(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6877090
(24)【登録日】2021年4月30日
    
      
        (45)【発行日】2021年5月26日
      
    (54)【発明の名称】導電フィラー用粉末
(51)【国際特許分類】
   H01B   5/00        20060101AFI20210517BHJP        
   C01B  33/06        20060101ALI20210517BHJP        
   H01B   1/02        20060101ALI20210517BHJP        
   B22F   1/00        20060101ALN20210517BHJP        
   C22C  19/03        20060101ALN20210517BHJP        
   C22C  24/00        20060101ALN20210517BHJP        
【FI】
   H01B5/00 F
   C01B33/06
   H01B1/02 Z
   !B22F1/00 M
   !B22F1/00 N
   !B22F1/00 R
   !C22C19/03 M
   !C22C24/00
【請求項の数】6
【全頁数】14
      (21)【出願番号】特願2016-35737(P2016-35737)
(22)【出願日】2016年2月26日
    
      (65)【公開番号】特開2017-152316(P2017-152316A)
(43)【公開日】2017年8月31日
    【審査請求日】2019年1月11日
【審判番号】不服2020-7388(P2020-7388/J1)
【審判請求日】2020年6月1日
      
        
          (73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
          (74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人  有古特許事務所
        
      
      
        (72)【発明者】
          【氏名】前澤  文宏
              
            
        
      
    【合議体】
      【審判長】
        細井  龍史
      
      【審判官】
        岩田  健一
      
      【審判官】
        大畑  通隆
      
    (56)【参考文献】
      
        【文献】
          特開2015−089969(JP,A)
        
        【文献】
          特開2012−190984(JP,A)
        
      
    (58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B   5/00
H01B   1/02
C01B  33/06
B22F   1/00
C22C  19/03
C22C  24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
  その材質が、Si、導電性の元素X1及び不可避的不純物を含む合金であり、
  上記合金が、上記Siと上記元素X1とを含有する1種又は2種以上のシリサイド相を有しており、
  上記合金における、Si相と上記シリサイド相との合計に対する、上記シリサイド相の体積率Pscが、95%以上であり、
  その密度が2.0Mg/m3以上7.0Mg/m3以下であり、
  電気伝導度が3500×102AV−1m−1以上である導電フィラー用粉末。
【請求項2】
  上記元素X1が、B、Na、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上である請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
  上記合金における上記元素X1の比率が35at%以上80at%以下である請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項4】
  上記合金における上記Siの比率が20at%以上65at%以下である請求項1から3のいずれかに記載の粉末。
【請求項5】
  上記合金が10at%以下のAlをさらに含む請求項1から4のいずれかに記載の粉末。
【請求項6】
  上記合金が10at%以下の低融点元素X2をさらに含んでおり、この元素X2がBi、Ga、Sn、In及びZnからなる群から選択された1種又は2種以上である請求項1から5のいずれかに記載の粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、導電性樹脂、導電性プラスチック、導電性ペースト、電子機器、電子部品等に用いられる導電フィラーに適した粉末に関する。詳細には、本発明は、その材質がSiを含む合金である粉末に関する。
 
