(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に係る発明では、生体信号計測用衣服とその衣服の着用者の皮膚との間に隙間ができやすく、生体信号にノイズが入るおそれがある。
【0007】
また、従来、心電計測及び筋電計測等の生体信号計測には、イオンジェル(固形物、液体物を含む)を塗布した電極が一般的に利用されていた。
【0008】
しかし、イオン化物が使用されているため、皮膚への長時間添付は肌荒れ等を起こす懸念があり、ウェアラブルデバイスのような応用先としては適していなかった。
【0009】
また、被験者の皮膚に取り付ける電極が粘着テープで被験者の皮膚に取り付けられた場合であっても、電極自体は粘着性を有していないため、電極と被験者の皮膚との間に隙間が生じる可能性があり、生体信号にノイズが入るおそれがある。
【0010】
本発明の目的は、皮膚に張り付けることが可能な生体信号計測用電極を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、皮膚に張り付けることが可能な生体信号計測用電極を用いた生体信号計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る生体信号計測装置用電極は、生体信号を読み取る生体信号計測装置用電極であって、
前記生体信号を読み取るセンサと、
前記センサで読み取った前記生体信号を送信するための導電部と、
導電性及び粘着性を有し、前記センサを皮膚に張り付け可能な接着部と、を含むものである。
【0013】
このようなものであれば、被験者の皮膚に対して電極を張り付けることができる。また、被験者の皮膚とセンサが密着するため、生体信号にノイズが含まれにくい。
【0014】
また、接着部が導電性を有することから、生体信号を読み取るセンサが接続部を介して生体信号を読み取ることができる。
【0015】
また、被験者が運動等により汗をかいた場合であっても、電極が被験者の皮膚から剥がれ難い。つまり、安定して生体信号が計測される。
【0016】
接着部は、皮膚に対してくり返し接着することが可能なものが好ましい。
【0017】
このようなものであれば、1回だけでなく電極が何回も使用可能であるため、ウェアラブルデバイスとして有効である。
【0018】
前記接着部が、シリコーンゴムと導電性材料とポリエチレンイミン系材料とを含むものであってもよい。
【0019】
このようなものであれば、接着部が良好な導電性及び接着性(粘着性)を有する。
【0020】
前記導電性材料が導電性炭素材料であり、前記ポリエチレンイミン系材料がエトキシル化ポリエチレンイミンであってもよい。
【0021】
このようなものであれば、接着部の生体適合性が良いため、皮膚に悪影響が少ない。つまり、被験者の肌荒れ等が抑えられる。
【0022】
前記導電性炭素材料がカーボンナノチューブであるものであってもよい。
【0023】
このようなものであれば、接着部が良好な導電性を有する。なお、接着部におけるカーボンナノチューブの含有量は多いほうが好ましい。
【0024】
このような生体信号計測装置用電極を含む生体信号計測装置が好ましい。本発明に係る生体身体計測装置用電極が用いられることにより、生体信号計測装置がウェアラブルデバイスとして利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る生体信号計測装置100の実施形態に関して図面を参照しながら説明する。
【0027】
(生体信号計測装置100)
図1に示すように、本発明に係る生体信号計測装置100は、被験者の生体電気信号を読み取る電極200と、電極200からの生体電気信号を増幅等させるシグナルコンディショナ110と、パソコン、スマートフォン等の端末300に生体電気信号を送信する通信部120と、生体電気信号を記憶する記憶部130と、を含む。
【0028】
電極200は、被験者の生体電気信号を読み取るセンサ210と、センサ210を被験者の皮膚に張り付ける接着部220と、センサ210で読み取った生体電気信号をシグナルコンディショナ110に送信する導電部230と、導電部230及び接着部220の周辺を被験者の皮膚に張り付けるフィルム部240と、を含む。
【0029】
本実施形態では、センサ210は、ECG(electrocardiogram)センサを用いる。また、本実施形態では、センサ210の個数は3であるが、センサ210の個数は限定されない。
【0030】
接着部220は、粘着性導電性ポリマーである。これによりセンサ210と被験者の皮膚との間に隙間が生じ難い。つまり、センサ210により読み取った生体電気信号が、導電性を有する接着部220を介してセンサ210に読み取られるため、センサ210が読み取った生体電気信号にノイズが入り難い。
【0031】
接着部220である粘着性導電性ポリマーは、導電性材料である導電性炭素材料が含まれるものが好ましい。
