特許第6875843号(P6875843)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6875843
(24)【登録日】2021年4月27日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】豆乳ゲル化食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/00 20210101AFI20210517BHJP
【FI】
   A23L11/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-241449(P2016-241449)
(22)【出願日】2016年12月13日
(65)【公開番号】特開2018-93787(P2018-93787A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】青木 栄里子
【審査官】 楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3140578(JP,U)
【文献】 特開2013−031438(JP,A)
【文献】 特開2004−298152(JP,A)
【文献】 特開2000−228961(JP,A)
【文献】 特開昭59−014757(JP,A)
【文献】 特開2002−360182(JP,A)
【文献】 特開平02−238868(JP,A)
【文献】 特開2016−119867(JP,A)
【文献】 特開2016−002010(JP,A)
【文献】 特開2002−034488(JP,A)
【文献】 特開2001−161301(JP,A)
【文献】 特開2002−095433(JP,A)
【文献】 特開2007−135490(JP,A)
【文献】 特開2005−245221(JP,A)
【文献】 "塩マグが豆乳を固める理由 | にがり屋の塩マグ日誌"、[online],2012年 6月 4日,[2020年07月30日検索]、インターネット< URL :http://www.navio.ne.jp/navio/22512.html>
【文献】 中澤芳則 等,"豆乳製造条件と豆乳のBrix値の関係"、[online],研究発表会 発表要旨,農研機構,2006年 8月,第69回
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Brixが4.5以上である豆乳、澱粉、熱凝固性タンパク質を含む豆乳組成物を、60〜200℃で熱処理する工程を含む、豆乳ゲル化食品の製造方法であって、
前記豆乳100質量部に対して、澱粉が20〜45質量部、熱凝固性タンパク質が0.5質量部以上であり、
前記熱凝固性タンパク質が乾燥卵白であり、
豆乳ゲル化食品の応力比が30.5〜51.9であって、
前記応力比は、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社製のTA−XT plus)を用いて豆乳ゲル化食品を厚さ70%になるまで圧縮し、圧縮した時点の応力(A)と60秒間圧縮し続けた時点の応力(B)とした時の(B)/(A)であり、
但し、豆乳ゲル化食品がカゼインまたはその塩を含む場合を除く、
前記方法。
【請求項2】
前記豆乳100質量部に対して、熱凝固性タンパク質が0.5〜4質量部である、請求項1の製造方法。
【請求項3】
豆乳組成物がさらに消泡剤、増粘多糖類及び凝固剤から選択される1以上を含む、請求項1又は2の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法により製造した豆乳ゲル化食品をさらに乾燥する工程を含む乾燥豆乳ゲル化食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆乳ゲル化食品およびその製造方法に関する。詳細には、Brixが4.5以上である豆乳、澱粉、熱凝固性タンパク質を含む豆乳組成物を、60〜200℃で熱処理する工程を含む、豆乳ゲル化食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
