特許第6875687号(P6875687)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6875687成形用材料およびそれを用いた樹脂成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875687
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】成形用材料およびそれを用いた樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 291/00 20060101AFI20210517BHJP
【FI】
   C08F291/00
【請求項の数】10
【全頁数】68
(21)【出願番号】特願2018-564642(P2018-564642)
(86)(22)【出願日】2018年1月26日
(86)【国際出願番号】JP2018002403
(87)【国際公開番号】WO2018139567
(87)【国際公開日】20180802
【審査請求日】2019年5月31日
(31)【優先権主張番号】特願2017-13516(P2017-13516)
(32)【優先日】2017年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-222187(P2017-222187)
(32)【優先日】2017年11月17日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100188802
【弁理士】
【氏名又は名称】澤内 千絵
(72)【発明者】
【氏名】大島 明博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 数行
(72)【発明者】
【氏名】薄ヶ谷 光宏
(72)【発明者】
【氏名】大向 吉景
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 優子
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭47−023426(JP,B1)
【文献】 特開平01−304143(JP,A)
【文献】 特表平10−503236(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/152310(WO,A1)
【文献】 特開2016−013544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 251/00 − 283/00
C08F 283/02 − 289/00
C08F 291/00 − 297/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素化合物および非フッ素化合物に由来する構成単位を含むグラフト鎖を有する樹脂材料を含む成形用材料であり、
前記含フッ素化合物は、
CF(CF(CH)OCOCH=CH
CF(CF(CH)OCOC(CH)=CH
CF(CF(CH)OCOCH=CH
CF(CF(CH)OCOC(CH)=CH
(CFCF(CF(CHOCOCH=CH
CF(CF(CHOCOC(CH)=CH
CF(CF(CHOCOCH=CH
CF(CF(CHOCOC(CH)=CH
CF(CF(CHOCOCH=CH
CFCF(CHOCOCH=CH
CF(CFSON(CH)(CHOCOCH=CH
CF(CFSON(C)(CHOCOC(CH)=CH
(CFCF(CFCHCH(OCOCH)CHOCOC(CH)=CH、および
(CFCF(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH
からなる群より選ばれる少なくとも1であり、
非フッ素化合物が、ラジカルと反応性を有する部分を有する化合物、分子あるいは分子鎖の一部が脱離してイオン化する化合物、および中間活性種となる部分を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1であり、
上記成形用材料が、ペレット形状である、成形用材料。
【請求項2】
前記非フッ素化合物は、側鎖の水素原子が離脱してアルキルラジカルまたはアリルラジカルとなる部分を有する化合物、および、側鎖のハロゲン原子が解離的電子付加反応で脱離してアルキルラジカルまたはアリルラジカルとなる部分を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1である、請求項1に記載の成形用材料。
【請求項3】
前記非フッ素化合物は、エステル末端に炭素原子数1〜20のアルキル基の結合した(メタ)アクリル系モノマー、ノルボルネンビニル、スチレン、および塩化ビニルからなる群より選ばれる少なくとも1である、請求項1に記載の成形用材料。
【請求項4】
前記非フッ素化合物は、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、イソブテン、ペンテン、ヘプテン、ノネン、アセトフェノンン、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、クロロチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタール、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル-フェニルプロパンやそれらの誘導体、アセトフェノンO−ベンゾイルオキシム、ニフェジピン、シクロヘキシルカルバミン酸1,2−ビス(4−メトキシフェニル)−2−オキソエチル、シクロヘキシルカルバミン酸2−ニトロベンジル、2−(9−オキソキサンテン−2−イル)プロピオン酸1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エンやそれらの誘導体、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、およびテトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも1である、請求項1に記載の成形用材料。
【請求項5】
樹脂成形体の製造方法であって、
電離放射線の照射前の樹脂材料に含フッ素化合物および/または非フッ素化合物を接触させ、
樹脂材料に電離放射線を照射し、含フッ素化合物に由来する構成単位および非フッ素化合物に由来する構成単位を含むグラフト鎖を樹脂材料に導入して成形用材料を得、得られた成形用材料を成形すること、を含む製造方法であり、
含フッ素化合物が、式(1):
【化1】
[式中:
Xは、水素原子、メチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX基、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、または、置換若しくは非置換のフェニル基であり;
およびXは、互いに独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であり;
Yは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、−CHCHN(R)SO−基、または−CHCH(OY)CH−基であり;
は、炭素数1〜4のアルキル基であり;
は、水素原子またはアセチル基であり;
Rfは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状の、フルオロアルキル基もしくはフルオロアルケニル基である]
で表される含フッ素アクリレートエステル、RfCH=CHで表される化合物(式中、Rfはパーフルオロアルキル基である。)、およびパーフルオロオレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1である、
非フッ素化合物が、ラジカルと反応性を有する部分を有する化合物、分子あるいは分子鎖の一部が脱離してイオン化する化合物、および中間活性種となる部分を有する化合物から選ばれる少なくとも1であり、
上記成形用材料が、ペレット形状である、製造方法。
【請求項6】
前記非フッ素化合物は、側鎖の水素原子が離脱してアルキルラジカルまたはアリルラジカルとなる部分を有する化合物、および、側鎖のハロゲン原子が解離的電子付加反応で脱離してアルキルラジカルまたはアリルラジカルとなる部分を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記非フッ素化合物は、エステル末端に炭素原子数1〜20のアルキル基の結合した(メタ)アクリル系モノマー、ノルボルネンビニル、スチレン、および塩化ビニルからなる群より選ばれる少なくとも1である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記非フッ素化合物は、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、イソブテン、ペンテン、ヘプテン、ノネン、アセトフェノンン、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、クロロチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタール、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル-フェニルプロパンやそれらの誘導体、アセトフェノンO−ベンゾイルオキシム、ニフェジピン、シクロヘキシルカルバミン酸1,2−ビス(4−メトキシフェニル)−2−オキソエチル、シクロヘキシルカルバミン酸2−ニトロベンジル、2−(9−オキソキサンテン−2−イル)プロピオン酸1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エンやそれらの誘導体、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、およびテトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも1である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記含フッ素化合物は、
CF(CF(CH)OCOCH=CH
CF(CF(CH)OCOC(CH)=CH
CF(CF(CH)OCOCH=CH
CF(CF(CH)OCOC(CH)=CH
(CFCF(CF(CHOCOCH=CH
CF(CF(CHOCOC(CH)=CH
CF(CF(CHOCOCH=CH
CF(CF(CHOCOC(CH)=CH
CF(CF(CHOCOCH=CH
CFCF(CHOCOCH=CH
CF(CFSON(CH)(CHOCOCH=CH
CF(CFSON(C)(CHOCOC(CH)=CH
(CFCF(CFCHCH(OCOCH)CHOCOC(CH)=CH、および
(CFCF(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH
からなる群より選ばれる少なくとも1である、請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
樹脂成形体の製造方法であって、
請求項1〜のいずれか1項に記載の成形用材料を、加熱処理を含む成形方法により成形することにより、当該グラフト鎖を樹脂成形体表面に偏析させることを含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用材料およびそれを用いた樹脂成形体の製造方法、より詳しくは、含フッ素グラフト鎖を有する成形用材料およびこの成形用材料を含む樹脂成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形体は、様々な分野、例えば医療部材、光学部材、建築部材、衣料、包装、容器、モールドの分野等で利用されている。このような樹脂成形体には、用途に応じて、様々な機能、例えば、撥水性、撥油性等が付加される。
【0003】
従来、樹脂成形体に、撥水性、撥油性等の機能を付与する方法として、成形後、成形体表面に電離放射線を照射してラジカルを生成させ、その後、含フッ素モノマーをグラフトさせる方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/152310号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、成形後に樹脂成形体の表面をグラフトする方法では、表面にムラができやすく、表面の物性、特に撥油性の良好な樹脂成形体を得ることができないことがあった。
【0006】
本発明は、表面における撥油性の向上した樹脂成形体を得るのに適した製造方法を提供することを目的とする。本発明は、上記の樹脂成形体の製造方法に適した、新たな成形用材料(上記の樹脂成形体の原料)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は
[1]含フッ素化合物および非フッ素化合物に由来する構成単位を含むグラフト鎖を有する樹脂材料を含む成形用材料;
[2]含フッ素化合物が、式(1)
【化1】
[式中:
Xは、水素原子、メチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX基、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、または、置換若しくは非置換のフェニル基であり;
およびXは、互いに独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であり;
Yは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、−CHCHN(R)SO−基、または−CHCH(OY)CH−基であり;
は、炭素数1〜4のアルキル基であり;
は、水素原子またはアセチル基であり;
Rfは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状の、フルオロアルキル基もしくはフルオロアルケニル基である]
で表される含フッ素アクリレートエステル、RfCH=CHで表される化合物(式中、Rfはパーフルオロアルキル基である。)、およびパーフルオロオレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1を有する、[1]に記載の成形用材料;
[3]上記成形用材料が、ペレット形状である、[1]または[2]に記載の成形用材料;
[4]樹脂成形体の製造方法であって、
樹脂材料に放射線を照射し、含フッ素化合物に由来する構成単位および非フッ素化合物に由来する構成単位を含むグラフト鎖を樹脂材料に導入して成形用材料を得、得られた成形用材料を成形すること、を含む製造方法;
[5]樹脂成形体の製造方法であって、
上記[1]〜[3]に記載の成形用材料を、加熱処理を含む成形方法により成形することにより、グラフト鎖を樹脂成形体表面に偏析させることを含む製造方法;
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意検討した結果、成形する前に、樹脂材料にグラフト処理を行って成形用材料を得、次いで、得られた成形用材料の成形を行うことにより、簡便な操作で、表面にグラフト鎖を有し、表面における撥油性の向上した樹脂成形体を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、本発明者らは、上記の樹脂成形体の製造方法に適した新たな成形用材料(樹脂成形体の原料)を見出した。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ソルベントクラック限界応力の測定状態を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の樹脂成形体の製造に適した方法について、詳細に説明するが、本発明の樹脂成形体の製造方法は、以下に説明する方法に限定されるものではない。
【0011】
本発明の樹脂成形体の製造方法は、樹脂材料に放射線を照射し、含フッ素化合物に由来する構成単位および非フッ素化合物に由来する構成単位を含むグラフト鎖を樹脂材料に導入して成形用材料を得、得られた成形用材料を成形することを含む。
【0012】
上記方法に用いられる成形用材料は、含フッ素化合物に由来する構成単位および非フッ素化合物に由来する構成単位を含むグラフト鎖と樹脂材料とを含む。即ち、成形用材料は、含フッ素化合物と非フッ素化合物が共重合したグラフト鎖を有する樹脂材料を含む。例えば、グラフト鎖を有する樹脂材料の含有量は、成形に用いる成形用材料100質量部に対し、0.001〜100質量部の範囲が好ましい。
【0013】
成形用材料には、他の材料、例えば染料、顔料等の着色剤、フィラー等の充填剤(具体的には、各種金属粉末、銀ナノワイヤー、炭素繊維、ガラス繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ等のセラミック材料)等が含まれていてもよい。
【0014】
上記成形用材料に含まれる含フッ素グラフト化合物(グラフト鎖)の含有量は、グラフト鎖を有する樹脂材料100質量部に対し、0.01〜1000質量部であることが好ましく、0.1〜100質量部であることがより好ましく、さらに1〜20質量部であることがより好ましい。含フッ素グラフト化合物の含有量は、フッ素の元素分析や、19F−NMR等によって求めることができる。
【0015】
上記成形用材料は、樹脂成形体を成形するために用いられる材料であって、成形方法にもよるが、比較的小さなサイズを有する。
【0016】
成形用材料の表面積は、好ましくは600mm以下、より好ましくは400mm以下、さらに好ましくは300mm以下、さらにより好ましくは150mm以下、例えば100mm以下または80mm以下である。また、成形用材料の表面積は、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは1.0mm以上、さらに好ましくは2.0mm以上、さらにより好ましくは10.0mm以上であり、例えば30.0mm以上または50.0mm以上であってもよい。成形用材料の表面積は、例えば、ガス吸着法を用いて測定することができる。
【0017】
成形用材料の体積は、好ましくは1000mm以下、より好ましくは600mm以下、さらに好ましくは300mm以下、さらにより好ましくは200mm以下、例えば100mm以下または80mm以下である。また、成形用材料の体積は、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは1.0mm以上、さらにより好ましくは5.0mm以上、特に好ましくは10.0mm以上であり、例えば20.0mm以上または30.0mm以上であってもよい。成形用材料の体積は、例えば、レーザー変位システム計を用いて測定することができる。
【0018】
成形用材料のサイズをより大きくすることにより、成形用材料を得るための樹脂材料のグラフト反応処理における取り扱いが容易になる。一方、成形用材料のサイズをより小さくすることにより、成形加工処理が容易になる。
【0019】
成形用材料の形状は、樹脂成形体を成形するのに適した形態であれば特に限定されず、例えば、粉状、粒子状、チップ状、繊維状、またはペレット状等であり得る。
【0020】
本明細書において粉(または粉体)は、例えば、平均粒径が、0.1〜500μm、好ましくは1.0〜300μm、例えば10〜200μm、20μm〜200μmまたは30〜100μmである粉末である。ここで、平均粒径は、体積平均粒径を表す。平均粒径は、例えば、レーザー変位システム計、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡を用いて測定することができる。溶液分散可能な系では、ゼータサイザー等を用いて測定することができる。
【0021】
本明細書において粒子は、平均粒径が、例えば、500〜1000μm、好ましくは60〜800μmである粒子である。
【0022】
本明細書においてペレットは、例えば、最大径が、0.8〜8.0mm、好ましくは1.2〜5.0mm、より好ましくは1.5〜3.0mmの、球状、長球状、偏平球、棒状、板状、ブロック状またはこれらに類似する任意の形状を有する。
【0023】
本明細書においてチップは、例えば、最大長が、8.0〜20mm、好ましくは10〜15mmの、球状、長球状、偏平球、棒状、板状、ブロック状またはこれらに類似する任意の形状を有する。
【0024】
本明細書において繊維は、例えば、最大直径が、0.8〜1.0mm、好ましくは0.01〜0.2mm、より好ましくは0.02〜0.1mmであり、繊維長が5cm未満、好ましくは2cmの短繊維である。
【0025】
一の態様において、成形用材料は、粉体またはペレット、あるいはこれらの混合物である。
【0026】
一の態様において、成形用材料は、繊維である。
【0027】
好ましい態様において、成形用材料は、粉体である。
【0028】
別の好ましい態様において、成形用材料は、ペレットである。ペレットは、成形時のハンドリングが良好である観点から好ましい。
【0029】
さらに、別の好ましい態様において、成形用材料は、粉体およびペレットの混合物である。
【0030】
本発明に用いる樹脂材料を構成する樹脂は、特に限定されないが、所望の機能、例えば防汚性、撥水性、撥油性等を有しない、あるいは所望の機能が十分でない樹脂、例えば非フッ素樹脂(または汎用樹脂ともいう)またはフッ素樹脂であり得る。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
