特許第6875608号(P6875608)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

特許6875608ビニルアルコール系ブロック共重合体及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6875608
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】ビニルアルコール系ブロック共重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 293/00 20060101AFI20210517BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   C08F293/00
   C08F8/12
【請求項の数】8
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2020-557362(P2020-557362)
(86)(22)【出願日】2020年6月25日
(86)【国際出願番号】JP2020024961
【審査請求日】2020年10月16日
(31)【優先権主張番号】特願2019-122215(P2019-122215)
(32)【優先日】2019年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】特許業務法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 拓未
(72)【発明者】
【氏名】三島 一俊
(72)【発明者】
【氏名】小西 啓之
(72)【発明者】
【氏名】前川 一彦
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−075505(JP,A)
【文献】 特開2004−323800(JP,A)
【文献】 特開2009−138154(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133034(WO,A1)
【文献】 WANG et al.,Highly stretchable free-standing poly (acrylic acid)-block-poly (vinyl alcohol) films obtained from,Macromolecules,米国,American Chemical Society,2017年 7月31日,2017, 50,6054-6063
【文献】 KOUMURA et al.,Mn2(CO)10-induced controlled/living radical copolymerization of vinyl acetate and methyl acrylate: s,Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry,米国,Wiley Periodicals, Inc.,2008年12月 6日,Vol.47, 2009,1343-1353
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 251/00 − 283/00
C08F 283/02 − 289/00
C08F 291/00 − 397/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)と、ビニルアルコール系単量体単位及びアクリル酸系単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c)からなるブロック共重合体であって、
全単量体単位に対する、アクリル酸系単量体単位の含有量(Z)が0.05〜20.0モル%であり、
けん化度が80〜99.99モル%であり、
前記ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)が20,000〜440,000であり、
分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.95であり、
前記ブロック共重合体の数平均重合度(DP)に対する、前記ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度(DP)の比(DP/DP)が0.010〜0.999である、ビニルアルコール系ブロック共重合体。
【請求項2】
前記ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度(DP)が450〜5,000である、請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項3】
前記共重合体ブロック(B-c)中の、全単量体単位に対する、アクリル酸系単量体単位の含有量(R)が0.1〜50.0モル%である、請求項1又は2に記載のブロック共重合体。
【請求項4】
前記アクリル酸系単量体単位の含有量(Z)[モル%]と、前記ブロック共重合体をけん化度99モル%以上に再けん化した重合体の結晶融解温度(Q)[℃]が下記式(1)を満足する、請求項1〜3のいずれかに記載のブロック共重合体。
2Z+Q≧225 (1)
【請求項5】
前記ブロック共重合体を酸性水溶液中で加熱処理してから乾燥させた重合体における、アクリル酸単量体単位及びラクトン環の合計に対する、ラクトン環のモル比(V)[ラクトン環/アクリル酸単量体単位及びラクトン環の合計]が0.70以上である、請求項1〜4のいずれかに記載のブロック共重合体。
【請求項6】
二元ブロック共重合体又は三元ブロック共重合体である、請求項1〜5のいずれかに記載のブロック共重合体。
【請求項7】
ラジカル開始剤及び有機コバルト錯体の存在下に制御ラジカル重合によってビニルエステルの重合と、ビニルエステル及びアクリル酸エステルの共重合とを行って、ビニルエステル重合体ブロック(B-b1)と、ビニルエステル単量体単位及びアクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c1)からなるビニルエステル系ブロック共重合体を得る重合工程、及び
前記重合工程で得られたビニルエステル系ブロック共重合体をけん化して、ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)と、ビニルアルコール系単量体単位及びアクリル酸系単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c)からなるビニルアルコール系ブロック共重合体を得るけん化工程を有する、請求項1〜のいずれかに記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記アクリル酸エステルがアクリル酸メチルである、請求項に記載のビニルアルコール系ブロック共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液状態での取り扱い性に優れ、かつ力学強度に優れた皮膜を形成することができるビニルアルコール系ブロック共重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、PVAと略すことがある)樹脂は、結晶性の水溶性高分子材料であり、その優れた水溶性や皮膜特性(強度、耐油性、造膜性、酸素ガスバリア性等)を利用して、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、繊維加工剤、各種バインダー、紙加工剤、接着剤、フィルム等に広く利用されている。従来から、けん化度や重合度の異なるPVAが、用途に応じて使用されている。また、PVAに官能基を導入することにより、特殊な機能を付与した変性PVAも種々提案されている。
【0003】
ところで、PVAは結晶性高分子であるため、けん化度が高過ぎると水への溶解度が低くなる。それに対して、水溶性を担保するために、けん化度を低くする方法、ビニルエステルとその他の単量体とをランダム共重合することにより結晶性を下げる方法などが知られている。しかしながら、このような方法で得られたPVAを製膜後、乾燥したフィルムは結晶性が低いために、力学強度、バリア性、耐水性などの性能が不十分であることが知られている。
【0004】
このようなフィルムの性能の低下を防止する方策として、PVAにアクリル酸系単位をランダム共重合により導入して、イオン架橋を形成させることで耐水性を向上させる方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら当該方法で得られるPVAは結晶性が低いために得られるフィルムの耐水性や皮膜強度がなお不十分であった。
【0005】
PVAの水溶性と皮膜物性を両立する方法として、PVAブロックと親水性ブロックとのブロックコポリマーを用いる方法が考えられる。
【0006】
特許文献2には、PVAブロックと、親水性モノマーと疎水性モノマーを共重合させることにより形成されるブロックとが疎水性リンカーで結合されたブロックコポリマーが提案されている。しかしながら、当該ブロックポリマーは、疎水部を有するため、水溶性向上効果に懸念があった。また、特許文献2に記載された発明では、連鎖移動反応によりポリビニルエステルの末端をハロゲン化してブロック共重合の起点を作っているが、連鎖移動反応には、高分子量化と高効率ハロゲン化を両立できないという欠点があった。具体的には、ハロゲン化効率を高めようとすると、連鎖移動が進んでPVAブロックの分子量を大きくすることができないため、十分な皮膜物性が得られなかった。
【0007】
非特許文献1には、PVAブロックとポリアクリル酸ブロックとの完全ブロックコポリマーが記載されている。しかしながら、ポリアクリル酸ブロックはpH感受性が高すぎるために、例えばアルカリ水溶液中ではゲル化して溶液として取り扱えない、溶液安定性が悪いなどの懸念があり、使用方法が大きく制限された。
【0008】
非特許文献2には、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体ブロックとポリ酢酸ビニルブロックとのブロックコポリマーを脱水溶媒中でけん化することにより得られたビニルアルコール−アクリル酸エステル共重合体ブロックとPVAブロックとのブロックコポリマーが記載されている。非特許文献2に記載されたブロックコポリマーはPVAブロックに対するビニルアルコール−アクリル酸エステル共重合体ブロックの割合が大きく、PVA由来の皮膜物性が期待できないという懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09−278827号公報
【特許文献2】特開2010−209336号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Highly Stretchable Free-Standing Poly(acrylic acid)-block-poly(vinyl alcohol) Films Obtained from Cobalt-Mediated Radical Polymerization, Macromolecules, 2017, vol.50, p6054-6063
【非特許文献2】Mn2(CO)10-Induced Controlled/Living Radical Copolymerization of Vinyl Acetate and Methyl Acrylate: Spontaneous Formation of Block Copolymers Consisting of Gradient and Homopolymer Segments, Journal of Polymer Science: PartA: Polymer Chemistry, 2009, vol.47, p1343-1353
