特許第6876337号(P6876337)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6876337窒化物半導体基板とその製造方法および半導体デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6876337
(24)【登録日】2021年4月28日
(45)【発行日】2021年5月26日
(54)【発明の名称】窒化物半導体基板とその製造方法および半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20210517BHJP
   C30B 25/02 20060101ALI20210517BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20210517BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20210517BHJP
   H01S 5/323 20060101ALI20210517BHJP
【FI】
   C30B29/38 D
   C30B29/38 Z
   C30B29/38 C
   C30B25/02 Z
   C23C16/34
   H01L21/205
   H01S5/323 610
【請求項の数】20
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-552571(P2018-552571)
(86)(22)【出願日】2017年11月20日
(86)【国際出願番号】JP2017041686
(87)【国際公開番号】WO2018097102
(87)【国際公開日】20180531
【審査請求日】2019年5月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-229410(P2016-229410)
(32)【優先日】2016年11月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】藤原 康文
(72)【発明者】
【氏名】朱 婉新
(72)【発明者】
【氏名】小泉 淳
(72)【発明者】
【氏名】ミッチェル ブランドン
(72)【発明者】
【氏名】グレゴーキービックス トム
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−519198(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/128643(WO,A1)
【文献】 特開2015−151291(JP,A)
【文献】 特開2012−232884(JP,A)
【文献】 特開2011−162407(JP,A)
【文献】 特開2009−212308(JP,A)
【文献】 特開2003−257854(JP,A)
【文献】 特開2009−147319(JP,A)
【文献】 特開2005−298291(JP,A)
【文献】 特開2010−199620(JP,A)
【文献】 特開2015−095585(JP,A)
【文献】 TAWIL S N M,Synthesis and Characterization of Gd-doped InGaN Thin Films and Superlattice Structure,NANOELECTRONICS CONFERENCE,米国,2010年 1月 3日,pp.1163-1164,ISBN;978-1-4244-3543-2
【文献】 B.MITCHELL,Utilization of native oxygen in Eu(RE)-doped GaN forenabling device compatibility in optoelectronic applications,SCIENTIFIC REPORTS,2016年 1月 4日,6,18808,doi:10.1038 / srep18808
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C23C 16/00−16/56
H01L 21/205
H01S 5/323
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板であって、
前記窒化物半導体層が、
ドーピング材料が添加されていない厚みが窒化物結晶の格子定数以上で50nm以下のアンドープ窒化物層と、
ドーピング材料として希土類元素が添加された厚みが窒化物結晶の格子定数以上で2000nm以下の希土類元素添加窒化物層とが1回積層されて形成されており、
前記窒化物半導体層の表面における転位密度が10cm−2オーダー以下であることを特徴とする窒化物半導体基板。
【請求項2】
基材上に窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板であって、
前記窒化物半導体層が、
ドーピング材料が添加されていない厚みが窒化物結晶の格子定数以上で50nm以下のアンドープ窒化物層と、
ドーピング材料として希土類元素が添加された厚みが窒化物結晶の格子定数以上で200nm以下の希土類元素添加窒化物層とが複数回積層されて超格子構造に形成されており、
前記窒化物半導体層の表面における転位密度が10cm−2オーダー以下であることを特徴とする窒化物半導体基板。
【請求項3】
積層回数が2〜300回であることを特徴とする請求項2に記載の窒化物半導体基板。
【請求項4】
前記窒化物半導体層における窒化物が、GaN、InN、AlN、またはこれらのいずれか2つ以上の混晶であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項5】
前記希土類元素が、Euであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項6】
前記Euの添加量が、0.01〜2原子%であることを特徴とする請求項5に記載の窒化物半導体基板。
【請求項7】
総厚が3μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項8】
