特許第6875685号(P6875685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875685
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】O/W型エマルション
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/20 20060101AFI20210517BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20210517BHJP
   A61K 31/575 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   A61K47/20
   A61K9/107
   A61K47/22
   A61K47/24
   A61K47/28
   A61K47/14
   A61K31/575
【請求項の数】9
【全頁数】47
(21)【出願番号】特願2017-544388(P2017-544388)
(86)(22)【出願日】2016年6月29日
(86)【国際出願番号】JP2016069358
(87)【国際公開番号】WO2017061150
(87)【国際公開日】20170413
【審査請求日】2019年6月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-200148(P2015-200148)
(32)【優先日】2015年10月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】丹下 耕太
(72)【発明者】
【氏名】中井 悠太
(72)【発明者】
【氏名】秋田 英万
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩揮
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 綾香
(72)【発明者】
【氏名】三浦 尚也
(72)【発明者】
【氏名】原島 秀吉
【審査官】 大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/073480(WO,A1)
【文献】 特表2004−505033(JP,A)
【文献】 特表2009−501802(JP,A)
【文献】 特表2011−505235(JP,A)
【文献】 AKITA, Hidetaka et al.,ACS Biomaterials Science & Engineering,2015年 7月30日,Vol. 1, Issue 9,pp. 834-844,DOI: 10.1021/acsbiomaterials.5b00203
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61K 31/00−33/44
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水/オクタノール分配係数LogPowが4以上の難水溶性薬物を封入するためのO/W型エマルションであって、以下のB−2、B−2−5、O−C3M、B−2−3、TS−P4C2又はL−PZ4C2:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

化合物を含む、体積メディアン径が100nm以下であるO/W型エマルション。
【請求項2】
体積メディアン径が30〜50nmである、請求項1記載のO/W型エマルション。
【請求項3】
更に、リン脂質、コレステロール及びPEG脂質からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項1又は2記載のO/W型エマルション。
【請求項4】
水/オクタノール分配係数LogPowが4以上の難水溶性薬物が封入されている、請求項1〜3のいずれか1項記載のO/W型エマルション。
【請求項5】
難水溶性薬物が4−メチルウンベリフェロンコレステロールヘミコハク酸エステル又はデキサメタゾンコレステロールヘミコハク酸エステルである、請求項4記載のO/W型エマルション。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載のO/W型エマルションを含む、水/オクタノール分配係数LogPowが4以上の難水溶性薬物を細胞内へ送達するための担体。
【請求項7】
インビトロにおいて、請求項4又は5記載のO/W型エマルションを細胞へ接触させることを含む、水/オクタノール分配係数LogPowが4以上の難水溶性薬物を細胞内へ送達する方法。
【請求項8】
請求項4又は5記載のO/W型エマルションを生体内へ投与することにより、当該O/W型エマルションを細胞へ接触させて、水/オクタノール分配係数LogPowが4以上の難水溶性薬物を細胞内へ送達する方法に用いられる、請求項4又は5記載のO/W型エマルション。
【請求項9】
B−2、B−2−5、O−C3M、B−2−3、TS−P4C2又はL−PZ4C2の化合物を含む脂質のアルコール溶液と、pH3.0〜7.4、塩濃度0〜0.5Mの緩衝水溶液を混合することを含む、請求項1〜3のいずれか1項記載のO/W型エマルションの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞内の還元的環境に応答して崩壊するO/W型エマルション、およびその調製方法に関する。また、本発明は、難水溶性薬物を細胞内へ送達するための担体としての当該O/W型エマルションの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
抗悪性腫瘍薬、免疫抑制剤、抗生物質、抗真菌剤、抗高脂血症剤、抗炎症剤等の新薬候補物質の多くは難水溶性であり、十分な薬理活性を有しつつも、製剤化が困難であるため、開発途中でペンディングあるいはドロップアウトしてしまうことも少なくない。
【0003】
従来から、難水溶性薬物の医薬品への適用には、親水性界面活性剤やシクロデキストリンのような包接化合物による可溶化、植物油及びレシチンを用いた乳化といったような試みがなされているが、副作用を低減しつつ目的の薬効を得るためには、目的とする細胞や組織への集積性を高めるべく、平均粒子径の制御や細胞内での放出促進といった工夫がさらに必要である。
【0004】
平均粒子径を制御した可溶化剤の例としては、非特許文献1記載のポリマーミセルや非特許文献2および非特許文献3記載のリポソームがある。これらの文献には、平均粒子径を100nm以下に制御することにより、脾臓からの排出を回避して血中滞留性を高めたり、腫瘍等の標的組織への集積性を高めたりすることが出来ることから、生体内への投与に有利であることが示されている。しかしながら、これらのミセルやリポソームについては、細胞内での薬物の放出効率の観点からは改善の余地がある。
【0005】
本発明者らは、細胞内で脂質膜構造体を崩壊させる性質を有する脂質を開発している(特許文献1、特許文献2)。当該脂質を含むリポソーム等の脂質構造体は、細胞内の還元環境下で容易に崩壊し、水溶性化合物である核酸を高い効率で放出することから、核酸を細胞内に効率的に送達するための優れた担体として用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/073480号
【特許文献2】US20140335157
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nat Nanotechnol. 2011 Oct 23;6(12):815-23.Accumulation of sub-100 nm polymeric micelles in poorly permeable tumours depends on size.Cabral H, Matsumoto Y, Mizuno K, Chen Q, Murakami M, Kimura M, Terada Y, Kano MR, Miyazono K, Uesaka M, Nishiyama N, Kataoka K.
【非特許文献2】Biochimica et Biophysica Acta, 1062 (1991) 142-148Activity of amphipathic poly(ethylene glycol) 5000 to prolong the circulation time of liposomes depends on the liposome size and is unfavorable for immunoliposome binding to target.Aleksander L. Klibanov, Kazuo Maruyama, Anne Marie Beckerleg,Vladimir P. Torchilin and Leaf Huang
【非特許文献3】Biochimica et Biophysica Acta 1190 (1994) 99-107Effect of liposome size on the circulation time and intraorgan distribution of amphipathic poly(ethylene glycol)-containing liposomes.David C. Litzinger, Antoinette M.J. Buiting, Nico van Rooijen, and Leaf Huang
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、難水溶性薬物を細胞内へ効率的に送達するための担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特許文献1および2に開示された脂質を含むリポソームに、核酸に換えて難水溶性薬物を封入し、細胞内へ導入しようと試みたが、難水溶性薬物を安定に封入した当該リポソームを作成することはできなかった。また、当該リポソームの粒子径を、生体内への投与に有利な100nm以下に制御することも困難であった。そこで、本発明者らは更に試行錯誤を続けた結果、特許文献1及び2に開示された脂質を構成成分として用いて、O/W型エマルションを調製したところ、意外にも、当該O/W型エマルションは、リポソームとは異なって、内部に難水溶性薬物を安定に内封でき、細胞内の還元的環境に応答して効率的に薬物を放出することを見出した。更に、ある特定の条件で当該O/W型エマルションを調製することで、体積メディアン径を、生体内に投与した際に腫瘍などの組織深部への集積に有利な100nm以下に制御できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下の内容を包含する。
[1]式(1)
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、X及びXは独立して、X、X又は1,4−ピペラジンジイル基であり;
【0013】
【化2】
【0014】
sは1又は2であり、
は炭素数1〜6のアルキル基を表し、
及びnは独立して、0又は1であり、
1a及びR1bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
2a及びR2bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
及びYは独立して、エステル結合、アミド結合、カーバメート結合、エーテル結合又は尿素結合を表し、
3a及びR3bは独立して、ステロール残基、脂溶性ビタミン残基又は炭素数12〜23の脂肪族炭化水素基を表す)で示される化合物を構成成分として含む、体積メディアン径が100nm以下であるO/W型エマルション。
[2]体積メディアン径が30〜50nmである、[1]記載のO/W型エマルション。
[3]更に、リン脂質、コレステロール及びPEG脂質からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、[1]又は[2]記載のO/W型エマルション。
[4]難水溶性薬物が封入されている、[1]〜[3]のいずれか記載のO/W型エマルション。
[5]難水溶性薬物が4−メチルウンベリフェロンコレステロールヘミコハク酸エステル又はデキサメタゾンコレステロールヘミコハク酸エステルである、[4]記載のO/W型エマルション。
[6][1]〜[3]のいずれか記載のO/W型エマルションを含む、難水溶性薬物を細胞内へ送達するための担体。
[7][4]記載のO/W型エマルションを細胞へ接触させることを含む、難水溶性薬物を細胞内へ送達する方法。
[8]インビトロにおいてO/W型エマルションを細胞へ接触させる、[7]記載の方法。
[9]O/W型エマルションを生体内へ投与することにより、O/W型エマルションを細胞へ接触させる、[7]記載の方法。
[10]式(1)の化合物を含む脂質のアルコール溶液と、pH3.0〜7.4、塩濃度0〜0.5Mの緩衝水溶液を混合することを含む、[1]〜[4]のいずれか記載のO/W型エマルションの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のO/W型エマルションは、難水溶性薬物を安定に内封することが出来る。難水溶性薬物を内封した、本発明のO/W型エマルションは、細胞に取り込まれた後に、式(1)で示される化合物が細胞内の還元的環境により分解することで、O/W型エマルションが崩壊し、内封した難水溶性薬物が効率的に細胞内で放出される。従って、本発明のO/W型エマルションは、難水溶性薬物の細胞内送達用の担体として有用である。また、本発明のO/W型エマルションは体積メディアン径が100nm以下であることから、脾臓からの排出が回避されて血中滞留性が高く、腫瘍等の標的組織への集積性が高いので、生体内において、難水溶性薬物を標的組織へ送達するのに有利である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】B−2、B−2−5、O−C3M、B−2−3、又はTS−P4C2から調製される各種エマルションの体積基準粒子径分布を示す。
図2】DODAP、又はEPCから調製される各種粒子懸濁液の体積基準粒子径分布を示す。
図3】B−2、コレステロールに加えDOPCまたはDOPEを含むエマルションの、調製時pHが粒子径に与える影響を示す。
図4】B−2、DOPE、及びコレステロールを含むエマルションの、調製時塩濃度が粒子径分布に与える影響を示す図である。
図5】B−2、DOPE、及びコレステロールを含むエマルションの、調製時塩濃度と体積メディアン径の関係を示す図である。
図6】B−2、B−2−5、O−C3M、B−2−3、又はTS−P4C2から調製される各種エマルションの、還元条件下、および非還元環境下における薬剤放出を示す図である。
図7】DODAP、又はEPCから調製される各種粒子懸濁液の還元条件下、および非還元環境下における薬剤放出を示す図である。
図8】B−2、B−2−5、EPC、又はDODAPから調製される各種エマルション又は粒子懸濁液を静脈内注射した際の粒子(油滴)の主要臓器分布である。
図9図8に示す主要臓器分布を定量的に評価した図である。
図10】B−2から調製されるエマルションの腫瘍集積性に対する粒子径の影響を示す図である。
図11】B−2、B−2−5、DODAP、又はEPCから調製される各種粒子(油滴)の腫瘍内分布を示す蛍光顕微鏡画像である。