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、水溶性、水溶液安定性及び強度に優れるビニルアルコール系ブロック共重合体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)と、ビニルアルコール系単量体単位及びアクリル酸系単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c)からなるブロック共重合体であって、全単量体単位に対する、アクリル酸系単量体単位の含有量(Z)が0.05〜20.0モル%であり、けん化度が80〜99.99モル%であり、前記ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)が20,000〜440,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.95であり、前記ブロック共重合体の数平均重合度(DP)に対する、前記ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度(DP)の比(DP/DP)が0.010〜0.999である、ビニルアルコール系ブロック共重合体を提供することによって解決される。
【0013】
このとき、前記ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度(DP)が450〜5,000であることが好ましい。前記共重合体ブロック(B-c)中の、全単量体単位に対する、アクリル酸系単量体単位の含有量(R)が0.1〜50.0モル%であることも好ましい。
【0014】
前記アクリル酸系単量体単位の含有量(Z)[モル%]と、前記ブロック共重合体をけん化度99モル%以上に再けん化した重合体の結晶融解温度(Q)[℃]が下記式(1)を満足することも好ましい。
2Z+Q≧225 (1)
【0015】
前記ブロック共重合体を酸性水溶液中で加熱処理してから乾燥させた重合体における、アクリル酸単量体単位及びラクトン環の合計に対する、ラクトン環のモル比(V)[ラクトン環/アクリル酸単量体単位及びラクトン環の合計]が0.70以上であることも好ましい。
【0016】
上記課題は、ラジカル開始剤及び有機コバルト錯体の存在下に制御ラジカル重合によってビニルエステルの重合と、ビニルエステル及びアクリル酸エステルの共重合とを行って、ビニルエステル重合体ブロック(B-b1)と、ビニルエステル単量体単位及びアクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c1)からなるビニルエステル系ブロック共重合体を得る重合工程、及び前記重合工程で得られたビニルエステル系ブロック共重合体をけん化して、ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)と、ビニルアルコール系単量体単位及びアクリル酸系単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c)からなるビニルアルコール系ブロック共重合体を得るけん化工程を有する、前記ブロック共重合体の製造方法を提供することによっても解決される。このとき、前記アクリル酸エステルがアクリル酸メチルであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体は、共重合体ブロック(B-c)に由来する、水溶性に優れ、pH変動による増粘やゲル化が生じないという良好なバランスと、ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)に由来する高い力学強度とを併せ持つ。本発明の製造方法によれば、そのようなビニルアルコール系ブロック共重合体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体は、ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)と、ビニルアルコール系単量体単位及びアクリル酸系単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c)からなるものであって、全単量体単位に対する、アクリル酸系単量体単位の含有量(Z)が0.05〜20.0モル%であり、けん化度が80〜99.99モル%であり、前記ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)が20,000〜440,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.95であり、前記ブロック共重合体の数平均重合度(DP)に対する、前記ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度(DP)の比(DP/DP)が0.010〜0.999であるものである。
【0019】
本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体は、水溶性に優れ、pH変動により増粘したり、ゲル化したりすることもなく、優れたバランスを保っているうえに、高い力学強度を示す。水溶性及びpH変動に対する安定性は、ビニルアルコール系単量体単位と、親水性の単量体単位として機能するアクリル酸系単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c)に起因し、力学強度はビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)に起因するものと考えられる。
【0020】
本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体の好適な製造方法は、ラジカル開始剤及び有機コバルト錯体の存在下に制御ラジカル重合によってビニルエステルの重合と、ビニルエステル及びアクリル酸エステルの共重合とを行って、ビニルエステル重合体ブロック(B-b1)と、ビニルエステル単量体単位及びアクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c1)からなるビニルエステル系ブロック共重合体を得る重合工程、及び前記重合工程で得られたビニルエステル系ブロック共重合体をけん化して、ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)と、ビニルアルコール系単量体単位及びアクリル酸系単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c)からなるビニルアルコール系ブロック共重合体を得るけん化工程を有する。以下、その製造方法を詳細に説明する。
【0021】
まず、重合工程について説明する。重合工程では、ラジカル開始剤及び有機コバルト錯体の存在下に制御ラジカル重合によって、ビニルエステルの重合と、ビニルエステル及びアクリル酸エステルの共重合とを行う。ビニルエステルを重合することによってビニルエステル重合体ブロック(B-b1)が得られ、ビニルエステル及びアクリル酸エステルをランダム共重合することによってビニルエステル単量体単位及びアクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c1)が得られる。
【0022】
本発明の製造方法で採用される制御ラジカル重合とは、生長ラジカル末端(活性種)が制御剤と結合した共有結合種(ドーマント種)との平衡状態におかれて反応が進行する重合反応のことである。本発明の製造方法では、制御剤として有機コバルト錯体が用いられることが好ましい。
【0023】
重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒で重合する塊状重合法あるいは種々の有機溶媒中で重合する溶液重合法が通常採用される。分子量分布の狭い重合体を得るためには、連鎖移動等の副反応を起こすおそれのある溶媒や分散媒を使用しない塊状重合法が好ましい。一方、反応液の粘度調整や、重合速度の制御等の面からは、溶液重合が好ましい場合もある。溶液重合時に溶媒として使用される有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール等の低級アルコール;等が挙げられる。これらのうち、連鎖移動を防ぐためには、エステルや芳香族炭化水素が好ましく用いられる。溶媒の使用量は、目的とするブロック共重合体の数平均分子量に合わせ、反応溶液の粘度を考慮して決定すればよい。例えば、質量比(溶媒/単量体)が0.01〜10の範囲から選択される。質量比(溶媒/単量体)は好適には0.1以上であり、好適には5以下である。
【0024】
重合工程で使用されるラジカル開始剤としては、従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、ジイソブチリルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤とすることができる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。開始剤の使用量は、重合触媒により異なり一概には決められず、重合速度に応じて任意に選択される。
【0025】
重合工程で制御剤として使用される有機コバルト錯体は、2価のコバルト原子と有機配位子を含むものであればよい。好適な有機コバルト錯体としては、例えばコバルト(II)アセチルアセトナート[Co(acac)]、コバルト(II)ポルフィリン錯体等が挙げられる。中でも、製造コストの観点からコバルト(II)アセチルアセトナートが好適である。
【0026】
本発明で用いられる制御ラジカル重合では、まず、ラジカル開始剤の分解により発生したラジカルが少数の単量体と結合して生じた短鎖の重合体の生長末端のラジカルが有機コバルト(II)錯体と結合して、有機コバルト(III)錯体が重合体末端と共有結合したドーマント種が生成する。反応開始後の一定期間は、短鎖の重合体が生成してはドーマント種に変換されるだけで、高重合度化は実質的に進行しない。この期間を誘導期という。有機コバルト(II)錯体が消費された後は、高重合度化が進行する生長期に入り、反応系内のほとんどの分子鎖の分子量が重合時間に比例して同じように増加する。これによって、分子量分布の狭いビニルエステル系ブロック共重合体を得ることができる。単量体の重合工程に要する時間は、誘導期と生長期を合わせて、通常3〜50時間である。
【0027】
上記のように、本発明の制御ラジカル重合では、理論上は、添加する有機コバルト錯体一分子から一つのポリマー鎖が生成する。したがって、反応液に添加される有機コバルト錯体の量は、目的とする数平均分子量と重合率とを考慮して決定される。通常、単量体100molに対して、0.001〜1molの有機コバルト錯体を使用することが好ましい。
【0028】
発生するラジカルのモル数が有機コバルト錯体のモル数よりも多くなければ、重合反応はドーマント種からコバルト錯体が熱的に解離する機構のみによって進行するため、反応温度によっては重合速度が極めて小さくなってしまう。したがって、ラジカル開始剤が2個のラジカルを発生することを考慮すれば、用いられるラジカル開始剤のモル数は有機コバルト錯体のモル数の1/2倍を超える量である必要がある。一般に開始剤から供給される活性ラジカル量は開始剤効率に依存するので、実際はドーマントの形成に用いられずに失活する開始剤がある。したがって、用いられるラジカル開始剤のモル数は有機コバルト錯体のモル数の1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましい。一方、発生するラジカルのモル数が有機コバルト錯体のモル数よりも多くなりすぎると、制御されないラジカル重合の割合が増えるので分子量分布が広がってしまう。用いられるラジカル開始剤のモル数は有機コバルト錯体のモル数の10倍以下であることが好ましく、6倍以下であることがより好ましい。
【0029】
本発明の製造方法で使用されるビニルエステルとしては、例えばギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的観点から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0030】