前記基材がサファイア、SiC、Si、GaNのいずれかであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板。
【請求項9】
基材上に窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板であって、
前記窒化物半導体層が、局所的な歪が異なる厚みが窒化物結晶の格子定数以上で50nm以下のアンドープ窒化物層および厚みが窒化物結晶の格子定数以上で2000nm以下の希土類元素添加窒化物層が交互に1回積層された構造を有しており、
前記窒化物半導体層の表面における転位密度が10cm−2オーダー以下であることを特徴とする窒化物半導体基板。
【請求項10】
基材上に窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板であって、
前記窒化物半導体層が、局所的な歪が異なる厚みが窒化物結晶の格子定数以上で50nm以下のアンドープ窒化物層および厚みが窒化物結晶の格子定数以上で200nm以下の希土類元素添加窒化物層が交互に複数回積層された超格子構造を有しており、
前記窒化物半導体層の表面における転位密度が10cm−2オーダー以下であることを特徴とする窒化物半導体基板。
【請求項11】
基材側からの転位の少なくとも一部が、前記窒化物半導体層の前記交互に積層された構造において曲げられて、表面に到達するまでに消滅していることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の窒化物半導体基板。
【請求項12】
請求項9ないし請求項11のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板から前記基材が取り外されて形成されている窒化物半導体層であることを特徴とする窒化物半導体バルク基板。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板を用いて作製されていることを特徴とする半導体デバイス。
【請求項14】
発光デバイス、高周波デバイス、高出力デバイスのいずれかであることを特徴とする請求項13に記載の半導体デバイス。
【請求項15】
基材上に窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板の製造方法であって、
基材上にGaN、InN、AlN、またはこれらのいずれか2つ以上の混晶を成長させて、ドーピング材料が添加されていないアンドープ窒化物層を窒化物結晶の格子定数以上で50nm以下の厚みに形成する工程と、
前記アンドープ窒化物層の上に、GaN、InN、AlN、またはこれらのいずれか2つ以上の混晶を母体材料とし、ドーピング材料として希土類元素をGa、InあるいはAlと置換するように添加することにより、希土類元素添加窒化物層を窒化物結晶の格子定数以上で2000nm以下の厚みに形成する工程とを備えており、
前記2つの工程を、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、900〜1200℃の温度条件の下で、反応容器から取り出すことなく一連の形成工程によって行うことを特徴とする窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項16】
基材上に窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板の製造方法であって、
基材上にGaN、InN、AlN、またはこれらのいずれか2つ以上の混晶を成長させて、ドーピング材料が添加されていないアンドープ窒化物層を形成する工程と、
前記アンドープ窒化物層の上に、GaN、InN、AlN、またはこれらのいずれか2つ以上の混晶を母体材料とし、ドーピング材料として希土類元素をGa、InあるいはAlと置換するように添加することにより、希土類元素添加窒化物層を窒化物結晶の格子定数以上で200nm以下の厚みに形成する工程とを備えており、
前記2つの工程を、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、900〜1200℃の温度条件の下で、反応容器から取り出すことなく一連の形成工程によって、交互に、複数回繰り返し行うことを特徴とする窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項17】
前記希土類元素として、Euを用いることを特徴とする請求項15または請求項16に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項18】
Euを、Eu{N[Si(CH、Eu(C1119、Eu[C(CH(C)]のいずれかにより供給することを特徴とする請求項17に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項19】
前記基材として、サファイア、SiC、Si、GaNのいずれかを用いることを特徴とする請求項15ないし請求項18のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項20】
さらに、基材上に形成された窒化物半導体層を前記基材から取り外して、窒化物半導体バルク基板とする工程を備えていることを特徴とする請求項15ないし請求項19のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面の転位密度が低減された窒化物半導体基板とその製造方法、および前記窒化物半導体基板を用いて作製された半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザダイオード(LD:Laser Diode)等の発光デバイスが広く用いられるようになっている。例えばLEDは、各種表示デバイス、携帯電話を始め液晶ディスプレイのバックライト、白色照明等に用いられ、一方、LDは、ブルーレイディスク用光源としてハイビジョン映像の録画再生、光通信、CD、DVD等に用いられている。
【0003】
