特許第6876276号(P6876276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876276
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】被覆電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20210517BHJP
   H01B 7/29 20060101ALI20210517BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20210517BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   H01B7/02 Z
   H01B7/02 F
   H01B7/29
   H01B7/18 H
   C08L27/12
【請求項の数】14
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-514710(P2018-514710)
(86)(22)【出願日】2017年4月27日
(86)【国際出願番号】JP2017016800
(87)【国際公開番号】WO2017188397
(87)【国際公開日】20171102
【審査請求日】2020年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-91890(P2016-91890)
(32)【優先日】2016年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 智子
【審査官】 須藤 竜也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−070206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
C08L 27/12
H01B 7/18
H01B 7/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線、および、前記芯線の周囲に被覆された組成物からなる被覆材、からなり、
該被覆材が溶融成形可能な樹脂組成物であり、
前記樹脂組成物が、貯蔵せん断弾性率G’が100以上の含フッ素エラストマーおよび融点が215℃以上の溶融成形可能なフッ素樹脂を含む溶融混練物からなるフッ素樹脂組成物であり、
前記フッ素樹脂組成物が、エポキシ基を有するエチレン共重合体に由来するエチレン共重合体を含み、前記エチレン共重合体の含有量が、前記含フッ素エラストマーと前記フッ素樹脂との合計100質量部に対して0.1〜10質量部であり、
前記フッ素樹脂の融点より25℃高い温度における該樹脂組成物の貯蔵弾性率E’は、250kPa以下であり、
該樹脂組成物が、オートマチックトランスミッションフルードに165℃で70時間浸漬した後の体積変化率が10%以下であり、曲げ弾性率が200MPa以下であり、200℃空気中での2000時間熱暴露試験後の引張伸び変化率が30%以下であり、かつ融点が215℃以上である、被覆電線。
【請求項2】
前記樹脂組成物の1MHzにおける比誘電率が10.0以下である請求項1に記載の被覆電線。
【請求項3】
請求項1または2に記載の被覆電線であり、
前記樹脂組成物が、曲げ弾性率が200MPa以下であり、200℃空気中での2000時間熱暴露試験後の引張伸び変化率が30%以下であり、かつ融点が215℃以上である、半導体装置に用いる白色の被覆電線。
【請求項4】
前記含フッ素エラストマーが融点を持たない弾性共重合体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の被覆電線。
【請求項5】
前記含フッ素エラストマーは、前記フッ素樹脂中に分散しており、
前記含フッ素エラストマーと前記フッ素樹脂との合計に対する前記含フッ素エラストマーの含有量が10〜65質量%であり、前記含フッ素エラストマーと前記フッ素樹脂との合計量が、前記フッ素樹脂組成物に対して90質量%以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の被覆電線。
【請求項6】
前記含フッ素エラストマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位およびプロピレンに基づく単位を有する共重合体である、請求項のいずれか一項に記載の被覆電線。
【請求項7】
前記含フッ素エラストマーが、海島構造または共連続構造を形成して前記フッ素樹脂中に分散している、請求項のいずれか一項に記載の被覆電線。
【請求項8】
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレンに基づく単位を有する重合体、フッ化ビニリデンに基づく単位を有する重合体またはクロロトリフルオロエチレンに基づく単位を有する重合体である、請求項のいずれか一項に記載の被覆電線。
【請求項9】
前記フッ素樹脂が、エチレンに基づく単位およびテトラフルオロエチレンに基づく単位を有する共重合体である、請求項に記載の被覆電線。
【請求項10】
前記被覆材が、前記樹脂組成物を含む成形材料を成形してなる成形体である、請求項1〜のいずれか一項に記載の被覆電線。
【請求項11】
前記成形体は、前記成形材料を架橋してなる架橋物、または前記成形材料を成形してなる成形体を架橋してなる架橋物である、請求項10に記載の被覆電線。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の被覆電線を用いたセンサーケーブル。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の被覆電線を用いたパワーケーブル。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の被覆電線からなるワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物を用いた被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体(以下、「TFE−P共重合体」とも言う。)のような含フッ素エラストマーは、耐熱性、耐油性、耐薬品性、電気絶縁性、可とう性等の特性に優れ、かつ、放射線架橋可能なエラストマー材料として、電線被覆材等に使用されている。
また、含フッ素エラストマーの特性を補うため、含フッ素エラストマーと、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(以下、「E−TFE共重合体」とも言う。)のようなフッ素樹脂とをブレンドすることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、TFE−P共重合体とE−TFE共重合体とをブレンドして、引張強さや引裂き強さ等の機械的特性、強靱性等の特性の向上を図っている。そして、特許文献1では、コンパウンド価格を下げることを目的として、TFE−P共重合体とE−TFE共重合体とに加えて、さらに、エチレン−アクリル酸エステル共重合体またはエチレン−酢酸ビニル共重合体を大量にブレンドしている。
また、特許文献2では、TFE−P共重合体のカットスルー性(高温下で熱軟化し難い特性)を改善するため、TFE−P共重合体と炭酸カルシウムと共に、E−TFE共重合体とをブレンドしている。
特許文献3でも、カットスルー性改善のために、TFE−P共重合体とE−TFE共重合体とをブレンドしている。そして、特許文献3では、TFE−P共重合体とブレンドするE−TFE共重合体が多すぎると可とう性と伸びが低下するため、ブレンドポリマ全体に対するE−TFE共重合体の配合量は40質量%以下とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本特開平5−78539号公報
【特許文献2】日本特開平10−334738号公報
【特許文献3】日本特開2010−186585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たとえば、自動車のエンジンルームのハーネスに用いられる材料には、ハーネスの配線自由度を確保するため優れた柔軟性が求められる。しかし、特許文献3で指摘されているように、可とう性と伸びの低下を抑え柔軟性を確保するためには、TFE−P共重合体とブレンドするE−TFE共重合体の割合を低くする必要があった。しかしながら、含フッ素エラストマーに対するフッ素樹脂の含有量の割合を低くすると、自動変速機油等の潤滑油に対する耐油性が充分でない場合があった。
また、含フッ素エラストマーとフッ素樹脂とをブレンドすると、加熱下で熱変色する場合があり、その場合には成形体の着色性に対する自由度を狭めることになる。また、成形性が充分でない場合には、成形体にウェルドラインが生じる等の成形不良に基づく欠点が生じる場合があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、柔軟性および耐油性に優れ、熱変色しにくく、かつ成形性に優れた樹脂組成物を用いた被覆電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]芯線、および、前記芯線の周囲に被覆された組成物からなる被覆材、からなり、
該被覆材が溶融成形可能な樹脂組成物であり、
該樹脂組成物が、オートマチックトランスミッションフルードに165℃で70時間浸漬した後の体積変化率が10%以下であり、曲げ弾性率が200MPa以下であり、200℃空気中での2000時間熱暴露試験後の引張伸び変化率が30%以下であり、かつ融点が215℃以上である、被覆電線。
[2]前記樹脂組成物の1MHzにおける比誘電率が10.0以下である[1]に記載の被覆電線。
