(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ゼオライト(B)、ガラス繊維(C)および炭酸カルシウム(D)を含有し、前記ガラス繊維(C)と前記炭酸カルシウム(D)との質量比((C)/(D))が1〜13の範囲であり、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の全量を100質量部としたとき、前記炭酸カルシウム(D)の配合量が3〜39.4質量部であることを特徴とする樹脂組成物。
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点以上で、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ゼオライト(B)、ガラス繊維(C)および炭酸カルシウム(D)を溶融混練する工程を有し、前記ガラス繊維(C)と前記炭酸カルシウム(D)との質量比((C)/(D))が1〜13の範囲であり、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の全量を100質量部としたとき、前記炭酸カルシウム(D)の配合量が3〜39.4質量部に設定することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただし、本発明者が鋭意検討したところ、前記特許文献1に記載の技術では、PAS樹脂を含有する樹脂組成物を溶融成形する際、ドローリング性が満足し得るものではなかった。さらに近年では、溶融成形により製造される部品構造が複雑化しており、溶融成形時の樹脂組成物の流動性を高めることが要求されることが多い。かかる流動性確保のため、溶融成形時の成形温度(射出成形機や押出成形機のシリンダー温度)が高く設定されることが多いが、この場合、さらに樹脂組成物のドローリング性が悪化する傾向があった。
【0006】
本発明は前記実情に鑑みて開発されたものであり、その課題は、溶融成形時のドローリング性に優れた樹脂組成物および該樹脂組成物の成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決すべく、PAS樹脂を含有する樹脂組成物のドローリング性に影響を与える特定要因を探るべく鋭意検討を行ったところ、「低せん断領域における樹脂組成物の溶融粘度」、および「樹脂組成物の溶融結晶化温度」の2要因が樹脂組成物のドローリング性に大きな影響を及ぼすことを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ゼオライト(B)、ガラス繊維(C)および炭酸カルシウム(D)を含有し、前記ガラス繊維(C)と前記炭酸カルシウム(D)との質量比((C)/(D))が、1〜13の範囲であることを特徴とする樹脂組成物に関する。
【0009】
本発明に係る樹脂組成物は、PAS樹脂に加え、ガラス繊維(C)および炭酸カルシウム(D)を含有し、ガラス繊維(C)と炭酸カルシウム(D)との質量比((C)/(D))を1〜13の範囲と最適化している。その結果、低せん断領域における樹脂組成物の溶融粘度を増大させることができる。さらに、本発明に係る樹脂組成物は、PAS樹脂に加え、ゼオライト(B)を含有する。その結果、樹脂組成物の溶融結晶化温度を高め、樹脂組成物を結晶化し易くすることができる。このように、本発明に係る樹脂組成物は、低せん断領域における樹脂組成物の溶融粘度の増大と、樹脂組成物の溶融結晶化温度の上昇との両立が可能であるため、溶融成形時のドローリング性に優れる。
【0010】
前記樹脂組成物において、さらに酸価が15以下であるワックス(E)を含有することが好ましい。
【0011】
溶融成形時のシリンダー内、あるいは射出する成形金型内での樹脂組成物の離型性向上のためには、樹脂組成物中にワックスを配合することが好ましいが、特に高温加圧条件下に曝されるシリンダー内で、ワックスは分解する傾向があり、その際に発生するガスが原因で、樹脂組成物のドローリング性が悪化する場合がある。しかしながら、本発明においては樹脂組成物中にワックス(E)を配合する場合であっても、該ワックスの酸価を15以下に設定した場合、ワックスの分解に起因したガス発生を抑制し、シリンダー内圧力の上昇を抑制することで、樹脂組成物のドローリング性の悪化を抑制することができる。
【0012】
前記樹脂組成物は、溶融混練物であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は前記いずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形体に関する。かかる成形体の原料となる樹脂組成物は、二律背反する2特性、具体的には溶融成形時のドローリング性と成形流動性とを両立し得るため、溶融成形により製造される成形体は複雑な形状に成形し得る。
【0014】
また、本発明はポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点以上で、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ゼオライト(B)、ガラス繊維(C)および炭酸カルシウム(D)を溶融混練する工程を有し、前記ガラス繊維(C)と前記炭酸カルシウム(D)との質量比((C)/(D))が1〜13の範囲に設定することを特徴とする樹脂組成物の製造方法に関する。前記樹脂組成物の製造方法において、せん断速度500sec
−1以下のせん断領域で溶融する工程を有することが好ましい。本発明に係る樹脂組成物の製造方法においては、かかるせん断領域で溶融する工程においても、樹脂組成物の溶融粘度を高く維持することが可能となる。
