、比較例Cのピストン1Cの断面図を示す図である。
図21は加圧前を示している。なお、
図21に示すピストン1Cは、
図15A、
図15B、
図18A、図
18Bに示すピストン1Cと同じものであり、直線441や、領域452等の定義が
図15A及び
図15Bとは異なっているものである。
また、
図21において、
図19と同一の定義によるものは同一の符号を付す。
【0069】
ここで、比較例Cにおいて、前記した(C1)〜(C2)の条件を考察する。
(C1)領域452において重心Gよりも半径外側(
図21では紙面左側)に、
図19に示す接触部401bに相当するものが存在せず、(C1)は成立しない。
(C2)領域452において、
図19に示す接触部401bが存在しないため、(C2)は成立しない。
【0070】
(変形例)
図22A及び
図22Bは、本実施形態に係るピストン1の変形例を示す断面図である。
図22A及び
図22Bにおいて、紙面上方が泳動媒体Q側であり、紙面下方がプランジャ61側である。なお、
図22A及び
図22Bにおいて、同様の形状を有する要素には同一の符号を付して説明を省略する。
図22Aに示すピストン1aのように軟性部12aにおける窪み部Haの形状が三角錐形状(断面が三角形)を有してもよい。また、ピストン1aのように、窪み部Haの深さが
図6及び
図7に示すピストン1より深い構造を有してもよい。
【0071】
また、
図6及び
図7に示すピストン1では、剛性部11が筒状となっているが、ピストン1bのように剛性部11bが有底円筒形状を有していてもよい。そして、軟性部12aは、剛性部11bの筒状部分の上面だけでなく、剛性部11bの内側底面でも接触していてもよい。なお、剛性部11bは有底円筒形状を有しているが、容易に射出成型できる。
【0072】
また、ピストン1cのように、軟性部12cの窪み部Hcの底面が剛性部11bの最上面より泳動媒体Q側となるようにしてもよい。すなわち、窪み部Hcの深さが浅い構造としてもよい。
さらに、ピストン1dのように、
剛性部11bが有底円筒形状で、図6及び
図7のピストン1と同様に窪み部Hが底面を有する構造としてもよい。
【0073】
以下、
図22Bを参照する。
ピストン1eのように、剛性部11eが円柱形となっていてもよい。この場合、軟性部12eは、剛性部11eの上面に載置される構造となる。この場合、両者は接着剤等で結合するのが望ましい。
また、ピストン1fのように、軟性部12fの窪み部Hfが溝形状となっていてもよい。
【0074】
ピストン1gは、
図6及び
図7に示すピストン1の剛性部11の内側に凹凸部が設けられた剛性部11gを有している。軟性部12gは剛性部11gの内側の形状に沿って構成されている。このような構成にすることにより、軟性部12gを剛性部11gに嵌め込み、接着剤等で両者を固定しなくても、軟性部12gが剛性部11gから容易には抜けないようにすることができる。軟性部12gは、やわらかいので剛性部11gの紙面上方向の開口部から押し込むように挿入すれば、剛性部11gに嵌め込まれる。つまり、例えば、泳動媒体Qが負圧(大気圧よりも小さな圧力)になり、ピストン1gが泳動媒体Q側(
図22Bの紙面上側)に引っ張られるような力が発生したとしても、軟性部12gと剛性部11gが分離されることがない。
また、ピストン1hは、ピストン1gの剛性部11gが有底円筒形状となった剛性部11hを有するものである。
【0075】
ピストン1iでは、ピストン1dにおいて、剛性部11iの下部外側にOリング14が設けられている。軟性部12をシリコーン等で構成すると水蒸気などを透過してしまうおそれがある。従って、ゴム製のOリング14を剛性部11iの外周に設けることによって水蒸気の漏洩を防ぐことができる。またこのような構成にすることにより、軟性部12と外筒202(
図8A、図8B参照)の隙間から万一泳動媒体Qがリークしたとしても、Oリング14が第2のシール部として機能するため、シリンジ20の外部に泳動媒体Qがリークすることを防ぐことができる。あるいは、外部から進入したゴミ等が泳動媒体Qに混入することを効率的に防ぐことができる。
【0076】
図22A、
図22Bにおけるピストン1a,1gを除くピストン1b〜1f,1h
〜1iでは、剛性部11b,11e,11h,11i
,11jAおよび11jBとして有底円筒形状
又は円柱形状が採用されているが、これには次の2つの効果がある。ひとつは、少なくとも泳動媒体Qへの加圧時には、軟性部12,12a,12c,12e〜12gの外周部だけでなく、軟性部12,12a,12c,12e〜12gの中央底部も剛性部11b,11e,11h,11i