[3]芯線、および、前記芯線の周囲に被覆された組成物からなる被覆材からなり、
該被覆材が溶融成形可能な樹脂組成物であり、
該樹脂組成物が、曲げ弾性率が200MPa以下であり、200℃空気中での2000時間熱暴露試験後の引張伸び変化率が30%以下であり、かつ融点が215℃以上である、半導体装置に用いる白色の被覆電線。
[4]前記樹脂組成物が、貯蔵せん断弾性率G’が100以上の含フッ素エラストマーおよび融点が215℃以上の溶融成形可能なフッ素樹脂を含む溶融混練物からなるフッ素樹脂組成物である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の被覆電線。
[5]前記含フッ素エラストマーが融点を持たない弾性共重合体である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の被覆電線。
[6]前記含フッ素エラストマーは、前記フッ素樹脂中に分散しており、
前記含フッ素エラストマーと前記フッ素樹脂との合計に対する前記含フッ素エラストマーの含有量が10〜65質量%であり、前記含フッ素エラストマーと前記フッ素樹脂との合計量が、前記フッ素樹脂組成物に対して90質量%以上であり、
前記フッ素樹脂の融点より25℃高い温度における、前記フッ素樹脂組成物の貯蔵弾性率E’が250kPa以下である、[4]または[5]に記載の被覆電線。
[7]前記フッ素樹脂組成物が、エポキシ基を有するエチレン共重合体に由来するエチレン共重合体を含み、前記エチレン共重合体の含有量が、前記含フッ素エラストマーと前記フッ素樹脂との合計100質量部に対して0.1〜10質量部である、[4]〜[6]のいずれか一項に記載の被覆電線。
[8]前記含フッ素エラストマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位およびプロピレンに基づく単位を有する共重合体である、[4]〜[7]のいずれか一項に記載の被覆電線。
[9]前記含フッ素エラストマーが、海島構造または共連続構造を形成して前記フッ素樹脂中に分散している、[4]〜[8]のいずれか一項に記載の被覆電線。
[10]前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレンに基づく単位を有する重合体、フッ化ビニリデンに基づく単位を有する重合体またはクロロトリフルオロエチレンに基づく単位を有する重合体である、[4]〜[9]のいずれか一項に記載の被覆電線。
[11]前記フッ素樹脂が、エチレンに基づく単位およびテトラフルオロエチレンに基づく単位を有する共重合体である、[10]に記載の被覆電線。
[12]前記被覆材が、前記樹脂組成物を含む成形材料を成形してなる成形体である、[1]〜[11]のいずれか一項に記載の被覆電線。
[13]前記成形体は、前記成形材料を架橋してなる架橋物、または前記成形材料を成形してなる成形体を架橋してなる架橋物である、[1]〜[12]のいずれか一項に記載の被覆電線。
[14][1]〜[13]のいずれか一項に記載の被覆電線を用いたセンサーケーブル。
[15][1]〜[13]のいずれか一項に記載の被覆電線を用いたパワーケーブル。
[16][1]〜[13]のいずれか一項に記載の被覆電線からなるワイヤーハーネス。
【発明の効果】
【0008】
本発明の被覆電線は、柔軟性および耐油性に優れ、熱変色しにくく、かつ成形不良に基づく欠点が少ないことから、自動車用、工作機械用の被覆電線として好適である。また、無機成分を添加材として含まない白色材料を被覆材として用いることから、パーティクルを嫌う半導体装置に用いる被覆電線としても好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[組成物]
本発明の被覆電線は、特定の物性を有する組成物からなる被覆材で被覆されていることを特徴とする。
前記組成物は、溶融成形可能な樹脂組成物である。
前記該樹脂組成物が、オートマチックトランスミッションフルード(ATF)に165℃で96時間浸漬した後の体積変化率が10%以下であり、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。ATFとしては公知のものが用いられ、TOYOTAオートフルードD−II、HondaウルトラATF−DW1、NISSANマチックフルードD等が挙げられる。
前記該樹脂組成物が、曲げ弾性率が200MPa以下であり、170MPa以下が好ましく、150MPa以下がより好ましい。 前記樹脂組成物において、200℃空気中での2000時間熱暴露試験後の引張伸び変化率が30%以下であり、25%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。引張伸び変化率は熱暴露前後での引張伸びの変化率を出した算出した値である。 前記樹脂組成物において、融点が215℃以上であり、220℃以上が好ましく、225℃以上がより好ましい。融点は示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度である。
また前記該樹脂組成物が、1MHzにおける比誘電率が10.0以下であることが好ましく、8.0以下が好ましく、5.0以下がより好ましい。
前記組成物は、高い耐油性、高い柔軟性、高い耐熱性を有することから、自動車や工作機等に用いる被覆電線の被覆材として好適である。また、比誘電率が低いことから高周波信号の伝送特性が改善されるためセンサーケーブル等として好適である。
さらに、前記組成物は、無機成分を添加材として含まない白色材料となし得る。かかる組成物は、パーティクルを嫌う半導体装置に用いる白色の被覆電線の被覆材としても好適である。
【0010】
[フッ素樹脂組成物]
本発明の被覆電線の被覆材として用いる組成物は、フッ素樹脂組成物が好ましい。
前記フッ素樹脂組成物は、特定の含フッ素エラストマーおよび特定のフッ素樹脂を含む溶融混練物からなる。溶融混練物とは、溶融混練後常温に冷却されたものを意味する。
特定の含フッ素エラストマーとは、「貯蔵せん断弾性率G’が100以上の含フッ素エラストマー」をいい、以下「A成分」とも言う。特定のフッ素樹脂とは、「融点が215℃以上の溶融成形可能なフッ素樹脂」をいい、以下「B成分」とも言う。
なお、以下、本発明で用いる前記フッ素樹脂組成物を「本組成物」とも言う。
【0011】
本組成物は原料を溶融混練して得られた溶融混練物である。原料は前記特定の含フッ素エラストマーと前記特定のフッ素樹脂であり、溶融混練過程でそれら原料は変化しないと考えられるので、溶融混練前の原料もそれぞれA成分、B成分と称する。なお、後述の任意成分であるC成分については、その原料が溶融混練過程で変化し、原料と溶融混練物中のC成分は異なると考えられる。
【0012】
本組成物におけるA成分とB成分との合計に対するA成分の含有量は10〜65質量%であり、10〜60質量%が好ましく、20〜60質量%がより好ましく、30〜55質量%がさらに好ましい。
A成分が上記範囲で含有されていれば、優れた柔軟性を有する成形体が得られる。B成分が上記範囲で含有されていれば、優れた耐油性を有する成形体が得られる。
【0013】
本組成物におけるA成分とB成分の合計含有量は、本組成物に対して90%質量以上であり、90〜100質量%が好ましく、95〜99.7質量%がより好ましく、97〜99.5質量%がさらに好ましい。
上記合計含有量が、前記下限値以上であれば本発明の効果を充分に奏することができ、前記上限値以下であれば、本組成物の性状を変化させるための他の成分を含有させることができる。
【0014】
また、A成分は、B成分に分散しており、B成分の融点より25℃高い温度における本組成物の貯蔵弾性率E’は、250kPa以下である。
A成分がB成分中に分散しているとは、A成分とB成分が相分離していることを意味する。溶融混練過程においてA成分とB成分が相溶して均一な溶融状態になっていたとしても、冷却の過程において相分離が生じると考えられる。溶融混練過程においてA成分とB成分が相溶しない場合においては、溶融混練過程においてA成分がB成分中に微細な構造体となって分散すると考えられる。
A成分は、海島構造(球状)または共連続構造(Gyroid)を形成するように、B成分中に分散していることが好ましい。
本発明において、海島構造とは、比較的連続的に見える部分(本発明においては、B成分である。)の中に、不連続的な部分(本願発明においては、A成分である。)が混在している状態の構造を意味し、不連続な部分のそれぞれの塊における最大幅が70μm程度であることを意味する。
本発明において、共連続構造とは、海島構造における不連続な部分のそれぞれの塊が、一部接合し、最大幅が50μm以下で連続的につながった連続性構造を有する状態を意味する。
【0015】
本組成物の貯蔵弾性率E’は250kPa以下であり、0〜200kPaが好ましく、0〜150kPaがより好ましく、0〜130kPaがさらに好ましい。
上記貯蔵弾性率E’が前記範囲内にあれば、成形時における充分な流動性を確保でき、成形性に優れ、本組成物を含む成形体は表面平滑性に優れる。
【0016】
(含フッ素エラストマー)
本発明において、A成分である含フッ素エラストマーは100以上の貯蔵せん断弾性率G’を示す。
含フッ素エラストマーの貯蔵せん断弾性率G’は100以上であり、150〜1000が好ましく、200〜800がより好ましく、220〜600がさらに好ましい。
上記貯蔵せん断弾性率G’が前記下限値以上であれば、成形体の機械的強度が良好となる。貯蔵せん断弾性率G’が前記上限値以下であれば、高い流動性を有し、B成分中における分散が良好となり、かつ成形体の柔軟性を高めることができる。
【0017】
A成分である含フッ素エラストマーは、フッ素を含有し、100以上の貯蔵せん断弾性率G’を示す、融点を持たない弾性共重合体(エラストマー)であればよい。