上記非フッ素樹脂は、グラフト鎖を導入することができる樹脂、例えば、下記する放射線を利用してグラフト鎖を導入する場合には、放射線、特に電離放射線の照射により反応開始点となるラジカル等の中間活性種を直接または間接に生成し得る樹脂であれば特に限定されない。例えば、非フッ素樹脂は、ポリエチレン(例えば、直鎖型低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等)、各種構造異性体(シンジオタクティック、アイソタクティック、アタクティック構造)を含むポリプロピレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩素化ポリエチレン系樹脂、変性ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル等のポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、各種構造異性体を含むポリスチレンまたはポリスチレン誘導体系樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、アイオノマー、各種構造異性体を含むポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、アクリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタラート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリジメチルシリコーン(PDMS)、ポリウレタン、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン等の生分解性樹脂等、あるいはこれらを含む共重合体、混合物、ポリマーアロイ等が挙げられる。なかでも、シクロオレフィン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンが表面に防汚性、撥水性、撥油性等の機能を良好に付与し得るため好ましい。
【0032】
上記フッ素樹脂は、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体(FKM)、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(VdF−HFP)、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(VdF−TFE−HFP)、その他フッ素系樹脂、フッ素ゴム等が挙げられるほか、これらの混合物、ポリマーアロイであってもよい。なかでも、PVdFやETFEが防汚性、撥水性、撥油性等のほか、滑り性の機能を付与できるため好ましい。
【0033】
一の態様において、樹脂材料として、放射線(具体的には、電離性放射線)の照射により架橋された樹脂を用いてもよい。本態様においては、上記の架橋構造を有する樹脂にグラフト鎖が導入される。なお、樹脂を架橋するための放射線の照射は、当業者において通常用いられる反応条件を用いて行うことができる。例えば、電離性放射線の照射量は、例えば、10kGy以上とすることが好ましく、50kGy以上とすることがより好ましく、100kGy以上とすることがさらに好ましく、500kGy以上とすることが特に好ましく、1000kGy以上とすることがより好ましい。
【0034】
上記グラフト鎖は、樹脂材料のポリマー主鎖に対して枝分れした分枝鎖であって、ポリマー主鎖に共有結合したものであり得る。上記グラフト鎖は、例えば含フッ素化合物と非フッ素化合物との交互共重合体、ランダム共重合体およびブロック共重合体であり、含フッ素化合物の単独重合体または非フッ素化合物の単独重合体を含んでいてもよい。好ましくは、上記グラフト鎖は、含フッ素化合物と非フッ素化合物との交互共重合体、ランダム共重合体およびブロック共重合体から選択される少なくとも1つを含み、より好ましくは、ランダム共重合体およびブロック共重合体から選択される少なくとも1つである。
【0035】
ある様態においては、樹脂材料および/またはグラフト鎖を形成するポリマーは架橋された構造を有していてもよい。かかる架橋により、樹脂材料は、ネットワーク構造を有し得る。上記のような構造は、例えば、樹脂材料に放射線を照射し、(1)含フッ素化合物に由来する構成単位および非フッ素化合物に由来する構成単位を含むグラフト鎖を樹脂材料に導入し、成形用材料を得、得られた成形用材料を成形すること、および(2)樹脂材料および/またはグラフト鎖を形成するポリマーを架橋すること、により形成され得る。
【0036】
本態様において、より具体的には、グラフト鎖の一部は、樹脂材料のポリマー主鎖を架橋していてもよい。または、グラフト鎖は、架橋された樹脂材料に導入されてもよい。
【0037】
一の態様において、成形用材料は、放射線(具体的には、電離性放射線)の照射により架橋された樹脂を樹脂材料として用い、該樹脂材料にグラフト鎖が導入されたものであってもよい。樹脂を架橋するための放射線の照射は、当業者において通常用いられる反応条件を用いて行うことができる。例えば、電離性放射線の照射量は、例えば、10kGy以上とすることが好ましく、50kGy以上とすることがより好ましく、100kGy以上とすることがさらに好ましく、500kGy以上とすることが特に好ましく、1000kGy以上とすることがより好ましい。
【0038】
グラフト鎖は、成形用材料の少なくとも表面に存在する。成形用材料の表面がグラフト鎖を有することは、例えば成形用材料の表面(例えば、深さ数μmまで)を分光分析することにより確認することができる。分光分析の方法は、例えば微小領域X線光電子分光分析法(micro-X-ray Photoelectron Spectroscopy:micro-XPS)、または赤外分光法による全反射測定法(Attenuated Total Reflection:ATR)等による最表面観察、あるいは、FT−ラマン顕微鏡(イメージングを含む)、SEM−EDX(エネルギー分散X線分光分析)による断面観察等を用いることができる。
【0039】
上記グラフト反応後の成形用材料は、表面から内部にかけてグラフト鎖を有し得る。このグラフト鎖の形成される深さは、放射線の照射装置の能力、またはグラフト反応時間によって変化し得る。例えば、10MVの高加速電圧で電子線を成形用材料に照射した場合は、成形用材料の表面から、最大で深さ20mm程度までグラフト鎖は成長し得る。10MVの加速電圧であっても、反応時間を調整することで、成形用材料の表面からのグラフト鎖の分布またはグラフト鎖の形成される深さを制御することができる。例えば、反応時間を短くすることで、成形用材料の表面からのグラフト鎖の形成される深さを浅くすることができる。また、文献(A.Oshima et al, Radiait.Phys.Chem.Vol.80,pp196-200,2011)にあるように、電子線照射装置の加速電圧を調整することで、電子線の浸透深さを制御することができる。例えば、加速電圧を下げることで、電子線の浸透深さが浅くなり、成形用材料内に誘起されるラジカル等の中間活性種の分布を当該材料の表面付近にのみに制御することができる。これにより、グラフト反応により導入されるグラフト鎖の、成形用材料の深さ方向に沿った分布を制御することができる。
【0040】
本発明におけるグラフト鎖は、成形用材料の表面から、最大で深さ20mmまで、好ましくは最大で1mmまで、より好ましくは最大で500μmまで、さらに好ましくは最大で200μmまで、さらにより好ましくは最大で深さ100μmまで存在する。
【0041】
好ましくはグラフト鎖が存在する深さは、成形用材料の表面から、成形用材料の厚みの0.001〜99%までの深さ、例えば0.01〜99%までの深さ、または0.1〜99%までの深さであり得る。グラフト鎖が存在する深さは、成形用材料の表面から、好ましくは1〜95%までの深さ、より好ましくは3〜90%、より好ましくは5〜80%までの深さ、さらに好ましくは10〜60%までの深さ、さらにより好ましくは20〜60%までの深さであってもよい。
【0042】
グラフト反応後の成形用材料の表面からのグラフト鎖が存在する厚みが大きいほど、成形加工して得られる樹脂成形体に発現する所望の機能性が向上する。また、グラフト鎖が存在する厚みが小さいほど、成形用材料および成形加工して得られる樹脂成形体の強度が向上する。
【0043】
上記、当該グラフト反応後の成形用材料を成形加工した後の樹脂成形体表面には、含フッ素グラフト化合物に由来する構成単位が存在することが好ましい。含フッ素グラフト化合物による樹脂成形体の機能化領域(即ち、含フッ素グラフト化合物に由来する構成単位が樹脂成形体の存在する領域、例えば、樹脂成形体の表面から深さ10mmまでの領域)は、成形加工後の樹脂成形体中での含フッ素グラフト化合物に由来する構成単位の含有量に依存するが、樹脂成形体表面から、最大で深さ10mm程度まで存在することが好ましい。
【0044】
本発明における樹脂成形体の機能化領域の深さは、好ましくは最大で深さ10mm、より好ましくは最大で500μm、さらに好ましくは最大で200μm、特に好ましくは最大で50μm、さらにより好ましくは最大で深さ20μm存在する。
【0045】
グラフト鎖が存在する深さは、樹脂成形体の表面から、樹脂成形体の厚みの0.001〜99%までの深さ、例えば0.01〜99%までの深さ、または0.1〜99%までの深さであり得る。グラフト鎖が存在する深さは、樹脂成形体の表面から、好ましくは2〜90%までの深さ、より好ましくは5〜80%、さらにより好ましくは10〜60%までの深さであってもよい。
【0046】
成形用材料(好ましくは、グラフト重合後の樹脂材料)におけるグラフト鎖が存在する深さは、表面グラフト重合後の成形用材料の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によるEDX(Energy dispersive X-ray)分析、EPMA(Electron Probe Microanalyser)分析、走査透過電子顕微鏡(STEM)によるEDX等により測定することができる。また、グラフト鎖が存在する深さは、顕微FT−IRや、ラマン顕微鏡等によっても測定することができる。
【0047】
また、成形用材料(好ましくは、グラフト重合後の樹脂材料)におけるグラフト鎖が存在する深さは、陽電子寿命測定によっても測定することができる。陽電子が発生してから電子と対消滅するまでの時間を計測して得られる陽電子寿命は、高分子の非晶質自由体積および結晶中の原子空孔のサイズと相関を持つため、グラフト鎖がグラフトするにつれて成形用材料における非晶質の自由体積が小さくなり、陽電子寿命も短くなる。このことから、陽電子寿命測定により、グラフト鎖が存在する深さを測定することができる。陽電子寿命測定は、一般に、β+崩壊時に放出されるガンマ線と消滅ガンマ線を異なるシンチレーション検出器で検出し、それらの入射時間差から、ある時間で消滅した陽電子の頻度を計数する。このようにして得られた減衰曲線を解析することで陽電子寿命を決定することができる。例えば、The 2nd Japan-China Joint Workshop on Positron Science (JWPS2013) で発表された T. Okaらによる「Free volume study of the functionalized fluorinated polymer」において、フッ素樹脂にスチレンがグラフトされた例が紹介されている。本発明においても、この方法によりグラフト鎖の存在を計測することができる。
【0048】
グラフト反応後の成形用材料のグラフト率は、好ましくは1000%以下、より好ましくは500%以下、さらに好ましくは200%以下、さらにより好ましくは150%以下、特に好ましくは100%以下、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは50%以下、さらにより好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下である。グラフト反応後の成形用材料のグラフト率は、好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.05%以上、さらにより好ましくは0.1%以上、特に好ましくは0.2%以上である。
【0049】
別の形態において、グラフト率は2%以上である。
【0050】
グラフト率が高いものほど、成形加工して得られる樹脂成形体に発現する所望の機能性が向上し得る。また、グラフト鎖が存在する厚みが小さいほど、あるいは、グラフト率が低いものほど成形用材料および成形加工して得られる樹脂成形体の強度が向上し得る。
【0051】
グラフト率を制御することにより、得られる樹脂成形体の機能化領域を制御し得る。
【0052】
「グラフト率」とは、樹脂材料に対して導入されたグラフト鎖の割合を意味する。具体的には、グラフト率(Dg)は、グラフト重合反応前の樹脂材料とグラフト重合反応後の樹脂材料の重量変化を測定し、下記式により算出することができる。
グラフト率:Dg[%]=(W−W)/W×100
[式中、Wは、グラフト重合前の樹脂材料の重量であり、Wは、グラフト重合後の樹脂材料の重量である。]
【0053】
また、上記グラフト率は、熱重量測定(TG:thermogravimetric analysis)により算出することもできる。具体的には、グラフト鎖を有する成形用材料を、成形用材料の温度を一定のプログラムに従って変化させて(加熱または冷却させて)、成形用材料の重量の変化を測定し、この重量変化から算出することができる。熱重量測定は、例えば、Rigaku社製や島津製作所のTGA測定器を用いて行うことができる。
【0054】
グラフト鎖における含フッ素化合物に由来する構成単位と非フッ素化合物に由来する構成単位との質量比は99.9:0.1〜0.1:99.9の範囲にあることが好ましく、70:30〜30:70の範囲にあることがより好ましい。なお、この質量比の分析は燃焼フラスコ法を用いて行うことができる。
【0055】
一の態様において、グラフト鎖における含フッ素化合物に由来する構成単位と非フッ素化合物に由来する構成単位との質量比は、25:75〜0.1:99.9の範囲にあることが好ましく、20:80〜1:99の範囲にあることがより好ましく、20:80〜2:98の範囲にあることがさらに好ましい。
【0056】
一の態様において、グラフト鎖における含フッ素化合物に由来する構成単位と非フッ素化合物に由来する構成単位との質量比は、10:90〜0.1:99.9の範囲にあることが好ましく、9:91〜1:99の範囲にあることがより好ましく、8:92〜2:98の範囲にあることがさらに好ましい。
【0057】
グラフト鎖が含フッ素化合物に由来する構成単位および非フッ素化合物に由来する構成単位を有するため、このグラフト鎖を有する成形用材料を用いると含フッ素練りこみ撥剤、含フッ素撥水撥油剤等の含フッ素化合物重合体からなる添加剤、または、フッ素系樹脂からなる材料もしくは非フッ素系樹脂からなる材料等の他の樹脂材料との分子間の相溶性が向上し、混合が容易になる。さらに、上記のように混合して得られた材料を用いて形成された樹脂成形体では、ブリードアウトや白濁が生じにくい。
【0058】
樹脂材料にグラフト鎖を導入する方法としては、例えば、樹脂材料を放射線で処理し、次いで、含フッ素化合物(モノマー、ダイマー、オリゴマー等の低分子量体を含んでいてもよい)および/または非フッ素化合物(モノマー、ダイマーオリゴマー等の低分子量体を含んでいてもよい)、または、含フッ素化合物および/または非フッ素化合物を含む組成物(モノマー、ダイマー、オリゴマーなどの低分子量体を含んでいてもよい)と樹脂材料とを化学反応させる方法が挙げられる。
【0059】
樹脂材料に放射線を照射することにより、樹脂材料において、例えば、樹脂材料を形成する化合物から水素原子またはフッ素原子が脱離し、あるいは樹脂材料を形成する化合物の主鎖および/または側鎖が放射線化学反応によって切断されて、ラジカル等の中間活性種が生成する。このラジカル等の中間活性種が、樹脂材料に機能を付与する化合物とグラフト重合し、樹脂材料にグラフト鎖が導入される。
【0060】
上記含フッ素化合物は、樹脂材料に機能を付与し得る含フッ素化合物を示す。当該含フッ素化合物は、樹脂材料に、非フッ素化合物と共にグラフト重合してグラフト鎖を形成することが可能であり、樹脂材料に所望の機能を付与できるものであれば特に限定されず、例えば、フッ素原子を含む部分、および中間活性種と反応性を有する部分を有する化合物が挙げられる。
【0061】
一の態様において、含フッ素化合物は、パーフルオロポリエーテル基またはパーフルオロアルキル基、およびラジカル等の中間活性種と反応性を有する基(以下、「中間活性種と反応性を有する基A」と称することがある)を有する化合物であり得る。
【0062】
上記含フッ素化合物は、2以上のパーフルオロポリエーテル基またはパーフルオロアルキル基、および、中間活性種と反応性を有する基Aを有していてもよい。
【0063】
上記パーフルオロアルキル基は、C2j+1(jは、1〜30の整数、好ましくは3〜20の整数、例えば5〜10の整数である)で表される基である。パーフルオロアルキル基は、直鎖であってもよく分枝鎖であってもよいが、好ましくは直鎖である。
【0064】
一の態様において、上記パーフルオロアルキル基は、炭素原子数1〜10の直鎖状のパーフルオロアルキル基である。具体的には、Rfは、F−(CFで表され、nは1〜10の整数、より好ましくは、nは4〜8の整数、例えば6である。
【0065】
上記パーフルオロポリエーテル基(以下、「PFPE」ともいう)は、下記式:
−(OC12−(OC10−(OC−(OC−(OC−(OCF
で表される基である。式中、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも1である。好ましくは、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して、0以上100以下の整数である。好ましくは、a、b、c、d、eおよびfの和は5以上であり、より好ましくは10以上である。好ましくは、a、b、c、d、eおよびfの和は200以下であり、より好ましくは100以下であり、例えば10以上200以下であり、より具体的には10以上100以下である。また、a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。
【0066】
これら繰り返し単位は、直鎖状であっても、分枝鎖状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。例えば、−(OC12)−は、−(OCFCFCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCFCFCF)−、−(OCFCF(CF)CFCFCF)−、−(OCFCFCF(CF)CFCF)−、−(OCFCFCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCFCFCF(CF))−等であってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCFCFCF)−である。−(OC10)−は、−(OCFCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCFCF)−、−(OCFCF(CF)CFCF)−、−(OCFCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCFCF(CF))−等であってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCF)−、−(OCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCF(CF))−、−(OC(CFCF)−、−(OCFC(CF)−、−(OCF(CF)CF(CF))−、−(OCF(C)CF)−および−(OCFCF(C))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCF)−、−(OCF(CF)CF)−および−(OCFCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCF)−である。また、−(OC)−は、−(OCFCF)−および−(OCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCF)−である。
【0067】
一の態様において、上記PFPEは、−(OC−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。好ましくは、PFPEは、−(OCFCFCF−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)または−(OCF(CF)CF−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。より好ましくは、PFPEは、−(OCFCFCF−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。
【0068】
別の態様において、PFPEは、−(OC−(OC−(OC−(OCF−(式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、c、d、eおよびfの和は、好ましくは10以上200以下の整数であり、添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)である。好ましくは、PFPEは、−(OCFCFCFCF−(OCFCFCF−(OCFCF−(OCF−である。一の態様において、PFPEは、−(OC−(OCF−(式中、eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)であってもよい。
【0069】
さらに別の態様において、PFPEは、−(R41−R42−で表される基である。式中、R41は、OCFまたはOCであり、好ましくはOCである。式中、R42は、OC、OC、OC、OC10およびOC12から選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせである。好ましくは、R42は、OC、OCおよびOCから選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせである。OC、OCおよびOCから独立して選択される2または3つの基の組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、および−OCOCOC−等が挙げられる。上記kは、2〜100の整数、好ましくは2〜50の整数である。上記式中、OC、OC、OC、OC10およびOC12は、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよく、好ましくは直鎖である。この態様において、PFPEは、好ましくは、−(OC−OC−または−(OC−OC−である。