【0015】
さらに本発明は、成形体の製造方法であって、前記記載の製造方法により樹脂組成物を製造する工程と、前記樹脂組成物を溶融成形する工程とを有することを特徴とする成形体の製造方法に関する。前記成形体の製造方法において、せん断速度500sec
−1以下のせん断領域で溶融する工程を有することが好ましい。本発明に係る成形体の製造方法においては、かかるせん断領域で溶融する工程においても、樹脂組成物の溶融粘度を高く維持することが可能となるため、二律背反する2特性、具体的には溶融成形時のドローリング性と成形流動性とを両立し得る。その結果、溶融成形により製造される成形体は複雑な形状に成形し得る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ゼオライト(B)、ガラス繊維(C)および炭酸カルシウム(D)を含有し、好適にはさらにワックス(E)を含有する。以下、各構成について説明する。
【0017】
<ポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂(A)>
本発明で用いるPAS樹脂(A)は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(1):
【0018】
【化1】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2):
【0019】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001モル%以上であることが好ましく、0.01モル%以上であることがより好ましい。また、3モル%以下であることが好ましく、1モル%以下であることがより好ましい。
【0020】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR
1およびR
2は、前記PAS樹脂(A)の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、および下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0021】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂(A)の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0022】
また、前記PAS樹脂(A)は、前記一般式(1)や(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)〜(8)
【0023】
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では前記一般式(5)〜(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂(A)の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS樹脂(A)中に、前記一般式(5)〜(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0024】
また、前記PAS樹脂(A)は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0025】
(製造方法)
前記PAS樹脂(A)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、2)極性溶媒中でスルフィド化剤などの存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、3)p−クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、4)ジヨード芳香族と単体硫黄を、カルボキシ基やアミノ基などの官能基を有していてもよい重合禁止剤の存在下、減圧させながら溶融重合させる方法などが挙げられる。これらの方法のなかでも、2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。前記2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、および反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02〜0.5モルの範囲にコントロールすることによりPAS樹脂を製造する方法(特開平07−228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物および非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物および有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01〜0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド、および、前記各化合物の芳香環に炭素原子数1〜18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、前記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが好ましい。
【0026】