【背景技術】
【0002】
  導電性物質に含有されるフィラーに、Au、Ag、Pt及びCuのような貴金属の粒子が用いられている。他の金属の表面に貴金属がコーティングされた粒子も、導電フィラーとして用いられている。貴金属の電気抵抗は小さいので、この貴金属を含むフィラーは導電性に優れる。貴金属を含む粒子の凝集により、粒子同士の大きな接触面積が得られるので、この観点からも貴金属はフィラーの導電性に寄与する。貴金属はさらに、熱伝導性にも優れる。
【0003】
  貴金属は、高価である。従って、貴金属を含む導電性物質は、高コストである。しかも、貴金属は高比重である。従って、貴金属を含む導電性物質は、重い。コスト低減及び軽量化の観点から、貴金属以外の元素を含む合金の検討が、種々なされている。
【0004】
  特開2004−47404公報には、Si系化合物からなる粒子の表面に、炭素がコーティングされた導電フィラー用合金が開示されている。この粒子では、Siの微結晶がSi系化合物に分散している。
【0005】
  特開2006−54061公報には、Agからなる粒子の表面に、Si又はSi系化合物がコーティングされた導電フィラー用合金が開示されている。
【0006】
  特開2008−262916公報には、Agと、0.01−10質量%のSiとを含有する導電フィラー用合金が開示されている。この合金では、Agの粒子の表面に、SiO
2のゲルがコーティングされている。
【0007】
  特開2006−302525公報には、Al又はSiを含むAg合金からなる導電フィラー用粉末が開示されている。
【0008】
  国際公開WO99/22411号公報には、Siと、0.001at%以上20at%以下の添加元素とを含む導電性合金が開示されている。
【0009】
  特許第4337501号公報には、Niがベースであり、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Al又はSiを含む導電性ペーストが開示されている。この公報にはさらに、Cuがベースであり、Mg、Ca、Ti、Zr、V、Nb、Mn、Fe、Co、Al又はSiを含む導電性ペーストも開示されている。
【0010】
  特許第4678654号公報には、Ag、Cu、Au、Pt、Ti、Zn、Al、Fe、Si又はNiを含む高融点金属粒子と、Sn、In又はBiを含む低融点金属粒子とを有する導電層が開示されている。
 
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−47404公報
【特許文献2】特開2006−54061公報
【特許文献3】特開2008−262916公報
【特許文献4】特開2006−302525公報
【特許文献5】国際公開WO99/22411号公報
【特許文献6】特許第4337501号公報
【特許文献7】特許第4678654号公報
 
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
  前述の通り、導電フィラーとして貴金属からなる粒子が用いられている。典型的な粒子は、Ag粒子、Agコーティング粒子及びCu粒子である。Ag粒子は導電性に極めて優れるが、このAg粒子ではイオンマイグレーションによって劣化が生じやすい。このAg粒子は、導電性の長期的安定性に劣る。Agコーティング粒子でも、イオンマイグレーションによって劣化が生じやすい。さらにAgコーティング粒子では、コート層の剥離が生じやすい。Agコーティング粒子は、導電性の長期的安定性に劣る。Cu粒子では、腐食が生じやすい。このCu粒子も、導電性の長期的安定性に劣る。導電性の長期的安定性に優れた粉末が、望まれている。
【0013】
  導電フィラー用粉末が樹脂粉末とブレンドされ、このブレンドによって得られた混合物から成形体が成形されることが多い。この成形では、一般的には、混合物が加熱される。加熱により、樹脂が溶融する。導電フィラー用粉末の密度が過大であると、樹脂が溶融した状態では、混合物中で導電フィラー用粉末が沈降する。沈降により、導電フィラー用粉末の偏在が生じる。この成形体では、局部的に電気伝導ネットワークが寸断される。密度が小さな導電フィラー用粉末が、望まれている。
【0014】
  導電フィラー用粉末の効率のよい製造方法として、アトマイズが知られている。アトマイズで得られる粒子は、通常は、電解法、化学還元法等で得られる粒子に比べて大きい。従って、用途によっては、この粒子に分級処理が施される必要がある。しかし、分級により材料の歩留が低下する。高い歩留が達成されるには、アトマイズで得られた粒子に粉砕処理が施され、微細化される必要がある。展延性が大きい材質からなる粒子に粉砕処理が施された場合、扁平化が生じ、微細化しにくい。粉砕しやすいフィラー用合金が、望まれている。
【0015】
  前述の通り、Au、Ag、Pt及びCuのような貴金属は、高価である。さらに、貴金属以外の導電性元素であるAl、Cr、Mg、Na、Mo、Rh、W、Be、Ir、Zn、K、Cd、Ru、In、Li、Os、Co、Pt、P、Pd、Sn、Ni、Ta、Rb、Tl、Th、Pb、Sr、V、Sb、Zr、Ca等も、比較的高価である。これらの元素は、導電フィラー用粉末のコストを押し上げる。Feは比較的低コストで得られるが、酸化されやすい。Feからなる粒子には、防錆対策が必要である。この防錆対策は、粉末のコストを押し上げる。さらに、Al、Mg、Na、Be、K、Li、P、Rb、Tl、Th、Pb、Sr、Zr及びCaの純金属元素は活性であり、微細粉末の状態では粉塵爆発の危険性を有する。これらの元素からなる粉末には、爆発防止対策が必要である。この対策は、粉末のコストを押し上げる。低コストで得られる粉末が、望まれている。
【0016】
  特開2004−47404公報に開示された粉末は、Siの微結晶を多量に含有する。この粉末の導電性は、不十分である。
【0017】
  特開2006−54061公報に開示された粉末はAgを多量に含むので、高価である。同様に、特開2008−262916公報に開示された粉末及び特開2006−302525公報に開示された粉末も、高価である。
【0018】
  国際公開WO99/22411号公報に開示された合金は、多量のSiを含む。この合金からアトマイズによって得られた粉末では、Si相が導電性を阻害する。
【0019】
  特許第4337501号公報に開示されたペーストに適した粉末は、アトマイズでは得られにくい。この粉末の製造コストは、高い。
【0020】
  本発明の目的は、導電性及びこの導電性の長期的安定性に優れ、低密度であり、かつ低コストで得られうる導電フィラー用粉末の提供にある。
 
