特許第6876216号(P6876216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6876216竹状窒素含有カーボンナノチューブ、竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造装置および竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876216
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】竹状窒素含有カーボンナノチューブ、竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造装置および竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/158 20170101AFI20210517BHJP
   H01M 4/90 20060101ALN20210517BHJP
【FI】
   C01B32/158
   !H01M4/90 XZNM
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-18339(P2016-18339)
(22)【出願日】2016年2月2日
(65)【公開番号】特開2017-137206(P2017-137206A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2019年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】516035264
【氏名又は名称】合同会社CAAB−CT
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 敏行
(72)【発明者】
【氏名】須賀 陽介
(72)【発明者】
【氏名】青木 楓
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−263589(JP,A)
【文献】 特開2006−103996(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/110570(WO,A1)
【文献】 特開2011−230993(JP,A)
【文献】 特開2006−240937(JP,A)
【文献】 JANG Jae Won et al.,Structural study of nitrogen-doping effects in bamboo-shaped multiwalled carbon nanotubes,Applied Physics Letters,2004年,Vol.84、No.15,p.2877−2879
【文献】 村上光一 et al.,窒素導入バンブーライクカーボンナノチューブの合成,ナノ学会第11回大会講演予稿集,2013年 6月,p.178、全2頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
H01M 4/86−4/98
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素原子(N)が結合した炭素材料から構成される筒状本体と、前記筒状本体を複数のユニットに分割する節部と、を有し、前記筒状本体を構成する側壁の厚さ(t)と当該筒状本体の内径(r)との比(t/r)が0.2以下であり、25原子数%を超え〜40原子数%の範囲で窒素原子(N)を含有することを特徴とする竹状窒素含有カーボンナノチューブ。
【請求項2】
前記ユニットの節部の分岐部分に窒素原子(N)が局在化しており、前記筒状本体の側壁内では、窒素原子(N)の濃度が側壁の径方向内側と外側に向かって減少することを特徴とする請求項1に記載の竹状窒素含有カーボンナノチューブ。
【請求項3】
前記ユニットは、当該ユニットを構成する一対の前記節部間の長さ(L)と前記筒状本体の内径(r)との比(L/r)であるアスペクト比が1.0〜3.5の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の竹状窒素含有カーボンナノチューブ。
【請求項4】
前記筒状本体の前記側壁の厚さ(t)が2.5nm〜5.5nmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の竹状窒素含有カーボンナノチューブ。
【請求項5】
竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造装置であって、