豆乳には大豆由来の様々な健康機能成分が含まれており、近年の健康志向を受けてその食品又は食品中間原料としての価値が見直されている。その様な健康機能成分として、肥満予防や動脈硬化防止に有効であるとされる大豆タンパク質、骨粗鬆症や更年期障害に有効な女性ホルモン(エストロゲン)様作用を示すイソフラボン、脳の老化予防や血中コレステロールの低減に役立つ大豆レシチン、抗酸化作用による老化と動脈硬化の防止やガン増殖抑制に有効な大豆サポニン、ビフィズス菌増殖を活性化して整腸作用を促すオリゴ糖(スタキオース、ラフィノース)、その他フィチン酸、ビタミンB群、ビタミンE、カリウム、マグネシウム、必須脂肪酸などが挙げられる(日本豆乳協会HPよりhttp://www.tounyu.jp/about03.html)。
豆乳は、古来より豆腐や高野豆腐(凍り豆腐、凍(し)み豆腐とも言われる)、湯葉等のゲル化食品に加工されてきた。近年では豆乳を乳酸発酵させた豆乳ヨーグルトといった半固体状のゾル状食品、コンニャクに豆乳を練りこんだ豆乳コンニャク麺や豆腐を主原料とした豆腐麺などのゲル化食品が提案されている。また、小麦粉等を含有する穀粉組成物に水の変わりに豆乳を添加して生地を得て、定法に基づいて麺線に成形する豆乳含有穀粉麺も提案されている。
例えば、特許文献1は、豆乳、苦汁等の凝固剤、植物油、液体卵白もしくは乾燥卵白、澱粉、その他成分を混合、焼成して得られる豆乳ブレンド卵焼き様食品が開示されている。これは、豆乳の塩凝固と蛋白質の熱凝固を利用した卵焼き様の豆乳ゲル化食品に関する物である。
特許文献2には蛋白成分の主体が小麦蛋白以外の蛋白である蛋白を主原料とする原料にトランスグルタミナーゼを添加することを特徴とする新規な麺類の製造方法が開示されている。特許文献2では主原料蛋白として大豆蛋白、豆乳、大豆カードを、副原料として澱粉類、小麦蛋白、乳蛋白、卵白などの各種蛋白類、増粘多糖類等を使用し、トランスグルタミナーゼによる蛋白中のグルタミン残基とリジン残基との間で生じる架橋反応を豆乳凝固物に作用させることにより製造した麺様食品に関するものである。
特許文献3には豆乳及び/又は豆腐磨砕物、ゲル化剤及び水からなり、ゲル化剤がジェランガムを必須成分とする2種以上である原料混合物を調製し、75℃以上に昇温させて2価の金属塩を添加して得られるゲル状物が開示されている。これはジェランガムのゲル化と豆乳の塩凝固を併用したゲル状物に関するものである。
特許文献4には加熱した豆乳に、微粉砕した水煮大豆を加えて混合し、酸及び/又は塩凝固剤を添加して凝固豆乳を得て、この凝固豆腐を不織布で覆った状態で加圧脱水して、シート状に凝縮成形して得られる豆乳シートが開示されている。これは水分の少ない豆乳凝固物、いわゆる固い豆腐に関する物であり、加える水煮大豆の量を20〜30質量%にすることで、従来の干し豆腐にないサクサクするような良好な食感が得られることが記載されている。
特許文献5には特定の物性を有する豆腐ピューレを含有する麺類が開示されている。この発明に使用されている豆腐ピューレは、豆乳を酸又は塩凝固剤でゲル化した豆腐をピューレに加工したものであり、これを通常麺類に使用される製麺原料に添加して製造することにより得た豆腐ピューレ含有麺類である。
特許文献6には小麦粉に、練り水の代わりに豆乳及び/又は豆水を使用して製麺したパスタが開示されており、豆乳及び/又は豆水を練り水として使用することで、普通の小麦粉で製麺したパスタを改質することができることが開示されている。
特許文献7には豆乳、豆乳処理物、またはペースト状の豆腐に澱粉、多糖類及び蛋白質類を含む糊料を添加混合した混合物を、10〜80℃に保持された凝固液に吐出して麺線状に加熱凝固成形された麺状豆腐の製造方法が開示されている。この製造方法により豆腐の食感を維持しつつ、加熱調理などにより容易に切れない麺状豆腐が得られることが開示されている。
特許文献8には、水で膨潤させたコンニャク粉に豆乳と必要に応じて豆腐用凝固剤とを加え、コンニャク糊用ゲル化剤を加えてゲル化させた豆乳含有コンニャク様ゲル化食品が開示されている。この発明は、コンニャク独特の特異臭を低減し、滑らかで口当たりのよい食感を有するコンニャクを提供するものである。
