【実施例】
【0020】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
[製造例1 豆乳の製造]
(1)洗浄した100質量部の大豆を水に浸漬し、吸水して膨潤した浸漬大豆230質量部を得た。
(2)浸漬大豆100質量部に水500質量を加え、湿式粉砕、次いで均質化して生呉を得た。
(3)生呉を90℃で5分間加熱した後、圧搾ろ過によりオカラを除去して豆乳(固形分8.0質量%)を得た。なお豆乳は、使用するまで冷蔵保管した。
【0021】
[製造例2 シート状豆乳ゲル化食品の製造]
(1)製造例1で得られた豆乳のBrixを12に調整後、消泡剤とともにミキサーに投入して十分に混合した。
(2)熱凝固性タンパク質、澱粉及び増粘多糖類の粉体混合物を更に投入し、ダマがなくなるまで十分に混合して豆乳組成物を得た。泡立ちがある場合には、常温静置又は減圧処理により消泡した。
(3)オーブンシートを敷いた浅底角バットに豆乳組成物を流しいれ、厚さ2〜2.5mmになるように均一に広げた。
(4)均一に広げた豆乳混合液を100℃に熱したデッキオーブン(固定窯)に投入し、100℃で15分間熱処理してシート状豆乳ゲル化食品を得た。
なお各原料の使用量は下記表の配合表に従った。
【表1】
【0022】
なお、製造例2において消泡剤にはグリセリン酸脂肪酸エステル(花王株式会社製のクレトンワイドLV)、熱凝固性タンパク質には乾燥卵白粉末(キユーピータマゴ株式会社製の乾燥卵白)、澱粉にはヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉(松谷化学工業株式会社製の松谷あさがお)、増粘多糖類にはキサンタンガム(三栄源エフ・エフ・アイ社製のビストップD3000)を使用した。
【0023】
[製造例3 乾燥シート状豆乳ゲル化食品の製造]
(1)製造例2で得られたシート状豆乳ゲル化食品を100℃に熱したデッキオーブンに投入し、100℃で60分間熱処理し、反転させて更に100℃で60分間熱処理して乾燥歩留30%の乾燥シート状豆乳ゲル化食品を得た。
【0024】
[評価1 ゲル化性]
製造例2で得られたシート状豆乳ゲル化食品のゲル化性について、熟練のパネラー10名にて下記表2に示す基準で浅底角バットからの取り外し工程、ボイル工程、麺様裁断肯定等の加工作業時における性状を評価した。
【表2】
【0025】
[評価2 官能評価]
製造例2で得られたシート状豆乳ゲル化食品又は製造例3で得られた乾燥シート状豆乳ゲル化食品を10分間沸騰湯浴中でボイルしたものを、麺様に裁断して喫食し、食感、特にパスタ等の麺類様の弾力と粘りのある食感(粘弾性)について熟練のパネラー10名にて下記表3に示す基準で官能評価を行った。官能評価において、市販大豆麺(黄金の大豆麺、グリーンカルチャー株式会社製)及びパスタ(乾燥スパゲッティ1.5mm、オーマイ株式会社製)を指定の要領でボイルしたものを各々3点及び4点とし、基準とした。
【表3】
【0026】
[試験1 豆乳混合液のゲル化温度の検討]
製造例2工程4における豆乳混合液のゲル化温度を表3記載の温度にした以外は製造例2に従ってシート状豆乳ゲル化食品を製造し、評価1(ゲル化性)及び評価2(食感)を評価した。
実施例1では、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉よりも糊化ピーク温度の低いヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉を使用した。
実施例8では、製造例3の乾燥シート状豆乳ゲル化食品を製造して評価した。
【0027】
【表4】