図12】B−2、B−2−5、DODAP、又はEPCから調製される各種粒子(油滴)の腫瘍内分布の不均一性を定量した図である。
図13】B−2、DODAP、又はEPCから調製される各種粒子投与群と比較対照群の腫瘍体積増加率を示す図である。
図14】L−PZ4C2から調製されるエマルションの、還元条件下(GSH(+))、および非還元環境下(GSH(−))における薬剤放出を示す図である。
図15】4−メチルウンベリフェロンパルミチン酸エステルまたは4−メチルウンベリフェロンコレステロールヘミコハク酸エステルとB−2から調製されるエマルションの脂質と薬剤の血中滞留性を比較した図である。
図16】4−メチルウンベリフェロンコレステロールヘミコハク酸エステルとB−2から調製されるエマルションの血中の薬剤濃度と腫瘍での薬剤濃度を比較した図である。
図17】4−メチルウンベリフェロンコレステロールヘミコハク酸エステルとB−2から調製されるエマルションの臓器分布を比較した図である。
図18】B−2とデキサメタゾンパルミチン酸エステルあるいはデキサメタゾンコレステロールヘミコハク酸エステルからなるエマルションの薬剤の血中滞留性を比較した図である。
図19】B−2とデキサメタゾンコレステロールヘミコハク酸エステルからなるエマルションの種々のPEG脂質濃度での血中滞留性を比較した図である。
図20】B−2とデキサメタゾンコレステロールヘミコハク酸エステルからなるエマルションをマウスに投与した際の種々のmRNAの発現量を評価した図である。
図21】B−2とデキサメタゾンコレステロールヘミコハク酸エステルからなるエマルションをマウスに投与した際の抗腫瘍効果を評価した図である。
図22】4−メチルウンベリフェロンコレステロールヘミコハク酸エステルのH−NMRスペクトルの分析結果の図である。
図23】デキサメタゾンコレステロールヘミコハク酸エステルのH−NMRスペクトルの分析結果の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
本発明は、式(1)で表される化合物を含有するO/W型エマルションを提供するものである。
【0019】
【化3】
【0020】
式(1)中、X及びXは独立して、以下に示すX、X又は1,4−ピペラジンジイル基である。
【0021】
【化4】
【0022】
中のRは炭素数1〜6のアルキル基を表し、直鎖状であっても分岐状であっても環状であっても良い。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜3である。炭素数1〜6のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、2−メチルブチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。Rは好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基であり、最も好ましくはメチル基である。
【0023】
中のsは1又は2である。sが1のときXはピロリジニウム基であり、sが2のときXはピペリジニウム基である。sは好ましくは2である。尚、Xの結合の向きは制限されないが、好ましくは、X中の窒素元素が、R1a及びR1bと結合する。
【0024】
はXと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、XはXと同一の基である。
【0025】
及びnは独立して、0又は1であり、好ましくは1である。nが1の場合、R3aはY及びR2aを介してXと結合し、nが0の場合にはR3a−X―R1a―S−の構造を呈する。同様に、nが1の場合、R3bはY及びR2bを介してXと結合し、nが0の場合にはR3b−X―R1b―S−の構造を呈する。
【0026】
はnと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、nはnと同一である。
【0027】
1a及びR1bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、直鎖状であっても良く、分岐を有していても良いが、好ましくは直鎖状である。炭素数1〜6のアルキレン基としては、具体的にはメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、イソプロピレン基、テトラメチレン基、イソブチレン基、ペンタメチレン基、ネオペンチレン基等を挙げることができる。R1a及びR1bは、好ましくはメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、イソプロピレン基又はテトラメチレン基であり、最も好ましくはエチレン基である。
【0028】
1aはR1bと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、R1aはR1bと同一の基である。
【0029】
2a及びR2bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、直鎖状であっても良く、分岐を有していても良いが、好ましくは直鎖状である。炭素数1〜6のアルキレン基としては、R1a及びR1bの炭素数1〜6のアルキレン基の例として列挙したものを挙げることができる。
2a及びR2bは、好ましくはメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、イソプロピレン基又はテトラメチレン基である。
及びXがXのとき、R2a及びR2bは、好ましくはメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、イソプロピレン基又はテトラメチレン基であり、最も好ましくはトリメチレン基である。
及びXがX2のとき、R2a及びR2bは、好ましくはメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基であり、最も好ましくはエチレン基である。
及びXが1,4−ピペラジンジイル基のとき、R2a及びR2bは、好ましくはメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基であり、最も好ましくはエチレン基である。
【0030】
2aはR2bと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、R2aはR2bと同一の基である。
【0031】
及びYは独立して、エステル結合、アミド結合、カーバメート結合、又はエーテル結合、尿素結合であり、好ましくはエステル結合、アミド結合、又はカーバメート結合であり、最も好ましくはエステル結合である。Y及びYの結合の向きは制限されないが、Yがエステル結合の場合、好ましくは、R3a−CO−O−R2a−の構造を呈し、Yがエステル結合の場合、好ましくは、R3b−CO−O−R2b−の構造を呈する。
【0032】
はYと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、YはYと同一の基である。
【0033】
3a及びR3bは独立して、ステロール残基、脂溶性ビタミン残基又は炭素数12〜23の脂肪族炭化水素基を表し、好ましくは脂溶性ビタミン残基又は炭素数12〜23の脂肪族炭化水素基である。
【0034】
「ステロール残基」としては、Y又はYとの結合に関与する反応性官能基(例、水酸基)を除いたステロール、又はステロール誘導体に由来する残基が挙げられるが、好ましくはステロール誘導体に由来する残基である。ステロール誘導体とは、例えば、ステロールの水酸基をジカルボン酸の一方のカルボン酸と反応させたステロールヘミエステル(この場合、もう一方のカルボン酸が反応性官能基となる)が挙げられる。ステロールには、例えばコレステロール、コレスタノール、スチグマステロール、β−シトステロール、ラノステロール、及びエルゴステロール等が挙げられるが、好ましくはコレステロール、又はコレスタノールである。ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、又はアジピン酸等が挙げられるが、好ましくはコハク酸、又はグルタル酸である。ステロール誘導体の具体例としては、コレステロールヘミコハク酸エステル、コレステロールヘミグルタル酸エステル等が挙げられる。
【0035】
「脂溶性ビタミン残基」としては、Y又はYとの結合に関与する反応性官能基(例、水酸基)を除いた脂溶性ビタミン、又は脂溶性ビタミン誘導体に由来する残基が挙げられるが、好ましくは脂溶性ビタミン誘導体に由来する残基である。脂溶性ビタミン誘導体とは、反応性官能基が水酸基である脂溶性ビタミンの水酸基をジカルボン酸の一方のカルボン酸と反応させた脂溶性ビタミンヘミエステル(この場合、もう一方のカルボン酸が反応性官能基となる)が挙げられる。脂溶性ビタミンとしては、例えばレチノイン酸、レチノール、レチナール、エルゴステロール、7−デヒドロコレステロール、カルシフェロール、コルカルシフェロール、ジヒドロエルゴカルシフェロール、ジヒドロタキステロール、トコフェロール、又はトコトリエノール等を挙げることができるが、好ましくは、レチノイン酸、又はトコフェロールであり、最も好ましくは、トコフェロールである。ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、及びアジピン酸等が挙げられるが、好ましくはコハク酸、及びグルタル酸である。脂溶性ビタミン誘導体の具体例としては、トコフェロールヘミコハク酸エステル、トコフェロールヘミグルタル酸エステル等が挙げられる。
【0036】
炭素数12〜23の脂肪族炭化水素基は、直鎖であっても、分岐を有していても良いが、好ましくは直鎖である。当該脂肪族炭化水素基は、飽和であっても不飽和であっても良い。不飽和炭化水素基の場合、当該脂肪族炭化水素基に含まれる不飽和結合の数は1〜6個、好ましくは1〜3個、最も好ましくは1〜2個である。不飽和結合には炭素−炭素二重結合及び三重結合が含まれるが、好ましくは二重結合である。当該脂肪族炭化水素基に含まれる炭素数は、好ましくは13〜21であり、最も好ましくは13〜17である。脂肪族炭化水素基には、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が含まれるが、好ましくはアルキル基又はアルケニル基である。炭素数12〜23の脂肪族炭化水素基としては、例えば、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、ドデセニル基、トリコシル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、トリデカジエニル基、テトラデカジエニル基、ペンタデカジエニル基、ヘキサデカジエニル基、ヘプタデカジエニル基、オクタデカジエニル基、ノナデカジエニル基、イコサジエニル基、ヘンイコサジエニル基、ドコサジエニル基、オクタデカトリエニル基、イコサトリエニル基、イコサテトラエニル基、イコサペンタエニル基、ドコサヘキサエニル基、メチルドデシル基、メチルトリデシル基、メチルテトラデシル基、メチルペンタデシル基、メチルヘプタデシル基、メチルオクタデシル基、メチルノナデシル基、メチルイコシル基、メチルヘンイコシル基、メチルドコシル基、エチルウンデシル基、エチルドデシル基、エチルトリデシル基、エチルテトラデシル基、エチルペンタデシル基、エチルヘプタデシル基、エチルオクタデシル基、エチルノナデシル基、エチルイコシル基、エチルヘンイコシル基、ヘキシルヘプチル基、ヘキシルノニル基、ヘプチルオクチル基、ヘプチルデシル基、オクチルノニル基、オクチルウンデシル基、ノニルデシル基、デシルウンデシル基、ウンデシルドデシル基、ヘキサメチルウンデシル基等を挙げることができる。直鎖のものとしては好ましくは、ドデシル基、トリデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、ノナデシル基、ヘンイコシル基、ヘプタデセニル基、又はヘプタデカジエニル基であり、特に好ましくは、トリデシル基、ヘプタデシル基、ヘプタデセニル基、又はヘプタデカジエニル基である。分岐のものとしては好ましくは、メチルペンタデシル基、ヘキシルノニル基、ヘプチルデシル基、オクチルウンデシル基、又はヘキサメチルウンデシル基であり、特に好ましくは、メチルペンタデシル基、ヘキシルノニル基、又はヘプチルデシル基である。
【0037】
一態様において、炭素数12〜23の脂肪族炭化水素基は脂肪酸、脂肪族アルコール、又は脂肪族アミンに由来するものが用いられる。R3a(又はR3b)が脂肪酸由来の場合、Y(又はY)はエステル結合、又はアミド結合であり、脂肪酸由来のカルボニル炭素はY(又はY)に含まれる。例えば、リノール酸を用いた場合、R3a(又はR3b)はヘプタデカジエニル基である。
【0038】
3aはR3bと同一であっても異なっていてもよいが、好ましくは、R3aはR3bと同一の基である。
【0039】
一態様において、XはXと同一であり、nはnと同一であり、R1aはR1bと同一であり、R2aはR2bと同一であり、R3aはR3bと同一であり、YはYと同一である。
【0040】
一態様において、
及びXは独立して、Xであり、
は炭素数1〜3のアルキル基を表し、n及びnは1であり、
1a及びR1bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
2a及びR2bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
及びYはエステル結合を表し、
3a及びR3bは独立して、炭素数12〜23の脂肪族炭化水素基を表す。
【0041】
一態様において、
及びXは、Xであり、
は炭素数1〜3のアルキル基を表し、n及びnは1であり、
1a及びR1bは、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
2a及びR2bは、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
及びYはエステル結合を表し、
3a及びR3bは、炭素数12〜23の脂肪族炭化水素基を表し、
はXと同一であり、
1aはR1bと同一であり、
2aはR2bと同一であり、
3aはR3bと同一である。
【0042】
一態様において、
及びXは、Xであり、
はメチル基を表し、n及びnは1であり、
1a及びR1bはエチレン基を表し、
2a及びR2bはトリメチレン基を表し、
及びYは−CO−O−を表し、
3a及びR3bは独立して、炭素数13〜17のアルキル基又はアルケニル基を表す。
【0043】
一態様において、
及びXは、Xであり、
はメチル基を表し、n及びnは1であり、
1a及びR1bはエチレン基を表し、
2a及びR2bはトリメチレン基を表し、
及びYは−CO−O−を表し、
3a及びR3bは、炭素数13〜17のアルキル基又はアルケニル基を表し、
3aはR3bと同一である。
【0044】
一態様において、
及びXは独立して、Xであり、
は炭素数1〜3のアルキル基を表し、n及びnは1であり、
1a及びR1bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
2a及びR2bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
及びYはエステル結合を表し、
3a及びR3bは独立して、脂溶性ビタミン残基(例、レチノイン酸残基、トコフェロール残基、トコフェロールヘミコハク酸エステル由来の基)を表す。