内部に導入された窒素ガスの超臨界流体を形成する反応容器と、
前記反応容器の内部に設けられた電極と、
前記電極に電圧を印加し当該電極間に放電を生起させる外部電源と、を備え、
前記電極は、第1と第2の両金属電極部に、グラファイト平板と有機金属化合物を含む圧粉体を取り付けた構成であることを特徴とする竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造装置。
【請求項6】
前記電極において、第1の電極は、金属電極部と有機金属化合物を含む圧粉体の間に誘電体を取り付けた構造を有し、第2の電極との間に誘電体バリア放電を生起させることを特徴とする請求項5に記載の竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造装置。
【請求項7】
竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造方法であって、
有機遷移金属化合物を含む圧粉体の電極を備える反応容器の内部に窒素の超臨界流体を形成する超臨界流体形成工程と、
前記超臨界流体が形成された状態において、前記有機遷移金属化合物を含む圧粉体の電極に電圧を印加して当該電極間に放電プラズマを生起させ、当該電極の表面に竹状窒素含有カーボンナノチューブを析出させる竹状窒素含有カーボンナノチューブ析出工程と、
を有することを特徴とする竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竹状窒素含有カーボンナノチューブ等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンナノチューブ(CNT)は、電気特性や力学特性等が優れ、各種分野でその応用が期待されている。近年、窒素原子を含有した竹状構造のCNT(竹状窒素含有カーボンナノチューブ)が開発され、その製法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−263589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、竹状窒素含有カーボンナノチューブは、化学的気相成長法(CVD法)で製造されることが知られている。しかし、CVD法は、長時間の反応を要し、25%を超える高窒素含有率を実現できないため、迅速で高窒素含有率の得られる製造法が必要とされている。
本発明は、迅速な製造方法によって得られる高窒素含有率の竹状窒素含有カーボンナノチューブ(N−CNT)を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、窒素原子が結合した炭素材料から構成される筒状本体と、前記筒状本体を複数のユニットに分割する節部と、を有し、前記筒状本体を構成する側壁の厚さ(t)と当該筒状本体の内径(r)との比(t/r)が0.2以下であり、25原子数%を超え〜40原子数%の範囲で窒素原子(N)を含有することを特徴とする竹状窒素含有カーボンナノチューブが提供される。
ここで、前記ユニットの節部の分岐部分に窒素原子(N)が局在化し、前記筒状本体の側壁内では、窒素原子(N)の濃度が側壁の径方向内側と外側に向かって減少することが好ましい。
また、前記ユニットは、当該ユニットを構成する一対の前記節部間の長さ(L)と前記筒状本体の内径(r)との比(L/r)であるアスペクト比が1.0〜3.5の範囲であることが好ましい。
さらに、前記筒状本体の前記側壁の厚さ(t)が2.5nm〜5.5nmの範囲であることが好ましい。
【0006】
次に、本発明によれば、竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造装置であって、内部に導入された窒素ガスの超臨界流体を形成する反応容器と、前記反応容器の内部に設けられた有機遷移金属化合物を含む電極と、前記電極に電圧を印加し当該電極間に放電を生起させる外部電源と、を備えることを特徴とする竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造装置が提供される。
ここで、前記電極は、第1の金属電極に誘電体と鉄−フタロシアニン錯体及びアセチレンブラックからなる圧粉体を取り付けた誘電体バリア放電用電極と、第2の金属電極にグラファイト平板と鉄−フタロシアニン錯体及びアセチレンブラックからなる圧粉体を取り付けた導電性電極と、から構成されることが好ましい。
【0007】
