(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ミストCVD法は、他のCVD法とは異なり高温にする必要もなく、α−酸化ガリウムのコランダム構造のような準安定相の結晶構造も作製可能である。
【0006】
しかしながら、これまで、キャリアガスの温度の影響については、特段の配慮はされてこなかった。すなわち、キャリアガス源が屋外に配置してあったり、屋内にあっても空調のない部屋に配置されていたりすれば、キャリアガスの温度が変動し、成膜速度に少なからず影響を及ぼすことが判明した。
これに対し、本発明者は、発生させたミストが基板に搬送されるまでの間に、供給管内で凝縮、凝集して結露し(ミストの寿命低下)、結露したミストは成膜部へ送られず成膜速度が低下するという新たな問題点を見出し、これはキャリアガス流量が小さいときに影響が顕著に表れることを見出した。
さらに、供給配管にキャリアガスを導入すると、配管内の水蒸気分圧が低下し、この結果ミストが消滅(蒸発)してしまい、成膜に寄与できるミスト量が低下して成膜速度も低下するという新たな問題点を見出し、これはキャリアガス流量が大きいときに影響が顕著に表れることを見出した。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、成膜速度に優れた成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、成膜部でミストを熱処理して成膜を行う成膜方法であって、ミスト化部において、原料溶液をミスト化してミストを発生させる工程と、前記ミスト化部と前記成膜部とを接続する搬送部を介して、前記ミスト化部から前記成膜部へと、前記ミストをキャリアガスにより搬送する工程と、前記成膜部において、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程とを含み、前記キャリアガスの流量をQ(L/分)、前記キャリアガスの温度をT(℃)としたとき、7<T+Q<67となるように、前記キャリアガスの流量及び前記キャリアガスの温度の制御を行う成膜方法を提供する。
【0009】
このような成膜方法によれば、簡便な方法により成膜速度を大きく改善することが可能となる。
【0010】
このとき、前記T+Qを、17<T+Q<57とする成膜方法とすることができる。
【0011】
これにより、より確実に成膜速度を大きく改善することができる。
【0012】
このとき、前記T+Qを、27<T+Q<47とする成膜方法とすることができる。
【0013】
これにより、さらに安定して成膜速度を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の成膜方法によれば、簡便な方法により成膜速度を大きく改善することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
上述のように、ミストCVD法において、成膜速度を大きく改善する成膜方法が求められていた。
【0018】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、成膜部でミストを熱処理して成膜を行う成膜方法であって、ミスト化部において、原料溶液をミスト化してミストを発生させる工程と、前記ミスト化部と前記成膜部とを接続する搬送部を介して、前記ミスト化部から前記成膜部へと、前記ミストをキャリアガスにより搬送する工程と、前記成膜部において、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程とを含み、前記キャリアガスの流量をQ(L/分)、前記キャリアガスの温度をT(℃)としたとき、7<T+Q<67となるように、前記キャリアガスの流量及び前記キャリアガスの温度の制御を行う成膜方法により、簡便に、搬送部でのミスト消滅を抑制し、搬送部でのミストの寿命を延ばし、成膜速度を高くすることが可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
ここで、本発明でいうミストとは、気体中に分散した液体の微粒子の総称を指し、霧、液滴等と呼ばれるものを含む。
【0021】
図1に、本発明に係る成膜方法に使用可能な成膜装置101の一例を示す。成膜装置101は、原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部120と、ミストを搬送するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部130と、ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部140と、ミスト化部120と成膜部140とを接続し、キャリアガスによってミストが搬送される搬送部109とを有する。また、成膜装置101は、成膜装置101の全体又は一部を制御する制御部(図示なし)を備えることによって、その動作が制御されてもよい。
【0022】