含フッ素エラストマーにおけるフッ素含有量は、50〜74質量%以上であることが好ましく、55〜70質量%以上であることがより好ましい。該フッ素含有量は、具体的には、後述のTFE/P含有共重合体においては57〜60質量%が好ましく、後述のHFP/VdF含有共重合体においては66〜71質量%が好ましく、後述のTFE/PMVE含有共重合体においては66〜70質量%が好ましい。
上記フッ素含有量が前記下限値以上であれば、優れた耐熱性および耐薬品性を有する成形体が得られる。上記フッ素含有量が前記上限値以下であれば、成形体の柔軟性を高めることができる。
該フッ素含有量は、フッ素含有量の分析により得られ、含フッ素エラストマーを構成するすべての原子の総質量に対するフッ素原子の質量の割合を示す。
【0018】
含フッ素エラストマーの数平均分子量は、1万〜150万が好ましく、2万〜100万がより好ましく、2万〜80万がさらに好ましく、5万〜60万が特に好ましい。該数平均分子量が前記下限値以上であれば、成形体の機械的強度が良好となる。該数平均分子量が前記上限値以下であれば、高い流動性を有し、B成分中における分散が良好となり、かつ成形体の柔軟性を高めることができる。
上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」と記す。)により測定された値である。
【0019】
A成分としては、含フッ素エラストマーの1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよいが、1種を用いることが好ましい。
A成分としての含フッ素エラストマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フッ化ビニリデン(VdF)、およびクロロトリフルオロエチレン(CTFE)から選ばれる1種以上のモノマー(以下、「モノマー(MA1)」とも言う。)に基づく単位を含むエラストマーであることが好ましい。
【0020】
含フッ素エラストマーが、モノマー(MA1)に基づく単位を含むエラストマーである場合、含フッ素エラストマーは、TFEに基づく単位(以下、「TFE単位」とも言う。他の単位についても同様である。)、HFP単位、VdF単位、およびCTFE単位から選ばれる2種または3種の単位のみからなるエラストマーであってもよく、モノマー(MA1)と、モノマー(MA1)と共重合可能であり、当該エラストマーが弾性共重合体となる、モノマー(MA1)以外の他のモノマー(以下、「モノマー(MA2)」とも言う。)に基づく単位の1種以上とからなるエラストマーであってもよい。
【0021】
モノマー(MA2)としては、エチレン、プロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、フッ化ビニル(VF)、1,2−ジフルオロエチレン(DiFE)、1,1,2−トリフルオロエチレン(TrFE)、3,3,3−トリフルオロ−1−プロピレン(TFP)、1,3,3,3−テトラフルオロプロピレン、および2,3,3,3−テトラフルオロプロピレンからなる群より選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。なお、重合体におけるエチレンに基づく単位は「E」で表し、プロピレンに基づく単位は「P」で表す。
【0022】
ここで、PAVEは、下式(I)で表されるモノマーであり、具体的には、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)(PBVE)が挙げられる。
CF2=CF(ORF) ・・・(I)
[式中、RFは炭素数1〜8の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基である。]
【0023】
含フッ素エラストマーは、モノマー(MA1)と共重合可能であり、当該エラストマーが弾性共重合体となる、モノマー(MA1)およびモノマー(MA2)以外の他のモノマー(以下、「モノマー(MA3)」とも言う。)に基づく単位の1種以上を有していてもよい。
含フッ素エラストマーを構成する全単位のうち、モノマー(MA3)に基づく単位は20モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましく、モノマー(MA3)に基づく単位を有さないことがさらに好ましい。
【0024】
含フッ素エラストマーは、含フッ素エラストマーを構成する全単位の100モル%が、モノマー(MA1)に基づく単位の2種または3種からなるか、または、モノマー(MA1)に基づく単位の1種以上と、モノマー(MA2)に基づく単位の1種以上とからなることが好ましい。ただし、これら以外のモノマー単位を含有することは許容される。
モノマー(MA1)に基づく単位の2種または3種からなるエラストマー、および、モノマー(MA1)に基づく単位の1種以上とモノマー(MA2)に基づく単位の1種以上とからなるエラストマーは、成形体の柔軟性に寄与する。
【0025】
A成分としての含フッ素エラストマーとしては、TFE/P含有共重合体(TFE単位とP単位とを含有する共重合体を意味する。なお、「/」で結ばれた各単位の合計、TFE/P含有共重合体の場合にはTFE単位とP単位との合計が、すべての単位の合計に占める割合は、50モル%以上であることが好ましい。他の「含有共重合体」についても同様である。)、HFP/VdF含有共重合体、TFE/PAVE含有共重合体が挙げられる。
なお、TFE/PAVE含有共重合体には、TFE単位とPAVE単位とを有する共重合体であっても、さらにP単位やVdF単位を含むものは含まない。また、HFP/VdF含有共重合体には、HFP単位とVdF単位とを有する共重合体であっても、さらにP単位を含むものは含まない。
【0026】
TFE/P含有共重合体としては、TFE/P(TFE単位とP単位とからなる共重合体を意味する。他についても同様である。)、TFE/P/VF、TFE/P/VdF、TFE/P/E、TFE/P/TFP、TFE/P/PAVE、TFE/P/1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、TFE/P/2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、TFE/P/TrFE、TFE/P/DiFE、TFE/P/VdF/TFP、TFE/P/VdF/PAVEが挙げられ、なかでもTFE/Pが好ましい。
HFP/VdF含有共重合体としては、HFP/VdF、TFE/VdF/HFP、TFE/VdF/HFP/TFP、TFE/VdF/HFP/PAVE、VdF/HFP/TFP、VdF/HFP/PAVEが挙げられ、なかでもHFP/VdFが好ましい。
TFE/PAVE含有共重合体としては、TFE/PAVE、TFE/PMVE、TFE/PMVE/PPVEが挙げられ、なかでもTFE/PMVEが好ましい。
【0027】
含フッ素エラストマーとしては、上記のTFE/P含有共重合体、HFP/VdF含有共重合体、TFE/PAVE含有共重合体以外に、TFE/VdF/2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、VdF/PAVE、VdF/2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、E/HFPも挙げられる。
【0028】
上記の含フッ素エラストマーのなかでも、TFE/P含有共重合体、HFP/VdF含有共重合体、TFE/PAVE含有共重合体が好ましく、TFE/P含有共重合体がより好ましく、TFE/P共重合体がさらに好ましい。
【0029】
これらのエラストマーの組成は、本組成物から得られる成形体の柔軟性に寄与しやすい点から、以下の範囲が好ましい。
TFE/Pにおいて、TFE:P(TFE単位とP単位とのモル比を意味する。下記の他のモル比についても同様である。)は、30〜80:70〜20が好ましく、40〜70:60〜30がより好ましく、60〜50:40〜50がさらに好ましい。TFE/P/VFにおいて、TFE:P:VF=30〜60:60〜20:0.05〜40が好ましい。TFE/P/VdFにおいて、TFE:P:VdF=30〜60:60〜20:0.05〜40が好ましい。TFE/P/Eにおいて、TFE:P:E=20〜60:70〜30:0.05〜40が好ましい。TFE/P/TFPにおいて、TFE:P:TFP=30〜60:60〜30:0.05〜20が好ましい。TFE/P/PAVEにおいて、TFE:P:PAVE=40〜70:60〜29.95:0.05〜20が好ましい。TFE/P/1,3,3,3−テトラフルオロプロペンにおいて、TFE:P:1,3,3,3−テトラフルオロプロペン=30〜60:60〜20:0.05〜40が好ましい。TFE/P/2,3,3,3−テトラフルオロプロペンにおいて、TFE:P:2,3,3,3−テトラフルオロプロペン=30〜60:60〜20:0.05〜40が好ましい。TFE/P/TrFEにおいて、TFE:P:TrFE=30〜60:60〜20:0.05〜40が好ましい。TFE/P/DiFEにおいて、TFE:P:DiFE=30〜60:60〜20:0.05〜40が好ましい。TFE/P/VdF/TFPにおいて、TFE:P:VdF:TFP=30〜60:60〜20:0.05〜40:0.05〜20が好ましい。TFE/P/VdF/PAVEにおいて、TFE:P:VdF:PAVE=30〜70:60〜20:0.05〜40:0.05〜20が好ましい。HFP/VdFにおいて、HFP:VdF=99〜5:1〜95が好ましい。TFE/VdF/HFPにおいて、TFE:VdF:HFP=20〜40:1〜40:20〜40が好ましい。TFE/VdF/HFP/TFPにおいて、TFE:VdF:HFP:TFP=30〜60:0.05〜40:60〜20:0.05〜20が好ましい。TFE/VdF/HFP/PAVEにおいて、TFE:VdF:HFP:PAVE=30〜70:60〜20:0.05〜40:0.05〜20が好ましい。VdF/HFP/TFPにおいて、VdF:HFP:TFP=1〜90:95〜5:0.05〜20が好ましい。VdF/HFP/PAVEにおいて、VdF:HFP:PAVE=20〜90:9.95〜70:0.05〜20が好ましい。TFE/PAVEにおいて、TFE:PAVE=40〜70:60〜30が好ましい。TFE/PMVEにおいて、TFE:PMVE=40〜70:60〜30が好ましい。TFE/PMVE/PPVEにおいて、TFE:PMVE:PPVE=40〜70:3〜57:3〜57が好ましい。TFE/VdF/2,3,3,3−テトラフルオロプロペンにおいて、TFE:VdF:2,3,3,3−テトラフルオロプロペン=1〜30:30〜90:5〜60が好ましい。VdF/PAVEにおいて、VdF:PAVE=3〜95:97〜5が好ましい。VdF/2,3,3,3−テトラフルオロプロペンにおいて、VdF:2,3,3,3−テトラフルオロプロペン=30〜95:70〜5が好ましい。E/HFPにおいて、E:HFP=40〜60:60〜40が好ましい。