また、本発明によれば、竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造方法であって、有機遷移金属化合物を含む電極を備える反応容器の内部に窒素の超臨界流体を形成する超臨界流体形成工程と、前記超臨界流体が形成された状態において、前記電極に電圧を印加して当該電極間に放電プラズマを生起させ、当該電極の表面に竹状窒素含有カーボンナノチューブを析出させる竹状窒素含有カーボンナノチューブ析出工程と、を有することを特徴とする竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造方法が提供される。
ここで、前記電極の注入側の電極に誘電体を取り付け、当該電極間に誘電体バリア放電を生じさせることが好ましい。
さらに、前記超臨界流体形成工程において、前記反応容器中に希ガスを導入することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、迅速な製造方法によって、竹状窒素含有カーボンナノチューブ(N−CNT)が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態の一つの竹状窒素含有カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡による画像である。
図2】本実施の形態の一つの竹状窒素含有カーボンナノチューブのエネルギー分散型X線分析法による分析の結果および電子線エネルギー損失分光法による分析の結果を示す図である。
図3】本実施の形態の一つの竹状窒素含有カーボンナノチューブにおける節部の分岐部分の電子線エネルギー損失分光法による分析の結果を示す図である。
図4】本実施の形態の一つの竹状窒素含有カーボンナノチューブを構造解析するための模式図である。
図5】表1中のアスペクト比を説明する図である。
図6】本実施の形態の一つの竹状窒素含有カーボンナノチューブの他のTEM画像である。
図7】本実施の形態の竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造装置の一例を説明する図である。
図8図7に示す製造装置の反応容器に使用する電極を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0011】
<竹状窒素含有カーボンナノチューブ>
図1は、本実施の形態の一つの竹状窒素含有カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による画像である。図1中右上に、「5nm」のスケールを表示している。尚、製造方法については後述する。
図1から、竹状窒素含有カーボンナノチューブ(N−CNT)は、径方向に歪みがあるものの、全体として所定の厚さの側壁から構成された筒状本体を有している。後述するように、筒状本体は、窒素原子が結合した炭素材料から構成されている。さらに、筒状本体は、竹の形状のように、所定の間隔で備わる節部により複数のユニットに分割された竹状構造体であることが分かる。また、各節部が形成された部分の外周面が膨出し、その外径は、節部が形成されない部分と比較して大きくなっている。筒状本体を構成する側壁の厚さ、ユニットの大きさについては後述する。
【0012】
図2は、本実施の形態の一つの竹状窒素含有カーボンナノチューブのエネルギー分散型X線分析法(EDS:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)による分析の結果および電子線エネルギー損失分光法(EELS:Electron Energy−Loss Spectroscopy)による分析の結果を示す図である。
図2(a)は走査透過型電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)による像である。図2(b)は、TEMに搭載されているEDSによる分析結果であり、図2(b-1)は、炭素(C)および窒素(N)の元素分析の結果であり、図2(b-2)は、窒素(N)の特性X線の測定チャートである。図2(c)はTEMに搭載されているEELSによる分析結果であり、図2(c-1)は、窒素(N)の元素分析の結果であり、図2(c-2)は窒素(N)の結合エネルギーの測定チャートである。
【0013】
図2(a)〜図2(c)から、竹状窒素含有カーボンナノチューブ(N−CNT)の竹状構造体に炭素原子(C)と窒素原子(N)が存在し、筒状本体が、窒素原子が結合した炭素材料から構成されていることが分かる。図2(b-2)から、窒素原子(N)のKα線が0.392keVに観測されることが分かる。尚、炭素原子(C)のKα線が0.277keVに観測されている。図2(c-2)から、窒素原子(N)のKエッジの結合エネルギーが401eVに観測されることが分かる。