上記のように豆乳を原料とする様々なゲル化食品が提案されているものの、豆乳を主原料とした、パスタ等の麺類様の弾力と粘りのある食感(以下、単に「粘弾性」とも称する)を有する、豆乳ゲル化食品はこれまで提供されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平02−238868
【特許文献2】特開平09−154512
【特許文献3】特開平10−304839
【特許文献4】特開平11−206332
【特許文献5】特開2000−316506
【特許文献6】特開2004−16039
【特許文献7】特開2008−263906
【特許文献8】特開平07−155119
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
豆乳を主原料とした、パスタ等の麺類様の弾力と粘りのある食感を有する、豆乳ゲル化食品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記課題を解決する為鋭意研究を重ねた結果、Brixが4.5以上である豆乳、澱粉及び熱凝固性タンパク質を含む豆乳組成物を、60〜200℃の熱処理することにより、豆乳を主体配合としても、豆腐の様な柔らかくて脆い物性や、湯葉の様な弾力がなくて歯応えの強い物性にならず、喫食時にパスタ等の麺類様の弾力と粘りのある食感を与えることができる豆乳ゲル化食品を提供することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]Brixが4.5以上である豆乳、澱粉、熱凝固性タンパク質を含む豆乳組成物を、60〜200℃で熱処理する工程を含む、豆乳ゲル化食品の製造方法。
[2]豆乳組成物がさらに消泡剤、増粘多糖類及び凝固剤から選択される1以上を含む、前記[1]に記載の製造方法。
[3]前記[1]又は[2]に記載の方法により製造した豆乳ゲル化食品をさらに乾燥する工程を含む乾燥豆乳ゲル化食品の製造方法。
[4]前記[1]又は[2]に記載の方法により製造した豆乳ゲル化食品。
[5]前記[3]に記載の方法により製造した乾燥豆乳ゲル化食品。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、パスタ等の麺類様の弾力と粘りのある食感を有する、豆乳ゲル化食品を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明において「豆乳ゲル化食品」とは豆乳を非動化(ゲル化)した食品をいう。
【0008】
本発明の「豆乳ゲル化食品の製造方法」は豆乳、澱粉、熱凝固性タンパク質を含む豆乳組成物を、60〜200℃で熱処理する工程を含む。熱処理温度の下限は使用する澱粉の糊化ピーク温度又は熱凝固性タンパク質の凝固温度であり、使用する澱粉や熱凝固性タンパク質によって変動する。例えば、糊化ピーク温度の異なる澱粉の混合物であれば、糊化ピーク温度が最も低い澱粉の糊化ピーク温度を下限とすることができる。熱凝固性タンパク質の複合体、例えば卵白であれば、75℃程度で卵白全体が熱凝固するが、卵白の構成成分であるトランスフェリンは60℃程度で熱凝固するため、熱凝固温度の下限を60℃とすることができる。
熱処理温度の下限は好ましくは70℃、より好ましくは90℃である。熱処理温度の上限は好ましくは190℃、より好ましくは170℃である。
熱処理温度が澱粉の糊化ピーク温度未満且つ熱凝固性タンパク質の凝固温度未満である60℃未満になると、ゲル化しない。熱処理温度が200℃を超えると、豆乳ゲル化食品の表面にコゲが生じるので好ましくない。
加熱時間は、澱粉及び熱凝固性タンパク質を添加した豆乳のゲル化が完了するだけの時間でよく、加熱温度によっても変動するが、例えば5〜60分間である。加熱手段については、公知の熱処理方法であれば何れも適用することができ、空気を介して加熱する乾熱処理、水分を介して加熱する湿熱処理、電磁波等のエネルギーが対象物内で熱エネルギーに転換される転換熱処理が上げられ、それらを組み合わせて熱処理することもできる。このような熱処理を行える装置としては、デッキオーブン、スチームオーブン、コンベクションオーブン、電子レンジ、炊飯器、オートクレーブ等が挙げられる。このような熱処理は、常圧、減圧、加圧条件下で行うこともできる。
【0009】