【0070】
一の態様において、PFPEは、炭素数1〜2のオキシペルフルオロアルキレン基の少なくとも1種からなる基(α)の1〜3つと、炭素数3〜6のオキシペルフルオロアルキレン基の少なくとも1種からなる基(β)の1〜3つとを有する単位(αβ)を単位とし、前記単位(αβ)の2つ以上が連結してなる鎖((αβ))を有する基であってもよい。
【0071】
上記化合物は、鎖((αβ))に属さない他のオキシペルフルオロアルキレン基を有していてもよい。
【0072】
単位(αβ)中の基(α)と基(β)の順は特に限定されない。例えば、基(α)が2つ存在する場合、2つの基(α)は連結していてもよく、少なくとも1つの基(β)を介して結合していてもよい。
【0073】
上記PFPEは、単位(αβ)の2つ以上が連結してなる鎖((αβ))を有していてもよい。単位(αβ)の一方の端部が基(α)であり、他方の端部が基(β)である場合、鎖((αβ))としては、単位(αβ)の2つ以上が、単位間で基(α)と基(β)とが交互に配置されるように連結することが好ましい。すなわち、隣接する単位(αβ)が頭−尾構造(ヘッド ツー テイル構造)となるように結合していることが好ましい。単位(αβ)において、基(α)基(β)の結合順序は限定されない。すなわち、基(α)と基(β)がランダムに配置されてもよく、基(α)と基(β)とが交互に配置されてもよく、複数の基からなるブロックの2以上が連結してもよい。
【0074】
単位(αβ)としては、下記が例示される。
(CFCFO−CFCFCFO)、
(CFCFO−CFCFCFCFO)、
(CFCFO−CFCFCFOCFCFCFO)、
(CFCFO−CFCF(CF)OCFCFCFO)、
(CFCFO−CFCFCFCFOCF(CF)CFO)。
【0075】
上記PFPEの好ましい態様は、具体的には、下式(1)で表される。
Rf−O−[(RfO)x1(RfO)x2(RfO)x3(RfO)x4(RfO)x5(RfO)x6−Β ・・・(1)。
ただし、式(1)中の記号は以下の通りである。
iは、1以上の整数であり、2以上の整数であることが好ましい。iの上限は45が好ましい。iは、4〜40が好ましく、5〜35が特に好ましい。
x1〜x2:それぞれ独立に0〜3の整数であり、x1+x2は1〜3の整数である。
x3〜x6:それぞれ独立に0〜3の整数であり、x3+x4+x5+x6は1〜3の整数である。
Rf:炭素数1のペルフルオロアルキレン基。
Rf:炭素数2のペルフルオロアルキレン基。
Rf:炭素数3のペルフルオロアルキレン基。
Rf:炭素数4のペルフルオロアルキレン基。
Rf:炭素数5のペルフルオロアルキレン基。
Rf:炭素数6のペルフルオロアルキレン基。
Rf;炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有する炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基。
【0076】
上記中間活性種と反応性を有する基Aは、特に限定されないが、例えばエチレン性二重結合を有する基および含酸素環状基(例えば、グリシジル基、オキセタニル基)、ならびにこれらの誘導体が挙げられる。
【0077】
中間活性種と反応性を有する基Aは、好ましくは下記式:
【化2】
[式中、Rは、結合、−O−、−CO−または−OC(O)−であり、
は、水素原子、フッ素原子、あるいはフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基(好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基、より好ましくはメチル基)、ラクタム基(好ましくは、β-ラクタム、γ-ラクタムまたはδ-ラクタム基、より好ましくはγ-ラクタム基)またはフェニル基を表し、好ましくは、メチル基または水素原子であり、
は、それぞれ独立して、水素原子、またはフッ素原子を表し、好ましくは水素原子であり、
は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、あるいはフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基(好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基、より好ましくはメチル基)またはフェニル基を表し、好ましくはメチル基または水素原子であり、より好ましくは水素原子であり、
n’は、1〜5の整数であり、好ましくは1または2であり、より好ましくは1である。]
で表される基である。
【0078】
本実施態様において、好ましい中間活性種と反応性を有する基Aは、下記式:
【化3】
[式中、Rは、結合または−OC(O)−であり、
は、水素原子、フッ素原子、あるいはフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基(好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基、より好ましくはメチル基)、ラクタム基(好ましくは、β-ラクタム、γ-ラクタムまたはδ-ラクタム基、より好ましくはγ-ラクタム基)またはフェニル基を表し、好ましくは、メチル基または水素原子であり、好ましくは、水素原子、フッ素原子、あるいはフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基(好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基、より好ましくはメチル基)またはフェニル基を表し、より好ましくは、メチル基または水素原子であり、
は、上記と同意義である。]
で表される基である。
【0079】
より好ましい中間活性種と反応性を有する基Aは、下記式:
【化4】

[式中、R、Rは、上記と同意義である。]
で表される基である。
【0080】
さらに好ましい中間活性種と反応性を有する基Aは、アクリロイル基またはメタクリロイル基である。
【0081】
含フッ素化合物の例としては、限定するものではないが、例えば、下記式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(D1)および(E1)のいずれか:
【化5】
[式中、Rfは、それぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し、
PFPEは、上記と同意義であり、
は、それぞれ独立して、中間活性種と反応性を有する基Aを表し、
Xは、2価の有機基を表し、
は、下記式:
−(Q)−(CFZ)−(CH
(式中、Qは、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子、フェニレン、カルバゾリレン、−NR−(式中、Rは、水素原子または有機基を表す)または2価の極性基を表し、Zは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または低級フルオロアルキル基を表し、e、fおよびgは、それぞれ独立して、0以上50以下の整数であって、e、fおよびgの和は少なくとも1であり、括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)
で表される基であり、
は、それぞれ独立して、2価の有機基を表し、
は、各出現においてそれぞれ独立して、R4aまたはR4bを表し:ただし、少なくとも1つのRはR4aであり、
4aは、各出現においてそれぞれ独立して、中間活性種と反応性の基を有する2価の有機基を表し、
4bは、各出現においてそれぞれ独立して、中間活性種と反応性の基を有しない2価の有機基を表し、
n1は、それぞれ独立して、1以上50以下の整数であり、
は、それぞれ独立して、−O−、−S−、−NH−または単結合を表し、
は、それぞれ独立して、1価の有機基または水素原子を表し、
は、環構造、ヘテロ原子および/または官能基を有してもよい(n2+n3)価または(n5+n6+n7)価の有機基を表し、
は、2価の有機基を表し、
n2は、1以上3以下の整数であり、
n3は、1以上3以下の整数であり、
は、3〜8価の有機基を表し、
n4は、2以上7以下の整数であり、
11は、−R−Rまたは−R(Rn4であり、
12は、Siを含む基であり、
n5は、1以上3以下の整数であり、
n6は、1以上3以下の整数であり、
n7は、1以上3以下の整数である。]
で表される少なくとも1つの化合物が挙げられる。
【0082】
本明細書において用いられる場合、「1価の有機基」および「2価の有機基」とは、それぞれ、炭素を含有する1価および2価の基を意味する。
【0083】
上記式(A1)および(A2)中、Rは、それぞれ独立して、ラジカル等の中間活性種と反応性を有する基を表す。
【0084】
は、好ましくは、下記式:
【化6】
[式中、Rは、結合、−O−、−CO−または−OC(O)−であり、
は、水素原子、フッ素原子、あるいはフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基(好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基、より好ましくはメチル基)、ラクタム基(好ましくは、β-ラクタム、γ-ラクタムまたはδ-ラクタム基、より好ましくはγ-ラクタム基)またはフェニル基を表し、好ましくは、メチル基または水素原子である。]
で表される基である。
【0085】
より好ましいラジカル等の中間活性種と反応性を有する基は、下記式:
【化7】
[式中、Rは、上記と同意義である。]
で表される基である。
【0086】
さらに好ましくは、Rは、アクリロイル基またはメタクリロイル基である。
【0087】
上記式(A1)、(B1)、(C1)、(D1)および(E1)中、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表す。
【0088】
上記1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基における「炭素数1〜16のアルキル基」は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜6、特に炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1〜3のアルキル基である。
【0089】
また、Rfは、好ましくは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されている炭素数1〜16のアルキル基であり、より好ましくはCFH−C1−15パーフルオロアルキレン基であり、さらに好ましくは炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基であり、さらにより好ましくは炭素数1〜6、特に炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基である。
【0090】
上記式(A1)および(A2)中、Xは、それぞれ独立して、2価の有機基を表す。当該X基は、PFPEとRとを連結するリンカーと解される。したがって、当該X基は、上記(A1)および(A2)で表される化合物が、安定に存在し得るものであれば、いずれの2価の有機基であってもよい。
【0091】
上記Xの例としては、特に限定するものではないが、例えば、下記式:
−(CFZ)−(CH−(Y)
[式中、Zは、フッ素原子または炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基またはその誘導体基を表し、
Yは、−OCO−、−OCONH−または−CONH−、あるいはこれらの1種を含有する有機基を表し、
x、yおよびzは、それぞれ独立して、0〜3の整数であり、
x、yまたはzを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。]
で表される基が好ましい。
【0092】
上記Xの具体的な例としては、例えば:
−CFCFCH
−CFCFCH−OCO−
−CFCFCH−CONH−
−CFCFCH−OCONH−
等が挙げられる。
【0093】
上記式(B1)および(B2)中、Rは、式:−(Q)−(CFZ)−(CH−で表される基である。ここに、e、fおよびgは、それぞれ独立して、0以上50以下の整数であって、e、fおよびgの和は少なくとも1であり、括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。
【0094】
上記式中、Qは、酸素原子、フェニレン、カルバゾリレン、−NR−(式中、Rは、水素原子または有機基を表す)または2価の極性基を表し、好ましくは酸素原子または2価の極性基であり、より好ましくは酸素原子である。
【0095】
上記Qにおける「2価の極性基」としては、特に限定されないが、−C(O)−、−C(=NR)−、および−C(O)NR−(これらの式中、Rは、水素原子または低級アルキル基を表す)が挙げられる。当該「低級アルキル基」は、例えば、炭素数1〜6のアルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピルであり、これらは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい。
【0096】
上記式中、Zは、水素原子、フッ素原子または低級フルオロアルキル基を表し、好ましくはフッ素原子である。
【0097】
上記「低級フルオロアルキル基」は、例えば、炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3のフルオロアルキル基、好ましくは炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、より好ましくはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、更に好ましくはトリフルオロメチル基である。
【0098】
は、好ましくは、式:−(O)−(CF−(CH−(式中、e、fおよびgは、上記と同意義であり、括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である)で表される基である。
【0099】
上記式:−(O)−(CF−(CH−で表される基としては、例えば、−(O)e’−(CFf’−(CHg’−O−[(CHg”−O−]g’’’(式中、e’は0または1であり、f’、g’およびg”は、それぞれ独立して、1〜10の整数であり、g’’’は、0または1である)で表される基が挙げられる。
【0100】
上記式(B1)および(B2)中、Rは、2価の有機基を表す。
【0101】
基は、好ましくは、−C(R3a)(R3b)−である。ここに、R3aおよびR3bは、それぞれ独立して、水素原子、またはアルキル基を表し、好ましくは、R3aおよびR3bの一方はアルキル基である。
【0102】
上記式(B1)および(B2)中、Rは、各出現において、それぞれ独立して、R4aまたはR4bである。ただし、少なくとも1つのRは、R4aである。
【0103】
上記R4aは、各出現においてそれぞれ独立して、ラジカル等の中間活性種と反応性の基を有する2価の有機基を表す。
【0104】
4aは、好ましくは、下記式:
【化8】
で表される基である。
【0105】
上記式中、R31は、各出現において、それぞれ独立して、水素原子、またはアルキル基を表す。当該R31は、好ましくは水素原子である。
【0106】
上記式中、R32は、各出現において、それぞれ独立して、水素原子、またはアルキル基を表す。当該R32は、好ましくはメチル基または水素原子であり、より好ましくは水素原子である。
【0107】
上記式中、R33は、各出現において、それぞれ独立して、ラジカル等の中間活性種と反応性を有する基を有する有機基を表す。
【0108】
かかるラジカル等の中間活性種と反応性を有する基としては、上記と同様のものが挙げられるが、CH=CX−C(O)−(式中、Xは、水素原子、塩素原子などのハロゲン原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表す)が好ましく、具体的にはCH=C(CH)−C(O)−またはCH=CH−C(O)−が挙げられる。
【0109】
上記式中、Yは、−O−、−N(R)−、フェニレンまたはカルバゾリレンを表す。ここでRは有機基を表し、好ましくはアルキル基である。
【0110】
は、好ましくは−O−、フェニレン、またはカルバゾリレンであり、より好ましくは−O−またはフェニレンであり、更に好ましくは−O−である。
【0111】
上記式中、Yは、主鎖の原子数が1〜16(より好ましくは2〜12、更に好ましくは2〜10)であるリンカーを表す。当該Yとしては、特に限定されるものではないが、例えば、−(CH−CH−O)p1−(p1は、1〜10の整数、例えば2〜10の整数を表す)、−(CHRp2−O−(p2は、1〜40の整数であり、Rは、水素、またはメチル基を表す)、−(CH−CH−O)p3−CO−NH−CH−CH−O−(p3は、1〜10の整数、例えば2〜10の整数を表す)、−CH−CH−O−CH−CH−、−(CHp4−(p4は1〜6の整数を表す)、−(CHp5−O−CONH−(CHp6−(p5は1〜8の整数、好ましくは、2または4を表し、p6は1〜6の整数、好ましくは3を表す)、または−O−(但し、Yは−O−ではない)が挙げられる。好ましいYとしては、−(CH−CH−O)p1−(p1は、1〜10の整数、例えば2〜10の整数を表す)または−(CHRp2−O−(p2は、1〜40の整数であり、Rは、水素、またはメチル基を表す)、具体的には、−(CH−CH−O)−または−CH−CH−O−が挙げられる。なお、これらの基は、左端が分子主鎖側(Y側)に結合し、右端がラジカル等の中間活性種と反応性の基側(R33側)に結合する。
【0112】
4aは、さらに好ましくは、下記式:
【化9】
で表される基である。
【0113】
上記式中、Xは、水素原子、塩素原子などのハロゲン原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、好ましくは水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、例えばメチル基である。上記式中、q1は、1〜10の整数であり、好ましくは1〜5の整数、例えば1または2である。q2は、1〜10の整数であり、好ましくは1〜5の整数、例えば2である。
【0114】
上記R4bは、各出現においてそれぞれ独立して、ラジカル等の中間活性種と反応性の基を有しない2価の有機基である。
【0115】
4bは、好ましくは、−(CHR4c−CR4d4e−である。ここに、R4cおよびR4dは、それぞれ独立して、水素原子、またはアルキル基を表し、sは0から50の整数であり、R4e基は、−Q’−R4fである。ここに、Q’は上記Qと同意義であり、R4fは、ラジカル等の中間活性種と反応性の基を有しない有機基であり、後記の基R4gがリンカーを介して、または直接Q’に結合する基である。
【0116】
当該リンカーは、好ましくは、
(a)−(CH−CH−O)s1−(s1は、1〜10の整数、例えば2〜10の整数を表す。)、
(b)−(CHR4hs2−O−(s2は、1〜40の整数である繰り返し数を表す。R4hは、水素またはメチル基を表す。)、
(c)−(CH−CH−O)s1−CO−NH−CH−CH−O−(s1は、上記と同意義である。)、
(d)−CH−CH−O−CH−CH−、
(e)−(CHs3−(s3は1〜6の整数を表す。)、または
(f)−(CHs4−O−CONH−(CHs5−(s4は1〜8の整数、好ましくは、2または4を表す。s5は1〜6の整数、好ましくは3を表す。)、または
(g)−O−(但し、Q’は−O−ではない)
である。
【0117】
4gは、好ましくは以下の基である。
(i)アルキル基
例:メチル、エチル
【0118】
(ii)フッ素で置換されたアルキル基を含有する鎖状基
例:
【化10】
【0119】
(iii)単環式炭素環、二環式炭素環、三環式炭素環、および四環式炭素環からなる群より選択される1個以上の環状部を含有する基
例:
【化11】
【0120】
(iv)1個以上(好ましくは1または2個)のカルボキシ基で置換された炭化水素基を含有する基
例:
【化12】
【0121】
(v)1個以上(好ましくは1個)のアミノ基を含有する基
(vi)水素原子
(vii)イミダゾリウム塩を含有する基
例:
【化13】
【0122】
4gは、より好ましくは、水素原子、またはフッ素化されていてもよく、かつエチレン鎖を介して結合してもよいアルキル基であり、より好ましくは、水素原子、メトキシエチル基、イソブチル基、またはR3i−CF−(CFs6−(CHs7−O−(CH−(Rはフッ素原子または水素原子であり、s6は0〜6の整数であり、およびs7は1〜6の整数である)であり、更に好ましくは、3−(ペルフルオロエチル)プロポキシエチル基[示性式:CF−(CF)−(CH−O−(CH−]である。
【0123】
上記R中、構成単位R4aと構成単位R4bは、それぞれがブロックを形成していてもよく、ランダムに結合していてもよい。
【0124】
上記式(B1)および(B2)中、n1は、1以上100以下の整数、好ましくは1以上50以下の整数、更に好ましくは2以上30以下の整数である。
【0125】
上記式(B1)および(B2)中、Rは、−O−、−S−、−NH−または単結合を表し、好ましくは−O−である。
【0126】
上記式(B1)および(B2)中、Rは、1価の有機基または水素原子を表す。
【0127】