【0045】
一態様において、
及びXは、Xであり、
は炭素数1〜3のアルキル基を表し、n及びnは1であり、
1a及びR1bは、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
2a及びR2bは、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
及びYはエステル結合を表し、
3a及びR3bは、脂溶性ビタミン残基(例、レチノイン酸残基、トコフェロール残基、トコフェロールヘミコハク酸エステル由来の基)を表し、
はXと同一であり、
1aはR1bと同一であり、
2aはR2bと同一であり、
3aはR3bと同一である。
【0046】
一態様において、
及びXは、Xであり、
はメチル基を表し、n及びnは1であり、
1a及びR1bはエチレン基を表し、
2a及びR2bはトリメチレン基を表し、
及びYは−CO−O−を表し、
3a及びR3bは独立して、脂溶性ビタミン残基(例、レチノイン酸残基、トコフェロール残基、トコフェロールヘミコハク酸エステル由来の基)を表す。
【0047】
一態様において、
及びXは、Xであり、
はメチル基を表し、n及びnは1であり、
1a及びR1bはエチレン基を表し、
2a及びR2bはトリメチレン基を表し、
及びYは−CO−O−を表し、
3a及びR3bは、脂溶性ビタミン残基(例、レチノイン酸残基、トコフェロール残基、トコフェロールヘミコハク酸エステル由来の基)を表し、
3aはR3bと同一である。
【0048】
一態様において、
及びXは独立して、Xであり、
tは2であり、
及びnは1であり、
1a及びR1bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
2a及びR2bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
及びYはエステル結合を表し、
3a及びR3bは独立して、脂溶性ビタミン残基(例、レチノイン酸残基、トコフェロール残基、トコフェロールヘミコハク酸エステル由来の基)、又は炭素数12〜23の脂肪族炭化水素基(例、炭素数12〜23のアルキル基)を表す。
【0049】
一態様において、
及びXは独立して、Xであり、
tは2であり、
及びnは1であり、
1a及びR1bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
2a及びR2bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
及びYはエステル結合を表し、
3a及びR3bは独立して、脂溶性ビタミン残基(例、レチノイン酸残基、トコフェロール残基、トコフェロールヘミコハク酸エステル由来の基)、又は炭素数12〜23の脂肪族炭化水素基(例、炭素数12〜23のアルキル基)を表し、
はXと同一であり、
1aはR1bと同一であり、
2aはR2bと同一であり、
3aはR3bと同一である。
【0050】
一態様において、
及びXは独立して、Xであり、
tは2であり、
及びnは1であり、
1a及びR1bは、エチレン基を表し、
2a及びR2bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
及びYはエステル結合を表し、
3a及びR3bは独立して、脂溶性ビタミン残基(例、レチノイン酸残基、トコフェロール残基、トコフェロールヘミコハク酸エステル由来の基)、又は炭素数12〜23の脂肪族炭化水素基(例、炭素数12〜23のアルキル基)を表し、
はXと同一であり、
2aはR2bと同一であり、
3aはR3bと同一である。
【0051】
一態様において、
及びXは、1,4−ピペラジンジイル基であり、
及びnは1であり、
1a及びR1bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
2aおよびR2bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
およびYはエステル結合を表し、
3aおよびR3bは独立して、脂溶性ビタミン残基(例、レチノイン酸残基、トコフェロール残基、トコフェロールヘミコハク酸エステル由来の基)又は炭素数12〜23の脂肪族炭化水素基(例、炭素数12〜23(好ましくは、13〜17)のアルキル基又はアルケニル基を表す。
【0052】
一態様において、
及びXは、1,4−ピペラジンジイル基であり、
及びnは1であり、
1a及びR1bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
2aおよびR2bは独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表し、
およびYはエステル結合を表し、
3aおよびR3bは独立して、脂溶性ビタミン残基(例、レチノイン酸残基、トコフェロール残基、トコフェロールヘミコハク酸エステル由来の基)又は炭素数12〜23の脂肪族炭化水素基(例、炭素数12〜23(好ましくは、13〜17)のアルキル基又はアルケニル基を表し、
2aはR2bと同一であり、
3aはR3bと同一である。
【0053】
一態様において、
及びXは、1,4−ピペラジンジイル基であり、
及びnは1であり、
1a及びR1bは、エチレン基を表し、
2aおよびR2bは、エチレン基を表し、
およびYは、−CO−O−を表し、
3aおよびR3bは独立して、脂溶性ビタミン残基(例、レチノイン酸残基、トコフェロール残基、トコフェロールヘミコハク酸エステル由来の基)又は炭素数12〜23の脂肪族炭化水素基(例、炭素数12〜23(好ましくは、13〜17)のアルキル基又はアルケニル基を表す。
【0054】
一態様において、
及びXは、1,4−ピペラジンジイル基であり、
及びnは1であり、
1a及びR1bは、エチレン基を表し、
2aおよびR2bは、エチレン基を表し、
およびYは、−CO−O−を表し、
3aおよびR3bは独立して、脂溶性ビタミン残基(例、レチノイン酸残基、トコフェロール残基、トコフェロールヘミコハク酸エステル由来の基)又は炭素数12〜23の脂肪族炭化水素基(例、炭素数12〜23(好ましくは、13〜17)のアルキル基又はアルケニル基を表し、
3aはR3bと同一である。
【0055】
式(1)の化合物の具体例として、以下のB−2、B−2−2、B−2−3、B−2−4、B−2−5、TS−C4E、TS−C5P、TS−P2C1、TS−P3C1、TS−P4C1、TS−P4C2、TS−P4C3、TS−P4C4、TG−C3M、TSamide−C3M、TS−PZ4C2、O−C3M、L−PZ4C2の化合物を挙げることができる。
【0056】
【表1-1】
【0057】
【表1-2】
【0058】
【表1-3】
【0059】
【表1-4】
【0060】
式(1)で表される化合物のうち、X及びXが、X又はXの化合物は、WO2013/073480A1又はUS2014/0335157A1に記載された方法により製造することが出来る。
【0061】
式(1)で表される化合物のうち、X及びXが、1,4−ピペラジンジイル基である化合物の製造方法について説明する。
【0062】
式(1)の化合物は、−S−S−(ジスルフィド)結合を有している。そのため、製造方法としては、R3a−(Y−R2a)n−X−R1a−を有するSH(チオール)化合物、及びR3b−(Y−R2b)n−X−R1b−を有するSH(チオール)化合物を製造後、これらを酸化(カップリング)することで−S−S−結合を含む本発明の化合物を得る方法、−S−S−結合を含む化合物から出発し、必要な部分を順次合成していき、最終的に本発明の化合物を得る方法等が挙げられる。好ましくは、後者の方法である。
【0063】
後者の方法の具体例を以下に挙げるが、製造方法はこれらに限定されない。
【0064】
出発化合物としては、−S−S−結合を含む両末端カルボン酸、両末端アミン、両末端イソシアネート、両末端アルコール、メタンスルホニル基などの脱離基を有する両末端アルコール、p−ニトロフェニルカーボネート基などの脱離基を有する両末端カーボネートなどが挙げられる。
【0065】
例えば、X及びXが1,4−ピペラジンジイル基であり、R1a及びR1bがエチレン基であり、n及びnが1であり、R2a及びR2bがエチレン基であり、YおよびYが同一でY(エステル結合、アミド結合、カーバメート結合、又はエーテル結合)であり、R3aおよびR3bが同一でR(ステロール残基、脂溶性ビタミン残基、又は炭素数13〜23の脂肪族炭化水素基)である化合物を製造する場合、−S−S−結合を含む化合物(I)中の両末端官能基を、4位にエチレン基を介して官能基を有するピペラジン誘導体(以下、「化合物(II)」と称する)の1位の二級アミノ基と反応させた後、誘導体(II)中の官能基とR−Yを含む化合物(III)中の官能基を反応させることにより、−S−S−結合、R1a及びR1b、2つのピペラジン骨格、R2a及びR2b、Y及びY、並びにR3a及びR3bを含む式(1)の化合物を得ることができる。
【0066】
化合物(I)と化合物(II)の反応には、触媒として、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基触媒を使用しても良く、無触媒で行っても良い。好ましくは、炭酸カリウム又は炭酸ナトリウムが触媒として用いられる。
【0067】
触媒量としては、化合物(I)に対して0.1〜100mol当量であり、好ましくは、0.1〜20mol当量であり、より好ましくは0.1〜5mol当量である。化合物(II)の仕込み量は、化合物(I)に対して、1〜50mol当量であり、好ましくは1〜10mol当量である。
【0068】
化合物(I)と化合物(II)の反応に使用する溶媒としては、反応を阻害しない溶媒や水溶液であればよく、特に制限なく使用することができる。例えば酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、トルエンなどが挙げられる。これらの中では、トルエン、クロロホルム、アセトニトリルが好ましい。
【0069】
反応温度は、−20〜150℃、好ましくは0〜80℃であり、より好ましくは、20〜50℃である。反応時間は1〜48時間、好ましくは2〜24時間である。
【0070】
化合物(I)と化合物(II)の反応生成物(以下、反応生成物(I)と称する)と、化合物(III)を反応させる場合には、化合物(I)と化合物(II)の反応に使用した触媒のように、炭酸カリウムや炭酸ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ触媒を使用しても良く、p−トルエンスルホン酸やメタンスルホン酸などの酸触媒、または無触媒で行ってもよい。
【0071】
また、ジシクロヘキシルカルボジイミド(以下、「DCC」と称する)、ジイソプロピルカルボジイミド(以下、「DIC」と称する)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(以下、「EDC」と称する)などの縮合剤を使用して、反応生成物(I)と、化合物(III)を直接反応させてもよく、または、化合物(III)を、縮合剤を使用して、無水物などに変換した後、反応生成物(I)と反応させてもよい。
【0072】
化合物(III)の仕込み量は、反応生成物(I)に対して、1〜50mol当量であり、好ましくは1〜10mol当量である。
【0073】
反応生成物(I)と化合物(III)との反応に使用される触媒は、反応させる官能基同士によって、適宜選択してよい。
【0074】
触媒量は、反応生成物(I)に対して0.05〜100mol当量であり、好ましくは、0.1〜20mol当量であり、より好ましくは0.2〜5mol当量である。
【0075】
反応生成物(I)と化合物(III)の反応に使用する溶媒としては、反応を阻害しない溶媒や水溶液であればよく、特に制限なく使用することができる。例えば酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、トルエンなどが挙げられる。これらの中ではクロロホルム、トルエンが好ましい。
【0076】
反応温度は、0〜150℃、好ましくは0〜80℃であり、より好ましくは、20〜50℃である。反応時間は1〜48時間、好ましくは2〜24時間である。
【0077】
上記反応によって得られた反応物は、抽出精製、再結晶、吸着精製、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどの一般的な精製法によって、適宜精製することができる。
【0078】
当業者であれば、適宜原料を選択し、本明細書の実施例の方法に準じて反応を行うことにより、所望の式(1)の化合物を製造することができる。
【0079】
次に、本発明のO/W型エマルションについて説明する。
【0080】
O/W型エマルションとは、油滴が水相に分散したエマルションをいう。油滴には不定型の層状構造物(層状の脂質二重膜)が含まれていてもよいく、含まれていなくてもよい。油滴が層状の脂質二重膜を含む場合、脂質二重膜と脂質二重膜の間に水相が存在していてもよい。本発明のO/W型エマルションは、それを構成する油滴中に、式(1)の化合物を含む。
【0081】
本発明のO/W型エマルションは、式(1)の化合物以外に加えてそれ以外の脂質(例えば、リン脂質、ステロール、PEG脂質、糖脂質、ペプチド脂質、式(1)の化合物以外のカチオン性脂質)を油滴中に含んでいてもよい。本発明のO/W型エマルションは、油滴中に、式(1)の化合物に加えて、好ましくはPEG脂質、リン脂質、ステロールからなる群から選択される少なくとも1つの脂質を含み、より好ましくは、PEG脂質を含む。一態様において、本発明のO/W型エマルションは、油滴中に、式(1)の化合物に加えてPEG脂質を含み、加えて、リン脂質及びステロールからなる群から選択される少なくとも1つの脂質を含む、好ましい態様において、本発明のO/W型エマルションは、油滴中に、式(1)の化合物に加えて、リン脂質、PEG脂質及びステロールを含む。
【0082】
PEG脂質とは、PEGによる修飾を含む脂質を意味する。PEG脂質は、本発明のO/W型エマルションの油滴中に含まれると、界面にPEG水和層を形成し、粒子間、および粒子とタンパク質間の凝集を防ぎ、調製中、および調製後の体積メディアン径を100nm以下に安定に保つ。本発明のO/W型エマルションに用いるPEG脂質としては、上記のリン脂質にポリエチレングリコールが結合したPEGリン脂質や、上記の炭素数8〜24のアシル基が結合したジアシルグリセロールにポリエチレングリコールが結合したジアシルグリセロールPEGが挙げられる。PEG脂質を構成するポリエチレングリコールの分子量は特に限定されないが好ましくは200〜10000、より好ましくは2000〜5000である。本発明のO/W型エマルションに用いるPEG脂質は、好ましくは、アシル基が飽和型であるジアシルグリセロールPEGであり、より好ましくはアシル基がミリストイル基又はステアロイル基であるジアシルグリセロールPEGであり、さらに好ましくはミリストイル基と分子量2000のポリエチレングリコールが結合したジアシルグリセロールPEG(DMG−PEG2000)又はステアロイル基と分子量2000のポリエチレングリコールが結合したジアシルグリセロールPEG(DSG−PEG2000)である。
【0083】