実施例1〜5のシート状豆乳ゲル化食品は、何れもゲル化性が良く、食感も大豆麺と比較して粘弾性に優れたものであった。さらに実施例2〜5のシート状豆乳ゲル化食品ではパスタよりも粘弾性に優れたものであった。実施例6及び7では、粘弾性はパスタと同等であった。加熱温度が180℃以上なるとシート状豆乳ゲル化食品の表面がやや膨化傾向になったが、この膨化は十分に許容できるものであった。実施例8の乾燥シート状豆乳ゲル化食品は、実施例3のシート状豆乳ゲル化食品よりも粘弾性に優れていたため、以降の試験では乾燥シート状豆乳ゲル化食品を使用することとした。比較例1はゲル化が起こらず、比較例2は表面に焦げが生じて食品として不適であったため、食感の評価を行わなかった。
【0028】
[試験2 熱凝固性タンパク質の添加量の検討]
表4記載の質量部の乾燥卵白粉末を添加した以外は製造例2及び製造例3に従って乾燥シート状豆乳ゲル化食品を製造して評価した。
【0029】
【表5】
実施例8〜15のいずれにおいても乾燥卵白を添加することでゲル化性が向上したが、乾燥卵白が4質量部以上になるとゲル化性に大差はなかった。食感について、乾燥卵白が4質量部未満になるとやや粘弾性が低くモチモチ感が強くなる傾向になり、8質量部以上になると粘弾性は良好で歯切れ感が強くなる傾向になった。乾燥卵白の添加量によっては、モチモチ感や歯切れ感などの異なる優れた食感を有する豆乳ゲル化食品が得られることが分かった。卵白粉を添加しない比較例3では、ソフトでべたつきがあるため加工作業性が悪く、求肥様の食感であった。
【0030】
[試験3 未変性澱粉の検討]
製造例2のヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の代わりに表5記載の未変性澱粉を添加した以外は製造例2及び製造例3に従って乾燥シート状豆乳ゲル化食品を製造して評価した。
【0031】
【表6】
実施例16〜21では、何れもゲル化性が良く、食感についても何れもパスタと市販大豆麺との中間の評価が得られ、十分に許容範囲内であった。
なお、タピオカ澱粉には松谷化学工業株式会社の「MKK100」を、馬鈴薯澱粉には松谷化学工業株式会社の「松谷かめ」を、コーン澱粉には三和澱粉工業株式会社の「コーンスターチY」を、ワキシーコーンには松谷化学工業株式会社の「フードスターチW」を、小麦澱粉には松谷化学工業株式会社の「松谷きく」を甘薯澱粉には松谷化学工業株式会社の「こなみずき」を用いた。
【0032】
[試験4 変性澱粉の検討]
製造例2のヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の代わりに表6記載の変性タピオカ澱粉を添加した以外は製造例2及び製造例3に従って乾燥シート状豆乳ゲル化食品を製造して評価した。
【0033】
【表7】
表中のHPとはヒドロキシプロピルの略記である。
この結果から、本発明には化学変性澱粉であればより好適に使用できることが分かった。HP化及び酸化変性は澱粉の吸水性が強くなり粘度が高くなるため、モチモチ感のある食感になる傾向であった。物理変性澱粉であるα化澱粉は、吸水性が強く粘度もより高くなるため、ゲル化性が低く成形性が劣る傾向にあったが、粘弾性に加えてモチモチ感が強い良好な食感であった。
ここで、酸化澱粉とは、次亜塩素酸等の酸化剤で低分子化された化学変性澱粉のことである。アミラーゼ等の澱粉分解酵素で変性した酵素変性澱粉は、酸化澱粉同様に低分子化されるため、酸化澱粉と類似した挙動を示すと考えられる。このことから、本発明には変性澱粉であれば何れも使用することができる。
なお、HP化リン酸架橋タピオカ澱粉には松谷化学工業株式会社の「松谷あさがお」を、アセチル化タピオカ澱粉には松谷化学工業株式会社の「松谷あじさい」を、HP化タピオカ澱粉には松谷化学工業株式会社の「ファリネックスTG600」を、リン酸架橋タピオカ澱粉には松谷化学工業株式会社の「パインベークCC」を、酸化タピオカ澱粉には松谷化学工業株式会社の「スタビローズ10」を、α化タピオカ澱粉には松谷化学工業株式会社の「マツノリンTG600」を用いた。
【0034】