本発明において「豆乳組成物」とはBrixが4.5以上である豆乳、澱粉、熱凝固性タンパク質を含み、豆乳を主成分とする組成物をいい、具体的には豆乳を50質量%以上含む組成物をいう。
【0010】
本発明において「豆乳」は大豆又は大豆粉砕物の何れを原料として調製してもよい。豆乳を大豆から調製する場合、十分に浸漬させた大豆に4〜6倍容量の水を加えて湿式粉砕し、必要に応じて均質化処理して生呉とし、そのままおからを絞り取って、又は、数分程度焦げないように攪拌しながら煮沸した後におからを絞り取って調製することができる。豆乳を大豆粉砕物から調製する場合、大豆粉砕物に5〜8倍容量の水を加え1〜2時間放置してからおからを絞り取って、又は、数分程度焦げないように攪拌しながら煮沸した後おからを絞り取って調製することができる。この様にして調製される豆乳は、市販の豆乳も含め何れも本発明の原料として使用することができる。
豆乳のBrixは4.5以上である。好ましくはBrix5〜20 、より好ましくはBrix8〜16、さらに好ましくはBrix9〜14 であることが望ましい。豆乳のBrixが4.5未満でもゲル化食品を得ることができるが、豆乳の風味が弱くなる傾向にある。豆乳のBrixが20を超えると、固形分の凝集が生じて食感を損なう恐れがある。なお、豆乳のBrixは、糖用屈折計(例えば株式会社アタゴ社製 MASTER 53T Brix0.0−53.0%)を用いて簡易的に測定することができる。日本農林規格によれば、豆乳の大豆固形分は8%以上と定義されているが、これに限定されるものではない。なお、豆乳の大豆固形分と豆乳のBrix(豆乳の糖用屈折計示度)との関係式は「大豆固形分=Brix×0.93」である。Brixが低い場合には、例えば特開平09−248128や特開2006−136298等に記載されている濃縮方法及び公知の濃縮方法により所望のBrixに調製することができる。また豆乳のBrixが高い場合には、水で希釈することにより所望のBrixに調製することができる。
【0011】
本発明において「澱粉」は未変性澱粉と変性澱粉の区別なく何れも好適に使用できる。未変性澱粉としては、地下系澱粉及び地上系澱粉何れも使用できる。好ましくはタピオカ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉を例として挙げることができる。
変性澱粉(加工澱粉とも称される)とは、化学反応により澱粉を変性させた化学変性澱粉、物理反応により澱粉を変性させた物理変性澱粉及び酵素反応により澱粉を変性させた酵素変性澱粉が含まれる。
本発明では、何れの変性澱粉でも使用可能であるが、より好ましくは化学変性澱粉を使用する。化学変性澱粉としては、エーテル化(ヒドロキシプロピル化)、エステル化(リン酸化、アセチル化、アジピン酸化、オクテニルコハク酸化、酢酸化)、架橋(リン酸架橋、アジピン酸架橋)、酸化等を単独又は組み合わせて化学変性させた澱粉が挙げられる。より詳細には、前記で例示した未変性澱粉をアセチル化、アセチル化リン酸架橋、アセチル化アジピン酸架橋、ヒドロキシプロピル化、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋、リン酸架橋、酸化等の化学反応処理させた食品に利用可能な化学変性澱粉であれば、何れも好適に使用することができる。
【0012】
澱粉の添加量は、豆乳100質量部に対して5質量部以上が好ましい。パスタ等の麺類様の弾力と粘りのある食感を得るには5〜75質量部がより好ましく、さらに好ましくは10〜45質量部である。5質量部未満では、ゲル化の程度が低くなる傾向にあり、得られた豆乳ゲル化食品についてそのまま乾燥工程を行うと粘弾性が少なく硬い食感になる傾向にある。45質量部を超えると、添加量に依存して豆乳ゲル化食品がモチモチ感の強い食感になるが、この食感は豆乳ゲル化食品として不適なものではない。
【0013】
本発明において「熱凝固性タンパク質」とは、加熱することにより不可逆的にゲル化する水溶性のタンパク質のことであり、代表的なものとして動植物由来のアルブミン類、グロブリン類、トランスフェリン類等が挙げられる。熱凝固性タンパク質を含有するタンパク質素材としては卵白タンパク質、卵黄タンパク質、乳タンパク質、蓄肉タンパク質、魚肉タンパク質等の動物性タンパク質、大豆タンパク質、エンドウ豆タンパク質、小麦タンパク質等の植物性タンパク質が挙げられる。本発明の熱凝固性タンパク質としては、アルブミン等の精製タンパク質、これらを含有するタンパク質素材及び食品素材を使用することができる。好適に使用できるのは鳥類卵白であり、割卵して卵黄を分離除去した生卵白、それを凍結処理した凍結卵白、乾燥処理した乾燥卵白及びそれらの粉末である。