【0032】
導電性炭素材料の例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、オイルファーネスブラック、導電性単層カーボンナノチューブ、導電性多層カーボンナノチューブが挙げられる。導電性炭素材料は、これらのうちいずれか1つであってもよく、また、複数組み合わされたされたものであってもよい。
【0033】
また、粘着性導電性ポリマーは、シリコーンゴムが含まれるものが好ましい。
【0034】
シリコーンゴムの例としては、ポリジメチルシロキサン、メチルシリコーンゴム、ビニル・メチルシリコーンゴム、フェニル・メチルシリコーンゴムが挙げられる。これらのうちいずれか1つであってもよく、また、複数組み合わされたものであってもよい。
【0035】
接着部220である粘着性導電性ポリマーは、ポリエチレンイミン系材料が含まれるものが好ましい。
【0036】
ポリエチレンイミン系材料は、ポリエチレンイミン構造を有しているものであればよく、例えば、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸エステルへのエチレンイミン付加物および/またはポリエチレンイミン付加物が挙げられる。
【0037】
本実施形態では、粘着性導電性ポリマーは、シリコーンゴムであるポリジメチルシロキサン(PDMS)と、導電性炭素材料であるカーボンナノチューブと、ポリエチレンイミン系材料であるエトキシル化ポリエチレンイミン(PEIE)とを混合したものである。
【0038】
これにより被験者の皮膚への高い密着性及び接触インピーダンスの低減が図られる。つまり、生体電気信号が読み取られるのに、ノイズが入り込み難い。
【0039】
図3は、カーボンナノチューブが10重量%という条件下で、横軸がPDMS内に含有されるPEIEの重量%(wt%)、縦軸が接着性(N)を表したグラフである。
【0040】
PDMS(シリコーンゴム)にカーボンナノチューブを混合しないという条件下では、PEIEが0.6重量%の場合、接着性が4.0Nであった。
【0041】
つまり、カーボンナノチューブが混合されていない状態では、PDMSにPEIEをわずかに混合するだけで接着性が良好となる。
【0042】
一方、
図3からわかるように、カーボンナノチューブが10重量%という条件下では、PEIEが0重量%の場合は接着性が0.3Nであった。また、1.0重量%の場合は接着性が0.9Nであった。また、PEIEが3.0重量%の場合は接着性が3.0Nであった。
【0043】
このことから、カーボンナノチューブが含有された場合、PEIEが多く含有される必要がある。そして、PEIEの含有量が増加するほど接着性は向上する。
【0044】
なお、カーボンナノチューブが10重量%という条件下では、PEIEは、1.0重量%以上3.0重量%以下が好ましい。
【0045】
図4は、接着部220がPDMSとカーボンナノチューブとPEIEとを混合したものを用いたものであり、横軸が接着部220の被験者の皮膚に対する付着数(回数)、縦軸がECG出力電圧(V)を表したグラフである。なお、縦軸のECG出力電圧は増幅されている。
【0046】
図4からわかるように、少なくとも100回くらい被験者の皮膚に対して、接着部220が付け剥がしした場合であっても、ECG出力電圧はほぼ同じである。このことから、接着部220の皮膚に対する繰り返しの接着性が非常に良好であることがわかる。
【0047】
図5は、接着部220がPDMSとカーボンナノチューブとPEIEとを混合したものを用いたものであり、横軸が日数(日)、縦軸がECG出力電圧(V)を表したグラフである。なお、縦軸のECG出力電圧は増幅されている。
【0048】
図5からわかるように、接着部220が空気中に約80日間置かれていた場合であっても、接着部220の皮膚に対する接着性はほぼ変わらない。このことから、接着部220が長期間空気中に置いておいても皮膚に対する接着性が非常に良好であることがわかる。
【0049】
また、接着部220がPDMSとカーボンナノチューブとPEIEとを混合したものを用いた場合において、被験者の腕部分の皮膚に対して、接着部220が30時間張り続けられるパッチテストを行ったところ、被験者の皮膚に異常は見られなかった。このことから、接着部220の生体適合性が良好であることがわかる。
【0050】
図6は、接着部220がPDMSとカーボンナノチューブとPEIEとを混合したものを用いたものであり、横軸が接着部220の直径(mm)、縦軸が接着部220の周波数100Hzの場合のインピーダンス(Ω)を表したグラフである。
【0051】
Xは、PDMSに含有するカーボンナノチューブの量が5重量%である。Yは、PDMSに含有するカーボンナノチューブの量が7.5重量%である。Zは、PDMSに含有するカーボンナノチューブの量が10重量%である。グラフでは、マルがXを表し、シカクがYを表し、サンカクがZを表している。
【0052】