は、好ましくは、Rf−PFPE−R(式中、Rf、PFPEおよびRは、上記と同意義である)、またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、更に好ましくはメチルである。
【0128】
上記式(C1)中、Rは、環構造、ヘテロ原子および/または官能基を有してもよい(n2+n3)価の有機基を表す。
【0129】
上記式(C1)中、n2は、1以上3以下の整数である。
【0130】
上記式(C1)中、n3は、1以上3以下の整数である。
【0131】
好ましくは、n2+n3は、3であり、例えばn2が1であり、かつn3が2であり、あるいはn2が2であり、かつn3が1である。
【0132】
上記Rにおける「環構造、ヘテロ原子および/または官能基を有してもよい(n2+n3)価の有機基」としては、例えば、1価の有機基からさらに水素原子を(n2+n3−1)個除去することによって誘導される基が挙げられる。
【0133】
は、好ましくは、下記式:
【化14】
で表される基である。
【0134】
より好ましくは、Rは、下記式:
【化15】
で表される基である。
【0135】
上記式(C1)中、Rは、2価の有機基を表す。当該Rは、好ましくは、−O−(CH−(式中、rは1以上10以下の整数、好ましくは1以上3以下の整数である)、−NH−(CH−(式中、rは上記と同意義である)であり、より好ましくは、−O−(CH−(式中、rは1以上3以下の整数である)である。
【0136】
一の態様において、上記式(B1)および(B2)で表される化合物は、それぞれ、以下の一般式(B1a)および(B2a):
【化16】
[式中、Rf、PFPE、R、R、X、Z、およびn1は、上記と同意義であり、
gは0または1であり、
hは1または2であり、
q1は1以上5以下の整数である。]
で表される少なくとも1種の化合物であってもよい。
【0137】
別の態様において、上記式(C1)で表される化合物は:
(a)ジイソシアネートを3量体化させたトリイソシアネートに存在するNCO基と、
(b)下記式(a1)あるいは式(a1)および(a2):
【化17】
[式中、Rf、PFPE、Z、gおよびhは、上記と同意義である。]
で表される少なくとも1種の活性水素含有化合物、および、下記式(a3):
【化18】
[式中、Xは、上記と同意義であり、
30は、2価の有機基を表す。]
で表される少なくとも1種の活性水素含有化合物の活性水素を反応させることにより得られる少なくとも1種の化合物である。
【0138】
式(a3)におけるR30は、好ましくは、−(CHr’−(式中、r’は1以上10以下の整数、好ましくは1以上3以下の整数である)、−CH(CH)−、−CH(CHCH)−、−CH(CHOC)−であり、より好ましくは、−(CHr’−(式中、r’は1以上3以下の整数である)である。
【0139】
上記式(D1)中、Rは、3〜8価の有機基を表す。式(D1)から明らかなように、当該Rは、(n4+1)価となる。
【0140】
上記Rの具体的な例としては、例えば:
−O−CH−C(CH−);または
−O−CH−C(CH−)−CHOCH−C(CH−)
が挙げられる。
【0141】
好ましい態様において、R(Rn4は、
−O−CH−C(CH−OC(O)−CR=CH;または
−O−CH−C(CH−OC(O)−CR=CH−CHOCH−C(CH−OC(O)−CR=CH
が挙げられる。
【0142】
上記式(D1)中、n2は、1以上3以下の整数である。
【0143】
上記式(D1)中、n3は、1以上3以下の整数である。
【0144】
上記式(D1)中、n4は、2以上7以下、好ましくは3以上6以下の整数である。
【0145】
上記式(E1)中、Rは、上記(C1)と同意義である。ただし、式(E1)中においてRの価数は、(n5+n6+n7)価となる。
【0146】
上記式(E1)中、R11は、−R−Rまたは−R(Rn4である。これら−R−Rおよび−R(Rn4基は、それぞれ、式(C1)および式(D1)と同意義である。
【0147】
式(E1)中、R12は、Siを含む基である。
【0148】
上記Siを含む基は、好ましくは、下記式:
【化19】
で表される少なくとも1種の化合物であり得る。
【0149】
上記式中、R21、R22、R23、R24およびR25は、それぞれ独立して、アルキル基またはアリール基である。
【0150】
上記アルキル基としては、特に限定されるものではないが、炭素数1〜10のアルキル基、および炭素数3〜20のシクロアルキル基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基である。当該アルキル基は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよいが、好ましくは、直鎖である。好ましい具体的としては、R21に関してはn−ブチル基であり、R22〜R25に関してはメチル基である。
【0151】
上記アリール基としては、特に限定されるものではないが、炭素数6〜20のアリール基が挙げられる。当該アリール基は、2個またはそれ以上の環を含んでいてもよい。好ましいアリール基は、フェニル基である。
【0152】
上記アルキル基およびアリール基は、所望により、その分子鎖または環中に、ヘテロ原子、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有していてもよい。
【0153】
さらに、上記アルキル基およびアリール基は、所望により、ハロゲン;1個またはそれ以上のハロゲンにより置換されていてもよい、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−10シクロアルキル基、C3−10不飽和シクロアルキル基、5〜10員のヘテロシクリル基、5〜10員の不飽和ヘテロシクリル基、C6−10アリール基、5〜10員のヘテロアリール基から選択される、1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0154】
上記式中、R26は、2価の有機基を表す。好ましくは、R26は、−(CH−(式中、rは1〜20の整数、好ましくは1〜10の整数である)である。
【0155】
上記式中、m1およびm2は、それぞれ独立して、0または1であり;m3は、1〜500の整数、好ましくは1〜200、より好ましくは5〜150の整数であり;m4は、0〜20の整数、例えば1〜20の整数であり、m5は0または1である。
【0156】
上記式で示される具体的な基としては、例えば、下記の基が挙げられる。
【化20】
【0157】
上記式(E1)中、n5は、1以上3以下の整数である。
【0158】
上記式(E1)中、n6は、1以上3以下の整数である。
【0159】
上記式(E1)中、n7は、1以上3以下の整数である。
【0160】
また、別の含フッ素化合物の例としては、
2n+1−X−R
[式中、RおよびXは、上記と同意義であり、
nは、1〜30の整数、好ましくは3〜20の整数、例えば4〜10の整数である。]
で表される化合物である。
【0161】
さらに別の含フッ素化合物は、式(I):
【化21】
[式中、Xは、水素原子、メチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX基(但し、XおよびXは、互いに独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換もしくは非置換のベンジル基、または、置換もしくは非置換のフェニル基、
Yは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、−CHCHN(R)SO−基(但し、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)または−CHCH(OY)CH−基(但し、Yは水素原子またはアセチル基である。)、
Rfは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状の、フルオロアルキル基もしくはフルオロアルケニル基である。]
で示される含フッ素アクリレートエステルである。
【0162】
含フッ素アクリレートエステルにおいて、Xは、水素原子またはメチル基であることが好ましい。
【0163】
式(I)において、Rf基が、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基であることが好ましい。フルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基の炭素数は、1〜6、例えば1〜4である。
フルオロアルキル基の例は、−CF、−CFCF、−CFCFCF、−CF(CF、−CFCFCFCF、−CFCF(CF、−C(CF、−(CFCF、−(CFCF(CF、−CFC(CF、−CF(CF)CFCFCF、−(CFCF、−(CFCF(CF等である。
フルオロアルケニル基の例は、−CF=CF、−CFCF=CF、−(CFCF=CF、−CFC(CF)=CF、−CF(CF)CF=CF、−(CFCF=CF、−C(CFCF=CF、−(CFC(CF)=CF、−(CFCF=CF、−(CFCF=CF、−(CFC(CF)=CF、等である。
【0164】
Yは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、−CHCHN(R)SO−基(但し、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)または−CHCH(OY)CH−基(但し、Yは水素原子またはアセチル基である。)である。脂肪族基はアルキレン基(特に炭素数1〜4、例えば、1または2)であることが好ましい。芳香族基および環状脂肪族基は、置換されていてもあるいは置換されていなくてもどちらでもよい。
【0165】
含フッ素化合物の例として、式:
【化22】
【0166】
[式中、Rfは炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基、
91は、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、
92は、炭素数1〜10のアルキレン基、
93は、水素原子またはメチル基、
Arは、置換基を有することもあるアリール基、
n9は、1〜10の整数を表す。]
で示される含フッ素アクリレートエステルを挙げることができる。
【0167】
一の態様において、上記式(1)〜(6)中、Rfは炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基、
91は、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、
92は、炭素数1〜10のアルキレン基、
93は、水素原子またはメチル基、
Arは、置換基を有することもあるアリール基、
n9は、1〜10の整数であることが好ましい。
【0168】
含フッ素化合物の具体例は、
CF(CF(CH)OCOCH=CH
CF(CF(CH)OCOC(CH)=CH
CF(CF(CH)OCOCH=CH
CF(CF(CH)OCOC(CH)=CH
(CFCF(CF(CHOCOCH=CH
CF(CF(CHOCOC(CH)=CH
CF(CF(CHOCOCH=CH
CF(CF(CHOCOC(CH)=CH
CF(CF(CHOCOCH=CH
CFCF(CHOCOCH=CH
CF(CFSON(CH)(CHOCOCH=CH
CF(CFSON(C)(CHOCOC(CH)=CH
(CFCF(CFCHCH(OCOCH)CHOCOC(CH)=CH
(CFCF(CFCHCH(OH)CHOCOCH=CH
を例示することができる。
【0169】
一の態様において、含フッ素化合物は、パーフルオロアルキル基、および、ラジカル等の中間活性種と反応性を有する基Aを有する。
【0170】
本態様において、上記含フッ素化合物は、RfCH=CHで表される化合物、パーフルオロオレフィン、パーフルオロオレフィンのダイマー、およびパーフルオロオレフィンのオリゴマーよりなる群より選ばれる少なくとも1であることが好ましい。
【0171】
上記Rfは、パーフルオロアルキル基であり、好ましくは、炭素原子数1〜10の直鎖状のパーフルオロアルキル基である。具体的には、Rfは、F−(CFで表され、nは1〜10の整数、より好ましくは、nは4〜8の整数、例えば6である。
【0172】
上記RfCH=CHで表される化合物の具体的な構造としては、例えば、パーフルオロヘキシルエチレン(F(CFCH=CH)を挙げることができる。
【0173】
上記RfCH=CHで表される化合物の合成方法は、特に限定されないが、例えば、RfCHCH(式中、Rfは、上記と同意義であり、Yは、BrまたはIである)で表わされるハロゲン化物と、カルボン酸のアルカリ金属塩とをアルコール溶媒中で加熱する方法を挙げることができる(例えば、特公昭39−18112号公報)。上記方法では、アルコールと本態様の含フッ素化合物とは、アルコールおよび含フッ素化合物の融点差に着目し、いわゆる晶析操作により分離することができる(例えば、特開2009−173588号公報に記載のオレフィン−アルコール共沸混合物の分離方法)。
【0174】
上記パーフルオロオレフィンとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペンを挙げることができる。
【0175】
パーフルオロオレフィンのダイマー、またはパーフルオロオレフィンのオリゴマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレンのオリゴマー、ヘキサフルオロプロピレンのオリゴマー等を挙げることができる。上記テトラフルオロエチレンのオリゴマーは、重合度2〜7であることが好ましく、上記ヘキサフルオロプロピレンのオリゴマーは、重合度2〜4であることが好ましい。これらのオリゴマーは、種々の加工処理に応用し得る点から有利である。テトラフルオロエチレンのオリゴマー、またはヘキサフルオロプロピレンのオリゴマーは、例えば米国特許第3403191号明細書、米国特許第2918501号明細書などに記載の方法で、テトラフルオロエチレンまたはヘキサフルオロプロピレンをオリゴメル化することによって得られる。
【0176】
上記オリゴマーは、多くの異性体からなる、高度に分岐した分子鎖を有する化合物であり得る。上記オリゴマーとしては、例えば以下のような構造を挙げることができる。
【0177】
ヘキサフルオロプレペンダイマー:
【化23】
【0178】
ヘキサフルオロプロペントリマー:
【化24】
【0179】
ヘキサフルオロプロペンテトラマ−:
【化25】
【0180】
テトラフルオロエチレンダイマー:
【化26】
【0181】
テトラフルオロエチレントリマー:
【化27】
【0182】
テトラフルオロエチレンテトラマ−:
【化28】
【0183】
テトラフルオロエチレンペンタマー:
【化29】
【0184】
テトラフルオロエチレンヘキサマー:
【化30】
【0185】
一の態様において、上記含フッ素化合物は、RfCH=CHで表される化合物である。
【0186】
一の態様において、上記含フッ素化合物は、パーフルオロオレフィン、パーフルオロオレフィンのダイマー、およびパーフルオロオレフィンのオリゴマーよりなる群より選ばれる少なくとも1である。
【0187】
別の態様において、含フッ素化合物は、エチレン性二重結合を有する炭化水素であって、その一部または全部の水素原子がフッ素原子に置換された化合物であり得る。
【0188】
上記エチレン性二重結合を有する炭化水素であって、その一部または全部の水素原子がフッ素原子に置換された化合物としては、例えば、フッ素置換された、炭素数1〜6のアルキル基を含有しかつエステル基を有しないエチレン性二重結合を有する反応性のオレフィン系モノマー、具体的にはエチレン、プロピレン、ブチレン等、またはこれらの二量体を挙げることができる。上記化合物は、好ましくは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含有しかつエステル基を有しないエチレン性二重結合を有する反応性のオレフィン系モノマー、具体的にはフッ素により全置換されたエチレン、プロピレン、ブチレン等、またはこれらの二量体が挙げられる。好ましい態様において、エチレン性二重結合を有する炭化水素であって、その一部または全部の水素原子がフッ素原子に置換された化合物は、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレンの二量体、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含有し、かつエステル基を有さないエチレン性二重結合を有する反応性のオレフィン系モノマーであり得る。
【0189】
好ましい態様において、含フッ素化合物は、式(I)
【化31】
で表される含フッ素アクリレートエステル(式中、X、Y、およびRfは、上記と同意義である)、RfCH=CHで表される化合物(式中、Rfはパーフルオロアルキル基である。)、およびパーフルオロオレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1を有する。好ましくは、Xは、水素原子またはメチル基であり;Yは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、−CHCHN(R)SO−基(但し、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)または−CHCH(OY)CH−基(但し、Yは水素原子またはアセチル基である。)であり;Rf基が、炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基である。
【0190】
上記非フッ素化合物は、樹脂材料に機能を付与し得る非フッ素化合物を示す。当該非フッ素化合物は、樹脂材料に、含フッ素化合物と共にグラフト重合して非フッ素化合物に由来する構成単位を含むグラフト鎖を形成することが可能であり、樹脂材料に所望の機能を付与できるものであれば特に限定されない。
【0191】
上記非フッ素化合物は、樹脂材料に(例えば放射線照射により樹脂材料に生成した反応開始点に)グラフト重合して非フッ素化合物に由来する構成単位を含む上記グラフト鎖を形成し得る化合物である。非フッ素化合物は、化合物を構成する原子にフッ素原子が含まれていない化合物であり、例えば、ラジカルと反応性を有する部分を有する化合物、分子あるいは分子鎖の一部が脱離してイオン化する化合物、または中間活性種(例えばラジカルカチオン、ラジカルアニオン、もしくはラジカル)となる部分(以下「中間活性種と反応性を有する部分B」と称することがある)を有する化合物を挙げることができる。例えば、側鎖の水素原子が脱離してアルキルラジカルまたはアリルラジカルとなる部分を有する化合物(例えば、(メタ)アクリル系モノマー類など)、側鎖のハロゲン原子が解離的電子付加反応で脱離してアルキルラジカルまたはアリルラジカルとなる部分を有する化合物(例えば、塩化ビニルなどのビニル系モノマー類)などを挙げることができる。
【0192】
非フッ素化合物を上記含フッ素化合物と共に用いることによって、含フッ素化合物および非フッ素化合物(以下、「グラフト用化合物」と称することがある)のランダム共重合反応などの共重合反応(カチオン重合、アニオン重合、あるいはラジカル重合など)により樹脂材料に導入されるグラフト鎖の割合(グラフト率)が向上し得る。
【0193】
これは、このような非フッ素化合物にはラジカル等の中間活性種が発生し得る部分である水素原子が多く含まれており、放射線、特に電離放射線の照射によってラジカルが多く発生し、その結果、含フッ素化合物および非フッ素化合物を樹脂材料により多く導入し得るためと考えられる。非フッ素化合物を上記含フッ素化合物と共に用いることによって、グラフト率の向上と共に、形成される樹脂成形体の表面における撥水性および撥油性、特に撥油性が向上し得る。
【0194】
また、非フッ素化合物を用いると、樹脂成形体が含フッ素化合物のみを含むグラフト鎖を有する場合と比較して、樹脂成形体の表面における撥水性および撥油性、特に撥油性が向上し得る。これは、上記非フッ素化合物を用いると、重合後、グラフト鎖の結晶性が高くなり、樹脂成形体の表面に液滴が付着した場合であっても、グラフト鎖は上記液滴(例えば上記液滴の重力等)に反発し得るだけの分子凝集力を有しているためと考えられる。また、上記非フッ素化合物を用いると、重合後、グラフト鎖の結晶性、特に非フッ素化合物に由来する構成単位の結晶性が高くなり、この非フッ素化合物に由来する構成単位に結合したフッ素化合物に由来する構成単位が樹脂成形体の表面に偏析しやすくなると考えられる。樹脂成形体の表面の結晶の大きさはX線回折(XRD)を用いて測定することができる。
【0195】
上記ラジカル等の中間活性種と反応性を有する部分Bとしては、特に限定されないが、例えばエチレン性二重結合を有する基および含酸素環状基(例えば、グリシジル基、オキセタニル基)、ならびにこれらの誘導体(以下、「中間活性種と反応性を有する基B」と称することがある)が挙げられる。
【0196】
中間活性種と反応性を有する基Bとしては、好ましくは下記式:
【化32】
[式中、Rb1は、結合、−O−、−CO−または−OC(O)−であり、
c1は、水素原子、あるいは炭素数1〜10のアルキル基(好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基、より好ましくはメチル基)、ラクタム基(好ましくは、β-ラクタム、γ-ラクタムまたはδ-ラクタム基、より好ましくはγ-ラクタム基)またはフェニル基を表し、好ましくは、メチル基または水素原子であり、
d1は、それぞれ独立して、水素原子、あるいは炭素数1〜10のアルキル基(好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基、より好ましくはメチル基)またはフェニル基を表し、好ましくはメチル基または水素原子であり、より好ましくは水素原子であり、
n1’は、1〜5の整数であり、好ましくは1または2であり、より好ましくは1である。]
で表される基である。
【0197】