リン脂質は、本発明のO/W型エマルションの油滴中に含まれると、その水/油界面を安定化し、血液中や培地中といったタンパク質存在下における安定性を与えたり、体積メディアン径を生体投与に適した100nm以下まで安定に低下させたりする。リン脂質としては、例えばホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジン酸(PA)、ジセチルリン酸、スフィンゴミエリン(SPM)、カルジオリピン等の天然あるいは合成のリン脂質;これらのリン脂質の部分もしくは完全水素添加物;これらのリン脂質の混合物である大豆レシチン、コーンレシチン、綿実油レシチン、卵黄レシチンなどの天然レシチン;および水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチンなどが挙げられる。これらのリン脂質を構成する炭化水素基は、1−位、2−位が同種もしくは異種どちらでも良く、炭素数8〜24のアシル基で構成されている。炭素数8〜24のアシル基としては、例えば、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ヘネイコサン酸、ベヘン酸、トリコサン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ヘキサデカジエン酸、リノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、エイコサトリエン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサヘキサエン酸等の脂肪酸から水酸基を除いてなる残基が挙げられる。
【0084】
本発明のO/W型エマルションに用いるリン脂質は、好ましくは合成リン脂質であり、より好ましくはアシル基に不飽和結合を含む合成リン脂質であり、さらに好ましくはジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)又はジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)であり、さらに好ましくはジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)である。
【0085】
ステロールは、本発明のO/W型エマルションの油滴中に含まれると、分子集合体としてのエマルションを構造的に安定化し、粒子径(体積メディアン径)を生体投与に適した100nm以下まで安定に低下させる。本発明のO/W型エマルションに用いるステロールとしては、例えば、コレステロール、フィトステロール、ジヒドロコレステロール、ステアリン酸コレステリル、ノナン酸コレステリル、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、オレイン酸ジヒドロコレステリル等が挙げられ、好ましくは、コレステロール、フィトステロール、ステアリン酸コレステリルであり、さらに好ましくはコレステロールである。
【0086】
本発明のO/W型エマルションに含まれる脂質の含有量は、難水溶性薬物の細胞内への導入及び放出が可能な限り、特に限定されないが、通常、エマルション中の総脂質(但し、PEG脂質を除く)濃度として0.5mM〜10mMであり、好ましくは、1mM〜8mMである。
【0087】
本発明のO/W型エマルションに含まれる式(1)の化合物の含有量は特に限定されないが、通常は、O/W型エマルションを後述の難水溶性薬物を細胞内へ送達するための担体として用いた場合に、細胞内へ難水溶性薬物を導入し、放出するのに十分な量の式(1)の化合物が本発明のO/W型エマルションに含まれる。例えば、油滴を構成する総脂質(但し、PEG脂質を除く)の5〜100モル%、好ましくは10〜70モル%、より好ましくは30〜50モル%である。
【0088】
本発明のO/W型エマルションがPEG脂質を含有する場合、その含有量は、本発明のO/W型エマルションによる難水溶性薬物の細胞内への導入及び放出が可能な限り、特に限定されない。本発明のO/W型エマルションに含まれる油滴を構成するPEG脂質以外の脂質の含有量の合計を100モル当量とみなした場合、例えば、1モル当量以上、好ましくは3モル当量以上、より好ましくは5モル当量以上のPEG脂質が、追加的に本発明のO/W型エマルションに含まれる。PEG脂質の含有量の上限値は、本発明のO/W型エマルションによる難水溶性薬物の細胞内への導入及び放出を妨げない限り、特に限定されないが、本発明のO/W型エマルションに含まれる油滴を構成するPEG脂質以外の脂質の含有量の合計を100モル当量とみなした場合、本発明のO/W型エマルション中のPEG脂質の含有量は、例えば、20モル当量以下、好ましくは、18モル当量以下、より好ましくは、15モル当量以下である。更なる局面において、本発明のO/W型エマルションに含まれる油滴を構成するPEG脂質以外の脂質の含有量の合計を100モル当量とみなした場合、本発明のO/W型エマルション中のPEG脂質の含有量は、例えば、30モル当量以下、好ましくは、25モル当量以下、より好ましくは、20モル当量以下である。従って、本発明のO/W型エマルションに含まれる油滴を構成するPEG脂質以外の脂質の含有量の合計を100モル当量とみなした場合、例えば、1〜20モル当量、好ましくは3〜18モル当量、より好ましくは5〜15モル当量のPEG脂質が、追加的に本発明のO/W型エマルションに含まれる。更なる局面において、本発明のO/W型エマルションに含まれる油滴を構成するPEG脂質以外の脂質の含有量の合計を100モル当量とみなした場合、例えば、1〜30モル当量、好ましくは3〜25モル当量、より好ましくは5〜20モル当量のPEG脂質が、追加的に本発明のO/W型エマルションに含まれる。
【0089】
本発明のO/W型エマルションがリン脂質を含有する場合、その含有量は、本発明のO/W型エマルションによる難水溶性薬物の細胞内への導入及び放出を妨げない限り、特に限定されないが、例えば、本発明のO/W型エマルションに含まれる油滴を構成する総脂質(但し、PEG脂質を除く)の10〜70モル%、好ましくは20〜60モル%、より好ましくは30〜50モル%である。
【0090】
本発明のO/W型エマルションがステロールを含有する場合、その含有量は、本発明のO/W型エマルションによる難水溶性薬物の細胞内への導入及び放出を妨げない限り、特に限定されないが、例えば、本発明のO/W型エマルションに含まれる油滴を構成する総脂質(但し、PEG脂質を除く)の10〜50モル%、好ましくは20〜40モル%である。
【0091】
本発明のO/W型エマルションは、それを構成する油滴中に、脂質以外の成分、例えば、界面活性剤(例えば、CHAPS、コール酸ナトリウム、オクチルグルコシド、N−D−グルコ−N−メチルアルカンアミド類等)、ポリエチレングリコール、蛋白質、難水溶性薬物(後述する)などをさらに含有してもよい。
【0092】
本発明のO/W型エマルションは、それを構成する水相中に、水に加えて、適切な緩衝剤(例、リン酸又はその塩、リンゴ酸又はその塩、炭酸又はその塩)、塩(例、NaCl、KCl)、水以外の親水性溶媒(例えば、アセトン1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒やメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノールなどのアルコール溶媒;好ましくはアルコール溶媒;より好ましくはエタノールもしくはtert−ブタノール)等を含有していてもよい。
【0093】
本発明のO/W型エマルションの体積メディアン径(本発明のO/W型エマルションを構成する油滴の体積メディアン径)は、100nm以下、好ましくは70nm以下、より好ましくは50nm以下である。体積メディアン径を100nm以下とすることにより、生体内に投与した際に、脾臓からの排出が回避されて血中滞留性が高くなり、また腫瘍等の組織深部への効率的な送達が可能となる。本発明のO/W型エマルションの体積メディアン径の下限値は、特に限定されないが、製造技術上の観点から、通常20nm以上、好ましくは25nm以上、より好ましくは30nm以上である。本発明のO/W型エマルションの体積メディアン径は、通常20〜100nm、好ましくは25〜70nm、より好ましくは30〜50nmである。
【0094】
本発明のO/W型エマルションは、式(1)の化合物及びその他の構成成分(脂質等)を適当な溶媒に溶解し、得られた脂質溶液を緩衝水溶液と混合し、水系に分散させることで調製することができる。脂質溶液と緩衝水溶液の混合方法については特に限定されないが、迅速に均一な乳化を達成可能な方法が好ましい。脂質溶液と緩衝水溶液の混合方法の例としては、マイクロ流路等を用いて連続的に混合を行う方法、ボルテックスミキサー等を用いた激しい撹拌により非連続的に混合を行う方法がある。ボルテックスミキサー等を用いた非連続的な方法で混合を行う場合、脂質溶液または緩衝水溶液の一方を撹拌しているところへ、他方を全量加えることで混合を行う。均一な乳化を達成するまでの混合時間は、短ければ短い程よく、例えば10秒以内、好ましくは5秒以内、より好ましくは3秒以内である。
【0095】
脂質溶液の調製に用いる溶媒としては、脂質を溶解し、且つ水と混和する溶媒であればよい。このような溶媒としては1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノールなどのアルコール溶媒等が挙げられる。好ましくはアルコール溶媒であり、より好ましくはエタノールもしくはtert−ブタノールである。脂質溶液中の脂質濃度は、本発明のO/W型エマルションを調製し得る限り特に限定されないが、全脂質(但し、PEG脂質を除く)の合計濃度として、例えば1〜12.5mM、好ましくは2〜3mMとなるように調整する。
【0096】
緩衝水溶液のpHは、本発明のO/W型エマルションが調製可能であれば特に限定されないが、O/W型エマルションの体積メディアン径を安定的に100nm以下に制御するためには、緩衝水溶液を弱酸性から中性、好ましくは弱酸性に調整することが好ましい。緩衝水溶液のpHは、例えば3.0〜7.4、好ましくは3.0〜5.0である。
【0097】
緩衝水溶液の種類は還元性を示さない限り特に限定されないが、上述のpH領域で緩衝作用を有するものが好ましい。例えば、炭酸、HEPES、MES、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、フタル酸、酢酸、リン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸又はグリシン緩衝水溶液等を挙げることができる。緩衝水溶液は、好ましくは、リンゴ酸緩衝水溶液である。これらの緩衝水溶液は、NaOH、KOH等のアルカリを用いて、適切なpHに調整することができる
【0098】
緩衝水溶液中の緩衝剤の濃度は、適切な緩衝作用を有し、且つ脂質溶液/緩衝水溶液中で析出しない限り特に限定されないが、例えばリンゴ酸緩衝水溶液の場合、通常1〜100mM、好ましくは10〜30mMである。
【0099】
緩衝水溶液には、無機塩が溶解していてもよい。無機塩としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属(Li,Na,K等)やアルカリ土類金属(Ca等)のハロゲン化物(塩化物等)や硫酸化物が包含される。無機塩は、好ましくは、NaCl又はKClであり、より好ましくはNaClである。塩濃度が高いほど、O/W型エマルションの体積メディアン径が大きくなる傾向があるため、O/W型エマルションの体積メディアン径を安定的に100nm以下に制御する観点から、塩濃度は、ハロゲンイオン濃度の合計として、好ましくは0〜0.5Mであり、より好ましくは0〜0.08Mである。
【0100】
緩衝水溶液と脂質溶液の混合体積比は、本発明のO/W型エマルションが調製可能であれば特に限定されないが、脂質溶液100体積部に対して、緩衝水溶液を、通常25〜400体積部、好ましくは42〜233体積部、より好ましくは66〜150体積部、さらに好ましくは100体積部、混合する。脂質溶液と緩衝水溶液の合計体積については限定されない。
【0101】
好適な態様において、式(1)の化合物を含む脂質のアルコール溶液と、pH3.0〜7.4、塩濃度0〜0.5Mの緩衝水溶液を混合することにより、乳化を行い、本発明のO/W型エマルションを得る。
【0102】
乳化により得られたO/W型エマルションの水相には、脂質溶液の溶媒が相当量含まれる可能性があるため、乳化が完了した後で、乳化産物を透析または限外濾過に付すことによりO/W型エマルションの水相を生体適合性緩衝水溶液へ置換してもよい。生体適合性緩衝液については生体に対し毒性を示さない緩衝液であれば限定されないが、例えばPBS等が用いられる。この際、透析や限外濾過処理に先立って、乳化産物に対して生体適合性緩衝液を加えてもよい。例えば乳化産物の3.2倍から4.0倍体積程度の生体適合性緩衝液を加えた後、透析や限外濾過処理を行う。緩衝液の置換処理は、乳化処理と連続して行うことが好ましく、乳化完了後、例えば30分以内、好ましくは10分以内、より好ましくは1分以内に透析又は限外濾過処理を開始する。脂質溶液に含まれる溶媒をできる限り除去するため、置換操作を2回以上行ってもよい。置換回数の上限については限定されない。
【0103】
本発明のO/W型エマルションは、それを構成する油滴中に、任意の難水溶性薬物を安定に内封することが出来る。難水溶性薬物を内封した本発明のO/W型エマルションは、細胞内に容易に取り込まれ、当該細胞内へ難水溶性薬物が効率的に導入される。一般に、担体を用いて細胞内へ難水溶性薬物を導入する場合、成功裏に細胞内へ難水溶性薬物が導入されたとしても、細胞内において担体中に難水溶性薬物が取り込まれたままの状態では、その薬物は薬効を十分に発揮することができない。しかしながら、本発明のO/W型エマルションの場合には、式(1)で示される化合物が細胞内の還元的環境により速やかに分解することで、O/W型エマルションが崩壊し、内封した難水溶性薬物が速やかに細胞内で放出され、その薬効を発揮することができる。従って、本発明のO/W型エマルションは、難水溶性薬物の細胞内送達用の担体として有用である。
【0104】
本発明のO/W型エマルションへの難水溶性薬物の内封は、上述したO/W型エマルションの調製において、難水溶性薬物を溶解した脂質溶液を用いて乳化を行うことにより達成することが出来る。本発明は、難水溶性薬物を内封した上記本発明のO/W型エマルションをも提供する。
【0105】