図2(a)〜図2(c)の結果から、図2(a)に示した竹状窒素含有カーボンナノチューブ(N−CNT)は、EDSおよびEELSにより、4原子数%〜40原子数%の範囲で窒素原子(N)を含有することが確認されている。
【0014】
図3は、本実施の形態の一つの竹状窒素含有カーボンナノチューブにおける節部の分岐部分の電子線エネルギー損失分光法(EELS)による分析の結果を示す図である。
図3(a)は、竹状窒素含有カーボンナノチューブの走査透過型電子顕微鏡(STEM)による像である。図3(b)は、図3(a)のSTEM像における破線(囲み部分)で示した節部の分岐部分のEELSによる元素マッピング像である。図3(b)のEELSによる元素マッピング像には、窒素原子(N)と炭素原子(C)の存在が、[(N/C比/原子数%)=(N原子数%/C原子数%)]として観測されている。尚、ここでは、窒素原子(N)及び炭素原子(C)以外の他の原子は考慮していない。
図3(b)のSTEM観察に示された竹状構造体のN−CNTにおいて、(1)節部の分岐部分に、他の部分と比較して窒素原子(N)が局在化していることが分かる。図3(b)の像では、[N/C比/原子数%]が最大約30原子数%であることが観察されている。さらに、(2)筒状本体の側壁では、窒素原子(N)の濃度が、側壁内部で最大約20原子数%になる部分が存在し、側壁の径方向内側と外側に向かい、減少する傾向が観察されている。
【0015】
図4は、本実施の形態の一つの竹状窒素含有カーボンナノチューブを構造解析するための模式図である。図4の模式図に従い、竹状窒素含有カーボンナノチューブの筒状本体が、所定の間隔で備わる節部により分割されたユニットについて、ユニットの長さL(=節部間の長さ)、ユニットの外径R、ユニットの内径(=筒状本体の内径)r、側壁の厚さt、側壁の面間隔及び層数を測定し、その結果を表1に示した。
尚、図5は、表1中のアスペクト比を説明する図である。ここで、アスペクト比は、筒状本体が節部により分割されたユニットについて、ユニットの内径(=筒状本体の内径)rに対するユニットの長さL(=節部間の長さ)の割合[(ユニットの長さL/nm)/(ユニットの内径r/nm)]であり、ユニットの長さをユニットの内径(=筒状本体の内径)で規格化するものである。
尚、面間隔は、透過型電子顕微鏡の電子線回折像より測定した。
【0016】
【表1】
【0017】
表1の結果から、筒状本体におけるユニットの部分を構成する側壁は、厚さ2.5nm〜5.5nmの範囲の厚さ(t)を有することが分かる。また、ユニットの内径(=筒状本体の内径)rに対するユニットの長さ(L)の割合(=アスペクト比)が1.0〜3.5の範囲内であることが分かる。
次に、節部について、外径Rf、内径rf、側壁の厚さ、節部の面間隔、節部の厚さ及び層数を測定し、結果を表2に示した。
【0018】
【表2】
【0019】
表1及び表2の結果から、図1の竹状窒素含有カーボンナノチューブを構成する側壁は、4層〜11層の範囲の多層構造を有することが分かる。
【0020】
図6は、本実施の形態の一つの竹状窒素含有カーボンナノチューブの他のTEM画像である。図6中左下に「100nm」のスケールを表示している。
図1に示したTEM画像と同様に、竹状窒素含有カーボンナノチューブ(N−CNT)は、竹状構造を有することが分かる。図1の場合と同様に、図4の模式図に従い、図6の竹状窒素含有カーボンナノチューブのユニットの部分について、ユニットの長さL、ユニットの外径R、ユニットの内径(=筒状本体の内径)r、側壁の厚さtを測定し、アスペクト比を計算した。さらに、(側壁の厚さ)/(ユニットの内径)(=t/r)を計算した。結果を表3に示す。
ここで、(側壁の厚さ)/(ユニットの内径)(=t/r)は、竹状窒素含有カーボンナノチューブ(N−CNT)の筒状本体を構成する側壁の厚さをユニットの内径(=筒状本体の内径)で規格化するものである。尚、表3中の番号(No.)は、図6中の番号に対応している。また、測定結果は、個体の測定数で割った平均値として示している。
【0021】
【表3】
【0022】
表3に示す結果から、竹状窒素含有カーボンナノチューブ(N−CNT)の筒状本体を構成する側壁の厚さ(t)と筒状本体の内径(r)との比(t/r)が約0.2以下であることが分かる。これにより、本実施の形態における竹状窒素含有カーボンナノチューブ(N−CNT)は、筒状本体の内径(r)に対して筒状本体を構成する側壁の厚さ(t)が小さいことが、構造上の特徴であることが分かる。
【0023】
以上、本実施の形態で説明した竹状窒素含有カーボンナノチューブ(N−CNT)は、全体として所定の厚さを有する側壁から構成される筒状本体と、筒状本体が節部により分割された複数のユニットを備えるチューブ状の竹状構造体である。