【0030】
(含フッ素エラストマーの製造)
含フッ素エラストマーは、1種以上のモノマー(MA1)、ならびに必要に応じてモノマー(MA2)およびモノマー(MA3)の一方または両方の1種以上を共重合することにより製造できる。
重合法としては、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法等が挙げられる。含フッ素共重合体の数平均分子量や共重合体組成の調整が容易で、生産性に優れることから、水性媒体および乳化剤の存在下で、単量体を重合する乳化重合法が好ましい。
乳化重合法では、水性媒体、乳化剤およびラジカル重合開始剤の存在下に、上記モノマーを含む単量体成分を重合(乳化重合)する工程(乳化重合工程)を経て、エラストマーのラテックスを得る。乳化重合工程においては、pH調整剤を添加してもよい。
【0031】
(フッ素樹脂)
本組成物において、B成分であるフッ素樹脂は融点が150℃以上の溶融成形可能な樹脂である。
B成分であるフッ素樹脂におけるフッ素含有量は、50〜74質量%であることが好ましく、53〜70質量%であることがより好ましい。該フッ素含有量は、別の態様として、50〜70質量%であることが好ましく、さらに別の態様として、53〜74質量%であることが好ましい。
上記フッ素含有量が前記下限値以上であれば、優れたな耐熱性および耐薬品性の成形体が得られる。上記フッ素含有量が前記上限値以下であれば、成形体の柔軟性を高めることができる。
【0032】
上記フッ素含有量は、フッ素含有量の分析により得られ、フッ素樹脂を構成するすべての原子の総質量に対するフッ素原子の質量の割合を示す。
B成分であるフッ素樹脂の数平均分子量は、1万〜100万が好ましく、2万〜50万がより好ましく、2万〜30万が更に好ましく、5万〜30万がさらに好ましい。該数平均分子量が前記下限値以上であれば、成形体の機械的強度が良好となる。該数平均分子量が前記上限値以下であれば、高い流動性を有し、含フッ素エラストマーを良好に分散させることができ、かつ成形体の柔軟性を高めることができる。
【0033】
B成分であるフッ素樹脂の融点は215℃以上であり、215〜300℃が好ましく、215〜280℃がより好ましく、215〜270℃がさらに好ましい。
該融点が前記下限値以上であれば、充分な耐熱性を有するフッ素樹脂組成物が得られる。該融点が前記上限値以下であれば、高温を必要とせずにフッ素樹脂組成物および成形体が製造できる。
【0034】
B成分であるフッ素樹脂としては、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよいが、1種を用いることが好ましい。
【0035】
フッ素樹脂は、以下のモノマー(MB1)〜モノマー(MB7)に基づく単位の1種以上を含む重合体であることが好ましい。
モノマー(MB1):TFE、CTFE。
モノマー(MB2):下式(II)で表される化合物(以下、「FAE」とも言う。)。
CH=CX(CFY ・・・(II)
[式中、XおよびYは、それぞれ同一または異なって、水素原子またはフッ素原子であり、nは2〜8の整数である。]
モノマー(MB3):VdF、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン等の不飽和基に水素原子を有するフルオロオレフィン。
モノマー(MB4):HFP等の不飽和基に水素原子を有しないフルオロオレフィン(ただし、モノマー(MB1)を除く。)。
モノマー(MB5):PAVE。
モノマー(MB6):CF=CFOCFCF=CF、CF=CFO(CFCF=CF等の不飽和結合を2個有するパーフルオロビニルエーテル類。
モノマー(MB7):パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、2,2,4−トリフルオロ−5−トリフルオロメトキシ−1,3−ジオキソール、パーフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)等の脂肪族環構造を有する含フッ素モノマー類。
【0036】
得られる成形体の耐熱性、耐薬品性、耐候性、非粘着性が優れる点から、フッ素樹脂はモノマー(MB1)に基づく単位を含むことが好ましく、モノマー(MB1)に基づく単位のなかでも、TFE単位を含むことがより好ましい。
また、得られる成形体の耐熱性、耐薬品性、耐候性、非粘着性が優れる点から、フッ素樹脂は、モノマー(MB1)に基づく単位と、モノマー(MB2)〜モノマー(MB7)のいずれか1種以上のモノマーに基づく単位とを含むことが好ましく、モノマー(MB1)とに基づく単位と、モノマー(MB2)、モノマー(MB4)及びモノマー(MB5)のいずれか1種以上のモノマーに基づく単位とを含むことがより好ましく、モノマー(MB1)に基づく単位と、モノマー(MB4)に基づく単位と、モノマー(MB5)に基づく単位とを含むことがさらに好ましい。
【0037】
なお、式(II)におけるnは2〜8の整数であり、他のモノマーとの重合反応性の観点から、2〜6の整数が好ましく、2〜4の整数がより好ましい。式(II)におけるnが前記下限値以上であれば、樹脂にクラックが発生する等の不具合の発生を抑制できる。式(II)におけるnが前記上限値以下であれば、良好な重合反応性を有する。
【0038】
FAEとしては、具体的には、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFH、CH=CH(CFH、CH=CH(CFH、CH=CH(CFH、CH=CH(CFHが挙げられる。
【0039】
フッ素樹脂が、モノマー(MB1)〜モノマー(MB7)に基づく単位の1種以上を含む場合、フッ素樹脂は、モノマー(MB1)〜モノマー(MB7)と共重合可能な、モノマー(MB1)〜モノマー(MB7)以外のモノマー(以下、「MB8」とも言う。)に基づく単位の1種以上を含んでもよい。
【0040】
モノマー(MB8)としては、官能基を有しないモノマーや官能基含有モノマーが挙げられる。
官能基を有しないモノマーとしては、たとえば、下記のモノマーが挙げられる。
α−オレフィン類:エチレン、プロピレン、ブテン等。
アルキルビニルエーテル類:エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等。
ビニルエステル類:酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、パラ−t−ブチル安息香酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、モノクロル酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、アクリル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、桂皮酸ビニル、ウンデシレン酸ビニル、ヒドロキシ酢酸ビニル、ヒドロキシプロピオイン酸ビニル、ヒドロキシ酪酸ビニル、ヒドロキシ吉草酸ビニル、ヒドロキシイソ酪酸ビニル、ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸ビニル等。
アルキルアリルエーテル類:エチルアリルエーテル、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、イソブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル等。
アルキルアリルエステル類:エチルアリルエステル、プロピルアリルエステル、ブチルアリルエステル、イソブチルアリルエステル、シクロヘキシルアリルエステル等。
官能基含有モノマーとしては、たとえば、下記のモノマーが挙げられる。
水酸基、エポキシ基を有するビニルエーテル類:メタクリル酸グリシジル等。
不飽和カルボン酸:アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ウンデシレン酸等。
不飽和カルボン酸無水物:無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ハイミック酸等。
【0041】
B成分であるフッ素樹脂としては、TFE含有重合体(TFE単位を有する重合体を意味する。他の「含有重合体」も同様である。)、VdF含有重合体、CTFE含有重合体が挙げられる。
なお、VdF単位を有する重合体は、さらにTFE単位やCTFE単位を有していてもVdF含有重合体とする。また、CTFE含有重合体には、CTFE単位を有する重合体であっても、さらにTFE単位およびVdF単位の一方または両方を含むものは含まない。
【0042】
TFE含有重合体としては、E/TFE含有共重合体、TFE/HFP含有共重合体、TFE/PAVE含有共重合体が挙げられる。