【課題を解決するための手段】
【0021】
  本発明に係る導電フィラー用粉末の材質は、Si、導電性の元素X1及び不可避的不純物を含む合金である。この合金は、Siと元素X1とを含有する1種又は2種以上のシリサイド相を有する。この合金における、Si相とシリサイド相との合計に対する、シリサイド相の体積率Pscは、95%以上である。この粉末の密度は、2.0Mg/m
3以上7.0Mg/m
3以下である。
【0022】
  好ましくは、元素X1は、B、Na、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上である。
【0023】
  好ましくは、合金における元素X1の比率は、35at%以上80at%以下である。好ましくは、合金におけるSiの比率は、20at%以上65at%以下である。
【0024】
  合金が、10at%以下のAlをさらに含んでもよい。合金が、10at%以下の低融点元素X2をさらに含んでもよい。好ましくは、この元素X2は、Bi、Ga、Sn、In及びZnからなる群から選択された1種又は2種以上である。
 
【発明の効果】
【0025】
  本発明に係る導電フィラー用粉末は、材質がSiを含む合金であるため、低コストで得られうる。この粉末は、低密度でもある。この粉末では、シリサイドが導電性に寄与する。この粉末では、優れた導電性が長期間にわたって発揮される。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0026】
  本発明に係る導電フィラー用粉末は、多数の粒子の集合である。この粒子の材質は、合金である。この合金は、Siと元素X1とを含んでいる。元素X1は、導電性である。元素X1の電気伝導度は、100AV
−1m
−1以上である。好ましくは、この合金は、Siと元素X1とを含み、残部は不可避的不純物である。
 
【0027】
  この合金は、複数種のシリサイド相を有している。それぞれのシリサイド相は、Siと元素X1とを含有する。このシリサイド相は、Siと元素X1との化合物を含む。このシリサイド相において、元素X1はSiに固溶しうる。このシリサイド相は、元素X1の単相を含みうる。合金が、単一種のシリサイド相のみを有してもよい。
 
【0028】
  合金は、(Cr,Ti)Si
2のような、常温において熱力学的に不安定なシリサイド相を含みうる。このようなシリサイド相は、アトマイズ時の急冷によって生じうる。
 
【0029】
  合金は、シリサイド相以外の相を含みうる。シリサイド相以外の相として、Si相、不純物元素の相等が挙げられる。
 
【0030】
  Siは、電気伝導度の低い金属である。一方、元素X1を含むシリサイド相の電気伝導度は、高い。その理由は、このシリサイド相における電気伝導を担うキャリアの濃度が、Siにおけるそれと比べて極めて高いためと推測される。このシリサイド相を含む粉末は、導電性に優れる。この粉末を含む物体(例えば電子機器)は、導電性に優れる。
 