このような竹状窒素含有カーボンナノチューブ(N−CNT)は、酸素還元活性を有し、燃料電池用触媒および金属−空気電池用触媒としての利用が期待される。
【0024】
<竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造装置>
次に、竹状窒素含有カーボンナノチューブ(N−CNT)の製造装置について説明する。
図7は、本実施の形態が適用される竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造装置の一例を説明する図である。図7に示す製造装置は、内部に導入された窒素ガスを用いて窒素の超臨界流体を形成するための反応容器12と、反応容器12内に設けられて放電プラズマを生起するための電極15と、電極15に電圧を印加するための外部電源18を備えている。また、外部電源18と電極15の間に設けられた整合器17と、反応容器12の側面に取り付けられて電極15と結合する電極ユニット14と、反応容器12内に供給される窒素ガスを収容する気体シリンダ11と、窒素ガスの流量を調整する調整器13を有している。さらに、プローブ19と分光器20及びパーソナルコンピュータ(PC)21を備えている。反応容器12は、外部から内部を観察できるサファイア製窓16を有している。
【0025】
(超臨界流体)
ここで超臨界流体とは、物質固有の気液の臨界温度を超えた非凝縮性流体と定義される。すなわち、密閉容器内に気体と液体とが存在すると、温度上昇とともに液体は熱膨張しその密度は低下する。一方、気体は、蒸気圧の増加によりその密度が増大する。そして最後に、両者の密度が等しくなり、気体とも液体とも区別の付かない均一な状態になる。物質の温度−圧力線図(図示せず)では、このような状態になる点を臨界点といい、臨界点の温度を臨界温度(Tc)、臨界点の圧力を臨界圧力(Pc)という。また、超臨界流体状態とは、物質の温度及び圧力が臨界点を超えた状態にあることをいう。
【0026】
図7に示す製造装置の反応容器12内において、気体シリンダ11から供給された窒素ガスを用いて窒素の超臨界流体が形成される。反応容器12内に供給される窒素ガスの流量と反応容器12内の圧力は、調整器13により調整され、反応容器12内の放電プラズマ雰囲気圧力が制御される。電極15における放電プラズマの出力は、外部電源18と整合器17により電極15に印加する電圧が調整され、超臨界流体状態における窒素の励起状態を制御している。反応容器12内で生起したプラズマ放電の発光スペクトルは、プローブ19を介して接続された分光器20により測定し、パーソナルコンピュータ(PC)21により解析される。
【0027】
(反応容器12)
反応容器12は、窒素の超臨界流体を形成することが可能な耐圧性材料を用いて形成されている。本実施の形態では、例えば、ステンレス等が挙げられる。
尚、図示しないが、反応容器12を反応温度に加熱するための加熱装置が設けられている。加熱装置としては、所定の熱媒を使用するジャケット式加熱器、カートリッジ式ヒータ等が挙げられる。また、反応容器12を恒温槽内に設置してもよい。
【0028】
(電極15)
図8は、図7に示す製造装置の反応容器12に使用する電極15を説明する図である。図8に示すように、電極15は、整合器17を介して外部電源18(図7参照)と接続する誘電体バリア放電用電極151と、電極ユニット14(図7参照)を介してアース側に接続する導電性電極152とから構成されている。ここで、誘電体バリア放電とは、一定の間隔をおいた平板の注入側の電極に誘電体を取り付け、これに交流電圧を印加した場合に生起する放電のことである。誘電体バリア放電は、アーク放電に比べ、低電力で放電が可能であり、さらに、放電の持続性が良好である。
【0029】
本実施の形態では、誘電体バリア放電用電極151は、外部電源18側と接続する第1の金属電極1511(φ15mm)に、アルミナ板1512(20mm×20mm×2.5mm)等の誘電体を挟んで第1の圧粉体1513(φ10mm,L1.0〜1.2mm)等が取り付けられている。
導電性電極152は、アース側に接続する第2の金属電極1521(φ15mm)に、グラファイト平板1522(15mm×15mm×2mm)等の炭素材料を挟んで第2の圧粉体1523(φ10mm,L1.0〜1.2mm)等が取り付けられている。
電極15における誘電体バリア放電用電極151と導電性電極152との電極間距離は、反応容器12内の温度、圧力又は放電条件によって適宜選択され、特に限定されないが、本実施の形態では、0.002mm〜5mmの範囲内で設定される。
【0030】