本発明において難水溶性薬物とは、化合物の疎水性を評価するために用いられる水/オクタノール分配係数LogPowが4以上の薬物を意味する。このような難水溶性薬物の例としては、タクロリムス(LogPow:4.79)、ウルソデオキシコール酸(LogPow:4.76)、オキセサゼイン(LogPow:4.38)、シンバスタチン(LogPow:4.72)、エチニルエストラジオール(LogPow:4.11)、クロトリマゾール(LogPow:4.93)、ザルトプロフェン(LogPow:4.25)、ベタメタゾン吉草酸エステル(LogPow:4.14)、ペンタゾシン(LogPow:4.15)、イオトロクス酸(LogPow:4.32)、インドメタシン(LogPow:4.25)、ケトコナゾール(LogPow:4.04)、ダナゾール(4.94)、ビホナゾール(LogPow:4.69)、ベクロペタゾンプロピオン酸エステル(LogPow:4.07)、メストラノール(LogPow:4.94)、アセメタシン(LogPow:4.49)、イプリフラボン(LogPow:4.25)、カルベジロール(LogPow:4.07)、ドンペリドン(LogPow:4.05)、メフェナム酸(LogPow:4.83)、イトラコナゾール(LogPow:5.00)、レセルピン(LogPow:4.45)、クロルヘキシジン(LogPow:4.58)、クリノフィブラート(LogPow:6.33)、リボフラビン酪酸エステル(LogPow:6.25)、シッカニン(LogPow:6.10)、メキタジン(LogPow:5.20)、エバスチン(LogPow:6.81)、ベニジピン(LogPow:5.56)、ベンズブロマロン(LogPow:6.65)、エストラジオール安息香酸エステル(LogPow:5.10)、ピモジド(LogPow:5.76)、ミデカマイシン酢酸エステル(LogPow:5.58)、トルナフタート(LogPow:5.14)、メピチオスタン(LogPow:6.89)、デキサメタゾンパルミチン酸エステル(LogPow:8.13)、4-メチルウンベリフェロンパルミチン酸エステル(LogPow:7.92)、エルゴカルシフェロール(LogPow:9.15)、コレカルシフェロール(LogPow:9.08)、トコフェロール(LogPow:10.96)、トコフェロール酢酸エステル(LogPow:10.69)、トコフェロールニコチン酸エステル(LogPow:11.33)、フィトナジオン(LogPow:10.31)、フルフェナジンエナント酸エステル(LogPow:7.29)、メナテトレノン(LogPow:8.79)、レチノール酢酸エステル(LogPow:7.19)、クロラムフェニコールパルミチン酸エステル(LogPow:8.69)、カンデサルタンシレキセチル(7.21)、レチノールパルミチン酸エステル(LogPow:14.32)、ユビデカレノン(LogPow:19.12)、デキサメタゾンコレステロールヘミコハク酸エステル(LogPow:9.37)、4−メチルウンベリフェロンコレステロールヘミコハク酸エステル(LogPow:9.16)などが挙げられる。
【0106】
更なる局面において、本出願は、デキサメタゾンコレステロールヘミコハク酸エステル、及び4−メチルウンベリフェロンコレステロールヘミコハク酸エステルをも提供する。当該化合物は、抗腫瘍剤等として有用である。当該化合物は、本発明において、難水溶性薬物として使用されたときに、コレステロールヘミコハク酸エステルの効果により、血中滞留性が高く、エステル化されていないデキサメタゾンや4−メチルウンベリフェロンと比較して、高い薬効が期待できる。以下に、デキサメタゾンコレステロールヘミコハク酸エステル、及び4−メチルウンベリフェロンコレステロールヘミコハク酸エステルの合成について具体例を挙げるが、製造方法はこれらに限定されない。
【0107】
デキサメタゾンや4−メチルウンベリフェロンの水酸基と、コレステロールヘミコハク酸エステルのカルボン酸を反応させることで所望の化合物が合成できる。この反応には、触媒として、炭酸カリウムや炭酸ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ触媒を使用しても良く、p−トルエンスルホン酸やメタンスルホン酸などの酸触媒、または無触媒で行ってもよい。
【0108】
また、ジシクロヘキシルカルボジイミド(以下、「DCC」と称する)、ジイソプロピルカルボジイミド(以下、「DIC」と称する)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(以下、「EDC」と称する)、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン(以下、「DMAP」と称する場合がある)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(以下、「DIPEA」と称する場合がある)などの縮合剤を使用してもよい。また、コレステロールヘミコハク酸エステルを、縮合剤を使用して無水物などに変換した後、デキサメタゾンや4−メチルウンベリフェロンの水酸基と反応させてもよい。
【0109】
コレステロールヘミコハク酸エステルの仕込み量は、水酸基を有する薬物に対して、1〜50mol当量であり、好ましくは1〜10mol当量である。
【0110】
触媒量は、反応生成物に対して0.05〜100mol当量であり、好ましくは、0.1〜20mol当量であり、より好ましくは0.2〜5mol当量である。
【0111】
反応に使用する溶媒としては、反応を阻害しない溶媒であればよく、特に制限なく使用することができる。例えば酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、トルエン、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの中ではクロロホルム、トルエン、ジメチルホルムアミドが好ましい。
【0112】
反応温度は、0〜150℃、好ましくは0〜80℃であり、より好ましくは、20〜50℃である。反応時間は1〜48時間、好ましくは2〜24時間である。
【0113】
上記反応によって得られた反応物は、抽出精製、再結晶、吸着精製、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどの一般的な精製法によって、適宜精製することができる。
【0114】
当業者であれば、適宜原料を選択し、本明細書の参考例の方法に準じて反応を行うことにより、所望の化合物を製造することができる。
【0115】
難水溶性薬物の疎水性が高い程、本発明のO/W型エマルションに内封されやすくなることが期待されることから、本発明に使用する難水溶性薬物のLogPowは高い程好ましく、好ましくは5以上、より好ましくは7以上、さらに好ましくは9以上である。但し、O/W型エマルションの調製において使用する脂質溶液の溶媒へ溶解できない薬物は、内封操作が困難となるおそれがある。従って、本発明に使用する難水溶性薬物と、脂質溶液の溶媒の組み合わせは、難水溶性薬物の溶解度(25℃)が好ましくは1mM以上、より好ましくは5mM以上となるものを用いる。
【0116】
好ましい態様において、難水溶性薬物として、細胞内に薬効発現のための作用点(標的分子)を有する薬物を使用する。
【0117】
尚、本発明のO/W型エマルションを構成する脂質や界面活性剤は、「難水溶性薬物」には包含されない。
【0118】
難水溶性薬物を内封した本発明のO/W型エマルションを、目的とする細胞へ接触させることにより、生体内及び/又は生体外において当該細胞内へ難水溶性薬物を導入し、放出させることができる。本発明は、このような、難水溶性薬物の細胞内への送達方法をも提供する。
【0119】
当該「細胞」の種類は、特に限定されず、原核生物及び真核生物の細胞を用いることができるが、好ましくは真核生物である。真核生物の種類も、特に限定されず、例えば、ヒトを含む哺乳類(例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウシ等)、鳥類(例えば、ニワトリ、ダチョウ等)、両生類(例えば、カエル等)、魚類(例えば、ゼブラフィッシュ、メダカ等)等の脊椎動物、昆虫(蚕、蛾、ショウジョウバエ等)等の無脊椎動物、植物、微生物(例えば、酵母等)等が挙げられる。より好ましくは、本発明で対象とされる細胞は、動物もしくは植物細胞、さらに好ましくは哺乳動物細胞である。当該細胞は、癌細胞を含む培養細胞株であっても、個体や組織より単離された細胞、あるいは組織もしくは組織片の細胞であってもよい。また、細胞は接着細胞であっても、非接着細胞であってもよい。
【0120】
生体外(in vitro)において、難水溶性薬物を内封した本発明のO/W型エマルションと細胞とを接触させる工程を以下において具体的に説明する。
【0121】
細胞はO/W型エマルションとの接触の数日前に適当な培地に懸濁し、適切な条件で培養する。O/W型エマルションの接触時において、細胞は増殖期にあってもよいし、そうでなくてもよい。
【0122】
当該接触時の培養液は、血清含有培地であっても血清不含培地であってもよい。
【0123】
当該接触時の細胞密度は、特には限定されず、細胞の種類等を考慮して適宜設定することが可能であるが、通常1×10〜1×10細胞/mLの範囲である。
【0124】
このように調製された細胞に、上述の難水溶性薬物を内封した本発明のO/W型エマルションを添加する。該懸濁液の添加量は、特に限定されず、細胞数等を考慮して適宜設定することが可能である。細胞へ接触させる際のO/W型エマルションの濃度は、目的とする難水溶性薬物の細胞内への導入が達成可能な限り特には限定されないが、脂質濃度として、通常1〜10nmol/mL、好ましくは10〜50nmol/mLである。
【0125】
上述の懸濁液を細胞に添加した後、該細胞を培養する。培養時の温度、湿度、CO濃度等は、細胞の種類を考慮して適宜設定する。細胞が哺乳動物由来の細胞である場合は、通常、温度は約37℃、湿度は約95%、CO濃度は約5%である。また、培養時間も用いる細胞の種類等の条件を考慮して適宜設定できるが、通常0.1〜24時間の範囲であり、好ましくは0.2〜4時間の範囲であり、より好ましくは0.5〜2時間の範囲である。上記培養時間が短すぎると、難水溶性薬物が十分細胞内へ導入されず、培養時間が長すぎると、細胞が弱ることがある。
【0126】
上述の培養により、難水溶性薬物が細胞内へ導入されるが、好ましくは培地を新鮮な培地と交換するか、又は培地に新鮮な培地を添加して更に培養を続ける。細胞が哺乳動物由来の細胞である場合は、新鮮な培地は、血清又は栄養因子を含むことが好ましい。
【0127】
また、上述の通り、本発明のO/W型エマルションを用いることで、生体外(in vitro)のみならず、生体内(in vivo)においても難水溶性薬物を細胞内へ導入することが可能である。即ち、難水溶性薬物を内封した本発明のO/W型エマルションを対象へ投与することにより、該O/W型エマルションが標的細胞へ到達・接触し、生体内で該O/W型エマルションに内封された難水溶性薬物が細胞内へ導入される。該O/W型エマルションを投与可能な対象としては、特に限定されず、例えば、哺乳類(例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウシ等)、鳥類(例えば、ニワトリ、ダチョウ等)、両生類(例えば、カエル等)、魚類(例えば、ゼブラフィッシュ、メダカ等)等の脊椎動物、昆虫(例えば、蚕、蛾、ショウジョウバエ等)等の無脊椎動物、植物等を挙げることができる。本発明のO/W型エマルションの投与対象は、好ましくはヒト又は他の哺乳動物である。
【0128】
標的細胞の種類は特に限定されず、本発明のO/W型エマルションを用いることで、種々の組織(例えば、肝臓、腎臓、膵臓、肺、脾臓、心臓、血液、筋肉、骨、脳、胃、小腸、大腸、皮膚、脂肪組織等)中の細胞へ、難水溶性薬物を導入することが可能である。
【0129】
本発明のO/W型エマルションは体積メディアン径を100nm以下とすることにより、腫瘍等の組織深部への効率的な送達が可能なので、難水溶性薬物(例えば、難水溶性の抗腫瘍剤)を腫瘍組織(例、固形腫瘍組織)中の腫瘍細胞へ送達するのに有利である。
【0130】
また、式(1)の化合物としてB−2−5を含む本発明のO/W型エマルションは、肝臓への集積性に優れているので、難水溶性薬物(例えば、難水溶性の肝臓疾患治療剤)を肝組織中の細胞(例、肝細胞)へ送達するのに有利である。
【0131】
難水溶性薬物を内封した本発明のO/W型エマルションの対象(例えば、脊椎動物、無脊椎動物など)への投与方法は、標的細胞へ該O/W型エマルションが到達・接触し、該O/W型エマルションに内封された難水溶性薬物を細胞内へ導入可能な方法であれば特に限定されず、難水溶性薬物の種類、標的細胞の種類や部位等を考慮して、自体公知の投与方法(例えば、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、局所投与、経皮投与、皮下投与、腹腔内投与、スプレー等)等)を適宜選択することができる。該O/W型エマルションの投与量は、難水溶性薬物の細胞内への導入を達成可能な範囲であれば、特に限定されず、投与対象の種類、投与方法、難水溶性薬物の種類、標的細胞の種類や部位等を考慮して適宜選択することができる。
【0132】
本発明のO/W型エマルションを、難水溶性薬物を細胞内へ送達するための担体として使用する場合は、常套手段に従って製剤化することができる。
【0133】
該担体が研究用試薬として提供される場合、当該本発明の担体は、本発明のO/W型エマルションをそのままで、あるいは例えば水もしくはそれ以外の生理学的に許容し得る液(例えば、水溶性溶媒(例えば、リンゴ酸緩衝液等)、有機溶媒(例えば、エタノール、メタノール、DMSOなど)もしくは水溶性溶媒と有機溶媒との混合液等)との懸濁液を用いて提供され得る。本発明の担体は適宜、自体公知の生理学的に許容し得る添加剤(例えば、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤等)を含むことが出来る。
【0134】
また、該担体が医薬として提供される場合、当該本発明の担体は、本発明のO/W型エマルションをそのままで用いて、あるいは医薬上許容される公知の添加剤(例えば、担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤等)とともに用い、一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって、経口剤(例えば、錠剤、カプセル剤等)あるいは非経口剤(例えば注射剤、スプレー剤等)として、好ましくは非経口剤(より好ましくは、注射剤)として製造することができる。
【0135】
ここで述べられた特許、特許出願明細書、科学文献を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0136】
以下に本発明の実施例について更に詳細に説明するが、本発明は当該実施例に何ら限定されない。
【実施例】
【0137】
[実施例1] 微小O/W型エマルションの調製
カチオン性脂質としてB−2、B−2−5、O−C3M、B−2−3、TS−P4C2又はL−PZ4C2を用い、カチオン性脂質:DOPE:Cholesterol=3:4:3(モル比)からなる組成のO/W型エマルションを調製した。本調製においては、モデル薬物として4−Methylumbelliferonを10モル%、PEG脂質としてDMG−PEG2000を10モル%およびDSG−PEG2000を2.5モル%を用い、脂質濃度に換算して1.0mM相当のエマルションを調製した。
【0138】
カチオン性脂質、DOPE、及びCholesterolの合計が1000nmolとなるようエタノール溶液を調製し、さらにモデル薬物及びPEG脂質を上記の量加えた。エタノールで全量を400μLとした後、氷温で15分静置した。同じく氷冷したリンゴ酸バッファー(20mM、pH3.0、30mM NaCl)を400μL、ボルッテクス下3秒以内に混合した。そこへ直ちにPBS(ニッスイ)を3200μL添加した。混合物に対しAmicon Ultra(ミリポア)を用いて限外濾過を行った。遠心条件として1000g、25℃を用いた。10分間の遠心の後3200μLのPBSを加える操作を二度行った後、サンプルを濃縮し500μL前後とした。質量が1000mgとなるようにPBSで希釈し、脂質濃度に換算して1mMのエマルションとした。
【0139】