図6からわかるように、接着部220の直径が15mmの場合のインピーダンスは、Xが約5.0×10
6Ω、Yが約2.3×10
6Ω、Zが約0.5×10
6Ωであった。
【0053】
また、接着部220の直径が20mmの場合のインピーダンスは、Xが約3.8×10
6Ω、Yが約1.0×10
6Ω、Zが約6.5×10
5Ωであった。
【0054】
図6からわかるように、X、Y及びZのいずれの場合であっても、接着部220の直径が15mmより20mmのほうがインピーダンスは下がっている。つまり、接着部220の直径が大きいほど、接着部220のインピーダンスが下がる。
【0055】
本実施形態では、接着部220は略円状であったため直径で大きさを表しているが、接着部220の形状は円状に限られずどのような形状であってもよい。
【0056】
また、X→Y→Zの順に接着部220のインピーダンスが下がっている。つまり、接着部220にカーボンナノチューブの含有量が多いほど、接着部220のインピーダンスが下がる。
【0057】
接着部220のインピーダンスが低いほど、生体電気信号が認識され易い。つまり、このことから、接着部220の直径、つまり大きさは大きい方が良く、また、カーボンナノチューブの含有量は多いほうが良いことがわかる。
【0058】
図7は、接着部220がPDMSとカーボンナノチューブとPEIEとを混合したものを用いたものであり、接着部220の直径が20mmという条件下で、横軸が時間(秒)、縦軸がECG出力(a.u.)を表したグラフである。なお、縦軸の単位は、任意単位(arbitrary unit)である。
【0059】
図6と同様に、Xは、PDMSに含有するカーボンナノチューブの量が5重量%である。Yは、PDMSに含有するカーボンナノチューブの量が7.5重量%である。Zは、PDMSに含有するカーボンナノチューブの量が10重量%である。グラフでは、マルがXを表し、シカクがYを表し、サンカクがZを表している。
【0060】
図7からわかるように、X→Y→Zの順にECG出力が大きくなっている。つまり、PDMSに含有されるカーボンナノチューブの含有量が大きいほど、ECG出力が大きくなる。
【0061】
このことからもPDMSに含まれるカーボンナノチューブの含有量は多いほうが良いことがわかる。
【0062】
図8は、接着部220がPDMSとカーボンナノチューブとPEIEとを混合したものを用いたものであり、横軸が接着部220の直径(mm)、縦軸がECG出力電圧(V)を表したグラフである。
【0063】
図6及び
図7と同様に、Xは、PDMSに含有するカーボンナノチューブの量が5重量%である。Yは、PDMSに含有するカーボンナノチューブの量が7.5重量%である。Zは、PDMSに含有するカーボンナノチューブの量が10重量%である。グラフでは、マルがXを表し、シカクがYを表し、サンカクがZを表している。
【0064】
図8からわかるように、X、Y及びZのいずれの場合であっても、接着部220の直径が10mm→15mm→20mmの順にECG出力電圧が大きくなっている。また、X→Y→Zの順にECG出力電圧が大きくなっている。
【0065】
図6、
図7及び
図8から判断して、接着部220のカーボンナノチューブの含有量は、7.5重量%以上が好ましい。また、接着部220の直径は、15mm以上20mm以下が好ましい。
【0066】
シグナルコンディショナ110は、電極200で読み取られた生体電気信号を増幅する。また、シグナルコンディショナ110では、生体電気信号に含まれているノイズをフィルタにより除去する。
【0067】
通信部120は、電極200で読み取られた生体電気信号を端末300に送信する。通信部120の通信方法は、有線及び無線いずれであってもよい。
【0068】
記憶部130は、電極200で読み取られた生体電気信号を記憶する。記憶部130は、シグナルコンディショナ110で増幅されノイズが除去されたものを記憶するものであってもよい。
【0069】
また、記憶部130は、メモリーカード、USBメモリ等の記憶装置に記憶させるところであってもよい。
【0070】
なお、記憶部130を利用せずに直接通信部120を介して生体電気信号が送信されるものであってもよい。
【0071】
生体電気信号は、端末300の表示部(モニター)310にグラフ等により人が認識できやすい表示方法で表示される。
【0072】
なお、端末300の例としては、デスクトップパソコン、ノートパソコン、タブレット、スマートフォンが挙げられる。端末300の個数は1以上であればよく、複数あってもよい。
【0073】
また、生体信号計測装置100と端末300が一つの装置に組み込まれていてもよい。
【0074】
本発明に係る生体信号計測装置用電極200は、心電計測デバイス、筋電計測デバイス等に用いることができる。
【0075】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施できる。