本発明の製造方法で使用されるアクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸N−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸N−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等が挙げられ、中でも、アクリル酸メチルが好ましい。
【0031】
また、本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、ビニルエステル及びアクリル酸エステルと共重合可能なエチレン性不飽和単量体に由来する単量体単位を含んでいてもよい。係るエチレン性不飽和単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン;アクリルアミド、N−アルキル(炭素数1〜18)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド;メタクリルアミド、N−アルキル(炭素数1〜18)メタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;アルキル(炭素数1〜18)ビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン;酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール等のアリル化合物;トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0032】
前記ビニルアルコール系ブロック共重合体を構成するブロック(B-b)とブロック(B-c)中の、ビニルアルコール系単量体単位及びアクリル酸系単量体単位以外の単量体単位の含有量は、各ブロック中の全単量体単位に対して、それぞれ10モル%以下が好ましく、3モル%以下がより好ましく、1モル%以下がさらに好ましく、実質的に含有されていないことが特に好ましい。
【0033】
ドーマント種が生成されて、重合体の高重合度化を制御できる方法であれば、ラジカル開始剤、有機コバルト錯体及び単量体の混合方法は、特に限定されない。例えば、ラジカル開始剤及び有機コバルト錯体を混合した後に、得られた混合物と単量体を混合する方法、ラジカル開始剤、有機コバルト錯体及び単量体を一度に混合する方法、有機コバルト錯体と単量体を混合した後に、得られた混合物とラジカル開始剤を混合する方法などが挙げられる。また、ラジカル開始剤、有機コバルト錯体、単量体は分割して混合してもよい。例えば、ラジカル開始剤及び有機コバルト錯体と、単量体の一部を混合することにより、有機コバルト(III)錯体が短鎖のポリマー末端と共有結合したドーマント種を生成させた後に、当該ドーマント種と単量体の残部を混合して高重合度化させる方法等が挙げられる。なお、当該ドーマント種をマクロ開始剤として単離してから、単量体の残部と混合して高重合度化させてもよい。
【0034】
前記重合工程において、ビニルエステルの重合と、ビニルエステル及びアクリル酸エステルの共重合のどちらを最初に行っても構わない。ビニルエステルの重合を最初に行う場合、ビニルエステル、必要に応じてビニルエステル及びアクリル酸エステル以外の他の単量体、ラジカル開始剤及び有機コバルト錯体を上述した方法で混合することによりビニルエステルの重合を開始する。ビニルエステルの重合の際にはアクリル酸エステルを用いないことが好ましい。そして、ビニルエステル重合体の数平均重合度が目的の値に達したところで、反応液にアクリル酸エステルを添加して、残存しているビニルエステルとアクリル酸エステルとの共重合を開始する。このとき、必要に応じて、追加のビニルエステル、アクリル酸エステル及びビニルエステル以外の他の単量体をアクリル酸エステルとともに添加してもよい。重合体の数平均重合度は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により確認することができ、具体的には、後述する実施例に記載された方法が採用される。
【0035】
ビニルエステルの重合を最初に行う場合において、ビニルエステル重合体ブロック(B-b1)と、ビニルエステル単量体単位及びアクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c1)をそれぞれ1つずつ有する二元のビニルエステル系ブロック共重合体を得る場合には、アクリル酸エステルが消失する前に反応を停止することが好ましい。一方、三元以上の多元ビニルエステル系ブロック共重合体を得る場合には、アクリル酸エステルが消失した後も重合を継続してビニルエステル重合体ブロック(B-b1)を形成することが好ましい。この方法によれば、ブロック(B-b1)‐ブロック(B-c1)‐ブロック(B-b1)という三元のビニルエステル系ブロック共重合体を得ることができる。本発明では、反応液中のビニルエステルに対するアクリル酸エステルのモル比(アクリル酸エステル/ビニルエステル)が0.00001以下の状態で残存するビニルエステルを重合して得られた部分をビニルエステル重合体ブロック(B-b1)とする。モル比(アクリル酸エステル/ビニルエステル)が0.00001に達する時点は実施例に記載された方法により決定される。ビニルエステル系ブロック共重合体の数平均分子量が目的の値に達したところで、反応を停止するか、四元以上の多元ビニルエステル系ブロック共重合体を得る場合には、反応液に再度アクリル酸エステルを添加して重合を継続する。
【0036】
前記重合工程において、ビニルエステル及びアクリル酸エステルの共重合を最初に行う場合、ビニルエステル及びアクリル酸エステル、必要に応じてビニルエステル及びアクリル酸エステル以外の他の単量体、ラジカル開始剤及び有機コバルト錯体を上述した方法で混合することによりビニルエステル及びアクリル酸エステルの共重合を開始した後、各ブロックを順次形成する。
【0037】
重合温度は、例えば0℃〜80℃が好ましい。重合温度が0℃未満の場合は重合速度が不十分となり、生産性が低下する傾向にある。この点からは重合温度は10℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。一方、重合温度が80℃を超えると得られるビニルアルコール系ブロック共重合体の分子量分布が広くなる傾向にある。この点からは重合温度は65℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましい。
【0038】
前記重合工程においてビニルエステル系ブロック共重合体の数平均重合度や重合率が目的の値になったところで、重合停止剤を添加することによって重合反応を停止する停止工程を行うことが好ましい。重合停止剤としては、1、1−ジフェニルエチレン;スチレン、α−メチルスチレン及び4−tert−ブチルスチレン等のスチレン化合物;p−メトキシフェノール、ヒドロキノン、クレゾール、t−ブチルカテコール、p−ニトロソフェノール等のヒドロキシ芳香族化合物;ベンゾキノン、ナフトキノン等のキノン化合物;ムコン酸、ソルビン酸等の共役カルボン酸;フェノチアジン、ジステアリルチオジプロピオネート、ジラウリルチオジプロピオネート等のチオエーテル;p−フェニレンジアミン、N−ニトロソジフェニルアミン等の芳香族アミン;2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル等のニトロキシド;酢酸銅、ジチオカルバミン酸銅、酢酸マンガン等の遷移金属塩等が例示される。中でも1、1−ジフェニルエチレン、ソルビン酸及びベンゾキノンが好ましく、1、1−ジフェニルエチレンがより好ましい。
【0039】
添加される重合停止剤のモル数は、添加された有機コバルト錯体1molに対して、1〜100molであることが好ましい。前記重合停止剤のモル数が少なすぎると、ポリマー末端のラジカルを十分に捕捉できず、得られるビニルアルコール系ブロック共重合体の色調が悪化するおそれがある。一方、前記重合停止剤のモル数が多すぎると生産コストが上昇するおそれがある。
【0040】
停止工程における反応液の温度は、重合停止剤がビニルエステル系ブロック共重合体の末端のラジカルと反応できる温度であればよく、0〜80℃であることが好ましい。停止工程に要する時間は、通常、10分〜5時間である。
【0041】
けん化工程の前に、得られたビニルエステル系ブロック共重合体溶液を、水溶性配位子を含む水溶液に接触させて、前記ビニルエステル系ブロック共重合体溶液からコバルト錯体を抽出除去する抽出工程を行うことが好ましい。このように、ビニルエステル系ブロック共重合体溶液中に含まれるコバルト錯体を予め除去してからけん化工程を行うことによって、色相がよく、ゲル化しにくいビニルアルコール系ブロック共重合体を得ることができる。具体的には、相互に溶解しない前記水溶液と前記ビニルエステル系ブロック共重合体溶液とを、両者の界面の面積が大きくなるように激しく撹拌してから静置し、油層と水層に分離した後で水層を除く操作を行えばよい。この操作は複数回繰り返してもよい。
【0042】
抽出工程に用いられる水溶性配位子は、25℃におけるpKaが0〜12の酸であることが好ましい。pKaが0未満の強酸を用いた場合、コバルト錯体を効率的に抽出することが困難であり、pKaは2以上であることが好ましい。またpKaが12を超える弱酸を用いた場合にもコバルト錯体を効率的に抽出することが困難であり、pKaは7以下であることが好ましい。前記酸が多価の酸である場合には、第一解離定数(pKa1)が上記範囲であることが必要である。pKaが0〜12の酸がカルボン酸またはリン酸(pKa1は2.1)であることが好ましく、カルボン酸であることがより好ましい。中でも酢酸(pKaは4.76)であることが特に好ましい。
【0043】
水溶性配位子を含む水溶液のpHは、0〜5であることが好ましい。pHはより好適には1以上であり、さらに好適には1.5以上である。pHはより好適には4以下であり、さらに好適には3以下である。
【0044】
けん化工程では、前記重合工程で得られたビニルエステル系ブロック共重合体をけん化して、ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)と、ビニルアルコール系単量体単位及びアクリル酸系単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c)からなるビニルアルコール系ブロック共重合体を得る。
【0045】
けん化工程では、前述の方法で製造されたビニルエステル系ブロック共重合体をアルコールに溶解した状態でけん化してビニルアルコール系ブロック共重合体を得ることができる。このとき、ビニルエステル系ブロック共重合体中のビニルエステル単量体単位をビニルアルコール単量体単位に変換できる。
【0046】
また、けん化条件を調整することにより、アクリル酸エステル単量体単位をアクリル酸単量体単位に変換できる。ビニルアルコール系ブロック共重合体の機械物性を上昇させる観点からは、当該ビニルアルコール系ブロック共重合体における、アクリル酸エステル単量体単位及びアクリル酸単量体単位の合計に対する、アクリル酸単量体単位のモル比[アクリル酸単量体単位/アクリル酸エステル単量体単位及びアクリル酸単量体単位の合計]は、0.5以上が好ましく、1.0がより好ましい。
【0047】
さらに、けん化条件により、アクリル酸エステル単量体単位またはアクリル酸単量体単位が隣接するビニルアルコール単量体単位とラクトン環を形成することがある。
【0048】