(ミスト化部)
ミスト化部120では、原料溶液104aを調整し、前記原料溶液104aをミスト化してミストを発生させる。ミスト化手段は、原料溶液104aをミスト化できさえすれば特に限定されず、公知のミスト化手段であってよいが、超音波振動によるミスト化手段を用いることが好ましい。より安定してミスト化することができるためである。
このようなミスト化部120の一例を
図2に示す。例えば、原料溶液104aが収容されるミスト発生源104と、超音波振動を伝達可能な媒体、例えば水105aが入れられる容器105と、容器105の底面に取り付けられた超音波振動子106を含んでもよい。詳細には、原料溶液104aが収容されている容器からなるミスト発生源104が、水105aが収容されている容器105に、支持体(図示せず)を用いて収納されている。容器105の底部には、超音波振動子106が備え付けられており、超音波振動子106と発振器116とが接続されている。そして、発振器116を作動させると、超音波振動子106が振動し、水105aを介して、ミスト発生源104内に超音波が伝播し、原料溶液104aがミスト化するように構成されている。
【0023】
(成膜部)
再び
図1を参照し、成膜部140では、ミストを加熱し熱反応を生じさせて、基体110の表面の一部又は全部に成膜を行う。成膜部140は、例えば、成膜室107を備え、成膜室107内には基体110が設置されており、該基体110を加熱するためのホットプレート108を備えることができる。ホットプレート108は、
図1に示されるように成膜室107の外部に設けられていてもよいし、成膜室107の内部に設けられていてもよい。また、成膜室107には、基体110へのミストの供給に影響を及ぼさない位置に、排ガスの排気口112が設けられている。
なお、本発明においては、基体110を成膜室107の上面に設置するなどして、フェイスダウンとしてもよいし、基体110を成膜室107の底面に設置して、フェイスアップとしてもよい。
熱反応は、加熱によりミストが反応すればよく、反応条件等も特に限定されない。原料や成膜物に応じて適宜設定することができる。例えば、加熱温度は120〜600℃の範囲であり、好ましくは200℃〜600℃の範囲であり、より好ましくは300℃〜550℃の範囲とすることができる。
熱反応は、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下、空気雰囲気下及び酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、成膜物に応じて適宜設定すればよい。また、反応圧力は、大気圧下、加圧下又は減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、大気圧下の成膜であれば、装置構成が簡略化できるので好ましい。
【0024】
(搬送部)
搬送部109は、ミスト化部120と成膜部140とを接続する。搬送部109を介して、ミスト化部120のミスト発生源104から成膜部140の成膜室107へと、キャリアガスによってミストが搬送される。搬送部109は、例えば、供給管109aとすることができる。供給管109aとしては、例えば石英管や樹脂製のチューブなどを使用することができる。
【0025】
(原料溶液)
原料溶液104aは、ミスト化が可能な材料を含んでいれば特に限定されず、無機材料であっても、有機材料であってもよい。金属又は金属化合物が好適に用いられ、ガリウム、鉄、インジウム、アルミニウム、バナジウム、チタン、クロム、ロジウム、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の金属を含むものを使用できる。
前記原料溶液104aは、上記金属をミスト化できるものであれば特に限定されないが、前記原料溶液104aとして、前記金属を錯体又は塩の形態で、有機溶媒又は水に溶解又は分散させたものを好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩などが挙げられる。また、上記金属を、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸等に溶解したものも塩の水溶液として用いることができる。
また、前記原料溶液104aには、ハロゲン化水素酸や酸化剤等の添加剤を混合してもよい。前記ハロゲン化水素酸としては、例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸などが挙げられるが、なかでも、臭化水素酸又はヨウ化水素酸が好ましい。前記酸化剤としては、例えば、過酸化水素(H
2O
2)、過酸化ナトリウム(Na
2O
2)、過酸化バリウム(BaO
2)、過酸化ベンゾイル(C
6H
5CO)
2O
2等の過酸化物、次亜塩素酸(HClO)、過塩素酸、硝酸、オゾン水、過酢酸やニトロベンゼン等の有機過酸化物などが挙げられる。