また、最近では、携帯電話用MMIC(monolithic microwave integrated circuit:モノリシックマイクロ波集積回路)、HEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)等の高周波デバイスや、自動車関連向けのインバーター用パワートランジスタ、ショットキーバリアダイオード(SBD)等の高出力デバイスの用途が拡大している。
【0004】
これらのデバイスを構成する半導体素子は、窒化ガリウム(GaN)等の窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板を用いて作製されている。このような窒化物半導体基板としては、バルク状単結晶窒化物から切り出されて直接作製された窒化物半導体バルク基板、サファイア等の基材上に単結晶窒化物を成長させた後に基材を除去することにより作製された(擬似的)窒化物半導体バルク基板、基材上に単結晶窒化物を成長させ基材を残したままテンプレートとして半導体デバイスの製造に用いられる窒化物半導体基板がある。
【0005】
そして、このような窒化物半導体基板においては、LEDの内部量子効率やLDの発振性能等の特性や、寿命が窒化物半導体基板の表面の転位密度(TDD:Threading dislocation density)と関係していることが分かっており、高品質、長寿命の半導体デバイス、特に、上記した高周波デバイスや高出力デバイスでは、転位密度10cm−2オーダー以下の窒化物半導体基板が必要とされている(非特許文献1)。
【0006】
このように転位密度が低い窒化物半導体基板は、上記した窒化物半導体バルク基板を直接作製する方法により得ることができるが、その工程は複雑であり多大なコストが掛かるため、サファイア基材を用いて窒化物半導体基板を作製する場合に比べて50〜60倍高い価格となっている。このため、安価なサファイア基材等を用いて、低転位密度の窒化物半導体基板を安価に提供することができる窒化物半導体基板の製造技術が強く求められている。
【0007】
しかし、サファイア等の基材上に、有機金属気相成長法(MOCVD:Metal−organic chemical vapor deposition)等を用いて窒化物半導体薄膜を形成させることにより窒化物半導体基板を作製した場合、得られた窒化物半導体基板の転位密度は10〜1010cm−2オーダーになり、得られた窒化物半導体基板では設計通りの特性および寿命が得られないことが知られている。
【0008】
転位密度を低減する方法としては、GaN等の窒化物半導体層の厚みを厚くすることが考えられるが、サファイア等の基材とGaN等の窒化物とでは熱膨張係数に差があるため、窒化物半導体層の厚みを厚くした場合には基材との界面に反りが発生するという問題がある。
【0009】
そこで、サファイア等の基材を用いて転位密度が低減された窒化物半導体層を形成させる方法として、サファイア基材上に窒化物のバッファー層を形成した後、非晶質の酸化珪素(a−SiO)を用いて選択成長(SAG:selective area growth)マスクを形成し、選択成長マスク上に窒化物半導体層をラテラルエピタキシする方法(ELOG:epitaxial lateral overgrowth:エピタキシャル横方向被覆成長法)により、エピタキシ層で転位密度を10〜10cm−2オーダーに低減させることが提案されている(特許文献1、2)。
【0010】
しかし、この方法は、選択成長マスクの形成に際して基材を成長装置から取り出して行う必要があり、工程が複雑化し生産効率が低下する。また、低転位密度の領域は選択成長マスクのパターンにより形成されるものであるため、低転位密度の領域が基材上に点在することになり大面積化を図ることができず、窒化物半導体基板の大型化を図ることが難しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kazuhito Ban 他8名、「Internal Quantum Efficiency of Whole−Composition−Range AlGaN Multiquantum Wells」、Appl.Phys.Express 4(2011)052101
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−199620号公報
【特許文献2】特開2015−095585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、サファイア等の安価な基材上であっても、十分に転位密度が低減された窒化物半導体基板を大面積で製造することができる窒化物半導体基板の製造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記したように、サファイア基材を用いて、高性能、長寿命の半導体デバイスを作製するためには、表面の転位密度が低く制御された窒化物半導体基板を製造する必要があるが、ELOG法では大面積化を図ることができず、窒化物半導体基板の大型化を図ることが難しい。
【0015】
本発明者は、Euが添加されたGaN(Eu添加GaN層)を発光層とする赤色発光ダイオードの作製に世界に先駆けて成功しているが、その過程において、サファイア基材上に、ドーピング材料が添加されていないアンドープGaN層(ud−GaN層)、ドーピング材料としてEuが添加されたGaN層(Eu添加GaN層)の順に積層して多層化された窒化物半導体層では、転位密度が低下していることを見出した。
【0016】
この知見に基づき、本発明者は、このような積層構造を窒化物半導体基板に適用することができれば、転位密度を十分に低下させて、高性能、長寿命の半導体デバイスの作製が可能になると考え、種々の実験と検討を行った。
【0017】
その結果、このような積層構造を採用した場合、Eu添加GaN層におけるEu添加量が1原子%程度、具体的には、0.01〜2原子%という不純物レベルともいえる少量であっても、劇的に転位密度が低下して、10cm−2オーダー以下の転位密度という高性能、長寿命の半導体デバイスの作製に好適な低転位密度の窒化物半導体基板が得られるという驚くべき結果を得た。
【0018】
具体的には、積層構造とすることにより、サファイア基材からの貫通転位がEu添加GaN層を通過する際にその方向が曲げられて表面まで達することがなくなり、サファイア基材上に作製された窒化物半導体基板でありながらも、転位密度が劇的に低下することを見出した。