,11jAおよび11jBと接触して支持されるため、泳動媒体Qに高圧が印加された際の軟性部12,12a,12c,12e〜12gのプランジャ61(
図3等参照)に向かう方向(
図22A及び
図22Bで紙面下方向)の変形を最小に抑えられることである。これによって、軟性部12,12a,12c,12e〜12gの半径外側方向(
図22A及び
図22Bで紙面左右方向)の変形を増強することができる。また、軟性部12,12a,12c,12e〜12gのプランジャ61に向かう方向の過度な変形によって、軟性部12,12a,12c,12e〜12gが破壊されることを防ぐこともできる。もうひとつは、剛性部11の底面が塞がれていない場合、かつプランジャ61の先端径が細い場合、プランジャ61の先端部が剛性部11の中に入り込み、軟性部12の底面を直接押し上げてしまうリスクがある。剛性部11b,11e,11h,11i
,11jAおよび11jBのように有底円筒形状
又は円柱形状が採用されることで、そのリスクを回避することができることである。
【0077】
一方、シリンジ1hにおける剛性部11hのように、有底円筒形状と内壁の凹凸形状を両立させる構成を射出成形で作製することは一般的に困難である。シリンジ1jは、この課題を解決する構成例を示す。すなわち、シリンジ1hの剛性部11hが、剛性部11jAと剛性部11jBの2部品に分割される。剛性部11jAと剛性部11jBはそれぞれ別個に射出成形で作製可能である。作製した剛性部11jBが剛性部11jAに嵌め込められれば、剛性部11hと同じ構成となる。ちなみに、剛性部11jAと剛性部11jBとの結合はそれほど強固である必要がない。何故ならば、加圧時はプランジャ61が剛性部11jBの底面を押し上げているため、泳動媒体Qが高圧になって軟性部12gを押し下げる力が発生しても、剛性部11jBが剛性部11jAから脱離することはないためである。また、シリンジ1jでは、泳動媒体Qが負圧になった場合、軟性部12gを引っ張り上げる力が発生するが、この力は剛性部11jBに直接作用しないため、剛性部11jAと剛性部11jBとの結合をそれほど強固にしなくてもよい。
【0078】
発明者らは、本実施形態のピストン1を、
図1〜
図5に示すシリンジ20に適用した。ここで、ピストン1は、
図6及び
図7に示すピストン1とした。ピストン1を含むシリンジ20は使い捨てとし、内包する分析10回分の分離媒体を消費後に廃棄した。
さらに、プランジャ61は金属製とした。また、プランジャ61はピストン1に対し着脱可能とした。なお、プランジャ61は使い捨てにしない構成とした。
【0079】
シリンジ20をキャピラリ電気泳動装置Wに装着後、前記したように、プランジャ61がピストン1を押動することで泳動媒体Qが各キャピラリCaに送液される。この際、泳動媒体Qには数十気圧の圧力が印加される。
本実施形態のピストン1が用いられることにより、高耐圧性能を有し、安定した送液性能を有するシリンジ20を低コストに製造でき、使い捨てができるようになった。
【0080】
[適用例]
次に、
図23〜
図25を参照して、本実施形態のピストン1の適用例を示す。
(適用例1)
図23は、ガスクロマトグラフィのサンプル注入で用いられる、外筒がガラス製のハミルトンシリンジ等のガスタイトシリンジを、外筒202aがプラスチック製のシリンジ20aで置き換えた場合におけるシリンジ20aの断面図である。
図23では、
図22Aに示すピストン1dが適用されている。もちろん、
図6及び
図7に示すピストン1や、
図22A、
図22Bに示す各ピストン1a〜1c,1e〜1jが用いられてもよい。ただし、剛性部11
bとプランジャ61は一体化している。シリンジ20aの先端部には、金属製のニードル751が接続されている。
ピストン1dにおける軟性部12は硬度50度のシリコーンゴム製とし、射出成型により低コストに作製することができる。外筒202a、剛性部11b及びプランジャ61は、ポリプロピレン製とし、やはり射出成形により低コストに作製した。
外筒202aは、内径5mm、全長80mmとした。凸部13(
図6、
図7参照)における軟性部12の外径は、軟性部12が外筒202aに挿入されない状態で5.3mmとした。また、剛性部11の外径は4.9mmとした。このとき、剛性部11の外径は外筒202aの内径の98%である。
泳動媒体Qを内包したシリンジ20aの先端を閉じた状態で、プランジャ61を指で2kgfの力で押し込むと、10気圧強(1MPa強)の圧力が発生したが、泳動媒体Qのリークは発生しなかった。
次に、泳動媒体Qの代わりにサンプルの気体を充填したシリンジ20aを用いた。その結果、ガスクロマトグラフィ装置(不図示)に良好にサンプル注入することができ、妥当な分析結果を得ることができた。