さらに、前記原料溶液には、ドーパントが含まれていてもよい。前記ドーパントは特に限定されない。例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム又はニオブ等のn型ドーパント、又は、銅、銀、スズ、イリジウム、ロジウム等のp型ドーパントなどが挙げられる。ドーパントの濃度は、例えば、約1×10
16/cm
3〜1×10
22/cm
3であってもよく、約1×10
17/cm
3以下の低濃度にしても、約1×10
20/cm
3以上の高濃度としてもよい。
【0026】
(基体)
基体110は、成膜可能であり膜を支持できるものであれば特に限定されない。前記基体110の材料も、特に限定されず、公知の基体を用いることができ、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。例えば、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、鉄やアルミニウム、ステンレス鋼、金等の金属、シリコン、サファイア、石英、ガラス、酸化ガリウム等が挙げられるが、これに限られるものではない。前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、板状の基体が好ましい。板状の基体の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、10〜2000μmであり、より好ましくは50〜800μmである。基体が板状の場合、その面積は100mm
2以上が好ましく、より好ましくは口径が2インチ(50mm)以上である。
【0027】
(キャリアガス供給部)
キャリアガス供給部130は、キャリアガスを供給するキャリアガス源102aを有し、キャリアガス源102aから送り出されるキャリアガス(以下、「主キャリアガス」という)の流量を調節するための流量調節弁103aを備えていてもよい。また、必要に応じて希釈用キャリアガスを供給する希釈用キャリアガス源102bや、希釈用キャリアガス源102bから送り出される希釈用キャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103bを備えることもできる。
キャリアガスの種類は、特に限定されず、成膜物に応じて適宜選択可能である。例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、又は水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類でも、2種類以上であってもよい。例えば、第1のキャリアガスと同じガスをそれ以外のガスで希釈した(例えば10倍に希釈した)希釈ガスなどを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよく、空気を用いることもできる。
また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。
【0028】
本発明においては、キャリアガスの流量Qは、キャリアガスの総流量を指す。上記の例では、キャリアガス源102aから送り出される主キャリアガスの流量と、希釈用キャリアガス源102bから送り出される希釈用キャリアガスの流量の総量を、キャリアガスの流量Qとする。
キャリアガスの流量Qは、特に限定されない。例えば、30mm角基板上に成膜する場合には、0.01〜60L/分とすることが好ましく、1〜30L/分とすることがより好ましい。
【0029】
(キャリアガス温度制御部)
成膜装置101は、キャリアガスの温度Tを調節可能なキャリアガス温度制御部150を有する。キャリアガスの温度Tの制御方法は特に限定されない。例えば、キャリアガスの配管部分に温度調整した水の配管を巻く方法が挙げられる。他に、加熱ジャケットを装着する方法、配管部分を赤外線で加熱する方法などにより加熱を行うことが可能である。また、低温に制御する場合は、キャリアガス配管を冷凍庫内に引き回すことによって冷却を行うことも可能であるし、配管部分を液体窒素やフロン等の冷媒を用いて直接、もしくは、配管等を介して間接的に冷却してもよい。キャリアガス源102a、102bが容器である場合は当該容器そのものを上記のような方法で温調してもよいし、容器の設置された室内を温調することでキャリアガス温度Tを制御してもかまわない。
図1に示すように、キャリアガス供給部130においてキャリアガスの温度Tを制御し、搬送部109に供給することが簡便であり好ましいが、キャリアガスの温度Tを速やかに制御できるのであれば、キャリアガス供給部130と搬送部109との接続部、及び/又は、キャリアガス供給部130とミスト化部120との接続部で、キャリアガスの温度を制御することとしてもよい。
【0030】
本発明は、キャリアガスの温度Tとキャリアガスの流量Qとをパラメータに採用し、TとQのそれぞれを制御して、T+Qを一定範囲として成膜を行う点に特徴がある。T+Qについては、後で詳述する。
【0031】
(成膜方法)
次に、以下、