【0019】
そして、ud−GaN層とEu添加GaN層との好ましい積層方法について、さらに、実験と検討を進めたところ、以下の知見を得た。
【0020】
即ち、積層回数を1回とする場合には、ud−GaN層の上に積層されるEu添加GaN層の厚みの増加に比例して転位密度が低下し、総厚が3μm以下という薄さでありながら、十分に転位密度が低下した窒化物半導体基板を提供することができることを見出した。
【0021】
一方、積層回数を複数回にして、窒化物半導体層を超格子構造の窒化物半導体層とした場合には、Eu添加GaN層の厚みがud−GaN層厚みの1/10程度であっても、積層回数の増加に比例して転位密度が低下することを見出した。そして、このような超格子構造とすることにより、総厚が3μm以下という薄さでありながら、十分に転位密度が低下した窒化物半導体基板を提供することができることが分かった。
【0022】
そして、ud−GaN層とEu添加GaN層との積層は、ELOG法と異なり、サファイア基材上の全面で行うことができるため、窒化物半導体層の大面積化を実現することができ、窒化物半導体基板の大型化を図ることができる。
【0023】
なお、このような積層構造を形成させることによってサファイア基材からの貫通転位がEu添加GaN層において曲げられて表面まで達することがなくなり、転位密度が低下した理由としては、以下のように推測される。
【0024】
即ち、Eu添加GaN層においては、EuがGaと置換する形で導入されるが、Euの原子半径はGaに比べて約1.5倍大きいために、Gaと置換されたEuの周囲に歪が生じて、非晶質部分が形成される。その結果、貫通転位等の転位はEu添加GaN層で直線的に伝播されなくなり、表面の転位密度が低下したと推測される。
【0025】
上記においては、窒化物としてGaN、添加元素としてEuを挙げて説明したが、窒化物としては、GaN以外のAlN、InN等のいわゆるGaN系の窒化物(InGaNやAlGaN等の混晶を含む)であっても同様に扱うことができる。そして、添加元素としてはEuに限定されず、Sc、Y、およびLaからLuまでのランタノイド系元素を総称した希土類元素であれば、同様に転位密度が十分に低下した窒化物半導体基板を提供することができる。
【0026】
また、基材としては、サファイアの他に、SiCやSiを用いてもよく、また、厚みの薄いGaNを基材として用いてもよい。SiCは安価であり、かつ熱伝導性が高く放熱性に優れているため、高パワーの半導体デバイス製造に好適な窒化物半導体基板を安価に提供することができる。そして、Siは大きなサイズの基材を容易に入手することが可能であるため、大型化された窒化物半導体基板を提供することができる。また、厚みの薄いGaNを基材として用いることにより、GaNバルク基板を安価に提供することができる。
【0027】
以上のように、本技術によれば、基材上に窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板において、窒化物半導体層を局所的な歪が異なる2以上の窒化物層を用いて交互に積層された構造に形成することにより、基材側からの転位の少なくとも一部が曲げられて、表面に到達するまでに消滅させることができる。その結果、窒化物半導体層の表面における転位密度が、高性能、長寿命の半導体デバイスの作製に好適とされる10cm−2オーダー以下にまで低下した窒化物半導体基板を提供することができる。
【0028】
また、基材上に形成された窒化物半導体層を基材から取り外すことにより、取り外された窒化物半導体層を窒化物半導体バルク基板として用いることができる。
【0029】
請求項1〜14に記載の発明は上記の知見に基づくものであり、請求項1に記載の発明は、
基材上に窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板であって、
前記窒化物半導体層が、
ドーピング材料が添加されていない厚み0.1〜50nmのアンドープ窒化物層と、
ドーピング材料として希土類元素が添加された厚み0.1〜2000nmの希土類元素添加窒化物層とが1回積層されて形成されており、
前記窒化物半導体層の表面における転位密度が10cm−2オーダー以下であることを特徴とする窒化物半導体基板である。
【0030】
そして、請求項2に記載の発明は、
基材上に窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板であって、
前記窒化物半導体層が、
ドーピング材料が添加されていない厚み0.1〜50nmのアンドープ窒化物層と、
ドーピング材料として希土類元素が添加された厚み0.1〜200nmの希土類元素添加窒化物層とが複数回積層されて超格子構造に形成されており、
前記窒化物半導体層の表面における転位密度が10cm−2オーダー以下であることを特徴とする窒化物半導体基板である。
【0031】
また、請求項3に記載の発明は、
積層回数が2〜300回であることを特徴とする請求項2に記載の窒化物半導体基板である。
【0032】
また、請求項4に記載の発明は、
前記窒化物半導体層における窒化物が、GaN、InN、AlN、またはこれらのいずれか2つ以上の混晶であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板である。
【0033】
また、請求項5に記載の発明は、
前記希土類元素が、Euであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板である。
【0034】
また、請求項6に記載の発明は、
前記Euの添加量が、0.01〜2原子%であることを特徴とする請求項5に記載の窒化物半導体基板である。
【0035】
また、請求項7に記載の発明は、
総厚が3μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板である。
【0036】
また、請求項8に記載の発明は、
前記基材がサファイア、SiC、Si、GaNのいずれかであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板である。
【0037】