【0081】
(適用例2)
図24は、
図1及び
図2とは異なるタイプのキャピラリ電気泳動装置Waに本実施形態のピストン1を適用した例を示す図である。
キャピラリ電気泳動装置Waにおいて、複数のキャピラリCa(
図24では4本のキャピラリCaを示す)の試料注入端701が陰極側緩衝液702に浸され、試料溶出端703はポンプブロック704に接続される。ポンプブロック704とシリンジ20bは接続されており、両者の内部が泳動媒体Qで満たされている。ポンプブロック704のバルブ706を開けた状態にすると、試料溶出端703がポンプブロック704内部の泳動媒体Qを介して陽極側緩衝液705に通電状態となる。ポンプブロック704のバルブ706を閉じた状態にして、シリンジ20bのプランジャ61が白抜き矢印の方向に押動されることによってピストン1が押動される。そして、シリンジ20b内部の泳動媒体Q及びポンプブロック704内部の泳動媒体Qが加圧される。加圧された泳動媒体Qは各キャピラリCaの内部に、試料溶出端703から試料注入端701に向かって充填される。
【0082】
充填後、バルブ706を開けた状態にすると、陰極側緩衝液702と陽極側緩衝液705は、複数のキャピラリCa内部の泳動媒体Q及びポンプブロック704内部の泳動媒体Qを介して通電状態となる。各キャピラリCaに試料注入端701から異なる試料をそれぞれ注入後に、陰極側緩衝液702に浸された陰電極711と、陽極側緩衝液705に浸された陽電極712の間に高圧電源713によって一定の高電圧が印加される。これによって、各試料が試料注入端701から試料溶出端703に向かって電気泳動される。また、検出ユニット721によって、各キャピラリCaの一定距離だけ電気泳動された位置においてレーザビーム照射蛍光検出が行われ、各試料の分析が行われる。
【0083】
これまでのシリンジには、
図23に示す適用例1と同様に、ガラス製のガスタイトシリンジが用いられていたが、ここでは、安価に製造できる、
図23と同等のプラスチック製のシリンジ20bが用いられる。すなわち、シリンジ20bは、
図23のシリンジ20aからニードル751が外されたものである。プランジャ61及びピストン1を機械的に白抜き矢印の方向に押し下げることによって内部の泳動媒体Qに数十気圧の高圧力が印加され、泳動媒体Qが複数のキャピラリCaに試料溶出端703から試料注入端701に向かって充填された。
【0084】
シリンジ20b及びピストン1は高耐圧性能を有するため、泳動媒体Qのリークは発生せず、泳動媒体QをキャピラリCaに良好に充填することができた。また、ピストン1の泳動媒体Qと接する部分(軟性部12)がゴム製であり、伸縮性が高い。そのため、繰り返し充填作業を行っても、ピストン1の先端が磨耗することがなく、長期間に渡って耐圧性能が維持された。本実施形態のピストン1を含むプラスチック製のシリンジ20bが用いられることによって、初期コスト及びメンテナンスコストを大幅に低減することができた。
【0085】
一方、これまでのガラス製のガスタイトシリンジは数十気圧(数MPa)の耐圧性能を有するが、ガラス製で高価である上、ピストン先端が磨耗によって耐圧性能が失われるため、定期的に交換する必要があった。前記したように、本実施形態のピストン1が使用されることで、これらの課題は解決される。
【0086】
(適用例3)
図25は、本実施形態のピストン1を用いたシリンジ20の輸送、保管時の例を示す図である。
シリンジ20は、泳動媒体Q等の液体が満たされ、かつ、ピストン1と、ゴム栓203によって封止された状態で販売、輸送、保管されている。この状態は、
図3のシリンジ20のピストン1Aをピストン1に置き換え、かつガイド101(
図3等参照)にセットされる前の状態に相当する。ただし、
図25のゴム栓203は、
図3〜
図5とは異なる形状であり、簡易的に描写している。また、
図25において、キャップ204(
図3〜
図5参照)は図示省略されている。
シリンジ20は、ピストンとして本実施形態のピストン1が用いられている例である。
【0087】
シリンジ20におけるピストン1の軟性部12としてシリコーンゴムが用いられ、かつ、消耗品として流通される場合、以下のようなリスクが生じる。すなわち、シリンジ20の輸送、保管時に、シリコーンゴムの水蒸気透過性により、内部の泳動媒体Qの濃度が変化してしまうリスクである。ゴム栓203の材質にシリコーンゴムが用いられている場合も同様の課題が生じる。
【0088】
このようなリスクを避けるため、シリンジ20A及びシリンジ20Bのような構造を有してもよい。