【0031】
  本発明者は、Siと元素X1とを含有しかつ両者の比率が異なる複数の材料を準備した。この材料から、アトマイズ法によって粉末を作製した。本発明者は、形成される相と電気伝導度とを評価した。その結果、シリサイド相が粉末中に占める体積率が増加するに従い、電気伝導度が向上すること、そしてSi相とシリサイド相との合計に対するシリサイド相の体積率が100%であるときに電気伝導度が最大であることを見出した。さらに、シリサイド相の体積率の変動が少しであるにもかかわらず、電気伝導度が急激に変化する部分が存在すること、換言すれば体積率に閾値が存在することが、判明した。この閾値は、Siと組み合わされる元素X1の種類に応じて異なった。多くの閾値が、20体積%から50体積%の間に存在することも、判明した。これらの現象から、本発明に係る粉末が高い導電性を有する理由は、シリサイド相が粒子の内部で繋がることにあると推測される。換言すれば、粒子において、多数のシリサイド相が導電ネットワークを形成しうる。
 
【0032】
  導電性の観点から、合金における、Si相とシリサイド相との合計に対するシリサイド相の体積率Pscは、95%以上が好ましく、99%以上がより好ましく、100%が特に好ましい。体積率Pscの測定では、粉末が樹脂に埋め込まれる。この樹脂の断面において、無作為に抽出された100個の粒子の断面が電子顕微鏡で観察され、それぞれの粒子におけるシリサイド相の面積率が求められる。これらの面積率の平均値が、体積率Pscである。
 
【0033】
  Siの導電性は低いので、合金が含むSi相の体積率は、少ない方が好ましい。Si相の体積率は5%以下が好ましく、1%以下が特に好ましい。理想的には、Si相の体積率は、ゼロである。
 
【0034】
  粉末の電気伝導度は、3500×10
2AV
−1m
−1以上が好ましく、4100×10
2AV
−1m
−1以上がより好ましく、5000×10
2AV
−1m
−1以上が特に好ましい。電気伝導度の測定では、篩によって径が45μmを超える粒子が粉末から除去される。残余の粉末と絶縁性の熱硬化性樹脂(EPOMET-F)が混合され、混合物が得られる。混合比は、1:1である。この混合物が、180℃の温度下で加圧され、直径が25mmである円柱状のサンプルが成形される。抵抗測定器(三菱化学アナリテック社製の低抵抗測定器「ロレスターGX」及びその測定プローブ)にて、このサンプルの電気伝導度が測定される。
 
【0035】
  従来の導電フィラー粉末には、前述の通り、Au、Ag、Pt及びCuのような貴金属が用いられている。Auの密度は19.32Mg/m
3であり、Agの密度は10.50Mg/m
3であり、Ptの密度は21.45Mg/m
3であり、Cuの密度は8.960Mg/m
3である。一方、Siの密度は2.329Mg/m
3である。Siの密度は、金属の中では小さい。Siを含む導電フィラー用粉末は、軽量である。この粉末を含む物体(例えば電子機器)は、軽量である。
 
【0036】
  軽量の観点及び粉末の偏在抑制の観点から、この粉末の密度は7.0Mg/m
3以下が好ましく、6.5Mg/m
3以下がより好ましく、6.0Mg/m
3以下が特に好ましい。導電性の観点から、密度は2.0Mg/m
3以上が好ましく、2.5Mg/m
3以上がより好ましく、3.0Mg/m
3以上が特に好ましい。
 
【0037】
  密度は、島津製作所社の乾式自動密度計「アキュピック  II  340シリーズ」により測定される。この装置の容器に粉末が投入され、ヘリウムガス充填される。定容積膨張法に基づき、粉末の密度が検出される。10回の測定の平均値が算出される。
 
【0038】
  Siは、貴金属に比べて低価格である。Siを含む導電フィラー用粉末は、この粉末を含む物体の低コストを達成する。さらにこの粉末は、コーティングの手間がなく製造されうる。
 