重合工程により得られたPAS樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥する方法、或いは、(2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPASに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PASや無機塩などの固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をする方法、(4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過および乾燥する方法、などが挙げられる。
【0027】
尚、前記(1)〜(5)に例示したような後処理方法において、PAS樹脂(A)の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0028】
<ゼオライト(B)>
ゼオライト(B)は、結晶性のアルミノケイ酸塩であり、下記の一般式で示される公知の物質である。
【0029】
x(M
I2,M
II)O・Al
2O
3・nSiO
2・mH
2Oここで、M
Iは1価の金属、例えばLi、Na、Kなどのアルカリ金属、あるいはアンモニウム、アルキルアンモニウム、ピリジニウム、アニリニウム、水素イオンなどを示し、M
IIは2価の金属、例えばCa、Mg、Ba、Srなどのアルカリ土類金属を示す。溶融結晶化温度を効率的に調整する観点から、M
IIがCaであり、M
Iが実質上存在しないことが好ましい。
【0030】
本発明で使用する(B)ゼオライトとしては天然または合成品の何れのゼオライトも使用可能である。天然ゼオライトとしては、例えば、ホウふっ石、ワイラカイト、ソーダふっ石、メソふっ石、トムソンふっ石、ゴナルドふっ石、スコレふっ石、エジングトふっ石、ギスモンふっ石、ダクふっ石、モルデンふっ石、ニガワラふっ石、エリオナイト、アシュクロフティン、キふっ石、クリノプチロライト、タバふっ石、ハクふっ石、ダキアルドふっ石、カイジュウジふっ石、ジュウジふっ石、グメリンふっ石、リョウふっ石、フォージャサイトなどを挙げることができる。合成ゼオライトとしては、例えば、A型、X型、Y型、L型、モルデナイト、チャバサイトなどを挙げることができる。上記ゼオライト中、好ましくは合成ゼオライトが用いられる。合成ゼオライトとしては、市販のものを使用することができ、例えば、A型ゼオライトA−4粉末、A型ゼオライトA−5粉末(いずれも商標、東ソー株式会社製)、CS‐100、CS‐100S(いずれも商標、勝田化工株式会社製)、AMT‐25(商標、水澤化学工業株式会社製)、ミズカライザーES(商標、水澤化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0031】
樹脂組成物の溶融結晶化温度を高める観点から、ゼオライト(B)の形状は粉末粒子状が好ましく、平均粒径の範囲の上限が好ましくは3μm、特に好ましくは2μmである。ここで、平均粒径はコールターカウンター法により求めた値(D
50)である。なお、ゼオライト(B)の平均粒径の範囲の下限は好ましくは0.1μmである。
【0032】
樹脂組成物の溶融結晶化温度を高める観点から、本発明に係る樹脂組成物中のゼオライト(B)の含有量は、PAS樹脂(A)の全量を100質量部としたとき、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下とすることが好ましい。また、PAS樹脂(A)の結晶核剤としてゼオライト(B)を有効に作用させて、樹脂組成物の溶融結晶化温度を高める観点から、1質量部以上含有することが好ましい。
【0033】
<ガラス繊維(C)>
ガラス繊維(C)としては当業者に公知のものが使用可能であり、その繊維径および繊維長、さらにアスペクト比などは成形体の用途などに応じて適宜調整可能である。なお、PAS樹脂(A)中での分散性向上のため、例えばガラス繊維(C)を公知のカップリング剤、バインダーなどで表面処理しても良い。PAS樹脂(A)の全量を100質量部としたとき、本発明に係る樹脂組成物中のガラス繊維(C)の含有量の範囲の下限は好ましくは32質量部であり、より好ましくは48質量部である。また、該範囲の上限は好ましくは120質量部であり、より好ましくは100質量部である。ガラス繊維(C)の含有量をかかる範囲内に設計することにより、成形流動性と成形体の機械的強度とをバランス良く向上することができる。なお、炭酸カルシウム(D)との質量比((C)/(D))については後述する。
【0034】
<炭酸カルシウム(D)>
PAS樹脂を含有する樹脂組成物のドローリング性向上のため、低せん断領域における溶融粘度の増大を図ることが重要であることは前記のとおりである。なお、樹脂組成物がドローリングする際は、樹脂組成物には略せん断が掛かっていない状態となるため、溶融粘度の中でも特に、低せん断領域における溶融粘度の増大を図ることが重要となる。ここで、本発明において「低せん断領域」とはせん断速度が500sec
−1以下の領域、より好ましくは100sec
−1以下の領域を意味する。本発明においては、樹脂組成物中に炭酸カルシウム(D)を配合し、かつガラス繊維(C)と炭酸カルシウム(D)との質量比((C)/(D))が1〜13の範囲となるように炭酸カルシウム(D)の配合量を設定することが好ましい。低せん断領域における樹脂組成物のさらなる溶融粘度増大を図るためには、前記質量比((C)/(D))の範囲の下限は好ましくは1.2、より好ましくは1.4である。一方、前記質量比((C)/(D))の範囲の上限は好ましくは11であり、より好ましくは9である。PAS樹脂(A)の全量を100質量部としたときの炭酸カルシウム(D)の配合量の範囲の下限は好ましくは3質量部であり、該範囲の上限は好ましくは120質量部である。なお、炭酸カルシウム(D)は当業者に公知のものを使用可能であり、形状は粉末粒子状が好ましく、平均粒径の範囲の上限が好ましくは50μm、特に好ましくは45μmである。ここで、平均粒径はコールターカウンター法により求めた値(D