図1を参照しながら、本発明に係る成膜方法の一例を説明する。
まず、原料溶液104aをミスト化部120のミスト発生源104内に収容し、基体110をホットプレート108上に直接又は成膜室107の壁を介して設置し、ホットプレート108を作動させる。
また、キャリアガス温度制御部150においてキャリアガスを加熱又は冷却することにより、キャリアガスの温度Tを制御する。
次に、流量調節弁103a、103bを開いてキャリアガス源102a、102bからキャリアガスを成膜室107内に供給し、成膜室107の雰囲気をキャリアガスで十分に置換するとともに、主キャリアガスの流量と希釈用キャリアガスの流量をそれぞれ調節し、キャリアガス流量Qを制御する。
ミストを発生させる工程では、超音波振動子106を振動させ、その振動を、水105aを通じて原料溶液104aに伝播させることによって、原料溶液104aをミスト化させてミストを生成する。次に、ミストをキャリアガスにより搬送する工程では、ミストがキャリアガスによってミスト化部120から搬送部109を経て成膜部140へ搬送され、成膜室107内に導入される。成膜を行う工程で、成膜室107内に導入されたミストは、成膜室107内でホットプレート108の熱により熱処理され熱反応して、基体110上に成膜される。
【0032】
ここで、本発明者が、キャリアガス流量Qとキャリアガス温度Tに着目し、成膜速度について調査した結果について説明する。
図3に、上述の成膜方法を用いて、キャリアガス流量Q(L/分)、キャリアガス温度T(℃)、成膜速度(μm/時間)の関係を調査した結果を示す。縦軸に成膜速度、横軸にキャリアガス温度Tをとり、キャリアガス流量Qごとにプロットを区別したものである。
キャリアガス流量Q=5.5L/分に注目すると、成膜速度は、キャリアガス温度T=40℃付近で最大となり、キャリアガス温度Tが約0℃以下及び約60℃以上の範囲で急激に低下する。同様に、キャリアガス流量Q=22L/分の場合は、キャリアガス温度T=20℃付近で最大となり、キャリアガス温度Tが約−15℃以下及び約45℃以上の範囲で急激に低下する。キャリアガス流量Q=44L/分の場合は、キャリアガス温度T=−5℃付近で最大となり、キャリアガス温度Tが約−35℃以下及び約25℃以上の範囲で急激に低下する。
このように、キャリアガス流量Qによりキャリアガスの最適温度域が異なることが判明した。
【0033】
ところが、キャリアガス温度をT(℃)、キャリアガス流量をQ(L/分)としたとき、T+Qと、成膜速度との関係を用いて整理すると、驚くべきことに、キャリアガス流量Q、キャリアガス温度Tによらず、T+Qが40付近で成膜速度が最大となり、T+Qが7以下及び67以上の範囲では成膜速度は急激に低下することが判明した(
図4)。言い換えると、キャリアガス温度をT(℃)、キャリアガス流量をQ(L/分)としたときに、7<T+Q<67という関係を満たしている限り、T、Qとしてどのような値を採用するとしても、安定して高い成膜速度を実現できることがわかった。
【0034】
上述のように、本発明によれば、キャリアガスの温度をT(℃)、キャリアガスの流量をQ(L/分)としたとき、7<T+Q<67となるようにキャリアガスの温度Tとキャリアガスの流量Qとを制御することで、搬送部109でのミストの凝縮、蒸発が抑制でき、成膜速度を改善することができる。T+Qの範囲は、好ましくは17<T+Q<57であり、より確実に成膜速度を大きく改善することができる。より好ましくは27<T+Q<47であり、さらに安定して成膜速度を大きくすることができる。
【0035】
7≧T+Q、すなわち、7−Q≧Tの場合、搬送部109の配管内の水蒸気は過飽和となり、過飽和となった水蒸気はミストを核に凝集する。これによりミストは肥大化し、沈降速度が大きくなって、大量のミストが配管内に沈降・結露し、成膜部へ送られるミスト量は減少して、結果的に成膜速度は低下すると考えられる。
また、T+Q≧67、すなわち、T≧67−Qの場合、搬送部109の配管内の飽和水蒸気圧は増大する。ミストは配管内を水蒸気で飽和させるべく蒸発していき、この場合も成膜部へ送られるミスト量は減少して、結果的に成膜速度は低下すると考えられる。成膜部へ送られる水の総量は同じだが、成膜に寄与できるミストが減少してしまうのである。
【0036】
なお、キャリアガスの温度Tは、搬送部109におけるキャリアガスの温度である。搬送部109内でのミスト量の減少を抑制するためには、搬送部109の全域で7<T+Q<67の関係を満たすのが望ましい。
【0037】
キャリアガスの温度Tは、キャリアガス供給部130と搬送部109との接続部、及び/又は、キャリアガス供給部130とミスト化部120との接続部のキャリアガス温度を直接測定することが好ましいが、定常状態であれば該当する箇所の配管外壁の温度で代用することも可能である。
【0038】