また、請求項9に記載の発明は、
基材上に窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板であって、
前記窒化物半導体層が、局所的な歪が異なる厚み0.1〜50nmのアンドープ窒化物層および厚み0.1〜2000nmの希土類元素添加窒化物層が交互に1回積層された構造を有しており、
前記窒化物半導体層の表面における転位密度が10cm−2オーダー以下であることを特徴とする窒化物半導体基板である。
【0038】
また、請求項10に記載の発明は、
基材上に窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板であって、
前記窒化物半導体層が、局所的な歪が異なる厚み0.1〜50nmのアンドープ窒化物層および厚み0.1〜200nmの希土類元素添加窒化物層が交互に複数回積層された超格子構造を有しており、
前記窒化物半導体層の表面における転位密度が10cm−2オーダー以下であることを特徴とする窒化物半導体基板である。
【0039】
また、請求項11に記載の発明は、
基材側からの転位の少なくとも一部が、前記窒化物半導体層の前記交互に積層された構造において曲げられて、表面に到達するまでに消滅していることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の窒化物半導体基板である。
【0040】
また、請求項12に記載の発明は、
前記窒化物半導体層が、前記基材から取り外されて窒化物半導体バルク基板として形成されていることを特徴とする請求項9ないし請求項11のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板である。
【0041】
そして、上記した本発明に係る窒化物半導体基板は、十分に転位密度が低下した窒化物半導体基板であるため、発光デバイスだけでなく、高周波デバイスや高出力デバイスにも好適に使用することができる。
【0042】
即ち、請求項13に記載の発明は、
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板を用いて作製されていることを特徴とする半導体デバイスである。
【0043】
また、請求項14に記載の発明は、
発光デバイス、高周波デバイス、高出力デバイスのいずれかであることを特徴とする請求項13に記載の半導体デバイスである。
【0044】
上記した本発明に係る窒化物半導体基板は、有機金属気相エピタキシャル法(OMVPE法)を用いて、900〜1200℃の温度条件で、途中で反応容器から取り出すことなく一連の工程で、ドーピング材料が添加されていないアンドープ窒化物層と、ドーピング材料としてEuなどの希土類元素が添加された希土類元素添加窒化物層とを、サファイア等の基材上に積層させることにより製造することができる。
【0045】
窒化物層の成長に際して、その成長温度を高くすると、表面まで貫通した転位によるピット(穴)が大きくなり、転位密度を十分に低減させることができない。一方、温度を低くすると、ピットが小さくなり転位密度を十分に低減させることができる。
【0046】
このため、本発明においては、窒化物層の成長温度を900〜1100℃に設定する。このような温度条件とすることにより、希土類元素添加窒化物層を通過して表面まで達した転位によるピットを小さくさせることができ、さらに、Euなどの希土類元素を窒化物を構成するGaやAl、Inと確実に置換させて添加することができるため、十分に転位密度を低下させた窒化物半導体基板を製造することができる。
【0047】
そして、アンドープ窒化物層と希土類元素添加窒化物層の形成は、GaN結晶の成長に際してEuなどを添加するか否かで行うことができるため、反応容器から取り出すことなく一連の工程で行うことができ、高い生産効率で、大型化された窒化物半導体基板を安価に製造することができる。
【0048】
即ち、請求項15に記載の発明は、
基材上に窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板の製造方法であって、
基材上にGaN、InN、AlN、またはこれらのいずれか2つ以上の混晶を成長させて、ドーピング材料が添加されていないアンドープ窒化物層を0.1〜50nmの厚みに形成する工程と、
前記アンドープ窒化物層の上に、GaN、InN、AlN、またはこれらのいずれか2つ以上の混晶を母体材料とし、ドーピング材料として希土類元素をGa、InあるいはAlと置換するように添加することにより、希土類元素添加窒化物層を0.1〜2000nmの厚みに形成する工程とを備えており、
前記2つの工程を、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、900〜1200℃の温度条件の下で、反応容器から取り出すことなく一連の形成工程によって行うことを特徴とする窒化物半導体基板の製造方法である。
【0049】
そして、請求項16に記載の発明は、
基材上に窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板の製造方法であって、
基材上にGaN、InN、AlN、またはこれらのいずれか2つ以上の混晶を成長させて、ドーピング材料が添加されていないアンドープ窒化物層を形成する工程と、
前記アンドープ窒化物層の上に、GaN、InN、AlN、またはこれらのいずれか2つ以上の混晶を母体材料とし、ドーピング材料として希土類元素をGa、InあるいはAlと置換するように添加することにより、希土類元素添加窒化物層を0.1〜200nmの厚みに形成する工程とを備えており、
前記2つの工程を、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、900〜1200℃の温度条件の下で、反応容器から取り出すことなく一連の形成工程によって、交互に、複数回繰り返し行うことを特徴とする窒化物半導体基板の製造方法である。
【0050】
前記したように、積層を繰り返して超格子構造の窒化物半導体層とすることにより、総厚が3μm以下という薄さでありながら、十分に転位密度が低下した窒化物半導体基板を製造することができる。
【0051】
また、請求項17に記載の発明は、