けん化反応に使用されるアルコールとしては、メタノール、エタノール等の低級アルコールが挙げられ、メタノールが特に好適に使用される。また、前記アルコールは、含水アルコールであってもよいし、脱水アルコールであってもよい。けん化反応に使用されるアルコールは、アセトン、酢酸メチルや酢酸エチル等のエステル、トルエン等の溶剤を含有していてもよい。けん化反応に用いられる触媒としては、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物;ナトリウムメチラート等のアルカリ触媒;鉱酸等の酸触媒;が挙げられる。けん化反応の温度については、例えば20〜70℃の範囲が適当である。けん化反応の進行に伴って、ゲル状生成物が析出してくる場合には、その時点で生成物を粉砕し、洗浄後、乾燥することにより、本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体が得られる。
【0049】
こうして得られる本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体は、ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)と、ビニルアルコール系単量体単位及びアクリル酸系単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c)からなる。当該ビニルアルコール系ブロック共重合体は、1つのビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)と、1つの共重合体ブロック(B-c)からなる二元ブロック共重合体であってもよいし、1つのビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)と、2つの共重合体ブロック(B-c)、又は2つのビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)と、1つの共重合体ブロック(B-c)からなる三元ブロック共重合体であってもよいし、合計で4つ以上のビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)及び共重合体ブロック(B-c)からなる多元ブロック共重合体であってもよい。中でも、前記ビニルアルコール系ブロック共重合体が二元ブロック共重合体又は三元ブロック共重合体であることが好ましく、二元ブロック共重合体であることがより好ましい。ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)と、共重合体ブロック(B-c)の結合形式は、直鎖状であることが好ましい。
【0050】
本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体のけん化度は80〜99.99モル%である。本発明において、けん化度とは、ビニルアルコール系ブロック共重合体中のビニルエステル単量体単位、ビニルアルコール単量体単位及びラクトン環を形成しているビニルアルコール単量体由来の単位の合計モル数に対して、ビニルアルコール単量体単位及びラクトン環を形成しているビニルアルコール単量体由来の単位の合計モル数が占める割合(モル%)をいう。けん化度が80モル%未満の場合、ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の結晶性が著しく低下し、形成される被膜の力学強度やバリア性等の物性が低下する。けん化度は、好適には85モル%以上であり、より好適には90モル%以上である。一方、けん化度が99.99モル%を超えると、ビニルアルコール系ブロック共重合体の製造が困難となりやすく、成形性も劣る傾向がある。けん化度は、好適には99.95モル%以下である。けん化度はビニルアルコール系ブロック共重合体のH−NMR測定により求めることができ、具体的には実施例に記載された方法が採用される。
【0051】
本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体における、全単量体単位に対する、アクリル酸系単量体単位の含有量(Z)は0.05〜20.0モル%である。本発明において、アクリル酸系単量体単位とは、アクリル酸単量体単位、アクリル酸エステル単量体単位及びラクトン環を意味し、これらの単量体単位の合計含有量が上記範囲である必要がある。本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体は、アクリル酸単量体単位、アクリル酸エステル単量体単位及びラクトン環からなる群から選択される少なくとも一種のアクリル酸系単量体単位を含有していればよい。含有量(Z)が0.05モル%未満の場合、ビニルアルコール系ブロック共重合体の水溶性が低下するおそれがある。含有量(Z)は0.2モル%以上が好ましく、0.5モル%以上がより好ましく、3.0モル%以上がさらに好ましい。一方、含有量(Z)が20.0モル%を超える場合、得られる皮膜の力学強度が低下する。含有量(Z)は18.0モル%以下が好ましく、14.0モル%以下がより好ましい。
【0052】
前記ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)中の、全単量体単位に対する、ビニルアルコール系単量体単位の含有量は、90モル%以上であることが好ましく、97モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましい。本発明において、ビニルアルコール系単量体単位とは、ビニルエステル単量体単位及びビニルアルコール単量体単位を意味し、ビニルアルコール系単量体単位の含有量とは、ビニルエステル単量体単位及びビニルアルコール単量体単位の合計含有量を意味する。
【0053】
前記ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)中の、全単量体単位に対する、ビニルアルコール単位の含有量は、95モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましい。
【0054】
前記ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)中の、全単量体単位に対する、アクリル酸系単量体単位の含有量は、通常0.1モル%未満である。
【0055】
前記ビニルアルコール系単量体単位及びアクリル酸系単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c)中の、全単量体単位に対する、アクリル酸系単量体単位の含有量(R)が0.1〜50.0モル%であることが好ましい。含有量(R)が0.1モル%未満の場合、ビニルアルコール系ブロック共重合体の水溶性が低下するおそれがある。含有量(R)は0.5モル%以上がより好ましく、2モル%以上がさらに好ましく、5モル%以上が特に好ましい。一方、含有量(R)が50.0モル%を超える場合、前記ビニルアルコール系ブロック共重合体の水溶液のpH変動に対する安定性が低下するおそれや、得られる皮膜の膨潤性が高くなりすぎて力学強度が低下するおそれがある。含有量(R)は40.0モル%以下がより好ましく、30.0モル%以下がさらに好ましい。
【0056】
本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は20,000〜440,000である。制御剤として有機コバルト錯体を使用することによって、分子量分布が狭く、数平均分子量(Mn)の高いビニルアルコール系ブロック共重合体を得ることができる。数平均分子量(Mn)は力学強度が高い皮膜を得る観点から好適には30,000以上であり、より好適には40,000以上であり、特に好適には50,000以上であり、最も好適には60,000以上である。一方、数平均分子量(Mn)が高すぎると、溶液の粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難になる場合や、溶解速度が低下する場合があるため、数平均分子量(Mn)は220,000以下であることが好ましい。数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)はGPC法により、標準物質にポリメチルメタクリレートを用い、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)系カラムで前記ビニルアルコール系ブロック共重合体を測定した値である。測定方法は実施例に記載した通りである。
【0057】
本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、1.05〜1.95である。制御ラジカル重合によって重合することで分子量分布の狭いビニルアルコール系ブロック共重合体を得ることができる。分子量分布(Mw/Mn)は好適には1.80以下であり、より好適には1.65以下であり、さらに好適には1.55以下である。分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲であると、得られるビニルアルコール系ブロック共重合体の結晶性がさらに高まり、得られる皮膜の力学強度及びガスバリア性が向上する。
【0058】
前記ビニルアルコール系ブロック共重合体の数平均重合度(DP)に対する、前記ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度(DP)の比(DP/DP)が0.010〜0.999である必要がある。比(DP/DP)が0.010未満の場合、得られる皮膜の力学強度及びガスバリア性が低下する。比(DP/DP)は0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましい。一方、比(DP/DP)が0.999を超える場合、ビニルアルコール系ブロック共重合体の水溶性が低下するおそれがある。比(DP/DP)は0.995以下が好ましく、0.99以下がより好ましく、0.8以下がさらに好ましい。
【0059】
前記ビニルアルコール系ブロック共重合体の数平均重合度(DP)は重合を停止した後の前記ビニルエステル系ブロック共重合体のGPC測定及びH−NMR測定を行った後、得られた前記ビニルエステル系ブロック共重合体の数平均分子量及び各単量体単位の含有量から算出され、具体的には後述する実施例に記載された方法が採用される。
【0060】
前記ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度(DP)は、重合中の反応液からサンプリングした重合体のGPC測定、必要に応じてH−NMR測定を行った後、得られた重合体の数平均分子量及び各単量体単位の含有量から算出され、具体的には後述する実施例に記載された方法が採用される。
【0061】
前記ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度(DP)が450〜5,000であることが好ましい。前記ビニルアルコール系ブロック共重合体中に前記ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)が複数含まれる場合は、各ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の平均重合度の合計を数平均重合度(DP)とする。数平均重合度(DP)が450未満の場合、得られる皮膜の力学強度が低下するおそれがある。数平均重合度(DP)は600以上が好ましく、800以上がより好ましく、1200以上がさらに好ましい。一方、数平均重合度(DP)が5,000を超える場合、水溶性が低下するおそれがある。数平均重合度(DP)は4,000以下がより好ましく、3,000以下がさらに好ましい。
【0062】