搬送部109の長さや、搬送部109が設置されている環境によっては、キャリアガスの温度変化が無視できる場合もあり、必ずしも搬送部109の温度を調節する必要はない。しかしながら、搬送部109に温度調節手段を設けて温度の制御を行うと、より安定してT+Qを制御できるので好ましい。また、さらに、搬送部109と成膜部140との接続部で温度測定を行い、キャリアガス温度Tの制御を行うことも好ましい。このようにすることで、より安定してT+Qを制御できる。
【0039】
なお、7<T+Q<67の関係を満たす限り、必ずしも、搬送部内全域でキャリアガス温度Tが一定である必要はない。例えば、7<T+Q<67は、7−Q<T<67−Qと変形できるから、設定したキャリアガスの流量Qに応じた範囲内で、変動することも許容される。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0041】
(実施例1)
上述の成膜方法に基づいて、コランダム構造を有する酸化ガリウム(α−Ga
2O
3)の成膜を行った。
具体的には、まず、臭化ガリウム0.1mol/
Lの水溶液を調整し、さらに48%臭化水素酸溶液を体積比で10%となるように含有させ、これを原料溶液104aとした。
上述のようにして得た原料溶液104aをミスト発生源104内に収容した。このときの溶液の温度は25℃であった。次に、基体110として4インチ(直径100mm)のc面サファイア基板を、成膜室107内でホットプレート108に隣接するように設置し、ホットプレート108を作動させて温度を500℃に昇温した。
続いて、流量調節弁103a、103bを開いてキャリアガス源102a、102bからキャリアガスとして酸素ガスを成膜室107内に供給し、成膜室107の雰囲気をキャリアガスで十分に置換するとともに、主キャリアガスの流量を5L/分に、希釈用キャリアガスの流量を0.5L/minにそれぞれ調節した。すなわち、キャリアガス流量Q=5.5L/分とした。
キャリアガス温度Tは、キャリアガス温度制御部150として、キャリアガス供給配管の周囲に温度調整した水の配管を巻くことで、調整できるようにした。
実施例1においては、キャリアガス温度Tを45℃とした。つまり、T+Q=50.5である。
次に、超音波振動子106を2.4MHzで振動させ、その振動を、水105aを通じて原料溶液104aに伝播させることによって、原料溶液104aをミスト化してミストを生成した。このミストを、キャリアガスによって供給管109aを経て成膜室107内に導入した。そして、大気圧下、500℃の条件で、成膜室107内でミストを熱反応させて、基体110上にコランダム構造を有する酸化ガリウム(α−Ga
2O
3)の薄膜を形成した。成膜時間は30分とした。
【0042】
成長速度の評価は以下のように行った。まず、基体110上の薄膜について、測定箇所を基体110の面内の17点として、段差計を用いて膜厚を測定し、それぞれの膜厚の値から平均値を算出し平均膜厚を得た。得られた平均膜厚を成膜時間で割った値を成膜速度とした。
【0043】
(比較例1)
キャリアガスの温度Tを74℃、すなわち、T+Q=79.5としたこと以外は、実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。
【0044】
(実施例2)
主キャリアガスの流量を20L/分に、希釈用キャリアガスの流量を2L/分にそれぞれ調節して、キャリアガス流量Q=22L/分とし、キャリアガスの温度Tを10℃、すなわち、T+Q=32としたこと以外は、実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。
【0045】
(比較例2)
キャリアガスの温度Tを55℃、すなわち、T+Q=77としたこと以外は、実施例2と同じ条件で成膜、評価を行った。
【0046】
(実施例3)
主キャリアガスの流量を40L/分に、希釈用キャリアガスの流量を4L/分にそれぞれ調節して、キャリアガス流量Q=44L/分とし、キャリアガスの温度Tを20℃、すなわち、T+Q=64としたこと以外は、実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。
【0047】
(比較例3)
キャリアガスの温度Tを35℃、すなわち、T+Q=79としたこと以外は、実施例3と同じ条件で成膜、評価を行った。
【0048】
表1に、実施例1−3、比較例1−3の条件及び成膜速度の評価を行った結果を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
キャリアガス流量が同じ実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3の比較から明らかなように、7<T+Q<67の場合と、それ以外の場合とで、成膜速度が大きく異なることがわかる。また、7<T+Q<67を満足する限り、T、Qのそれぞれがどのような値であっても、高い成膜速度を実現することができた。
この結果、簡便な方法により成膜速度を大きく改善することが可能となった。
【0051】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。