50)である。炭酸カルシウム(D)の平均粒径の範囲の下限は好ましくは1μmである。
【0035】
<ワックス(E)>
本発明に係る樹脂組成物中には、溶融成形時のシリンダー内、あるいは射出する成形金型内での樹脂組成物の離型性向上のために、ワックス(E)を配合することが好ましい。ただし、前記のとおり樹脂組成物のドローリング性向上の観点から、酸価が15以下のワックスを使用することが好ましく、酸価が13以下のワックスを使用することがより好ましい。このようなワックスとしては、例えばオレフィン系ワックス、エステル系ワックスなどが挙げられる。樹脂組成物の離型性向上とドローリング性の悪化抑制とを両立する観点から、PAS樹脂(A)の全量を100質量部としたとき、ワックス(E)の配合量の範囲の下限は好ましくは0.005質量部であり、より好ましくは0.1質量部である。また、ワックス(E)の配合量の範囲の上限は好ましくは5質量部であり、より好ましくは2.5質量部である。
【0036】
<オレフィン系重合体>
本発明に係る樹脂組成物中には、成形流動性と成形体の冷熱衝撃性とをバランス良く向上する観点から、オレフィン系重合体を配合しても良い。オレフィン系重合体としては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、イソブチレンなどのα―オレフィンを単独あるいは2種以上で重合して得られる重合体、さらには前記αオレフィンと、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどのα,β―不飽和酸およびそのアルキルエステルとの共重合体が挙げられる。なお、本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0037】
オレフィン系重合体は、樹脂組成物中の他の成分との相溶性向上の観点から、重合体中に官能基を有することが好ましい。これにより、成形体の冷熱衝撃性などを向上することができる。かかる官能基としては、エポキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、オキサゾリン基、および式:R(CO)O(CO)−またはR(CO)O−(式中、Rは炭素原子数1〜8の範囲のアルキル基を表す。)で表される基が挙げられる。かかる官能基を有するオレフィン系重合体は、例えば、α−オレフィンと前記官能基を有するビニル重合性化合物との共重合により得ることができる。前記官能基を有するビニル重合性化合物としては、前記α,β―不飽和酸およびそのアルキルエステルに加え、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびその他の炭素原子数4〜10の範囲のα,β−不飽和ジカルボン酸およびその誘導体(モノもしくはジエステル、およびその酸無水物など)、ならびにグリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記オレフィン系重合体の中でも、オレフィン系重合体(B)として、エポキシ基、カルボキシ基、および、式:R(CO)O(CO)−又はR(CO)O−(式中、Rは炭素原子数1〜8の範囲のアルキル基を表す。)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するオレフィン系重合体が靭性および耐衝撃性の向上の点から好ましく、特にオレフィン系樹脂が、アルケン、アルキルアクリレート、およびグリシジルアクリレートの共重合体を含むものであることが好ましい。
【0038】
本発明に係る樹脂組成物中にオレフィン系重合体を配合する場合、PAS樹脂(A)の全量を100質量部としたとき、配合量の範囲の下限は好ましくは5質量部であり、より好ましくは7質量部である。一方、配合量の範囲の上限は好ましくは17質量部であり、より好ましくは15質量部である。オレフィン系重合体の含有量をかかる範囲内に設計することにより、成形流動性と成形体の冷熱衝撃性とをバランス良く向上することができる。
【0039】
<その他の成分>
更に、本発明に係る樹脂組成物は、前記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、合成樹脂、例えばエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四弗化エチレン樹脂、ポリ二弗化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマーなど、上述したポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ワックス(E)及びオレフィン共重合体以外の合成樹脂(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として配合することができる。本発明において前記合成樹脂は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本発明に係る樹脂組成物中に配合する合成樹脂の割合として、例えばPAS樹脂(A)100質量部に対し5〜15質量部の範囲程度が挙げられる。換言すれば、PAS樹脂(A)と合成樹脂との合計に対してPAS樹脂(A)の割合は質量基準で、好ましくは(100/115)以上の範囲であり、より好ましくは(100/105)以上の範囲である。
【0040】