シリンジ20Aは、水蒸気透過性の低い部材、例えばアルミシート801等で、シリンジ20Aの端面及びゴム栓203の端面のそれぞれを封じている。そして、ユーザは、使用直前にアルミシート801をはがす。
【0089】
また、シリンジ20Bでは、
図22Bのピストン1iが使用されている。
すなわち、水蒸気透過性の低いゴム材、例えばブチルゴム製のOリング14が剛性部11iの側面に装着され、このOリング14が外筒202内壁に接触している。ただし、Oリング14の外筒202内壁への接触力は、軟性部12(
図22B参照)のそれと比較して小さくなるようにする。これによって、Oリング14がピストン1iの摺動抵抗を上げないようにする。このOリング14は、万一、ピストン1iと、外筒202の内壁との隙間から内部の泳動媒体Qが漏れたときに、それが外部に漏洩することを防ぐ働きも兼ねる。同様に、ゴム栓203の端面も水蒸気透過性の低いゴム材、例えばブチルゴム製の蓋802でカバーされる。
【0090】
(適用例4)
マイクロチップ電気泳動装置では、ユーザがプラスチックシリンジを用いて泳動媒体Qを手作業でチャンネルに充填している。しかし、従来のプラスチック製のシリンジは耐圧性能がないため、粘性の高い泳動媒体Qを高圧で充填することができなかった。
そこで、本実施形態のピストン1を用いたプラスチック製のシリンジ20a(
図23参照)を用いることによって、耐圧性能を向上させ、粘性の高い泳動媒体Qを手作業かつ高圧で充填することが可能となる。例えば、シリンジ20aの内径を1mmとすれば、プランジャ61を押す力が1kgfで100気圧(10MPa)となるが、本実施形態のピストン1を用いることによって、この圧力に耐えることができる。このように、本実施形態のピストン1を用いたシリンジ20を用いることにより、手技によっても容易に10MPa以上の高圧を実現させることができる。
【0091】
図26は、電気泳動を始めとする様々な分析を行うマイクロチップ901の断面を模式的に表した図である。
マイクロチップ901の内部には、単数
又は複数のマイクロチャンネル902が形成されている(
図26では単数のマイクロチャンネル902が示されている)。マイクロチャンネル902にはそれぞれ開口部903及び開口部904が形成されている。マイクロチャンネル902は微細であるため、分離媒体を始めとする様々な分析溶液Q1を内部に充填するには高圧力を要する。
図26は、分析溶液(媒体)Q1を満たしたシリンジ20cを開口部904に接続した状態を示している。なお、分析溶液Q1は、これまでの泳動媒体Qに相当するものである。この状態で、シリンジ20cのプランジャ61を押し下げることによって、シリンジ20c内部の分析溶液Q1に高圧力を印加し、分析溶液Q1を開口部904から開口部903に向かって充填する。なお、シリンジ20cは、
図23のシリンジ20aからニードル751を外したものである。
【0092】
以上では、シリンジ20(20a〜20c)が円筒形状であるものを主として取り扱ってきたが、シリンジ20の内表面が円筒形状であればよく、シリンジ20の外表面はどのような形状でも構わない。
【0093】
図27は、
図26とは別のマイクロチップ901aの断面を模式的に表した図である。
図27において、
図26と同様の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。
図27に示すマイクロチップ901aは、マイクロチャンネル902の開口部904にピストン1kが埋め込まれ、開口部904近傍そのものをシリンジ20(
図8A、図8B参照)として機能させている例を示している。すなわち、マイクロチップ901aそのものがシリンジ20に相当する。ここで、マイクロチャンネル902は泳動媒体Qで満たされている。なお、
図27では、
図22Bのピストン1eの剛性部11eに、ユーザが押動するための押部15が備えられた剛性部11kを有するピストン1kが用いられている。もちろん、
図6及び
図7のピストン1や、
図22A及び
図22Bのピストン1a〜1jが用いられてもよいし、これらのピストン1,1a〜1d,1f〜1jに押部15が備えられたものが用いられてもよい。
前記したように、マイクロチップ
901aそのものがシリンジ20に相当する。このことから、シリンジ20の内表面はマイクロチャンネル902の円筒形状であるが、シリンジ20の外表面はマイクロチップ901aの形状となる。ピストン1
kを用いることにより、シリンジ20内部に高圧を印加できるだけでなく、マイクロチップ901aを用いた分析システム(不図示)全体を小型化することが可能となる。
【0094】