前記ビニルアルコール系ブロック共重合体を酸性水溶液中で加熱処理してから乾燥させた重合体における、アクリル酸単量体単位及びラクトン環の合計に対する、ラクトン環のモル比(V)[ラクトン環/アクリル酸単量体単位及びラクトン環の合計]が0.70以上であることも好ましい。前記ビニルアルコール系ブロック共重合体を酸性水溶液中で加熱処理することにより、アクリル酸エステル単量体単位はアクリル酸単量体単位に変換される。また、前記処理により、ビニルアルコール単量体単位に隣接していて、当該ビニルアルコール単量体単位とラクトン環を形成可能なアクリル酸単量体単位及びアクリル酸エステル単量体単位はラクトン環に変換される。一方、アクリル酸エステル単量体単位及びアクリル酸単量体単位が連続している場合、前記処理を行ってもラクトン環は形成されずにアクリル酸単量体単位として残存する。したがって、ビニルアルコール単量体単位と、アクリル酸単量体単位又はアクリル酸エステル単量体単位とが交互に配列している部分の割合が多い場合、すなわち、アクリル酸エステル単量体単位及びアクリル酸単量体単位が連続している部分の割合が少ない場合は、モル比(V)[ラクトン環/アクリル酸単量体単位及びラクトン環の合計]は高くなる。すなわち、モル比(V)[ラクトン環/アクリル酸単量体単位及びラクトン環の合計]は、ビニルアルコール系単量体単位及びアクリル酸系単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c)のランダム性の指標となる。モル比(V)[ラクトン環/アクリル酸単量体単位及びラクトン環の合計]が0.70以上であることにより、ビニルアルコール系ブロック共重合体のpH変動に対する安定性がさらに向上し、水溶液とした際にpHが変動してもゲル化や増粘がさらに生じにくくなる。モル比(V)[ラクトン環/アクリル酸単量体単位及びラクトン環の合計]は0.80以上がより好ましい。前記ビニルアルコール系ブロック共重合体の加熱処理及び乾燥の条件は実施例に記載された条件が採用される。
【0063】
前記ビニルアルコール系ブロック共重合体中のアクリル酸系単量体単位の含有量(Z)[モル%]と、前記ビニルアルコール系ブロック共重合体をけん化度99モル%以上に再けん化した重合体の結晶融解温度(Q)[℃]が下記式(1)を満足することが好ましく、さらに下記式(2)を満足することが好ましい。
2Z+Q≧225 (1)
2Z+Q≧230 (2)
【0064】
前記ビニルアルコール系ブロック共重合体が上記式(1)を満たすもの、すなわちアクリル酸系単量体単位の含有量(Z)が多いのに、結晶融解温度(Q)が高いビニルアルコール系ブロック共重合体は、水溶性や吸水性と、被膜の力学強度とのバランスが極めて優れている。
【0065】
通常、ビニルエステルにその他の単量体単量体をランダム共重合させると、得られるビニルアルコール系共重合体の結晶性は極めて低く、水溶性と形成される被膜の強度とを両立させることは難しい。一方、本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体では、ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の結晶性が良好であるため、アクリル酸系単量体単位の含有量が多い場合でも、高い被膜強度が維持されるものと考えられる。そのため、前記ビニルアルコール系ブロック共重合体は、水溶性や吸水性と高い被膜強度とを両立させることができるものと考えられる。また、前記ビニルアルコール系ブロック共重合体が相分離構造を成形しても構わない。前記ビニルアルコール系ブロック共重合体を用いて得られる皮膜が相分離構造を有する場合でも、ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)に由来する相の結晶性が良好であるため、高い力学強度が維持される。
【0066】
前記ビニルアルコール系ブロック共重合体が水溶性であることが好ましい。前記ビニルアルコール系ブロック共重合体が水溶性であるかどうかは、前記ビニルアルコール系ブロック共重合体を濃度4質量%になるようにイオン交換水に添加した後、100℃で加熱攪拌し、昇温後6時間以内に完全に溶解するかどうかで判断する。
【0067】
本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体の成形方法としては、例えば水またはジメチルスルホキシド等の溶液の形態から成形する方法、加熱により前記ビニルアルコール系ブロック共重合体を可塑化して成形する方法、例えば押出成形法、射出成形法、インフレーション成形法、プレス成形法、ブロー成形法等が挙げられる。これらの方法により、繊維、フィルム、シート、チューブ、ボトル等の任意形状の成形品が得られる。
【0068】
本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体に対して、本発明の効果を阻害しない範囲で各種の添加剤を配合できる。添加剤の例としては、充填剤、銅化合物などの加工安定剤、耐候性安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、でんぷんなど他の樹脂、潤滑剤、香料、消泡剤、消臭剤、増量剤、剥離剤、離型剤、補強剤、架橋剤、防かび剤、防腐剤、結晶化速度遅延剤などが挙げられる。
【0069】
本発明のビニルアルコール系ブロック共重合体は、その特性を利用して各種用途に使用できる。例えば、界面活性剤、紙用コーティング剤、紙用内添剤、顔料バインダー、接着剤、不織布バインダー、塗料、繊維加工剤、繊維糊剤、分散安定化剤、フィルム(光学フィルム、水溶性フィルム)、シート、ボトル、繊維、増粘剤、凝集剤、土壌改質剤等に使用できる。
【実施例】
【0070】
[数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)]
東ソー株式会社製サイズ排除高速液体クロマトグラフィー装置「HLC−8320GPC」を用い、重合体の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。測定条件は以下の通りである。
カラム:東ソー株式会社製HFIP系カラム「GMHHR−H(S)」2本直列接続
標準試料:ポリメチルメタクリレート
溶媒及び移動相:トリフルオロ酢酸ナトリウム−HFIP溶液(濃度20mM)
流量:0.2mL/min
温度:40℃
試料溶液濃度:0.1質量%(開口径0.45μmフィルターでろ過)
注入量:10μL
検出器:RI
【0071】
[ビニルエステル系ブロック共重合体におけるアクリル酸エステル単量体単位の含有量(U)]
ビニルエステル系ブロック共重合体におけるアクリル酸エステル単量体単位の含有量(U)(モル%)は以下の方法で求めた。ビニルエステル系ブロック共重合体のH−NMR測定を行なった。酢酸ビニル単量体単位のメチンプロトン(−CH(OCOCH)−)に由来するピークの積分値(4.8ppm)をT、アクリル酸メチル単量体単位の側鎖プロトン(−CHCH(COOC)−)に由来するピークの積分値(3.6ppm)をSとして、下記式によりビニルエステル系ブロック共重合体におけるアクリル酸エステル単量体単位の含有量(U)(モル%)を算出した。

(U)(モル%)=(S/3)/(S/3+T)×100
【0072】
[ビニルアルコール系ブロック共重合体の数平均重合度DP及びビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度DP
ビニルアルコール系ブロック共重合体中のビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度DPを以下のとおり求めた。
【0073】
ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)は、ビニルエステル系ブロック共重合体中のビニルエステル重合体ブロック(B-b1)がケン化されることにより形成される。重合体の数平均重合度DPはけん化前後で実質的に変化しないため、けん化前の重合体のGPC測定の結果から求めた数平均重合度を、ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度DPとした。同様に、重合停止後、けん化前の重合体のGPC測定の結果から求めた数平均重合度を、ビニルアルコール系ブロック共重合体の数平均重合度DPとした。
【0074】
ここでビニルエステル重合体ブロック(B-b1)とは、アクリル酸エステルの非共存下でビニルエステルを重合して得られたブロック、および、重合初期または重合中にアクリル酸エステル共存下でビニルエステルを重合して、ビニルエステル単量体単位及びアクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c1)を得た後に、アクリル酸エステルがビニルエステルよりも先に消費されて、反応液中のビニルエステルに対するアクリル酸エステルのモル比(アクリル酸エステル/ビニルエステル)が0.00001以下の状態でビニルエステル単量体を重合して得られたブロックを指す。
【0075】
「ビニルエステル重合体ブロック(B-b1)」と「ビニルエステル単量体単位及びアクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c1)」の境界は以下のとおり決定した。重合中に適宜サンプリングを実施し、各サンプリング時点における重合体の数平均重合度(DP)及びアクリル酸エステル単量体の含有量(U)(モル%)をGPC及びH−NMRで測定し、モル比(アクリル酸エステル/ビニルエステル)が0.00001に達する時点を共重合理論式であるMayo−Lewis式と反応性比の値(rVAc=0.01、rMA=30)を用いたシミュレーションにより求めた。このとき、モル比(アクリル酸エステル/ビニルエステル)が0.00001に達した時点以降に形成されるビニルエステル重合体ブロックに含まれるアクリル酸エステル単量体単位の含有量は0.1モル%未満である。
【0076】
サンプリングした重合体の数平均重合度(DP)は、GPC及びH−NMRにより得られた当該重合体の数平均分子量Mn、アクリル酸エステル単量体単位の含有量(U)(モル%)、並びにアクリル酸エステル単量体単位及びビニルエステル単量体単位の分子量(アクリル酸メチル:86、酢酸ビニル:86)を用いて、以下の式により求めた。

(DP)=Mn/{(U/100)×86+[(100-U)/100]×86}
=Mn/86
【0077】
ビニルアルコール系ブロック共重合体の数平均重合度DPは、重合停止後のビニルエステル系ブロック共重合体のGPC及びH−NMRにより得られた値を用いて上記式により求めた。重合当初にビニルエステル重合体ブロックを得る場合、アクリル酸エステルを添加する直前にサンプリングした重合体を測定して、ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度DPを求めた。アクリル酸エステルとビニルエステルとの共重合を行なった後にビニルエステル重合体ブロックを得る場合、ブロックの境界とした時点にサンプリングした重合体とその後のアクリル酸エステルを添加する直前にサンプリングした重合体を測定して得られた数平均重合度の差からビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度DPを求めた。
【0078】
[ビニルアルコール系ブロック共重合体におけるアクリル酸系単量体単位の含有量(Z)(モル%)]
ビニルアルコール系ブロック共重合体をpH2の塩酸水溶液中で100℃1時間撹拌した後に120℃で乾固することで、当該共重合体中のアクリル酸系単量体単位をアクリル酸単量体単位またはラクトン環構造(ラクトン環は、アクリル酸単量体単位又はアクリル酸エステル単量体単位と、それらに隣接するビニルアルコール単量体単位とが反応することにより形成される)に変換した。当該共重合体をメタノールで洗浄して塩を除去した後、90℃にて2日間減圧乾燥してから、日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「LAMBDA 500」を用い、40℃及び95℃で当該共重合体のH−NMR測定を行なった。溶媒としてDMSO−dを使用した。ビニルアルコール系ブロック共重合体の全単量体単位に対するアクリル酸系単量体単位の含有量(Z)(モル%)は以下のように算出した。
【0079】