CTFE含有重合体としては、E/CTFE含有共重合体が挙げられる。
また、TFE/PAVE含有共重合体の一種としてPFAが挙げられる。
【0043】
なお、B成分は215℃以上の融点を持つ、溶融成形可能な樹脂であり、A成分は融点を持たない弾性共重合体である。したがって、たとえば、B成分であるTFE/PAVE系共重合体と、A成分であるTFE/PAVE系共重合体とは異なる。
【0044】
上記のフッ素樹脂のなかでも、耐熱性、耐薬品性、機械的強度のバランスに優れる点から、B成分としては、下記ETFEおよびE/CTFE含有共重合体が好ましく、ある態様として下記ETFEがより好ましく、別の態様としてE/CTFE含有共重合体がより好ましい。
【0045】
本組成物の耐熱性、耐薬品性、機械的強度の優れたバランスに寄与しやすい点から、E/TFE含有共重合体としては、E単位:TFE単位のモル比が80:20〜20:80であって、E単位およびTFE単位以外の単位(以下、「第3の単位」とも言う。)を全単位に対して20モル以下含むE/TFE含有共重合体(以下、「ETFE」とも言う。)が好ましい。ETFEにおけるE単位:TFE単位のモル比は、70:30〜30:70がより好ましく、50:50〜35:65がさらに好ましい。
ETFEにおける第3の単位の含有量は、全単位に対して、0.01〜20モル%が好ましく、0.1〜10モル%がより好ましく、0.8〜5モル%がさらに好ましい。
第3の単位としては、FAEに基づく単位が好ましい。
【0046】
ETFEの融点は、150〜300℃が好ましく、160〜280℃がより好ましく、170〜270℃がさらに好ましい。
また、ETFEの容量流速は、0.1〜200mm/秒が好ましく、0.5〜100mm/秒がより好ましく、1〜50mm/秒がさらに好ましい。
容量流速は、樹脂の溶融流動性を表す指標であり、分子量の目安となる。容量流速が大きいと分子量が低く、容量流速小さいと分子量が高いことを示す。
容量流速は、島津製作所製フローテスターを用いて、樹脂の融点より50℃高い温度において、荷重7kg下に、直径:2.1mm、長さ:8mmのオリフィス中に押出すときの樹脂の押出し速度として得られる。
【0047】
(他の成分)
本組成物は、A成分およびB成分以外に、任意成分として他の成分を含んでもよい。ただし、溶融混練時にA成分やB成分を変性させる等の作用を有する成分(たとえば、後述の架橋剤、架橋助剤等)を含まない。
他の成分としては、エポキシ基を含有するエチレン共重合体に由来するエチレン共重合体(以下「C成分」とも言う。)および難燃剤が挙げられ、本組成物にその一方が含まれていても、両方が含まれていてもよい。
本組成物に占める、上記他の成分の合計は、本組成物の10質量%以下であり、8質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0048】
本組成物は、A成分およびB成分の他に、C成分であるエチレン共重合体を含んでもよい。C成分は、A成分とB成分との相溶性を高め、B成分中におけるA成分の分散をより良好にすることができる。
【0049】
C成分は、溶融混練物であるフッ素樹脂組成物中に含まれる成分であり、溶融混練前のエポキシ基を含有するエチレン共重合体に由来する。エポキシ基を含有するエチレン共重合体を前記含フッ素エラストマーや前記フッ素樹脂とともに溶融混練して溶融混練物とする際に、エポキシ基の一部または全部は反応により失われると考えられる。溶融混練の際のエポキシ基の消失は、C成分がA成分とB成分との相溶性を高めてA成分の分散性を向上させる作用に寄与していると推測される。
前記溶融混練物中のC成分の含有量は、溶融混練前の全原料成分(A成分とB成分とエポキシ基を含有するエチレン共重合体と任意に難燃剤からなる)中のエポキシ基を含有するエチレン共重合体の含有量に等しい。エポキシ基が消失しても、原料におけるエポキシ基を含有するエチレン共重合体の割合と本組成物におけるC成分との間の質量変化は無視しうるからである。
【0050】
本組成物が、C成分を含む場合、C成分の含有量は、A成分とB成分の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、0.3〜8質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましい。
C成分の含有量が前記下限値以上であれば、本組成物や成形体の熱変色を生じにくく、前記上限値以下であれば、充分な耐油性および耐熱性を有する成形体が得られる。
【0051】
<エポキシ基を含有するエチレン共重合体>
エポキシ基を含有するエチレン共重合体は、前記含フッ素エラストマーや前記フッ素樹脂とともに溶融混練できる融点を有する。すなわち、その融点は150℃未満である。
エポキシ基を含有するエチレン共重合体としては、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよいが、1種を用いることが好ましい。
【0052】
エポキシ基を含有するエチレン共重合体としては、E単位と、エポキシ基を有するモノマー(以下、「モノマー(MC1)」とも言う。)の1種以上に基づく単位とからなる2元以上の共重合体、E単位と、モノマー(MC1)の1種以上に基づく単位と、エチレンと共重合可能な、エチレンおよびモノマー(MC1)以外のモノマー(以下、「モノマー(MC2)とも言う。」)の1種以上に基づく単位とからなる3元以上の共重合体等のエチレン共重合体が挙げられる。
【0053】
モノマー(MC1)としては、不飽和グリシジルエーテル類(アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル等)、不飽和グリシジルエステル類(アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等)等が挙げられる。A成分とB成分との相溶性を向上させられる点から、モノマー(MC1)としては、メタクリル酸グリシジルが好ましい。
【0054】
モノマー(MC2)としては、アクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等)、メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等)、脂肪酸ビニルエステル類(酢酸ビニル等)、エチレン以外のαオレフィン類等が挙げられる。
A成分とB成分との相溶性を向上させられる点から、モノマー(MC2)としては、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、および脂肪酸ビニルエステル類(以下、まとめて「モノマー(MC3)」とも言う。モノマー(MC3)は、モノマー(MC2)の一部の集合である。)が好ましい。
【0055】
エポキシ基を含有するエチレン共重合体としては、本組成物の成形性や成形体の柔軟性、耐油性等の特性がより優れる点から、E単位とメタクリル酸グリシジル単位とを有する、E/メタクリル酸グリシジル含有共重合体が好ましく、E/メタクリル酸グリシジル共重合体、E/メタクリル酸グリシジル/モノマー(MC3)共重合体がより好ましい。
E/メタクリル酸グリシジル/モノマー(MC3)共重合体としては、E/メタクリル酸グリシジル/酢酸ビニル共重合体、E/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸メチル共重合体、E/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸エチル共重合体が挙げられ、E/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸メチル共重合体、E/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸エチル共重合体が好ましい。
【0056】
エポキシ基を含有するエチレン共重合体に占める、E単位の含有量は、成形体の耐熱性および靱性の点から、55〜99.9モル%が好ましく、70〜94モル%がより好ましい。
エポキシ基を含有するエチレン共重合体に占める、モノマー(MC1)に基づく単位の含有量は、本組成物の成形性および成形体の機械的特性の点から、0.1〜45モル%が好ましく、1〜10モル%がより好ましい。
エポキシ基を含有するエチレン共重合体がモノマー(MC2)に基づく単位を有する場合、エポキシ基を含有するエチレン共重合体に占める、モノマー(MC2)に基づく単位の含有量は、1〜30モル%が好ましく、5〜20モル%がより好ましい。
【0057】
各単位の含有量が上記範囲内のエポキシ基を含有するエチレン共重合体を用いると、A成分とB成分との相溶性をより向上させることができる。その結果、本組成物の成形性が優れ、得られる成形体は、柔軟性、耐油性、耐熱性などの特性がより優れる。
エポキシ基を含有するエチレン共重合体としては市販品を用いることもでき、エポキシ基を含有するエチレン共重合体の市販品としては、「ボンドファースト(住友化学社商品名)E」(E/メタクリル酸グリシジル共重合体)、「ボンドファースト7M」(住友化学社商品名、E/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸メチル共重合体)が挙げられる。
【0058】
<難燃剤>
難燃剤としては、特に限定されず、公知の難燃剤を採用できる。例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、五酸化アンチモン、ホスファゼン化合物、リン酸エステル、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム、赤リン、モリブデン化合物、ホウ酸化合物、PTFE等が挙げられる。そのうちでも、三酸化アンチモン、芳香族リン酸エステル(トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート等)、PTFE(樹脂中でフィブリル構造を形成するドリップ防止剤である)が好ましい。