【0039】
  このシリサイド相の靱性は、低い。従って、このシリサイド相を含む粉末は、容易に粉砕されうる。換言すれば、粉末の粒度分布が容易に調整されうる。粒度分布が容易に調整されるので、この粉末の製造にアトマイズが採用されうる。この粉末の製造コストは、低い。
 
【0040】
  このシリサイド相では、酸化等による劣化が生じにくい。この粉末は、導電性の長期的安定性に優れる。
 
【0041】
  元素X1の具体例として、B、Na、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co及びNiが例示される。これらの元素X1は、粉末の導電性に寄与しうる。合金が、1種の元素X1を含有してもよく、2種以上の元素X1を含有してもよい。
 
【0042】
  導電性の観点から、合金における元素X1の比率P1は35at%以上が好ましく、40at%以上がより好ましく、45at%以上が特に好ましい。元素X1が少ない粉末は、爆発しにくく、又は燃焼しにくい。さらに、元素X1が少ない粉末は、粉砕が容易である。これらの観点から、元素X1の比率P1は80at%以下が好ましく、70at%以下が特に好ましい。
 
【0043】
  軽量及び低コストの観点から、合金におけるSiの比率P2は20at%以上が好ましく、30at%以上がより好ましく、35at%以上が特に好ましい。合金が十分な元素X1を含有しうるとの観点から、Siの比率P2は65at%以下が好ましい。
 
【0044】
  合金が、Alを含んでもよい。この場合、好ましくは、合金は、
  (1)Si
  (2)元素X1
  (3)Al
及び
  (4)不可避的不純物
のみを含む。Alを含む合金は、導電性に優れる。この合金はさらに、低密度である。これらの観点から、合金におけるAlの量は1at%以上が好ましく、2at%以上が特に好ましい。燃焼の抑制及び爆発の抑制の観点から、この量は10at%以下が好ましい。
 
【0045】
  Alと他の金属とが、金属間化合物を形成すると、導電性向上の効果が十分には得られない。この観点から、Alの含有量に対するAl単相の比率は、80at%以上が好ましい。なお、合金がAlを含む場合であっても、Si相とシリサイド相との合計に対するシリサイド相の体積率Pscは、95%以上が好ましい。
 
【0046】
  合金が、融点の低い元素X2を含んでもよい。この場合、好ましくは、合金は、
  (1)Si
  (2)元素X1
  (3)元素X2
  (4)Al
及び
  (5)不可避的不純物
のみを含む。なお、合金がAlを実質的に含まなくてもよい。
 
【0047】
  粉末から成形体が形成されるとき、元素X2の融点以上に加熱されれば、この元素X2が溶融する。その後に凝固した元素X2は、粒子の表面に優先的に存在する。粉末の電気伝導度は、粒子内部のバルク抵抗と、粒子同士の接触抵抗に、主として支配される。凝固した元素X2は、粒子同士の密着性を高める。この元素X2により、接触抵抗が低減される。この観点から、合金における元素X2の量は1at%以上が好ましく、2at%以上が特に好ましい。
 
【0048】
  元素X2の具体例として、Bi、Ga、Sn、In及びZnが例示される。これらの元素X2は、導電性及び粉砕性を阻害するおそれがある。さらに、Bi、Sn、In及びZnの密度は、シリサイド相の密度よりも大きい。導電性、粉砕性及び軽量の観点から、合金における元素X2の量は10at%以下が好ましく、5at%以下が特に好ましい。
 
【0049】
  元素X2と他の金属とが、金属間化合物を形成すると、導電性向上の効果が十分には得られない。この観点から、X2の含有量に対するX2単相の比率は、80at%以上が好ましい。なお、合金がX2を含む場合であっても、Si相とシリサイド相との合計に対するシリサイド相の体積率Pscは、95%以上が好ましい。
 
【0050】
  導電フィラー粉末は、アトマイズ工程を含む液体急冷プロセスによって製造されうる。このプロセスにより、容易かつ安価に粉末が製造されうる。好ましいアトマイズとして、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法及びプラズマアトマイズ法が例示される。ガスアトマイズ法及びディスクアトマイズ法が、特に好ましい。
 