アクリル酸の側鎖プロトン(−CHCH(COO)−)に由来するピークの積分値(11.0〜13.0ppmの範囲に検出されるブロードピーク)をY、ラクトン環中のアクリル酸の主鎖のメチンプロトン(−CH(R)CHCH(R2)−)に由来するピーク(ここでRとRは互いに結合(−R−R−)を形成しており、−R−R−は、―CO−O−構造を意味する)の全積分値(2.6ppm〜3.0ppmのダブルピーク)をX、ビニルアルコールのメチンプロトン(−CH(OH)−)に由来するピークの全積分値(3.6ppm〜4.0ppmのピーク)をW、酢酸ビニルの側鎖プロトン(−CHCH(OCOC)−)に由来するピークの積分値(1.9ppm〜2.0ppm)をPとし、下記式により[ビニルアルコール系ブロック共重合体の全単量体単位]に対する[アクリル酸系単量体単位]の含有量(Z)(モル%)を算出した。
【0080】
なお、ラクトン環においては、アクリル酸系単量体単位の1単位と、それに隣接するビニルアルコール単量体単位の1単位が反応することで、ラクトン環1分子が生成する。このことを考慮し、下記式において、分母のXの係数は2とし、分子のXの係数は1としている。

(Z)(モル%)=[アクリル酸系単量体単位(モル含有量)]/[ビニルアルコール系ブロック共重合体の全単量体単位(モル含有量)]×100
=(X+Y)/(W+2X+Y+(P/3))×100
【0081】
また、上記X、Yを用いて下記式により、前記ビニルアルコール系ブロック共重合体を酸性水溶液中で加熱処理してから乾燥させた重合体における、アクリル酸単量体単位及びラクトン環の合計に対する、ラクトン環のモル比(V)[ラクトン環/アクリル酸単量体単位及びラクトン環の合計]を算出した。

(V)=[ラクトン環]/[アクリル酸単量体単位及びラクトン環の合計]
=X/(X+Y)
【0082】
[ビニルアルコール系単量体単位及びアクリル酸系単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c)中のアクリル酸系単量体単位の含有量(R)]
ビニルアルコール系ブロック共重合体における、共重合体ブロック(B-c)中の、全単量体単位に対する、アクリル酸系単量体単位の含有量(R)(モル%)をビニルアルコール系ブロック共重合体の数平均重合度DP、ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度DPを用いて下記式により算出した。

(R)(モル%)=(Z)×DP/(DP−DP
【0083】
[けん化度]
ラクトン環中の主鎖のアクリル酸のメチンプロトン(−CH(R)CHCH(R)−)に由来するピーク(ここでRとRは互いに結合(−R−R−)を形成しており、−R−R−は、―CO−O−構造を意味する)の全積分値(2.6ppm〜3.0ppmのダブルピーク)をX、ビニルアルコールのメチンプロトン(−CH(OH)−)に由来するピークの全積分値(3.6ppm〜4.0ppmのピーク)をW、酢酸ビニルの側鎖プロトン(−CHCH(OCOC)−)に由来するピークの積分値(1.9ppm〜2.0ppm)をPとし、下記式によりビニルアルコール系ブロック共重合体のけん化度(モル%)を算出した。

けん化度(モル%)=100−[酢酸ビニル単量体単位(の合計モル数)]/[ラクトン環を形成しているビニルアルコール単量体由来の単位+ビニルアルコール単量体単位+酢酸ビニル単量体単位(の合計モル数)]×100
=100−(P/3)/(X+W+(P/3))×100
【0084】
[結晶融解温度(Q)]
ビニルアルコール系ブロック共重合体100質量部にメタノール1860質量部と水酸化ナトリウム50質量部を加え、40℃にて2時間加熱し、残存酢酸基を完全にけん化した(けん化度≧99.9モル%)。けん化が不十分な場合は追加で水酸化ナトリウムを加えて残存酢酸基が完全にけん化されるまで反応を継続した。次にフェノールフタレイン液を添加し、洗液にアルカリ性反応を認めなくなるまでメタノールで洗浄し、水酸化ナトリウム及び酢酸ナトリウムを除去した。洗浄後の重合体をメタノールが無くなるまで120℃で乾固することで、結晶融解温度測定用のビニルアルコール系ブロック共重合体を得た。
【0085】
ティー・エイ・インスツルメント株式会社製示差走査熱量計装置「DSC25」を用い、窒素雰囲気下における前記ビニルアルコール系ブロック共重合体の結晶融解温度を測定した。90℃にて2日間減圧乾燥を行ったビニルアルコール系ブロック共重合体3mgをアルミ容器に封入して示差走査熱量計装置にセットし、40℃から毎分10℃の速度で250℃へ昇温後、1分保持し、毎分10℃の速度でマイナス80℃まで降温後、1分保持した。その後、毎分10℃の速度で250℃へ昇温する際に150℃〜250℃の間で観察される吸熱ピークの極大点の温度を(Q)(℃)とした。
【0086】
[水への溶解速度]
ビニルアルコール系ブロック共重合体を濃度4質量%になるようにイオン交換水に添加し、100℃で加熱攪拌し溶解した。溶解性能を以下の基準により評価した。
A:加熱撹拌開始後6時間以内に共重合体が完全に溶解した。
B:加熱撹拌開始後6時間以内に共重合体が完全に溶解しなかった。
【0087】
[pHに対する水溶液粘度安定性]
ビニルアルコール系ブロック共重合体を濃度4質量%になるようにイオン交換水に添加し、100℃で加熱攪拌して溶解させた後、塩酸水溶液または水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを2または12に調整して、さらに20℃で1時間撹拌した。pHに対する水溶液粘度安定性を以下の基準により評価した。基準Aであれば、水溶液粘度安定性が高く、良好であると言える。
A:pH2とpH12で水溶液の流動性を比較したところ、水溶液の粘性に顕著な差がなかった。
B:pH2とpH12で水溶液の流動性を比較したところ、水溶液の粘性に顕著な差があった。
【0088】
[飽和含水率]
濃度10質量%のビニルアルコール系ブロック共重合体の水溶液を調製し、PET製の型枠に流延し、20℃、21%RHに調整された部屋で一週間静置乾燥した。得られたフィルムを型枠から外し、中心部膜厚を厚み計で測定し、膜厚100μmのフィルムを評価対象とした。得られたフィルムを20℃、80%RHにて一週間調湿した後、フィルムを一部切り出し、ハロゲン水分率計(設定温度150℃)でフィルムの飽和含水率[質量%]を測定した。
【0089】
[機械物性]
上記飽和含水率の評価に用いた、20℃、80%RHにて一週間静置乾燥したフィルムを10mm×800mmに切り出し、島津製作所製オートグラフ「AG−IS」を用いて、チャック間距離50mm、引張り速度500mm/分の条件で強伸度測定を行い、20℃、80%RHの条件下で、弾性率[kgf/mm]を求めた。なお、測定は各サンプル5回測定し、その平均値を算出した。
【0090】
[実施例1]
攪拌機、還流冷却管、開始剤の添加口を備えた反応器に、コバルト(II)アセチルアセトナート[Co(acac)]を0.24質量部、開始剤としてV−70[2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)]を0.86質量部添加し、反応器内を真空にした後窒素を導入する不活性ガス置換を3回行った。その後単蒸留精製した酢酸ビニル(VAc)640質量部を添加してから、反応器を水浴に浸漬し、内温が30℃になるように加熱し撹拌した。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、酢酸ビニルの転化率が19質量%に到達したところでアクリル酸メチル(MA)を1.2質量部添加した。転化率19質量%における重合体の数平均分子量(Mn)は128,100であった。引き続き適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、酢酸ビニルとアクリル酸メチルの合計転化率が22質量%に到達したところで、重合禁止剤として1,1−ジフェニルエチレン(1,1−DPEt)を0.84質量部添加した。誘導期は7時間、成長期は4時間であった。
【0091】
重合禁止剤を添加してから、内温を60℃に昇温して1時間加熱撹拌し、ここに濃度25質量%の酢酸水溶液(pH2.0)600質量部を添加し、5分攪拌した後、30分静置し二層に分離し、水層を除去した。真空ラインに接続し、未反応モノマーを30℃で減圧留去後、メタノールを添加して重合体を溶解し、当該溶液を脱イオン水に滴下してビニルエステル系ブロック共重合体を析出させた。ろ過操作でビニルエステル系ブロック共重合体を回収し、40℃の真空乾燥機で24時間乾燥し、ビニルエステル系ブロック共重合体を得た。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0092】
次に、上記と同様の反応器に、得られたビニルエステル系ブロック共重合体100質量部と脱水メタノール334.2質量部を添加し溶解した後、水浴を加熱して内温が40℃になるまで加熱撹拌した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%、水酸化ナトリウムとして9.2質量部)65.8質量部を添加した。こうして調製された濃度20質量%のビニルエステル系ブロック共重合体溶液で40℃にてけん化反応を行った。生成したゲル化物を粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で放置して1時間けん化を進行させた。得られたけん化物に脱水メタノール50.0質量部とイオン交換水0.2質量部を添加し、65℃でさらに1時間加熱を継続した。その後、酢酸を添加しpH5に調整した後、濾別することによって固体を得て、これにメタノール500質量部を加えて1時間加熱還流した。その後、遠心脱水して得られた固体を真空乾燥機にて40℃で24時間乾燥させ、目的のビニルアルコール系ブロック共重合体(ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)‐共重合体ブロック(B-c)の二元ブロック共重合体)を得た。以上のけん化工程の詳細を表2に示す。
【0093】
得られたビニルアルコール系ブロック共重合体の各種物性を測定し、性能を評価した。ビニルアルコール系ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は77,200であり、数平均重合度(DP)は1750であり、ビニルアルコール系ブロック共重合体中のビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度(DP)は1490であり、比(DP/DP)は0.851であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.40であり、けん化度は99.8モル%であった。分子量分布(Mw/Mn)はビニルアルコール系ブロック共重合体のGPC測定の結果から求めた。また、アクリル酸系単量体単位の含有量(Z)は0.9モル%であり、「ビニルアルコール系単量体とアクリル酸系単量体を含む共重合体ブロック(B-c)」中のアクリル酸系単量体単位の含有量(R)は5.8モル%であり、結晶融解温度(Q)は228.0℃であり、2Z+Qの値は230であった。前記ビニルアルコール系ブロック共重合体を酸性水溶液中で加熱処理してから乾燥させた重合体における、アクリル酸単量体単位及びラクトン環の合計に対する、ラクトン環のモル比(V)[ラクトン環/アクリル酸単量体単位及びラクトン環の合計]は1.00であった。水への溶解速度の評価はAであり、pHに対する水溶液粘度安定性の評価はAであった。飽和含水率は14.0質量%であり、弾性率は17.1kgf/mmであった。以上の結果を表3にまとめて示す。
【0094】
[実施例2]
実施例1と同様にして酢酸ビニルの重合を開始した。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、酢酸ビニルの転化率が9質量%に到達したところでアクリル酸メチルを16.0質量部添加した。転化率9質量%における重合体の数平均分子量(Mn)は60,100であった。引き続き適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、酢酸ビニルとアクリル酸メチルの合計転化率が12質量%に到達したところで、重合禁止剤としてp−ベンゾキノンを0.50質量部添加した。誘導期は7時間、成長期は2時間であった。重合禁止剤を添加してから、実施例1と同様の操作を実施し、ビニルエステル系ブロック共重合体を得た。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0095】