中間活性種と反応性を有する基Bとしては、好ましくは、下記式:
【化33】
[式中、Rb1は、結合または−OC(O)−であり、
c1は、水素原子、あるいは炭素数1〜10のアルキル基(好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基、より好ましくはメチル基)またはフェニル基を表し、好ましくは、メチル基または水素原子である。]
で表される基である。
【0198】
より好ましい中間活性種と反応性を有する基Bは、下記式:
【化34】
[式中、Rc1は、上記と同意義である。]
で表される基である。
【0199】
さらに好ましい中間活性種と反応性を有する基Bは、アクリロイル基またはメタクリロイル基である。
【0200】
中間活性種と反応性を有する基Bを有する化合物としては、例えば、エステル末端に炭素原子数1〜20のアルキル基の結合した(メタ)アクリル系モノマー類;ノルボルネンビニル、スチレン、塩化ビニル等のビニル系モノマー類等を挙げることができる。
【0201】
中間活性種と反応性を有する基Bを有する化合物としては、例えば、エステル末端に炭素原子数1〜15のアルキル基の結合した(メタ)アクリル系モノマー類、具体的にはステアリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ドデセニル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、テトラデセニル(メタ)アクリレート等;アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド;プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル、ノルボルネンビニル、スチレン、塩化ビニル等のビニル系モノマー類;等を挙げることができる。これらの中で、グラフト率がより良好になる観点から、ステアリル(メタ)アクリレート、スチレン、ノルボルネンビニルを用いることが好ましく、ステアリルアクリレート、スチレンを用いることが更に好ましい。
【0202】
グラフト率をさらに向上させる観点からは、上記中間活性種と反応性を有する基Bを有する化合物とともに、多官能の(メタ)アクリレート類を併せて用いてもよい。多官能の(メタ)アクリレート類としては、具体的には、2官能である1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#200ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#400ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#600ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#1000ジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール#400ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(#700)ジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコール#650ジ(メタ)アクリレート;3官能であるトリメチロルプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0203】
別の態様において、グラフト量を向上させる観点からは、上記中間活性種と反応性を有する基Bを有する化合物として多官能の(メタ)アクリレート類を用いてもよい。多官能の(メタ)アクリレート類は、上記と同意義である。
【0204】
一の態様において、中間活性種と反応性を有する基Bは、
【化35】
[式中、Rb1は、結合であり、
c1は、水素原子、あるいは炭素数1〜10のアルキル基(好ましくは、炭素数1〜5のアルキル基、より好ましくはメチル基)またはフェニル基を表し、好ましくは、メチル基または水素原子である。]
で表される基である。
【0205】
本態様において、上記中間活性種と反応性を有する基Bを有する化合物としては、上記中間活性種と反応性を有する基Bに、例えば、炭素原子数1〜12のアルキル基、具体的には、炭素原子数1〜10のアルキル基、より具体的には、炭素原子数3〜10のアルキル基の結合した化合物を挙げることができる。
【0206】
本態様において、上記中間活性種と反応性を有する基Bを有する化合物としては、例えば、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、イソブテン、ペンテン、ヘプテン、ノネン等を挙げることができる。
【0207】
上記ラジカルカチオンとなる部分を有する化合物としては、例えば、各種アルコール類などが挙げられる。これらの化合物では、一連の反応において分子または分子鎖の一部の脱離を生じ得る。放射線化学反応により生成したアルコールラジカルカチオンは、周囲の媒体(樹脂材料など)から電子を吸引し樹脂材料上にポリマーラジカルを間接的に生成するとともにアルコールラジカルとなり、樹脂材料の分子鎖にグラフト反応すると考えられる。またこれら一連の化学反応に伴って水素の脱離が発生すると考えられる。
【0208】
上記ラジカルアニオンとなる部分を有する化合物としては、例えば、トルエンが挙げられる。これらの化合物では、一連の反応において分子または分子鎖の脱離を生じ得る。放射線化学反応により生成したトルエンラジカルアニオンは、周囲の媒体(樹脂材料など)に電子を供与し、ポリマーラジカルカチオンを樹脂材料の分子鎖上に形成するとともにトルエンラジカルとなって、グラフト反応すると考えられる。またこれら一連の化学反応に伴って水素の脱離が発生する。
【0209】
上記ラジカルとなる部分を有する化合物としては、例えば、ハロゲン元素を分子構造内に含有するハロゲン化合物などが挙げられ、放射線照射により、解離的電子付加反応が誘起されハロゲン化合物上にラジカルを生成する。このとき脱離したハロゲンイオンは、還元剤として働き、周囲の媒体(樹脂材料など)に電子を供与し、ポリマーラジカルを樹脂材料の分子鎖上に形成させる。ハロゲン化合物上のラジカルと樹脂材料のポリマーラジカルが反応してグラフト反応が進むと考えられる。また、これら一連の化学反応に伴って、ハロゲン化水素、ならびに水素が発生する。
【0210】
上記中間活性種(例えば、ラジカルカチオン、ラジカルアニオン、ラジカル、好ましくはラジカル)となる部分を有する化合物としては、アセトフェノンン、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、クロロチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタール、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル-フェニルプロパンやそれらの誘導体、アセトフェノンO−ベンゾイルオキシム、ニフェジピン、シクロヘキシルカルバミン酸1,2−ビス(4−メトキシフェニル)−2−オキソエチル、シクロヘキシルカルバミン酸2−ニトロベンジル、2−(9−オキソキサンテン−2−イル)プロピオン酸1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エンやそれらの誘導体;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、テトラヒドロフランなどの種々の有機溶媒;オニウム塩、スルホニウム塩などの各種塩;ブレンステッド酸あるいはルイス酸を生成する各種開始剤(カチオン重合開始剤)等を挙げることができる。これらの化合物は、単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。複数の化合物を用いる場合には、予め混合して用いてもよい。
【0211】
一の態様では、中間活性種となる部分を有する化合物を複数用いる。例えば、2種類の上記中間活性種となる部分を有する化合物を用いる場合、上記2種類の化合物は重量比で1:99〜99:1の割合で混合して用いることができ、それら当該化合物が固形物であれば、溶媒に溶解させて用いてもよい。
【0212】
別の態様では、上記の中間活性種となる部分を有する化合物は、グラフト重合における重合溶媒として用いることもできる。上記の中間活性種となる部分を有する化合物の中から、樹脂材料に対して良溶媒(樹脂材料に対する親和性の高い化合物)と貧溶媒(樹脂材料に対する親和性の低い化合物)を組み合わせて用いることが好ましい。当該溶媒の組み合わせを用いてグラフト反応を行うことで、樹脂材料そのものを溶解させることなく、放射線照射により樹脂材料に生成した反応開始点に含フッ素化合物と非フッ素化合物とを効率よくグラフト反応させることができる。また、上記のように組み合わせて用いることによって、樹脂材料への浸透性や樹脂材料との親和性を調整することが可能となる。
【0213】
上記態様においては、良溶媒と貧溶媒を、体積比において良溶媒:貧溶媒=1:99〜50:50で用いることが好ましく、5:95〜35:65で用いることがより好ましく、10:90〜30:70で用いることが特に好ましく、10:90〜20:80で用いることがさらに好ましい。このような溶媒を用いることによって、樹脂材料の溶解を抑制して樹脂の膨潤を起こすことが容易になる。膨潤の結果、樹脂の分子運動性が促進するとともに、グラフト重合させる含フッ素化合物あるいは非フッ素化合物の樹脂材料の表面から内部までの浸透力を向上させることができる。
【0214】
例えば、樹脂材料を構成する樹脂がシクロオレフィン樹脂、ポリエチレンである場合には、良溶媒として環状アルカン(例えばシクロヘキサン)を、貧溶媒として低級アルコール(例えばイソプロピルアルコール)を用いることができる。より具体的には、環状アルカンと低級アルコールとを、体積比において環状アルカン:低級アルコール=1:99〜50:50で用いることが好ましく、5:95〜35:65で用いることがより好ましく、10:90〜30:70で用いることが特に好ましく、10:90〜20:80で用いることがさらに好ましい。
【0215】
また、副次的に、樹脂材料の膨潤により樹脂材料の内部に浸透した良溶媒、あるいは良溶媒中に溶解した上記非フッ素化合物、および樹脂材料が、放射線照射により誘起される化学反応により、その樹脂材料の一部分で化学結合してグラフト反応する効果や、樹脂材料の同士を架橋してネットワーク構造を形成する効果も起こすことができる。
【0216】
一の態様において、放射線の照射により樹脂材料の同士を架橋してネットワーク構造(橋掛け構造)が形成される。本態様において用いられ得る樹脂材料を構成する樹脂は上記と同意義であるが、特にポリエチレンを用いることができる。
【0217】
グラフト重合に用いる、上記含フッ素化合物と上記非フッ素化合物との質量比は、1:99〜99:1の範囲にあることが好ましく、20:80〜80:20の範囲にあることが好ましく、40:60〜60:40の範囲にあることがより好ましくい。
【0218】
好ましい態様において、上記含フッ素化合物として、
含フッ素アクリレートエステル(例えば、CH=CHC(=O)O−(CHn9Rf;Rfは炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基、n9は1〜10の整数;具体的には2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート)、および
RfCH=CHで表される化合物(Rfは、F−(CFで表され、nは1〜10の整数、より好ましくは、nは4〜8の整数)
よりなる群より選ばれる少なくとも1を用い;上記非フッ素化合物として、
(メタ)アクリル系モノマー類(例えば、ステアリルアクリレート)、
シクロヘキサン、
アルコール類(例えば、イソプロピルアルコール)、
1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、および1−ドデセンよりなる群より選ばれる少なくとも1を用いる。
【0219】
より好ましくは、上記含フッ素化合物として、
含フッ素アクリレートエステル(例えば、CH=CHC(=O)O−(CHn9Rf;Rfは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基、n9は4〜8の整数、具体的には、Rfが炭素数4または6のパーフルオロアルキル基であり、かつn9が2、具体的には、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート)、および
RfCH=CHで表される化合物(Rfは、F−(CFで表され、nは4〜8の整数、具体的にはnが6の整数)
よりなる群より選ばれる少なくとも1を;
上記非フッ素化合物として、
ステアリルアクリレート、
シクロヘキサン、
イソプロピルアルコール、
1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、および1−ドデセンよりなる群より選ばれる少なくとも1を用いる。
【0220】
好ましい実施態様においては、含フッ素化合物として、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートを用い、非フッ素化合物として、ステアリルアクリレートを用いる。
【0221】
上記含フッ素化合物および/または非フッ素化合物を含む組成物には、他の化合物、例えば溶媒(以下、「重合溶媒」と称することがある)、架橋助剤、重合開始剤等が含まれていてもよい。上記組成物は、上記含フッ素化合物および/または非フッ素化合物100質量部に対して例えば1〜10000質量部含まれ得る。
【0222】
上記重合溶媒は、特に限定されないが、樹脂材料を溶解または劣化させないものを用いることができ、グラフト用化合物を溶解または分散可能なものであることが好ましい。グラフト用化合物のみから形成されるポリマーを溶解できる溶媒を用いると、グラフト重合後の樹脂材料の分離が容易になる。重合溶媒としては、例えば、非フッ素系溶媒、具体的にはケトン系であるアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン;四塩化炭素;フッ素系溶媒(具体的にはハイドロフルオロエーテル、ジクロロペンタフルオロプロパン)等を用いることができる。
【0223】
上記架橋助剤は、特に限定されないが、例えば、多官能の(メタ)アクリレート類、具体的には2官能である1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#200ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#400ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#600ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#1000ジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール#400ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(#700)ジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコール#650ジ(メタ)アクリレート;3官能であるトリメチロルプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレートを用いることができる。
【0224】
反応開始点を樹脂中に発生させるための上記放射線は、樹脂材料に照射した場合にラジカル、あるいはラジカルカチオン、あるいはラジカルアニオンなどの中間活性種からなる反応開始点を発生させることができるものであれば特に限定されず、例えば、電子線(β線)、X線、γ線、中性子線、極端紫外線を含む紫外線、プラズマ、イオン照射等を用いることができる。
【0225】
ある態様においては、電離放射線の浸透深さ(飛程)の制御が容易で、樹脂中に中間活性種を発生させやすいことから、電子加速器を用いた電子線が好ましい。
【0226】
照射される電離放射線の吸収線量は、0.1〜1000kGy、好ましくは1〜300kGy、より好ましくは10〜200kGyである。1000kGy以下の吸収線量とすることにより、表層での樹脂材料そのものの化学反応による材料特性の変化(例えば劣化)を最小限に抑えることできる。また、1kGy以上の吸収線量とすることにより、表面グラフト重合に十分な量の中間活性種を生成することができる。樹脂材料のエネルギー吸収量は、フリッケ線量計、シンチレーション検出器や半導体検出器などにて計測可能であるが、より簡便には、例えば三酢酸セルロースフィルム(CTA:Cellulose triacetate)線量計や、ラジオクロミックフィルム線量計、PMMA線量計などによる光吸収量の変化により測定することができる。
【0227】
電子線を用いる場合、電子加速器を用い、樹脂材料に照射される電子線の電子のエネルギーは、樹脂材料表面で、好ましくは最大10MeV、より好ましくは、1MeV以下、さらに好ましくは、300keV以下、特に好ましくは、150keV以下、さらにより好ましくは100keV未満である。樹脂材料表面での電子のエネルギーを100keV未満とすることにより、実質的に樹脂材料の表面付近のみで大部分の電子線が吸収され、基材のより内部にまで浸透する電子線がほとんどなくなるので、電子線による樹脂材料そのものの化学反応を低減し、化学反応に伴う樹脂材料の架橋、分解などによる物理特性の変化を抑制することができる。さらに、樹脂材料表面でのみエネルギーを樹脂が吸収するため、極めて高いエネルギー付与が起き、グラフト重合に関与する中間活性種を効率的に生成することができる。一方、樹脂材料表面(例えば最表面)での電子の入射エネルギーを10keV以上,好ましくは、30keV以上とすることにより、樹脂材料表面において、表面グラフト重合に十分な程度の中間活性種を生成することができる。
【0228】
電子加速器からの電子線を用いる場合、電子源から樹脂材料まで間が1Pa以下の減圧または真空環境であれば、電子のエネルギーは、加速電圧と概ね対応しその加速電圧は、好ましくは最大10MV、より好ましくは、1MV以下、さらに好ましくは、300kV以下、さらにより好ましくは、150kV以下、さらにより好ましくは100kV未満であればよい。
【0229】
例えば、真空中で電子ビームの加速電圧が60kVの時、電子ビームの到達深度はそれぞれ、照射される成形用材料が非フッ素樹脂の時、約60μm、また照射される成形用材料がフッ素樹脂の時、約30μmとなり得る。
【0230】
一方、電子銃から試料(即ち、樹脂材料)までの間に、大気中への取り出しのための照射窓(たとえば、チタン箔など)があるような電子加速器の場合、真空中の照射であっても電子のエネルギーは、照射窓通過の際に減衰する。照射環境が、窒素や、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気であれば、不活性ガス中での電子のエネルギー損失が起きるので、電子取り出し窓から樹脂材料までの距離により、樹脂材料表面でのエネルギーは異なる。例えば、窒素気流中を通過する場合も同様に、樹脂材料までの気流中の密度と距離に応じて減衰するエネルギーを考慮して高くする必要がある。
【0231】
電子線を用いる場合、樹脂材料に照射される電子の照射線量は、10μC/cm〜10mC/cm、好ましくは、50μC/cm〜1mC/cm、より好ましくは100μC/cm〜300μC/cm、例えば200μC/cmである。このような範囲の照射線量とすることにより、効率よく中間活性種を発生させることができる。電子の照射線量は、ファラデーカップやカレント積算計にて計測可能である。
【0232】
樹脂材料への電離放射線の照射は、樹脂材料の酸化劣化や生成した中間活性種の対消滅を抑制する観点から、好ましくは、実質的に酸素が存在しない雰囲気下、例えば、酸素濃度が1000ppm以下、より好ましくは、500ppm、さらにより好ましくは、100ppm以下の雰囲気下で行われる。例えば、電離放射線の照射は、真空中または不活性ガス雰囲気下、例えば窒素、アルゴン、またはヘリウム雰囲気下で行われる。尚、真空とは、完全に真空である必要はなく、実質的に真空であればよく、例えば103Pa程度の減圧環境、10−1Pa程度の低真空、それ以下の高真空のいずれであってもよい。また、別の態様において、電離放射線の照射は、過酸化ラジカルを得るために、大気下で行ってもよい。同時に酸化劣化による材料特性の低下を回避する観点からは、酸素不在下でのラジカルなどの中間活性種の生成後に酸素を供給することで過酸化ラジカルや過酸化物を得ることが好ましい。また、樹脂材料に生成した中間活性種の失活を防止するために、照射後の樹脂材料は、当該樹脂を構成するポリマーのガラス転移温度以下の低温、より好ましくは液体窒素温度で保管されることが好ましく、加えて、真空あるいは不活性雰囲気下での保管が好ましい。
【0233】
電離放射線の浸透深さは、樹脂材料の厚み以上であってもよい。電離放射線の浸透深さは、好ましくは樹脂材料の厚みの0.001〜99%、例えば0.01〜99%、0.1〜99%または0.2〜99%、より好ましくは1.0〜95%、さらにより好ましくは3〜90%、例えば5〜80%、10〜60%、または20〜60%である。例えば、電離放射線の浸透深さは、樹脂材料の表面から、0.2〜20mmまで、0.2〜1mmまで、または0.2〜500μmまでの深さ、好ましくは0.2〜200μmまで、より好ましくは1〜100μmまで、さらに好ましくは2〜60μmまで、さらにより好ましくは3〜50μmまでの深さである。
【0234】
別の態様としては電離放射線の浸透深さは、樹脂材料の表面から、例えば1〜50μmまで、または5〜50μmまでの深さであってもよい。
【0235】
電離放射線の浸透深さとは、樹脂材料が電離放射線のエネルギーを吸収する深さ、あるいは、電離放射線が樹脂材料にエネルギーを付与する深さを意味する。電離放射線の浸透深さは、表面グラフト重合を誘起する中間活性種の生成する領域と実質的に同じであるが、表面グラフト反応により、樹脂材料表面はわずかに膨潤するため、グラフト反応後の成形用材料におけるグラフト鎖が存在する深さは、電離放射線の浸透深さよりも深くなり得る。