また本発明に係る樹脂組成物は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、およびカップリング剤などの公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として配合してもよい。これらの添加剤は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、例えば、PAS樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.01質量部以上の範囲から、好ましくは1,000質量部以下の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0041】
また本発明に係る樹脂組成物は、その他にも、ゼオライト(B)、ガラス繊維(C)および炭酸カルシウム(D)以外の充填剤を任意成分として含有することができる。これら任意成分として用いる充填剤としては本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の充填剤等が挙げられる。具体的には、炭素繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、雲母、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。本発明において任意成分として用いる充填剤の含有量は本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではない。任意成分として用いる充填剤の含有量としては例えば、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上から、好ましくは200質量部以下、より好ましくは120質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な機械強度と成形性を示すため好ましい。
【0042】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明に係る樹脂組成物の製造方法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、ゼオライト(B)、ガラス繊維(C)および炭酸カルシウム(D)を必須成分とし、必要に応じてワックス(E)その他の任意成分を必要に応じて配合し、PAS樹脂の融点以上で溶融混練する。
【0043】
本発明に係る樹脂組成物の好ましい製造方法は、前記必須成分と前記任意成分とを、粉末、ペレット、細片など様々な形態でリボンブレンター、ヘンシェルミキサー、Vブレンダーなどに投入してドライブレンドした後、バンバリーミキサー、ミキシングロール、単軸または2軸の押出機およびニーダーなどの公知の溶融混練機に投入し、樹脂温度がPAS樹脂の融点以上となる温度範囲、好ましくは融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは融点+10℃〜融点+100℃となる温度範囲、さらに好ましくは融点+20〜融点+50℃となる温度範囲で溶融混練する工程を経て製造することができる。溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。
【0044】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5〜500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50〜500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02〜5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、前記成分のうち、充填剤や添加剤を添加する場合は、前記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部(トップフィーダー)から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。また、かかる比率は0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0045】
このように溶融混練して得られる本発明に係る樹脂組成物は、前記必須成分と、必要に応じて加える任意成分およびそれらの由来成分を含む溶融混合物であり、該溶融混練後に、公知の方法、例えば、溶融状態の樹脂組成物をストランド状に押出成形した後、ペレット、チップ、顆粒、粉末などの形態に加工してから、必要に応じて100〜150℃の温度範囲で予備乾燥を施して、各種成形に供することが好ましい。ストランド状に押出成形する際、本発明に係る樹脂組成物を、好ましくはせん断速度500sec
−1以下のせん断領域、より好ましくはせん断速度100sec
−1以下から、0sec
−1以上のせん断領域で溶融する工程を有していてもよい。
【0046】
前記製造方法により製造される本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、PAS樹脂に加え、ゼオライト(B)を含有するとともに、ガラス繊維(C)および炭酸カルシウム(D)を含有し、ガラス繊維(C)と炭酸カルシウム(D)との質量比((C)/(D))を1〜13の範囲と最適化されている。このため、低せん断領域における樹脂組成物の溶融粘度の増大と、樹脂組成物の溶融結晶化温度の上昇とが両立されている。その結果、溶融成形時のドローリング性に優れる。さらに酸価が15以下であるワックス(E)を含有する場合、離型性とドローリング性との両方に優れる。
【0047】
(成形体の製造方法)