次に、上記と同様の反応器に、得られたビニルエステル系ブロック共重合体100質量部と脱水メタノール388.3質量部を添加し溶解した後、水浴を加熱して内温が40℃になるまで加熱撹拌した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%、水酸化ナトリウムとして1.6質量部)11.3質量部を添加した。こうして調製された濃度20質量%のビニルエステル系ブロック共重合体溶液で40℃にてけん化反応を行った。生成したゲル化物を粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で放置して1時間けん化を進行させた。得られたけん化物に脱水メタノール50.0質量部とイオン交換水3.1質量部を添加し、40℃でさらに1時間加熱を継続した。
【0096】
以後は実施例1と同様の方法にて目的のビニルアルコール系ブロック共重合体(ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)‐共重合体ブロック(B-c)の二元ブロック共重合体)を得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたビニルアルコール系ブロック共重合体の測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0097】
[実施例3]
アクリル酸メチル2.4質量部を酢酸ビニルとともに添加した以外は実施例1と同様にして酢酸ビニル及びアクリル酸メチルの重合を開始した。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認するとともに、サンプリングした重合体のGPC測定及びH−NMR測定を行い、酢酸ビニル及びアクリル酸メチルの合計転化率が5%の時点でアクリル酸メチルモノマーが完全に消費されたこと[モル比(アクリル酸エステル/ビニルエステル)が0.00001未満]をH−NMRにより確認した。このときの数平均分子量(Mn)は34,500であった。引き続き重合を実施し、酢酸ビニルとアクリル酸メチルの合計転化率が14質量%に到達したところでアクリル酸メチルを2.4質量部添加した。転化率14質量%における数平均分子量(Mn)は94,500であった。引き続き適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、酢酸ビニルとアクリル酸メチルの合計転化率が19質量%に到達したところで、重合禁止剤として1,1−ジフェニルエチレンを0.84質量部添加した。誘導期は7時間、成長期は3時間であった。重合禁止剤を添加してから、実施例1と同様の操作を実施し、ビニルエステル系ブロック共重合体を得た。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0098】
次に、上記と同様の反応器に、得られたビニルエステル系ブロック共重合体100質量部と脱水メタノール336.9質量部を添加し溶解した後、水浴を加熱して内温が40℃になるまで加熱撹拌した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%、水酸化ナトリウムとして8.8質量部)63.1質量部を添加した。こうして調製された濃度20質量%のビニルエステル系ブロック共重合体溶液で40℃にてけん化反応を行った。生成したゲル化物を粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で放置して1時間けん化を進行させた。得られたけん化物に脱水メタノール50.0質量部とイオン交換水1.0質量部を添加し、65℃でさらに1時間加熱を継続した。
【0099】
以後は実施例1と同様の方法にて目的のビニルアルコール系ブロック共重合体(共重合体ブロック(B-c)‐ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)‐共重合体ブロック(B-c)の三元ブロック共重合体)を得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたビニルアルコール系ブロック共重合体の測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0100】
[実施例4]
攪拌機、還流冷却管、開始剤の添加口を備えた反応器に、コバルト(II)アセチルアセトナートを0.10質量部、開始剤としてV−70[2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)]を0.34質量部添加し、反応器内を真空にした後窒素を導入する不活性ガス置換を3回行った。その後単蒸留精製した酢酸ビニル640質量部、酢酸メチル160質量部を添加してから、反応器を水浴に浸漬し、内温が30℃になるように加熱し撹拌した。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認した。酢酸ビニルの転化率が15質量%に到達したところでアクリル酸メチルを6.4質量部添加した。転化率15質量%における重合体の数平均分子量(Mn)は257,100であった。引き続き適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、酢酸ビニルとアクリル酸メチルの合計転化率が20質量%に到達したところで、重合禁止剤として1,1−ジフェニルエチレンを0.33質量部添加した。誘導期は4時間、成長期は3時間であった。重合禁止剤を添加してから、実施例1と同様の操作を実施し、ビニルエステル系ブロック共重合体を得た。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0101】
次に、上記と同様の反応器に、得られたビニルエステル系ブロック共重合体100質量部と脱水メタノール396.8質量部を添加し溶解した後、水浴を加熱して内温が40℃になるまで加熱撹拌した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%、水酸化ナトリウムとして0.4質量部)3.2質量部を添加した。こうして調製された濃度20質量%のビニルエステル系ブロック共重合体溶液で40℃にてけん化反応を行った。生成したゲル化物を粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で放置して1時間けん化を進行させた。得られたけん化物に脱水メタノール50.0質量部とイオン交換水1.0質量部を添加し、40℃でさらに1時間加熱を継続した。
【0102】
以後は実施例1と同様の方法にて目的のビニルアルコール系ブロック共重合体(ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)‐共重合体ブロック(B-c)の二元ブロック共重合体)を得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたビニルアルコール系ブロック共重合体の測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0103】
[実施例5]
コバルト(II)アセチルアセトナートを0.96質量部、開始剤としてV−70[2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)]を3.44質量部添加したこと以外は実施例1と同様にして酢酸ビニルの重合を開始した。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認した。酢酸ビニルの転化率が20質量%及び24質量%に到達したところでアクリル酸メチルを各々1.6質量部添加した。転化率20質量%における重合体の数平均分子量(Mn)は34,400であった。引き続き適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、酢酸ビニルとアクリル酸メチルの合計転化率が28質量%に到達したところで、重合禁止剤として1,1−ジフェニルエチレンを3.35質量部添加した。誘導期は12時間、成長期は3時間であった。重合禁止剤を添加してから、実施例1と同様の操作を実施し、ビニルエステル系ブロック共重合体を得た。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0104】
次に、上記と同様の反応器に、得られたビニルエステル系ブロック共重合体100質量部と脱水メタノール335.0質量部を添加し溶解した後、水浴を加熱して内温が40℃になるまで加熱撹拌した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%、水酸化ナトリウムとして9.1質量部)65.0質量部を添加した。こうして調製された濃度20質量%のビニルエステル系ブロック共重合体溶液で40℃にてけん化反応を行った。生成したゲル化物を粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で放置して1時間けん化を進行させた。得られたけん化物に脱水メタノール50.0質量部とイオン交換水0.4質量部を添加し、65℃でさらに1時間加熱を継続した。
【0105】
以後は実施例1と同様の方法にて目的のビニルアルコール系ブロック共重合体(ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)‐共重合体ブロック(B-c)の二元ブロック共重合体:なお、共重合体ブロック(B-c)作製時において、アクリル酸メチルを2度に分けて添加した)を得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたビニルアルコール系ブロック共重合体の測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0106】
[実施例6]
40℃で1時間けん化を進行させて得られたけん化物に脱水メタノール及びイオン交換水を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の方法にて目的のビニルアルコール系ブロック共重合体を得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたビニルアルコール系ブロック共重合体の測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0107】
[実施例7]
実施例1と同様にして酢酸ビニルの重合を開始した。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認した。酢酸ビニルの転化率が19質量%に到達したところでアクリル酸メチルを49.0質量部添加した。転化率19質量%における重合体の数平均分子量(Mn)は128,100であった。引き続き適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、酢酸ビニルとアクリル酸メチルの合計転化率が30質量%に到達したところで、重合禁止剤として1,1−ジフェニルエチレンを0.84質量部添加した。誘導期は7時間、成長期は4時間であった。重合禁止剤を添加してから、実施例1と同様の操作を実施し、ビニルエステル系ブロック共重合体を得た。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0108】