【0014】
熱凝固性タンパク質の添加量は熱凝固性タンパク質の種類によって適宜調整可能である。熱凝固性タンパク質が鶏卵白の場合、その添加量は豆乳100質量部に対して0.5質量部を超えることが好ましい。パスタ等の麺類様の弾力と粘りのある食感を得るには0.7〜15質量部が好ましく、より好ましくは1.5〜7.0質量部である。7.0質量部を超えると、添加量に依存して豆乳ゲル化食品の粘弾性が強くなる傾向にあり、歯切れ感が発現するが、豆乳ゲル化食品として不適なものではない。なお、歯切れ感とは例えば寒天の様な食感のことである。
【0015】
本発明において豆乳組成物はさらに「消泡剤」を含むことができる。豆乳は加熱により泡が生じ易く、豆乳ゲル化食品中に泡が形成されると食感が損なわれる傾向にあるため、消泡剤を含むことによりこの問題点を改善することができる。
本発明において消泡剤は、豆腐製造で通常使用される消泡剤であれば特に限定なく使用することができ、例としては油脂系消泡剤、グリセリン脂肪酸エステル、シリコーン樹脂等を挙げることができる。
消泡剤の添加量はその種類によって適宜調整可能であり、豆乳100質量部に対して0.005〜1.5質量部添加することができる。例えばグリセリン脂肪酸エステル(花王社製クレトンワイドLV)であれば豆乳100質量部に対して0.1〜1.0質量部添加することが好ましい。
【0016】
本発明において豆乳組成物はさらに「増粘多糖類」を含むことができる。澱粉及び熱凝固性タンパク質を溶解させた豆乳は流動性が高いため、シート状や薄膜状のような成形する形状によっては豆乳ゲル化食品の厚さにムラ等が生じて品質にばらつきが出やすいため、増粘多糖類を含むことによって粘性を付与し、成形の作業性を改善することができる。
本発明で使用する増粘多糖類は、食品用の増粘多糖類であれば何れも使用可能であり、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、カラギーナン、ペクチン、ジェランガム、タマリンドガム、サイリュームシードガム、ダイユータンガム、タラガム、アルギン酸塩、デキストリン類、セルロース類及びそれらの誘導体等が上げられ、これらの1種以上を添加することができる。
増粘剤の添加量はその種別によって適宜調整可能であり、豆乳100質量部に対して0〜5.0質量部添加することができる。例えばキサンタンガムであれば豆乳100質量部に対して0〜0.8質量部、より好ましくは0.1〜0.6質量部添加することができる。
【0017】
本発明において豆乳組成物はさらに「凝固剤」を含むことができる。
本発明で使用する凝固剤は、塩凝固剤として塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、乳酸カルシウム等の二価カチオン塩又はニガリを、酸凝固剤としてグルコノデルタラクトン(GDL)、乳酸、リンゴ酸、酢酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸等の有機酸を例示することができる。
凝固剤の添加量はその種別によって適宜調整可能であり、豆乳100質量部に対して0〜3.0質量部添加することができる。例えば硫酸カルシウムであれば豆乳100質量部に対して0〜0.8質量部添加することができる。
【0018】
本発明において豆乳組成物はさらにその他の改質剤を含むことができる。
食品に利用される改質剤であれば特に制限なく使用することができる。タンパク質(大豆タンパク質等)、酵素製剤(トランスグルタミナーゼ等)、糖類(単糖、2糖、オリゴ糖、デキストリンなど)、油脂類、乳化油脂類、食物繊維(おからやふすま等の天然繊維質、結晶セルロース等の精製繊維質、難消化性澱粉等の加工繊維質)乳化剤など、必要に応じて豆乳ゲル化食品の品質を損なわない程度で添加することができる。
【0019】