【0236】
ある態様においては、放射線源は、紫外線である。樹脂材料中100質量%に対し、光反応開始剤0.5〜10質量%、好ましくは、1〜7質量%、より好ましくは、2〜5質量%を混合した樹脂材料に、紫外線を照射することで、光開始剤にエネルギーを吸収させ、樹脂中に中間活性種を発生させることができる。ここで、光反応開始剤としては、例として、BASF社のイルガキュアなどを挙げられる。また、光反応開始剤は、300nm〜450nm付近の紫外線吸収波長をもつケトン(C=O)構造を樹脂材料中の構造に導入したものであってもよい。
【0237】
上記態様において紫外線を用いる場合、ArFやKrFのエキシマ-レーザー光源の他、水銀ランプ、Xeランプ、UV−LED光源を用いることが可能である。また、シンクロトロン装置からの放射光であってもよい。さらには、より短波長の極端紫外光であってもよい。
【0238】
上記態様において樹脂材料に照射される紫外線の光量は、成形用材料表面で、好ましくは最大100J/cm、より好ましくは、50J/cm以下、さらに好ましくは、10J/cm以下、さらにより好ましくは、5J/cm以下、さらにより好ましくは2J/cm未満である。紫外線の光量は、例えば10mJ/cm以上とすることができる。
【0239】
上記態様において、樹脂材料に透明な材料を選択することで、樹脂材料最表面からより内部での光化学反応を誘起できる。
【0240】
上記樹脂材料上に生成した中間活性種と、グラフト用化合物とのグラフト重合は、放射線を照射することにより生成した樹脂材料中の中間活性種(例えばラジカル)と、グラフト用化合物とを接触させることにより行われる。上記接触は、気相、液相、固相問わずに、行うことができる。樹脂材料中の中間活性種と、グラフト用化合物との接触は、例えば、樹脂材料をグラフト用化合物の溶液に浸漬する、グラフト用化合物を樹脂材料上に滴下または塗布する、あるいは気体のグラフト用化合物の存在下に樹脂材料を置くことにより行われる。樹脂材料の表面とグラフト用化合物の濡れ性が低い場合であっても、均一かつ確実に接触させることができることから、樹脂材料を、グラフト用化合物の溶液に浸漬する方法が好ましい。
【0241】
一の態様において、上記グラフト重合は、樹脂材料に放射線を照射し、次いで、放射線照射後の樹脂材料とグラフト用化合物とを接触させることによって行われる(後グラフト法)。
【0242】
上記態様において、放射線照射時の温度は、特に限定されるものではないが、例えば50℃以下、好ましくは室温以下、より好ましくは成形用材料の側鎖のセグメント運動の起きる温度であるγ分散温度以下である。低温で照射することにより、中間活性種の失活を防ぐことができる。本明細書において、室温とは、20−30℃を示す。
【0243】
上記態様において、放射線照射後のグラフト重合の反応温度は、特に限定されないが、例えば室温〜120℃、好ましくは40〜100℃、より好ましくは50〜80℃である。この反応温度が高い場合、グラフト反応に寄与せずにグラフト用化合物のみから形成されるポリマーの生成量が多くなる。
【0244】
一の態様において、上記グラフト重合は、樹脂材料およびグラフト用化合物に同時に放射線を照射することによって行われる(同時グラフト法)。具体的には、樹脂材料にグラフト用化合物を接触させた状態で、放射線を照射する。本態様はグラフト反応がより良好に進行する観点から好ましい。
【0245】
上記態様において、放射線照射時の温度は、特に限定されるものではないが、例えば100℃以下、好ましくは10〜70℃、より好ましくは20℃〜50℃である。同時に照射することにより、樹脂材料とグラフト用化合物に生成する中間活性種は互いに反応してグラフト重合する。
【0246】
一の態様において、上記グラフト重合は、樹脂材料およびグラフト用化合物に、別個に放射線を照射し、次いで、照射後の樹脂材料とグラフト用化合物とを接触させることによって行われる(シーケンシャル・グラフト法)。
【0247】
上記態様において、放射線照射時の温度は、特に限定されるものではないが、例えば100℃以下、好ましくは10〜70℃、より好ましくは20℃〜50℃である。同時に照射することにより、樹脂材料とグラフト用化合物に生成する中間活性種は互いに反応してグラフト重合し、重合に寄与しなかった樹脂材料中の中間活性種は、照射後さらに接触されたグラフト用化合物と反応し、グラフト重合し得る。
【0248】
上記態様において、放射線照射後のグラフト用化合物との反応は、熱反応であることが好ましい。上記熱反応の温度は、例えば室温〜120℃、好ましくは40〜100℃、より好ましくは50〜80℃である。この反応温度を所定の温度以下とすることにより、グラフト反応に寄与せずにグラフト用化合物のみから形成されるポリマーの生成量を抑制することができる。
【0249】
一の態様において、上記グラフト重合は、樹脂材料および非フッ素化合物に、同時に放射線を照射してグラフト重合させ(同時グラフト法)、次いで、得られた樹脂材料と、含フッ素化合物とを接触させることによって行われる(シーケンシャル・グラフト法)。本態様はグラフト反応がより良好に進行する観点から好ましい。
【0250】
上記態様において、放射線照射時の温度は、特に限定されるものではないが、例えば100℃以下、好ましくは10〜70℃、より好ましくは20℃〜50℃である。同時に照射することにより、樹脂材料と非フッ素化合物に生成する中間活性種は互いに反応してグラフト重合し、重合に寄与しなかった樹脂材料中の中間活性種は、照射後の反応によって、含フッ素化合物と反応し、グラフト重合する。
【0251】
上記態様において、照射後の反応は熱反応であることが好ましい。上記熱反応の温度は、例えば室温〜120℃、好ましくは40〜100℃、より好ましくは50〜80℃である。この反応温度を所定の温度以下とすることにより、グラフト反応に寄与せずにグラフト用化合物のみから形成されるポリマーの生成量を抑制することができる。
【0252】
一の態様において、上記グラフト重合は、樹脂材料および含フッ素化合物に放射線を、同時に照射してグラフト重合させ(同時グラフト法)、次いで、照射後の樹脂材料と非フッ素化合物とを接触させることによって行われる(シーケンシャル・グラフト法)。本態様はグラフト反応がより良好に進行する観点から好ましい。
【0253】
上記、放射線照射時の温度は、特に限定されるものではないが、例えば100℃以下、好ましくは10〜70℃、より好ましくは20℃〜50℃である。同時に照射することにより、樹脂材料と含フッ素化合物に生成する中間活性種は互いに反応してグラフト重合し、重合に寄与しなかった樹脂材料中の中間活性種は、照射後の反応によって、非フッ素化合物と反応し、グラフト重合する。
【0254】
上記態様において、照射後の反応は熱反応であることが好ましい。上記熱反応の温度は、例えば室温〜120℃、好ましくは40〜100℃、より好ましくは50〜80℃である。この反応温度が高すぎると、グラフト反応に寄与せずにグラフト用化合物のみから形成されるポリマーの生成量が多くなり得る。
【0255】
上記態様において、グラフト用化合物のみから形成されるポリマーの生成量を減少させるために熱反応の時間を調整することができる。例えば、反応温度が120℃よりも高い場合、熱反応の時間を6時間以内にすることが好ましく、4時間以内にすることがより好ましく、2時間以内にすることがさらに好ましい。
【0256】
上記放射線照射後の熱反応によるグラフト重合の反応時間は、特に限定されないが、例えば30分〜32時間、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜16時間である。
【0257】
上記グラフト重合は、単独あるいは複数のグラフト用化合物と接触させて行い得る。グラフト用化合物は、好ましくは、窒素ガスアルゴンガスなどの不活性ガスによるバブリング、あるいは凍結真空脱気などの手法により、雰囲気中の反応阻害剤となり得る酸素やグラフト用化合物中の溶存酸素、重合禁止剤などの不純物の濃度を下げる、あるは除去して行うことが好ましい。
【0258】
本発明におけるグラフト重合は、樹脂材料にグラフト用化合物を接触させた後、放射線照射と同時に1度のグラフト重合処理によって行ってもよい(同時グラフト法)。また、別法として、グラフト重合は、樹脂材料に放射線を照射後、照射後の樹脂材料にグラフト用化合物を加えてグラフト重合処理によって行ってもよい(後グラフト法)。また、さらなる別法として、グラフト重合は、複数回(例えば2回)のグラフト重合処理を行う多段階のグラフト重合処理により行ってもよい(シーケンシャル・グラフト法)。さらには、多段階のシーケンシャル・グラフト重合処理を行う場合には、含フッ素化合物および非フッ素化合物を複数回に分けて加えてもよい。
【0259】
一つの態様においては、1段目のグラフト重合処理において含フッ素化合物または非フッ素化合物のいずれか一方を重合させ、続く2段目の重合処理において非フッ素化合物または含フッ素化合物の他方を重合させてもよい。1段目の重合処理において非フッ素化合物を重合させ、続く2段目の重合処理において含フッ素化合物を重合させることが好ましい。
【0260】
一つのある態様においては、樹脂材料に1種あるいは複数のグラフト用化合物を接触させた後、放射線照射と同時に1段目のグラフト重合処理を行い、次いで、当該1段グラフト重合物に単独あるいは複数のグラフト用化合物を加えて2段目のグラフト重合処理によって行ってもよい。
【0261】
一つのある態様においては、樹脂材料にグラフト用化合物を接触させた後、放射線照射と同時に1段目のグラフト重合処理を行い、次いで、当該1段グラフト重合物と反応未成分のグラフト用化合物に対して熱処理を行い、2段目のグラフト重合処理を行ってもよい。
【0262】
一つのある態様においては、樹脂材料に1種あるいは複数のグラフト用化合物を接触させた後、放射線照射と同時に1段目のグラフト重合処理を行い、次いで、当該1段グラフト重合物に1種あるいは複数のグラフト用化合物を加えて2段目のグラフト重合処理を行い、さらに1種あるいは複数のグラフト用化合物を加えて3段目のグラフト重合処理を行ってもよい。
【0263】
一つのある態様においては、樹脂材料に放射線照射した後、当該樹脂材料に1種あるいは複数のグラフト用化合物を加えて1段目のグラフト重合処理を行い、さらに1種あるいは複数のグラフト用化合物を加えて2段目のグラフト重合処理を行ってもよい。
【0264】
一つのある態様においては、樹脂材料に1種あるいは複数のグラフト用化合物を接触させた後、放射線照射と同時に1段目のグラフト重合処理を行い、次いで、当該1段グラフト重合物にさらに1種あるいは複数のグラフト用化合物を加えて、放射線照射を行い2段目のグラフト重合処理を行ってもよい。
【0265】
一つのある態様においては、樹脂材料に1種あるいは複数のグラフト用化合物を接触させた後、放射線照射と同時に1段目のグラフト重合処理を行い、次いで、当該1段グラフト重合物にさらに1種あるいは複数のグラフト用化合物を加えて、放射線照射を行い2段目のグラフト重合処理を行い、さらに当該2段グラフト重合物に1種あるいは複数のグラフト用化合物を加えて3段目のグラフト重合処理を行ってもよい。
【0266】
一つのある態様においては、樹脂材料に1種あるいは複数のグラフト用化合物を接触させた後、放射線照射と同時に1段目のグラフト重合処理を行い、次いで、当該1段グラフト重合物にさらに1種あるいは複数のグラフト用化合物を加えて、放射線照射を行い2段目のグラフト重合処理を行い、さらに当該2段グラフト重合物と反応未成分のグラフト用化合物に対して熱処理を行い、3段目のグラフト重合処理を行ってもよい。
【0267】
多段階のシーケンシャル・グラフト重合処理を行う場合には、重合の反応条件を段階的に変更させて反応させてもよい。例えば、放射線を照射した後に、反応温度または重合圧力を変更することにより、反応速度を制御してもよい。反応温度は、グラフト用化合物(含フッ素化合物、非フッ素化合物)または溶媒に応じて適宜選択できるが、例えば10〜150℃の範囲で行うことができる。重合圧力は、グラフト用化合物(含フッ素化合物、非フッ素化合物)または溶媒に応じて適宜選択できるが、例えば0.1Pa〜10MPaの範囲で行うことができる。放射線の照射は複数回行ってもよい。
【0268】
多段階のシーケンシャル・グラフト重合処理を行う場合、最終的に含フッ素化合物および非フッ素化合物を反応させればよく、その反応順序は特に限定されない。例えば、1段目で含フッ素化合物および非フッ素化合物の一方を反応させ、2段目で他方を反応させてもよく、1段目で含フッ素化合物および非フッ素化合物の一方を反応させ、2段目で他方を反応させ、3段目でさらに含フッ素化合物および非フッ素化合物の一方を反応させてもよい。また、ある段階で含フッ素化合物および非フッ素化合物の両方を反応させてもよい。例えば、1段目で非フッ素化合物を反応させ、2段目で含フッ素化合物および非フッ素化合物の両方を反応させ、3段目で含フッ素化合物を反応させてもよい。
【0269】
シーケンシャル・グラフト重合は、複数の重合方法を組み合わせて行ってもよい。例えば、放射線を用いた同時グラフト重合を行い、次いで他の方法を用いた重合、例えば熱重合を行ってもよい。また、電離放射線を用いた同時グラフト重合を行い、次いで、紫外線を用いた同時グラフト重合を行ってもよい。
【0270】
上記方法は、更に、放射線の照射前の樹脂材料に少なくとも溶媒を接触させる工程を含んでいてもよい。樹脂材料と溶媒とは、樹脂材料が溶媒によって膨潤するまで接触させることが好ましく、例えば樹脂材料(例えばペレット)の全部または一部が白濁するまで接触させてもよく、または樹脂材料と溶媒とを1〜24時間接触させてもよい。さらには、または樹脂材料と溶媒とを温度を加温、例えば、20℃〜150℃の温度で接触させてもよい。
【0271】
上記工程により、樹脂材料が溶媒によって膨潤し、その後の工程で加えるグラフト用化合物が樹脂材料の内部にまで浸透および拡散しやすくなると考えられる。上記工程により、樹脂材料の内部にまでグラフト鎖の形成がより容易となり、グラフト率がさらに向上し得る。さらには、副次的にグラフト鎖による樹脂材料を構成するポリマー間での橋掛けによるネットワーク構造形成などが起き得る。
【0272】
樹脂材料と溶媒との接触は、例えば、樹脂材料を溶媒に浸漬する、溶媒を樹脂材料上に滴下または塗布する、あるいは気体状態の溶媒の存在下に樹脂材料を置くことにより行われる。樹脂材料中に溶媒が均一に存在する観点からは、樹脂材料を上記溶媒に浸漬することが好ましい。
【0273】
一の態様において、樹脂材料に少なくとも溶媒を接触させる上記工程において、溶媒と共に含フッ素化合物および/または非フッ素化合物を樹脂材料に接触させる。この態様において、さらに、放射線の照射前に、溶媒と共に加えた上記の含フッ素化合物および非フッ素化合物と同一または異なる種類の含フッ素化合物および/または非フッ素化合物を樹脂材料と接触させてもよい。
【0274】
一の態様において、樹脂材料に少なくとも溶媒を接触させる上記工程後であって、樹脂材料に放射線を照射する前に、含フッ素化合物および/または非フッ素化合物と樹脂材料とを接触させてもよい。
【0275】
上記溶媒は、樹脂材料を溶解または劣化させないものを用いることができ、グラフト用化合物を溶解または分散可能なものであることが好ましい。グラフト用化合物のみから形成されるポリマーを溶解できる溶媒を用いると、グラフト重合後の樹脂材料の分離が容易になる。取り扱い性が有利となる観点からは、上記溶媒は、揮発しにくいもの(例えば、沸点が100℃以上の化合物)を用いることが好ましい。上記溶媒は、重合溶媒と同一の種類のものであってもよい。
【0276】
上記溶媒としては、具体的には、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサン、n−ヘキサデカン、流動パラフィン、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。
【0277】
別の態様において、溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、n−ヘキサデカン、流動パラフィン等を挙げることができる。
【0278】
上記溶媒とともに、架橋助剤等を加えてもよい。架橋助剤は上記と同意義である。
【0279】
別の実施形態において、樹脂材料から成形用材料を形成する方法は、樹脂材料にグラフト用化合物(または、グラフト用化合物を含む組成物)を接触させ、次いで、この樹脂材料に放射線を照射し、含フッ素化合物に由来する構成単位および非フッ素化合物に由来する構成単位を含むグラフト鎖を樹脂材料に導入し(グラフト重合し)、成形用材料を形成することを含む。樹脂材料とグラフト用化合物とは、樹脂材料がグラフト用化合物によって膨潤するまで接触させることが好ましく、例えば樹脂材料(例えばペレット)が白濁するまで接触させてもよく、または樹脂材料とグラフト用化合物とを1〜24時間接触させてもよい。電離放射線を樹脂材料に照射する前に、樹脂材料とグラフト用化合物とを予め接触させることにより、樹脂材料の内部にグラフト用化合物が含まれ易くなると考えられる。また、樹脂材料がグラフト用化合物によって膨潤し、樹脂材料を形成する樹脂の分子運動性が向上することにより、グラフト用化合物の樹脂材料内部への浸透性および拡散性が向上すると考えられる。その結果、樹脂材料の内部にまでグラフト鎖を形成することがより容易となり、グラフト率がより良好となり得る。
【0280】
上記樹脂材料とグラフト用化合物(または、グラフト用化合物を含む組成物)との接触は、例えば、樹脂材料を少なくともグラフト用化合物に浸漬する、少なくともグラフト用化合物を樹脂材料上に滴下または塗布する、あるいは気体状態の少なくともグラフト用化合物の存在下に樹脂材料を置くことにより行われる。樹脂材料中にグラフト用化合物が均一に存在する観点からは、樹脂材料を上記グラフト用化合物に浸漬することが好ましい。
【0281】
本実施形態において、樹脂材料に少なくとも含フッ素化合物および/または非フッ素化合物を接触させた後、放射線を樹脂材料に照射する前に、樹脂材料に含フッ素化合物および/または非フッ素化合物を接触させてもよい。この含フッ素化合物および/または非フッ素化合物は、予め樹脂材料に接触させた含フッ素化合物および非フッ素化合物と同一または異なる種類である。
【0282】
放射線の照射後に、さらに含フッ素化合物および/または非フッ素化合物と樹脂材料とを接触させる工程を含んでもよい。この工程で用いる含フッ素化合物および/または非フッ素化合物は、放射線を樹脂材料に照射する工程の前に用いる含フッ素化合物および非フッ素化合物と同一または異なる種類である。
【0283】
樹脂材料、含フッ素化合物、非フッ素化合物、グラフト用化合物を含む組成物、含フッ素化合物を含む組成物、非フッ素化合物を含む組成物、放射線、電離放射線、グラフト重合等については上記と同じであるため、重複する説明は省略する。
【0284】
一の態様において、当該グラフト反応後の成形用材料と、グラフト反応を行っていない樹脂材料を混合して、各種方法により成形加工する。上記のように混合することによって、グラフト反応後の成形用材料中の含フッ素グラフト化合物による効果を樹脂成形体に発現させることが容易になる。グラフト反応を行っていない樹脂材料の混合量は、樹脂成形体100質量%に対し、好ましくは最大で200質量%、より好ましくは100質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、さらにより好ましくは20質量%以下である。グラフト反応を行っていない樹脂材料の混合量は、樹脂成形体100質量%に対し、1質量%以上とすることができる。
【0285】
上記態様において、グラフト反応後の成形用材料に含まれる樹脂材料を構成する樹脂および上記のグラフト反応を行っていない樹脂材料を構成する樹脂が同一の樹脂である場合、当該成形用材料へのグラフト反応を行っていない樹脂材料の混合量(樹脂成形体に対する、グラフト反応を行っていない樹脂材料の添加割合)が少ないほど、成形加工して得られる樹脂成形体に発現する所望の機能性が向上しえる。また、グラフト反応を行っていない樹脂材料の混合量が多いほど、成形用材料および成形加工して得られる樹脂成形体の強度が向上する。
【0286】
上記態様において、グラフト重合を行っていない樹脂材料の混合量および熱処理温度を制御することにより、得られる樹脂成形体の表面からの機能化領域を制御し得る。
【0287】
別の態様において、グラフト反応後の当該成形用材料と、各種含フッ素化合物(または含フッ素化合物の重合体)を混合して成形加工する。このように混合することで、当該成形材料に含まれる含フッ素グラフト化合物と混合した含フッ素化合物(または含フッ素化合物の重合体)との間で相溶性(分子の絡みあい)が生じ得、含フッ素グラフト化合物による効果のみならず、含フッ素化合物(または含フッ素化合物の重合体)の効果を樹脂成形体に発現させることができる。含フッ素化合物(または含フッ素化合物の重合体)の混合量は、樹脂成形体100質量%に対し、好ましくは最大で100質量%、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、さらにより好ましくは10質量%以下である。含フッ素化合物(または含フッ素化合物の重合体)の混合量は、樹脂成形体100質量%に対し、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。
【0288】
上記態様において、上記混合物には、グラフト重合を行っていない樹脂材料をさらに混合してもよい。
【0289】
本発明においては、上記のような成形用材料を成形することにより、樹脂成形体を得る。
【0290】
成形用材料を樹脂成形体に成形する方法は、特に限定されず、一般的な成形方法、例えばモールド成形、押出成形、射出成形、ラム押出し、プレス成形、真空成形、トランスファ成形、ブロー成形、ナノインプリント等を用いることができる。また、本発明の成形用材料は、溶媒に溶解または分散、具体的には溶解させることにより、キャスト成形等のコーティング方法を用いた成形に用いることができる。成形用材料を樹脂成形体に成形する方法は、押出成形、モールド成形(特に、金型に入れてホットプレスによるモールド成形)、あるいは、射出成形、ラム押出し成形が好ましい。このような方法を用いることによって、含フッ素グラフト化合物(グラフト鎖)による効果を樹脂成形体に発現させ得る。