次に、上記と同様の反応器に、得られたビニルエステル系ブロック共重合体100質量部と脱水メタノール334.2質量部を添加し溶解した後、水浴を加熱して内温が40℃になるまで加熱撹拌した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%、水酸化ナトリウムとして9.2質量部)65.8質量部を添加した。こうして調製された濃度20質量%のビニルエステル系ブロック共重合体溶液で40℃にてけん化反応を行った。生成したゲル化物を粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で放置して1時間けん化を進行させた。得られたけん化物に脱水メタノール50.0質量部とイオン交換水7.7質量部を添加し、65℃でさらに1時間加熱を継続した。
【0109】
以後は実施例1と同様の方法にて目的のビニルアルコール系ブロック共重合体(ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)‐共重合体ブロック(B-c)の二元ブロック共重合体)を得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたビニルアルコール系ブロック共重合体の測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0110】
[比較例1]
実施例1と同様にして酢酸ビニルの重合を開始した。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認した。酢酸ビニルの転化率が13質量%に到達したところでアクリル酸メチルを80.0質量部添加した。転化率13質量%における重合体の数平均分子量(Mn)は85,800であった。引き続き適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、酢酸ビニルとアクリル酸メチルの合計転化率が30質量%に到達したところで、重合禁止剤として1,1−ジフェニルエチレンを0.84質量部添加した。誘導期は7時間、成長期は4時間であった。重合禁止剤を添加してから、実施例1と同様の操作を実施し、ビニルエステル系ブロック共重合体を得た。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0111】
次に、上記と同様の反応器に、得られたビニルエステル系ブロック共重合体100質量部と脱水メタノール358.1質量部を添加し溶解した後、水浴を加熱して内温が40℃になるまで加熱撹拌した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%、水酸化ナトリウムとして5.9質量部)41.9質量部を添加した。こうして調製された濃度20質量%のビニルエステル系ブロック共重合体溶液で40℃にてけん化反応を行った。生成したゲル化物を粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で放置して1時間けん化を進行させた。得られたけん化物に脱水メタノール50.0質量部とイオン交換水7.7質量部を添加し、65℃でさらに1時間加熱を継続した。
【0112】
以後は実施例1と同様の方法にて目的のビニルアルコール系ブロック共重合体(ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)‐共重合体ブロック(B-c)の二元ブロック共重合体)を得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたビニルアルコール系ブロック共重合体の測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0113】
[比較例2]
40℃で1時間けん化を進行させて得られたけん化物に脱水メタノール及びイオン交換水を添加しなかったこと以外は比較例1と同様の方法にて目的のビニルアルコール系ブロック共重合体を得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたビニルアルコール系ブロック共重合体の測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0114】
[比較例3]
攪拌機、還流冷却管、アルゴン導入管、開始剤の添加口、フィードポンプを備えた反応器に、酢酸ビニル640質量部、アクリル酸メチル1.1質量部、メタノール250質量部を仕込み、窒素バブリングをしながら30分間反応器内を不活性ガス置換した。水浴を加熱して反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.15質量部添加し重合を開始した。アクリル酸メチル40質量%メタノール溶液を経時フィードしながら重合を実施し、適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、酢酸ビニルとアクリル酸メチルの合計転化率が35質量%に到達したところでp−ベンゾキノン0.10質量部を添加し重合を停止した。この時点でのアクリル酸メチルの総フィード量は11.4質量部相当であった。重合禁止剤を添加してから、実施例1と同様の操作を実施し、ビニルエステル系ランダム共重合体を得た。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0115】
次に、実施例1と同様の反応器に、得られたビニルエステルランダム共重合体100質量部と脱水メタノール336.9質量部を添加し溶解した後、水浴を加熱して内温が40℃になるまで加熱撹拌した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%、水酸化ナトリウムとして8.8質量部)63.1質量部を添加した。こうして調製された濃度20質量%のビニルエステル系ランダム共重合体溶液で40℃にてけん化反応を行った。生成したゲル化物を粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で放置して1時間けん化を進行させた。得られたけん化物に脱水メタノール50.0質量部とイオン交換水1.0質量部を添加し、65℃でさらに1時間加熱を継続した。以後は実施例1と同様の方法にて目的のビニルアルコール系ランダム共重合体を得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたビニルアルコール系ランダム共重合体の測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0116】
[比較例4]
攪拌機、還流冷却管、開始剤の添加口を備えた反応器に、コバルト(II)テトラメシチルポルフィリン[Co(TMP)]を1.56質量部、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.91質量部添加し、反応器内を真空にした後窒素を導入する不活性ガス置換を3回行った。その後単蒸留精製したアクリル酸メチル160.0質量部とトルエン480質量部を添加してから、反応器を水浴に浸漬し、内温が60℃になるように加熱し撹拌した。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認した。アクリル酸メチルの転化率が18%に到達したところで30℃まで冷却して重合停止した。転化率18%における重合体の数平均分子量(Mn)は15,500であった。真空ラインに接続し、残留するアクリル酸メチル及びトルエンを30℃で減圧留去した。酢酸ビニル640質量部を添加してから、内温が60℃になるように加熱し撹拌した。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認した。酢酸ビニルの転化率が22質量%に到達したところで、重合禁止剤として1,1−ジフェニルエチレンを1.68質量部添加した。誘導期は5時間、成長期は4時間であった。重合禁止剤を添加してから、実施例1と同様の操作を実施し、ビニルエステル系ブロック共重合体を得た。以上の重合工程の詳細を表1に示す。
【0117】
次に、上記と同様の反応器に、得られたビニルエステル系ブロック共重合体100質量部と脱水メタノール344.9質量部を添加し溶解した後、水浴を加熱して内温が40℃になるまで加熱撹拌した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度14質量%、水酸化ナトリウムとして7.7質量部)55.1質量部を添加した。こうして調製された濃度20質量%のビニルエステル系ブロック共重合体溶液で40℃けん化反応を行った。生成したゲル化物を粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で放置して1時間けん化を進行させた。得られたけん化物に脱水メタノール50.0質量部とイオン交換水3.6質量部を添加し、65℃でさらに1時間加熱を継続した。
【0118】
以後は実施例1と同様の方法にて目的のビニルアルコール系ブロック共重合体(アクリル酸メチル重合体ブロック‐ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の二元ブロック共重合体)を得た。けん化工程の詳細を表2に示す。また、得られたビニルアルコール系ブロック共重合体の測定及び評価の結果を表3にまとめて示す。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
実施例1〜7のブロック共重合体は、水への溶解速度(水溶性)、pHに対する水溶液粘度安定性(pH安定性)、機械物性(弾性率)のいずれも良好であった。
【0123】
実施例4のブロック共重合体は、けん化度が比較的低いため、Mnが比較的大きいにも関わらず、実施例1と比して機械物性が低かった。実施例5のブロック共重合体は、DPが比較的小さいため、実施例1と比して機械物性が低かった。実施例1において、けん化物に脱水メタノール及びイオン交換水を添加する処理を行ったが、実施例6では当該処理をしなかったため、アクリル酸エステル単量体単位がアクリル酸単位などに変換されることなく残存した。その結果、実施例6のブロック共重合体は、機械物性が実施例1と比して低かった。また、実施例7のブロック共重合体は(V)値が比較的小さいため、実施例1〜6と比して、水溶液のpH安定性が低かった。
【0124】
比較例1のブロック共重合体は、含有量(Z)の値が大きく、pH安定性と機械物性に劣っていた。比較例2のブロック共重合体は、含有量(Z)の値が大きいことに加え、けん化物に脱水メタノール及びイオン交換水を添加する処理をしなかったため、アクリル酸エステル単量体単位を多く含有し、水溶性に劣っていた。比較例3の共重合体は、ブロック共重合体ではなくランダム共重合体であり、分子量分布の値も大きく、機械物性に劣っていた。比較例4のブロック共重合体は、アクリル酸メチル単量体ブロックを含むが、共重合体ブロック(B-c)を含んでおらず、pH安定性に劣っていた。

【要約】
ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)と、ビニルアルコール系単量体単位及びアクリル酸系単量体単位を含む共重合体ブロック(B-c)からなるブロック共重合体であって、全単量体単位に対する、アクリル酸系単量体単位の含有量(Z)が0.05〜20.0モル%であり、けん化度が80〜99.99モル%であり、前記ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)が20,000〜440,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.95であり、前記ブロック共重合体の数平均重合度(DP)に対する、前記ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)の数平均重合度(DP)の比(DP/DP)が0.010〜0.999である、ビニルアルコール系ブロック共重合体である。当該共重合体は、共重合体ブロック(B-c)に由来する、水溶性に優れ、pH変動による増粘やゲル化が生じないという良好なバランスと、ビニルアルコール系重合体ブロック(B-b)に由来する高い力学強度とを併せ持つ。