本発明において「乾燥豆乳ゲル化食品」は本発明の豆乳ゲル化食品をさらに乾燥処理した食品をいう。本発明の乾燥豆乳ゲル化食品の製造方法は本発明の豆乳ゲル化食品の製造方法に従って製造した豆乳ゲル化食品をさらに乾燥する工程を含む。
乾燥処理を行い、乾燥豆乳ゲル化食品とすることにより豆乳ゲル化食品の弾力と粘りのある食感を向上させると共に保存性を高めることができる。
乾燥豆乳ゲル化食品は茹で戻しをすることにより、例えば5〜15分間程度沸騰湯浴中でボイルすることにより豆乳ゲル化食品として喫食することができる。
乾燥手段については、公知の乾燥処理手段であれば何れも適用することができ、例えば乾式乾燥、湿式乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等があげられ、前3者は高温、常温、低温で乾燥処理することができる。
豆乳ゲル化食品の乾燥歩留は、17〜70%が好ましく、20〜40%がより好ましく、30%程度が最も好ましい。17%未満にすると茹で戻しに時間が長くなり、70%超になると水分活性が高くなって開放系での保存性が悪くなる。なお、乾燥歩留は、乾燥後の質量/乾燥前の質量×100(%)の式で求めることができる。
【実施例】
【0020】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
[製造例1 豆乳の製造]
(1)洗浄した100質量部の大豆を水に浸漬し、吸水して膨潤した浸漬大豆230質量部を得た。
(2)浸漬大豆100質量部に水500質量を加え、湿式粉砕、次いで均質化して生呉を得た。
(3)生呉を90℃で5分間加熱した後、圧搾ろ過によりオカラを除去して豆乳(固形分8.0質量%)を得た。なお豆乳は、使用するまで冷蔵保管した。
【0021】
[製造例2 シート状豆乳ゲル化食品の製造]
(1)製造例1で得られた豆乳のBrixを12に調整後、消泡剤とともにミキサーに投入して十分に混合した。
(2)熱凝固性タンパク質、澱粉及び増粘多糖類の粉体混合物を更に投入し、ダマがなくなるまで十分に混合して豆乳組成物を得た。泡立ちがある場合には、常温静置又は減圧処理により消泡した。
(3)オーブンシートを敷いた浅底角バットに豆乳組成物を流しいれ、厚さ2〜2.5mmになるように均一に広げた。
(4)均一に広げた豆乳混合液を100℃に熱したデッキオーブン(固定窯)に投入し、100℃で15分間熱処理してシート状豆乳ゲル化食品を得た。
なお各原料の使用量は下記表の配合表に従った。
【表1】
【0022】
なお、製造例2において消泡剤にはグリセリン酸脂肪酸エステル(花王株式会社製のクレトンワイドLV)、熱凝固性タンパク質には乾燥卵白粉末(キユーピータマゴ株式会社製の乾燥卵白)、澱粉にはヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉(松谷化学工業株式会社製の松谷あさがお)、増粘多糖類にはキサンタンガム(三栄源エフ・エフ・アイ社製のビストップD3000)を使用した。
【0023】
[製造例3 乾燥シート状豆乳ゲル化食品の製造]
(1)製造例2で得られたシート状豆乳ゲル化食品を100℃に熱したデッキオーブンに投入し、100℃で60分間熱処理し、反転させて更に100℃で60分間熱処理して乾燥歩留30%の乾燥シート状豆乳ゲル化食品を得た。
【0024】
[評価1 ゲル化性]
製造例2で得られたシート状豆乳ゲル化食品のゲル化性について、熟練のパネラー10名にて下記表2に示す基準で浅底角バットからの取り外し工程、ボイル工程、麺様裁断肯定等の加工作業時における性状を評価した。
【表2】
【0025】
[評価2 官能評価]
製造例2で得られたシート状豆乳ゲル化食品又は製造例3で得られた乾燥シート状豆乳ゲル化食品を10分間沸騰湯浴中でボイルしたものを、麺様に裁断して喫食し、食感、特にパスタ等の麺類様の弾力と粘りのある食感(粘弾性)について熟練のパネラー10名にて下記表3に示す基準で官能評価を行った。官能評価において、市販大豆麺(黄金の大豆麺、グリーンカルチャー株式会社製)及びパスタ(乾燥スパゲッティ1.5mm、オーマイ株式会社製)を指定の要領でボイルしたものを各々3点及び4点とし、基準とした。
【表3】
【0026】
[試験1 豆乳混合液のゲル化温度の検討]