【0291】
成形用材料を成形することにより得られた樹脂成形体を、後処理、好ましくは熱処理、より好ましくは、成形用材料に含まれるグラフト鎖を有する樹脂材料のガラス転移温度(以下、Tgと示すことがある)付近、さらに好ましくはTgよりも3℃低い温度、さらにより好ましくはTgよりも5℃低い温度で熱処理することで、樹脂材料における分子運動性を促進し、樹脂成形体の形状を損なわずに、含フッ素グラフト化合物が樹脂成形体表面に偏析し得、樹脂成形体表面での機能発現を促進し得る。
【0292】
樹脂成形体を熱処理する温度を調整することにより、得られる樹脂成形体の表面からの機能化領域を制御し得る。
【0293】
別の実施形態では、当該グラフト反応後の成形用材料を成形加工する際、加えられる熱処理時間を通常よりも長くし、さらに成形後の樹脂成形体を熱処理する。
【0294】
成形時の温度は、用いる樹脂材料の種類に応じて適宜選択することができ、ガラス転移点以上、分解温度以下の温度、好ましくは融点以上、分解温度以下の温度であり得る。
【0295】
成形時の温度を調整することにより、得られる樹脂成形体の表面からの機能化領域を制御し得る。
【0296】
一態様においては、成形用材料を成形加工する際、加えられる熱処理時間を通常よりも長くすることで、樹脂材料の分子運動性を活性化し、含フッ素グラフト化合物が樹脂成形体表面に偏析させることを促進することにより、成形後の熱処理が不要となる。
【0297】
ある態様において、当該成形用材料を溶媒に溶解または分散させたキャスト溶液を準備し、バーコート法やスプレーコート法などの手法により、基板上に成膜した後、さらに赤外線またはホットアイロンを用いて熱処理してもよい。上記熱処理によって、形成された成膜中の含フッ素グラフト化合物が膜の表面に偏析し得、表面における機能発現がより可能となり得る。
【0298】
上記態様において、熱処理温度は、用いる樹脂材料の種類に応じて適宜選択することができ、好ましくはガラス転移点以上、分解温度以下の温度、より好ましくは融点以上、分解温度以下の温度であり得る。
【0299】
ある態様において、当該成形用材料を溶媒に溶解または分散させたキャスト溶液を準備し、バーコート法やスピンコート法により、基板上に成膜した後、ナノインプリント装置によりモールド形状を転写して成形してもよい。
【0300】
上記態様において、ナノインプリント時の温度は、用いる樹脂材料の種類に応じて適宜選択することができ、好ましくはガラス転移点以上、分解温度以下の温度、より好ましくは融点以上、分解温度以下の温度であり得る。
【0301】
上記態様において、成形後、当該樹脂成形体を、好ましくは成形用材料のガラス転移温度付近、より好ましくはTgよりも3℃低い温度、さらにより好ましくはTgよりも5℃低い温度で熱処理することで、樹脂の分子運動性を促進し、樹脂成形体の形状を損なわずに、含フッ素グラフト化合物が樹脂成形体表面に偏析させることが可能であり、樹脂成形体表面での機能発現を促進することができる。
【0302】
本成形用材料およびそれを用いた樹脂成形体による加工成形には、マスターバッチと呼ばれる、形状がペレットや粒などからなるプラスチックに、本発明でグラフトさせた樹脂成形体をグラフトされていないプラスチック樹脂と練りこみ、プラスチックの成型時に規定の倍率でグラフト量を希釈する樹脂用グラフト剤を用いてもよい。
【0303】
一の態様において、本発明の成形用材料と、放射線の照射により架橋された樹脂であり、かつ、含フッ素化合物および非フッ素化合物に由来する構成単位を含むグラフト鎖を有しない樹脂とを用いて樹脂成形体を形成してもよい。本態様において、本発明の成形用材料と、上記放射線の照射により架橋された樹脂とを混合して用いることができる。
【0304】
上記態様において、本発明の成形用材料は、放射線の照射により架橋された樹脂に、含フッ素化合物および非フッ素化合物に由来する構成単位を含むグラフト鎖が導入されたものであってもよい。
【0305】
上記態様において、樹脂を架橋するための放射線(具体的には、電離性放射線)の照射は、当業者において通常用いられる反応条件を用いて行うことができる。例えば、電離性放射線の照射量は、例えば、10kGy以上とすることが好ましく、50kGy以上とすることがより好ましく、100kGy以上とすることがさらに好ましく、500kGy以上とすることが特に好ましく、1000kGy以上とすることがより好ましい。
【0306】
得られる樹脂成形体の形状は、特に限定されず、所望するいずれの形状、例えば、ブロック状、シート状、フィルム状、棒状、凹凸状、その他用途に応じた種々の形状であってもよい。
【0307】
本発明の方法によれば、上記したグラフト鎖を有する成形用材料を用いることにより、従来の成形時に含フッ素撥剤等を添加して成形する方法よりも、透明度が高く、表面が滑らかな樹脂成形体を得ることができる。
【0308】
例えば、得られる樹脂成形体は、例えば、2.0%以下、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.30%以下のヘイズ値を有し得る。上記ヘイズ値は、市販のヘイズメーターにより測定することができる。
【0309】
上記樹脂成形体のフッ素含有量は、樹脂成形体100質量部に対し、0.1〜10質量部であることが好ましく、1〜5質量部であることがより好ましい。フッ素含有量は、燃焼フラスコ法によって求めることができる。
【0310】
本発明の方法によれば、上記したグラフト鎖を有する成形用材料を用いることにより、従来と同様に成形した場合であっても、例えば、従来の成形用材料と同様の形状を有する成形用材料(例えば、ペレット材料等)を用いて、従来の成形方法(例えば、射出成形、押出成形等)で成形した場合であっても、グラフト鎖に由来する優れた機能(例えば、撥水性、撥油性等)を有する樹脂成形体を得ることができる。即ち、本発明の方法によれば、成形後に樹脂成形体の表面をグラフト化するよりも簡便に、樹脂成形体に機能を付与することができる。
【0311】
本発明の方法によれば、複雑な表面形状を有する樹脂成形体を形成することができる。また、本発明の方法によれば、設備的な観点から成形対象である樹脂成形体の大きさの制限のある上記従来の方法よりも、大きな樹脂成形体を形成することが可能となる。これに対し、成形品である樹脂成形体表面に放射線を照射して中間活性種を生成させ、その後、含フッ素モノマーをグラフトさせる、従来から検討されている方法(例えば特許文献1の方法)では、上記のような樹脂成形体を形成することは困難であった。
【0312】
本発明の方法によれば、グラフト鎖を有する成形用材料を用いることにより、樹脂成形体表面にグラフト鎖を比較的均一に存在させることができる。これに対し、上記の従来の方法では、樹脂成形体を均一な温度に調整することが困難である、電離放射線を樹脂成形体に均一に照射することが困難である、または、樹脂成形体の形状(特に複雑な形状に成形された樹脂成形体)によっては誘起されるラジカル等の中間活性種の濃度に差が生じ得る等の理由により、樹脂成形体の表面にグラフト鎖を均一に形成することは困難であった。なお、樹脂成形体の表面部分に存在するグラフト鎖の存在は、例えばグラフト鎖に含まれるフッ素原子の分布を例えば走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によるEDX(Energy dispersive X-ray)分析、EPMA(Electron Probe Microanalyser)分析、走査透過電子顕微鏡(STEM)、陽電子マイクとプローブアナライザー(PPMA)を用いて観察することができる。
【0313】
また、上記の従来の方法では、樹脂成形体の表面の全体にグラフト鎖を形成するためには、長時間の放射線照射を必要とする場合があった。このような場合、放射線照射の影響を受けやすい、例えば分解または劣化しやすい樹脂材料を用いると、樹脂成形体の機械強度が保たれない場合がある。これに対し、本発明の方法では、グラフト鎖を有する成形用材料を用いるため、樹脂成形体の機械強度の低下を抑制しながら、表面にグラフト鎖が比較的均一に存在する樹脂成形体を形成することができる。
【0314】
特に、本発明の一態様では、放射線の照射に電子線照射装置を用いるが、このような態様では、電子線照射装置の加速電圧を例えば1MV未満、好ましくは、300kV以下、より好ましくは、150kV、さらに好ましくは100kV未満に下げることで、樹脂本来の物理特性(例えば、強度、弾性率、ガラス転移温度、融点)を損なうことなく、成形用材料の表面にグラフト鎖を導入することが容易になる。この態様は、放射線照射により機械的特性などの物理特性が大きく変化するような樹脂材料に有用である。
【0315】
本発明の方法によれば、グラフト率が高い場合であっても、表面の凹凸の少ない樹脂成形体を形成し得る。表面粗度は、レーザー顕微鏡、光干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡などを用いて測定することができる。
【0316】
上記樹脂成形体の凹凸は、グラフト率の上限値が、1000%以下、より好ましくは500%以下、さらに好ましくは200%以下、さらにより好ましくは150%以下、特に好ましくは100%以下、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは50%以下、さらにより好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下であり、グラフト率の下限値が、好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.05%以上、さらにより好ましくは0.1%以上、特に好ましくは0.2%以上にある場合でも少なくなり得る。これに対し、上記の従来の方法では、樹脂成形体表面に、均一にグラフト鎖を形成することが困難であり、また、グラフト鎖が樹脂成形体の内部に形成されることにより樹脂成形体が膨潤する場合があり、グラフト鎖を形成した後の樹脂成形体表面に凹凸が生じ得る。表面の凸凹が小さいことは、レーザー顕微鏡または干渉顕微鏡等を用いて樹脂成形体の表面状態を観察することによっても確認し得る。
【0317】
一の態様によれば、本発明によれば、ソルベントクラック耐性の良好な樹脂成形体を得ることができる。ここで、ソルベントクラック耐性とは、溶媒に浸漬した際にクラックが生じにくいこと、すなわち、該溶媒に対する耐久性が良好であることを意味する。ソルベントクラック耐性は、ソルベントクラック限界応力(以下、「限界応力」と記載することがある)σを求め、σの数値が高い程、良好なソルベントクラック耐性を有する判断する。
【0318】
上記限界応力は、図1に示すように、金属治具に、試験用サンプル2を固定して測定し得る。
金属治具としては、図1に示すように、X軸、Y軸およびZ軸を設けた場合に、Z軸に直交する断面の形状が楕円の4分の1の形状(楕円を長軸および短軸に沿って、4つに切断したものの1つ)である金属治具を用いる。上記金属治具としては、X軸方向の長さx1が10.0cm、Y軸方向の長さy1が4.0cm、Z軸方向の長さz1が1.0cmのものを用いることができる。
上記限界応力の測定は、具体的には、以下のように行うことができる。まず、断面が板状の試験用サンプル(例えば、10cm×1cm×厚み0.1cm)を用意する。上記金属治具に、上記サンプルを、金属治具の曲面(金属治具の曲率が連続的に変化する曲面)の曲率に沿わせた状態で、固定部材を用いて固定する。上記サンプルを固定した金属治具を、特定温度(例えば、25℃)に保った試験用の溶媒(例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、メチルエチルケトン(MEK)、ミネラルオイル,ワセリン、グリセリン、n−ヘキサデカン等)に浸漬する。溶媒中に浸漬した状態で、上記金属治具を、特定時間静置する。上記短軸(Y軸)および長軸(X軸)の交点をx=0とし、クラックが発生した点のうち、最もx座標の小さな点(図1の点1)をクラック発生点1とする。クラック発生点1(x=x2)における歪みεを、以下の式により求める。ここで、tは、試験前のサンプルの厚み(cm)を表す。
ε=[0.02×(1−0.0084×(x2)−3/2]×t
上記式で得られた歪みε、およびフィルムの曲げ弾性率Eを用いて、x=x2における応力σを、以下の式により算出する。
σ(kgf/cm)=E×ε
上記式により算出された応力σの値が大きい程、ソルベントクラック耐性が良好であると判断する。
【0319】
一の態様において、本発明の樹脂成形体は、良好な耐熱性を有し得る。
耐熱性の評価は、例えば、以下のようにして算出した耐熱指標(%)が高いほど、熱分解が起こりにくい、すなわち、耐熱性が良好であると判断し得る(例えば、耐熱指標が99%以上であれば、良好な耐熱性を有すると判断する)。
上記耐熱指標は、熱重量測定(TG:thermogravimetric analysis)により算出することができる。具体的には、成形用材料の温度を一定のプログラムに従って変化させて(加熱または冷却させて)、成形用材料の重量の変化を測定する。測定結果から以下の式に基づいて、耐熱指標を求めることができる。上記熱重量測定は、例えば、Rigaku製や島津製作所製のTGA(熱重量)測定器を用いて行うことができる。
耐熱指標[%]=100−100×(M0−M1)/M0
上記式中、M0は、熱重量測定前(昇温前)の成形用材料の重量、M1は、昇温後の成形用材料の重量を意味する。
【0320】
含フッ素化合物としてオレフィン系モノマーを用いることによって、樹脂成形体の耐熱性をより向上し得る。
【0321】
上記したように、本発明の方法は、含フッ素グラフト鎖を有する樹脂材料を含む成形用材料を用いることを特徴とする。従って、本発明はまた、上記した含フッ素グラフト鎖を有する樹脂材料を含む成形用材料をも提供する。本発明の成形用材料は、上記本発明の樹脂成形体の製造方法において、樹脂成形体の原料として用いるのに適している。
【0322】
一実施形態において、本発明の成形用材料(例えばペレット)は、樹脂に添加する材料として用いる(内添する)ことができる。樹脂に上記成形用材料を内添すると、形成される樹脂成形体のブリードアウトを低減できる。樹脂成形体の形成方法、内添方法については従来から行われている手法を用いることができる。
【0323】
一の態様において、本発明の成形用材料は、グラフト鎖を有する樹脂材料からなり、成形用材料の表面から、最大で200μmの深さまで含フッ素グラフト鎖が存在し、その表面積は、100mm以下であり得る。
【実施例】
【0324】
本発明について、以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0325】
(合成例1−1)
樹脂材料であるZEON社の熱可塑性樹脂COP(シクロオレフィンポリマー)のペレット(φ2mm×4mm)5gをシート状の容器(50mm×50mm×0.1mm)に入れ、該容器を減圧脱気した。ステアリルアクリレート(以下、STA)モノマーとパーフルオロアクリレート(CH=CHC(=O)O−CHCH13。以下、FA)モノマーとを重量比1:1で混合し、窒素ガスを用いて30分間バブリングし脱酸素処理したモノマー試薬を、当該シート状容器に2cc注入し、COPペレットを当該モノマー試薬に浸漬した。その後、35℃、酸素不在下において、低エネルギー電子加速器を用いて、ペレットの表面に低エネルギー電子線を照射した。照射条件は、加速電圧250kV、照射電子流1.2mA、コンベア速度10m/分、試料−照射窓間距離100mmとした。シート状容器の両面から低エネルギー電子線を各1pass照射し、グラフト反応(同時グラフト反応)させた。このときの吸収線量は、20kGy/passであった。低エネルギー電子線の照射後、70℃においてさらに16時間反応させることで、未反応モノマーを用いたグラフト反応(後グラフト反応)を行った(2段階のシーケンシャル・グラフト重合反応)。反応後、当該容器からペレットを大気に暴露して取り出し、アセトンとHFE7200(3M製)とを用いて、ペレットを洗浄し、グラフト用化合物のみから形成されたポリマーを完全に除去した。30分間風乾後、70℃において2時間乾燥処理を行うことで、成形用材料であるペレットが得られた。
【0326】
(合成例1−2)
照射電子流を4.3mAに変更した以外は合成例1−1と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。このときの吸収線量は75kGy/passであった。
【0327】
(合成例2−1)
樹脂材料であるZEON社の熱可塑性樹脂COPペレット(φ2mm×4mm)5gをシート状の容器に入れ、該容器を減圧脱気した。このCOPペレットの表面に、25℃、酸素不在下において、低エネルギー電子加速器を用いて、ペレットの表面に低エネルギー電子線を照射した。照射条件は、加速電圧250kV、電子流1.2mA、コンベア速度10m/分、試料−照射窓間距離100mmとした。シート状容器の両面から低エネルギー電子線を各1pass照射した。このときの吸収線量は、20kGy/passであった。
【0328】
STAモノマーとFAモノマーとを重量比1:1で混合し、窒素ガスを用いて30分間バブリングして脱酸素処理したモノマー試薬を、当該シート状容器に2cc注入し、COPペレットを当該モノマー試薬に浸漬した。その後、70℃にて、16時間反応させることで、後グラフト反応を行った。反応後、当該容器からペレットを大気に暴露して取り出し、アセトンとHFE7200(3M製)とを用いて、ペレットを洗浄し、グラフト用化合物のみから形成されたポリマーを完全に除去した。30分間風乾後、70℃において2時間乾燥処理を行うことで、成形用材料であるペレットが得られた。
【0329】
(合成例2−2)
照射電子流を4.3mAに変更した以外は合成例2−1と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。このときの吸収線量は75kGy/passであった。
【0330】
(合成例3−1)
樹脂材料であるZEON社の熱可塑性樹脂COPペレット(φ2mm×4mm)5gをシート状の容器に入れ、該容器を減圧脱気した。窒素ガスで20分間バブリングして脱酸素処理したSTAモノマーを、当該シート状容器に2cc注入した。70℃において30分間COPペレットをSTAモノマーに浸漬した後、さらにFAモノマーを1.5cc注入した。その後、25℃、酸素不在下において、低エネルギー電子加速器を用いて、ペレットの表面に低エネルギー電子線を照射した。照射条件は、加速電圧250kV、照射電子流1.2mA、コンベア速度10m/分、試料−照射窓間距離100mmとした。シート状容器の両面から低エネルギー電子線を各1pass照射し、同時グラフト反応させた。このときの吸収線量は、20kGy/passであった。照射後、70℃においてさらに16時間反応させることで、未反応モノマーを用いたグラフト反応(後グラフト反応)を行った(2段階のシーケンシャル・グラフト重合反応)。反応後、当該容器からペレットを大気に暴露して取り出し、アセトンとHFE7200(3M製)とを用いて、ペレットを洗浄し、グラフト用化合物のみから形成されたポリマーを完全に除去した。30分間風乾後、70℃において2時間乾燥処理を行うことで、成形用材料であるペレットが得られた。
【0331】
(合成例4−1)
樹脂材料であるZEON社の熱可塑性樹脂COPペレット(φ2mm×4mm)5gをシート状の容器に入れ、該容器を減圧脱気した。STAモノマーを、当該シート状容器に2cc注入し、70℃で、30分間COPペレットをSTAモノマーに浸漬した。その後、25℃、酸素不在下において、低エネルギー電子加速器を用いてペレットに低エネルギー電子線を照射した。照射条件は、加速電圧250kV、照射電子流1.2mA、コンベア速度10m/分、試料−照射窓間距離100mmとした。シート状容器の両面から低エネルギー電子線を各1pass照射した。このときの吸収線量は、それぞれ20kGy/passであった。照射後、窒素ガスで20分間バブリングして脱酸素処理したFAモノマーを、当該シート状容器に1.5cc注入した。その後、70℃にて、16時間反応させることで、グラフト反応(後グラフト反応)を行った。反応後、当該容器からペレットを大気に暴露して取り出し、アセトンとHFE7200(3M製)とを用いて、ペレットを洗浄し、グラフト用化合物のみから形成されたポリマーを完全に除去した。30分間風乾後、70℃で2時間乾燥処理を行うことで、成形用材料であるペレットが得られた。
【0332】
(合成例5−1)
樹脂材料であるZEON社の熱可塑性樹脂COPのペレット(φ2mm×4mm)5gを、シクロヘキサン(キシダ化学製):イソプロピルアルコール(関東化学製)=1:9(体積比)に調整した溶液に、16時間浸漬した。その後、当該浸漬されたペレットをシート状の容器に入れ、該容器を減圧脱気した後、25℃、酸素不在下において、低エネルギー電子加速器を用いて、ペレットの表面に低エネルギー電子線を照射した。照射条件は、加速電圧250kV、照射電子流4.3mA、コンベア速度10m/分、試料−照射窓間距離100mmとした。シート状容器の両面から低エネルギー電子線を各1pass照射した。このときの吸収線量は、75kGy/passであった。照射後、窒素ガスで30分間バブリングして脱酸素処理したFAモノマーを、当該シート状容器に2cc注入した。その後、70℃、16時間反応させることで、グラフト反応(後グラフト反応)を行った。反応後、当該容器からペレットを大気に暴露して取り出し、アセトンとHFE7200(3M製)を用いて、ペレットを洗浄し、グラフト用化合物のみから形成されたポリマーを完全に除去した。30分間風乾後、70℃で2時間乾燥処理を行うことで、成形用材料であるペレットが得られた。
【0333】
(合成例5−2)
シクロヘキサンとイソプロピルアルコールとの混合比を2:8(体積比)に変更した以外は、合成例5−1と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0334】