[試験5 澱粉の添加量の検討]
製造例2のヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の代わりに表7記載の質量部のヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉を添加した以外は製造例2及び製造例3に従って乾燥シート状豆乳ゲル化食品を製造して評価した。
【0035】
【表8】
澱粉を添加することにより豆乳組成物の良好なゲル化性が得られ、10質量部以上の添加でゲル化性に大差はなかった。実施例8、30では優れた粘弾性が得られ、40質量部以上の実施例31、32、33では澱粉の添加量の増加に伴って粘弾性に加えてモチモチ感が強くなる傾向であった。なお、比較例4では、ほとんどゲル化せずに湯葉様になったため、官能評価を行わなかった。
【0036】
[試験6 任意成分の検討]
表8記載の質量部の凝固剤を添加すること、増粘剤(キサンタンガム)を添加しないこと以外は製造例2及び製造例3に従って乾燥シート状豆乳ゲル化食品を製造して評価した。なお、凝固剤は10質量%水溶液を添加して評価した。
【0037】
【表9】
実施例34〜36では、凝固剤を添加することでゲル化が促進され、何れも非常に良好な粘弾性を示した。凝固剤による大豆タンパク質の部分的な凝集が生じるためかわずかにざらついた食感となったが、十分に許容できるものであった。
実施例37では、豆乳溶液の流動性が高いためにシート状に成形するための作業性は悪かったが、熱ゲル化及び粘弾性はキサンタンガムを添加した場合と遜色なかった。
なお、硫酸Caには赤穂化成社製の「パール」を、塩化Mgには赤穂化成社製の「ソフトウェハー」を、GDLには理研ビタミン社製の「リケンラクトン」を使用した。
【0038】
[試験7 豆乳のBrixの検討]
表9記載のBrixの豆乳を使用した以外は製造例2及び製造例3に従って乾燥シート状豆乳ゲル化食品を製造して評価した。
【0039】
【表10】
豆乳のBrixが5から10に増加するに伴ってゲル化性及び粘弾性が向上し、Brixが12以上になると大差なく非常に良好であった。比較例5では、ゲル化性が非常に悪く、硬い糊様の形態になると共にベタつきがあったため加工作業性が非常に悪く、官能評価を行わなかった。
【0040】
[試験8 弾性の評価]
各実施例の茹で麺様豆乳ゲル化食品、茹で処理した市販の大豆麺、茹で処理した市販パスタ、及び市販木綿豆腐の弾性を評価するために、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社製のTA−XT plus)で分析した。この際、シート以外の形状の型枠に豆乳溶液を流し込んで熱ゲル化させた以外は製造例2及び製造例3に従って製造した豆乳ゲル化食品も評価した(実施例43〜45)。
分析に際し、各試料をテクスチャーアナライザーで厚さが元の厚さの70%になるまで圧縮し、圧縮した時点の応力(A)と60秒間圧縮し続けた時点の応力(B)とを測定し、応力比(B)/(A)を求めた。この応力比が大きいほど弾性があることを意味する。
【0041】
【表11】
比較例7と11は、評価2の官能評価の基準としたものである。
【0042】
[試験9 加熱手段の検討]
豆乳混合液を熱ゲル化させる加熱手段及び豆乳ゲル化食品の乾燥手段をデッキオーブン(乾熱式)からスチームオーブン(湿熱式)又はスチームコンベクションオーブンに代えたこと以外は製造例2及び製造例3に従って乾燥豆乳ゲル化食品を得た。
何れの加熱及び乾燥手段を採用しても実施例8同様に粘弾性が強く非常に良好な豆乳ゲル化食品が得られた。湿熱方式又はスチームコンベクション方式を乾燥手段に使用すると、乾燥歩留30%の乾燥豆乳ゲル化食品を得るためには乾燥時間を長くする必要があるが、表面からの水分蒸発と内部での水分拡散が効率よく起こるためか、安定的に良好な形状の乾燥豆乳ゲル化食品を得ることができた。