製造例2工程4における豆乳混合液のゲル化温度を表3記載の温度にした以外は製造例2に従ってシート状豆乳ゲル化食品を製造し、評価1(ゲル化性)及び評価2(食感)を評価した。
実施例1では、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉よりも糊化ピーク温度の低いヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉を使用した。
実施例8では、製造例3の乾燥シート状豆乳ゲル化食品を製造して評価した。
【0027】
【表4】
実施例1〜5のシート状豆乳ゲル化食品は、何れもゲル化性が良く、食感も大豆麺と比較して粘弾性に優れたものであった。さらに実施例2〜5のシート状豆乳ゲル化食品ではパスタよりも粘弾性に優れたものであった。実施例6及び7では、粘弾性はパスタと同等であった。加熱温度が180℃以上なるとシート状豆乳ゲル化食品の表面がやや膨化傾向になったが、この膨化は十分に許容できるものであった。実施例8の乾燥シート状豆乳ゲル化食品は、実施例3のシート状豆乳ゲル化食品よりも粘弾性に優れていたため、以降の試験では乾燥シート状豆乳ゲル化食品を使用することとした。比較例1はゲル化が起こらず、比較例2は表面に焦げが生じて食品として不適であったため、食感の評価を行わなかった。
【0028】
[試験2 熱凝固性タンパク質の添加量の検討]
表4記載の質量部の乾燥卵白粉末を添加した以外は製造例2及び製造例3に従って乾燥シート状豆乳ゲル化食品を製造して評価した。
【0029】
【表5】
実施例8〜15のいずれにおいても乾燥卵白を添加することでゲル化性が向上したが、乾燥卵白が4質量部以上になるとゲル化性に大差はなかった。食感について、乾燥卵白が4質量部未満になるとやや粘弾性が低くモチモチ感が強くなる傾向になり、8質量部以上になると粘弾性は良好で歯切れ感が強くなる傾向になった。乾燥卵白の添加量によっては、モチモチ感や歯切れ感などの異なる優れた食感を有する豆乳ゲル化食品が得られることが分かった。卵白粉を添加しない比較例3では、ソフトでべたつきがあるため加工作業性が悪く、求肥様の食感であった。
【0030】
[試験3 未変性澱粉の検討]
製造例2のヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の代わりに表5記載の未変性澱粉を添加した以外は製造例2及び製造例3に従って乾燥シート状豆乳ゲル化食品を製造して評価した。
【0031】
【表6】
実施例16〜21では、何れもゲル化性が良く、食感についても何れもパスタと市販大豆麺との中間の評価が得られ、十分に許容範囲内であった。
なお、タピオカ澱粉には松谷化学工業株式会社の「MKK100」を、馬鈴薯澱粉には松谷化学工業株式会社の「松谷かめ」を、コーン澱粉には三和澱粉工業株式会社の「コーンスターチY」を、ワキシーコーンには松谷化学工業株式会社の「フードスターチW」を、小麦澱粉には松谷化学工業株式会社の「松谷きく」を甘薯澱粉には松谷化学工業株式会社の「こなみずき」を用いた。
【0032】
[試験4 変性澱粉の検討]
製造例2のヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の代わりに表6記載の変性タピオカ澱粉を添加した以外は製造例2及び製造例3に従って乾燥シート状豆乳ゲル化食品を製造して評価した。
【0033】
【表7】
表中のHPとはヒドロキシプロピルの略記である。
この結果から、本発明には化学変性澱粉であればより好適に使用できることが分かった。HP化及び酸化変性は澱粉の吸水性が強くなり粘度が高くなるため、モチモチ感のある食感になる傾向であった。物理変性澱粉であるα化澱粉は、吸水性が強く粘度もより高くなるため、ゲル化性が低く成形性が劣る傾向にあったが、粘弾性に加えてモチモチ感が強い良好な食感であった。
ここで、酸化澱粉とは、次亜塩素酸等の酸化剤で低分子化された化学変性澱粉のことである。アミラーゼ等の澱粉分解酵素で変性した酵素変性澱粉は、酸化澱粉同様に低分子化されるため、酸化澱粉と類似した挙動を示すと考えられる。このことから、本発明には変性澱粉であれば何れも使用することができる。