作製したエマルションの粒子径分布をゼータサイザーナノZSを用いた動的光散乱法により計測した。測定条件として、1mMのエマルション40μLを25℃で計測した。その結果全ての組成において体積メディアン径は100nm以下であり、直鎖状頭部を用いた場合(即ち、式(I)のX及びXがXの場合)、粒子径は50nm以下であった。薬物回収率は85%以上であった(図1、表2)。
【0140】
【表2】
【0141】
[比較例1] 従来型脂質DODAPおよびEPCを用いた調製
カチオン性脂質としてDODAPを用い、DODAP:DOPE:Cholesterol=3:4:3(モル比)からなる組成の粒子を調製した。本調製においては、モデル薬物として4−Methylumbelliferonを10モル%、PEG脂質としてDMG−PEG2000を10モル%およびDSG−PEG2000を2.5モル%用い、脂質濃度に換算して1.0mM相当の粒子懸濁液を調製した。粒子の調製、粒子径分布の取得については実施例1に記載の方法に従った。
【0142】
中性脂質としてEPCを用い、EPC:Cholesterol=3:2からなる組成の粒子を調製した。本調製においてはモデル薬物として4−Methylumbelliferonを10モル%、PEG脂質としてDSG−PEG2000を2.5モル%用い、脂質濃度に換算して1.0mM相当の粒子懸濁液を調製した。
【0143】
EPC及びCholesterolを1000nmolとなるよう混合し、さらにPEG脂質を加えた。脂質エタノール溶液と等量のクロロホルムを添加し、窒素通気下にて乾燥させた。乾燥後の脂質膜へPBSを1mL加え10分間静置の後、バスタイプソニケーターで3分間超音波処理を行い、粒子懸濁液とした。作製した粒子の粒子径分布を実施例1と同様に動的光散乱法により計測した。
【0144】
その結果DODAPの体積メディアン径は34.8nm、PdIは0.418、モデル薬物回収率は76.7%であった。EPCの体積メディアン径は48.1nmであったが、目視で凝集塊が認められた(図2、表3)。
【0145】
【表3】
【0146】
[実施例2] O/W型エマルションに対するpHの影響
カチオン性脂質としてB−2を用い、カチオン性脂質:DOPE:Cholesterol=3:4:3(モル比)またはカチオン性脂質:DOPC:Cholesterol=3:4:3(モル比)からなる組成のO/W型エマルションを調製した。本調製においては、PEG脂質としてDMG−PEG2000を15モル%用い、脂質濃度にして0.5mMのエマルションを作製した。
【0147】
B−2、DOPE及びCholesterolの合計が500nmolになるようエタノール溶液を調製し、さらにPEG脂質を上記の量加えた。エタノールで全量を200μLとした後、氷温で15分静置した。同じく氷冷したリンゴ酸バッファー(20mM、pH3.0−pH5.0)を200μL、ボルッテクス下3秒以内に混合した。そこへ直ちにPBS(ニッスイ)を3600μL添加した。混合物に対しAmicon Ultra(ミリポア)を用いて限外濾過を行った。遠心条件として1000G、25℃を用いた。10分間の遠心の後3200μLのPBSを加える操作を二度行った後、サンプルを濃縮し500μL前後とした。質量が1000mgとなるようにPBSで希釈し0.5mMのエマルション溶液とした。
【0148】
作成したエマルション溶液の粒子径分布を実施例1と同様に動的光散乱により計測した。その結果DOPCを用いた場合、体積メディアン径はpHに依らず40nm付近を示した。DOPEを用いた場合は体積メディアン径にpH依存性が見られ、pH3.0で40nm程度の最も小さな粒子となった。このため、微小粒子を作成するための条件としてpH3.0が優れていた(図3、表4)。
【0149】
【表4】
【0150】
[実施例3] B−2 O/W型エマルションに対する塩濃度の影響
カチオン性脂質としてB−2を用い、カチオン性脂質:DOPE:Cholesterol=3:4:3(モル比)からなる組成のO/W型エマルションを調製した。本調製においては、PEG脂質としてDMG−PEG2000を15モル%用い、脂質濃度にして0.5mMのエマルションを作製した。
【0151】
B−2、DOPE及びCholesterolの合計が500nmolになるようエタノール溶液を調製し、さらにPEG脂質を上記の量加えた。エタノールで全量を200μLとした後、氷温で15分静置した。同じく氷冷したリンゴ酸バッファー(20mM、pH3.0、0−1000mM NaCl)を200μL、ボルッテクス下3秒以内に混合した。そこへ直ちにPBS(ニッスイ)を3600μL添加した。混合物に対しAmicon Ultra(ミリポア)を用いて限外濾過を行った。遠心条件として1000G、25℃を用いた。10分間の遠心の後3200μLのPBSを加える操作を二度行った後、サンプルを濃縮し500μL前後とした。質量が1000mgとなるようにPBSで希釈し脂質濃度として0.5mMのエマルションとした。作製したエマルションの粒子径分布を、実施例1と同様に動的光散乱により計測した。
【0152】
その結果、体積メディアン径は60mM以下のNaCl濃度において30〜50nmとなることが示された。また500mM以下の塩濃度では、体積メディアン径を100nm以下に制御可能であることが示された(図4図5)。
【0153】
[実施例4] 薬物放出と還元応答性試験
カチオン性脂質としてB−2、B−2−5、O−C3M、B−2−3、TS−P4C2又はL−PZ4C2を用い、カチオン性脂質:DOPC:Cholesterol=3:4:3(モル比)からなる組成のO/W型エマルションを調製した。本調製においてはPEG脂質としてDSG−PEG2000を9モル%用いた。また薬物モデル分子として4−Methylumbelliferon Palmitateを30モル%用い、粒子濃度による補正のために蛍光プローブDiDを1モル%用いた。
【0154】
カチオン性脂質、DOPE及びCholesterolの合計が1000nmolになるようエタノール溶液を調製し、さらにPEG脂質、薬物モデル分子及び蛍光プローブを上記の量加えた。エタノールで全量を400μLとした後、37℃で15分静置した。同じく加温したリンゴ酸バッファー(20mM、pH3.0、30mM NaCl)を400μL、ボルッテクス下3秒以内に混合した。そこへ直ちにPBS(ニッスイ)を3200μL添加した。混合物に対しAmicon Ultra(ミリポア)を用いて限外濾過を行った。遠心条件として1000g、25℃を用いた。10分間の遠心の後3200μLのPBSを加える操作を二度行った後、サンプルを濃縮し500μL前後とした。質量が1000mgとなるようにPBSで希釈し脂質濃度として1mMのエマルションとした。
【0155】
作製したエマルションの内400μLを分子量カットオフ1000の透析膜(Spectrum Lab)に入れ、40mLのPBSに対し37℃にて透析した。この際、還元に対する応答性を調べるため10mMグルタチオンを含む40mLのPBSに対しても同様に透析を行った。各タイムポイントにおいてにおいて透析チューブ内の溶液を30μL回収した。回収サンプルはPBSで3倍希釈した後、5μLを300μLのホウ酸バッファー(100mM、pH10.4)、150μLのエタノール、及び50μLの10%SDSと混合した(合計505μL)。60℃で30分浸透撹拌した後、溶液中の4MUおよびDiD量を蛍光測定により定量した(4MU:Ex385、Em450 DiD:Ex645、Em665)。4MUの残存量をDiDの残存量で除することにより粒子に対する薬物残存量とした。
【0156】
その結果、非還元環境下において本O/W型エマルションは24時間まで安定に薬物を保持する一方で、還元条件下では24時間でほぼ完全な薬物の放出が認められた(図6図14)。このことから本O/W型エマルションは細胞内還元環境における薬物放出性を持つと考えられた。
【0157】
[比較例2] 薬物放出と還元応答性試験(DODAP、EPC)
従来型脂質としてDODAP、又はEPCを用い、従来型脂質:DOPC:Cholesterol=3:4:3(モル比)からなる組成の粒子懸濁液を調製した。本調製においてはPEG脂質としてDSG−PEG2000を9モル%用いた。また薬物モデル分子として4−Methylumbelliferon Palmitateを30モル%用い、粒子濃度による補正のために蛍光プローブDiDを1モル%用いた。
粒子の調製及び薬物放出試験は実施例3に記載の方法で行った。
その結果、還元に対する応答性は認められず、薬物モデル物質はどの条件においても24時間にわたってほぼ放出されなかった(図7)。
【0158】
[試験例1] O/W型エマルションの粒子の臓器集積性
カチオン性脂質としてB−2およびB−2−5を用いた。従来型脂質としてDODAP及びEPCを用いた。O/W型エマルション及び粒子懸濁液(DODAP、EPC)の作製方法は実施例1および比較例1に記載の方法に従った。O/W型エマルション又は粒子懸濁液(DODAP、EPC)を構成する油滴の体内動態を可視化するため、蛍光色素DiRを脂質の0.2モル%分加えた。粒子濃度は脂質濃度にして4mMとなるよう調整した。
【0159】
担がんマウスとして4T1細胞(マウス乳がん)を用いた。Balb/cマウス(♀、4週齢)の右わき腹皮下へ1×10個の4T1細胞を移植した。移植から7日目に蛍光修飾粒子を含むO/W型エマルション又は粒子懸濁液(DODAP、EPC)を200μL(脂質800nmol)静脈内投与した。投与24時間後、肝脱血を行った後脾臓、肝臓、腫瘍を回収し、IVISで画像を取得した。平均蛍光強度はLiving Image Softwareを用いて算出した。
その結果B−2−5は肝臓への集積が認められた。EPCは脾臓への集積が認められ、粗大な凝集塊の寄与が考えられる。B−2およびDODAPは腫瘍へ良好に移行することが示された(図8、9)。
【0160】
[試験例2] 腫瘍集積性のO/W型エマルションの粒子径依存性
カチオン性脂質としてB−2を用いた。O/W型エマルションの調製は実施例3に従い行った。本調製においては、モデル薬物として4−Methylumbelliferonを10モル%、PEG脂質としてDMG−PEG2000を10モル%およびDSG−PEG2000を2.5モル%を用い、脂質濃度に換算して4.0mM相当のエマルションを調製した。O/W型エマルション又は粒子懸濁液(DODAP、EPC)を構成する油滴の体内動態を可視化するため、蛍光色素DiRを脂質の0.2モル%分加えた。粒子作製時の塩(NaCl)濃度として30mM、150mM、750mMを選択し、それぞれ“Small”、 “Medium”、“Large”とした。粒子濃度は脂質濃度にして4mMとなるよう調整した。
【0161】
担がんマウスにおける臓器の分布性評価については試験例1と同様に行った。その結果、粒子径が小さくなるほど脾臓、肝臓への集積が低下した。一方で粒子径が小さくなるほど腫瘍への集積が増加し、最も集積性が高い粒子は“Small”であった。このことから微小なO/Wエマルションは腫瘍に対する薬物送達に適していることが示唆された(図10)。
【0162】
[試験例3] 腫瘍内粒子分布
カチオン性脂質としてB−2およびB−2−5を用いた。従来型脂質としてDODAP及びEPCを用いた。O/W型エマルション及び粒子懸濁液(DODAP、EPC)は実施例1および比較例1に記載の方法に従い作製した。O/W型エマルション又は粒子懸濁液(DODAP、EPC)を構成する油滴の体内動態を可視化するため、蛍光色素DiDを脂質の1.0%分加えた。粒子濃度は脂質濃度にして4mMとなるよう調整した。
【0163】
担がんマウスの作製と静脈内投与は試験例1と同様に行った。投与24時間後、腫瘍を回収しマイクロスライサーで厚さ400μmの切片を作成した。DiDの蛍光を共焦点レーザースキャン顕微鏡(Nikon A−1)にて取得した。画像は10倍のレンズにて取得し、腫瘍全体にわたるラージイメージとして取得した。画像の定量はImageJにて行った。Coefficiency of variance(CV;画像内のムラの指標)は全ピクセル強度の分散をピクセル強度の平均値で除することで算出した。
その結果、B−2およびDODAPは画像のムラを表すCV値が低いことが明らかとなった。これは粒子の微小化により腫瘍への浸透性が向上したためと考えられた(図11図12)。
【0164】
[試験例4] Dexamethasone Palmitate(DexPal)搭載粒子の抗腫瘍効果
1.DexPal搭載粒子の調製
カチオン性脂質としてB−2又はDODAPを用い、脂質のエタノール溶液として、5mMカチオン性脂質 60μL、5mM DOPC 80μL、5mM Chol 60μL、1mM DMG−PEG2000 100μL、1mM DSG−PEG2000 30μL、及び10mM DexPal 30μLを5mLチューブ内で混合し、エタノールを加えて400μLとした。中性脂質としてEPCを用い、5mM EPC 140μL、5mM Chol 60μL、1mM DMG−PEG2000 100μL、1mM DSG−PEG2000 30μL、及び10mM DexPal 30μLを5mLチューブ内で混合し、エタノールを加えて400μLとした。本脂質エタノール溶液を氷上で10分静置した。脂質エタノール溶液を撹拌しながら、氷冷20mM リンゴ酸緩衝液(pH 3.0、30mM NaCl)400μLを加え、数秒撹拌後、氷冷リン酸緩衝液(pH 7.4)2000μLを添加し数秒撹拌した。リン酸緩衝液(pH 7.4)1200μLを添加し、Amicon Ultra 4(Millipore社)を用い、以下の遠心条件(室温,1000g,3min)で約500μLまで繰り返し限外濾過し濃縮した。リン酸緩衝液(pH 7.4)4000μLを添加し、同条件で再度約500μLまで限外濾過し濃縮した。この操作を再度繰り返した。リン酸緩衝液(pH 7.4)で1000μLまでメスアップし、1mM DexPal搭載粒子(油滴)を含むO/W型エマルション及び粒子懸濁液を得た。
【0165】
2.DexPal搭載粒子の粒子径、及び表面電位の測定
体積メディアン径並びに表面電位は、実施例1と同様に動的光散乱法(Zetasizer Nano;Malvern社)を用いて測定した。調製された各種粒子の体積メディアン径、表面電位を表5に示す。
【0166】
【表5】
【0167】
3.DexPal搭載LNPのDexPal搭載率の測定
1mM DexPal搭載LNP 50μLをリン酸緩衝液(pH 7.4)50μLと混合し、うち50μLをMeOH 50μLと混合した。0.1%トリフルオロ酢酸/アセトニトリル 400μLを添加し、高速液体クロマトグラフィーによりDexPalを検出した(カラム:InertSustain C18、5μm、4.6mm×250mm(ジーエルサイエンス社)、移動相:MeOH:0.1%トリフルオロ酢酸/アセトニトリル=70:30、流速:1mL/min、検出器:240nm、注入量:200μL)。DexPalの検量線として、0.5mM、0.25mM、0.125mM、0.0625mM、DexPalエタノール溶液50μLをMeOH 50μLと混合し、うち50μLをリン酸緩衝液(pH 7.4)50μLと混合した。0.1%トリフルオロ酢酸/アセトニトリル 400μLを添加し、DexPal搭載LNPと同様の方法でDexPalを検出した。ピーク面積と濃度をプロットし、DexPal搭載LNP中のDexPal濃度、及び搭載率を算出した。各種DexPal搭載LNPの搭載率を表6に示す。
【0168】
【表6】
【0169】
4.DexPal搭載LNPのEG7−OVAリンパ腫に対する抗腫瘍効果の検証