前記希土類元素として、Euを用いることを特徴とする請求項15または請求項16に記載の窒化物半導体基板の製造方法である。
【0052】
Euは、ランタノイド系の希土類元素の内でも、Gaと置換された際、周囲に歪みを生じさせて転位の伝播を抑制するに適切な原子半径を有しているため、効率的に表面の転位密度を低下させることができる。
【0053】
また、Euは、Eu化合物の入手が容易であるためドーピング材料として好ましい。
【0054】
また、請求項18に記載の発明は、
Euを、Eu{N[Si(CH、Eu(C1119、Eu[C(CH(C)]のいずれかにより供給することを特徴とする請求項17に記載の窒化物半導体基板の製造方法である。
【0055】
具体的なEu源としては、例えば、Eu[C(CH、Eu[C(CHH]、Eu{N[Si(CH、Eu(C、Eu(C1119、Eu[C(CH(C)]等を挙げることができるが、これらの内でも、Eu{N[Si(CHやEu(C1119、Eu[C(CH(C)]は、反応装置内での蒸気圧が高いため、効率的な添加を行うことができる。
【0056】
また、請求項19に記載の発明は、
前記基材として、サファイア、SiC、Si、GaNのいずれかを用いることを特徴とする請求項15ないし請求項18のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板の製造方法である。
【0057】
また、請求項20に記載の発明は、
さらに、基材上に形成された窒化物半導体層を前記基材から取り外して、窒化物半導体バルク基板とする工程を備えていることを特徴とする請求項15ないし請求項19のいずれか1項に記載の窒化物半導体基板の製造方法である。
【0058】
基材上に形成された窒化物半導体層を基材から取り外すことにより、窒化物半導体層を窒化物半導体バルク基板として用いることができる。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、サファイア等の安価な基材上であっても、十分に転位密度が低減された窒化物半導体基板を大面積で製造することができる窒化物半導体基板の製造技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】本発明の一実施の形態に係る窒化物半導体基板の構成を示す模式図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る窒化物半導体基板のTEM画像である。
図3】本発明の一実施の形態に係る窒化物半導体基板の表面のAFM画像である。
図4】本発明の一実施の形態に係る窒化物半導体基板におけるEu添加GaN層の表面のAFM画像である。
図5】本発明の一実施の形態に係る窒化物半導体基板の断面を特定の方向から観察したTEM画像である。
図6】本発明の他の実施の形態に係る窒化物半導体基板の構成を示す模式図である。
図7】本発明の他の実施の形態に係る窒化物半導体基板の表面のAFM画像である。
図8】本発明の他の実施の形態に係る窒化物半導体基板における積層回数と転位密度との関係を示す図である。
図9】本発明の他の実施の形態に係る窒化物半導体基板のTEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。なお、以下においては、基材としてサファイア、窒化物半導体層としてGaN層、添加される希土類元素としてEuを例に挙げて説明するが、前記したように、これらに限定されるものではない。
【0062】
[1]第1の実施の形態
本実施の形態においては、サファイア基材上に、アンドープ窒化物層(ud−GaN層)と、希土類元素としてEuが添加された希土類元素添加窒化物層(Eu添加GaN層)とが1層ずつ積層されて、窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板について説明する。
【0063】
1.窒化物半導体基板の基本的な構成
最初に本実施の形態に係る窒化物半導体基板の基本的な構成について説明する。図1は、本実施の形態に係る窒化物半導体基板の構成を示す模式図である。図1において、1は窒化物半導体基板、10はサファイア基材、20はud−GaN層21およびEu添加GaN層22をペアとして1回積層した窒化物半導体層である。
【0064】
なお、本実施の形態に係る窒化物半導体基板はサファイア基材上に窒化物半導体層を形成させたままテンプレートとして半導体デバイスの製造に用いられる場合もあり、その際、窒化物半導体層はバッファー(buffer)層として機能するため、この窒化物半導体層をバッファー(buffer)層と表現する場合もある。
【0065】
そして、本実施の形態においては、図1に示すように、サファイア基材10と窒化物半導体層20との間に、サファイア基材10とGaNの格子定数の差(格子不整合)によるクラックの発生を防止するために475℃程度で低温成長させたLT−GaN層30と、サファイア基材10と窒化物半導体層(バッファー層)20との間の距離を大きくして転位の影響を抑制するためのud−GaN層40とを予め形成している。
【0066】
2.窒化物半導体基板の製造方法
次に、本実施の形態に係る窒化物半導体基板の製造方法について、厚み10nmのud−GaN層21および厚み300nmのEu添加GaN層22を積層して窒化物半導体基板1を製造した例を挙げて、具体的に説明する。
【0067】
最初に、有機金属気相成長法(OMVPE法)を用いて、サファイア基材10上に、成長温度475℃、圧力100kPaの条件下、成長速度1.3μm/hで厚み約30nmのLT−GaN層30を形成し、その後、LT−GaN層30上に、成長温度1150℃、圧力100kPaの条件下、成長速度0.8μm/hで厚さ約2μmのud−GaN層40を形成した。
【0068】
次に、同様にOMVPE法を用いて、ud−GaN層40上に、成長温度960℃、圧力100kPaの条件下、成長速度0.8μm/hで厚み300nmのEu添加GaN層22を形成した。
【0069】
次に、同様にOMVPE法を用いて、Eu添加GaN層22上に、成長温度960℃、圧力100kPaの条件下、成長速度0.8μm/hで厚み10nmのud−GaN層21を形成した。このように、Eu添加GaN層22とud−GaN層21とを1層ずつ積層することにより、窒化物半導体層20を形成させ、窒化物半導体基板1の製造を完了した。