本発明に係る成形体は、例えば前記樹脂組成物を溶融成形することにより得られる。本発明に係る成形体の製造方法は、前記樹脂組成物を溶融成形する工程を有する。また、本発明に係る成形体の製造方法は、前記樹脂組成物を、好ましくはせん断速度500sec
−1以下のせん断領域、より好ましくはせん断速度100sec
−1以下から、0sec
−1以上のせん断領域で溶融する工程を有していてもよい。溶融成形は、公知の方法で良く、例えば、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形方法が適用可能であるが、特に原料となる樹脂組成物のドローリング性に優れるため、射出成形が適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃〜融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20〜融点+50℃の温度範囲で前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度の範囲も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)以上とすることが好ましく、40℃以上とすることがより好ましく、120℃以上とすることがさらに好ましい。さらに金型温度は300℃以下とすることが好ましく、200℃以下とすることがより好ましく、180℃以下とすることがさらに好ましい。
【0048】
(成形体の用途)
本発明に係る成形体の主な用途例としては、各種家電製品、携帯電話、およびPC(Personal Computer)などの電子機器の筐体、箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体またはモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスクなどの音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは給湯機や風呂の湯量、温度センサなどの水回り機器部品などに代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ブラシホルダー、スリップリング、ICレギュレータ、ライトディヤ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイルおよびそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース、パワーモジュール、インバータ、パワーデバイス、インテリジェントパワーモジュール、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、パワーコントロールユニット、リアクトル、コンバータ、コンデンサ、インシュレーター、モーター端子台、バッテリー、電動コンプレッサー、バッテリー電流センサ、ジャンクションブロック、DLIシステム用イグニッションコイルなどを収納するケースなどの自動車・車両関連部品、その他各種用途にも適用可能である。
【実施例】
【0049】
以下に具体的な例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。また、部、%は、特に断りがない場合、質量基準とする。
【0050】
(PPS樹脂の溶融粘度の測定)
下記製造例で製造したPPS樹脂を高化式フローテスター(島津製作所、CFT−500D)を用い、300℃、荷重:1.96×10
6Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に溶融粘度を測定した。
【0051】
(製造例)
PPS樹脂の製造
[工程1]
圧力計、温度計、コンデンサ、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付き150リットルオートクレーブにp−ジクロロベンゼン(以下、「p−DCB」と略記する。)33.075質量部(225モル部)、NMP3.420質量部(34.5モル部)、47.23質量%NaSH水溶液27.300質量部(NaSHとして230モル部)、および49.21質量%NaOH水溶液18.533質量部(NaOHとして228モル部)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.300質量部を留出させた後、オートクレーブを密閉した。脱水時に共沸により留出したp−DCBはデカンタで分離して、随時オートクレーブ内に戻した。脱水終了後のオートクレーブ内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp−DCB中に分散した状態であった。この組成物中のNMP含有量は0.079質量部(0.8モル部)であったことから、仕込んだNMPの98モル%(33.7モル部)がNMPの開環体(4−(メチルアミノ)酪酸)のナトリウム塩(以下、「SMAB」と略記する。)に加水分解されていることが示された。オートクレーブ内のSMAB量は、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.147モル部であった。仕込んだNaSHとNaOHが全量、無水Na2Sに変わる場合の理論脱水量は27.921質量部であることから、オートクレーブ内の残水量0.878質量部(48.8モル部)の内、0.609質量部(33.8モル部)はNMPとNaOHとの加水分解反応に消費されて、水としてオートクレーブ内に存在せず、残りの0.269質量部(14.9モル部)は水、あるいは結晶水の形でオートクレーブ内に残留していることを示していた。オートクレーブ内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.065モルであった。