本実施の形態では、誘電体バリア放電用電極151における第1の圧粉体1513と、導電性電極152における第2の圧粉体1523は、有機遷移金属化合物を所定の成形材を用いて成形することにより得られる。有機遷移金属化合物としては、例えば、鉄(Fe)−フタロシアニン錯体(以下、「Fe−PC」と記載することがある。)、鉄(Fe)−シクロペンタジエニル錯体(フェロセン)等が挙げられる。成形材としては、例えば、アセチレンブラック、バルカン、ケッチェンブラック等が挙げられる。
【0031】
本実施の形態では、第1の圧粉体1513及び第2の圧粉体1523は、有機遷移金属化合物としてのFe−PCと、成形材としてアセチレンブラックとを、(Fe−PC):アセチレンブラック=64重量%:36重量%、全体量を0.12gとし、乳鉢で10分間混錬した後に、1分間毎に5MPaずつ加圧し、25MPaまで加圧する条件で成形している。
【0032】
<竹状窒素含有カーボンナノチューブの製造方法>
次に、上述した製造装置を用いて竹状窒素含有カーボンナノチューブを製造する方法について説明する。
【0033】
(超臨界流体形成工程)
初めに、気体シリンダ11に貯蔵されている窒素ガス(N)を反応容器12内に供給する。尚、本実施の形態では、反応容器12内の圧力を調整し、窒素ガス(N)とアルゴンガス、ヘリウムガス等の希ガスとの混合ガスの超臨界流体において放電プラズマを生起させることもできる。本実施の形態では、窒素ガス(N)とアルゴンガスとの混合ガスを反応容器12内に供給する。混合ガスの窒素ガス(N)とアルゴンガスとの組成比は特に限定されないが、本実施の形態では、窒素ガス(N)/アルゴンガス=(2/8)〜(6/4)(モル比)の範囲で適宜調整される。窒素ガス(N)とアルゴンガスを併用することにより、超臨界流体における放電プラズマの安定性が向上する傾向がある。
【0034】
反応容器12内の放電プラズマ雰囲気圧力は適宜調整され、特に限定されないが、本実施の形態では、通常、0.5MPa〜10MPa、好ましくは、5MPa〜5.5MPaの範囲で調整する。尚、本実施の形態では、反応容器12内の圧力を調整し、窒素ガス(N)とアルゴンガス、ヘリウムガス等の希ガスとの混合ガスの超臨界流体において放電プラズマを生起させることもできる。
【0035】
本実施の形態では、窒素の超臨界流体は、反応容器12内に供給された窒素ガス(N)とアルゴンガスとの混合ガスを用いて形成する。窒素の臨界温度(Tc)は126.2K(−147.0℃)、臨界圧力(Pc)は3.39MPaである。また、アルゴンガスの臨界温度(Tc)は150.9K(−122.3℃)、臨界圧力(Pc)は4.86MPaである。
窒素ガス(N)とアルゴンガスとの混合ガスの場合、混合物の臨界温度(Tc)と臨界圧力(Pc)とは、窒素ガス(N)とアルゴンガスの組成により、それぞれの物質の臨界温度(Tc)と臨界圧力(Pc)との間で適宜調整することができる。
【0036】
(竹状窒素含有カーボンナノチューブ析出工程)
続いて、外部電源18により電極15に電力を印加し、放電プラズマを発生させる。本実施の形態では、外部電源18として高周波電源を用いている。放電プラズマを発生させる放電条件は、電極15間の距離や反応容器12内の圧力により適宜選択され特に限定されない。本実施の形態では、例えば、電源の周波数を13.56MHz、放電出力を40W〜60W程度に設定した場合、放電プラズマを生起する時間は、数秒間〜数時間程度とすることが適当である。
【0037】
上述したように、アルゴンガスの存在下で形成された窒素の超臨界流体において、電極15を誘電体バリア放電用電極151と導電性電極152とから構成し、これらに有機遷移金属化合物を含む第1の圧粉体1513と第2の圧粉体1523をそれぞれ取り付け、さらに、電極15に電圧を印加し、誘電体バリア放電を発生させることにより、主として電極15の表面に竹状窒素含有カーボンナノチューブを析出させる。
【0038】
上述した条件で得られる電極15表面の析出物は、TEMの観察により、筒状本体が、竹の形状のように、所定の間隔で複数の節部が形成されている竹状構造体であることが確認されている。また、EDSおよびEELSの測定により、構造中に窒素原子(N)及び炭素原子(C)の存在が確認されている。
【符号の説明】
【0039】
11…気体シリンダ、12…反応容器、13…調整器、14…電極ユニット、15…電極、16…サファイア製窓、17…整合器、18…外部電源、19…プローブ、20…分光器、21…パーソナルコンピュータ(PC)、151…誘電体バリア放電用電極、152…導電性電極、1511…第1の金属電極、1512…アルミナ板、1513…第1の圧粉体、1521…第2の金属電極、1522…グラファイト平板、1523…第2の圧粉体
図1
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図8