(適用例5)
特許第4890670号明細書の
図8〜
図10に記載の液体分注装置で用いられるシリンジに、本実施形態のピストン1を適用することができる。本実施形態のピストン1を適用することにより、粘性の高い液体(泳動媒体Q)を細い流路に送液する場合等、高圧力を必要とする用途にも使用できるようになる。さらに、本実施形態のピストン1は、磨耗による劣化が小さいため、耐久性がある。そのため、交換回数を減らすことができ、交換コストを低くすることができる。
【0095】
本実施形態のピストン1が用いられることで、少なくとも0.1MPa以上、望ましくは1MPa以上、さらに望ましくは10MPa以上の高圧の耐圧性能を有するプラスチック製のシリンジ20,20a(
図3〜
図5、
図8A、図8B及び
図23)を、安価に提供することができる。特に、内径が10mm以下、より望ましくは5mm以下のシリンジ20を用いながら、小さな摺動抵抗で高耐圧性能及び低リーク性を実現することができる。
【0096】
(適用例6)
図28は、油圧ポンプ911に、本実施形態のピストン1kを適用したものを示す図である。
図28に示す通り、内部をオイル(媒体)Q2で満たした油圧ポンプ911において、紙面右側の外径の小さな筒におけるオイル端面912にピストン1kが装着され、紙面左側の外径の大きな筒におけるオイル端面913に駆動対象914を装着する。なお、オイルQ2は、これまでの泳動媒体Qに相当するものである。なお、
図28では、
図22Bのピストン1eの剛性部11eに、ユーザが押動するための押部15が備えられた剛性部11kを有するピストン1kが用いられている。もちろん、
図6及び
図7のピストン1や、
図22A及び
図22Bのピストン1a〜1jが用いられてもよいし、これらのピストン1,1a〜1d,1f〜1jに押部15が備えられたものが用いられてもよい。
この状態でピストン1を紙面下向きに押動すると(白抜矢印)、内部のオイルQ2が高圧状態となる。このとき、駆動対象914には、オイル端面912とオイル端面913の面積比に応じた紙面上向きの非常に大きな力が作用することになる。このような用途においても、安価に入手可能なピストン1kはシール性能が維持され、目的を果たすことができる。
【0097】
以上では、シリンジ20(20a〜20c)、あるいは外筒202(202a)は頑丈に構成されている場合を中心に説明してきたが、必ずしもそのような構成である必要はない。
【0098】
図29Aは、耐圧性はあるが、柔軟性のあるチューブ921がシリンジ20の外筒202(202a)の代わりに用いられる場合について説明する図である。
図29Bは、ピストン1eが装着されているチューブ921の端部922近傍(符号923)の拡大図である。
図29Aに示すように、オイル
容器924に、フレキシブルなチューブ921(例えば、PEEKチューブ)
が接続されている。チューブ921及びオイ
ル容器924は、オイルQ2で満たされている。前記したように、オイルQ2は、これまでの泳動媒体Qに相当するものである。また、
図29Aの符号923の拡大図である
図29Bに示すように、このチューブ921の端部922にピストン1eが装着されている。なお、
図29Aに示すように、オイル端面913は、
図28のオイル端面913と同様の構成を有しており、駆動対象914が装着されている。また、
図29A及び
図29Bでは、
図22Bに示すピストン1eが適用されている。もちろん、
図6及び
図7に示すピストン1や、
図22A、
図22Bに示す各ピストン1a〜1d,1f〜1jが用いられてもよい。チューブ921の内部は、空気が混入しないように、オイルQ2で満たされている。そして、
図28と同様に、端部922のピストン1eが押動されることによって、オイル端面913において、ピストン1eの押動力の何倍もの駆動力を得ることができる。
【0099】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。
本実施形態では、ピストン1がシリンジ20内を摺動することによって、シリンジ20内の媒体(泳動媒体Q等)がシリンジ20から射出されるものとしているが、ピストン1がシリンジ20内を摺動することによって、媒体(泳動媒体Q等)がシリンジ20に吸入されるものでもよい。
また、本実施形態では、窪み部Hの最深部が軟性部12の中心軸T上にあるものとしているが、これに限らず、窪み部Hの最深部が軟性部12の中心軸Tからずれたところに位置するようにしてもよい。また、
図22Bのピストン1fでは、窪み部Hfが1重のリング状の溝を形成しているが、これに限らず、2重、3重の溝を形成するようにしてもよい。