【0052】
[工程2]
前記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP46.343質量部(467.5モル部)を仕込み、185℃まで昇温した。オートクレーブ内の水分量は、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.025モルであった。ゲージ圧が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp−DCBと水の混合蒸気はコンデンサで凝縮し、デカンタで分離して、p−DCBはオートクレーブへ戻した。留出水量は0.228質量部(12.7モル部)であった。
【0053】
[工程3]
工程3開始時のオートクレーブ内水分量は0.041質量部(2.3モル部)で、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.005モルで、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.010モルであった。オートクレーブ内のSMAB量は工程1と同じく、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.147モルであった。次いで、内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で1時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。内温200℃時点のゲージ圧は0.03MPaで、最終ゲージ圧は0.40MPaであった。冷却後、得られたスラリーの内、0.650質量部を3質量部(3リットル部)の水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び3質量部(3リットル部)の温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返した。このケーキを再び3質量部(3リットル部)の温水と、酢酸を加え、pH4.0に調整した後、1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。このケーキを再び3質量部(3リットル部)の温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を2回繰り返した。熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥して白色の粉末状のPPS樹脂(A)を得た。このポリマーの300℃における溶融粘度は42Pa・sであった。非ニュートン指数は1.07であった。
【0054】
(使用原料)
以下に、樹脂組成物の原料となる各成分を示す。
・PAS樹脂(A);前記製造例で製造したPPS樹脂を使用
・ゼオライト(B);商品名「A型ゼオライトA−5粉末」、東ソー株式会社製
・ガラス繊維(C);繊維長3mm、平均直径10μm、商品名「T−717H」、日本電気硝子株式会社製
・炭酸カルシウム(D);商品名「炭酸カルシウム1級」、三共製粉株式会社製
・ワックス(E)−1;ペンタエリスリトールテトラステアリン酸エステル、商品名「VPG861」、エメリーオレオケミカルズジャパン社製
・ワックス(E)−2;ポリエチレンワックス、商品名「PE−190」、クラリアント社製
・オレフィン系重合体(F);エチレン−グリシジルメタクリレート−メチルアクリレート共重合体、商品名「BF−7M」、住友化学工業株式会社製
【0055】
(樹脂組成物の製造)
表1に記載する組成成分および配合量(全て質量部)に従い、各材料をタンブラーで均一に混合した。その後、ベント付き2軸押出機(日本製鋼所、TEX30α)に前記配合材料を投入し、樹脂成分吐出量30kg/hr、スクリュー回転数220rpm、設定樹脂温度を320℃に設定して溶融混練し、実施例1〜10および比較例1〜3に係る樹脂組成物のペレットを得た。
【0056】
(樹脂組成物の溶融結晶化温度の測定)
溶融結晶化温度(℃)は、樹脂組成物を350℃にて溶融させた後、急冷させて非晶性フィルムを作製し、このフィルムからおよそ10mgはかりとり、示差走査熱量計(Perkin Elmer社製「DSC8500」)を用いて測定した。
【0057】
(成形体の製造)
実施例1〜10および比較例1〜3に係る樹脂組成物のペレットを使用し、シリンダー温度310℃に設定した住友重機製射出成形機(SE75D−HP)に供給し、金型温度140℃に温調した金型を用いて射出成形を行った。
【0058】
(樹脂組成物のドローリング量)実施例1〜10および比較例1〜3に係る樹脂組成物のペレットを使用し、シリンダー温度310℃に設定した住友重機製射出成形機(SE75D−HP)に供給し、連続成形を実施した。10ショット目の軽量完了後、30秒間でのノズル先端からのドローリング量を測定した。
【0059】
【表1】
【0060】
表1の結果から、実施例1〜10に係る樹脂組成物を用いて射出成形を行う際、ドローリング量が低減されていることがわかる。一方、比較例1に係る樹脂組成物では、(C)/(D)が大きいため、低せん断領域における樹脂組成物の溶融粘度が増大できず、ドローリング量が多くなることがわかる。同様に、比較例2に係る樹脂組成物では、(C)/(D)が小さいため、やはり低せん断領域における樹脂組成物の溶融粘度が増大できず、ドローリング量が多くなることがわかる。さらに、比較例3に係る樹脂組成物では、ゼオライトを含有しないため、樹脂組成物の溶融結晶化温度が低くなり、その結果、ドローリング量が多くなることがわかる。