【0059】
(フッ素樹脂組成物の製造方法)
本発明のフッ素樹脂組成物は、A成分とB成分と、必要に応じて前記任意成分とを、溶融混練し冷却することにより製造される。冷却された溶融混練物は、適宜の大きさのペレット状や粒状に成形された、成形材料として使用される固体状溶融混練物であることが好ましい。溶融混練法としては、溶融混練押出機構を有する機器で溶融混練押出する方法が好ましい。溶融混練し押し出された線状の溶融混練物を適宜の大きさに切断してペレット状や粒状の溶融混練物とすることができる。
なお、任意成分は、A成分とB成分とを溶融混練押出する際にそれら成分とともに溶融混練される。
任意成分であるC成分は、前記のように、原料であるエポキシ基を有するエチレン共重合体に由来する成分である。エポキシ基を有するエチレン共重合体が溶融混練によりC成分となるが、その変化(エポキシ基の消失)において物質の量的変化はないと考えられることより、溶融混練前の原料におけるエポキシ基を有するエチレン共重合体の量は、前記特定の含フッ素エラストマーと前記特定のフッ素樹脂との合計100質量部に対して0〜10質量部である。
【0060】
溶融混練押出に用いる装置としては、二軸押出機、多軸押出機等の二軸以上の溶融混練押出機構を有する機器を用いることが好ましく、混練効果の高いスクリューを備える二軸押出機、混練効果の高いスクリューを備える多軸押出機を用いることがより好ましい。
混練効果の高いスクリューとしては、溶融混練押出対象物に充分な混練効果を与え、かつ、過剰なせん断力を与えないものを選択することができる。
【0061】
二軸以上の溶融混練押出機構を有する機器は連続式の二軸以上の溶融混練押出機構を有する機器であることが好ましい。
連続式の二軸以上の溶融混練押出機構を有する機器を用いることにより、溶融混練押出対象物に充分な混練効果を与えることができる。バッチ式の溶融混練押出機構を有する機器を用いると、せん断力が不充分なため、溶融混練押出対象物に充分な混練効果を与えられないことがある。
【0062】
また、二軸以上の溶融混練押出機構を有する機器は1以上のニーディングゾーンを備え、2以上のニーディングゾーンを備えることが好ましい。
また、二軸以上の溶融混練押出機構を有する機器におけるスクリュー径Dに対するニーディングゾーンの長さL(2以上のニーディングゾーンを備える場合には、それぞれのニーディングゾーンの長さの合計)の比(L/D)は、0.1〜50であることが好ましく、1〜20であることがより好ましく、3〜10であることがさらに好ましい。
溶融混練押出における混練温度は、B成分の融点より、5℃以上高い温度で行うことが好ましく、5〜80℃高い温度で行うことがより好ましく、5〜50℃高い温度で行うことがさらに好ましい。
【0063】
溶融混練押出におけるせん断速度は、溶融混練押出対象物の溶融粘度に応じて設定することが好ましい。
溶融混練押出における二軸以上の溶融混練押出機構を有する機器のスクリューの回転数は、50〜700rpmが好ましく、100〜500rpmがより好ましく、200〜400rpmがさらに好ましい。
溶融混練押出における、ニーディングゾーンの個数、ニーディングゾーンの長さ、混練温度、およびせん断速度を適切に調整することにより、本組成物の、B成分の融点より25℃高い温度における貯蔵弾性率E’を250kPa以下に制御できる。
【0064】
より多くのニーディングゾーンを設けることにより、溶融混練押出において、B成分中に分散するA成分をより小粒径化し、より良好な分散状態とすることができる。
また、より長いニーディングゾーンの長さ(2以上のニーディングゾーンを備える場合には、それぞれのニーディングゾーンの長さの合計)とすることにより、溶融混練押出において、B成分中に分散するA成分をより小粒径化し、より良好な分散状態とすることができる。
また、より高い混練温度とすることにより、混練押出において、B成分中に分散するA成分をより小粒径化し、より良好な分散状態とすることができる。
また、より大きいせん断速度とすることにより、押出混練において、B成分中に分散するA成分をより小粒径化し、より良好な分散状態とすることができる。
これらの条件を適宜調整して、溶融混練押出において、B成分中に分散するA成分を充分に小粒径化し、充分な分散状態とすることによって、B成分の融点より25℃高い温度における、本組成物の貯蔵弾性率E’を250kPa以下に制御できる。
【0065】
溶融混練押出は、溶融混練押出対象物の粘度が一定になるまで実施する。溶融混練押出対象物の溶融混練押出中の粘度変化は、スクリューを介してトルクメーターによる回転トルクの経時変化により観測できる。
「溶融混練押出対象物の粘度が一定になるまで」とは、回転トルクの値の変動が一定時間以上中心値から5%以内にある状態となるまで溶融混練押出することを意味する。
溶融混練押出に要する時間は、混練温度、せん断速度、溶融混練押出対象物の組成、二軸以上の溶融混練押出機構を有する機器のスクリュー形状等により変わり得るが、経済性と生産性の点から、1〜30分が好ましく、1〜20分がより好ましく、2〜10分がさらに好ましい。
【0066】
溶融混練押出に用いるA成分の形態としては、クラムが好ましい。特に、乳化重合で得られたエラストマーのラテックスを凝集することにより得られた、含フッ素エラストマーのクラムを乾燥して用いることが好ましい。
溶融混練押出に用いるB成分の形態としては、粉体が好ましい。粉体としては、粒子径の小さいものがより好ましい。粒径が小さいと、溶融混練押出における混練が容易となるうえ、均一な溶融混練押出状態を得られやすい。特に、粉体としては、溶液重合で得られた樹脂スラリーを乾燥して得られた、フッ素樹脂の粉体が好ましい。
また、溶融混練押出を実施する前に、A成分のクラムとB成分の粉体とを、公知の装置を用いて加熱せずに混合してもよい。また、A成分のクラムとB成分の粉体とは、溶融混練押出時に二軸以上の溶融混練押出機構を有する機器内で混合してもよい。
【0067】
[成形体]
本発明の被覆電線に用いる被覆材は、前記組成物を成形してなる成形体を被覆材としたものである。
前記成形体は、前記フッ素樹脂組成物を含む成形材料(以下、「本成形材料」とも言う)を成形してなる成形体(以下、「本成形体」とも言う。)であるものが好ましい。以下、被覆材として前記フッ素樹脂組成物を用いたものについて説明する。本成形体は、前記本成形材料を架橋してなる架橋物であってもよく、本本成形材料を成形してなる成形体を架橋してなる架橋物であってもよい。
【0068】
本成形材料は、前記フッ素樹脂組成物の他に、成形体が使用される用途に応じて、架橋剤、架橋助剤、充填剤、安定剤、着色剤、酸化防止剤、加工助剤、滑剤、潤滑剤、帯電防止剤等などの配合剤が添加されてもよく、必要に応じてこれらの1種以上を添加できる。
前記本成形材料を架橋する場合には、これら配合剤のうち、架橋剤または架橋助剤を含有することが好ましい。
【0069】
架橋剤としては、従来公知のものはすべて使用できるが、有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物としては、加熱、酸化還元の存在下で容易にラジカルを発生するものであれば使用できる。有機過酸化物を用いて架橋されたフッ素樹脂組成物は耐熱性に優れる。
有機過酸化物の具体例としては、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロへキサン、2,5−ジメチルへキサン−2,5−ジヒドロパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−へキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−へキシン−3、ジベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)へキサン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等が挙げられる。中でもα,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼンが挙げられる。これらの有機過酸化物は、含フッ素エラストマー組成物の架橋性に優れる。
架橋された成形体を製造する場合、本成形材料における架橋剤の含有量は、A成分の100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、0.2〜4質量部がより好ましく、0.5〜3質量部がさらに好ましい。該含有量が前記範囲内であれば、有機過酸化物の架橋効率が高い。架橋剤は1種以上を使用できる。
【0070】
架橋助剤としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタールアミド、トリアリルホスフェート等が挙げられ、なかでも、トリアリルイソシアヌレートが好ましい。
架橋された成形体を製造する場合、本成形材料における架橋助剤の含有量は、A成分の100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましく、0.5〜15質量部がより好ましく、1〜10質量部がさらに好ましい。該含有量が前記下限値以上であれば、架橋速度が大きく、充分な架橋度が得られやすい。該含有量が前記上限値以下であれば、架橋物の伸びなどの特性が良好となる。架橋助剤は1種以上を使用できる。
【0071】
充填剤としては、カーボンブラック、ホワイトカーボン、クレー、タルク、炭酸カルシウム、ガラス繊維、炭素繊維、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ETFEなど。)等が挙げられる。