EG7−OVA(OVA発現EL4リンパ腫)をC57BL/6L(6〜8週齢、♀)の右脇腹皮下に、8.0×10 cells移植し、1週間後に次の式に従い腫瘍体積を算出した:(長軸(mm))×(短軸(mm))×0.52)。腫瘍体積が100〜200mmである担癌マウスをランダムにグループ分けした。その24時間後、上記調製した、B−2、DODAP、又はEPCを含むDexPal搭載LNP、及び水溶性Dexamethasone製剤としてDexamethasone Sodium Phosphate(DexPhos)を、Dexamethasone換算で1mg/mLとなるように尾静脈内投与した。その24時間後、48時間後に同様のDexPal搭載LNP、及びDexPhosを投与し、最終投与24時間後に腫瘍体積を算出した。移植後1週間の腫瘍体積を100%とした際の、最終投与の24時間後における腫瘍体積の割合を図13に示す。
【0170】
[実施例5] 4‐メチルウンベリフェロンコレステロールヘミコハク酸エステル(4MU−CHEMS)、デキサメタゾンコレステロールヘミコハク酸エステル(Dex−CHEMS)内封O/W型エマルションの作製
1.4MU−CHEMS内封O/W型エマルションの作製
B−2:DOPC:Chol=3:4:3にDSG−PEG2000を9モル%、4MU−CHEMSを30モル%加え、更に蛍光色素DiDを1モル%加え、実施例1と同様にエマルションを作製した。
【0171】
2.Dex−CHEMS内封O/W型エマルションの作製
脂質組成:B−2/DOPC/Chol=3/4/3、10mol% Dex−CHEMS、10mol% DMG−PEG2000及び3mol% DSG−PEG2000にて、実施例1と同様な方法でエマルションを作製した。
作製した粒子の平均粒子径を実施例1と同様に測定した結果を表7に示す。
【0172】
【表7】
【0173】
[試験例5] 血中滞留性試験:4−メチルウンベリフェロンパルミチン酸エステル(4MU−Pal)と4−メチルウンベリフェロンコレステロールヘミコハク酸エステル(4MU−CHEMS)の比較
B−2:DOPC:Chol=3:4:3の脂質混合物にDSG−PEG2000を9モル%、及び4MU−Palを30モル%加え、更に蛍光色素DiDを1モル%加え実施例1と同様な方法でエマルションを作製した。
B−2:DOPC:Chol:4MU−CHEMS=3:4:1.5:1.5の脂質混合物にDSG−PEG2000を15モル%加え、さらに蛍光色素DiDを1モル%加え、実施例1と同様な方法でエマルションを作製した。
粒子懸濁液の濃度を脂質濃度(B−2+DOPC+Chol)で4mMとした。ICRマウス♂4週齢に対し該懸濁液を尾静脈から250μLを投与した。各タイムポイントで血液を25μL回収し、pH10.4ホウ酸バッファー275μL、エタノール150μL、10%SDS50μLと混合した。60℃で30分インキュベーションすることにより、4MU−Palまたは4MU−CHEMSを加水分解した。生成する4-メチルウンベリフェロン、および粒子に修飾されたDiDの蛍光をそれぞれプレートリーダで計測し、検量線から血中残存量を調べた結果を図15に示す。4MU−CHEMSは4MU−Palよりも長く血中を滞留した。
【0174】
[試験例6] 血中滞留性試験:4MU−CHEMSの腫瘍と血中濃度の比較
B−2:DOPC:4MU−CHEMS=3:4:3の脂質混合物に、DSG−PEG2000を20モル%加え、粒子を作製した。粒子懸濁液の濃度を脂質濃度で8mMとした。4T1細胞を皮下移植したBalb/cマウス(♀4週齢、移植7日)に尾静脈から200μL投与した。血中滞留性は試験例5と同様に調べた。腫瘍内濃度については、各タイムポイントで腫瘍を回収し、細断の後25mgを量り取った。pH10.4ホウ酸バッファー300μL、エタノール150μL、及び10%SDS50μLを加え、ホモジェナイズした。ホモジェネートを60℃で30分間インキュベーションした後、14000gで5分間遠心し上清の蛍光強度を調べ、検量線から存在量を見積もった。
【0175】
比較対象として4−メチルウンベリフェロンとDSG−PEG2000からなるミセルを用いた。2%DMSOを含むPBS中でDSG−PEG2000を1.6mM、4MUを2.4mMとなるようミセルを調製した。投与、定量に関しては粒子と同様に行った。図16に結果を示した。B−2と4MU−CHEMSからなるエマルションは4−メチルウンベリフェロンとDSG−PEG2000からなるミセルと比較して、長く血中を滞留し、腫瘍へ集積した。
【0176】
[試験例7] 4MU−CHEMS内封エマルションの臓器分布
B−2:DOPC:4MU−CHEMS=3:4:3にDSG−PEG2000を20モル%加え、蛍光色素DiDを1モル%加え、実施例1と同様にエマルションを調製した。粒子懸濁液を脂質濃度で8mMとなるよう調整し、4T1細胞を皮下移植したBalb/cマウス(♀4週齢)に尾静脈から200μL投与した。ヘパリン/PBSで肝臓を脱血した後、肝臓、肺、心臓、腎臓、脾臓、腫瘍を取り出し、IVISによりDiDの蛍光を取得した。また、各臓器に関する平均ピクセル強度を算出した。さらに、それぞれの腫瘍を細断し、25mgを量り取った。Triton/PBSでホモジェナイズした後遠心し、上清に含まれるDiDの蛍光をプレートリーダーで取得した。結果を図17に示した。B−2と4MU−CHEMSからなるエマルションは腫瘍に集積し、経時的に集積量が増大した。
【0177】
[試験例8] 血中滞留性評価
1.デキサメタゾンコレステロールヘミコハク酸エステル(Dex−CHEMS)とB−2からなるエマルションの調製
脂質組成が3mM B−2/DOPC/Chol=3/4/3 +10mol%Dex−CHEMS+10mol%DMG−PEG2000 +10mol%DSG−PEG2000 (1000 μL)の場合、以下のように脂質溶液を試験管内で混合した。
【0178】
【表8】
【0179】
溶媒を一度留去し、100 μLのCHClで再溶解させた。Nガスを吹き付け、試験管壁に脂質薄膜を形成させた。デシケーターで数時間真空処理後、20mM Maric acid buffer (30mM NaCl,pH 3.0) 1000μLを添加し、10min室温でインキュベートした。バス型ソニケーターで30sec超音波処理後、プローブ型ソニケーターで5min超音波処理した(出力:30%)。4℃,15000g,5minで遠心後、上清を回収した。36mM NaOH/PBSを等量加えて中和を行なった。
【0180】
2.Dex−CHEMSの定量
各粒子100μLを1.5mLチューブへ移し、コンセントレーター(Heat:High)で30min乾燥した。0.1%TFA/Hexane:0.1%TFA/EtOH=9:1 100μLに溶解させ、HPLCを用いてDex−CHEMSのピーク面積を用いて回収率を算出した(HPLC条件…移動相:0.1%TFA/Hexane:0.1%TFA/EtOH=9:1、カラム:COSMOSIL SL−II、流速:1mL/min、分析時間:10min、カラム温度:40℃、検出波長:240nm、Dex−CHEMSのピーク:3.90min)。また、Dex−CHEMSの検量線として、0.5,0.25,0.125,0.0625mM Dex−CHEMS in 0.1%TFA/Hexane:0.1%TFA/EtOH:CHCl=8:1:1を用いた。
【0181】
3.投与、血液回収
Dex−CHEMSとB−2からなるエマルションをICRマウス(4w♂)に対して、25μgDex−CHEMS/mouseで投与した。26G注射針を用いて、投与後1min,1hr,6hr,24hrに尾静脈から40μLの血液を採取し、1μLの5000U/mLヘパリンナトリウム入りPCRチューブに素早く加え、タッピングにより混和後、氷上で保存した。
【0182】
4.Dex−CHEMSの測定
4℃,1000g,10minで遠心し血漿16.5μLを別の1.5mLチューブへ移した。DDWで50μLとし、62.5μLのCHCl、125μLの0.04mM 4−メチルウンベリフェロンパルミチン酸エステル(4MU−Pal) in MeOH(4MU−Palを標準物質として使用した)を加えたのち、30secボルテックスした。62.5μLのCHCl、62.5μLのDDWを加えたのち、30secボルテックスし、4℃,15000g,5minで遠心した。下層のCHCl 100μLを別のチューブに回収し、溶媒を留去後、0.1%TFA/Hexane:0.1%TFA/EtOH=9:1 100μLに溶解し、HPLCを用いてDex−CHEMSのピーク面積、及び4MU−Palのピーク面積を算出した。また0.5,0.25,0.125,0.0625nmolのDex−CHEMSを同様の方法でHPLCを用いてピーク面積を算出し、検量線として用いた。
(HPLC条件:移動相:0.1%TFA/Hexane:0.1%TFA/EtOH=9:1、カラム:COSMOSIL SL−II、流速:1mL/min、分析時間:10min、カラム温度:40℃、検出波長:240nm(Dex−CHEMS)又は280nm(4MU−Pal)、Dex−CHEMS:3.90min、4MU−Palのピーク:3.27min)。
【0183】
投与1分後を100%とした場合の1時間後の血中残存率を算出した結果を図18に示した。上記と同様にB−2とデキサメタゾンパルミチン酸エステル(Dex−Pal)からなるエマルションを調製し、同様に評価したところ、Dex−Palは1時間後には血中から消失したのに対し、Dex−CHEMSは滞留を続けていた。
【0184】
[試験例9] PEG脂質の濃度の影響
B−2/DOPC/Chol=3/4/3+10mol% DMG−PEG2000+3〜9mol% DSG−PEG2000+10mol% Dex―CHEMSの組成にて、実施例1と同様にエマルションを作製した。各PEG量のエマルションをマウス尾静脈より投与し、1min,1hr,6hr,及び24hr後に血漿を回収、有機溶媒による抽出後、HPLCによりDex−CHEMS濃度を算出した。結果を図19に示す。DSG−PEG2000の増量に伴い血中滞留性が向上し、DSG−PEG2000 6mol%と9mol%ではほぼ同等となった。
【0185】
[試験例10] mRNA発現評価
1.エマルションの作製
B−2/DOPC/Chol=3/4/3+10mol% DMG−PEG2000+6mol% DSG−PEG2000+10mol% Dex―CHEMSの組成にて、実施例1と同様にエマルションを作製した。
【0186】
2.腫瘍mRNA抽出
担癌マウスを頚椎脱臼により安楽死させ、解剖用ハサミを用いて腫瘍を摘出し、氷上のシャーレで皮膚を除去後細断した。約50mgの腫瘍をジルコニアビーズ入り自立型2mLチューブへ入れ、液体窒素で急速凍結させた。全サンプルを摘出後、液体窒素から取り出し、500μLのTRIzolを加えたのち、Microsmashを用いて破砕処理した(4800rpm,30sec,2times)。100μLのクロロホルムを加え。1minボルテックス後、5min静置した。チューブを4℃、12000g、15minで遠心し、上清200μLを1.5mLチューブへ移したのち、250μLのイソプロパノールを添加した。1minボルテックス後、5min静置し、4℃、12000g、15minで遠心後、上清を除いた。500μLの氷冷70%エタノールを添加し、ペレットを舞い上がらせたのち、4℃、12000g、10minで遠心し、上清を除いた。この操作を再度行い、100μLのRNase free waterでペレットを完全に溶解させた。250μLのエタノール、5μLの5M NaClを添加し、1minボルテックス後、5min静置し、4℃、12000g、15minで遠心し、上清を除いた。500μLの氷冷70%エタノールを添加し、ペレットを舞い上がらせたのち、4℃、12000g、10minで遠心し、上清を除いた。500μLのRNase free waterでペレットを完全に溶解させ、吸光度により濃度を測定した。
【0187】
3.逆転写反応
以下の組成で反応を行った。
【0188】
【表9】
【0189】
サーマルサイクラーの電源を入れ、プロトコルを開始し、蓋のプレインキュベートをおこなった(105℃)。total RNAを0.25μg/6μLとなるようにPCR tubeに入れ、65℃,5min→4℃,∞の条件で変性させた。
4×DN Master Mix(with gDNA remover)を2μL加え、軽く撹拌し37℃,5min→4℃,∞の条件で反応させた。
5×RT Master Mix IIを2μL加え軽く撹拌し、37℃,15min→50℃,5min→98℃,5min→4℃,∞の条件で反応させた。
別のPCR tube内で10倍希釈し、24時間以内に使う場合は4℃、それ以外の場合には−20℃で保存した。
【0190】
4.定量的リアルタイムPCR
定量的リアルタイムPCRは、THUNDERBIRD(登録商標) SYBR(登録商標) qPCR Mix(TOYOBO)、及びLight Cycler 480(Roche Diagnostics)、384well plateを用いて行なった。1wellあたり以下の組成となるように試薬を混合した。
【0191】
【表10】
【0192】
測定は全てduplicateで行なった。反応条件は以下のように行なった。ddCt法により解析を行なった。
【0193】
【表11】
【0194】
B−2とDex―CHEMSからなるエマルション、比較としてPBS、及び水溶性Dexamethasone製剤としてDexamethasone Sodium Phosphate(DexPhos)、B−2とDex―CHEMSからなるエマルションからDex―CHEMSを除いたエマルションを投与し、PBSでの値を1として比較した。結果を図20に示す。いずれの指標においてもB−2とDex―CHEMSからなるエマルションが最も低い値を示した。
【0195】
[試験例11] 抗腫瘍効果
1.腫瘍移植
2日前に5.0×10cells/dishで播種したEG7−OVAを回収し、10 mLのPBSで2回洗浄した。セルカウントをおこない、8.0×10cells/40μLとなるようにPBSで懸濁した。C57BL/6J(6〜8週齢、♀)の右脇腹へ、8.0×10cells/40μLで投与した。
【0196】
2.DCワクチン
1.0×10cells/500μL/wellとなるように下記の方法で誘導した骨髄由来樹状細胞(BMDC)をnon−treated bottom 12well plateへ播種した。
【0197】
DOPE:Phosphatidic acid=7:2(モル比)となるように試験管中で混合し、溶媒を留去した。等量の0.12mg/mLのプロタミン溶液と0.8mg/mLのプラスミドDNA溶液をボルテックスミキサーにかけながら混合し、プラスミドDNA/プロタミン粒子懸濁液を調製した(いずれも10mM HEPES緩衝液を溶媒とした)。脂質濃度が0.55mMとなるようにプラスミドDNA/プロタミン粒子懸濁液を試験管内に加え、室温で10分間インキュベートした。バス型ソニケーターで超音波処理したのち、総脂質量の10mol%となるようにSTR−KALAを混合することでKALA修飾プラスミドDNA含有ナノ粒子を調製した。
【0198】
適切な濃度となるように、KALA修飾プラスミドDNA含有ナノ粒子を添加した(Serum(−),GM−CSF(+))。2時間後にmedium(serum(+))を添加した。その4時間後に各wellからBMDCを回収しPBSで2回洗浄後、セルカウントし適切な細胞濃度となるようにPBSで希釈した。C57BL/6J(6w,♀)をジエチルエーテルで麻酔し、両足の裏から40μLのBMDC懸濁液を皮下投与した。