(合成例5−3)
シクロヘキサンとイソプロピルアルコールとの混合比を3:7(体積比)に変更した以外は、合成例5−1と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0335】
(合成例6−1)
樹脂材料であるZEON社の熱可塑性樹脂COPのペレット(φ2mm×4mm)5gを、シクロヘキサン(キシダ化学製):イソプロピルアルコール(関東化学製)=1:9(体積比)に調整した溶液に、16時間浸漬した。その後、当該浸漬されたペレットをシート状の容器に入れ、該容器を減圧脱気した。窒素ガスで30分間バブリングして脱酸素処理されたFAモノマーを、当該シート状容器に2cc注入した。その後、25℃、酸素不在下において、低エネルギー電子加速器を用いてペレットの表面に低エネルギー電子線を照射した。照射条件は、加速電圧250kV、照射電子流4.3mA、コンベア速度10m/分、試料−照射窓間距離100mmとした。シート状容器の両面から低エネルギー電子線を各1pass照射し、グラフト反応を行った(同時グラフト反応)。このときの吸収線量は、75kGy/passであった。照射後、恒温槽に当該容器を入れて、70℃でさらに8時間反応させることで、未反応モノマーを用いたグラフト反応(後グラフト反応)を行った(2段階のシーケンシャル・グラフト重合反応)。反応後、当該容器からペレットを大気に暴露して取り出し、アセトンとHFE7200(3M)とを用いて、ペレットを洗浄し、グラフト用化合物のみから形成されたポリマーを完全に除去した。30分間風乾後、70℃で2時間乾燥処理を行うことで、成形用材料であるペレットが得られた。
【0336】
(合成例6−2)
シクロヘキサンとイソプロピルアルコールとの混合比を2:8(体積比)に変更した以外は、合成例6−1と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0337】
(合成例6−3)
シクロヘキサンとイソプロピルアルコールとの混合比を3:7(体積比)に変更した以外は、合成例6−2と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0338】
(合成例7−1−1)
本合成例では、樹脂材料として日本ポリエチレン社の直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いた。上記ポリエチレンの粒状の試料(ペレット、2mm×2mm×2mm)5gをシート状の容器に入れて、容器を減圧脱気した。STAモノマーおよびFAモノマーを重量比1:1で混合し、窒素ガスで30分間バブリングして脱酸素処理した。当該モノマー試薬を、当該シート状容器に2cc注入し、ポリエチレンを該試薬に浸漬した後、25℃、酸素不在下において、低エネルギー電子加速器を用いて上記ポリエチレンに低エネルギー電子線を照射した。照射条件は、加速電圧250kV、照射電子流1.2mA、コンベア速度10m/分、試料−照射窓間距離100mmとした。シート状容器の両面から電子線を各1pass照射し、同時グラフト反応させた。このときの吸収線量は、それぞれ20kGy/passであった。
【0339】
その後、当該容器からペレットを取り出し、テトラヒドロフラン(関東化学製)、アセトンおよびHFE7200(3M製)を用いて、ペレットを洗浄し、グラフト用化合物のみから形成されたポリマーを完全に除去した。洗浄後のペレットを20分間風乾後、70℃で1時間乾燥処理を行うことで、成形用材料であるペレットが得られた。
【0340】
(合成例7−1−2〜7−1−3)
電子線照射後の容器を恒温槽に入れて加熱し、未反応モノマーを用いたグラフト反応(後グラフト反応)を行った(2段階のシーケンシャル・グラフト重合反応)以外は、合成例7−1−1と同様に行い、成形用材料であるペレットを得た。後グラフト反応の重合温度および重合時間については、表2および表5のとおりである。
【0341】
(合成例7−2−1)
コンベア速度を20m/分に変更し、吸収線量を10kGy/passとした以外は、合成例7−1−1と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0342】
(合成例7−2−2〜合成例7−2−3)
コンベア速度を20m/分に変更し、吸収線量を10kGy/passとした以外は、合成例7−1−2および合成例7−1−3と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。後グラフト反応の重合温度および重合時間については、表2および5のとおりである。
【0343】
(合成例7−3−1)
LLDPEに代えて低密度ポリエチレン(LDPE)を用いた以外は、合成例7−1−1と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0344】
(合成例7−3−2〜合成例7−3−4)
LLDPEに代えてLDPEを用いた以外は、合成例7−1−2と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。後グラフト反応の重合温度および重合時間については、表2のとおりである。
【0345】
(合成例7−4−1)
コンベア速度を20m/分に変更し、吸収線量を10kGy/passとした以外は、合成例7−3−1と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0346】
(合成例7−4−2〜合成例7−4−4)
コンベア速度を20m/分に変更し、吸収線量を10kGy/passとした以外は、合成例7−3−2と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。後グラフト反応の重合温度および重合時間については、表2のとおりである。
【0347】
(合成例7−5−1)
LLDPEに代えて高密度ポリエチレン(HDPE)を用いた以外は、合成例7−2−1と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0348】
(合成例7−5−2〜合成例7−5−3)
LLDPEに代えてHDPEを用いた以外は、合成例7−2−2と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。後グラフト反応の重合温度および重合時間については、表2のとおりである。
【0349】
(合成例8−1−1)
樹脂材料としてのLLDPEを用いた。上記ポリエチレンの粒状の試料(2mm×2mm×2mm)5gをシート状の容器に入れ、該容器を減圧脱気した。その後、25℃、酸素不在下において、低エネルギー電子加速器を用いて、ポリエチレンに低エネルギー電子線を照射した。照射条件は、加速電圧250kV、照射電子流1.2mA、コンベア速度10m/分、試料−照射窓間距離100mmとした。シート状容器の両面から電子線を各1pass照射した。このときの吸収線量は、20kGy/passであった。
【0350】
STAモノマーおよびFAモノマーを重量比1:1で混合し、窒素ガスで30分間バブリングして脱酸素処理した。当該モノマー試薬を、電子線の照射後のシート状容器に2cc注入し、粒状のポリエチレンを浸漬した。
【0351】
その後、当該容器からペレットを取り出し、テトラヒドロフラン(関東化学製)、アセトンおよびHFE7200(3M)を用いて、ペレットを洗浄し、グラフト用化合物のみから形成されたポリマーを完全に除去した。洗浄後のペレットを20分間風乾後、70℃で1時間乾燥処理を行うことで、成形用材料であるペレットが得られた。
【0352】
(合成例8−1−2〜合成例8−1−3)
電子線照射後の容器を加熱することで、後グラフト反応を行う以外は、合成例8−1−1と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。後グラフト反応の重合温度および重合時間については、表2のとおりである。
【0353】
(合成例8−2−1)
コンベア速度を20m/分に変更し、吸収線量を10kGy/passとした以外は、合成例8−1−1と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0354】
(合成例8−2−2)
コンベア速度を20m/分に変更し、吸収線量を10kGy/passとした以外は、合成例8−1−2と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。後グラフト反応の重合温度および重合時間については、表2のとおりである。
【0355】
(合成例8−3−1)
LLDPEに代えてLDPEを用いた以外は、合成例8−1−1と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0356】
(合成例8−3−2)
LLDPEに代えてLDPEを用いた以外は、合成例8−1−2と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。後グラフト反応の重合温度および重合時間については、表2のとおりである。
【0357】
(合成例8−4−1)
コンベア速度を20m/分に変更し、吸収線量を10kGy/passとした以外は、合成例8−3−1と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0358】
(合成例8−4−2)
コンベア速度を20m/分に変更し、吸収線量を10kGy/passとした以外は、合成例8−3−2と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。後グラフト反応の重合温度および重合時間については、表2のとおりである。
【0359】
(合成例8−5−1)
LLDPEに代えてHDPEを用いた以外は、合成例8−2−1と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0360】
(合成例8−5−2〜合成例8−5−3)
LLDPEに代えてHDPEを用いた以外は、合成例8−2−2と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。後グラフト反応の重合温度および重合時間については、表2のとおりである。
【0361】
(合成例9−1)
STAモノマーおよびFAモノマーに代えて、STAモノマーのみを使用する以外は合成例7−1−2と同様に行い、ペレットを得た。後グラフト反応において、反応温度は60℃、反応時間は16時間とした。
【0362】
(合成例10−1)
樹脂材料としてLLDPEに代えてCOPを用いた以外は、合成例9−1と同様に行い、ペレットを得た。
【0363】
(合成例11−1−1)
STAモノマーおよびFAモノマーに代えて、1−ヘキセンおよびパーフルオロヘキシルエチレン(CF3CF2CF2CF2CF2CF2CH=CH2)を用いた以外は合成例1−1と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0364】
(合成例11−1−2)
STAモノマーおよびFAモノマーに代えて、1−ヘキセンおよびパーフルオロヘキシルエチレンを用いた以外は、合成例1−2と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0365】
(合成例11−1−3)
STAモノマーおよびFAモノマーに代えて、1−ヘキセンおよびパーフルオロヘキシルエチレンを用い、低エネルギー電子線を2pass照射した以外は、合成例1−2と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0366】
(合成例12−1−1)
STAモノマーおよびFAモノマーに代えて、1−ヘキセンおよびパーフルオロヘキシルエチレンを用い、同時グラフト反応における低エネルギー電子線の照射を4Passとする一方で、低エネルギー電子線の照射後、70℃において16時間反応させないこと(すなわち、後グラフト反応を行わない)以外は合成例1−2と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0367】
(合成例12−1−2)
STAモノマーおよびFAモノマーに代えて、1−ヘキセンおよびパーフルオロヘキシルエチレンを用い、低エネルギー電子線を4Pass照射した以外は合成例1−2と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0368】
(合成例13−1−1)
STAモノマーおよびFAモノマーに代えて、1−ヘキセンおよびパーフルオロヘキシルエチレンを用い、同時グラフト反応における低エネルギー電子線の照射を6Passとする一方で、低エネルギー電子線の照射後、70℃において16時間反応させないこと(すなわち、後グラフト反応を行わないこと)以外は合成例1−2と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0369】
(合成例13−1−2)
STAモノマーおよびFAモノマーに代えて、1−ヘキセンおよびパーフルオロヘキシルエチレンを用い、低エネルギー電子線を6Pass照射した以外は合成例1−2と同様に行い、成形用材料であるペレットが得られた。
【0370】
(成形方法A)
合成例で得られた成形用改質原料ペレットを、0.35g秤取し、4cm×2cmをくり抜いた厚さ100μmのPTFEシート枠内に入れた。これをシリコンウェハの上にPTFEシートを敷いたもので挟み、1kgの加重をかけて5分間260℃で加熱し、成形シートを成形した。
【0371】
(成形方法B)
合成例で得られたペレットを、以下の条件でメルトフローレイト(MFR)装置を用いて加熱した後、吐出させて直径4mmのストランドを形成した。2回MFR装置を通したストランド2gを実施例A1−1と同様に1kgの荷重をかけて260℃で5分間加熱し、成形シートを成形した。
(MFRの条件)
MFRは、TOYOSEIKI社製(Melt Indexer G-01)を用い、ペレット約3gを5kgの加重のもとで成形温度190℃に保たれたシリンダーに投入して行った。
【0372】
(実施例A1−1〜実施例A8−5−3)
合成例1−1〜合成例8−5−3のそれぞれで得られたペレットを用いて、成形方法Aに基づいて成形シートをそれぞれ成形した。
【0373】
(実施例A9−1−1〜実施例A9−1−2)
合成例11−1−1〜合成例11−1−2のそれぞれで得られたペレットを用いて、成形方法Aに基づいて成形シートをそれぞれ成形した。
【0374】
(実施例B1−1、B2−1、B3−1、B7−1−1〜B7−2−2)
合成例1−1、合成例2−1、合成例3−1、合成例7−1−1〜7−2−2のそれぞれで得られたペレットを用いて、成形方法Bに基づいて成形シートをそれぞれ成形した。
【0375】
(実施例B11−1−1〜B11−1−3、B12−1−1〜B12−1−2、B13−1−1〜B13−1−2)
合成例11−1−1〜11−1−3、12−1−1〜12−1−2、13−1−1〜13−1−2のそれぞれで得られたペレットを用いて、成形方法Bに基づいて成形シートを成形した。
【0376】
(比較例B9−1)
合成例9−1で得られたペレットを用いて、成形方法Bに基づいて成形用シートを成形した。得られた成形シートを、ガラス転移温度よりも3℃低い温度(90℃)に設定した加熱オーブンにて、1時間加熱した。
【0377】
(比較例B10−1)
合成例10−1で得られたペレットを用いて、成形方法Bに基づいて成形用シートを成形した。得られた成形シートをガラス転移温度よりも3℃低い温度(90℃)に設定した加熱オーブンにて1時間加熱した。
【0378】
(接触角の測定)
実施例および比較例で成形された成形シートにn−ヘキサデカンを滴下し、接触角を測定した。接触角の測定は、接触角測定装置(協和界面科学社製)を用いて、n−ヘキサデカン2μLにて25℃環境下で実施した。測定結果を表1〜6にそれぞれ示す。
【0379】
(グラフト率の測定)
グラフト率(Dg)は、グラフト重合反応前の樹脂材料とグラフト重合反応後の樹脂材料との重量変化を測定し、下記式により算出して求めた。
グラフト率:Dg[%]=(W−W)/W×100
[式中、Wは、グラフト重合前の樹脂材料の重量であり、Wは、グラフト重合後の樹脂材料の重量である。]
【0380】
(共グラフト質量比の測定)
共グラフト質量比(含フッ素化合物に由来する構成単位の質量比:非フッ素化合物に由来する構成単位の質量比)は、以下のように求めた。
含フッ素化合物に由来する構成単位の質量比=(含フッ素化合物のグラフト率/Dg)×100
非フッ素化合物に由来する構成単位の質量比=(非フッ素化合物のグラフト率/Dg)×100
【0381】
上記含フッ素化合物のグラフト率は、酸素フラスコ燃焼法と、イオン選択性電極法で求めた。
【0382】
フラスコ燃焼法は、以下のように行った。容積500mLの硬質ガラス製の燃焼フラスコを用いた。試料を包む紙は、JIS 5A、直径110mmの濾紙を扇形に八等分し、また半径の中点を結ぶ線より中心側を導火線部を残して取り除いたものであり、重量は約0.1gであった。次に、フラスコに約50mLの吸収液を入れ、溶離液と同じ組成とし、燃焼ガス吸収後のふっ素濃度が約9mg/Lとなるように液量を調節した。次に、500〜700μgの試料を濾紙で包み、フラスコ内を酸素で置換した後に燃焼し、フラスコを約5秒間震盪してから吸収液を採取した。
【0383】
上記非フッ素化合物のグラフト率は、上記グラフト率(Dg)を含フッ素化合物のグラフト率および非フッ素化合物のグラフト率の合計値として、差分により求めた。
【0384】
(ソルベントクラック耐久性)
ソルベントクラック耐久性は、限界応力の値が大きいほど溶媒に対する耐久性が良好であると判断した。
【0385】
限界応力は、以下の方法により求めた。まず、断面が板状の試験用サンプル(10cm×1cm×厚み0.1cm)を用意した。また、上記金属治具としては、X軸方向の長さx1が10.0cm、Y軸方向の長さy1が4.0cm、Z軸方向の長さz1が1.0cmのものを用いた。上記金属治具に、上記サンプルを、金属治具の曲面(金属治具の曲率が連続的に変化する曲面)の曲率に沿わせた状態で、固定部材3を用いて固定した。なお、固定後のサンプルのZ軸方向の幅(z2)は、0.6cmであった。上記サンプルを固定した金属治具を、25℃に保った試験用の溶媒(ワセリン)に浸漬した。溶媒中に浸漬した状態で、上記金属治具を、1時間静置した。クラック発生点1(x=x2)における歪みεを、以下の式により求めた。なお、クラックの確認は、目視により行った。
ε=[0.02×(1−0.0084×(x2)−3/2]×t
[式中、tは、試験前のサンプルの厚み(0.1cm)]
上記式で得られた歪みε、およびフィルムの曲げ弾性率Eを用いて、x=x2における応力σを、以下の式により算出した。
σ(kgf/cm)=E×ε
ここで、Eとしては、COPの曲げ弾性率E=2500MPaを用いた。
【0386】
(耐熱性評価)
耐熱性の評価は、以下のように熱重量測定の測定結果から耐熱指標(%)を算出し、得られた耐熱指標が99%以上であれば、良好な耐熱性を有する(評価A)、99%未満であれば、耐熱性が良好でない(評価B)と評価した。
【0387】
まず、熱重量測定用のサンプルを準備した。熱重量測定前のサンプルの重量を測定し、この測定値をM0とした。
上記サンプルを、示差熱熱重量同時測定装置TG/DTA7200(株式会社日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、空気雰囲気下で以下のように昇温した。
・樹脂材料がPEの場合、25℃から600℃まで10℃/分の速度で昇温した。この場合、230℃時点での重量をM1とした。
・樹脂材料がCOPの場合、25℃から600℃まで10℃/分の速度で昇温した。この場合、290℃時点での重量をM1とした。
耐熱指標[%]=100−100×(M0−M1)/M0
【0388】
各物性の評価結果を、表1〜6に示す。表中「−」は測定していないことを示す。
【0389】
【表1】
*:含フッ素化合物に由来する構成単位と非フッ素化合物に由来する構成単位との共グラフト質量比。
【0390】
【表2】
【0391】
上記表2において「−」は、後グラフト反応を行っていないことを示す。
【0392】
【表3】
*:含フッ素化合物に由来する構成単位と非フッ素化合物に由来する構成単位との共グラフト質量比。
【0393】
【表4】
【0394】
【表5】
【0395】
上記表5において「−」は、後グラフト反応を行っていないことを示す。
【0396】
【表6】
*:含フッ素化合物に由来する構成単位と非フッ素化合物に由来する構成単位との共グラフト質量比。
【0397】
上記表6において「後グラフト反応の重合温度/重合時間」欄の「−」は、後グラフト反応を行っていないことを示し、「共グラフト質量比」欄の「−」は、測定していないことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0398】
本発明の方法は、撥油性、撥水性等が要求される種々の樹脂成形体に、例えば、医療用シリンジバレル、バイアル瓶、コンタクトモールド、携帯端末用の表面保護フィルム、有機ELのカバーガラスまたは有機ELの等方性フィルムでの水蒸気バリア性アウトセル部材、ナノインプリント用離型モールド部材、生活関連での容器包装部材、浴室内での排水溝部材、合成化学素材からなる衣類の糸素材等の製造に用いることができる。また、本発明の方法は、撥油性、撥水性が求められる樹脂成形体のみならず、滑り性や離型耐久性が求められる樹脂成形体、例えば時計バンドや表示素子などの表面部材などの製造に用いることができる。そのほか、家庭用品、文房具、内装資材、玩具、遊具、サニタリー用品、医療用品などとして使用でき、さらに表面エネルギーが低い樹脂成形体を製造することができることから、建築物側壁や屋根などに貼り付ける撥水性被膜としての樹脂成形体の製造、港湾施設や船舶、建築物側壁や屋根などの既存構造物への塗布による撥水性皮膜の付与にも用いることができる。
【符号の説明】
【0399】
1:クラック発生点
2:試験用サンプル
3:固定部材
図1