【0070】
なお、上記において、Ga原料としてはトリメチルガリウム(TMGa)を用い、供給量は0.55sccmとした。そして、N原料としてはアンモニア(NH)を用い、供給量は4.0slmとした。また、Eu有機原料としてはキャリアガス(水素ガス:H)でバブリングしたEu[C(CH(C)]を用い、供給量は1.5slmとした(供給温度:115℃)。
【0071】
このとき、OMVPE装置の配管バルブ等を通常仕様のもの(耐熱温度80〜100℃)から高温特殊仕様のものに変更することにより、Eu原料の供給温度を115〜135℃の十分高い温度に保って、十分な量のEuを反応管に供給できるようにした。
【0072】
そして、本実施の形態において、各層の形成は、途中で試料を反応管より取り出すことなく、成長の中断がないように一連の工程で行った。
【0073】
3.転位密度の評価
(1)TEM画像に基づく評価
上記で得られた窒化物半導体基板の表面における転位密度について、まず、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて断面を観察して、転位密度の低減効果について評価した。
【0074】
図2は、窒化物半導体基板のTEM画像である。図2より、この窒化物半導体基板においては、最下層のサファイア基材の上に形成されたud−GaN層に発生した転位が表面に向けて伝播されていることが分かる。しかし、これらの転位の内、右側の濃色の1点鎖線で丸く囲んだ部分では表面まで転位が到達しているものの、左側の薄色の1点鎖線で丸く囲んだ部分では転位が表面に到達するまでに、ud−GaN層とEu添加GaN層が積層された窒化物半導体層(バッファー層)内で消滅している。この結果より、本実施の形態によれば、窒化物半導体基板において、転位密度を低減できることが確認できる。
【0075】
(2)AFM画像に基づく評価
次に、窒化物半導体層(バッファー層)の形成の前後において表面に現われた転位の様子を原子間力顕微鏡(AFM)により観察して、転位密度の低減効果について評価した。なお、観察は1μm四方の同じ箇所で行った。
【0076】
図3は窒化物半導体基板の表面のAFM画像であり、(a)は窒化物半導体層(バッファー層)形成前のud−GaN層の表面、(b)窒化物半導体層(バッファー層)形成後の窒化物半導体層(バッファー層)の表面を示している。
【0077】
図3(a)に示すように、ud−GaN層の表面では、丸で囲んだ多くの箇所に転位に基づくピットが存在しており、その径も大きい。これに対して、窒化物半導体層(バッファー層)の表面では、図3(b)に示すように、1点鎖線の丸で囲んだ広い箇所に少しのピットが存在するだけで、その径も小さくなっている。
【0078】
この結果より、上記と同様に、本実施の形態によれば、窒化物半導体基板において転位密度を低減できることが確認できる。なお、ピットの径が小さくなった理由としては、GaN層において形成されるピットの径はその成長温度と関係しており、上層となるEu添加GaN層の成長を960℃という低温で行ったことにより、ピットの径が小さくなったためと考えられる。そして、ピットの径が小さくなってピットが塞がれると、転位密度がさらに低減される。
【0079】
具体的に転位密度を測定したところ、図3(a)では10〜10オーダーであったのに対して、図3(b)では10オーダーまで低減されていた。
【0080】
(3)Eu添加GaN層の厚みと転位密度との関係
本発明者は、さらに、Eu添加GaN層の厚みと転位密度との関係について評価するために、上記と同様にして、厚み10nmのud−GaN層上に、Eu添加GaN層を厚み900nmまで成長させ、厚みが転位密度にどのように影響するのか評価した。
【0081】
具体的には、Eu添加GaN層の厚みが100nm、300nm、900nmとなった時点で、上記と同様に、表面に現われた転位の様子をAFMにより観察した。
【0082】
図4は、それぞれの厚みのEu添加GaN層の表面のAFM画像であり、(a)は厚み100nm、(b)は厚み300nm、(c)は厚み900nmにおける結果である。
【0083】
図4より、Eu添加GaN層の厚みが増すにつれて、1点鎖線の丸で囲んで示すように、ピットが減少しており、厚み900nmでは殆ど消失していることが分かる。
【0084】
具体的に転位密度を測定したところ、図4(a)では10オーダー、図4(b)では10オーダー、図4(c)では10オーダーであり、厚みが増すにつれて、劇的に転位密度が低下することが確認できた。
【0085】
(4)本実施の形態における転位密度の伝播
ここで、本実施の形態における転位密度の伝播について、図5を用いて説明する。なお、図5は、上記で作製された窒化物半導体基板の断面を特定の方向、具体的には、上向きg=[002]およびg=[110]方向から観察したTEM画像であり、それぞれを上下に配置して示している。
【0086】
図5において、g=[002]方向はらせん転位(Screw dislocation)を決定する方向であり、g=[110]方向は刃状転位(edge dislocation)を決定する方向である。しかし、図5から分かるように、これらの転位の他に、g=[002]方向およびg=[110]方向の双方に、いくつかの転移が混合転位(Mix dislocation)として現れており、これらの混合転位は窒化物半導体層(バッファー層)によって、その成長、消滅が支配されている。
【0087】
具体的に、図5では、混合転位が窒化物半導体層(バッファー層)のEu添加GaN層に伝播した際、まず、らせん転位が収束されて消滅し、その後、刃状転位のベクトル(edge vector)が収束されて、1点鎖線の白抜き楕円で囲まれた箇所においては、2つの混合転位が表面まで到達することなく消滅している。
【0088】
4.本実施の形態における効果
以上のように、本実施に形態においては、安価なサファイア基材上に、ud−GaN層とEu添加GaN層を適切な厚みで1回積層するという簡便な方法で、10cm−2オーダー以下という十分に低転位密度の窒化物半導体基板を得ることができるため、高性能、長寿命の半導体デバイスを安価に提供するという近年の要請に好適に応えることができる。