【0199】
3.Dex−CHEMSとB−2からなるエマルションの投与
試験例1で作製したDex−CHEMSとB−2からなるエマルションをDexamethasone換算で0.5mg/kgに相当する量(200μL)を尾静脈より投与した。
腫瘍体積は以下の式に従い算出した。
Tumor volume(mm)=(major axis(mm))×(minor axis(mm))×0.52
【0200】
4.マウス骨髄由来樹状細胞(BMDC)の誘導
滅菌シャーレにRPMI−1640培地及びPBSをそれぞれマウス1匹につき10mL添加し、頚椎脱臼したC57BL/6J、あるいはBalb/cマウス(6〜10週齢)より大腿骨および頚骨を摘出し、70%エタノールで軽く消毒した後PBSに浸した。骨の両端を切断し、1mLシリンジ(26G針)により培地で骨髄細胞を押し出した。細胞懸濁液を40μmのセルストレイナーに通して50mLコニカルチューブに移した。遠心(450g,4℃,5min)後、上清を除去し、ACK Lysing Buffer 1mLを添加、混合し、室温で5min静置した。培地9mLを添加後、遠心して上清を除去し、さらに培地10mLで2回洗浄した。次に、細胞を培地10mLに懸濁し、10cm細胞培養ディッシュに添加し、37℃,5%,CO条件下で4時間以上培養した。軽くピペッティングして浮遊細胞のみを50mLコニカルチューブに回収し、遠心、上清除去後、培地10mLに懸濁してセルカウントした。1×10cells/mLとなるように培地で懸濁し、GM−CSF(終濃度10ng/mL)を添加後、24 well plateに1mLずつ播種し、37℃,5%,CO条件下で2日間培養した。2日後、4日後に細胞の凝集塊を残し、浮遊細胞を除去した後、新しいGM−CSF含有RPMI−1640培地1mLを添加した。GM−CSF存在下で培養開始後6日目の浮遊及び弱付着細胞を未成熟樹状細胞として実験に用いた。
未処理(non−treat)、免疫付与のみした群(immunization)、免疫付与せず試験例1で作製したDex−CHEMSとB−2からなるエマルションを投与した群(Dex−CHEMS)、免疫付与したうえで試験例1で作製したDex−CHEMSとB−2からなるエマルションを投与した群(immunization+Dex−CHEMS)の比較を図21に示した。免疫付与したうえで試験例1で作製したDex−CHEMSとB−2からなるエマルションを投与した群(immunization+Dex−CHEMS)が最も高い抗腫瘍効果を示した。
【0201】
[参考例1]TS−PZ4C2の合成
<メシル化>
ビス(2−ヒドロキシエチル)ジスルフィド15g(東京化成工業社製)(97mmol)にアセトニトリル143mLを加え、20〜25℃にて溶解させた。トリエチルアミン33.3g(関東化学社製)(328mmol)を加えた後、攪拌しながら10℃に冷却した。温度が20℃以下になるように塩化メタンスルホニル34.5g(関東化学社製)(300mmol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、20〜25℃で3時間反応させた。TLC分析(展開溶媒:クロロホルム、ヨウ素発色)により、ビス(2−ヒドロキシエチル)ジスルフィドのスポットが消失していることを確認し、反応を終了した。反応溶液にエタノール29mLを加え、反応を停止させた後に、ろ過にて不溶物をろ別除去した。ろ液に10%重曹水150gを加え、5分攪拌した後、10分間静置した。水層を除去後、さらに4回重曹水で抽出精製を行った。得られた有機層に硫酸マグネシウム4.5gを加えて、脱水を行った。ろ過にて不溶物をろ別除去した後、エバポレーターを用いてろ液の溶媒を留去し、褐色固体(以下、「di−Ms体」と称する)を29.4g得た。
【0202】
H−NMRスペクトル(600MHz、CDCl)>
得られた化合物di−Ms体のH−NMRスペクトルの分析結果を以下に示す。
δ2.95〜3.20ppm(m、C−SO−O−CH−C−S−、10H)、δ4.45〜4.50ppm(t、CH−SO−O−C−CH−S−、4H)
【0203】
<三級アミノ化>
di−Ms体1.2g(4mmol)にアセトニトリル31mLを加え、20〜25℃で溶解させた後、炭酸カリウム1.3g(関東化学工業社製)(10mmol)を加えて、5分間攪拌した。その後、4−ピペラジンエタノール5.0g(東京化成工業社製)(39mmol)を加え、25〜35℃で13時間反応させた。TLC分析(展開溶剤:クロロホルム/メタノール/28%アンモニア水=80/20/2(v/v/v)、ヨウ素発色)により、di−Ms体のスポットが消失していることを確認し、反応を終了した。ろ過にて不溶物をろ別除去した後、エバポレーターにてろ液の溶媒を留去した。得られた褐色液体をクロロホルム25mLに溶解させた後、蒸留水25mLを加え、5分攪拌した。攪拌後、10分静置した後、水層を除去した。その後、さらに2回蒸留水で抽出精製を行った。得られた有機層に硫酸マグネシウム0.6gを加えて、脱水を行った。ろ過にて不溶物をろ別除去した後、エバポレーターを用いてろ液の溶媒を留去し、淡黄色の液体(以下、「di−PZ4C2体」と称する)を1.0g得た。
【0204】
H−NMRスペクトル(600MHz、CDCl)>
得られた化合物di−PZ4C2体のH−NMRスペクトルの分析結果を以下に示す。
δ2.40〜2.66ppm(m、HO−CH−C−N−C−C−N−、20H)、δ2.67〜2.72ppm(m、−N−CH−C−S−、4H)、2.74〜2.85ppm(m、O−CH−、−N−C−CH−S−、6H)、3.60〜3.65ppm(t、HO−C−CH−、4H)
【0205】
<アシル化>
di−PZ4C2体3.0g(8mmol)とD−α−トコフェロールコハク酸エステル8.4g(SIGMA−ALDRICH社製)(16mmol)をクロロホルム45mLに20〜25℃で溶解させた。その後、4−ジメチルアミノピリジン0.4g(広栄化学工業社製)(3mmol)、EDC4.6g(東京化成工業社製)(24mmol)を加え、30℃で4時間反応させた。TLC分析(展開溶剤:クロロホルム/メタノール=9/1(v/v)、リン酸硫酸銅発色)により、D−α−トコフェロールコハク酸エステルのスポットが消失していることを確認し、反応を終了した。エバポレーターで反応溶媒を留去した後、ヘキサン200mLを加えた。その後、アセトニトリル100mLを加え、5分間攪拌した。10分間静置した後、ヘキサン層を回収し、エバポレーターにて溶剤を留去し、淡黄色の液体10.7gを得た。この液体9.0gをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製(溶離液:クロロホルム/メタノール=99/1〜98/2(v/v))し、目的物であるTS−PZ4C2を5.7g得た。
【0206】
H−NMRスペクトル(600MHz、CDCl)>
得られた化合物TS−PZ4C2のH−NMRスペクトルの分析結果を以下に示す。
δ0.83〜0.88ppm(m、(CCH−(CH−(C)CH−(CH−(C)CH−、24H)、δ1.03〜1.82ppm(m、(CH−(C−(CH)C−(C−(CH)C−(C−(C)C−、−C−C−CH−C−C−O−、52H)、δ1.95〜2.09ppm(m、Ar−C、18H)、δ2.40〜2.60ppm(m、−N−C−C−N−、−C−CH−C−C−C−O−、20H)、δ2.61〜2.68ppm(m、−O−CH−C−N−、−N−CH−C−S−、8H)、δ2.75〜2.84ppm(m、Ar−O−C(O)−C−、−N−C−CH−S−、8H)、δ2.91〜2.95ppm(m、Ar−O−C(O)−CH−C−、4H)、δ4.21〜4.25ppm(t、−C(O)−C−CH−N−、4H)
【0207】
[参考例2] L−PZ4C2の合成
<アシル化>
di−PZ4C2体2.5g(7mmol)とリノール酸3.7g(日油社製)(13mmol)をクロロホルム25mLに20〜25℃で溶解させた。その後、4−ジメチルアミノピリジン0.3g(3mmol)、EDC3.8g(20mmol)を加え、30℃で4時間反応させた。TLC分析(展開溶剤:クロロホルム/メタノール=9/1(v/v)、リン酸硫酸銅発色)により、リノール酸のスポットが消失していることを確認し、反応を終了した。エバポレーターで反応溶媒を留去した後、ヘキサン57mLを加えた。その後、アセトニトリル24mLを加え、5分間攪拌した。10分間静置した後、ヘキサン層を回収し、エバポレーターにて溶剤を留去し、淡黄色の液体4.9gを得た。この液体4.9gをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製(溶離液:クロロホルム/メタノール=99/1〜97/3(v/v))し、目的物であるL−PZ4C2を3.1g得た。
【0208】
H−NMRスペクトル(600MHz、CDCl)>
得られた化合物L−PZ4C2のH−NMRスペクトルの分析結果を以下に示す。
δ0.87〜0.91ppm(t、(C−(CH−CH−、6H)、δ1.25〜1.38ppm(m、CH−(C−CH−、−(C−CH−CH−C(O)−、28H)、δ1.58〜1.63ppm(m、−(CH−C−CH−C(O)−、4H)、δ2.00〜2.07ppm(m、−C−CH=CH−CH−CH=CH−C−、8H)、δ2.30〜2.32ppm(t、−(CH−CH−C−C(O)−、4H)、δ2.50〜2.70ppm(m、−N−C−C−N−、−N−CH−C−S−、−O−CH−C−N−、24H)、δ2.75〜2.84ppm(m、−CH=CH−C−CH=CH−、−N−C−CH−S−、8H)、δ4.18〜4.21ppm(t、−O−C−CH−N−、4H)、δ5.30〜5.41ppm(m、−CH−C=C−CH−C=C−CH−、8H)
【0209】
[実施例6] O−PZ4C2の合成
di−PZ4C2体0.8g(2mmol)とオレイン酸1.2g(日油社製)(4mmol)をクロロホルム8mLに20〜25℃で溶解させた。その後、4−ジメチルアミノピリジン0.1g(1mmol)、EDC1.2g(6mmol)を加え、30℃で3時間反応させた。TLC分析(展開溶剤:クロロホルム/メタノール=9/1(v/v)、リン酸硫酸銅発色)により、オレイン酸のスポットが消失していることを確認し、反応を終了した。エバポレーターで反応溶媒を留去した後、ヘキサン12mLを加えた。その後、アセトニトリル5mLを加え、5分間攪拌した。10分間静置した後、ヘキサン層を回収し、エバポレーターにて溶剤を留去し、淡黄色の液体1.8gを得た。この液体1.7gをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製(溶離液:クロロホルム/メタノール=99/1〜97/3(v/v))し、目的物であるO−PZ4C2を1.1g得た。
【0210】
H−NMRスペクトル(600MHz、CDCl)>
得られた化合物O−PZ4C2のH−NMRスペクトルの分析結果を以下に示す。
δ0.86〜0.90ppm(t、(C−(CH6−CH−、6H)、δ1.25〜1.34ppm(m、CH−(C−CH−、−CH−(C−CH−CH−C(O)−、40H)、δ1.58〜1.64ppm(m、−CH−(CH−C−CH−C(O)−、4H)、δ1.99〜2.03ppm(m、−C−CH=CH−C−、8H)、δ2.28〜2.32ppm(m、−CH−(CH−CH−C−C(O)−、4H)、δ2.45〜2.70ppm(m、−N−C−C−N−、−O−CH−C−N−、−N−CH−C−S−、24H)、δ2.80〜2.85ppm(m、−N−C−CH−S−、4H)、δ4.18〜4.21ppm(t、−O−C−CH−N−、4H)、δ5.13〜5.38ppm(m、−CH−C=C−CH−、4H)
【0211】
[参考例3] 4−メチルウンベリフェロンコレステロールヘミコハク酸エステル(4MU−CHEMS)の合成
反応はアルゴン中で行った。ナスフラスコにコレステリルヘミサクシネート(CHEMS)を2.43g,5mmol、4−メチルウンベリフェロンを1.06mg,6mmol、無水DMF 20mLを加えた。さらにN,N−Dimethyl−4−aminopyridine(DMAP) 61.1mg,0.5mmolを加えた後、N,N−Diisopropylethylamine(DIPEA) 1.22mL,7mmol)、1−(3−Dimethylaminopropyl)−3−ethylcarbodiimide hydrochloride(EDCl) 1.15g,6mmol)を加え、室温で一晩反応させた。薄層クロマトグラフィー(TLC) で原料の消失を確認した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製、乾燥後、目的物である4−メチルウンベリフェロンコレステロールヘミコハク酸エステルを得た。得られた4−メチルウンベリフェロンコレステロールヘミコハク酸エステルのH−NMRスペクトルの分析結果を図22に、構造式を下に、それぞれ示す。
【0212】
【化5】
【0213】
[参考例4] デキサメタゾンコレステロールヘミコハク酸エステルの合成
反応はアルゴン中で行った。ナスフラスコにコレステリルヘミサクシネート(CHEMS)を608.4mg,1.25mmol、デキサメタゾンを588.7mg,1.5mmol、無水DMF 20mLを加えた。さらにN,N−Dimethyl−4−aminopyridine(DMAP) 15.2mg,0.124mmolを加えた後、N,N−Diisopropylethylamine(DIPEA) 0.305mL,1.75mmol)、1−(3−Dimethylaminopropyl)−3−ethylcarbodiimide hydrochloride(EDCl) 287.6mg,1.5mmol)を加え、室温で一晩反応させた。薄層クロマトグラフィー(TLC)で原料の消失を確認した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製、乾燥後、目的物であるデキサメタゾンコレステロールヘミコハク酸エステルを得た。得られたデキサメタゾンコレステロールヘミコハク酸エステルのH−NMRスペクトルの分析結果を図23に、構造式を下に、それぞれ示す。
【0214】
【化6】
【産業上の利用可能性】
【0215】
本発明のO/W型エマルションは、難水溶性薬物を安定に内封することが出来る。難水溶性薬物を内封した、本発明のO/W型エマルションは、細胞に取り込まれた後に、式(I)で示される化合物が細胞内の還元的環境により分解することで、O/W型エマルションが崩壊し、内封した難水溶性薬物が効率的に細胞内で放出される。従って、本発明のO/W型エマルションは、難水溶性薬物の細胞内送達用の担体として有用である。また、本発明のO/W型エマルションは体積メディアン径が100nm以下であることから、脾臓からの排出が回避されて血中滞留性が高く、腫瘍等の標的組織への集積性が高いので、生体内において、難水溶性薬物を標的組織へ送達するのに有利である。
【0216】
本出願は、日本で出願された特願2015−200148(出願日:2015年10月8日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
図1
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