なお、HP化リン酸架橋タピオカ澱粉には松谷化学工業株式会社の「松谷あさがお」を、アセチル化タピオカ澱粉には松谷化学工業株式会社の「松谷あじさい」を、HP化タピオカ澱粉には松谷化学工業株式会社の「ファリネックスTG600」を、リン酸架橋タピオカ澱粉には松谷化学工業株式会社の「パインベークCC」を、酸化タピオカ澱粉には松谷化学工業株式会社の「スタビローズ10」を、α化タピオカ澱粉には松谷化学工業株式会社の「マツノリンTG600」を用いた。
【0034】
[試験5 澱粉の添加量の検討]
製造例2のヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の代わりに表7記載の質量部のヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉を添加した以外は製造例2及び製造例3に従って乾燥シート状豆乳ゲル化食品を製造して評価した。
【0035】
【表8】
澱粉を添加することにより豆乳組成物の良好なゲル化性が得られ、10質量部以上の添加でゲル化性に大差はなかった。実施例8、30では優れた粘弾性が得られ、40質量部以上の実施例31、32、33では澱粉の添加量の増加に伴って粘弾性に加えてモチモチ感が強くなる傾向であった。なお、比較例4では、ほとんどゲル化せずに湯葉様になったため、官能評価を行わなかった。
【0036】
[試験6 任意成分の検討]
表8記載の質量部の凝固剤を添加すること、増粘剤(キサンタンガム)を添加しないこと以外は製造例2及び製造例3に従って乾燥シート状豆乳ゲル化食品を製造して評価した。なお、凝固剤は10質量%水溶液を添加して評価した。
【0037】
【表9】
実施例34〜36では、凝固剤を添加することでゲル化が促進され、何れも非常に良好な粘弾性を示した。凝固剤による大豆タンパク質の部分的な凝集が生じるためかわずかにざらついた食感となったが、十分に許容できるものであった。
実施例37では、豆乳溶液の流動性が高いためにシート状に成形するための作業性は悪かったが、熱ゲル化及び粘弾性はキサンタンガムを添加した場合と遜色なかった。
なお、硫酸Caには赤穂化成社製の「パール」を、塩化Mgには赤穂化成社製の「ソフトウェハー」を、GDLには理研ビタミン社製の「リケンラクトン」を使用した。
【0038】
[試験7 豆乳のBrixの検討]
表9記載のBrixの豆乳を使用した以外は製造例2及び製造例3に従って乾燥シート状豆乳ゲル化食品を製造して評価した。
【0039】
【表10】
豆乳のBrixが5から10に増加するに伴ってゲル化性及び粘弾性が向上し、Brixが12以上になると大差なく非常に良好であった。比較例5では、ゲル化性が非常に悪く、硬い糊様の形態になると共にベタつきがあったため加工作業性が非常に悪く、官能評価を行わなかった。
【0040】
[試験8 弾性の評価]
各実施例の茹で麺様豆乳ゲル化食品、茹で処理した市販の大豆麺、茹で処理した市販パスタ、及び市販木綿豆腐の弾性を評価するために、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社製のTA−XT plus)で分析した。この際、シート以外の形状の型枠に豆乳溶液を流し込んで熱ゲル化させた以外は製造例2及び製造例3に従って製造した豆乳ゲル化食品も評価した(実施例43〜45)。
分析に際し、各試料をテクスチャーアナライザーで厚さが元の厚さの70%になるまで圧縮し、圧縮した時点の応力(A)と60秒間圧縮し続けた時点の応力(B)とを測定し、応力比(B)/(A)を求めた。この応力比が大きいほど弾性があることを意味する。
【0041】
【表11】
比較例7と11は、評価2の官能評価の基準としたものである。
【0042】
[試験9 加熱手段の検討]
豆乳混合液を熱ゲル化させる加熱手段及び豆乳ゲル化食品の乾燥手段をデッキオーブン(乾熱式)からスチームオーブン(湿熱式)又はスチームコンベクションオーブンに代えたこと以外は製造例2及び製造例3に従って乾燥豆乳ゲル化食品を得た。
何れの加熱及び乾燥手段を採用しても実施例8同様に粘弾性が強く非常に良好な豆乳ゲル化食品が得られた。湿熱方式又はスチームコンベクション方式を乾燥手段に使用すると、乾燥歩留30%の乾燥豆乳ゲル化食品を得るためには乾燥時間を長くする必要があるが、表面からの水分蒸発と内部での水分拡散が効率よく起こるためか、安定的に良好な形状の乾燥豆乳ゲル化食品を得ることができた。