カーボンブラックとしては、フッ素ゴムの充填剤として用いられているものであれば制限なく使用できる。その具体例としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイト等が挙げられ、ファーネスブラックが好ましい。ファーネスブラックとしては、HAF−LSカーボン、HAFカーボン、HAF−HSカーボン、FEFカーボン、GPFカーボン、APFカーボン、SRF−LMカーボン、SRF−HMカーボン、MTカーボン等が挙げられ、これらのなかではMTカーボンがより好ましい。
本成形材料がカーボンブラックを含有する場合、カーボンブラックの含有量は、A成分の100質量部に対して、1〜50質量部が好ましく、3〜20質量部がより好ましい。該含有量が前記下限値以上であれば、成形体の強度が優れ、カーボンブラックを配合したことによる補強効果が充分に得られる。また、該含有量が前記上限値以下であれば、成形体の伸びも優れる。このようにカーボンブラックの含有量が前記範囲内であれば、成形体の強度と伸びとのバランスが良好となる。
【0072】
本成形材料がカーボンブラック以外の充填剤を含有する場合、その含有量は、本組成物の100質量部に対して、5〜200質量部が好ましく、10〜100質量部がより好ましい。
なお、充填剤は1種以上を使用でき、カーボンブラックとそれ以外の充填剤とを併用してもよい。本成形材料が、カーボンブラックとそれ以外の充填剤とを含有する場合、その含有量は、本組成物の100質量部に対して、1〜100質量部が好ましく、3〜50質量部がより好ましい。
【0073】
安定剤としては、ヨウ化銅、酸化鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化アンチモン、五酸化リン等が挙げられる。本成形材料における安定剤の含有量は、本組成物の100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.2〜5質量部がより好ましく、0.5〜3質量部がさらに好ましい。安定剤は1種以上を使用できる。
加工助剤としては、高級脂肪酸、高級脂肪酸のアルカリ金属塩等が挙げられ、具体的には、ステアリン酸、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩が好ましい。本成形材料における加工助剤の含有量は、本組成物の100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.2〜5質量部がより好ましく、1〜3質量部がさらに好ましい。加工助剤は1種以上を使用できる。
滑剤としては、高級脂肪酸、高級脂肪酸のアルカリ金属塩等があげられ、具体的には、ステアリン酸、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩が好ましい。滑剤の含有量は、本組成物の100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、0.2〜10質量部がより好ましく、1〜5質量部がさらに好ましい。
【0074】
本成形体を製造するための溶融成形する方法としては、射出成形、押出成形、共押出成形、ブロー成形、圧縮成形、インフレーション成形、トランスファー成形、カレンダー成形等が挙げられる。
本発明のフッ素樹脂組成物は、A成分よりも溶融粘度が低いことから、引き取り速度を大きく設定できるため、成形加工性に優れる。
【0075】
架橋物からなる本成形体を製造するための架橋方法としては特に限定されず、有機過酸化物を架橋剤として使用した化学架橋法、X線、γ線、電子線、陽子線、重陽子線、α線、β線等の電離性放射線を使用した照射架橋法などが挙げられ、成形と同時に架橋が行われてもよく、成形の後に架橋が行われてもよい。
【0076】
[被覆電線]
本発明の被覆電線において、芯線の外周に形成される被覆材は、芯線と直接接して形成されたものだけでなく、芯線との間に他の層を介して間接的に外周に形成されたものであってもよい。具体的には、本発明の被覆電線は、前記成形体を被覆材として導体である導体や芯線を直接被覆した絶縁電線だけでなく、外層として前記成形体を被覆材とした電線、例えばシースを有するケーブルやワイヤーハーネスのようなものも含む。ケーブルとしては、センサーケーブル、パワーケーブルなどが挙げられる。該成形体としては、フィルム形状のもの等が挙げられる。
導体としては、特に限定されず、銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金、スズメッキ、銀メッキ、ニッケルメッキ等の各種メッキ線、より線、超電導体、半導体素子リード用メッキ線などが挙げられる。
前記成形体を被覆材として導体を被覆した被覆電線は、導体を前記フッ素樹脂組成物で被覆して成形することにより製造できる。フッ素樹脂組成物による導体の被覆は、公知の方法により行うことができる。
前記成形体を被覆材として導体を被覆した被覆電線は、導体を前記フッ素樹脂組成物で被覆して成形した本発明の被覆電線に、さらに電子線を照射し、本発明の成形体を架橋して、架橋物である本発明の成形体を被覆材として導体を被覆した被覆電線としてもよい。
架橋の際の電子線の照射線量は、50〜700kGyが好ましく、80kGy〜400kGyがより好ましく、100〜250kGyがさらに好ましい。電子線の照射時の温度は、0〜300℃が好ましく、10〜200℃がより好ましく、20〜100℃がさらに好ましい。
本組成物は成形加工性に優れるため、本発明の被覆電線を高速で製造できる。また、A成分を含有しているため、熱可塑性であるB成分のみを被覆材とする被覆電線に比べて、高温での連続使用が可能であり、かつ、柔軟性にも優れるため、省スペースへの配線が必要な自動車用被覆電線、工作機用電線等への利用に好適である。
【0077】
(作用機序)
本発明者らは、本組成物を成形した場合、プレス成形等の静的成形のみならず、押出成形等の動的成形においても、表面平滑性に優れた良好な成形体が得られることを知見した。それに対して、従来のフッ素樹脂組成物においては、プレス成形等の静的成形においては良好な特性を有する成形体が得られる一方で、押出成形等の動的成形においては、その特性を保持することができず、表面平滑性が不充分となる等、成形不良が生じる場合があることを見出した。
この差異が生じる原因を明らかにするため、それぞれのフッ素樹脂組成物における特性評価を行ったところ、フッ素樹脂組成物における貯蔵弾性率E’に相違が認められることを見出した。
【0078】
フッ素樹脂組成物の貯蔵弾性率E’は、フッ素樹脂組成物中の含フッ素エラストマーの分散性を示す指標となっていると考えられる。
すなわち、フッ素樹脂に含フッ素エラストマーが充分に分散されていない場合、フッ素樹脂の融点以上の温度となっても、含フッ素エラストマーの連続相の影響により十分な流動性が得られず、フッ素樹脂組成物の貯蔵弾性率E’が大きくなる。
これに対して、フッ素樹脂に含フッ素エラストマーが充分に小粒径化されて分散している場合、フッ素樹脂の融点以上の温度でフッ素樹脂が溶融すると、フッ素樹脂組成物全体の流動性が高まり、フッ素樹脂組成物の貯蔵弾性率E’が小さくなる。
【0079】
フッ素樹脂組成物の貯蔵弾性率E’が大きい場合に動的成形に不具合が生じる原因として、以下が考えられる。すなわち、貯蔵弾性率E’が大きいフッ素樹脂組成物は一見、フッ素樹脂に含フッ素エラストマーが充分に分散しているように見えても、含フッ素エラストマーの粒径が、本組成物における含フッ素エラストマーの粒径と比較して大きいものと考えられる。そのため、フッ素樹脂との相溶性が低い含フッ素エラストマーが動的成形時に凝集し合うことによって、その分散状態を保持できないものと考えられた。すなわち、含フッ素エラストマーが充分に小粒径化されて分散していない場合には、含フッ素エラストマーの分散が非平衡状態にあり、特に動的成形においてスピノーダル分解による相分離が進行するものと考えられた。
そのため、従来のフッ素樹脂組成物では、プレス成形等の静的成形においては良好な特性を有する成形体が得られる一方で、押出成形等の動的成形においては、分散していた含フッ素エラストマーが、スピノーダル分解による相分離により凝集し、成形する前の状態では良好な物性を示すフッ素樹脂組成物であっても、動的成形を行うことによってその物性が変化し、成形する前の良好な物性を保持できないのではないかと推測された。
【0080】
これに対して、本組成物では、フッ素樹脂組成物中の含フッ素エラストマーが充分に小粒径化されて分散しているため、フッ素樹脂組成物の貯蔵弾性率E’が250kPa以下と小さくなるものと考えられる。また、フッ素樹脂組成物中の含フッ素エラストマーが充分に小粒径化されて分散していることにより、スピノーダル分解による相分離の進行が抑制され、当該フッ素樹脂組成物を含む成形材料を動的成形した際にも、表面平滑性に優れた良好な成形体が得られるものと考えられる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各例において使用した材料を以下に示す。
【0082】
<含フッ素エラストマー>
A1:以下の製造法により製造した、含フッ素エラストマー(TFE/P共重合体(TFE:P(モル比)=56:44、フッ素含有量:57質量%、ムーニー粘度(ML1+10(121℃)):120、ガラス転移温度(Tg):−3℃)、貯蔵せん断弾性率G’:530)。
撹拌用アンカー翼を備えた3.2Lの反応器の内部を脱気し、イオン交換水の1500g、リン酸水素二ナトリウム12水和物の59g、水酸化ナトリウムの0.7g、tert−ブタノールの197g、ラウリル硫酸ナトリウムの9g、および過硫酸アンモニウムの6gを加えた。さらに、100gのイオン交換水に0.4gのエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩二水和物および0.3gの硫酸第一鉄7水和物を溶解させた水溶液を、反応器に加えた。このときの反応器内の水性媒体のpHは9.5であった。