【0089】
[2]第2の実施の形態
上記した第1の実施の形態においては、ud−GaN層の上に積層されるEu添加GaN層の厚みの増加に合わせて転位密度を低減させることができるが、Eu添加GaN層が厚くなり過ぎると、基材であるサファイアと窒化物半導体層のGaNとでは熱膨張係数に差があるためサファイアと窒化物半導体層との界面に反りが発生して、窒化物半導体基板として使用できなくなる恐れがある。
【0090】
そこで、本実施の形態においては、サファイア基材上にud−GaN層とEu添加GaN層とを交互に積層することを複数回繰り返して、ud−GaN層とEu添加GaN層の複数ペアを積層して超格子構造の窒化物半導体層を形成することにより、薄くても十分に転位密度が低減された窒化物半導体基板を製造している。
【0091】
1.窒化物半導体基板の基本的な構成
最初に本実施の形態に係る窒化物半導体基板の基本的な構成について説明する。図6は、本実施の形態に係る窒化物半導体基板の構成を示す模式図である。なお、図6における符号は窒化物半導体基板が2である以外は図1と同様である。図6より分かるように、本実施の形態においては、窒化物半導体層20が、Eu添加GaN層22とud−GaN層21を交互に複数回積層されており、また、Eu添加GaN層22の酸化を抑制するという観点から最表層にud−GaN層21が形成されている点を除いては、第1の実施の形態に係る窒化物半導体基板と同様の構成となっている。
【0092】
2.窒化物半導体基板の製造方法
そして、本実施の形態に係る窒化物半導体基板2の製造方法についても、ud−GaN層21とEu添加GaN層22の形成を繰り返しながら行って、ud−GaN層21とEu添加GaN層22の複数ペアを積層することを除いては、第1の実施の形態に係る窒化物半導体基板の製造方法と同様である。なお、本実施の形態においても、各層の形成は、途中で試料を反応管より取り出すことなく、成長の中断がないように一連の工程で行った。
【0093】
3.転位密度の評価
(1)AFM画像に基づく評価
上記した窒化物半導体基板の製造方法を用い、厚み10nmのud−GaN層21および厚み1nmのEu添加GaN層22を、交互に40回(40ペア)積層して作製された窒化物半導体基板2の転位密度について、第1の実施の形態と同様に、AFM画像に基づいて転位密度の低減効果を評価した。
【0094】
図7は窒化物半導体基板の表面のAFM画像である。この図7と、厚み900nmのEu添加GaN層を1回積層した窒化物半導体基板の表面のAFM画像である図4(c)とを比較すると、総厚480nm(最表層のud−GaN層を含む)と図4(c)に比べて約半分の厚みでありながらも、さらに、転位密度が低下していることが分かる。
【0095】
この結果より、本実施の形態によれば、複数回積層して超格子構造の窒化物半導体層としたことにより、それぞれのEu添加GaN層において転位が曲げられて、薄い総厚であっても劇的に転位密度を低下できることが確認できた。
【0096】
(2)ペア数(積層回数)の転位密度低減への影響
次に、ペア数(積層回数)の転位密度低減への影響を調べるために、上記した窒化物半導体基板の製造方法を用い、厚み10nmのud−GaN層21および厚み3nmのEu添加GaN層22を交互に積層して、ペア数(積層回数)を13(実験A)、40(実験B)、70(実験C)と変えた3種類の窒化物半導体層が形成された窒化物半導体基板2について、それぞれ転位密度を測定した。
【0097】
測定結果を表1に示すと共に、図8に示す。なお、図8において横軸はペア数、縦軸は転位密度(×10cm−2)である。また、実験Bにおいて40ペア積層して作製された窒化物半導体基板の断面TEM像を図9に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1および図7より、最もペア数の少ない13ペアでも転位密度は10cm−2オーダーであり、ペア数が多くなるにつれて転位密度が低下することが分かる。
【0100】
そして、図9では、Dislocation1とDislocation2、2つの転位が存在しているが、Dislocation1では、窒化物半導体層(バッファー層)内に入った後、収束されて消滅している。一方、Dislocation2では、消滅はしていないものの、ペアを通過するにつれて転位のサイズが小さくなっている。この結果から見ても、表1および図7において、70ペアとさらにペア数を増やした実験Cにおいて、さらに、転位密度が低下していることが理解できる。
【0101】
そして、上記の結果は、青色レーザによるピックアップやSiやSiC等を用いた縦型パワートランジスタを作製する場合に必要とされる転位密度(10cm−2オーダー)を満たしているため、本実施の形態に係る窒化物半導体基板は、サファイア基材上に形成されているにも拘らず、Blu−Rayに用いられるピックアップ用青色レーザおよび縦型パワートランジスタの製造に使用できることが分かる。
【0102】
また、ペア数が多くなるに従い転位密度が低減されるため、さらにペア数を増やしてさらに転位密度を低減させることにより、Blu−Rayに用いられる書き込み用の青色レーザに必要とされている10cm−2オーダーが達成できることが期待される。
【0103】
以上、本発明によれば、第1の実施の形態および第2の実施の形態に示したように、安価なサファイア基材等を用いて、高品質の窒化物半導体の製造を可能とする窒化物半導体基板を提供することができる。また、窒化物層を基材全面に形成することが可能なため、大面積化が可能であり実用性に優れる。
【0104】
そして、上記の窒化物半導体基板から基材を除去することにより、窒化物半導体バルク基板とすることもできるため、半導体デバイス用の窒化物半導体基板として、さらに利用が広がる可能性がある。
【0105】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0106】
1、2 窒化物半導体基板
10 サファイア基材
20 窒化物半導体層(バッファー層)
21 ud−GaN層
22 Eu添加GaN層
30 LT−GaN層
40 ud−GaN層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9