【0051】
  以下、好ましいアトマイズの詳細が説明される。以下の記載において、アトマイズの条件は一例に過ぎない。条件は、用途等の事情に応じて適宜変更されうる。
 
【0052】
  ガスアトマイズ法では、底部に細孔を有する石英坩堝の中に、原料が投入される。この原料が、アルゴンガス雰囲気中で、高周波誘導炉によって加熱され、溶融する。アルゴンガス雰囲気において、細孔から流出する原料に、アルゴンガスが噴射される。原料は急冷されて凝固し、粉末が得られる。噴射圧の調整により、凝固速度がコントロールされうる。噴射圧が大きいほど、凝固速度は大きい。凝固速度のコントロールにより、所望の粒度分布を有する粉末が得られうる。凝固速度が速いほど、粒度分布の幅は小さい。
 
【0053】
  ディスクアトマイズ法では、底部に細孔を有する石英坩堝の中に、原料が投入される。この原料が、アルゴンガス雰囲気中で、高周波誘導炉によって加熱され、溶融する。アルゴンガス雰囲気において、細孔から流出する原料が、高速で回転するディスクの上に落とされる。回転速度は、40000rpmから60000rpmである。ディスクによって原料は急冷され、凝固して、粉末が得られる。
 
【0054】
  これらのアトマイズで得られた粉末が、そのまま導電フィラーとして用いられてもよい。これらのアトマイズで得られた粉末に粉砕加工が施され、導電性フィラーが得られてもよい。粉砕加工された粒子は、微細な結晶粒として存在しうる。好ましくは、この粒子のすべての構成相は、シリサイド相である。粉砕加工として、メカニカルミリングが例示される。
 
【実施例】
【0055】
  以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0056】
  表1−4に示された組成を有する実施例1−42及び比較例1−46の粉末を得た。各粉末は、表1−4に記載されていない不可避的不純物を含む。なお、表3及び4において、本発明の発明特定事項を満たさない箇所に、下線が付されている。
【0057】
    [電気伝導度]
  前述の方法にて、各粉末の電気伝導度を測定した。この結果が、下記の表1−4に示されている。
【0058】
    [歩留]
  各粉末を、中央加工機社の振動ボールミルに投入し、粉砕した。粉砕の条件は、下記の通りである。
    粉末投入量とボール質量との比:1/200
    振動の振幅:4mm
    粉砕時間:12時間
回収された粒子の総体積に対する、直径が10μm以下の粒子の体積を、歩留(%)として、日機装社のマイクロトラック粒度分布計を用いて求めた。この結果が、下記の表1−4に示されている。
【0059】
    [非燃焼性]
  粉塵爆発試験装置にて、各粉末の非燃焼性を評価した。この装置は、内径が70mmであり高さが350mmであるガラス製円筒(蕪木科学器械工業社)を有する。試験の条件は、以下の通りである。
    粉塵吹き上げ圧力:3.0Kg/cm
2 
    粉塵吹き上げ時間:1.0秒
    点火時間:0.3秒
    気体:空気
下記の基準に基づき、各粉末を格付けした。
    Good:火柱の長さが5cm以下
    NG:火柱の長さが5cmを超える
この結果が、下記の表1−4に示されている。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
  表1−4における製造プロセスの詳細は、下記の通りである。
    G.A.:ガスアトマイズ法
    D.A.:ディスクアトマイズ法
【0065】
  表1−2に示される通り、各実施例の粉末の合金は、シリサイド相の体積率Pscが95%以上である。この粉末の密度は、2.0Mg/m
3以上7.0Mg/m
3以下である。この粉末は、導電性及び粉砕性に優れ、しかも燃焼しにくい。
【0066】
  表3−4に示された各比較例の粉末は、シリサイド相の体積率Psc及び密度のいずれかにおいて、本発明の要件を満たしていない。
【0067】
  以上の評価結果から、本発明の優位性は明かである。
 
 
【産業上の利用可能性】
【0068】
  本発明に係る粉末は、導電性樹脂、導電性プラスチック、導電性ペースト、電子機器、電子部品等に用いられ得る。