【0083】
ついで、25℃で、TFE/P=88/12(モル比)の単量体混合ガスを、反応器の内圧が2.50MPaGになるように圧入した。アンカー翼を300rpmで回転させ、その後、水酸化ナトリウムでpHを10.0に調整したヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム2水和物の2.5質量%水溶液(以下、「ロンガリット2.5質量%水溶液」と記す。)を反応器に加え、重合反応を開始させた。以降、ロンガリット2.5質量%水溶液を、高圧ポンプを用いて連続的に反応器に加えた。TFE/Pの単量体混合ガスの圧入量の総量が1000gとなった時点で、ロンガリット2.5質量%水溶液の添加を停止し、反応器の内温を10℃まで冷却して、重合反応を停止し、含フッ素エラストマーA1のラテックスを得た。ロンガリット2.5質量%水溶液の添加量は68gであった。重合時間は6時間であった。上記ラテックスに塩化カルシウムの5質量%水溶液を添加して、含フッ素エラストマーA1のラテックスを凝集させ、含フッ素エラストマーA1を析出させた。含フッ素エラストマーA1をろ過し、回収した。
【0084】
<含フッ素エラストマー>
A2:ダイキン社製「ダイエルG−901」(HFP/VdF含有共重合体(HFP:VdF:TFE(モル比)=30:50:20)、フッ素含有量:70.5質量%、ムーニー粘度(ML1+10(100℃)):95、貯蔵せん断弾性率G’:299)。
【0085】
<フッ素樹脂>
B1:WO2016/006644の例9と同様に製造した、フッ素樹脂(エチレン/TFE/(パーフルオロブチル)エチレン共重合体(エチレン:TFE:(パーフルオロブチル)エチレンのモル比=40:57:3、MFR:25g/10分、Tg:75℃、融点(Tm):225℃))。
B2:WO2016/006644の例9と同様に製造した、フッ素樹脂(エチレン/TFE/(パーフルオロブチル)エチレン共重合体(エチレン:TFE:(パーフルオロブチル)エチレンのモル比=45.3:53.3:1.4、MFR:11.7、融点(Tm):260℃。
B3:ダイキン工業社製FEP「NP−20」 融点270℃。
【0086】
<エポキシ基を含有するエチレン共重合体>
C1:「ボンドファースト(住友化学社商品名) 7M」(エチレン/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸メチル共重合体、製)。
【0087】
各測定項目は下記方法により測定した。
<貯蔵せん断弾性率G’の測定>
ASTM D6204に準じて、Rubber Process Analyzer(RPA2000、アルファテクノロジー社製)を用いて、サンプル量7.5g、温度100℃、変位0.5°において周波数を1〜2000cpmまで変化させてトルクを測定し、その測定値から50cpmにおける貯蔵せん断弾性率G’を算出した。
【0088】
<貯蔵弾性率E’および損失弾性率E’’の測定>
255℃で5分間予熱し、5分間プレス成形して作製した、長さ130mm、幅130mm、厚さ1mmのシートから試験片を切り出し、DMA(EXSTAR6000、セイコーインスツル社製)を用いて測定した。貯蔵弾性率および損失弾性率は、空気雰囲気下、250℃で測定する値であり、長さ45mm、幅8mm、厚み1mmの試験片を引張モード、つかみ幅=20mm、昇温条件=25℃から300℃、昇温速度=3℃/min、周波数=10Hzの条件で測定した。貯蔵弾性率E’および損失弾性率E’’は、フッ素樹脂の融点より25℃高い温度における貯蔵弾性率および損失弾性率であり、貯蔵弾性率E’は弾性成分を表し、損失弾性率E’’は粘性成分を表す。
【0089】
<成形体表面の性状評価>
押し出し機(MS30−25、アイ・ケー・ジー社製)、スクリュー(フルフライト、L/D=24、φ30mm、アイ・ケー・ジー社製)、電線ダイスクロスヘッド(最大導体径3mm、最大ダイス穴径20mm、ユニテック社製)、電線引き取り機(聖製作所社製)、巻き取り機(聖製作所社製)を用いた。混練温度=270℃、スクリュー回転数=35rpm、引き取り速度=10m/分の条件下、フッ素樹脂組成物と芯線(スズめっき銅練り線、直径1.8mm、構成37/0.26mm(1層:右撚7本、2層:左撚12本、3層:右撚18本)、安田工業社製)から、被覆厚み0.5mm、電線径φ2.8mmの電線サンプルを得た。得られた電線サンプルの表面粗さを目視確認した。表面荒れがなく、表面平滑性に優れたものを「A」、表面荒れが認められ、表面平滑性に劣ったものを「B」とした。
【0090】
<曲げ弾性率の測定>
ASTM D790に準拠した試験を行い、各サンプルの曲げ弾性率を測定した。
<オートマチックトランスミッションフルード(ATF)浸漬後体積変化>
JIS K7114に準拠した試験を行い、165℃のTOYOTAオートフルードD−II(トヨタ自動車社製)に各サンプルを96時間浸漬し、浸漬前後での体積変化率を比較した。なお、10%以下の変化率を○、10%を超える変化率を×、サンプルが融解しその形状を保てないものを「不可」として示す。
【0091】
<200℃熱暴露試験>
空気中、200℃の電気炉内に各サンプルを入れて放置し、2000時間経過後、室温に戻し一晩放置した。各サンプルの引張伸びをASTM D638に準拠した試験で測定し、熱暴露前後での引張伸びの変化率を算出した。変化率が、30%以内は○、30%を超える場合は×、サンプルが融解しその形状を保てないものを「不可」として示す。
<融点の測定>
各サンプルの融点を、示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて測定した。
【0092】
<比誘電率の測定>
各サンプルについてASTM D150に準拠した試験を行い、23℃、1MHzでの比誘電率を測定した。
<色調の評価>
色調は、各サンプルを目視で確認し、色調を評価した。
【0093】
〔実施例1〕
二軸押出機(KZW32TW−45MG−NH、テクノベル社製、連続式)を用いて、A1の50質量部、B1の50質量部、C1の1質量部を溶融押出混練し、フッ素樹脂組成物1を得た。溶融押出混練は、スクリュー回転数を250rpmとし、240℃で2分間の条件にて行った。また、二軸押出機には、2カ所のニーディングゾーンを設け、スクリュー径Dに対する2カ所のニーディングゾーンの長さの合計Lとの比(L/D)は6とした。
フッ素樹脂組成物1の融点は225℃であり、貯蔵弾性率E’および損失弾性率E’’は検出限界以下(100kPa以下)であった。
得られたフッ素樹脂組成物1の成形体表面の性状評価を行ったところ、得られた電線サンプルは表面荒れがなく、表面平滑性に優れたものであった。
また、フッ素樹脂組成物1を250℃で予熱5分、10MPaの条件でのプレス5分で成形し、得られた長さ:130mm、幅:130mm、厚さ1mmのシートから各試験の評価サンプルを切り出した。前記評価サンプルについて、曲げ弾性率、ATF浸漬後体積変化、200℃熱暴露試験、融点測定、比誘電率測定、色調評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
〔実施例2〕
実施例1のフッ素樹脂組成物1の評価サンプルを、照射線量120kGyで電子線架橋した。この架橋サンプルは、フッ素樹脂組成物1の架橋物(フッ素樹脂組成物2)からなる。フッ素樹脂組成物2について、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
〔実施例3、4〕
実施例1のA1をA2に、B1をB2にそれぞれ変更し、予熱温度を300℃とした他は実施例1と同様にしてフッ素樹脂組成物3を得た。
実施例1のA1をA2に、B1をB3にそれぞれ変更し、予熱温度を300℃とした他は実施例1と同様にしてフッ素樹脂組成物4を得た。
フッ素樹脂組成物3およびフッ素樹脂組成物4について、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
〔比較例1〜4〕
比較例1〜4として、実施例1のフッ素樹脂組成物1の代わりに下記の樹脂を用い、下記の条件で評価サンプルを作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
フッ素樹脂1:AGCケミカルズ・アメリカ社製「Fluon(商品名) ETFE AR−8018S」
フッ素樹脂2:旭硝子社製「Fluon ETFE LM−730AP」
フッ素樹脂3:3M社製「ダイニオン(商品名)THV500G Z」
フッ素樹脂4:三井・デュポン フロロケミカル社製「テフロン(商品名)FEP 100−J」
フッ素樹脂5:クレハ社製「KF#1200」
フッ素樹脂4は、予熱温度の250℃を300℃とした他は、フッ素樹脂3は、予熱温度の250℃を200℃とした他は、実施例1と同様にしてシートを作製し、評価サンプルを得た。
フッ素樹脂2は、実施例1と同様にしてシートを作製し、評価サンプルを得た。
[比較例5]
実施例1のA1をA2に、B1をフッ素樹脂5にそれぞれ変更し、予熱温度を200℃とした他は実施例1と同様にしてフッ素樹脂組成物5を得た。フッ素樹脂組成物5について実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1から、本発明の被覆電線の被覆材として用いる組成物は、柔軟性および耐油性に優れるとともに耐熱性も高いことから、自動車用、工作機用の被覆電線の被覆材として好適である。また色調も白色であることから、半導体装置に用いる白色の被覆電線の被覆材としても好適である。
なお、2016年4月28日に出願された日本特許出願2016−091890号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。